(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025155307
(43)【公開日】2025-10-14
(54)【発明の名称】モールドパウダー
(51)【国際特許分類】
B22D 11/108 20060101AFI20251006BHJP
C21C 7/076 20060101ALI20251006BHJP
【FI】
B22D11/108 F
C21C7/076 P
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024059069
(22)【出願日】2024-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100195877
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻木 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 純哉
(72)【発明者】
【氏名】栗山 智帆
【テーマコード(参考)】
4E004
4K013
【Fターム(参考)】
4E004MB14
4K013EA03
4K013EA04
(57)【要約】
【課題】 シリカ原料としてガラス粉を含みながら焼結塊やスラグベアを発生させず、操業性や鋼品質を良好に保つことができるモールドパウダーを提供すること。
【解決手段】 モールドパウダーは、主原料としてCaO-SiO2基材原料とシリカ原料とを含み、シリカ原料はガラス粉を含み、ガラス粉の含有量は2.0~40.0質量%であり、ガラス粉の粒径は140μm未満である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主原料としてCaO-SiO2基材原料とシリカ原料とを含み、
前記シリカ原料はガラス粉を含み、
前記ガラス粉の含有量は2.0~40.0質量%であり、
前記ガラス粉の粒径は140μm未満であることを特徴とするモールドパウダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼の連続鋳造に好適なモールドパウダーに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造は、タンディッシュに貯留された溶鋼を、浸漬ノズルを介してモールドに流し込んで冷却、凝固させながら、凝固したシェル(凝固シェル)をロールを用いてモールドの下方向に連続的に引き抜くことにより、スラブ、ブルーム、ビレット等の各種形状の鋳片を連続的に製造する工程である。モールド内の溶鋼の表面には、粉末状又は顆粒状のモールドパウダーが投入される。モールドパウダーは溶鋼からの受熱によって溶融し(溶融状態のモールドパウダーを「パウダースラグ」ということもあるが、以下、「溶融スラグ」という)、溶融スラグ層を形成して溶鋼の表面を覆い、溶融スラグは凝固シェルとモールドとの間に流入し、凝固シェルと並行して排出、消費される。投入から消費までの間のモールドパウダーの主な役割を以下に示す。
(1)溶鋼表面の保温
(2)溶鋼表面の酸化防止
(3)溶鋼から浮上する非金属介在物の吸収及び溶鋼の清浄化
(4)凝固シェルとモールドとの間の潤滑の確保
(5)凝固シェルからモールドへの熱流束の制御
【0003】
モールドパウダーは、一般にCaO-SiO2基材原料、シリカ原料、フラックス原料及び/又はその他の原料で構成されるが、モールド内の溶鋼の表面に投入された際、溶鋼からの受熱によって溶融するように成分や原料が設計、調整される。原料の選定、組み合わせ、含有量等が不適切な場合、溶融性状が悪化し、焼結塊や、モールド壁との接触部にはスラグベアと呼ばれる半溶融状態の粗大な塊が発生することがある。
【0004】
焼結塊やスラグベアは、溶融スラグ層の不足、溶融スラグの凝固シェル・モールド間への流入阻害、スラグ露呈による保温不足、ガス抜けに伴う異常火炎、ブレークアウト等を引き起こし、著しく操業性を悪化させることがある。さらに、介在物欠陥、鋳片表面割れ等を引き起こし、鋼品質に悪影響を与えることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
モールドパウダーのCaO-SiO2基材原料は、一般にトライカルシウムシリケート、ダイカルシウムシリケート、ウォラストナイト等、比較的高融点の鉱物で構成される。一方、特許文献1はモールドパウダーのシリカ原料の一例としてガラス粉を開示する。ガラス粉は溶融温度が800℃程度と比較的低いことから、モールドパウダーの溶融促進剤の役割を有する。しかし、原料間の溶融温度の差が大きい場合、液相と未溶融原料が混在する、いわゆる半溶融層の割合が大きくなり、焼結塊やスラグベアが発生することがある。しかし、特許文献1はガラス粉の適切な含有方法を開示しない。
【0007】
本開示は上記実状を鑑みてなされたものであり、その目的は、シリカ原料としてガラス粉を含みながら焼結塊やスラグベアを発生させず、操業性や鋼品質を良好に保つことができるモールドパウダーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一の態様は、
主原料としてCaO-SiO2基材原料とシリカ原料とを含み、
前記シリカ原料はガラス粉を含み、
前記ガラス粉の含有量は2.0~40.0質量%であり、
前記ガラス粉の粒径は140μm未満であることを特徴とするモールドパウダーに関する。
【0009】
本開示の一の態様のモールドパウダーを鋼の連続鋳造に用いることにより、シリカ原料としてガラス粉を含みながら焼結塊やスラグベアを発生させないため、操業性や鋼品質を良好に保つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本開示の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成のすべてが本開示の解決手段として必須であるとは限らない。
【0011】
本実施形態のモールドパウダーは、主原料としてCaO-SiO2基材原料とシリカ原料とを含み、シリカ原料はガラス粉を含み、ガラス粉の含有量は2.0~40.0質量%であり、ガラス粉の粒径は140μm未満である。本実施形態のモールドパウダーを鋼の連続鋳造に用いることにより、シリカ原料としてガラス粉を含みながら焼結塊やスラグベアを発生させないため、操業性や鋼品質を良好に保つことができる。
【0012】
<主原料>
CaO-SiO2基材原料は、一般にモールドパウダーに用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、ポルトランドセメント、石灰石、生石灰、合成珪酸カルシウム、ウォラストナイト、リンスラグ、高炉スラグ、ダイカルシウムシリケート等が挙げられる。CaO-SiO2基材原料は主成分のCaOとSiO2を供給する。ガラス粉以外のシリカ原料は、一般にモールドパウダーに用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、珪砂、長石、珪石、珪藻土、パーライト、フライアッシュ、シリカフューム、シリカフラワー等が挙げられる。シリカ原料はモールドパウダーの質量比(CaO/SiO2)を調整する。
【0013】
<ガラス粉>
ガラス粉の含有量は2.0~40.0質量%であり、より好ましくは2.5~39.0質量%である。ガラス粉の含有量が2.0質量%未満の場合、溶融促進効果が得られず、溶融遅延が発生することがあり、好ましくない。一方、40.0質量%超の場合、溶融が過剰に促進され、焼結塊やスラグベアを発生させることがあり、好ましくない。
【0014】
ガラス粉の粒径は140μm未満であり、より好ましくは110μm未満である。ガラス粉の粒径が140μm以上の場合、局所的な先行溶融割合が大きくなり、溶融性状を悪化させることがあり、好ましくない。なお、本明細書において、粒径xμm未満とは目開きxμmの篩を通過したものをいい、粒径xμm以上とは目開きxμmの篩を通過しなかったものをいう。
【0015】
ガラス粉の形態は、一般にモールドパウダーに用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、粉末、押し出し成形顆粒、中空スプレー顆粒、撹拌造粒等が挙げられる。粉末状のモールドパウダーは、CaO-SiO2基材原料、シリカ原料等の原料をミキサーで混合して得られる。顆粒状のモールドパウダーは、さらに、バインダー等を適宜添加し、スプレー造粒法、押し出し成形法又は撹拌造粒法等によって成形される。
【0016】
ガラス粉の種類は、特に制限はないが、環境保護の観点からリサイクルガラス粉が好ましく、太陽光発電パネル(PV)の廃材ガラス(以下、太陽光パネルガラス)が特に好ましい。これにより、化石燃料、鉱物等の消費やCO2、産業廃棄物等の排出を削減することができる。PVから太陽光パネルガラスを分離し、選別、粉砕、分級等の工程を経たものを原料として用いる。太陽光パネルガラスはソーダガラスとホウケイ酸ガラスに大別され、いずれもモールドパウダーのシリカ原料に用いることができる。ソーダガラスは、例えば、SiO2:68~75質量%、Al2O3:0~5質量%、CaO:5~15質量%、MgO:1~8質量%、Na2O:11~18質量%を含む。ホウケイ酸ガラスは、例えば、SiO2:30~50質量%、Al2O3:5~15質量%、CaO:5~15質量%、MgO:0~8質量%、B2O3:5~15質量%、SrO:5~15質量%を含む。
【0017】
<副原料>
主原料以外の副原料は、一般にモールドパウダーに用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、フラックス原料、炭素原料、マグネシア、アルミナ等が挙げられる。フラックス原料は、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム、氷晶石、蛍石(フッ化カルシウム)、フッ化マグネシウム等のフッ化物塩、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸マンガン、炭酸アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム等の炭酸塩、ホウ酸、ホウ砂、コレマナイト等のホウ素原料等が挙げられ、モールドパウダーの軟化点、粘度、凝固温度を調整する。炭素原料は、例えば、コークス、グラファイト、カーボンブラック等が挙げられ、モールドパウダーの溶融速度を調整する。本実施形態のモールドパウダーは、保温性向上のため、発熱材(還元剤)として、例えば、Si、Al、Ca-Si等の金属又は合金を含んでもよい。これらの発熱材を含む場合、反応促進のため酸化剤を含んでもよい。
【実施例0018】
以下、本開示の実施例について詳細に説明する。
【0019】
<サンプル作製>
CaO-SiO
2基材原料、シリカ原料(ガラス粉を除く)、ガラス粉及び副原料をミキサーで混合してモールドパウダーを得た。ガラス粉には太陽光パネルガラスを用いた。モールドパウダー1.5gを秤量し、ブリケット成形機を用いて外径10mmの円柱状のブリケットに成形し、サンプルとした。モールドパウダーの原料の配合を表1~2に示す。
【表1】
【表2】
【0020】
実施例1~3、比較例1~4(表1)はガラス粉にソーダガラスの太陽光パネルガラスを用いた。実施例1~3は本発明の実施例である。比較例1~2はソーダガラスの含有量が本発明の範囲より少なく、比較例3はソーダガラスの含有量が本発明の範囲よりが多い。実施例1~3、比較例1~3のソーダガラスの粒径は140μm未満である。比較例4は、ソーダガラスの粒径が140μm以上であることを除き、実施例2と同等の原料の配合とした。なお、粒径140μm未満のガラス粉は目開き140μmの篩を通過したものであり、粒径140μm以上のガラス粉は目開き140μmの篩を通過しなかったものである(以下、同様)。実施例1~3、比較例1~4は化学組成が同じになるように原料を調整した。
【0021】
実施例4~6、比較例5~8(表2)はガラス粉にホウケイ酸ガラスの太陽光パネルガラスを用いた。実施例4~6は本発明の実施例である。比較例5~6はホウケイ酸ガラスの含有量が本発明の範囲より少なく、比較例7はホウケイ酸ガラスの含有量が本発明の範囲より多い。実施例4~6、比較例4~7のホウケイ酸ガラスの粒径は140μm未満である。比較例8は、ホウケイ酸ガラスの粒径が140μm以上であることを除き、実施例5と同等の原料の配合とした。実施例4~6、比較例5~8の化学組成が同じになるように原料を調整した。
【0022】
<測定、評価方法>
得られたサンプルについて、以下の測定、評価を行った。
【0023】
溶融状況を観察できる炉、例えば、高純度炭化ケイ素発熱体の環状炉にサンプルを挿入し、5℃/分で昇温しながらサンプルの溶融状況を観察した。溶融によって円柱形状が明らかに崩れて変形した温度を軟化点、完全に液滴状になった温度を溶融温度とし、それらの差から溶融温度区間を算出した。
【0024】
溶融温度区間が短いほど、即ち、軟化点と溶融温度が近いほど、モールドパウダーは軟化から溶融までが速いため、焼結塊やスラグベアが発生しにくく、好ましい。そこで、モールドパウダーの溶融性は、溶融温度区間が20℃以下の場合を優(◎)、21~30℃の場合を可(〇)、31℃以上の場合を不可(×)と評価した。
【0025】
<測定、評価結果>
測定、評価結果を表1~2に示す。
【0026】
表1より、実施例1~3は溶融温度区間が短く、良好な溶融性を示した。一方、ソーダガラスの含有量が少ない比較例1~2は溶融温度が高く、溶融温度区間が長く、溶融性は不可(×)であった。ソーダガラスの含有量が多い比較例3は軟化点が過剰に低下し、溶融温度区間が長く、溶融性は不可(×)であった。ソーダガラスの粒径が大きい比較例4も溶融温度区間が長く、溶融性は不可(×)であった。
【0027】
実施例4~6、比較例5~8(表2)はガラス粉にホウケイ酸ガラスの太陽光パネルガラスを用いたが、ソーダガラスを用いた場合(表1)と同様の傾向を示した。即ち、実施例4~6は溶融温度区間が短く、良好な溶融性を示した。一方、ホウケイ酸ガラスの含有量が少ない比較例5~6は軟化点と溶融温度が高く、溶融温度区間も長く、溶融性は不可(×)であった。ホウケイ酸ガラスの含有量が多い比較例7は軟化点が過剰に低下し、溶融温度区間が長く、溶融性は不可(×)であった。ホウケイ酸ガラスの粒径が大きい比較例4も溶融温度区間が長く、溶融性は不可(×)であった。
【0028】
ガラス粉の含有量が2.0質量%未満の比較例1~2、5~6は、ガラス粉の溶融促進効果が得られておらず、溶融遅延の発生が考えられる。ガラス粉の含有量が40.0質量%超の比較例3、7は、溶融が過剰に促進され、焼結塊やスラグベアの発生が考えられる。したがって、ガラス粉の含有量は2.0~40.0質量%が好ましく、2.5~39.0質量%がより好ましいと考えられる。また、ガラス粉の粒径が140μm以上の比較例4、8は、局所的な先行溶融割合が大きくなり、溶融性状の悪化が考えられる。したがって、ガラス粉の粒径は140μm未満が好ましく、110μm未満がより好ましいと考えられる。
【0029】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本開示の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例はすべて本開示の範囲に含まれる。例えば、明細書において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えられることができる。また、本実施形態の製造装置等の構成及び動作も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形が可能である。