(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025155369
(43)【公開日】2025-10-14
(54)【発明の名称】マイコプラズマ・ジェニタリウム検出用の塩基配列及びその関連技術
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20251006BHJP
C12Q 1/689 20180101ALI20251006BHJP
C12Q 1/6874 20180101ALI20251006BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20251006BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12Q1/689 Z
C12Q1/6874 Z
C12Q1/686 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024059173
(22)【出願日】2024-04-01
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
3.ノニデット
(71)【出願人】
【識別番号】598034720
【氏名又は名称】株式会社ミズホメディー
(71)【出願人】
【識別番号】591222245
【氏名又は名称】国立感染症研究所長
(74)【代理人】
【識別番号】100097179
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 一幸
(72)【発明者】
【氏名】石橋 直人
(72)【発明者】
【氏名】小松 眞也
(72)【発明者】
【氏名】森 健
(72)【発明者】
【氏名】志牟田 健
(72)【発明者】
【氏名】大西 真
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】他のマイコプラズマ属とは反応性を示せず、マイコプラズマ・ジェニタリウムの野生型・変異型を問わず網羅的に検出できる検出用の塩基配列を提供する。
【解決手段】マイコプラズマ・ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium)の23S rRNA遺伝子配列の2096位~2119位の塩基配列であり、その中で連続する少なくとも20塩基を含む塩基配列もしくはこの塩基配列と相補的な塩基配列を、第1のプライマーとして使用する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイコプラズマ・ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium)の23S rRNA遺伝子配列の2096位~2119位の塩基配列であって、連続する少なくとも20塩基を含む塩基配列もしくは前記塩基配列と相補的な塩基配列。
【請求項2】
請求項1記載の塩基配列を第1のプライマーとして使用するマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出する方法。
【請求項3】
さらに、マイコプラズマ・ジェニタリウムの23S rRNA遺伝子配列の2027位~2050位の塩基配列であって、連続する少なくとも20塩基を含む塩基配列もしくは前記塩基配列と相補的な塩基配列を第2のプライマーとして使用する請求項2記載のマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出する方法。
【請求項4】
さらに、マイコプラズマ・ジェニタリウムの23S rRNA遺伝子配列の2054位~2078位の塩基配列もしくは前記塩基配列と相補的な塩基配列を標識プローブとして使用する請求項3記載のマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出する方法。
【請求項5】
前記標識プローブは、標的とハイブリダイズすると消光する蛍光消光色素で標識されている請求項4記載のマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出する方法。
【請求項6】
PCRの検出温度条件が、第1の温度と、前記第1の温度とは異なる第2の温度とを用いて設定され、マイコプラズマ・ジェニタリウムを検出し、且つ、23S rRNA遺伝子中のマクロライド耐性変異の有無を検出する請求項5記載のマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出する方法。
【請求項7】
前記第1の温度が50~58℃の範囲で設定され、前記第2の温度が66~70℃の範囲で設定される請求項6記載のマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出する方法。
【請求項8】
請求項1記載の塩基配列からなる第1のプライマーと、請求項3記載の塩基配列からなる第2のプライマーと、請求項4記載の塩基配列からなる標識プローブとを使用して、マイコプラズマ・ジェニタリウムを検出しマクロライド耐性を識別するための試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイコプラズマ・ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium)を特異的に検出するための塩基配列及びその関連技術、特に、マイコプラズマ・ジェニタリウムのマクロライドの検出方法及びマクロライド耐性の判別方法並びに試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
性感染症は性的な接触によって感染する病気である。感染しても無症状の場合があり、知らない間に他人に感染させてしまうことがある。代表的な性感染症原因菌としては、クラミジア(Chlamydia trachomatis)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、マイコプラズマ・ジェニタリウムがあり、その混合感染も頻繁に確認されている。これら性感染症原因菌のうち、マイコプラズマ・ジェニタリウムは、女性では無症状感染が多い一方、男性では有症状の割合が高く、尿道炎全体の60~70%にあたる非淋菌性尿道炎のうち、14~16%がマイコプラズマ・ジェニタリウム尿道炎と報告されている。
【0003】
性感染症の治療には、静菌作用又は殺菌作用を示す物質である抗菌薬が広く用いられている。抗菌薬には、マクロライド系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系等の種類があり、それぞれ作用機序が異なり標的とするターゲットも異なる。ただし、各抗菌薬の標的となるターゲットに一塩基変異や欠損が生じた場合に、これらの抗菌薬が作用できず効果が得られないことがある。
【0004】
マイコプラズマ・ジェニタリウム感染症についても、抗菌薬の効果が得られ難い、クラミジア感染症と同じ抗菌薬での治療困難例が増加している。その中でもわが国ではマクロライド系抗菌薬の耐性の割合が高く、40%以上と考えられている。マクロライド系抗菌薬に対して耐性を持つマイコプラズマ・ジェニタリウムの変異株は、その23S rRNAをコードする遺伝子配列の2058位および2059位(E.coli numberringで定められる位置)に一塩基変異を有することによって耐性を示すことが報告されている(非特許文献1参照。)。
【0005】
マイコプラズマ・ジェニタリウムのマクロライド系抗菌薬に対する耐性を識別する方法として、以下の2つ方法が報告されている。
(1)マイコプラズマ・ジェニタリウムの23S rRNA遺伝子配列の特定の塩基配列をシークエンス用プライマーに用いたシークエンス解析による方法(非特許文献2)
(2)マイコプラズマ・ジェニタリウムの23S rRNA遺伝子配列の特定の塩基配列を標識プローブとして用いた融解曲線分析による方法(特許文献1(特開2023-130663号公報)及び特許文献2(特表2023-534457号公報)参照。)
【0006】
非特許文献2記載の方法では、核酸精製後にシークエンス解析を実施するため、精製の操作が煩雑であり、迅速性に欠け、解析を行うためには専用の大型装置が必要になるという問題がある。
【0007】
特許文献1、2には、マクロライド系抗菌薬に対する耐性識別が可能であることが記載されている。しかし、マイコプラズマ属の23S rRNAの配列は、保存性が高く、特異性に問題がある。特に、肺炎マイコプラズマの原因菌であるマイコプラズマ・ニューモニエの23S rRNA遺伝子配列は、マイコプラズマ・ジェニタリウムの23S rRNA遺伝子配列との相同性が高い。マイコプラズマ・ジェニタリウムは尿道炎や子宮頚管炎を引き起こす代表的な性感染症の原因菌であるが、咽頭中にも存在する。咽頭ぬぐい液を試料とした場合、マイコプラズマ・ジェニタリウムの確定診断をするためには、他のマイコプラズマ属との交差性がないプライマーの塩基配列の設計が求められる。
【0008】
また、マイコプラズマ・ジェニタリウムを検出する方法として、MgPa接着オペロン内のmgpB遺伝子の部分反復(MgPar)を標的遺伝子とする方法が報告されている(特許文献3(特許第7141488号公報)参照。)
【0009】
特許文献3に記載の方法は標的遺伝子を複数含むことによって高感度化を実現しているものの、マクロライド系抗菌薬に対する耐性識別を実施できないという問題点がある。
【特許文献1】特開2023-130663号公報
【特許文献2】特表2023-534457号公報
【特許文献3】特許第7141488号公報
【非特許文献1】Kaitlin A. Tagg et al., Fluoroquinolone and Macrolide Resistance-Associated Mutations in Mycoplasma genitalium., Journal of Clinical Microbiology July 2013 Volume 51 Number 7
【非特許文献2】Ryoichi Hamasuna et al., Mutations in ParC and GyrA of moxifloxacin-resistant and susceptible Mycoplasma genitalium strains., PLOS ONE 13(6):e0198355
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
他のマイコプラズマ属とは反応性を示せず、マイコプラズマ・ジェニタリウムの野生型・変異型を問わず網羅的に検出できる特異性の高い方法の開発が求められている。さらに、薬剤耐性の観点から、野生型及び変異型の両方を検出できるだけでなく、マイコプラズマ・ジェニタリウムのマクロライド系抗菌薬に対する耐性の有無についても、簡便、迅速、高感度に検出する方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の塩基配列を有する第1のプライマーを用いることで、マイコプラズマ・ジェニタリウムを特異的に検出できることを見出した。さらに特定の塩基配列を有する第2のプライマーおよび標識プローブを用いることでマイコプラズマ・ジェニタリウムの野生型及び変異型の両方を検出できるだけでなく、マイコプラズマ・ジェニタリウムのマクロライド系抗菌薬の耐性の有無についても特異的、簡便、高感度、迅速に検出することができることを見出した。
【0012】
第1の本発明は、マイコプラズマ・ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium)の23S rRNA遺伝子配列の2096位~2119位の塩基配列であって、連続する少なくとも20塩基を含む塩基配列もしくはこの塩基配列と相補的な塩基配列からなる第1のプライマーを提供する。これによると、他のマイコプラズマ属とは反応性を示さない、マイコプラズマ・ジェニタリウムを特異的に検出する方法ならびにその試薬を提供することができる。
【0013】
第2の本発明は、第1の発明に加え、マイコプラズマ・ジェニタリウムの23S rRNA遺伝子配列の2027位~2050位の塩基配列であって、連続する少なくとも20塩基を含む塩基配列もしくはこの塩基配列と相補的な塩基配列を第2のプライマーとして使用する。これによると、高感度にマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出する方法ならびにその試薬を提供することができる。
【0014】
第3の本発明は、マイコプラズマ・ジェニタリウムの23S rRNA遺伝子配列の2054位~2078位の塩基配列もしくはこの塩基配列と相補的な塩基配列を標識プローブとして使用する。これによると、マイコプラズマ・ジェニタリウムのマクロライド系抗菌薬に対する耐性の有無についても識別できる方法ならびにその試薬を提供できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、マイコプラズマ・ジェニタリウムを特異的、簡便、高感度、迅速に検出できることができる。また、本発明の第1のプライマーに加えて、特定の塩基配列を有する第2のプライマーおよび標識プローブを用いることで、マイコプラズマ・ジェニタリウムの野生型及び変異型の両方を検出できるだけでなく、マイコプラズマ・ジェニタリウムのマクロライド系抗菌薬の耐性の有無についても特異的、簡便、高感度、迅速に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を示しつつ、本発明についてさらに詳説するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書中の「~」は「以上、以下」を意味し、例えば明細書中で「A~B」と記載されていれば、「A以上、B以下」を示す。
【0017】
また、本明細書では、第1のプライマーや第2のプライマーを単に「プライマー」という場合があり、標識プローブを単に「プローブ」という場合があり、これらを総称して「オリゴヌクレオチド」ともいう場合がある。また、第1のプライマーと第2のプライマーのセットを単に「プライマーセット」という場合がある。
【0018】
また、本明細書では、マクロライド系抗菌薬に対する耐性を持つマイコプラズマ・ジェニタリウムを単に「耐性型」や「変異型」という場合がある。
【0019】
1つの実施形態において、本発明は、特定の塩基配列を有する第1のプライマーを使用することで、マイコプラズマ・ジェニタリウムを特異的に検出する方法を提供する。この方法により、マイコプラズマ・ジェニタリウムを特異的、簡便、高感度、迅速に検出することができる。加えて、特定の塩基配列を有する第2のプライマーおよび標識プローブを使用し、PCRの検出温度を2温度に設定することで、マイコプラズマ・ジェニタリウムの検出のみならず、23S rRNA遺伝子配列におけるマクロライド耐性に関連する変異の有無も判定することができる。
【0020】
[マイコプラズマ・ジェニタリウムを検出する方法]
1つの実施形態において、検体試料中に含まれ得るマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出する方法は、後述の第1のプライマーを用いる方法であることが好ましい。当該方法は、検体試料中のマイコプラズマ・ジェニタリウムの有無を判定する方法であってもよい。
また、当該方法は、検体試料中に含まれ得るマイコプラズマ・ジェニタリウムを定量する方法であってもよい。
加えて、後述の標識プローブを用いることで、PCR法(RT-PCR法)において、検体試料中に含まれ得るマイコプラズマ・ジェニタリウムを、野生型及び変異型のどちらであっても高感度に検出することができる。
さらにPCRの検出温度を2温度に設定することで、検体試料中に含まれ得るマイコプラズマ・ジェニタリウムを野生型及び変異型のいずれかを判別して検出することができる。
【0021】
特定の実施形態では、検体試料中に含まれ得るマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出する方法は、少なくとも以下の工程(1)及び(2):
(1)マイコプラズマ・ジェニタリウムを含み得る検体試料を採取する工程、
(2)工程(1)の検体試料を、特定の塩基配列を有するプライマーセットを用いて、マイコプラズマ・ジェニタリウムの23S rRNA遺伝子配列の一部または全部を鋳型とする核酸増幅反応に供する工程、さらに、増幅反応中で生成された核酸増幅産物を、リアルタイムに特定の塩基配列を有する標識プローブを用いて検出する工程、
を含むことが好ましい。
【0022】
[工程(1)]
工程(1)の検体試料は、マイコプラズマ・ジェニタリウムを含む可能性のあるものであれば特に限定されない。検体試料の例としては、例えば血液、血液培養液、子宮頚管擦過物、膣擦過物、尿道擦過物、尿、咽頭ぬぐい液、後鼻腔ぬぐい液、喀痰、唾液、口腔内擦過物などがあげられるが、これらに限定されない。マイコプラズマ・ジェニタリウムが性感染症の主要な原因菌という観点から、子宮頚管擦過物、尿、尿道擦過物、咽頭ぬぐい液を用いることが好ましい。生体試料の種類に応じて、特に制限はされないが、希釈、懸濁、遠心、酵素処理、濾過、加熱処理、酸処理、アルカリ処理などの前処理もしくは核酸抽出を行ってもよい。
【0023】
検体試料の採取方法、調製方法などは、特に制限されず、検体試料の種類、目的に応じて公知の方法を用いることができる。
【0024】
核酸抽出の方法は、特に制限されないが、検体の種類、目的に応じて公知の方法を用いることができる。核酸抽出には、例えば、各メーカーから販売されているキット等を使用してもよい。また、自動抽出精製装置を用いて核酸抽出を行ってもよい。
【0025】
特定の好ましい実施形態において、検体試料は、従来の核酸増幅反応において通常は必須と考えられていた核酸精製工程を省略したものであってもよい。核酸精製を行う場合、専用試薬が必要であることに加えて、作業が煩雑で手間と時間がかかるという問題点がある。
【0026】
核酸精製工程を省略した検体試料を用いる場合、検体試料の採取から遺伝子検査結果を得られるまでの時間を短縮でき、例えばこれまで1日かかっていた作業時間が2時間以内に短縮可能となる。このように、核酸精製工程を経ていない検体試料を用いて本発明の方法を行う場合、核酸精製の手間が省ける分、簡便かつ短時間でマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出することができる。
【0027】
[工程(2)]
1つの実施形態において、工程(2)の核酸増幅反応は、核酸増幅法((1又は複数のプライマーセットを用いて核酸増幅反応を行うこと)により実施することが好ましい。核酸増幅法は、数コピーの標的核酸を可視化可能なレベル、すなわち数億コピー以上に増幅する技術であり、生命科学研究分野のみならず、臨床診断、食品衛生検査、環境検査等の分野においても広く用いられている。
【0028】
そのような核酸増幅法としては、PCR法、LAMP法、TMA法、SDA法などがあげられる。これらの技術はすでに当該技術分野において確立されており、目的に合わせて方法を選択することができる。核酸増幅法は、PCR法(RT-PCR法を含む)が好ましいが、これに限定されない。
【0029】
以降、工程(2)で行われるPCR反応およびPCR反応に用いるオリゴヌクレオチド(第1のプライマー・第2のプライマー・標識プローブ)並びに検出試薬について詳説するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
[PCR反応]
PCR反応(RT-PCR反応を含む)は、主にDNAポリメラーゼによって触媒される反応である。PCR反応は、通常、(i)熱処理によるDNA変性(2本鎖DNAから1本鎖DNAへの乖離)、(ii)鋳型1本鎖DNAへのプライマーのアニーリング、(iii)DNAポリメラーゼを用いた前記プライマーの伸長、という3ステップを1サイクルとし、このサイクルを繰り返すことを含む。
【0031】
なお、反応の高速化という観点では、上記(ii)と(iii)とを一体化した反応条件であることが好ましい。また、RT反応を含む場合は、(i)の前に逆転写反応が実施される。これらのDNAポリメラーゼを用いたPCR酵素は市販されており、そのいずれもが本発明に用いられ得る。
【0032】
PCR反応の条件は、反応が進行する限り特に限定されない。例えば、最初の工程(i)を90~100℃で1~180秒程度行ってもよく、2回目以降の工程(i)を90~100℃で1~20秒行ってもよく、工程(ii、iii)を50~75℃で1~20秒程度行ってもよい。工程(i)~(iii)までのサイクルは30~70回繰り返すことが好ましい。ここで繰り返し行うサイクルの温度及び時間は1サイクル毎に変化させてもよい。
【0033】
好ましい実施形態において、工程(ii、iii)の第1の温度(50~58℃)と第2の温度(66~70℃)との2温度で設定することが好ましい。2温度に設定することで、後述するマイコプラズマ・ジェニタリウムの野生型及び変異型の両方を検出並びに識別することが可能となる。
【0034】
[プライマー]
一般的にプライマーのTm値は、55~65℃が好ましく、60~65℃がさらに好ましいことが知られている。プライマーの長さは18~30塩基が好ましく、18~25塩基がさらに好ましいことが知られている。
【0035】
[第1のプライマー]
図11は、本発明の第1のプライマー配列の一覧図である。本発明の第1のプライマーは、マイコプラズマ・ジェニタリウムの23S rRNA遺伝子配列の2096位~2119位の連続する少なくとも20塩基を含む塩基配列もしくはこの塩基配列と相補的な塩基配列である。
【0036】
好ましい実施形態において、本発明の第1のプライマーの具体例としては、配列番号1~3(
図11参照。)のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列が挙げられる。
【0037】
[第2のプライマー]
図12は、本発明の第2のプライマー配列の一覧図である。本発明の第2のプライマーは、マイコプラズマ・ジェニタリウムの23S rRNA遺伝子配列の2027位~2050位の連続する少なくとも20塩基を含む塩基配列もしくはこの塩基配列と相補的な塩基配列である。
【0038】
好ましい実施形態において、本発明の第2のプライマーの具体例としては、配列番号11~15(
図12参照。)のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列が挙げられる。さらに好ましくは、配列番号11~13のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列が挙げられる。
【0039】
[標識プローブ]
図13は、本発明の標識プローブ配列の一覧図である。本発明の標識プローブは、マイコプラズマ・ジェニタリウムの23S rRNA遺伝子配列2054位~2078位からなる塩基配列もしくはこの塩基配列と相補的な塩基配列であることが好ましい。
【0040】
また、後述するグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素で標識したプローブとする場合には、当該色素で標識される少なくとも1つの末端塩基がシトシンであることが好ましい。標識プローブの長さとしては、15~30塩基であれば特に限定されない。
【0041】
好ましい実施形態において、本発明の標識プローブの具体例としては、配列番号16(
図13参照。)で示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列が挙げられる。
【0042】
上記の標識プローブは、5’末端又は3’末端のいずれか一方のみが標識されている。標識プローブの塩基配列に対して相補的な塩基配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を示す塩基配列を含む核酸と結合した場合に消光又は蛍光を生じるように標識されていることが好ましく、更には、消光を生じるように標識されていることがより好ましい。
【0043】
蛍光色素としては、特に標的の核酸増幅産物とハイブリダイズして複合体を形成することにより蛍光を生じる蛍光物質又は消光を生じる蛍光物質のいずれであってもよいが、好ましくは標的の核酸増幅産物とハイブリダイズした際に消光を生じる蛍光物質であり、特に好ましくは、標的の核酸増幅産物とハイブリダイズにおいてグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素であると良い。具体的には、フルオロセイン及びその誘導体(例えば、フルオロセインイソチオシアネート(FITC))、ローダミン及びその誘導体(例えば、5-カルボキシローダミン6G(GR6G))、テトラメチルローダミン(TAMRA))、並びにBODIPY及びその誘導体(例えば、BODIPY-FL))からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光消光色素が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
特定の好ましい実施形態では、蛍光消光色素で標識されている末端塩基がシトシンであるプローブがより好ましい。このようなプローブは標的の核酸増幅産物にハイブリダイズした際に、核酸増幅産物中のグアニン塩基と塩基対を形成して相互作用することで消光できるため、非常に簡便に反応液の蛍光強度の変化を測定することができる。
【0045】
このように本発明の標識プローブを用いることで、マイコプラズマ・ジェニタリウムの野生型及び変異型の両方を検出できる。更に好ましい実施形態では、検出されたマイコプラズマ・ジェニタリウムが野生型及び変異型のいずれであるかを判別して検出することができる。
【0046】
[マイコプラズマ・ジェニタリウムを検出するための試薬]
本発明は、マイコプラズマ・ジェニタリウムの検出を行う試薬およびマクロライド耐性を識別するための試薬を提供する。試薬には、前述で説明した本発明の第1のプライマー・第2のプライマー・標識プローブに加えて、核酸増幅反応、及び検出に必要な成分を少なくとも含むことが好ましい。
【0047】
当該必要な成分は、それぞれ公知のものを用いることができる。例えば、本発明の試薬は、DNAポリメラーゼ、デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTPs)、及びマグネシウム塩もしくはマンガン塩等の無機塩類を少なくとも含むことが好ましい。各成分の濃度は適宜調整できるが、例えば、第1のプライマー・第2のプライマーの濃度は、0.01~5μMが好ましく、0.05~2μMがより好ましい。標識プローブの濃度は、0.01~0.50μM が好ましく、0.02~0.10μMがより好ましい。DNAポリメラーゼの濃度は、0.1~5U/Testであることが好ましい。dNTPsの濃度は、0.02~1mMが好ましく、0.1~0.5mMがより好ましい。マグネシウム塩もしくはマンガン塩等の無機塩類の濃度は、0.1~10mMが好ましく、1~5mMがより好ましい。
【0048】
さらに、非特異増幅の抑制や反応促進を目的として、本発明の試薬は、当該技術分野で知られる添加物等を含んでいてもよい。非特異増幅の抑制を目的とする添加物としては、例えば、公知の抗DNAポリメラーゼ抗体等が挙げられる。反応促進を目的とする添加物としては、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ベタイン、トレハロース、ポリビニルピロリドン(PVP)、酢酸テトラメチルアンモニウム(TMAA)、ポリエチレングリコール、トリトン(Triton)、ツイーン(Tween)、ノニデットP40等が挙げられる。
【0049】
また、偽陰性の判定を容易にするために、本発明の試薬は、当該分野で公知のインターナルコントロールを含むことも好ましい。本発明では、これらの添加物を1種類単独で又は2種類以上組み合わせて使用してもよい。
【0050】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。ここで、
図1は、本発明の実施例1における温度変化を示すグラフ、
図2は、
図1の一部拡大図である。
図2に示すように、温度の頂部(熱変性温度)と底部(プライマーのアニーリング及びプライマーの伸長温度)とにおいて、それぞれ蛍光測光が行われる。
【0051】
(実施例1~3、比較例1~7)
特異性の確認
【0052】
<材料及び方法>
実施例1~3、比較例1~7におけるPCR法に用いたオリゴヌクレオチドは、(表1)に示す通りである。
【0053】
【0054】
実施例1~3、比較例1~7におけるPCR法に用いた第1のプライマーの融解温度(Tm値)、および鎖長は、(表2)に示す通りである。なお、プライマーのTm値の計算はNearest Neighbor法を用いて行う。
【0055】
【0056】
<PCR反応液組成>
PCR反応液組成は、(表3)に示す通りの要領で調製する。
【0057】
【0058】
<PCR反応条件>
PCRおよび蛍光測定には、株式会社ミズホメディーより発売されている全自動遺伝子解析装置Smart Gene(日本国登録商標)を使用する。蛍光測定時の励起波長と蛍光波長は中心波長525nmに設定する。なお、蛍光測定時の励起波長と蛍光波長を中心波長525nmに近しい条件で設定・使用できる汎用PCR装置でも測定は可能である。汎用PCR装置としては、Lightcycler(登録商標) nano(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)等が挙げられる。PCR反応条件は、(表4)に示す通りである。
【0059】
【0060】
<核酸試料>
実施例1~3、比較例1~7のPCR法に用いた核酸試料を以下に示す。
【0061】
ATCCより購入したマイコプラズマ・ニューモニエ(FH株、ATCC No.15531)のDNA精製品を使用する。なお、DNA精製にはQIAamp DNA Mini Kitを使用する。
【0062】
<データ解析方法>
QProbeを用いたデータ解析方法は、特許第4724380号に記載されている方法を参考に、得られた生データに対して補正演算値処理を行う。
【0063】
増幅反応の全てのサイクルについて、式1による演算を行う。
f[n]=fhyb.[n]/fden.[n]・・・(式1)
ここで、
fn:(式1)により算出されたnサイクルにおける蛍光強度値
fhyb.[n]:nサイクル目の伸長及び検出ステップの蛍光強度値
fden.[n]:nサイクル目の変性ステップの蛍光強度値
次に、増幅反応の全てのサイクルについて、次の(式2)で演算を行う。
F[n]=f[n]/f[22]・・・(式2)
ここで、
F[n]:22サイクル目の(式1)により得られた蛍光強度値を1とした時のnサイクル目の相対値
増幅反応の最終サイクルのF[n]の値であるF[46]を、マイコプラズマ・ジェニタリウムの判定に用いる。
【0064】
<マイコプラズマ・ジェニタリウムの判定>
マイコプラズマ・ジェニタリウムの判定は、測定試料のF[46]の値と判定閾値を比較して、[測定試料のF[46]<判定閾値]となる場合に陽性と、そうでない場合陰性と判定する。判定閾値として、マイコプラズマ・ジェニタリウムを含まない陰性試料のF[46]の平均値-標準偏差の5倍(以下、平均-5SD)の値、即ち、「0.9910」を使用する。
【0065】
<判定方法のフローチャート>
図3は、本発明の実施例1による判定方法を示すフローチャートである。
【0066】
図4は、本発明の実施例1による相対蛍光値の変化を示すグラフである。
図4に示すように、実施例1では、最終サイクルの相対蛍光値(F[46])が判定閾値を下回らず、マイコプラズマ・ジェニタリウム陰性と判定される。(表5)は、マイコプラズマ・ジェニタリウムの判定結果および最終サイクルの相対蛍光値(F[46])を示すが、実施例1~3では、相対蛍光値(F[46])が判定閾値を下回らず、マイコプラズマ・ジェニタリウム陰性と判定される。
【0067】
図5は、比較例1による相対値の変化を示すグラフである。(表5)は、マイコプラズマ・ジェニタリウムの判定結果および最終サイクルの相対蛍光値(F[46])を示す。
図5に示すように、比較例1~7では、相対蛍光値(F[46])が判定閾値を下回り、マイコプラズマ・ジェニタリウム陽性と判定される。
【0068】
【0069】
(結果)
(表5)から明らかなように、マイコプラズマ・ニューモニエのDNA精製品を核酸試料とした場合、実施例1~3で示した第1のプライマー(マイコプラズマ・ジェニタリウムの23S RNA遺伝子配列の2096位~2119位の塩基配列もしくはこの塩基配列と相補的な塩基配列であって、連続する少なくとも20塩基を含むオリゴヌクレオチドを用いる第1のプライマー)を用いた条件では、標識プローブの消光が確認されなかった。このことにより、実施例1~3に用いた第1のプライマーが、マイコプラズマ・ジェニタリウムに対する特異性が高いことが示される。
一方、比較例1~7における第1のプライマーを用いた条件では、明らかな標識プローブの消光が確認される。このことにより、比較例1~7に用いた第1のプライマーがマイコプラズマ・ニューモニエとの交差反応性を示すことを、つまりマイコプラズマ・ジェニタリウムとの特異性が低いことが示される。
実施例1~3に用いた第1のプライマーで最もTm値が低い配列番号2では、Tm値が57.0℃で、鎖長が20塩基となっている。仮に配列番号2の3’末端を1塩基削った塩基配列のTm値は55.2℃、2塩基削った塩基配列のTm値は52.8℃となり、好ましい範囲の下限域もしくは下限を下回るため、第1のプライマーの長さは、20塩基を含むことが好ましいと考えられる。
(実施例4~6、比較例8~9)
野生型マイコプラズマ・ジェニタリウムの検出感度の確認
<材料及び方法>
実施例4~6、比較例8~9におけるPCR法に用いたオリゴヌクレオチドは、(表6)に示す通りである。
【0070】
【0071】
実施例4~6、比較例8~9におけるPCR法に用いた第2のプライマーの融解温度(Tm値)、および鎖長は(表7)に示す通りである。なお、プライマーのTm値の計算はNearest Neighbor法を用いて行う。
【0072】
【0073】
<PCR反応液組成>
PCR反応液組成は、実施例1と同様の要領で調製する。
【0074】
<PCR反応条件>
PCR反応条件は、実施例1と同様である。
【0075】
<核酸試料>
実施例4~6、比較例8~9のPCR法に用いた核酸試料を以下に示す。
【0076】
(野生型マイコプラズマ・ジェニタリウムの人工合成RNA)
マイコプラズマ・ジェニタリウム由来のリボソームRNAである23S rRNAの遺伝子断片を人工合成後、転写反応にて作製された人工合成RNAである。
【0077】
前記人工合成RNAは23S rRNAの2058位、2059位を含む配列であり、G37株由来の配列を使用する。G37株はマクロライド感受性株である。
【0078】
(核酸試料の調製)
上記の人工合成RNAの長さは、380ntである。
【0079】
人工合成RNAの長さと溶液の濃度(μg/μL)から1μL当たりのコピー数を計算した後、必要に応じて、TE緩衝溶液を用いて希釈する。
【0080】
<データ解析方法>
データ解析方法は、実施例1と同様に実施する。
【0081】
<マイコプラズマ・ジェニタリウムの判定>
マイコプラズマ・ジェニタリウムの判定方法は、実施例1と同様の要領で実施する。
【0082】
実施例4~6、比較例8~9のマイコプラズマ・ジェニタリウムの判定結果および最終サイクルの相対蛍光値(F[46])を(表8)に示す。
【0083】
RNA量が800コピー/Testで実施した場合、実施例4~6、比較例8~9のいずれも相対蛍光値(F[46])が判定閾値を下回り、マイコプラズマ・ジェニタリウム陽性と判定される。
【0084】
RNA量が200コピー/Testで実施した場合、実施例4~6、比較例8は相対蛍光値(F[46])が判定閾値を下回り、マイコプラズマ・ジェニタリウム陽性と判定されるが、比較例9は相対蛍光値(F[46])が判定閾値を下回らず、マイコプラズマ・ジェニタリウム陰性と判定される。また、比較例8はマイコプラズマ・ジェニタリウム陽性と判定されるが、相対蛍光値(F[46])は実施例4~6と比較して大きいことが確認される。
【0085】
【0086】
(結果)
(表8)から明らかなように、野生型マイコプラズマ・ジェニタリウムの人工合成RNAを核酸試料とした場合、いずれも良好な結果が示されている。その中でも、実施例4~6で示した第2のプライマー(マイコプラズマ・ジェニタリウムの23S rRNA遺伝子配列の2027~2050位の塩基配列もしくはこの塩基配列と相補的な塩基配列であって、連続する少なくとも20塩基を含むオリゴヌクレオチドを用いた第2のプライマー)を用いた条件が、高感度であることが確認されている。これは増幅産物が短くなったこと、もしくは、プライマーのTm値が最適化されたことにより、PCR効率が改善したことが要因と考えられる。なお、実施例4~6に用いた第2のプライマーで最もTm値が低い配列番号13は、Tm値が59.5℃であり、鎖長が20塩基となっている。一方で、比較例9で用いた配列番号15のTm値は57.2℃で、鎖長が18塩基となり、好ましいTm値および鎖長の範囲の下限域であるため、第2のプライマーの長さは、20塩基を含むことが好ましいと考えられる。
(実施例7~9、比較例10~11)
変異型マイコプラズマ・ジェニタリウムの検出感度の確認
<材料及び方法>
実施例7~9、比較例10~11におけるPCR法に用いたオリゴヌクレオチドは、(表9)に示す通りである。
【0087】
【0088】
<PCR反応液組成>
PCR反応液組成は、実施例1と同様の要領で調製する。
【0089】
<PCR反応条件>
PCR反応条件は、実施例1と同様である。
【0090】
<核酸試料>
実施例7~9、比較例10~11のPCR法に用いた核酸試料を以下に示す。
【0091】
(変異型マイコプラズマ・ジェニタリウムの人工合成RNA)
マイコプラズマ・ジェニタリウム由来のリボソームRNAである23S rRNAの遺伝子断片を人工合成後、転写反応にて作製された人工合成RNAである。
【0092】
人工合成RNAは23S rRNAの2058位、2059位を含む配列であり、M6320株由来の配列を使用する。M6320株はマクロライド耐性株である。
【0093】
(核酸試料の調製)
上記の人工合成RNAの長さは、380ntである。
【0094】
人工合成RNAの長さと溶液の濃度(μg/μL)から1μL当たりのコピー数を計算した後、必要に応じて、TE緩衝溶液を用いて希釈する。
【0095】
<データ解析方法>
データ解析方法は、実施例1と同様である。
【0096】
<マイコプラズマ・ジェニタリウムの判定>
マイコプラズマ・ジェニタリウムの判定方法は、実施例1と同様である。
【0097】
実施例7~9、比較例10~11のマイコプラズマ・ジェニタリウムの判定結果および最終サイクルの相対蛍光値(F[46])を(表10)に示す。
【0098】
RNA量が800コピー/Testで実施した場合、実施例7~9、比較例10~11のいずれも相対蛍光値(F[46])が判定閾値を下回り、マイコプラズマ・ジェニタリウム陽性と判定される。
【0099】
RNA量が200コピー/Testで実施した場合、実施例7~9、比較例11は相対蛍光値(F[46])が判定閾値を下回り、マイコプラズマ・ジェニタリウム陽性と判定されるが、比較例10は相対蛍光値(F[46])が判定閾値を下回らず、マイコプラズマ・ジェニタリウム陰性と判定される。また、比較例10はマイコプラズマ・ジェニタリウム陽性と判定されるが、相対蛍光値(F[46])は実施例7~9と比較して大きいことが確認される。
【0100】
【0101】
(結果)
(表10)から明らかなように、変異型マイコプラズマ・ジェニタリウムの人工合成RNAを核酸試料とした場合、いずれも良好な結果が示されている。その中でも、実施例7~9で示した第2のプライマー(マイコプラズマ・ジェニタリウムの23S rRNA遺伝子配列の2027~2050位の塩基配列もしくはこの塩基配列と相補的な塩基配列であって、連続する少なくとも20塩基を含むオリゴヌクレオチドを用いた第2のプライマー)を用いた条件が、最も高感度であることが確認されている。これは増幅産物が短くなったこと、もしくは、プライマーのTm値が最適化されたことにより、PCR効率が改善したことが要因と考えられる。なお、実施例7~9に用いた第2のプライマーで最もTm値が低い配列番号13は、Tm値が59.5℃であり、鎖長が20塩基となっている。一方で、比較例11で用いた配列番号15のTm値は57.2℃で、鎖長が18塩基となり、好ましいTm値および鎖長の範囲の下限域であるため、第2のプライマーの長さは、20塩基を含むことが好ましいと考えられる。
(実施例10~16、比較例12)
マクロライド耐性変異識別の確認
ここで、
図6は、本発明の実施例10における温度変化を示すグラフ、
図7は、
図6の一部拡大図である。
<材料及び方法>
実施例10~16、比較例12におけるPCR法に用いたオリゴヌクレオチドは、(表11)に示す通りである。
【0102】
【0103】
<PCR反応液組成>
PCR反応液組成は、実施例1と同様の要領で調製する。
【0104】
<PCR反応条件>
PCRおよび蛍光測定には株式会社ミズホメディーより発売されている全自動遺伝子解析装置Smart Gene(日本国登録商標)を使用する。蛍光測定時の励起波長と蛍光波長は中心波長525nmに設定する。なお、蛍光測定時の励起波長と蛍光波長を中心波長525nmに近しい条件で設定・使用できる汎用PCR装置でも測定は可能である。汎用PCR装置としては、Lightcycler(登録商標) nano(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)等が挙げられる。PCR反応条件を(表12)に示す。なお、ステップ1とステップ2は交互に1サイクルずつ実施し、A・Bに該当する温度を(表13)および(表14)に示す。
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
<核酸試料>
核酸試料は、実施例4および7と同様に、野生型マイコプラズマ・ジェニタリウムの人工合成RNAおよび変異型マイコプラズマ・ジェニタリウムの人工合成RNAを使用する。
<データ解析方法>
QProbeを用いたデータ解析方法は、特許第7221491号に記載されている方法を参考に、得られた生データに対して補正演算値処理を行う。
【0109】
増幅反応の全てのサイクルについて、次の(式3)及び(式3’)による演算を行う。
f1[n]=fhyb.1[n]/fden.1[n]・・・(式3)
f2[n]=fhyb.2[n]/fden.2[n]・・・(式3’)
ここで、
f1[n]:(式3)により算出されたnサイクル目のステップ1における蛍光強度値。
fhyb.1[n]:nサイクル目のステップ1の伸長及び検出ステップにおける蛍光強度値。
fden.1[n]:nサイクル目のステップ1の変性ステップにおける蛍光強度値。
f2[n]:(式3’)により算出されたnサイクル目のステップ2における蛍光強度値。
fhyb.2[n]:nサイクル目のステップ2の伸長及び検出ステップにおける蛍光強度値。
fden.2[n]:nサイクル目のステップ2の変性ステップにおける蛍光強度値
さらに、以下の式による演算を行う。
F1[n]=f1[n]/f1[12]・・・(式4)
F2[n]=f2[n]/f2[12]・・・(式4’)
Fr’[n]=(a-F2[n])/(a-F1[n])・・・(式5)
ここで、
f1[12]:標的核酸が増幅される前の蛍光強度が安定した12サイクル目の蛍光強度値であり、ステップ1の蛍光強度値の変化の基準として用いる。
f2[12]:標的核酸が増幅される前の蛍光強度が安定した12サイクル目の蛍光強度値であり、ステップ2の蛍光強度値の変化の基準として用いる。
F1[n]:12サイクル目の(式4)により得られた蛍光強度値を1とした時のnサイクル目の相対値。
F2[n]:12サイクル目の(式4’)により得られた蛍光強度値を1とした時のnサイクル目の相対値。
a:Fr’が0以下にならないような定数である
Fr’[n]:変異検出のための演算値
【0110】
<マイコプラズマ・ジェニタリウムの判定>
マイコプラズマ・ジェニタリウムの判定は、測定試料のF[23]の値と判定閾値を比較して、[測定試料のF[23]<判定閾値]と成る場合に陽性と、そうでない場合陰性と判定する。判定閾値はマイコプラズマ・ジェニタリウムを含まない陰性試料のF[23]の平均値-標準偏差の5倍(以下、平均-5SD)の値、即ち、「0.9910」を使用する。
【0111】
<変異識別の判定>
変異識別の判定は、測定試料のFr’[23]の値と判定閾値を比較して、[測定試料のFr’[23]<判定閾値]の場合変異ありと、[測定試料のFr’[23]>判定閾値]の場合変異なし判定する。判定閾値は「0.2000」を使用する。なお、(式5)の定数aを「1.00」として演算を行う。
【0112】
<判定方法のフローチャート>
図8は、本発明の実施例10による判定方法を示すフローチャートである。
【0113】
(表15)は、(表13)で示した検出温度で測定した、実施例10~12及び比較例12による、マイコプラズマ・ジェニタリウムの判定結果、相対蛍光値(F[23])および変異判定の演算値(Fr’[23])を示す。
【0114】
実施例10~12のいずれも、野生型マイコプラズマ・ジェニタリウムの人工合成RNAを測定した場合はFr’[23]が判定閾値を下回らず、変異なしと、変異型マイコプラズマ・ジェニタリウムの人工合成RNAを測定した場合はFr’[23]が判定閾値を下回り、変異ありと判定される。
【0115】
比較例12では、野生型マイコプラズマ・ジェニタリウムの人工合成RNAを測定した場合はFr’[23]が判定閾値を下回らず、変異なしと正しく判定されるが、変異型マイコプラズマ・ジェニタリウムの人工合成RNAを測定した場合はFr’[23]が判定閾値を下回らず、変異なしと誤判定される。
【0116】
【0117】
(結果)
(表15)から明らかなように、ステップ2の検出温度Bが66℃の場合において、ステップ1の検出温度Aが50~58℃の場合、正しく変異の識別判定ができることが確認された。
【0118】
(表16)は、(表14)で示した検出温度で測定した実施例13~16のマイコプラズマ・ジェニタリウムの判定結果、相対蛍光値(F[23])および変異判定の演算値(Fr’[23])を示す。
【0119】
実施例13~16のいずれも、野生型マイコプラズマ・ジェニタリウムの人工合成RNAを測定した場合はFr’[23]が判定閾値を下回らず、変異なしと、変異型マイコプラズマ・ジェニタリウムの人工合成RNAを測定した場合はFr’[23]が判定閾値を下回り、変異ありと判定される。
【0120】
【0121】
(結果)
図9は、(表16)の野生型人工合成RNAの各サイクルの相対蛍光値並びに演算値を示すグラフであり、
図10は、(表16)の変異型人工合成RNAの各サイクルの相対蛍光値及び演算値を示すグラフである。野生型マイコプラズマ・ジェニタリウム人工合成RNAでは、最終サイクルの相対蛍光値(F[23])が判定閾値を下回り、かつ変異を判定する演算値(Fr’[23])が判定閾値よりも高値であったため、マイコプラズマ・ジェニタリウム陽性・変異なしと判定された。一方、変異型マイコプラズマ・ジェニタリウム人工合成RNAでは、最終サイクルの相対蛍光値(F[23])が判定閾値を下回り、かつ変異を判定する演算値(Fr’[23])が判定閾値よりも低値であったため、マイコプラズマ・ジェニタリウム陽性・変異ありと判定される。
【0122】
(表16)から明らかなように、ステップ2の検出温度Bが70℃の場合において、ステップ1の検出温度Aが50~60℃の場合、正しく変異の識別判定ができることが確認された。(表15)及び(表16)から明らかなように、ステップ1の検出温度Aが50~58℃でかつ、ステップ2の検出温度Bが66~70℃の場合、マイコプラズマ・ジェニタリウムを検出できるだけでなく、変異の識別判定もできていることが理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【
図1】
図1は、本発明の実施例1における温度変化を示すグラフ。
【
図3】
図3は、本発明の実施例1における判定方法を示すフローチャート。
【
図4】
図4は、マイコプラズマ・ジェニタリウム陰性判定の代表例として実施例1の増幅曲線(F[n])を示すグラフ。
【
図5】
図5は、マイコプラズマ・ジェニタリウム陽性判定の代表例として比較例1の増幅曲線(F[n])を示すグラフ。
【
図6】
図6は、本発明の実施例10の温度変化を示すグラフ。
【
図8】
図8は、本発明の実施例10における判定方法を示すフローチャート。
【
図9】
図9は、(表16)の野生型人工合成RNAの各値を示すグラフ。
【
図10】
図10は、(表16)の変異型人工合成RNAの各値を示すグラフ。