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特開2025-154802扁平化予測方法、扁平化予測装置、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025154802
(43)【公開日】2025-10-10
(54)【発明の名称】扁平化予測方法、扁平化予測装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/14 20220101AFI20251002BHJP
   B02C 17/00 20060101ALI20251002BHJP
   B02C 25/00 20060101ALI20251002BHJP
   B22F 1/068 20220101ALI20251002BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20251002BHJP
   B22F 1/17 20220101ALI20251002BHJP
【FI】
B22F1/14
B02C17/00
B02C25/00 Z
B22F1/068
B22F1/05
B22F1/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024057995
(22)【出願日】2024-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(72)【発明者】
【氏名】小島 拓也
(72)【発明者】
【氏名】加納 純也
(72)【発明者】
【氏名】久志本 築
(72)【発明者】
【氏名】久枝 譲
(72)【発明者】
【氏名】岡 大輔
【テーマコード(参考)】
4D063
4D067
4K018
【Fターム(参考)】
4D063FF00
4D063FF35
4D067FF11
4D067GA10
4D067GB10
4K018BA01
4K018BA02
4K018BB01
4K018BC08
4K018BC22
(57)【要約】
【課題】ボール媒体粉砕機によって金属粉を扁平化する際の扁平化処理時間を予測する。
【解決手段】扁平化予測方法は、条件nにおける金属粉のBET比表面積値の変化率Rを測定するステップと、条件nにおける扁平化処理時間Tに対する扁平化速度定数Yを(R-1)/Tにより求めるステップと、条件nにおけるボール媒体粉砕機内でのボールの運動に対してシミュレーションにより求めた衝突エネルギーEを用いて、予測係数ZをY/Eにより求めるステップと、条件nと異なる条件mにおける衝突エネルギーEを用いて、条件mにおける予測扁平化速度定数YをE×Zにより求めるステップと、条件mにおいてBET比表面積値がaの金属粉を扁平化処理してBET比表面積値がbの金属粉を得るのに必要な予測処理時間Tを[(b/a)-1]/Yにより求めるステップと、を含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボール媒体粉砕機のミル容器内にボール及び金属粉を入れて、前記ミル容器内を攪拌させることにより金属粉を扁平化させる扁平化工程において、扁平化処理条件nにおける金属粉のBET比表面積値の変化率(扁平化処理後のBET比表面積値/扁平化処理前のBET比表面積値)Rを測定するステップと、
前記変化率Rを用いて、前記扁平化処理条件nにおける扁平化処理時間Tに対する扁平化速度定数Y
=(R-1)/T
により求めるステップと、
前記扁平化速度定数Yと、前記扁平化処理条件nにおけるボール媒体粉砕機内でのボールの運動に対して粘弾性力学モデルを用いた離散要素法によるシミュレーションにより求めた衝突エネルギーEとを用いて、予測係数Zを
Z=Y/E
により求めるステップと、
前記予測係数Zと、前記扁平化処理条件nと異なる扁平化処理条件mにおける前記ボール媒体粉砕機内でのボールの運動に対して前記シミュレーションにより求めた衝突エネルギーEとを用いて、前記扁平化処理条件mにおける予測扁平化速度定数Y
=E×Z
により求めるステップと、
前記予測扁平化速度定数Yを用いて、前記扁平化処理条件mにおいてBET比表面積値がaの金属粉を扁平化処理してBET比表面積値がbの金属粉を得るのに必要な予測処理時間T
=[(b/a)-1]/Y
により求めるステップと、
を含む、扁平化予測方法。
【請求項2】
前記金属粉が、銅粉、銀粉、銀被覆銅粉、及び銀被覆合金より選択される、請求項1に記載の扁平化予測方法。
【請求項3】
前記シミュレーションにおいて、前記ボールの直径は、実際に使用するボール径の1倍以上2倍以下に設定される、請求項1に記載の扁平化予測方法。
【請求項4】
前記シミュレーションにおいて、前記ミル容器の断面形状は実際のミル容器の断面形状と略同一に設定され、前記ミル容器の胴長は実際に使用するボール径の10倍以上の長さに設定される、請求項1に記載の扁平化予測方法。
【請求項5】
前記シミュレーションにおいて、前記ボールの個数は1万個以上100万個以下に設定される、請求項1に記載の扁平化予測方法。
【請求項6】
前記ボール媒体粉砕機の前記ミル容器の容量は、0.4L以上150L以下である、請求項1に記載の扁平化予測方法。
【請求項7】
制御部を備え、ボール媒体粉砕機により金属粉を扁平化させる際の処理時間を予測する扁平化予測装置であって、
前記制御部は、
扁平化処理条件nにおける金属粉のBET比表面積値の変化率(扁平化処理後のBET比表面積値/扁平化処理前のBET比表面積値)Rの測定値を用いて、前記扁平化処理条件nにおける扁平化処理時間Tに対する扁平化速度定数Y
=(R-1)/T
により求め、
前記扁平化速度定数Yと、前記扁平化処理条件nにおけるボール媒体粉砕機内でのボールの運動に対して粘弾性力学モデルを用いた離散要素法によるシミュレーションにより求めた衝突エネルギーEとを用いて、予測係数Zを
Z=Y/E
により求め、
前記予測係数Zと、前記扁平化処理条件nと異なる扁平化処理条件mにおける前記ボール媒体粉砕機内でのボールの運動に対して前記シミュレーションにより求めた衝突エネルギーEとを用いて、前記扁平化処理条件mにおける予測扁平化速度定数Y
=E×Z
により求め、
前記予測扁平化速度定数Yを用いて、前記扁平化処理条件mにおいてBET比表面積値がaの金属粉を扁平化処理してBET比表面積値がbの金属粉を得るのに必要な予測処理時間T
=[(b/a)-1]/Y
により求める、扁平化予測装置。
【請求項8】
コンピュータを、請求項7に記載の扁平化予測装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扁平化予測方法、扁平化予測装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属粉はその用途によって、ボール媒体粉砕機(ボールミル装置)により扁平化処理を行い製造されている。しかしながら、個体粒子の集合体である金属粉は、離散及び集合を繰り返しているため、離散及び集合を繰り返す個々の粉体の関係を導き出すことは容易ではなく、流体の運動シミュレーションのように連続体として取り扱うことが容易ではないという問題がある。
【0003】
そのため、個体粒子の離散的挙動を、個々の粒子に対して力学モデルを設定し、該力学的モデルに基づいて数値解析を行う方法が知られている。特に、粒子間に粘弾性力学モデルを設定し、微小時間に個々の粒子に作用する力を演算して、それをもとに運動方程式を差分的に計算して、粒子の変位を逐次数値解析する離散要素法(個別要素法)に基づいて、粉体の運動をシミュレーションすることが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
また、最近では、ボール媒体粉砕機におけるボール及び粉体の運動を、離散要素法によって解析して、粉砕現象を理論的に解明することも行われている(例えば、非特許文献2及び3参照)。
【0005】
離散要素法では、粒子(ボール及び粉体)に作用する力学的モデルが最も重要であるが、粘弾性力学モデルとして、フォークト(Voigt)モデルが採用されている。フォークトモデルでは、弾性的性質を表すスプリングと、被弾性的性質を表すダッシュポットによって、粒子に作用する力を表現しており、粒子中心座標と、微小時間の粒子中心座標変位とを逐次解析することによって、作用力が得られる。
【0006】
この離散要素法を用いて、ボール媒体粉砕機におけるボール及び粉体の挙動は、通常、コンピュータによって次の手順で解析されている。まず、コンピュータに、粒子(ボール及び粉体)の特性を示す初期パラメータを入力するとともに、粒子と容器(円筒体)壁との接触を判定して、ボールの初期位置を設定する。次いで、容器壁に接触していない着目粒子が近接粒子と接触したときの、着目粒子と接触粒子との接触力(作用力)を演算する。そして、その接触力に基づいて粒子の加速度、速度、及び変位の平均値を演算することにより、粒子の運動特性をシミュレーションすることができる。また、粒子と容器壁の接触を判定した際に、粒子が容器壁に接触している場合には、その作用力を演算し、その接触力に基づいて粒子の加速度、速度、及び変位の平均値を演算することにより、粒子の運動特性をシミュレーションすることができる。
【0007】
また、特許文献1には、ボール媒体粉砕機におけるボールの運動を粘弾性力学モデルを用いた離散要素法によってシュミレーションして、ボールの衝突開始時の全ボールの運動エネルギーを演算し、該運動エネルギーに基づいて、無機質粉体の非晶質化度を演算すること、及び無機質粉体を所定の非晶質化度とするために必要な非晶質化処理時間を演算することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11-207203号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】P.A.Cundall and O.L.Strack, “A discrete numerical model for granular assemblies”, Geotechnique, No.29, p.47-65, 1979.
【非特許文献2】加納純也、斉藤文良ほか、「東北大学素材工学研究所彙報」、第52巻、第1、2号、112~125ページ
【非特許文献3】Junya Kano, Naoki Chujo and Fumio Saito, “Advanced Power Technology”, Vol.8, No.1, p.39-51, 1997.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1には、ボール媒体粉砕機による無機質粉体の非晶質化予測方法が開示されているが、金属粉の扁平化挙動については開示されていない。また、特許文献1に記載のボール媒体粉砕機の容量は10L程度と小さく、用いるボール径も10mmと大きいため、金属粉の扁平化処理の量産スケールに応用することが困難であった。
【0011】
近年、より高度なニーズに応えるために、最適な扁平化度を有する金属粉を得るために必要な扁平化処理時間を予測すること求められていた。
【0012】
かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、ボール媒体粉砕機によって金属粉を扁平化する際に、金属粉の扁平化処理時間を予測することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
【0014】
(1)ボール媒体粉砕機のミル容器内にボール及び金属粉を入れて、前記ミル容器内を攪拌させることにより金属粉を扁平化させる扁平化工程において、扁平化処理条件nにおける金属粉のBET比表面積値の変化率(扁平化処理後のBET比表面積値/扁平化処理前のBET比表面積値)Rを測定するステップと、
前記変化率Rを用いて、前記扁平化処理条件nにおける扁平化処理時間Tに対する扁平化速度定数Y
=(R-1)/T
により求めるステップと、
前記扁平化速度定数Yと、前記扁平化処理条件nにおけるボール媒体粉砕機内でのボールの運動に対して粘弾性力学モデルを用いた離散要素法によるシミュレーションにより求めた衝突エネルギーEとを用いて、予測係数Zを
Z=Y/E
により求めるステップと、
前記予測係数Zと、前記扁平化処理条件nと異なる扁平化処理条件mにおける前記ボール媒体粉砕機内でのボールの運動に対して前記シミュレーションにより求めた衝突エネルギーEとを用いて、前記扁平化処理条件mにおける予測扁平化速度定数Y
=E×Z
により求めるステップと、
前記予測扁平化速度定数Yを用いて、前記扁平化処理条件mにおいてBET比表面積値がaの金属粉を扁平化処理してBET比表面積値がbの金属粉を得るのに必要な予測処理時間T
=[(b/a)-1]/Y
により求めるステップと、
を含む、扁平化予測方法。
【0015】
(2)前記金属粉が、銅粉、銀粉、銀被覆銅粉、及び銀被覆合金より選択される、(1)に記載の扁平化予測方法。
【0016】
(3)前記シミュレーションにおいて、前記ボールの直径は、実際に使用するボール径の1倍以上2倍以下に設定される、(1)又は(2)に記載の扁平化予測方法。
【0017】
(4)前記シミュレーションにおいて、前記ミル容器の断面形状は実際のミル容器の断面形状と略同一に設定され、前記ミル容器の胴長は実際に使用するボール径の10倍以上の長さに設定される、(1)から(3)のいずれかに記載の扁平化予測方法。
【0018】
(5)前記シミュレーションにおいて、前記ボールの個数は1万個以上100万個以下に設定される、(1)から(4)のいずれかに記載の扁平化予測方法。
【0019】
(6)前記ボール媒体粉砕機の前記ミル容器の容量は、0.4L以上150L以下である、(1)から(5)のいずれかに記載の扁平化予測方法。
【0020】
(7)制御部を備え、ボール媒体粉砕機により金属粉を扁平化させる際の処理時間を予測する扁平化予測装置であって、
前記制御部は、
扁平化処理条件nにおける金属粉のBET比表面積値の変化率(扁平化処理後のBET比表面積値/扁平化処理前のBET比表面積値)Rの測定値を用いて、前記扁平化処理条件nにおける扁平化処理時間Tに対する扁平化速度定数Y
=(R-1)/T
により求め、
前記扁平化速度定数Yと、前記扁平化処理条件nにおけるボール媒体粉砕機内でのボールの運動に対して粘弾性力学モデルを用いた離散要素法によるシミュレーションにより求めた衝突エネルギーEとを用いて、予測係数Zを
Z=Y/E
により求め、
前記予測係数Zと、前記扁平化処理条件nと異なる扁平化処理条件mにおける前記ボール媒体粉砕機内でのボールの運動に対して前記シミュレーションにより求めた衝突エネルギーEとを用いて、前記扁平化処理条件mにおける予測扁平化速度定数Y
=E×Z
により求め、
前記予測扁平化速度定数Yを用いて、前記扁平化処理条件mにおいてBET比表面積値がaの金属粉を扁平化処理してBET比表面積値がbの金属粉を得るのに必要な予測処理時間T
=[(b/a)-1]/Y
により求める、扁平化予測装置。
【0021】
(8)コンピュータを、(7)に記載の扁平化予測装置として機能させるためのプログラム。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ボール媒体粉砕機によって金属粉を扁平化する際に、金属粉の扁平化処理時間を予測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】ボール媒体粉砕機の構成を示す図である。
図2】一実施形態に係る扁平化予測装置の構成例を示すブロック図である。
図3A】本発明の金属粉の扁平化予測方法に採用される離散要素法の粘弾性力学モデルとしてのフォークトモデルにおける圧縮力のモデルを示す図である。
図3B】本発明の金属粉の扁平化予測方法に採用される離散要素法の粘弾性力学モデルとしてのフォークトモデルにおける剪断力のモデルを示す図である。
図4】一実施形態に係る扁平化予測方法の動作例を示すフローチャートである。。
図5】実際のボール径が1.6mmの場合に、ボール径を3mm及び10mmとして衝突エネルギー算出したときのシミュレーション結果を示すグラフである。
図6】実際の処理時間ごとのBET比表面積値の変化率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0025】
本発明は、銀粉、銅粉、銀被覆銅粉、銀被覆合金等の金属粉を、ボール媒体粉砕機にて扁平化する際に、粉砕機内におけるボールの運動のシミュレーションに基づいて得られる衝突エネルギーを用いて、扁平化処理時間を予測するものである。なお、本発明において、金属粉の扁平化の程度は、扁平化処理時間に対する金属粉のBET比表面積値の変化率(扁平化処理後のBET比表面積値/扁平化処理前のBET比表面積値)に置き換えて示すことができることを見出した。そして、扁平化処理時間に対する変化率の値について任意条件における実測値が一式あれば、以下のシミュレーションにより他の条件でも予測できることを見出した。また、本発明において、シミュレーションに用いるミル容器の断面形状は、実際のミル容器の断面形状と略同一に設定される。本発明において略同一とは、例えば、実際のミル容器の断面形状が欠円の断面を持つ場合、シミュレーションに用いる容器の断面形状は、実際のミル容器の断面の直径と中心角を合わせることにより設定される。
【0026】
図1に、ボール媒体粉砕機の構成を示す。ボール媒体粉砕機のミル容器の攪拌方法は限定されるものではなく、転動方式であっても振動方式であってもよい。図1に示すボール媒体粉砕機6は振動方式であり、SUSボール等の球形媒体(ボール)8及び被加工物(金属粉)9が装填されるミル容器7と、アンバランスウェイト11を有する振動駆動部10と、ミル容器7を支えるスプリング12と、を備える。ボール媒体粉砕機6は、被加工物9を所定の粒径に粉砕する等の各種用途に用いられる。
【0027】
本発明によるシミュレーション可能なボール媒体粉砕機6としては、乾式粉砕機と湿式粉砕機に分けられる。乾式粉砕機としては、遊星ボールミル、揺動ボールミル、転動ボールミル、振動ボールミル等がある。湿式粉砕機としては、アトライター、ビーズミルなどがある。湿式粉砕機の場合には、運動方程式に流体挙動を再現する流体抵抗や浮力のパラメータを加えるとよい。
【0028】
図2に、一実施形態に係る扁平化予測装置の構成例を示す。図2に示す扁平化予測装置1は、入力部2と、記憶部3と、制御部4と、出力部5と、を備える。
【0029】
入力部2は、少なくとも1つの入力用インターフェースを含む。入力用インターフェースは、例えば物理キー、静電容量キー、ポインティングデバイス、ディスプレイと一体的に設けられたタッチスクリーン等である。入力部2は、扁平化予測装置1の動作に用いられるデータを入力する操作を受け付ける。入力部2は、扁平化予測装置1に備えられる代わりに、外部の入力機器として扁平化予測装置1に接続されてもよい。接続用インターフェースとしては、USB(Universal Serial Bus)、HDMI(High-Definition Multimedia Interface、登録商標)、Bluetooth(登録商標)などの規格に対応した任意のインターフェースを用いることができる。
【0030】
記憶部3は、少なくとも1つの半導体メモリ、少なくとも1つの磁気メモリ、少なくとも1つの光メモリ、又はこれらの任意の組合せを含む。半導体メモリは、例えばRAM(random access memory)、ROM(read only memory)、又はフラッシュメモリである。RAMは、例えばSRAM(static random access memory)又はDRAM(dynamic random access memory)である。ROMは、例えばEEPROM(electrically erasable programmable read only memory)である。フラッシュメモリは、例えばSSD(solid-state drive)である。磁気メモリは、例えばHDD(hard disk drive)である。記憶部3は、例えば主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能する。記憶部3は、扁平化予測装置1の動作に用いられる初期パラメータ、扁平化予測装置1の動作によって得られた情報などを記憶する。
【0031】
制御部4は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などの専用のハードウェアによって構成されてもよいし、プロセッサによって構成されてもよいし、双方を含んで構成されてもよい。制御部4は、扁平化予測装置1の各部を制御しながら、扁平化予測装置1の動作に関わる処理を実行する。
【0032】
具体的には、制御部4は、初期パラメータ入力部41と、接触判定部42と、衝突エネルギー算出部43と、扁平化処理時間予測部44と、解析結果出力部45と、を備え、ボール媒体粉砕機6のミル容器7内におけるボール8の運動挙動を解析する。
【0033】
初期パラメータ入力部41は、入力部2を介して初期パラメータを入力する。記憶部3に初期パラメータが記憶されている場合には、初期パラメータ入力部41は、記憶部3から初期パラメータを取得する。初期パラメータは、ボール8の密度、ボール8の材質由来であるヤング率及びポアソン比、ボール8の直径、ボール8を識別する媒体識別指標、摩擦係数、ボール8の仕込み重量、ボール8の個数、ミル容器7の幅、ミル容器7の胴長、ミル容器7の振幅、ミル容器7の振動数、絶対座標系におけるボール8の中心の絶対座標情報、ボール8の運動ベクトル情報、微小単位時間などを含む。なお、本実施形態において、摩擦係数は、非特許文献3に記載の図3.56(粉砕試料の安息角とシミュレーションにおける摩擦係数との関係)から、0.8とした。
【0034】
接触判定部42は、既知の手法により、ボール8とミル容器壁面7Aが接触しているか否か、及びボール8同士が接触しているか否かの接触判定を行う。接触判定は、例えば下記の参考文献1に記載されているため、詳細な説明を省略する。
[参考文献1]特開平11-147048号公報
【0035】
衝突エネルギー算出部43は、粘弾性力学モデルとしてフォークトモデルを用いた離散要素法によって、単位時間当たりにボール8が受ける衝突エネルギーを算出する。具体的な算出方法については後述する。
【0036】
扁平化処理時間予測部44は、ミル容器内7を攪拌させることにより金属粉9を扁平化させる扁平化工程において、任意の扁平化処理条件nにおいて測定された、扁平化処理時間Tに対する金属粉9のBET比表面積値の変化率(扁平化処理後のBET比表面積値/扁平化処理前のBET比表面積値)Rを入力する。ここで、「扁平化処理条件」は、ボール8及びミル容器壁面7Aの材質、ボール8の直径、ボール8の密度、ボール8の重量、ボール8の個数、金属粉9の量、ミル容器7の容器幅及び胴長、ミル容器7の振動数、ミル容器7の振幅、処理時間などを含む。そして、扁平化処理時間予測部44は、BET比表面積値の変化率と、衝突エネルギー算出部43により算出された衝突エネルギーとを用いて、扁平化処理条件nと異なる扁平化処理条件mにおいて、BET比表面積値がaの銀粉を扁平化処理してBET比表面積値がbの銀粉を得るのに必要な予測処理時間Tを算出する。具体的な算出方法については後述する。
【0037】
解析結果出力部45は、扁平化処理時間予測部44で算出した予測処理時間Tなど、扁平化予測装置1の動作によって得られるデータを記憶部3又は出力部5に出力する。
【0038】
出力部5は、少なくとも1つの出力用インターフェースを含む。出力用インターフェースは、例えばディスプレイ、スピーカ、又はプリンタであり、解析結果出力部45から入力したデータをユーザに提示する。ディスプレイは、例えばLCD(liquid crystal display)、又は有機EL(electro luminescent)ディスプレイである。出力部5は、扁平化予測装置1に備えられる代わりに、外部の出力機器として扁平化予測装置1に接続されてもよい。接続用インターフェースとしては、USB、HDMI、Bluetoothなどの規格に対応した任意のインターフェースを用いることができる。
【0039】
(衝突エネルギーの算出)
図3に、フォークトモデルの概念図を示す。図3Aは圧縮力を示しており、図3Bは剪断力を示している。フォークトモデルでは、ボール8の弾性的性質を表すスプリング14と、非弾性的性質(粘性)を表すダッシュポット15とを並列に接続して、ボール8に作用する力を表している。剪断力では、ボール8群の接触に付随する摩擦相互作用を表すために、相互作用力の接線方向成分として、摩擦スライダー16が装入されている。このようなフォークトモデルにおいて、一対のボール8の衝突時における一方を着目ボール8、他方を対象ボール8として、着目ボール8の半径をr、対象ボール8の半径をr、両ボール8の中心間距離をrijとすると、両ボール8の衝突開始時には、(1)式が成立する。
+r=rij ・・・(1)
【0040】
ボール媒体粉砕機6の動きによって発生する一対のボール8の接触点での作用力を、圧縮力f(添え字nは、圧縮方向を示す)と、摩擦係数に起因する一対の剪断力fs1及びfs2(添え字s1及びs2は、それぞれ剪断方向を示す)とに分けて考える。時間tにおける圧縮力f及び剪断力fs1,fs2は、(2)式に示すようにフォークトモデルからスプリング14に基づく弾性力eと粘性力dとの和で示される。
=e(t)+d(t)
s1=es1(t)+ds1(t) ・・・(2)
s2=es2(t)+ds2(t)
【0041】
ここで、スプリング14に基づく弾性力e及び粘性力dは、ボール8間の重なり距離rと微小時間相対変位速度(Δu/Δt)の関数になる。したがって、時間tにおけるスプリング14に基づく弾性力e(t)は、スプリング14の圧縮弾性定数K及び剪断性定数Kに基づいて、それぞれの方向ごとに、(3)式によって表される。
(t)=K・Δu
s1(t)=es1(t-Δt)+Ks1・Δus1
s2(t)=es2(t-Δt)+Ks2・Δus2 ・・・(3)
【0042】
また、時間tにおけるスプリング14に基づく粘性力d(t)は、ダッシュポット15の圧縮粘性係数η及び剪断粘性係数ηに基づいて、それぞれの方向ごとに、(4)式によって表される。
(t)=η・(Δu/Δt)
s1(t)=ηs1・(Δus1/Δt)
s2(t)=ηs2・(Δus2/Δt) ・・・(4)
【0043】
衝突ボール8間の重なり距離rは、(1)式に示された中心間距離rijと、ボール間距離とに基づいて、(5)式で表される。
=rij-ボール間距離 ・・・(5)
【0044】
Δuは、衝突した2つのボール8の中心座標uni,unjの微小時間相対変位により、(6)式によって得られる。
Δu=uni-unj ・・・(6)
【0045】
したがって、フォークトモデルによる容器内のボールの運動シミュレーションでは、ボール8の中心座標と微小時間におけるボール中心変位を逐次解析することにより、ボール媒体粉砕機6内におけるボール8による粉体(金属粉9)への作用力を得ることができる。
【0046】
ボール中心座標を取り入れたスプリング14の圧縮弾性定数Kni―j及び剪断弾性定数Ksi―jは、ヘルツの弾性接触理論に基づいて、ボール8の材質に由来するヤング率E,E、ポアソン比v,vなどにより、(7)式で表される。なお、この式中のδ、δは各ボール間の圧縮による接近量、bi―jは接触幅、sは圧縮弾性係数Kに対する剪断性係数Ksの係数を表している。
【数1】
【0047】
また、ボール中心座標を取り入れたダッシュポット15の圧縮粘性係数ηni-j及び剪断粘性係数ηsi-jは、臨海減衰の条件である(8)式によって表される。
ηni-j=2√(mKni-j
ηsi-j=ηni-j√s ・・・(8)
【0048】
また、ボール8とミル容器壁面7Aの接触の場合は、スプリング14の圧縮弾性定数Kni-w及び剪断弾性定数Ksi-wは、ミル容器壁面7Aの材質に由来するヤング率E、ポアソン比vなどから、(9)式によって表される。
【数2】
【0049】
ダッシュポット15の圧縮粘性係数ηni-w及び剪断粘性係数ηsi-wは、臨海減衰の条件である(10)式によって表される。
ηni-w=2√(mKni-w
ηsi-w=ηni-w√s ・・・(10)
【0050】
なお、上記のヤング率及びポアソン比は、材質に由来する数値である必要があるが、ヤング率については材質の理論値よりも低い値であってもよい。0.1MPaから現実の物性値の100分の1程度が好ましい。
【0051】
また、この離散要素法における計算の単位時間Δt(刻む時間の量)は、差分解の収束性と安定性から(11)式に記載される条件を満たす必要がある。単位時間Δtは、ボール8一つ分の重量m及び圧縮弾性定数Kに関係する。よって、ボール径が大きくなることで計算粒子数が少なくなるだけでなく、単位時間Δtも大きくすることができるため、より計算時間を短縮することができる。
Δt≦2√(m/K) ・・・(11)
【0052】
このように、フォークトモデルによってボール媒体粉砕機6内のボール8の運動をシミュレーションして、金属粉9の扁平化を予測するため、まず、ボール媒体粉砕機6内のすべてのボール8の衝突開始時における単位時間Δt当たりの衝突エネルギーEが求められる。この場合、フォークトモデルにおいて、着目ボール8の運動速度をu、対象ボール8の運動速度をuとすると、両ボールの相対速度uijは、(12)式で表される。
ij=u-u ・・・・(12)
【0053】
着目ボール8の質量をm、対象ボール8の質量をmとすると、両ボールの衝突開始時における衝突エネルギーεは、(13)式で表される。
【数3】
【0054】
ボール媒体粉砕機6内のN個全てのボール8が、1対ずつ衝突する際の単位時間Δt当たりの衝突エネルギーの総和Eは、(14)式で表される。
【数4】
【0055】
ただし、この場合は着目ボール8が対象ボール8に衝突する場合の衝突エネルギーのみを考慮し、対象ボール8が着目ボール8に衝突する際の衝突エネルギーは無視する。このようにして得られるボール媒体粉砕機6内の全てのボール8の衝突開始時における単位時間Δt当たりの衝突エネルギーEに基づく、金属粉9の扁平化度(BET比表面積値の変化量)及び扁平化処理時間が演算される。なお、衝突エネルギーの詳細な計算方法は、下記の参考文献2に詳しく記載されている。ただし、参考文献2では二次元モデルの計算方法の説明であるが、本発明では三次元モデルに改良して計算している。
[参考文献2]粉体工学会編、「粉体シミュレーション入門」、p.29-44、1998年
【0056】
(扁平化予測方法)
次に、図4を参照して、一実施形態に係る扁平化予測方法(金属粉9の扁平化処理時間を予測する方法)について説明する。
【0057】
ステップS101では、ボール媒体粉砕機6のミル容器内7にボール8及び金属粉9を入れて、ミル容器7内を攪拌させることにより金属粉9を扁平化させる扁平化工程において、測定者は、任意の扁平化処理条件nにおいて金属粉9のBET比表面積値(m/g)の変化率(扁平化処理後のBET比表面積値/扁平化処理前のBET比表面積値)Rを、比表面積測定装置を用いて実際に測定する。
【0058】
ステップS102では、制御部4は、変化率Rを用いて、扁平化処理条件nにおける扁平化処理時間Tに対する扁平化速度定数Y(s-1)を、(15)式により求める。なお、扁平化速度定数Yは、扁平化処理条件nにおける複数の処理時間でのBET比表面積値の変化率から、最小二乗法を用いて求めてもよい。
=(R-1)/T ・・・(15)
【0059】
ステップS103では、制御部4は、扁平化処理条件nにおけるボール媒体粉砕機6内でのボール8の運動に対して、上述した粘弾性力学モデルを用いた離散要素法によるシミュレーションにより衝突エネルギーE(J/s)を求める。
【0060】
ステップS104では、制御部4は、扁平化速度定数Yと、扁平化処理条件nにおける衝突エネルギーEとを用いて、予測係数Z(J-1)を、(16)式により求める。なお、予測係数Zは1条件のみならず、複数の扁平化処理条件で求めた扁平化速度定数と各条件における衝突エネルギーの最小二乗法による回帰直線の傾きによって求めてもよい。
Z=Y/E ・・・(16)
【0061】
ステップS105では、制御部4は、扁平化処理条件nと異なる扁平化処理条件mにおけるボール媒体粉砕機6内でのボール8の運動に対して、上述した粘弾性力学モデルを用いた離散要素法によるシミュレーションにより衝突エネルギーE(J/s)を求める。
【0062】
ステップS106では、制御部4は、予測係数Z及び衝突エネルギーEを用いて、扁平化処理条件mにおける予測扁平化速度定数Yを、(17)式により求める。
=E×Z ・・・(17)
【0063】
ステップS107では、制御部4は、予測扁平化速度定数Yを用いて、(18)式により、扁平化処理条件mにおいてBET比表面積値がaの金属粉を扁平化処理してBET比表面積値がbの金属粉を得るのに必要な予測処理時間Tを求める。
=[(b/a)-1]/Y ・・・(18)
【0064】
ミル容器7の容量が3L以上、ボール8の投入数が700個以上とスケールが大きい条件において、ボール径を実際のボール径と同じサイズとしてシミュレーションにより衝突エネルギーを算出するには、長時間(例えば、5日から7日)を要してしまう。また、ボール径を2倍よりも大きく設定すると、得られる衝突エネルギーの値が大きく異なってしまう。したがって、シミュレーションにおいて、ボールの直径は、実際に使用するボール8の直径の1倍以上2倍以下に設定することが好ましく、特に1.5倍以上2倍以下に設定することが好ましい。
【0065】
図5に、実際のボール径が1.6mmの場合に、ボール径を3mm及び10mmとして衝突エネルギーを算出したときのシミュレーション結果を示す。実際のボール径1.6mmと1.9倍にあたるボール径3mmとで算出した値の相関係数は、0.998であり、実際のボール径1.6mmと6.3倍にあたるボール径10mmとで算出した値の相関係数の値は0.976であった。また、各条件における最小二乗法による回帰直線の傾きは、ボール径3mmの場合は1.19であるのに対して、ボール径10mmの場合は1.75であり実際のボール径1.6mmで算出した衝突エネルギーに対して1.5倍以上大きくなる結果であった。この結果から、本実施形態においては、シミュレーションにおけるボール径の設定を、実際のサイズの1.9倍である3mmとした。
【0066】
また、本実施形態におけるシミュレーションにおいて、ミル容器は円柱型と想定し、ミル容器の断面形状は実際のミル容器7の断面形状と略同一に設定され、ミル容器の胴長は実際に使用するボール8の直径の10倍以上の長さに設定される。ミル容器の胴長がボール8の直径の10倍以上であれば、計算時間が短かくなり、且つ衝突エネルギーの算出精度を高めることができるため好ましい。
【0067】
また、本実施形態におけるシミュレーションにおいて、ボールの個数は、1万個以上100万個以下に設定される。ボールの個数がこの範囲であれば、効率的且つ精度良くシミュレーションすることができるため好ましい。
【0068】
また、本実施形態において、予測可能なボール媒体粉砕機6のミル容器7の容量は、0.4L以上150L以下である。ミル容器7の容量がこの範囲であれば、小容量から大容量まで効率的且つ精度良くシミュレーションすることができるため好ましい。
【0069】
(実験結果)
ボール媒体粉砕機6として、振動ボールミル及び転動ボールミルを使用して、表1に示す銀粉B~Gを粉砕し扁平化処理する際の、任意の扁平化度に達する処理時間を予測した。本実施形態におけるBET比表面積値(SSA:specific surface area)は、BET法を採用した比表面積測定装置(MOUNTECH社製、Macsorb HM-model 1210)を用いて、窒素吸着によるBET1点法で測定した。なお、BET比表面積の測定条件は、試料重量を3.0gとし、N2/He(30/70)混合ガスを用い、ガス流量を25mL/minとし、測定前の脱気条件を60℃、10分間とした。
【0070】
【表1】
【0071】
予測係数Zを求めるために、表1に示す銀粉Aを用いて、表2に示す扁平化処理条件1における扁平化速度定数Yを求めた。具体的には、銀粉A(BET値:0.22m/g、D50:5.2μm)1.5kgと、ボール(SUS304、ボール径1.6mm、ボール密度7.81g/cm)12kgとをボール媒体粉砕機6(中央加工機製、B-1)のミル容器7に装入し、振動数1200rpmで、900秒、1800秒、3600秒後の各銀粉のBET値を測定した。
【0072】
図6に、扁平化処理後のBET比表面積値を扁平化処理前のBET比表面積値(元粉のBET比表面積値)で除した変化率Rを縦軸にプロットし、処理時間を横軸にプロットしたグラフを示す。図6において、扁平化率Rと処理時間の相関は良好であり、最小二乗法による回帰直線の傾きから扁平化速度定数Y(=1.17×10-4)を求めた。
【0073】
【表2】
【0074】
シミュレーションによる銀粉Aの表2に示す扁平化処理条件1における衝突エネルギーEは、表3及び表4に示すパラメータ(ボール径3mm、ボール密度7.81g/cm、ボールの摩擦係数0.8、ヤング率0.193GPa、ポアソン比0.3)に設定して算出した。得られた衝突エネルギーEは、55.2(J/s)であり、(16)式から求められる予測係数Zは、2.13×10-6(J-1)であった。本シミュレーションにおけるボール径3mmは、実際に使用するボール径1.6mmの1.9倍である。
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
次に、表1に示す銀粉AからGそれぞれについて、表2に示す扁平化処理条件2から8における予測扁平化速度定数Yを、得られた予測係数Zと、シミュレーションにより算出した衝突エネルギーEとを用いて、(17)式により求めた。表5に、得られた結果を示す。なお、衝突エネルギーEの算出には、表3及び表4に示すパラメータを用いた。なお、条件2は、条件1と同じボール媒体粉砕機6(中央加工機製、B-1)を用い、条件3から6はボール媒体粉砕機6として、中央化工機株式会社製のFVR-20を用いた。
【0078】
【表5】
【0079】
(シミュレーション結果の確認)
表2に示す扁平化処理条件2から8において、実際の扁平化処理時間TとBET比表面積値を確認し、任意の扁平化処理時間TにおけるBET比表面積値の変化率Rを求めた。次に、該変化率Rと同じ変化率となる予測処理時間Tを、予測扁平化速度定数Yを用いて、(18)式から算出した。表6に、その結果を示す。
【0080】
【表6】
【0081】
表6に示すとおり、算出した予測処理時間Tと、任意の扁平化度に到達するまでに実際に要した扁平化処理時間Tとの差は、20%以内に収まっている。したがって、本発明によれば、扁平化処理時間を予測可能であることがわかる。また、扁平化処理時間を予測することにより、金属粉を効率良く且つ経済的に扁平化することが可能となる。
【0082】
(プログラム)
上述した扁平化予測装置1として機能させるために、プログラム命令を実行可能なコンピュータを用いることも可能である。ここで、コンピュータは、汎用コンピュータ、専用コンピュータ、ワークステーション、PC、モバイル端末などであってもよい。プログラム命令は、必要なタスクを実行するためのプログラムコード、コードセグメントなどであってもよい。
【0083】
制御部4は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、SoC(System on a Chip)などのプロセッサであり、同種又は異種の複数のプロセッサにより構成されてもよい。プロセッサは、記憶部3からプログラムを読み出して実行することで、上述した処理を行う。なお、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェアで実現することとしてもよい。
【0084】
プログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録されていてもよい。このような記録媒体を用いれば、プログラムをコンピュータにインストールすることが可能である。ここで、プログラムが記録された記録媒体は、非一過性(non-transitory)の記録媒体であってもよい。非一過性の記録媒体は、特に限定されるものではないが、例えば、CD-ROM、DVD-ROM、USB(Universal Serial Bus)メモリなどであってもよい。また、このプログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【0085】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形又は変更が可能である。例えば、実施形態に記載の構成ブロック又は処理ステップについて、複数を1つに組み合わせたり、1つを複数に分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 扁平化予測装置
2 入力部
3 記憶部
4 制御部
5 出力部
6 ボール媒体粉砕機
7 ミル容器
7A ミル容器壁面
8 球形媒体(ボール)
9 被加工物(金属粉)
10 振動駆動部
11 アンバランスウェイト
12 スプリング
14 スプリング
15 ダッシュポット
16 摩擦スライダー
41 初期パラメータ入力部
42 接触判定部
43 衝突エネルギー算出部
44 扁平化処理時間予測部
45 解析結果出力部
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6