(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015487
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】肌状態の推定方法、被験者に適した組成物及び/又は刺激の提案方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6883 20180101AFI20250123BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20250123BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20250123BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20250123BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20250123BHJP
G16B 50/10 20190101ALI20250123BHJP
G16B 25/10 20190101ALI20250123BHJP
【FI】
C12Q1/6883 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
C12M1/00 A
G01N33/50 Q
G16B50/10
G16B25/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024114537
(22)【出願日】2024-07-18
(31)【優先権主張番号】P 2023117900
(32)【優先日】2023-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山地 史哉
(72)【発明者】
【氏名】横田 真理子
(72)【発明者】
【氏名】河野 佐知子
【テーマコード(参考)】
2G045
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G045CB09
2G045DA14
2G045FB02
4B029AA23
4B029AA27
4B029BB11
4B029DG10
4B029FA15
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR62
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS25
4B063QS34
(57)【要約】
【課題】皮膚を用いて被験者の肌状態を推定する新規な方法を提供すること。
【解決手段】被験者から採取された皮膚用いて遺伝子発現解析を行い、その結果に基づいて前記被験者の肌状態を推定する、被験者の肌状態の推定方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行い、その結果に基づいて前記被験者の肌状態を推定する、被験者の肌状態の推定方法。
【請求項2】
前記遺伝子発現解析は、前記皮膚から抽出したRNAを試料としたPCR又はトランスクリプトーム解析によって行われる、請求項1に記載の推定方法。
【請求項3】
前記遺伝子は、下記群から選ばれる1又は2以上の遺伝子オントロジー(Gene Оntology)を有する、請求項1又は2に記載の推定方法。
【表1】
【請求項4】
前記遺伝子は、下記群から選ばれる1又は2以上の遺伝子オントロジー(Gene Оntology)を有する、請求項1又は2に記載の推定方法。
【表2】
【請求項5】
前記遺伝子は、TYR、TYRP1、DCT、MITF、IL1A、FLG、LORICLIN、KIT、EDNRB、CCR2、FGFR1、MIA、TRPM1、MLANA、PMEL、FGF7、FGFR2、KITLG、EDN1、KRT5、KRT10、SCELから選ばれる1又は2以上である、請求項1又は2に記載の推定方法。
【請求項6】
前記遺伝子は、G0S2、HOXD、SLC11A1、PITX1、CRNN、HOXD8、TSBP1、SOD2から選ばれる1又は2以上である、請求項1又は2に記載の推定方法。
【請求項7】
前記肌状態は、色素沈着である、請求項1又は2に記載の推定方法。
【請求項8】
前記肌状態を、TYR、TYRP1、DCT、MITF、IL1A、FLG、LORICLIN、KIT、EDNRB、CCR2、FGFR1、MIA、TRPM1、MLANA、PMEL、FGF7、FGFR2、KITLG、EDN1、KRT5、KRT10、SCELから選ばれる1又は2以上の遺伝子の発現量が変動したことに起因する色素沈着であると推定することを含む、請求項7に記載の推定方法。
【請求項9】
前記肌状態を、G0S2、HOXD、SLC11A1、PITX1、CRNN、HOXD8、TSBP1、SOD2から選ばれる1又は2以上の遺伝子の発現量が変動したことに起因する色素沈着であると推定することを含む、請求項7に記載の推定方法。
【請求項10】
前記推定工程は、
被験者から採取された色素沈着部位の皮膚を用いて遺伝子発現解析を行った結果と、
被験者から採取された非色素沈着部位の皮膚を用いて遺伝子発現解析を行った結果と、の対比に基づいて、前記被験者の肌状態を推定する、請求項1又は2に記載の推定方法。
【請求項11】
前記皮膚は、常温条件下で乾燥させた皮膚である、請求項1又は2に記載の推定方法。
【請求項12】
前記被験者から取得直後の皮膚の体積は、0.05mm3以下である、請求項1又は2に記載の推定方法。
【請求項13】
前記皮膚は、角層を含む表皮領域と、皮膚の最外層から深さ0.2~0.5mmに位置する真皮領域を含む、請求項12に記載の推定方法。
【請求項14】
被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行い、その結果に基づいて前記被験者の肌状態を推定する推定工程と、
推定された前記肌状態に基づいて、前記被験者に適した組成物及び/又は刺激を提案する提案工程と、
を有する、被験者に適した組成物及び/又は刺激の提案方法(ただし、医療行為は除く)。
【請求項15】
さらに、前記被験者に提案した組成物及び/又は刺激を前記被験者に適用する適用工程と、
前記適用工程後の前記被験者から採取された皮膚組織を用いて遺伝子発現解析を行った結果に基づいて行う前記推定工程と、
推定された前記肌状態に基づいて、前記被験者に適した組成物及び/又は刺激を再度提案する再提案工程と、を含む、提案方法(ただし、医療行為は除く)。
【請求項16】
被験者の肌状態の推定装置であって、
被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行った結果を取得する遺伝子発現解析結果取得部と、
前記遺伝子発現解析の結果に基づいて、前記被験者の肌状態を推定する推定手段と、
を備える、被験者の肌状態の推定装置。
【請求項17】
被験者に適した組成物及び/又は刺激を提案する提案装置であって、
被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行った結果を取得する遺伝子発現解析結果取得部と、
前記遺伝子発現解析の結果に基づいて、前記被験者の肌状態を推定する推定手段と、
推定された前記肌状態に基づいて前記被験者に適した組成物及び/又は刺激を提案する提案手段と、
を備える、被験者に適した組成物及び/又は刺激の提案装置。
【請求項18】
被験者から採取された皮膚における遺伝子発現量を利用して、被験者の肌状態の推定プログラムであって、
前記遺伝子発現量に基づいて、前記被験者の肌状態を推定するステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項19】
被験者から採取された皮膚における遺伝子発現量を利用して、被験者に適した組成物及び/又は刺激を提案する提案プログラムであって、
被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行った結果を取得するステップと、
前記遺伝子発現量に基づいて、前記被験者の肌状態を推定するステップと、
推定された前記肌状態に基づいて前記被験者に適した組成物及び/又は刺激を提案する提案ステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項20】
組成物及び/又は刺激を前記被験者に適用する適用工程と、
前記適用工程後の被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行い、その結果に基づいて前記被験者の肌状態を推定する推定工程と、を有し、
前記推定工程の結果と、前記適用工程前に予め取得した被験者の肌状態と、を比較することによって、前記組成物及び/又は刺激の被験者に対する適性を評価する、
被験者に適した組成物及び/又は刺激の評価方法(ただし、医療行為は除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌状態の推定方法、並びに被験者に適した組成物及び/又は刺激の提案方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、皮膚由来サンプルと診断を組み合わせた技術として、皮脂由来の核酸を用いて被験体の状態を診断する方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
また、皮膚角層中のFABP-5を測定し、あらかじめ又は同時に測定した正常な皮膚角層のFABP-5の測定値と対比し、発現の上昇をニキビ悪性化の指標とするニキビ肌の検査方法が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-000206号公報
【特許文献2】特開2016-095185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記先行技術があるところ、皮脂由来の核酸は、皮膚そのものの核酸ではないため、皮膚深部の評価や皮脂に分泌されない遺伝子の評価は難しかった。
また、角層では細胞核が脱核しているため、遺伝子評価を正確に実施することが難しかった。
【0006】
上記状況に鑑みて、本発明は、皮膚を用いて被験者の肌状態を推定する新規な方法を提供することを課題とする。
また、被験者の推定された肌状態に基づいて、被験者に適した組成物及び/又は刺激を提案する新規な方法(ただし、医療行為は除く)を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明は、被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行い、その結果に基づいて前記被験者の肌状態を推定する、被験者の肌状態の推定方法である。
【0008】
本発明の好ましい形態では、前記遺伝子発現解析は、前記皮膚から抽出したRNAを試料としたPCR又はトランスクリプトーム解析によって行われる。
【0009】
本発明の好ましい形態では、前記遺伝子は、下記群から選ばれる1又は2以上の遺伝子オントロジー(Gene Оntology)を有する。
【表1】
【0010】
本発明の好ましい形態では、前記遺伝子は、下記群から選ばれる1又は2以上の遺伝子オントロジー(Gene Оntology)を有する。
【表2】
【0011】
本発明の好ましい形態では、前記遺伝子は、TYR、TYRP1、DCT、MITF、IL1A、FLG、LORICLIN、KIT、EDNRB、CCR2、FGFR1、MIA、TRPM1、MLANA、PMEL、FGF7、FGFR2、KITLG、EDN1、KRT5、KRT10、SCELから選ばれる1又は2以上である。
【0012】
本発明の好ましい形態では、前記遺伝子は、G0S2、HOXD、SLC11A1、PITX1、CRNN、HOXD8、TSBP1、SOD2から選ばれる1又は2以上である。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記肌状態は、色素沈着である。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記肌状態を、TYR、TYRP1、DCT、MITF、IL1A、FLG、LORICLIN、KIT、EDNRB、CCR2、FGFR1、MIA、TRPM1、MLANA、PMEL、FGF7、FGFR2、KITLG、EDN1、KRT5、KRT10、SCELから選ばれる1又は2以上の遺伝子の発現量が変動したことに起因する色素沈着であると推定することを含む。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記肌状態を、G0S2、HOXD、SLC11A1、PITX1、CRNN、HOXD8、TSBP1、SOD2から選ばれる1又は2以上の遺伝子の発現量が変動したことに起因する色素沈着であると推定することを含む。
【0016】
本発明の好ましい形態では、被験者から採取された色素沈着部位の皮膚を用いて遺伝子発現解析を行った結果と、被験者から採取された非色素沈着部位の皮膚を用いて遺伝子発現解析を行った結果と、の対比に基づいて、前記被験者の肌状態を推定する。
【0017】
本発明の好ましい形態では、前記皮膚は、常温条件下で乾燥させた皮膚である。
【0018】
本発明の好ましい形態では、前記被験者から取得直後の皮膚の体積は、0.05mm3以下である。
【0019】
本発明の好ましい形態では、前記皮膚は、角層を含む表皮領域と、皮膚の最外層から深さ0.2~0.5mmに位置する真皮領域を含む。
【0020】
また、本発明は、被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行い、その結果に基づいて前記被験者の肌状態を推定する推定工程と、
推定された前記肌状態に基づいて、前記被験者に適した組成物及び/又は刺激を提案する(ただし、医療行為は除く)提案工程と、を有する、
被験者に適した組成物及び/又は刺激の提案方法(ただし、医療行為は除く)でもある。
【0021】
本発明の好ましい形態では、さらに、前記被験者に提案した組成物及び/又は刺激を前記被験者に適用する適用工程と、
前記適用工程後の前記被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行った結果に基づいて行う前記推定工程と、
推定された前記肌状態に基づいて、前記被験者に適した組成物及び/又は刺激を再度提案する(ただし、医療行為は除く)再提案工程と、を含む。
【0022】
また、本発明は、被験者の肌状態の推定装置であって、
被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行った結果を取得する遺伝子発現解析結果取得部と、
前記遺伝子発現解析の結果に基づいて、前記被験者の肌状態を推定する推定手段と、
を備える、被験者の肌状態の推定装置でもある。
【0023】
また、本発明は、被験者に適した組成物及び/又は刺激を提案する提案装置であって、
被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行った結果を取得する遺伝子発現解析結果取得部と、
前記遺伝子発現解析の結果に基づいて、前記被験者の肌状態を推定する推定手段と、
推定された前記肌状態に基づいて前記被験者に適した組成物及び/又は刺激を提案する提案手段と、
を備える、被験者に適した組成物及び/又は刺激の提案装置でもある。
【0024】
また、本発明は、被験者から採取された皮膚における遺伝子発現量を利用して、被験者の肌状態の推定プログラムであって、前記遺伝子発現量に基づいて、前記被験者の肌状態を推定するステップと、をコンピュータに実行させるためのプログラムでもある。
【0025】
また、本発明は、被験者から採取された皮膚における遺伝子発現量を利用して、被験者に適した組成物及び/又は刺激を提案する提案プログラムであって、
被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行った結果を取得するステップと、
前記遺伝子発現量に基づいて、前記被験者の肌状態を推定するステップと、
推定された前記肌状態に基づいて前記被験者に適した組成物及び/又は刺激を提案する提案ステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラムでもある。
【0026】
また、本発明は、組成物及び/又は刺激を前記被験者に適用する適用工程と、
前記適用工程後の被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行い、その結果に基づいて前記被験者の肌状態を推定する推定工程と、を有し、
前記推定工程の結果と、前記適用工程前に予め取得した被験者の肌状態と、を比較することによって、前記組成物及び/又は刺激の被験者に対する適性を評価する、
被験者に適した組成物及び/又は刺激の評価方法(ただし、医療行為は除く)でもある。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、皮膚を用いて被験者の肌状態を推定することができる。
また、推定された被験者の肌状態に基づいて、被験者に適した組成物及び/又は刺激を提案する(ただし、医療行為は除く)ことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の推定方法の具体的な態様を示すフロー図である。
【
図2】本発明の提案方法の具体的な態様を示すフロー図である。
【
図3】本発明の提案方法の好ましい形態の具体的な態様を示すフロー図である。
【
図4】本発明の推定装置のハードウェアブロック図である。
【
図5】本発明の提案装置のハードウェアブロック図である。
【
図6】<試験例1>のPCR解析の結果を示す図である。
【
図7】<試験例2>のRNA-seqの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<1>被験者の肌状態の推定方法
本発明は、被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行い、その結果に基づいて前記被験者の肌状態を推定する、被験者の肌状態の推定方法である。
【0030】
前記皮膚は、表皮、真皮及び/又は皮下組織を含み、皮膚片、皮膚細胞を含む。
前記皮膚は、好ましくは、角層を含む表皮領域と、皮膚の最外層から深さ0.2~0.5mmに位置する真皮領域を含む。
【0031】
前記真皮領域は、好ましくは皮膚の最外層から深さ0.20mm以上、より好ましくは0.21mm以上、さらに好ましくは0.22mm以上に位置する。
また、前記真皮領域は、好ましくは皮膚の最外層から深さ0.50mm以下、より好ましくは0.45mm以下、さらに好ましくは0.40mm以下に位置する。
【0032】
前記皮膚の採取方法は特に限定されないが、低侵襲的な採取方法を採用することが好ましい。具体的には、直径が1mm以下の針を用いて前記皮膚を採取することが好ましい。
前記針の直径は、好ましくは0.75mm以下、より好ましくは0.50mm以下、さらに好ましくは0.40mm以下である。
【0033】
前記皮膚の採取量は特に限定されないが、被験者から取得直後の皮膚の体積は、0.05mm3以下であることが好ましく、より好ましくは0.3mm3以下、さらに好ましくは0.1mm3以下である。
【0034】
前記皮膚を採取する部位は特に限定されないが、例えば、顔面、首、手の甲、腹部、足、及び指等が挙げられ、好ましくは皮膚疾患の生じやすい部位や、腕等の露光部と非露光部等比較に用いやすい部位から皮膚を採取する。
【0035】
本発明における「遺伝子発現解析」とは、遺伝子の発現状態を調べることをいう。
【0036】
前記遺伝子発現解析の手法は特に限定されないが、網羅的な遺伝子発現解析が可能であることが好ましい。具体的には、前記皮膚よりmRNAを抽出し、適切なサンプル処理を加えた上で、マイクロアレイや次世代シーケンサーなどのトランスクリプトーム解析によって網羅的な遺伝子発現解析(RNA-seq等)を行うことができる。
また、組織学的解析(RNAscope(登録商標)等)を利用することもできる。
また、単離された遺伝子個々の発現を解析する方法としてPCR解析などを利用することもできる。
【0037】
本発明における「肌状態」は、肌の色素沈着、肌の炎症、シワ、キメ、たるみ、肌荒れ、毛穴の大きさの程度、弾力の程度、柔軟性の程度や、肌色の程度、等を含む。
【0038】
ここで、毛穴の大きさには、その面積、容積、深さも含む。
【0039】
また、本発明における「肌状態」には肌の水分量、肌の水分蒸散量、肌の皮脂量、肌の立体感(容積)、頬の高さ、フェイスラインの長さに関する情報(パラメータ)に基づく肌状態も含む形態とすることができる。
【0040】
本発明における「色素沈着」は、シミ、くすみ、肝斑、雀卵斑(そばかす)、日焼け、皮膚の炎症や刺激による黒ずみ等のメラニン産生亢進、過剰蓄積、炎症性因子の発現亢進、及び沈着異常等により生じる色素沈着症状等のことをいう。
【0041】
以下、本発明にかかる「肌状態」が「シミ」である場合を一実施形態として用い、本発明の被験者の肌状態の推定方法について、
図1を参照しつつ詳細に説明する。
【0042】
まず、S11において、被験者から採取された皮膚を用意する。ここでは、被験者の顔面のシミを有する部位(以下、シミ部位という。)の皮膚と、同一の被験者の顔面のシミを有さない部位(以下、非シミ部位という。)の皮膚を用意する。上記の通り、皮膚の採取方法、採取量は特に限定されないが、低侵襲的な採取方法により、角層を含む表皮領域と、皮膚の最外層から深さ0.2~0.5mmに位置する真皮領域を含む皮膚を、0.05mm3以下採取することが好ましい。
【0043】
そして、S12において、S11において用意した皮膚から抽出したRNAを試料とした遺伝子発現解析を行う。上記の通り、遺伝子発現解析の手法は特に限定されないが、PCR又はトランスクリプトーム解析を行うことが好ましい。
【0044】
次に、前記遺伝子発現解析により特定の遺伝子の発現量を算出する。前記遺伝子発現解析では、「遺伝子の発現量」は絶対値又は相対値(比較対象又は標準の発現量との比率や差など)として算出される。
【0045】
前記特定の遺伝子とは、肌状態に関連する遺伝子である。肌状態に関連する遺伝子である限り、任意の遺伝子を解析対象とすることができる。
本実施形態において、前記特定の遺伝子は、シミに関連する遺伝子である。
【0046】
本発明の好ましい実施の形態では、前記特定の遺伝子は、下記群から選ばれる1又は2以上の遺伝子オントロジー(Gene Оntology)を有する。
【表3】
【0047】
また、本発明の好ましい実施の形態では、前記特定の遺伝子は、下記群から選ばれる1又は2以上の遺伝子オントロジー(Gene Оntology)を有する。
【表4】
【0048】
遺伝子オントロジー(Gene Оntology)は、個々の遺伝子が保持する情報を構造化し生物学的な意味付けをする用語の統制語彙のことである。個々の語彙は、GO Termと呼ばれる。
遺伝子オントロジーは、Molecular Function(分子機能)、Cellular Component(細胞構成要素)及びBiological Process(生物学的反応過程)の3つに大きく分類され、それらは各々階層構造を持つ。
【0049】
網羅的遺伝子解析から得られた変動遺伝子の意味を推定する際に、遺伝子オントロジーを利用することで、どのような機能や細胞内の位置、生物の反応過程に関連する遺伝子群が有意に変動しているのか等を理解することができる。
【0050】
後述の実施例に示す通り、S12における遺伝子発現解析により、シミ部位の皮膚において有意に遺伝子発現変動が認められた遺伝子群を抽出し、エンリッチメント解析(Biological Process)を行ったところ、表皮の分化(Epidermis Development)やメラニン合成(Melanin Biosynthetic Process)が有意に増加していることが確認された。
したがって、被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行い、後述のS13において、上記群から選ばれる1又は2以上の遺伝子オントロジー(Gene Оntology)を有する遺伝子の発現が有意に変動したと認められた場合、前記被験者の肌状態はシミであると推定することができる。
【0051】
本発明のより好ましい実施の形態では、上記群から選ばれる1又は2以上の遺伝子オントロジー(Gene Оntology)を有する遺伝子は、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、より好ましくは9以上、さらに好ましくは全ての遺伝子であることが好ましい。
【0052】
本発明の好ましい実施の形態では、前記特定の遺伝子は、TYR、TYRP1、DCT、MITF、IL1A、FLG、LORICLIN、KIT、EDNRB、CCR2、FGFR1、MIA、TRPM1、MLANA、PMEL、FGF7、FGFR2、KITLG、EDN1、KRT5、KRT10、SCELから選ばれる1又は2以上である。
【0053】
本発明のより好ましい実施の形態では、前記特定の遺伝子は、TYR、TYRP1、DCT、MITF、IL1A、FLG、LORICLIN、KIT、EDNRB、CCR2、FGFR1、MIA、TRPM1、MLANA、PMEL、FGF7、FGFR2、KITLG、EDN1、KRT5、KRT10、SCELから選ばれる、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、より好ましくは9以上、さらに好ましくは全ての遺伝子であることが好ましい。
【0054】
本発明の好ましい実施の形態では、前記特定の遺伝子は、G0S2、HOXD、SLC11A1、PITX1、CRNN、HOXD8、TSBP1、SOD2から選ばれる1又は2以上である。
【0055】
本発明のより好ましい実施の形態では、前記特定の遺伝子は、G0S2、HOXD、SLC11A1、PITX1、CRNN、HOXD8、TSBP1、SOD2から選ばれる、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、より好ましくは7以上、さらに好ましくは全ての遺伝子であることが好ましい。
【0056】
本発明のさらに好ましい実施の形態では、前記特定の遺伝子は、TYR、TYRP1、DCT、MITFから選ばれる1又は2以上である。
【0057】
被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行い、後述のS13において、上記遺伝子の発現が有意に変動したと認められた場合、前記被験者の肌状態はシミであると推定することができる。
【0058】
本発明のより好ましい実施の形態では、TYR、TYRP1、DCT、MITF、KIT、EDNRB、CCR2、FGFR1、MIA、TRPM1、MLANA、PMEL、FGF7、FGFR2、KITLG、EDN1、KRT5、KRT10から選ばれる1又は2以上の遺伝子の発現が有意に増加したと認められた場合、前記被験者の肌状態はシミであると推定する。
【0059】
本発明のさらに好ましい実施の形態では、TYR、TYRP1、DCT、MITFから選ばれる1又は2以上の遺伝子の発現が有意に増加したと認められた場合、前記被験者の肌状態はシミであると推定する。
【0060】
また、本発明のより好ましい実施の形態では、IL1A、FLG、LORICLIN、SCELから選ばれる1又は2以上の遺伝子の発現が有意に減少したと認められた場合、前記被験者の肌状態はシミであると推定する。
【0061】
本発明のより好ましい実施の形態では、G0S2、HOXD、SLC11A1、PITX1、CRNN、HOXD8、TSBP1、SOD2から選ばれる1又は2以上の遺伝子の発現が有意に増加したと認められた場合、前記被験者の肌状態はシミであると推定する。
【0062】
最後に、S13において、S12で算出した遺伝子の発現量を用いて被験者の肌状態を推定する。具体的には、S12で算出した遺伝子の発現量を、正常な肌の皮膚における遺伝子の発現量と比較する。
【0063】
本発明の実施の形態では、被験者から採取されたシミ部位の皮膚と、同一の被験者から採取された非シミ部位の皮膚と、を用いて遺伝子発現解析を行い、各皮膚に関して算出された遺伝子の発現量を比較し、比較結果に基づき肌状態を推定する。
具体的には、シミ部位の皮膚に関して算出されたシミに関連する遺伝子の発現量と、非シミ部位の皮膚に関して算出された前記シミに関連する遺伝子の発現量の差を計算する。
そして、計算値が、一定の数値以上である場合、被験者の肌状態は、前記シミに関連する遺伝子の発現量が変動したシミであると推定する。
【0064】
ここで、被験者のある推定対象部位の皮膚におけるシミに関連する遺伝子の発現量を算出し、算出されたシミに関連する遺伝子の発現量を、正常な肌を有する人の同一推定対象部位の皮膚におけるシミに関連する遺伝子の発現量と比較してもよい。正常な肌を有する人の皮膚におけるシミに関連する遺伝子の発現量は、複数人の正常な肌を有する人からのデータの平均値を使用することによって、より客観的な評価ができる。
【0065】
本発明のより好ましい実施の形態では、被験者の肌状態を、TYR、TYRP1、DCT、MITF、IL1A、FLG、LORICLIN、KIT、EDNRB、CCR2、FGFR1、MIA、TRPM1、MLANA、PMEL、FGF7、FGFR2、KITLG、EDN1、KRT5、KRT10、SCELから選ばれる1又は2以上の遺伝子の発現が変動したことに起因するシミであると推定する。
【0066】
本発明のさらに好ましい実施の形態では、被験者の肌状態を、TYR、TYRP1、DCT、MITF、IL1A、FLG、LORICLIN、KIT、EDNRB、CCR2、FGFR1、MIA、TRPM1、MLANA、PMEL、FGF7、FGFR2、ITLG、EDN1、KRT5、KRT10、SCELから選ばれる、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、より好ましくは9以上、さらに好ましくは全ての遺伝子の発現が変動したことに起因するシミであると推定する。
【0067】
本発明のより好ましい実施の形態では、被験者の肌状態を、G0S2、HOXD、SLC11A1、PITX1、CRNN、HOXD8、TSBP1、SOD2から選ばれる1又は2以上の遺伝子の発現量が変動したことに起因するシミであると推定する。
【0068】
本発明のさらに好ましい実施の形態では、被験者の肌状態を、G0S2、HOXD、SLC11A1、PITX1、CRNN、HOXD8、TSBP1、SOD2から選ばれる、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、より好ましくは7以上、さらに好ましくは全ての遺伝子の発現が変動したことに起因するシミであると推定する。
【0069】
ここで、本発明のさらにより好ましい実施の形態では、S12において指標とした遺伝子の発現が変動したことに起因するシミであると推定する。
【0070】
本発明のより好ましい実施の形態では、TYR、TYRP1、DCT、MITF、KIT、EDNRB、CCR2、FGFR1、MIA、TRPM1、MLANA、PMEL、FGF7、FGFR2、KITLG、EDN1、KRT5、KRT10から選ばれる1又は2以上の遺伝子の発現が増加したことに起因するシミであると推定する。
【0071】
また、本発明のより好ましい実施の形態では、IL1A、FLG、LORICLIN、SCELから選ばれる1又は2以上の遺伝子の発現が減少したことに起因するシミであると推定する。
【0072】
本発明のさらに好ましい実施の形態では、TYR、TYRP1、DCT、MITFから選ばれる1又は2以上の遺伝子の発現が増加したことに起因するシミであると推定する。
【0073】
本発明のより好ましい実施の形態では、G0S2、HOXD、SLC11A1、PITX1、CRNN、HOXD8、TSBP1、SOD2から選ばれる1又は2以上の遺伝子の発現が増加したことに起因するシミであると推定する。
【0074】
上記方法により、被験者の肌状態を、より詳細に推定することができる。
【0075】
<2>被験者に適した組成物及び/又は刺激の提案方法(ただし、医療行為は除く)
本発明は、被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行い、その結果に基づいて前記被験者の肌状態を推定する推定工程と、
推定された前記肌状態に基づいて、前記被験者に適した組成物及び/又は刺激を提案する(ただし、医療行為は除く)提案工程と、
を有する、被験者に適した組成物及び/又は刺激の提案方法(ただし、医療行為は除く)でもある。
【0076】
本発明の組成物及び/又は刺激は、通常知られているものであれば特に限定無く適用できる(ただし、医療行為は除く)。
【0077】
上記の通り、本発明において、医療行為を含まない。
ここで、本発明における「医療行為」は、医師(医師の指示を受けた者を含む。)がヒトに対して手術、治療、又は診断を実施する行為を意味する。
具体的には、推定された肌状態に基づいて、医師が、被験者に適した組成物及び/又は刺激を処方等することを含まない。
【0078】
本発明の組成物としては、市販の化合物(ペプチドを含む)、公知化合物(ペプチドを含む)、コンビナトリアル・ケミストリー技術によって得られた化合物群、植物や海洋生物由来の天然成分、動物組織抽出物などの物質を挙げることができる。
【0079】
動植物由来の抽出物は、動物又は植物由来の抽出物自体のみならず、抽出物の画分、精製した画分、抽出物乃至は画分、精製物の溶媒除去物の総称を意味する。
また、植物由来の抽出物は、自生若しくは生育された植物、漢方生薬原料等として販売されるものを用いた抽出物、市販されている抽出物等を挙げることができる。
【0080】
また、本発明の組成物としては、上記化合物、天然成分、及び物質を含む化粧品及び皮膚外用剤を挙げることができる。
【0081】
本発明の刺激としては、顔パック、マッサージ手法、アロマ、レーザー光照射、電気パルス、イオン導入、エレクトロポレーション、超音波、マイクロニードル等を挙げることができる。
【0082】
以下、本発明にかかる「肌状態」がシミである場合の、被験者に適した組成物及び/又は刺激の提案方法(ただし、医療行為は除く)について
図2を参照しながら説明を加える。
【0083】
まず、S11~S13により、被験者の肌状態を推定する。S11~S13については、上記<1>の記載を援用する。
【0084】
以下、被験者の肌状態がシミであると推定されているとした場合を一実施形態として用い、本発明の、被験者に適した組成物及び/又は刺激の提案方法(ただし、医療行為は除く)の好ましい形態を詳細に説明する。
【0085】
S14において、S13で推定された被験者の肌状態に基づいて、前記被験者に適した組成物及び/又は刺激を提案する(ただし、医療行為は除く)。
本発明の実施の形態では、被験者の肌状態はシミであると推定されているため、シミに関連する遺伝子の発現量を減少(又は増加)することができる組成物及び/又は刺激を提案する(ただし、医療行為は除く)。
【0086】
本発明の好ましい実施の形態では、被験者の肌状態は、TYR、TYRP1、DCT、MITF、IL1A、FLG、LORICLIN、KIT、EDNRB、CCR2、FGFR1、MIA、TRPM1、MLANA、PMEL、FGF7、FGFR2、KITLG、EDN1、KRT5、KRT10、SCELから選ばれる1又は2以上の遺伝子の発現が変動したことに起因するシミであると推定される。
したがって、本実施形態において、好ましくは、上記シミに関連する遺伝子の発現量を減少(又は増加)することができる組成物及び/又は刺激を提案する(ただし、医療行為は除く)。
【0087】
本発明のより好ましい実施の形態では、TYR、TYRP1、DCT、MITF、KIT、EDNRB、CCR2、FGFR1、MIA、TRPM1、MLANA、PMEL、FGF7、FGFR2、KITLG、EDN1、KRT5、KRT10から選ばれる1又は2以上の遺伝子の発現量を減少することができる組成物及び/又は刺激を提案する(ただし、医療行為は除く)。
【0088】
また、本発明のより好ましい実施の形態では、IL1A、FLG、LORICLIN、SCELから選ばれる1又は2以上の遺伝子の発現量を増加することができる組成物及び/又は刺激を提案する(ただし、医療行為は除く)。
【0089】
本発明の好ましい実施の形態では、被験者の肌状態は、G0S2、HOXD、SLC11A1、PITX1、CRNN、HOXD8、TSBP1、SOD2から選ばれる1又は2以上の遺伝子の発現が変動したことに起因するシミであると推定される。
したがって、本実施形態において、好ましくは、上記シミに関連する遺伝子の発現量を減少することができる組成物及び/又は刺激を提案する(ただし、医療行為は除く)。
【0090】
後述の実施例に示す通り、被験者によってシミの原因となる遺伝子発現のパターンが異なることが確認された。
したがって、上記方法によれば、被験者に適した組成物及び/又は刺激を提案する(ただし、医療行為は除く)ことができる。
【0091】
本発明の別の実施形態において、S11~S13により推定された被験者の肌状態に基づいて、被験者に適した組成物及び/又は刺激を選択することができる(ただし、医療行為を除く)。
【0092】
本発明の提案方法において、好ましくは、さらに、前記被験者に提案した組成物及び/又は刺激を前記被験者に適用する(ただし、医療行為は除く)適用工程と、
前記適用工程後の前記被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行った結果に基づいて行う前記推定工程と、
推定された前記肌状態に基づいて、前記被験者に適した組成物及び/又は刺激を再度提案する(ただし、医療行為は除く)再提案工程と、を含む。
【0093】
以下、本発明の提案方法の好ましい形態について、
図3を参照しつつ詳細に説明を加える。
【0094】
適用工程S21は、S11において被験者の皮膚が採取された部位に、S14において被験者に提案された組成物及び/又は刺激を適用する(ただし、医療行為は除く)。
本発明の実施の形態では、S11において皮膚が採取された被験者のシミ部位に、S14において被験者に提案された組成物及び/又は刺激を適用する(ただし、医療行為は除く)。
【0095】
適用工程S21は、複数回実施してもよい。例えば、1日に1回又は2回以上、組成物及び/又は刺激を適用し(ただし、医療行為は除く)、2日以上継続して行うことができる。
定期的に適用工程S21を実施することで、組成物及び/又は刺激の対象部位への有効性を正確に評価することができる。
【0096】
次いで、S11~S13と同様の手法により、適用工程S21において組成物及び/又は刺激を適用した部位から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行い(S22)、被験者の肌状態を推定する(S23)。
本発明の実施の形態では、適用工程S21において組成物及び/又は刺激を適用したシミ部位から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行い(S22)、被験者の肌状態を推定する(S23)。
【0097】
そして、S24において、S14と同様の手法により、前記被験者に適した組成物及び/又は刺激を再度提案する(ただし、医療行為は除く)。
本発明によれば、被験者に適した組成物及び/又は刺激を、より精度よく提案することができる(ただし、医療行為は除く)。
【0098】
本発明の別の実施形態において、S23で推定された被験者の肌状態と、S13で推定された被験者の肌状態と、を比較することができる。
上記比較により、S21で被験者に適用した組成物及び/又は刺激の被験者に対する適性を評価することができる。
【0099】
<3>被験者の肌状態の推定装置
本発明は、被験者の肌状態の推定装置であって、被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行った結果を取得する遺伝子発現解析結果取得部と、前記遺伝子発現解析の結果に基づいて、前記被験者の肌状態を推定する推定手段と、を備える、被験者の肌状態の推定装置でもある。
【0100】
以下、本発明の推定装置のハードウェアブロック図(
図4)を参照しながら説明を加える。なお、本発明の推定装置は、上記<1>の項目で説明した被験者の肌状態の推定方法を実施するための装置である。したがって、上記<1>の項目の説明は、以下の推定装置に関しても妥当する。
【0101】
本発明の推定装置1は、被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行った結果を取得する遺伝子発現解析結果取得部11と、前記遺伝子発現解析の結果に基づいて、前記被験者の肌状態を推定する推定手段131と、を備える。
【0102】
図4に示すように、推定装置1は、被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行った結果を取得する遺伝子発現解析結果取得部11、記憶手段121を備えるROM(Read Only Memory)12、被験者の肌状態を推定する推定手段131を備えるCPU(Central Processing Unit)13、及び推定結果表示部14を有している。
【0103】
遺伝子発現解析結果取得部11は、被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行った結果を取得する。具体的には、遺伝子発現解析を行った結果算出された、特定の遺伝子の発現量のデータを取得する。
【0104】
記憶手段121は、肌状態と遺伝子との相関関係を記憶する。例えば、TYR、TYRP1、DCT、及びMITF等の遺伝子の発現変動が、シミと相関することを記憶する。
【0105】
推定手段131は、遺伝子発現解析結果取得部11において取得された遺伝子発現解析結果と、記憶手段121に記憶された肌状態と遺伝子との相関関係とを基に、被験者の肌状態を推定する。
【0106】
推定結果表示部14は、推定手段131が推定した結果を表示するディスプレイである。
【0107】
このような構成とした本発明の推定装置1は、被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行うことで、容易に被験者の肌状態を推定することができる。
【0108】
<4>被験者に適した組成物及び/又は刺激の提案装置
本発明は、被験者に適した組成物及び/又は刺激を提案する提案装置であって、
被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行った結果を取得する遺伝子発現解析結果取得部と、前記遺伝子発現解析の結果に基づいて、前記被験者の肌状態を推定する推定手段と、
推定された前記肌状態に基づいて前記被験者に適した組成物及び/又は刺激を提案する提案手段と、
を備える、
被験者に適した組成物及び/又は刺激の提案装置でもある。
【0109】
以下、本発明の提案装置のハードウェアブロック図(
図5)を参照しながら説明を加える。なお、本発明の提案装置は、上記<2>の項目で説明した被験者に適した組成物及び/又は刺激の提案方法(ただし、医療行為は除く)を実施するための装置である。したがって、上記<2>の項目の説明は、以下の推定装置に関しても妥当する。
【0110】
本発明の提案装置2は、被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行った結果を取得する遺伝子発現解析結果取得部21と、前記遺伝子発現解析の結果に基づいて、前記被験者の肌状態を推定する推定手段231と、推定された前記肌状態に基づいて前記被験者に適した組成物及び/又は刺激を提案する提案手段232と、を備える。
【0111】
図5に示すように、提案装置2は、被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行った結果を取得する遺伝子発現解析結果取得部21、第一記憶手段221と第二記憶手段222とを備えるROM(Read Only Memory)22、被験者の肌状態を推定する推定手段231と被験者に適した組成物及び/又は刺激(ただし、医療行為は除く)を提案する提案手段232とを備えるCPU(Central Processing Unit)23、及び提案結果表示部24を有している。
【0112】
遺伝子発現解析結果取得部21は、被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行った結果を取得する。具体的には、遺伝子発現解析を行った結果算出された、特定の遺伝子の発現量のデータを取得する。
【0113】
第一記憶手段221は、肌状態と遺伝子との相関関係を記憶する。例えば、TYR、TYRP1、DCT、及びMITF等の遺伝子の発現変動が、シミと相関することを記憶する。
【0114】
推定手段231は、遺伝子発現解析結果取得部21において取得された遺伝子発現解析結果と、第一記憶手段221に記憶された肌状態と遺伝子との相関関係とを基に、被験者の肌状態を推定する。
【0115】
第二記憶手段222は、遺伝子の発現量を減少(又は増加)することができる組成物及び/又は刺激を記憶する。例えば、レーザートーニングが、TYR、TYRP1、及びDCT遺伝子の発現量をいずれも減少させること、4-n-ブチルレゾルシノール(ルシノール(登録商標))が、TYR、及びTYRP1の活性を抑制できること、等を記憶する。
【0116】
提案手段232は、推定手段231で推定された被験者の肌状態と、第二記憶手段222に記憶された組成物及び/又は刺激とを基に、被験者に適した組成物及び/又は刺激を提案する(ただし、医療行為は除く)。
【0117】
提案結果表示部24は、提案手段232が提案した結果を表示するディスプレイである。
【0118】
このような構成とした本発明の提案装置2は、被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行うことで、容易に被験者に適した組成物及び/又は刺激を提案することができる。
【0119】
<5>被験者の肌状態の推定プログラム
本発明は上記の被験者の肌状態の推定方法をコンピュータに実行させる被験者の肌状態の推定プログラムにも関する。本発明の推定プログラムは、上記<4>の項目で説明した推定装置に含まれるCPUにおける各手段に対応するため、
図4の符号を付しながら説明する。
【0120】
本発明の推定プログラムは、被験者から採取された皮膚における遺伝子発現量を利用して、被験者の肌状態の推定プログラムであって、前記遺伝子発現量に基づいて、前記被験者の肌状態を推定するステップ、をコンピュータに実行させる。
【0121】
<6>被験者に適した組成物及び/又は刺激の提案プログラム
本発明は上記の被験者に適した組成物及び/又は刺激の提案方法をコンピュータに実行させる被験者に適した組成物及び/又は刺激の提案プログラムにも関する。本発明の提案プログラムは、上記<4>の項目で説明した提案装置に含まれるCPUにおける各手段に対応するため、
図5の符号を付しながら説明する。
【0122】
本発明の提案プログラムは、被験者から採取された皮膚における遺伝子発現量を利用して、被験者に適した組成物及び/又は刺激を提案する提案プログラムであって、被験者から採取された皮膚を用いて遺伝子発現解析を行った結果を取得するステップと、前記遺伝子発現量に基づいて、前記被験者の肌状態を推定するステップと、推定された前記肌状態に基づいて前記被験者に適した組成物及び/又は刺激を提案する提案ステップと、をコンピュータに実行させる。
【実施例0123】
<試験例1>遺伝子発現解析手法の検討
(RNA-seq)
まず、被験者の顔面におけるシミ部位(本発明における、色素沈着部位に相当)及び非シミ部位から採取された皮膚を用意した。ここで、用意された皮膚は、採取量が0.05mm3以下であり、被験者から採取された後、そのままエッペンチューブ内で常温保存され、その後冷蔵保存された。
【0124】
次に、Picopure kit(Thermo fisher社製)を用いて、用意された皮膚からRNAを抽出した。
【0125】
そして、Bioanalyzer(Agilent社製)を用いて、抽出後のRNAの品質確認を行った。その後、DV200値が60%以上のものを、SMART-seq Stranded kit(タカラバイオ株式会社製)のプロトコールに従い、RNA-seqに供した。結果を表5及び表6に示す。
【0126】
【0127】
【0128】
表5及び表6に示す通り、RNA-seqを行った結果、シミに関連することが知られている遺伝子の発現変化が確認された。これらの遺伝子発現変化を複合的に評価することで、被験者の肌状態を、高精度に推定することができる。
【0129】
(エンリッチメント解析)
上記RNA-seqを行った結果、シミ部位から採取された皮膚において、有意に遺伝子発現変動が認められた遺伝子群を抽出し、公共ウェブツールであるEnrichr(https://maayanlab.cloud/Enrichr/)を用いて遺伝子オントロジー(GO)エンリッチメント解析によるbiological process(BP)の探索を行った。結果を表7及び表8に示す。
【0130】
【0131】
【0132】
エンリッチメント解析の結果、表皮の分化(Epidermis Development)やメラニン合成(Melanin Biosynthetic Process)が有意に増加していることが確認された。
【0133】
上記表7及び表8から選ばれる1又は2以上の遺伝子オントロジー(gene ontology)を有する遺伝子の発現変化を複合的に評価することで、被験者の肌状態を、高精度に推定することができる。
【0134】
(PCR解析)
まず、試験例1と同様の手法により、皮膚からRNAを抽出した。
【0135】
抽出したRNAを、リアルタイムPCR法を用いて分析し、TYR、TYRP1、DCT、及びMITF遺伝子の発現を評価した。ここで、TYR、TYRP1、DCT、及びMITF遺伝子は、メラニン合成に関わる遺伝子として知られている。結果を
図6に示す。
【0136】
図6に示す通り、PCR解析を行った結果、シミ部位から採取された皮膚は、メラニン合成に関わる遺伝子、すなわち、TYR、TYRP1、DCT、及びMITFの遺伝子発現が増加していることが確認された。これらの遺伝子発現変化を複合的に評価することで、被験者の肌状態を、高精度に推定することができる。
【0137】
<試験例2>被験者の肌状態の推定
まず、試験例1と同様の手法により、被験者Aと被験者Bの顔面の皮膚からRNAを抽出した。
【0138】
抽出したRNAを、試験例1と同様の手法によりRNA-seqに供し、TYR、TYRP1、及びDCT遺伝子の発現を評価した。結果を
図7に示す。
【0139】
図7に示す通り、被験者Aのシミ部位から採取された皮膚は、TYR、TYRP1、及びDCT遺伝子の発現がいずれも増加していることが確認された。一方で、被験者Bのシミ部位から採取された皮膚は、TYR、TYRP1遺伝子の発現は増加しているが、DCT遺伝子の発現は微増であることが確認された。
【0140】
以上の結果から、被験者Aは、TYR、TYRP1、及びDCT遺伝子の発現量が増加したことに起因するシミであると推定され、被験者Bは、TYR、TYRP1遺伝子の発現量が増加したことに起因するシミであると推定される。
【0141】
<試験例3>被験者に適した組成物及び/又は刺激(ただし、医療行為は除く)の選択及び/又は提案
試験例2の結果から、被験者Aには、TYR、TYRP1、及びDCT遺伝子の発現量をいずれも減少させる組成物及び/又は刺激(ただし、医療行為は除く)を選択及び/又は提案することが好ましく、被験者Bには、TYR、TYRP1遺伝子の発現量を最低限減少させる組成物及び/又は刺激を選択及び/又は提案することが好ましいと考えられる(ただし、医療行為は除く)。
【0142】
ここで、レーザートーニングは、TYR、TYRP1、及びDCT遺伝子の発現量をいずれも減少させることが知られている(参考文献1)。そのため、被験者Aに適した組成物及び/又は刺激として、レーザートーニングを選択及び/又は提案することができる(ただし、医療行為は除く)。
一方で、4-n-ブチルレゾルシノール(ルシノール(登録商標))は、TYR、及びTYRP1の活性を抑制できることが知られている(参考文献2)。そのため、被験者Bに適した組成物及び/又は刺激として、4-n-ブチルレゾルシノール(ルシノール(登録商標))を選択及び/又は提案することができる(ただし、医療行為は除く)。
【0143】
以上の通り、被験者の肌状態の推定結果から、被験者に適した組成物及び/又は刺激を選択及び/又は提案することができる(ただし、医療行為は除く)。
本発明によれば、被験者の肌状態を推定し、被験者に適した組成物及び/又は刺激を選択及び/又は提案し(ただし、医療行為は除く)、さらに、被験者に適した組成物及び/又は刺激を再度選択及び/又は提案することができる(ただし、医療行為は除く)。
参考文献1:J.E.Kim et al., Histopathological study of the treatment of melasma lesions using a low-fluence Q-switched 1064-nm neodymium:yttrium-aluminium-garnet laser, Clinical and Experimental Dermatology, 2013, 38(2), 167-171
参考文献2:片桐崇行,4-n-ブチルレゾルシノール(ルシノール(登録商標))のメラニン産生抑制作用とヒト色素沈着に対する有効性, 2001, 35(1), 42-49