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  • 特開-車両の制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001565
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20241225BHJP
【FI】
F16H61/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101240
(22)【出願日】2023-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】桑原 信也
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA07
3J552MA12
3J552MA26
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA20
3J552QA08C
3J552QA13C
3J552RA20
3J552SA07
3J552TB02
3J552VA63W
3J552VA64W
3J552VA65W
3J552VA66W
(57)【要約】
【課題】エンジン始動後の走行ポジションへの初回の切替え時に、係合装置の係合遅れを抑制することができる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンの始動後、且つ、シフトポジションの非走行ポジションから走行ポジションへの初回の切替え前である場合には、一時的に、切替バルブが元圧を係合圧制御バルブに供給する第1状態へ切り替えられる。これにより、エンジンの停止状態時に係合装置の油圧の元圧を係合圧制御バルブへ供給する油路に溜まったエアが第1状態への切替えによって排出され、係合装置の初回係合時の油圧や元圧の低下を抑制することができる。よって、エンジン始動後の走行ポジションへの初回の切替え時に、係合装置の係合遅れを抑制することができる。加えて、走行ポジションへの初回の切替え前において、係合装置の解放状態が維持されるように係合圧制御バルブが制御されるので、動力伝達装置の非走行ポジションが維持される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、係合装置を介して前記エンジンの動力を駆動輪へ伝達する動力伝達装置と、を備えた車両の、制御装置であって、
前記車両は、前記エンジンの運転状態で発生させられる油圧を元圧として前記係合装置を解放状態と係合状態との間で切り替える調圧された係合圧を前記係合装置に出力する係合圧制御バルブと、前記元圧を前記係合圧制御バルブに供給する第1状態と前記元圧の前記係合圧制御バルブへの供給を遮断する第2状態とに切り替えられる切替バルブと、を更に備えており、
前記動力伝達装置のシフトポジションを前記動力伝達装置における動力伝達が可能とされた走行ポジションとするときには、前記切替バルブを前記第1状態へ切り替える一方で、前記シフトポジションを前記動力伝達装置における動力伝達が遮断された非走行ポジションとするときには、前記切替バルブを前記第2状態へ切り替えるものであり、
前記エンジンの始動後、且つ、前記シフトポジションの前記非走行ポジションから前記走行ポジションへの初回の切替え前である場合には、一時的に、前記切替バルブを前記第1状態へ切り替えると共に、前記係合装置の解放状態が維持されるように前記係合圧制御バルブを制御することを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、係合装置を介してエンジンの動力を駆動輪へ伝達する動力伝達装置を備えた車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンと、係合装置を介して前記エンジンの動力を駆動輪へ伝達する動力伝達装置と、を備えた車両の制御装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載された車両の制御装置がそれである。この特許文献1には、動力伝達装置のシフトポジションが動力伝達装置における動力伝達が遮断された非走行ポジションとされるときには、係合装置の油圧が抜かれて係合が解かれ、ニュートラル状態が保たれることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-84160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンが停止状態とされると、係合装置の油圧の元圧が発生させられない為、係合装置の油圧を出力する係合圧制御バルブ等を含む油圧制御回路内からオイルが抜けてしまう。一方で、シフトポジションが非走行ポジションであるときには、油圧制御回路においてエンジンの始動後もオイルが供給(充填)されない、油路例えば元圧を係合圧制御バルブへ供給する油路が存在する場合がある。この場合、シフトポジションが非走行ポジションから動力伝達装置における動力伝達が可能とされた走行ポジションへ切り替えられる際に、オイルの供給が遅れて元圧が低下する可能性がある。元圧が所定値よりも低下すると、係合装置の係合遅れが発生するおそれがある。このような現象は、長いエンジンの停止状態からのエンジン始動後の走行ポジションへの初回の切替え時に発生し易い。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、エンジン始動後の走行ポジションへの初回の切替え時に、係合装置の係合遅れを抑制することができる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の要旨とするところは、(a)エンジンと、係合装置を介して前記エンジンの動力を駆動輪へ伝達する動力伝達装置と、を備えた車両の、制御装置であって、(b)前記車両は、前記エンジンの運転状態で発生させられる油圧を元圧として前記係合装置を解放状態と係合状態との間で切り替える調圧された係合圧を前記係合装置に出力する係合圧制御バルブと、前記元圧を前記係合圧制御バルブに供給する第1状態と前記元圧の前記係合圧制御バルブへの供給を遮断する第2状態とに切り替えられる切替バルブと、を更に備えており、(c)前記動力伝達装置のシフトポジションを前記動力伝達装置における動力伝達が可能とされた走行ポジションとするときには、前記切替バルブを前記第1状態へ切り替える一方で、前記シフトポジションを前記動力伝達装置における動力伝達が遮断された非走行ポジションとするときには、前記切替バルブを前記第2状態へ切り替えるものであり、(d)前記エンジンの始動後、且つ、前記シフトポジションの前記非走行ポジションから前記走行ポジションへの初回の切替え前である場合には、一時的に、前記切替バルブを前記第1状態へ切り替えると共に、前記係合装置の解放状態が維持されるように前記係合圧制御バルブを制御することにある。
【発明の効果】
【0007】
前記第1の発明によれば、エンジンの始動後、且つ、シフトポジションの非走行ポジションから走行ポジションへの初回の切替え前である場合には、一時的に、切替バルブが元圧を係合圧制御バルブに供給する第1状態へ切り替えられる。これにより、エンジンの停止状態時に係合装置の油圧の元圧を係合圧制御バルブへ供給する油路に溜まったエアが第1状態への切替えによって排出され、係合装置の初回係合時の油圧や元圧の低下を抑制することができる。よって、エンジン始動後の走行ポジションへの初回の切替え時に、係合装置の係合遅れを抑制することができる。加えて、走行ポジションへの初回の切替え前において、係合装置の解放状態が維持されるように係合圧制御バルブが制御されるので、動力伝達装置の非走行ポジションが維持される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であると共に、車両における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
図2】油圧制御回路の一部を示す図である。
図3】電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、エンジン始動後の走行レンジへの初回の切替え時に係合装置の係合遅れを抑制する為の制御作動を説明するフローチャートである。
図4】本発明が適用される別の実施態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例0010】
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、動力源として機能するエンジン12と、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16と、を備えている。エンジン12は、公知の内燃機関であって、後述する電子制御装置90によって、車両10に備えられたエンジン制御装置50が制御されることにより制御される。
【0011】
動力伝達装置16は、ケース18内に、ロックアップクラッチLUを有するトルクコンバータ20、入力軸22、無段変速機構24、前後進切替装置26、ギヤ機構28、出力軸30、カウンタ軸32、減速歯車装置34、ギヤ36、デフギヤ38等を備えている。又、動力伝達装置16は、デフギヤ38に連結された左右の車軸40等を備えている。
【0012】
動力伝達装置16は、入力軸22と出力軸30との間に並列に設けられた、エンジン12の動力を入力軸22から出力軸30へ各々伝達することが可能な、第1動力伝達経路PT1及び第2動力伝達経路PT2を備えている。
【0013】
動力伝達装置16では、エンジン12の動力を伝達する動力伝達経路が、車両10の走行状態に応じて第1動力伝達経路PT1と第2動力伝達経路PT2とで切り替えられる。動力伝達装置16は、第1動力伝達経路PT1と第2動力伝達経路PT2とを選択的に形成する為の、噛合式クラッチD1、第1クラッチC1、第1ブレーキB1、及び第2クラッチC2を備えている。噛合式クラッチD1と、第1クラッチC1又は第1ブレーキB1と、は共に係合されることで第1動力伝達経路PT1を形成する係合装置である。第2クラッチC2は、係合されることで第2動力伝達経路PT2を形成する係合装置である。
【0014】
前後進切替装置26は、キャリア26cとサンギヤ26sとリングギヤ26rとを有する遊星歯車装置26p、第1クラッチC1、及び第1ブレーキB1を備えている。キャリア26cは、入力軸22に連結されている。リングギヤ26rは、第1ブレーキB1を介してケース18に選択的に連結される。サンギヤ26sは、入力軸22回りにその入力軸22に対して同軸心に相対回転可能に設けられた小径ギヤ60に連結されている。キャリア26cとサンギヤ26sとは、第1クラッチC1を介して選択的に連結される。
【0015】
第1クラッチC1及び第1ブレーキB1は何れも、公知の油圧式の湿式の摩擦係合装置である。第1クラッチC1は前進用の係合装置であり、第1ブレーキB1は後進用の係合装置である。第1クラッチC1及び第1ブレーキB1は、各々、後述する電子制御装置90によって制御される、車両10に備えられた油圧制御回路52から供給される油圧により制御状態(解放状態、スリップ状態、係合状態)が切り替えられる。
【0016】
ギヤ機構28は、小径ギヤ60と、ギヤ機構カウンタ軸62と、ギヤ機構カウンタ軸62回りにそのギヤ機構カウンタ軸62に対して同軸心に相対回転不能に設けられて小径ギヤ60と噛み合う大径ギヤ64と、を備えている。又、ギヤ機構28は、ギヤ機構カウンタ軸62回りにそのギヤ機構カウンタ軸62に対して同軸心に相対回転可能に設けられたアイドラギヤ66と、出力軸30回りにその出力軸30に対して同軸心に相対回転不能に設けられてアイドラギヤ66と噛み合う出力ギヤ68と、を備えている。
【0017】
噛合式クラッチD1は、ギヤ機構カウンタ軸62回りに、大径ギヤ64とアイドラギヤ66との間に設けられて、これらの間の動力伝達経路を選択的に接続したり、切断したりする。噛合式クラッチD1は、車両10に備えられた油圧アクチュエータ54の作動により制御状態(解放状態、係合状態)が切り替えられる、公知のドグクラッチである。噛合式クラッチD1は、公知のシンクロメッシュ機構S1を備えている。油圧アクチュエータ54は、油圧制御回路52から供給される油圧により作動させられる。
【0018】
無段変速機構24は、入力軸22と同軸心に設けられて入力軸22と連結されたプライマリ軸70と、プライマリ軸70に連結された有効径が可変のプライマリプーリ72と、出力軸30と同軸心に設けられたセカンダリ軸74と、セカンダリ軸74に連結された有効径が可変のセカンダリプーリ76と、各プーリ72、76の間に巻き掛けられた伝動ベルト78と、を備えている。無段変速機構24は、公知のベルト式の無段変速機である。
【0019】
出力軸30は、セカンダリ軸74に対して同軸心に相対回転可能に配置されている。第2クラッチC2は、セカンダリプーリ76と出力軸30との間の動力伝達経路に設けられている。第2クラッチC2は、公知の油圧式の湿式の摩擦係合装置である。第2クラッチC2は、油圧制御回路52から供給される油圧により制御状態(解放状態、スリップ状態、係合状態)が切り替えられる。
【0020】
動力伝達装置16では、第1動力伝達経路PT1における変速比は第2動力伝達経路PT2における最大変速比である無段変速機構24の最ロー側変速比よりも大きな値に設定されている。動力伝達装置16において第1動力伝達経路PT1が形成された状態とするギヤ走行モードは、車両停止中を含む比較的低車速領域において選択される。動力伝達装置16において第2動力伝達経路PT2が形成された状態とするベルト走行モードは、中車速領域を含む比較的高車速領域において選択される。
【0021】
車両10は、機械式のオイルポンプ56を備えている。オイルポンプ56は、トルクコンバータ20のポンプ翼車に連結されており、エンジン12により回転駆動させられて、油圧制御回路52へ供給される作動油OILを吐出する。油圧制御回路52は、供給された作動油OILを元にして、第1クラッチC1、第1ブレーキB1、第2クラッチC2、噛合式クラッチD1の各々の制御状態を切り替える為の油圧である、C1圧Pc1、B1圧Pb1、C2圧Pc2、S1圧Ps1を供給する。噛合式クラッチD1の制御状態を切り替える為の油圧については、シンクロメッシュ機構S1を作動させることから、S1圧Ps1と表す。
【0022】
車両10は、複数の操作ポジションPOSopのうちの何れかへ運転者によって操作されるシフト操作部材を有するシフト装置58を備えている。シフト装置58は、動力伝達装置16のシフトポジション(シフトレンジRshも同意)を切り替える為のシフト切替装置である。操作ポジションPOSopは、動力伝達装置16における動力伝達状態の選択状態を表す信号であり、例えばP、R、N、D操作ポジション等を含んでいる。シフトレンジRshは、動力伝達装置16の動力伝達状態を表しており、例えばP、R、N、Dレンジ等を含んでいる。P(パーキング)操作ポジションは、動力伝達装置16がニュートラル状態とされ且つ出力軸30が回転不能に機械的に固定された、動力伝達装置16のPレンジの選択状態を表す。動力伝達装置16のニュートラル状態は、第1動力伝達経路PT1及び第2動力伝達経路PT2が何れも形成されていない状態であって、例えば第1クラッチC1、第1ブレーキB1、及び第2クラッチC2の解放によって実現される。R(後進走行)操作ポジションは、ギヤ走行モードにて後進走行を可能とする動力伝達装置16のRレンジの選択状態を表す。N(ニュートラル)操作ポジションは、動力伝達装置16がニュートラル状態とされた動力伝達装置16のNレンジの選択状態を表す。D(前進走行)操作ポジションは、ギヤ走行モードにて前進走行を可能とするか、又は、ベルト走行モードにて無段変速機構24の自動変速制御を実行して前進走行を可能とする、動力伝達装置16のDレンジの選択状態を表す。D、Rレンジは、動力伝達装置16における動力伝達が可能とされた走行ポジション(走行レンジも同意)である。P、Nレンジは、動力伝達装置16における動力伝達が遮断された非走行ポジション(非走行レンジも同意)である。
【0023】
図2は、油圧制御回路52の一部を示す図である。図2において、油圧制御回路52は、油路切替用の第1切替バルブ80、第2切替バルブ82、第3切替バルブ84、及び第4切替バルブ86と、バルブ作動用のON-OFFソレノイドバルブSC1、ON-OFFソレノイドバルブSC2、及びON-OFFソレノイドバルブSC3と、油圧制御用のロックアップ油圧制御バルブSLU、第1油圧制御バルブSL1、第2油圧制御バルブSL2、及びガレージ油圧制御バルブSLGと、を備えている。油圧制御バルブSLU、SL1、SL2、SLGは、例えばリニアソレノイドバルブである。
【0024】
第1切替バルブ80は、ライン圧PLをDレンジ圧PDとして出力する第1状態(実線参照)及びライン圧PLをRレンジ圧PRとして出力する第2状態(破線参照)のうちの何れかの状態に、ON-OFFソレノイドバルブSC1によって電気的に切り替えられる。ライン圧PLは、オイルポンプ56が吐出する作動油OILを元にして不図示のレギュレータバルブによって調圧された油圧であって、エンジン12の運転状態で発生させられる油圧である。第1油圧制御バルブSL1は、ライン圧PL又はDレンジ圧PDを調圧したC1圧Pc1を第1クラッチC1に供給する。第1油圧制御バルブSL1は、ライン圧PLを元圧として第1クラッチC1を解放状態と係合状態との間で切り替える調圧された係合圧であるC1圧Pc1を第1クラッチC1に出力する係合圧制御バルブである。他の油圧制御バルブSLU、SL2、SLGも同様である。第1切替バルブ80は、ライン圧PLをDレンジ圧PDとして第1油圧制御バルブSL1に供給する第1状態と、Dレンジ圧PDとしてのライン圧PLの第1油圧制御バルブSL1への供給を遮断する第2状態とに切り替えられる切替バルブである。
【0025】
図1に戻り、車両10は、車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置90を備えている。電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ等(例えば操作ポジションセンサ100など)による検出値に基づく各種信号等(例えば操作ポジションPOSopなど)が供給される。又、電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、油圧制御回路52など)に各種指令信号(例えばエンジン制御指令信号Se、SC1制御指令信号Ssc1、SL1制御指令信号Ssl1など)が、それぞれ出力される。
【0026】
電子制御装置90は、油圧切替部92を備えている。油圧切替部92は、動力伝達装置16のシフトレンジRshを走行レンジ(特にはDレンジ)とするときには、第1切替バルブ80を第1状態へ切り替えるようにON-OFFソレノイドバルブSC1をオンとするSC1制御指令信号Ssc1を出力する。一方で、油圧切替部92は、シフトレンジRshを非走行レンジ(P、Nレンジ)とするときには、第1切替バルブ80を第2状態へ切り替えるようにON-OFFソレノイドバルブSC1をオフとするSC1制御指令信号Ssc1を出力する。油圧制御回路52では、シフト装置58にリンクされた公知のマニュアルバルブによってシフトレンジRshを切り替えるのではなく、ON-OFFソレノイドバルブSC1による油圧切替えによってシフトレンジRshを切り替える制御システムであるマニュアルバルブレスを採用している。
【0027】
ところで、油圧制御回路52では、エンジン12の停止状態で長期放置されたときには内部から作動油OILが抜けてしまう。一方で、油圧制御回路52では、エンジン始動後も非走行レンジのときには作動油OILが供給(充填)されない油路、例えばDレンジ圧油路88、89が存在する。その為、走行レンジ(特にはDレンジ)に切り替えた際にDレンジ圧油路88、89への作動油OILの供給が遅れてライン圧PLが低下してしまう可能性がある。ライン圧PLが所定値よりも低下すると、ON-OFFソレノイドバルブの出力油圧が低下し、切替バルブが誤切替えさせられて、例えば噛合式クラッチD1が非係合となり、走行レンジを形成できなくなるおそれがある。
【0028】
そこで、油圧切替部92は、エンジン始動後の非走行レンジのときに、第1切替バルブ80を第1状態へ切り替えると共に、第1クラッチC1の解放状態が維持されるように第1油圧制御バルブSL1を制御する。又、油圧切替部92は、この制御を、エンジン始動後、初回の走行レンジ(特にはDレンジ)への切替えまでにのみ実施する。尚、噛合式クラッチD1は、非走行レンジのときに予め係合状態とされていても良い。油圧切替部92は、この制御を、エンジン始動後、噛合式クラッチD1を係合状態とする前に実施する。この制御を、噛合式クラッチD1の係合状態への切替えを待って実施した場合、ライン圧PLの圧低によって噛合式クラッチD1が解放状態とされる事象が発生する可能性がある。D操作ポジションへの操作前であれば、再係合すれば問題とはならないが、エンジン始動後、短時間でD操作ポジションへ操作された場合には問題となる事象を回避できないおそれがある。その為、この制御を、噛合式クラッチD1を係合状態とする前に実施する方がより効果が得られる。
【0029】
このように、油圧切替部92は、エンジン12の始動後、且つ、シフトレンジRshの非走行ポジションから走行ポジションへの初回の切替え前である場合には、一時的に、第1切替バルブ80を第1状態へ切り替えると共に、第1クラッチC1の解放状態が維持されるように第1油圧制御バルブSL1を制御する。尚、Dレンジ圧油路89にもライン圧PLを供給するには、切替バルブとして機能する第3切替バルブ84も第1状態へ切り替える必要がある。
【0030】
図3は、電子制御装置90の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、エンジン始動後の走行レンジへの初回の切替え時に係合装置の係合遅れを抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば繰り返し実行される。
【0031】
図3において、フローチャートの各ステップは油圧切替部92の機能に対応している。ステップ(以下、ステップを省略する)S10において、条件を満たしているか否かが判定される。この条件は、例えばエンジン始動後、且つ、初回の走行レンジへの切替え前であり、ライン圧PLが所定値以上であり、噛合式クラッチD1の係合前であるという条件である。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS10の判断が肯定される場合はS20において、所定の時間、ON-OFFソレノイドバルブSC1がオンとされる。つまり、Dレンジと同様の状態(SC1=ON、SC2=OFF、SC3=ON)とされる。又、第1油圧制御バルブSL1、第2油圧制御バルブSL2、及びガレージ油圧制御バルブSLGがオフとされて各々の出力油圧がゼロとされる。
【0032】
上述のように、本実施例によれば、エンジン始動後、且つ、初回の走行レンジへの切替え前である場合には、一時的に、第1切替バルブ80や第3切替バルブ84が第1状態へ切り替えられる。これにより、エンジン12の停止状態時にライン圧PLを第1油圧制御バルブSL1へ供給するDレンジ圧油路88、89等に溜まったエアが第1状態への切替えによって排出され、第1クラッチC1の初回係合時のC1圧Pc1やライン圧PLの低下を抑制することができる。よって、エンジン始動後の走行ポジションへの初回の切替え時に、第1クラッチC1の係合遅れを抑制することができる。加えて、走行ポジションへの初回の切替え前において、第1クラッチC1の解放状態が維持されるように第1油圧制御バルブSL1が制御されるので、動力伝達装置16の非走行ポジションが維持される。
【0033】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0034】
例えば、本発明は、初回のRレンジへの切替えまでに実施する制御にも適用することができる。この場合、対象となる切替バルブは第2切替バルブ82であり、対象となる係合圧制御バルブは油圧制御バルブSLGである。
【0035】
また、本発明は、図4に示す別の実施態様にも適用することができる。図4の(a)は図2に対応し、図4の(b)は図3に対応している。
【0036】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0037】
10:車両 12:エンジン 14:駆動輪 16:動力伝達装置 80:第1切替バルブ(切替バルブ) 82:第2切替バルブ(切替バルブ) 84:第3切替バルブ(切替バルブ) 90:電子制御装置(制御装置) B1:第1ブレーキ(係合装置) C1:第1クラッチ(係合装置) SL1、SL2、SLG:油圧制御バルブ(係合圧制御バルブ) PL:ライン圧(油圧、元圧)
図1
図2
図3
図4