(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025155803
(43)【公開日】2025-10-14
(54)【発明の名称】ポリウレタン系歯科切削加工用ミルブランクとその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/18 20060101AFI20251002BHJP
A61C 13/01 20060101ALI20251002BHJP
A61K 6/893 20200101ALI20251002BHJP
【FI】
A61L27/18
A61C13/01
A61K6/893
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024231800
(22)【出願日】2024-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2024051738
(32)【優先日】2024-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 拓也
(72)【発明者】
【氏名】品川 裕作
(72)【発明者】
【氏名】藤田 豊
【テーマコード(参考)】
4C081
4C089
4C159
【Fターム(参考)】
4C081AB06
4C081CA211
4C081EA03
4C089AA01
4C089AA03
4C089BD20
4C089BE10
4C159FF15
(57)【要約】
【課題】 CAD/CAMシステムにより機械的物性に優れる義歯床を作製することが可能で且つ切削加工性が良好なポリウレタン成形体からなる被切削加工部を有する歯科切削加工用ミルブランクを提供する。
【解決手段】 ポリオール成分(I)とジイソシアネート成分(II)とを、(I)中の水酸基総数に対する(II)中のイソシアネート基の比が0.9~1.1になるようにして重付加させて前記ポリウレタン成形体を得るに際して、ポリウレタン中に導入される化学架橋及びウレタン結合に関する指標であって、夫々特定の式で計算される平均架橋点数:NCP及びウレタン基間距離:Dが、NCP=2.0~3.0、D=5~9となるように各成分を構成する化合物を選定する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン樹脂の成形体からなる被切削加工部を有する歯科切削加工用ミルブランクであって、
前記ポリウレタン樹脂は、少なくとも1種のポリオール化合物からなるポリオール成分(I)と少なくとも1種のジイソシアネート化合物からなるジイソシアネート成分(II)とを、
(1) 前記ポリオール成分(I)に含まれる水酸基(-OH)の総数:NOH{=Σ(M(n)×NOH(n))}に対する前記ジイソシアネート成分(II)に含まれるイソシアネート基(-N=C=O)の総数:NNCO{=Σ(M(m)×NNCO(m))}の比:NNCO/NOHが0.9~1.1になるという条件、
(2) 前記重付加反応に用いる前記ポリオール成分(I)について、該成分を構成するポリオール化合物の種類数をnとし、種類ごとに、そのモル数をM(n)とし、1分子中に含まれる水酸基の数をNOH(n)とし、前記重付加反応に用いる前記ジイソシアネート成分(II)について、該成分を構成するジイソシアネート化合物の種類数をmとし、種類ごとに、そのモル数をM(m)とし、1分子中に含まれるイソシアネート基の数:2をNNCO(m)としたときに、
式: NCP={Σ(M(n)×NOH(n))+Σ(M(m)×NNCO(m))}/(ΣM(n)+ΣM(m))
で表される前記ポリウレタン樹脂における平均架橋点数:NCPが2.0~3.0になるという条件、及び
(3) 前記重付加反応に用いる前記ポリオール成分(I)について、該成分を構成するポリオール化合物の種類数をnとし、種類ごとに、そのモル数をM(n)とし、1分子中に含まれる全ての水酸基の中から2個の水酸基を選択する全ての組み合わせにおいて、各組合せで選択された2個の水酸基間に介在する2価の有機基の中で主鎖を構成する原子数が最小のものにおける当該原子数を求めて足し合わせた総和を、前記組合せの数{1分子中の含まれる水酸基数をαとしたときにおけるαC2=α・(α-1)/2}で除した値として定義される、各種ポリオール化合物の平均OH間距離をdOH(n)とし、
前記重付加反応に用いる前記ジイソシアネート成分(II)について、該成分を構成するジイソシアネート化合物の種類数をmとし、種類ごとに、そのモル数をM(m)とし、1分子中に含まれる2個のイソシアネート基間に介在する2価の有機基の中で主鎖を構成する原子数が最小のものにおける当該原子数として定義される、各種ジイソシアネート化合物の平均NCO間距離をdNCO(m)としたときに、
式:D={Σ(M(n)×dOH(n))+Σ(M(m)×dNCO(m))}/(ΣM(n)+ΣM(m))
で表されるウレタン基間距離:Dが5~9になるという条件
を全て満足するようにして重付加させることにより得られるポリウレタン樹脂であることを特徴とする歯科切削加工用ミルブランク。
【請求項2】
前記ポリオール成分(I)が下記一般式(1-a)
【化1】
{式中、Lは水素原子、メチル基又はエチル基であり、メチレンユニットの数を表すaは、0~3の整数であり、分子内に複数存在するaは互いに異なっていてもよく、Rは、単なる結合手又は下記式
【化2】
(式中、xは2~4の整数であり、rは1~6の整数であり、R
1は水素原子又はメチル基であり、複数存在するR
1は互いに異なっていてもよい。)
で示される2価の基である。}
で示される「分子内に水酸基を3個有するポリオール化合物」より選ばれる少なくとも1種の化合物:75~95mol%及び分子内にラジカル重合性基を含むジオール化合物:5~25mol%からなる、
請求項1に記載の歯科切削加工用ミルブランク。
【請求項3】
所定の直径及び厚さを有し、外周には凸部又は凹部が形成されている円柱状又は円盤状の歯科切削加工用ミルブランクである“標準ディスク”を保持することができるディスクホルダーを備えた切削加工機を用いてCAD/CAMシステムで使用される標準ディスクとなる外形を有し、その上面における外周縁近傍領域に、ミルブランク装着位置確認用マーカーを備える、
ことを特徴とする前記請求項1に記載の歯科切削加工用ミルブランク。
【請求項4】
請求項1に記載の歯科切削加工用ミルブランクを製造する方法であって、
前記被切削加工部の製造工程として、
ポリオール化合物からなるポリオール成分(I)と、ジイソシアネート化合物からなるジイソシアネート成分(II)と、の混合物であって、前記(1)~(3)の条件をすべて満足する混合物を含んでなる原料組成物を調製する原料組成物調製工程;及び
前記原料組成物を注型した後に重付加反応を行って、ポリウレタン樹脂成形体を得る重付加工程;
を含む、ことを特徴とする歯科切削加工用ミルブランクの製造方法。
【請求項5】
原料組成物調製工程において、
前記ポリオール成分(I)として、
下記一般式(1-a)及び(1-b)
【化3】
{式中、Lは水素原子、メチル基又はエチル基であり、分子中に複数のLが存在する場合、当該複数のLは、互いに異なっていてもよく、メチレンユニットの数を表すaは、0~3の整数であり、分子内に複数存在するaは互いに異なっていてもよく、Rは、単なる結合手又は下記式
【化4】
(式中、xは2~4の整数であり、yは2~6の整数であり、rは1~6の整数であり、R
1は水素原子又はメチル基であり、複数存在するR
1は互いに異なっていてもよい。)
で示される2価の基である。}
で示される「分子内に水酸基を3又は4個有するポリオール化合物」、並びに
下記一般式(1-c)
【化5】
{式中、bは3~5の整数であり、Rは前記一般式(1-a)~(1-b)におけるRと同義であり、Xは下記式
【化6】
(但し、R
11は炭素数1~3のアルキル基である。)
で示されるいずれかの原子又は基であり、bが4であるときにおけるXの少なくとも一つは水素原子ではなく、bが5であるときにおける2つのXは何れも水素原子ではなく、複数存在するXは互いに異なっていてもよい。}
で示される、「分子内に水酸基を3~5個有するポリオール化合物」
からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物からなる特定ポリオール化合物(I
s)を40~100mol%含む物を使用する、
ことを特徴とする請求項2に記載の歯科切削加工用ミルブランクの製造方法。
【請求項6】
前記ポリオール成分(I)として、前記一般式(1-a)で示される「分子内に水酸基を3個有するポリオール化合物」より選ばれる少なくとも1種の化合物からなる前記特定ポリオール化合物(Is):75~95mol%及び分子内にラジカル重合性基を含むジオール化合物:5~25mol%からなる組成物を用いる、
請求項4に記載の歯科切削加工用ミルブランクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン系歯科切削加工用ミルブランクに関する。詳しくは、歯科用CAD/CAMシステムを用いた切削加工により歯科用補綴物を製造するための切削加工用材料として好適に使用できるポリウレタン系歯科切削加工用ミルブランクに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において、インレー、クラウン、ブリッジ、義歯床などの歯科用補綴物を作製する一手法として、歯科用CAD/CAMシステムを用いて切削加工する方法がある。歯科用CAD/CAMシステムとは、コンピュータを利用し三次元座標データに基づいて歯科用補綴物の設計を行い、切削加工機などを用いて補綴物を作成するシステムである。切削加工用材料としては、ガラスセラミックス、ジルコニア、チタン、レジンなど様々な材料が用いられる。中でも、義歯床においては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂のような有機樹脂の歯科切削加工用材料が使用されている。
【0003】
一方、義歯床作製用樹脂としては、ポリウレタン樹脂が知られている。すなわち、ポリウレタン樹脂は、その原料を変化させることで、レンズのような物性から、ゴムのような物性まで得られることから、熱可塑性ポリウレタン樹脂により義歯を作製することは、古くから検討されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、ポリアミド樹脂は、破折し難いという優れた特長を有することから、1950年代から部分床義歯のような補綴物用の材料として使用されているが、ポリアミド樹脂を用いて作製された義歯床の補修に用いられる義歯床用裏装材に対する接着性は乏しいことが知られている(特許文献1及び非特許文献1参照)。
【0005】
ところで、義歯床、特に総義歯用の義歯床作製用の歯科切削加工用ミルブランクとしては、規格化された直径及び厚さを有するディスク状(円盤状或いは高さの低い円柱状)のものであって、その外周に切削加工機への取り付けに利用される規格化された構造(以下、「ディスク側保持構造またはディスク側保持機構」ともいう。)を有する「標準ディスク」と呼ばれるものが商業的に広く普及している(非特許文献2~3参照)。一方、切削加工機も「標準ディスク」をセットできるような(切削加工機毎に専用の)ディスクホルダーを備えているのが一般的である。なお、ディスクホルダーの具体的形状や標準ディスクを保持する具体的な保持機構は切削加工機によって区々であるが、「標準ディスク」は、通常、ディスクホルダーへの保持を企図したディスク側保持構造(機構)として、外周に形成された凸部又は凹部を有するので、該ディスク側保持構造(機構)を利用して(例えば嵌合又は係合して)標準ディスクを保持できる「標準ディスク保持機構」を有している点では共通している。なお、ディスク側保持構造(機構)は1種ではないもののその種類は限られているため、切削加工機に1又2程度のディスクホルダーを用意することで多くの「標準ディスク」に対応できるようになっている。
【0006】
上記標準ディスクは、直径がかなり大きいため、総義歯だけでなく、部分義歯や歯冠の作製に使用されることもあり、その際には同時に複数の義歯・歯冠を作成することができるといったメリットがある。また、CADソフト上では、標準ディスクの切削がなされていない部分で切削加工出来るように、すでに切削された部分を避けて設計することが可能であり、一部を使用した標準ディスクについて切削がなされていない部分(未使用部分)を再利用する方法も知られている(特許文献3~5参照)。すなわち、特許文献3には、既に歯科修復物が切削されたCADCAMディスクの切削されていない部分から、新に歯科修復物をCAM装置を用いて切削する為に、既に歯科修復物が切削されたCADCAMディスクの画像データを用いて歯科修復切削予定の物配置データを得る方法が記載されている。
【0007】
また、一部を使用した標準ディスクを一旦装置から取り外した後に、位置ずれを起こさないように再装着して上記したような再利用を行う方法として、特許文献4には、標準ディスクである「円柱であり、円柱の上面及び底面は平行であり且つ側面と直角であり、円柱の円周部に少なくとも二つの凹部を有し、凹部は、円柱の上面及び底面から高さ方向に上面及び底面と平行に、且つ、円柱の側面から中心軸方向に円柱の同心円筒状に設け、凹部は上面及び底面と平行な平面と円柱の同心円柱の曲面からなり、凹部の平面と曲面は直角に交わっている歯科用CADCAM用被切削体」に位置決め切欠部を設けると共にそれを保持して切削加工に装着するための保持具に該切り欠き部と嵌合する構造を設ける方法が記載されている。更に、一部を使用した標準ディスクを一旦装置から取り外した後に、別の切磋化装置に装着して上記したような再利用を行う方法として、特許文献5には、「切削加工機に装着可能であり、かつ前記切削加工機への装着方向が物理的に定義された保持具に、被加工物を装着した状態で、撮像装置によって前記被加工物の形状を撮影し、被加工物の形状データを取得する工程と、目的とする歯科技工物の形状データが前記被加工物の形状データ内の任意の位置に配置される工程を備える、歯科技工物の形状データの配置方法」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013-249297号公報
【特許文献2】特願昭61-220646号公報
【特許文献3】特開2018-171312号公報
【特許文献4】特許第6344808公報
【特許文献5】特開2020-137956公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】笛木賢治他「熱可塑性樹脂を用いた部分床義歯(ノンメタルクラスプデンチャー)の臨床応用」日本補綴歯科学会会誌、4号、387-408頁、2013年発行
【非特許文献2】YAMAKIN社、KZR-CADデンチャーPC&プロビPC製品パンフレット、[2024年8月9日検索]、インターネット〈URL:https://www.yamakin-gold.co.jp/technical_support/webrequest/pdf/kzr-cad_pc.pdf〉
【非特許文献3】Zilkonzahn社、Millable materials、[2024年8月9日検索]、インターネット〈URL:https://zirkonzahn.com/en/products/millable-materials〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記したように、ポリウレタン樹脂を用いることにより、好ましい機械的物性を有する義歯床を作製することが可能であるが、熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いて義歯床を作製する場合には、専ら射出成型法により、該樹脂の切削加工性が悪いこともあってCAD/CAMシステムが用いられることは無かった。
【0011】
そこで、本発明はCAD/CAMシステムにより良好な物性を有するポリウレタン樹脂製の義歯床を作製することができ、歯科切削加工用ミルブランク及びその製造方法を提供することを第一の目的とする。
【0012】
また、一部を使用して一旦装置から取り外したミルクブランクを同一又は異なる装置に装着して再利用する場合に、既に歯科修復物が切削された形状データを用いて設計された新たな歯科用補綴物切削用形状データに基づくCAMによりNCデータ(或いはツールパス)を作成し、これに従い、ディスクホルダーに加工を施すことなく、切削加工機専用のディスクホルダーをそのまま使用して新たな歯科用補綴物を切削できる上記歯科切削加工用ミルブランクを提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するものであり、本発明の第一の形態は、ポリウレタン樹脂の成形体からなる被切削加工部を有する歯科切削加工用ミルブランクであって、
前記ポリウレタン樹脂は、少なくとも1種のポリオール化合物からなるポリオール成分(I)と少なくとも1種のジイソシアネート化合物からなるジイソシアネート成分(II)とを、
(1) 前記ポリオール成分(I)に含まれる水酸基(-OH)の総数:NOH{=Σ(M(n)×NOH(n))}に対する前記ジイソシアネート成分(II)に含まれるイソシアネート基(-N=C=O)の総数:NNCO{=Σ(M(m)×NNCO(m))}の比:NNCO/NOHが0.9~1.1になるという条件、
(2) 前記重付加反応に用いる前記ポリオール成分(I)について、該成分を構成するポリオール化合物の種類数をnとし、種類ごとに、そのモル数をM(n)とし、1分子中に含まれる水酸基の数をNOH(n)とし、前記重付加反応に用いる前記ジイソシアネート成分(II)について、該成分を構成するジイソシアネート化合物の種類数をmとし、種類ごとに、そのモル数をM(m)とし、1分子中に含まれるイソシアネート基の数:2をNNCO(m)としたときに、
式: NCP={Σ(M(n)×NOH(n))+Σ(M(m)×NNCO(m))}/(ΣM(n)+ΣM(m))
で表される前記ポリウレタン樹脂における平均架橋点数:NCPが2.0~3.0になるという条件、及び
(3) 前記重付加反応に用いる前記ポリオール成分(I)について、該成分を構成するポリオール化合物の種類数をnとし、種類ごとに、そのモル数をM(n)とし、1分子中に含まれる全ての水酸基の中から2個の水酸基を選択する全ての組み合わせにおいて、各組合せで選択された2個の水酸基間に介在する2価の有機基の中で主鎖を構成する原子数が最小のものにおける当該原子数を求めて足し合わせた総和を、前記組合せの数{1分子中の含まれる水酸基数をαとしたときにおけるαC2=α・(α-1)/2}で除した値として定義される、各種ポリオール化合物の平均OH間距離をdOH(n)とし、
前記重付加反応に用いる前記ジイソシアネート成分(II)について、該成分を構成するジイソシアネート化合物の種類数をmとし、種類ごとに、そのモル数をM(m)とし、1分子中に含まれる2個のイソシアネート基間に介在する2価の有機基の中で主鎖を構成する原子数が最小のものにおける当該原子数として定義される、各種ジイソシアネート化合物の平均NCO間距離をdNCO(m)としたときに、
式:D={Σ(M(n)×dOH(n))+Σ(M(m)×dNCO(m))}/(ΣM(n)+ΣM(m))
で表されるウレタン基間距離:Dが5~9になるという条件
を全て満足するようにして重付加させることにより得られるポリウレタン樹脂であることを特徴とする歯科切削加工用ミルブランクである。
【0014】
上記形態の歯科切削加工用ミルブランク(以下、「本発明のミルブランク」ともいう。)においては、前記ポリオール成分(I)が下記一般式(1-a)
【0015】
【0016】
{式中、Lは水素原子、メチル基又はエチル基であり、メチレンユニットの数を表すaは、0~3の整数であり、分子内に複数存在するaは互いに異なっていてもよく、Rは、単なる結合手又は下記式
【0017】
【0018】
(式中、xは2~4の整数であり、rは1~6の整数であり、R1は水素原子又はメチル基であり、複数存在するR1は互いに異なっていてもよい。)
で示される2価の基である。}
で示される「分子内に水酸基を3個有するポリオール化合物」より選ばれる少なくとも1種の化合物:75~95mol%及び分子内にラジカル重合性基を含むジオール化合物:5~25mol%からなる、ことが好ましい。
【0019】
また、所定の直径及び厚さを有し、外周には凸部又は凹部が形成されている円柱状又は円盤状のミルブロックである“標準ディスク”を保持することができるディスクホルダーを備えた切削加工機を用いてCAD/CAMシステムで使用される標準ディスクとなる外形を有し、その上面の外周縁近傍領域に、ミルブランク装着位置確認用マーカー(以下、「確認用マーカー」ともいう。)を備える、ことが好ましい。
【0020】
本発明の第二の形態は、本発明のミルブランクを製造する方法であって、
前記被切削加工部の製造工程として、
ポリオール化合物からなるポリオール成分(I)と、ジイソシアネート化合物からなるジイソシアネート成分(II)と、の混合物であって、前記(1)~(3)の条件をすべて満足する混合物を含んでなる原料組成物を調製する原料組成物調製工程;及び
前記原料組成物を注型した後に重付加反応を行って、ポリウレタン樹脂成形体を得る重付加工程;
を含む、ことを特徴とする歯科切削加工用ミルブランクの製造方法である。
【0021】
上記形態の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)においては、前記原料組成物調製工程において、前記ポリオール成分(I)として、下記一般式(1-a)及び(1-b)
【0022】
【0023】
{式中、Lは水素原子、メチル基又はエチル基であり、分子中に複数のLが存在する場合、当該複数のLは、互いに異なっていてもよく、メチレンユニットの数を表すaは、0~3の整数であり、分子内に複数存在するaは互いに異なっていてもよく、Rは、単なる結合手又は下記式
【0024】
【0025】
(式中、xは2~4の整数であり、yは2~6の整数であり、rは1~6の整数であり、R1は水素原子又はメチル基であり、複数存在するR1は互いに異なっていてもよい。)
で示される2価の基である。}
で示される「分子内に水酸基を3又は4個有するポリオール化合物」、並びに
下記一般式(1-c)
【0026】
【0027】
{式中、bは3~5の整数であり、Rは前記一般式(1-a)~(1-b)におけるRと同義であり、Xは下記式
【0028】
【0029】
(但し、R11は炭素数1~3のアルキル基である。)
で示されるいずれかの原子又は基であり、bが4であるときにおけるXの少なくとも一つは水素原子ではなく、bが5であるときにおける2つのXは何れも水素原子ではなく、複数存在するXは互いに異なっていてもよい。}
で示される、「分子内に水酸基を3~5個有するポリオール化合物」
からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物からなる特定ポリオール化合物(Is)を40~100mol%含む物を使用する、ことが好ましい。
【0030】
さらに、上記の好ましい態様においては、前記ポリオール成分(I)として、前記一般式(1-a)で示される「分子内に水酸基を3個有するポリオール化合物」より選ばれる少なくとも1種の化合物からなる前記特定ポリオール化合物(Is):75~95mol%及び分子内にラジカル重合性基を含むジオール化合物:5~25mol%からなる組成物を用いる、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、CAD/CAMシステムにより良好な物性を有するポリウレタン樹脂製の義歯床を作製することができる歯科切削加工用ミルブランク及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本図は、外周部に凸部を有する代表的な標準ディスク1aの平面図(a-1)および側面図(a-2)並びに外周部に凹部を有する代表的な標準ディスク1bの平面図(b-1)および側面図(b-2)を示すものである。
【
図2】本図は、
図1に示す標準ディスク1aを保持するための全外周適合型ディスクホルダーの模式的な正面図(a-1)、側面図及びその断面図(a-2)と、該ディスクホルダーに上記標準ディスク1aを保持したときの模式的な断面図(a-3);標準ディスク1aを保持するための半外周適合型ディスクホルダーの模式的な正面図(b):並びに、
図1に示す標準ディスク1bを保持するための全外周適合型ディスクホルダーの模式的な正面図(c-1)と、該ディスクホルダーに上記標準ディスク1bを保持したときの模式的な断面図(c-2)を示すものである。
【
図3】本図は、本発明のミルブランクの好適な形態の上面図及び側面図である。なお、左側の図(A)は凸形状の確認用マーカーを3個有する態様の図であり、右側の図(B)は凹形状の置確認用マーカーを3個有する態様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
前記した様に、義歯床材料としてのポリウレタン樹脂は熱可塑性であるため、切削加工した場合には、切削時の熱により樹脂自体が溶けてしまい、切削バーへの焼き付きや切削物の精度不良等が発生しやすい。そのため、物性等は優れるにも拘わらず、切削加工用材料として、ポリウレタン樹脂が用いられることはほとんどなかった。本発明者等は、ポリウレタン樹脂に架橋を導入して熱硬化性とすれば切削加工性を高めることができると考え、検討を行った。その結果、架橋を導入することにより切削性を向上させることはできたものの、裏層材等に対する接着性に問題があることが判明した。そこで、ポリウレタン樹脂の架橋状態と接着性との関係に着目し、種々検討を行った結果、原料であるポリオールの官能基数を減少させて化学架橋密度を大きく低下させた場合には、十分な接着性を得ることができないばかりか切削性が悪化すること、原料ポリオールにおけるOH基間の距離、原料ジイソシアネートにおけるNCO基間の距離変えて(ハードセグメントの水素接合等による)物理架橋状態を変化させた場合には、制御する接着性が向上することがあること、前記(1)~(3)の条件を全て満足するようにして原料ポリオールと原料ジイソシアネートを重付加させて化学架橋を少なくして物理架橋を多くしたときに、接着性と切削性を両立できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0034】
切削性と接着性が両立された作用機構は、必ずしも明らかではないが、本発明者らは次のように推定している。すなわち、前記(1)~(3)の条件をすべて満足するようにして重付加を行って得られるポリウレタンにおいては、化学架橋と物理架橋が共存して、切削バーへの焼き付き等を防止可能で且つ裏層材等における重合性単量体(モノマー)成分の含侵が阻害しない適度な架橋状態となったことにより、切削加工性と接着性の両立が可能となったものと推定している。
【0035】
以下に、本発明のミルブランク及び本発明の製造方法について詳しく説明する。なお、本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。また、本明細書において、「(メタ)アクリル系」との用語は「アクリル系」及び「メタクリル系」の両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」との用語は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味し、「(メタ)アクリロイル」との用語は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両者を意味する。
【0036】
1.本発明のミルブランクについて
本発明のミルブランクは、ポリウレタン樹脂の成形体からなる被切削加工部を有する歯科切削加工用ミルブランクであって、前記ポリウレタン樹脂が、化学架橋と物理架橋が共存する特定の架橋構造を有することを特徴とする。当該架橋構造を分析により特定することは実質的に不可能であるため、本発明では、ポリウレタン樹脂の製造条件として特定している。
【0037】
すなわち、本発明のミルブランクの被切削加工部を構成するポリウレタン樹脂(以下、「本ポリウレタン」ともいう。)は、少なくとも1種のポリオール化合物からなるポリオール成分(I)と少なくとも1種のジイソシアネート化合物からなるジイソシアネート成分(II)とを、下記条件(1)~(3)全て満足するようにして重付加反応させて得られるポリウレタン樹脂である。
【0038】
条件(1): 前記ポリオール成分(I)に含まれる水酸基(-OH)の総数:NOH{=Σ(M(n)×NOH(n))}に対する前記ジイソシアネート成分(II)に含まれるイソシアネート基(-N=C=O)の総数:NNCO{=Σ(M(m)×NNCO(m))}の比:NNCO/NOHが0.9~1.1になること。
条件(2) 前記重付加反応に用いる前記ポリオール成分(I)について、該成分を構成するポリオール化合物の種類数をnとし、種類ごとに、そのモル数をM(n)とし、1分子中に含まれる水酸基の数をNOH(n)とし、前記重付加反応に用いる前記ジイソシアネート成分(II)について、該成分を構成するジイソシアネート化合物の種類数をmとし、種類ごとに、そのモル数をM(m)とし、1分子中に含まれるイソシアネート基の数:2をNNCO(m)としたときに、
式: NCP={Σ(M(n)×NOH(n))+Σ(M(m)×NNCO(m))}/(ΣM(n)+ΣM(m))
で表される前記ポリウレタン樹脂における平均架橋点数:NCPが2.0~3.0になること。
条件(3) 前記重付加反応に用いる前記ポリオール成分(I)について、該成分を構成するポリオール化合物の種類数をnとし、種類ごとに、そのモル数をM(n)とし、1分子中に含まれる全ての水酸基の中から2個の水酸基を選択する全ての組み合わせにおいて、各組合せで選択された2個の水酸基間に介在する2価の有機基の中で主鎖を構成する原子数が最小のものにおける当該原子数を求めて足し合わせた総和を、前記組合せの数{1分子中の含まれる水酸基数をαとしたときにおけるαC2=α・(α-1)/2}で除した値として定義される、各種ポリオール化合物の平均OH間距離をdOH(n)とし、
前記重付加反応に用いる前記ジイソシアネート成分(II)について、該成分を構成するジイソシアネート化合物の種類数をmとし、種類ごとに、そのモル数をM(m)とし、1分子中に含まれる2個のイソシアネート基間に介在する2価の有機基の中で主鎖を構成する原子数が最小のものにおける当該原子数として定義される、各種ジイソシアネート化合物の平均NCO間距離をdNCO(m)としたときに、
式:D={Σ(M(n)×dOH(n))+Σ(M(m)×dNCO(m))}/(ΣM(n)+ΣM(m))
で表されるウレタン基間距離:Dが5~9になる。
【0039】
前記条件(1)は、ポリオール成分(I)とジイソシアネート成分(II)とが過不足なく化学量論的に重付加反応してポリウレタン樹脂を形成するための条件であり、NNCO/NOH=1.0とすることが理想的であるが、±0.1以内、好ましくは±0.05以内であれば未反応の化合物が残存しても問題ない。
【0040】
前記条件(2)及び(3)はポリウレタン樹脂の架橋状態(化学架橋と物理架橋が混在する状態)を規定するものであり、条件(2)が化学架橋の状態を、条件(3)が物理架橋の状態を夫々規定している。
【0041】
先ず前記条件(2)について説明すると、化学架橋は、1分子中に水酸基を3以上有するポリオール化合物を用いることによって導入され、1molのポリオール成分(I)と前記ポリオールの水酸基の量と化学両論的に釣り合うだけのイソシアネート基となるだけのジイソシアネート成分(II)を重付加させて高分子量のポリウレタン得る場合に、(両末端の水酸基又はイソシアネート基は無視できるので)2molを超える量(数)のウレタン結合{-NHC(=O)O-}が形成された場合にはポリウレタン中に化学架橋が導入されたことになる。平均架橋点数:NCPは、その指標となるもので、ジオール化合物のみからなるポリオール成分(I)とジイソシアネート成分(II)とをNNCO/NOH=1.0となるように重付加させて得られる(化学架橋を有しない)鎖状分子からなるポリウレタンではNCP=2となり、化学架橋が導入される場合には2を超える値となり、その値が大きいほど化学架橋の導入量は多くなる。
【0042】
例えば、NOH=3のグリセロールトリプロポキシレート(GTP)と、NNCO=2のキシリレンジイソシアネート(XDI)をNNCO/NOH=1.0となるように重付加させる場合には、GTPが2molに対して、XDIは3mol使用する。そのため、重付加により得られるポリウレタンの平均架橋点数は、NCP=(3×2+2×3)/(2+3)=2.4となる。
【0043】
本ポリウレタンを形成する際のNCPは、2.0~3.0であればよいが、2.3~2.6であることが好ましい。
【0044】
次に条件(3)について説明すると、物理架橋は、ハードセグメントとなるウレタン結合間の水素接合等によって形成されるが、その形成状態はウレタン結合間の鎖長の影響を受ける。該鎖長が短すぎる場合には化学架橋形成が困難となりやすく、反応性が制限され、また長すぎる場合にはウレタン結合の凝集が起こり難く、物理架橋は形成され難いと考えられる。ウレタン基間距離:Dは、平均的な上記鎖長を表すものである。
【0045】
例えば、上記と同様にGTP:2molとXDI:3molを重付加させる場合、GTPには、3C2=3×2/2=3個のOH基間距離が存在し、各OH基間距離は、8、8及び9となるため、dOHは8.3と計算される。他方、XDIのdNCOは5.0であるから、ウレタン基間距離は、D={(2×8.3)+(3×5.0)}/(2+3)=6.32となる。
【0046】
本ポリウレタンを形成する際のDは、5~9であればよいが、5~7であることが好ましい。
【0047】
本ポリウレタンが化学架橋構造を有することは、少なくとも100℃以下の温度範囲にガラス転移点(Tg)を有しないことからかも確認することができる。
【0048】
ここで、ガラス転移点(Tg)とは、高分子の熱物性を表すパラメータであり、Tgを境にゴム弾性体のような柔軟な構造とガラスのような硬い弾性体を遷移する。ガラス転移点は一般的に、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される。本発明では、測定試料となる樹脂成形体についてDSCを用いて、窒素雰囲気下、20℃から、昇温速度10℃/分で100℃まで昇温させ、その後降温し、20℃となった点から再度昇温速度10℃/分で100℃まで昇温させる。この過程により、高分子のDSC曲線を得て、得られたDSC曲線の内、再度昇温したときの曲線において、低温側のベースラインを延長した直線と階段状変化部分の接線とが交わる温度をガラス転移点とする。
【0049】
本ポリウレタンは、化学架橋構造を有するため、前記測定を行った場合、測定範囲である20~100℃の範囲に階段状変化部分を有さない。そのため、切削バーへの焼き付きや精度不良が抑制される。加えて、得られたミルブランクの変形、あるいは、サイズの変化も抑制されるため、後述する測定用のミルブランク装着位置確認用マーカーを設ける際に、有利となる。
【0050】
前記した様に、本発明のミルブランクは、特定の架橋構造を有するポリウレタン樹脂の成形体からなる被切削加工部を有するものであるが、その架橋構造は製造方法により特定されるものであり、本発明のミルブランクは、以下に説明する本発明の製造方法により製造されるものであるともいえる。
【0051】
2.本発明の製造方法について
本発明の製造方法は、本発明のミルブランクを製造する方法であって、前記被切削加工部の製造工程として、ポリオール化合物からなるポリオール成分(I)と、ジイソシアネート化合物からなるジイソシアネート成分(II)と、の混合物であって、前記(1)~(3)の条件をすべて満足する混合物を含んでなる原料組成物を調製する原料組成物調製工程;及び前記原料組成物を注型した後に重付加反応を行って、ポリウレタン樹脂成形体を得る重付加工程;を含む、ことを特徴とする。
【0052】
以下に、原料として使用する各成分及び各工程について説明する。
【0053】
<ポリオール成分(I)>
ポリオール成分(I)は、ジイソシアネート成分(II)と重付加反応してウレタン結合により両成分が結合したユニットが連結したポリウレタン樹脂を形成する。ポリオール成分(I)は、ポリオール化合物からなり前記条件(2)及び(3)を満足するものであればよいが、これら条件を満足させ易いという理由から、下記一般式(1-a)及び(1-b)で示される「分子内に水酸基を3又は4個有するポリオール化合物」、並びに下記一般式(1-c)で示される「分子内に水酸基を3~5個有するポリオール化合物」からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物からなる特定ポリオール化合物(Is)を40~100mol%含むことが好ましく、下記一般式(1-a)で示される「分子内に水酸基を3個有するポリオール化合物」より選ばれる少なくとも1種の化合物からなる前記特定ポリオール化合物(Is):75~95mol%及び分子内にラジカル重合性基を含むジオール化合物:5~25mol%からなる組成物を用いることが特に好ましい。
【0054】
【0055】
なお、上記式(1-a)及び(1-b)中における、Lは水素原子、メチル基又はエチル基を表す。また、メチレンユニットの数を表すaは、0~3の整数であり、分子内に複数存在するaは互いに異なっていてもよい。また、Rは、単なる結合手又は下記式で示される2価の基である。
【0056】
【0057】
なお、上記式中のxは2~4の整数を表し、yは2~6の整数を表し、rは1~6の整数を表している。また、R1は水素原子又はメチル基を意味し、複数存在するR1は互いに異なっていてもよい。
【0058】
また、前記一般式(1-c)におけるbは3~5の整数を表し、Rは前記一般式(1-a)~(1-b)におけるRと同義である。また、Xは下記式で示されるいずれかの原子又は基であり、bが4であるときにおけるXの少なくとも一つは水素原子ではなく、bが5であるときにおける2つのXは何れも水素原子ではなく、複数存在するXは互いに異なっていてもよい。
【0059】
【0060】
なお、上記式中のR11は炭素数1~3のアルキル基を表している。
【0061】
前記式(1-a)で示される化合物としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、グリセロールトリプロポキシレート、トリメチロールプロパンエトキシレート等を挙げることがき、前記式(1-b)で示される化合物としては、ペンタエリスリトール、ペンタエリスリトールテトラプロポキシレート、ε―カプロラクトン変性ペンタエリスリトール等を挙げることがき、前記式(1-c)で示される化合物としては、ジグリセリン、ジグセリンモノアセチル、ポリオキシエチレンポリグリセリルエーテル、トリグリセロールジ(メタ)アクリレート等を挙げることがきる。
【0062】
本発明で特に好適に使用できる特定ポリオール化合物(Is)を具体的に例示すれば、グリセロールトリプロポキシレート、トリメチロールプロパンエトキシレート、ペンタエリスリトールテトラプロポキシレート、トリグリセロールジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0063】
なお、ポリオール成分(I)を構成する特定ポリオール化合物(Is)以外のポリオール化合物としては、特定ポリオール化合物(Is)以外の化合物であって分子内に水酸基を2以上有する化合物が特に制限なく使用できる。裏層材等との化学的な結合が期待でき、接着性の向上が見込めるという理由から、ラジカル重合性基を有するジオール化合物であることが好ましい。このようなジオール化合物を例示すれば、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルやビスフェノールAジグリシジルエーテルの酸((メタ)アクリル酸やビニル安息香酸)開環物を挙げることができる。これらの中でもグリセロールモノ(メタ)アクリレート、及び、ビスフェノールAジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸開環物からなる群より選ばれる少なくとも1種、を使用することが好ましい。
【0064】
すなわち、本発明の製造方法では、ポリオール成分(I)として、グリセロールトリプロポキシレート、トリメチロールプロパンエトキシレート、ペンタエリスリトールテトラプロポキシレート、トリグリセロールジ(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物からなる特定ポリオール化合物(Is):75~95mol%並びにトリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート及びペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルやビスフェノールAジグリシジルエーテルの酸((メタ)アクリル酸やビニル安息香酸)開環物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物からなるラジカル重合性基を有するジオール化合物:5~25mol%からなることが特に好ましい。
【0065】
<ジイソシアネート成分(II)>
ジイソシアネート成分(II)は、1分子中に2個のイソシアネート基を有する化合物からなる。ジイソシアネート成分(II)として好適に使用できる化合物を例示すれば、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアナート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート、m-キシリレンジイソシアナートなどを挙げることができる。これらの化合物は、単独で、もしくは組み合わせて使用することができる。ジイソシアネート成分(II)は、m-キシリレンジイソシアナートを含むことが好ましい。
【0066】
<その他の成分>
原料組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、ラジカル重合性基を有するモノオール、ラジカル重合性基を有するモノイソシアネート、ポリウレタンの重付加を促進する触媒(以下、「ウレタン重合触媒」ともいう。)、顔料、蛍光剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料、抗菌材、X線造影剤など配合することができ、その添加量は目的に応じて適宜決定すればよい。
【0067】
ラジカル重合性基を有するモノモールとしては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等)、ヒドロキシアルキレングリコール(メタ)アクリレート等が使用でき、ラジカル重合性基を有するモノイソシアネートを具体的に例示すれば、イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、イソシアナトエチルオキシエチルオキシ(メタ)アクリレート、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等が使用できる。
【0068】
また、好適に使用できるウレタン重合触媒としては、ジブチル錫ジアセテートやジブチル錫ジラウレートのような錫触媒、トリエチレンジアミンのようなアミン触媒、ジルコニウムアセチルアセトナート等を挙げることができる。
【0069】
<原料組成物調製工程>
本ポリウレタンの原料となる原料組成物は、前記条件(1)~(3)を満足するように、ポリオール成分(I)及びジイソシアネート成分(II)の組成及び量を決定した上で、必要量の各成分を混合することにより製造することができる。
【0070】
このとき、ポリオール成分(I)及びジイソシアネート成分(II)の組成及び量の決定は、先ずジイソシアネート成分(II)の組成を決定し、ジイソシアネート化合物の種類数:m、種類ごとのモル数:M(m)各種ジイソシアネート化合物の平均NCO間距離:dNCO(m)を確定した上で、ポリオール成分(I)の組成を決定することが好ましい。また、ポリオール成分(I)の組成を決定に際しては、特定ポリオール化合物(Is)の主成分となる化合物を決めて、該化合物の水酸基数:NOH及び平均OH間距離dOH(n)を確認してから、必要に応じて配合する他の特定ポリオール化合物(Is)や特定ポリオール化合物(Is)以外のポリオール化合物についてこれらのNOH及びdOH(n)を確認して、前記条件(2)及び(3)を満足するように組成を決定すする子が好ましい、そして、このようにしてポリオール成分(I)及びジイソシアネート成分(II)の組成を決定した後に、前記条件(1)を満足するように両成分の使用量を決定すれば良い。
【0071】
なお、ポリオール成分(I)に関しては、接着性に優れた歯科切削加工用ミルブランクを得ることができるという観点から、2種類以上のポリオールを含み、かつ、それらの最大のdOH(n)と最小のdOH(n)との差が10~20、好ましくは10~15、最も好ましくは12~15となるようにすることが好ましい。
【0072】
各成分の混合方法は特に限定されず、マグネチックスターラー、撹拌羽、遠心混合機などを用いて、撹拌混合する方法等が好適に用いられる。
【0073】
混合時は、不用意な反応を抑制するために、温度制御を行うことが好ましい。特に、高温となった場合には、急激な反応進行が危惧されるため、10~40℃、より好ましくは、10~30℃に制御することが好ましい。
【0074】
本工程において、原料成分を溶解させるために、溶媒等を用いてもよいが、除去の工程が必要となること、残存によりポリウレタンの物性に悪影響を与える点から、溶媒は使用せずに、ポリオール成分(I)とジイソシアネート成分(II)のいずれかは液体とすることが好ましく、両者を液体とすることがより好ましい。
【0075】
このように混合して調製された混合物は、重付加させる前に、脱泡処理を施し、内部に含まれる気泡を無くしておくことが好ましい。脱泡の方法としては公知の方法が用いられ、加圧脱泡、真空脱泡、遠心脱泡等の方法を任意に用いることができる。
【0076】
なお、続く重付加工程において、重付加を効率よく進めるために、原料組成物には、ウレタン重合触媒を配合してもよい。さらに、目的に応じた任意の成分を添加する場合には、本混合工程において、混合しておくことが好ましい。この時、長時間の分散処理を必要とするものは、予めポリオール成分(I)に混合しておくことが好ましい。
【0077】
前記混合物における(I)成分と(II)成分の量比は、前記条件(1)を満足すようにすればよい。
【0078】
<重付加工程>
混合工程で得られた原料組成物を注型し、重付加反応させることによりポリウレタンが形成し、歯科切削加工用ミルブランクを得ることができる。前記原料組成物を重付加反応させて本発明の歯科切削加工用ミルブランクを製造する方法は特に限定されない。
【0079】
注型の際に用いる型は特に限定されず、製品形態ごとにあらかじめ想定している形状に応じて、角柱、円柱、角板、円板状のものが適宜使用される。また、その大きさは、収縮率等を考慮して、重付加後のものがそのまま想定形状となるようなものであってもよく、また、重付加後の加工を想定し、加工代を見込んだ大きめのものであってもよい。型の素材も特に限定されないが、副反応の抑制、離型性の観点から、ポリエチレンやポリプロピレンのような樹脂製の型を用いることが好ましい。
【0080】
型への混合物の注入方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。混合時に気泡が混入することを抑制するため、加圧注型、真空注型によって行われることが好適である。
【0081】
注型された混合物を加熱することにより重付加反応が起こり、硬化が行われる。重合時には反応熱により発熱するため、加熱に際しては、温度(硬化温度)を制御することが好ましい。具体的には、工業的に許容できる速度で重合硬化が進行し、且つ急激な反応進行により硬化体中に歪やクラックを発生させず、さらにモノマー劣化を起こしにくいという観点から、120℃を越えないように制御することが好ましく、100℃未満であることがより好ましい。
【0082】
加熱により重付加反応させる際には、気泡に起因するボイドが硬化体中に形成されるのを抑制するために、加圧することが好ましい。加圧の方法に制限はなく、機械的に加圧しても良いし、窒素等の気体による加圧を行っても良い。
【0083】
前記重付加反応によって得られた硬化体は、型から取り出された後に、必要に応じて、残留応力を緩和させるための熱処理、必要とする形状やより使いやすい形状に修正するための切削加工、研磨などの処理等の後処理や加工等を行ってもよい。CAD/CAM装置に保持するためのピン等の固定具の接合や円板形状への加工によって、歯科切削加工用ミルブランクとされる。
【0084】
本発明の歯科切削加工用ミルブランクは、歯冠用レジン材料、床用レジン材料、矯正用材料、マウスガード用材料に用いることができる。特に、床用レジン材料に好適に用いることができる。
【0085】
3.本発明のミルブランクの形状について
前記した様に、歯科切削加工用ミルブランクにおいては、「標準ディスク」が商業的に広く普及しており、切削加工機においても該「標準ディスク」をセットできるような(切削加工機毎に専用の)ディスクホルダーを備えているのが一般的であるため、本発明のミルブランクについても、「標準ディスク」として提供されることが好ましい。また、本発明の歯科切削加工用ミルブランクが標準ディスクである場合、その上面の外周縁近傍領域に、ミルブランク装着位置確認用マーカー(確認用マーカー)を備える、ことが特に好ましい。
【0086】
以下に、図面を参照して、標準ディスク、標準ディスク用ディスクホルダー(単にディスクホルダーともいう。)及び、確認用マーカー付標準ディスクについて、詳しく説明する。
【0087】
<標準ディスク>
図1に示すように、「標準ディスク」1とは、(総)義歯床作製用に使用される所定の直径及び厚さを有する、義歯床材料からなるディスク状(円盤状)の歯科加工用ミルブロックであり、所定の直径及び厚さを有するディスク状(円盤状:高さの低い円柱状)の形状を有するディスク本体の外周に凸部3a又は凹部3bからなるディスク側保持構造(機構)3が形成されたものである。ここで、例えば非特許文献1及び非特許文献2における所定の直径とは、94~95mmであり、所定の厚さとは、16mm、35mm等、15~40mm程度の厚みである。なお、上記所定の直径とは、上記ディスク本体における円盤(高さの低い円柱)における円形の上面及び底面の直径を指すものである。
【0088】
凸状のディスク側保持機構(機構)を有する代表的な標準ディスク1aの平面図及び側面図を
図1の(a-1)及び(a-2)に示す。標準ディスク1aにおける(ディスク側)保持機構3は、ディスク本体である円盤の外周2(側面)の高さ方向の中央部に形成された、所定の幅(高さ方向の長さに該当する。)及び厚さ(凸部外周の半径と円盤外周の半径との差に相当する。)を有する連続した帯状の凸部3aからなっている。
【0089】
次に、凹状の(ディスク側)保持機構3を有する代表的な標準ディスク1bの平面図及び側面図を
図1(b-1)及び(b-2)に示す。標準ディスク1bは、円盤(高さの低い円筒)上のディスク本体の外周2(側面)にその上面(及び/又は底面)から下方(及び/又は上方)に向かって切り欠いた(切り欠き部の形状が柱状、錐台状又は錐状の)凹部3bからなる保持機構が複数形成されている。図では上面及び底面側から略半円で、高さが標準ディスクの厚さの1/4程度の柱状の凹部3bが等間隔で夫々3つ(上下で6つ)形成されている。
【0090】
<ディスクホルダー>
図2に示すように、ディスクホルダー4とは、CAD/CAMシステムを利用した総義歯作製に使用される切削加工機に標準的に装備される、「標準ディスク」1をセットするために使用される備品又は治具であり、その具体的態様は装置により異なる場合があるものの、前記ディスク側保持構造(機構)3を利用して(例えば嵌合又は係合して)標準ディスク1を保持できる標準ディスク保持機構を有している点、より具体的には、ディスク側保持構造(機構)3である前記凸部3a又は凹部3bと嵌合又は係合する凹部6a又は凸部6bからなる標準ディスク保持機構6を具備するディスク保持枠5を有している点では共通している。
【0091】
前記標準ディスク1aに対応するディスクホルダー4は、ディスク側保持構造(機構)3である上記凸部3aと嵌合又は係合する凹部6aからなる標準ディスク保持機構6を有している。このような保持機構を有するディスクホルダー4aの平面図を
図2の(a-1)に、(a-1)の側方図及び断面図を
図2の(a-2)に、前記ディスクホルダー4aに標準ディスク1aを保持した状態を
図2の(a-3)に示す。ディスクホルダー4aは、中央部に標準ディスク1aのディスク本体の直径に相当する直径を有する円形の孔(保持孔)が夫々形成された上部固定板7及び下部固定板8と、標準ディスク保持機構6となる凹部6aを形成するための円筒壁部材9と、を有し、円筒壁部材9を挟んで上部固定板7と下部固定板8とが保持孔の中心の位置が一致するように平行に配置された状態で螺子などを用いて固定できる基本構造を有し、これらが固定された状態でディスク保持枠5を構成するものである。
【0092】
円筒壁部材9は、標準ディスク1aの凸部3aの外周に対応する円筒壁であり、その中心が保持孔の中心の位置が一致するように配置され、円筒壁部材9の内周面と、(ディスク保持枠内5に庇上に突き出た)上部固定板7の下面と下部固定板8の上面によって凹部6aが形成されている。そして、
図2(a-3)に示すように該凹部6a内に(ディスク側)保持機構3である凸部3aが収容され、ディスクホルダー4aに標準ディスク1aが保持される。
【0093】
ディスクホルダー4aに標準ディスク1aを保持して固定する時は、上部固定板7が取り外された状態で標準ディスク1aを下部固定板8の上面に凸部3aの下面が接するようにして載置してから上部固定板7が取り付けて、上部固定板7、下部固定板8及び円筒壁部材9を(例えば螺子で)固定すれば良い。また、図示しないが、上部固定板7及び下部固定板8の少なくとも1方は、回動又はスライド移動が可能な2以上のパーツによって構成され、ばね機構などを利用して、一時的に保持孔を広げて元の位置に戻るような仕組みにより、標準ディスクの着脱を行うようにしても良い。さらに、図示しないが、ディスクホルダー4には、切削加工機の構造に対応して切削加工機に着脱可能に取り付けることができる機構を有している。
【0094】
なお、ディスクホルダー4aは標準ディスク1aに対応可能なディスクホルダーの一例であり、図には、上部固定板7及び下部固定板8として外径が夫々矩形で同一形状であるものを示したが、両者の形状は異なっていてもよく外形は例えば円形や多角形であってもよい。また、円筒壁部材9については、円筒壁部材を円周に沿って縦に切断して複数に分割した(横断面が)弧状の部材を、幾つか間隔を空けて配置したものであってもよい。更に、
図2(b)に示すディスクホルダー4bのようにディスクホルダー4a全体を2分割したようなものであってもよい。
【0095】
前記標準ディスク1bに対応するディスクホルダー4は、ディスク側保持構造(機構)3である上記凹部3bと嵌合又は係合する凸部6bからなる標準ディスク保持機構6を有している。このような保持機構を有するディスクホルダー4cを
図2(c-1)に、該ディスクホルダー4cに標準ディスク1bを保持した状態を
図2の(c-2)に示す。
【0096】
そして、ディスクホルダー4cに標準ディスク1bを保持して固定する時は、上部固定板7が取り外された状態で標準ディスク1bを、その下面が下部固定板の下面と同一面上となるように保持孔内に配してから下部固定板8に付属する3つの凸部6bを標準ディスク1bの下面(底面)側に形成された3つの凹部3bに挿入してから、同様にして標準ディスク1bの上面側に形成された3つの凹部3bに上部固定板7に付属する3つの凸部6bを挿入して、上部固定板7、下部固定板8及び円筒壁部材9を(例えば螺子で)固定すれば良い。また、上部固定板、下部固定板に付属する凸部6bは、例えば、凸部をスライド移動させて螺子固定する方式にしても良い。
【0097】
<標準ディスクを用いた切削加工>
CAD/CAMシステムを用いた標準ディスクの切削加工では、PC上でCAMより、標準ディスク内に製造目的物となる歯科用補綴物の図面となるようなデータ{例えば、標準ディスク内の任意に定めた特定の点を原点とするxyz3次元座標(以下、「ディスク座標」ともいう。)による形状データ。以下、「CAMデータ」ともいう。}を作成し、これに基づきCAMにより切削加工機のミリングバーの移動を制御するためのNCデータ{例えば、切削加工機内の任意に定めた特定の点を原点とするxyz3次元座標(以下、「装置座標」ともいう。)による位置データ(以下、「ツールパスデータ」ともいう。)。}を作成し、該ツールパスデータに従ってミリングバー及び/又は標準ディスクを保持したディスクホルダーを移動させて切削加工を行う。このとき、ツールパスデータは、標準ディスクを保持したディスクホルダーを切削加工機の所定の位置(以下、「セット位置」ともいう。)にセットした状態におけるCAMデータをベースに作成されるため、装置座標内とディスク座標との相対的位置関係は上記状態における相対的位置関係に固定されることになる。
【0098】
未使用の標準ディスクの切削加工を行う場合には、標準ディスクの切削可能領域は点対象な(厚さが径に比べて小さい)円筒形を有するためディスクの周方向の回転によるズレ(以下、「回転ズレ」ともいう。)は問題とならず、また、装置座標内にセットされたディスクの位置は常にほぼ一定である(CAMデータ作成時と変わらない)と考えられることから、該ディスク座標の原点の位置がツールパスデータ作成時におけるCAMデータにおけるディスク座標の原点の位置と一致していれば、x軸及びy軸の方向は一致していなくてもよい。さらに、標準ディスクをディスクホルダーに保持するとき及び標準ディスクを保持したディスクホルダーをセット位置にセットする際の「遊び」等に依る平面方向及び/又は垂直方向の位置ズレ(以下「遊間ズレ」ともいう。)が起こった場合でも、これらズレは僅かであり、通常、このような僅かな遊間ズレを想定し、予備スペースを確保してCAMデータを作成するので、ミリングバーによる切削箇所が実際にセットされた標準ディスク外となることはない。このため、特に配慮することなくディスクホルダーへの保持やセット位置にセットを行って切削加工を開始すれば良い。
【0099】
<確認用マーカー付標準ディスクとこれを用いた再切削加工>
標準ディスクの一部を使用して一旦装置から取り外した標準ディスク(以下、「再利用ディスク」ともいう。)を同一又は異なる装置に装着して再利用する場合には、再利用ディスクの切削加工可能な領域から目的物となる歯科用補綴物が切り出せるようにCAMデータ(再利用CAMデータ)の形成を行ってからツールパスデータ(再利用ツールパスデータ)を作成する必要がある。再利用CAMデータ及び再利用ツールパスデータの作成は、特許文献5に記載されているように新たに取得した映像データに基づいて行うよりも、特許文献3に記載されているように、既に切削加工を行ったときに使用した切削加工物のCAMデータ(初回CAMデータ)を利用することが便利である。
【0100】
本発明のミルブランクは、このようにして作成された再利用CAMデータに基づき(ディスクホルダーに加工を施すことなく)切削加工機専用のディスクホルダーをそのまま使用して新たな歯科用補綴物を切削できるという理由から、確認用マーカー付標準ディスク、すなわち、標準ディスクの上面の外周縁近傍領域に、ミルブランク装着位置確認用マーカー(確認用マーカー)を備えたものであることが好ましい。以下に、確認用マーカー付標準ディスクを用いて再利用を行う方法について説明する。
【0101】
前記した様に、標準ディスクを用いて最初の切削加工を行う場合には、特に配慮する必要がない。しかし、再利用を行う場合には、最初の切削加工時における僅かな遊間ズレを許容して切削加工して得られた再利用ディスクの切削可能領域は、再利用CAMデータにおける切削予定領域とのズレを引き起こしてしまうことがある。このため、初回CAMデータを利用して再利用CAMデータ及び再利用ツールパスデータを作成して、これを使用できるようにするためには、最初の切削加工時において、実際に切削加工される位置が初回CAMデータのディスク座標における切削加工位置とズレなく対応し、再利用ディスクのディスク座標における切削可能領域の形状データが再利用CAMデータと一致しているという条件を満たす必要がある。
【0102】
また、(再利用時における)新たな切削加工を行う場合には、前記回転ズレ及び遊間ズレにより切削予定領域から外れた切削を行い、所期の形状の歯科用補綴物が得られなくなる可能性がある。そして、このような問題の発生を回避するためには、再利用ツールパスデータの装置座標内におけるディスク座標と、実際に装置座標内にディスクをセットした状態における装置座標内におけるディスク座標と、について、ディスク座標の原点だけでなくx軸及びy軸の方向を一致させる必要があり、より高精度な修正を行う場合には、更にxy平面の傾きに関するズレを検出して、ズレが検出された場合には該傾きに関するズレを修正した修正再利用ツールパスデータを作成する必要がある。
【0103】
確認用マーカー付標準ディスクを使用する場合には、初回CAMデータを用いて作成した初回ツールパスデータに確認用マーカーの位置情報が組み込まれており、更に、確認用マーカーが(ディスクホルダーで覆われない)標準ディスクの上面の外周縁近傍領域に形成されているので、未使用のディスクをセット位置にセットした状態で確認用マーカーの位置を検知して初回CAMデータにおけるマーカー位置からのズレを検出することが出来る。そのため、検出されたズレに基づき修正された修正初回CAMデータによって初回ツールパスデータの修正をすることで得られた修正初回ツールパスデータに基づき切削加工を行うことにより、前記条件を満足させることができる。
【0104】
同様に、再利用ディスクをセット位置にセットした状態で確認用マーカーの位置を検知して再利用CAMデータにおけるマーカー位置からのズレを検出し、検出されたズレに基づき修正された再利用CAMデータによって再利用ツールパスデータの修正を行って、得られた修正再利用ツールパスデータに基づき切削加工を行うことにより、確実に再利用ディスクの切削可能領域内で切削加工を行うことができる。
【0105】
なお、初回CAMデータから修正初回CAMデータへの修正及び再利用CAMデータから修正再利用CAMデータへの修正は、(1)セット時におけるディスクの(底面或いは上面の)傾きズレが無視できる場合には、該傾きのズレを考慮せずに修正前のCAMデータの装置座標内におけるディスク座標と、実際に装置座標内にディスクをセットした状態における装置座標内におけるディスク座標と、について、ディスク座標の原点並びにx軸及びy軸の方向を一致させることにより行うことができ、(2)前記傾きのズレが無視できない場合には、修正前のCAMデータの装置座標内におけるディスク座標と、実際に装置座標内にディスクをセットした状態における装置座標内におけるディスク座標と、について、xy平面を一致させた上で原点並びにx軸及びy軸の方向を一致させればよい。
【0106】
確認用マーカーの位置を検知するための検知器(測定装置)としては、カメラなどの撮影装置やタッチプローブなどの接触式センサ(またはミリングバー)などが好適に使用できる。切削加工機によっては、このような検知器を備えているので、その場合には装置に付属する検知器を使用すれば良い。また、上記検知器を標準装備していない切削加工機を用いる場合には別途準備した検知器を用いればよい。
【0107】
確認用マーカーは、視覚的(画像情報)或いは触覚的(接触情報)等にその位置を高精度に検知できるものであれ良いが、外形から中心位置を高精度に特定できるという理由から、中心を有する対称な平面的又は立体的形状を有することが好ましい。また、その数は1以上であればよいが、1~5であることが好ましい。確認用マーカーを複数有する場合、各マーカーの形状はそれぞれが異なっていてもよく、また、それぞれを区別する方は目に各マーカーの周辺に数字や記号を表記しても良い。
【0108】
回転ズレだけでなくディスク上面の傾きによるズレも検出し易いという理由から、確認用マーカーの数は、平面を特定するのに最低限必要な3個以上、好ましくは3~5個、最も好ましくは3個であり且つ、確認用マーカーの形状は、接触式センサで頂点を高精度に検知できる、高さが同一の円錐や四角錐などの錐体形状を有する凸部又は凹部であることが好ましい。特に、このような形状の確認用マーカー3個が、所定の間隔を空けて(例えば二等辺三角形の各頂点となるように)上面周縁部に配置したものであることが好ましい。
【0109】
なお、確認用マーカー付標準ディスクの上面における外周縁近傍領域とは、上面外周縁から上面中心に向う幅(半径方向の長さ)が10mm以下である周方向に沿った帯状の領域であり、好ましくは上記幅が3.0~5.0mmである領域を意味する。
図3に(A)及び(B)として示される確認用マーカー付標準ディスク10a、10bは、このような好ましい態様に該当するものであり、10aにおいては、
図1(a-1)に示す標準ディスク1aの上面における外周縁近傍領域10a1に、一辺の長さが2.0~4.0mm、好ましくは、2.5~3.0mmである同一形状の正四角錐形状の凸部からなる確認用マーカー10a2が3つ、頂角60°の二等辺三角形の各頂点となるように配設された確認用マーカー付標準ディスクを表し、10bでは標準ディスク1aの上面外周縁近傍領域10b1に同様の正四角錐形状の凹部からなる確認用マーカーが3つ、同様に配設された確認用マーカー付標準ディスクを表している。なお、確認用マーカーが二等辺三角形の各頂点となるように配設した場合には頂角を形成する頂点1が他の底角を形成する2つの頂点と区別して特定できるため、前記頂点1に配置された確認用マーカーを基準としてディスクホルダーへの保持や前記修正を行えば良い。
【実施例0110】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。
【0111】
先ず、各実施例および比較例で用いた全材料について以下に説明する。
【0112】
(1)特定ポリオール化合物(Is)
GTP:グリセロールトリプロポキシレート(分子量:266、水酸基の数NOH:3、平均OH間距離dOH:8.3)
PETP:ペンタエリスリトールテトラプロポキシレート(分子量:426、水酸基の数NOH:4、平均OH間距離dOH:10.5)
TMP:トリメチロールプロパン(分子量:134、水酸基の数NOH:3、平均OH間距離dOH:3.0)
TMPE:トリメチロールプロパンエトキシレート(分子量:450、水酸基の数NOH:3、平均OH間距離dOH:17.4)
TGDM:トリグリセロールジメタクリレート(分子量:386、水酸基の数NOH:3、平均OH間距離dOH:6.3)。
【0113】
(2)特定ポリオール化合物(Is)以外のポリオール
GMA:グリセロールモノメタクリレート(分子量:160、水酸基の数NOH:2、平均OH間距離dOH:2.0)。
【0114】
(3)ジイソシアネート成分(II)
XDI:m-キシリレンジイソシアナート(分子量:188、イソシアネート基の数NNCO:2、平均NCO間距離をdNCO:5.0)。
【0115】
実施例1
ポリオールであるGTP:6.3g、他のジオールであるGLM:0.7gを、マグネチックスターラーにより混合した後、ジイソシアネート)であるXDI:7.5gを添加し、1時間室温で撹拌した。これら、原料から生成されるポリウレタンの平均架橋点数NCPは2.63であり、ウレタン基間距離Dは7.18である。混合液(原料組成物)が均一となったことを確認した後、12×15×100(mm)のモールドに充填し、窒素加圧下(0.3MPa)、60℃24時間、続く、80℃15時間で重付加反応を行い、ポリウレタン成形体を調製した。得られたポリウレタン成形体を離型し、続く評価を行った。
【0116】
(ポリウレタン成形体の評価)
1.ガラス転移点Tgの存在の確認
得られたポリウレタン成形体を構成するポリウレタン樹脂のガラス転移点Tgを次のようにして評価した。
【0117】
DSC8230(リガク製)を用いて、窒素雰囲気下、20℃から、昇温速度10℃/分で100℃まで昇温させ、その後降温し、20℃となった点から再度昇温速度10℃/分で100℃まで昇温させ、その過程でポリウレタン成分のDSC曲線を得た。得られたDSC曲線上には、階段状変化部分は存在しなかったことから、Tgは存在しないと判断した。
【0118】
2.接着性の評価
得られたポリウレタン成形体の接着性は次のように評価した。
【0119】
得られたポリウレタン成形体を低速のダイヤモンドカッター(Buehler社製)で切り出し、P800の耐水研磨紙を用いて、12mm×15mm×3mmの角柱状に整えることで試験片を得た。洗浄、乾燥後、φ3mmの孔をあけた2枚重ねの両面テープを貼り付け、被着面積を規定した。その上に、φ8mmの孔をあけたワックスシートを貼り付けた。得られた孔に対して、光硬化型の粉液型義歯床用硬質裏装材である規定の比率で混合したヒカリライナー(トクヤマデンタル社製)を充填し、PET製シートで圧接し、37℃のインキュベータに5分間静置した。その後、歯科技工用光重合装置(ポータライト、トクヤマデンタル社製)を用いて5分間光照射して、試験片を作製した。得られた試験片のワックスシートを除去した後、37℃水中に18時間浸漬した。試験片のヒカリライナー面を研磨した後、アルテコ接着剤を用いて、SUSアタッチメントを接着した。
【0120】
得られた試験片5個をオートグラフ(島津製作所製)に装着し、被着面積φ3mm、引っ張り速度2mm/minの条件で引っ張り試験を行った。その結果、12.7MPaの接着応力を有することが示された。
【0121】
引張試験片後の試験片を観察し、接着界面における破壊形態を目視にて観察した。ポリウレタン硬化体表面に、ヒカリライナー硬化体が残存しているものを数え、その比率を被着体破壊率として評価した。その結果、被着体破壊率80%であった。
【0122】
3.曲げ強さの評価
得られたポリウレタン成形体の曲げ強さは次のように評価した。
【0123】
ポリウレタン成形体を低速のダイヤモンドカッター(Buehler社製)で切り出し、P2000の耐水研磨紙を用いて、1.2mm×4.0mm×14.0mmの角柱状に整えることで試験片を得た。前記試験片をオートグラフ(島津製作所製)に装着し、支点間距離12.0mm、クロスヘッドスピード1.0mm/minの条件で3点曲げ試験を行った。
【0124】
曲げ強さBSは以下に示す式(1)により算出した。なお、前記試験片は実施例および比較例ごとに10本作製し、その平均値をポリウレタン成形体の曲げ強さとした。その結果、171MPaの曲げ強さを有することが示された。
【0125】
BS=3PS/2WB2 式(1)
P:最大点の曲げ荷重(N)、S:支点間距離(12.0mm)、W:幅(約4.0mmで実測値)、B:厚さ(約1.2mmで実測値)
実施例2~10、比較例1~2
表1に示す組成の原料組成物を調製し、これを注型重合する他は、実施例1と同様の方法でポリウレタン成形体の製造と評価を行った。その結果を表2に示す。
【0126】
比較例3
市販ポリアミド材料であるバイオトーン(デンケンハイデンタル社製)のペレットを100℃で15時間乾燥させた後、ペレットを30×15×2(mm)のモールドに充填し、300℃に加熱し、加熱プレス(井元製作所)にてプレスした。冷却後、離形し、硬化体を得た。15×15×2(mm)の形状に切り出し、及び、研磨を行って、試験片を得た。その後、実施例1と同様の手順で、接着性を評価した。その結果を表2に示す。
【0127】
【0128】