(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025156044
(43)【公開日】2025-10-14
(54)【発明の名称】抗バイオフィルム組成物または当該組成物を含む樹脂部材もしくは樹脂製品
(51)【国際特許分類】
A01N 57/22 20060101AFI20251002BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20251002BHJP
A01N 25/34 20060101ALI20251002BHJP
【FI】
A01N57/22 C
A01P3/00
A01N25/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025044265
(22)【出願日】2025-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2024058022
(32)【優先日】2024-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390000527
【氏名又は名称】住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】江幡 一朗
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011BB17
4H011DA07
(57)【要約】
【課題】抗バイオフィルム組成物または当該組成物を含む樹脂部材もしくは樹脂製品を提供する。
【解決手段】
芳香族炭化水素基を有する有機リン化合物を含有する抗バイオフィルム組成物、好ましくはリン原子と直接結合する芳香族炭化水素基を有する有機リン化合物を含有する抗バイオフィルム組成物、または当該組成物を含む樹脂部材もしくは樹脂製品により抗バイオフィルム性能が持続的に発現すること可能となる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族炭化水素基を有する有機リン化合物を含有する抗バイオフィルム組成物。
【請求項2】
リン原子と直接結合する芳香族炭化水素基を有する有機リン化合物を含有する請求項1に記載の抗バイオフィルム組成物。
【請求項3】
リン原子と直接結合する芳香族炭化水素基を有する有機リン化合物が一般式(1)または一般式(2)で表される構造を有する有機リン化合物である請求項2に記載の抗バイオフィルム組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の有機リン化合物が、一般式(3)で表される有機リン化合物
(式中X
1からX
6は水素またはメチル基を表す)、
一般式(4)で表される有機リン化合物
(式中X
1からX
6は水素またはメチル基を表し、R
2は酸素または、エステル基、ケトン基を有しても良い炭素数1~6の直鎖状、分枝状の炭化水素基のいずれかを表す)
および
一般式(5)で表される有機リン化合物
(式中X
1からX
6は水素またはメチル基を表し、R
1はエーテル基、カルボニル基、エステル基を有しても良い炭素数1~6の直鎖状、分枝鎖状または環状の炭化水素基のいずれかであり、Yはハロゲンを表す)
からなる群から選択される1種以上である有機リン化合物である抗バイオフィルム組成物。
【請求項5】
請求項3に記載の有機リン化合物が、一般式(3)で表される有機リン化合物
(式中X
1からX
6は水素またはメチル基を表す)および
一般式(5)で表される有機リン化合物
(式中X
1からX
6は水素またはメチル基を表し、R
1はエーテル基、カルボニル基、エステル基を有しても良い炭素数1~6の直鎖状、分枝鎖状または環状の炭化水素基のいずれかであり、Yはハロゲンを表す)
からなる群から選択される1種以上である抗バイオフィルム組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の抗バイオフィルム組成物を含む抗バイオフィルム樹脂部材または樹脂製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗バイオフィルム組成物または当該組成物を含む樹脂部材もしくは樹脂製品に関する。
【背景技術】
【0002】
水と接触する固体表面には細菌やカビ等の微生物およびその代謝産物であるタンパク質や高分子多糖類が複合化したバイオフィルムが形成する。排水設備や冷却設備などの配管にバイオフィルムが形成されると、配管の閉塞、熱交換機器の効率低下、衛生状態の悪化等の問題が生じる。
【0003】
バイオフィルムを構成する微生物そのものは抗菌剤や殺菌剤といった薬剤に対して感受性があるものの、バイオフィルムが形成された後は薬剤に対して耐性を持つことが知られている。そのため、バイオフィルムの除去は一般的にブラシなどによる物理的除去や強酸,強アルカリ,塩素系酸化剤等による化学的除去が用いられている。しかし、物理的除去は定期的に実施する必要があるため手間やコストがかかり、化学的除去は安全性や処理対象の化学物質感受性から適用可能な用途が限定されている。
【0004】
そこで、固体表面へのバイオフィルムの形成を抑制する方法が検討されており、例えば、バイオフィルム抑制成分を固体表面に物理吸着させる方法(例えば、特許文献1)または設備の循環水に当該成分を溶解しておく方法がある(例えば、特許文献2)。
しかし、前者は加工表面の削れや摩耗といった物理的な作用を受けるとその効果が失われてしまい、後者はバイオフィルム抑制成分を溶解した循環水を入れ替えるとその効果が失われてしまうことから、持続的な抗バイオフィルム効果を得ることについての改善要望があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第7212436号
【特許文献2】特開2016-188262号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は鋭意検討の結果、設備を構成する樹脂部材に予め抗バイオフィルム組成物を配合することより、当該樹脂部材の表面に削れ等の物理的な作用が生じても持続的に抗バイオフィルム効果が得られるとの考えに基づき、主として樹脂成分に配合可能であり、当該効果を発現することが可能な抗バイオフィルム組成物を提供し、さらには当該組成物を含む樹脂部材などを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、かかる課題を解決すべく鋭意検討した結果本発明に至った。すなわち本発明は、
〔1〕芳香族炭化水素基を有する有機リン化合物を含有する抗バイオフィルム組成物。
〔2〕リン原子と直接結合する芳香族炭化水素基を有する有機リン化合物を含有する上記の抗バイオフィルム組成物。
〔3〕リン原子と直接結合する芳香族炭化水素基を有する有機リン化合物が一般式(1)または一般式(2)で表される構造を有する有機リン化合物である上記の抗バイオフィルム組成物。
〔4〕上記の有機リン化合物が、一般式(3)で表される有機リン化合物、
(式中X
1からX
6は水素またはメチル基を表す)、
一般式(4)で表される有機リン化合物
(式中X
1からX
6は水素またはメチル基を表し、R
2は酸素または、エステル基、ケトン基を有しても良い炭素数1~6の直鎖状、分枝状の炭化水素基のいずれかを表す)
および
一般式(5)で表される有機リン化合物
(式中X
1からX
6は水素またはメチル基を表し、R
1はエーテル基、カルボニル基、エステル基を有しても良い炭素数1~6の直鎖状、分枝鎖状または環状の炭化水素基のいずれかであり、Yはハロゲンを表す)
からなる群から選択される1種以上である有機リン化合物である抗バイオフィルム組成物。
〔5〕上記の有機リン化合物が、一般式(3)で表される有機リン化合物
(式中X
1からX
6は水素またはメチル基を表す)、
および
一般式(5)で表される有機リン化合物
(式中X
1からX
6は水素またはメチル基を表し、R
1はエーテル基、カルボニル基、エステル基を有しても良い炭素数1~6の直鎖状、分枝鎖状または環状の炭化水素基のいずれかであり、Yはハロゲンを表す)
からなる群から選択される1種以上である抗バイオフィルム組成物。
〔6〕上記の抗バイオフィルム組成物を含む抗バイオフィルム樹脂部材または樹脂製品。
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、樹脂部材に適合する抗バイオフィルム組成物が配合されているため、当該樹脂部材の表面に物理的な作用が加わっても抗バイオフィルム性能が持続的に発現すること可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の抗バイオフィルム組成物は、芳香族炭化水素基を有する有機リン化合物を含有する。当該有機リン化合物としては、リン原子と直接結合しない芳香族炭化水素基を有する有機リン化合物またはリン原子と直接結合する芳香族炭化水素基を有する有機リン化合物が挙げられる。このうちリン原子と直接結合する芳香族炭化水素基を有する有機リン化合物が好ましい。
【0010】
前記のリン原子と直接結合する芳香族炭化水素基を有する有機リン化合物としては、特に下記一般式(1)または(2)
で表される構造を有する有機リン化合物が挙げられる。
【0011】
前記の一般式(1)で表される構造を有する有機リン化合物としては、
一般式(3)で表される有機リン化合物
(式中X
1からX
6は水素またはメチル基を表す)
または
一般式(1)で表される構造を有する有機リン化合物のリン原子に酸素などが結合した下記一般式(4)で表される有機リン化合物
(式中X
1からX
6は水素またはメチル基を表し、R
2は酸素または、エステル基、ケトン基を有しても良い炭素数1~6の直鎖状、分枝状の炭化水素基のいずれかを表す)
が挙げられる。
【0012】
また、一般式(2)で表される構造を有する有機リン化合物としては、下記一般式(5)で表される有機リン化合物
(式中X
1からX
6は水素またはメチル基を表し、R
1はエーテル基、カルボニル基、エステル基を有しても良い炭素数1~6の直鎖状、分枝鎖状または環状の炭化水素基のいずれかであり、Yはハロゲンを表す)
が挙げられる。
【0013】
前記の一般式(3)で表される有機リン化合物としては、例えば、
などが挙げられる。
【0014】
前記の一般式(4)で表される有機リン化合物としては、例えば、
などが挙げられる。
【0015】
前記の一般式(5)で表される有機リン化合物としては、例えば、
のほか、
といった化合物などが挙げられる。
【0016】
このうち、一般式(3)で表される有機リン化合物または一般式(5)で表される有機リン化合物が好ましい。
【0017】
本発明の抗バイオフィルム組成物は、後述する樹脂成分に直接添加することもできるが、溶媒等を加えて製剤化した後に樹脂成分に添加することもできる。前記製剤としては、例えば油剤、乳剤、可溶化製剤、水和剤、粉剤、フロアブル剤(水中懸濁剤、水中乳濁剤等)、サスポエマルション剤等が挙げられる。
【0018】
かかる製剤化の際に使用される溶媒としては、水、エタノ-ル、イソプロパノ-ル、フェノキシエタノ-ル、ベンジルアルコ-ルなどの一価アルコ-ル類、エチレングリコ-ル、ジエチレングリコ-ル、ポリエチレングリコ-ル、プロピレングリコ-ル、ジプロピレングリコ-ル、ポリプロピレングリコ-ル、ブチレングリコ-ル、ジエチレングリコ-ルモノメチルエ-テル、ジエチレングリコ-ルモノブチルエ-テル、ジプロピレングリコ-ルモノメチルエ-テル、トリプロピレングリコ-ルモノメチルエ-テルなどのグリコ-ル系溶剤およびその誘導体、グリセリン、ジグリセリンなどのグリセリン系溶剤およびその誘導体、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、γ-ブチロラクトンなどの環状有機溶媒、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、セバシン酸エステルなどのエステル系溶媒、メチルナフタレン、フェニルキシリルエタン、アルキルベンゼンなどの芳香族系溶媒、ノルマルパラフィン、イソパラフィンなどの脂肪族炭化水素溶媒、菜種油、綿実油、大豆油、ヒマシ油などが挙げられる。これら溶媒は、単独で使用してもよく、2種類以上を併用することも可能である。
【0019】
前記製剤化の際には、界面活性剤、pH調整剤、消泡剤、防錆剤、粘度調整剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、酸化防止剤、他の抗菌成分などを配合させてもよい。
【0020】
本発明の抗バイオフィルム組成物は、主として樹脂成分に配合され、抗バイオフィルム性樹脂部材に加工される。当該樹脂部材は、例えば、冷却設備や排水設備の配管、熱交換機器、空調システムのドレインパンなどに使用されることにより持続的に抗バイオフィルム効果を発現する。
また、本発明の抗バイオフィルム組成物を繊維、不織布、塗料、表面処理剤、コ-ティング剤、接着剤、フィルム、プラスチックなどの樹脂製品に配合して使用することも可能である。
【0021】
樹脂部材または樹脂製品に使用される樹脂成分としては、特に制限はなく、天然樹脂、合成樹脂もしくは半合成樹脂のいずれかであってもよく、また熱可塑性樹脂もしくは熱硬化性樹脂のいずれかであってもよい。具体的な樹脂成分としては、フェノ-ル樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ナイロン、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタ-ル樹脂、ポリカ-ボネ-ト樹脂、ポリスルホン樹脂、酢酸ビニル樹脂ポリビニルアルコ-ル樹脂、ポリビニルアセタ-ル樹脂等が挙げられる。
【0022】
本発明の抗バイオフィルム性樹脂部材または樹脂製品に対する本発明の抗バイオフィルム性組成物の配合割合は、樹脂組成物100重量部に対して0.1~50重量部が好ましく、0.3~20重量部がより好ましく、0.5~15重量部がより好ましい。
【0023】
また、本発明の抗バイオフィルム性樹脂部材または樹脂製品には、必要に応じて酸化防止剤や紫外線吸収阻害剤等の安定剤、可塑剤、軟化剤、粘度調節剤、防汚剤、顔料、染料、脱臭剤、芳香剤、香料、展着剤、防錆剤、滑剤、アンチブロッキング剤、界面活性剤、帯電防止剤、加硫剤、加硫促進剤、架橋剤、発泡剤、充填剤、抗菌剤、防カビ剤、抗ウイルス剤等の添加剤を配合してもよい。
【0024】
本発明の一実施形態である樹脂部材は、例えば、熱可塑性樹脂に本発明の抗バイオフィルム性組成物を練り込んで成形することによって製造することができる。
【0025】
例えば、本発明の抗バイオフィルム組成物、熱可塑性組成物および無機充填剤等の他の成分を、通常60~250℃の温度に調整した単軸押出機又は二軸押出機等の押出機により溶融・混練することによって樹脂組成物を調製し、該樹脂組成物を通常60~220℃の温度で射出成形等により所定の形状に成形することによって製造することができる。成形方法としては、射出成形のほか、押出成形、プレス成形、真空成形等を用いることもできる。
【0026】
本発明の抗バイオフィルム組成物が対象とする微生物としては、例えば、表皮ブドウ球菌やリステリア菌などのグラム陽性菌が、大腸菌、緑膿菌や肺炎桿菌などのグラム陰性菌が挙げられる。このうち表皮ブドウ球菌やリステリア菌などのグラム陽性菌に対して優れた抗バイオフィルム効果を示し、特に表皮ブドウ球菌に対して優れた抗バイオフィルム効果を示す。ここで抗バイオフィルム効果とは、固体表面への微生物の付着を抑制すること、微生物の増殖を抑制すること、微生物を殺すことによりバイオフィルムの形成を低減することを意味する。
【実施例0027】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
リン原子と直接結合しない芳香族炭化水素基を有する有機リン化合物を代表して
を、
リン原子と直接結合する芳香族炭化水素基を有する有機リン化合物のうち、一般式(3)で表される有機リン化合物を代表して
を、
一般式(4)で表される有機リン化合物を代表して
を、
一般式(5)で表される有機リン化合物を代表して
を使用して、各種抗バイオフィルム組成物を作製した(それぞれ実施例1~4とする)。
【0029】
実施例1~4のそれぞれの抗バイオフィルム組成物 3重量部およびポリエチレン(PE、スミカセンFV405、住友化学製) 100重量部を混練機(LABOPLASTOMILL 4C150-01、東洋精機製作所製)を使用して、140℃、50rpmで5分間混練し樹脂組成物を得た。当該樹脂組成物を、アルミ板でサンドイッチ状に挟み、プレス機(型番:AYSR-5、神藤金属工業所製)で160℃にて、100kg/cm2の圧力で180秒プレスしてシ-ト状に成形し(厚み0.5mm)、3×3cmの大きさに切り出し、樹脂部材を作製した(それぞれ樹脂部材1~4とする)。
【0030】
(抗バイオフィルム効果の測定)
試験菌としてStaphylococcus epidermidis ATCC35984(表皮ブドウ球菌)を用いた。SCD液体培地は日水製薬製、水溶性不織布はクロスクック(オゼキ製)、ドデシル硫酸ナトリウムは富士フイルム和光純薬製を用いた。試験菌の菌液は、SCD液体培地中で37℃、一晩振盪培養したものを、5分の1濃度のSCD液体培地で103~104CFU/mLとなるように調製した。各樹脂部材を80℃で3時間加熱して滅菌カップに投入した後、前記の菌液20mLに37℃、48時間浸漬・培養した。培養後の樹脂部材を水で洗浄した後、当該樹脂部材を20mLの0.1%クリスタルバイオレット水溶液に30分間浸漬して、生成したバイオフィルムを染色した。染色後の樹脂部材を水で洗浄し、前記のバイオフィルムを水溶性不織布で拭き取って回収したものを5mLの1%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液に溶解した。得られた溶液の吸光度(590nm)をマイクロプレ-ト用分光光度計(テカンジャパン製)で測定した。抗バイオフィルム効果に関しては、薬剤添加樹脂部材ならびに薬剤未添加樹脂部材から得られた溶液(以下、それぞれ薬剤添加溶液および薬剤未添加溶液という)の吸光度を用いて、次式を用いて評価した。なお当該活性値については、数値が大きいほど抗バイオフィルム効果があると判定することができる。
【0031】
抗バイオフィルム効果値=(1-『薬剤添加溶液の吸光度』/『薬剤未添加溶液の吸光度』)×100
【0032】
上記試験を3回繰り返し実施し、抗バイオフィルム効果値の平均値を算出した。測定結果を表2に示す。
【0033】