(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025155494
(43)【公開日】2025-10-14
(54)【発明の名称】セメント質組成物及び該セメント質組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20251002BHJP
C04B 14/38 20060101ALI20251002BHJP
C04B 14/48 20060101ALI20251002BHJP
C04B 16/06 20060101ALI20251002BHJP
C04B 20/00 20060101ALI20251002BHJP
C04B 40/02 20060101ALI20251002BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B14/38 Z
C04B14/48 Z
C04B16/06 Z
C04B20/00 A
C04B20/00 B
C04B40/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024105195
(22)【出願日】2024-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2024052272
(32)【優先日】2024-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 竜
(72)【発明者】
【氏名】石田 征男
(72)【発明者】
【氏名】林 建佑
(72)【発明者】
【氏名】米山 暁
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA15
4G112PA19
4G112PA24
4G112PC12
4G112PE07
4G112RA05
(57)【要約】
【課題】繊維を含み、フレッシュ時には、流動性に優れ、かつ、硬化後には、引張強度および靭性に優れたセメント質組成物を提供する。
【解決手段】セメントを含む粉体、骨材、水、及び繊維を含むセメント質組成物であって、繊維が、金属繊維、有機繊維、無機繊維、及び炭素繊維の中から選ばれる少なくとも1種以上であり、繊維のアスペクト比とセメント質組成物中の繊維の含有率を乗じて算出される数値が40~300であるセメント質組成物。使用予定の繊維のアスペクト比とセメント質組成物中の使用予定の繊維の含有率を乗じて算出される数値が40~300となるように、使用予定の繊維のアスペクト比、及び、セメント質組成物中の使用予定の繊維の含有率を定める工程と、該工程で定めた繊維のアスペクト比、及び、繊維の含有率で、各原料を混合して、セメント質組成物を得る工程を含む上記セメント質組成物の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントを含む粉体、骨材、水、及び繊維を含むセメント質組成物であって、
上記繊維が、金属繊維、有機繊維、無機繊維、及び炭素繊維の中から選ばれる少なくとも1種以上であり、
下記式(1)を用いて算出される数値が40~300であることを特徴とするセメント質組成物。
上記繊維のアスペクト比×上記セメント質組成物中の上記繊維の含有率(体積%) ・・・(1)
【請求項2】
ペースト細骨材容積比が1.60~6.00である請求項1に記載のセメント質組成物。
【請求項3】
ペースト細骨材容積比が1.00以上、1.60未満である請求項1に記載のセメント質組成物。
【請求項4】
上記粉体は、BET比表面積が5~25m2/gのポゾラン質微粉末を含む請求項1~3のいずれか1項に記載のセメント質組成物。
【請求項5】
上記粉体は、ブレーン比表面積が3,500~10,000cm2/gの無機粉末を含む請求項1~3のいずれか1項に記載のセメント質組成物。
【請求項6】
上記セメント質組成物は、「JIS R 5201 セメントの物理試験方法」に記載されているフロー値の測定方法において15回の落下運動を行わない場合における、フローコーンを取り去った時から90秒が経過した時のフロー値が、220~320mmの範囲内となるものである請求項1又は2に記載のセメント質組成物。
【請求項7】
上記セメント質組成物は、「JIS R 5201 セメントの物理試験方法」に記載されているフロー値の測定方法において15回の落下運動を行わない場合における、フローコーンを取り去った時から90秒が経過した時のフロー値が、110~190mmの範囲内となるものである請求項1又は3に記載のセメント質組成物。
【請求項8】
上記セメント質組成物は、日本コンクリート工学会規準「JCI-S-002-2003」(切欠きはりを用いた繊維コンクリートの荷重-変位曲線試験方法」に準拠して測定した引張強度が、4.5~15.0N/mm2の範囲内となるものである請求項1~3のいずれか1項に記載のセメント質組成物。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のセメント質組成物の製造方法であって、
下記式(2)で算出される数値が40~300となるように、使用予定の繊維のアスペクト比、及び、上記セメント質組成物中の上記使用予定の繊維の含有率を定める繊維組成決定工程と、
上記繊維組成決定工程で定めた繊維のアスペクト比、及び、繊維の含有率で、各原料を混合して、上記セメント質組成物を得る組成物調製工程、
を含むセメント質組成物の製造方法。
上記使用予定の繊維のアスペクト比×上記セメント質組成物中の上記使用予定の繊維の含有率(体積%) ・・・(2)
【請求項10】
上記組成物調製工程で得られた硬化前の上記セメント質組成物を50℃以上の雰囲気下で養生して、上記セメント質組成物の硬化体を得る養生工程、
を含む請求項9に記載のセメント質組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項3に記載のセメント質組成物の製造方法であって、
下記式(3)で算出される数値が40~300となるように、使用予定の繊維のアスペクト比、及び、上記セメント質組成物中の上記使用予定の繊維の含有率を定める繊維組成決定工程と、
上記繊維組成決定工程で定めた繊維のアスペクト比、及び、繊維の含有率で、各原料を混合して、上記セメント質組成物を得る組成物調製工程と、
上記組成物調製工程で得られた硬化前の上記セメント質組成物を50℃未満の雰囲気下で養生して、上記セメント質組成物の硬化体を得る養生工程、
を含むセメント質組成物の製造方法。
上記使用予定の繊維のアスペクト比×上記セメント質組成物中の上記使用予定の繊維の含有率(体積%) ・・・(3)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント質組成物及び該セメント質組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、靭性を高める等の目的で、繊維を含むモルタル等のセメント質組成物(本明細書中、「繊維補強セメント質組成物」ともいう。)が知られている。
例えば、特許文献1には、セメント、シリカフューム、石炭ガス化フライアッシュ、石膏、特定の膨張材、特定の収縮低減剤、及び金属繊維の各々を、特定の量で含有することを特徴とする低収縮超高強度繊維補強セメント組成物が記載されている。
また、特許文献2に、短繊維を、容積比で0.5%~6.0%混入して得られる繊維補強コンクリートであって、前記短繊維が、予め加熱処理が施されることで収縮ひずみが与えられているとともに、アスペクト比が20~200になるように切断された有機系の短繊維を含むことを特徴とする繊維補強コンクリートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-84095号公報
【特許文献2】特開2009-102183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
繊維補強セメント質組成物中の繊維の量を増加させることで繊維補強セメント質組成物の靭性を向上させることができる。一方、繊維の量が増加すると繊維補強セメント質組成物の流動性が低下し、所望のワーカビリティを確保することが困難となる。また、繊維の寸法は、繊維補強セメント質組成物の流動性に大きな影響を及ぼすことが知られている。
本発明の目的は、繊維を含み、フレッシュ時(未硬化)には、流動性に優れ、かつ、硬化後には、引張強度および靭性に優れたセメント質組成物、並びに、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメントを含む粉体、骨材、水、及び繊維を含むセメント質組成物であって、繊維が、金属繊維、有機繊維、無機繊維、及び炭素繊維の中から選ばれる少なくとも1種以上であり、繊維のアスペクト比と繊維の含有率を乗じた数値が40~300であるセメント質組成物によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[11]を提供するものである。
[1] セメントを含む粉体、骨材、水、及び繊維を含むセメント質組成物であって、上記繊維が、金属繊維、有機繊維、無機繊維、及び炭素繊維の中から選ばれる少なくとも1種以上であり、下記式(1)を用いて算出される数値が40~300であることを特徴とするセメント質組成物。
上記繊維のアスペクト比×上記セメント質組成物中の上記繊維の含有率(体積%) ・・・(1)
[2] ペースト細骨材容積比が1.60~6.00である前記[1]に記載のセメント質組成物。
[3] ペースト細骨材容積比が1.00以上、1.60未満である前記[1]に記載のセメント質組成物。
[4] 上記粉体は、BET比表面積が5~25m2/gのポゾラン質微粉末を含む前記[1]~[3]のいずれかに記載のセメント質組成物。
【0006】
[5] 上記粉体は、ブレーン比表面積が3,500~10,000cm2/gの無機粉末を含む前記[1]~[4]のいずれかに記載のセメント質組成物。
[6] 上記セメント質組成物は、「JIS R 5201 セメントの物理試験方法」に記載されているフロー値の測定方法において15回の落下運動を行わない場合における、フローコーンを取り去った時から90秒が経過した時のフロー値が、220~320mmの範囲内となるものである前記[1]又は[2]のいずれかに記載のセメント質組成物。
[7] 上記セメント質組成物は、「JIS R 5201 セメントの物理試験方法」に記載されているフロー値の測定方法において15回の落下運動を行わない場合における、フローコーンを取り去った時から90秒が経過した時のフロー値が、110~190mmの範囲内となるものである前記[1]又は[3]に記載のセメント質組成物。
[8] 上記セメント質組成物は、日本コンクリート工学会規準「JCI-S-002-2003」(切欠きはりを用いた繊維コンクリートの荷重-変位曲線試験方法」に準拠して測定した引張強度が、4.5~15.0N/mm2の範囲内となるものである前記[1]~[7]のいずれかに記載のセメント質組成物。
[9] 前記[1]又は[2]に記載のセメント質組成物の製造方法であって、下記式(2)で算出される数値が40~300となるように、使用予定の繊維のアスペクト比、及び、上記セメント質組成物中の上記使用予定の繊維の含有率を定める繊維組成決定工程と、上記繊維組成決定工程で定めた繊維のアスペクト比、及び、繊維の含有率で、各原料を混合して、上記セメント質組成物を得る組成物調製工程、を含むセメント質組成物の製造方法。
上記使用予定の繊維のアスペクト比×上記セメント質組成物中の上記使用予定の繊維の含有率(体積%) ・・・(2)
[10] 上記組成物調製工程で得られた硬化前の上記セメント質組成物を50℃以上の雰囲気下で養生して、上記セメント質組成物の硬化体を得る養生工程、を含む前記[9]に記載のセメント質組成物の製造方法。
[11] 前記[3]に記載のセメント質組成物の製造方法であって、下記式(3)で算出される数値が40~300となるように、使用予定の繊維のアスペクト比、及び、上記セメント質組成物中の上記使用予定の繊維の含有率を定める繊維組成決定工程と、上記繊維組成決定工程で定めた繊維のアスペクト比、及び、繊維の含有率で、各原料を混合して、上記セメント質組成物を得る組成物調製工程と、上記組成物調製工程で得られた硬化前の上記セメント質組成物を50℃未満の雰囲気下で養生して、上記セメント質組成物の硬化体を得る養生工程、を含むセメント質組成物の製造方法。
上記使用予定の繊維のアスペクト比×上記セメント質組成物中の上記使用予定の繊維の含有率(体積%) ・・・(3)
【発明の効果】
【0007】
本発明のセメント質組成物は、繊維を含み、フレッシュ時(未硬化)には、流動性に優れ、かつ、硬化後には、引張強度および靭性に優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1~15及び比較例1~5における、繊維のアスペクト比と繊維の含有率を乗じた数値と、引張強度の関係を示す図である。
【
図2】実施例1~15及び比較例1~5における、繊維のアスペクト比と繊維の含有率を乗じた数値と、90秒フロー値の関係を示す図である。
【
図3】実施例16~27及び比較例6における、繊維のアスペクト比と繊維の含有率を乗じた数値と、引張強度の関係を示す図である。
【
図4】実施例16~27及び比較例6における、繊維のアスペクト比と繊維の含有率を乗じた数値と、90秒フロー値の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のセメント質組成物は、セメントを含む粉体、骨材、水、及び繊維を含むセメント質組成物であって、繊維が、金属繊維、有機繊維、無機繊維、及び炭素繊維の中から選ばれる少なくとも1種以上であり、下記式(1)を用いて算出される数値が40~300であるものである。
繊維のアスペクト比×セメント質組成物中の上記繊維の含有率(体積%) ・・・(1)
以下、詳しく説明する。
セメントを含む粉体に含まれているセメントの例としては、特に限定されるものではなく、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等の混合セメントや、エコセメント等が挙げられる。
【0010】
セメントを含む粉体中のセメント以外に含まれている粉体の例としては、BET比表面積が5~25m2/gのポゾラン質微粉末(以下、「ポゾラン質微粉末」と略すことがある。)や、ブレーン比表面積が3,500~10,000cm2/gの無機粉末(以下、「無機粉末」と略すことがある。)等が挙げられる。
ポゾラン質微粉末の例としては、シリカフューム、シリカダスト、フライアッシュ、スラグ粉末、火山灰、シリカゾル、沈降シリカ等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、シリカフューム及びシリカダストは、BET比表面積が5~25m2/gであり、粉砕を行う必要がないので、本発明において好ましく用いられる。
【0011】
ポゾラン質微粉末のBET比表面積は、5~25m2/g、好ましくは7~20m2/g、より好ましくは8~16m2/gである。該値が5m2/g以上であると、セメント質組成物中のポゾラン質微粉末の充填性が向上し、セメント質組成物の硬化体の強度(例えば、引張強度)等が増大する。該値が25m2/g以下であると、所望の流動性を得るための水量を少なくすることができ、その結果、セメント質組成物の硬化体の強度(例えば、引張強度)等を増大できる。
ポゾラン質微粉末の量は、セメント100質量部に対して、好ましくは40質量部以下、より好ましくは4~35質量部、さらに好ましくは8~30質量部、特に好ましくは10~28質量部である。上記量が40質量部以下であると、セメント質組成物の硬化前の流動性をより向上させることができる。
【0012】
ブレーン比表面積が3,500~10,000cm2/gの無機粉末としては、石英粉末、石灰石粉末、アルミナ粉末等が挙げられる。
無機粉末のブレーン比表面積は、3,500~10,000cm2/g、好ましくは
5,000~9,500cm2/g、より好ましくは6,500~8,500cm2/gである。該値が3,500cm2/g以上であると、セメントとのブレーン比表面積の差が大きくなり、セメント質組成物の硬化前の流動性をより向上させることができる。該値が10,000cm2/g以下であると、粉砕の手間をより軽減することができ、また、セメント質組成物の硬化前の流動性をより向上させることができる。
無機粉末の量は、セメント100質量部に対して、好ましくは45質量部以下、より好ましくは4~40質量部、さらに好ましくは8~35質量部、特に好ましくは10~30質量部である。上記量が45質量部以下であれば、所望の流動性を得る目的で、セメント質組成物に含まれる水の量を過度に増加させる必要がないため、セメント質組成物の硬化体の圧縮強度の低下を避けることができる。
なお、上記無機粉末にセメントは含まれないものとする。
【0013】
骨材としては、細骨材のみ、または、細骨材と粗骨材の組み合わせが挙げられる。また、天然骨材、人工骨材、再生骨材のいずれも用いることができる。
細骨材としては、特に限定されず、例えば、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、石灰石細骨材、スラグ細骨材、軽量細骨材、クリンカ細骨材、及びCCU細骨材(再生骨材、廃コンクリート、高炉スラグ、および製鋼スラグから選ばれる1種以上に二酸化炭素を固定した細骨材)等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
細骨材の量は、セメントを含む粉体100質量部に対して、好ましくは180質量部以下、より好ましくは10~150質量部、さらに好ましくは20~120質量部、特に好ましくは30~100質量部である。上記量が180質量部以下であると、セメント質組成物の可使時間が短くなることを避けることができる。
【0014】
粗骨材としては、特に限定されず、例えば、川砂利、山砂利、陸砂利、海砂利、砕石、石灰石粗骨材、スラグ粗骨材、軽量粗骨材、クリンカ粗骨材、及びCCU粗骨材(再生骨材、廃コンクリート、高炉スラグ、および製鋼スラグから選ばれる1種以上に二酸化炭素を固定した粗骨材)等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
粗骨材の量は、セメントを含む粉体100質量部に対して、好ましくは60質量部以下、より好ましくは40質量部以下、特に好ましくは20質量部以下である。上記量が60質量部以下であると、セメント質組成物の硬化体の強度(例えば、引張強度)等をより大きくすることができる。
セメント質組成物が粗骨材を含む場合、細骨材率(s/a)は、好ましくは5~70%、より好ましくは10~60%、特に好ましくは20~50%である。細骨材率が上記範囲内であれば、モルタルやコンクリートのワーカビリティや成型のし易さが向上する。なお、細骨材率とは、細骨材と粗骨材の合計量中の細骨材の体積割合をいう。
【0015】
水としては、特に限定されず、例えば、水道水、スラッジ水等が挙げられる。
水と、セメントを含む粉体の質量比(水/セメントを含む粉体)は、好ましくは0.10~0.30、より好ましくは0.11~0.28、さらに好ましくは0.12~0.25、特に好ましくは0.14~0.22である。上記比が0.10以上であれば、セメント質組成物の硬化前の流動性がより向上する。上記比が0.30以下であれば、セメント質組成物の材料分離が生じにくくなる。
【0016】
本発明の水硬性組成物は、必要に応じて、セメント分散剤、AE剤、収縮低減剤、消泡剤等の各種混和剤を含んでもよい。
セメント分散剤としては、リグニン系、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系等の、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、または高性能AE減水剤が挙げられる。中でも、減水効果が大きい点で、高性能減水剤が好ましい。特に、セメント質組成物の硬化前の流動性の向上の点で、ポリカルボン酸系の高性能減水剤が、より好ましい。
セメント分散剤の量は、セメントを含む粉体100質量部に対して、好ましくは0.3~3.3質量部、より好ましくは0.4~3.0質量部、さらに好ましくは0.5~2.5質量部、特に好ましくは0.9~1.8質量部である。該量が0.3質量部以上であると、減水効果がより高くなる。該量が3.3質量部以下であると、セメント質組成物の強度発現性がより向上する。
【0017】
繊維としては、金属繊維、有機繊維、無機繊維、及び炭素繊維等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、繊維の寸法は、セメント質組成物の硬化前の流動性及び硬化後の硬化体の引張強度の向上等の観点から、後述する式(1)を用いて算出される数値が、40~300の数値範囲内となるような寸法であればよい。
金属繊維としては、鋼繊維等が挙げられる。
金属繊維の寸法は、セメント質組成物中における金属繊維の材料分離の防止や、セメント質組成物の硬化体の引張強度をより大きくする観点から、直径が0.008~1.0mm、長さが1~30mmであることが好ましく、直径が0.05~0.5mm、長さが5~25mmであることがより好ましい。
また、金属繊維のアスペクト比(繊維長/繊維直径)は、好ましくは10~200、より好ましくは40~150である。
【0018】
特に、金属繊維が鋼繊維である場合、鋼繊維の長さは、セメント質組成物の硬化体の引張強度をより大きくする観点からは、好ましくは1.0mm以上、より好ましくは3.0mm以上、さらに好ましくは6.0mm以上、特に好ましくは8.0mm以上である。また、上記長さは、セメント質組成物内に、繊維を均一に分布させることができ、かつ、セメント質組成物の硬化前の流動性を向上させる観点からは、好ましくは30mm以下、より好ましくは25mm以下、さらに好ましくは20mm以下、特に好ましくは18mm以下である。
鋼繊維の直径は、セメント質組成物の硬化前の流動性を向上させる観点からは、好ましくは0.008mm以上、より好ましくは0.050mm以上、さらに好ましくは0.10mm以上、さらに好ましくは0.12mm以上、特に好ましくは0.20mm以上である。また、上記直径は、セメント質組成物の硬化体の引張強度をより大きくする観点からは、好ましくは1.0mm以下、より好ましくは0.8mm以下、さらに好ましくは0.6mm以下、さらに好ましくは0.4mm以下、特に好ましくは0.3mm以下である。
鋼繊維のアスペクト比(繊維長/繊維直径)は、セメント質組成物の硬化体の引張強度をより大きくする観点からは、好ましくは10以上、より好ましくは30以上、さらに好ましくは40以上、特に好ましくは60以上である。また、上記比は、セメント質組成物の硬化前の流動性を向上させる観点からは、好ましくは300以下、より好ましくは200以下、さらに好ましくは150以下、特に好ましくは80以下である。
【0019】
有機繊維としては、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維、高強力アラミド繊維、高強力ポリエチレン繊維、高強力ポリアリレート繊維、PBO繊維等が挙げられる。
無機繊維としては、バサルト繊維等が挙げられる。
炭素繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。
有機繊維、無機繊維及び炭素繊維の寸法は、セメント質組成物中におけるこれらの繊維の材料分離の防止や、セメント質組成物の破壊エネルギーの向上の観点から、直径が0.005~1.0mm、長さ2~30mmであることが好ましく、直径が0.01~0.5mm、長さが5~25mmであることがより好ましい。また、有機繊維、無機繊維及び炭素繊維のアスペクト比(繊維長/繊維直径)は、好ましくは20~200、より好ましくは30~150である。
【0020】
セメント質組成物中の繊維の含有率は、セメント質組成物の硬化体の引張強度をより大きくする観点からは、好ましくは0.5体積%以上、より好ましくは1.0体積%以上、さらに好ましくは2.0体積%以上、さらに好ましくは3.0体積%以上、特に好ましくは4.0体積%を超えるものである。また、上記含有率は、セメント質組成物の硬化前の流動性を向上させる観点からは、好ましくは10.0体積%以下、より好ましくは9.0体積%以下、さらに好ましくは8.0体積%以下、さらに好ましくは7.0体積%以上、さらに好ましくは5.0体積%以下、さらに好ましくは3.0体積%以下、特に好ましくは1.5体積%未満である。
【0021】
本発明のセメント質組成物において、下記式(1)を用いて算出される数値は、40~300である。
繊維のアスペクト比×セメント質組成物中の繊維の含有率(体積%) ・・・(1)
なお、式(1)において算出される数値の単位は省略するものとする。
上記数値が40~300の数値範囲内であれば、セメント質組成物を、硬化前の流動性、及び、硬化後の強度発現性に優れたものにすることができる。
上記数値は、セメント質組成物の硬化体の引張強度をより大きくする観点からは、40以上、好ましくは70以上、より好ましくは100以上、さらに好ましくは120以上、さらに好ましくは150以上、特に好ましくは200以上である。また、上記数値は、セメント質組成物の硬化前の流動性をより向上させる観点からは、300以下、好ましくは250以上、より好ましくは200以下、さらに好ましくは150以下、さらに好ましくは120以下、特に好ましくは100以下である。
上記数値範囲は、所望のセメント質組成物の物性(品質)に応じて、40~300の数値範囲内において、適宜変更してもよい。
【0022】
セメント質組成物のペースト細骨材容積比は、セメント質組成物の強度発現性をより向上させて、かつ、混練性をより向上させて、混練時にファイバーボール等が発生しにくくする観点からは、好ましくは1.00以上、より好ましくは1.10以上、さらに好ましくは1.60以上、さらに好ましくは1.62以上、さらに好ましくは1.65以上、さらに好ましくは1.80以上、特に好ましくは2.00以上である。また、上記ペースト細骨材容積比は、硬化前の流動性及び作業性をより向上させて、かつ、材料分離がより発生しにくくなる観点からは、好ましくは6.00以下、より好ましくは5.80以下、さらに好ましくは5.50以下、さらに好ましくは5.25以下、さらに好ましくは5.00以下、さらに好ましくは1.60未満、特に好ましくは1.50以下である。
ここで、ペースト細骨材容積比とは、コンクリート1m3中の細骨材容積に対するペースト容積(セメントを含む粉体と水の混合物の容積)の比(ペーストの容積/細骨材の容積)である。
【0023】
本発明のセメント質組成物は、以下の物性を有する。なお、本明細書中、セメント質組成物とは、硬化前の流動性を有する形態および硬化後の形態を包含するものである。
(1)硬化前(フレッシュ状態)の物性
「JIS R 5201 セメントの物理試験方法」に記載されているフロー値の測定方法において15回の落下運動を行わない場合における、フローコーンを取り去った時から90秒が経過した時のフロー値は、セメント質組成物の粘性をより低くし、流動性をより向上させる観点からは、好ましくは110mm以上、より好ましくは120mm以上、さらに好ましくは140mm以上、さらに好ましくは220mm以上、さらに好ましくは240mm以上、特に好ましくは250mm以上である。上記フロー値は、材料(繊維)の分離がより生じにくくなる観点からは、好ましくは320mm以下、より好ましくは300mm以下、さらに好ましくは290mm以下、さらに好ましくは190mm以下、さらに好ましくは180mm以下、特に好ましくは170mm以下である。
また、上記フロー値の好ましい範囲は、セメント質組成物のペースト細骨材容積比の数値によっても異なる。
例えば、セメント質組成物のペースト細骨材容積比が1.60~6.00である場合、上記フロー値は、好ましくは220~320mmである。
また、セメント質組成物のペースト細骨材容積比が1.00以上、1.60未満である場合、上記フロー値は、好ましくは110~190mmである。
なお、フロー値の測定時を「フローコーンを取り去った時から90秒が経過した時」と定めた理由は、一般的に、90秒以降のフロー値の変化は、90秒以前と比較して大幅に小さくなるからである。
セメント質組成物の空気量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.8%以下、特に好ましくは4.5%以下である。上記空気量が5.0%以下であれば、セメント質組成物の硬化体の強度(引張強度)をより大きくすることができる。
【0024】
(2)硬化後の物性
日本コンクリート工学会規準「JCI-S-002-2003」(切欠きはりを用いた繊維コンクリートの荷重-変位曲線試験方法」に準拠して測定した、セメント質組成物の硬化体の引張強度は、好ましくは4.5N/mm2以上、より好ましくは5.0N/mm2以上、さらに好ましくは6.0N/mm2以上、さらに好ましくは8.5N/mm2以上、特に好ましくは9.0N/mm2以上である。上記引張強度の上限値は特に限定されないが、好ましくは20N/mm2、より好ましくは15N/mm2である。
「JIS A 1108:2018(コンクリートの圧縮強度試験方法)」に準拠して測定した、セメント質組成物の硬化体の圧縮強度は、好ましくは80~300N/mm2以上、より好ましくは90~280N/mm2、さらに好ましくは100~250N/mm2である。
また、セメント質組成物のペースト細骨材容積比が1.60~6.00である場合、セメント質組成物の硬化体の圧縮強度は、好ましくは150~300N/mm2、より好ましくは200N/mm2を超え、250N/mm2以下である。
また、セメント質組成物のペースト細骨材容積比が1.00以上、1.60未満である場合、セメント質組成物の硬化体の圧縮強度は、好ましくは100~200N/mm2、より好ましくは120~195N/mm2である。
【0025】
本発明のセメント質組成物の製造方法の一例としては、(A)下記式(2)で算出される数値が40~300となるように、使用予定の繊維のアスペクト比、及び、セメント質組成物中の使用予定の繊維の含有率を定める繊維組成決定工程と、(B)繊維組成決定工程で定めた繊維のアスペクト比、及び、繊維の含有率で、各原料を混合して、上記セメント質組成物を得る組成物調製工程を含む方法等が挙げられる。
使用予定の繊維のアスペクト比×セメント質組成物中の使用予定の繊維の含有率(体積%) ・・・(2)
以下、工程ごとに詳しく説明する。
【0026】
[(A)繊維組成決定工程]
本工程は、下記式(2)で算出される数値が40~300となるように、使用予定の繊維のアスペクト比、及び、セメント質組成物中の使用予定の繊維の含有率を定める工程である。
使用予定の繊維のアスペクト比×セメント質組成物中の使用予定の繊維の含有率(体積%) ・・・(2)
なお、式(2)において算出される数値の単位は省略するものとする。
使用予定の繊維は、1種であっても2種以上であってもよい。使用予定の繊維が複数の種類ある場合には、複数の種類の繊維の各々について、上記式(2)を用いて数値を算出する。
本工程において、式(2)で算出される数値が40~300となるように、適宜、繊維のアスペクト比、及び、セメント質組成物中の繊維の含有率を調整することで、フレッシュ時(未硬化)には、流動性に優れ、かつ、硬化後には、引張強度(靭性)に優れたセメント質組成物を製造することができる。
なお、繊維を2種以上使用する場合、上記式(2)の使用予定の繊維のアスペクト比は、2種以上の繊維のアスペクト比の平均値、使用予定の繊維の含有率は、2種以上の繊維の含有率の合計である。
これにより、例えば、流動性及び引張強度の観点から、従来は向いていないと判断されていたような寸法の繊維であっても、式(2)で算出される数値から、流動性、引張強度及び靭性に優れたセメント質組成物を得ることが可能な、繊維の含有率を求めることができ、幅広い繊維の利用を図ることができる。
【0027】
なお、工程(A)の前に、所望のセメント質組成物の物性(品質)に合わせて、上記式(2)で算出される数値の数値範囲を40~300の数値範囲内で適宜定める、基準値設定工程を設けてもよい。
例えば、より引張強度に優れたセメント質組成物を製造する観点からは、上記式(2)で算出される数値の数値範囲の下限値を、好ましくは70、より好ましくは100、さらに好ましくは120、さらに好ましくは150、特に好ましくは200に定めてもよい。また、より流動性に優れたセメント質組成物を製造する観点からは、上記式(2)で算出される数値の数値範囲の上限値を、好ましくは250、より好ましくは200、さらに好ましくは150、さらに好ましくは120、特に好ましくは100に定めてもよい。
【0028】
[(B)組成物調製工程]
本工程は、繊維組成決定工程で定めた繊維のアスペクト比、及び、繊維の含有率となるような配合量で、各原料を混合して、上記セメント質組成物を得る工程である。
セメント質組成物に含まれる各原料としては、上述したセメントを含む粉体、骨材、繊維、及び水等である。
混合方法としては特に限定されるものではなく、材料の一部(例えば、セメント、他の粉体、及び骨材)をミキサに投入して混合(空練り)した後、材料の残部の一部(例えば、水、及びセメント分散剤)を投入して混合し、最後に、材料の残部の残り(例えば、繊維)をミキサに投入して混合する方法等が挙げられる。
【0029】
[(C)養生工程]
工程(B)の後に、組成物調製工程で得られた硬化前のセメント質組成物を養生して、セメント質組成物の硬化体を得る養生工程を設けてもよい。
養生方法としては特に限定されるものではなく、例えば、気中養生、湿空養生、水中養生、温水養生、封緘養生、及びオートクレーブ養生等の一般的な養生方法を採用することができる。
養生時間は、養生方法によっても異なるが、例えば、好ましくは1時間以上、より好ましくは2~96時間、特に好ましくは12~84時間である。
また、養生工程において、セメント質組成物の硬化体の引張強度及び靭性をより大きくする観点から、ペースト細骨材容積比の数値に応じて、養生条件を定めてもよい。
例えば、セメント質組成物のペースト細骨材容積比が1.60~6.00である場合、組成物調製工程で得られた硬化前のセメント質組成物を、セメント質組成物の硬化体の圧縮強度が40~50N/mm2になるまで、5~40℃の雰囲気下で静置し、その後、50℃以上(好ましくは60~300℃、より好ましくは70~250℃)の雰囲気下で養生することが好ましい。
より具体的には、硬化前のセメント質組成物を、5~40℃の雰囲気下で12~36時間静置した後、70℃以上100℃未満で6時間以上の蒸気養生または温水養生と、100~200℃で1時間以上のオートクレーブ養生のいずれか一方または両方を行うことがより好ましい。
このような養生条件によれば、5~40℃の雰囲気下で静置した後のセメント質組成物の硬化体の圧縮強度を40~50N/mm2にし、最終的に得られるセメント質組成物の硬化体の圧縮強度を150~250N/mm2(好ましくは200N/mm2を超え、250N/mm2以下)に、かつ、引張強度を5.0~15.0N/mm2の数値範囲内にすることができる。
【0030】
また、セメント質組成物のペースト細骨材容積比が1.00以上、1.60未満である場合、組成物調製工程で得られた硬化前のセメント質組成物を5~50℃(好ましくは10~40℃、より好ましくは15~35℃)の雰囲気下で養生することが好ましい。
50℃未満の雰囲気下で養生する方法の例としては、気中養生、湿空養生、水中養生、及び封緘養生等が挙げられる。
このような養生条件によれば、セメント質組成物の硬化体の圧縮強度を100~200N/mm2(好ましくは120~195N/mm2)にし、かつ、引張曲げ強度を5.0~15.0N/mm2の数値範囲内にすることができる。
また、養生工程を行う前に、硬化前のセメント質組成物を型枠内に打設する打設工程を設けてもよい。打設方法としては、特に限定されるものではなく、流し込み成形等の慣用の方法を使用することができる。打設工程を行った場合、養生工程後に、型枠内のセメント質組成物の硬化体を型枠から脱型する脱型工程が行われる。
【実施例0031】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)セメント;太平洋セメント社製、中庸熱ポルトランドセメント
(2)ポゾラン質微粉末(表2、4中、「微粉末」と示す。);シリカフューム(BET比表面積:11m2/g)
(3)無機粉末;石英粉末(ブレーン比表面積:7,500cm2/g)
(4)細骨材;珪砂
(5)繊維A~G;鋼繊維(詳細は表1に示す。)
(6)セメント分散剤;ポリカルボン酸系高性能減水剤
【0032】
【0033】
[実施例1~15、比較例1~5]
表2に示す種類、及び、セメント質組成物中の含有率(体積基準の割合)となる量の繊維、並びに、表2に示す量の、セメント、ポゾラン質微粉末、及び無機粉末を用いてセメント質組成物を調製した。
具体的には、セメント、ポゾラン質微粉末、無機粉末、及び細骨材を、パン型ミキサ(容量:55リットル)に投入して空練りした後、水、及びセメント分散剤を投入して混練し、最後に繊維をミキサに投入して、さらに混錬してセメント質組成物(体積:20リットル)を得た。なお、セメント分散剤の配合量は、セメント質組成物1m3辺り21kgとなる量(セメントを含む粉体100質量部に対して、0.3~3.3質量部の範囲内となる量)に定めた。
また、実施例1~15の配合は、セメント質組成物のペースト細骨材容積比が1.6~6.0の範囲内となるように調整されたものである。実施例1~15、比較例1~5のセメント質組成物のペースト細骨材空隙比を表2に示す。
また、繊維のアスペクト比とセメント質組成物中の繊維の含有率を乗じてなる数値(表1~2中、「ASf×Vf」と示す。)を算出した。
【0034】
得られたセメント質組成物について、「JIS R 5201 セメントの物理試験方法」に記載されているフロー値の測定方法において15回の落下運動を行わない場合における、フローコーンを取り去った時から90秒が経過した時のフロー値(以下、「90秒フロー値」ともいう。)を測定した。
また、得られたセメント質組成物を、型枠に打設した後、未硬化のセメント質組成物について、20℃の雰囲気下で24時間、封緘養生を行った後、次いで脱型し、90℃の雰囲気下で48時間、蒸気養生を行い、硬化したセメント質組成物の供試体を得た。得られた供試体を用いて、日本コンクリート工学会規準「JCI-S-002-2003」(切欠きはりを用いた繊維コンクリートの荷重-変位曲線試験方法」に準拠して引張強度を測定した。
また、得られた供試体を用いて、「JIS A 1108:2018(コンクリートの圧縮強度試験方法)」に準拠して圧縮強度を測定した。
さらに、セメント質組成物の空気量を、モルタルエアメーターを用いて測定した。
結果を表3に示す。
また、実施例1~15及び比較例1~5において製造した20種類のセメント質組成物のデータから、式(1)を用いて算出された数値を独立変数とし、引張強度の実測値を従属変数とする重回帰分析を行い、式(1)を用いて算出された数値と引張強度の実測値の関係式を得た。結果を
図1に示す。
また、引張強度の実測値の代わりに90秒フロー値の実測値を用いる以外は、同様にして重回帰分析を行い、式(1)を用いて算出された数値と90秒フロー値の実測値の関係式を得た。結果を
図2に示す。
【0035】
【0036】
【0037】
表3から、実施例1~15の90秒フロー値(240~293mm)は、比較例1~5の90秒フロー値(161~197mm)よりも大きく、本発明のセメント質組成物は、流動性に優れていることがわかる。
また、実施例1~15の引張強度は、5.1~11.6N/mm
2であることがわかる。中でも、式(1)で算出される数値が、110.0~272.7である実施例1~11の引張強度(8.8~11.6N/mm
2)は、式(1)で算出される数値が、45.5~90.9である実施例12~15の引張強度(5.1~8.1N/mm
2)よりも大きいことがわかる。
さらに、
図1~2から、式(1)を用いて算出された数値(繊維のアスペクト比とセメント質組成物中の繊維の含有率を乗じてなる数値)と90秒フロー値は、高い正の相関関係を有していることがわかる。また、式(1)を用いて算出された数値と引張強度は、高い負の相関関係を有していることがわかる。
このことから、式(1)を用いて算出された数値が特定の数値範囲内(例えば、40~300)となるように、使用する繊維のアスペクト比とセメント質組成物中の繊維の含有率を定めることで、フレッシュ時(未硬化)には、流動性に優れ、かつ、硬化後には、引張強度(靭性)に優れたセメント質組成物を製造できることがわかる。
【0038】
[実施例16~27、比較例6]
表4に示す種類、及び、セメント質組成物中の含有率(体積基準の割合)となる量の繊維、並びに、表4に示す量の、セメント、ポゾラン質微粉末、及び無機粉末を用いて、実施例1と同様にして、セメント質組成物を調製した。
また、実施例16~27の配合は、セメント質組成物のペースト細骨材容積比が1.0以上、1.60未満の範囲内となるように調整されたものである。実施例16~27、比較例6のセメント質組成物のペースト細骨材空隙比を表4に示す。
また、繊維のアスペクト比とセメント質組成物中の繊維の含有率を乗じてなる数値(表4~5中、「ASf×Vf」と示す。)を算出した。
【0039】
得られたセメント質組成物について、実施例1と同様にして90秒フロー値を測定した。
また、得られたセメント質組成物を、型枠に打設した後、未硬化のセメント質組成物について、20℃の雰囲気下で24時間、封緘養生を行い、次いで脱型して、硬化したセメント質組成物の供試体を得た。得られた供試体を用いて、実施例1と同様にして引張強度及び圧縮強度を測定した。
さらに、セメント質組成物の空気量を、モルタルエアメーターを用いて測定した。
結果を表5に示す。
また、実施例16~27及び比較例4において製造した13種類のセメント質組成物のデータから、式(1)を用いて算出された数値を独立変数とし、引張強度の実測値を従属変数とする重回帰分析を行い、式(1)を用いて算出された数値と引張強度の実測値の関係式を得た。結果を
図3に示す。
また、引張強度の実測値の代わりに90秒フロー値の実測値を用いる以外は、同様にして重回帰分析を行い、式(1)を用いて算出された数値と90秒フロー値の実測値の関係式を得た。結果を
図4に示す。
【0040】
【0041】
【0042】
表5から、実施例16~27の90秒フロー値(112~180mm)は、比較例6の90秒フロー値(100mm)よりも大きく、本発明のセメント質組成物は、流動性に優れていることがわかる。
また、
図3~4から、式(1)を用いて算出された数値(繊維のアスペクト比とセメント質組成物中の繊維の含有率を乗じてなる数値)と90秒フロー値は、高い正の相関関係を有していることがわかる。また、式(1)を用いて算出された数値と引張強度は、高い負の相関関係を有していることがわかる。
このことから、式(1)を用いて算出された数値が特定の数値範囲内(例えば、40~300)となるように、使用する繊維のアスペクト比とセメント質組成物中の繊維の含有率を定めることで、フレッシュ時(未硬化)には、流動性に優れ、かつ、硬化後には、引張強度(靭性)に優れたセメント質組成物を製造できることがわかる。