(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025155260
(43)【公開日】2025-10-14
(54)【発明の名称】モータ装置、ワイパー装置、及びモータ制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 6/14 20160101AFI20251006BHJP
【FI】
H02P6/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024058980
(22)【出願日】2024-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】大堀 竜
(72)【発明者】
【氏名】金井 猛
(72)【発明者】
【氏名】望田 淳史
【テーマコード(参考)】
5H560
【Fターム(参考)】
5H560AA08
5H560BB04
5H560BB12
5H560DA03
5H560DB02
5H560EB01
5H560EC07
5H560GG04
5H560HA04
5H560JJ07
5H560TT15
5H560UA05
5H560XA12
(57)【要約】
【課題】モータ始動時に負荷がかかっている場合でも、モータの失速を抑制する。
【解決手段】モータ装置は、モータと、前記モータの駆動出力を示すデューティ比を、デューティ比上限値を超えないように制御し、前記デューティ比に応じた駆動信号を生成する駆動信号生成部と、前記駆動信号に基づいて、前記モータを回転駆動させる出力信号を出力するインバータと、前記モータの回転数を検出する回転数検出部と、前記モータが加速中か否かを検出する加速検出部と、前記モータの回転数が第1閾値を超え、且つ、前記モータの回転が加速中である場合に、前記デューティ比上限値を、予め設定されている第1上限値より高い第2上限値に変更する上限値設定部とを備え、前記上限値設定部は、前記回転数が、前記第1閾値より低い第2閾値から前記第1閾値までの間において、前記第1上限値を、前記回転数の増加に応じて徐々に上昇するように設定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動するモータと、
前記モータの駆動出力を示すデューティ比を、デューティ比上限値を超えないように制御し、前記デューティ比に応じた駆動信号を生成する駆動信号生成部と、
前記駆動信号に基づいて、前記モータを回転駆動させる出力信号を出力するインバータと、
前記モータの回転数を検出する回転数検出部と、
前記モータが加速中か否かを検出する加速検出部と、
前記モータの回転数が第1閾値を超え、且つ、前記モータの回転が加速中である場合に、前記デューティ比上限値を、予め設定されている第1上限値より高い第2上限値に変更する変更処理を実行する上限値設定部と
を備え、
前記上限値設定部は、前記回転数が、前記第1閾値より低い第2閾値から前記第1閾値までの間において、前記第1上限値を、前記回転数の増加に応じて徐々に上昇するように設定する
モータ装置。
【請求項2】
前記第1上限値は、前記回転数が前記第2閾値未満である場合に、一定値である設定最小値が設定されており、
前記上限値設定部は、前記モータが始動し、前記第2閾値から前記第1閾値までの間において、前記第1上限値を、前記設定最小値を起点に、前記回転数の増加に応じて徐々に上昇させる
請求項1に記載のモータ装置。
【請求項3】
前記駆動信号生成部は、前記モータへの印加電圧の進角及び通電角を制御する進角通電角制御部を有し、
前記進角通電角制御部は、
前記デューティ比が前記デューティ比上限値未満である場合に、前記通電角を、120度を超える値に変化させるとともに、前記進角を増加させ、
前記デューティ比が前記デューティ比上限値と等しく、且つ、前記回転数が前記第1閾値以上に設定された第3閾値未満となった場合に、前記通電角を120度以下にする
請求項1に記載のモータ装置。
【請求項4】
前記上限値設定部は、前記変更処理において、前記第1上限値を所定の定数倍した前記第2上限値に変更する
請求項1に記載のモータ装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のモータ装置を備え、
前記モータ装置を用いて、ワイパー部材にウィンド面での払拭動作を行わせる
ワイパー装置。
【請求項6】
駆動信号に基づいて、インバータが出力する出力信号により回転駆動するモータを制御するモータ制御方法であって、
駆動信号生成部が、前記モータの駆動出力を示すデューティ比を、デューティ比上限値を超えないように制御し、前記デューティ比に応じた前記駆動信号を生成する駆動信号生成ステップと、
回転数検出部が、前記モータの回転数を検出する回転数検出ステップと、
加速検出部が、前記モータが加速中か否かを検出する加速検出ステップと、
上限値設定部が、前記モータの回転数が第1閾値を超え、且つ、前記モータの回転が加速中である場合に、前記デューティ比上限値を、予め設定されている第1上限値より高い第2上限値に変更する変更処理を実行する上限値設定ステップと
を含み、
前記上限値設定ステップにおいて、前記上限値設定部が、前記回転数が前記第1閾値より低い第2閾値から前記第1閾値までの間において、前記第1上限値を、前記回転数の増加に応じて徐々に上昇するように設定する
モータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ装置、ワイパー装置、及びモータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のワイパー装置などに使用されるモータ装置では、モータ駆動中に突発的に負荷がかかり、モータの回転数が下がってしまった場合に、デューティ(デューティ比)を上げられずそのままモータが停止するという事象が発生することがある。このような事象を防ぐために、近年、加速している場合に、デューティ上限値(デューティ比上限値)を高い値に変更することで、モータの停止を防止するモータ装置が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したような従来のモータ装置では、例えば、モータの回転数が低い場合に、デューティを上げ過ぎて過電流が流れることを防止するために、回転数が所定の閾値以下の場合にデューティ比上限値を高い値に変更することを禁止している。そのため、従来のモータ装置では、例えば、モータ始動時から負荷がかかっている場合等に、デューティ比上限値が低いためにデューティを上げられず、モータが失速する可能性があった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたもので、その目的は、モータ始動時に負荷がかかっている場合でも、モータの失速を抑制することができるモータ装置、ワイパー装置、及びモータ制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するために、本発明の一態様は、回転駆動するモータと、前記モータの駆動出力を示すデューティ比を、デューティ比上限値を超えないように制御し、前記デューティ比に応じた駆動信号を生成する駆動信号生成部と、前記駆動信号に基づいて、前記モータを回転駆動させる出力信号を出力するインバータと、前記モータの回転数を検出する回転数検出部と、前記モータが加速中か否かを検出する加速検出部と、前記モータの回転数が第1閾値を超え、且つ、前記モータの回転が加速中である場合に、前記デューティ比上限値を、予め設定されている第1上限値より高い第2上限値に変更する変更処理を実行する上限値設定部とを備え、前記上限値設定部は、前記回転数が、前記第1閾値より低い第2閾値から前記第1閾値までの間において、前記第1上限値を、前記回転数の増加に応じて徐々に上昇するように設定するモータ装置である。
【0007】
また、本発明の一態様は、駆動信号に基づいて、インバータが出力する出力信号により回転駆動するモータを制御するモータ制御方法であって、駆動信号生成部が、前記モータの駆動出力を示すデューティ比を、デューティ比上限値を超えないように制御し、前記デューティ比に応じた前記駆動信号を生成する駆動信号生成ステップと、回転数検出部が、前記モータの回転数を検出する回転数検出ステップと、加速検出部が、前記モータが加速中か否かを検出する加速検出ステップと、上限値設定部が、前記モータの回転数が第1閾値を超え、且つ、前記モータの回転が加速中である場合に、前記デューティ比上限値を、予め設定されている第1上限値より高い第2上限値に変更する変更処理を実行する上限値設定ステップとを含み、前記上限値設定ステップにおいて、前記上限値設定部が、前記回転数が前記第1閾値より低い第2閾値から前記第1閾値までの間において、前記第1上限値を、前記回転数の増加に応じて徐々に上昇するように設定するモータ制御方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、モータ始動時に負荷がかかっている場合でも、モータの失速を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態によるモータ装置の一例を示すブロック図である。
【
図2】第1の実施形態によるモータ装置のデューティリミット値の切り替え処理の一例を示すフローチャートである。
【
図3】第1の実施形態によるモータ装置のデューティリミット値の切り替え処理の一例を説明する図である。
【
図4】第1の実施形態によるモータ装置の通電制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】第1の実施形態によるモータ装置の通電制御処理の一例を説明する図である。
【
図6】第1の実施形態によるモータ装置の効果の一例を説明する図である。
【
図7】第1の実施形態によるモータ装置のデューティリミット値の切り替え処理の変形例を説明する図である。
【
図8】第2の実施形態によるワイパー装置の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態によるモータ装置、ワイパー装置、及びモータ制御方法について、図面を参照して説明する。
【0011】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態によるモータ装置100の一例を示すブロック図である。
図1に示すように、モータ装置100は、モータ2と、回転軸センサ30と、制御部40と、インバータ50とを備える。
本実施形態によるモータ装置100は、例えば、車両のウィンドウガラスを払拭するワイパー装置に利用される。
【0012】
モータ2は、例えば、3相4極形のブラシレスモータである。モータ2は、後述する駆動信号に基づいて、インバータ50が出力する出力信号により回転駆動する。
また、モータ2は、ステータ21と、ロータ22とを備える。
【0013】
ステータ21は、モータ2のケースの内周に固定されている。ステータ21は、3相の電機子コイル(21u、21v、21w)を備える。ステータ21は、電機子コイル(21u、21v、21w)が巻装されている。例えば、3相の電機子コイル(21u、21v、21w)は、デルタ結線により接続される。
【0014】
デルタ結線において、電機子コイル21uと、電機子コイル21wとが、接続点21aにより接続され、電機子コイル21vと、電機子コイル21wとが、接続点21bにより接続され、電機子コイル21uと、電機子コイル21vとが、接続点21cにより接続されている。
【0015】
ロータ22は、ステータ21の内側に設けられている。ロータ22は、例えば、ロータ軸22aと、ロータ軸22aに取り付けた4極の永久磁石22bとを備える。モータ2のケース内には、複数の軸受(不図示)が設けられており、ロータ軸22aは、複数の軸受により回転可能に支持されている。
【0016】
回転軸センサ30は、ロータ22の回転に応じた信号を検出する。回転軸センサ30は、例えば、3つのホールIC(不図示)を備える。これらの3つのホールICは、ロータ22が回転すると、それぞれ互いに120度位相のずれたパルス信号を制御部40に対して出力する。すなわち、回転軸センサ30は、ロータ22の回転にともない、ロータ軸22aに配置されたセンサマグネット(不図示)の磁極の変化に基づいたパルス信号を発生し、制御部40に出力する。各ホールICは、それぞれ電気角で120度毎ずれた位置を検出する。
【0017】
制御部40は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などを含むプロセッサであり、モータ装置100を統括的に制御する。制御部40は、PWM(Pulse With Modulation:パルス幅変調)制御を行い、目標のロータ22の回転出力(例えば、目標回転数TRPM)に応じたデューティ比を設定し、設定したデューティ比に応じた駆動信号をインバータ50に出力する。また、制御部40は、インバータ50を介して、例えば、矩形波通電によりモータ2の駆動を制御する。
また、制御部40は、位置検出部41と、回転数検出部42と、加速検出部43と、上限値設定部44と、指令生成部45と、駆動信号生成部46とを備える。
【0018】
位置検出部41は、回転軸センサ30から供給されるパルス信号に基づいて、ロータ22の回転位置(θ)を検出する。位置検出部41は、検出したロータ22の回転位置を後述する駆動信号生成部46に出力する。
【0019】
回転数検出部42は、回転軸センサ30から供給されるパルス信号に基づいて、例えば、モータ2(ロータ22)の回転数(RPM)を検出し、検出したモータ2(ロータ22)の回転数を後述する加速検出部43、上限値設定部44及び指令生成部45に出力する。
なお、本明細書において、「回転数」とは、単位時間当たりの回転数を示す「回転速度」のことである。
【0020】
加速検出部43は、モータ2の回転が加速中であるか否かを検出する。加速検出部43は、例えば、回転数検出部42により所定時間毎に検出される回転数が、所定回数連続で増加した場合にモータ2が加速中であることを検出する。加速検出部43は、モータ2が加速中であるか否かの検出結果を、上限値設定部44に出力する。
【0021】
上限値設定部44は、モータ2の駆動出力を示すデューティ比(出力デューティともいう)の上限値であるデューティリミット値(デューティ比上限値)を設定する。デューティリミット値には、予め設定されている通常デューティリミット値(第1上限値)と、モータ2の加速中に使用する補正デューティリミット値(第2上限値)とがあり、上限値設定部44は、通常デューティリミット値(第1上限値)と、補正デューティリミット値(第2上限値)とを切り替えて出力する。
【0022】
通常デューティリミット値は、加速中以外の通常動作時に用いるリミット値である。上限値設定部44は、モータ2の回転数(以下、モータ回転数ということがある)に応じて、通常デューティリミット値を変更して設定する。上限値設定部44は、例えば、回転数が高い程、通常デューティリミット値を高い値に変更し、回転数が低い程、通常デューティリミット値を低い値に変更する。具体的に、上限値設定部44は、後述する
図3に示すように、通常デューティリミット値をモータ回転数に応じて変更する。
【0023】
上限値設定部44は、モータ回転数が回転数RPM1(第1閾値)を超え、且つ、モータ2の回転が加速中である場合に、デューティリミット値を、予め設定されている通常デューティリミット値より高い補正デューティリミット値に変更する変更処理を実行する。
【0024】
すなわち、上限値設定部44は、モータ回転数が回転数RPM1を超え、且つ、モータ2が加速中である場合に、補正デューティリミット値(LMT2)を、デューティリミット値(LMT)として、駆動信号生成部46に出力する。また、上限値設定部44は、モータ2が加速中でない場合(減速中、又は、等速駆動中である場合)に、通常デューティリミット値(LMT1)を、デューティリミット値(LMT)として、駆動信号生成部46に出力する。
【0025】
また、上限値設定部44は、モータ回転数が、回転数RPM1より低い回転数RPM2(第2閾値)から回転数RPM1までの間において、通常デューティリミット値を、回転数の増加に応じて徐々に上昇するように設定する。
【0026】
また、通常デューティリミット値(第1上限値)は、回転数が回転数RPM2未満である場合に、一定値である設定最小値が設定されている。すなわち、上限値設定部44は、回転数が回転数RPM2未満である場合に、通常デューティリミット値を一定値である設定最小値に設定する。また、上限値設定部44は、モータ2が始動し、回転数RPM2から回転数RPM1までの間において、通常デューティリミット値を、設定最小値を起点に、回転数の増加に応じて徐々に上昇させる。
【0027】
なお、上限値設定部44は、例えば、下記の式(1)に示すように、通常デューティリミット値に補正量(α)を加算して補正デューティリミット値を設定する。ここで、αは、予め定められた固定値である。
【0028】
補正デューティリミット値=通常デューティリミット値+α ・・・ (1)
【0029】
なお、式(1)により通常デューティリミット値に補正量を生成する場合、通常デューティリミット値が、モータ2の回転数に応じて変更されると、補正デューティリミット値も、モータ2の回転数に応じて変更されることになる。すなわち、上限値設定部44は、モータ2の回転数に応じて、補正デューティリミット値を変更することになる。
【0030】
また、上述の式(1)では、固定値の補正量(α)を通常デューティリミット値に加算して、補正デューティリミット値を設定しているが、下記の式(2)のように、通常デューティリミット値を所定の定数倍(β倍)して、補正デューティリミット値を設定してもよい。すなわち、上限値設定部44は、変更処理において、通常デューティリミット値を所定の定数倍(β倍)した補正デューティリミット値に変更するようにしてもよい。ここで、βは、予め定められた“1.0”以上の固定値である。
【0031】
補正デューティリミット値=通常デューティリミット値×β ・・・ (2)
【0032】
また、上限値設定部44は、モータ2の回転数が回転数RPM1(第1閾値)以下である場合に、通常デューティリミット値から補正デューティリミット値に変更する変更処理を無効にする。すなわち、上限値設定部44は、モータ2の回転数が低い場合に、加速中であっても補正デューティリミット値を用いずに、通常デューティリミット値を出力する制御を行う。
【0033】
指令生成部45は、モータ2の目標の回転出力(例えば、目標回転数TRPM)に応じた出力指令値(PWM制御の指令値)を生成する。指令生成部45は、例えば、位置検出部41から取得した現在のモータ2の回転数(RPM)と、目標回転数TRPMとに応じて、PWM制御の指令値であるデューティ比を生成し、生成した出力指令値を出力指令値(DT)として、駆動信号生成部46に出力する。
【0034】
駆動信号生成部46は、指令生成部45が出力した出力指令値(DT)に基づいて、ロータ22の回転位置に応じた通電タイミングで、正弦波に基づく通電波形の電圧が3相の電機子コイル(21u、21v、21w)に印加されるように、駆動信号を生成する。駆動信号生成部46は、例えば、回転位置(θ)に基づいて、3相の通電タイミング信号を生成し、出力指令値(DT)に基づくPWM制御により、後述するインバータ50のスイッチング素子(51a~51f)を駆動(導通/非導通)させる駆動信号(3相の駆動信号)を生成し、生成した駆動信号(3相の駆動信号)をインバータ50に出力する。
【0035】
また、駆動信号生成部46は、出力指令値(DT)が、上限値設定部44から出力されたデューティリミット値(LMT)より大きいデューティ比である場合に、出力指令値(DT)の代わりに、デューティリミット値(LMT)を用いて、PWM制御により駆動信号(3相の駆動信号)を生成する。このように、駆動信号生成部46は、モータ2の駆動出力を示すデューティ比を、デューティリミット値(LMT)を超えないように制御し、デューティ比に応じた駆動信号を生成する。
【0036】
また、駆動信号生成部46は、モータ回転数に応じて、異なる通電制御を実行する。駆動信号生成部46は、モータ2への印加電圧の進角および通電角を制御する進角通電角制御部47を備える。
【0037】
進角通電角制御部47は、デューティ比がデューティリミット値未満である場合に、通電角を、120度を超える値に変化させるとともに、進角を増加させる。また、進角通電角制御部47は、デューティ比がデューティリミット値と等しく、且つ、回転数が回転数RPM3未満(第3閾値未満)となった場合に、通電角を120度以下にする。ここで、回転数RPM3(第3閾値)は、回転数RPM1以上に設定されている。
【0038】
インバータ50は、駆動信号生成部46が生成した駆動信号に基づいて、モータ2を回転駆動させる出力信号を出力する。すなわち、インバータ50は、駆動信号生成部46が生成した駆動信号に基づいて、スイッチング素子(51a~51f)を駆動させて、通電波形に基づく印加電圧を3相の電機子コイル(21u、21v、21w)に印加する。
なお、インバータ50は、バッテリ3から供給される直流電力により、印加電圧を生成する。
【0039】
インバータ50は、3相ブリッジ接続された6個のスイッチング素子51a~51fと、ダイオード52a~52fとを備える。
スイッチング素子51a~51fは、例えば、NチャネルMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)であり、3相のブリッジ回路を構成している。
【0040】
スイッチング素子51aとスイッチング素子51dとは、バッテリ3の正極端子と負極端子との間に、直列に説明されて、U相のブリッジ回路を構成している。スイッチング素子51aは、ドレイン端子がバッテリ3の正極端子に、ソース端子がノードN1に、ゲート端子がU相の上側の駆動信号の信号線に、それぞれ接続されている。また、スイッチング素子51dは、ドレイン端子がノードN1に、ソース端子がバッテリ3の負極端子に、ゲート端子がU相の下側の駆動信号の信号線に、それぞれ接続されている。また、ノードN1は、モータ2の接続点21aに接続されている。
【0041】
スイッチング素子51bとスイッチング素子51eとは、バッテリ3の正極端子と負極端子との間に、直列に説明されて、V相のブリッジ回路を構成している。スイッチング素子51bは、ドレイン端子がバッテリ3の正極端子に、ソース端子がノードN2に、ゲート端子がV相の上側の駆動信号の信号線に、それぞれ接続されている。また、スイッチング素子51eは、ドレイン端子がノードN2に、ソース端子がバッテリ3の負極端子に、ゲート端子がV相の下側の駆動信号の信号線に、それぞれ接続されている。また、ノードN2は、モータ2の接続点21bに接続されている。
【0042】
スイッチング素子51cとスイッチング素子51fとは、バッテリ3の正極端子と負極端子との間に、直列に説明されて、W相のブリッジ回路を構成している。スイッチング素子51cは、ドレイン端子がバッテリ3の正極端子に、ソース端子がノードN3に、ゲート端子がW相の上側の駆動信号の信号線に、それぞれ接続されている。また、スイッチング素子51fは、ドレイン端子がノードN3に、ソース端子がバッテリ3の負極端子に、ゲート端子がW相の下側の駆動信号の信号線に、それぞれ接続されている。また、ノードN3は、モータ2の接続点21cに接続されている。
【0043】
また、ダイオード52aは、アノード端子がノードN1に、カソード端子がバッテリ3の正極端子に、それぞれ接続されている。また、ダイオード52dは、アノード端子がバッテリ3の負極端子に、カソード端子がノードN1に、それぞれ接続されている。
【0044】
また、ダイオード52bは、アノード端子がノードN2に、カソード端子がバッテリ3の正極端子に、それぞれ接続されている。また、ダイオード52eは、アノード端子がバッテリ3の負極端子に、カソード端子がノードN2に、それぞれ接続されている。
【0045】
また、ダイオード52cは、アノード端子がノードN3に、カソード端子がバッテリ3の正極端子に、それぞれ接続されている。また、ダイオード52fは、アノード端子がバッテリ3の負極端子に、カソード端子がノードN3に、それぞれ接続されている。
【0046】
バッテリ3は、例えば、鉛蓄電池やリチウムイオン電池などの直流電源であり、モータ2を駆動する電力を供給する。
【0047】
次に、図面を参照して、本実施形態によるモータ装置100の動作について説明する。
図2は、本実施形態によるモータ装置100のデューティリミット値の切り替え処理の一例を示すフローチャートである。ここでは、制御部40の上限値設定部44の動作について説明する。
【0048】
図2に示すように、上限値設定部44は、まず、モータ回転数が回転数RPM1より大きいか否かを判定する(ステップS101)。上限値設定部44は、回転数検出部42が検出したモータ回転数RPMを取得し、モータ回転数RPMが回転数RPM1より大きいか否か(モータ回転数RPMが回転数RPM1以下であるか否か)を判定する。上限値設定部44は、モータ回転数RPMが回転数RPM1より大きい場合(ステップS101:YES)に、処理をステップS102に進める。また、上限値設定部44は、モータ回転数RPMが回転数RPM1以下である場合(ステップS101:NO)に、処理をステップS104に進める。
【0049】
ステップS102において、上限値設定部44は、モータ2が加速中であるか否かを判定する。上限値設定部44は、例えば、加速検出部43が出力する検出結果により、モータ2が加速中であるか否かを判定する。上限値設定部44は、モータ2が加速中である場合(ステップS102:YES)に、処理をステップS103に進める。また、上限値設定部44は、モータ2が加速中でない場合(ステップS102:NO)に、処理をステップS106に進める。
【0050】
ステップS103において、上限値設定部44は、デューティリミット値に、補正デューティリミット値を選択する。すなわち、上限値設定部44は、補正デューティリミット値をデューティリミット値(LMT)として、駆動信号生成部46に出力する。ステップS103の処理後に、上限値設定部44は、処理をステップS101に戻す。
【0051】
また、ステップS104において、上限値設定部44は、モータ回転数が回転数RPM2以上であるか否かを判定する。上限値設定部44は、回転数検出部42が検出したモータ回転数RPMを取得し、モータ回転数RPMが回転数RPM2以上であるか否を判定する。上限値設定部44は、モータ回転数RPMが回転数RPM2以上である場合(ステップS104:YES)に、処理をステップS105に進める。また、上限値設定部44は、モータ回転数RPMが回転数RPM2未満である場合(ステップS104:NO)に、処理をステップS106に進める。
【0052】
ステップS105において、上限値設定部44は、デューティリミット値を、回転数の増加に応じて設定最小値から徐々に上昇するように設定する。すなわち、上限値設定部44は、デューティリミット値(LMT)である通常デューティリミット値を、設定最小値を起点に、回転数の増加に応じて徐々に上昇させる。ステップS105の処理後に、上限値設定部44は、処理をステップS101に戻す。
【0053】
また、ステップS106において、上限値設定部44は、デューティリミット値に、通常デューティリミット値を選択する。すなわち、上限値設定部44は、通常デューティリミット値をデューティリミット値(LMT)として、駆動信号生成部46に出力する。ステップS106の処理後に、上限値設定部44は、処理をステップS101に戻す。
【0054】
次に、
図3を参照して、本実施形態によるモータ装置100のデューティリミット値の切り替え処理の一例について説明する。
図3は、本実施形態によるモータ装置100のデューティリミット値の切り替え処理の一例を説明する図である。
【0055】
図3において、グラフの横軸は、モータ2の回転数[rpm]であり、縦軸は、デューティリミット値[%]である。また、波形W1は、通常デューティリミット値の波形を示し、波形W2は、補正デューティリミット値の波形を示している。
【0056】
また、
図3において、回転数RPM0は、モータ2の挙動が安定し始める回転数を示している。また、回転数RPM1は、上述した第1閾値を示し、回転数RPM2は、第2閾値を示している。また、回転数RPM3(第3閾値)は、モータ2の挙動が安定し、広角通電駆動が可能になる回転数を示している。
また、設定最小値DLminは、デューティリミット値の設定における最小値を示し、設定最大値DLmaxは、デューティリミット値の設定における最大値を示している。
【0057】
図3の回転数が回転数RPM2未満の期間TR1において、上限値設定部44は、波形W1に示すように、デューティリミット値として、通常デューティリミット値に固定値の設定最小値DLminを設定する。
【0058】
また、回転数が回転数RPM2~回転数RPM1までの期間TR2において、上限値設定部44は、波形W1に示すように、デューティリミット値として、通常デューティリミット値に、設定最小値DLminを起点に、回転数の増加に応じて、徐々に上昇するように設定する。モータ2が始動し、回転数RPM2から回転数RPM1までの間(期間TR2)の設定変更処理において、通常デューティリミット値を、設定最小値DLminを起点に、回転数の増加に比例させて(回転数に正比例させて)上昇させる。
【0059】
これにより、モータ装置100は、一定値である設定最小値DLminを起点に、回転数の増加に比例させて通常デューティリミット値を上昇させるため、簡易な手法により、モータ始動時から負荷がかかっている場合に、デューティリミット値を超えないように適切に制御することができる。
【0060】
また、回転数が回転数RPM1を超える期間TR3において、上限値設定部44は、モータ2が加速中でない場合に、波形W1に示すように、デューティリミット値として、通常デューティリミット値を、回転数の増加に応じて、さらに上昇するように設定する。
【0061】
また、回転数が回転数RPM1を超える期間TR3において、上限値設定部44は、モータ2が加速中である場合に、波形W2に示すように、デューティリミット値として、補正デューティリミット値を設定する。
【0062】
なお、
図3において、期間TR4は、回転数が回転数RPM0未満の期(又は回転数の範囲)間を示し、期間TR5は、回転数が回転数RPM0~回転数RPM3までの期間(又は回転数の範囲)を示している。また、期間TR6は、回転数が回転数RPM3を超える期間(又は回転数の範囲)を示している。期間TR4~期間TR6についての説明は、後述する進角通電制御の説明において行う。
【0063】
次に、
図4を参照して、本実施形態によるモータ装置100の通電制御処理について説明する。
図4は、本実施形態によるモータ装置100の通電制御処理の一例を示すフローチャートである。
【0064】
図4に示すように、モータ装置100の進角通電角制御部47は、モータ2の駆動を開始すると、まず、低速通電制御(進角制御なし、通電角120度)の処理を実行する(ステップS201)。ここでは、モータ2の駆動開始直後であり、モータ2の挙動が不安定なため、進角通電角制御部47は、進角通電を禁止する。
【0065】
次に、進角通電角制御部47は、モータ回転数が回転数RPM0以上であるか否かを判定する(ステップS202)。進角通電角制御部47は、回転数検出部42からモータ回転数(RPM)を取得し、取得した回転数(RPM)が、回転数RPM0以上であるか否かを判定する。ここで、回転数RPM0は、上述した
図3に示すように、回転数RPM2より小さい値(RPM0<RPM2)である。進角通電角制御部47は、モータ回転数が、回転数RPM0以上である場合(ステップS202:YES)に、処理をステップS203に進める。また、進角通電角制御部47は、モータ回転数が、回転数RPM0未満である場合(ステップS202:NO)に、処理をステップS201に戻す。
【0066】
ステップS203において、進角通電角制御部47は、高速通電制御(進角制御あり、通電角121度以上)の処理を実行する、進角通電角制御部47は、例えば、進角制御あり、且つ、通電角を121度以上の所定の通電角に固定した制御を行う。
【0067】
次に、進角通電角制御部47は、デューティ(出力デューティ)が、デューティリミット値以上であるか否かを判定する(ステップS204)。進角通電角制御部47は、指令生成部45が生成する出力デューティ(出力指令値)と、上限値設定部44が設定したデューティリミット値とを取得し、出力デューティがデューティリミット値以上であるか否かを判定する。進角通電角制御部47は、出力デューティがデューティリミット値以上である場合(ステップS204:YES)に、処理をステップS205に進める。また、進角通電角制御部47は、出力デューティがデューティリミット値未満である場合(ステップS204:NO)に、処理をステップS202に戻す。
【0068】
ステップS205において、進角通電角制御部47は、モータ回転数が回転数RPM3より小さいであるか否かを判定する。進角通電角制御部47は、モータ回転数が、回転数RPM3より小さい場合(ステップS205:YES)に、処理をステップS206に進める。また、進角通電角制御部47は、モータ回転数が、回転数RPM3以上である場合(ステップS205:NO)に、処理をステップS207に進める。
【0069】
ステップS206において、進角通電角制御部47は、広角禁止制御(進角制御あり、通電角120度以下)を行う。この場合、進角通電角制御部47は、例えば、進角制御あり、且つ、通電角を120度以下の所定の通電角(例えば、120度)に固定した制御を行う。ステップS206の処理後に、進角通電角制御部47は、進角通電角制御の設定を維持して、処理を終了する。
【0070】
また、ステップS207において、進角通電角制御部47は、ブースト制御(進角制御あり、通電角121度以上で目標速度に応じて可変制御)を行う。ここでの目標速度は、目標回転数TRPMである。ステップS207の処理後に、進角通電角制御部47は、ブースト制御の設定を維持して、処理を終了する。
【0071】
次に、
図5を参照して、本実施形態によるモータ装置100の通電制御処理について説明する。
図5は、本実施形態によるモータ装置100の通電制御処理の一例を説明する図である。
【0072】
図5に示すように、期間TR4(
図3の回転数RPM0未満の期間)において、進角通電角制御部47は、出力デューティが、デューティリミット値未満であるか否かにかかわらずに、低速通電制御を行う。
【0073】
また、期間TR5(
図3の回転数RPM0~RPM3の期間)において、進角通電角制御部47は、出力デューティが、デューティリミット値未満である場合に、高速通電制御を行い、広角通電を行う。また、進角通電角制御部47は、期間TR5において、出力デューティが、デューティリミット値以上である場合に、広角禁止制御を行い、広角通電を禁止する。
【0074】
また、期間TR6(
図3の回転数RPM3を超える期間)において、進角通電角制御部47は、出力デューティが、デューティリミット値未満である場合に、高速通電制御を行い、出力デューティが、デューティリミット値以上である場合に、ブースト制御を行う。このように、回転数RPM3を超える期間TR6において、進角通電角制御部47は、常に広角通電制御を行う。
【0075】
以上説明したように、本実施形態によるモータ装置100は、回転駆動するモータ2と、駆動信号生成部46と、回転数検出部42と、インバータ50と、回転数検出部42と、加速検出部43と、上限値設定部44とを備える。駆動信号生成部46は、モータ2の駆動出力を示すデューティ比を、デューティリミット値(デューティ比上限値)を超えないように制御し、デューティ比に応じた駆動信号を生成する。回転数検出部42は、モータ2の回転数を検出する。加速検出部43は、モータ2が加速中か否かを検出する。インバータ50は、駆動信号に基づいて、モータ2を回転駆動させる出力信号を出力する。上限値設定部44は、モータ2の回転数が第1閾値(回転数RPM1)を超え、且つ、モータ2の回転が加速中である場合に、デューティ比上限値を、予め設定されている第1上限値(通常デューティリミット値)より高い第2上限値(補正デューティリミット値)に変更する変更処理を実行する。そして、上限値設定部44は、回転数が、第1閾値(回転数RPM1)より低い第2閾値(回転数RPM2)から第1閾値(回転数RPM1)までの間(期間TR2)において、第1上限値(通常デューティリミット値)を、回転数の増加に応じて徐々に上昇するように設定する。
【0076】
これにより、本実施形態によるモータ装置100は、第2閾値(回転数RPM2)から第1閾値(回転数RPM1)までの間において、第1上限値を、回転数の増加に応じて徐々に上昇するように設定するため、例えば、モータ始動時から負荷がかかっている場合でも、モータ2の失速を抑制することができる。また、本実施形態によるモータ装置100は、第1上限値を徐々に上昇させることにより、デューティ比の上がりすぎによりモータ2に過電流が流れることを防止している。よって、本実施形態によるモータ装置100は、モータ始動時においてもモータ2の失速抑制と保護を両立させることができる。
【0077】
ここで、
図6を参照して、従来のモータ装置と、本実施形態によるモータ装置100との動作を比較して、本実施形態によるモータ装置100の効果について説明する。
図6は、本実施形態によるモータ装置100の効果の一例を説明する図である。
【0078】
図6(a)は、比較のために、従来のモータ装置の動作の一例を示す図である。
図6(a)において、グラフの縦軸は、デューティ比[%]、又は回転角[deg]であり、横軸は、時間[sec]である。また、
図6(a)に示す例は、従来のモータ装置を、車両のワイパーに使用した場合の一例を示している。
【0079】
また、
図6(a)において、波形W3は、従来のモータ装置のデューティリミット値の時間変化を示し、波形W4は、従来のモータ装置のデューティ比(出力デューティ)の時間変化を示している。また、波形W5は、従来のモータ装置の回転角の時間変化を示している。
【0080】
また、
図6(b)は、本実施形態によるモータ装置100の動作の一例を示す図である。
図6(b)において、グラフの縦軸は、デューティ比[%]、又は回転角[deg]であり、横軸は、時間[sec]である。また、
図6(b)に示す例は、本実施形態によるモータ装置100を、車両のワイパーに使用した場合の一例を示している。
【0081】
また、
図6(b)において、波形W6は、モータ装置100のデューティリミット値の時間変化を示し、波形W7は、モータ装置100のデューティ比(出力デューティ)の時間変化を示している。また、波形W8は、モータ装置100の回転角の時間変化を示している。
【0082】
従来のモータ装置では、高負荷が発生した場合に、
図6(a)の部分領域P1のように、デューティ比(波形W4)がデューティリミット値(波形W3)に達してしまい、モータ回転速度が低下(失速)して、ワイパーの払拭に時間(期間TR7)を要する(波形W5)。
【0083】
これに対して、本実施形態によるモータ装置100では、
図6(b)の部分領域P2及び部分領域P3に示すように、第2閾値(回転数RPM2)から第1閾値(回転数RPM1)までの間で、徐々にデューティリミット値を上場させるため、デューティ比(波形W6)がデューティリミット値(波形W6)に達することを抑制できる。そのため、本実施形態によるモータ装置100では、高負荷が発生した場合であっても、
図6(b)の期間TR8に示すように、ワイパーの払拭に時間を要することがない。
このように、本実施形態によるモータ装置100は、モータ始動時から負荷がかかっている場合でも、モータ2の失速を抑制することができる。
【0084】
また、本実施形態では、第1上限値は、回転数が第2閾値未満(回転数RPM2未満)である場合に、一定値である設定最小値(DLmin)が設定されている。上限値設定部44は、モータ2が始動し、第2閾値(回転数RPM2)から第1閾値(回転数RPM1)までの間において、第1上限値を、設定最小値(DLmin)を起点に、回転数の増加に応じて徐々に上昇させる。
【0085】
これにより、本実施形態によるモータ装置100は、一定値である設定最小値(DLmin)を起点に、回転数の増加に応じて第1上限値を徐々に上昇させるため、回転数が第2閾値未満(回転数RPM2未満)でありモータ2の挙動が不安定である場合においては、デューティ比を必要最低限とすることで過電流を防止し、モータ2の保護を優先することができる。
【0086】
また、本実施形態では、駆動信号生成部46は、モータ2への印加電圧の進角及び通電角を制御する進角通電角制御部47を有する。進角通電角制御部47は、デューティ比がデューティリミット値未満である場合に、通電角を120度を超える値に変化させるとともに、進角を増加させる。また、進角通電角制御部47は、デューティ比がデューティリミット値と等しく、且つ、回転数が第1閾値以上(回転数RPM1以上)に設定された第3閾値未満(回転数RPM3未満)となった場合に、通電角を120度以下にする。
【0087】
これにより、本実施形態によるモータ装置100は、デューティ比がデューティリミット値未満である場合、又は、回転数が第3閾値以上(回転数RPM3以上)となった場合に、通電角を120度を超える値に変化させるとともに、進角を増加させた広角通電制御を行うことで、モータ2の失速を抑制しつつ、モータ2を高速で駆動することができる。
【0088】
また、本実施形態によるモータ装置100は、デューティ比がデューティリミット値と等しく、且つ、回転数が第3閾値未満(回転数RPM3未満)となった場合に、通電角を120度以下にする制御を行うことで、デューティ比が高いにも関わらず回転数が高くならない場合は、通電角を狭め、モータ2の保護を優先することができる。
【0089】
さらに、デューティ比がデューティリミット値と等しい場合に、広角通電制御を行うか否かを決定する回転数の閾値を、第1閾値以上(回転数RPM1以上)である第3閾値(回転数RPM3)に設定した。これにより、本実施形態によるモータ装置100は、デューティ比がデューティリミット値と等しい場合において、第1上限値(通常デューティリミット値)を回転数の増加に応じて徐々に上昇させる制御を行う回転数の領域と、広角通電制御を行う回転数の領域とを、明確に分けることができる。すなわち、本実施形態によるモータ装置100は、モータ2の保護と、高速駆動とを両立することができる。
【0090】
また、本実施形態では、上限値設定部44は、変更処理において、第1上限値(通常デューティリミット値)を所定の定数倍した第2上限値に変更する。
これにより、本実施形態によるモータ装置100は、所定の定数倍という簡易な手法により、突発的な負荷がかかった場合でも、デューティ比上限値による出力制限を回避することができ、モータ回転数を再び上昇させることができる。
【0091】
また、所定の定数倍とすることで、第1上限値(通常デューティリミット値)が大きい場合はデューティリミット値の変化量が大きくなり、第1上限値が小さい場合はデューティリミット値の変化量が小さくなる。よって、本実施形態によるモータ装置100は、例えば、モータ2の失速防止や高速駆動を積極的に行うべく、デューティリミット値による制限が緩和されている場合は、より大きなデューティ比を出力することが可能となり、逆に、モータ2の失速防止や高速駆動にやや消極的であり、デューティリミット値による制限がある程度かかっている場合は、変更処理を行ってもデューティ比が大幅に上昇することはない。
【0092】
また、本実施形態によるモータ制御方法は、駆動信号に基づいて、インバータ50が出力する出力信号により回転駆動するモータ2を制御するモータ制御方法であって、駆動信号生成ステップと、回転数検出ステップと、加速検出ステップと、上限値設定ステップとを含む。駆動信号生成ステップにおいて、駆動信号生成部46が、モータ2の駆動出力を示すデューティ比を、デューティリミット値を超えないように制御し、デューティ比に応じた駆動信号を生成する。回転数検出ステップにおいて、回転数検出部42が、モータ2の回転数を検出する。加速検出ステップにおいて、加速検出部43が、モータ2が加速中か否かを検出する。上限値設定ステップにおいて、上限値設定部44が、モータ2の回転数が回転数RPM1を超え、且つ、モータ2の回転が加速中である場合に、デューティリミット限値を、予め設定されている第1上限値(通常デューティリミット値)より高い第2上限値(補正デューティリミット値)に変更する変更処理を実行する。また、上限値設定ステップにおいて、上限値設定部44が、回転数が回転数RPM1より低い回転数RPM2から回転数RPM1までの間において、第1上限値(通常デューティリミット値)を、回転数の増加に応じて徐々に上昇するように設定する。
【0093】
これにより、本実施形態による制御方法は、上述したモータ装置100と同様の効果を奏し、モータ始動時から負荷がかかっている場合でも、モータ2の失速を抑制することができる。
【0094】
なお、本実施形態によるモータ装置100では、
図7に示すように、第1閾値(回転数RPM1)を超える期間TR3において、上限値設定部44は、回転数の増加に応じて、階段状に、第1上限値(通常デューティリミット値)及び第2上限値(補正デューティリミット値)を上昇させてもよい。
【0095】
図7は、第1の実施形態によるモータ装置100のデューティリミット値の切り替え処理の変形例を説明する図である。
図7において、グラフの横軸は、モータ2の回転数[rpm]であり、縦軸は、デューティリミット値[%]である。また、波形W1aは、通常デューティリミット値の波形を示し、波形W2aは、補正デューティリミット値の波形を示している。
【0096】
図7に示す変形例では、上限値設定部44は、波形W1a及び波形W2aに示すように、期間TR3において、通常デューティリミット値及び補正デューティリミット値を階段状に上昇させる。
【0097】
次に、図面を参照して、本発明の第2の実施形態によるワイパー装置200について説明する。
【0098】
[第2の実施形態]
ここでは、
図8を参照して、上述したモータ装置100をワイパー装置200に適用した場合の一例について説明する。
図8は、本実施形態によるワイパー装置200の一例を示す構成図である。
【0099】
図8に示すように、ワイパー装置200は、車両1のウィンドウガラス10のウィンド面に対して、払拭動作を行う。ワイパー装置200は、モータ装置100と、リンク機構11と、2本のワイパーアーム12と、各ワイパーアーム12の先端部に装着されたワイパーブレード13とを備える。
【0100】
図8に示すモータ装置は、上述した本実施形態のモータ装置100であり、ここではその詳細な説明を省略する。モータ装置100は、モータ2と、モータ制御装置150とを備える。
【0101】
ワイパーアーム12は、モータ装置100の回転駆動により、ウィンドウガラス10のウィンド面を動作し、先端部に装着されたワイパーブレード13により払拭動作を行う。
2つのワイパーアーム12は、リンク機構11により連結されている。
【0102】
ワイパーブレード13は、ワイパーアーム12によって、ウィンドウガラス10に押し付けられるようにして設けられている。
ワイパーブレード13は、ワイパーアーム12の先端部に装着されるブレードホルダに保持されるブレードラバー(不図示)を備えている。ワイパーブレード13は、モータ装置100によってワイパーアーム12が揺動されると、ウィンドウガラス10の外表面上の払拭範囲を往復動し、ブレードラバー(不図示)によってウィンドウガラス10を払拭する。
【0103】
以上説明したように、本実施形態によるワイパー装置200は、上述したモータ装置100を備え、モータ装置100を用いて、ワイパー部材(ワイパーアーム12及びワイパーブレード13)にウィンド面での払拭動作を行わせる。
【0104】
これにより、本実施形態によるワイパー装置200は、上述したモータ装置100と同様の効果を奏し、モータ始動時から負荷がかかっている場合でも、モータ2の失速を抑制することができる。
【0105】
なお、本発明は、上記の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
例えば、上記の実施形態において、モータ2の3相の電機子コイル(21u、21v、21w)は、デルタ結線により接続される例を説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、スター結線などの他の結線であってもよい。
【0106】
また、上記の各実施形態において、上限値設定部44は、上述した式(1)又は式(2)を用いて、通常デューティリミット値から補正デューティリミット値を生成して設定する例を説明したが、これに限定されるものではなく、下記の式(3)のように、回転数に応じて、補正量を変更するようにしてもよい。
【0107】
補正デューティリミット値=通常デューティリミット値+α×回転数 ・・・ (3)
【0108】
また、上記の各実施形態において、上限値設定部44は、回転数RPM2から回転数RPM1までの間の設定変更処理において、通常デューティリミット値を、回転数に正比例させて上昇させる例を説明したが、これに限定されるものではなく、回転数の増加に伴い階段状や二次曲線的に上昇させるようにしてもよい。
【0109】
また、上記の実施形態において、モータ装置100が、ワイパー装置200に用いられる例を説明したが、これに限定されるものではなく、モータ装置100は、他の用途に利用されてもよい。
【0110】
なお、上述したモータ装置100が備える各構成は、内部に、コンピュータシステムを有している。そして、上述したモータ装置100が備える各構成の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより上述したモータ装置100が備える各構成における処理を行ってもよい。ここで、「記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行する」とは、コンピュータシステムにプログラムをインストールすることを含む。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
また、「コンピュータシステム」は、インターネットやWAN、LAN、専用回線等の通信回線を含むネットワークを介して接続された複数のコンピュータ装置を含んでもよい。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。このように、プログラムを記憶した記録媒体は、CD-ROM等の非一過性の記録媒体であってもよい。
【0111】
また、上述した機能の一部又は全部を、LSI(Large Scale Integration)等の集積回路として実現してもよい。上述した各機能は個別にプロセッサ化してもよいし、一部、又は全部を集積してプロセッサ化してもよい。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、又は汎用プロセッサで実現してもよい。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いてもよい。
【符号の説明】
【0112】
1…車両、2…モータ、3…バッテリ、10…ウィンドウガラス、11…リンク機構、12…ワイパーアーム、13…ワイパーブレード、21…ステータ、21u,21v,21w…電機子コイル、22…ロータ、22a…ロータ軸、22b…永久磁石、30…回転軸センサ、40…制御部、41…位置検出部、42…回転数検出部、43…加速検出部、44…上限値設定部、45…指令生成部、46…駆動信号生成部、47…進角通電角制御部、50…インバータ、51,51a~51f…スイッチング素子、52,52a~52f…ダイオード、100…モータ装置、200…ワイパー装置