(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025155443
(43)【公開日】2025-10-14
(54)【発明の名称】ターポリン、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 15/568 20060101AFI20251002BHJP
B32B 25/10 20060101ALI20251002BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20251002BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20251002BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20251002BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20251002BHJP
C08G 18/48 20060101ALI20251002BHJP
C08G 18/76 20060101ALI20251002BHJP
C08G 18/32 20060101ALI20251002BHJP
【FI】
D06M15/568
B32B25/10
B32B27/12
B32B27/40
B32B7/027
B32B27/18 Z
C08G18/48
C08G18/76 057
C08G18/32 006
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2024065786
(22)【出願日】2024-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000109037
【氏名又は名称】ダイニック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山中 穂
(72)【発明者】
【氏名】大山 清史
(72)【発明者】
【氏名】染矢 伸一
【テーマコード(参考)】
4F100
4J034
4L033
【Fターム(参考)】
4F100AK41A
4F100AK51B
4F100AL09B
4F100BA02
4F100BA10A
4F100CA06B
4F100CA19B
4F100DG04A
4F100DG12A
4F100GB07
4F100GB72
4F100GB74
4F100JB16B
4F100JC00B
4F100JK02B
4F100JK08B
4F100YY00B
4J034BA08
4J034CA04
4J034DA01
4J034DB04
4J034DG02
4J034DG03
4J034DG04
4J034DG06
4J034EA18
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC03
4J034HC12
4J034HC17
4J034HC61
4J034HC64
4J034RA03
4J034RA05
4J034RA06
4J034RA10
4L033AB04
4L033AC03
4L033CA51
(57)【要約】 (修正有)
【課題】環境負荷低減効果を有しつつ成形加工性や各種性能も維持する、植物由来原料を使用したエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーを樹脂層に用いたターポリンを提供する。
【解決手段】基布2の少なくとも一方の面側に樹脂層3が設けられたターポリン1であって、前記樹脂層3が、ポリエーテルポリオール成分とジイソシアネート成分と鎖延長剤成分との反応物からなるエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーを主成分として含有する樹脂層組成物からなり、前記ポリエーテルポリオール成分の主成分として植物由来の長鎖ポリエーテルジオールを使用し、高化式フローテスタによる昇温法で、昇温速度3.0℃/分、荷重294.2N、ダイの内孔の直径1.0mm、ダイの内孔の長さ2.0mmの条件で測定した前記樹脂層組成物の流出開始温度が90.0℃以上200.0℃以下の範囲であるターポリン1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布の少なくとも一方の面側に樹脂層が設けられたターポリンであって、
前記樹脂層が、ポリエーテルポリオール成分とジイソシアネート成分と鎖延長剤成分との反応物からなるエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーを主成分として含有する樹脂層組成物からなり、
前記ポリエーテルポリオール成分の主成分として植物由来の長鎖ポリエーテルジオールを使用し、
高化式フローテスタによる昇温法で、昇温速度3.0℃/分、荷重294.2N、ダイの内孔の直径1.0mm、ダイの内孔の長さ2.0mmの条件で測定した前記樹脂層組成物の流出開始温度が90.0℃以上200.0℃以下の範囲であるターポリン。
【請求項2】
前記植物由来の長鎖ポリエーテルジオールが、植物由来のポリトリメチレンエーテルグリコールである請求項1に記載のターポリン。
【請求項3】
前記樹脂層組成物が、樹脂成分100.00質量部に対して、滑剤成分を0.05質量部以上3.00質量部以下の範囲、酸化防止剤成分を0.05質量部以上1.00質量部以下の範囲、の質量比でそれぞれ含有する請求項2に記載のターポリン。
【請求項4】
前記エーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマー中の植物由来のポリトリメチレンエーテルグリコールの含有率が40.0質量%以上75.0質量%以下の範囲である請求項3に記載のターポリン。
【請求項5】
前記ジイソシアネート成分の主成分としてジフェニルメタンジイソシアネートを使用する請求項1~4のいずれかに記載のターポリン。
【請求項6】
前記鎖延長剤成分の主成分として1,4-ブタンジオールを使用する請求項1~4のいずれかに記載のターポリン
【請求項7】
高化式フローテスタによる昇温法で、昇温速度3.0℃/分、荷重294.2N、ダイの内孔の直径1.0mm、ダイの内孔の長さ2.0mmの条件で測定した前記エーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーの流出開始温度が90.0℃以上200.0℃以下の範囲である請求項1~4のいずれかに記載のターポリン。
【請求項8】
前記樹脂層組成物の引張強さが10MPa以上の範囲で且つ伸びが300%以上の範囲である請求項1~4のいずれかに記載のターポリン。
【請求項9】
前記エーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーのバイオベース質量含率が40.0%以上の範囲である請求項1~4に記載のターポリン。
【請求項10】
前記樹脂層の厚みが130μm以上600μm以下の範囲である請求項1~4のいずれかに記載のターポリン。
【請求項11】
基布の少なくとも一方の面側に、樹脂層組成物からカレンダーラミネート法によって樹脂層を形成する工程を有したターポリンの製造方法であって、
前記樹脂層が、ポリエーテルポリオール成分とジイソシアネート成分と鎖延長剤成分との反応物からなるエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーを主成分として含有する樹脂層組成物からなり、
前記ポリエーテルポリオール成分の主成分として植物由来の長鎖ポリエーテルジオールを使用し、
高化式フローテスタによる昇温法で、昇温速度3.0℃/分、荷重294.2N、ダイの内孔の直径1.0mm、ダイの内孔の長さ2.0mmの条件で測定した前記樹脂層組成物の流出開始温度が90.0℃以上200.0℃以下の範囲であるターポリンの製造方法。
【請求項12】
前記植物由来の長鎖ポリエーテルジオールが、植物由来のポリトリメチレンエーテルグリコールである請求項11に記載のターポリンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来原料を使用した熱可塑性ポリウレタンエラストマーを樹脂層に用いたターポリンと、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
織編物からなる基布に樹脂層を積層させたターポリンは、防水性や耐久性に優れており、フレキシブルコンテナ、テント、構造物の膜屋根、間仕切りシート、垂れ幕、養生シートなどの各種産業用資材や建築土木用資材に用いられたり、雨具、防水衣料、鞄、靴などの一般消費材等に用いられたりするなど幅広い用途で従来から用いられている。
【0003】
ターポリンの樹脂層に使用する樹脂成分としては、安価で柔軟性や耐候性に優れた軟質塩化ビニル樹脂が主に用いられているが、軟質塩化ビニル樹脂には多量の可塑剤が含まれている為に、廃棄や焼却処理に伴う環境汚染の問題や、可塑剤の移行による問題や、人体への影響の懸念がある事などから、その様な問題や懸念が発生する恐れの少ない樹脂成分を樹脂層に使用したターポリンが求められている。
【0004】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、上述したような可塑剤の使用による各種懸念や問題が発生する恐れがなく、さらに耐寒性や柔軟性や機械的強度等に優れているエラストマーであり、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを樹脂層の樹脂成分として用いたポリウレタン加工布が提案されている(特許文献1)。
【0005】
一方で、地球温暖化対策の為の大気中への二酸化炭素排出量の抑制を目的としたカーボンニュートラルの観点から、近年バイオマスの活用が再び注目されており、製品に使用されている従来の石油由来原料の一部もしくは全てを植物などのバイオマスから作製された原料である植物由来原料に置き換える取り組みが検討されている。
【0006】
このような流れの中で、防水布帛に用いられる各種原料に関しても、従来の石油由来原料から植物由来原料への置き換えが検討されているが(特許文献2)、不用意に石油由来原料から植物由来原料への置き換えを行うと、防水布帛の各種性能が悪化したり、予期しない不具合が発生したりする恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2-270520号公報
【特許文献2】国際公開第2011/105595号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこの様な状況に鑑みてなされたものであり、植物由来原料を使用したエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーを樹脂層に用いたターポリンであって、石油由来原料のみを使用したエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーを樹脂層に用いたターポリンと比較して、成形加工性や各種性能が同等又は同等以上であって、さらに環境負荷低減効果を有したターポリンを提供する事が本発明の主たる課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者が上記課題について検討を行った結果、基布の少なくとも一方の面側に樹脂層を設け、前記樹脂層が、ポリエーテルポリオール成分とジイソシアネート成分と鎖延長剤成分との反応物からなるエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーを主成分として含有する樹脂層組成物からなり、さらに前記ポリエーテルポリオール成分の主成分として植物由来の長鎖ポリエーテルジオールを使用し、さらに高化式フローテスタによる昇温法で、昇温速度3.0℃/分、荷重294.2N、ダイの内孔の直径1.0mm、ダイの内孔の長さ2.0mmの条件で測定した前記樹脂層組成物の流出開始温度が90.0℃以上200.0℃以下の範囲であるようなターポリンを用いれば、石油由来原料のみを使用したエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーを樹脂層に用いた従来のターポリンと比較して、成形加工性や各種性能が同等又は同等以上であって、さらに環境負荷低減効果を有したターポリンが得られる事が分かった。前記植物由来の長鎖ポリエーテルジオールとしては、植物由来のポリトリメチレンエーテルグリコールを使用する事がより好ましい。
【0010】
また、本発明のターポリンは、基布の少なくとも一方の面側に、上述した特徴を有する樹脂層組成物からカレンダーラミネート法によって樹脂層を形成する工程を有した製造方法によって作製する事が好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のターポリンを用いれば、石油由来原料のみを使用したエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーを樹脂層に用いた従来のターポリンと比較して成形加工性や各種性能が同等となるだけでなく、石油由来原料のみを使用した前記従来のターポリンと比較して、大気中の二酸化炭素を吸収し固定化した植物由来の原料を使用しているために、カーボンニュートラルの観点から実質的に大気中に放出する二酸化炭素の排出量を削減する事が出来るので、地球温暖化対策の為の二酸化炭素排出量の抑制に貢献し、環境負荷を低減する事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のターポリンの実施形態の一例を示す模式的断面図。
【
図2】本発明のターポリンの実施形態の一例を示す模式的断面図。
【
図3】本発明のターポリンの実施形態の一例を示す模式的断面図。
【
図4】ウェルダー剥離強さの測定に用いられる試験片を示す模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明におけるターポリン及び各構成体の詳細を下記に示す。
【0014】
<<ターポリン>>
本発明のターポリン1は、
図1に示すように、繊維織編物等からなる基布2と、基布2の少なくとも一方の面側に積層するように設けられた樹脂層3とを少なくとも有する基本構造を有し、
図2に示すように、基布2の両面にそれぞれ樹脂層(3a,3b)を設けていてもよい。また
図3に示すように、基布2と樹脂層3の間に必要に応じて接着剤層4を設けてもよいし、その他として樹脂層3の基布2側の面と反対側の面側に、印刷層や、保護層などの各種機能付与層を設けてもよい。
【0015】
本発明のターポリンの厚みは、用途や要求品質に応じて任意に決定されればよく、特に限定はされないが、230μm以上2000μm以下の範囲であることが好ましく、300μm超1000μm以下の範囲であることがより好ましい。
【0016】
<<基布>>
本発明のターポリンの基布としては、従来この用途に使用されている繊維織編物であれば組織や構造は特に限定されず、平織、綾織、朱子織等の織物、及び各種編物等が使用可能である。また基布の素材に関しては、綿や麻などの各種天然繊維や、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリルニトリル樹脂等の合成繊維などからなるスパン糸、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸、混紡糸、芯鞘糸等が使用可能である。一般的なターポリンに使用される基布としては、縦横方向の強度や伸縮性のバランスや寸法安定性やコストの観点から平織物を使用する事が好ましく、また基布に使用する繊維の材質や糸の構造は特に限定されないが、基布の耐熱性や強度やコストの観点や、ターポリンにした時の柔軟性や強度や樹脂層との密着性の観点などからポリエステルのマルチフィラメント糸を使用する事が好ましい。
【0017】
基布に用いられる糸の太さは、ターポリンの強度や柔軟性を考慮して適宜任意に選定を行えばよいが、例えば基布としてポリエステルのマルチフィラメント糸を使用した平織物を使用する場合には、200dtex以上1500dtex以下の範囲の太さの糸を、より好ましくは500dtex以上1000dtex以下の範囲の太さの糸を使用し、さらに経糸と緯糸のそれぞれの密度が、10本/inch以上35本/inch以下の範囲、より好ましくは15本/inch以上30本/inch以下の範囲の密度となるように織り上げた平織物を使用する事が好ましい。また基布の厚みは、適宜任意に選定を行えばよく特に限定はされないが、ターポリンの強度や柔軟性や耐久性やコストを考慮して100μm以上1000μm以下の範囲の厚みの基布を使用する事が好ましい。なお、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて基布を構成する繊維の原料として植物由来の原料を使用しても構わない。
【0018】
<<樹脂層>>
本発明のターポリンの樹脂層は、
図1~
図3に示されるように、基布の少なくとも一方の面側に、基布の全面を被覆するように積層されて設けられた層の事である。本発明のターポリンの樹脂層は、後述する樹脂層組成物を、混錬押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、加圧ニーダー等の各種公知の混錬装置によって溶融混錬して調整した物を、カレンダーロールやTダイ押し出し機等の方法によってシート状に成形加工し、前記シート状の樹脂層組成物を基布に積層して各種方法によってラミネートする事によって形成される事が好ましい。
【0019】
基布の一方の面に、カレンダーロール等によって成形加工されたシート状の樹脂層組成物を積層してラミネートする方法としては、
図1に示されるターポリンのように、シート状の樹脂層組成物を基布に直接積層させ、前記積層体を何らかの方法で加熱した上でニップロールなどによって圧着してラミネートする熱ラミネート法や、
図3に示されるターポリンのように、予め基布に接着剤を塗布及び乾燥して接着層を設け、基布の接着層を設けた面側にシート状の樹脂層組成物を積層させ、ニップロールなどで圧着させてラミネートするドライラミネート法などの接着剤を用いたラミネート方法などがあるが特に限定されない。
【0020】
本発明のターポリンの樹脂層の形成方法については特に限定はされないが、本発明のターポリンのように樹脂層組成物の主成分としてエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーを使用する場合には、まず溶融混錬した樹脂層組成物をカレンダーロールによってシート状に成形加工し、その後基布に前記シート状の樹脂層組成物を積層した後にそれらをラミネートする事によってターポリンの樹脂層を形成する方法であるカレンダーラミネート法を用いる事が特に好ましい。カレンダーラミネート法によってターポリンの樹脂層を形成する事により、均一な膜厚制御が容易で成形加工性に優れている為にターポリンの生産性を向上する事が可能で、さらに各種機械的強度と気密性に優れた無孔膜からなる樹脂層を有したターポリンを得る事が可能となる。
【0021】
樹脂層の厚みは、ターポリンの用途や要求品質に応じて適宜任意に決めればよいが、ターポリンの強度や柔軟性や耐久性やコストを考慮して、130μm以上600μm以下の範囲である事が好ましく、200μm超500μm以下の範囲である事がより好ましい。基布の両面に設けられたそれぞれの樹脂層の厚みは、厚みが同じでも異なっていてもよい。なお必要に応じて樹脂層を基布上に形成した後に、エンボスロールによるエンボス加工や、コロナ処理などの表面処理等を行ってもよい。
【0022】
<樹脂層組成物>
上述したように、本発明のターポリンの樹脂層は、溶融混錬した樹脂層組成物をカレンダーロール等によって膜厚を調整してシート状に成形加工し、基布の少なくとも一方の面に積層された後に基布とラミネートされて形成される。その為、樹脂層組成物の溶融粘度の特性は、すなわち本発明のターポリンの樹脂層の成形加工性(溶融混錬のし易さや、樹脂層の均一な膜厚制御のし易さ等)や生産性に影響を大きく及ぼす。従って、本発明のターポリンの樹脂層を形成する為に使用される樹脂層組成物に関しては、高化式フローテスタを用いた昇温法で、昇温速度3.0℃/分、荷重294.2N、ダイの内孔の直径1.0mm、ダイの内孔の長さ2.0mmの条件で測定した際の、樹脂層組成物の流出開始温度が90.0℃以上200.0℃以下の範囲である物を使用することが好ましく、120.0℃以上170.0℃以下の範囲である物を使用する事がより好ましい。樹脂層組成物の流出開始温度が前記範囲内であれば、溶融混錬がし易く、カレンダーロール等によって不具合が少なく均一な膜厚のシート状に成形加工する事が容易となり、結果的にターポリンの生産性も良好となる。樹脂層組成物の流出開始温度が前記範囲の下限値を下回ると、樹脂層組成物の溶融粘度が低くなり過ぎる事や樹脂層組成物の軟化温度が低すぎる事が原因で、均一な膜厚のシートに成形加工する事が難しくなったり、成形加工後のシートがガイドロールに貼りつきやすくなったり、破断し易くなったりするなどの不具合が発生し易くなる傾向があり、逆に樹脂層組成物の流出開始温度が前記範囲の上限を超えると、樹脂層組成物の溶融粘度が高くなり過ぎる事や樹脂層組成物の軟化温度が高すぎる事が原因で、樹脂層組成物の溶融混錬に時間がかかり過ぎたり、樹脂層組成物をシート状に成形加工する際に均一な膜厚のシートに成形加工する事が難しくなったりするなどの不具合が発生し易くなる傾向があり、いずれの場合においてもターポリンの成形加工性や生産性に悪影響を及ぼす。また性能面から検討した場合においても、流出開始温度が前記範囲を下回るような樹脂層組成物を使用したターポリンは耐熱性や各種機械的強度が乏しくなる傾向があり、逆に流出開始温度が前記範囲を超えるような樹脂層組成物を使用したターポリンは柔軟性に乏しくなるといった傾向がある。
【0023】
なお本発明における高化式フローテスタとは、JIS K7210-1(2014)に記載の押出形プラストメータと構造が同じキャピラリーレオメーターの一種であり、一定荷重で試験温度を昇温させながら試料のフローレートを連続的に測定する(昇温法)事が出来るという特徴を有している。本発明において、フローレートの測定する為の高化式フローテスタとしては「CFT-500D((株)島津製作所製)」を使用した。また本発明における「流出開始温度」とは、高架式フローテスタを使用した昇温法による測定において、シリンダ内の測定試料の熱膨張によるピストンの僅かな上昇が行われた後に、再びピストンが明らかに降下し始める温度の事を指し、具体的には流出開始温度以上になると測定試料が高化式フローテスタのダイの出口より流出し始める。
【0024】
本発明のターポリンの樹脂層を形成する為の樹脂層組成物の引張強さは、10MPa以上の範囲であることが好ましく、20MPa以上の範囲であることがより好ましい。樹脂層組成物の引張強さが前記範囲内であれば、ターポリンの樹脂層の引張に対する機械的強度が充分となる。また樹脂層組成物の伸びは300%以上の範囲であることが好ましい。樹脂層組成物の伸びが前記範囲内であれば、ターポリンを折り曲げた時などの樹脂層の曲げ歪に対する強度が充分となる。前記樹脂層組成物の引張強さと伸びの測定は、JIS K7311(1995)に記載の方法によって測定を行った。
【0025】
本発明のターポリンの樹脂層を形成する為の樹脂層組成物は、有機高分子からなる各種熱可塑性樹脂や各種熱可塑性エラストマー等からなる樹脂成分として、ポリエーテルポリオール成分とジイソシアネート成分と鎖延長剤成分との反応物からなるエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーであって、前記ポリエーテルポリオール成分の主成分として植物由来の長鎖ポリエーテルジオールを使用したエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーを主成分として少なくとも含有している。本発明の樹脂層組成物は、少なくとも前記エーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマー等の樹脂成分を主成分として含有するが、その他の含有成分として、溶融混錬時や成形加工時の熱による樹脂成分の酸化を防止するための各種酸化防止剤成分や、成形加工時の樹脂層組成物の溶融粘度や粘着性を調整し成形加工性を向上させる為の各種滑剤成分などが添加されている事が好ましい。またターポリンの樹脂層を着色する場合には顔料等の各種着色剤成分を添加してもよい。またターポリンの用途や要求品質に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、紫外線吸収剤、紫外線反射剤、光安定剤、熱安定剤、帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、抗ウイルス剤や、その他有機・無機のフィラー等の各種添加剤をさらに添加してもよい。
【0026】
次に樹脂層組成物を構成する各種成分や、各種成分を構成する原料の詳細について説明する。
【0027】
<樹脂成分>
本発明のターポリンの樹脂層を形成する為の樹脂層組成物は、有機高分子からなる各種熱可塑性樹脂や各種熱可塑性エラストマー等からなる樹脂成分を主成分として少なくとも含有しているが、樹脂層組成物中の樹脂成分の含有率は、ターポリンの各種機械的強度や各種性能に与える影響を考慮して、樹脂層組成物全体の80.0質量%以上の範囲である事が好ましく、90.0質量%以上の範囲であることがより好ましく、100.0質量%であってもよい。
【0028】
樹脂層組成物の樹脂成分としては、ポリエーテルポリオール成分の主成分として植物由来の長鎖ポリエーテルジオールを使用したエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーを少なくとも主成分として含有しているが、少なくとも樹脂成分中の前記エーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーの含有率は90.0質量%以上の範囲であることが好ましく、95.0質量%以上の範囲である事がより好ましく、樹脂成分が前記エーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーのみから構成される事が最も好ましい。樹脂成分は必要に応じてさらにその他の各種公知の熱可塑性樹脂や他の熱可塑性エラストマーを本発明の効果を損なわない範囲で少量含有させても構わないが、樹脂成分全体の少なくとも10.0質量%以下の範囲である事が好ましく、5.0質量%以下の範囲である事がより好ましい。
【0029】
<エーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマー>
熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、熱可塑性プラスチックとゴムとの両方の性質を有するポリウレタン系高分子であり、熱を加えると柔らかくなり、つまりは熱可塑性を示すので成形加工が可能となり、冷やして常温に戻すとゴムのように弾性を示す。一般的に熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、ポリマーポリオール成分と、ジイソシアネート成分と、鎖延長剤成分との反応物からなる線状高分子であり、その分子構造内にポリマーポリオール成分とジイソシアネート成分とを主として構成されるソフトセグメントと、ジイソシアネート成分と鎖延長剤成分とを主として構成されるハードセグメントとを有している事を特徴としている。本発明のターポリンの樹脂層を形成する為の樹脂層組成物の主成分として好適に使用できる「ポリエーテルポリオール成分の主成分として植物由来の長鎖ポリエーテルジオールを使用したエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマー」とは、前述した熱可塑性ポリウレタンエラストマーのポリマーポリオール成分として、ポリエーテルポリオールから構成されたポリエーテルポリオール成分のみを用いたエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーの事であって、さらにポリエーテルポリオール成分の主成分として植物由来の長鎖ポリエーテルジオールを使用した事を特徴とするエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーの事である。
【0030】
本発明のターポリンの樹脂層を形成する為の樹脂層組成物は、少なくともポリエーテルポリオール成分の主成分として植物由来の長鎖ポリエーテルジオールを使用したエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーを主成分として含有しているが、樹脂層組成分中の前記エーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーの含有率は、80質量%以上の範囲である事が好ましく、90.0質量%以上の範囲であることがより好ましく、100.0質量%であってもよい。
【0031】
本発明のターポリンの樹脂層を形成する為の樹脂層組成物は、ポリエーテルポリオール成分の主成分として植物由来の長鎖ポリエーテルジオールを使用したエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーを主成分として含有する為に、前記エーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーの溶融粘度の特性は、樹脂層組成物の溶融粘度の特性に大きく影響を与える。従って、本発明において好適に使用できる前記エーテル系熱可塑性エラストマーとしては、高化式フローテスタを用いた昇温法で、昇温速度3.0℃/分、荷重294.2N、ダイの内孔の直径1.0mm、ダイの内孔の長さ2.0mmの条件で測定した際の、前記エーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーの流出開始温度が90.0℃以上200.0℃以下の範囲である物を使用することが好ましく、120.0℃以上170.0℃以下の範囲である物を使用する事がより好ましい。
【0032】
なお、本発明の樹脂層に好適に用いられる前記ポリエーテルポリオール成分の主成分として植物由来の長鎖ポリエーテルジオールを使用したエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーのガラス転移温度は、-30.0℃以下の範囲である事が好ましく、-40.0℃以下の範囲であることがより好ましい。前記エーテル系熱可塑性ポリウレタンのガラス転移温度が前記範囲内であれば、柔軟性と耐寒性に優れたターポリンを得る事が可能となる。なおガラス転移温度の測定は示差走査熱量計(DSC法)によって測定した。
【0033】
(ポリエーテルポリオール成分)
本発明のターポリンの樹脂層を形成する為の樹脂層組成物の主成分に使用されるエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーとは、熱可塑性ポリウレタンエラストマーのソフトセグメントを構成する為のポリマーポリオール成分として、ポリエーテルポリオールから構成されたポリエーテルポリオール成分のみを使用したエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーであり、前記ポリエーテルポリオール成分は、数平均分子量(Mn)が数百~数千程度の長鎖ポリエーテルジオールを少なくとも主成分として含有し、さらに前記長鎖ポリエーテルジオールのみから構成されている事がより好ましい。本発明において好適に使用する事が出来る長鎖ポリエーテルジオールとしては、アルキレンエーテルの繰り返し単位を構造内に有した線状高分子であるポリアルキレンエーテルグリコールを使用する事が好ましく、具体的にはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール等が挙げられ、前記各種長鎖ポリエーテルジオールの群から選択される1種類以上の長鎖ポリエーテルジオールを使用する事が出来る。
【0034】
一方で、本発明の課題を達成する為には、植物由来原料を使用した熱可塑性ポリウレタンエラストマーをターポリンの樹脂層を形成する為の樹脂層組成物に用いなければならないが、熱可塑性ポリウレタンエラストマーに使用されている石油由来原料を不用意に植物由来原料に置き換えると、ターポリンの各種性能が悪化したり、予期しない不具合が発生したりする事があった。そこで本発明者が鋭意検討した結果、ターポリンの樹脂層を形成する為の樹脂層組成物に用いる熱可塑性ポリウレタンエラストマーのポリマーポリオール成分として、ポリエーテルポリオール成分のみを使用し、そのポリエーテルポリオール成分に植物由来の長鎖ポリエーテルジオールを主成分として含有させる事によって、前述したようなターポリンの各種性能の悪化や不具合の発生を抑制する事が可能である事を見出した。
【0035】
本発明のターポリンの樹脂層を形成する為の樹脂層組成物に用いるエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーのポリエーテルポリオール成分の主成分として好適に使用可能な植物由来の長鎖ポリエーテルジオールとしては、例えば植物由来のポリエチレングリコール、植物由来のポリプロピレングリコール、植物由来のポリトリメチレンエーテルグリコール、植物由来のポリテトラメチレンエーテルグリコール、植物由来のポリヘキサメチレンエーテルグリコール等が挙げられ、前記各種植物由来の長鎖ポリエーテルジオールの群から選択される1種以上の植物由来の長鎖ポリエーテルジオールを使用する事が出来る。前述したような各種植物由来の長鎖ポリエーテルジオールは、サトウキビやトウモロコシなどのバイオマスに対して微生物による発酵処理や各種化学反応処理等を行うことにより、植物由来のエチレングリコール、植物由来の1,2-プロパンジオール、植物由来の1,3-プロパンジオール、植物由来の1,4-ブタンジオール、植物由来の1,6-ヘキサンジオール、もしくは前記各種植物由来のグリコールの誘導体などからなるモノマーをまず作製し、その後に前記モノマーに対して必要に応じて各種化学反応処理等を行うなどした後に、それらを重合させる事によって得られる100%植物由来原料からなる長鎖ポリエーテルジオールである。本発明のターポリンの樹脂層を形成する為の樹脂層組成物に用いるエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーのポリエーテルポリオール成分は、主成分として前述したような各種植物由来の長鎖ポリエーテルジオールを使用する事が好ましいが、ポリエーテルポリオール成分中の植物由来の長鎖ポリエーテルジオールの含有率は80質量%以上の範囲であることがより好ましく、90質量%以上の範囲であることがさらに好ましく、100質量%全てが植物由来の長鎖ポリエーテルジオールであってもよい。なお前記ポリエーテルポリオール成分が含有する植物由来の長鎖ポリエーテルジオール以外のポリエーテルポリオール成分としては、石油由来の各種長鎖ポリエーテルジオールを使用する事が好ましい。
【0036】
更に発明者が検討を重ねた結果、植物由来の長鎖ポリエーテルジオールのうち、トウモロコシなどの植物の澱粉を微生物によって発酵させて作製した植物由来の1,3-プロパンジオールを縮合重合させて作製した植物由来のポリトリメチレンエーテルグリコールを、本発明のターポリンの樹脂層を形成する為の樹脂層組成物に用いるエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーのポリエーテルポリオール成分の主成分として使用する事によって、前述したような予期しない不具合が発生しないだけでなく、石油由来原料のみを使用したエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーを樹脂層に用いたターポリンと比較して、成形加工性や各種性能がより向上する傾向がある事を見出した。
【0037】
本発明のターポリンの樹脂層を形成する為の樹脂層組成物に用いるエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーのポリエーテルポリオール成分の主成分として、植物由来のポリトリメチレンエーテルグリコールを使用する場合には、ポリエーテルポリオール成分中の植物由来のポリトリメチレンエーテルグリコールの含有率は80質量%以上の範囲であることがより好ましく、90質量%以上の範囲であることがさらに好ましく、100質量%全てが植物由来のポリトリメチレンエーテルグリコールであってもよい。なお前記ポリエーテルポリオール成分が含有する植物由来のポリトリメチレンエーテルグリコール以外のポリエーテルポリオール成分としては、植物由来のポリトリメチレンエーテルグリコール以外の前述した各種植物由来の長鎖ポリエーテルジオールや、石油由来の各種長鎖ポリエーテルジオールを使用する事が好ましい。なお本発明のターポリンの樹脂層を形成する為の樹脂層組成物に用いるエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーのポリエーテルポリオール成分の主成分として使用される植物由来のポリトリメチレンエーテルグリコールの数平均分子量は特に限定はされないが、数平均分子量1000以上3000以下の物を使用する事が好ましい。
【0038】
本発明のターポリンの樹脂層を形成する為の樹脂層組成物に用いるエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマー中のポリエーテルポリオール成分の含有率は、40.0質量%以上75.0質量%以下の範囲であることが好ましく、50.0質量%以上65.0質量%以下の範囲であることがより好ましい。エーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマー中のポリエーテルポリオール成分の含有率が前記範囲の下限値を下回ると、ソフトセグメントの割合が少なくなる事が原因で、エーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーの流出開始温度が高くなり過ぎて樹脂層組成物の成形加工性が悪化したり、エーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーが硬くなり過ぎてターポリンの柔軟性が失われたりする不具合が発生し易くなり、逆にエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマー中のポリエーテルポリオール成分の含有率が前記範囲の上限値を上回ると、ソフトセグメントの割合が多くなり過ぎる事が原因で、エーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーの流出開始温度が低くなり過ぎて樹脂層組成物の成形加工性が悪化したり、ターポリンの耐熱性や各種機械的強度が乏しくなったりする不具合が発生し易くなる。
【0039】
本発明のターポリンの樹脂層を形成する為の樹脂層組成物に用いるエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマー中の植物由来の長鎖ポリエーテルジオールの含有率の下限値は、少なくとも20.0質量%以上の範囲であることが必要であり、40.0質量%以上の範囲であることが好ましく、50.0質量%以上の範囲である事がより好ましい。逆に前記エーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマー中の植物由来の長鎖ポリエーテルジオールの含有率の上限値は、上述したポリエーテルポリオール成分の上限値と同じで、75.0質量%以下の範囲であることが好ましく、65.0質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0040】
なお、本発明のターポリンの樹脂層を形成する為の樹脂層組成物に用いるエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーのポリエーテルポリオール成分の主成分として植物由来のポリトリメチレンエーテルグリコールを使用する場合には、上述した植物由来の長鎖ポリエーテルジオールと同様に、前記エーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマー中の植物由来のポリトリメチレンエーテルグリコールの含有率は、少なくとも20.0質量%以上の範囲であることが必要であり、40.0質量%以上75.0質量%以下の範囲であることが好ましく、50.0質量%以上65.0質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0041】
(ジイソシアネート成分)
本発明のターポリンの樹脂層を形成する為の樹脂層組成物に用いられるエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーの原料の1つであるジイソシアネート成分は、分子構造中に2つのイソシアネート基を有する有機化合物の事であり、他の原料であるポリエーテルポリオール成分や鎖延長剤成分とそれぞれ反応して重合する事によってエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーの分子鎖を生成する。本発明で用いられる前記エーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーのジイソシアネート成分は特に限定はされず、例えば、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,5-ペンタンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(略称:HDI)等の各種脂肪族イソシアネートや、イソホロンジイソシアネート(略称:IPDI)、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(略称:H12MDI)等の各種脂環族ジイソシアネートや、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネートや2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートや4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートなどからなるジフェニルメタンジイソシアネート(略称:MDI)、2,4-トリレンジイソシアネートや2,6-トリレンジイソシアネートなどからなるトリレンジイソシアネート(略称:TDI)、m-キシリレンジイソシアネート(略称:XDI)等の各種芳香族ジイソシアネートといった各種公知のジイソシアネートの群から選択される1種以上のジイソシアネートをジイソシアネート成分として使用する事ができるが、特にジフェニルメタンジイソシアネートをジイソシアネート成分の主成分として使用する事が好ましく、ジフェニルメタンジイソシアネートのみをジイソシアネート成分として使用する事がより好ましい。なおジイソシアネート成分には、石油由来のジイソシアネートを使用してもよいし、植物由来のジイソシアネートを使用してもよいが、石油由来のジイソシアネートを使用する事がより好ましい。
【0042】
(鎖延長剤成分)
本発明のターポリンの樹脂層を形成する為の樹脂層組成物に用いられるエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーの原料の1つである鎖延長剤成分としては、主に直鎖状アルカンジオールからなる事が好ましく、必要に応じて主成分である直鎖状アルカンジオールに加えて分岐状アルカンジオールや環状アルカンジオールを併用してもよいが、直鎖状アルカンジオールのみからなる事が最も好ましい。本発明の鎖延長剤として好適に使用できる直鎖状アルカンジオールとしては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、及び1,12-ドデカンジオールなどが挙げられ、前記各種直鎖状アルカンジオールの群から選択される1種以上の直鎖状アルカンジオールを本発明の鎖延長剤成分として使用する事ができるが、特に1,4-ブタンジオールを鎖延長剤成分の主成分として使用する事が好ましく、1,4-ブタンジオールのみを鎖延長剤成分として使用する事がより好ましい。なお鎖延長剤成分には、石油由来のアルカンジオールを使用してもよいし、植物由来のアルカンジオールを使用してもよいが、石油由来のアルカンジオールを使用する事がより好ましい。
【0043】
<滑剤成分>
本発明のターポリンの樹脂層を形成する為の樹脂層組成物中には、樹脂層組成物の溶融粘度を調整したり、カレンダーロール等に対する樹脂層組成物の離形性を向上させたりすることによって、溶融混錬のし易さや樹脂層組成物の成形加工のし易さを向上させる事を目的として、滑剤成分をさらに添加する事が好ましい。本発明で使用する滑剤成分としては、特に限定されず各種公知の滑剤を使用する事ができ、具体的には、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、マイクロクリスタリンワックス等の各種炭化水素系ワックスや、オレイン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸や、オレイン酸エステル、ステアリン酸エステル、モンタン酸エステル等の各種脂肪酸エステル、ステアリン酸モノグリセリド等の各種グリセリン脂肪酸エステル、ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド等の各種脂肪酸アミドや、ステアリン酸亜鉛やステアリン酸カルシウム等の各種金属石鹸などが挙げられ、前記各種公知の滑剤の群から選択される1種以上の滑剤を好適に使用する事が出来る。
【0044】
本発明の樹脂層組成物中の滑剤成分の含有量は、樹脂層組成物中の樹脂成分100.00質量部に対して、0.05質量部以上3.00質量部以下の範囲の質量比で含有している事が好ましく、0.10質量部以上2.00質量部以下の範囲の質量比で含有している事がより好ましい。樹脂層組成物中の滑剤成分の含有量が前記範囲内であれば、樹脂層組成物の成形加工性が良好となる。
【0045】
<酸化防止剤成分>
本発明のターポリンの樹脂層を形成する為の樹脂層組成物には、樹脂層組成物の主に樹脂成分の成形加工時の熱による酸化劣化を抑制する事を目的として、酸化防止剤成分をさらに添加する事が好ましい。本発明で使用する酸化防止剤成分としては、特に限定されず各種公知の酸化防止剤を使用する事ができ、具体的には、フェノール系酸化防止剤やホスファイト系酸化防止剤などを好適に用いる事が出来る。
【0046】
本発明の樹脂層組成物中の酸化防止剤成分の含有量は、樹脂層組成物中の樹脂成分100.00質量部に対して、0.05質量部以上1.00質量部以下の範囲の質量比で含有している事が好ましく、0.10質量部以上0.50質量部以下の範囲の質量比で含有している事がより好ましい。樹脂層組成物中の酸化防止剤成分の含有量が前記範囲内であれば、樹脂層組成物の成形加工時における熱による酸化劣化を充分に抑制する事が可能となる。
【0047】
<<接着剤層>>
本発明のターポリンは、必要に応じて、基布と樹脂層の間に接着剤層を設けてもよい。特に樹脂層を基布の片面側にしか設けない場合においては、樹脂層を基布の両面に設けた場合と比較して基布と樹脂層との間の接着力が不足する場合があるので、用途や要求品質に応じて各種接着剤を選択して接着剤層を設ける事が好ましい。接着剤種類やラミネート方法としては特に限定されず、ドライラミネート用の接着剤、ウェットラミネート用の接着剤、ホットメルトラミネート用の接着剤等の接着剤を使用する事が出来る。また、接着剤は架橋剤成分が含まれていても含まれていなくてもよいが、基布と樹脂層の間の接着性を向上させるために架橋剤成分を含んでいる事が好ましい。接着剤の主剤の組成は特に限定されず、基布と樹脂層の組み合わせに応じて選択して接着剤の主剤の組成種類を選定すればよいが、ポリエステル系接着剤、ポリウレタン系接着剤、ポリエステルウレタン系接着剤のいずれかの接着剤を使用する事が好ましい。なお、接着剤層の塗布量や形成方法は特に限定されず、基布の表面にグラビアロールなどで接着剤を少量塗布した後に乾燥させて接着剤層を設けてもよいし、基布に接着剤を含浸させた後に乾燥させて接着層を設けてもよい。
【0048】
<バイオベース質量含率>
本発明のターポリンの環境負荷低減効果を検討する上で、ISO16620-1,4で規定されたバイオベース質量含率を用いる事が好ましい。バイオベース質量含率とは、原料中に含まれるバイオマス由来(植物由来含む)成分の全質量を、原料の全質量で割った割合である。本発明のターポリンのバイオベース質量含率は特に限定されないが、少なくとも10.0%以上あることが必要で、25.0%以上の範囲であることが好ましく、50.0%以上の範囲であることがさらに好ましく、85.0%以上の範囲であることが環境負荷低減効果を考える上で最も好ましい。ターポリンのバイオベース質量含率を前記範囲内にする為には、本発明のターポリンの樹脂層を形成する為の樹脂層組成物のバイオベース質量含率が30.0%以上の範囲であることが好ましく、同様に本発明の樹脂層組成物に使用するポリエーテルポリオール成分の主成分として植物由来の長鎖ポリエーテルジオールを使用したエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーのバイオベース質量含率は、40.0%以上の範囲であることが好ましい。なおこれらの環境負荷低減効果の検討に利用される他の指標としては、原料中に含まれる炭素の同位体の比率を分析し、その結果を元に原料中の全炭素中のバイオベース炭素の割合を求めた「バイオベース炭素含率(ISO16620-1,2)」や、原料中に含まれるバイオマスプラスチック中のバイオマス由来成分の全質量を原料の全質量で割った割合である「バイオマスプラスチック度(ISO16620-1,3)」などもあり、検討内容に応じてこれら他の各指標を用いても構わない。
【実施例0049】
次に実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。なお実施例の表中において「熱可塑性ポリウレタンエラストマー」を「TPU」と省略表記する場合がある。
【0050】
<<ターポリンの作製方法について>>
<基布>
実施例のターポリンに使用する基布としては、560dtexのポリエステルのマルチフィラメント糸を用い、打ち込み本数密度が経糸19本/inch、緯糸20本/inchで、厚みが220μm、目付が88.0g/m2のポリエステル平織物を用いた。
【0051】
<樹脂層組成物>
本発明の実施例のターポリンの樹脂層を形成する為の樹脂層組成物の樹脂成分として使用する各種エーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーの各種性状値や成分に関する情報を表1に示す。また実施例で用いる各樹脂層組成物の原料配合比率を表2に示す。
【0052】
【0053】
表1に示した実施例で用いる各種エーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーであるTPU1~TPU5のうち、TPU1~TPU4に関してはポリエーテルポリオール成分に全て植物由来の長鎖ポリエーテルジオール(具体的にはポリエーテルポリオール成分が全て植物由来のポリトリメチレンエーテルグリコールである)を用いたエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーであり、それぞれエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマー中の植物由来の長鎖ポリエーテルジオールの含有率が異なる。一方でTPU5はポリエーテルポリオール成分に全て石油由来のポリテトラメチレンエーテルグリコールを用いた一般的なエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーである。なおTPU1~TPU5に関しては、ジイソシアネート成分が石油由来のジフェニルメタンジイソシアネートからなり、鎖延長剤成分が石油由来の1,4-ブタンジオールからなる点で共通している。
【0054】
【0055】
<シート状の樹脂層組成物の作製(溶融混錬/カレンダー成形加工)>
上述した各樹脂層組成物の各種原料を表2に示す配合比率で配合したものを、150~190℃の任意の設定温度に設定したミキシングロールによって10分間溶融混錬する。続けてテスト用カレンダーロール装置を用いて、均一に溶融混錬された樹脂層組成物を、150~190℃の任意の設定温度に設定したカレンダーロールに通す事によって、210±5μmの厚みのシート状に成形加工し、さらにそれを工程紙の上に積層させた後ニップロールを通して取り出した。取り出したシート状の樹脂層組成物の各種性状値の測定や各種評価を行った結果を表2に示す。なおシート状の樹脂層組成物を作製した際の、各樹脂層組成物の溶融混錬時のミキシングロールの設定温度と、各樹脂層組成物のカレンダー成形加工時のカレンダーロールの設定温度とを表3に示す。
【0056】
<評価用ターポリンの作製(溶融混錬/カレンダー成形加工/熱ラミネート加工)>
上述した方法と同じ方法と条件で溶融混錬した各樹脂層組成物をカレンダーロールに通す事によって、210±5μmの厚みのシート状に成形加工し、さらに溶融状態のシート状の樹脂層組成物を上述したポリエステル平織物からなる基布上に積層させた後ニップロールを通して取り出すことによって基布の片側に樹脂層を設けた。次に得られた前記基布と樹脂層からなる積層体を、シートプレス機を用いて150~190℃の任意の設定温度、面圧30kgf/cm2の条件で1分間熱プレスする事により熱ラミネート加工を行い、基布と樹脂層とをしっかり熱圧着させた。続けて基布のもう一方の面側にも、同様の方法で基布上に樹脂層を設けた上で、同様に熱ラミネート加工を行うことによって、本発明の実施例で評価に使用するターポリンを作製した。なお作製した各ターポリンの総厚は530±30μmの範囲であった。なお評価用の各ターポリンを作製した際の、各樹脂層組成物の溶融混錬時のミキシングロールの設定温度と、各樹脂層組成物のカレンダー成形加工時のカレンダーロールの設定温度と、基布と各樹脂層(各樹脂層組成物)とを熱ラミネート加工した時のシートプレス機の設定温度を表3に示す。
【0057】
【0058】
<<ターポリンの各種測定・各種評価方法について>>
上述した方法で実施例として使用するターポリンをそれぞれ作製し、以下に示す方法で各種性状の測定や各種評価を行い、その結果を表4に示した。なお下記各評価において、A評価又はB評価である事が本発明の課題を解決する上で望ましい。
【0059】
(ターポリンの引張強さ・伸びの測定)
ターポリンの引張強さ・伸びは、JIS L1096に記載のストリップ法によって測定を行った。なお測定用試験片は、ターポリンの基布の経糸方向・緯糸方向を長さ方向とするサンプルをそれぞれまず採取し、それらを巾30mm×長さ300mmの長方形の試験片に調整した上で、つかみ間隔離200mmで引張試験機にセットし、引張速度200mm/minの速度で引張試験を行うことによって、ターポリンの引張強さ(N)と伸び(%)とを測定した。
【0060】
(ターポリンの成形加工性の評価)
ターポリンの成形加工性に大きく影響を与える要因のうち、▲1▼樹脂層組成物の溶融混錬のし易さ、▲2▼樹脂層組成物のシートへの成形加工のし易さ、の2つの要因に注目し、以下の評価基準に従ってターポリンの成形加工性の評価を行った。
A ・・・ 樹脂層組成物の溶融混錬及び成形加工において特に問題がなく、ターポリンの成形加工性が良好である。
B ・・・ 樹脂層組成物の溶融混錬又は成形加工のうち、少なくとも一方にやや難があるが、ターポリンの成形加工を実施する上では問題はない。
C ・・・ 樹脂層組成物の溶融混錬又は成形加工のうち、少なくとも一方に大きな問題があり、ターポリンの成形加工を実施するのが困難である。
【0061】
(ターポリンの剛軟度の測定 及び 柔軟性の評価)
ターポリンを、ターポリンの基布の経糸方向を長さ方向とする巾20mm×長さ150mmの長方形に切り取り試験片を作製する。作製した試験片の剛軟度をJIS L1096に記載の45°カンチレバー法に従って測定を行った。45°カンチレバー法で測定した剛軟度(mm)を測定した。各ターポリンの剛軟度の測定結果を元に、以下に示す評価基準に従ってターポリンの柔軟性を評価した。
A ・・・ 80.0mm未満
B ・・・ 80.0mm以上100.0mm未満
C ・・・ 100.0mm以上
【0062】
(ターポリンの耐擦過性の評価)
ターポリンを学振型摩擦試験機(摩擦試験機II型)の試験片台に固定し、JIS L0803で規定された白綿布(金巾3号)をセットした摩擦子によって、荷重200gfの条件で、前記白綿布とターポリンの樹脂層を往復1000回擦り合わせ、耐擦過性の試験を行った。試験後のターポリンの表面の状態を目視で観察し、以下に示す評価基準に従ってターポリンの耐擦過性の評価を行った。
A ・・・ 樹脂層が全く摩耗していない。
B ・・・ 樹脂層表面にうっすらと傷が見られることがある。
C ・・・ 樹脂層表面に明確な傷が見られる。
【0063】
(ターポリンのウェルダー剥離強さの測定 及び ウェルダー適性の評価)
ターポリンを、ターポリンの基布の経糸方向を長さ方向とする巾30mm×長さ100mmの長方形に切り取り試験片を2枚作成する。
図4に示すように、前記2枚の試験片(5a,5b)を重ね合わせ、その一方の末端部に高周波ウェルダー加工機のウェルダー刃をあてて、試験片の長さ方向5mm×全巾の部分(高周波ウェルダー溶着部(6a,6b))に溶着を行うことによって、ウェルダー剥離強さ測定用試験片7を作製した。なお高周波ウェルダー加工機としては、山本ビニター株式会社製「YO-5A型」を使用し、溶着時間10秒、冷却時間4秒、定盤温度60℃、陽極電流0.25±0.02Aの条件で溶着を行った。
【0064】
上述した方法で作製したウェルダー剥離強さ測定用試験片において、試験片5aと試験片5bの高周波ウェルダー溶着部のある末端部の反対側のもう一方の末端部を引張試験機のチャック部にそれぞれ固定する。この際に高周波ウェルダー溶着部が引張試験機のチャック部とチャック部との間の中央になるようにセットする。引張試験機にセットしたウェルダー剥離強さ測定用試験片を、つかみ間隔距離100mm、引張速度50mm/minの条件で
図4に示すような方向に引っ張り、高周波ウェルダー溶着部が剥離した時の引張強さ(N)を測定した。測定したウェルダー剥離強さの測定結果を元に、以下に示す評価基準に従ってターポリンのウェルダー適性の評価を行った。
A ・・・ 400.0N以上
B ・・・ 300.0N以上400.0N未満
C ・・・ 300.0N未満
【0065】
【0066】
表4の各種ターポリンの各種性状値や各種評価の結果より、実施例1~4のターポリンのように、基布の少なくとも一方の面側に樹脂層を設け、前記樹脂層がポリエーテルポリオール成分とジイソシアネート成分と鎖延長剤成分との反応物からなるエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーを主成分として含有する樹脂層組成物からなり、さらに前記ポリエーテルポリオール成分の主成分として植物由来の長鎖ポリエーテルジオールを使用し、さらに高化式フローテスタによる昇温法で、昇温速度3.0℃/分、荷重294.2N、ダイの内孔の直径1.0mm、ダイの内孔の長さ2.0mmの条件で測定した前記樹脂層組成物の流出開始温度が90.0℃以上200.0℃以下の範囲であるようなターポリンであれば、参考例1のターポリンのような石油由来原料のみを使用したエーテル系熱可塑性ポリウレタンエラストマーを樹脂層に用いた従来のターポリンと比較して、「成形加工性」が同等又は同等以上となり、さらに「ターポリンの引張強さ・伸び」「ターポリンの柔軟性」「ターポリンの耐擦過性」「ターポリンのウェルダー適性」といった各種性能も同等又は同等以上となり、さらに樹脂層に植物由来原料を使用している事から環境負荷低減効果が得られることが分かる。
本発明のターポリンは、テント、フレキシブルコンテナ、構造物の膜屋根、垂れ幕、養生用シート、防水シート、遮水シート、合羽、靴、鞄、リュックサック、各種ケース、各種袋体、各種救命具、風管、カーテン、間仕切りシートの他、各種建築用資材、各種土木工事用資材として使用する事が可能である。