(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015673
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】脊髄軟膜下遺伝子送達システム
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7088 20060101AFI20250123BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20250123BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20250123BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20250123BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
A61K31/7088
A61P25/16
A61P25/14
A61P25/00
A61P25/28
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024199400
(22)【出願日】2024-11-15
(62)【分割の表示】P 2023036473の分割
【原出願日】2015-12-15
(31)【優先権主張番号】62/110,340
(32)【優先日】2015-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】マーティン・マーサラ
(72)【発明者】
【氏名】アツシ・ミヤノハラ
(57)【要約】
【課題】
哺乳動物の軟膜下空間内へ核酸分子を送達させ、その脊髄実質内感染をもたらすための方法および脊髄軟膜下遺伝子送達システムを提供すること。
【解決手段】
対象の脊椎の脊髄分節を露出させるステップ、脊髄分節内に軟膜開口部を設けるステップ、カテーテルを軟膜にL字型形状のステンレススチールチューブを穿刺することによって設けた軟膜開口部を通じて軟膜下空間内へ前進させるステップ、およびベクターまたはアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)である核酸分子を対象の軟膜下空間へ送達させるステップを含む、対象の軟膜下空間へ核酸分子を送達する方法および該方法において用いるシステムを提供する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の軟膜下空間へ核酸分子を投与することを含む、対象における核酸分子の脊髄実質内感染の方法。
【請求項2】
投与ステップが、
(a)対象の脊椎の脊髄分節を露出させること、
(b)脊髄分節内に軟膜開口部を設けること、
(c)カテーテルを軟膜開口部を通じて軟膜下空間内へ前進させること、および
(d)核酸分子を対象の軟膜下空間へ送達させること
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
軟膜開口部が、軟膜をL字型形状のステンレススチールチューブによって穿刺することによって設けられ、カテーテルがチューブを通じて軟膜下空間内へ前進される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
核酸分子が、約1~10%のデキストロースを含む混合物で投与される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
核酸分子が、ベクターまたはアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
ベクターが、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクターまたはアデノ随伴ベクターである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
ベクターがAAV9粒子である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
ベクターが、神経変性疾患を調節または処置するタンパク質または機能性RNAをコードする核酸分子を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
神経変性疾患が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、アルツハイマー病またはパーキンソン病である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
核酸分子が単回注入で送達される、請求項1記載の方法。
【請求項11】
核酸分子の1回以上の第2の軟膜下投与を対象の脊椎の異なる脊髄分節中に行うことをさらに含む、請求項2記載の方法。
【請求項12】
対象への核酸分子の1回以上の髄腔内投与をさらに含む、請求項2記載の方法。
【請求項13】
対象が哺乳動物である、請求項1記載の方法。
【請求項14】
対象がヒトである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
遺伝子送達システムであって、
(a)対象の軟膜を穿刺するように構成されたL字型形状のガイドチューブと、
(b)ガイドチューブ内にスライド可能に配置されかつ対象の脊椎の脊髄分節の軟膜下空間内へ前進されるように構成されたカテーテルと、
(c)カテーテルと流体連通しかつ核酸分子を含む組成物を含むリザーバと、
を含む、システム。
【請求項16】
L字型形状のガイドチューブが16~26Gのステンレススチールチューブである、請求項15記載の方法。
【請求項17】
カテーテルがポリエチレンチュービングから形成される、請求項15記載の方法。
【請求項18】
対象の軟膜下空間へ核酸分子を送達する方法であって、
(a)対象の脊椎の脊髄分節を露出させること、
(b)脊髄分節内に軟膜開口部を設けること、
(c)請求項16記載の遺伝子送達システムを該脊髄分節上方に位置決めすること、
(d)カテーテルを軟膜開口部を通じて軟膜下空間内へ前進させること、および
(e)核酸分子を対象の軟膜下空間へ送達させること
を含む、方法。
【請求項19】
必要としている対象において神経変性疾患を処置する方法であって、ベクターまたはアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を対象の軟膜下空間へ投与することを含む、方法。
【請求項20】
投与ステップが、
(a)対象の脊椎の脊髄分節を露出させること、
(b)脊髄分節内に軟膜開口部を設けること、
(c)カテーテルを軟膜開口部を通じて軟膜下空間内へ前進させること、および
(d)核酸分子を対象の軟膜下空間へ送達させること
を含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
軟膜開口部が、軟膜をL字型形状のステンレススチールチューブによって穿刺することによって設けられ、カテーテルがチューブを通じて軟膜下空間内へ前進される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
神経変性疾患が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、アルツハイマー病またはパーキンソン病である、請求項19記載の方法。
【請求項23】
対象の脊椎の異なる脊髄分節中へのベクターまたはASOの1回以上の第2の軟膜下投与をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項24】
対象へのベクターまたはASOの1回以上の髄腔内投与をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項25】
対象が哺乳動物である、請求項19記載の方法。
【請求項26】
対象がヒトである、請求項25記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願への相互参照]
本出願は、米国特許庁における米国仮出願第62/110,340号(出願日:2015年1月30日)に基づく優先権の利益を主張するものであり、その内容全体は引用により本明細書中に包含される。
【背景技術】
【0002】
本発明は、主に遺伝子治療に関し、より詳細には、哺乳動物の軟膜下空間内へ遺伝子およびオリゴヌクレオチドを送達させ、その脊髄実質内感染(spinal trans-parenchymal infection)をもたらすための方法およびシステムに関する。
【0003】
ベクターまたはアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を脊髄実質中へ送達するための現在用いられているアプローチとしては、2つの技術があるが、各々が、本発明と比較して実質的な欠点がある。
【0004】
第1には、髄腔内送達は、ベクターまたはASOを脊髄髄腔内空間(すなわち、軟膜外)内に注入する際に用いられる。このアプローチを用いた場合、AAV9送達後、脊髄実質深部での導入遺伝子(トランスジーン)発現はみられない。軟膜はAAV9を透過させないため、A-運動ニューロンおよび一次求心性神経の亜集団のみが感染する。ASOの髄腔内送達の結果、ASOが良好に脊髄実質に浸透し得る場合もあるものの、ASOは脊髄全体(すなわち、頸髄節から仙髄節の範囲)にみられる。そのため、髄腔内送達の場合、ASOの分節限定分布を達成することができていない。
【0005】
第2には、直接的な脊髄実質への注入が用いられ得る。このアプローチを用いることにより、分節特異的なトランスジーン発現またはASO分布を脊髄実質において達成することができる。しかし、この技術は直接脊髄実質への針貫入が必要となるため、その侵襲性が欠点である。
【0006】
そのため、白質および灰白質の双方において、ほとんど完全な脊髄実質AAV9-媒介遺伝子発現またはASO分布を可能にする軟膜下送達システムが必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
中枢神経系における遺伝子特異的なサイレンシングまたは上方制御を達成するためのAAV系ベクターの有効なインビボ使用は、臨床的関連性が最も高い送達経路(すなわち、静脈内または髄腔内投与)を用いた成体動物における限られた深い実質発現以上のものを提供できないために制限されている。そのため、本発明によれば、脊髄軟膜は、髄腔内AAV9送達後に脊髄実質内への有効なAAV9浸透を制限する一次バリアに相当することが実証される。そのため、本発明は、大型動物およびヒトの脊髄実質内への遺伝子およびオリゴヌクレオチドの送達のための方法およびシステムを提供する。
【0008】
よって、一実施態様において、本発明は、対象における核酸分子の脊髄実質内感染の方法を提供する。本方法は、対象の軟膜下空間へ核酸分子を投与することを含む。対象は、ヒトなどの哺乳動物であり得る。多様な実施形態において、投与ステップは、対象の脊椎の脊髄分節を露出させること、脊髄分節内に軟膜開口部を設けること、カテーテルを軟膜開口部を通じて軟膜下空間内へ前進させること、および核酸分子を対象の軟膜下空間へ送達させることを含む。軟膜開口部は、軟膜にL字型形状のステンレススチールチューブを穿刺することによって設けることができ、カテーテルは、チューブを通じて軟膜下空間内へ前進させられる。多様な実施形態において、核酸分子は、約1~10%のデキストロースを含む混合物で投与される。多様な実施形態において、核酸分子は、ベクターまたはアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)である。ベクターは、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、またはアデノ随伴ウイルスベクター(例えば、AAV9粒子)であり得る。特定の実施形態において、ベクターは、神経変性疾患(例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、アルツハイマー病、パーキンソン病など)を調節または処置するタンパク質または機能性RNAをコードする核酸分子を含む。
【0009】
特定の実施形態において、核酸分子は、単回注入として送達される。特定の実施形態において、方法は、さらに、対象の脊椎の別の脊髄分節中への核酸分子の1回以上の第2の軟膜下注入を投与することを含む。特定の実施形態において、方法は、さらに、核酸分子の1回以上の髄腔内注入を対象に投与することを含む。
【0010】
別の実施態様において、本発明は、遺伝子送達システムを提供する。本システムは、対象の軟膜を穿刺するように構成されたL字型形状のガイドチューブと、ガイドチューブ内にスライド可能に配置されかつ対象の脊椎の脊髄分節の軟膜下空間内へ前進させられるように構成されたカテーテルと、カテーテルと流体連通しかつ核酸分子を含む組成物を含むリザーバとを含む。多様な実施形態において、L字型形状のガイドチューブは、16-26Gステンレススチールチューブであり得、カテーテルは、ポリエチレンチュービング(例えば、PE-5またはPE-10)から形成され得る。
【0011】
別の実施態様において、本発明は、核酸分子を対象の軟膜下空間へ送達させる方法を提供する。本方法は、対象の脊椎の脊髄分節を露出させること、脊髄分節内に軟膜開口部を設けること、脊髄分節の上方に本明細書中に記載の遺伝子送達システムを位置決めすること、カテーテルを軟膜開口部を通じて軟膜下空間内へ前進させること、および核酸分子を対象の軟膜下空間へ送達させることを含む。多様な実施形態において、核酸分子は、約1~10%のデキストロースを含む混合物にて送達される。核酸分子は、ベクターまたはアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)である。ベクターは、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、またはアデノ随伴ウイルスベクターである(例えば、AAV9粒子)。対象は、ヒトなどの哺乳動物であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】軟膜下AAV9送達および巨視的に規定された脊髄表面トランスジーン発現を示す図であり、ブタにおける脊髄、髄膜および軟膜下に配置されたPE-10カテーテルの模式図である。
【
図1B】軟膜下AAV9送達および巨視的に規定された脊髄表面トランスジーン発現を示す図であり、鋭利な軟膜穿刺先端(インサート)を備えたカテーテル誘導チューブ(18G)を示す。この軟膜穿刺先端(インサート)は、軟膜を穿刺することと、PE-10カテーテルを軟膜下空間内へ前進させることとのために用いられる。
【
図1C-1E】軟膜下AAV9送達および巨視的に規定された脊髄表面トランスジーン発現を示す図であり、軟膜下空間内へのカテーテルの配置の前進を示す図である。先ず、硬膜を切断して開口させ(
図1C)、カテーテルを軟膜下空間内へ前進させる(
図1Dおよび1E)。軟膜下空間内へ注入された気泡が確認できる(
図1D-星印)。
【
図1F-1J】軟膜下AAV9送達および巨視的に規定された脊髄表面トランスジーン発現を示す図であり、
図1Fおよび1Gは、表面GFP蛍光デンシトメトリーであり、腰部軟膜下注入の中心点においてみられる最高強度のGFP蛍光を有するブタ脊髄およびラット脊髄双方における強いシグナルを示す。脊髄実質中の高RFP蛍光の存在が、ブタ胸髄中に巨視的に検出されている(
図1Hおよび1J)。前根における明確な高レベルのRFP発現も確認できる(
図1H-挿入図)。脊髄への注入を行わなかった対照サンプルにおいては、蛍光がみられないことが分かる(
図1I)。
【
図2】軟膜下空間内へのPE-10カテーテルの挿入と、脊髄実質全体およびAAV9注入分節から遠位方向に突出する軸索におけるGFP発現とを示す図である。
【
図3】成体ブタにおける単回ボーラス軟膜下AAV9-UBI-RFP注入後の有効な実質AAV9媒介トランスジーン発現を示す図である。
図3Aおよび3Bは、AAV9-UBI-RGFを事前に6週間注入したブタの中位胸髄から採取された脊髄水平断面図を示す。白質および灰白質を含む領域全体において、高RFP発現を確認することができる。NeuN抗体(緑色)を用いて染色したところ、実質的に全てのニューロンもRFP陽性であることが分かった。
図3C~3Gは、軟膜下注入領域から採取された脊髄横断面の画像を示し、背側(DF)側索(LF)および腹索(VF)における横方向に切断されたRFP+軸索(四角挿入図)を示す。RFP発現がGFAP染色星状細胞(挿入図;RFP/GFAP)においてもみられる。RFP発現α運動ニューロン(
図3Dおよび3E)および介在ニューロン(
図3Fおよび3G)周囲の高密度RFP+神経線維末端がみられる(スケールバー:
図3A~3C=500μm;
図3D、3F=30μm)。
【
図4】ブタにおける中位胸髄軟膜下AAV9注入後の腰部脊髄中の下方運動軸索における強力なGFP発現を示す。
図4Aおよび4Bは、事前に6週間にわたって中位胸髄軟膜下空間内への軟膜下AAV9-UBI-GFP注入を行った後に腰部脊髄から採取された脊髄横断面を示す。側索(LF)および腹索(VF)中の軸索断面中の高GFP発現がみられる(白色の星印)。脊髄背索中において、比較的低密度のGFP+軸索が確認された(DF)。これに対して、高密度のGFP+運動軸索が、後角(DH)と前角(VH)との間に位置する灰白質中へ突出していることが分かる。
図4Cは、より高解像度の共焦点画像であり、中央灰白質中のGFP+軸索および神経線維末端の極めて微細な分枝を示す。(スケールバー:4A=1000μm;4C=30μm)、(DH-後角、VH-前角、DF-背索、LF-側索、VF-腹索)。
【
図5】
図5A~5Lは、成体ブタにおける中位胸髄軟膜下AAV9送達後の脳運動中枢中の逆行性輸送-媒介GFP発現を示す図である。
図5A~5Eは、中位胸髄における単回AAV9-UBI-GFP注入後におけるブタの運動皮質中の逆行性にラベル付けされた錐体ニューロンを示す。
図5F~5Jは、脳幹中に局所化したニューロン中の同等レベルのGFP発現を示す。
図5Kは、延髄(錐体)中の大型の逆行性にラベル付けされた運動GFP+軸索の存在を示す。
図5Lは、網様体中の高密度の順行性にラベル付けされた感覚求心性神経を示す(スケールバー:
図5A~5Eおよび5G~5J=50μm;
図5Kおよび5L=50μm)。
【
図6】成体ラット中の頸部軟膜下AAV9送達後の脳運動中枢中の逆行性輸送媒介GFP発現を示す。
図6A~6Dは、上頸部単回AAV9-UBI-GFP注入の8週間後におけるラットの運動皮質中の両側性逆行性-GFPラベル付けされた錐体ニューロンを示す。
図6E~6Gは、赤核中の両側性ニューロンGFP発現を示す(スケールバー:
図6A、6B、6Eおよび6F=50μm;6Cおよび6D=50μm;6G=20μm)。
【
図7】
図7A~7Gは、ラットにおける、髄腔内AAV9-UBI-GFP送達 対軟膜下AAV9-UBI-RFP送達後の分節によって異なる脊髄トランスジーン発現を示す図である。
図7Aは、AAV9-UBI-GFPの腰部髄腔内注入を行った結果、脊髄背索(DF)、後根(DR)および前根入口帯において優先的GFP発現が得られることを示す(白色四角挿入No.2)。上位頸部脊髄中へ軟膜下AAV9-UBI-RFP注入を行うと、明確な下行性運動管のラベル付けが得られる。
図7Bは、腰部髄腔内AAV9-UBI-GFP注入後の後根神経節細胞(L4)中のGFP発現を示す。
図7Cおよび7Dは、髄腔内AAV9-UBI-GFP注入後の高GFP発現が後根(DR)中およびより深い後角(白色星印)中の一次求心性神経突起(bouton)中においてみられるが、後角NeuN+ニューロンにおける発現は確認できなかった。
図7Eは、脊髄背索(DF)中のGFPおよびRFPの同時局所化がみられないことを示す(
図7A、No.1の白色挿入図)。
図7Fは、髄腔内AAV9-UBI-GFP注入に起因する前根入口帯中に局所化したグリア細胞中のGFP発現を示す(
図7A、No.2の白色挿入図)。
図7Gは、AAV9-UBI-GFPを注入した動物中において、GFP+一次Ia求心性神経に包囲されたいくつかの逆行性にラベル付けされたGFP発現α運動ニューロンがみられることを示す(スケールバー:
図7A=500μm;7B~7G=30μm)、(DR-後根、DH-後角、VH-前角、DF-脊髄背索)。
【
図8】軟膜下AAV9送達を示す図であり、単回軟膜下AAV9-UBI-GFP注入後のCNS全体におけるトランスジーン(GFP)発現を示す模式図である。成体ブタ中において、PE-10カテーテルを用いてAAV9-UBI-GFPウイルスを軟膜下空間内へ送達させる。AAV9-UBI-GFPの軟膜下送達を行うと、拡散されて、軟膜下注入分節を超えて分節ニューロン(すなわち、介在ニューロンおよびα運動ニューロン)および上方および下方軸索中へウイルスが取り込まれる。その後、その結果得られたトランスジーン発現が以下においてみられる:i)分節ニューロン、ii)後根神経節細胞(逆行性感染)、iii)骨格筋に神経感応する運動軸索(順行性感染)、iv)運動皮質中の錐体ニューロン(逆行性感染)、およびv)脊髄視床ニューロンの脳末端(brain terminal)(順行性感染)。
【
図9】成体ラットに単回ボーラス腰部軟膜下AAV9-UBI-GFPを注入した後の有効な実質AAV9-媒介トランスジーン発現を示す。
図9A~9Dは、L1軟膜下AAV9-UBI-GFP注入後の胸郭下部および上腰部脊髄中のニューロンおよび白質路中の広範なGFP発現を示す。水平切断切片(
図9A)中の実質的に全てのニューロンがGFP発現を示す。横方向切断切片において、薄膜第I~IX層間においてGFP+ニューロンが灰白質全体においてみられる(
図9B~9D)。多数のNeuN-染色ニューロンが表在後角(薄膜第I-III層)および前角中においてGFPを発現していることがわかる。
図9Eおよび9Fは、上位頸部AAV9-UBI-GFP注入後の腰部脊髄中の高密度のGFP+下方性運動繊維を示す。
図9Fは、高密度共焦点画像であり、灰白質中の容易に認識可能なGFP+の神経線維末端ブートンを示す。(スケールバー:
図9A=1000μm;
図9B-9D=30μm;
図9E=50μm;
図9F=100μm)、(WM-白質、GM-灰白質、DH-後角、VH-前角、DF-脊髄背索)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、大型動物およびヒトの脊髄実質内へ遺伝子およびオリゴヌクレオチドを送達させる方法およびシステムを提供する。
【0014】
本発明の組成物および方法について説明する前に、組成物、方法および実験条件自体は変わるものであるため、本発明は、記載された組成物、方法および実験条件に限定されないことが理解されるべきである。また、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲のみによって限定されるものであるため、本明細書において用いられる用語は、あくまで特定の実施形態を説明するためのものであり、限定的なものではないことが理解されるべきである。
【0015】
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられるように、単数形である「a」、「an」および「the」は、文脈からそうではないと明確にならない限り、複数形を含む。よって、例えば「the method(方法)」について言及する場合、例えば当業者が本開示を読めば明らかになる本明細書に記載の種類の1つ以上の方法および/またはステップを含む。
【0016】
「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」、「含有する(containing)」または「により特徴付けられる(characterized by)」と同義に用いられ、包括的またはオープンエンドな言語であり、さらなる記載されていない要素または方法ステップを排除しない。「からなる(consisting of)」という句は、特許請求の範囲に記載されていない任意の要素、ステップまたは成分を除外する。「~から本質的になる」という句は、特許請求の範囲を、記載された材料またはステップと、特許請求の範囲に記載の発明の基本的かつ新規な特性に本質的に影響しないものとに限定する。本開示は、これらの句それぞれの範囲に対応する本発明の組成物および方法の実施形態を企図する。よって、記載の要素またはステップを含む組成物または方法は、組成物または方法がこれらの要素またはステップから本質的になるかまたはそれからなる特定の実施形態を企図する。
【0017】
他に明記無き限り、本明細書において用いられる全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者が共通に理解する同一の意味を持つ。本明細書中に記載のものに類似するかまたは均等の任意の方法および材料は、本発明の実施または試験において用いられ得、以下において、好適な方法および材料について説明する。
【0018】
本明細書において用いられるように、「軟膜」という用語は、髄膜の最内側層、脳および脊髄を包囲する膜を意味する(
図1A)。軟膜は、薄い繊維状組織であり、流体に対して不浸透性である。そのため、軟膜は、脳脊髄流体を封入することができる。このように流体を含むことにより、軟膜は、その他の髄膜層と共に、脳の保護およびクッションとして機能する。脊髄軟膜は、脊髄表面または脊髄を封入し、脊髄前方の境界(anterior fissure)に付着してつなぎとめられている。そのため、「軟膜下」という用語は、軟膜下にあるまたは軟膜下で生じることを意味する。
【0019】
本明細書において用いられるように、「実質」という用語は、臓器の機能的組織のことを意味し、接続および支持組織と区別される。よって、「脊髄実質」という用語は、脊髄の多様な公知の解剖学的組織を指す(例を非限定的に挙げると、灰白質、白質、硬膜、クモ膜、軟膜、後索および腹索、後脊髄小脳管および前脊髄小脳管がある)。
【0020】
本明細書において用いられるような「対象」という用語は、本方法が施される任意の個体または患者を指す。一般的には対象はヒトであるが、当業者であれば、対象は動物である場合もあることを理解する。よって、他の動物(例えば、哺乳動物(例えば、齧歯動物(例えば、マウス、ラット、ハムスターおよびモルモット)、ネコ、イヌ、ウサギ、家畜(例えば、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタ)、ならびに霊長動物(例えば、サル、チンパンジー、オラウータンおよびゴリラ))が対象の定義に含まれる。
【0021】
本明細書において用いられるような「処置」とは、患者/対象が明示するかまたは患者/対象が罹りやすい病気、障害または身体的状態に対して行われる臨床的介入を意味する。治療目的を非限定的に挙げると、症状の軽減または回避、疾患、障害または病状の進行または悪化の遅延または停止、ならびに/あるいは疾患、障害または病状の緩和がある。「処置」とは、処置および予防的または防止的対策のうち一方または両方を意味する。処置を必要としている対象を挙げると、疾患または障害または望ましくない身体的状態を既に罹っている対象、疾患または障害または望ましくない身体的状態を回避する必要のある対象が挙げられる。
【0022】
本明細書において用いられるような「核酸」および「ポリヌクレオチド」は同義であり、任意の核酸を指し、ホスホジエステル結合または修飾結合(例えば、ホスホトリエステル結合、ホスホアミダイトによる結合、シロキサン結合、炭酸結合、カルボキシメチルエステル結合、アセトアミダイトによる結合、カルバメート結合、チオエーテル結合、架橋ホスホアミダイトによる結合、架橋メチレンホスホネート結合、架橋ホスホアミダイトによる結合、架橋ホスホアミダイトによる結合、架橋メチレンホスホネート結合、ホスホロチオエート結合、メチルホスホネート結合、ホスホロジヂオエート結合、架橋ホスホロチオエート結合またはスルトン結合、およびこのような結合の組み合わせ)を問わない。「核酸」および「ポリヌクレオチド」は、5種類の生物学的に生じる塩基(アデニン、グアニン、チミン、シトシンおよびウラシル)以外の塩基によって構成された核酸も特異的に含む。
【0023】
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、本明細書において同義に用いられて、アミノ酸残基のポリマーを指す。これらの用語は、1つ以上のアミノ酸残基が天然起源のアミノ酸に対応する人工化学模倣体であるアミノ酸ポリマーに適用され、また、天然起源のアミノ酸ポリマーおよび非天然起源のアミノ酸ポリマーに適用される。
【0024】
「アミノ酸」という用語は、天然アミノ酸および合成アミノ酸、ならびに天然起源のアミノ酸と同様に機能するアミノ酸類縁体およびアミノ酸模倣体を指す。天然起源のアミノ酸は、遺伝子コードによってコードされたアミノ酸、後で修飾されるアミノ酸(例えば、ヒドロキシプロリン、α-カルボキシグルタミン酸およびO-ホスホセリン)を指す。アミノ酸類似物は、天然起源のアミノ酸と同じ基本化学構造(すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基およびR基に結合したα炭素)を有する化合物(例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム)を指す。このような類縁体は、修飾R基(例えば、ノルロイシン)または修飾ペプチド骨格を有し、天然起源のアミノ酸と同じ基本化学構造を保持する。アミノ酸模倣体は、アミノ酸の一般化学構造と異なる構造を有するが、天然起源のアミノ酸と同様に機能する化合物を指す。
【0025】
本明細書において、アミノ酸は、その一般的に知られる3文字の記号またはIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionから推奨された1文字記号によって言及され得る。ヌクレオチドも、その一般的に受け入れられている1文字記号によって言及され得る。
【0026】
「保存的に改変された改変体」は、アミノ酸および核酸配列双方に適用される。特定の核酸配列について、保存的に改変された改変体は、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸を指し、または、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合、本質的に同一の配列を指す。遺伝子コードの縮退に起因して、多数の機能的に同一な核酸が、任意の所与のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUは全て、アミノ酸アラニンをコードする。よって、アラニンがコドンによって指定される各位置において、コドンは、コードされたポリペプチドを変更することなく、記載の対応するコドンのうちいずれかに変更され得る。このような核酸変異は「サイレント変異」であり、1種の保存的に改変された変異である。ポリペプチドをコードする本明細書中の各核酸配列も、核酸のそれぞれの可能なサイレント変異を表す。当業者であれば、核酸中の各コドン(一般的にメチオニンに対する唯一のコドンであるAUG、一般的にトリプトファンに対する唯一のコドンであるTGGを除く)は、機能的に同一の分子が得られるように修飾可能であることを認識する。よって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、各記載の配列において暗示される。
【0027】
アミノ酸配列については、当業者であれば、コードされる配列中の単一アミノ酸または僅かなアミノ酸を改変、付加または欠失する核酸、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質配列に対する個々の置換、欠失または付加は、「保存的に改変された変異体」であり、変更の結果、化学的に類似するアミノ酸によるアミノ酸の置換となることを認識する。機能的に類似するアミノ酸を提供する保存的置換表は、当該分野において周知である。このような保存的に改変された変異体は、本発明の多形変異体、種間相同体、および対立遺伝子に付加され、これらを除外しない。
【0028】
「ポリヌクレオチド」は、5’~3’端から読み出されたデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド塩基の単一鎖または二本鎖のポリマーである。ポリヌクレオチドは、RNAおよびDNAを含み、天然源から分離してもよいし、インビトロ合成してもよいし、あるいは天然分子および合成分子の組み合わせから調製してもよい。ポリヌクレオチドのサイズは、塩基対(「bp」と省略)、ヌクレオチド(「nt」)、またはキロベース(「kb」)として表される。文脈が許す場合、後者の2つの用語は、単一鎖または二本鎖のポリヌクレオチドを記述し得る。この用語が二本鎖分子に適用される場合、この用語は全体的長さを指し、「塩基対」という用語と均等のものとして理解される。当業者であれば、二本鎖ポリヌクレオチドの2本の鎖は、若干長さが異なり得、酵素的切断の結果、その端部を交互配置することができるため、二本鎖ポリヌクレオチド分子内の全ヌクレオチドがペアされ得ないことを認識する。
【0029】
「遺伝子」という用語は、生物学的機能と関連付けられた核酸の任意の断片を広範に指す。よって、遺伝子は、その発現に必要なコーディング配列および/または調節配列を含む。例えば、「遺伝子」とは、調節配列を含むmRNA、機能性RNA、または特異タンパク質を発現する核酸フラグメントを指す。「遺伝子」は、例えば他のタンパク質の認識配列を形成する非発現DNA断片も含む。「遺伝子」は、多様な源(例えば、対象源からのクローン化または既知の配列情報または予測配列情報からの合成)から入手することができ、所望のパラメータを持つように設計された配列を含み得る。「対立遺伝子」は、染色体上の所与の遺伝子座を占有するいくつかの代替的形態の遺伝子の1つである。
【0030】
本明細書において用いられるように、「ベクター」とは、遺伝子配列の標的細胞への導入が可能なものである。典型的には、「ベクター構築」、「発現ベクター」および「遺伝子導入ベクター」とは、対象遺伝子の発現を方向付けることができかつ遺伝子配列を標的細胞へ導入することが可能な任意の核酸構築を指す。よって、この用語は、クローニングおよび発現ビヒクル、組み込み形ベクターを含む。
【0031】
ウイルスベクターは、本発明の方法を標的細胞中へ行う際に有用なポリヌクレオチドを導入する際に特に有用に用いられ得る。ウイルスベクターは、特定の宿主システム(特に、哺乳動物システム)において用いられるように開発され、例えばレトロウイルスベクター、他のレンチウイルスベクターを含む(例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、アデノウイルスベクター(AV)、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)、ヘルペスウイルスベクター、ワクチニアウイルスベクターに基づいたもの)(右記を参照:Miller and Rosman, BioTechniques 7:980-990, 1992; Anderson et al., Nature 392:25-30 Suppl., 1998; Verma and Somia, Nature 389:239-242, 1997; Wilson, New Engl. J. Med. 334:1185-1187 (1996)。本明細書中、同文献それぞれを参考のため援用する)。本発明の一実施態様において、レンチウイルスまたはアデノウイルスベクターが用いられる。アデノウイルスは二本鎖DNAウイルスであり、DNAの双方の鎖が遺伝子をコードする。ゲノムは、約30個のタンパク質をコードする。本発明の別の実施態様において、アデノ随伴ウイルスベクターが用いられる。
【0032】
「アデノウイルス」という用語は、ヒトから分離された40種を超えるアデノウイルス亜型や、他の哺乳動物および鳥類からの多数のものを指す。右記を参照されたい:Strauss, “Adenovirus infections in humans,” in The Adenoviruses, Ginsberg, ed., Plenum Press, New York, N.Y., pp. 451-596 (1984)。組み換えアデノウイルスベクター(例えば、ヒトアデノウイルス5に基づくもの)(例えば、右記に記載のもの:McGrory W J,et al., Virology 163: 614-617, 1988)は、アデノウイルスゲノムからの本質的な早期遺伝子(通常はE1A/E1B)が欠失しているため、トランス中の欠失遺伝子生成物を提供する許容細胞株内において増殖させない限り、複製することができない。欠失しているアデノウイルスゲノム配列の代わりに、対象トランスジーンをクローン化し、複製欠陥アデノウイルスに感染した組織/細胞中に発現させる。アデノウイルスベースの遺伝子導入は一般的にはトランスジーンを宿主ゲノム中に安定して組み込むことができないが(0.1%未満のアデノウイルス媒介トランスフェクションの結果、宿主DNA中へのトランスジーン導入に繋がる)、アデノウイルスベクターは高力価で伝播することができ、複製しない細胞をトランスフェクトすることができるが、トランスジーンは娘細胞へ送られず、活発に分裂しない成体心筋細胞への遺伝子導入に適している。レトロウイルスベクターは、安定した遺伝子導入を提供し、現在では高力価をレトロウイルスシュードタイピングを介して得ることができる(Burns, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) 90: 8033-8037, 1993)、しかし、現在のレトロウイルスベクターは一般的には、複製しない細胞を効率的に形質導入することができない。
【0033】
本発明の方法において使用できないアデノウイルスベクターおよび他のウイルスベクターについて記述しているさらなる参考文献を以下に挙げる:Horwitz, M. S., Adenoviridae and Their Replication, in Fields, B., et al. (eds.) Virology, Vol. 2, Raven Press New York, pp. 1679-1721, 1990); Graham, F., et al., pp. 109-128 in Methodsin Molecular Biology, Vol. 7: Gene Transfer and Expression Protocols, Murray, E.(ed.), Humana Press, Clifton, N.J. (1991); Miller, N., et al., FASEB Journal 9:190-199, 1995; Schreier, H, Pharmaceutica Acta Helvetiae 68: 145-159, 1994; Schneider and French, Circulation 88:1937-1942, 1993; Curiel D. T., et al., Human Gene Therapy 3: 147-154, 1992; Graham, F. L., et al., 国際公開第95/00655号 (5 Jan. 1995); Falck-Pedersen, E. S., 国際公開第95/16772(22 Jun. 1995); Denefle, P. et al., 国際公開第95/23867号(8 Sep. 1995); Haddada, H. etal., 国際公開第94/26914号(24 Nov. 1994); Perricaudet, M. et al., 国際公開第95/02697号(26 Jan. 1995); Zhang, W., et al., 国際公開第95/25071号(12 Oct. 1995)。多様なアデノウイルスプラスミドは、商用源(例えば、トロント、オンタリオのMicrobix Biosystems)からも利用可能である(例えば、右記を参照:Microbix Product Information Sheet: Plasmids for Adenovirus Vector Construction, 1996)。
【0034】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、小型(26nm)の複製欠陥の非エンベロープウイルスであり、細胞増殖において、第2のウイルス(例えば、アデノウイルスまたはヘルペスウイルス)の存在に依存する。AAVは、病気の原因としては既知ではなく、極めて軽度の免疫反応を誘起する。AAVは、分裂細胞および非分裂細胞双方を感染させ得、そのゲノムを宿主細胞に導入させ得る。本発明の局面は、組み換えAAVベースの遺伝子導入を用いて、トランスジーンを対象中の脊柱組織へ送達させる方法を提供する。
【0035】
本発明の方法において用いられ得るAAVベクターについて記述するさらなる参考文献は、以下を含む:Carter, B., Handbook of Parvoviruses, vol. I, pp. 169-228, 1990;Berns, Virology, pp. 1743-1764 (Raven Press 1990); Carter, B., Curr. Opin. Biotechnol., 3: 533-539, 1992; Muzyczka, N., Current Topics in Microbiology and Immunology, 158: 92-129, 1992; Flotte, T. R., et al., Am. J. Respir. Cell Mol. Biol.7:349-356, 1992; Chatterjee et al., Ann. NY Acad. Sci., 770: 79-90, 1995; Flotte, T. R., et al., 国際公開第95/13365号(18 May 1995); Trempe, J. P., et al., 国際公開第95/13392号(18 May 1995); Kotin, R., Human Gene Therapy, 5:793-801, 1994; Flotte, T. R., et al., Gene Therapy 2:357-362, 1995; Allen, J. M., 国際公開第96/17947号(13 Jun. 1996); and Du et al., Gene Therapy 3: 254-261, 1996.右記も参照されたい:米国特許第8,865,881号明細書。本明細書中、同文献を参考のため援用する。
【0036】
AAVの「有効な量」とは、対象中の標的組織の充分な数の細胞を感染させるのに充分な量である。AAVの有効な量は、対象における治療的恩恵(例えば、対象の寿命延長、対象における病気の1つ以上の症状(例えば、神経変性疾患の症状)の改善)をもたらすのに充分な量であり得る。有効な量は、多様な要素(例えば、種、対象の年齢、体重、健康状態および標的組織)に応じて異なり得るため、対象および組織によって異なり得る。有効な量は、投与形態によっても異なり得る。例えば、血管内注入によるCNS組織の標的化においては、髄腔内注入または脳内注入によるCNS組織の標的化の場合と異なる投与量(例えば、より高い投与量)が必要になり得る。場合によっては、複数の投与量のAAVが投与される。有効な量は、使用される特定のAAVにも依存し得る。例えば、CNS組織を標的とする投与量は、AAVの血清型(例えば、カプシドタンパク質)に依存し得る。例えば、AAVは、AAV1、AAV2、AAV5、AAV6、AAV6.2、AAV7、AAV8、AAV9、rh.10、rh.39、rh.43およびCSp3からなる群から選択されたカプシドタンパク質のAAV血清型を持ち得る。特定の実施形態において、有効な量のAAVは、1kgあたり1010、1011、1012、1013、または1014個のゲノムコピーである。特定の実施形態において、有効な量のAAVは、対象あたり1010、1011、1012、1013、1014、または1015個のゲノムコピーである。
【0037】
使用される宿主細胞/ベクターシステムに応じて、複数の転写および翻訳要素のうち任意のもの(例えば、構成的および誘導プロモーター、転写エンハンサー要素、転写ターミネータなど)が発現ベクターにおいて用いられ得る(Bitter et al., Meth. Enzymol. 153:516-544, 1987)。例えば、細菌システムにおけるクローニングの場合、誘導プロモーター(例えば、バクテリオファージのpL、plac、ptrp、ptac(ptrp-lacハイブリッドプロモーター)など)が用いられ得る。哺乳動物細胞系におけるクローニングの場合、哺乳動物細胞のゲノムから導出されたプロモーター(例えば、ヒトまたはマウスメタロチオネインプロモーター)あるいは哺乳動物ウイルスからのもの(例えば、レトロウイルスの長い末端反復配列)、アデノウイルス後期プロモーターまたはワクチニアウイルス7.5Kプロモーターが用いられ得る。組み換えDNAまたは合成技術によって生成されたプロモーターは、挿入されたGDF受容体コーディング配列の転写のためにも用いられ得る。
【0038】
本明細書において用いられるように、「レポーター遺伝子」または「レポーター配列」とは、好適には必ずしも必要ではないが、常套アッセイにおいて容易に測定されるタンパク質生成物を生成する任意の配列を指す。適切なレポーター遺伝子を非限定的に挙げると、抗生物質耐性を媒介するタンパク質をコードする配列(例えば、アンピシリン抵抗、ネオマイシン抵抗、G418抵抗、ピューロマイシン抵抗)、色付きまたは蛍光または発光タンパク質をコードする配列(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、強化緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質(RFP)、ルシフェラーゼ)、および強化細胞増殖および/または遺伝子増幅を媒介するタンパク質(例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素)がある。エピトープタグを挙げると、例えば、FLAG、His、myc、Tap、HAまたは任意の検出可能なアミノ酸配列の1つ以上のコピーがある。「発現タグ」を挙げると、対象遺伝子の発現を監視するために所望の遺伝子配列へ作動可能に結合され得るレポーターをコードする配列がある。
【0039】
本明細書において用いられるように、「形質転換」または「トランスフェクト」という用語は同義に用いられ、外因性DNAまたはRNAが導入され、適切な宿主細胞中へ導入されるプロセスを指す。さらに、他の異種タンパク質をコードする核酸が、宿主細胞中へ導入され得る。このようなトランスフェクト細胞は、安定的にトランスフェクトされた細胞を含み、ここで、挿入DNAは、宿主細胞中の複製を可能にする。典型的には、安定したトランスフェクションには、選択可能なマーカー核酸配列(例えば、抗生物質耐性を提供する核酸配列)と共に導入された外因性DNAが必要であり、その結果、安定したトランスフェクタントの選択が可能になる。このマーカー核酸配列は、外因性DNAへ結合されてもよいし、あるいは、外因性DNAと共に同時コトランスフェクションによって独立的に提供してもよい。トランスフェクト細胞は、RNAまたはDNAの発現を限定された期間にわたって発生させることが可能な一時的に発現する細胞も含む。トランスフェクション手順は、トランスフェクトされている宿主細胞に依存する。これは、ポリヌクレオチドのウイルス中へのパッケージングと、ポリヌクレオチドの直接取り込みとを含み得る。形質転換の結果、挿入DNAが宿主細胞のゲノムへ導入されるか、または、プラスミド形態中の宿主細胞中の挿入DNAが維持され得る。形質転換/トランスフェクションの方法は、当該分野において周知であり、非限定的に挙げると、直接注入、例えばマイクロインジェクション、ウイルス感染、特に複製欠損性アデノウイルス感染、エレクトロポレーション、リポフェクション、およびリン酸カルシウム媒介直接取り込みがある。
【0040】
本明細書において用いられるように、核酸配列(例えば、コーディング配列)および調節配列は、調節配列の影響または制御下において核酸配列の発現または転写が起こるよう配置するように共有結合したときに、作動可能に連結されると言う。核酸配列を機能タンパク質へ翻訳することが所望される場合、2本のDNA配列は以下の場合において作動可能に連結されると言われている:5’調節配列中のプロモーターの誘導の結果、コーディング配列の転写が行われた場合ならびに2本のDNA配列間の結合の結果、(1)フレームシフト突然変異の導入、(2)コーディング配列の転写を方向付けるプロモーター領域の能力との干渉、または(3)タンパク質へ翻訳すべき対応するRNA転写産物の能力との干渉が発生しない場合。そのため、プロモーター領域が、得られる転写産物が所望のタンパク質またはポリペプチドへ翻訳されるように当該DNA配列の転写を発生させることが可能である場合、該プロモーター領域は核酸配列へ作動可能に連結される。同様に、2つ以上のコーディング領域の共通プロモーターからの転写によりフレーム内において翻訳された2つ以上のタンパク質の発現が得られるように当該2つ以上のコーディング領域が結合された場合、これらの2つ以上のコーディング領域は作動可能に連結される。いくつかの実施形態において、作動可能に連結されたコーディング配列により、融合タンパク質が得られる。いくつかの実施形態において、作動可能に結合したコーディング配列により、機能性RNA(例えば、shRNA、miRNA)が得られる。
【0041】
タンパク質をコードする核酸の場合、トランスジーン配列の後および3’AAVITR配列の前に、ポリアデニル化配列が挿入され得る。本発明において有用なAAV構築は、望ましくはプロモーター/エンハンサー配列とトランスジーンとの間に配置されたイントロンも含み得る。1つの可能なイントロン配列はSV-40から導出され、SV-40Tイントロン配列と呼ばれる。別のベクター要素が、内部リボソーム侵入部位(IRES)内において用いられ得る。IRES配列は、2以上のポリペプチドを単一遺伝子転写産物から生成するために用いられる。例えば、IRES配列は、2以上のポリペプチド鎖を含むタンパク質を生成するために用いられる。これらおよび他の共通ベクター要素の選択は従来通りであり、このような配列が多数利用可能である。いくつかの実施形態において、手足口病ウイルス2A配列は、ポリタンパク質中に含まれる。これは、小ペプチド(長さおよそ18個のアミノ酸)であり、ポリタンパク質の開裂に介在することが分かっている(Ryan, M D et al., EMBO, 1994; 4: 928-933; Mattion, N M et al., JVirology, November 1996; p. 8124-8127; Furler, S et al., Gene Therapy, 2001; 8:864-873; および、Halpin, C et al., The Plant Journal, 1999; 4: 453-459)。2A配列の開裂活性が、プラスミドおよび遺伝子治療ベクター(AAVおよびレトロウイルス)を含む人工システムにおいて以前から実証されている(Ryan, M D et al., EMBO, 1994; 4:928-933; Mattion, N M et al., J Virology, November 1996; p. 8124-8127; Furler,S et al., Gene Therapy, 2001; 8: 864-873; and Halpin, C et al., The Plant Journal, 1999; 4: 453-459; de Felipe, P et al., Gene Therapy, 1999; 6: 198-208; de Felipe, P et al., Human Gene Therapy, 2000; 11: 1921-1931; および、Klump, H et al., Gene Therapy, 2001; 8: 811-817)。
【0042】
宿主細胞における遺伝子発現に必要な調節配列の正確な性質は、種、組織または細胞種間において異なり得るものの、一般的には必要に応じて転写および翻訳それぞれの開始に関与する5’非転写および5’非翻訳配列を含む(例えば、TATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列、エンハンサー要素など)。特に、このような5’非転写調節配列は、作動可能に連結された遺伝子の転写制御のためのプロモーター配列を含むプロモーター領域を含む。調節配列は、エンハンサー配列または上流活性化剤配列を所望に含み得る。本発明のベクターは、5’リーダーまたはシグナル配列を選択的に含み得る。適切なベクターの選択および設計は、当業者の能力および裁量の範囲内である。
【0043】
誘導プロモーターは、遺伝子発現の調節を可能にし、外因的に供給された化合物、温度などの環境要素、または特定の生理的状態の存在(例えば、急性期、細胞の特定の分化状態または複製細胞のみ)によって調節され得る。誘導プロモーターおよび誘導システムは、多様な商業的供給源(例を非限定的に挙げると、Invitrogen、ClontechおよびAriad)から利用可能である。他の多数のシステムが記載されており、当業者によって容易に選択され得る。外因的に供給されたプロモーターによって調節される誘導プロモーターの例を以下に挙げる:亜鉛誘導ヒツジメタロチオネイン(MT)プロモーター、デキサメタゾン(Dex)誘導マウス乳癌ウイルス(MMTV)プロモーター、T7ポリメラーゼプロモーターシステム(国際公開第98/10088号);エクジソン昆虫プロモーター(No et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93:3346-3351 (1996))、テトラサイクリン抑制システム(Gossen et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:5547-5551 (1992))、テトラサイクリン誘導システム(Gossen et al, Science, 268:1766-1769 (1995)、右記も参照されたい:Harvey et al, Curr. Opin. Chem. Biol., 2:512-518 (1998))、RU486誘導システム(Wang et al, Nat. Biotech., 15:239-243 (1997)およびWang et al, Gene Ther., 4:432-441 (1997))およびラパマイシン誘導システム(Magari et al, J.Clin. Invest., 100:2865-2872 (1997))。この文脈において有用であり得る他のさらなる種類の誘導プロモーターとしては、特定の生理的状態(例えば、温度、急性期、細胞の特定の分化状態または複製細胞のみ)によって調節されるものがある。
【0044】
いくつかの実施形態において、調節配列は、組織特異的遺伝子発現能力を付与する。場合によっては、組織特異的調節配列は、組織特異的様態で転写を誘発させる組織特異的転写要素に結合する。このような組織特異的調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサー)は、当該分野において周知である。例示的な組織特異的調節配列を非限定的に以下に挙げる:以下の組織特異的プロモーター:ニューロン(例えば、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター)(Andersen et al., Cell. Mol. Neurobiol., 13:503-15 (1993))、ニューロフィラメント軽鎖遺伝子プロモーター(Piccioli et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:5611-5 (1991))、およびニューロン特異的vgf遺伝子プロモータ(Piccioli et al., Neuron, 15:373-84 (1995))。いくつかの実施形態において、組織特異的プロモーターは、以下から選択された遺伝子のプロモーターである:ニューロン核(NeuN)、グリア細胞繊維性酸性タンパク質(GFAP)、大腸腺腫性ポリポーシス(APC)、およびイオン化カルシウム結合アダプター分子1(Iba-1)。他の適切な組織特異的プロモーターが、当業者に明らかである。いくつかの実施形態において、プロモーターは、ニワトリベータアクチンプロモーターである。
【0045】
いくつかの局面において、本発明は、哺乳動物中の1つ以上の遺伝子欠陥(例えば、遺伝的遺伝子欠陥、体細胞遺伝子変異)(例えば、対象中のポリペプチド欠乏またはポリペプチド過剰の原因となる遺伝子欠陥)を回避および処置する(特に、細胞および組織中のこのようなポリペプチドの欠乏に関連するCNS関連障害を示す対象における欠乏の重症度または範囲を処置または低減する)方法において用いられるAAVベクターを提供する。いくつかの実施形態において、これらの方法は、1つ以上の治療ペプチド、ポリペプチド、shRNA、ミクロRNA、アンチセンスヌクレオチドなどをコードするAAVベクターを薬学的に受容可能な担体に入れてそのような障害を持つかまたは持つことが疑われる対象中のCNS関連障害を処置するのに充分な量および期間において対象に投与することを含む。「アンチセンス阻害」とは、内因性遺伝子またはトランスジーンからのタンパク質発現を抑制することが可能なアンチセンスRNA転写産物の生成を指す。
【0046】
よって、AAVベクターは、CNS関連障害を調節または処置するタンパク質または機能的RNAをコードする核酸をトランスジーンとして含み得る。以下は、CNS関連障害に関連する遺伝子の非限定的リストである:神経細胞アポトーシス抑制タンパク質(NAIP)、神経成長因子(NGF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、GTPシクロヒドロラーゼ(GTPCH)、アスパルトアシラーゼ(ASPA)、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD1)および芳香族アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)。例えば、パーキンソン病の処置における有用なトランスジーンは、ドーパミン合成における律速酵素であるTHをコードする。THコファクターテトラヒドロビオプテリンを生成するGTPCH、をコードするトランスジーンも、パーキンソン病の処置において用いられ得る。L-DopaからDAへの変換を促進させるGDNFまたはBDNFまたはAADCをコードするトランスジーンも、パーキンソン病の処置において用いられ得る。ALSの処置においては、有用なトランスジーンは、GDNF、BDNFまたはCNTFをコードし得る。また、ALSの処置においては、有用なトランスジーンは、SOD1発現を抑制する機能性RNA(例えば、shRNA、miRNA)をコードし得る。虚血の処置においては、有用なトランスジーンは、NAIPまたはNGFをコードし得る。β-グルクロニダーゼ(GUS)をコードするトランスジーンは、特定のリソソーム蓄積症(例えば、ムコ多糖症VII型(MPSVII))の処置に有用であり得る。プロドラッグ活性化遺伝子(例えば、ガンシクロビルを合成を妨害して細胞死を発生させる毒性ヌクレオチドへ変換するHSV-チミジンキナーゼ)をコードするトランスジーンが、例えばプロドラッグと共に投与された場合に、特定の癌の処置において有用であり得る。βエンドルフィンなどの内因性オピオイドをコードするトランスジーンが、痛みの処置において有用であり得る。本発明のAAVベクターにおいて用いられ得るトランスジーンの他の例が、当業者にとって明らかである(例えば、右記を参照:Costantini L C, et al., Gene Therapy (2000) 7, 93-109)。
【0047】
数十年間において、いくつかの実験的および/または臨床的研究が、CNS標的遺伝子送達のためのAAVベースのベクター(特にAAV9)の使用の成功について報告されている。これらの研究は、標的CNS領域において強力な遺伝子上方制御またはサイレンシングにおけるツールとしてのAAV送達ベクターの価値を明確に確立させ、この処置アプローチが多数の神経変性疾患(例えば、ALS、SMA、筋痙縮および慢性疼痛)の処置において有効に使用可能である証拠を提供している。これらの有望なデータおよび広範な前臨床動物研究にも関わらず、異なるAAV送達経路(全身、髄腔内)の使用後のAAVベクターが脳または脊髄実質に達する様態についての詳細な機構については、完全には解明されていない。これらのデータは、若年のかつ完全に発達した成体の動物およびヒト対象において等しく強力な新規のより有効なAAV送達プロトコルの開発において極めて重要である。一般的に、前臨床動物研究は、動物を用いたときまたはAAVの送達経路(例えば、全身または髄腔内)の発達段階に基づいて、いくつかのグループに分類することができる。個々の研究において用いられるパラメータに応じて、感染しているトランスジーン発現および特異細胞集団(ニューロンおよび/またはグリア)のレベルは大きく異なる。
【0048】
以前の研究によれば、新生仔マウス中にAAV9-GFPを全身静脈(iv)注入すると、後根ガングリオン、脊柱運動ニューロン(MN)および脳中のニューロン(新皮質、海馬、小脳)などを含む広範なCNSGFP発現が得られることが分かっている。成体マウスを用いたiv送達AAV9-GFPの場合、CNS全体における優先的な星状細胞感染が得られるが、ニューロン発現は限定的にしかみられない(Foust et.al., (2009))。血管内AAV9は、新生児ニューロンおよび成体の星状細胞を優先的に標的にする(Nature biotechnology 27: 59-65)。新生仔マウス中のAAV9の全身静脈(iv)送達後の広範な脊柱MNGFP発現を示す比較可能なデータが報告されている(Duqueら、(2009)。自己相補的なAAV9の静脈内投与を行うと、成体運動ニューロンへのトランスジーン送達が可能になる(Molecular therapy: the journal of the American Society of Gene Therapy 17: 1187-1196)。加えて、同じグループは、成体マウスまたはネコへのAAV9送達後脊柱MN中のトランスジーン発現の成功を示す。これら2つの研究と同様に、Grayらによれば、成体マウスにおけるAAV9のiv投与後にCNSニューロンGFP発現を示しているものの、しかし、脳内におけるニューロンからグリア発現への明確なシフトを示す従来研究と比較して、幼若の非ヒト霊長類における形質導入効率はごく限られている(Gray, et al. (2011)。ニューロンおよびグリアへの血管内AAV9送達の前臨床差:成体マウスおよび非ヒト霊長類動物の比較研究(Molecular therapy: the journal of the American Society of Gene Therapy 19: 1058-1069))。
【0049】
成体動物における全身ivAAV9送達後のニューロン発現がこのように明らかに制限されているため、(血液脳関門をバイパスするための)髄腔内経路の使用がいくつかの研究において調査されている。1歳の2kgBWの非ヒト霊長動物(カニクイザル)を用いたところ、AAV9-CB-GFPの腰部髄腔内の単一回注入の結果、AAV9注入の2週間後、脊髄全体において50~75%のMN形質導入がみられた。同様に、幼若の2~3歳の非ヒト霊長動物(カニクイザル)または幼若(2ヶ月)のブタを用いたところ、脳槽内または脳槽内-腰部髄腔内AAV9送達後、脊髄全体において強力なMN形質導入が見られた。加えて、同じ研究において、後根神経節細胞、運動皮質中および小脳皮質中にGFP発現がみられた。より近年の研究においては、脳槽内AAV9-GFP注入後、比較可能な腰部MNGFP発現が非ヒト霊長動物(カニクイザル)においてみられている。
【0050】
興味深いことに、脳槽または腰仙髄腔内送達経路を用いた全研究において、利用可能な履歴データを確認したところ、極めて特異な脊髄トランスジーン発現パターンがみられた。これはα運動ニューロン中の高発現によって特徴付けられるものの、しかし、GFP発現α運動ニューロンの近隣に残留している前角介在ニューロンは、トランスジーン陰性であることが分かる。同様に、強力なトランスジーン発現は、後根神経節細胞および一次求心性神経においてみられる。しかし、表在後角または中間帯中に局所化した小介在ニューロンにおいては、トランスジーン発現はみられない。
【0051】
このような高レベルのトランスジーン発現選択性およびより深部の灰白質細胞の感染欠如は、(血液脳関門に加えて)良好に発達した調節バリアシステムの存在を示し、髄腔内空間からより深い脊髄分節中へのウイルス透過が阻止される。脊髄膜炎の詳しく記載された解剖学的構成に基づくと、軟膜は、髄腔内AAV送達後の脊髄実質内へのAAVの透過を調節する主要バリアであるとの仮説が立てられた。よって、髄腔内送達後にMNおよびDRG細胞中にみられる高レベルのトランスジーン発現は、脊髄実質内外に拡がりかつ髄腔内空間(すなわち、前および後根)を通過する軸索の優先的逆および順行性感染が媒介されている可能性が高いと推測される。
【0052】
そのため、この問題に対処するため、本発明は、哺乳動物における軟膜下ベクター送達方法を提供し、この送達経路により、強力な脊髄実質内トランスジーン発現により、軟膜下注入分節の灰白質中のニューロンの集団全体を感染させる。加えて、下方および上方軸索のほとんど完全な感染が達成され、脳中枢(すなわち、運動野、赤核)中のトランスジーン発現に一致した。
【0053】
よって、本明細書において記載される方法および送達システムにより、大型動物またはヒト中の脊髄実質内への脊柱軟膜下遺伝子治療(例えば、AAV9ベクターまたはアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)送達)が可能になる。AAV9またはASOを軟膜下空間内へ送達するために、90°に屈曲された誘導チューブおよびカテーテル(例えば、PE-5またはPE-10)を含むように新規な送達システムを設計した。この設計により、標的脊髄分節の脊髄軟膜下空間内へ軟膜下カテーテルを正確に誘導および配置することが可能になる。カテーテルを留置した後、AAV9またはASOを特定の時間にわたって注入し、その後取り外した。多様な実施形態において、AAV9またはASOをおよそ2~3分間注入した。
【0054】
本明細書において用いられるように、「PE-10」とは、内径がおよそ0.010インチのポリエチレンチューブを指す。特定の実施形態において、PE-10チューブの内径は約0.011インチである。同様に、「PE-5」という用語は、内径がおよそ0.005インチのポリエチレンチューブを指す。特定の実施形態において、PE-5チューブの内径は約0.008インチである。
【0055】
よって、特許請求の範囲に記載のシステムは、処置対象の白質および灰白質双方におけるほとんど完全な脊髄実質AAV9媒介遺伝子発現またはASO分布を提供する軟膜下送達(すなわち、軟膜を通過することによる)を提供する。現在利用可能な非侵襲的技術の場合、同程度のレベルの脊髄実質トランスジーン発現や良好に制御された分節特異的遺伝子サイレンシングは不可能である。
【0056】
哺乳動物対象中に軟膜下カテーテルを留置するために、露出した「無硬膜」脊髄の近隣における器具/カテーテル操作に関連する脊髄損傷の可能性を最小化するために、いくつかの順次の手順ステップが遵守され得る。多様な実施形態において、(椎弓切除の真上および真下に配置された)尾側および頭側脊髄クランプの使用により、カテーテル留置中の脊髄液の拍動(spinal cord pulsation)が最小化される。また、多様な実施形態において、XYZマニピュレータ(例えば、本明細書において参考のため援用する米国特許出願公開第2015/0224331号明細書に記載のもの)上に取り付けられた「L」字型のカテーテルステンレススチール誘導チューブ(例えば、90°で屈曲された16-26Gステンレススチールチューブ90°)を軟膜下カテーテル留置に用いる。
【0057】
特定の実施形態において、先ず、屈曲30G針を用いて軟膜を穿刺する。貫通した30G針の先端が軟膜下空間内において約1~1.5mmの位置に来たところで、軟膜を1~2mmだけ若干上昇させる。その後、カテーテルを誘導チューブから前進させることにより、軟膜下カテーテルを軟膜下空間内へ配置する。カテーテルを標的長さまで前進させた後、誘導チューブの貫通針先端を軟膜下空間から除去する。ベクター注入を(典型的には2~5分間およびいくつかの実施形態において約3分間)完了した後、カテーテルを軟膜下空間から抜き取り、硬膜を閉じる。この技術的アプローチを用いることにより、硬膜を開いた瞬間から約3~5分間以内に軟膜下カテーテルの配置を達成することができる。
【0058】
この技術を用いて、本明細書中に記載の軟膜下カテーテルを、17頭のブタ中に成功裏に留置して、軟膜下カテーテル留置を一貫的にかつ損傷なく達成した。成体ラットにおいて、同一の技術を用いたが、PE-5カテーテルを代わりに使用した。これらの成体ラットおよびブタを用いて得られたデータは、以下を示した:i)単回ボーラス軟膜下AAV9送達後のニューロンおよびグリア細胞を含む白質および灰白質における強力な脊髄実質内トランスジーン発現、ii)頸部または胸部軟膜下AAV9注入後の、脊髄長さ全体におけるほぼ全ての下方運動軸索への送達、iii)脳運動中枢(運動野および脳幹)における強力な逆行トランスジーン発現、およびiv)AAV9送達後に3ヶ月間まで通常の神経機能が定義されたことによる、このアプローチの安全性。よって、AAV-9の軟膜下送達により、成体哺乳動物における広範囲の実験的および臨床的利用を用いた遺伝子ベースの処置が可能になる。
【0059】
一実施形態において、90°で屈曲された16-26GステンレススチールチューブをPE-10カテーテルの誘導カニューレとして用いた。この誘導チューブを脊髄軟膜の真上に配置した後、PE-カテーテルを小軟膜開口部を通じて軟膜下空間内へ前進させ(
図1A~
図1E)。その後、AAV9またはASOを軟膜下空間内へ注入した。特定の実施形態において、AAV9を1~10%のデキストラン(10,000~30,000MW)を含む混合物中に入れて送達して、AAV9粒子を脊髄実質内により長時間持続させた。AAV9-GFP送達後、注入レベルにおける脊髄実質全体およびAAV9注入分節から遠位方向に(腰部脊髄中に)突出する軸索において、一貫したGFP発現がみられた。
【0060】
本明細書中において示すように、単回の軟膜下AAV9注入により、強力な実質内トランスジーン発現が体軸方向(rostro-caudally)に拡散する様子が複数の分節において見られた。よって、軟膜下AAV9送達により、軟膜下注入分節中の灰白質および上方および下方軸索全体において、ニューロン中の広範なトランスジーン発現に繋がる。例えば、成体ブタの脊髄において、投与部位から約10~15cmの距離において、トランスジーン拡散が一貫してみられた。全灰白質薄膜中のニューロンおよびグリア細胞ならびに脊髄腹索、側索および背索中の軸索において発現が特定され、その結果、脊髄実質全体において軟膜下注入されたAAV9ベクターのほとんど完全な浸透が確認された。中位胸髄AAV9-UBI-GFP注入(すなわち、AAV9送達部位から約30cmの距離)を施したブタ中の横断腰部脊髄切片を分析することにより、AAV9注入後6週間後において、実質的に全ての下方運動軸索がラベル付けされたようにみえた。より高解像度の共焦点顕微鏡観察を行ったところ、神経線維末端を含む微細な軸索分枝の高密度ネットワークが灰白質全体において確認された。白質中の感染軸索のレベルおよび分配と一貫して、逆行性感染のGFP発現ニューロンが運動皮質および脳幹中に特定された。同様に、中央に突出した知覚軸索が、網様体および視床中に特定された。
【0061】
ラット中の軟膜下対髄腔内AAV9送達後のトランスジーン発現パターンを比較することにより、本発明は、実質的に異なる局部的細胞発現を示した。よって、軟膜は、髄腔内送達後のAAV9の有効な実質浸透のための一次バリアを示す。
【0062】
先ず、髄腔内送達後、発現は、後根および前根入口帯と形態学的に関連付けられた、領域およびニューロングリアプール中のみにみられた。そのため、強力なトランスジーン発現は一次求心性神経においてみられ、脊髄背索、脊髄後角中の一次求心性神経および脊髄前角へ突出するIa求心性神経中に明確に存在した。一次求心性神経中のこのトランスジーン発現は、後根神経節細胞中の強力な発現に一致した。同様に、前角中のいくつかの逆行性にラベル付けされたα運動ニューロンを含む前根入口帯の周囲においても、明確な発現がみられた。しかし、これと対照的に、トランスジーン発現は脊髄第I-VII層およびX層間の他のニューロン全て中には実質的にみられず、側索または腹索中においてラベル付けされた下行性運動軸索も無かった。同様に、ラット中のGFP発現一次求心性神経によって包囲された(脊髄背索ベース上に局所化した)皮質脊髄路の軸索においては、トランスジーン発現はみられなかった。理論に縛られることなく言えば、これらのデータを総合的に勘案すると、脊髄実質GFP発現は(ニューロン中のものであれまたは突出する一次求心性神経中のものであれ)逆行または順行性のトランスジーン発現に起因し得るものであり、AAV9の髄腔内空間から脊髄実質中への取り込みに起因するものではないことが分かる。この所見は、成体の非ヒト霊長類または幼若ブタ中の単一回の髄腔内または脳槽AAV9-GFP注入後の強力なα運動ニューロンGFP発現を示す、他の研究所からのデータと一貫する。しかし、GFP+α運動ニューロンのごく近隣にある介在ニューロンにおいては、介在ニューロンGFP発現はみられなかった(Meyerら、(2015)。SMAのためのAAV9-媒介遺伝子治療の単回注入CSF送達の向上:マウスおよび非ヒト霊長類中の投与量応答研究。Molecular therapy: the journal of the American Society of Gene Therapy 23: 477-487;Foust, et al. (2013)。変異体SOD1の治療AAV9媒介抑制は、病気進行を遅らせ、遺伝ALSモデルにおける寿命を延ばす(Molecular therapy: the journal of the American Society of Gene Therapy 21: 2148-2159; Passini, et al. (2014))。脊髄性筋萎縮症のための自己相補的なAAV9-生存運動ニューロン1の髄腔内送達の翻訳忠実度(Human gene therapy 25: 619-630; Bell, et al. (2015))。カニクイザルにおけるAAV9の脳槽内送達後の運動ニューロン形質導入(Human gene therapy methods 26: 43-44))。
【0063】
これと対照的に、上記したように、軟膜下AAV9送達は、灰白質ニューロン(すなわち、α運動ニューロンおよび介在ニューロン)中ならびに注入分節の実質的に全ての下方運動軸索および一次求心性神経中の強力なトランスジーン発現と関連付けられた。これらのデータは、軟膜が前および後根入口帯から離れた位置にある他の脊髄分節中へのAAV9の浸透を防ぐ一次バリアであることを明確に示す。軟膜をバイパスし、AAV9を軟膜下空間内へ堆積(depositing)させることにより、白質および灰白質実質内感染を成体齧歯動物または大型動物において有効に達成することができる。
【0064】
よって、特許請求の範囲に記載の方法およびシステムを対象中において用いて、下方運動軸索中の神経栄養遺伝子の発現レベルを上方制御することにより、脊髄損傷後の軸索出芽を増加させることができる。さらに、このようにASOを局所的送達することにより、標的となる慢性疼痛または筋痙縮の進行に関連付けられた遺伝子の断片に制限されたサイレンシングが可能になるが、髄腔内ASO送達後に通常発生する脊髄上位の副作用は無くなる。
【0065】
成体動物中の脊髄および脳中において感染されている軟膜下誘導感染およびニューロン細胞集団の効力は、いくつかの高い臨床的意義および実験的意義がある。第1に、特異的遺伝子をサイレンス下方制御させるべき場合、サイレンシングAAV9構築の単回の頸部軟膜下注入を行うと、脊髄全体の下行性運動軸索および上行性感覚繊維の大部分において、頸部ニューロンおよびグリア細胞中の有効な遺伝子サイレンシングが得られる。ALS患者の良好に特徴付けられた神経変性パターンおよびALSの実験的モデル、上方運動ニューロンおよび突出下行性運動軸索、下方運動ニューロンおよび脊柱介在ニューロンの変性進行を含むものを鑑みると、広範な突然変異遺伝子サイレンシングを達成する能力により、最も高い治療効果を達成する実質的な利点が得られる可能性が高い。加えて、単回頸部軟膜下注入を、腰部ニューロン/グリア集団を標的とするための腰膨大中への1回以上の追加軟膜下注入と、および/または胸部および腰部脊髄全体のα運動ニューロンプールを標的とするための腰部髄腔内注入と組み合わせてもよい。第2に、軸索出芽と関連付けられた治療遺伝子(例えば、成長要素)の発現増加を下方運動路および上行性感覚繊維中に容易に達成することができ、例えば脊髄損傷研究における治療効力について試験することができる。この場合、AAV9ベクターを損傷中心点にある単一椎弓切除部位から軟膜下カテーテルを用いて投与し、切断された運動軸索の遠位端および上行性感覚軸索の近位端をそれぞれ標的としてこの軟膜下カテーテルを吻側および尾側へ全身させることができる。第3に、頸部軟膜下AAV9-GFP注入から達成することが可能な完全に近い下方運動路ラベル付けにより、対象および脊髄移植細胞のラベル付けされた運動軸索間の軸索出芽形成およびシナプス形成が可能になる。脊髄損傷の細胞移植された大型動物モデルにおける軸索出芽レベルおよび/またはシナプス結合の進行を体系的に特徴付けるこのようなデータは、これまでに得られていない。
【0066】
本明細書において用いられるように、軟膜下AAV9送達を髄腔内送達と比較した時の利点としては、脊髄実質内トランスジーン発現が優れている点であると思われる。加えて、同程度の高レベルのトランスジーン発現が、成体ラットまたはミニブタにおいて完全に達成される。成体の35~40kgのブタにおける脊髄の寸法はヒトのものと類似しているため、同様の実質AAV9取り込みが成人においても達成されることが期待される。
【0067】
本明細書中に記載の軟膜下送達技術が比較的制限される点として、軟膜下注入脊髄の後角表面へアクセスするために、局所的椎弓切除を行う必要がある。このように椎弓切除を行う必要があると、その反復使用が制限され得る(これは、髄腔内送達の繰り返しの能力と対照的である)。しかし、軟膜下AAV9送達後に達成することが可能なトランスジーン発現のレベルは、この制限を(追い越すことはないにしても)バランスをとっているようにみえる(ただし、軟膜下遺伝子送達を疾患修飾研究において用いた後に明確かつより強力な治療効果がみられた場合)。加えて、投与後12ヶ月後において高レベルの脊髄GFP発現がそのままの対照マウスにおいて腰部脊髄中に継続的に残っていたことが最近判明した。これは、治療遺伝子の単回軟膜下送達の結果、さらなる遺伝子送達の必要性を検討する前に、長期間継続する効果が得られたことを強く示唆する。
【0068】
実験哺乳動物対象(例えば、成体ブタおよびマウス)を用いて、本発明によれば、本明細書中に記載の軟膜下脊髄AAV9送達技術により、脊髄実質、下行性および上行性軸索において広範なトランスジーン発現が可能になり、直接脊髄組織針貫通は不要である(
図8を参照)ことが分かる。脊髄局部的トランスジーン発現に加えて、脳運動中枢においてロバストな逆行性発現がみられた。この技術は、特異的脊髄分節中および/または突出する運動および上行性感覚軸索中の遺伝子の上方制御または下方制御を目的とする前臨床およびヒト臨床治験において使用され得る可能性がある。これらの実験用の成体動物におけるトランスジーン発現の範囲は、多様な脊髄神経変性疾患および/またはCNS関連障害を標的として、成人患者集団において、本発明を成功裏に用いることが可能であることを示唆している。例示的な神経変性疾患、CNS関連障害、病気または外傷を非限定的に挙げると、多発性硬化症(MS)、進行性多巣性白質脳症(PML)、脳脊髄炎(EPL)、橋中心髄鞘崩壊症(CPM)、副腎白質ジストロフィー、アレキサンダー病、ペリツェウス・メルツバッハー病(PMZ)、グロボイド細胞性ロイコジストロフィ(ライソゾーム病)およびワーラー変性、視神経炎、横断性脊髄炎、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、アルツハイマー病、パーキンソン病、パーキンソン・プラス症候群(例えば、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、および大脳皮質基底核変性症)、外科切除、脊髄負傷または外傷、腫瘍切除に起因するCNS負傷、横断性脊髄炎、視神経炎、ギラン・バレー症候群(GBS)、脳卒中、外傷性脳損傷、放射後負傷、化学療法の神経学的合併症、前部乏血性視神経症、ビタミンE欠乏、ビタミンE欠乏症候群、バッセン・コーンツヴァイク症候群、マルキアファーバ‐ビニャーミ病、異染性白質ジストロフィー、三叉神経痛、舌咽神経痛、重症筋無力症、てんかん、ベル麻痺、筋ジストロフィー、進行性筋萎縮症、原発性側索硬化症(PLS)、偽性延髄麻痺、進行性球麻痺、脊柱筋萎縮症、進行性球麻痺、遺伝性筋萎縮症、椎間板障害(例えば、脱出性、破裂性および脱出性の椎間板症候群)、頸部脊椎症、神経叢障害、胸郭出口破壊症候群、末梢神経障害、ポルフィリン症、軽度認知障害、および慢性疼痛症候群がある。
【0069】
いくつかの実施形態において、特に高いAAV濃度(例えば、~1013GC/ml以上)が存在する場合に、組成物中のAAV粒子の凝集を低減するようにAAV組成物を製剤する。AAV凝集を低減させる方法は当該分野において周知であり、例を挙げると、例えば、界面活性剤、pH調整、塩濃度調節剤の添加などがある(例えば、右記を参照されたい:Wright F R, et al., Molecular Therapy (2005) 12, 171-178。本明細書中、同文献の内容を参考のため援用する。)。
【0070】
薬学的に受容可能な賦形剤および担体溶液の製剤は、当該分野の当業者にとって周知であり、多様な処置レジメンにおいて本明細書中に記載される特定の組成物を使用するための適切な投薬および処置レジメンの開発も同様である。典型的には、これらの製剤は、少なくとも約0.1%以上の活性成分を含み得るが、もちろん、活性成分(単数または複数)のパーセンテージは異なり得、便宜的には製剤全体の重量または容量の約1または2%~約70%または80%以上であり得る。当然のことに、適切な投与量が化合物の任意の所与の単位投与量において得られるように、各治療的に有用な組成物中の活性成分の量を調製することができる。当業者であれば、このような医薬製剤の調製において、溶解性、生物学的利用率、生物学的半減期、投与経路、製品有効期間ならびに他の薬理学的考慮事項などの要素を企図するため、多様な投与量および処置レジメンが所望され得る。
【0071】
注射用途に適した医薬形態を挙げると、無菌の注射用溶液または分散液の即時調製のための無菌水溶液または分散液などが挙げられる。分散液は、グリセリン(glycerol)、液体ポリエチレングリコール、およびこれらの混合物ならびに油中においても調製され得る。通常の保存および使用条件下において、これらの調製物は、微生物の増殖を回避するための保存剤を含む。多くの場合において、この形態は、注射針通過性が容易である範囲内において無菌流体である。この形態は、製造および保存条件下において安定していなければならず、バクテリアおよび菌類などの微生物の汚染作用を防ぐように保存しなければならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセリン、ポリピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、その適切な混合物および/または植物油を含む溶媒または分散媒体であり得る。例えばレシチンなどのコーティングの使用、分散の場合に必要な粒径の維持、および界面活性剤の使用により、適切な流動性を維持することができる。
【0072】
注射用水溶液の投与のためには、例えば、溶液を必要な場合に適切に緩衝し、先ず液体希釈液を充分な生理食塩水またはグルコースによって等張性にする。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下および腹腔内投与に特に適している。これに関連して、使用可能な無菌水溶媒体は、当業者にとって公知である。例えば、1つの投与量を1mlの等張性NaCl溶液中に溶解させ、1000mlの皮下注入流体に加えるかまたは提案された注入部位に注入する(例えば、以下を参照:“Remington’s Pharmaceutical Sciences” 15th Edition, pages 1035-1038 and 1570-1580)。宿主の状態に応じて、投与量の改変が必要になる。投与管理者は、どんな場合においても、個々の宿主の適切な投与量を決定する。
【0073】
適切な溶媒中の必要な量の活性AAVおよび本明細書中に列記した多様な他の成分を必要なだけ採用することにより無菌注射溶液を調製した後、濾過滅菌を行う。一般的に、分散物は、基本的分散媒体および上記に列記した成分の中から必要な他の成分を含む無菌ビヒクル中へ多様な無菌活性成分を投入することにより調製される。無菌注射用溶液の調製のための無菌粉末の場合に、好適な調製方法としては、事前に無菌濾過されたその溶液から活性成分の粉末+任意の他の所望の成分が得られる真空乾燥およびフリーズドライ技術がある。
【0074】
いくつかの実施形態において、本明細書中に記載の薬剤、組成物および/またはシステムを医薬キットまたは診断キットまたは研究キットとして組み立てて、処置、診断または研究用途における使用を容易化することができる。キットは、本発明の構成要素を収容する1つ以上の容器および使用に関する指示事項を含み得る。詳細には、このようなキットは、本明細書中に記載のような投与のためのAAVを含む組成を、当該組成の意図される用途および適切な使用を記載する指示事項と共に含み得る。特定の実施形態において、キットは、90°で屈曲された誘導(ガイド)チューブ(例えば、18または23G)と、特定の用途および組成物の軟膜下投与方法に適したカテーテル(例えば、PE-5またはPE-10)とを含む別個のコンテナをさらに含み得る。研究目的のためのキットは、構成要素を多様な実験を実行するための適切な濃度または数量で含み得る。キットは、組成を対照に軟膜下投与するために必要な構成要素(例えば、シリンジ、尾側および/または頭蓋側脊柱クランプ、XYZマニピュレータなど)のうち1つ以上または全てをさらに含み得る。
【0075】
本明細書において用いられるように、「指示」とは、指示および/またはプロモーションの構成要素を定義し得、本発明のパッケージングまたはそれに関連する文書による指示を含み得ることが多い。指示は、指示がキットと関連するものであるとユーザが容易に認識できるように提供された任意の口述指示または電子指示も含み得る(例えば、視覚聴覚的なもの(例えば、ビデオテープ、DVDなど)、インターネットおよび/またはウェブベースの通信)。文書による指示は、医薬製品または生物学的製品の製造、使用または販売を管轄する政府機関によって規定された様式をとり得、これらの指示は、動物投与のための製造、使用または販売を担当する機関による承認も反映し得る。
【0076】
以下の例は、本発明を例示するものであり、本発明を限定することを意図していない。
【0077】
実施例1
材料および方法
動物および一般的な外科的処置-成体のSprague-Dawleyラット(雄および雌、250~350グラム、n=16)またはミネソタ系およびゲッティンゲン系の交雑育種から得た成体のミニブタ(雄雌両方、30~40kg;n=6)を用いた。ラットを5%イソフルランによって麻酔し、手術時において、呼吸速度および足ピンチ応答に応じて2~3%のイソフルランにおいて維持した。次に、ラットの背中を毛ぞりし、2%クロルヘキシジンで洗浄した。皮膚切開後、頸部、胸部または腰部の脊椎骨の周囲の傍脊椎筋を除去し、動物を既報の通りCunninghamの脊柱クランプを用いて脊柱固定化フレーム(Stoelting)へ固定した(Kakinohana, et al. (2004)。ラット中の頸部および腰部脊髄中への領域特異的細胞グラフト:定性的かつ定量的な立体解析学的研究。Experimental neurology 190: 122-132)。脊髄を露出させるため、対応する脊椎の脊椎椎弓切除を歯科用ドリルを用いて行った。その後、硬膜を外科用メスを用いて切り開いた。
【0078】
ミニブタを筋肉内アザペロン(2mg/kg)およびアトロピン(1mg/kg;Biotika、SK)によって麻酔前投薬した後、ケタミン(20mg/kg;IV)によって誘導した。誘導後、動物に2.5F気管チューブを挿管した。麻酔は、50%/50%の空気/酸素混合物中の1.5%イソフルランを一定の2L/分の流速において維持した。手術中、酸素飽和をパルスオキシメーター(Nellcor Puritan Bennett Inc.、アイルランド)を用いて監視した。麻酔誘導後、動物を既報の通り脊髄固定化装置内に配置した(Usvald, et al. (2010)。免疫抑制ミニブタ中のヒト脊髄幹細胞の髄腔内グラフトの投薬レジメンおよび再現性の分析。Cell transplantation 19: 1103-1122)。その後、Th5およびL3~L6脊髄分節にそれぞれ対応するTh5またはL2~L4脊椎の脊椎椎弓切除を行い、硬膜外脂肪をコットンでぬぐって除去した。硬膜を切り開き、6.0Prolineを用いて周辺組織へ固定させた(
図1C~1E)。
【0079】
軟膜下のカテーテル留置および軟膜下AAV9注入-軟膜下カテーテルを留置するため、L字型のカテーテル誘導チューブ(18または23G)を構築した(
図1B)。この誘導チューブをXYZ(Stoelting)マニピュレータ内に取りつけ、露出した脊髄分節の表面へ前進させた。事前に45°に屈曲させた30G針を用いて、軟膜に穿刺した。次に、軟膜下カテーテル(ブタ用はPE-10およびラット用はPE-5)を誘導チューブの他端から手動で押すことにより、そのカテーテルを誘導チューブから軟膜下空間内へ前進させた。ラットにおいては、カテーテルを軟膜下空間内に約1~1.5cmだけ前進させ、ブタにおいては約3~6cmだけ前進させた。その後、ウイルスを50または250μlハミルトン注射器を用いて軟膜下空間内に3分間かけて注入した。注入後、カテーテルを取り除き、6.0Prolineを用いて硬膜を閉じた(硬膜を閉じたのはブタの場合のみ)、その後動物を回復させた。
【0080】
インビボ注入用のAAV9の調製-1.2kbユビキチン-C(UBC)プロモーターをオリゴヌクレオチド合成によって作製し、eGFPまたはDsRed(RFP)、およびSV40ポリAシグナルと結合させ、自己相補的二本鎖DNAゲノムAAV(scAAV)ベクタープラスミドにクローン化した(Xu, et al. (2012)。髄腔内送達後の自己相補的なアデノ随伴ウイルス血清型5により媒介されるラット後根ガングリオン媒介におけるインビボ遺伝子ノックダウン。PloSone7: e32581)。UBCプロモーターによって駆動されるeGFPまたはRFPのいずれかを発現するヘルパーウイルスフリーのscAAV9ベクターを、ベクタープラスミド、pRep2-Cap9およびpAd-ヘルパープラスミドによるHEK293T細胞の一過性トランスフェクションにより生成した(Xiao, et al.(1998)。ヘルパーアデノウイルスの不存在下における高力価組み換えアデノ随伴ウイルスベクターの産生。J Virol 72: 2224-2232)。プラスミドpRep2-Cap9は、U.PennのVector Coreから得られた。トランスフェクションの72時間後に調製された細胞溶解物中のAAVベクターは、既報の通りに精製され、Q-PCRによって力価を求めた(Xu, et al.,前出)。最終力価を1.0x1013ゲノムコピー/ml(gc/ml)に調整した。注入直前にウイルスをデキストラン(10,000MW)と1:1で混合し、最終デキストラン濃度を2.5%とした。軟膜下注入量は、ラットの場合で30μlであり、ブタの場合に200μlであった。
【0081】
脊髄および脳切片の灌流固定、死後インサイチュGFP蛍光イメージングおよび免疫蛍光法-動物(ラットおよびブタ)をペントバルビタールによって深く麻酔し、200ml(ラット)または2000ml(ブタ)のヘパリン処置生理食塩水によって経心的に灌流した後、PBS中の4%パラフォルムアルデヒドの250ml(ラット)または4000ml(ブタ)によって経心的に灌流した。脊髄および脳を解剖し、PBS中の4%ホルムアルデヒド中に一晩4℃で固定化した後、30%スクロースPBS中にて凍結保護し、横断または縦断切片(厚さ30μm)をクリオスタット上において切出し、PBS中で保存した。切片化を行う前に、脊髄全体をIVISスペクトル光画像化システム(Xenogen、Alameda、CA)を用いてインサイチュで画像化した。配列取得を励起波長465nmおよび発光波長520nmにおいて行った。中程度のビニングを用い、露出時間は3秒とした。画像分析をLiving Image4.3.1(Xenogen、Alameda、CA)ソフトウェアを用いて行った。シグナル計算を固定容量ROIを用いて行った。調製された切片の免疫染色を、PBS中において0.2%TritonX-100:ウサギ抗グリア細胞繊維性酸性タンパク質(GFAP;1:500、Origene、Rockville、Maryland、USA)およびマウス抗ニューロン核坑原(NeuN、1:1000、Chemicon)と共に作製された一次抗体を用いて一晩4°Cで行った。一次抗体とのインキュベーション後、切片をPBS中において3回洗浄し、蛍光結合二次ロバ抗ウサギおよびロバ抗マウス抗体(AlexaFluor488、546または647、1:1000、Invitrogen)それぞれ、ならびに一般核染色のためのDAPIと共にインキュベートした。その後、切片をスライド上に載せ、室温において乾燥させ、長期褐色防止キット(Invitrogen)によって被覆した。蛍光画像のキャプチャをZeiss ImagerM2顕微鏡を用いて行い、共焦点画像をOlympusFV1000顕微鏡を用いて撮影した。
【0082】
このアプローチの一貫性、高レベルの脊髄実質トランスジーン発現、および実行可能性は、現行のアプローチに比して大きな技術的向上を示し、一般的に脊髄遺伝子上方制御またはサイレンシングを狙った直接臨床的用途において可能性を持つ。現在用いられているアプローチでは、脊髄髄腔内または侵襲性の直接実質内AAV注入が用いられており、低レベルの実質トランスジーン発現またはよりロバストな感染効果を達成するために必要とされる侵襲性などの点において制限が明らかにある。また、このアプローチの場合、シナプス接続の範囲を研究することおよび齧歯動物および大型動物種双方における標的となる脊髄分節中の軸索出芽を調節する要素(すなわち、遺伝子、神経栄養要素)を同定するために、AAV9送達の部位から遠位にある分節において比類の無いレベルの運動および感覚繊維ラベル付けが可能であり、研究にとって極めてロバストなツールとなる。
【0083】
脊髄軟膜下AAV9送達の原理を示す実施例およびその結果得られる局所的実質発現と、AAV9送達の2ヶ月後に成体ブタ中のAAV9送達部位から遠位にある分節における軸索ラベル付けとについて本明細書中に記載する。
【0084】
実施例2
単回の脊髄ボーラス後実質AAV9媒介トランスジーン発現
先ず、ラットおよびブタにおける単回ボーラス軟膜下AAV9-UBI-GFPまたはAAV9-UBI-RFP送達の効力について試験した。動物において、20μl(ラット)または200μl(ブタ)の2.5%デキストラン溶液中のAAV9ベクターを頸部(C4-6)、胸(Th6-9)または腰部(L2-L5)分節の軟膜下空間内に送達させた。AAV9送達の6~8週間後、脊髄を4%パラフォルムアルデヒド固定動物から解剖し、Avis蛍光システムを用いてインサイチュで画像化した。次に、横断または水平脊髄切片をAAV9注入分節から切出し、GFPまたはRFPの存在について分析し、ニューロン(NeuN)およびグリア(GFAP)抗体と共に共染色した。ラット脊髄およびブタ脊髄双方において、高GFPまたはRFP発現が脊髄表面上にみられ、視覚検査により黄色~緑色領域または赤色領域として容易に同定された。
図1Hおよび1Jは、横断されたブタの脊髄および前根(
図1H、インサート)中におけるRFP(赤色)の存在をナイーブ脊髄(
図1I)と比較して示している。これに対応して、AAV9-UBI-GFPを注入した動物に脊髄表面濃度測定分析を行ったところ、広範なGFPシグナルが軟膜下AAV9送達中心点から5~10cmまで拡散していた(
図1Fおよび1G)。
【0085】
胸中部レベルにおいてAAV9-UBI-RFPを事前に軟膜下注入したブタから採取した水平切断された胸切片(
図1Hに示すような同じ脊髄)を用いて、広範囲の実質RFP発現がみられた。RFP発現が大部分の介在ニューロンおよびα運動ニューロンにおいて容易に特定され、4~6個の脊髄分節の全体において拡散していた(
図3Aおよび3B)。同様に、軸索樹状突起間分岐において、RFP発現灰白質全体において高RFP発現がみられた(
図3Aおよび3B、白色星印)。
【0086】
軟膜下AAV9注入の中心点から採取された横断脊髄部位を分析したところ、白質および灰白質全体において高RFP発現が確認された。白質においては、点状のRFP発現が横方向に切断された軸索の大部分においてみられ(
図3C、白色星印、ボックスインサート)、脊椎、側索および腹索において特定された(
図3C、DF、LF、VF;ボックスインサート)。灰白質においては、多数の介在ニューロンが薄膜第I-IX層と前角中の前α運動ニューロンとの間において分散しており、細胞体および軸索樹状突起間分岐において高RFP発現がみられた。高密度のRFP発現が灰白質中の神経線維末端においてもみられた(
図3D~3G)。同様に、共焦点分析を行ったところ、星状細胞中のRFPシグナルの存在が見られた(
図3C、インサート:RFP/GFAP)。
【0087】
同様のニューロンGFP発現パターンが、軟膜下AAV9-UBI-GFP注入後のラット腰部脊髄においてL1~2レベルでみられた。高密度のGFP+ニューロンがL1~L5腰部分節全体に存在し、また薄膜第I~IX層間の灰白質全体に局所化していることが特定された(
図9A~9D)。
【0088】
実施例3
遠位の脊髄分節におけるGFP発現
次に、ラットおよびブタ双方における胸中部(Th6-7)または下頸部分節の軟膜下空間内へのAAV9-UBI-GFPの軟膜下注入後、腰部脊髄における下方脊柱管GFP発現の範囲を特徴付けた。軟膜下AAV9送達の3~6週間後、高GFP発現が腰部脊髄全体にみられた。ブタから採取した横断腰部(L2-L6)脊髄切片を用いて、側索および腹索中の横断軸索における高強度GFP発現が、さらなるGFP免疫染色無しに容易に特定された(
図4A、白色星印)。これらの領域において、同様の密度のGFP+軸索が白質全体においてみられた。側索および腹索と対照的に、比較的少数のGFP+軸索が脊椎索においてみられた(
図4A、DF)。側索および腹索の白質中にみられる軸索ラベル付けのレベルと一貫して、灰白質中に終端するGFP+軸索の高密度網がみられた(
図4Aおよび4B)。これらの軸索は、薄膜第III~X層間において特定された。ごく僅かのGFP+軸索がラミナI~III中に見られた。強力共焦点顕微鏡を用いたところ、高密度の微細なGFP+軸索が灰白質中の多数の神経線維末端と共にみられた(
図4C)。
【0089】
事前にAAV9-UBI-GFPの上頸部軟膜下注入を施したラットにおいて、腰部灰白質中の下方運動軸索における同程度のGFP発現パターンがみられた(
図9Eおよび9F)。
【0090】
実施例4
脊髄軟膜下送達後の脳運動領域における逆行性トランスジーン発現
ブタにおいて軟膜下AAV9-UBI-GFP送達を行った6週間後において、脳運動中枢(運動皮質、赤核および網様体)におけるトランスジーン(GFP)発現を分析したところ、高くGFPラベル付けされた錐体ニューロンが運動皮質中にみられた(
図5A~5E)。同様に、多数のGFP+ニューロンが脳幹内に局所化している様子も特定された(
図5F~5J)。運動皮質中のGFP+ニューロンの存在と一致して、多数のGFP+皮質脊髄軸索が延髄の前領域(錐体)中に存在する様子がみられた(
図5K)。加えて、高密度の順行性ラベル付けされたGFP+脊髄網様末端が網様体全体においてみられ(
図5L)、脊髄視床末端が視床核においてみられた(図示せず)。
【0091】
同様に、ブタにおいてみられるように、高密度のGFP+錐体ニューロンが両側性運動皮質中に局所化している様子がラットにおいてみられた(
図6A~6D)。同様の高レベルのGFP発現が赤核においてもみられ、両側に局所化したGFP+核ニューロンクラスタの存在によって容易に特定された(
図6E~6G)。
【0092】
実施例5
髄腔内対軟膜下AAV9送達後の分局的な脊髄トランスジーン発現
次に、同じ動物(ラット)においてAAV9を腰部(L1-L2)髄腔内空間内に注入し(AAV9-UBI-GFP)および胸Th7分節(AAV9-UBI-RFP)の軟膜下空間内に注入した後、脊髄トランスジーン発現の分布を比較した。腰部髄腔内AAV9注入の3週間後に軟膜下AAV9注入を行い、軟膜下AAV9注入の3週間後に発現パターンを横断腰部脊髄部位において分析した。AAV9-UBI-GFPの髄腔内注入の結果、後角(ラミナII-III)およびラミナV~VIIの中央部分中の脊椎索、一次求心性神経において、高GFP発現が得られた。CHAT+α運動ニューロンの近隣の前角において終端しているいくつかのGFP+Ia求心性神経も特定された。一次求心性神経中の高GFP発現と一致して、多数のGFP+ニューロンが後根神経節細胞においてみられた(
図7B)。GFP発現の増加の明確な存在が、前根入口帯の周辺において一貫してみられた(
図7Aおよび7F)。この領域において、いくつかのGFP発現グリア細胞がみられた。同様に、2~3個のGFP+細胞が後根入口帯においてみられた。腹側灰白質において、いくつかのα運動ニューロンがGFP発現を示した(
図7G)。GFP発現を示したこれらの領域および細胞群を除いて、ニューロンまたはグリアGFP発現のほとんど完全な欠失が灰白質の他のより深い領域(例えば、後角、中間帯および側索および腹索の白質)においてみられた(
図7A)。興味深いことに、表在後角中に局所化しかつ髄腔内空間のごく近隣にある(が軟膜によって分離されている)ニューロンの場合、GFP発現は全くみられなかった(
図7Cおよび7D)。
【0093】
髄腔内AAV9-UBI-GFP送達後にみられるGFP発現パターンと対照的に、頸部軟膜下AAV9注入に起因するRFP発現は、同一腰部脊髄切片において分析した場合に実質的に異なる局部的発現パターンを示した。dsRED発現が白質中の大部分の軸索において同定され、側索および腹索中に存在した。後角、中間帯(ラミナVII)および前角の灰白質中に突出した多数の軸索もみられた(
図7A)。共焦点顕微鏡を用いたところ、実質的に全てのRFP+繊維が白質または灰白質がGFP陰性であることが判明した。興味深いことに、多数のRFP+皮質脊髄軸索が脊椎索上に残っている様子がGFPラベル付けされた一次求心性神経のごく近隣においてみられたが、RFP+GFPの共局在はこれらの繊維のいずれにおいてもみられなかった(
図7E)。
【0094】
本発明について上記の例を参照して述べてきたが、変更および改変が本発明の意図および範囲内に包含されることが理解される。よって、本発明は、以下の特許請求の範囲のみによって制限される。
【手続補正書】
【提出日】2024-11-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の軟膜下空間へ核酸分子を投与することを含む、対象における核酸分子の脊髄実質内感染の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0094
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0094】
本発明について上記の例を参照して述べてきたが、変更および改変が本発明の意図および範囲内に包含されることが理解される。よって、本発明は、以下の特許請求の範囲のみによって制限される。
本発明のさらなる態様を、以下に記載する:
[項1]
対象の軟膜下空間へ核酸分子を投与することを含む、対象における核酸分子の脊髄実質内感染の方法。
[項2]
投与ステップが、
(a)対象の脊椎の脊髄分節を露出させること、
(b)脊髄分節内に軟膜開口部を設けること、
(c)カテーテルを軟膜開口部を通じて軟膜下空間内へ前進させること、および
(d)核酸分子を対象の軟膜下空間へ送達させること
を含む、項1記載の方法。
[項3]
軟膜開口部が、軟膜をL字型形状のステンレススチールチューブによって穿刺することによって設けられ、カテーテルがチューブを通じて軟膜下空間内へ前進される、項2記載の方法。
[項4]
核酸分子が、約1~10%のデキストロースを含む混合物で投与される、項1記載の方法。
[項5]
核酸分子が、ベクターまたはアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)である、項1記載の方法。
[項6]
ベクターが、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクターまたはアデノ随伴ベクターである、項5記載の方法。
[項7]
ベクターがAAV9粒子である、項6記載の方法。
[項8]
ベクターが、神経変性疾患を調節または処置するタンパク質または機能性RNAをコードする核酸分子を含む、項7記載の方法。
[項9]
神経変性疾患が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、アルツハイマー病またはパーキンソン病である、項8記載の方法。
[項10]
核酸分子が単回注入で送達される、項1記載の方法。
[項11]
核酸分子の1回以上の第2の軟膜下投与を対象の脊椎の異なる脊髄分節中に行うことをさらに含む、項2記載の方法。
[項12]
対象への核酸分子の1回以上の髄腔内投与をさらに含む、項2記載の方法。
[項13]
対象が哺乳動物である、項1記載の方法。
[項14]
対象がヒトである、項13記載の方法。
[項15]
遺伝子送達システムであって、
(a)対象の軟膜を穿刺するように構成されたL字型形状のガイドチューブと、
(b)ガイドチューブ内にスライド可能に配置されかつ対象の脊椎の脊髄分節の軟膜下空間内へ前進されるように構成されたカテーテルと、
(c)カテーテルと流体連通しかつ核酸分子を含む組成物を含むリザーバと、
を含む、システム。
[項16]
L字型形状のガイドチューブが16~26Gのステンレススチールチューブである、項15記載の方法。
[項17]
カテーテルがポリエチレンチュービングから形成される、項15記載の方法。
[項18]
対象の軟膜下空間へ核酸分子を送達する方法であって、
(a)対象の脊椎の脊髄分節を露出させること、
(b)脊髄分節内に軟膜開口部を設けること、
(c)項16記載の遺伝子送達システムを該脊髄分節上方に位置決めすること、
(d)カテーテルを軟膜開口部を通じて軟膜下空間内へ前進させること、および
(e)核酸分子を対象の軟膜下空間へ送達させること
を含む、方法。
[項19]
必要としている対象において神経変性疾患を処置する方法であって、ベクターまたはアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を対象の軟膜下空間へ投与することを含む、方法。
[項20]
投与ステップが、
(a)対象の脊椎の脊髄分節を露出させること、
(b)脊髄分節内に軟膜開口部を設けること、
(c)カテーテルを軟膜開口部を通じて軟膜下空間内へ前進させること、および
(d)核酸分子を対象の軟膜下空間へ送達させること
を含む、項19記載の方法。
[項21]
軟膜開口部が、軟膜をL字型形状のステンレススチールチューブによって穿刺することによって設けられ、カテーテルがチューブを通じて軟膜下空間内へ前進される、項20記載の方法。
[項22]
神経変性疾患が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、アルツハイマー病またはパーキンソン病である、項19記載の方法。
[項23]
対象の脊椎の異なる脊髄分節中へのベクターまたはASOの1回以上の第2の軟膜下投与をさらに含む、項19記載の方法。
[項24]
対象へのベクターまたはASOの1回以上の髄腔内投与をさらに含む、項19記載の方法。
[項25]
対象が哺乳動物である、項19記載の方法。
[項26]
対象がヒトである、項25記載の方法。
【外国語明細書】