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特開2025-155353電解システムの制御方法及び電解システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025155353
(43)【公開日】2025-10-14
(54)【発明の名称】電解システムの制御方法及び電解システム
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/00 20060101AFI20251006BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20251006BHJP
   C25B 1/04 20210101ALN20251006BHJP
【FI】
C25B15/00 303
C25B9/00 A
C25B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024059154
(22)【出願日】2024-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100203264
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 未久
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 伸司
(72)【発明者】
【氏名】藤本 則和
(72)【発明者】
【氏名】永田 大
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC06
4K021DC03
4K021EA06
(57)【要約】
【課題】製品としての水素の品質が低下してしまうことを抑制しつつ、陽極及び陰極を保護する。
【解決手段】電解システムは、陽極を有する陽極室及び陰極を有する陰極室を備える電解槽と、電解槽の電解液の電気分解が進む通電方向に陽極及び陰極に電流を供給可能な整流器とを含む。電解システムの制御方法は、電解システムの運転停止中、通電方向に陽極及び陰極に保護電流を整流器によって供給することと、電解システムの運転停止中、陰極室に水素ガスを供給し、陽極室に酸素ガスを供給することとを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極を有する陽極室及び陰極を有する陰極室を備える電解槽と、前記電解槽の電解液の電気分解が進む通電方向に前記陽極及び前記陰極に電流を供給可能な整流器とを含む電解システムの制御方法であって、
前記電解システムの運転停止中、前記通電方向に前記陽極及び前記陰極に保護電流を前記整流器によって供給することと、
前記電解システムの運転停止中、前記陰極室に水素ガスを供給し、前記陽極室に酸素ガスを供給することと、を含む、電解システムの制御方法。
【請求項2】
前記電解システムは、前記電解槽の電解液の電気分解によって発生した水素ガスを貯留する水素タンクをさらに備え、
前記電解システムの運転停止中、前記陰極室に水素ガスを供給することは、前記水素タンクに貯留された水素ガスを前記陰極室に供給することを含む、請求項1に記載の電解システムの制御方法。
【請求項3】
前記電解システムは、前記電解槽の電解液の電気分解によって発生した酸素ガスを貯留する酸素タンクをさらに備え、
前記電解システムの運転停止中、前記陽極室に酸素ガスを供給することは、前記酸素タンクに貯留された酸素ガスを前記陽極室に供給することを含む、請求項1に記載の電解システムの制御方法。
【請求項4】
前記電解システムの運転停止中、前記陰極室に水素ガスを供給することは、
前記陰極室における水素ガスの水素中酸素濃度を検出することと、
検出した水素ガスの水素中酸素濃度が第1閾値を超えるか否かを判定することと、
前記検出した水素ガスの水素中酸素濃度が第1閾値を超えると判定した場合、前記陰極室に水素ガスが供給されるように制御することと、を含む、請求項1に記載の電解システムの制御方法。
【請求項5】
前記陰極室に水素ガスを供給した後、前記陰極室の気圧を調整することをさらに含む、請求項4に記載の電解システムの制御方法。
【請求項6】
前記電解システムの運転停止中、前記陽極室に酸素ガスを供給することは、
前記陽極室における酸素ガスの酸素中水素濃度を検出することと、
検出した酸素ガスの酸素中水素濃度が第2閾値を超えるか否かを判定することと、
前記検出した酸素ガスの酸素中水素濃度が第2閾値を超えると判定した場合、前記陽極室に酸素ガスが供給されるように制御することと、を含む、請求項1に記載の電解システムの制御方法。
【請求項7】
前記陽極室に酸素ガスを供給した後、前記陽極室の気圧を調整することをさらに含む、請求項6に記載の電解システムの制御方法。
【請求項8】
電解システムであって、
陽極を有する陽極室及び陰極を有する陰極室を備える電解槽と、
前記電解槽の電解液の電気分解が進む通電方向に前記陽極及び前記陰極に電流を供給可能な整流器と、
前記電解システムの運転停止中、前記通電方向に前記陽極及び前記陰極に保護電流が前記整流器によって供給されるように制御する制御装置と、を含み、
前記制御装置は、前記電解システムの運転停止中、前記陰極室に水素ガスが供給され、前記陽極室に酸素ガスが供給されるように制御する、電解システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電解システムの制御方法及び電解システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、脱炭素社会を実現させるために、風力又は太陽光等の再生可能エネルギーを利用した発電が盛んに行われている。また、このような再生可能エネルギーを利用した発電の電力によって水を電気分解し、水素及び酸素を製造する電解システムが注目されている。商業用の電解システムでは、水素及び酸素を製造する際、数千から数万アンペアの電流を流している。
【0003】
ここで、再生可能エネルギーを利用した発電は、再生エネルギーが常に変動することにより、停止する場合がある。例えば、太陽光を利用した太陽光発電は、夜間に停止する。また、風力を利用した風力発電は、強風時に停止する。このように再生可能エネルギーを利用した発電が停止すると、電解システムの運転を停止させることが求められる。しかしながら、電解システムの運転を停止させると、電解システムの陽極及び陰極に逆電流が生じることがある。このような逆電流が生じると、陽極及び陰極が劣化する虞がある。
【0004】
そこで、電解システムの運転停止中、陽極及び陰極に保護電流を供給して陽極及び陰極の電位を理論分解電圧以上に維持することにより、陽極及び陰極に逆電流を生じさせない方法が知られている。例えば、特許文献1には、電気分解を停止するのに先立ち、電気分解が停止しない範囲で電流密度を0A/cm超かつ電気分解の工程における電流密度未満の範囲にまで低下させる水素ガスの製造方法が記載されている。さらに、特許文献1に記載の水素ガスの製造方法では、少なくとも水素発生極にガスを導入しながら電流密度を1秒以上保持し、電流密度を電気分解が起こらない値にまで下げることによって電気分解を停止させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2022/210578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1には、水素発生極に導入するガスが窒素及び希ガスからなる群より選ばれる少なくとも一種であることが記載されている。窒素ガス等を水素発生極に導入すると、製品としての水素の濃度が低下してしまい、製品としての水素の品質が低下してしまう場合がある。
【0007】
かかる点に鑑みてなされた本開示の目的は、製品としての水素の品質が低下してしまうことを抑制しつつ、陽極及び陰極を保護することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本開示は、以下の通りである。
[1]
陽極を有する陽極室及び陰極を有する陰極室を備える電解槽と、前記電解槽の電解液の電気分解が進む通電方向に前記陽極及び前記陰極に電流を供給可能な整流器とを含む電解システムの制御方法であって、
前記電解システムの運転停止中、前記通電方向に前記陽極及び前記陰極に保護電流を前記整流器によって供給することと、
前記電解システムの運転停止中、前記陰極室に水素ガスを供給し、前記陽極室に酸素ガスを供給することと、を含む、電解システムの制御方法。
[2]
前記電解システムは、前記電解槽の電解液の電気分解によって発生した水素ガスを貯留する水素タンクをさらに備え、
前記電解システムの運転停止中、前記陰極室に水素ガスを供給することは、前記水素タンクに貯留された水素ガスを前記陰極室に供給することを含む、[1]に記載の電解システムの制御方法。
[3]
前記電解システムは、前記電解槽の電解液の電気分解によって発生した酸素ガスを貯留する酸素タンクをさらに備え、
前記電解システムの運転停止中、前記陽極室に酸素ガスを供給することは、前記酸素タンクに貯留された酸素ガスを前記陽極室に供給することを含む、[1]又は[2]に記載の電解システムの制御方法。
[4]
前記電解システムの運転停止中、前記陰極室に水素ガスを供給することは、
前記陰極室における水素ガスの水素中酸素濃度を検出することと、
検出した水素ガスの水素中酸素濃度が第1閾値を超えるか否かを判定することと、
前記検出した水素ガスの水素中酸素濃度が第1閾値を超えると判定した場合、前記陰極室に水素ガスが供給されるように制御することと、を含む、[1]から[3]までの何れか1つに記載の電解システムの制御方法。
[5]
前記陰極室に水素ガスを供給した後、前記陰極室の気圧を調整することをさらに含む、[1]から[4]までの何れか1つに記載の電解システムの制御方法。
[6]
前記電解システムの運転停止中、前記陽極室に酸素ガスを供給することは、
前記陽極室における酸素ガスの酸素中水素濃度を検出することと、
検出した酸素ガスの酸素中水素濃度が第2閾値を超えるか否かを判定することと、
前記検出した酸素ガスの酸素中水素濃度が第2閾値を超えると判定した場合、前記陽極室に酸素ガスが供給されるように制御することと、を含む、[1]から[5]までの何れか1つに記載の電解システムの制御方法。
[7]
前記陽極室に酸素ガスを供給した後、前記陽極室の気圧を調整することをさらに含む、[1]から[6]までの何れか1つに記載の電解システムの制御方法。
[8]
陽極を有する陽極室及び陰極を有する陰極室を備える電解槽と、
前記電解槽の電解液の電気分解が進む通電方向に前記陽極及び前記陰極に電流を供給可能な整流器と、
前記電解システムの運転停止中、前記通電方向に前記陽極及び前記陰極に保護電流が前記整流器によって供給されるように制御する制御装置と、を含み、
前記制御装置は、前記電解システムの運転停止中、前記陰極室に水素ガスが供給され、前記陽極室に酸素ガスが供給されるように制御する、電解システム。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一実施形態によれば、製品としての水素の品質が低下してしまうことを抑制しつつ、陽極及び陰極を保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の一実施形態に係る電解システムの構成を示すブロック図である。
図2図1に示す電解槽の側面図である。
図3図2に示す電解槽の斜視図である。
図4図2に示す電解槽の平面図である。
図5】本開示の一実施形態に係る電解システムの制御方法の手順例を示すフローチャートである。
図6】シミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に係る実施形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
(電解システムの構成)
図1に示すように、本実施形態に係る電解システム1は、電解槽2と、陽極タンク3と、センサ4と、酸素タンク5と、ファン6と、陰極タンク7と、センサ8と、スクラバー9と、圧縮器10と、水素ガス精製装置11と、水素タンク12とを含む。さらに、電解システム1は、整流器13と、制御装置16とを含む。電解システム1は、電解槽2に電解液を送液する送液ポンプ等を含んでもよい。
【0013】
電解槽2は、後述の図2及び図3に示すように、陽極21aを有する陽極室27aと、陰極21cを有する陰極室27cとを備える。陽極室27a及び陰極室27cには、電解液が通過する。電解液は、例えば、アルカリ塩が溶解されたアルカリ性の水溶液である。電解液の一例として、NaOH水溶液又はKOH水溶液等が挙げられる。陽極21a及び陰極21cには、整流器13から電流が供給される。陽極21a及び陰極21cに電流が供給されると、陽極室27a及び陰極室27cの電解液が電気分解される。電解液が電気分解されると、陰極室27cに水素ガスが発生し、陽極室27aに酸素ガスが発生する。
【0014】
陽極タンク3は、後述の図3に示す陽極電解液出口27ao及び陽極用集液管ヘッダー30Oaoを介して、電解槽2の陽極室27aに接続される。陽極タンク3には、電解槽2の陽極室27aから、電解液及び酸素ガスが供給される。陽極タンク3は、供給された電解液と酸素ガスとを分離する。分離後の酸素ガスは、酸素タンク5に供給される。
【0015】
センサ4は、陽極タンク3から酸素タンク5への酸素ガスの供給経路に配置される。供給経路は、例えば、配管及び弁を含んで構成される。
【0016】
センサ4は、濃度センサを含んで構成される。センサ4は、陽極タンク3から酸素タンク5への供給経路における酸素ガスの酸素中水素濃度を検出する。センサ4は、酸素中水素濃度の検出結果を制御装置16に送信する。
【0017】
センサ4は、気圧センサを含んで構成される。センサ4は、陽極タンク3から酸素タンク5への酸素ガスの供給経路における気圧を検出する。センサ4は、気圧の検出結果を制御装置16に送信する。
【0018】
酸素タンク5には、陽極タンク3から酸素ガスが供給される。酸素タンク5は、酸素ガスを貯留する。
【0019】
酸素タンク5は、供給経路を介して後述の図3に示す陽極用集液管ヘッダー30Oaoに接続される。供給経路は、後述のファン6、配管及び弁を含んで構成される。電解システム1の運転停止中、酸素タンク5に貯留された酸素ガスは、制御装置16の制御に基づいて、後述の図3に示す陽極用集液管ヘッダー30Oaoを介して電解槽2に供給される。
【0020】
ファン6は、酸素タンク5から電解槽2への酸素ガスの供給経路に配置される。ファン6は、制御装置16から受信する制御信号に基づいて、回転する。ファン6が回転すると、酸素タンク5から電解槽2へ酸素ガスが供給される。
【0021】
陰極タンク7は、後述の図3に示す陰極電解液出口27io及び陰極用集液管ヘッダー30Ocoを介して、電解槽2の陰極室27cに接続される。陰極タンク7には、電解槽2の陰極室27cから、電解液及び水素ガスが供給される。陰極タンク7は、電解液と水素ガスとを分離する。分離後の水素ガスは、スクラバー9に供給される。
【0022】
センサ8は、陰極タンク7からスクラバー9への水素ガスの供給経路に配置される。供給経路は、例えば、配管及び弁を含んで構成される。
【0023】
センサ8は、濃度センサを含んで構成される。センサ8は、陰極タンク7からスクラバー9への供給経路における水素ガスの水素中酸素濃度を検出する。センサ8は、水素中酸素濃度の検出結果を制御装置16に送信する。
【0024】
センサ8は、気圧センサを含んで構成される。センサ8は、陰極タンク7からスクラバー9への水素ガスの供給経路における気圧を検出する。センサ8は、気圧の検出結果を制御装置16に送信する。
【0025】
スクラバー9には、陰極タンク7から水素ガスが供給される。スクラバー9は、電解システム1の運転中、水素ガスに含まれるミストを除去する。スクラバー9は、ミストが除去された後の水素ガスを圧縮器10に供給する。後述するように、電解システム1の運転停止中、電極保護整流器15によって電解槽2の陽極21a及び陰極21cに保護電流が供給される。スクラバー9は、電解システム1の運転停止中に電解槽2の陽極21a及び陰極21cに保護電流が供給されている間、水素ガスを大気に放出する。
【0026】
圧縮器10には、スクラバー9から水素ガスが供給される。圧縮器10は、水素ガスを所定気圧まで圧縮する。所定気圧は、水素タンク12の容量等に基づいて設定されてよい。圧縮器10は、圧縮後の水素ガスを水素ガス精製装置11に供給する。
【0027】
水素ガス精製装置11には、圧縮器10から水素ガスが供給される。水素ガス精製装置11は、供給された水素ガスから不純物成分を除去して、水素ガスを精製する。水素ガス精製装置11は、精製後の水素ガスを水素タンク12に供給する。
【0028】
水素タンク12には、水素ガス精製装置11から水素ガスが供給される。水素タンク12は、水素ガスを貯留する。水素タンク12に貯留された水素ガスは、製品として出荷される。
【0029】
水素タンク12は、供給経路を介して後述の図3に示す陰極用集液管ヘッダー30Ocoに接続される。供給経路は、配管及び弁を含んで構成される。電解システム1の運転停止中、水素タンク12に貯留された水素ガスは、制御装置16の制御に基づいて、後述の図3に示す陰極用集液管ヘッダー30Ocoを介して電解槽2に供給される。
【0030】
整流器13は、電解槽2の電解液の電気分解が進む通電方向に、電解槽2の陽極21a及び陰極21cに電流を供給可能に構成される。整流器13は、主整流器14と、電極保護整流器15とを含む。
【0031】
主整流器14は、電解システム1の運転中、制御装置16から受信する制御信号に基づいて、電解槽2の電解液の電気分解が進む通電方向に、電解槽2の陽極21a及び陰極21cに電流を供給する。主整流器14が供給する電流は、後述の図2に示す電解槽2の陽極ターミナルエレメント25a及び陰極ターミナルエレメント25cを介して陽極21a及び陰極21cに供給される。主整流器14は、電解システム1の運転停止中、電解槽2の陽極21a及び陰極21cへの電流の供給を停止する。
【0032】
電極保護整流器15は、電解システム1の運転停止中、制御装置16から受信する制御信号に基づいて、電解槽2の電解液の電気分解が進む通電方向に、電解槽2の陽極21a及び陰極21cに保護電流を供給する。電極保護整流器15が供給する保護電流は、後述の図2に示す電解槽2の陽極ターミナルエレメント25a及び陰極ターミナルエレメント25cを介して陽極21a及び陰極21cに供給される。保護電流は、電解槽2の陽極21a及び陰極21cを保護するための電流である。保護電流の大きさは、電解システム1の運転中に主整流器14から陽極21a及び陰極21cに供給される電流の大きさと比較すると、微小である。保護電流の大きさは、陽極21a及び陰極21cの電位を理論分解電圧以上に維持することができる程度であってよい。電解システム1の運転停止中、陽極21a及び陰極21cに保護電流を供給することにより、陽極21a及び陰極21cに逆電流が生じることを抑制することができる。陽極21a及び陰極21cに逆電流が生じることを抑制することにより、陽極21a及び陰極21cが劣化することを抑制することができる。
【0033】
制御装置16は、例えば、コンピュータである。制御装置16は、電解システム1の各構成要素を制御する。制御装置16は、通信部17と、記憶部18と、制御部19とを備える。
【0034】
通信部17は、電解システム1の各構成要素と通信可能な少なくとも1つの通信モジュールを含んで構成される。通信モジュールは、制御装置16と電解システム1の各構成要素との間の通信の規格に対応してよい。制御装置16と電解システム1の各構成要素との間の通信は、有線であってもよいし、無線であってもよい。
【0035】
記憶部18は、少なくとも1つの半導体メモリ、少なくとも1つの磁気メモリ、少なくとも1つの光メモリ又はこれらのうちの少なくとも2種類の組み合わせを含んで構成される。半導体メモリは、例えば、RAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)等である。RAMは、例えば、SRAM(Static Random Access Memory)又はDRAM(Dynamic Random Access Memory)等である。ROMは、例えば、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等である。記憶部18は、主記憶装置、補助記憶装置又はキャッシュメモリとして機能してよい。記憶部18には、制御装置16の動作に用いられるデータと、制御装置16の動作によって得られたデータとが記憶される。
【0036】
制御部19は、少なくとも1つのプロセッサ、少なくとも1つの専用回路又はこれらの組み合わせを含んで構成される。プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)若しくはGPU(Graphics Processing Unit)等の汎用プロセッサ又は特定の処理に特化した専用プロセッサである。専用回路は、例えば、FPGA(Field-Programmable Gate Array)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)等である。制御部19は、制御装置16の各部を制御しながら、制御装置16の動作に関わる処理を実行する。
【0037】
制御部19は、電解システム1の運転を制御する。制御部19の処理の詳細は、後述される。
【0038】
(電解槽の構成)
図2に示すように、本実施形態に係る電解槽2は、複極式である。ただし、電解槽2は、複極式に限定されない。電解槽2は、単極式であってもよい。
【0039】
複極式とは、多数のセルを電源に接続する方法の1つである。本実施形態に係る複極式は、図2に示すように、複数の複極式エレメント20を同じ向きに並べて直接接続し、その両端のみを電源にすなわち本実施形態では整流器13に接続する方法である。複極式エレメント20に含まれる2つの面のうち、一方の面が陽極21aとなり、他方の面が陰極21cとなる。
【0040】
複極式の電解槽2は、整流器13等の電源設備の電流を小さくすることができる。また、複極式の電解槽2は、電解により化合物又は所定の物質等を短時間で大量に製造することができる。電源設備は、その出力が同じであれば、低電流及び高電圧の方が安価でコンパクトになる。そのため、工業的には、単極式よりも複極式の方が好ましい。
【0041】
本実施形態に係る電解槽2では、図2に示すように、複数の複極式エレメント20が隔膜24を挟んで重ね合わされている。
【0042】
(複極式エレメントの構成)
本実施形態に係る複極式エレメント20は、図2に示すように、陽極21aと、陰極21cと、隔壁22と、外枠23とを備える。隔壁22は、陽極21aと陰極21cとを隔離する。隔壁22は、導電性を有する。外枠23は、隔壁22を縁取る。外枠23は、隔壁22の外縁に沿って隔壁22を取り囲むように設けられている。
【0043】
複極式エレメント20は、図3及び図4に示すように、隔壁22に沿う所定方向D1が鉛直方向となるように用いられてよい。つまり、図4に示すように隔壁22の平面視形状が長方形である場合、複極式エレメント20は、図3及び図4に示すように、隔壁22に沿う所定方向D1が向かい合う2組の辺のうちの1組の辺の方向と同じ方向になるように、用いられてよい。
【0044】
図2に示すように、複極式の電解槽2は、複極式エレメント20を必要数積層させることにより構成される。電解槽2の積層構造では、電解槽2の一端からファストヘッド25g、絶縁板25i及び陽極ターミナルエレメント25aがこの順番に並べて配置される。さらに、電解槽2では、陽極側ガスケット部分26、隔膜24、陰極側ガスケット部分26及び複極式エレメント20が、この順番で並べて配置される。このとき、複極式エレメント20は、その陰極21cが陽極ターミナルエレメント25a側を向くように配置される。陽極側ガスケット部分26から複極式エレメント20までは、設計生産量に必要な数だけ繰り返し配置される。陽極側ガスケット部分26から複極式エレメント20までを必要数だけ繰り返し配置した後、再度、陽極側ガスケット部分26、隔膜24、陰極側ガスケット部分26がこの順番に並べて配置される。最後に、陰極ターミナルエレメント25c、絶縁板25i及びルーズヘッド25gがこの順番に並べて配置される。電解槽2は、その全体をタイロッド方式25r(図2参照)又は油圧シリンダー方式等の締め付け機構により締め付けることによりー体化される。
【0045】
電解槽2の積層構造は、陽極21a側からでも陰極21c側からでも任意に選択することができる。電解槽2の積層構造における各要素の配置は、上述した順序に限定されない。
【0046】
図2に示すように、電解槽2では、複極式エレメント20が陽極ターミナルエレメント25aと陰極ターミナルエレメント25cとの間に配置されている。隔膜24は、陽極ターミナルエレメント25aと複極式エレメント20との間、隣接して並ぶ複極式エレメント20同士の間、及び、複極式エレメント20と陰極ターミナルエレメント25cとの間に配置されている。
【0047】
図3及び図4に示すように、電解槽2では、隔壁22と外枠23と隔膜24とにより電極室27が画成されている。電極室27には、電解液が通過する。電極室27は、陽極室27a又は陰極室27cである。
【0048】
以下、電解槽2における、隣接する2つの複極式エレメント20間の互いの隔壁22間における部分、及び、隣接する複極式エレメント20とターミナルエレメントとの間の互いの隔壁22間における部分は、「電解セル28」と記載される。
【0049】
電解セル28は、隣接する2つの複極式エレメント20のうちの、一方の複極式エレメント20の隔壁22、陽極室27a及び陽極21aと、他方の複極式エレメント20の陰極21c、陰極室27c及び隔壁22とを含む。電解セル28には、ゼロギャップ構造Zが採用される。ゼロギャップ構造Zは、隔膜24と電極21との隙間を実質的に無くした構造である。電極21は、陽極21a又は陰極21cである。
【0050】
電極室27は、外枠23との境界において、電解液入口27iと、電解液出口27oとを有する。電解液入口27iは、電極室27に電解液を導入する。電解液出口27oは、電極室27から電解液を導出する。例えば、陽極室27aは、陽極室27aに電解液を導入する陽極電解液入口27aiと、陽極室27aから導出する電解液を導出する陽極電解液出口27aoとを有する。同じ又は類似に、陰極室27cは、陰極室27cに電解液を導入する陰極電解液入口27ciと、陰極室27cから導出する電解液を導出する陰極電解液出口27coとを有する。
【0051】
陽極室27a及び陰極室27cは、電解液を電解槽2内部で、電極面内に均一に分配するための内部ディストリビュータを有してもよい。また、電極室27は、電解槽2内部での液の流れを制限する機能を備えるバッフル板を有してもよい。さらに、陽極室27a及び陰極室27cは、電解槽2内部での電解液の濃度又は温度の均一化、及び、電極21又は隔膜24に付着するガスの脱泡の促進のために、カルマン渦を作るための突起物を有してもよい。
【0052】
図3及び図4に示すように、本実施形態に係る電解槽2は、外枠3の外方に、導管ホース29を備える。導管ホース29は、電極室27に連通する。
【0053】
図3及び図4に示す例では、電解槽2には、ガス又は電解液を配液する又は集液する管である導管ホース29が取り付けられる。導管ホース29は、電極室27に電解液を入れるための入口導管ホースと、電極室27からガス又は電解液を出すための出口導管ホースとを含んで構成される。
【0054】
一例として、電解槽2は、隔壁22の端縁にある外枠23の下方に、陽極入口導管ホース29Oaiと、陰極入口導管ホース29Ociとを備える。陽極入口導管ホース29Oaiは、陽極室27aに電解液を入れる。陰極入口導管ホース29Ociは、陰極室27cに電解液を入れる。同じ又は類似に、電解槽2は、隔壁22の端縁にある外枠23の側方に、陽極出口導管ホース29Oaoと、陰極出口導管ホース29Ocoとを備える。陽極出口導管ホース29Oaoは、陽極室27aから電解液を出す。陰極出口導管ホース29Ocoは、陰極室27cから電解液を出す。
【0055】
他の例として、入口導管ホースと出口導管ホースとは、陽極室27a及び陰極室27cにおいて電極室27の中央部を挟んで向かい合うように設けられてもよい。
【0056】
本実施形態に係る電解槽2では、外部ヘッダー30O型が採用される。外部ヘッダー30O型は、電解槽2と外部ヘッダー30とが独立している形式である。
【0057】
図4には、本実施形態の外部ヘッダー30О型の電解槽2の一例の平面図を示す。ただし、電解槽2には、内部ヘッダー型のヘッダーが取り付けられてもよい。
【0058】
図3及び図4に示す例では、導管ホース29には、外部ヘッダー30が取り付けられている。外部ヘッダー30は、導管ホース29に配液又は集液されたガス又は電解液を集める管である。外部ヘッダー30は、入口導管ホースに連通する配液管と、出口導管ホースに連通する集液管とを含んで構成される。
【0059】
一例として、電解槽2は、外枠23のうちの下方に、陽極用配液管ヘッダー30Oaiと陰極用配液管ヘッダー30Ociとを備える。陽極用配液管ヘッダー30Oaiは、陽極入口導管ホース29Oaiに連通する。陰極用配液管ヘッダー30Ociは、陰極入口導管ホース29Ociに連通する。同じ又は類似に、電解槽2は、外枠23のうちの側方に、陽極出口導管ホース29Oaoに連通する陽極用集液管ヘッダー30Oaoと、陰極出口導管ホース29Ocoに連通する陰極用集液管ヘッダー30Ocoとを備える。
【0060】
本実施形態では、陽極室27a及び陰極室27cにおいて、入口導管ホースと出口導管ホースとは、水電解効率の観点から、離れた位置に設けられることが好ましい。また、入口導管ホースと出口導管ホースとは、電極室27の中央部を挟んで向かい合うように設けられることが好ましい。また、入口導管ホースと出口導管ホースとは、図3及び図4に示すように隔壁22の平面視形状が長方形である場合、長方形の中心に関して対称となるように設けられることが好ましい。
【0061】
図3及び図4に示すように、陽極入口導管ホース29Oai、陰極入口導管ホース29Oci、陽極出口導管ホース29Oao及び陰極出口導管ホース29Ocoは、通常、各電極室27に1つずつ設けられている。ただし、本実施形態では、これに限定されない。例えば、これらの要素は、各電極室27にそれぞれ複数設けられていてもよい。
【0062】
図3及び図4に示すように、陽極用配液管ヘッダー30Oai、陰極用配液管ヘッダー30Oci、陽極用集液管ヘッダー30Oao及び陰極用集液管ヘッダー30Ocoは、通常、各電極室27に1つずつ設けられている。ただし、本実施形態では、これに限定されない。例えば、これらの要素は、複数の電極室27で兼用されていてもよい。
【0063】
ここで、図示される例では、平面視で長方形形状の隔壁22と平面視で長方形形状の隔膜24とが平行に配置され、また隔壁22の端縁に設けられる直方体形状の外枠の隔壁22側の内面が隔壁22に垂直になっている。そのため、電極室27の形状が直方体となっている。ただし、本開示において、電極室27の形状は、図示した例の直方体に限定されない。電極室27の形状は、本開示の効果が得られる限り、いかなる形状であってもよい。電極室27の形状は、隔壁22若しくは隔膜24の平面視形状、又は、外枠23の隔壁22側の内面と隔壁22とのなす角度等により、適宜変形されてよい。
【0064】
本実施形態では、電極室27と導管ホース29との間の位置関係は、特に限定されない。図3及び図4に示すように、複極式エレメント20を隔壁22に沿う所定方向D1が鉛直方向となるように用いた場合、入口導管ホースは、電極室27に対して下方又は側方に(図示では、下方に)位置してよい。また、出口導管ホースは、電極室27に対して上方又は側方に(図示では、側方に)位置してよい。また、入口導管ホースに連通する配液管ヘッダーは、電極室27に対して下方又は側方に(図示では、下方に)位置してよい。また、出口導管ホースに連通する集液管ヘッダーは、電極室27に対して上方又は側方に(図示では、側方に)位置してよい。
【0065】
本実施形態では、導管ホース29の延在方向は、特に限定されない。
【0066】
本実施形態では、外部ヘッダー30の延在方向は、特に限定されない。ただし、図3及び図4に示すように、配液管(陽極用配液管ヘッダー30Oai及び陰極用配液管ヘッダー30Oci)及び集液管(陽極用集液管ヘッダー30Oao及び陰極用集液管ヘッダー30Oco)は、ぞれぞれ、隔壁22に垂直な方向に延びることが好ましい。ヘッダー30の何れもが、隔壁22に垂直な方向に延びることがさらに好ましい。
【0067】
図4に示すように、本実施形態に係る電解槽2は、複数の整流板31を備えもよい。整流板31は、隔壁22に沿う所定方向D1に対して平行に配置されている。このような整流板31によって、電極室27内における気液の流れの乱れによって電極室27に生じる対流を低減することができる。その結果、局所的な電解液の温度の上昇を抑制することができる。
【0068】
(電解システムの制御)
制御装置16は、電解システム1を制御する。制御部19は、電解システム1の制御として、電解システム1の運転を制御する。つまり、制御部19は、電解システム1の運転制御と、電解システム1の運転停止制御とを実行する。
【0069】
<電解システムの運転制御>
制御部19は、例送液ポンプに制御信号を通信部17によって送信することにより、送液ポンプによって電解液が電解槽2に送液されるように制御する。つまり、制御部19は、送液ポンプによって、電解液が陽極入口導管ホース29Oaiを介して陽極室27aに送液され、電解液が陰極入口導管ホース29Ociを介して陰極室27cに送液されるように制御する。
【0070】
制御部19は、主整流器14に制御信号を通信部17によって送信することにより、電解槽2の電解液の電気分解が進む通電方向に陽極21a及び陰極21cに電流を主整流器14によって供給する。このような構成により、陽極室27aに酸素ガスが発生し、陰極室27cに水素ガスが発生する。
【0071】
<電解システムの運転停止制御>
制御部19は、電解システム1の運転停止中、電解槽2の電解液の電気分解が進む通電方向に陽極21a及び陰極21cに保護電流を電極保護整流器15によって供給する。このような構成により、上述したように、陽極21a及び陰極21cに逆電流が生じることを抑制することができ、陽極21a及び陰極21cが劣化することを抑制することができる。
【0072】
ところで、電極保護整流器15からの保護電流は、複極式の電解槽2では、図2に示すような両端の陽極ターミナルエレメント25a及び陰極ターミナルエレメント25cにそれぞれ供給される。陽極ターミナルエレメント25aは、図3に示すような導管ホース29を介して、陽極用集液管ヘッダー30Oao及び陽極用配液管ヘッダー30Oaiのそれぞれに接続される。また、陰極ターミナルエレメント25cは、図3に示すような導管ホース29を介して、陰極用集液管ヘッダー30Oco及び陰極用配液管ヘッダー30Ociのそれぞれに接続される。
【0073】
ここで、導管ホース29は、導管ホース29内を電解液が流れることにより、導電性を有する。また、外部ヘッダー30は、接地(アース)される。一方、陽極ターミナルエレメント25a、陰極ターミナルエレメント25c及び各複極式エレメント20のそれぞれの電位は、0[V]以外の電位となる。このような構成により、陽極ターミナルエレメント25a、陰極ターミナルエレメント25c及び各複極式エレメント20のそれぞれと外部ヘッダー30との間には、電位差が生じる。このような電位差が生じることにより、陽極ターミナルエレメント25a、陰極ターミナルエレメント25c及び各複極式エレメント20のそれぞれとヘッダー30との間には、リーク電流が流れる。このリーク電流は、上述したように導管ホース29が導電性を有することにより、各複極式エレメント20内の電解反応面を流れる電流から分配される。このようなリーク電流が流れることにより、電解反応面を流れる電流は、電解槽2の中央部分では、小さくなる。
【0074】
また、電解槽2の陽極ターミナルエレメント25a及び陰極ターミナルエレメント25cのそれぞれの電位は、保護電流が供給されることにより、理論分解電圧以上となる。そのため、陽極ターミナルエレメント25a及び陰極ターミナルエレメント25cのそれぞれとヘッダー30との間の電位差は、例えば、複極式エレメント20が300対である場合、陽極ターミナルエレメント25aで+180[V]程度となる。また、陰極ターミナルエレメント25cで-180[V]程度となる。これにより、電解槽2の中央部の電位は、0[V]となる。
【0075】
ここで、上述したリーク電流は、保護電流として電解反応面に供給される電流から、各複極式エレメント20と外部ヘッダー30との間の電位差に比例して、分配及び流出される。そのため、電極保護整流器15からの保護電流は、電解槽2の中央部分で小さくなる。このような構成により、電解槽2の中央部分では、電解反応面を流れる電流に対して、その複極式エレメント20のリーク電流が相対的に大きくなる。
【0076】
このように電解槽2の中央部分では、電解反応面を流れる電流に対してその複極式エレメント20のリーク電流が相対的に大きくなる。その結果、陽極室27aにおいて酸素中水素濃度が高くなり、陰極室27cにおいて水素中酸素濃度が高くなる。そのため、電解システム1の運転停止中、電極保護整流器15からの保護電流の値を大きくしないと、爆鳴気を発生させてしまう虞がある。しかしながら、電極保護整流器15からの保護電流の値は、装置コストの低減又は再生可能エネルギーを有効利用する観点から、小さいことが望ましい。電極保護整流器15からの保護電流の値を小さくしつつ、爆鳴気の発生を抑制する方法として、電解システム1の運転停止中に窒素ガスを電解槽2に供給する方法が考えられる。しかしながら、窒素ガスを電解槽2に供給すると、製品としての水素の濃度が低下してしまい、製品としての水素の品質が低下してしまう場合がある。そのため、水素ガス中の窒素濃度が予め設定された規定内になるまで、水素ガスを廃棄しなければならない。
【0077】
そこで、制御部19は、電解システム1の運転停止中、電解槽2の電解液の電気分解が進む通電方向に陽極21a及び陰極21cに保護電流を電極保護整流器15によって供給しつつ、陰極用集液管ヘッダー30Ocoに水素ガスを供給し、陽極用集液管ヘッダー30Oaoに酸素ガスを供給する。電解システム1の運転停止中に陰極用集液管ヘッダー30Ocoに水素ガスを供給することにより、陰極室27cで発生する酸素ガスを希釈することができる。また、電解システム1の運転停止中に陽極用集液管ヘッダー30Oaoに酸素ガスを供給することにより、陽極室27aで発生する水素ガスを希釈することができる。このように陰極室27cで発生する酸素ガスを希釈し、且つ陽極室27aで発生する水素ガスを希釈することにより、窒素ガスを電解槽2に供給しなくても、また電極保護整流器15からの保護電流を大きくしなくても、爆鳴気の発生を抑制することができる。このような構成により、本実施形態では、製品としての水素の品質が低下してしまうことを抑制しつつ、陽極21a及び陰極21cを保護することができる。以下、制御部19の処理例について、図5を参照しながら説明する。
【0078】
図5は、本開示の一実施形態に係る電解システム1の制御方法の手順例を示すフローチャートである。制御部19は、例えば外部装置から電解システム1の運転停止指示の信号を通信部17によって受信すると、ステップS1の処理を開始する。
【0079】
制御部19は、電極保護整流器15に制御信号を通信部17によって送信することにより、電解槽2の電解液の電気分解が進む通電方向に陽極21a及び陰極21cに保護電流を電極保護整流器15によって供給する(ステップS1)。保護電流の最大値は、電解システム1の運転中に主整流器14から陽極21a及び陰極21cに供給される電流の値よりも小さい。保護電流の最小値は、電解槽2の電解セル28の構造又は複極式エレメント20の積層数等に基づいて、予め設定されてよい。
【0080】
制御部19は、センサ8から、水素ガスの水素中酸素濃度の検出結果を通信部17によって受信する(ステップS2)。この水素ガスの水素中酸素濃度の検出結果は、陰極タンク7からスクラバー9へ水素ガスの供給経路における水素中酸素濃度の検出結果である。この水素ガスの水素中酸素濃度の検出結果は、陰極室27cにおける水素ガスの水素中酸素濃度が変化すると変化する。そのため、この水素ガスの水素中酸素濃度の検出結果は、陰極室27cにおける水素ガスの水素中酸素濃度の検出結果として扱うことができる。
【0081】
制御部19は、ステップS2の処理で受信した水素ガスの水素中酸素濃度が第1閾値を超えるか否かを判定する(ステップS3)。第1閾値は、電極保護整流器15からの保護電流の最大値に基づいて設定されてよい。例えば、電極保護整流器15からの保護電流が大きいほど、上述した電解槽2の中央部分におけるリーク電流の寄与が小さくなり、リーク電流による陰極室27cにおける酸素ガスの発生を低減することができる。そのため、第1閾値は、電極保護整流器15からの保護電流が大きいほど、小さく設定されてよい。
【0082】
制御部19は、水素ガスの水素中酸素濃度が第1閾値を超えると判定した場合(ステップS3:YES)、ステップS4の処理に進む。一方、制御部19は、水素ガスの水素中酸素濃度が第1閾値以下であると判定した場合(ステップS3:NO)、ステップS6の処理に進む。
【0083】
ステップS4の処理では、制御部19は、水素タンク12に貯留された水素ガスが陰極室27cに供給されるように制御する。例えば、上述したように、水素タンク12は、配管及び弁を含んで構成される供給経路を介して、陰極用集液管ヘッダー30Ocoに接続される。そこで、制御部19は、例えば弁に制御信号を通信部17によって送信することにより、弁が開くように制御する。弁が開くと、水素タンク12に貯留された圧縮された水素ガスが陰極用集液管ヘッダー30Ocoに供給される。これにより、発生した酸素ガスを水素ガスによって希釈することができる。陰極室27cに供給する水素ガスの流量は、電解槽2の構造等に応じて予め設定されてよい。
【0084】
ここで、ステップS4の処理で水素ガスを陰極室27cに供給すると、陰極室27cの気圧が増加する。そこで、制御部19は、ステップS5の処理を実行する。
【0085】
ステップS5の処理では、制御部19は、陰極室27cの気圧を調整する。本実施形態では、制御部19は、スクラバー9に制御信号を通信部17によって送信することにより、スクラバー9に水素ガスを大気中に放出させる。スクラバー9によって大気中に放出させる水素ガスの量は、例えば、ステップS4の処理で陰極室27cに供給した水素ガスの量と、ステップS1の処理で保護電流を供給したことにより陰極室27cで発生した水素ガスの量とを合わせた量である。このようなステップS5の処理によってスクラバー9の気圧制御システムを利用して水素ガスを大気中に放出させることにより、陰極室27cの気圧を制御する。
【0086】
ステップS4,S5の処理において、制御部19は、センサ8から、陰極タンク7からスクラバー9への水素ガスの供給経路における気圧の検出結果を通信部17によって受信してもよい。制御部19は、受信した気圧の検出結果に基づいて、陰極室27cに供給する水素ガスの流量を調整してもよい。制御部19は、スクラバー9によって大気中に放出させる水素ガスの流量を調整することにより、陰極室27cに供給する水素ガスの流量を調整してもよい。
【0087】
ステップS6の処理では、制御部19は、センサ4から、酸素ガスの酸素中水素濃度の検出結果を通信部17によって受信する。この酸素ガスの酸素中水素濃度は、陽極タンク3から酸素タンク5への酸素ガスの供給経路における酸素中水素濃度である。この酸素ガスの酸素中水素濃度の検出結果は、陽極室27aにおける酸素ガスの酸素中水素濃度が変化すると変化する。そのため、この酸素ガスの酸素中水素濃度の検出結果は、陽極室27aにおける酸素ガスの酸素中水素濃度の検出結果として扱うことができる。
【0088】
ステップS7の処理では、制御部19は、ステップS6の処理で受信した酸素ガスの酸素中水素濃度が第2閾値を超えるか否かを判定する。第2閾値は、保護電流の最大値に基づいて設定されてよい。例えば、電極保護整流器15からの保護電流が大きいほど、上述した電解槽2の中央部分におけるリーク電流の寄与が小さくなり、リーク電流による陽極室27aにおける水素ガスの発生を低減することができる。そのため、第2閾値は、電極保護整流器15からの保護電流が大きいほど、小さく設定されてよい。
【0089】
制御部19は、酸素ガスの酸素中水素濃度が第2閾値を超えると判定した場合(ステップS7:YES)、ステップS8の処理に進む。一方、制御部19は、酸素ガスの酸素中水素濃度が第2閾値以下であると判定した場合(ステップS7:NO)、ステップS2の処理に戻る。
【0090】
ステップS8の処理では、制御部19は、酸素タンク5に貯留された酸素ガスが陽極室27aに供給されるように制御する。例えば、上述したように、酸素タンク5は、配管及び弁を含んで構成される供給経路を介して、陽極用集液管ヘッダー30Oaoに接続される。そこで、制御部19は、例えば弁に制御信号を通信部17によって送信することにより、弁が開くように制御する。さらに、制御部19は、ファン6に制御信号を通信部17によって送信することにより、ファン6を回転させる。弁が開き、且つファン6が回転すると、酸素タンク5に貯留された酸素ガスが陽極用集液管ヘッダー30Oaoに供給される。このように酸素ガスが供給されることにより、発生した水素ガスを酸素ガスによって希釈することができる。陽極室27aに供給する酸素ガスの流量は、電解槽2の構造等に応じて予め設定されてよい。
【0091】
ここで、ステップS8の処理で酸素ガスを陽極室27aに供給すると、陽極室27aの気圧が増加する。そこで、制御部19は、ステップS9の処理を実行する。
【0092】
ステップS9の処理では、制御部19は、陽極室27aの気圧を調整する。本実施形態では、制御部19は、酸素タンク5に制御信号を通信部17によって送信することにより、酸素タンク5に酸素ガスを大気中に放出させる。酸素タンク5から大気中に放出させる酸素ガスの量は、例えば、ステップS8の処理で陽極室27aに供給した酸素ガスの量と、ステップS1の処理で保護電流を供給したことにより陽極室27aで発生した酸素ガスの量とを合わせた量である。このようなステップS9の処理によって酸素タンク5の気圧制御システムを利用して酸素ガスを大気中に放出させることにより、陽極室27aの気圧を制御する。
【0093】
ステップS8,S9の処理において、制御部19は、センサ4から、陽極タンク3から酸素タンク5への酸素ガスの供給経路における気圧の検出結果を通信部17によって受信してもよい。制御部19は、受信した気圧の検出結果に基づいて、陽極室27aに供給する酸素ガスの流量を調整してもよい。制御部19は、酸素タンク5から大気中に放出させる酸素ガスの流量を調整することにより、陽極室27aに供給する酸素ガスの流量を調整してもよい。
【0094】
制御部19は、ステップSの処理後、ステップS2の処理に戻る。ステップS2~S9の処理において、例えば外部装置から電解システム1の運転指示の信号を通信部17によって受信すると、ステップS2~S9の処理を停止してよい。制御部19は、ステップS2~S9の処理を停止すると、電解システム1の運転制御を実行してよい。
【0095】
<シミュレーション結果>
発明者らは、本開示の効果を確認するために、シミュレーションを実行した。シミュレーションの条件は、以下の通りである。
電解セル28の数:300[セル]
電解セル28の反応面積:2.72[m]
陰極入口導管ホース29Ociの抵抗値:410[Ω]
陽極入口導管ホース29Оaiの抵抗値:410[Ω]
陰極出口導管ホース29Ocoの抵抗値:1095[Ω]
陽極出口導管ホース29Oaoの抵抗値:1095[Ω]
電解液の循環量:24L/セル/1時間
電解液のNaOH濃度:21[wt%]
なお、発明者らは、電解セル28への電圧を理論分解電圧1.23[V]に基づいて算出した。
【0096】
図6には、シミュレーション結果を示す。保護電流値が93[A]以下になる場合、電気分解が行われず、陽極21a及び陰極21cを保護することができない。そのため、保護電流値の下限値は、93[A]とした。
【0097】
図6に示すように、陰極室27cへの水素ガスの流量すなわち供給量が0[Nm/hr]であり、陽極室27aへの酸素ガスの流量すなわち供給量が0[Nm/hr]である場合、保護電流値は、175[A]であった。これに対し、陰極室27cへの水素ガスの流量すなわち供給量が1.44[Nm/hr]であり、陽極室27aへの酸素ガスの流量すなわち供給量が5.12[Nm/hr]である場合、保護電流値は、93[A]であった。この結果から、陽極室27aに酸素ガスを供給し、且つ陰極室27cに水素ガスを供給すれば、陽極室27aに酸素ガスを供給せず、且つ陰極室27cに水素ガスを供給しない場合よりも、保護電流値を半分程度にできることが分かる。
【0098】
このように本実施形態に係る制御装置16では、制御部19は、電解システム1の運転停止中、電解槽2の電解液の電気分解が進む通電方向に陽極21a及び陰極21cに保護電流を電極保護整流器15によって供給する。さらに、制御部19は、電解システム1の運転停止中、陰極室27cに水素ガスを供給し、陽極室27aに酸素ガスを供給する。このような構成により、上述したように、窒素ガスを電解槽2に供給しなくても、爆鳴気の発生を抑制することができる。また、陽極21a及び陰極21cに電極保護整流器15によって供給する保護電流を大きくしなくても、爆鳴気の発生を抑制することができる。結果として、製品としての水素の品質が低下してしまうことを抑制しつつ、陽極21a及び陰極21cを保護することができる。
【0099】
上述した実施形態は代表的な例として説明したが、本開示の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本開示は、上述した実施形態によって制限するものと解するべきではなく、請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形又は変更が可能である。
【0100】
例えば、上述した実施形態では、水素タンク12に貯留された水素ガスすなわち電解システム1で生成された水素ガスが電解槽2の陰極室27cに供給されるものとして説明した。ただし、水素ガスを電解槽2の陰極用集液管ヘッダー30coに供給できれば、水素タンク12に貯留された水素ガスすなわち電解システム1で生成された水素ガス以外の水素ガスが電解槽2の陰極用集液管ヘッダー30coに供給されてもよい。他の例として、電解システム1以外の装置等で生成された水素ガスが電解槽2の陰極用集液管ヘッダー30coに供給されてもよい。
【0101】
例えば、上述した実施形態では、酸素タンク5に貯留された酸素ガスすなわち電解システム1で生成された酸素ガスが電解槽2の陽極用集液管ヘッダー30aoに供給されるものとして説明した。ただし、酸素ガスを電解槽2の陽極用集液管ヘッダ―30aoに供給できれば、酸素タンク5に貯留された酸素ガスすなわち電解システム1で生成された酸素ガス以外の酸素ガスが電解槽2の陽極用集液管30aoに供給されてもよい。他の例として、電解システム1以外の装置等で生成された酸素ガスが電解槽2の陽極用集液管ヘッダー30aoに供給されてもよい。
【符号の説明】
【0102】
1:電解システム、2:電解槽、3:陽極タンク、4:センサ、5:酸素タンク、6:ファン、7:陰極タンク、8:センサ、9:スクラバー、10:圧縮器、11:水素ガス精製装置、12:水素タンク、13:整流器、14:主整流器15:電極保護整流器、16:制御装置、17:通信部、18:記憶部、19:制御部、20:複極式エレメント、21:電極、21a:陽極、21c:陰極、22:隔壁、23:外枠、24:隔膜、25a:陽極ターミナルエレメント、25g:ファストヘッド、ルーズヘッド、25c:陰極ターミナルエレメント、25i:絶縁板、25r:タイロッド方式、26:ガスケット部分、27:電極室、27a:陽極室、27c:陰極室、27ai:陽極電解液入口、27ao:陽極電解液出口、27ci:陰極電解液入口、27co:陰極電解液出口、27i:電解液入口、27o:電解液出口、28:電解セル、29:陽極入口導管ホース、29Oai:陽極入口導管ホース、29Oci:陰極入口導管ホース、29Oao:陽極出口導管ホース、29Oco:陰極出口導管ホース、30:ヘッダー、30Oai:陽極用配液管ヘッダー、30Oci:陰極用配液管ヘッダー、30Oao:陽極用集液管ヘッダー、30Oco:陰極用集液管ヘッダー、31:整流板、Z:ゼロギャップ構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6