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特開2025-15521対物ワイパー用不織布および対物ワイパー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015521
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】対物ワイパー用不織布および対物ワイパー
(51)【国際特許分類】
   A47L 13/16 20060101AFI20250123BHJP
   A47L 13/17 20060101ALI20250123BHJP
   D04H 1/4374 20120101ALI20250123BHJP
   D04H 1/498 20120101ALI20250123BHJP
   D04H 1/425 20120101ALI20250123BHJP
   D04H 1/4258 20120101ALI20250123BHJP
   D04H 1/485 20120101ALI20250123BHJP
   D04H 1/495 20120101ALI20250123BHJP
   D04H 1/49 20120101ALI20250123BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20250123BHJP
   B32B 23/10 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
A47L13/16 A
A47L13/17 A
D04H1/4374
D04H1/498
D04H1/425
D04H1/4258
D04H1/485
D04H1/495
D04H1/49
B32B5/26
B32B23/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024116042
(22)【出願日】2024-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2023117774
(32)【優先日】2023-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】519354108
【氏名又は名称】大和紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100107180
【弁理士】
【氏名又は名称】玄番 佐奈恵
(72)【発明者】
【氏名】森田 遼
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 歩夢
【テーマコード(参考)】
3B074
4F100
4L047
【Fターム(参考)】
3B074AA01
3B074AA02
3B074AA08
3B074AB01
3B074AC02
3B074AC03
3B074CC03
4F100AJ04
4F100AJ04A
4F100AJ04B
4F100AJ04C
4F100AK01A
4F100AK01C
4F100AK04
4F100AK07
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA07
4F100DG01
4F100DG01A
4F100DG01B
4F100DG01C
4F100DG15
4F100DG15A
4F100DG15B
4F100DG15C
4F100JB05
4F100JB05A
4F100JB05B
4F100JB05C
4F100JC00
4F100JC00A
4F100JC00C
4F100JK02
4F100JK02A
4F100JK02B
4F100JK02C
4F100JK08
4F100JL16A
4F100JL16C
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
4L047AA08
4L047AA12
4L047AA14
4L047AA27
4L047AA28
4L047AB06
4L047BA04
4L047BA09
4L047BA21
4L047BA24
4L047BB01
4L047BB02
4L047BB09
4L047CA02
4L047CA05
4L047CA14
4L047CB01
4L047CB07
4L047CC16
(57)【要約】
【課題】汚れの捕集性等が高いワイパー等を与える液体含浸用不織布を提供する。
【解決手段】第一繊維層、第二繊維層、および前記第一繊維層と前記第二繊維層との間に位置する中間繊維層とを有し、前記第一繊維層および前記第二繊維層のいずれか一方が、親水性セルロース繊維を50質量%以上含む繊維層aであり、前記中間繊維層が親水性セルロース繊維を50質量%以上含む繊維層、および/または繊維長20mm以下の短繊維からなる湿式不織布であり、各繊維層が繊維同士の交絡により一体化しており、乾燥状態でのMD方向の5%伸長時応力(N/5cm)を不織布の目付(g/m)で除したMD5%伸長時応力指数が0.150以上であるか、および/または湿潤状態でのMD方向の5%伸長時応力(N/5cm)を不織布の目付(g/m)で除したMD5%伸長時応力指数が0.050以上である、対物ワイパー用不織布。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一繊維層、第二繊維層、および前記第一繊維層と前記第二繊維層との間に位置する中間繊維層とを有し、
前記第一繊維層および前記第二繊維層のいずれか一方が、親水性セルロース繊維を50質量%以上含む繊維層aであり、
前記中間繊維層が親水性セルロース繊維を50質量%以上含む繊維層、および/または繊維長20mm以下の短繊維からなる湿式不織布であり、
各繊維層が繊維同士の交絡により一体化しており、
乾燥状態でのMD方向の5%伸長時応力(N/5cm)を不織布の目付(g/m)で除したMD5%伸長時応力指数が0.150以上であるか、および/または不織布100質量部に対し250質量部の水を含浸させた湿潤状態でのMD方向の5%伸長時応力(N/5cm)を不織布の目付(g/m)で除したMD5%伸長時応力指数が0.050以上である、
対物ワイパー用不織布。
【請求項2】
前記第一繊維層および前記第二繊維層がともに、前記繊維層aである、請求項1に記載の対物ワイパー用不織布。
【請求項3】
前記中間繊維層が、パルプからなる湿式不織布である、請求項1または2に記載の対物ワイパー用不織布。
【請求項4】
前記繊維層aが合成繊維を0質量%超50質量%以下含む、請求項1または2に記載の対物ワイパー用不織布。
【請求項5】
前記合成繊維が、バイオマス原料を含む合成繊維、生分解性合成繊維、及びリサイクル原料を含む合成繊維から選択される、1種または複数種の合成繊維である、請求項4に記載の対物ワイパー用不織布。
【請求項6】
前記合成繊維の一部または全部が接着性繊維であり、前記繊維層aにおいて繊維同士が前記接着性繊維により接着されている、請求項4に記載の対物ワイパー用不織布。
【請求項7】
乾燥状態の伸び率および/または不織布100質量部に水を250質量部含浸させた湿潤状態の伸び率(%)が、85%以上である、請求項1または2に記載の対物ワイパー用不織布。
【請求項8】
繊維同士の交絡の度合いがより高い高交絡部と、繊維同士の交絡の度合いがより低い低交絡部とを含み、
前記高交絡部と前記低交絡部とは平面視で交互に配置されており、
前記低交絡部の幅が2mm以上50mm以下である、
請求項1に記載の対物ワイパー用不織布。
【請求項9】
前記高交絡部に低密度領域が形成されている、請求項8に記載の対物ワイパー用不織布。
【請求項10】
第一繊維ウェブと第二繊維ウェブとの間に、中間繊維ウェブが配置された積層ウェブを準備すること、
前記積層ウェブを、高圧流体流による交絡処理に付すこと
を含み、
前記第一繊維ウェブおよび前記第二繊維ウェブの一方または両方が、親水性セルロース繊維を50質量%以上含む繊維ウェブAであり、
前記中間繊維ウェブが、親水性セルロース繊維を50質量%以上含む繊維ウェブ、および/または湿式不織布であり、
前記交絡処理を、前記積層ウェブに噴射する水流の総エネルギーTEが0.11khw/kg/m以上1.20khw/kg/m以下となるように実施する、
乾燥状態でのMD方向の5%伸長時応力(N/5cm)を不織布の目付(g/m)で除したMD5%伸長時応力指数が0.150以上であるか、および/または不織布100質量部に250質量部の水を含浸させた湿潤状態でのMD方向の5%伸長時応力(N/5cm)を不織布の目付(g/m)で除したMD5%伸長時応力指数が0.050以上である、対物ワイパー用不織布の製造方法。
【請求項11】
前記交絡処理が、前記繊維ウェブAの側の面に、オリフィスが一定間隔で設けられたオリフィス集合部と、前記オリフィス集合部の間に設けられた、2mm以上50mm以下の幅を有する無オリフィス部とを有するノズルから水流を噴射して、高交絡部と低交絡部とをCD方向に交互に形成することを含む、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1、2または8のいずれか1項に記載の対物ワイパー用不織布100質量部に対して、液体を100質量部以上1000質量部以下の量で含浸させてなり、
前記繊維層aの表面を拭き取り面とする、
対物ワイパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対物ワイパー用不織布および当該不織布を含むワイパーに関する。
【背景技術】
【0002】
不織布の用途の一つとして、物から汚れを拭き取るためのワイパー(対物ワイパー)がある。例えば、特許文献1には、湾曲部を有する繊維を含む不織布ワイパーであって、湾曲部の少なくとも一部が複数個所の屈曲部を有し、複数個所の屈曲部を有する湾曲部が、不織布ワイパーの表面1mmあたり2個以上存在するワイパーを、が、凹凸がある表面(例えばスクリーン印刷に使用する細かなメッシュ)の拭き取りに適した工業用ワイパーとして使用することが提案されている。また、特許文献2には、少なくとも吸水性繊維を含有した生分解性繊維によって形成された繊維シートに、食品及び/又は食品添加物として認められる化合物からなる清浄用組成物を含有させた繊維シートを、ウェットな状態で拭き取り作業に使用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-068032号公報
【特許文献2】特開2000-102492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
汚れの捕集性等が高い対物ワイパーを与える不織布を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る不織布は、第一繊維層、第二繊維層、および前記第一繊維層と前記第二繊維層との間に位置する中間繊維層とを有し、
前記第一繊維層および前記第二繊維層のいずれか一方が、親水性セルロース繊維を50質量%以上含む繊維層aであり、
前記中間繊維層が親水性セルロース繊維を50質量%以上含む繊維層、および/または湿式不織布であり、
乾燥状態でのMD方向の5%伸長時応力(N/5cm)を不織布の目付(g/m)で除したMD5%伸長時応力指数が0.150以上であるか、および/または不織布100質量部に対し250質量部の水を含浸させた湿潤状態でのMD方向の5%伸長時応力(N/5cm)を不織布の目付(g/m)で除したMD5%伸長時応力指数が0.050以上である、
対物ワイパー用不織布である。
【発明の効果】
【0006】
本開示の不織布を対物ワイパーとして用いたときには、一旦不織布に取り込んだ汚れを脱落させにくく、ワイパーの汚れの捕集性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(本開示のワイパー用不織布に至った経緯)
対物用ワイパーは、様々な物から様々な汚れを取り除くために用いられ、例えば、床面を清掃するためのワイパーは、ダスト(砂埃)のような細かい汚れとともに、食べ屑や毛髪等、ダストよりも寸法の大きい固形物を同時に取り除くものであり、やや大きな固形物の汚れの捕集性(拭き取った汚れをワイパー内にとどめる性質)が重視される。
【0008】
本発明者らは、寸法のやや大きな固形物汚れを含む各種汚れの捕集性を向上する構成を検討した結果、一つのワイパーで拭き取り対象(例えば、数畳分の床)を擦って清拭する場合、拭き取り動作の初期において、静摩擦的にワイパーに負荷がかかりやすく、そのため縒れや伸びが生じてしまい、初期の捕集性が十分に発揮されないと考えた。一方で、拭き取り動作の中期から後期にかけて、汚れをある程度捕集していった際に、ワイパー内の空隙が減り、汚れで飽和されてしまい、多くの汚れを捕集できないのではとも考えた。さらにまた、清拭作業中に生じるワイパーの縒れや伸びは、繊維間空隙の変形または拡大を生じさせ、それにより、保持されていた汚れが脱落するのではないかと考えた。
【0009】
そこで、本発明者らは、清拭作業中に発生する縒れや伸びと、汚れ捕集性および清拭作業中の汚れの脱落との関係を検討し、縒れや伸びが、ワイパーを構成する不織布のMD方向(機械方向ともいう)の5%伸長時応力と関係すると考えた。そして、MD方向の5%伸長時応力を目付で除したMD5%伸長時応力指数が所定値以上となるように構成した不織布は、汚れ捕集性を向上させ得ることを見出した。また、そのような不織布を、高圧流体流を用いた交絡処理法により製造すると、流体流の噴射によって筋状の凹凸として形成される流体痕がより明瞭となる傾向にあり、その凹凸が、汚れを掻き取る役割をするとともに、汚れを保持して、汚れの捕集性をより向上させると推察された。
【0010】
繊維ウェブに噴射する水流の総エネルギーを調整し、形成した筋状の凹凸は、MD方向に連続しており、凹部が凡そ0.5mm幅、凸部が凡そ1.0mm幅となりやすい。汚れの代表的なものとして、毛髪は一般的に太くても凡そ0.1mmと言われており、前記サイズの凹部に入り込める大きさのため、この凹凸形状が明瞭に有る場合、より汚れ(特に毛髪)を捕集すると期待される。
以下、本開示に係る対物ワイパー用不織布の実施の形態を説明する。
【0011】
(不織布の構成)
本開示の実施の形態に係る不織布は、第一繊維層、第二繊維層、および前記第一繊維層と前記第二繊維層との間に位置する中間繊維層とを有し、
前記第一繊維層および前記第二繊維層のいずれか一方が、親水性セルロース繊維を50質量%以上含む繊維層aであり、
前記中間繊維層が親水性セルロース繊維を50質量%以上含む繊維層、および/または繊維長20mm以下の短繊維からなる湿式不織布であり、
各繊維層が繊維同士の交絡により一体化しており、
乾燥状態でのMD方向の5%伸長時応力(N/5cm)を不織布の目付(g/m)で除したMD5%伸長時応力指数が0.150以上であるか、および/または不織布100質量部に対し250質量部の水を含浸させた湿潤状態でのMD方向の5%伸長時応力(N/5cm)を不織布の目付(g/m)で除したMD5%伸長時応力指数が0.050以上である、対物ワイパー用不織布である。
【0012】
本実施形態の対物ワイパー用不織布(以下、単に「不織布」ともいう)においては、第一繊維層および第二繊維層のうち、いずれか一方が親水性セルロース繊維を50質量%以上含む繊維層aであり、中間繊維層が親水性セルロース繊維を50質量%以上含む繊維層、および/または湿式不織布である。後述するように、高圧流体流として高圧水流を用いて繊維同士を交絡させる方法で不織布を製造する場合、親水性セルロース繊維は、繊維同士の交絡を促進して、MD5%伸長時応力が高い不織布の製造を容易にする。したがって、繊維層aおよび中間繊維層がともに親水性セルロース繊維を含む構成においては、親水性セルロース繊維によって、MD5%伸長時応力の高い不織布を得ることが容易となる。また、高圧流体流を用いて繊維同士を交絡させる方法で不織布を製造する場合、中間繊維層が繊維長の短い繊維からなる湿式不織布である場合にも、繊維同士の交絡がより進行する傾向にある。したがって、繊維層aが親水性セルロース繊維を含み、中間繊維層が湿式不織布である構成においても、MD5%伸長時応力の高い不織布を得ることが容易となる。
【0013】
親水性セルロース繊維は、それ自体が吸水性を有して液体を蓄えることができる。したがって、本実施形態の不織布に液体を含浸させると、繊維層および中間繊維層に含まれる親水性セルロース繊維は、不織布に形成される繊維間空隙とともに、不織布に含浸された液体を保持する役割をする。あるいは、本実施形態の不織布をドライタイプの対物ワイパーとして使用する場合には、液体を拭き取る際に、繊維層aおよび中間繊維層に含まれる親水性セルロース繊維は拭き取った液体を吸収して、対象物に液体を残しにくくする。
【0014】
本実施形態の不織布の第一繊維層および/または第二繊維層となる繊維層aに含まれる親水性セルロース繊維の詳細は後述するとおりであり、繊維層aはこれを50質量%以上含み、特に55質量%以上含み、より特には60質量%以上含み、さらにより特には75質量%以上含む。繊維層aは親水性セルロース繊維のみで構成されてよい。親水性セルロース繊維の割合が小さいと、不織布に含浸させる液体の量が小さくなり、用途によっては湿潤性が不足する、あるいは液体の拭き取り性が低下することがある。また、親水性セルロース繊維の割合が小さいと、後述するように高圧水流を用いて不織布を製造する場合に、繊維同士の交絡が不十分となって、上記範囲のMD5%伸長時応力指数を得られないことがある。
【0015】
繊維層aは、親水性セルロース繊維に加えて、他の繊維を含んでよく、特に他の繊維として合成繊維を含んでよい。合成繊維は、不織布の機械的強度を向上させ、不織布に剛性を付与する点から好ましく用いられる。合成繊維の詳細は後述する。繊維層aが他の繊維として合成繊維を含む場合、合成繊維が繊維層aに占める割合は、0質量%を超え50質量%以下であってよく、特に5質量%以上45質量%以下、より特には10質量%以上40質量%以下、さらにより特には15質量%以上25質量%以下であってよい。合成繊維の割合が50質量%を超えると、親水性セルロース繊維の割合がそれだけ減少して、液体を含浸させるときに、液体の含浸量が低下することがある。また、合成繊維の割合が大きすぎる場合には、高圧水流により繊維同士を交絡させる際に繊維同士の交絡が不十分となって、上記範囲のMD5%伸長時応力指数を得られないことがある。さらにまた、合成繊維の割合が大きすぎる場合には、不織布における繊維間空隙が過度に大きくなることがある。大きな繊維間空隙に保持される液体は、拭き圧によって一度放出されやすいため、合成繊維の割合が大きすぎると、液体をあらかじめ含浸させたときの不織布の液体の徐放性が低下することがあり、あるいは拭き取った液体が再度対象物に放出されることがある。
【0016】
繊維層aが二種類以上の合成繊維を含む場合、少なくとも一種類の合成繊維が接着性繊維として使用され、少なくとも一種類の合成繊維が非接着性繊維として存在してよい。ここで、非接着性繊維は、接着性繊維の接着成分が溶融または軟化して繊維同士を接着する温度にて、溶融または軟化せずに、その繊維形状を保持するものである。したがって、接着性繊維であるか、非接着性繊維であるかは、それぞれの繊維を構成する樹脂と、不織布を製造する際の条件(加熱温度)により決定される。例えば、ポリエチレンを一成分とする合成繊維を135℃程度の加熱処理に付して、ポリエチレンを接着成分とする接着性繊維として用い、ポリプロピレンまたはポリエチレンテレフタレートからなる単一合成繊維を非接着性繊維として用いてよい。
【0017】
合成繊維の一部または全部が接着性繊維であって、接着性繊維が繊維同士を接合している場合、不織布の機械的特性がより向上するため、接着性繊維を用いることで、上記範囲のMD5%伸長時応力指数を得ることが容易となる。そのため、接着性繊維は、本実施形態において好ましく用いられる。尤も、接着性繊維を含まなくとも、繊維層aおよび中間繊維層の構成を適宜選択し、不織布の製造条件を適宜選択することによって、上記範囲のMD5%伸長時応力指数を達成することは可能である。
【0018】
合成繊維を繊維層aに含有させる場合、合成繊維は、バイオマス原料を含む合成繊維、生分解性合成繊維、及びリサイクル原料を含む合成繊維から選択される1種または複数種の合成繊維であってよい。そのような合成繊維は、SDGsの観点から親水性セルロース繊維とともに好ましく用いられる。
【0019】
繊維層aはまた、他の繊維として、撥水性セルロース繊維、親水性セルロース繊維ではない天然繊維等を含んでよい。ここで、撥水性セルロース繊維とは、後述するとおり、本来親水性を有するセルロース繊維に対し、人為的に撥水性を付与したセルロース繊維をいう。
【0020】
本実施形態において、第一および第二繊維層のいずれか一方または両方が繊維層aである。一方の繊維層のみを繊維層aとする場合、他方の繊維層は、親水性セルロース繊維を50%未満の割合で含む繊維層、合成繊維のみで構成される繊維層、またはセルロース繊維ではない天然繊維を含む繊維層等であってよい。
【0021】
第一および第二繊維層の両方を繊維層aとする場合、両繊維層は、繊維の種類、繊維の混合割合、および繊維層の製造形態(繊維ウェブの種類)等において、同じであっても、異なっていてもよい。例えば、二つの繊維層の繊維の割合を変えることで、二つの繊維層の表面をそれぞれ異なる用途(一方の面をフローリング面の拭き取り、他方の面を洗面所の床面の拭き取り)に用いることができる。
【0022】
本実施形態において、中間繊維層は、親水性セルロース繊維を50質量%以上含む繊維層、および/または繊維長20mm以下の短繊維からなる湿式不織布であり、第一繊維層と第二繊維層との間に位置する。
【0023】
中間繊維層が親水性セルロース繊維を含む繊維層である場合、親水性セルロース繊維の割合は、特に60質量%以上であってよく、より特には70質量%以上であってよい。中間繊維層は、親水性セルロース繊維のみで構成されていてよい。
中間繊維層が親水性セルロース繊維を含むことで、親水性セルロース繊維を含む繊維層aとともに、不織布に液体を含浸させるときには、十分な量の液体を含浸させることが容易になる。中間繊維層の親水性セルロース繊維はまた、高圧水流で繊維同士を交絡させる際に、第一繊維層および第二繊維層と、中間繊維層との間で、繊維同士が交絡することを促進し、不織布の機械的強度を高める役割をする。したがって、中間繊維層に占める親水性セルロース繊維の割合が小さいと、用途によっては湿潤性が不足する、または液体の拭き取り性が低下することがあり、また、上記範囲のMD5%伸長時応力指数を得られないことがある。
【0024】
親水性セルロース繊維を50質量%以上含む中間繊維層は、例えば、メルトブローン不織布や、長繊維不織布(スパンボンド不織布ともいう)であってよく、短繊維により形成されるエアスルー不織布やポイントボンド不織布、あるいは湿式不織布であってよい。
【0025】
中間繊維層が繊維長20mm以下の短繊維からなる湿式不織布である場合、湿式不織布は、高圧流体流の噴射により繊維同士を交絡させる際に、その上下に位置する繊維層と良好に交絡し、上記範囲のMD5%伸長時応力指数を有する不織布を与えやすい。また、湿式不織布は、MD方向およびCD方向の機械的特性に差が少ないことから、CD方向においても5%伸長時応力の大きい不織布を与えやすい。
【0026】
本実施形態において、中間繊維層は、特に、親水性セルロース繊維を50質量%以上含む湿式不織布であってよい。親水性セルロース繊維を含む湿式不織布は、最終的に得られる不織布の5%伸長時応力を上記範囲とするうえで好ましく用いられる。また、親水性セルロース繊維を含む湿式不織布は、吸水性に優れ、多くの液体を保持することができる。そのため、本実施形態の不織布に液体を含浸させて、ウェット対物ワイパーとして使用する場合、パルプからなる湿式不織布は、液体(例えば、ウェットワイプに含まれる洗浄液)を溜めるタンクとして機能し、拭き取り作業中、液体を長時間にわたって拭き取り面に供給する機能を奏することができ、あるいは拭き取った液体を保持することができる。
【0027】
あるいは、中間繊維層は、パルプからなる湿式不織布(またはティッシュ)であってよい。パルプからなる湿式不織布においては、繊維同士の交絡が緊密でないことから、繊維同士を高圧水流で交絡させる場合に、繊維層aを構成する繊維と良好に交絡して、不織布全体の機械的強度を向上させ得る。その結果、得られる不織布のMD5%伸長時応力指数を上記範囲にすることが容易となる。また、パルプは一般に木材ないしは天然繊維由来のものであるので、パルプからなる湿式不織布は不織布の吸水性向上に資する。
【0028】
本実施形態の不織布において、繊維層aの目付は、例えば10g/m以上70g/m以下の目付を有してよく、特に10g/m以上65g/m以下の目付を有してよく、より特には15g/m以上60g/m以下の目付を有してよく、さらにより特には20g/m以上55g/m以下の目付を有してよい。第一繊維層または第二繊維層のいずれかが繊維層aでない場合、繊維層aでない繊維層の目付は、例えば10g/m以上65g/m以下の目付を有してよく、特に15g/m以上60g/m以下の目付を有してよく、より特には20g/m以上55g/m以下の目付を有してよい。
【0029】
繊維層aが第一繊維層および第二繊維層として存在する場合、第一繊維層および第二繊維層はそれぞれ、例えば10g/m以上50g/m以下の目付を有してよく、特に12.5g/m以上47.5g/m以下の目付を有してよく、より特には15g/m以上45g/m以下の目付を有してよく、さらにより特には17.5g/m以上40g/m以下の目付を有してよい。
【0030】
また、第一および第二繊維層とともに不織布を構成する中間繊維層は、例えば5g/m以上50g/m以下の目付を有してよく、特に6g/m以上45g/m以下の目付を有してよく、より特には7g/m以上40g/m以下の目付を有してよく、さらにより特には8g/m以上35g/m以下の目付を有してよい。
【0031】
第一および第二繊維層と中間繊維層とを含む構成の不織布において、不織布全体の目付を1としたときに、これに対する中間繊維層の目付の比(中間繊維層/不織布全体)は、例えば0.05以上1以下、特に0.10以上0.80以下、より特には0.15以上0.60以下であってよい。中間繊維層の不織布に占める割合が大きすぎると、第一および第二繊維層との交絡を阻害し、ワイパーとして用いる際に第一または第二繊維層が剥離してしまうことがある。また、一方、中間繊維層の目付の割合が小さすぎると、不織布のMD5%伸長時応力指数が上記範囲外となることがある。
【0032】
本実施形態の不織布全体の目付は用途等に応じて適宜選択してよい。本実施形態の不織布は全体として、例えば30g/m以上100g/m以下の目付を有してよく、特に35g/m以上95g/m以下の目付を有してよく、より特には40g/m以上90g/m以下の目付を有してよく、さらにより特には45g/m以上85g/m以下の目付を有してよい。
【0033】
本実施形態の不織布は、後述するように特定の水流交絡処理を実施することで、繊維の交絡度合いの異なる部分、すなわち高交絡部と低交絡部とがCD方向に交互に形成された縞状の模様を有するものであってよい。高交絡部は、繊維同士がより緊密に交絡している部分であり、不織布の強力をある程度高くすることに寄与し、低交絡部は、繊維同士の交絡の度合いが低いために、繊維の自由度が比較的高く、不織布の嵩をある程度高くすることに寄与する。
【0034】
本実施形態の不織布において、低交絡部は2mm以上50mm以下の幅を有してよく、そのような幅の低交絡部を有することで、不織布全体として、繊維の自由度を比較的高くできる。低交絡部の幅は、特に3mm以上25mm以下としてよく、より特には4mm以上20mm以下としてよく、さらにより特には6mm以上15mm以下としてよく、さらにより特には8mmより大きく12mm以下としてよい。高交絡部の幅は、例えば2mm以上50mm以下としてよく、特に3mm以上25mm以下としてよく、より特には4mm以上20mm以下としてよく、さらにより特には8mm以上12mm以下としてよい。あるいは、高交絡部は、幅が2mmよりも小さい線条部であってもよい。
このような模様を有する不織布においては、高交絡部は、ワイパーの機械的強度を高くする役割をし、低交絡部は汚れを拭き取り、これを捕集する役割をすると考えられる。
【0035】
後述するように、高交絡部を形成する際に用いる支持体を選択することで、高交絡部に低密度領域を規則的に形成して、模様を形成することができる。高交絡部に模様が形成された不織布は、意匠効果を発揮するものとなる。また、高交絡部において低密度領域が形成されることで、低密度領域によって汚れの捕集性を向上させることができる。
【0036】
低密度領域は一つあたり、例えば、0.03mm~20mmの面積を有してよく、特に、0.1mm~10mmの面積を有してよく、より特には、0.7mm~5.0mmの面積を有してよい。あるいは、高交絡部に形成される模様は、低密度領域が形成した杉綾の模様であってよい。低密度領域が小さすぎると、低密度領域が十分に認識されず、意匠効果が十分に発揮されないことがある。低密度領域が大きすぎると、不織布において伸び、ヨレ、破れ等の変形または破損が生じやすくなって、取扱い性が低下する。また、低密度領域が大きすぎると、かえって低密度領域として認識されにくくなることがあり、意匠効果が十分に発揮されないことがある。
【0037】
低密度領域は、繊維が存在しない開孔部であってよく、または開孔部でなくてもよい。あるいは、一つの不織布において、開孔部と開孔部でない低密度領域とがともに存在して模様を形成していてよい。
【0038】
本実施形態の不織布においては、必要に応じて、表面に凸部を有するエンボスロールを用いて、不織布表面にエンボスロールの凸部に対応する形状の凹部を形成してもよい。凸部の形状は、上面から見て、円形、四角形、楕円形、ダイヤ形、長方形であってよく、側面から見て、台形、四角形、湾曲形状であってもよい。不織布に形成される凹部により、不織布の表面と拭き取り対象物との間の摩擦力を適切に調節できる。凹部は、高交絡部と低交絡部とにより形成された模様を有する不織布にさらに形成してよく、あるいはそのような模様を有しない無模様の不織布(すなわち、流体流の噴射によって筋状の凹凸として形成される流体痕のみを有する不織布)に形成してもよい。
【0039】
本実施形態の不織布は、乾燥時のMD方向の5%伸長時応力を目付で除して得られる値である、MD5%伸長時応力指数が0.150以上であるか、ならびに/あるいは湿潤時のMD方向の5%伸長時応力を目付で除して得られる値、MD5%伸長時応力指数が0.050以上である、不織布である。
【0040】
乾燥時のMD5%伸長時応力指数は、特に0.160以上であってよく、より特には0.170以上であってよい。また、乾燥時のMD5%伸長時応力指数は、0.900以下であってよく、特に0.890以下であってよく、より特には0.880以下であってよい。
湿潤時のMD5%伸長時応力指数は、特に0.050以上であってよく、より特には0.055以上であってよい。また、MD5%伸長時応力指数は、0.300以下であってよく、特に0.295以下であってよい。
【0041】
本実施形態の不織布は、乾燥時のMD5%伸長時応力指数を0.150以上とすることによって、および/または湿潤時のMD5%伸長時応力指数を0.050以上とすることによって、液体を含浸させてワイパーとして用いる際に、拭き取り中の縒れや伸びを抑制し、縒れや伸びにより繊維間空隙が拡大して、捕集した汚れが脱落することを防止している。
【0042】
また、乾燥時のMD5%伸長時応力指数および/または湿潤時のMD5%伸長時応力指数が上記所定値以上となる不織布を、高圧流体流(特に高圧水流)で繊維同士を交絡させる方法で製造する場合には、流体流の噴射痕が筋状の凹凸としてより明瞭に(すなわちより大きな段差を有して)形成される。この凹凸は、汚れの掻き取りまたはからめ取りに資し、不織布のMD5%伸長時応力指数が高いことと相俟って、不織布の汚れ捕集性を向上させていると推察される。
【0043】
本実施形態の不織布は、乾燥時のMD方向の5%伸長時応力が、例えば、10N/5cm以上であってよく、特に10.5N/5cm以上40.0N/5cm以下であってよく、より特には11.0N/5cm以上39.5N/5cm以下であってよい。また、本実施形態の不織布は、乾燥時のCD方向の5%伸長時応力が、例えば、0.1N/5cm以上7.0N/5cm以下であってよく、特に0.2N/5cm以上6.8N/5cm以下であってよく、より特には0.3N/5cm以上6.5N/5cm以下であってよい。乾燥時のMD方向の5%伸長時応力が低すぎると、これを目付で除したMD5%伸長時応力指数が0.150以上を満たしていても、製品加工時に取り扱いにくくなることがある。同様に、CD方向の5%伸長時応力が低すぎると製品加工時に取り扱いにくくなることがある。またはCD方向の5%伸長時応力が低すぎると製品加工時に取り扱いにくくなる。乾燥時のMD方向またはCD方向の5%伸長時応力が高すぎると、拭き取り操作時に繊維が動きにくくなって、繊維が動くことによる汚れの捕集性が低下することがある。
【0044】
本実施形態の不織布は、乾燥時のMD方向の引張強さが、例えば、30N/5cm以上200N/5cm以下であってよく、特に35N/5cm以上195N/5cm以下であってよく、より特には40N/5cm以上190N/5cm以下であってよい。乾燥時のMD方向の引張強さが低すぎると製品加工時に破断することがある。乾燥時のMD方向の引張強さが高すぎると、不織布が剛直となる傾向にある。剛直な不織布をワイパーとして用いると、対象物に傷がつくことがある。
【0045】
本実施形態の不織布は、乾燥時のCD方向の引張強さが、例えば、3N/5cm以上100N/5cm以下であってよく、特に4N/5cm以上95N/5cm以下であってよく、より特には5N/5cm以上90N/5cm以下であってよい。乾燥時のCD方向の引張強さが低すぎると使用時に破断することがある。乾燥時のCD方向の引張強さが高すぎると、不織布が剛直となる傾向にある。剛直な不織布をワイパーとして用いると、対象物に傷がつくことがある。
【0046】
本実施形態の不織布は、乾燥時のCD方向の伸び率が、例えば、60%以上200%以下であってよく、特に65%以上195%以下であってよく、より特には70%以上190%以下であってよい。乾燥時のCD方向の伸び率が低すぎると、ワイパーとして用いる際に繊維が動きにくくなり、繊維間空隙が変形しにくくなるために、様々な汚れを取り込みにくくなり、捕集性能が低下することがある。乾燥時のCD方向の伸び率が高すぎると、ワイパーとして用いた際にシートにかかる外圧の影響により、シートの伸びが大きくなり易く、一度捕集した汚れが脱落することがある。
【0047】
本実施形態の不織布は、湿潤時のMD方向の引張強さが、例えば、10N/5cm以上110N/5cm以下であってよく、特に12.5N/5cm以上107.5N/5cm以下であってよく、より特には15N/5cm以上105N/5cm以下であってよい。湿潤時のMD方向の引張強さが低すぎると使用時に破断することがある。湿潤時のMD方向の引張強さが高すぎると、不織布が剛直となる傾向にある。剛直な不織布をワイパーとして用いると、対象物に傷がつくことがある。
【0048】
本実施形態の不織布は、湿潤時のCD方向の引張強さが、例えば、3N/5cm以上100N/5cm以下であってよく、特に4N/5cm以上95N/5cm以下であってよく、より特には5N/5cm以上90N/5cm以下であってよい。乾燥時のCD方向の引張強さが低すぎると使用時に破断することがある。乾燥時のCD方向の引張強さが高すぎると、不織布が剛直となる傾向にある。剛直な不織布をワイパーとして用いると、対象物に傷がつくことがある。
【0049】
本実施形態の不織布は、湿潤時のCD方向の伸び率が、例えば、65%以上150%以下であってよく、特に70%以上145%以下であってよく、より特には75%以上140%以下であってよい。湿潤時のCD方向の伸び率が低すぎると、ワイパーとして用いる際に繊維が動きにくくなり、繊維間空隙が変形しにくくなるために、様々な汚れを取りこみにくくなり、捕集性能が低下することがある。湿潤時のCD方向の伸び率が高すぎると、ワイパーとして用いた際にシートにかかる外圧の影響により、シートの伸びが大きくなり易く、一度捕集した汚れが脱落することがある
【0050】
本実施形態の不織布は、乾燥時のCD方向の5%伸長時応力を目付で除して得られる値である、CD5%伸長時応力指数が0.010以上であるか、ならびに/あるいは湿潤時のCD方向の5%伸長時応力を目付で除して得られる値、CD5%伸長時応力指数が0.0035以上である、不織布であってよい。
【0051】
乾燥時のCD5%伸長時応力指数は、特に0.010以上であってよく、より特には0.012以上であってよい。また、乾燥時のCD5%伸長時応力指数は、0.110以下であってよく、特に0.105以下であってよく、より特には0.100以下であってよい。湿潤時のCD5%伸長時応力指数は、特に0.0035以上であってよく、より特には0.0040以上であってよい。また湿潤時のCD5%伸長時応力指数は、0.040以下であってよく、特に0.035以下であってよく、より特には0.030以下であってよい。
【0052】
乾燥時および/または湿潤時のCD5%伸長時応力指数が上記の範囲内にある場合、拭き取り操作時に不織布にかかる応力によって繊維及び不織布が適度に変形し、汚れが不織布内により取り込まれやすくなる。また、拭き取り操作を継続しても取り込んだ汚れが脱落しない程度に不織布の変形した状態が保持され、一度取り込んだ汚れが脱落しにくい。さらに、不織布をワイパー製品の包装から取り出す際、または治具に装着して使用する際に、不織布が変形しにくく、取り扱い性に優れる。
【0053】
次に本開示に係る不織布を構成する繊維について説明する。
(親水性セルロース繊維)
セルロース繊維は本来的に親水性を有するものであり、その意味では「親水性」という表記は不要であるが、撥水性セルロース繊維と区別するため、ここでは撥水性を付与されていないセルロース繊維を「親水性セルロース繊維」という。より具体的には、下記方法で沈降速度を測定したときに沈降速度が60秒以内であるものを、親水性セルロース繊維という。本実施形態で使用する親水性セルロース繊維の沈降速度は、例えば50秒以内、特に45秒以内、より特には30秒以内であってよい。
【0054】
<沈降速度の測定>
薬食機発第0630001号の医療ガーゼ・医療脱脂綿の基準に従い、以下の方法で沈降速度(6(1)カ)を測定する。
【0055】
不織布製造前の繊維あるいは不織布から採取した繊維を、カード機で解繊し、繊維集合体を準備する。この繊維集合体0.3gを直径2cm以下に丸めて、水温24~26℃の水面上12mmの高さから、深さ200mmの水の中に静かに落とす。繊維集合体を落としてから水面下に沈むまでの時間を、当該繊維の沈降速度とする。
【0056】
繊維をカード機で解繊できない場合(例えば、繊維長が短い場合等)、採取された繊維0.3gを、そのまま丸めて水中に落としてよい。あるいは、繊維が繊維集合体(例えば、湿式不織布またはエアレイド不織布)の形態を既にとっており、これをカード機で解繊することが難しい場合には、1cm×1cmの大きさに切断した不織布片0.3g分を、水中に落としてよい。
【0057】
セルロース繊維の種類は特に限定されない。セルロース繊維は、以下を含む。
(1)綿(コットン)、麻、亜麻(リネン)、ラミー、ジュート、バナナ、竹、ケナフ、月桃、ヘンプおよびカポック等の植物に由来する天然繊維;
(2)ビスコース法で得られるレーヨンおよびポリノジック、銅アンモニア法で得られるキュプラ、ならびに溶剤紡糸法で得られるテンセル(登録商標)およびリヨセル等の溶剤紡糸セルロース繊維、ならびにその他の再生繊維;
(3)溶融紡糸法で得られるセルロース繊維;
(4)アセテート繊維等の半合成繊維;および
(5)機械パルプ、再生パルプおよび化学パルプ等のパルプ
【0058】
親水性セルロース繊維は、再生繊維であってよい。再生繊維は繊度の調整が容易であること、およびばらつきの小さいものであることから、好ましく用いられる。再生繊維のうち、ビスコースレーヨンは、不織布の剛軟度を小さくしやすく、不織布を柔らかなものとすることから、特に好ましく用いられる。また、ビスコースレーヨンは、その断面形状が菊花状であり、断面の凹凸は繊維表面において長さ方向に延びる筋状の凹凸として観察されるところ、これらの凹凸は汚れを捕集するのに適した繊維間空隙を与え、また、凹部それ自体に汚れを取り込むことを可能にする。
【0059】
親水性セルロース繊維として、リヨセル等の溶剤紡糸セルロース繊維を用いる場合、湿潤時に繊維の強度低下が少なく、湿潤時の不織布の機械特性を高くし得る。
【0060】
親水性セルロース繊維の繊度は、例えば、0.2dtex以上8.0dtex以下の繊度を有してよく、特に0.3dtex以上7.0dtex以下であってもよく、より特には0.4dtex以上6.0dtex以下であってもよく、さらにより特には0.6dtex以上5.0dtex以下であってもよい。親水性セルロース繊維の繊度が小さすぎると、不織布に繊維塊(ネップ)が生じやすくなり、大きすぎると不織布の触感が低下することがある。親水性セルロース繊維の繊度はこれらの範囲に限定されない。特に天然繊維を使用する場合には、繊度の調整が難しいことから、上記範囲外の繊度のものを使用してよい。例えば、パルプは、一般的に1.0dtex以上4.0dtex以下程度の繊度、および0.8mm以上4.5mm以下程度の繊維長のものが混合した形態で提供され、この形態のまま用いてよい。
【0061】
繊維層aおよび中間繊維層に用いられる親水性セルロース繊維の繊維長は特に限定されず、素材、その製造方法、各繊維層の作製方法、不織布の製造方法等に応じて適宜選択してよい。親水性セルロース繊維は、例えば、短繊維である。繊維層aがカードウェブから作製される場合、親水性セルロース繊維の繊維長は、100mm以下であってよく、75mm以下であってよく、65mm以下であってよい。上記の短繊維の親水性セルロース繊維の繊維長は、10mm以上であってよく、20mm以上であってよく、30mm以上であってよい。上記の場合、一態様において、親水性セルロース繊維の繊維長は、10mm以上100mm以下であってよい。繊維層aがエアレイドウェブから作製される場合、親水性セルロース繊維の繊維長は、2mm以上20mm以下であってよい。
【0062】
中間繊維層は、前記のとおり、湿式不織布であってよく、その場合、湿式不織布を構成する親水性セルロース繊維の繊維長は20mm以下であってよく、10mm未満であってよい。湿式不織布を構成する親水性セルロース繊維の繊維長は1mm以上であってよい。中間繊維層が短い親水性セルロース繊維を所定割合以上含むことで、不織布をウェット対物ワイパーとして使用する場合に、中間繊維層は液体を保持する「タンク的」な役割を果たし、液体を長時間にわたって少量ずつ放出させることを可能にする。繊維長10mm未満の親水性セルロース繊維としては、例えば、機械パルプ、再生パルプおよび化学パルプ等のパルプがあり、また、製造過程で所望の繊維長にカットすることが比較的容易な再生繊維、溶融紡糸セルロース繊維および半合成繊維がある。
【0063】
本実施形態では、中間繊維層に含まれる親水性セルロース繊維として、パルプが好ましく用いられる。パルプは針葉樹木材または広葉樹木材を用いて常套の方法で製造されたものであってよい。また、パルプは、コットンリンター、ケナフ、バガス、竹、藁、エスパルト、海藻といった非木材を用いて、常套の方法で製造されたものであってもよい。パルプは衛生用品および生活用品の材料として使用されている実績があることから消費者に受け入れられやすく、また、生分解性を有することから、使用後、廃棄する製品(例えば、使い捨てのワイパー)を構成する材料として好ましく用いられる。さらに、木材を原料とするパルプは、後述するように高圧水流により繊維同士を交絡させる場合に、繊維層aの親水性セルロース繊維と良好に交絡し、MD5%伸長時応力指数を向上させやすい。
【0064】
(他の繊維)
本実施形態の不織布は、上記親水性セルロース繊維以外の他の繊維を含み得る。他の繊維は、例えば、繊維層aを親水性セルロース繊維とともに構成する繊維であり、あるいは中間繊維層を親水性セルロース繊維とともに構成する繊維であり、あるいは繊維層aではない第一繊維層または第二繊維層を構成する繊維である。あるいはまた、中間繊維層が湿式不織布である場合、当該湿式不織布は他の繊維のみで構成されてよい。他の繊維は特に限定されない。他の繊維は、セルロース繊維に撥水性を付与した撥水性セルロース繊維、合成繊維または天然繊維であってよい。他の繊維として二種類以上の繊維を使用してよい。以下に、他の繊維の例として、合成繊維を説明する。
【0065】
[合成繊維]
合成繊維は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートおよびその共重合体等のポリエステル系樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等を含む)、ポリブテン-1、プロピレンを主たる成分とするプロピレン共重合体(プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-ブテン-1-エチレン共重合体を含む)、エチレン-ビニルアルコール共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ナイロン6、ナイロン12およびナイロン66のようなポリアミド系樹脂;アクリル系樹脂;ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレンおよび環状ポリオレフィンなどのエンジニアリング・プラスチック、ならびにそれらのエラストマーから任意に選択される1または複数の熱可塑性樹脂からなるものであってよい。これらのうち、ポリ乳酸やポリブチレンサクシネート等の生分解性を有する樹脂は、SDGsを重視する場合に好ましく用いられる。
【0066】
あるいは、合成繊維は、バイオマス原料を含む合成繊維であってよい。バイオマス原料を含む合成繊維は、例えば、バイオポリプロピレン(バイオPPともいう)、バイオポリエチレン(バイオPEともいう)、バイオポリエチレンテレフタレート(バイオPETともいう)、バイオポリトリメチレンテレフタレート(バイオPTTともいう)、バイオポリカーボネート(バイオPCともいう)、バイオポリウレタン(バイオPUともいう)、バイオポリアミド11(バイオPA11ともいう)、バイオポリアミド1010(バイオPA1010ともいう)、バイオポリアミド610(バイオPA610ともいう)、バイオポリアミドMXD10(バイオMXD10ともいう)、バイオポリアミド11T(バイオPA11Tともいう)等を含む合成繊維であり、より具体的には、そのようなバイオマス原料を溶融紡糸等して製造される合成繊維である。バイオマス原料を含む合成繊維もまた、SDGsを重視する場合に好ましく用いられる。
【0067】
あるいは、合成繊維は、リサイクル樹脂原料を含む合成繊維であってよい。リサイクル樹脂原料を含む合成繊維は、例えば、リサイクル(再生)ポリプロピレン(リサイクル(再生)PPともいう)、リサイクル(再生)ポリエチレンテレフタレート(リサイクル(再生)PETともいう)、リサイクル(再生)ナイロン等である。リサイクル樹脂原料を含む合成繊維もまた、SDGsを重視する場合に好ましく用いられる。
【0068】
以下において、具体的に示される樹脂は、当該樹脂がバイオマス原料またはリサイクル樹脂原料として提供されるものであるときには、それらの原料のものも指している。例えば、ポリプロピレン単一繊維というときには、通常のポリプロピレン原料からなる単一繊維のほか、バイオポリプロピレンからなる単一繊維、およびリサイクル(再生)ポリプロピレン単一繊維をも含む。
【0069】
合成繊維は、繊維断面が単一成分(「単一セクション」ともいう)からなる単一繊維であってよく、および/または繊維断面が複数の成分(「セクション」ともいう)から構成される複合繊維であってよい。複合繊維は、例えば、同心または偏心の芯鞘型複合繊維、海島型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維、または分割型複合繊維等であってよい。繊維の断面は円形であっても非円形であってもよく、非円形の形状としては、楕円形、Y形、X形、井形、多葉形、多角形、星形等が挙げられる。また、合成繊維は、中空断面を有するものであってよい。単一繊維および複合繊維のいずれの場合も、繊維を構成する各セクションは、一種類の樹脂からなっていてよく、あるいは二種以上の樹脂が混合されたものであってもよい。
【0070】
合成繊維が単一繊維である場合には、単一繊維は、上記ポリオレフィン系樹脂、上記ポリエステル系樹脂、上記ポリアミド系樹脂、および上記アクリル系樹脂から成る群から選ばれる一種以上の樹脂からなるものであってよい。より具体的には、ポリエチレン単一繊維、ポリプロピレン単一繊維、ポリエチレンテレフタレート単一繊維等を用いてよい。
【0071】
合成繊維が複合繊維である場合には、融点の最も低い熱可塑性樹脂が繊維表面の一部を構成するように、二以上の成分を配置してよい。その場合、不織布を生産する工程において、最も融点が低い熱可塑性樹脂からなる成分(以下、「低融点成分」)が溶融または軟化する条件で熱を加えると、低融点成分が接着成分となる。融点のより高い熱可塑性樹脂である第1成分と、融点のより低い熱可塑性樹脂である第2成分とからなる複合繊維を構成する樹脂の組み合わせ(第1/第2)は、例えば、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレン、およびポリエチレンテレフタレート/プロピレン共重合体等のポリエステル系樹脂とポリオレフィン系樹脂との組み合わせ、ならびにポリプロピレン/ポリエチレン、およびポリプロピレン/プロピレン共重合体等の二種類のポリオレフィン系の熱可塑性樹脂の組み合わせ、および融点の異なる二種類のポリエステル系樹脂の組み合わせである。
【0072】
あるいは、第1成分と第2成分の組み合わせは生分解性を有する樹脂の組み合わせであってよく、そのような組み合わせによれば不織布における生分解性繊維の割合をより大きくすることができる。具体的には、第1成分をポリ乳酸、第2成分をポリブチレンサクシネートとすることで合成繊維を生分解性のものとし得る。
【0073】
単一繊維または複合繊維の構成成分として例示した熱可塑性樹脂は、具体的に示された熱可塑性樹脂を50質量%以上含む限りにおいて他の成分を含んでよい。具体的に示された熱可塑性樹脂は80質量%以上含まれていてよく、90質量%以上含まれていてよく、あるいは構成成分は具体的に示された熱可塑性樹脂から実質的に成っていてよい。ここで「実質的に」という用語は、通常、熱可塑性樹脂には各種の添加剤等が含まれていることを考慮して使用している。例えば、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンの組み合わせにおいて、「ポリエチレン」はポリエチレンを50質量%以上含んでいれば、他の熱可塑性樹脂および添加剤等を含んでいてよい。このことは以下の例示においてもあてはまる。
【0074】
合成繊維が、融点のより高い熱可塑性樹脂が第1成分として芯成分を構成し、融点のより低い熱可塑性樹脂が第2成分として鞘成分を構成する同心または偏心芯鞘型複合繊維である場合、芯/鞘の組み合わせは、例えば、ポリプロピレン/ポリエチレン、ポリプロピレン/プロピレン-エチレン共重合体、ポリプロピレン/プロピレン-ブテン-1-エチレン共重合体、ポリ乳酸/ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート/プロピレン共重合体、ポリトリメチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリブチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/共重合ポリエステル(例えば、イソフタル酸を共重合したポリエチレンテレフタレート)であってよい。これらの樹脂の組み合わせは、分割型複合繊維において用いてもよい。
【0075】
芯鞘型複合繊維の場合、芯成分と鞘成分との複合比(芯成分:鞘成分)が体積比で80:20~20:80であることが好ましく、70:30~30:70であることがより好ましく、60:40~40:60であることがさらに好ましい。
【0076】
分割型複合繊維の場合、二つの成分の比(第1:第2)は体積比で、80:20~20:80であることが好ましく、70:30~30:70であることがより好ましく、60:40~40:60であることがさらに好ましい。分割型複合繊維の場合、分割数(即ち、複合繊維におけるセクションの数)は、例えば、4以上、32以下であってよく、特に4以上、20以下であってよく、より特には6以上、10以下であってよい。
【0077】
本実施形態においては、第1成分/第2成分の組み合わせが、ポリ乳酸/ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート/共重合ポリエステル、ポリプロピレン/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンである、芯鞘型複合繊維(同心または偏心)を合成繊維として好ましく用いることができる。これらの繊維は、接着性繊維として用いる場合には、比較的低い温度(110℃以上130℃以下)で接着性を示し、接着後の不織布の風合いを柔軟にする。
【0078】
合成繊維の繊度は、例えば、1.0dtex以上8.0dtex以下であってよく、特に1.1dtex以上7.5dtex以下であってよく、より特には1.2dtex以上6.0dtex以下、さらにより特には1.4dtex以上5.0dtex以下であってよい。合成繊維の繊度が小さすぎると、不織布の強度が低く、不織布に伸びが生じやすくなることがあり、また、不織布表面の繊維密度が高くなって汚れで目詰まりが生じやすくなり、汚れの捕集性が低下することがある。合成繊維の繊度が大きすぎると、不織布の触感を硬くすることがある。不織布に伸びが生じやすいと、例えば不織布を治具に取り付けてワイピング作業を行う場合に、治具への取り付けの際にたるみやしわが生じることがあり、また、不織布表面の繊維密度が低くなって、一度捕集した汚れが脱落することがある。
【0079】
合成繊維が接着性繊維である場合、接着性繊維の繊度は、0.8dtex以上6.4dtex以下であってよく、特に1.0dtex以上5.6dtex以下であってよく、より特には1.2dtex以上4.4dtex以下、さらにより特には1.4dtex以上2.0dtex以下であってよい。
接着性繊維の繊度が小さすぎると、繊維との接着点数が増えすぎて、繊維自由度が低下する、および/または繊維密度が高くなることによって、汚れの捕集性が低下しやすくなることがある。接着性繊維の繊度が大きすぎると、風合いが硬くなり、不織布自体が折れ曲がりにくくなり、拭き取り対象物への追従性が低下し、汚れの捕集性が低下しやすくなることがある。
【0080】
特に合成繊維が分割型複合繊維である場合、分割型複合繊維は分割前の繊度が1.0dtex以上4.0dtex以下であってよく、分割後に0.1dtex以上1.0dtex未満の合成繊維を与えるものであってよい。
【0081】
合成繊維の繊維長は、特に限定されず、不織布の製造方法等に応じて適宜選択してよい。例えば、不織布の製造において、繊維層がカードウェブを作製して製造される場合、合成繊維は短繊維であってよい。この短繊維の繊維長は例えば10mm以上100mm以下としてよく、特に20mm以上75mm以下としてよく、より特には30mm以上65mm以下としてよい。あるいは、繊維層がエアレイ法で製造される場合、繊維長は例えば2mm以上20mm以下としてよい。あるいはまた、繊維層が湿式不織布である場合、繊維長は例えば20mm以下としてよい。
【0082】
合成繊維は一般に疎水性であり、例えば5%未満の公定水分率を有するものである。本実施形態において、合成繊維は、親水化処理を施したものであってよい。親水化処理として、例えば、コロナ放電処理、スルホン化処理、グラフト重合処理、繊維への親水化剤の練り込み、および耐久性油剤の塗布が挙げられる。合成繊維を親水化処理に付することで、特に高圧水流により繊維を交絡させて不織布を製造する場合に、繊維同士の交絡が促進され、乾燥状態でのMD5%伸長時応力指数が0.150以上であるか、および/または湿潤状態でのMD5%伸長時応力指数が0.050以上である不織布を得ることが容易となる。
【0083】
以上において、他の繊維として、合成繊維を説明したが、他の繊維はこれらに限定されない。本実施形態の不織布は、他の繊維として、例えば、撥水性セルロース繊維、または、シルクおよびウールなどの天然繊維を含んでよい。
【0084】
次に本実施形態の不織布の製造方法を説明する。
本実施形態の不織布は、例えば、
第一繊維ウェブと第二繊維ウェブとの間に、中間繊維ウェブが配置された積層ウェブを準備すること、
前記積層ウェブを、高圧流体流による交絡処理に付すこと
を含み、
前記第一繊維ウェブおよび前記第二繊維ウェブの一方または両方が、親水性セルロース繊維を50質量%以上含む繊維ウェブAであり、
前記中間繊維ウェブが、親水性セルロース繊維を50質量%以上含む繊維ウェブ、および/または湿式不織布であり、
前記交絡処理を、前記積層ウェブに噴射する水流の総エネルギーTEが0.11khw/kg/m以上1.20khw/kg/m以下となるように実施する、
方法によって製造される。
【0085】
第一繊維ウェブ、第二繊維ウェブ、中間繊維ウェブ、および繊維ウェブAに含まれる繊維の種類および目付は、第一繊維層、第二繊維層、中間繊維層、および繊維層aに関連して説明したとおりであるから、ここでは省略する。
【0086】
第一繊維ウェブおよび第二繊維ウェブは、公知の方法で作製することができる。各繊維ウェブの形態は、例えば、パラレルウェブ、クロスウェブ、セミランダムウェブおよびランダムウェブ等のカードウェブ、エアレイドウェブ、および湿式抄紙ウェブ等から選択されるいずれであってもよい。第一繊維ウェブと第二繊維ウェブの形態は互いに異なっていてよい。第一繊維ウェブおよび第二繊維ウェブが、カードウェブ、特にパラレルウェブであると、より多くの繊維がMD方向に配向しているため、MD方向の機械特性が向上しやすく、MD5%伸長時応力を上記範囲とすることがより容易となる。
【0087】
中間繊維ウェブの形態もまた限定されず、第一繊維ウェブおよび第二繊維ウェブに関連して例示した上記のいずれの形態であってよい。中間繊維ウェブをパルプで構成する場合には、中間繊維ウェブは、湿式抄紙ウェブまたはエアレイドウェブであってよい。また、中間繊維ウェブとして、例えば湿式抄紙不織布、メルトブローン不織布、または長繊維不織布として提供(例えば、販売)されているものを用いてよい。この場合、中間繊維ウェブは厳密にいえば繊維同士の交絡の度合いが小さいウェブの状態ではなく、繊維同士が一体化された不織布である。
【0088】
第一繊維ウェブと第二繊維ウェブの間に中間繊維ウェブを配置した積層繊維ウェブは、繊維同士を交絡させる処理に付される。繊維同士を交絡させる処理は、例えば、高圧流体流(特に水流)交絡処理である。高圧流体流処理において、高圧流体は、例えば、圧縮空気等の高圧気体、高圧水等の高圧液体、および高圧水蒸気である。不織布の製造においては、高圧流体として高圧水を用いた水流交絡処理を用いることが多く、本実施形態においても、実施の容易性等の点から、水流交絡処理が好ましく用いられる。以下においては、高圧流体として高圧水(以下においては、単に「水流」とも呼ぶ)を用いた場合の交絡処理を説明する。
【0089】
水流交絡処理は、支持体に積層繊維ウェブを載せて、柱状水流を噴射することにより実施する。例えば、支持体は、60メッシュ以上、100メッシュ以下の平織の支持体であることが好ましい。水流交絡処理は、孔径0.05mm以上、0.5mm以下のオリフィスが0.3mm以上、1.5mm以下の間隔で設けられたノズルから、水圧1MPa以上、15MPa以下の水流を、積層繊維ウェブの表裏面にそれぞれ1~5回ずつ噴射することにより実施してよい。水圧は、好ましくは、1MPa以上、15MPa以下であり、より好ましくは、3MPa以上、10MPa以下である。これらの条件は、得られる不織布の乾燥状態のMD5%伸長時応力指数および/または湿潤状態のMD5%伸長時応力指数が上記範囲となるように、繊維の種類/割合、および繊維ウェブの目付等に応じて設定される。
【0090】
MD5%伸長時応力指数が上記範囲となる不織布を得るために、例えば、積層繊維ウェブに噴射する水流の総エネルギーを調整して、水流交絡処理を実施してよい。本実施形態の不織布の製造方法において、総エネルギーTEは0.11khw/kg/m以上1.20khw/kg/m以下であってよく、特に0.115khw/kg/m以上1.10khw/kg/m以下であってよい。
【0091】
噴射する水流により繊維ウェブに印加されるエネルギー(E)は、下記の式によって求められる。より具体的には、第一繊維ウェブの側に噴射する水流のエネルギーE1と第二繊維ウェブの側に噴射する水流のエネルギーE2を求め、それらの合計を求めることで、総エネルギー(TE)が算出される。
【0092】
E=W×N×T/(M/1000×U×60)/1000
E:1kg当たりの繊維ウェブに対し、1m幅当たりに1時間で印加するエネルギー(kWh/kg/m)
W:ノズルのオリフィス1孔当たりの流体(本実施形態においては水)の仕事率(W)
N:ノズルに1m幅当たりに開いているオリフィス数
T:噴射回数
M:水流交絡処理対象の目付(g/m
U:搬送速度(m/分)
【0093】
上記式におけるW(ノズルのオリフィス1孔当たりの流体の仕事率)は、下記の式によって求められる。
W=P1×(F/100)×0.163
W:ノズルのオリフィス1孔当たりの流体の仕事率(W)
P1:水圧(kgf/cm
F:ノズルの1つのオリフィスから吐出される水の流量(cm/分)
【0094】
上記式におけるF(ノズルの1つのオリフィスから吐出される水の流量)は、下記の式によって求められる。
F=S×V
F:ノズルの1つのオリフィスから吐出される水の流量(cm/分)
S:ノズルの1つのオリフィスから吐出される流体の面積(mm
V:ノズルから吐出される流体の流速(m/分)
【0095】
上記式におけるV(ノズルから吐出される流体の流速)は、下記の式によって求められる。
V=(20×g×(P1-P2)/ρ)1/2×60
V:ノズルから吐出される流体の流速(m/分)
g:重力加速度、9.8m/s
P1:水圧(kgf/cm
P2:大気圧(kgf/cm
ρ:流体の密度(g/cm
E等の決定方法についての詳細は、特許第4893256号公報に記載されている。
【0096】
水流交絡処理は、交絡の度合いが異なる部分、すなわち高交絡部と低交絡部とがCD方向において交互に配置されるように実施して、得られる不織布に、繊維の交絡度合いに起因して認識される模様が形成されるようにしてもよい。具体的には、上記において例示したノズルを用いて、積層ウェブ全体に水流交絡処理を実施した後、水流が噴出する微細なオリフィスが間隔をあけて配置されたオリフィス集合部と、オリフィスが穿たれていない無オリフィス部とが交互に配置されたノズル(以下、「模様形成ノズル」)を用いて水流交絡処理を実施することで、模様を有する不織布を得ることができる。
【0097】
オリフィス集合部のオリフィスからの水流があたる箇所が帯状の高交絡部を形成し、無オリフィス部の下に位置する箇所が低交絡部を形成する。高交絡部の厚さは低交絡部の厚さよりも小さくなる傾向にある。用いる繊維ウェブの種類や接着工程/交絡工程の条件にもよるが、模様形成ノズルを用いる場合には、高交絡部の間で低交絡部が盛り上がって凸部を形成した不織布を得ることが可能である。また、このノズルを用いて水流を噴射している間、不織布を支持する支持体を選択することにより、高交絡部に開孔模様のような模様を形成することができる。
【0098】
模様形成ノズルにおいて、オリフィスは、例えば、0.05mm以上、0.5mm以下の孔径を有してよく、オリフィス集合部におけるオリフィス間の間隔は0.3mm以上、1.5mm以下であってよい。オリフィス集合部間の無オリフィス部の幅は、例えば、2mm以上50mm以下としてよく、特に3mm以上25mm以下としてよく、より特には4mm以上20mm以下としてよく、さらにより特には6mm以上15mm以下としてよく、さらにより特には8mmより大きく12mm以下としてよい。オリフィス集合部の幅は、例えば、2mm以上50mm以下としてよく、特に3mm以上25mm以下としてよく、より特には4mm以上20mm以下としてよく、さらにより特には8mm以上12mm以下としてよい。あるいは、オリフィス集合部の幅は2mmより小さくてよく、その場合、高交絡部は線条部として形成される。
【0099】
あるいは、模様形成ノズルは、上記孔径を有するオリフィスが、0.3mm以上、1.5mm以下の間隔で設けられたノズルにおいて、一部のオリフィスを塞ぐことで前記無オリフィス部に相当する部分を形成したものであってよい。
【0100】
模様形成ノズルを用いる場合、水流の水圧は、例えば、1MPa~15MPaであってよく、特に3MPa~10MPaであってよい。
【0101】
模様形成ノズルを用いた水流の噴射は、積層ウェブのいずれか一方の面に1回実施することが好ましく、繊維層aの側に噴射することがより好ましい。模様形成ノズルを用いた水流交絡処理工程では、高交絡部と低交絡部を形成し、それらの境界が明確となるように水流交絡処理を実施することが好ましいことによる。一方の面に複数回水流を噴射すると、あるいは両方の面に水流を噴射すると、高交絡部と低交絡部を形成することが難しくなる。繊維層aの側に模様形成ノズルを用いた水流の噴射を実施することで、拭き取り面の側に模様が形成され、模様による拭き取り性能の向上を図ることができる。
【0102】
模様形成ノズルを用いる場合には、支持体を適宜選択することにより、高交絡部に模様を形成することができる。模様を形成する場合に用いる支持体(以下、「パターン形成支持体」)は、天然樹脂、合成樹脂、または金属からなる、織物、パンチング加工が施された板状部材、またはスパイラルネットであってよい。また、パターン形成支持体は、凸部、凹部および開口部から選択される一つまたは複数が規則的に配置されて、規則的な模様を有するものであってよい。そのようなパターン形成支持体を用いると、密度が他の部分より低い領域(以下、「低密度領域」)が複数集合して規則的な模様を形成することができる。低密度領域は開孔部として形成してよい。
【0103】
具体的には、パターン形成支持体は、例えば、繊維径が0.1mm~1.2mm程度のモノフィラメントを、経糸密度10本/インチ~30本/インチ、緯糸密度10本/インチ~30本/インチで織成した平織物、杉綾織物、綾織物、および朱子織物であってよい。比較的太いフィラメントの織物から成る支持体は、緯糸と経糸との交点が凸部となって、低密度領域の形成を可能にする。このような織物を用いる場合には、織物を構成する糸の太さよって、低密度領域の一つあたりの面積が決定され、織物の経/緯糸密度によって、低密度領域の間隔およびピッチが決定される。
【0104】
模様形成ノズルを用いた水流交絡処理を実施する場合でも、総エネルギーTEは上記の範囲内となるように実施することが好ましい。
【0105】
いずれか1または複数の繊維ウェブが接着性繊維を含む場合、積層繊維ウェブを、水流交絡処理の前または後に、接着処理に付して、得られる不織布において繊維同士が接着された構成が得られるようにしてよい。接着処理は、熱接着処理であってよく、あるいは、電子線照射による接着、または超音波溶着であってよい。熱処理によれば、接着性繊維(例えば、複合繊維の低融点成分)が熱処理の際、加熱によって溶融または軟化して、積層繊維ウェブを構成する繊維同士を接着することができる。
【0106】
熱処理は、例えば、熱風を吹き付ける熱風加工処理、熱ロール加工(熱エンボスロール加工)、または赤外線を使用した熱処理である。熱風加工処理は、所定の温度の熱風を積層繊維ウェブに吹き付ける装置、例えば、熱風貫通式熱処理機、または熱風吹き付け式熱処理機を用いて実施してよい。
【0107】
熱処理温度(例えば、熱風の温度)は、接着性繊維を構成する成分であって、接着成分として機能させる成分が軟化または溶融する温度としてよい。例えば、熱処理温度は、当該成分の融点以上の温度としてよい。例えば、接着性繊維がポリエチレンを成分として含み、ポリエチレンを接着成分とする場合には、熱処理温度を130℃~150℃としてよく、ポリブチレンサクシネートを接着成分とする場合には、熱処理温度を120℃~133℃としてよい。
【0108】
(ワイパー)
本実施形態の不織布は、ワイパーとして使用するのに適している。本実施形態の不織布は、そのままワイパーとして使用してよい。あるいは、本実施形態の不織布の一方の表面に他のシート状物(不織布、フィルム、またはシート)を貼り合わせたものをワイパーとして使用してよい。ワイパーは手で把持して雑巾のように使用してよく、あるいは、棒状物の先にワイパー取り付け部が設けられた治具に取り付けて使用してよい。
【0109】
本実施形態の不織布は、特に対物ワイパーとして用いるのに適している。
対物ワイパーは、床、台所、トイレ、浴槽、家具、車両、壁面、網戸および窓ガラス等の拭き掃除に使用するものであってよい。本実施形態の不織布は、固形物のやや大きい寸法の汚れ(食べ屑、毛髪)を拭き取り、これを捕集するのに適していることから、そのような汚れが付きやすい箇所、例えば、ダイニング、リビング、および洗面所の床、飲食店等の店舗の床、工場および作業場の床の拭き掃除に特に適している。対物ワイパーは、例えば、水、または洗浄成分を含む水溶液等を、不織布100質量部に対して、100質量部以上1000質量部以下の含浸量で含浸させてよい。含浸量は、不織布100質量部に対して、150質量部以上であってよく、また、700質量部以下であってよく、500質量部以下であってよい。あるいは、本実施形態の不織布は、液体を含浸させないドライタイプの対物ワイパーとして用いてよい。
【0110】
本実施形態のワイパーは、拭き取り面が繊維層aの表面となるように用いる。繊維層aは親水性セルロース繊維を所定割合で含んでおり、繊維層aの表面を対象物に当てることで、ウェット対物ワイパーとして用いる場合には、含浸させた液体を対象物にスムーズに供給することができる。不織布が水流交絡処理により製造された場合には、繊維層aの表面に汚れの掻き取りに適した水流の噴射痕が筋状に形成されやすく、このことも繊維層aの表面を拭き取り面とする理由である。
【0111】
本実施形態のワイパーはMD5%伸長時応力指数が上記範囲内にある不織布を含むため、これを対象物に当てて拭き取りを繰り返す場合でも、縒れや伸びが生じにくく、縒れや伸びに起因する繊維間空隙の変形または拡大が抑制されやすい。そのため、本実施形態のワイパーにおいては、ワイパーの繊維間空隙に一旦取り込まれた汚れが脱落しにくく、優れた汚れ捕集性が発揮される。
【実施例0112】
本実施例で使用する繊維として以下のものを用意した。
・親水性セルロース繊維A(表中、「レーヨン1.7T」):繊度1.7dtex、繊維長40mmのビスコースレーヨン(商品名:コロナ、ダイワボウレーヨン(株)製)。
・親水性セルロース繊維B(表中、「レーヨン3.3T」):繊度3.3dtex、繊維長51mmのビスコースレーヨン(商品名:コロナ、ダイワボウレーヨン(株)製)。
・合成繊維a(表中、「Bio-PP/PE1.7T」):繊度1.7dtex、繊維長51mmの芯成分がバイオポリプロピレン樹脂、鞘成分がバイオポリエチレン樹脂からなる、芯鞘型複合繊維。
・合成繊維b(表中、「PP1.0T」):繊度1.0dtex、繊維長38mmのポリプロピレンからなり、表面に撥水性繊維処理剤が付着した、単一合成繊維(商品名:ポリプロ、大和紡績(株)製)。
【0113】
また、本実施例で中間繊維層を構成する不織布(中間繊維ウェブ)として以下のものを用意した。
湿式不織布1(表中、「パルプ」):木材由来のパルプ繊維(繊度約1.0~4.0dtex、繊維長約0.8mm~4.5mm)100質量%からなる目付が17g/mである湿式不織布(ハビックス(株)製)
【0114】
(実施例1)
親水性セルロース繊維Aを80質量%と、合成繊維aを20質量%とを混合して、パラレルカード機を用いて、狙い目付約24g/mで、第一繊維ウェブおよび第二繊維ウェブを作製した。
第二繊維ウェブの上に中間繊維層として湿式不織布1を積層し、湿式不織布1の上に第二繊維ウェブを積層して積層繊維ウェブとし、積層繊維ウェブを90メッシュの平織の支持体に載置して、孔径0.12mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いて、積層ウェブに噴射する水流の総エネルギーTEが0.56khw/kg/mとなるように、積層ウェブの両面に水流を噴射した。処理中、ノズルと繊維ウェブとの間の間隔は15mmとした。
【0115】
次いで、水流交絡処理後の繊維ウェブを、135℃に設定した熱風貫通式熱処理機を用いて、5秒間加熱処理を行い、合成繊維aの鞘成分により繊維同士を接着させ、さらに室温20℃の雰囲気下で自然冷却による冷却工程に付して、実施例1の不織布を得た。
【0116】
(実施例2~4、比較例1~4)
第一繊維ウェブおよび第二繊維ウェブを構成する繊維の種類、割合およびこれらの繊維ウェブの狙い目付、ならびに水流交絡処理の際の水流の総エネルギーをそれぞれ表1および表2に示すとおりとしたこと以外は、実施例1と同様の手順で実施例2~4および比較例1~4の不織布をそれぞれ得た。
但し、実施例2および比較例2においては、熱接着処理を実施せず、代わりに100℃に設定した熱風貫通式熱処理機を用いて乾燥処理を実施した。
比較例1については、親水性セルロース繊維1および合成繊維aを用いて単層のウェブを作製し、中間繊維ウェブと積層することなく、単層構造の不織布とした。
【0117】
不織布の評価は、下記のように行った。
<不織布の厚さ、厚さ減少率、嵩密度>
厚み測定機((株)大栄科学精器製作所製のTHICKNESS GAUGE モデル CR-60A(商品名))を用い、不織布に0.3kPa又は1.96kPaの荷重を加えた状態で、不織布の厚さを測定した。また、0.3kPaの荷重を加えたときの厚さから、1.96kPaの荷重を加えたときの厚さの減少分を厚さ減少率として求めた。
嵩密度は、0.3kPaの荷重を加えたときの厚さと目付とから算出した。
【0118】
<強伸度>
強伸度は、JIS L 1913:2010 6.3に準じて、定速緊張形引張試験機を用いて、乾燥状態の試料につき、試料片の幅5cm、つかみ間隔10cm、引張速度30±2cm/分の条件で引張試験に付し、切断時の荷重値(引張強さ)、伸び率、ならびに5%伸長時応力(5%伸長させるのに必要な力)を測定した。引張試験は、不織布の縦方向(MD方向)および横方向(CD方向)を引張方向として実施した。評価結果はいずれも3点の試料について測定した値の平均で示している。
なお、湿潤時の測定は試料100質量%部に対して、250質量%部の蒸留水を含浸させて実施した。
【0119】
<汚れの捕集性>
[ダスト捕集性]
白色アクリル板の表面の略中央にJIS Z 8901に準ずる試験用粉体(7種)を縦5cm×横15cmの長方形の領域(以下、「ダスト分散領域」)に、均一に0.20g分散し、実施例及び比較例の不織布(縦29cm、横21cm)をワイパーとして用いて試験用粉体(ダスト)を拭き取った。
【0120】
拭き取りは、拭き取りに寄与する面積が縦方向26cm、横方向16cmとなり、不織布を水流交絡の際に最後に水流を噴射した面が拭き取り面となるように、ワイパー治具(商品名:クイックルワイパー[道具本体]のヘッド部、花王(株)製)に取付け、400gfの加重をかけた状態で行った。拭き取りは、ワイパーを、白色アクリル板の表面で1往復させて実施した。
【0121】
より具体的には、
・ワイパーの縦方向がダスト分散領域の縦方向と一致するように、ワイパーをダスト分散領域の中央部に置き、
・そこからダスト分散領域の左端に向かう方向に250mmだけワイパーを移動させて、ダスト(白色アクリル板)を擦り、
・それからダスト分散領域の右端に向かう方向にワイパーを500mm移動させた後、
・さらにダスト分散領域の左端に向かう方向にワイパーを250mm移動させて
ワイパーを1往復させた。
【0122】
ワイパーを1往復させた後、予め測定した不織布の質量と、拭き取り後に測定した不織布の質量とから、ダスト捕集性を求めた。各不織布について、拭き取りは、不織布の拭き取り面を新しくした状態で3回測定し、その平均値をダストの捕集率とした。
【0123】
[毛髪捕集性(湿潤状態)]
フローリング上に毛髪(長さ約5cm)を横向きに3本、縦向きに2本、合計5本を、間隔を空けて配置し、実施例及び比較例の不織布で、毛髪を拭き取った。
【0124】
拭き取りは、不織布100質量部に対して蒸留水を250質量部含浸させて、湿潤状態で実施した。また、拭き取りは、拭き取りに寄与する面積が縦方向26cm、横方向16cmとなるように、ワイパー治具(商品名:クイックルワイパー[道具本体]のヘッド部、花王(株)製)に取付け、400gfの加重をかけた状態で行った。拭き取りは、上記ダスト捕集性の評価で採用した方法と同じ方法で、ワイパーを毛髪上で1往復させて実施した。拭き取り後、フローリングから拭き取られた毛髪の本数から捕集率(%)を求めた。各不織布について、拭き取りは、不織布の拭き取り面を新しくした状態で3回測定し、その平均値を毛髪の捕集率とした。
【0125】
[ゴマ捕集性(湿潤状態)]
ゴマ捕集性は、フローリング上にゴマ10個を3列(3個-4個-3個の列)に間隔を空けて配置し、毛髪捕集性(湿潤状態)の評価と同様の方法で不織布による拭き取りを実施し、拭き取り後、フローリングから拭き取られたゴマの個数から捕集率(%)を求めた。各不織布について、拭き取りは、不織布の拭き取り面を新しくした状態で3回測定し、その平均値をゴマの捕集率とした。
【0126】
<液体の初期放出率>
毛髪捕集性の評価において、1回目の拭き取りを実施する前後で、蒸留水を含浸させた不織布の質量を測定し、質量の減少分が、湿潤状態の不織布の1往復により放出された液体であるとした。放出された液体の不織布100質量部に対して250質量部含浸させた蒸留水量に対する割合を%で求めた。
【0127】
各実施例および各比較例の評価結果を表1および表2に示す。
【0128】
【表1】
【0129】
【表2】
【0130】
実施例1~4の不織布はいずれも、概ね優れた汚れ捕集性(毛髪捕集率≧30%、ゴマ捕集率>60%、かつダスト捕集率≧34%)を示した。
【0131】
比較例1は、中間繊維層が無いために、MD5%伸長時応力指数が低かった。比較例2は、第一および第二繊維層がポリプロピレン繊維を含み、繊維同士が接着していない構成であること、ポリプロピレン繊維が撥水性であって水流交絡により交絡しにくいものであることに起因して、MD5%伸長時応力指数が低かった。これらの比較例はいずれも、実施例よりも低い汚れ捕集性を示し、特にダスト捕集率およびゴマ捕集率の低いものであった。また、比較例1および2は、実施例よりも高い初期放出率を示し、拭き取り作業の初期段階で液体を放出しやすいものであった。これは、比較例1においては液体を貯めるタンクとなる中間繊維層が存在せず、比較例2においては繊維同士の交絡度合いが低くて、大きな繊維間空隙が形成されたことによると考えられる。
【0132】
比較例3は、比較例2と同様、ポリプロピレン繊維を含んでおり、これが接着性繊維として機能しなかったこと、およびポリプロピレン繊維が撥水性であって水流交絡により交絡しにくいものであることに起因して、MD5%伸長時応力指数が低く、やはり汚れの捕集性が実施例よりも劣っていた。比較例4は、実施例1と同じ繊維を同じ割合で用いて作製したものであるが、水流交絡処理中に積層ウェブに噴射する水流の総エネルギーTEが0.10khw/kg/mと低かったために、MD5%伸長時応力指数が低くかった。そのため、汚れの捕集性において、実施例1よりも劣っていた。
【0133】

(実施例5)
親水性セルロース繊維Aを80質量%と、合成繊維aを20質量%とを混合して、パラレルカード機を用いて、狙い目付約24g/mで、第一繊維ウェブおよび第二繊維ウェブを作製した。
第二繊維ウェブの上に中間繊維層として湿式不織布1を積層し、湿式不織布1の上に第二繊維ウェブを積層して積層繊維ウェブとし、積層繊維ウェブを90メッシュの平織の支持体に載置して、孔径0.12mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いて、積層ウェブの一方の表面に柱状水流を噴射後、他方の面に柱状水流を噴射した。さらに、孔径0.12mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルにおいて、一部のオリフィスを塞いで水流が当該オリフィスから噴射されないようにした模様形成ノズルを準備し、当該ノズルから、当該他方の面に柱状水流を噴射した。水流交絡処理は、噴射する水流の総エネルギーTEが0.72hw/kg/mとなるように実施した。
【0134】
模様形成ノズルは、オリフィスを塞いだ部分P1とオリフィスを塞いでいない部分P2とが、CD方向においてそれぞれ10mmの長さで、CD方向において交互に配置されたものであった。水流交絡後のウェブは、ストライプ模様形成ノズルからの水流が当たった部分(高交絡部)と当たっていない部分(低交絡部)とで交絡度合いが異なることに起因して、ストライプ模様を有していた。
【0135】
次いで、水流交絡処理後の繊維ウェブを、135℃に設定した熱風貫通式熱処理機を用いて、5秒間加熱処理を行い、合成繊維aの鞘成分により繊維同士を接着させ、さらに室温20℃の雰囲気下で自然冷却による冷却工程に付して、実施例5の不織布を得た。
【0136】
(実施例6)
水流交絡処理を以下の条件で実施したことを除いては、実施例5で採用した手順と同じ手順に従って、実施例6の不織布を得た。
【0137】
[水流交絡処理]
積層繊維ウェブを90メッシュの平織の支持体に載置して、孔径0.12mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いて、積層ウェブの一方の表面に柱状水流を噴射後、他方の面に柱状水流を噴射した。さらに、実施例5で用いた模様形成ノズルと同じノズルを準備し、経糸の線径が0.7mm、緯糸の線径が0.9mm、経糸の密度が41本/inch、緯糸の密度が16本/inch、組織が3/1杉綾である織物の支持体に積層ウェブを載置した状態で、当該ノズルから、当該他方の面に柱状水流を噴射した。水流交絡処理は、噴射する水流の総エネルギーTEが0.72khw/kg/mとなるように実施した。
【0138】
水流交絡後のウェブは、杉綾の模様を有する部分と、杉綾の模様を有しない部分とがCD方向に交互に配置されたストライプ模様を有していた。この模様は、ストライプ模様形成ノズルからの水流が当たった部分と当たっていない部分とで交絡度合いが異なること、および水流の当たった部分が杉綾の支持体に載置されていたことに起因して形成された。
(実施例7)
水流交絡処理を以下の条件で実施したことを除いては、実施例5で採用した手順と同じ手順に従って、実施例6の不織布を得た。
[水流交絡処理]
積層繊維ウェブを90メッシュの平織の支持体に載置して、孔径0.12mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いて、積層ウェブに噴射する水流の総エネルギーTEが0.90khw/kg/mとなるように、積層ウェブの一方の表面に柱状水流を噴射後、他方の面に柱状水流を噴射し、さらに当該他方の面に柱状水流を噴射した。処理中、ノズルと繊維ウェブとの間の間隔は15mmとした。
実施例5~7の評価結果を表3に示す。
【0139】
【表3】
【0140】
実施例7の不織布は、実施例1と同じ繊維構成および目付を有しているが、実施例1と比較して噴射する水流の総エネルギーTEをより高くして製造したものである。TEを高くしたために、実施例7の製造中、中間繊維層の繊維(パルプ)の一部の脱落が観察され、その結果、乾燥状態および湿潤状態でのMD5%伸長時応力指数が実施例1よりも低くなり、そのことが汚れの捕集性の低下を招いたと考えられる。さらに、実施例7における繊維同士の交絡の度合いは実施例1のそれよりも高いところ、実施例1と比較して、繊維の動きが制限され、繊維間空隙が変形しにくいことも、汚れの捕集性能が実施例1よりも低い理由であると推察される。
【0141】
実施例5および実施例6の不織布は、噴射する水流の総エネルギーTEを実施例1よりも高くして製造したものであるが、一回の水流噴射を、模様形成ノズルを用いて実施したものである。実施例5および6は、実施例7と比較してより高い汚れの捕集性を示し、実施例1との比較でも汚れの種類によっては実施例1よりも優れた捕集性を示した。これは、模様形成用ノズルからの水流は積層ウェブの一部にのみ当たるため、実施例7で見られたような中間繊維層の脱落が生じにくく、乾燥状態および湿潤状態でのMD5%伸長時応力指数がいずれも実施例1より高いことによると考えられる。さらに、これらの実施例では、低交絡部において繊維の自由度が低いこと、および模様形成に起因する凹凸が存在しており、これも汚れの捕集性の向上に寄与していると考えられる。特に、実施例6は、ストライプ模様形成用ノズルによる水流を噴射する際に、杉綾の支持体を用いているため、水流が噴射した部分でも凹凸が形成され、汚れの捕集性が高くなったと考えられる。
【0142】
本実施形態には以下の態様が含まれる。
(態様1)
第一繊維層、第二繊維層、および前記第一繊維層と前記第二繊維層との間に位置する中間繊維層とを有し、
前記第一繊維層および前記第二繊維層のいずれか一方が、親水性セルロース繊維を50質量%以上含む繊維層aであり、
前記中間繊維層が親水性セルロース繊維を50量%以上含む繊維層、および/または繊維長20mm以下の短繊維からなる湿式不織布であり、
各繊維層が繊維同士の交絡により一体化しており、
乾燥状態でのMD方向の5%伸長時応力(N/5cm)を不織布の目付(g/m)で除したMD5%伸長時応力指数が0.150以上であるか、および/または不織布100質量部に対し250質量部の水を含浸させた湿潤状態でのMD方向の5%伸長時応力(N/5cm)を不織布の目付(g/m)で除したMD5%伸長時応力指数が0.050以上である、
対物ワイパー用不織布。
(態様2)
前記第一繊維層および前記第二繊維層がともに、前記繊維層aである、態様1の対物ワイパー用不織布。
(態様3)
前記中間繊維層が、パルプからなる湿式不織布である、態様1または2の対物ワイパー用不織布。
(態様4)
前記繊維層aが合成繊維を0質量%超50質量%以下含む、態様1~3のいずれかの対物ワイパー用不織布。
(態様5)
前記合成繊維が、バイオマス原料を含む合成繊維、生分解性合成繊維、及びリサイクル原料を含む合成繊維から選択される、1種または複数種の合成繊維である、態様4の対物ワイパー用不織布。
(態様6)
前記合成繊維の一部または全部が接着性繊維であり、前記繊維層aにおいて繊維同士が前記接着性繊維により接着されている、態様4または5の対物ワイパー用不織布。
(態様7)
乾燥状態の伸び率および/または不織布100質量部に水を250質量部含浸させた湿潤状態の伸び率(%)が、85%以上である、態様1~6のいずれかの対物ワイパー用不織布。
(態様8)
繊維同士の交絡の度合いがより高い高交絡部と、繊維同士の交絡の度合いがより低い低交絡部とを含み、
前記高交絡部と前記低交絡部とは平面視で交互に配置されており、
前記低交絡部の幅が2mm以上50mm以下である、
態様1~7のいずれかの対物ワイパー用不織布。
(態様9)
前記高交絡部に低密度領域が形成されている、態様8の対物ワイパー用不織布。
(態様10)
第一繊維ウェブと第二繊維ウェブとの間に、中間繊維ウェブが配置された積層ウェブを準備すること、
前記積層ウェブを、高圧流体流による交絡処理に付すこと
を含み、
前記第一繊維ウェブおよび前記第二繊維ウェブの一方または両方が、親水性セルロース繊維を50質量%以上含む繊維ウェブAであり、
前記中間繊維ウェブが、親水性セルロース繊維を50質量%以上含む繊維ウェブ、および/または湿式不織布であり、
前記交絡処理を、前記積層ウェブに噴射する水流の総エネルギーTEが0.11khw/kg/m以上1.20khw/kg/m以下となるように実施する、
乾燥状態でのMD方向の5%伸長時応力(N/5cm)を不織布の目付(g/m)で除したMD5%伸長時応力指数が0.150以上であるか、および/または不織布100質量部に250質量部の水を含浸させた湿潤状態でのMD方向の5%伸長時応力(N/5cm)を不織布の目付(g/m)で除したMD5%伸長時応力指数が0.050以上である、対物ワイパー用不織布の製造方法。
(態様11)
前記交絡処理が、前記繊維ウェブAの側の面に、オリフィスが一定間隔で設けられたオリフィス集合部と、前記オリフィス集合部の間に設けられた、2mm以上50mm以下の幅を有する無オリフィス部とを有するノズルから水流を噴射して、高交絡部と低交絡部とをCD方向に交互に形成することを含む、態様10の製造方法。
(態様12)
態様1~9の対物ワイパー用不織布100質量部に対して、液体を100質量部以上1000質量部以下の量で含浸させてなり、
前記繊維層aの表面を拭き取り面とする、
対物ワイパー。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本開示の不織布は、MD5%伸長時応力指数が高く、これを対象物に当てて擦ったときに縒れや伸びが生じにくく、繊維間空隙の変形および拡大が抑制される。したがって、本開示の不織布は、汚れの捕集性に優れたワイパー、特にやや寸法の大きい汚れを拭き取る対物ワイパーとして好適に使用できる。