(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015497
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】高分子材料の分解方法及び分解装置、高分子材料の構成単位化合物の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
C08J 11/04 20060101AFI20250123BHJP
B29B 17/00 20060101ALI20250123BHJP
B29K 27/18 20060101ALN20250123BHJP
B29K 27/12 20060101ALN20250123BHJP
【FI】
C08J11/04 ZAB
B29B17/00
C08J11/04
B29K27:18
B29K27:12
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024114780
(22)【出願日】2024-07-18
(31)【優先権主張番号】P 2023117122
(32)【優先日】2023-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「フッ素系高分子の高効率放射線分解技術の開発/Development of highly efficient radiolysis technology for fluoropolymers」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】前川 康成
(72)【発明者】
【氏名】出崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】于 ▲高▼
(72)【発明者】
【氏名】廣木 章博
(72)【発明者】
【氏名】広田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 伸
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA14
4F401BA06
4F401CA04
4F401CA67
4F401CA69
4F401CA75
4F401EA17
4F401EA77
4F401FA01Y
4F401FA20Y
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、高分子材料を熱分解する方法において、熱分解の温度を低下し、エネルギー効率に優れる高分子材料の分解方法を提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するために、高分子材料に電子線又はガンマ線を照射する放射線照射ステップと、電子線又はガンマ線を照射した高分子材料を熱分解する熱分解ステップと、を備えることを特徴とする、高分子材料の分解方法を提供する。この高分子材料の分解方法によれば、高分子材料に電子線又はガンマ線を照射することにより、熱分解温度が低下し、省エネルギー化を実現することができる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料に電子線又はガンマ線を照射する放射線照射ステップと、
電子線又はガンマ線を照射した高分子材料を熱分解する熱分解ステップと、
を備えることを特徴とする、高分子材料の分解方法。
【請求項2】
前記高分子材料に金属系触媒を添加する触媒添加ステップ、を備えることを特徴とする、請求項1に記載の高分子材料の分解方法。
【請求項3】
前記放射線照射ステップは、電子線又はガンマ線の照射量が4MGy以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の高分子材料の分解方法。
【請求項4】
前記熱分解ステップは、加熱温度が500℃以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の高分子材料の分解方法。
【請求項5】
前記熱分解ステップは、前記放射線照射ステップにおける電子線の照射により発生する熱で、高分子材料を熱分解することを特徴とする、請求項1又は2に記載の高分子材料の分解方法。
【請求項6】
前記熱分解ステップは、前記高分子材料を加熱した状態で、前記放射線照射ステップを行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の高分子材料の分解方法。
【請求項7】
高分子材料に電子線又はガンマ線を照射する放射線照射部と、
電子線又はガンマ線を照射した高分子材料を熱分解する熱分解部と、
を備えることを特徴とする、高分子材料の分解装置。
【請求項8】
前記高分子材料に金属系触媒を添加する触媒添加部、を備えることを特徴とする、請求項7に記載の高分子材料の分解装置。
【請求項9】
高分子材料から構成単位化合物を製造する方法であって、
前記高分子材料に電子線又はガンマ線を照射する放射線照射ステップと、
電子線又はガンマ線を照射した高分子材料を熱分解する熱分解ステップと、
を備えることを特徴とする、高分子材料の構成単位化合物の製造方法。
【請求項10】
前記高分子材料に金属系触媒を添加する触媒添加ステップ、を備えることを特徴とする、請求項9に記載の高分子材料の構成単位化合物の製造方法。
【請求項11】
高分子材料から構成単位化合物を製造する装置であって、
前記高分子材料に電子線又はガンマ線を照射する放射線照射部と、
電子線又はガンマ線を照射した高分子材料を熱分解する熱分解部と、
を備えることを特徴とする、高分子材料の構成単位化合物の製造装置。
【請求項12】
前記高分子材料に金属系触媒を添加する触媒添加部、を備えることを特徴とする、請求項11に記載の高分子材料の構成単位化合物の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料の分解方法及び分解装置に関する。また、本発明は、高分子材料の構成単位化合物を製造する製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素系樹脂や医薬品、液晶ディスプレイ等の含フッ素製品は我々の生活に不可欠なものとなっているが、原料となる蛍石の枯渇が懸念されている。また、フロン類やペルフルオロオクタン酸(PFOA)、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)等のフッ素化合物は、環境破壊や人体影響の懸念から使用が規制されている。そこで、フッ素系樹脂やフッ素化合物を熱処理によって有用な化合物まで分解しリサイクルする技術の開発が進められている。
【0003】
また、あらゆる商業分野で、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)などのプラスチック材料が使用されており、大量の廃プラスチック製品が発生している。これらの廃プラスチックは海洋に流出してマイクロプラスチックとなり、生態系への影響が懸念されている。そのため、廃プラスチックの処理方法や有効利用が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、未溶融のパーフルオロ溶融加工樹脂に対して、放射線を吸収線量が10~500kGyとなるように酸素存在下で照射し、フッ素樹脂粉末を得る方法が記載されている。この方法では、得られたフッ素樹脂粉末を表面処理剤として再利用することが開示されているが、適用する用途が狭いという問題がある。
特許文献2~6には、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂を熱分解により、テトラフルオロエチレンを得る方法が記載されている。
また、非特許文献1には、廃プラスチックを熱分解し、得られた炭化水素材料を水蒸気改質により水素へと変換して有効利用すること、廃プラスチックを熱分解する際、ニッケル触媒を利用することにより、熱分解の温度を低下することができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-342379号公報
【特許文献2】特表2012-504633号公報
【特許文献3】特表2009-517454号公報
【特許文献4】国際公開2003/074456号
【特許文献5】特開2005-231984号公報
【特許文献6】特表2003-522747号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Dingding Yaoら、「Co-precipitation, impregnation and so-gel preparation of Ni catalysts for pyrolysis-catalytic steam reforming of waste plastics」、Applied Catalysis B: Environmental、2018年7月29日、239、565-577頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2~6に記載される方法では、高分子材料を熱分解することにより構成単位化合物として再利用することが検討されている。しかしながら、熱分解には、600℃程度まで高温化する必要があり、熱エネルギーを多量に必要とする問題がある。また、非特許文献1に記載される方法では、触媒を利用することにより、熱分解の熱エネルギーを低減することが可能であるが、更なる省エネルギー化が求められている。
【0008】
そこで、本発明の課題は、高分子材料を熱分解する方法において、熱分解の温度を低下し、エネルギー効率に優れる高分子材料の分解方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、高分子材料の分解方法において、高分子材料に電子線又はガンマ線を照射することにより、熱分解温度が低下するという知見に至り、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の高分子材料の分解方法及び分解装置、高分子材料の構成単位化合物の製造方法及び製造装置である。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の高分子材料の分解方法は、高分子材料に電子線又はガンマ線を照射する放射線照射ステップと、電子線又はガンマ線を照射した高分子材料を熱分解する熱分解ステップと、を備えることを特徴とするものである。
この高分子材料の分解方法によれば、高分子材料に電子線又はガンマ線を照射することによって、高分子材料の熱分解ステップにおける熱分解温度が低下するため、エネルギー効率に優れる高分子材料の分解方法を提供することができる。
【0011】
また、本発明の高分子材料の分解方法の一実施態様としては、高分子材料に金属系触媒を添加する触媒添加ステップ、をさらに備えるという特徴を有する。
この特徴によれば、高分子材料の熱分解ステップにおける熱分解温度を更に低下させることができるため、エネルギー効率に特に優れる高分子材料の分解方法を提供することができる。
【0012】
また、本発明の高分子材料の分解方法の一実施態様としては、放射線照射ステップは、電子線又はガンマ線の照射量が4MGy以上であるという特徴を有する。
この特徴によれば、高分子材料の熱分解ステップにおける熱分解温度を更に低下することができるため、エネルギー効率に特に優れる高分子材料の分解方法を提供することができる。
【0013】
また、本発明の高分子材料の分解方法の一実施態様としては、熱分解ステップは、加熱温度が500℃以下であるという特徴を有する。
本発明の高分子材料の分解方法によれば、熱分解ステップの温度を低減することができるため、500℃以下で分解処理が可能となる。500℃以下で熱分解ステップを行うことにより、エネルギー効率に特に優れる高分子材料の分解方法を提供することができる。
【0014】
また、本発明の高分子材料の分解方法の一実施態様としては、熱分解ステップは、放射線照射ステップにおける電子線の照射により発生する熱で、高分子材料を熱分解するという特徴を有する。
この特徴によれば、別に加熱工程や加熱装置を省略することができるため、高分子化合物の分解方法における作業の効率化や、高分子化合物の分解装置における装置構成の簡素化などの効果を得ることができる。
【0015】
また、本発明の高分子材料の分解方法の一実施態様としては、高分子材料を加熱した状態で、放射線照射ステップを行うという特徴を有する。
この特徴によれば、加熱温度、放射線照射量(線量)を低下することができるため、エネルギー効率に特に優れる高分子材料の分解方法を提供することができる。また、放射線照射ステップと熱分解ステップを同時に行うことができるため、作業の効率化などの効果を得ることができる。
【0016】
上記課題を解決するための本発明の高分子材料の分解装置は、高分子材料に電子線又はガンマ線を照射する放射線照射部と、電子線又はガンマ線を照射した高分子材料を熱分解する熱分解部と、を備えることを特徴とするものである。
この高分子材料の分解装置によれば、高分子材料に電子線又はガンマ線を照射することによって、高分子材料の熱分解部における熱分解温度を低下するため、エネルギー効率に優れる高分子材料の分解装置を提供することができる。
【0017】
また、本発明の高分子材料の分解方法の一実施態様としては、高分子材料に金属系触媒を添加する触媒添加部と、を備えるという特徴を有する。
この特徴によれば、高分子材料の熱分解部における熱分解温度を更に低下することができるため、エネルギー効率に特に優れる高分子材料の分解装置を提供することができる。
【0018】
上記課題を解決するための本発明の高分子材料の構成単位化合物の製造方法は、高分子材料から構成単位化合物を製造する方法であって、前記高分子材料に電子線又はガンマ線を照射する放射線照射ステップと、電子線又はガンマ線を照射した高分子材料を熱分解する熱分解ステップと、を備えることを特徴とするものである。
この高分子材料の構成単位化合物の製造方法によれば、高分子材料に電子線又はガンマ線を照射することによって、高分子材料の熱分解ステップにおける熱分解温度を低下するため、エネルギー効率に優れる高分子材料の分解装置を提供することができる。また、熱分解により、高分子材料をモノマーに変換し、新たな高分子材料の原料として再利用することができる。
【0019】
また、本発明の高分子材料の構成単位化合物の製造方法の一実施態様としては、高分子材料に金属系触媒を添加する触媒添加ステップ、をさらに備えるという特徴を有する。
この特徴によれば、高分子材料の熱分解ステップにおける熱分解温度を更に低下することができるため、エネルギー効率に特に優れる高分子材料の構成単位化合物の製造方法を提供することができる。
【0020】
上記課題を解決するための本発明の高分子材料の構成単位化合物の製造装置は、高分子材料から構成単位化合物を製造する装置であって、前記高分子材料に電子線又はガンマ線を照射する放射線照射部と、電子線又はガンマ線を照射した高分子材料を熱分解する熱分解部と、を備えることを特徴とするものである。
この高分子材料の構成単位化合物の製造装置によれば、高分子材料に電子線又はガンマ線を照射することによって、高分子材料の熱分解部における熱分解温度を低下するため、エネルギー効率に優れる高分子材料の構成単位化合物の製造装置を提供することができる。また、熱分解により、高分子材料をモノマーに変換し、新たな高分子材料の原料として再利用することができる。
【0021】
また、本発明の高分子材料の構成単位化合物の製造装置の一実施態様としては、高分子材料に金属系触媒を添加する触媒添加部、をさらに備えるという特徴を有する。
この特徴によれば、高分子材料の熱分解部における熱分解温度を更に低下することができるため、エネルギー効率に特に優れる高分子材料の構成単位化合物の製造装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高分子材料を熱分解する方法において、熱分解の温度を低下し、エネルギー効率に優れる高分子材料の分解方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】電子線照射後のPTFEの熱重量分析結果を示すグラフである。
図1(a)は、未照射PTFEと電子線照射PTFEの重量変化の比較を示すグラフである。
図1(b)は、電子線照射量と5%重量減少温度の関係を示すグラフである。
【
図2】電子線照射後のPTFE/Ni触媒の熱重量分析結果を示すグラフである。
図2(a)は、Ni触媒の有無による重量変化の比較を示すグラフである。
図2(b)は、Ni触媒の有無による5%重量減少温度の比較を示すグラフである。
【
図3】PTFE/Ni触媒粉末の熱分解挙動に及ぼす混合順序の影響を評価した結果を示すグラフである。
【
図4】温度制御可能な恒温槽内でPTFEを加熱しながら、PTFEに電子線を照射した後の重量変化を調べた結果であり、加熱温度とPTFEの重量変化の関係を示すグラフである。
図4(a)は、試料全体の重量変化を示すグラフであり、
図4(b)は、PTFEの重量変化を示すグラフである。
【
図5】370℃で加熱しながら電子線を照射する方法において、電子線の照射時間(線量)とPTFEの重量減少の関係を示すグラフである。
【
図6】放射線照射による高分子化合物の加熱方法の具体例を示すグラフである。
【
図7】本発明の第1の実施態様の高分子材料の分解装置(高分子材料の構成単位化合物の製造装置)の構成を説明する概略説明図である。
【
図8】本発明の第2の実施態様の高分子材料の分解装置(高分子材料の構成単位化合物の製造装置)の構成を説明する概略説明図である。
【
図9】本発明の第3の実施態様の高分子材料の分解装置(高分子材料の構成単位化合物の製造装置)の構成を説明する概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の高分子材料の分解方法及び分解装置、高分子材料の構成単位化合物の製造方法及び製造装置に係る実施形態を詳細に説明する。
なお、実施形態に記載する高分子材料の分解方法及び分解装置、高分子材料の構成単位化合物の製造方法及び製造装置については、本発明を説明するために例示したに過ぎず、これに制限されるものではない。
また、高分子材料の構成単位化合物の製造方法及び製造装置は、高分子材料の分解方法及び分解装置を利用するものであるため、高分子材料の分解方法及び分解装置の説明に置き換えることができる。
さらに、高分子材料の分解方法及び分解装置の特徴の説明は、それぞれ対応する分解装置及び分解方法の特徴の説明に置き換えることができる。
【0025】
[高分子材料の分解方法及び分解装置]
本発明の高分子材料の分解方法(分解装置)は、高分子材料に金属系触媒を添加する触媒添加ステップ(触媒添加部)と、高分子材料に電子線又はガンマ線を照射する放射線照射ステップ(放射線照射部)と、電子線又はガンマ線を照射した高分子材料を熱分解する熱分解ステップ(熱分解部)と、を備える。
【0026】
(高分子材料)
本発明における高分子材料は、構成単位化合物(モノマー、オリゴマーなど)を重合して得られた樹脂であれば、特に制限されないが、例えば、炭化水素系樹脂、フッ素系樹脂などが挙げられる。樹脂の骨格は、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタンなどが挙げられる。本発明の熱分解により、構成単位化合物としてビニル化合物を得ることができることから、好ましくはポリオレフィンである。
【0027】
炭化水素系樹脂は、例えば、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。
フッ素系樹脂は、フッ素を含有する樹脂であり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)などが挙げられる。
【0028】
<触媒添加ステップ>
本発明の高分子化合物の分解方法は、金属系触媒を添加することにより、高分子化合物の熱分解温度を低下することができる。
触媒添加ステップと、放射線照射ステップの順は特に制限されないが、触媒の存在下で電子線又はガンマ線を照射することにより、高分子化合物の熱分解温度を大きく低下することから、触媒添加ステップは、放射線照射ステップの前又は同時に実施することが好ましい。
放射線照射ステップの後に、触媒添加ステップを実施する場合、放射線照射ステップに供する原料が減量されるため、放射線照射ステップの作業の簡素化や、放射線照射部の低容量化をすることができる。
【0029】
触媒に使用できる金属としては、例えば、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、ランタン(La)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)、及びこれらの酸化物などが挙げられる。また、これらの金属は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0030】
また、金属系触媒は、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、シリカ・カルシア、ゼオライト、カーボンなどの担体に担持して、担体触媒を形成してもよい。また、錯体形成有機化合物と結合して、錯体触媒を形成してもよい。
【0031】
担体への触媒の担持量は、特に制限されないが、例えば、担体触媒中において1~80質量%である。下限値として、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、特に好ましくは50質量%以上である。上限値として、好ましくは70質量%以下である。
【0032】
錯体形成有機化合物は、金属原子に配位することによって、当該金属原子と錯体を形成する有機化合物であって、例えば、ピロール、ポルフィリン、テトラメトキシフェニルポルフィリン、ジベンゾテトラアザアヌレン、フタロシアニン、コリン、クロリン、フェナントロリン、サルコミン、ベンゾイミダゾール、アミノベンゾイミダゾール、ナイカルバジン、ジアミノマレオニトリル、カルベンダジム、アミノアンチピリンなどの錯体形成有機化合物またはこれらの重合体が挙げられる。また、これら錯体形成有機化合物は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0033】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂を分解する場合、シリカ・アルミナ担体を使用することが好ましく、ニッケルをシリカ・アルミナ担体に担持したニッケル/シリカ・アルミナ触媒が特に好ましい。
【0034】
高分子化合物の質量に対する金属系触媒の添加量比(金属系触媒の質量/高分子化合物の質量)は、特に制限されないが、例えば、0.1~10である。下限値として、好ましくは0.5以上であり、より好ましくは0.8以上である。上限値として、好ましくは5以下であり、より好ましくは2以下である。この範囲とすることにより、高分子化合物と金属系触媒との混合性が良好となり、熱分解の温度を一層低下することができる。
【0035】
<放射線照射ステップ>
本発明の高分子化合物の分解方法は、電子線又はガンマ線を照射することにより、高分子化合物の熱分解温度を低下することができる。放射線照射ステップの条件は、特に制限されないが、例えば、空気雰囲気下、室温(25℃)である。また、高分子材料を加熱しながら、熱分解ステップと共に、放射線照射ステップを行ってもよい。なお、加熱しながら放射線を照射する方法についての詳細は後述する。
【0036】
電子線又はガンマ線の照射量は、特に制限されないが、例えば、1kGy~20MGyである。下限値として、好ましくは100kGy以上であり、より好ましくは600kGy以上であり、更に好ましくは1MGy以上であり、より更に好ましくは2MGy以上であり、特に好ましくは4MGy以上である。上限値として、好ましくは15MGy以下である。
4MGy以上で照射すると、熱分解の温度が顕著に低下する。
【0037】
また、放射線照射により発生する熱を利用して、高分子化合物を加熱してもよい。放射線として電子線を照射する場合、高分子化合物の温度が上昇しやすく、容易に高温化することができるという利点がある。また、放射線としてガンマ線を照射する場合には、放熱抑制手段として機能する例えば恒温槽などに高分子化合物を収容し、この収容された高分子化合物に対して恒温槽ごとガンマ線を照射することが好ましい。
これにより、別に加熱工程や加熱装置を省略することができるため、高分子化合物の分解方法における作業の効率化や、高分子化合物の分解装置における装置構成の簡素化などの効果を得ることができる。また、放射線照射による加熱では、高分子材料を直接加熱することができるため、エネルギーロスが小さいという利点がある。
【0038】
放射線照射ステップにより加熱する場合、照射条件は特に制限されないが、例えば、連続的に照射しても、間欠的に照射してもよい。間欠的に照射する場合、温度を制御しやすいという効果がある。また、連続的に照射する場合、短時間で加熱をすることができるという効果がある。
【0039】
また、電子線の電流値を変化することにより、高分子化合物の温度を制御してもよい。例えば、高分子化合物の温度の上昇に伴い、電子線の電流値を上昇するという制御を行うことが好ましい。具体的には、
図6に示すように、高分子化合物の温度が常温(25℃)~200℃の場合、電子線の電流値を0.5~1.5mA(例えば、1mA)とし、高分子化合物の温度が100~300℃の場合、電子線の電流値を1.5~2.5mA(例えば、2mA)とし、高分子化合物の温度が200~400℃の場合、電子線の電流値を2.5~4.5mA(例えば、3mA)とし、高分子化合物の温度が300~500℃の場合、電子線の電流値を4.5~6.5mA(例えば、5mA)とし、高分子化合物の温度が400℃以上の場合、電子線の電流値を6.5mA以上(例えば、7mA)とする。この制御により、高分子化合物の温度が上昇し、熱分解することができる。
なお、放射線照射ステップにより加熱する場合の熱分解の温度は、以下に記載する熱分解ステップと同様である。
【0040】
<熱分解ステップ>
本発明の高分子化合物の分解方法は、上記放射線照射ステップで電子線又はガンマ線を照射した高分子材料を熱分解する。熱分解ステップでは、高分子材料を分解することができればよく、分解後の化合物はどのような状態でもよいが、高分子材料の再資源化の観点から、高分子材料の構成単位化合物(モノマー、オリゴマーなど)に分解することが好ましい。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を分解する場合には、テトラフルオロエチレンまで分解することが好ましい。
【0041】
熱分解ステップにおける熱分解の温度は、特に制限されないが、例えば、100~1000℃である。
エネルギー効率を向上するという観点では、熱分解の温度を低下することが好ましく、上限値として、好ましくは600℃以下であり、より好ましくは500℃以下であり、更に好ましくは300℃以下であり、特に好ましくは200℃以下である。
熱分解を促進するという観点では、熱分解の温度を高めることが好ましく、下限値として、好ましくは400℃以上であり、より好ましくは500℃以上であり、更に好ましくは600℃以上である。
【0042】
熱分解ステップは、高分子材料を加熱した状態で、放射線照射ステップを行ってもよい。なお、加熱しながら放射線を照射することを「加熱照射」ともいう。
加熱照射により、加熱温度、放射線照射量(線量)を低下することができるため、エネルギー効率に特に優れる高分子材料の分解方法を提供することができる。また、放射線照射ステップと熱分解ステップを同時に行うことができるため、作業の効率化などの効果を得ることができる。
【0043】
加熱照射における加熱温度は、特に制限されないが、例えば、100~1000℃である。
エネルギー効率の向上を図るという観点では、熱分解の温度を低下させることが好ましく、上限値として、好ましくは600℃以下であり、より好ましくは400℃以下であり、更に好ましくは300℃以下であり、特に好ましくは200℃以下である。
熱分解を促進するという観点では、熱分解の温度を高めることが好ましく、下限値として、好ましくは200℃以上であり、より好ましくは300℃以上であり、更に好ましくは400℃以上である。
【0044】
加熱照射における電子線又はガンマ線の照射量(線量)は、特に制限されないが、例えば、1kGy~20MGyである。下限値として、好ましくは100kGy以上であり、より好ましくは600kGy以上であり、更に好ましくは1MGy以上であり、より更に好ましくは2MGy以上であり、特に好ましくは4MGy以上である。上限値として、好ましくは15MGy以下である。
2MGy以上で照射すると、照射による分解が顕著に起こる。
【0045】
[高分子材料の構成単位化合物の製造方法及び製造装置]
本発明の高分子材料の構成単位化合物の製造方法及び製造装置は、上記の本発明の高分子材料の分解方法及び分解装置により得られた分解物として、高分子材料の構成単位化合物を製造する方法(装置)である。
高分子材料に金属系触媒を添加する触媒添加ステップ(触媒添加部)、高分子材料に電子線又はガンマ線を照射する放射線照射ステップ(放射線照射部)、電子線又はガンマ線を照射した高分子材料を熱分解する熱分解ステップ(熱分解部)は、高分子材料の分解方法及び分解装置と同様である。
【0046】
<第1の実施態様>
図7に、本発明の第1の実施態様の高分子材料の分解装置(高分子材料の構成単位化合物の製造装置)1Aの構成を説明する概略説明図を図示した。
第1の実施態様の高分子材料の分解装置(高分子材料の構成単位化合物の製造装置)1Aは、放射線照射部2、熱分解部3を備える。高分子材料Pは、放射線照射部2により、電子線又はガンマ線が照射され、その後、熱分解部3で構成単位化合物Mまで熱分解する。
【0047】
<第2の実施態様>
図8に、本発明の第2の実施態様の高分子材料の分解装置(高分子材料の構成単位化合物の製造装置)1Bの構成を説明する概略説明図を図示した。
第2の実施態様の高分子材料の分解装置(高分子材料の構成単位化合物の製造装置)1Bは、触媒添加部4、放射線照射部2、熱分解部3を備える。高分子材料Pは、触媒添加部4で触媒と混合する。次に、放射線照射部2で、触媒と混合された高分子材料Pに対して電子線又はガンマ線が照射され、その後、熱分解部3で構成単位化合物Mまで熱分解する。
【0048】
<第3の実施態様>
図9に、本発明の第3の実施態様の高分子材料の分解装置(高分子材料の構成単位化合物の製造装置)1Cの構成を説明する概略説明図を図示した。
第3の実施態様の高分子材料の分解装置(高分子材料の構成単位化合物の製造装置)1Cは、触媒添加部4、放射線(電子線)照射部21を備える。高分子材料Pは、触媒添加部4で触媒と混合する。次に、放射線(電子線)照射部21で、触媒と混合された高分子材料Pに対して電子線を照射することにより、電子線の照射と同時に高分子材料Pが加熱され、構成単位化合物Mまで分解する。
【実施例0049】
次に、本発明を実施例及び比較例に基づき説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0050】
(放射線照射による熱分解温度の低下効果についての検討)
フッ素系樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末(富士フィルム和光純薬株式会社)に対し、空気中室温において2MeV電子線を最大15MGyまで照射した。その後、残渣物についてアルゴンガス中における熱重量分析(TGA)を行ない、加熱に伴う重量減少を測定した。未照射PTFEと電子線照射PTFEの結果を
図1(a)に示す。電子線照射PTFEの方が低温から重量減少を伴う熱分解が開始していることが明らかであり、熱分解開始を表す指標である5%重量減少温度は、未照射PTFEの522℃に対し、電子線照射PTFEでは160℃まで低下した。5%重量減少温度は、電子線の照射量によって変化し、10MGy以上、約160℃で飽和した(
図1(b))。
なお、100%重量減少温度は、4MGyの場合、578℃、10MGyの場合、573℃であった。これに対し、未照射の場合には、595℃であった。
図1(a)の結果を基に、PTFEの分解処理プロセスにおいて必要な電力量を試算した。その結果、未照射PTFEの分解に要する電力量が155kWhであったのに対し、電子線照射を前処理として施した場合、66kWhとなり、本発明の方法によって従来法よりも57%電力量を削減できることが分かった。
【0051】
(金属系触媒の添加による熱分解温度の低下効果についての検討)
PTFE粉末にニッケル(Ni)触媒粉末(Nickel on silica/alumina, 65 wt% loading, Sigma-Aldrich)を重量比1:1で混合した粉末(PTFE/Ni)に対し、空気中室温において2MeV電子線を10MGyまで照射し、残渣物についてアルゴンガス中における熱重量分析(TGA)を行ない、PTFE成分の重量変化を調べた。
図2(a)に示すように、未照射PTFE/Niの場合でも、未照射PTFEよりも低温で熱分解が開始するが、電子線照射PTFE/Niの場合、さらに低温で熱分解が開始し、400℃までに80%分解されることが分かった。従来方法ではこの温度域で重量減少はゼロであり、本発明の方法により、低温処理が可能になることを示している。5%重量減少温度を比較すると、未照射PTFE:522℃、電子線照射PTFE:160℃、未照射PTFE/Ni:340℃、電子線照射PTFE/Ni:103℃となることが分かった。Niや鉄(Fe)、コバルト(Co)等の遷移金属微粒子はプラスチックの樹脂の熱分解を促進することが知られており(例えば、非特許文献1参照。)、本発明でも同様の効果が見られたが、電子線照射処理を加えることによってその効果を大幅に促進することが可能であることを見出した。
【0052】
(触媒添加ステップと放射線照射ステップの順についての検討)
PTFE粉末の熱分解挙動に及ぼすNi触媒の混合順序の影響を調べた。検討した方法は、(1)未照射PTFEと未照射Ni触媒を混合、(2)未照射PTFEと電子線照射Ni触媒を混合、(3)電子線照射PTFEと未照射Ni触媒を混合、(4)電子線照射PTFEと電子線照射Ni触媒を混合、(5)PTFEとNi触媒の混合物に電子線照射、である。電子線照射は空気中、室温(25℃)、線量:10MGyの条件で行ない、PTFEとNi触媒の混合比は、重量比1:1とした。
図3に示すアルゴンガス中におけるTGAの結果から、予めPTFEとNi触媒を混合して電子線照射することにより、最も熱分解の温度を低下することができた。なお、
図3における重量残存率(%)は、PTFEとNi触媒を含む試料全体に対する重量残存率である。
電子線照射によるPTFE単体の重量変化を調べた結果、空気中、室温(25℃)、10MGyの条件で43%の重量減少(ガス化)が起こることが分かった。そこで、Ni触媒単体、PTFE/Ni触媒(重量比1:1)についても同様に電子線照射による重量変化を調べたところ、Ni触媒単体では、-8%(酸化による重量増加)、PTFE/Ni触媒では、23%となる結果が得られた。(43×0.5)+(-8×0.5)=17.5であり、PTFE/Ni触媒混合物において単純な加成性が成立せず、ガス化が促進されていることが明らかになった。
【0053】
(加熱照射によるPTFEの熱分解)
温度制御可能な恒温槽(高温電子線照射用容器)内にPTFE粉末、Ni系触媒/PTFE混合粉末(混合比50wt:50wt)を設置し、乾燥空気の流通下、所定の温度で電子線を7.5MGyまで照射後の試料の重量減少を評価した。電子線照射条件は、次のとおりである。
<電子線照射条件>
加速電圧:2MeV、ビーム電流:1.5mA(線量率:1.23kGy/sec)、照射時間:6098sec
【0054】
結果を
図4にまとめる。
図4(a)は、PTFE粉末と、Ni系触媒/PTFE混合粉末の試料全体に対する重量減少率である。
図4(b)は、Ni系触媒/PTFE混合粉末の重量減少率から、PTFE成分の重量減少率に換算したものである。
【0055】
図4(a)に示す照射温度と試料の重量減少率の関係より、370℃で電子線を照射することにより、触媒非添加PTFEでもほぼ100%ガス化して消失することを明らかにした。
図4(b)に示すPTFE成分の重量減少に換算した結果より、加熱照射の場合、ガス化に対する金属触媒の添加効果は大きくないことが分かった。つまり、加熱照射の場合には、触媒の添加は、本発明の必須の要件ではない。
【0056】
(加熱照射による熱分解における電子線照射時間とPTFEの重量減少の関係)
温度制御可能な恒温槽内にPTFE粉末を設置し、乾燥空気の流通下、370℃の加熱状態で電子線を最大7.5MGyまで照射後の試料の重量減少を評価した。電子線照射条件は次のとおりである。
<電子線照射条件>
加速電圧:2MeV、ビーム電流:1.25mA(線量率:1kGy/sec)、照射時間:最大7500sec(線量:最大7.5MGy)
【0057】
結果を
図5にまとめる。
図5を参照すると、2.5MGyにおいて、照射後の重量減少は93%であったが、5MGy以上の照射によって、触媒非添加PTFEが100%ガス化することを明らかにした。室温照射の場合、10MGyまで照射しても重量減少は43%であり、加熱照射によって、分解を促進することが可能であることがわかった。
なお、未照射PTFEを空気中、10℃/minで370℃まで加熱・2h保持した時、重量減少が全くないことを確認した(不図示)。すなわち、370℃照射における重量減少は、電子線照射と加熱の複合作用による分解を示す。
【0058】
加熱照射による分解では、放射線照射ステップと熱分解ステップを別々に処理する場合と比較して、触媒を必要としないこと、100%重量減少するための加熱温度を低減できることなどの利点がある。
本発明の高分子材料の分解方法及び分解装置は、廃プラスチックの処理、廃フッ素系樹脂の処理に適用することにより、環境負荷の小さい処理方法を提供することができる。
また、本発明の高分子材料の構成単位化合物の製造方法及び製造装置は、廃プラスチック、廃フッ素系樹脂から構成単位化合物を製造することが可能であり、廃プラスチック、廃フッ素系樹脂を新たな高分子材料の原料として再利用することができる。
1A,1B,1C…高分子材料の分解装置(高分子材料の構成単位化合物の製造装置)、2…放射線照射部、21…放射線(電子線)照射部、3…熱分解部、4…触媒添加部、P…高分子材料、M…構成単位化合物