(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025155354
(43)【公開日】2025-10-14
(54)【発明の名称】タイヤ性能評価方法及びタイヤ性能評価装置
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20251006BHJP
G01M 17/02 20060101ALI20251006BHJP
【FI】
B60C19/00 H
G01M17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024059155
(22)【出願日】2024-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】中道 哲平
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131LA22
(57)【要約】
【課題】環境により変動するタイヤの性能を客観的に精度よく評価できる技術を提供する。
【解決手段】タイヤ性能評価方法100は、ウェット路面上で評価対象タイヤの制動試験を行い、スリップ比sと摩擦係数μとの関係を特定するμ-sデーターを取得する取得ステップS1と、μ-sデーターに基づいて、評価対象タイヤのトレッド前後剛性Cx、トレッドゴムの最大静止摩擦係数μs及び滑り摩擦係数μdを特定する特定ステップS2とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの性能を評価する方法であって、
ウェット路面上で評価対象タイヤの制動試験を行い、スリップ比sと摩擦係数μとの関係を特定するμ-sデーターを取得する取得ステップと、
前記μ-sデーターに基づいて、前記評価対象タイヤのトレッド前後剛性Cx、トレッドゴムの最大静止摩擦係数μs及び滑り摩擦係数μdを特定する特定ステップと、を含む、
タイヤ性能評価方法。
【請求項2】
前記特定ステップは、タイヤ赤道上での接地圧分布をn次(nは2以上の偶数)の放物線で近似したときの摩擦係数μ’を、粘着域の剪断抗力に関する項及び滑り域での滑り摩擦に関する項との和で表した理論上の関係式を前記μ-sデーターにフィッティングするフィッティングステップを含む、請求項1に記載のタイヤ性能評価方法。
【請求項3】
前記関係式は、変数として、前記トレッド前後剛性Cx、前記最大静止摩擦係数μs及び前記滑り摩擦係数μdを含む、請求項2に記載のタイヤ性能評価方法。
【請求項4】
前記フィッティングステップは、前記関係式における前記トレッド前後剛性Cx、前記最大静止摩擦係数μs及び前記滑り摩擦係数μdを仮決めする仮決めステップを含む、請求項3に記載のタイヤ性能評価方法。
【請求項5】
前記仮決めステップは、前記関係式における前記剪断抗力が0となる第1スリップ比s1以上での前記摩擦係数μ’が前記μ-sデーター上のμに線形近似するように前記滑り摩擦係数μdを仮決めする、第1近似ステップを含む、請求項4に記載のタイヤ性能評価方法。
【請求項6】
前記仮決めステップは、予め定められた第2スリップ比s2での前記摩擦係数μ’及び前記摩擦係数μ’の最大値が前記μ-sデーター上のμに近似するように前記トレッド前後剛性Cx及び前記最大静止摩擦係数μsを仮決めする、第2近似ステップを含む、請求項5に記載のタイヤ性能評価方法。
【請求項7】
前記第2スリップ比s2は、前記スリップ比sが0から増加する際に、前記スリップ比sと前記摩擦係数μ’との関係が線形であると近似できる上限のスリップ比である、請求項6に記載のタイヤ性能評価方法。
【請求項8】
前記フィッティングステップは、前記トレッド前後剛性Cx、前記最大静止摩擦係数μsを合わせ込む合わせ込みステップをさらに含む、請求項6に記載のタイヤ性能評価方法。
【請求項9】
前記合わせ込みステップは、前記第2スリップ比s2での前記摩擦係数μ’から前記最大値に至る過渡領域での前記摩擦係数μ’が、前記μ-sデーター上のμに近似するように、前記トレッド前後剛性Cx、前記最大静止摩擦係数μsを合わせ込む、第3近似ステップを含む、請求項8に記載のタイヤ性能評価方法。
【請求項10】
前記フィッティングステップは、前記仮決めステップ及び前記合わせ込みステップの実行に伴って生じた前記第1スリップ比s1のずれ量の絶対値が小さくなるように、前記滑り摩擦係数μdを微修正する修正ステップをさらに含む、請求項9に記載のタイヤ性能評価方法。
【請求項11】
前記仮決めステップ及び前記合わせ込みステップは、前記修正ステップの後にも実行される、請求項10に記載のタイヤ性能評価方法。
【請求項12】
前記修正ステップは、前記μ-sデーターからの前記第1スリップ比s1の前記ずれ量の前記絶対値が、予め定められた閾値以下となるまで、繰り返される、請求項11に記載のタイヤ性能評価方法。
【請求項13】
前記トレッド前後剛性Cx、前記最大静止摩擦係数μs及び前記滑り摩擦係数μdに基づいて前記評価対象タイヤの性能を評価する評価ステップをさらに含む、請求項1に記載のタイヤ性能評価方法。
【請求項14】
タイヤの性能を評価する装置であって、
ウェット路面上で評価対象タイヤの制動試験を行い、スリップ比sと摩擦係数μとの関係を特定するμ-sデーターを取得する取得部と、
前記μ-sデーターに基づいて、前記評価対象タイヤのトレッド前後剛性Cx、トレッドゴムの最大静止摩擦係数μs及び滑り摩擦係数μdを特定する特定部とを含む、
タイヤ性能評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの性能を評価する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タイヤの性能を評価する方法が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、タイヤの性能は、路面やその温度等の環境により変動する。このため、タイヤの性能を客観的に精度よく評価することが困難であった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、環境により変動するタイヤの性能を客観的に精度よく評価できる技術を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、タイヤの性能を評価する方法であって、
ウェット路面上で評価対象タイヤの制動試験を行い、スリップ比sと摩擦係数μとの関係を特定するμ-sデーターを取得する取得ステップと、
前記μ-sデーターに基づいて、前記評価対象タイヤのトレッド前後剛性Cx、トレッドゴムの最大静止摩擦係数μs及び滑り摩擦係数μdを特定する特定ステップとを含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明のタイヤ性能評価方法は、上記の構成を有しているので、環境により変動するタイヤの性能を客観的に精度よく評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態であるタイヤ性能評価方法の手順を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の一実施形態であるタイヤ性能評価装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図4】
図1の取得ステップで取得されたμ-sデーターの一例を示すグラフである。
【
図5】評価対象タイヤの急制動時における接地面を模式的に表す図である。
【
図6】タイヤ赤道上での接地圧分布をn次の放物線で近似した曲線を示すグラフである。
【
図7】式(1)における左辺の理論上の摩擦係数μ’並びに右辺の第1項及び第2項とスリップ比sとの関係を示すグラフである。
【
図8】式(1)、(2)におけるトレッド前後剛性Cxを変動させたときの理論上の摩擦係数μ’の推移を示すグラフである。
【
図9】式(2)におけるトレッドゴムの最大静止摩擦係数μsを変動させたときの理論上の摩擦係数μ’の推移を示すグラフである。
【
図10】式(1)におけるトレッドゴムの滑り摩擦係数μdを変動させたときの理論上の摩擦係数μ’の推移を示すグラフである。
【
図11】
図2のフィッティングステップの詳細な手順を示すフローチャートである。
【
図12】
図11の仮決めステップS21において実測の摩擦係数μにフィッティングされる理論上の摩擦係数μ’を示すグラフである。
【
図13】
図12の仮決めステップS21の終了後における理論上の摩擦係数μ’を示すグラフである。
【
図14】
図11の仮決めステップS22において実測の摩擦係数μにフィッティングされる理論上の摩擦係数μ’を示すグラフである。
【
図15】
図14の仮決めステップS22の終了後における理論上の摩擦係数μ’を示すグラフである。
【
図16】
図11の合わせ込みステップS23において実測の摩擦係数μにフィッティングされる理論上の摩擦係数μ’を示すグラフである。
【
図18】
図16の合わせ込みステップS23の終了後における理論上の摩擦係数μ’を示すグラフである。
【
図19】
図11の修正ステップS25において第1スリップ比s1のずれ量Δsが是正される理論上の摩擦係数μ’を示すグラフである。
【
図20】
図19の修正ステップS25の終了後における理論上の摩擦係数μ’を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態のタイヤ性能評価方法100の手順を示すフローチャートである。タイヤ性能評価方法100は、評価対象タイヤのμ-sデーターを取得する取得ステップS1と、評価対象タイヤのトレッド前後剛性Cx、トレッドゴムの最大静止摩擦係数μs及び滑り摩擦係数μdを特定する特定ステップS2と、評価対象タイヤの性能を評価する評価ステップS3とを含む。評価ステップS3は、タイヤ性能評価方法100から独立したステップであってもよい。この場合、タイヤ性能評価方法100は、取得ステップS1と、特定ステップS2とによって構成される。
【0010】
図2は、本実施形態のタイヤ性能評価装置1の概略構成を示している。上記タイヤ性能評価方法100は、タイヤ性能評価装置1によって実行される。
【0011】
タイヤ性能評価装置1は、取得ステップS1を実行する取得部10と、特定ステップS2を実行する特定部21と、評価ステップS3を実行する評価部22とを含み、車両に搭載可能に構成されている。本実施形態の特定部21及び評価部22には、コンピューター装置20が適用される。
【0012】
コンピューター装置20は、例えば、各種の演算処理、情報処理等を実行するCPU(Central Processing Unit)と、CPUの動作を司るプログラム及び各種の情報を記憶するメモリ等とを有している。本実施形態の特定部21及び評価部22は、単一のコンピューター装置20によって構成されている。特定部21及び評価部22は、それぞれ、別々のコンピューター装置20によって構成されていてもよい。
【0013】
評価部22は、タイヤ性能評価装置1から独立した構成であってもよい。この場合、タイヤ性能評価装置1は、取得部10と、特定部21とによって構成され、評価ステップS3は、例えば、技術者によっても実行されうる。技術者は、特定されたトレッド前後剛性Cx、トレッドゴムの最大静止摩擦係数μs及び滑り摩擦係数μdを参照し、過去の知見・経験に基づいて、評価対象タイヤの性能を評価する。
【0014】
図3は、取得部10の構成を示している。取得部10は、散水部11と、エンコーダー12、17と、制動装置13と、ロードセル14と、演算処理部15と、記憶部16とを含んでいる。取得部10の各構成は、例えば、評価対象タイヤT1が装着された車両(図示せず)に搭載される。
【0015】
散水部11は、特定条件のウェット路面を再現するために、路面に対して水Wを散布する。水Wの散布量は、予め定められた水深のウェット路面となるように、例えば、演算処理部15によって制御される。
【0016】
エンコーダー12は、評価対象タイヤT1の回転軸の近傍に設けられ、評価対象タイヤT1の回転角速度ω1を検出するための電気信号を演算処理部15に出力する。エンコーダー12には、例えば、ロータリーエンコーダーが適用される。
【0017】
制動装置13は、評価対象タイヤT1の回転軸の近傍に設けられ、評価対象タイヤT1に制動力を付与する。制動装置13としては、例えば、車両に搭載されている制動装置と同等の構成の装置が適用されている。
【0018】
ロードセル14は、評価対象タイヤT1の回転軸の近傍に設けられ、評価対象タイヤT1に付与される力を検出する。ロードセル14は、評価対象タイヤT1に付与される上下方向の力(荷重Fz)及び前後方向の力(制動力Fx)を検出するための電気信号を演算処理部15に出力する。
【0019】
演算処理部15は、例えば、各種の演算処理、情報処理等を実行するCPUと、CPUの動作を司るプログラム及び各種の情報を記憶するメモリ等とを有している。演算処理部15は、エンコーダー12から入力された電気信号に基づいて、評価対象タイヤT1の回転角速度ω1を計算する。また、演算処理部15は、評価対象タイヤT1の動荷重半径R1及び回転角速度ω1から評価対象タイヤT1のトレッド部の速度V1を計算する。
【0020】
さらに、演算処理部15は、ロードセル14から入力された電気信号に基づいて、評価対象タイヤT1に付与される荷重Fz及び制動力Fxを計算する。演算処理部15は、計算によって得られた荷重Fz及び制動力Fxに基づいて、評価対象タイヤT1に荷重を付与する負荷装置(図示せず)及び制動装置13をフィードバック制御する。
【0021】
記憶部16は、演算処理部15によって計算された回転角速度ω1等の各種データーを記憶する。例えば、記憶部16は、エンコーダー12、17、ロードセル14から演算処理部15に入力されたデーターを記憶するように構成されていてもよい。また、記憶部16は、上記データーを用いて計算されたデーターを記憶するように構成されていてもよい。
【0022】
エンコーダー17は、速度検出タイヤT2の回転軸の近傍に設けられ、速度検出タイヤT2の回転角速度ω2を検出するための電気信号を演算処理部15に出力する。速度検出タイヤT2とは、車両の速度を検出するためのタイヤであり、制動力及び駆動力が付与されることなく、車両の走行に伴い従動する。エンコーダー17には、例えば、ロータリーエンコーダーが適用される。
【0023】
演算処理部15は、エンコーダー17から入力された電気信号に基づいて、速度検出タイヤT2の回転角速度ω2を計算する。また、演算処理部15は、速度検出タイヤT2の動荷重半径R2及び回転角速度ω2から車両(路面)の速度V2を計算する。
【0024】
さらに、演算処理部15は、評価対象タイヤT1のトレッド部の速度V1及び車両の速度V2に基づいて、制動時のスリップ比sを計算する。なお、スリップ比sは、スリップ速度V2-V1と車両の速度V2との比(V2-V1)/V2をとることにより計算される。計算されたスリップ比sは、記憶部16に記憶される。
【0025】
横力が生じない制動時の摩擦係数μは、制動力Fxと荷重Fzとの比Fx/Fzで計算される。摩擦係数μは、演算処理部15によって計算される。
【0026】
取得ステップS1では、取得部10における以上の動作が実行されることにより、ウェット路面での制動時における、評価対象タイヤT1のスリップ比sと摩擦係数μとが取得される。一般に、タイヤの摩擦係数μは、スリップ比sに応じて変動することが知られている。取得ステップS1では、各スリップ比sに対応する摩擦係数μを計算することにより、スリップ比sと摩擦係数μとの関係を特定するμ-sデーターが取得され、スリップ比sと摩擦係数μとが関連付けて記憶部16に記憶される。
【0027】
図4は、取得ステップS1で取得されたスリップ比sと摩擦係数μとの関係を示している。同図に示されるように、摩擦係数μは、スリップ比sの付与に伴い急激に立ち上がる。この摩擦係数μ立ち上がり領域では、スリップ比sが0から増加する際に、スリップ比sと摩擦係数μとの関係は線形(すなわち、μ-s曲線の傾きは一定)であると近似できる。そして、スリップ比sがさらに増加すると、μ-s曲線の傾きは緩やかとなり、摩擦係数μは、ピークを迎えた後、緩やかに下降する。
【0028】
特定ステップS2では、特定部21が、
図4に示されるμ-sデーターに基づいて、評価対象タイヤT1のトレッド前後剛性Cx、トレッドゴムの最大静止摩擦係数μs及び滑り摩擦係数μdを特定する。特定されたトレッド前後剛性Cx、トレッドゴムの最大静止摩擦係数μs及び滑り摩擦係数μdのうち、トレッド前後剛性Cxは、評価対象タイヤT1の仕様(トレッドパターン、トレッドゴムの配合及び構造等)に依存し、トレッドゴムの最大静止摩擦係数μs及び滑り摩擦係数μdは、評価対象タイヤT1の仕様と路面との相性の影響を受ける。
【0029】
評価ステップS3では、評価部22が、トレッド前後剛性Cx、最大静止摩擦係数μs及び滑り摩擦係数μdに基づいて評価対象タイヤT1の性能を評価する。
【0030】
評価部22は、例えば、トレッドパターン、トレッドゴムの配合及び構造等を異ならせた複数仕様の評価対象タイヤT1のトレッド前後剛性Cx、トレッドゴムの最大静止摩擦係数μs及び滑り摩擦係数μdを相対比較する。これにより、各評価対象タイヤT1の性能を客観的に精度よく評価することが可能となる。
【0031】
また、上記複数仕様の評価対象タイヤT1を複数の水深条件で取得されたμ-sデーターに基づいて特定されたトレッド前後剛性Cx、トレッドゴムの最大静止摩擦係数μs及び滑り摩擦係数μdを相対比較することにより、各評価対象タイヤT1の仕様と水深との相性を推定することが可能となり、各評価対象タイヤT1の性能を客観的に精度よく評価することが可能となる。
【0032】
さらにまた、異なる路面のテストコースに上記複数仕様の評価対象タイヤT1を持ち込んで取得されたμ-sデーターに基づいて特定されたトレッド前後剛性Cx、トレッドゴムの最大静止摩擦係数μs及び滑り摩擦係数μdを相対比較することにより、各評価対象タイヤT1の仕様と各路面との相性を推定することが可能となり、各評価対象タイヤT1の性能を客観的に精度よく評価することが可能となる。
【0033】
そして、上記評価により、トレッド前後剛性Cx、トレッドゴムの最大静止摩擦係数μs及び滑り摩擦係数μdの目標値が得られると、その目標を達成するために、タイヤの設計要素への展開が行なわれる。より具体的には、CAE(Computer Aided Engineering)等によるシミュレーション技術を併用することにより、トレッドパターン、トレッドゴムの硬度及びベルト構造の最適化を図り、トレッド前後剛性Cxを目標値に近づけることができる。
【0034】
また、路面の粗さに応じてトレッドゴムの硬度の最適化を図ることにより、トレッドゴムの最大静止摩擦係数μsを目標値に近づけることができる。さらに、路面の粗さに応じてトレッドゴムの硬度及び粘性の最適化を図ることにより、トレッドゴムの滑り摩擦係数μdを目標値に近づけることができる。
【0035】
図5は、評価対象タイヤT1の急制動時における接地面Tcを模式的に表している。接地面Tcは、路面との間で滑りが生じていない粘着域Tc1と、路面との間で滑りが生じている滑り域Tc2とを含んでいる。
【0036】
粘着域Tc1は、主として接地面Tcの接地入側(踏み込み側)に生じ、滑り域Tc2は、主として接地面Tcの接地出側(蹴り出し側)に生ずる。粘着域Tc1及び滑り域Tc2の分布は、スリップ比sに依存する。スリップ比sが0の時、接地面Tcの大部分が粘着域Tc1となる。スリップ比sが増加するに従い接地面Tcの蹴り出し側に滑り域Tc2が生じ、増大する。そしてスリップ比sがs1以上で、接地面Tcのすべてが滑り域Tc2となる。
【0037】
図6は、タイヤ赤道CL上(
図5参照)での接地圧分布をn次(nは2以上の偶数)の放物線で近似した曲線を示している。評価対象タイヤT1を実測することにより得られた接地圧分布に応じて次数nを調整することにより、接地圧分布が近似された評価対象タイヤT1の理論上の数学モデルが得られる。
【0038】
タイヤ赤道CL上での接地圧分布を
図6に示されるよう次数nで近似したとき、理論上の摩擦係数μ’は、下記式(1)にて表わされる。
【数1】
ここで、上記(1)において、パラメーターは以下の通りである。
Cx : トレッド前後剛性[N/m]
μs : トレッドゴムの最大静止摩擦係数
μd : トレッドゴムの滑り摩擦係数
Lh : 粘着域Tc1の長さ[m]
L : 接地長[m]
w : 接地幅[m]
s : スリップ比
Fz : 荷重
また、上記式(1)における粘着域Tc1の長さLhは、下記式(2)にて表わされる。
【数2】
【0039】
上記パラメーターのうち、荷重Fzには、取得ステップS1におけるフィードバック制御の目標値が適用される。ロードセル14から入力された電気信号に基づいて計算された荷重Fz、例えば、評価対象タイヤT1に付与された荷重Fzの平均値が適用されてもよい。また、接地長L[m]、接地幅w[m]には、評価対象タイヤT1に荷重Fzを付与し、実測により取得された値が適用される(
図5参照)。さらに、次数nには、
図6に基づいて近似された接地圧分布の次数が適用される。
【0040】
式(1)から明らかなように、理論上の摩擦係数μ’は、粘着域Tc1の剪断抗力に関する第1項と、滑り域Tc2での滑り摩擦に関する第2項との和で表される。そして、式(1)において、左辺の摩擦係数μ’並びに右辺の第1項及び第2項は、スリップ比sを変数とする関数である。
【0041】
図7は、式(1)における左辺の理論上の摩擦係数μ’並びに右辺の第1項及び第2項とスリップ比sとの関係を示している。
図7において、式(1)の右辺の第1項は曲線Aで、右辺の第2項は曲線Bで、左辺の摩擦係数μ’は曲線Cでそれぞれ表される。摩擦係数μ’を表す曲線Cは、粘着域Tc1の剪断抗力に関する曲線Aの成分と滑り域Tc2での滑り摩擦に関する曲線Bの成分に分解される。
【0042】
図7に示されるように、式(1)の理論上の摩擦係数μ’も、スリップ比sの付与に伴い急激に立ち上がる。この摩擦係数μ’の立ち上がり領域では、スリップ比sが0から増加する際に、スリップ比sと摩擦係数μ’との関係は線形であると近似できる。そして、スリップ比sがさらに増加すると、μ’-s曲線の傾きは緩やかとなり、摩擦係数μ’は、ピーク値を迎えた後、緩やかに下降する。
【0043】
図7において剪断抗力に関する曲線Aが0となる第1スリップ比s1では、粘着域Tc1は消滅し、接地面Tcのすべてが滑り域Tc2となる。
【0044】
図7において曲線A、Bは、トレッド前後剛性Cx、トレッドゴムの最大静止摩擦係数μs及び滑り摩擦係数μdの値に応じて変化する。従って、曲線Aと曲線Bの和である曲線Cもトレッド前後剛性Cx、トレッドゴムの最大静止摩擦係数μs及び滑り摩擦係数μdの値に応じて変化する。すなわち、理論上の摩擦係数μ’は、トレッド前後剛性Cx、トレッドゴムの最大静止摩擦係数μs及び滑り摩擦係数μdを変数とする関数であることが理解される。
【0045】
図8は、トレッドゴムの最大静止摩擦係数μs及び滑り摩擦係数μdを固定して、トレッド前後剛性Cxを変動させたときの左辺の理論上の摩擦係数μ’並びに右辺の第1項及び第2項を示している。トレッド前後剛性Cxが基準値であるとき、上記摩擦係数μ’、第1項、第2項は、実線の曲線A、B、Cで表され、トレッド前後剛性Cxが基準値+20%であるとき、上記摩擦係数μ’、第1項、第2項は、破線の曲線A1、B1、C1で表される。
【0046】
図8によってトレッド前後剛性Cxが増減・変動することにより、粘着域Tc1が消滅し接地面Tcのすべてが滑り域Tc2となる第1スリップ比s1が移動し、これに伴い、理論上の摩擦係数μ’が最大値μmaxをとるスリップ比sも移動することが理解される。
【0047】
図9は、トレッド前後剛性Cx及びトレッドゴムの滑り摩擦係数μdを固定して、トレッドゴムの最大静止摩擦係数μsを変動させたときの左辺の理論上の摩擦係数μ’並びに右辺の第1項及び第2項を示している。最大静止摩擦係数μsが基準値であるとき、上記摩擦係数μ’、第1項、第2項は、実線の曲線A、B、Cで表され、最大静止摩擦係数μsが基準値+20%であるとき、上記摩擦係数μ’、第1項、第2項は、破線の曲線A2、B2、C2で表される。
【0048】
図9によって最大静止摩擦係数μsが増減・変動することにより、粘着域Tc1が消滅し、接地面Tcのすべてが滑り域Tc2となる第1スリップ比s1が移動することが理解される。また、最大静止摩擦係数μsが増減・変動することにより、粘着域Tc1の剪断抗力に関する第1項のピーク値が大きく変動することが理解される。これらに伴い、理論上の摩擦係数μ’が最大値μmaxをとるスリップ比sが移動すると共に、そのピーク値も変動することが理解される。
【0049】
図10は、トレッド前後剛性Cx及びトレッドゴムの最大静止摩擦係数μsを固定して、トレッドゴムの滑り摩擦係数μdを変動させたときの左辺の理論上の摩擦係数μ’並びに右辺の第1項及び第2項を示している。滑り摩擦係数μdがスリップ比sを変数とする基準関数であるとき、上記摩擦係数μ’、第1項、第2項は、実線の曲線A、B、Cで表され、滑り摩擦係数μdが基準関数に対して摩擦係数を一律に+20%としたとき、上記摩擦係数μ’、第1項、第2項は、破線の曲線A3、B3、C3で表される。
【0050】
図10によって滑り摩擦係数μdが増減・変動することにより、滑り域Tc2での滑り摩擦に関する第2項がピークを迎えるまでの傾きが大きく変動することが理解される。これに伴い、理論上の摩擦係数μ’の最大値μmax及び最大値μmax以降での摩擦係数μ’の落ち込みも変動することが理解される。
【0051】
図8ないし
図10により、トレッド前後剛性Cx、トレッドゴムの最大静止摩擦係数μsの値及び滑り摩擦係数μdの関数を調整することにより、理論上の摩擦係数μ’とスリップ比sとの関係であるμ’-s曲線をある程度自在に変形できることが理解される。そして、理論上の摩擦係数μ’とスリップ比sとの関係を、評価対象タイヤT1の実測値であるμ-sデーターにフィッティングすることにより、評価対象タイヤT1のトレッド前後剛性Cx、トレッドゴムの最大静止摩擦係数μs及び滑り摩擦係数μdを特定することが可能となる。
【0052】
すなわち、本実施形態の特定ステップS2は、式(1)にて表される理論上の摩擦係数μ’とスリップ比sとの関係を実測値であるμ-sデーターにフィッティングするフィッティングステップS2’を含んでいる(
図1参照)。
【0053】
特定ステップS2がフィッティングステップS2’を含むことにより、摩擦係数の理論式に含まれるトレッド前後剛性Cx、最大静止摩擦係数μs等の変数及び滑り摩擦係数μd等の関数が実測によって取得されたμ-sデーターに基づき特定される。これにより、評価対象タイヤの性能を精度よく評価することが可能になる。
【0054】
なお、理論上の摩擦係数μ’とスリップ比sとの関係式は、式(1)に限られない。例えば、理論上の摩擦係数μ’とスリップ比sとの関係が特定される式であれば、トレッド前後剛性Cx、最大静止摩擦係数μs以外の変数及び滑り摩擦係数μd以外の関数を含んでいてもよい。理論上の摩擦係数μ’とスリップ比sとの関係を特定する他の変数等は、上述したトレッド前後剛性Cx等と同様に、実測値であるμ-sデーターとのフィッティングにより特定され、評価対象タイヤの性能評価に用いられる。
【0055】
図11は、フィッティングステップS2’のより具体的な手順を示している。フィッティングステップS2’は、式(1)におけるトレッド前後剛性Cx、最大静止摩擦係数μs及び滑り摩擦係数μdを仮決めする仮決めステップS21、S22を含んでいる。仮決めステップS21、S22は、例えば、コンピューター装置20にインストールされた表計算ソフト(spreadsheet)に含まれるマクロ機能やソルバー機能等を用いて実行される。
【0056】
図12は、仮決めステップS21において実測の摩擦係数μにフィッティングされる理論上の摩擦係数μ’を示している。
図13は、仮決めステップS21の終了後における理論上の摩擦係数μ’を示している。なお、
図13では、摩擦係数μ’のうちスリップ比sが0に近い領域が拡大して示される(以下、
図14ないし
図19においても同様である)。
【0057】
仮決めステップS21では、特定部21によって滑り摩擦係数μdが仮決めされる。仮決めされる滑り摩擦係数μdは、スリップ比sを変数とする関数である。スリップ比sを変数とする関数の例として、例えば、一次関数、二次関数等が挙げられる。特定部21は、剪断抗力が0となる第1スリップ比s1以上での理論上の摩擦係数μ’が取得ステップS1で実測により取得されたμ-sデーター上の摩擦係数μに線形近似するように滑り摩擦係数μdを仮決めする。
【0058】
上記線形近似においては、理論上の摩擦係数μ’で剪断抗力が作用しない領域の両端、すなわち、剪断抗力が0となるスリップ比s(=s1)及びスリップ比s(=1)の2点で、理論上の摩擦係数μ’が実測された摩擦係数μに近似するように、滑り摩擦係数μdが仮決めされる。換言すると、仮決めステップS21は、剪断抗力が0となる第1スリップ比s1以上での理論上の摩擦係数μ’を取得ステップS1で実測により取得されたμ-sデーター上の摩擦係数μに線形近似させる第1近似ステップを含んでいる。ここで、仮決めステップS21での線形近似には、例えば、回帰分析等の各種の統計的手法が適用される。仮決めステップS21は、近似による誤差が予め定められた閾値以下となるまで実行される。
【0059】
図14は、仮決めステップS22において実測の摩擦係数μにフィッティングされる理論上の摩擦係数μ’を示している。
図15は、仮決めステップS22の終了後における理論上の摩擦係数μ’を示している。
【0060】
仮決めステップS22では、特定部21によってトレッド前後剛性Cx及び最大静止摩擦係数μsが仮決めされる。特定部21は、予め定められた第2スリップ比s2での摩擦係数μ’及び摩擦係数μ’の最大値μ’maxがμ-sデーター上の摩擦係数μに近似するように、トレッド前後剛性Cx及び最大静止摩擦係数μsを仮決めする。換言すると、仮決めステップS22は、第2スリップ比s2での摩擦係数μ’及び摩擦係数μ’の最大値μ’maxをμ-sデーター上の摩擦係数μに近似させる第2近似ステップを含んでいる。ここで、仮決めステップS22での近似には、回帰分析等の各種の統計的手法が適用される。
【0061】
上述した第2スリップ比s2は、スリップ比sが0から増加する際に、スリップ比sと摩擦係数μとの関係が線形に近似できる上限のスリップ比である。現在の測定精度では、一般に、スリップ比sが0から0.03の範囲では、スリップ比sと摩擦係数μとの関係が線形に近似できると言われている。従って、第2スリップ比s2は、例えば、0.03である。仮決めステップS22は、近似による誤差が予め定められた閾値以下となるまで実行される。
【0062】
スリップ比sが0から第2スリップ比s2の範囲において、スリップ比sと摩擦係数μとの関係は、略線形に推移する。従って、仮決めステップS22の完了により、スリップ比sが0から第2スリップ比s2に至る摩擦係数μの立ち上がり領域において、理論上の摩擦係数μ’は、実測により取得されたμ-sデーター上の摩擦係数μにフィッティングされることになる(
図15参照)。
【0063】
フィッティングステップS2’は、第2スリップ比s2から最大値μ’maxに至る過渡領域において、理論上の摩擦係数μ’を実測による摩擦係数μに合わせ込む合わせ込みステップS23を含んでいる。合わせ込みステップS23は、例えば、コンピューター装置20にインストールされた表計算ソフトに含まれるマクロ機能やソルバー機能等を用いて実行される。
【0064】
図16は、合わせ込みステップS23において実測の摩擦係数μにフィッティングされる理論上の摩擦係数μ’を示している。
図17は、
図16における第2スリップ比s2から最大値μ’maxに至る理論上の摩擦係数μ’を拡大して示している。
図18は、合わせ込みステップS23の終了後における摩擦係数μ’を示している。
【0065】
図17に示されるように、合わせ込みステップS23では、特定部21によって、トレッド前後剛性Cx及び最大静止摩擦係数μsが調整される。特定部21は、第2スリップ比s2から最大値μ’maxに至る過渡領域において、理論上の摩擦係数μ’と実測により取得されたμ-sデーター上の摩擦係数μとの差が小さくなるように、トレッド前後剛性Cx及び最大静止摩擦係数μsを調整する。換言すると、合わせ込みステップS23は、第2スリップ比s2から最大値μ’maxに至る過渡領域での理論上の摩擦係数μ’をμ-sデーター上の摩擦係数μに近似させる第3近似ステップを含んでいる。合わせ込みステップS23での合わせ込みには、回帰分析等の各種の統計的手法が適用される。合わせ込みステップS23は、近似による誤差が予め定められた閾値以下となるまで実行される。
【0066】
合わせ込みステップS23の完了により、スリップ比sが0から摩擦係数μが最大値μmaxに至る領域において、理論上の摩擦係数μ’は、実測により取得されたμ-sデーター上の摩擦係数μにフィッティングされることになる。
【0067】
図8、9に示されるように、トレッド前後剛性Cx及び最大静止摩擦係数μsが増減・変動することにより、曲線A、B、Cが変形し、剪断抗力が0となる第1スリップ比s1の値も変動する。合わせ込みステップS23の実行後の第1スリップ比をs1’とした場合、仮決めステップS22及び合わせ込みステップS23の実行に伴う第1スリップ比のずれ量Δs=s1’-s1で計算される(
図18参照)。
【0068】
そこで、フィッティングステップS2’は、第1スリップ比s1のずれ量Δsの絶対値と予め定められた閾値とを比較する比較ステップS24を含んでいる、のが望ましい。比較ステップS24において、第1スリップ比s1のずれ量Δsの絶対値が予め定められた閾値以下である場合(S24においてY)、フィッティングステップS2’は終了する。
【0069】
第1スリップ比s1のずれ量Δsの絶対値が予め定められた閾値より大きい場合(S24においてN)、以下の修正ステップS25が実行される。
【0070】
すなわち、フィッティングステップS2’は、修正ステップS25を含んでいる。
【0071】
図19は、修正ステップS25において、修正される理論上の摩擦係数μ’を示している。
図20は、修正ステップS25の終了後における摩擦係数μ’を示している。
【0072】
修正ステップS25では、特定部21によって、第1スリップ比のずれ量Δs=s1’-s1の絶対値が小さくなるように、滑り摩擦係数μdの関数が微修正される。修正ステップS25は、ずれ量Δsの絶対値が予め定められた閾値以下となるまで実行される。
【0073】
図11に示されるように、修正ステップS25の完了後、仮決めステップS21に戻り、再び仮決めステップS21、S22、合わせ込みステップS23が順次実行される。そして、仮決めステップS21、S22、合わせ込みステップS23、比較ステップS24、修正ステップS25は、比較ステップS24において、第1スリップ比s1のずれ量Δsが予め定められた閾値以下となるまで(S24においてY)、繰り返される。修正ステップS25の完了後は、仮決めステップS22に戻り、再び仮決めステップS22、合わせ込みステップS23が順次実行されるように構成されていてもよい。
【0074】
2サイクル目の仮決めステップS21、S22、合わせ込みステップS23において近似による誤差と比較される閾値は、1サイクル目の各ステップS21、S22、S23における閾値よりも小さく設定されてもよい。
【0075】
上記フィッティングステップS2’によれば、トレッド前後剛性Cx、最大静止摩擦係数μs及び滑り摩擦係数μdが正確に特定され、各評価対象タイヤT1の性能をより一層客観的に精度よく評価することが可能となる。
【0076】
以上、本発明のタイヤ性能評価方法100が詳細に説明されたが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されることなく種々の態様に変更して実施される。
【0077】
[付記]
[本発明1]
タイヤの性能を評価する方法であって、
ウェット路面上で評価対象タイヤの制動試験を行い、スリップ比sと摩擦係数μとの関係を特定するμ-sデーターを取得する取得ステップと、
前記μ-sデーターに基づいて、前記評価対象タイヤのトレッド前後剛性Cx、トレッドゴムの最大静止摩擦係数μs及び滑り摩擦係数μdを特定する特定ステップと、を含む、
タイヤ性能評価方法。
[本発明2]
前記特定ステップは、タイヤ赤道上での接地圧分布をn次(nは2以上の偶数)の放物線で近似したときの摩擦係数μ’を、粘着域の剪断抗力に関する項及び滑り域での滑り摩擦に関する項との和で表した理論上の関係式を前記μ-sデーターにフィッティングするフィッティングステップを含む、本発明1に記載のタイヤ性能評価方法。
[本発明3]
前記関係式は、変数として、前記トレッド前後剛性Cx、前記最大静止摩擦係数μs及び前記滑り摩擦係数μdを含む、本発明2に記載のタイヤ性能評価方法。
[本発明4]
前記フィッティングステップは、前記関係式における前記トレッド前後剛性Cx、前記最大静止摩擦係数μs及び前記滑り摩擦係数μdを仮決めする仮決めステップを含む、本発明3に記載のタイヤ性能評価方法。
[本発明5]
前記仮決めステップは、前記関係式における前記剪断抗力が0となる第1スリップ比s1以上での前記摩擦係数μ’が前記μ-sデーター上のμに線形近似するように前記滑り摩擦係数μdを仮決めする、第1近似ステップを含む、本発明4に記載のタイヤ性能評価方法。
[本発明6]
前記仮決めステップは、予め定められた第2スリップ比s2での前記摩擦係数μ’及び前記摩擦係数μ’の最大値が前記μ-sデーター上のμに近似するように前記トレッド前後剛性Cx及び前記最大静止摩擦係数μsを仮決めする、第2近似ステップを含む、本発明5に記載のタイヤ性能評価方法。
[本発明7]
前記第2スリップ比s2は、前記スリップ比sが0から増加する際に、前記スリップ比sと前記摩擦係数μ’との関係が線形であると近似できる上限のスリップ比である、本発明6に記載のタイヤ性能評価方法。
[本発明8]
前記フィッティングステップは、前記トレッド前後剛性Cx、前記最大静止摩擦係数μsを合わせ込む合わせ込みステップをさらに含む、本発明6に記載のタイヤ性能評価方法。
[本発明9]
前記合わせ込みステップは、前記第2スリップ比s2での前記摩擦係数μ’から前記最大値に至る過渡領域での前記摩擦係数μ’が、前記μ-sデーター上のμに近似するように、前記トレッド前後剛性Cx、前記最大静止摩擦係数μsを合わせ込む、第3近似ステップを含む、本発明8に記載のタイヤ性能評価方法。
[本発明10]
前記フィッティングステップは、前記仮決めステップ及び前記合わせ込みステップの実行に伴って生じた前記第1スリップ比のずれ量の絶対値が小さくなるように、前記滑り摩擦係数μdを微修正する修正ステップをさらに含む、本発明9に記載のタイヤ性能評価方法。
[本発明11]
前記仮決めステップ及び前記合わせ込みステップは、前記修正ステップの後にも実行される、本発明10に記載のタイヤ性能評価方法。
[本発明12]
前記修正ステップは、前記μ-sデーターからの前記第1スリップ比s1のずれ量の絶対値が、予め定められた閾値以下となるまで、繰り返される、本発明11に記載のタイヤ性能評価方法。
[本発明13]
前記トレッド前後剛性Cx、前記最大静止摩擦係数μs及び前記滑り摩擦係数μdに基づいて前記評価対象タイヤの性能を評価する評価ステップをさらに含む、本発明1に記載のタイヤ性能評価方法。
[本発明14]
タイヤの性能を評価する装置であって、
ウェット路面上で評価対象タイヤの制動試験を行い、スリップ比sと摩擦係数μとの関係を特定するμ-sデーターを取得する取得部と、
前記μ-sデーターに基づいて、前記評価対象タイヤのトレッド前後剛性Cx、トレッドゴムの最大静止摩擦係数μs及び滑り摩擦係数μdを特定する特定部とを含む、
タイヤ性能評価装置。
【符号の説明】
【0078】
1 :タイヤ性能評価装置
10 :取得部
21 :特定部
100 :タイヤ性能評価方法
CL :タイヤ赤道
Cx :トレッド前後剛性
S1 :取得ステップ
S2 :特定ステップ
S21 :仮決めステップ
S21 :ステップ
S22 :ステップ
S22 :仮決めステップ
S23 :ステップ
S23 :合わせ込みステップ
S25 :修正ステップ
S2’ :フィッティングステップ
S3 :評価ステップ
T1 :評価対象タイヤ
Tc1 :粘着域
Tc2 :滑り域
s :スリップ比
s1 :第1スリップ比
s2 :第2スリップ比
Δs :ずれ量
μ :摩擦係数
μd :滑り摩擦係数
μmax :最大値
μs :最大静止摩擦係数
μ’ :摩擦係数
μ’max :最大値