(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025156003
(43)【公開日】2025-10-14
(54)【発明の名称】リン酸ジエステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 9/09 20060101AFI20251002BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20251002BHJP
【FI】
C07F9/09 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025039031
(22)【出願日】2025-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2024056433
(32)【優先日】2024-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】文字山 峻輔
(72)【発明者】
【氏名】山中 友葵
(72)【発明者】
【氏名】小田 和裕
(72)【発明者】
【氏名】永縄 友規
【テーマコード(参考)】
4H039
4H050
【Fターム(参考)】
4H039CA66
4H039CL00
4H050AA02
4H050AC40
4H050BA02
4H050BA37
4H050BB20
4H050BE32
4H050WA12
4H050WA23
(57)【要約】
【課題】安全性が高く、反応時間の短縮が図れ、リン酸エステル化率が高くかつ高い選択率でリン酸ジエステルを製造する方法を提供する。
【解決手段】ホスホン酸ジエステルと過酸化水素とを、ハロゲン化塩の存在下で反応させることにより、リン酸ジエステルを製造する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスホン酸ジエステルと過酸化水素とを、ハロゲン化塩の存在下で反応させることを特徴とするリン酸ジエステルの製造方法。
【請求項2】
前記ハロゲン化塩が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、元素周期表第4~第14族の金属、又はテトラアルキルアンモニウムのハロゲン化塩から選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載のリン酸ジエステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸ジエステルの製造方法に関する。より詳しくは、安全性が高く、反応時間の短縮が図れ、リン酸エステル化率が高く、さらには高い選択率でリン酸ジエステルを得る製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸エステルは界面活性剤、帯電防止剤、難燃剤及び潤滑油の摩耗防止剤などとして有用な化合物であり、その効率的な製造方法の開発が望まれている。リン酸エステルの工業的製造方法としては、アルコールと、オキシ塩化リンとを反応させて製造する方法が一般的に知られているが、出発原料であるオキシ塩化リンは毒性が強く、法令上の毒物にも指定されていることから、より安全なリン酸エステルの合成法が望まれている。そこで、より安全なリン酸エステルの製造法として、特許文献1では、オルトリン酸を出発原料として用い、オルトリン酸と、アルコキシ基あるいはアリールオキシ基を有する有機シランまたはシロキサン化合物とから、一段階反応でリン酸エステル化合物を製造する技術を開示している。
一方、上述の用途においては、通常リン酸エステルは、リン酸モノエステル、リン酸ジエステル、リン酸トリエステルなどとの混合物として用いられている。これらのリン酸エステルの中でも特にリン酸ジエステルは金属抽出剤として有用であり、更にリン酸ジエステル塩は電解コンデンサ用の電解質として有用である。そのため、リン酸ジエステルを高純度で得られる製造方法は有意義であり、これまでに種々提案されている。
例えば、特許文献2には、リン酸トリエステルを出発原料として用い、リン酸トリエステルと第2級アミンを耐圧容器中、125℃で反応させるリン酸ジエステル塩の製造方法が開示されている。しかしながら、当該製造方法では100℃以上で、30時間以上の反応を行わなければならず、工業スケールでの製造を考慮すると、より短時間での反応が好ましい。また、特許文献3には、オキシ塩化リン等のオキシハロゲン化リンを出発原料として用い、オキシハロゲン化リンと塩基を反応させることでジハロリン酸塩を得た後に、ジハロリン酸塩とヒドロキシ化合物とをPFA容器中で反応させることを特徴とするリン酸ジエステル及びリン酸ジエステル塩の製造方法が開示されている。しかしながら、当該製造方法はオキシ塩化リン等のオキシハロゲン化リンを用いることから、製造時に塩化水素等のガスが発生するため、系外から安全に除去するための設備が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-143139号公報
【特許文献2】特開2012-1459号公報
【特許文献3】特開2015-166343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、安全性が高く、反応時間の短縮が図れ、リン酸エステル化率が高く、さらには高い選択率でリン酸ジエステルを得る製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ホスホン酸ジエステルと過酸化水素とをハロゲン化塩の存在下で反応させることにより、オキシ塩化リンの使用を回避し、反応時間を短縮し、リン酸エステル化率が高く、かつ選択的にリン酸ジエステルを製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下のものである。
[1] ホスホン酸ジエステルと過酸化水素とを、ハロゲン化塩の存在下で反応させることを特徴とするリン酸ジエステルの製造方法。
[2] 前記ハロゲン化塩が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、元素周期表第4~第14族の金属、又はテトラアルキルアンモニウムのハロゲン化塩から選ばれる少なくとも一種である、前記[1]のリン酸ジエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、毒性の低い化合物であるホスホン酸ジエステルを出発原料として用い、短い反応時間で、リン酸エステル化率が高く、かつ選択的にリン酸ジエステルを製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のリン酸ジエステルの製造方法は、出発原料であるホスホン酸ジエステルと、酸化剤である過酸化水素とを、触媒であるハロゲン化塩の存在下で反応させることを特徴としており、本開示の目的を損なわない範囲において、反応系が溶媒を含んでいてもよい。
以下、本発明の製造方法に使用する各原料及び製造工程について詳細に説明する。
なお、本明細書においては、本発明のリン酸ジエステルの製造方法を単に「製造方法」と称する場合がある。
本明細書において記号「~」を用いて規定された数値範囲は、「~」の両端(上限及び下限)の数値を含むものとする。例えば「2~5」は2以上、5以下を表す。
【0008】
<ホスホン酸ジエステル>
本発明の製造方法には、出発原料として下記の式(1)で示されるホスホン酸ジエステルを使用する。
【0009】
【0010】
式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して置換基を有していてもよい炭化水素基を示す。また、R1とR2は同一であってもよく、異なっていてもよい。
炭化水素基は飽和であっても不飽和であってもよく、脂肪族であっても芳香族であってもよく、脂肪族の場合は直鎖状、分岐状及び環状のいずれの形態であってもよい。炭化水素基として、例えばアルキル基、アルケニル基、アリール基及びアラルキル基が挙げられる。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、ベヘニル基などの直鎖状アルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、イソノニル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基、イソデシル基、イソステアリル基、2-オクチルデシル基、2-オクチルドデシル基、2-ヘキシルデシル基などの分岐状アルキル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などの環状アルキル基などが挙げられる。
また、アルケニル基としては、例えばパルミトレイル基(別名:cis-9-ヘキサデセニル基)、オレイル基(別名:cis-9-オクタデセニル基)、リノレイル基(別名:cis, cis-9,12-オクタデカジエニル基)などが挙げられる。アルキル基やアルケニル基などの脂肪族炭化水素基の炭素数が23以上の場合、入手が困難となる場合がある。
アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、及びノニルフェニル基等が挙げられる。
アラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、ベンズヒドリル基、トリチル基、メチルベンジル基、及びメチルフェネチル基等が挙げられる。
【0011】
上記炭化水素基の置換基は、炭素及び水素以外の原子からなる置換基、又は、炭素及び水素以外の原子を含む置換基であってもよく、さらに不飽和結合及び/又は環状構造を含んでいてもよい。炭素及び水素以外からなる置換基としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のようなハロゲン原子等が挙げられる。炭素及び水素以外の原子を含む置換基としては、例えば、水酸基、メルカプト基、カルボキシル基、シアノ基、メチルシリルのようなシリル基、エトキシのようなアルコキシ基、トリメチルシリルオキシのようなシロキシ基、ホルミルのようなカルボニル基、アセチル、プロピオニル、ペンゾイル、(メタ)アクリルのようなアシル基、(メタ)アクリロイルオキシのようなアシルオキシ基等が挙げられる。なお、(メタ)アクリル基とは、アクリル基とメタクリル基の総称であり、(メタ)アクリロイルオキシ基とは、アクリロイルオキシ基とメタクリロイルオキシ基の総称である。
R1及びR2が置換基を有する炭化水素基である式(1)のホスホン酸ジエステルとしては、例えば、下記の式(2)で示されるホスホン酸ジ(2-メタクリロイルオキシエチル)が挙げられる。
【0012】
【0013】
R1及びR2は、入手し易さの観点から、炭素数1~22のアルキル基、炭素数1~22のアルケニル基、炭素数6~16のアリール基及び炭素数6~14のアラルキル基、並びに、炭素数2~8のアシル基又は炭素数2~8のアシルオキシ基を置換基として含む炭素数1~22のアルキル基、炭素数1~22のアルケニル基、炭素数6~16のアリール基及び炭素数6~14のアラルキル基であることが好ましく、炭素数2~18のアルキル基又はアルケニル基であることがより好ましい。
【0014】
上記式(1)で示されるホスホン酸ジエステルの製造法は特に限定されないが、一例としては、ホスホン酸とアルコールを用い、例えば80~180℃でエステル化反応を行う方法が挙げられる。本エステル化反応は、ホスホン酸に対してモル比で2倍量以上のアルコールを用いて行うことが好ましい。
また、出発原料であるホスホン酸ジエステルの純度は特に限定されないが、リン酸エステル化率、及び、リン酸ジエステルの選択率の観点から、95モル%以上が好ましい。
本発明において、出発原料として用いるホスホン酸ジエステルの純度とは、出発原料中に含有されるホスホン酸ジエステル及び全ての不純物の合計量に対する、当該出発原料中に含有されるホスホン酸ジエステルの割合である。出発原料中の不純物とは、ホスホン酸ジエステルの製造工程において生成した副産物及び未反応のまま残留した原料を意味する。例えば、ホスホン酸とアルコールを用いるエステル化反応を行う場合、副産物としてはホスホン酸モノエステル、並びに、未反応の原料としてはホスホン酸及びアルコールが不純物となる。副産物や未反応原料などの不純物の含有量は5モル%未満が好ましい。
【0015】
<リン酸ジエステル>
本発明の製造方法により得られるリン酸ジエステルは、下記式(3)で示される。式(3)のR1及びR2の意味は、上記式(1)のR1及びR2と同じである。
【0016】
【0017】
<過酸化水素>
本発明の製造方法には、酸化剤として過酸化水素を使用する。過酸化水素を用いることで、高エステル化率かつ高選択率でリン酸ジエステルを製造できる。過酸化水素は、一般的に過酸化水素水の形態で使用される。過酸化水素水における過酸化水素の濃度は特に限定されないが、反応効率や取扱い易さの観点から、20~70質量%が好ましく、30~60質量%がより好ましい。
【0018】
<ハロゲン化塩>
本発明の製造方法には、触媒としてハロゲン化塩を使用する。ハロゲン化塩は、ハロゲンを有する塩であれば特に限定されず、無機塩であってよく、また、有機塩であってもよいが、反応効率の観点から、無機塩が好ましい。
ハロゲン化塩を形成するハロゲンの種類は特に限定されず、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素のいずれであってもよいが、リン酸エステル化率及びリン酸ジエステルの選択率を向上させる観点から、塩素、臭素、ヨウ素であることが好ましく、臭素、ヨウ素であることがより好ましく、ヨウ素であることが特に好ましい。
無機塩としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、元素周期表の第4~第14族の金属などのハロゲン化塩が挙げられ、例えば、アルカリ金属としてリチウム、ナトリウム、カリウム、アルカリ土類金属としてマグネシウム、カルシウム、第4~第14族の金属として鉄、アルミニウム、又は亜鉛などのハロゲン化塩が挙げられる。リン酸エステル化率及びリン酸ジエステルの選択率を向上させる観点から、アルカリ金属、アルカリ土類金属のハロゲン化塩が好ましく、アルカリ金属の塩がより好ましく、特にカリウム塩が好ましい。具体的には、臭化カリウム、ヨウ化カリウムが好ましく、ヨウ化カリウムが特に好ましい。
有機塩としては、テトラアルキルアンモニウムのハロゲン化塩が挙げられ、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムのハロゲン化塩が挙げられる。リン酸エステル化率及びリン酸ジエステルの選択率を向上させる観点から、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムのハロゲン化塩が好ましく、テトラブチルアンモニウムのハロゲン化塩が特に好ましい。具体的には、臭化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウムが好ましく、ヨウ化テトラブチルアンモニウムが特に好ましい。
【0019】
<反応工程>
本発明においては、出発原料であるホスホン酸ジエステル、酸化剤である過酸化水素、及び、触媒であるハロゲン化塩、更に必要に応じて有機溶媒を混合することにより、ホスホン酸ジエステルを酸化させて、リン酸ジエステルを生成させる。
各材料の混合順序は特に制約されないが、例えば、ホスホン酸ジエステル、触媒、及び、有機溶媒を混合し、所定の反応温度に調節した後、混合物に過酸化水素を少量ずつ添加することにより、ホスホン酸ジエステルからリン酸ジエステルを生成させることができる。
本発明の製造方法によれば、短い反応時間で、高いリン酸エステル化率で、かつ選択的にリン酸ジエステルを製造することができる。副産物であるリン酸モノエステルやリン酸トリエステルの生成量は少ない。また、本発明の製造方法は、出発原料としてホスホン酸ジエステルを用いるので、刺激性、発煙性などのため取扱いが容易でないオキシ塩化リンの使用を回避することができる。
本発明の製造方法は、リン酸エステル化率及びリン酸ジエステルの選択率を高める観点から、反応条件を最適化することが好ましく、具体的には以下のように反応条件を選択することが好ましい。
過酸化水素の使用量は、ホスホン酸ジエステルに対して、モル比で通常0.5~4.0とするが、1.0~3.0が好ましい。過酸化水素の使用量を0.5以上とすることによって、リン酸ジエステルの収率が向上する。また、過酸化水素の使用量を4.0以下とすることによって、リン酸ジエステルの選択率が向上する。この観点から、過酸化水素の使用量はモル比で1.1~2.0がより好ましく、1.1~1.8が更に好ましい。
ハロゲン化塩の使用量は、ホスホン酸ジエステルに対して、モル比で0.001~1.0が好ましい。ハロゲン化塩の使用量を0.001以上とすることによって、リン酸エステル化率及びリン酸ジエステルの選択率が向上する。また、ハロゲン化塩の使用量を1.0以下とすることによって、得られるリン酸ジエステルの色相が良好になる。この観点から、ハロゲン化塩の使用量は、モル比で0.005~0.5がより好ましく、0.008~0.05が更に好ましい。
反応温度は特に制限されず、通常は0℃以上、100℃以下の範囲内で反応を行うことができる。反応温度を0℃以上とすることによって、十分な反応速度を確保でき、反応効率が向上する。また、反応温度を100℃以下とすることによって、原料であるホスホン酸ジエステルの分解を抑制でき、リン酸エステル化率及びリン酸ジエステルの選択率が向上する。この観点から、反応温度は20~90℃がより好ましく、30~80℃が更に好ましい。
【0020】
また、本発明の製造方法は、上述したホスホン酸ジエステル、過酸化水素及びハロゲン化塩の他に、反応効率や安全性を更に高めるため、有機溶媒を使用することが好ましい。有機溶媒の種類は特に限定されず、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
有機溶媒としては、例えば、炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、芳香族系溶媒、ニトリル系溶媒、アミド系溶媒、又は塩素系溶媒等が挙げられるが、反応効率の向上の観点から、炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族系溶媒、ニトリル系溶媒、アミド系溶媒が好ましい。有機溶媒の具体例としては、メチルシクロヘキサン、テトラヒドロフラン、トルエン、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等が挙げられ、トルエン、メチルシクロヘキサン、N,N-ジメチルアセトアミドが好ましく、N,N-ジメチルアセトアミドがより好ましい。
反応系に共存させる有機溶媒の量は、特に限定されないが、ホスホン酸ジエステルに対して、10~250質量部添加される。反応効率や安全性を高める観点から、ホスホン酸ジエステルに対して、30~150質量部が好ましく、50~100質量部がより好ましい。
【0021】
<その他の工程>
本発明の製造方法において得られたリン酸ジエステルの純度をさらに向上させたい場合は、再結晶、蒸留、乾燥、洗浄等の操作や吸着剤等の使用といった公知の精製方法によって純度を高めることが可能である。
本発明の製造方法により得られるリン酸ジエステルは、例えば、洗浄剤、乳化剤、帯電防止剤、繊維油剤、金属抽出剤、潤滑油用添加剤、防錆剤、難燃剤及び電気化学デバイス用の電解質材料などとして広範な用途に用いることができる。
【実施例0022】
以下、実施例及び比較例によって、本発明をさらに詳細に説明する。
[実施例1]
温度計、窒素導入管、攪拌機及び冷却管を取り付けた1Lの4つ口フラスコに、出発原料として純度99モル%のホスホン酸ジ2-エチルヘキシル330.0g(1.07mol)を入れ、溶媒としてN,N-ジメチルアセトアミド205.2g、及び、触媒としてヨウ化カリウム1.8g(0.011mol)を加えた後、撹拌しながら75℃に加熱した。75℃に達した後、酸化剤として35%過酸化水素水187.2g(1.93mol)を1時間かけて滴下し、75℃で2時間攪拌をした。
撹拌を止めた後、静置して下層に分離した水層を除去した。その後、150℃、減圧下でメチルシクロヘキサンを除去した。
反応混合物を室温に戻し、内部標準物質であるトリオクチルホスフィンオキシド4.1g(0.011mol)を加え、31P-NMRを核磁気共鳴装置により測定することで、リン酸エステル化率、リン酸ジエステルの収率及び選択率を決定した。
以下に31P-NMRの測定条件を示す。
<測定条件>
・周波数:400MHz
・溶媒:重クロロホルム
上記反応を下記式(4)に示す。当該式(4)に示すように、生成物は、リン酸モノエステル(M)と、リン酸ジエステル(D)と、リン酸トリエステル(T)の混合物である。
【0023】
【0024】
31P-NMRにおける各リン酸エステルM、D及びTと内部標準物質であるトリオクチルホスフィンオキシドのピーク位置及び積分値を下記に示す。
リン酸モノエステル(M):2.60ppm(積分値:5)
リン酸ジエステル(D):2.10ppm(積分値:88)
リン酸トリエステル(T):0.16ppm(積分値:2)
トリオクチルホスフィンオキシド:53.82ppm(積分値:1)
〔リン酸エステル化率〕
リン酸エステル化率とは、リン酸モノエステル(M)、リン酸ジエステル(D)及びリン酸トリエステル(T)の合計値を表す。トリオクチルホスフィンオキシドの31P-NMRの積分値を1として、リン酸モノエステル(M)、リン酸ジエステル(D)及びリン酸トリエステル(T)の各積分値を合計することで、リン酸エステル化率を算出した。
〔リン酸ジエステル収率〕
リン酸ジエステル収率(%)は、前述と同様の方法にて、リン酸ジエステルの積分値をリン酸ジエステル収率として決定した。
〔リン酸ジエステル選択率〕
リン酸ジエステルの選択率(%)とは、リン酸エステル化率に対するリン酸ジエステル収率の割合であり、下記の計算式により算出した。
リン酸ジエステル選択率(%)=(リン酸ジエステル収率/リン酸エステル化率)×100
【0025】
〔評価基準〕
(1)リン酸エステル化率
◎:リン酸エステル化率が90モル%以上
〇:リン酸エステル化率が70モル%以上、90モル%未満
×:リン酸エステル化率が70モル%未満
(2)リン酸ジエステル収率
◎:リン酸ジエステルの収率が75モル%以上
〇:リン酸ジエステルの収率が60モル%以上、75モル%未満
×:リン酸ジエステルの収率が60モル%未満
(3)リン酸ジエステル選択率
◎:リン酸ジエステルの選択率が90%以上
〇:リン酸ジエステルの選択率が75%以上、90%未満
×:リン酸ジエステルの選択率が75%未満
【0026】
[実施例2~10及び比較例1~4]
実施例1の酸化剤の種類と使用量、触媒の種類、溶媒の種類、反応温度及び反応時間を表1及び表2に従って変更した以外は、実施例1と同様の手順にて、リン酸エステル化率、リン酸ジエステルの収率及び選択率を決定した。結果を表1及び2に示した。
【0027】
[比較例5]
温度計、窒素導入管、攪拌機及び冷却管を取り付けた1Lの4つ口フラスコに、オキシ塩化リン180.8g(1.18mol)を入れ、35℃に加熱した。35℃に達した後、2-エチルヘキサノール307.0g(2.36mol)を1時間かけて滴下し、35℃で8時間攪拌した。その後、イオン交換水180.0g(11.79mol)を加え、75℃で4時間撹拌した。
撹拌を止めた後、静置して下層に分離した水層を除去した。その後、80℃、減圧下で脱水を行った。
その後、実施例1と同様の手順にて、リン酸エステル化率、リン酸ジエステルの収率及び選択率を決定した。結果を表2に示した。
【0028】
【0029】
【0030】
(略称の説明)
H2O2:過酸化水素(試薬、キシダ化学(株)品)
KI:ヨウ化カリウム(試薬、富士フイルム和光純薬(株)品)
TBAB:臭化テトラブチルアンモニウム(試薬、富士フイルム和光純薬(株)品)
KBr:臭化カリウム(試薬、富士フイルム和光純薬(株)品)
MCH:メチルシクロヘキサン(試薬、富士フイルム和光純薬(株)品)
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド(試薬、東京化成工業(株)品)
tBuOOtBu:t-ブチルペルオキシド
CHP:クメンヒドロペルオキシド
TBAOac:酢酸テトラブチルアンモニウム
【0031】
[結果]
表1に示す結果から明らかなように、実施例1~10は、リン酸エステル化率が高くかつ高選択率でリン酸ジエステルを製造できることが分かる。
表2に示すように、比較例1では、酸化剤として過酸化水素の代わりにジt-ブチルペルオキシドを使用しているため、リン酸エステル化率が極めて低い(収率、選択率はいずれもゼロである。)。
比較例2では、酸化剤として過酸化水素の代わりにクメンヒドロペルオキシドを使用しているため、リン酸ジエステルの選択率は高いものの、リン酸エステル化率が中程度であった。
比較例3では、触媒としてハロゲン化塩の代わりに酢酸テトラブチルアンモニウムを使用しているため、リン酸エステル化率及びリン酸ジエステルの選択率が低い。
比較例4では、触媒を用いていないため、リン酸エステル化率及びリン酸ジエステルの選択率が低い。
比較例5では、本発明の製造方法とは異なり、オキシ塩化リンを原料とした製造方法を用いているため、反応に要した時間が長く、リン酸エステル化率は高いが、リン酸ジエステル選択率は中程度であった。