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特開2025-154857ゴム材料の応力-ひずみ特性予測方法、装置、プログラム、記録媒体及び設計方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025154857
(43)【公開日】2025-10-10
(54)【発明の名称】ゴム材料の応力-ひずみ特性予測方法、装置、プログラム、記録媒体及び設計方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/44 20060101AFI20251002BHJP
   G01N 3/00 20060101ALI20251002BHJP
【FI】
G01N33/44
G01N3/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024058097
(22)【出願日】2024-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000201869
【氏名又は名称】倉敷化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】大竹 恵子
(72)【発明者】
【氏名】宮野 修一
(72)【発明者】
【氏名】三宅 祐矢
(72)【発明者】
【氏名】小林 一磨
(72)【発明者】
【氏名】中原 一成
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AB01
2G061BA19
2G061CA10
2G061CB01
2G061DA11
2G061DA12
2G061EA03
2G061EA04
2G061EB10
2G061EC02
2G061EC04
(57)【要約】
【課題】より短時間且つ低コストでゴム材料の応力-ひずみ特性を精度よく予測できる方法、装置、プログラム、記録媒体及び設計方法を提供する。
【解決手段】コンピュータシミュレーションにより8鎖モデルに基づいてゴム材料の応力-ひずみ特性を予測する方法であって、配合が異なる複数のゴム材料サンプルについて予め実験的に取得された架橋密度及び成分配合量の少なくとも一方と、該ゴム材料サンプルについて予め実験的に取得された応力-ひずみ特性と、に基づいて作成された、前記8鎖モデルのパラメータである分子鎖数n及びセグメント数Nと前記架橋密度及び前記成分配合量の少なくとも一方との相関式と、解析対象の前記ゴム材料の架橋密度及び成分配合量の少なくとも一方と、に基づいて、前記パラメータを算出する工程と、前記パラメータの算出値と、前記8鎖モデルと、に基づいて、解析対象の前記ゴム材料の応力-ひずみ特性を予測する工程と、を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータシミュレーションにより8鎖モデルに基づいてゴム材料の応力-ひずみ特性を予測する方法であって、
配合が異なる複数のゴム材料サンプルについて予め実験的に取得された架橋密度及び成分配合量の少なくとも一方と、該ゴム材料サンプルについて予め実験的に取得された応力-ひずみ特性と、に基づいて作成された、前記8鎖モデルのパラメータである分子鎖数n及びセグメント数Nと前記架橋密度及び前記成分配合量の少なくとも一方との相関式と、解析対象の前記ゴム材料の架橋密度及び成分配合量の少なくとも一方と、に基づいて、前記パラメータを算出する工程と、
前記パラメータの算出値と、前記8鎖モデルと、に基づいて、解析対象の前記ゴム材料の応力-ひずみ特性を予測する工程と、を備えた
ことを特徴とするゴム材料の応力-ひずみ特性予測方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記ゴム材料はフィラーを含有し、
前記相関式は、前記分子鎖数nと前記架橋密度との第1相関式と、前記セグメント数Nと前記フィラーの成分配合量との第2相関式と、を含み、
前記パラメータを算出する工程で、解析対象の前記ゴム材料の架橋密度と前記第1相関式とに基づいて前記分子鎖数nを算出するとともに、該ゴム材料の前記フィラーの成分含有量と前記第2相関式とに基づいて前記セグメント数Nを算出し、
前記8鎖モデルにおける伸長比λとして、前記ゴム材料における前記フィラーの成分配合量を考慮した下記式(1)で表されるλ’を使用する
λ’=[(λ-1)/a]+1 ・・・(1)
(但し、式(1)中、aは、前記ゴム材料中におけるポリマーの体積分率である)
ことを特徴とするゴム材料の応力-ひずみ特性予測方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記フィラーはカーボンブラックである
ことを特徴とするゴム材料の応力-ひずみ特性予測方法。
【請求項4】
請求項2又は請求項3において、
前記架橋密度の取得は、トルエン膨潤試験と、パルスNMR測定と、を組み合わせて行われる
ことを特徴とするゴム材料の応力-ひずみ特性予測方法。
【請求項5】
コンピュータシミュレーションにより8鎖モデルに基づいてゴム材料の応力-ひずみ特性を予測する装置であって、
配合が異なる複数のゴム材料サンプルについて予め実験的に取得された架橋密度及び成分配合量の少なくとも一方と、該ゴム材料サンプルについて予め実験的に取得された応力-ひずみ特性と、に基づいて作成された、前記8鎖モデルのパラメータである分子鎖数n及びセグメント数Nと前記架橋密度及び前記成分配合量の少なくとも一方との相関式と、解析対象の前記ゴム材料の架橋密度及び成分配合量の少なくとも一方と、に基づいて、前記パラメータを算出する算出部と、
前記パラメータの算出値と、前記8鎖モデルと、に基づいて、解析対象の前記ゴム材料の応力-ひずみ特性を予測する予測部と、を備えた
ことを特徴とするゴム材料の応力-ひずみ特性予測装置。
【請求項6】
コンピュータシミュレーションにより8鎖モデルに基づいてゴム材料の応力-ひずみ特性を予測するためのプログラムであって、
コンピュータに、
配合が異なる複数のゴム材料サンプルについて予め実験的に取得された架橋密度及び成分配合量の少なくとも一方と、該ゴム材料サンプルについて予め実験的に取得された応力-ひずみ特性と、に基づいて、前記8鎖モデルのパラメータである分子鎖数n及びセグメント数Nと前記架橋密度及び前記成分配合量の少なくとも一方との相関式と、解析対象の前記ゴム材料の架橋密度及び成分配合量の少なくとも一方と、に基づいて、前記パラメータを算出する手順Aと、
前記パラメータの算出値と、前記8鎖モデルと、に基づいて、解析対象の前記ゴム材料の応力-ひずみ特性を予測する手順Bと、をこの順に実行させる
ことを特徴とするゴム材料の応力-ひずみ特性予測プログラム。
【請求項7】
請求項6に記載されたゴム材料の応力-ひずみ特性予測プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項8】
コンピュータシミュレーションにより8鎖モデルに基づいてゴム材料の応力-ひずみ特性を予測する方法を含む、該ゴム材料の設計方法であって、
基本のゴム材料の配合を決定する工程と、
前記基本のゴム材料の前記配合を含み且つ該配合と成分配合量が異なる配合の複数のゴム材料サンプルについて予め実験的に取得された架橋密度及び該成分配合量の少なくとも一方と、該複数のゴム材料サンプルについて予め実験的に取得された応力-ひずみ特性と、に基づいて、前記8鎖モデルのパラメータである分子鎖数n及びセグメント数Nと前記架橋密度及び前記成分配合量の少なくとも一方との相関式を作成する工程と、
解析対象のゴム材料の配合を決定する工程と、
前記相関式と、前記解析対象のゴム材料の架橋密度及び成分配合量の少なくとも一方と、に基づいて、前記パラメータを算出する工程と、
前記パラメータの算出値と、前記8鎖モデルと、に基づいて、前記解析対象のゴム材料の応力-ひずみ特性を予測する工程と、
予測された前記解析対象のゴム材料の応力-ひずみ特性が所望の要件を満たすか否か判定する工程と、をこの順に備え、
前記判定する工程で前記所望の要件を満たさないと判定されたときに、前記解析対象のゴム材料の配合を決定する工程に戻り、予測された前記解析対象のゴム材料の応力-ひずみ特性が前記所望の要件を満たすと判定されるまで、前記解析対象のゴム材料の配合を決定する工程から前記判定する工程までを繰り返す
ことを特徴とするゴム材料の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゴム材料の応力-ひずみ特性予測方法、装置、プログラム、記録媒体及び設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータシミュレーションにより、Mooney-Rivlinモデル、Ogdenモデル、Arruda-Boyceモデル(「8鎖モデル」ともいう。)等のひずみエネルギー密度関数を構成式として、ゴム材料の応力-ひずみ特性(本明細書において、「S-S特性」ともいう。)を予測することが行われている(例えば非特許文献1、2、特許文献1参照)。
【0003】
非特許文献1には、各種構成式を用いた数値解析によりゴムの力学特性を表現する手法について、各種構成式のパラメータを導出するための各種物性試験法と予測精度との関連について記載されている。
【0004】
非特許文献2では、ゴム材料の構成式として、分子鎖網目理論の一種である8鎖モデルが提案されている。
【0005】
特許文献1には、ゴムと、シリカと、これらを結合する界面結合剤とが配合されたゴム材料の変形を精度良く解析するのに役立つゴム材料のシミュレーション方法が開示されている。当該文献の実施例では、構成式として8鎖モデルが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-242336号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】飯塚 博、山下 義裕、ゴム材料の力学特性同定とFEM解析への利用、日本ゴム協会誌、第77巻、第9号、2004年、p306-311
【非特許文献2】E. M. Arruda and M. C. Boyce, A THREE-DIMENSIONAL CONSTITUTIVE MODEL FOR THE LARGE STRECH BEHAVIOR OF RUBBER ELASTIC MATERIALS, Journal of the Mechanics and Physics of Solids Volume 41, Issue 2, Pages 389-412 (1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような数値解析を利用したゴム材料の設計開発では、例えば図18に示すように、原料となるゴム組成物の配合を検討後、サンプルを作製し、3種の物性試験(単軸伸張試験、単軸拘束単軸伸張試験、均等2軸伸張試験)を行う(工程S91~S93)。そして、得られた実験データから上記構成式のパラメータを導出し、解析対象のゴム材料の物理特性を予測する(工程S94、S95)。得られた予測結果が所望の要件を満たす場合には解析対象のゴム材料の配合により量産検討等に進む(工程S96、S97)。しかしながら、得られた予測結果が所望の要件を満たさない場合、従来の方法では、もう一度ゴム組成物の配合検討に戻ってパラメータ導出までの工程S91~S94を繰り返す必要がある。特に物性試験は、非特許文献1にも記載のように、十分な予測精度を担保するためには3種行うことが理想的であり、時間面及びコスト面等において設計開発フローのボトルネックとなっている。
【0009】
しかしながら、Mooney-RivlinモデルやOgdenモデルでは、各パラメータは近似式の係数に過ぎず物理的意味を有していない。このため、パラメータ導出工程で得られた算出値の情報をゴム組成物の配合検討へフィードバックすることができない。そうすると、これらのモデルを構成式とする場合、ゴム組成物の配合を変更すれば、パラメータ算出のためにもう一度物性試験を行う以外に実質的に選択肢がなく、パラメータ導出工程を簡略化することは困難である。
【0010】
この点、8鎖モデルは、高分子のネットワーク理論から導出されたモデルであり、パラメータは物理的意味を有している。非特許文献1には、8鎖モデルは、単軸伸張試験の結果のみを用いて高ひずみ域の挙動まで精度よく表示できると記載されている。しかしながら、当該文献や特許文献1には、パラメータ導出工程を簡略化する具体的な手法については記載されていない。
【0011】
そこで本開示では、より短時間且つ低コストでゴム材料の応力-ひずみ特性を精度よく予測できる方法、装置、プログラム、記録媒体及び設計方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、ここに開示するゴム材料の応力-ひずみ特性予測方法の一態様は、
コンピュータシミュレーションにより8鎖モデルに基づいてゴム材料の応力-ひずみ特性を予測する方法であって、
配合が異なる複数のゴム材料サンプルについて予め実験的に取得された架橋密度及び成分配合量の少なくとも一方と、該ゴム材料サンプルについて予め実験的に取得された応力-ひずみ特性と、に基づいて作成された、前記8鎖モデルのパラメータである分子鎖数n及びセグメント数Nと前記架橋密度及び前記成分配合量の少なくとも一方との相関式と、解析対象の前記ゴム材料の架橋密度及び成分配合量の少なくとも一方と、に基づいて、前記パラメータを算出する工程と、
前記パラメータの算出値と、前記8鎖モデルと、に基づいて、解析対象の前記ゴム材料の応力-ひずみ特性を予測する工程と、を備えた
ことを特徴とする。
【0013】
8鎖モデルはゴム材料のネットワークからエネルギーを現象論的に計算可能な分子鎖網目理論の一種である。本願発明者らは、鋭意研究の結果、8鎖モデルのパラメータである分子鎖数n及びセグメント数Nは、実際のゴムの架橋点の数、すなわちゴム材料の網目の密度を示す材料指標である架橋密度や、ゴム材料の成分配合量と相関関係があることを見出した。そして、8鎖モデルにおけるパラメータn、Nと、架橋密度及び成分配合量の少なくとも一方との関係を相関式としてモデル化した。これにより、解析対象のゴム材料の配合について成分配合量の調整や添加剤の変更等の配合調整を行った場合であっても、ゴム材料の架橋密度及び成分配合量の少なくとも一方が判れば、相関式を用いてパラメータn、Nの値を算出できる。そして、成形及び物性試験を省略してゴム材料の応力-ひずみ特性を精度よく予測できる。すなわち、本構成によれば、ゴム材料の開発フローにおいて、従来行っていたパラメータ導出工程を簡略化できるから、材料設計の工数及びコスト削減に資することができる。
【0014】
好ましくは、前記ゴム材料はフィラーを含有し、
前記相関式は、前記分子鎖数nと前記架橋密度との第1相関式と、前記セグメント数Nと前記フィラーの成分配合量との第2相関式と、を含み、
前記パラメータを算出する工程で、解析対象の前記ゴム材料の架橋密度と前記第1相関式とに基づいて前記分子鎖数nを算出するとともに、該ゴム材料の前記フィラーの成分含有量と前記第2相関式とに基づいて前記セグメント数Nを算出し、
前記8鎖モデルにおける伸長比λとして、前記ゴム材料における前記フィラーの成分配合量を考慮した下記式(1)で表されるλ’を使用する。
【0015】
λ’=[(λ-1)/a]+1 ・・・(1)
(但し、式(1)中、aは、前記ゴム材料中におけるポリマーの体積分率である。)
本願発明者らは、鋭意研究の結果、ゴム材料がフィラーを含有する場合、フィラーの配合量が増加するにつれて、分子鎖の自由度が低下し、8鎖モデルのパラメータの1つであるセグメント数Nが低下すること、及び、単位体積あたりのゴム量が減少することで、局所的なひずみが増加することを見出した。第1相関式及び第2相関式を用いてパラメータn、Nを算出し、8鎖モデルの伸長比λをフィラーの配合量(ポリマーの配合量)を考慮して修正することにより、フィラー配合ゴム材料における応力-ひずみ特性の予測精度を向上できる。
【0016】
前記フィラーはカーボンブラックであることが好ましい。
【0017】
好ましくは、前記架橋密度の取得は、トルエン膨潤試験と、パルスNMR測定と、を組み合わせて行われる。
【0018】
本構成によれば、ゴム材料の配合によらず精度よく架橋密度の情報を取得できる。
【0019】
ここに開示するゴム材料の応力-ひずみ特性予測装置の一態様は、
コンピュータシミュレーションにより8鎖モデルに基づいてゴム材料の応力-ひずみ特性を予測する装置であって、
配合が異なる複数のゴム材料サンプルについて予め実験的に取得された架橋密度及び成分配合量の少なくとも一方と、該ゴム材料サンプルについて予め実験的に取得された応力-ひずみ特性と、に基づいて作成された、前記8鎖モデルのパラメータである分子鎖数n及びセグメント数Nと前記架橋密度及び前記成分配合量の少なくとも一方との相関式と、解析対象の前記ゴム材料の架橋密度及び成分配合量の少なくとも一方と、に基づいて、前記パラメータを算出する算出部と、
前記パラメータの算出値と、前記8鎖モデルと、に基づいて、解析対象の前記ゴム材料の応力-ひずみ特性を予測する予測部と、を備えた
ことを特徴とする。
【0020】
ここに開示するゴム材料の応力-ひずみ特性予測プログラムの一態様は、
コンピュータシミュレーションにより8鎖モデルに基づいてゴム材料の応力-ひずみ特性を予測するためのプログラムであって、
コンピュータに、
配合が異なる複数のゴム材料サンプルについて予め実験的に取得された架橋密度及び成分配合量の少なくとも一方と、該ゴム材料サンプルについて予め実験的に取得された応力-ひずみ特性と、に基づいて、前記8鎖モデルのパラメータである分子鎖数n及びセグメント数Nと前記架橋密度及び前記成分配合量の少なくとも一方との相関式と、解析対象の前記ゴム材料の架橋密度及び成分配合量の少なくとも一方と、に基づいて、前記パラメータを算出する手順Aと、
前記パラメータの算出値と、前記8鎖モデルと、に基づいて、解析対象の前記ゴム材料の応力-ひずみ特性を予測する手順Bと、をこの順に実行させる
ことを特徴とする。
【0021】
ここに開示する記録媒体の一態様は、
上述のゴム材料の応力-ひずみ特性予測プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0022】
ここに開示するゴム材料の設計方法の一態様は、
コンピュータシミュレーションにより8鎖モデルに基づいてゴム材料の応力-ひずみ特性を予測する方法を含む、該ゴム材料の設計方法であって、
基本のゴム材料の配合を決定する工程と、
前記基本のゴム材料の前記配合を含み且つ該配合と成分配合量が異なる配合の複数のゴム材料サンプルについて予め実験的に取得された架橋密度及び該成分配合量の少なくとも一方と、該複数のゴム材料サンプルについて予め実験的に取得された応力-ひずみ特性と、に基づいて、前記8鎖モデルのパラメータである分子鎖数n及びセグメント数Nと前記架橋密度及び前記成分配合量の少なくとも一方との相関式を作成する工程と、
解析対象のゴム材料の配合を決定する工程と、
前記相関式と、前記解析対象のゴム材料の架橋密度及び成分配合量の少なくとも一方と、に基づいて、前記パラメータを算出する工程と、
前記パラメータの算出値と、前記8鎖モデルと、に基づいて、前記解析対象のゴム材料の応力-ひずみ特性を予測する工程と、
予測された前記解析対象のゴム材料の応力-ひずみ特性が所望の要件を満たすか否か判定する工程と、をこの順に備え、
前記判定する工程で前記所望の要件を満たさないと判定されたときに、前記解析対象のゴム材料の配合を決定する工程に戻り、予測された前記解析対象のゴム材料の応力-ひずみ特性が前記所望の要件を満たすと判定されるまで、前記解析対象のゴム材料の配合を決定する工程から前記判定する工程までを繰り返す
ことを特徴とする。
【0023】
上記構成によれば、ゴム材料の開発フローにおいて、従来行っていたパラメータ導出工程を簡略化できるから、材料設計の工数及びコスト削減に資することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上述べたように、本開示によると、ゴム材料の開発フローにおいて、従来行っていたパラメータ導出工程を簡略化できるから、材料設計の工数及びコスト削減に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】8鎖モデルのパラメータと実際のゴム材料における架橋密度との関係を説明するための図。
図2】(a)純ゴムの低架橋密度材、(b)純ゴムの高架橋密度材及び(c)CB配合ゴムにおける、8鎖モデルの結合点及びパラメータを説明するための図。
図3】一実施形態に係るゴム材料の応力-ひずみ特性予測装置を示すブロック図。
図4】一実施形態に係るゴム材料の設計方法を示すフローチャート。
図5】製造例1~6のゴム材料サンプルの単軸引張試験により得られた真応力-伸長比曲線を示すグラフ。
図6】製造例1~11のゴム材料サンプルのトルエン膨潤試験により得られた架橋密度と硫黄量との関係を示すグラフ。
図7】製造例1~6のゴム材料サンプルの架橋密度と8鎖モデルのパラメータn、Nとの関係を示すグラフ。
図8】製造例3、7~11のゴム材料サンプルの単軸引張試験により得られた真応力-伸長比曲線を示すグラフ。
図9図8に示す製造例3、9の真応力-伸長比曲線の拡大図。
図10】純ゴム及びCB配合ゴムのポリマー相に発生するひずみについて説明するための図。
図11】製造例10のゴム材料の配合のパルスNMR測定結果を示すグラフ。
図12】製造例1~6のゴム材料サンプルのトルエン膨潤試験により得られた架橋密度とパルスNMR測定により得られた1/T2HSとの関係を示すグラフ。
図13】製造例1~6のゴム材料サンプルのトルエン膨潤試験により得られた架橋密度並びに製造例7~11のゴム材料サンプルのパルスNMR測定により得られた1/T2HS及び図12の相関式Iから算出した架橋密度と硫黄量との関係を示すグラフ。
図14】製造例1~6のゴム材料サンプルのパルスNMR測定により得られた1/T2HS及び図12の相関式Iから算出した架橋密度とパラメータnとの関係を示すグラフ。
図15】製造例7~11のゴム材料サンプルのCB体積分率とパラメータNとの関係を示すグラフ。
図16】検証試験1の結果を示すグラフ。
図17】検証試験2の結果を示すグラフ。
図18】従来のゴム材料の設計方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0027】
(実施形態1)
<ゴム材料>
本開示にかかる解析対象のゴム材料としては、特に限定されるものではなく、一般的に公知のゴム部品、ゴム製品及びこれらに使用されるゴム材等が挙げられる。ゴム部品、ゴム製品の具体例としては、各種防振ゴム、防振パッド、マウント、ベルト、タイヤ等が挙げられる。ゴム部品、ゴム製品の用途としては、例えば自動車用部品等の車両用部品、ロケット、航空機等の部品、精密機械用部材、工業製品用部材、建築用部材、スポーツ用品等が挙げられる。自動車用部品としては、具体的には例えばサスペンションブッシュ、エンジンマウント、マフラーハンガー、ブレーキホース、ウォーターホース、フューエルホース、フィラーホース、ファンベルト、オイルシール、ウェザーストリップ、ワイパー、タイヤ等が挙げられる。
【0028】
ゴム材料の原料である未加硫のゴム組成物は、主成分であるポリマーと、硫黄等の加硫剤と、必要に応じて任意成分であるカーボンブラック(「CB」ともいう。)、シリカ等のフィラーと、を含む。ポリマーとしては、特に限定されるものではなく、一般的に公知の材料を対象とすることができる。具体的には例えば天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)等の1種又は2種以上の混合物からなるゴム成分が挙げられる。ゴム組成物は、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫促進剤等の一般的な公知のゴム組成物に適用されるその他の添加剤を含有してもよい。添加剤の仕様、含有量等は、特に限定されるものではなく、一般的に用いられる条件とすることができる。これらの添加剤は単独で又は複数種添加され得る。
【0029】
フィラーの平均粒子径は、特に限定されるものではなく、一般的にゴム材料に使用される平均粒子径とすることができる。フィラーの平均粒子径は、例えばレーザ回折式粒度分布測定装置を用いて粒度分布の50%値であるD50を求めることにより体積平均粒子径又は個数平均粒子径として得られる。また、フィラーとしてCBを用いる場合は、その平均粒子径は、ASTM D3849-22に準拠して算出してもよい。CBの平均粒子径(ASTM D3849-22準拠)は、限定する意図ではないが、例えば30nm超、好ましくは70nm以上90nm以下である。CBの平均粒子径が30nm以下では、凝集したCB粒子間に閉じ込められた状態のポリマー相であるオクルードラバー相が生じやすく、CB/ポリマーの体積分率に対する影響が増大し、予測精度が低下傾向になる可能性がある。
【0030】
<8鎖モデルのパラメータと架橋密度との関係について>
本開示では、ゴム材料のS-S特性を予測するための構成式として、ゴム材料のネットワークからエネルギーを現象論的に計算可能な分子鎖網目理論の一種である8鎖モデルを採用している。以下、8鎖モデルのパラメータと実際のゴム材料の架橋密度との関係について説明する。
【0031】
図1の左側に示すように、実際のゴムは、多数の高分子鎖が絡み合うとともに共有結合からなる架橋点(結合点)で互いに連結されてなる3次元ネットワーク構造(分子鎖網目構造)を有している。網目の密度を示す材料指標としては、架橋密度が挙げられる。当該架橋密度は、ゴム材料の原料である未加硫のゴム組成物に配合される加硫剤量(硫黄量)で制御することができる。
【0032】
非特許文献2によれば、8鎖モデルは、図1の中央に示すように、立方体の中心に定められた1つの結合点から、各頂点に設けられた8つの各結合点にそれぞれ分子鎖が延びていると仮定し、各分子鎖の応力を8軸方向で代表表現するモデルである。ゴム材料は、巨視的には当該立方体が多数集合してなる構造体からなると仮定される。8鎖モデルによる真応力-伸長比の関係は下記式(2)で表される。
【0033】
【数1】
【0034】
ここで、式(2)中、k、Tは定数であり、σ、λ(λc)は物性試験により得られる実験値である。また、n、Nは、物性試験の結果に整合するように決定されるパラメータである。
【0035】
互いに隣り合う2つの結合点間を接続する分子鎖を1分子鎖としたときに、パラメータnは、単位体積あたりの分子鎖数を表す。また、1分子鎖を構成するモノマーユニット(=セグメント)の数をパラメータNで表し、セグメント数と称する。セグメント数Nは、ゴム材料の架橋点間のポリマーの長さに対応する値である。
【0036】
これらの分子鎖数n及びセグメント数Nは、結合点の数に応じて変化する。
【0037】
具体的に、図2の(a)、(b)は、CB等のフィラーを含まない純ゴムにおけるそれぞれ低架橋密度材及び高架橋密度材の模式図を示している。図4(a)に示すように、例えば単位体積あたりの結合点数が4の低架橋密度材を考えたときに、分子鎖数n、セグメント数Nはそれぞれ4である。この構造をベースとして架橋密度が増加した図4(b)の高架橋密度材を考えると、結合点数が9に増加した場合、分子鎖数nは12に増加する。一方、結合点数が増加することで結合点間の距離は短くなり、セグメント数Nは2に低下する。すなわち、分子鎖数n及びセグメント数Nは、実際のゴムの架橋点の数、すなわち上述の架橋密度と相関関係があると考えることができる。
【0038】
従って、8鎖モデルにおけるパラメータn、Nと、ゴム材料の網目の密度を示す材料指標である架橋密度との関係をモデル化することができれば、成分配合量の調整や添加剤の変更等の配合調整を行った場合であっても、ゴム材料の架橋密度からパラメータn、Nの値が算出できる。そうして、成形及び物性試験を省略してゴム材料の応力-ひずみ特性を精度よく予測することができる。
【0039】
<ゴム材料のS-S特性予測装置>
図3に、本実施形態に係るゴム材料のS-S特性予測装置100(以下、「予測装置100」ともいう。)の構成例を示す。予測装置100は、コンピュータシミュレーションにより有限要素法等の数値解析を用いてゴム材料のS-S特性の予測を行う装置である。図3の予測装置100は、本開示に係る装置の一例に過ぎず、装置構成は本例に限定されるものではない。
【0040】
予測装置100は、コンピュータ110を基本構成とするCAE(Computer Aided Engineering)システムである。コンピュータ110は、例えばROM、RAM、ハードディスク等からなる記憶部120と、例えばCPU等からなるプロセッサ130と、を備える。また、予測装置100は、例えばディスプレイ等からなる表示部140、キーボード等からなる入力部150及び記録媒体170に保存された各種情報を取得するための読取部160等を備える。記憶部120及び記録媒体170の少なくとも一方には、演算処理用のプログラム、解析モデル情報、8鎖モデルの構成式、後述する相関式、その他の各種解析用データ等の情報が格納される。プロセッサ130は、解析モデル作成部、解析条件設定部、算出部、予測部等として機能し得る。プロセッサ130は、記憶部120に格納された上記情報、入力部150を介して入力された情報、及び読取部160を介して記録媒体170から取得した情報等に基づいて、各種演算処理を行う。なお、この装置100は、不図示のインターフェースを介して外部機器と通信可能に構成されている。
【0041】
解析モデル作成部は、ゴム材料の形状を定義した3D CADデータ等の形状データを複数の微小な要素に分割して数値解析用の解析モデルを作成する。解析モデル作成部としては、市販の自動メッシュ作成ソフト等を使用できる。なお、要素の形状及びサイズは、特に限定されるものではなく、製品仕様、材料構成、計算効率及び計算精度のレベルに応じて適宜設定される。
【0042】
解析条件設定部は、解析の前提条件として、ゴム組成物に含まれる成分の種類、配合、添加材、各種物性値等に関する材料特性データ等を解析条件として設定する。
【0043】
算出部は、後述する相関式と、解析対象のゴム材料の架橋密度及び成分配合量の少なくとも一方と、に基づいて、8鎖モデルのパラメータを算出する。
【0044】
予測部は、算出部により算出されたパラメータの算出値と、8鎖モデルと、に基づいて、解析対象のゴム材料のS-S特性を予測する。
【0045】
<ゴム材料の設計方法及びS-S特性予測方法>
図4は、本開示に係るゴム材料のS-S特性予測方法(以下、「本予測方法」ともいう。)の一例を含む、ゴム材料の設計方法の一例を示すフローチャートである。
【0046】
図4に示すように、設計方法は、基本ゴム材料配合決定工程S1と、相関式作成工程S2と、解析用ゴム材料配合決定工程S3と、パラメータ算出工程S4と、S-S特性予測工程S5と、S-S特性評価工程S6と、量産検討用ゴム材料配合決定工程S7と、を備える。
【0047】
相関式作成工程S2は、ゴム材料サンプル作製工程S21と、試験工程S22と、相関式導出工程S23と、を備える。
【0048】
本予測方法は、コンピュータシミュレーションにより8鎖モデルを用いてゴム材料の応力-ひずみ特性を予測する方法であり、例えば上述の装置100を用いて行われる。本予測方法は、少なくともパラメータ算出工程S4及びS-S特性予測工程S5を含み、例えば図4の相関式導出工程S23からS-S特性予測工程S5までを含んでもよい。
【0049】
[基本ゴム材料配合決定工程]
まず、基本ゴム材料配合決定工程S1で、基本となるゴム材料の配合を決定する。すなわち、当該工程は、ゴム成分を主成分として含むポリマー、加硫剤及びフィラーを含む場合はフィラー成分等の具体的な原料及びこれらの成分配合量を検討及び決定する工程である。この段階で決定する成分配合量は相関式作成の基準となる成分配合量である。
【0050】
[相関式作成工程]
相関式作成工程S2は、上述のごとく、サンプル作製工程S21と、試験工程S22と、相関式導出工程S23と、を備える。
【0051】
-サンプル作製工程-
サンプル作製工程S21では、基本のゴム材料の配合を含みかつ該配合と成分配合量が異なる配合の複数のゴム材料サンプルを準備する。すなわち、まず、基本のゴム材料の配合を有する基本ゴム材料サンプルを準備する。加えて、当該基本ゴム材料サンプルと成分は同じで成分配合量が異なる相関式作成用ゴム材料サンプルを複数種類、好ましくは2種類以上(基本ゴム材料サンプルを含めて全部で3種類以上)準備する。
【0052】
そして、これらの相関式作成用ゴム材料サンプルの配合を有する未加硫のゴム組成物を準備し、実成形により次の試験工程S22に供するための加硫ゴムからなる試験片を作製する。
【0053】
-試験工程-
試験工程S22では、上述の複数の相関式作成用ゴム材料サンプルについて物性試験及び材料分析試験を行う。
【0054】
なお、本実施形態の説明では、主にゴム材料がフィラーを含まない純ゴムの場合について説明する。
【0055】
≪物性試験≫
物性試験は、ゴム材料サンプルの応力-ひずみ特性を計測できれば限定されないが、好ましくは単軸引張試験である。単軸引張試験は一般的に公知の方法により行うことができる。
【0056】
具体的には例えば、後述する実験例の単軸引張試験の方法で行うことができる。得られた試験結果の一例として、後述する製造例1~6のゴム材料サンプルの単軸引張試験により得られた真応力-伸長比曲線を図5に示す。
【0057】
≪材料分析≫
材料分析は、ゴム材料サンプルの架橋密度を得るための試験である。材料分析の種類は、当該架橋密度を算出できれば特に限定されない。材料分析としては、具体的には例えば、トルエン膨潤試験、パルスNMR測定、チオールアミン法、トルエン膨潤/小角X線散乱、動的粘弾性測定等が挙げられる。
【0058】
なお、架橋密度の算出精度及び試験の簡便性の観点から、フィラーを含まない純ゴム材料の場合はトルエン膨潤試験を用いることが好ましい。トルエン膨潤試験は、トルエン膨潤前後及び膨潤後に乾燥させた状態の試験片の質量をそれぞれ測定し、後述する修正Flory-Rehnerの式により、架橋密度を算出する方法である。トルエン膨潤試験では、直接架橋密度の値が得られるという利点がある。
【0059】
後述する製造例1~11のゴム材料サンプルのトルエン膨潤試験により得られた架橋密度とゴム組成物に配合された硫黄量との関係を図6に示す。図6に示すように、製造例1~6の純ゴムに関しては、硫黄量の増加に伴い架橋密度が増加する非線形の相関関係が得られることが判る。
【0060】
なお、詳細は実施形態2で後述するが、フィラーを含むフィラー配合ゴム材料の場合は、トルエン膨潤試験だけでゴム材料サンプルの架橋密度を評価することは難しく、トルエン膨潤試験とパルスNMR測定との組合せを用いることが好ましい。
【0061】
-相関式導出工程-
物性試験により得られたゴム材料サンプルのS-S特性結果に基づき、各ゴム材料サンプルにおける8鎖モデルのパラメータである分子鎖数n及びセグメント数Nを同定する。具体的には、8鎖モデルにより表現されるS-S特性曲線が単軸引張試験の結果得られたゴム材料サンプル毎の実測のS-S特性曲線と一致するように、最小二乗法等を用いてゴム材料サンプル毎に8鎖モデルのパラメータn、Nを決定する。本作業は後述するS-S特性予測工程S5で行う作業と実質的に同じであり、例えばS-S特性予測工程S5で例示する市販のCAE解析ソフトウェアを用いて行うことができる。
【0062】
また、材料分析によりゴム材料サンプル毎の架橋密度が得られているから、当該架橋密度の値に対して、上述の方法で決定したゴム材料サンプル毎のパラメータn、Nの値をそれぞれプロットする。
【0063】
そうして、得られたデータ点に対しカーブフィッティングを行い、基本のゴム材料の配合及びその成分配合量を変化させた場合のゴム材料の架橋密度とパラメータn、Nとの相関式を得ることができる。
【0064】
具体的に、製造例1~6のゴム材料サンプルについて、上述のごとく求めた架橋密度と8鎖モデルのパラメータn、Nとの関係を図7に示す。パラメータn、Nの各々について、図2を用いて考察した架橋密度とパラメータn、Nとの関係(架橋密度の増加に伴い、分子鎖数nは増加傾向、セグメント数Nは低下傾向)に整合する相関式IIa、IIbが得られることが判る。
【0065】
[解析用ゴム材料配合決定工程]
解析用ゴム材料配合決定工程S3では、解析対象のゴム材料の配合を決定する。図4の設計方法のフローの1回目では、解析用ゴム材料の配合は基本ゴム材料の配合としてもよいし、上記相関式を使用できる範囲内で基本ゴム材料の配合から成分配合量等を調整した配合としてもよい。
【0066】
[パラメータ算出工程]
パラメータ算出工程S4では、解析用ゴム材料の架橋密度と、上述の相関式導出工程S23で導出した相関式とに基づいて、パラメータn、Nを算出する。解析用ゴム材料の架橋密度は、既知情報から得られる場合は当該情報を用いればよいし、未知であれば上述の材料分析を行って算出すればよい。
【0067】
[S-S特性予測工程]
S-S特性予測工程S5では、パラメータ算出工程S4で算出したパラメータn、Nの算出値と、上述の8鎖モデルの構成式(式(2))と、に基づいて、解析用ゴム材料の応力-ひずみ特性を予測する。具体的には、上述の解析モデル作成部により、解析用ゴム材料の形状の3Dデータから解析モデルを作成する。また、解析条件設定部により解析条件を設定する。そうして、予測部により、微小要素毎、タイムステップ毎に解析モデルの変形計算を行う。当該工程は、特に限定されるものではなく、ゴム材料の構造解析が可能な市販のCAE解析ソフトウェア、具体的には例えばダッソーシステムズ株式会社製のAbaqus、Ansys社のAnsys Mechanical等を利用して行うことができるし、同様の機能を有する自作のCAE解析ソフトウェアを使用してもよい。
【0068】
[S-S特性評価工程]
S-S特性評価工程S6は、S-S特性予測工程S5で得られたS-S特性予測結果が、所望のS-S特性の範囲(所望の要件)を満たすか否か判定する工程である。
【0069】
S-S特性評価工程S6で予測結果がNGの場合(所望の要件を満たさない場合)は、NOに進み、解析用ゴム材料配合決定工程S3に戻る。そして、成分配合量等の調整を行い、パラメータ算出工程S4~S-S特性評価工程S6をもう一度行う。所望のS-S特性の範囲を満たすゴム材料が得られるまで配合調整工程S3~S-S特性評価工程S6を繰り返す。
【0070】
[量産検討用ゴム材料配合決定工程]
S-S特性評価工程S6で予測結果がOKの場合は、YESに進み、量産検討用ゴム材料配合決定工程S7でゴム材料の最終的な配合を決定する。当該配合のゴム材料について、例えばその他の条件等を考慮し量産を検討する。
【0071】
<作用効果>
上記構成では、8鎖モデルにおけるパラメータn、Nと、ゴム材料の網目の密度を示す材料指標である架橋密度との関係を相関式としてモデル化した。これにより、解析対象のゴム材料の配合について成分配合量の調整や添加剤の変更等の配合調整を行った場合であっても、ゴム材料の架橋密度が判れば、相関式を用いてパラメータn、Nの値を算出できる。そして、成形及び物性試験を省略してゴム材料の応力-ひずみ特性を精度よく予測できる。すなわち、上記構成によれば、ゴム材料の開発フローにおいて、従来行っていたパラメータ導出工程を簡略化できるから、材料設計の工数及びコスト削減に資することができる。
【0072】
<ゴム材料の応力-ひずみ特性予測プログラム及びその記録媒体>
上述の本予測方法の各工程の少なくとも一部は、ゴム材料の応力-ひずみ特性予測プログラムとしてプログラム化されている。すなわち、本実施形態に係るゴム材料の応力-ひずみ特性予測プログラムは、コンピュータに、上記各工程の手順のうち、少なくとも、パラメータ算出工程S4(手順A)及びS-S特性予測工程S5(手順B)の手順を実行させるプログラムである。なお、当該プログラムは、上記手順に加え、その他の工程の手順も実行させるように構成されていてもよい。具体的には例えば、S-S特性評価工程S6で所望のS-S特性の範囲を予め定めておき、予測結果が当該範囲を満たすようにゴム材料の配合を調整するよう上述の解析用ゴム材料配合決定S3を自動化しておいてもよい。この場合、当該プログラムは、例えば図4の相関式導出工程S23~配合決定工程S7までの各手順を実行させるように構成することができる。当該プログラムは、例えば記憶部120に格納されており、プロセッサ130により実行され得る。また、当該プログラムは、記憶部120に格納された状態に限らず、例えば光ディスク媒体や磁気テープ媒体など、コンピュータ読み取り可能な種々の周知の記録媒体170に記録させておくことができる。そして、このような記録媒体170を読取部160に装着して当該プログラムを読み出すことにより、当該プログラムを実行可能である。
【0073】
(実施形態2)
以下、本開示に係る他の実施形態について詳述する。なお、これらの実施形態の説明において、実施形態1と同じ部分については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0074】
実施形態1では、主にゴム材料がフィラーを含まない純ゴムの場合について説明したが、本実施形態では、ゴム材料がフィラー、好ましくはCBを含むフィラー配合ゴムの場合について説明する。
【0075】
<8鎖モデルのパラメータと架橋密度及びフィラー配合量との関係について>
図8は、後述する製造例3、7~11のゴム材料サンプルの単軸引張試験により得られた真応力-伸長比曲線を示すグラフであり、図9は、図8に示す製造例3(純ゴム)及び製造例9(CB配合ゴム)の真応力-伸長比曲線の拡大図である。
【0076】
図9に示すように、フィラーとしてCBを含むCB配合ゴムでは、純ゴムと比較して、伸長比に対する応力の増加幅が大きいことが判る。このことは、CB粒子によって分子鎖の伸び切りが促進されていることを示している。
【0077】
CB粒子による分子鎖の伸び切り効果の要因として2つ考えられる。
【0078】
1つ目は、図2(c)に示すように、分子鎖にCB粒子が接触することにより分子鎖の自由度が低下して運動が抑制される。そうして、実質的なセグメント数Nの低下がもたらされると考えることができる。すなわち、CB配合ゴム中におけるCB粒子の割合が増加するに伴い、セグメント数Nが低下すると考えられる。
【0079】
2つ目は、ポリマー相が受けるひずみの変化である。すなわち、図10に示すように、純ゴムに比べてCB配合ゴムでは単位体積あたりのゴム量が減少することで、局所的なひずみが増加すると考えられる。
【0080】
以上の考察から、フィラー配合ゴムでは、セグメント数Nはフィラーの配合量の影響を受けるため、セグメント数Nに関する相関式として、セグメント数Nとフィラーの配合量との関係を定義することが望ましいと考えられる。また、フィラー配合ゴムでは、フィラーの存在により伸長比λに影響が生じるため、8鎖モデルの構成式(上記式(2))において、フィラーの配合量を考慮できるように、伸長比λを修正することが考えられる。
【0081】
なお、分子鎖数nについては、単位体積中にフィラー粒子が入ることにより、伸長に関与していなかった分子鎖との相互作用が増加するという観点からは増加傾向になる一方、単位体積中から押し出される分子鎖数が増加するという観点からは減少傾向になると考えられる。従って、2つの相反する傾向によりフィラー配合が分子鎖数nに与える影響は、上述のフィラー配合がセグメント数N、伸長比λに与える影響(分子鎖の伸び切り効果)と比較してかなり小さくなると考えられる。そして、フィラー配合が分子鎖数nに与える影響は、最終的には伸長比λの修正に含めることができると考えられる。
【0082】
<ゴム材料の設計方法及びS-S特性予測方法>
[相関式作成工程]
-試験工程-
≪材料分析≫
トルエン膨潤試験では、直接架橋密度の値が得られるという利点がある一方、フィラーを含むフィラー配合ゴムではフィラーの影響により得られる架橋密度値の精度が低下し得る。特にフィラーとしてカーボンブラックを含有するCB配合ゴムではゴム成分とCB粒子との界面に形成されるバウンドラバー相の影響が問題になる。
【0083】
実際、図6に示すように、製造例7~11のCB配合ゴムでは、硫黄量の増加に伴い、架橋密度が低下する結果が得られており、製造例1~6の純ゴムと比較して、ポリマー相の架橋密度の精度は低下している。
【0084】
この点、トルエン膨潤試験にパルスNMR測定を組み合わせることで、フィラー配合ゴムにおける架橋密度を精度よく算出できる。
【0085】
パルスNMR測定は、ハーンエコー法で横緩和を測定して解析することにより、ポリマー相に絞った分析が可能になる。パルスNMR測定は具体的には「岩蕗 仁、ソフトマテリアル解析における核磁気共鳴(NMR)スペクトル(2)ソフトマテリアル解析におけるパルス法NMRの役割、日本ゴム協会誌、第87巻、第5号、2014年、p195-202」(「非特許文献3」と称する。)に記載の方法で行うことができる。
【0086】
図11に製造例10のゴム材料の配合のパルスNMR測定結果を示す。このような測定結果に対し、カーブフィッティングを行い、1/T2HSの値を算出する。
【0087】
図12は、製造例1~6のゴム材料サンプルのトルエン膨潤試験により得られた架橋密度とパルスNMR測定により得られた1/T2HSとの関係を示すグラフである。図12に示すように、両者の間には良好な線形性の相関関係があることが判る。図12のデータ点に対する近似式を相関式Iとする。
【0088】
製造例7~11のゴム材料サンプルのパルスNMR測定により得られた1/T2HS図12の相関式Iから算出した架橋密度を硫黄量に対してプロットすると図13のようになる。製造例1~6のゴム材料サンプルのトルエン膨潤試験により得られた架橋密度を含めてカーブフィッティングを行うと決定係数R=0.9863で近似できることが判った。すなわち、フィラー配合ゴムでは、トルエン膨潤試験とパルスNMR測定とを組み合わせることにより、ポリマー相の架橋密度を精度よく算出できることが判る。
【0089】
-相関式導出工程-
分子鎖数nについては、実施形態1と同様に、材料分析により得られたゴム材料サンプルの架橋密度に対して、ゴム材料サンプル毎の分子鎖数nの値をプロットし、第1相関式としての相関式IIaを作成する。なお、上述のごとく、フィラー配合が分子鎖数nに与える影響は小さいと考えられるので、相関式IIaは、純ゴムの架橋密度及びフィラー配合ゴムの架橋密度いずれを用いて作成してもよい。本実施形態における相関式IIaの例を図14に示す。図14では、製造例1~6のゴム材料サンプルのパルスNMR測定により得られた1/T2HS及び図12の相関式Iから算出した架橋密度を使用している。
【0090】
セグメント数Nについては、上述のごとく、フィラーの配合量が影響するから、フィラーの成分配合量に対してセグメント数Nの値をプロットし、第2相関式としての相関式IIIを作成する。相関式IIIの例を図15に示す。図15は、製造例7~11のゴム材料サンプルのCB体積分率に対してセグメント数Nをプロットしたグラフである。データ点に対してカーブフィッティングにより相関式IIIを作成した。
【0091】
[パラメータ算出工程]
本実施形態のパラメータ算出工程S4では、解析対象のゴム材料の架橋密度と相関式IIaとに基づいて分子鎖数nを算出する。また、解析対象のゴム材料のフィラーの成分含有量と相関式IIIとに基づいてセグメント数Nを算出する。
【0092】
[S-S特性予測工程]
本実施形態のS-S特性予測工程S5では、8鎖モデルの構成式(上記式(2))における伸長比λとして、ゴム材料におけるフィラーの成分配合量を考慮した下記式(1)で表されるλ’を使用する。
【0093】
λ’=[(λ-1)/a]+1 ・・・(1)
(但し、式(1)中、aは、前記ゴム材料中におけるポリマーの体積分率である。)
<作用効果>
上記構成によれば、相関式IIa及び相関式IIIを用いてそれぞれパラメータn、Nを算出するとともに、8鎖モデルの伸長比λをフィラーの配合量(ポリマーの配合量)を考慮して修正することにより、フィラー配合ゴム材料における応力-ひずみ特性の予測精度を向上できる。
【0094】
(その他の実施形態)
実施形態1、2の相関式IIa、IIb、IIIは、ゴム材料の成分配合量の変更、添加剤の添加有無及び変更等の配合調整には適用可能と考えられる。ゴム材料の例えばポリマー成分の種類の変更等の大幅な配合変更を行う場合は、図4の設計方法のフローを最初から行い、相関式をもう一度作成することが望ましい。なお、異なるポリマー成分の間でも、硫黄量に対する架橋密度の値や増加幅等の傾向が同様であれば、ポリマー成分を変更しても相関式を適用可能な場合もある。
【0095】
(実験例)
次に、具体的に行った実験例について説明する。
【0096】
<計算>
以下の実験例におけるカーブフィットや検証結果を含む全ての計算は表計算ソフトの関数とソルバ機能を使用して行った。変形計算については、1要素モデルを対象に行った。なお、後述する検証試験1の真応力-伸長比曲線の計算については、市販のCAE解析ソフトウェア(ダッソーシステムズ株式会社製、Abaqus)を使用した場合も、当該表計算ソフトから得られた結果と同様の結果が得られることを確認済みである。
【0097】
<ゴム材料サンプル>
製造例1~11(符号E1~E11で示すことがある。)のゴム材料サンプルを製造した。表1及び表2に配合表と各成分の比重を示す。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
ゴム材料サンプルに使用した原料は以下の通りである。
【0101】
[原料]
(1)ポリマー成分(ポリイソプレンゴム(IR))
(2)カーボンブラック(平均粒子径:85nm)
なお、CBの平均粒子径は、ASTM D3849-22に準拠して測定された値である。
【0102】
(3)酸化亜鉛2種
(4)ステアリン酸
(5)加硫促進剤(スルフェンアミド系加硫促進剤)
(6)加硫剤(微粉硫黄)
<単軸引張試験>
ゴム材料サンプルからダンベル形(JIS K 6251 ダンベル状3号形 厚さ:2.0±0.2mm、幅:5.0±0.1mm、標線間:20.0±0.5mm、全長:100mm、両端幅:25mm)に切り出したものを試験片として準備した。当該試験片に対して、引張試験装置(島津製作所製オートグラフAGS-X)を用いて、温度23℃、相対湿度50%RHの雰囲気下で、チャック間距離50.0±0.5mm、引張速度30mm/分にて引張試験を行い、伸長比に対する真応力の変化を計測した。結果を図5及び図8に示す。
<トルエン膨潤試験>
サンプルより約0.3gの試験片を採取し、トルエン中に40℃で22時間浸漬した。膨潤前後及び膨潤後に乾燥した試験片の重量を測定し、下記式(3)に示す修正Flory-Rehnerの式により、架橋密度を算出した。結果を表1及び図6に示す。
【0103】
[測定条件]
試験片重量:約0.3g
膨潤溶媒:トルエン
浸漬条件:40±2℃×22時間
乾燥条件:減圧下、40±2℃×72時間
[修正Flory-Rehnerの式]
【0104】
【数2】
【0105】
ν:網目鎖濃度(架橋密度)[mol/m
g:膨潤前試験片中のゴムの体積分率
V:膨潤溶媒の分子容(分子量÷密度)[m/mol]
μ:試料ゴムと膨潤溶媒との相互作用定数
:膨潤後試験片中のゴムの体積分率
[計算条件]
トルエンの分子量:92.14[g/mol]
密度:0.867[g/ml]
試料ゴムと膨潤溶媒との相互作用定数:0.39
各材料の密度:表1参照
<パルスNMR測定>
パルスNMR測定及びその解析は、上述の非特許文献3に記載の方法に従って行った。
【0106】
具体的には、ゴム材料サンプルを採取後、試験管に投入し、パルスNMR測定装置(日本電子株式会社製JNM-MU25、共鳴周波数25MHz)に設置後、ハーンエコー法により横緩和を測定した。製造例10の測定結果を図11に示す。
【0107】
横緩和の測定結果に対し、図11に示すようにカーブフィッティングを行い、T2HS/T2HL、FHS/FHL、WHSをフィッティング結果から算出した。そうして、1/T2HSの値を算出した。結果を表1に示す。
【0108】
<相関式I>
純ゴムのゴム材料サンプル(製造例1~6)について、パルスNMR測定結果から算出した1/T2HSの値に対して、トルエン膨潤試験により得られた架橋密度の値をプロットした。グラフを図12に示す。フィッティングにより得られた近似直線式を相関式Iとした。
【0109】
なお、製造例1~6のゴム材料サンプルのトルエン膨潤試験で得られた架橋密度並びに製造例7~11のゴム材料サンプルの1/T2HS及び図12の相関式Iから算出した架橋密度と硫黄量との関係を図13に示す。
【0110】
<相関式II>
純ゴムのゴム材料サンプル(製造例1~6)の単軸引張試験により得られた図5の伸長比-真応力曲線を満たすように、8鎖モデルの構成式(上記式(2))のパラメータである分子鎖数nとセグメント数Nをゴム材料サンプル毎に算出した。
【0111】
算出した分子鎖数n及びセグメント数Nをトルエン膨潤試験により算出した架橋密度に対してプロットしたグラフを図7に示す。プロットに対してカーブフィッティングを行い、得られた多項式近似曲線式を相関式IIとした。なお、便宜上、分子鎖数nと架橋密度との相関式を相関式IIa(第1相関式、図7の実線)、セグメント数Nと架橋密度との相関式をIIb(図7の破線)と表記する。
【0112】
また、後述する検証試験に供するため、図7のデータ点数を数点減らしてカーブフィッティングを行い得られた下記式(4)、(5)の多項式近似曲線式をそれぞれ検証用の相関式IIa、IIbとして得た。
【0113】
n=2.5×1015+4.3×1017x+7.8×1018 ・・・(4)
N=19415x―1.164 ・・・(5)
<相関式III>
CB配合ゴムのゴム材料サンプル(製造例7~11)について、8鎖モデルの構成式(上記式(2))における伸長比λを下記式(1)で示すλ’に置き換えた。但し、aはCB配合ゴム中におけるポリマー体積分率である。
【0114】
λ’=[(λ-1)/a]+1 ・・・(1)
CB配合ゴムのゴム材料サンプル(製造例7~11)の単軸引張試験により得られた図8の伸長比-真応力曲線を満たすように、上記式(2)に上記式(1)を反映させた修正8鎖モデルの構成式のパラメータである分子鎖数nとセグメント数Nをゴム材料サンプル毎に算出した。
【0115】
算出した分子鎖数nをパルスNMR測定結果と相関式Iとから算出した架橋密度に対してプロットした(不図示)。プロットに対してカーブフィッティングを行い、得られた多項式近似曲線式を相関式IIa’とした。なお、当該相関式IIa’としては、純ゴムのゴム材料サンプルについて得られた相関式IIaと同一としてもよい。また、当該相関式IIa’としては、純ゴムのゴム材料サンプルについて得られたパルスNMR測定結果と相関式Iとから算出した架橋密度と純ゴムのゴム材料サンプルについて得られた分子鎖数nの値から作成した相関式IIa’’としてもよい。相関式IIa’’の例を図14に示す。相関式IIa’’は下記式(6)で表される。
【0116】
また、検証試験に供するため、図15のデータ点数を数点減らしてカーブフィッティングを行い得られた下記式(7)の多項式近似曲線式を検証用の相関式III(第2相関式)として得た。
【0117】
n=2.5×1015+4.3×1017x+8.1×1018 ・・・(6)
N=401.31y―0.933 ・・・(7)
<検証試験1:純ゴムのS-S特性予測>
検証用の相関式IIa(式(4))、IIb(式(5))を用い、以下に示す2種類のゴム材料のn、Nを算出した。
低架橋密度材(架橋密度:68.0mol/m、n:4.9×1019、N:143)
高架橋密度材(架橋密度:125.7mol/m、n:1.0×1020、N:70)
上記ゴム材料について、上述の計算手法により真応力-伸長比曲線を得た。
【0118】
上記ゴム材料の単軸引張試験の結果及び解析結果を図16に示す。両ゴム材料について精度よくS-S特性が予測できることが判った。
【0119】
<検証試験2:CB配合ゴムのS-S特性予測>
相関式IIa’’(式(6))及び検証用の相関式III(式(7))を用い、以下に示すゴム材料のn、Nを算出した。
CB配合ゴム材(架橋密度:81.8mol/m、ポリマー量:88.1体積%、CB配合量:8.9体積%、n:6.0×1019、N:52)
上記ゴム材料について、伸長比λを上記式(1)で算出したλ’として上述の計算手法により真応力-伸長比曲線を得た。
【0120】
上記ゴム材料の単軸引張試験の結果及び解析結果を図17に示す。当該ゴム材料について精度よくS-S特性が予測できることが判った。
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