IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ショット アクチエンゲゼルシャフトの特許一覧

特開2025-15488透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックス
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015488
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックス
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/12 20060101AFI20250123BHJP
【FI】
C03C10/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024114550
(22)【出願日】2024-07-18
(31)【優先権主張番号】23186427
(32)【優先日】2023-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ランガー
(72)【発明者】
【氏名】ズザンネ クリューガー
(72)【発明者】
【氏名】エーフェリン ヴァイス
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA01
4G062AA11
4G062BB01
4G062BB06
4G062CC09
4G062DA06
4G062DB04
4G062DC01
4G062DD01
4G062DE03
4G062DF01
4G062EA03
4G062EB01
4G062EB02
4G062EC01
4G062EC02
4G062ED01
4G062ED02
4G062ED03
4G062EE01
4G062EE02
4G062EE03
4G062EF01
4G062EG03
4G062FA01
4G062FB01
4G062FB02
4G062FB03
4G062FC03
4G062FD01
4G062FE01
4G062FE02
4G062FF01
4G062FG01
4G062FH01
4G062FJ01
4G062FK01
4G062FL01
4G062GA01
4G062GA10
4G062GB01
4G062GC01
4G062GD01
4G062GE01
4G062HH01
4G062HH03
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH09
4G062HH12
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062JJ01
4G062JJ04
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062KK02
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062MM01
4G062MM12
4G062NN30
4G062NN33
4G062QQ09
(57)【要約】      (修正有)
【課題】調理機器のクックトップとしての使用に適した透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックスを提供する。
【解決手段】ガラスセラミックスは、20℃~700℃の範囲における熱膨張係数が-0.8~1.5ppm/Kであり、厚さ4mmでの光透過率τvisが75%を超え、厚さ4mmでの彩度Cが10未満であり、酸化物ベースで重量%単位で、以下:
SiO:62~68
Al:19~24
LiO:2.4~3.1
BaO:>2.5
ZnO:>2.5
ZrO:>1.5
NaO:0~1
O:0~1
を含む組成を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックスであって、
20℃~700℃の範囲における熱膨張係数が-0.8~1.5ppm/Kであり、
厚さ4mmでの光透過率τvisが75%を超え、厚さ4mmでの彩度Cが10未満であり、
酸化物ベースで重量%単位で、以下:
SiO 62~68
Al 19~24
LiO 2.4~3.1
BaO >2.5
ZnO >2.5
ZrO >1.5
NaO 0~1
O 0~1
を含む組成を有する、透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックス。
【請求項2】
前記ガラスセラミックスが、不可避不純物を除いてCr、V、MnOおよびMoOを含まないことを特徴とする、請求項1記載の透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックス。
【請求項3】
前記透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックスが、3.0重量%未満、好ましくは2.7重量%未満、特に好ましくは2.5重量%未満、非常に特に好ましくは2.4重量%未満のTiOを含むことを特徴とする、請求項1または2記載の透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックス。
【請求項4】
前記透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックスが、0.05重量%未満、好ましくは0.04重量%未満、特に好ましくは0.03重量%未満、非常に特に好ましくは0.02重量%未満のFeを含むことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックス。
【請求項5】
前記透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックスが、1.2重量%未満、好ましくは1.0重量%未満、特に好ましくは0.8重量%未満、非常に特に好ましくは0.5重量%未満のMgOを含むことを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックス。
【請求項6】
前記透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックスが、1.2重量%未満、好ましくは1.0重量%未満、特に好ましくは0.8重量%未満、非常に特に好ましくは0.5重量%未満のCaOを含むことを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックス。
【請求項7】
前記透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックスが、0.2重量%未満、好ましくは0.15重量%未満、特に好ましくは0.1重量%未満のSnOを含むことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックス。
【請求項8】
前記透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックスが、不可避不純物を除いてSnOを含まず、0.5重量%~1.5重量%のAsおよび/またはSbを含むことを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックス。
【請求項9】
前記透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックスが、0.01~0.07重量%のNdを含むことを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックス。
【請求項10】
前記透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックスが、酸化物ベースで重量%単位で、以下:
SiO 62~67
Al 19~23
LiO 2.4~3.1
NaO 0~1
O 0~1
MgO 0~1
CaO 0~1.2
BaO >2.5
ZnO >2.5
TiO <3.0
ZrO >1.5
を含むことを特徴とする、請求項7または8記載の透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックス。
【請求項11】
前記透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックスが、高石英固溶体相において80nm未満の晶子径を有することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載の透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックス。
【請求項12】
TiOに対するAlの比率が、7~12の範囲、好ましくは8~11の範囲、特に好ましくは8.5~10.5の範囲であることを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項記載の透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックス。
【請求項13】
クックトップ、暖炉の覗き窓、グリルトップもしくはローストトップ、ガスグリルの燃焼エレメントのカバー、オーブンの覗き窓、特に熱分解炉のオーブンの覗き窓、キッチンもしくは研究室の作業台もしくはテーブルトップ、照明装置のカバーとしての、防火グレージングにおける、および安全ガラスとしての、任意に積層複合材における、キャリアプレートとしての、または熱プロセスにおける炉のライニングとしての、または携帯電子機器の背面カバーとしての、請求項1から12までのいずれか1項記載のガラスセラミックスの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に調理機器のクックトップとしての使用に適した透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックスおよびその使用に関する。
【0002】
発明の背景
ガラスセラミックス、特に透明なガラスセラミックスは古くから知られている。先行技術において同様に知られているそのようなガラスセラミックスの変形例の1つに、特に透明材料用の高石英固溶体(HQMK)または特に半透明もしくは不透明材料用のキータイト固溶体(KMK)のいずれかを主結晶相として含むリチウムアルミニウムシリケート(LAS)ガラスセラミックスがある。このようなガラスセラミックスを製造するにはまず、ガラス製造に慣用の方法で、出発ガラス、いわゆるグリーンガラスが製造される。このグリーンガラスは、セラミゼーションとして知られる熱処理によってガラスセラミックスに変換される。このようにして製造された透明なガラスセラミックスは、幅広い用途で使用可能である。特にこのようなガラスセラミックスは、クックトップとして使用される。さらにこのようなガラスセラミックスは、コンロやオーブンの覗き窓、作業台、または安全ガラスとして使用されている。
【0003】
クックトップとして使用されるこれらの材料の本質的な特性は、室温から700℃までの温度範囲での熱膨張率が非常に低いことである。低い熱膨張率は、高い耐熱衝撃性をもたらす。熱膨張率は、負の熱膨張率を有する結晶相と正の熱膨張率を有する非晶質の残留ガラス相との組み合わせによって設定される。従来用いられているガラスセラミックスでは、このために通常は3.6重量%を超えて5.0重量%までの割合の酸化リチウムが使用されている。
【0004】
リチウムの原料価格が高騰しているため、経済的な理由から、ガラスセラミックス中のリチウムの割合を最小限に抑えることが有利である。しかし、リチウムは、リチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックスの3つの主成分のうちの1つであるため、単純に自由に減らすことはできない。LiOの割合は、ガラスセラミックスの主要な特性、例えば、製造性にとって重要な溶融時や熱間成形時の粘度や、クックトップとして使用する際に重要な熱膨張率に直接影響を及ぼす。
【0005】
リチウムの価格動向は、今に始まった問題ではない。過去20年間、リチウムの価格は上昇し続けている。このような長年のニーズにもかかわらず、市販されている大半のクックトップ用ガラスセラミックスには、約3.8重量%以上のLiOが含まれている。
【0006】
LiOの割合が3.5重量%未満であるガラスセラミックスは、以下の文献から知られている:国際公開第2012/010341号、欧州特許出願公開第3502069号明細書、米国特許出願公開第2017050880号明細書、米国特許出願公開第2020189965号明細書、米国特許出願公開第2020140322号明細書、米国特許出願公開第2021387899号明細書、国際公開第2021/224412号。しかし、これらのガラスセラミックスは、例えば耐熱衝撃性の低下やグリーンガラスの溶融性の低さなど、様々な欠点を有している。
【0007】
低LiO含有量であっても上記の欠点を回避するリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックスの製造が可能な基本的なアプローチは、本出願人により例えば独国実用新案登録第202022106826号明細書に記載されている。ここでは、低LiO含有量の透明なガラスセラミックスの製造が可能なアプローチも記載されている。
【0008】
ここで、透明なガラスセラミックスには、上記の温度安定性に加えて、他の特別な要件がある。透明なガラスセラミックスをクックトップとして使用する場合、ガラスセラミックスの下方に配置された加熱エレメントや関連する電子機器がガラスセラミックスの上方から見えなくなるように、ガラスセラミックスには通常、着色された下面コーティングが施される。この場合、一般的に、エンドユーザーによるこのような下面コーティングの色知覚が、ガラスセラミックスによって歪まないことが要求される。透明なガラスセラミックスを覗き窓として使用する場合にも、ガラスセラミックスには同様の要件が課される。なぜならば、この場合にも、覗き窓を通して見た際の色の歪みを回避しなければならないためである。
【0009】
本明細書において、透明なガラスセラミックスとは通例どおり、光散乱の少ないガラスセラミックスであると理解される。このような透明なガラスセラミックスの透過率は、吸収成分、すなわち着色成分を用いて広範囲で調整することができる。
【0010】
本発明の課題
本発明の課題は、グリーンガラスの良好な溶融特性を有し、かつ費用対効果が高いが、これにより使用特性の制限が生じることのない、透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックスを提供することである。さらに、本発明によるガラスセラミックスは、ガラスセラミックスによる色知覚の歪みが可能な限り小さいことが望ましい。
【0011】
ここで、良好な溶融特性には特に、加工点が1340℃以下、有利には1330℃未満、特に好ましくは1320℃未満の温度であることが含まれる。加工点とは、グリーンガラスが10dPa・sの粘度を有する温度である。グリーンガラスの熱間成形は、この温度付近で行われる。熱間成形時の温度が高いほど、ガラスによって成形機に導入される熱を放散させるのに、よりコストがかかる。温度が1340℃を超える場合、ガラス量のスループットの低下により熱量を減らすことでしか、これを達成することができない。しかし、これは経済的に不利である。
【0012】
熱間成形時にいわゆる失透上限温度を下回ると、望ましくない自発的な結晶化(「失透」とも呼ばれる)が起こり得る。これを防止するためには、失透上限温度が加工点より少なくとも10K、有利には少なくとも15K、特に好ましくは少なくとも20K、非常に特に好ましくは少なくとも30K低いと有利である。
【0013】
ガラスセラミックスは特に、あらゆるタイプの加熱エレメントを備えたクックトップとして使用するためのすべての要件を満たすことが望ましい。これには特に、輻射加熱エレメント、誘導加熱エレメント、およびガス加熱エレメントが含まれる。これには特に、十分に高い耐熱衝撃性に加え、高い長期耐熱性も要求される。
【0014】
発明の概要
本発明の課題は、独立請求項の主題によって解決される。好ましい実施形態および発展形態は、従属請求項に見出すことができる。
【0015】
本発明による透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックスは、20℃~700℃の範囲における熱膨張係数が-0.8~1.5ppm/Kであり、厚さ4mmでの光透過率τvisが75%を超え、厚さ4mmでの彩度Cが10未満である。ここで、ガラスセラミックスは、酸化物ベースでの重量%単位で以下の成分を示された量で含む:
SiO 62~68
Al 19~24
LiO 2.4~3.1
BaO >2.5
ZnO >2.5
ZrO >1.5
NaO 0~1
O 0~1。
【0016】
適切な熱膨張係数を有するガラスセラミックスは、高い耐熱衝撃性と高い長期熱安定性とを併せ持つ。そのためこれは、あらゆるタイプの加熱エレメントを備えたクックトップとしての使用に適している。熱膨張係数は、少なくとも-0.8ppm/Kである。ここで、「ppm」とは、「百万分率(parts per million)」、すなわち1Kの温度変化に対して10-6の相対的な大きさの変化を意味する。熱膨張率の値をより負の方向にシフトさせることは、回避される。負の膨張率、すなわち収縮の場合には、加熱中にガラスセラミックスの表面に引張応力が発生する。-0.8ppm/K未満の値の場合、こうした応力は、調理機器の一般的な運転温度でクックトップの機械的強度を低下させる可能性がある。1.5ppm/Kを超える熱膨張率も同様に回避される。1.5ppm/Kを超える熱膨張率は、輻射加熱エレメントを備えた調理機器にガラスセラミックスを使用するのに十分な耐熱衝撃性を保証しない。
【0017】
本発明の一発展形態では、熱膨張係数は、少なくとも-0.6ppm/K、-0.4ppm/K、-0.2ppm/K、0.0ppm/K、0.2ppm/K、0.4ppm/K、0.6ppm/K、またはさらには0.8ppm/Kである。さらに、熱膨張係数は有利には、最大で1.4ppm/K、1.3ppm/K、1.2ppm/K、1.1ppm/K、1.0ppm/K、0.8ppm/K、またはさらには最大でわずか0.6ppm/Kである。
【0018】
本発明の好ましい一実施形態では、ガラスセラミックスの熱膨張係数は、-0.8~0.8ppm/K、有利には-0.5~0.5ppm/K、特に好ましくは-0.3~0.3ppm/Kである。このようなガラスセラミックスは、輻射加熱エレメントや誘導加熱エレメントを備えた調理機器のクックトップに特に適している。
【0019】
本発明によるガラスセラミックスの透過率および彩度に関して示される光学特性に関して、「厚さ4mmでの」とは、対応する特性が、材料厚さ4mmの試料について測定されるか、または別の材料厚さで測定され、4mmの材料厚さに換算されることを意味する。透過率データの場合、換算はランベルト・ベールの法則を用いて行うことができる。
【0020】
光透過率τvisは、DIN 5033の規定に準拠して、標準光源D65の光および2°の観察者を用いて380~780nmの波長範囲で測定される。この値は、CIExyY色空間における輝度Yに相当する。
【0021】
彩度Cは、L色座標から以下の式にしたがって決定される:
【数1】
【0022】
色座標aおよびbは、標準光源D65の標準光および2°の観察者を用いて、ガラスセラミックスの透過スペクトルから既知の様式で決定される。
【0023】
厚さ4mmでの光透過率が75%を超えるガラスセラミックスは、暖炉の覗き窓やクックパネルとして使用するのに特に適している。暖炉では、この透過率によって、火を特に良好に視認することができる。調理機器では、この透過率によって例えば、LCDディスプレイやOLEDディスプレイのような比較的輝度の低い光ディスプレイを特に良好に視認することができる。ここで好ましくは、本発明によるガラスセラミックスは、80%を超える、特に好ましくは83%を超える、非常に特に好ましくは85%を超える光透過率τvisを有する。
【0024】
彩度Cが10未満であることにより、光の色が、ガラスセラミックスの通過時にごくわずかにしか変化しなくなる。これは例えば、クックトップや暖炉の覗き窓として使用する場合に特に重要である。
【0025】
ガラスセラミックスの彩度は例えば、クックトップとして使用する際にガラスセラミックスに白色または総じて明色の下面コーティングを施した場合に特に目につく。このような用途のガラスセラミックスは、厚さ4mmであることが多い。そのため、背面コーティングで反射される光は8mmの光路を通ることになり、ガラスセラミックス固有の色による色ずれが、光路が短い場合よりも大きく影響する。したがって、背面に白色コーティングを施したクックトップや暖炉の覗き窓では、それに応じて低彩度が特に有利である。ここで好ましくは、本発明によるガラスセラミックスは、8未満、特に好ましくは6未満、非常に特に好ましくは5未満の彩度Cを有する。
【0026】
本発明によるガラスセラミックスは、重量%単位で以下の成分を含む:
SiO 62~68、
Al 19~24、および
LiO 2.4~3.1。
【0027】
成分SiOおよびAlは、ガラスセラミックスにおいてLiOと共に結晶相の主成分を形成する。同時に、これらはガラス形成特性およびグリーンガラスの粘度を大きく左右する。
【0028】
本発明によるガラスセラミックスのSiO含有量は、最大で68重量%とすべきである。なぜならば、この成分は、ガラスの粘度、特に加工点を大幅に上昇させるためである。ガラスを良好に溶融させ、成形温度を低くするためには、SiO含有量がこれよりも高いと不経済である。SiOの割合が非常に高く68重量%を超える場合には、セラミゼーション時にキータイトが形成される可能性がある。これは、熱膨張率の著しい増大、および特に曇りの形態での材料の光学特性の劣化を招く。ここで、SiOの最低含有量は62重量%とすべきであり、なぜならばこれは、例えば耐薬品性や耐熱性といった、要求された特性に有利であるためである。
【0029】
有利には、ガラスセラミックスは、少なくとも63重量%、またはさらには64重量%のSiOを含む。ガラスセラミックスに含まれるSiOが多いほど、その耐熱性および耐薬品性が向上する。さらにガラスセラミックスは有利には、67重量%以下、66重量%以下、またはさらには65重量%以下のみのSiOを含む。ガラスセラミックスに含まれるSiOが少ないほど、熱間成形におけるグリーンガラスの溶融性および加工性が向上する。
【0030】
本発明によるガラスセラミックスのAl含有量は、19~24重量%の範囲である。Alの割合が高くなると、失透や望ましくないムライト形成が問題となる。したがって、24重量%を超えてはならない。Alの量が19重量%より少ないと、高石英固溶体の形成に不利であり、望ましくない結晶相の形成が促進される。また、Al含有量が少ないと、ガラスセラミックスの彩度に不利な影響を及ぼすことが判明した。
【0031】
有利には、ガラスセラミックスは、少なくとも20重量%のAl、好ましくは少なくとも21重量%のAlを含む。ガラスセラミックスに含まれるAlが多いほど、その耐熱性が向上する。さらにガラスセラミックスは有利には、23重量%以下のAl、特に好ましくは22重量%以下のAlを含む。ガラスセラミックスに含まれるAlが少ないほど、熱間成形におけるグリーンガラスの溶融性および加工性が向上する。
【0032】
本発明によるガラスセラミックスのLiO含有量は、2.4~3.1重量%の範囲である。この範囲のLiO含有量であれば、言及された限度の残りの成分と組み合わせて、高い耐熱衝撃性および良好な溶融性を有するガラスセラミックスを得ることが可能であることが判明した。LiOはガラスセラミックスの熱膨張率に著しい影響を及ぼすため、本発明に必要な耐熱衝撃性を達成できるように、LiOは、本発明によるガラスセラミックスの残りの成分と組み合わせて上記で言及された限度で選択される。加えて、2.4重量%を超えるLiOの割合は、ガラス融液の電気抵抗を低下させ、粘度を低下させ、それにより加工点も低下させるため、ガラスセラミックスの製造性に好影響を及ぼす。ガラス融液の粘度の低下により、清澄処理の効率も向上させることができる。清澄処理の向上によって、グリーンガラス中の気泡形成による製造廃棄物が低減される。またLiOは、グリーンガラスの失透傾向をも低減させる。
【0033】
好ましい一実施形態では、ガラスセラミックスは、少なくとも2.5重量%、2.6重量%、またはさらには2.7重量%のLiOを含む。
【0034】
ガラスセラミックス製造用のリチウム源としては通常は、例えばスポジュメンやペタライトのような天然鉱物原料か、あるいは合成で製造されたLiCOが使用される。
【0035】
好ましい一実施形態では、ガラスセラミックスは、主結晶相として高石英固溶体を含む。「主結晶相」とは、ガラスセラミックスが、体積割合で、キータイト固溶体および他の結晶相よりも多くの高石英固溶体を含むことを意味する。本実施形態の一発展形態では、ガラスセラミックスは、<10体積%、好ましくは<5体積%、特に好ましくは<3体積%のキータイト固溶体を含む。ここで、これらの体積%データは、ガラスセラミックスの体積に対するものである。体積割合は、X線回折スペクトルからリートベルト解析によって決定される。
【0036】
キータイト固溶体は総じて、高石英固溶体よりも熱膨張率が高い。したがって、ガラスセラミックスの熱膨張係数を低くするためには、高石英固溶体の割合を高くすると同時にキータイト固溶体の割合を低くすることが特に好ましい。低い熱膨張係数はまた、ガラスセラミックスの耐熱衝撃性を向上させる。同時に、キータイト固溶体は、その晶子径が通常は大きいために光の強い散乱を引き起こすため、キータイトの割合が過度に高いと、ガラスセラミックスの光学特性に悪影響を及ぼす。この理由からも、結晶相中のキータイトの含有量は可能な限り低く抑えるべきである。
【0037】
前述のSiO、AlおよびLiOの量に加えて、本発明によるガラスセラミックスは、2.5重量%を超えるZnO、好ましくは2.6重量%を超えるZnO、2.7重量%を超えるZnO、2.8重量%を超えるZnO、または2.9重量%を超えるZnO、特に好ましくは3.0重量%を超えるZnO、非常に特に好ましくは3.2重量%を超えるZnOを含む。LiOがガラスセラミックスの熱膨張係数の低下に寄与することについては、既に上記で説明した。したがって、LiOの含有量を、透明なガラスセラミックスに先行技術で通常使用されている割合よりも少なくすると、ガラスセラミックス中の高石英固溶体の熱膨張係数の低下が低減されるため、クックトップとしての使用に必要な膨張係数が達成できない可能性がある。しかし、LiOと同様にZnOも熱膨張係数の低下に寄与するため、ZnOの含有量を2.5重量%を超える値に高めることにより、LiO含有量の低下の効果を少なくとも部分的に相殺することができる。
【0038】
またZnOは、ガラスセラミックスの加工点および失透上限温度を低下させる。しかし、ZnOは、特に多量のAlとの組み合わせにおいて、望ましくないガーナイト結晶の形成を招く可能性がある。このため、ガラスセラミックス中の含有量は、有利には6.0重量%に制限される。さらに、ZnOを非常に多量に含むガラスセラミックスは、ガラスセラミックス表面に望ましくない結晶を形成する傾向があることが経験的に判明した。したがって、ZnOの量は有利には、5.6重量%、5.3重量%、5.0重量%、4.6重量%、4.3重量%、4.0重量%、またはさらには3.7重量%以下の量に制限される。
【0039】
さらに、ZnO含有量が過度に増加すると、ガラスセラミックス中の結晶相と残留ガラス相との屈折率の差が大きくなるため、対応するガラスセラミックスは、入射光をより強く散乱させる。その結果、ZnO含有量の増加は、ガラスセラミックスの透過率および彩度に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0040】
この効果を打ち消すために、本発明によるガラスセラミックスはまた、2.5重量%を超えるBaOを含む。BaOの割合が増加すると、ガラスセラミックスが入射光を散乱させる傾向が低減する。なぜならば、BaOの添加によって、同一の晶子径の残留ガラス相の屈折率を、ガラスセラミックスの結晶相の屈折率と等しくすることができるためである。この効果は、LiOおよびZnOの割合が上記で言及された限度内にある場合、特に同時にガラスセラミックス中のSrOおよびCaOの含有量が少ない場合に見られる。
【0041】
BaOはさらに、LiOと同様に、ガラス融液の粘度を低下させ、ひいては加工点を低下させる。グリーンガラスの溶融性を向上させるためには、ガラスセラミックスが、上記で言及された量のLiOと組み合わせて、2.6重量%を超える、2.7重量%を超える、2.8重量%を超える、2.9重量%を超える、またはさらには3.0重量%を超えるBaOを含むと有利である。ガラスセラミックスにおいて、BaOはまた、グリーンガラスの熱間成形時の失透挙動の改善に大きく寄与する。ここで、BaOの含有量は好ましくは、4.0重量%未満、3.9重量%未満、3.8重量%未満、3.7重量%未満、3.6重量%未満、3.5重量%未満、3.4重量%未満、3.3重量%未満、またはさらには3.2重量%未満に制限される。
【0042】
さらに、本発明によるガラスセラミックスは、1.5重量%を超えるZrOを含む。ZrOは、ガラスセラミックス中で特に核形成剤として作用し、それ自体がガラスセラミックスの他の成分、例えばSnOやTiOと相互作用することができる。ここで、核形成の改善には、ZrOの含有量が1.5重量%を超えることが有利である。
【0043】
ここで、本発明の一発展形態では、ZrOは、バッチの溶融挙動を悪化させるため、ZrOの量を3.0重量%の値に制限することができる。さらに、ZrOは、熱間成形時に失透を引き起こす可能性がある。この場合、これは、例えばバデレアイトのような望ましくないZr含有結晶相の形成を招く可能性がある。有利には、ガラスセラミックスは、少なくとも>1.6重量%、特に好ましくは>1.7重量%、非常に特に好ましくは>1.8重量%のZrOを含む。さらに、ガラスセラミックスは有利には、2.9重量%、2.8重量%、2.6重量%、2.5重量%、2.4重量%、2.3重量%、2.2重量%、2.1重量%、またはさらにはわずか2.0重量%以下のZrOを含む。これらの量では、核形成へのポジティブな寄与と、溶融性および熱間成形のなおも許容可能な悪化との間で、特に良好な妥協を達成することができる。ここで、特に後述するガラスセラミックス中のTiOの含有量を顧慮してZrOの含有量を最適化することにより、さらにグリーンガラスのより迅速なセラミゼーションを可能にすることが可能である。先行する十分な核形成の際のより迅速なセラミゼーションにより、ガラスセラミックスの晶子径が小さくなり、光の散乱がわずかになる。
【0044】
本発明によるガラスセラミックス中の0~1重量%のNaO含有量は、溶融性およびガラス成形時の失透挙動をさらに改善する。さらに、NaOは、融液の電気伝導性を高めることができる。これにより、溶融槽内の電気ヒーターによるエネルギーのカップリングが容易になる。しかし、含有量には制限がある。なぜならば、これは結晶相には取り込まれず、実質的にガラスセラミックスの残留ガラス相に留まるためである。含有量が過度に多いと、結晶化可能な出発ガラスからガラスセラミックスへの転化の際の結晶化挙動が損なわれ、ここでは特に高いセラミゼーション速度が犠牲となる。この結果、ガラスセラミックスのセラミゼーション速度が高いほど晶子径が大きくなり、これはガラスセラミックスの散乱挙動に好ましくない影響を及ぼす。さらに、含有量が多いと、ガラスセラミックスの長期耐久性/耐熱性に好ましくない影響を及ぼす。このため、ガラスセラミックスは、有利には>0.1~1重量%、または0.2~0.8重量%、またはさらには0.3~0.6重量%のNaOを含む。
【0045】
0~1重量%のKOは、本発明によるガラスセラミックスにおいて、溶融性およびガラス成形時の失透挙動を改善する。KOは同様にさらに、融液の電気伝導性を高めることができる。これにより、溶融槽内の電気ヒーターによるエネルギーのカップリングが容易になる。しかし、含有量には制限がある。なぜならば、これは結晶相には取り込まれず、実質的にガラスセラミックスの残留ガラス相に留まるためである。含有量が過度に多いと、結晶化可能な出発ガラスからガラスセラミックスへの転化の際の結晶化挙動が損なわれ、ここでは特に高いセラミゼーション速度が犠牲となる。NaOに関する上記の説明と同様に、この場合にも、セラミゼーション速度が過度に高くなり、したがってガラスセラミックス中の晶子径が大きくなると、ガラスセラミックスの散乱挙動に悪影響を及ぼす。さらに、含有量が多いと、ガラスセラミックスの長期耐久性/耐熱性に好ましくない影響を及ぼす。
【0046】
これらの特性は、KOがガラスセラミックス中に0.8重量%、0.6重量%、0.5重量%、0.4重量%、またはさらには0.3重量%以下の量で含まれていればさらに改善される。特定の一実施形態では、ガラスセラミックスが、不可避不純物を除いてKOを含まないことがさらに提供され得る。
【0047】
本発明の一発展形態では、ガラスセラミックスが、不可避不純物を除いてCr、V、MnOおよびMoOを含まないことがさらに提供される。VおよびMoOは通常、体積着色ガラスセラミックスを着色するための主要な着色剤として使用され、CrおよびMnOはしばしば、補助的な着色に使用される。上述した着色剤、特にVは総じて、少量でもガラスセラミックスを非常に激しく着色するため、ガラスセラミックスの本発明による透過率および彩度を保証するためには、本発明によるガラスセラミックス中の上述した成分の含有量を可能な限り低く抑えることが望ましい。ここで、これらの成分はとりわけ、バッチの原料中の不純物として存在するか、または溶融特性を改善するためにバッチに添加されるカレット中の成分として存在する。ここで、「不可避不純物」とは、組成中のそれぞれの成分の20ppm未満、特に10ppm未満、特に5ppm未満の含有量であると理解される。さらに、ガラスセラミックスは好ましくは、不可避不純物を除いてCe、Ni、Cu、Co、Wおよび/またはSあるいはそれらの酸化物も含まない。
【0048】
本発明の好ましい一発展形態では、ガラスセラミックスは、3.0重量%未満のTiOを含む。TiOは、ZrOと共に核形成に大きく寄与する。TiOの量は、3.0重量%以下の値に制限される。TiOの量がこれよりも多くなると、熱間成形時に失透を起こす可能性がある。さらにこれは、残留ガラス相の屈折率の望ましくない上昇につながる可能性がある。有利には、ガラスセラミックスは、少なくとも1重量%、1.5重量%、2.0重量%、>2.1重量%のTiOを含む。同時に、ガラスセラミックスは有利には、2.7重量%、2.5重量%以下、またはさらにはわずか2.4重量%以下のTiOを含む。TiOの割合が高いと、核形成の進行が速くなる。これにより、ガラスセラミックスのセラミゼーション時間を短縮することができる。割合が低いと、セラミゼーションプロセスの安定化が生じ、グリーンガラスの熱間成形時の意図しない失透が防止される。総括すると、ガラスセラミックスの光学特性に対するTiOの着色効果を可能な限り低く抑えるために、TiOの含有量の上限が設定される。しかし同時に、さらに十分な核形成および短いセラミゼーション時間が保証されるように、TiOの含有量を過度に低く選択することも望ましくない。この場合、上記で言及された量のZrOを使用することにより、さらなる核形成剤としてのTiOの割合を低下させることができ、ひいては彩度が低減したガラスセラミックスを製造することができる。
【0049】
本発明の一発展形態では、ガラスセラミックスは、0.05重量%未満、好ましくは0.04重量%未満、特に好ましくは0.03重量%未満、非常に特に好ましくは0.02重量%未満のFeを含む。V、Cr、MnOおよびMoOと同様に、Feもガラスセラミックス中で着色効果を有する。このため、Feの含有量を上記で言及された値に制限すると、透明なガラスセラミックスにとって有利である。例えば、着色剤としてFeを含むガラスセラミックスは、しばしば黄色味を帯びる。これは例えば、TiOと、原料の不純物によって混入したFeとを同時に含むガラスセラミックスで起こり得る。このようなガラスセラミックスに白色の下面コーティングが施されている場合、この下面コーティングは、明らかに知覚可能な黄色味を帯びている。
【0050】
さらに、Feは、可視光域だけでなく、波長約3μmまでの近赤外域の透過率にも影響を及ぼす。したがって、Feは、特定の色の実現性やカラーディスプレイの表示性に影響を及ぼすだけではない。近赤外域での吸収によって、槽内でガラス融液がどれだけの熱エネルギーを吸収できるかが決まる。これにより、輻射加熱エレメントからの熱出力がガラスセラミックスをどれだけ通過できるかが決まる。またこれにより、コンロに赤外線センサを使用できるか否か、そしてコンロにいずれの赤外線センサを使用できるかも決まる。そのようなセンサは例えば、光学式タッチセンサや無線データ伝送用の赤外線受信機として設計することができる。
【0051】
ここで、本開示の範囲において、ガラスの成分は、分析によって通常得られる形で示されることに留意すべきである。ここで、通常は各成分は、安定な、大抵は最も高い酸化段階で示される。しかし、これは必ずしもその成分が実際に存在する形態と一致するわけではないことが指摘される。
【0052】
例えば、酸化物ガラス中の鉄は、2価および3価の双方で、すなわちFe2+またはFeOとして、あるいはFe3+またはFeとして存在し得る。したがって、本開示の範囲における対応する成分の含有量に関するデータは、分析の通常のデータに関するものであるが、各成分は、通常示される「理想的な」酸化段階から逸脱した形態で存在することもあると理解される。
【0053】
本発明の一発展形態では、ガラスセラミックスは、1.2重量%未満、好ましくは1.0重量%未満、特に好ましくは0.8重量%未満、0.7重量%未満、0.6重量%未満、非常に特に好ましくは0.5重量%未満のMgOを含む。ここで、MgOは、溶融性およびガラスセラミックスの失透挙動に好影響を及ぼすが、過剰量では、ガラスセラミックスの彩度の増加および高石英固溶体相の熱膨張係数の増加を招く。したがって、無色透明なガラスセラミックスには、MgO含有量を上記で言及された限度に制限することが有利であることが判明した。
【0054】
本発明のさらなる発展形態によれば、透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックスが、1.2重量%未満、好ましくは1.0重量%未満、特に好ましくは0.8重量%未満、非常に特に好ましくは0.5重量%未満のCaOを含むことがさらに提供される。この場合、CaOは、ガラスセラミックスの失透挙動に有利な影響を及ぼす。しかし、CaOはガラスセラミックス中の晶子径の増加に寄与するため、CaO含有量を上記の値に制限することが無色透明なガラスセラミックスにとって有利であることが判明した。晶子径の増加は散乱の増大を伴い、したがってガラスセラミックスの光学特性を低下させる。
【0055】
本発明の一発展形態では、ガラスセラミックスは、0.2重量%未満のSnO、好ましくは0.15重量%未満、特に好ましくは0.1重量%未満のSnOを含む。SnOは、グリーンガラスの清澄処理を支援する。したがって、上記で言及された量のSnOを含むガラスセラミックスは、閉じ込められたガス気泡による欠陥が特に少ないという特徴を有する。この場合、SnOは、本発明によるガラスセラミックスの他の成分と組み合わせて、さらに核形成に好影響を及ぼす。しかし、SnOはガラスセラミックスの光学特性に悪影響を及ぼし、特にガラスセラミックスの彩度の増加を引き起こす可能性があるため、0.2重量%未満の量を超えてはならない。また、SnOの含有量が多くなると、成形時に接触材料(例えばPt/Rh)上でSn含有結晶相、例えば錫石の望ましくない結晶化が起こり、これによりガラスセラミックスの光学特性がさらに悪化する。
【0056】
ここで、グリーンガラスの清澄処理を支援するために、上記で言及されたSnOの含有量に加えて、最大で2重量%の割合のAsおよび/またはSbが含まれていてよい。SnOは、既に説明したように、グリーンガラスの清澄処理に対するプラスの効果に加えて、ガラスセラミックスの光学特性にマイナスの効果を与える可能性があるため、SnOの含有量を可能な限り減らすことが有利であることが判明した。その理由は特に、SnOがTiOと共に入射光に対して付加的な吸収バンドを形成する場合があり、その結果、透過光が赤色にシフトすることである。さらに、SnOは、Fe中のFe2+の割合を増加させ、その結果、TiOと併用すると着色が増加することに寄与し得る。
【0057】
AsおよびSbは、実質的に同一の効果を有するため、ガラスセラミックス中に単独で含まれていても、組み合わせて含まれていてもよい。いずれの場合も、その量は好ましくは、それぞれ2重量%を超えてはならない。「Asおよび/またはSb」という表記は、この文脈では、両成分が対応する量で単独で含まれていても、組み合わせて含まれていてもよいことを意味する。
【0058】
したがって、本発明のさらなる発展形態によれば、ガラスセラミックスが、不可避不純物を除いてSnOを含まず、0.5重量%~1.5重量%のAsおよび/またはSbを含むことが提供される。SnOを完全に含まずに行われ、したがってガラスセラミックスの光学特性に対するSnOの上記で言及された影響を回避する清澄処理プロセスは、この場合、透明で色調がニュートラルなガラスセラミックスの製造に特に有利である。SnOとは異なり、AsおよびSbは、SnOほど強い還元作用をFeに及ぼさないため、ガラスセラミックスの色調に影響を及ぼさず、またTiOと併用しても着色の増大を招かない。
【0059】
本発明の一発展形態では、透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックスが、0.01~0.07重量%のNd、好ましくは0.03~0.06重量%のNdを含むことがさらに提供される。この場合、Ndは、特にSnOで清澄処理を行う場合には、SnOに起因するガラスセラミックスの彩度の相殺に寄与する。この場合、Ndの添加は、特にSnOの含有量が0.1重量%を超える場合、ほとんど色調がニュートラルなガラスセラミックスの製造に有利である。
【0060】
FeおよびTiOの含有量が上記の限度内にあるガラスセラミックスでは、Ndの添加はさらに、FeおよびTiOに起因する黄色味の低減または排除に寄与することがあり、この場合、光透過率にはわずかな影響しか及ぼさない。この効果は、波長513、526、575、585および745nmの可視光域におけるNdの狭い吸収バンドに基づくものであり、透明で色調がニュートラルなガラスセラミックスの製造に特に有利である。
【0061】
したがって、総括すると、ガラスセラミックスの清澄処理は、SnOの単独添加により行うことも、SnOとAsおよび/またはSbとの組み合わせにより行うことも、Asおよび/またはSbを用いた、すなわちSnOの非存在下での純粋な清澄処理により行うこともできる。
【0062】
本発明の一発展形態では、ガラスセラミックスは、酸化物ベースでの重量%単位で以下の成分を含む:
SiO 62~67
Al 19~23
LiO 2.4~3.1
NaO 0~1
O 0~1
MgO 0~1
CaO 0~1.2
BaO >2.5
ZnO >2.5
TiO <3.0
ZrO >1.5。
【0063】
さらに、このようなガラスセラミックスは、SrOを含むこともでき、SrO含有量は主に、ガラスセラミックスの製造に使用される原料中の不純物に由来する。この場合、SrOはとりわけ、ガラスセラミックスによる光の散乱に寄与する。したがって、ガラスセラミックス中のSrO含有量を可能な限り低く抑えることが有利である。
【0064】
以下の表は、本発明によるガラスセラミックスの酸化物ベースでの重量%単位での組成の3つのさらなる発展形態を含む:
【表1】
【0065】
特に、上記組成は、不可避不純物を除いてKOを含まない場合がある。
【0066】
これに対する、本発明によるガラスセラミックスの酸化物ベースでの重量%単位での組成の代替的な3つの発展形態を以下に示す:
【表2】
【0067】
本発明によるガラスセラミックスの酸化物ベースでの重量%単位での組成の3つのさらなる発展形態を以下に示す:
【表3】
【0068】
上記の組成の具体的に挙げられた成分に加えて、対応するガラスセラミックスは、他の成分、特に清澄剤を含むこともできる。
【0069】
この場合、上記で言及された組成に基づくグリーンガラスの清澄処理は、SnOを使用して行うことも、SnOとAsおよび/またはSbとの組み合わせを使用して行うことも、Asおよび/またはSbのみを使用して、すなわちSnOの非存在下で行うこともできる。この場合、組成中のそれぞれの成分の含有量については、上記で挙げられた限界値を設定することができる。
【0070】
本発明の好ましい一発展形態では、透明なリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミックスが、高石英固溶体相において80nm未満、好ましくは70nm未満、特に好ましくは60nm未満、非常に特に好ましくは50nm未満の晶子径を有することがさらに提供される。この場合、晶子径は、ガラスセラミックスの光学特性に直接的な影響を及ぼす。例えば、晶子径が過度に大きいと、ガラスセラミックスにおける光散乱が増大し、これはガラスセラミックスの曇りとして現れる。
【0071】
本発明のさらなる発展形態では、TiOに対するAlの比率は、7~12の範囲、好ましくは8~11の範囲、特に好ましくは8.5~10.5の範囲である。この範囲のTiOに対するAlの比率は、ガラスセラミックスの彩度に対して特に有利な影響を及ぼすと同時に、特に安定したセラミゼーションを可能にすることが判明した。
【0072】
本発明によるガラスセラミックスは、クックトップ、暖炉の覗き窓、グリルトップもしくはローストトップ、ガスグリルの燃焼エレメントのカバー、オーブンの覗き窓、特に熱分解炉のオーブンの覗き窓、キッチンもしくは研究室の作業台もしくはテーブルトップ、照明装置のカバーとして、防火グレージングにおいて、および安全ガラスとして、任意に積層複合材において、キャリアプレートとして、または熱プロセスにおける炉のライニングとして、または携帯電子機器の背面カバーとして使用される。
【0073】
本発明によるガラスセラミックスは、特にクックトップとして使用することができる。この場合、クックトップには、上面および/または下面の全部または一部に装飾または機能性コーティングが施されていてよい。クックトップを操作するためのタッチセンサを下面に設けることもできる。これらは例えば、印刷、接着または圧着された静電容量式センサとすることができる。
【0074】
以下に、本発明を実施例によってさらに説明する。
【0075】
実施例の結晶化可能なグリーンガラスを、ガラス産業で一般的に使用される工業用バッチ原料から1680℃の温度で4時間溶融した。このような原料を選択することにより、原料を経済的なものとするという要求と、望ましくない不純物の含有量を少なくするという要求を両立させることができる。焼結シリカガラス製るつぼでバッチを溶融した後、シリカガラス製内部るつぼを備えたPt/Rhるつぼに融液を注ぎ、1640℃の温度で60分間撹拌して均質化した。この均質化の後、ガラスに1680℃で3.5時間にわたって清澄処理を施した。その後、流し込みにより約120×120×30mmのサイズの被加工物を製造し、応力を緩和するために、冷却炉で、ガラスの各粘度に応じて650~670℃から出発して30K/hで室温まで冷却した。流し込み被加工物を、試験に必要なサイズとセラミゼーションに必要なサイズとに分けた。
【0076】
グリーンガラス状態の試料のセラミゼーションを、以下の工程を有するセラミゼーションプロセスで実施した:
a)室温から740℃まで25分以内に加熱する工程、
b)740℃の温度を20分保持する工程、
c)温度を740℃から780℃まで6.5分以内に上昇させる工程、
d)温度を780℃から825℃まで20分以内に上昇させる工程、
e)温度を825℃から910℃まで8.5分以内に上昇させる工程、
f)910℃の温度を10分保持する工程、
g)125分以内に室温まで冷却する工程。
【0077】
このセラミゼーションプロセスは、例示的なものとみなすべきである。個々の工程の温度および時間を変更するか、またはさらなる工程、例えば付加的な保持時間を追加することによって、ガラスセラミックスの特性を微調整することが可能である。
【0078】
セラミゼーションは、例えば以下のようなパラメータで実施することもできる:
a)室温から680℃~760℃まで3~60分以内に加熱する、
b)結晶化可能なグリーンガラスを、核形成温度範囲T~800℃まで10~100分間で昇温する、
c)結晶化核を含むガラスを、結晶成長速度の高い温度範囲である810℃~930℃まで5~80分以内に昇温する、
d)810~930℃の温度を2~60分保持する、
e)150分未満以内に室温まで冷却する。
【0079】
以下の表は、本発明による実施例の組成および材料特性を含む。
【0080】
ここで、熱膨張係数CTEは、実質的に1998年版DIN ISO 7991に基づく方法で測定した。
【0081】
失透上限温度(OEG)を測定するため、グリーンガラスをPt/Rh10るつぼで溶融した。その後、このるつぼを、加工温度範囲内の様々な温度で5時間保持した。ガラス融液とるつぼ壁面との接触面に最初の結晶が現れる最高温度が、OEGを決定づける。
【0082】
グリーンガラスの加工点(T)を、DIN ISO 7884-2に準拠し、撹拌式粘度計を用いて測定した。
【0083】
グリーンガラスがガラスセラミックスに変化する際に、結晶相は非晶質ガラスより密度が高いため、密度は増加する。いわゆる収縮率は、グリーンガラスがガラスセラミックスに変化する際の長さの線形変化を示す。パーセント単位での収縮率は、グリーンガラスの密度およびガラスセラミックスの密度から次のように計算される:
【数2】
【0084】
は、グリーンガラスの変態温度を示し、これはガラス転移温度としても知られている。これは、ディラトメトリーで測定される。
【0085】
光透過率τvisは、DIN 5033の規定に準拠して、標準光源D65の光および2°の観察者を用いて380~780nmの波長範囲で測定される。この値は、CIExyY色空間における輝度Yに相当する。この値は、人間の目の輝度知覚の尺度である。
【0086】
透過スペクトルは、ISO 15368:2021に準拠して測定した。表2には、波長470nm、600nm、630nm、700nm、950nmおよび1600nmの分光透過率「T@・・・」の例が記載されている。
【0087】
CIExyY色空間およびCIELab色空間の色座標は、2°の観察者および標準光源D65の透過光を用いて、CIE 1932の規定に準拠して決定した。
【0088】
すべての透過率測定を、両面が平滑な厚さ4mmの試料で行った。
【0089】
体積割合である「HQMK相含有量」および結晶相の晶子径である「HQMK晶子径」は、リートベルト解析によってX線回折スペクトルから求めた。
【0090】
【表4-1】
【表4-2】
【0091】
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【外国語明細書】