(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025156746
(43)【公開日】2025-10-15
(54)【発明の名称】インバータ装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/487 20070101AFI20251007BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20251007BHJP
【FI】
H02M7/487
H02M7/48 R
H02M7/48 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024059357
(22)【出願日】2024-04-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】宇田 尚哉
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA11
5H770CA01
5H770CA04
5H770CA05
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA11
5H770DA34
5H770EA01
5H770EA25
5H770HA03W
5H770HA03Y
5H770JA17Y
5H770LA00W
5H770LB07
(57)【要約】
【課題】中性点電位の偏りを抑制することができるインバータ装置を提供する。
【解決手段】インバータ装置A1は、直流電源が出力する直流電力を交流電力に変換して出力する。インバータ装置A1は、直流電源1の電源電圧を分圧して中性点電位を発生させる分圧部を含むインバータ回路2(マルチレベルインバータ回路)と、インバータ装置A1の出力電圧が当該出力電圧の目標値となるようにインバータ回路2の制御を行う制御回路5と、を備える。制御回路5は、中性点電位の偏りが発生しているか否かを検出する偏り検出部を含み、且つ当該偏り検出部が中性点電位の偏りの発生を検出すると、出力電圧の目標値を低下させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源が出力する直流電力を交流電力に変換して出力するインバータ装置であって、
前記直流電源の電源電圧を分圧して中性点電位を発生させる分圧部を含むマルチレベルインバータ回路と、
前記インバータ装置の出力電圧が当該出力電圧の目標値となるように前記マルチレベルインバータ回路の制御を行う制御回路と、
を備えており、
前記制御回路は、前記中性点電位の偏りが発生しているか否かを検出する偏り検出部を含み、且つ当該偏り検出部が前記中性点電位の偏りの発生を検出すると前記目標値を低下させる、インバータ装置。
【請求項2】
前記直流電源の正極の電位と前記中性点電位との電位差である第1電圧を検出する第1電圧検出部と、
前記直流電源の負極の電位と前記中性点電位との電位差である第2電圧を検出する第2電圧検出部と、
をさらに備え、
前記偏り検出部は、前記第1電圧と前記第2電圧との電圧差の絶対値が閾値以上となった場合に、前記中性点電位の偏りが発生していると判定する、請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項3】
前記偏り検出部は、さらに、前記電圧差の大きさに応じて、前記中性点電位の偏り度合を検出しており、
前記制御回路は、前記中性点電位の偏り度合が大きいほど、前記目標値を大きく低下させる、請求項2に記載のインバータ装置。
【請求項4】
前記マルチレベルインバータ回路は、各相の電圧を3レベルの電位とする3レベルインバータ回路であり、
前記分圧部は、前記直流電源の正極と負極との間に直列に接続された2つのコンデンサを含み、
前記2つのコンデンサの静電容量は、同じである、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のインバータ装置。
【請求項5】
前記制御回路は、前記偏り検出部が前記中性点電位の偏りの発生を検出している状態から、前記中性点電位の偏りの発生を検出しなくなると、前記目標値を、低下した値から元の値に戻す、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のインバータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、直流電源が出力する直流電力を交流電力に変換して出力するインバータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、3つの異なるレベルの電圧を出力できる3レベルインバータが知られている。例えば、特許文献1には、マルチレベルインバータ回路を備える系統連系インバータシステムの一例が開示されている。系統連系インバータシステムは、開閉器によって電力系統に連系して、直流電源が出力する直流電力を交流電力に変換して系統に供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
系統連系インバータシステムには、電力系統の停電時および異常時などにおいて、電力系統から解列して、自立運転を行うものがある。この自立運転時では、インバータ装置は、電圧源となって負荷に電力を供給するため、交流電圧の出力制御を行うが、交流電流の出力制御は行っていない。このため、励磁突入電流が発生すると、中性点電位に偏りが生じうる。この中性点電位の偏りにより、出力される交流電圧が歪み、過電圧の検知により運転が停止しうる。また、最悪の場合、インバータ装置が故障してしまうこともある。また、励磁突入電流は、系統連系インバータシステムに用いられるインバータ装置に限定されず、他の用途で用いられるインバータ装置にも発生しうる。
【0005】
本開示は、上記事情に鑑みて考え出されたものであり、その目的は、中性点電位の偏りを抑制することができるインバータ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示によって提供されるインバータ装置は、直流電源が出力する直流電力を交流電力に変換して出力するインバータ装置であって、前記直流電源の電源電圧を分圧して中性点電位を発生させる分圧部を含むマルチレベルインバータ回路と、前記インバータ装置の出力電圧が当該出力電圧の目標値となるように前記マルチレベルインバータ回路の制御を行う制御回路と、を備えており、前記制御回路は、前記中性点電位の偏りが発生しているか否かを検出する偏り検出部を含み、且つ当該偏り検出部が前記中性点電位の偏りの発生を検出すると前記目標値を低下させる。
【0007】
前記インバータ装置の好ましい実施の形態において、前記直流電源の正極の電位と前記中性点電位との電位差である第1電圧を検出する第1電圧検出部と、前記直流電源の負極の電位と前記中性点電位との電位差である第2電圧を検出する第2電圧検出部と、をさらに備え、前記偏り検出部は、前記第1電圧と前記第2電圧との電圧差の絶対値が閾値以上となった場合に、前記中性点電位の偏りが発生していると判定する。
【0008】
前記インバータ装置の好ましい実施の形態において、前記偏り検出部は、さらに、前記電圧差の大きさに応じて、前記中性点電位の偏り度合を検出しており、前記制御回路は、前記中性点電位の偏り度合が大きいほど、前記目標値を大きく低下させる。
【0009】
前記インバータ装置の好ましい実施の形態において、前記マルチレベルインバータ回路は、各相の電圧を3レベルの電位とする3レベルインバータ回路であり、前記分圧部は、前記直流電源の正極と負極との間に直列に接続された2つのコンデンサを含み、前記2つのコンデンサの静電容量は、同じである。
【0010】
前記インバータ装置の好ましい実施の形態において、前記制御回路は、前記偏り検出部が前記中性点電位の偏りの発生を検出している状態から、前記中性点電位の偏りの発生を検出しなくなると、前記目標値を、低下した値から元の値に戻す。
【発明の効果】
【0011】
本開示のインバータ装置によれば、制御回路は、中性点電位の偏りの発生を検出すると、出力電圧の目標値を低下させる。この構成によれば、励磁突入電流の発生によって、中性点電位の偏りが発生した場合には、インバータ装置の出力電圧が低下する。これにより、本開示のインバータ装置は、励磁突入電流による中性点電位の偏りを抑制できる。また、インバータ装置は、中性点電位の偏りを抑制できるので、中性点電位の偏りに起因する出力電圧(交流電圧)の歪みが抑制され、過電圧の検知による運転停止やインバータの故障を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係るインバータ装置を示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係るインバータ装置のインバータ回路の内部構成を示す回路図である。
【
図3】第1実施形態に係るインバータ装置の制御回路の内部構成を示すブロック図である。
【
図4】第1実施形態の変形例に係るインバータ装置を示すブロック図である。
【
図5】第2実施形態に係るインバータ装置の制御回路の内部構成を示すブロック図である。
【
図6】第2実施形態に係るインバータ装置において、制御回路に記憶される、偏り度合と電圧差分との対応テーブル(
図6(a))と、偏り度合と補正量(減少量)との対応テーブル(
図6(b))とを示す図である。
【
図7】第2実施形態の変形例に係るインバータ装置の偏り度合(電圧差分)と目標電圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示のインバータ装置の好ましい実施の形態について、図面を参照して、以下に説明する。以下では、同一あるいは類似の構成要素に、同じ符号を付して、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、第1実施形態に係るインバータ装置A1を示している。インバータ装置A1は、例えばパワーコンディショナに用いられ、直流電源1から入力される直流電力を交流電力に変換して出力する。なお、本開示のインバータ装置A1の適用例は、パワーコンディショナに限定されない。
【0015】
図1に示すように、インバータ装置A1は、遮断器CBを介して、電力系統Bに接続される。インバータ装置A1は、遮断器CBが投入されている時、電力系統Bに接続され、系統連系運転を行う。一方で、インバータ装置A1は、遮断器CBが開放されている時、電力系統Bから解列され、自立運転(非系統連系運転)を行う。遮断器CBは、電力系統Bの停電時および異常時に開放される。
図1は、インバータ装置A1が電力系統Bから解列された状態を示している。インバータ装置A1は、自立運転中、直流電源1を用いて、負荷Lに電力を供給する。
【0016】
インバータ装置A1は、
図1に示すように、インバータ回路2、フィルタ回路3、変圧回路4、制御回路5、電圧センサ6、第1電圧検出部71および第2電圧検出部72を備える。インバータ回路2の入力側には直流電源1が接続されている。インバータ回路2は、三相インバータであり、インバータ回路2、フィルタ回路3および変圧回路4は、この順で、U相、V相、W相の出力電圧の出力ラインにより、直列に接続されている。出力ラインは、三相の電力系統Bに接続している。また、出力ラインは、負荷Lに接続している。インバータ回路2には制御回路5が接続されている。インバータ装置A1は、自立運転中、直流電源1が出力する直流電力をインバータ回路2で交流電力に変換して、フィルタ回路3および変圧回路4を介して、負荷Lに供給する。なお、インバータ装置A1の構成は、これに限られない。例えば、変圧回路4に代えて、直流電源1とインバータ回路2との間にDC/DCコンバータ回路を設けた、いわゆるトランスレス方式であってもよい。
【0017】
直流電源1は、直流電力を出力するものであり、例えば蓄電デバイスを備えている。蓄電デバイスは、例えばリチウムイオン電池であるが、燃料電池、鉛蓄電池、あるいは電気二重層コンデンサなどであってもよい。直流電源1は、蓄電デバイスの代わりに、太陽電池(太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換して直流電力を生成するもの)あるいはディーゼルエンジン発電機、マイクロガスタービン発電機や風力タービン発電機などにより生成された交流電力を直流電力に変換して出力する装置であってもよい。直流電源1の電源電圧は、何ら限定されないが、本実施形態では600Vであるものとして説明する。
【0018】
インバータ回路2は、直流電源1から入力される電源電圧(直流電圧)を交流電圧に変換して、フィルタ回路3に出力するものである。本実施形態では、インバータ回路2は、スイッチング素子を備えた三相のPWM制御型インバータであり、各相の出力相電圧が3レベルの電位となる3レベルインバータ回路である。インバータ回路2は、制御回路5から入力されるPWM信号Pに基づいて、各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、直流電源1から入力される直流電圧を交流電圧に変換する。
【0019】
フィルタ回路3は、インバータ回路2から入力される交流電圧から、スイッチングによる高周波成分を除去するものである。フィルタ回路3は、リアクトルとコンデンサとからなるローパスフィルタ(図示略)を備えている。フィルタ回路3で高周波成分を除去された交流電圧は、変圧回路4に出力される。なお、フィルタ回路3の構成はこれに限定されず、高周波成分を除去するための周知のフィルタ回路であればよい。
【0020】
変圧回路4は、フィルタ回路3から出力される交流電圧を電力系統Bの系統電圧とほぼ同一のレベルに昇圧または降圧する。
【0021】
電圧センサ6は、インバータ装置A1の出力電圧Voutを検出する。電圧センサ6は、変圧回路4と遮断器CBとの間であって、インバータ装置A1の出力端に配置される。検出された出力電圧Voutは、出力検出信号として制御回路5に出力される。
【0022】
制御回路5は、インバータ回路2のスイッチング素子のスイッチングを制御するPWM信号Pを生成するものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路5は、電圧センサ6や図示しない各種センサから検出信号を入力され、インバータ回路2にPWM信号Pを出力する。制御回路5は、系統連系運転時において、インバータ装置A1の出力を電流制御方式によって制御し、自立運転時において、インバータ装置A1の出力を電圧制御方式によって制御する。例えば、自立運転時においては、制御回路5は、設定される出力電圧の目標電圧(例えば実効値)と、電圧センサ6から入力される出力検出信号とに基づいて、PWM信号Pを生成する。目標電圧(例えば実効値)は、何ら限定されないが、本実施形態では300Vであるものとして説明する。インバータ回路2は、入力されるPWM信号Pに基づいて各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、設定された目標電圧に応じた相電圧を出力する。制御回路5の詳細な説明は後述する。
【0023】
次に、
図2を参照して、インバータ回路2の内部構成および詳細な説明を行う。
図2は、インバータ回路2の内部構成を示す回路図である。
図2には、第1電圧検出部71および第2電圧検出部72を合わせて記載し、これらも説明する。インバータ回路2は、先述の通り、三相のPWM制御型の3レベルインバータ回路である。
【0024】
図2に示すように、インバータ回路2は、12個のスイッチング素子S1~S12、12個の環流ダイオードD1~D12および分圧部21を備えている。本実施形態では、スイッチング素子S1~S12としてIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor : 絶縁ゲート・バイポーラトランジスタ)を使用している。なお、スイッチング素子S1~S12はIGBTに限定されず、バイポーラトランジスタ、MOSFET、逆阻止サイリスタなどであってもよい。
【0025】
分圧部21は、直流電源1の電源電圧を分圧して、中性点電位を発生させる。分圧部21は、2つの分圧用コンデンサC1,C2を備えている。分圧用コンデンサC1,C2は、静電容量が同一のコンデンサであり、直流電源1から入力される電源電圧を均等に分圧する。分圧用コンデンサC1と分圧用コンデンサC2とは点Oで直列接続されて、直流電源1の正極に接続される点Pと負極に接続される点Nとの間に並列接続されている。分圧用コンデンサC1,C2の静電容量が同じである場合、点Oの電位は、点Nの電位と点Pの電位の中間の電位である。よって、直流電源1の負極が接地されている場合、点Nの電位は「0」である。そして、直流電源1の正極の電位、すなわち点Pの電位を「E」とすると、点Oの電位は、点Nの電位「0」と点Pの電位「E」の中間の電位である「(1/2)E」となる。なお、分圧用コンデンサC1,C2の種類は、限定されない。点Oが中性点であり、点Oの電位が中性点電位である。直流電源1の負極が接地され、点Nの電位は「0」である例において、直流電源1の電源電圧が600Vである場合、中性点電位は300Vである。直流電源1の負極が接地されず、点Nの電位が「0」でない場合、中性点電位は、点Nの電位分、オフセットされる。
【0026】
第1電圧検出部71は、直流電源1の正極の電位(点Pの電位)と中性点電位(点Oの電位)との電位差である第1電圧V1を検出する。第1電圧V1は、分圧用コンデンサC1の端子間電圧に相当する。第1電圧検出部71は、検出した第1電圧V1を、第1電圧検出信号として、制御回路5に出力する。
【0027】
第2電圧検出部72は、中性点電位(点Oの電位)と直流電源1の負極の電位(点Nの電位)との電位差である第2電圧V2を検出する。第2電圧V2は、分圧用コンデンサC2の端子間電圧に相当する。第2電圧検出部72は、検出した第2電圧V2を、第2電圧検出信号として、制御回路5に出力する。
【0028】
スイッチング素子S1とS4とは、スイッチング素子S1のエミッタ端子とスイッチング素子S4のコレクタ端子とが接続されて、直列接続されている。スイッチング素子S1のコレクタ端子は点Pに接続され、スイッチング素子S4のエミッタ端子は点Nに接続されて、ブリッジ構造を形成している。同様に、スイッチング素子S2とS5とが直列接続されてブリッジ構造を形成し、スイッチング素子S3とS6とが直列接続されてブリッジ構造を形成している。スイッチング素子S1,S2,S3は直流電源1の正極側に接続されているので、スイッチング素子S1,S2,S3を区別しない場合は、「正極側スイッチSp」と記載する場合がある。一方、スイッチング素子S4,S5,S6は、直流電源1の負極側に接続されているので、スイッチング素子S4,S5,S6を区別しない場合は、「負極側スイッチSn」と記載する場合がある。各スイッチング素子S1~S6のベース端子には、制御回路5から出力されるPWM信号P(Pup,Pvp,Pwp,Pun,Pvn,Pwn)がそれぞれ入力される。
【0029】
スイッチング素子S1とS4とで形成されているブリッジ構造をU相アームとし、スイッチング素子S2とS5とで形成されているブリッジ構造をV相アームとし、スイッチング素子S3とS6とで形成されているブリッジ構造をW相アームとする。U相アームのスイッチング素子S1とS4との接続点UにはU相の出力ラインが接続され、V相アームのスイッチング素子S2とS5との接続点VにはV相の出力ラインが接続され、W相アームのスイッチング素子S3とS6との接続点WにはW相の出力ラインが接続されている。
【0030】
接続点Uは、スイッチング素子S7およびS8からなる中間側スイッチを介して、点Oに接続されている。スイッチング素子S7とS8とは、それぞれのコレクタ端子が接続されて、直列接続されている。スイッチング素子S7のエミッタ端子は点Oに接続され、スイッチング素子S8のエミッタ端子は点Uに接続されている。同様に、接続点Vは、スイッチング素子S9およびS10からなる中間側スイッチを介して、点Oに接続されている。スイッチング素子S9とS10とは、それぞれのコレクタ端子が接続され、スイッチング素子S9のエミッタ端子は点Oに接続され、スイッチング素子S10のエミッタ端子は点Vに接続されている。また、接続点Wは、スイッチング素子S11およびS12からなる中間側スイッチを介して、点Oに接続されている。スイッチング素子S11とS12とは、それぞれのコレクタ端子が接続され、スイッチング素子S11のエミッタ端子は点Oに接続され、スイッチング素子S12のエミッタ端子は点Wに接続されている。スイッチング素子S7およびS8は、同じタイミングでオンオフ動作を行い、オン状態のときに点Oと点Uとの接続を導通させ、オフ状態のときに接続を導通させないようにする。同様に、スイッチング素子S9およびS10も、同じタイミングでオンオフ動作を行い、オン状態のときに点Oと点Vとの接続を導通させ、オフ状態のときに接続を導通させないようにする。また、スイッチング素子S11およびS12も、同じタイミングでオンオフ動作を行い、オン状態のときに点Oと点Wとの接続を導通させ、オフ状態のときに接続を導通させないようにする。なお、各中間側スイッチを区別しない場合は、「中間側スイッチSo」と記載する場合がある。スイッチング素子S7およびS8のベース端子、スイッチング素子S9およびS10のベース端子、スイッチング素子S11およびS12のベース端子には、制御回路5から出力されるPWM信号P(Puo,Pvo,Pwo)が、それぞれ入力される。
【0031】
各スイッチング素子S1~S12は、PWM信号Pに基づいて、オン状態とオフ状態とを切り替えられる。正極側スイッチSpがオン状態で負極側スイッチSnおよび中間側スイッチSoがオフ状態の場合、当該相の出力ラインの電位は点Pの電位(すなわち、直流電源1の正極側の電位「E」)となる。負極側スイッチSnがオン状態で正極側スイッチSpおよび中間側スイッチSoがオフ状態の場合、当該相の出力ラインの電位は点Nの電位(すなわち、直流電源1の負極側の電位「0」)となる。また、中間側スイッチSoがオン状態で正極側スイッチSpおよび負極側スイッチSnがオフ状態の場合、当該相の出力ラインの電位は点Oの電位(すなわち、直流電源1の正極側と負極側の中間の電位「(1/2)E」)となる。これにより、各出力ラインから出力される出力相電圧は、直流電源1の正極側の電位「E」、負極側の電位「0」、中間の電位「(1/2)E」の3レベルの電位となる。また、出力ライン間の電圧である出力線間電圧は、5レベルの電位となる。
【0032】
環流ダイオードD1~D12は、スイッチング素子S1~S12のコレクタ端子とエミッタ端子との間に、それぞれ逆並列に接続されている。すなわち、環流ダイオードD1~D12のアノード端子はそれぞれスイッチング素子S1~S12のエミッタ端子に接続され、環流ダイオードD1~D12のカソード端子はそれぞれスイッチング素子S1~S12のコレクタ端子に接続されている。環流ダイオードD1~D12は、スイッチング素子S1~S12の切り替えによって発生する逆起電力による逆方向の高い電圧がスイッチング素子S1~S12に印加されないようにするためのものである。なお、環流ダイオードD1~D12の種類は、限定されない。
【0033】
以上のように構成されたインバータ回路2は、T型NPC(Neutral Point Clamped)方式である。なお、上記したインバータ回路2の構成は、一例であって、3レベルインバータ回路であれば、これに限定されない。例えば、インバータ回路2は、ダイオードクランプ型NPC方式の3レベルインバータ回路であってもよい。ただし、インバータ回路2は、T型NPC方式の3レベルインバータである方が、電流の通過素子数が少なく低損失化が実現でき、且つ必要となるゲート駆動回路(制御回路5)の電源数も低減できる。
【0034】
次に、
図3を参照して、制御回路5の内部構成および詳細な説明を行う。
図3は、制御回路5の内部構成を示すブロック図であって、自立運転時での電圧制御を行う機能ブロック図である。系統連系時での電流制御については、周知手法(例えば特許文献1に記載の手法)が用いられる。
【0035】
制御回路5は、偏り検出部51、目標設定部52、電圧制御部53およびPWM信号生成部54を含む。なお、制御回路5は、過電流、地絡、短絡、単独運転などを検出して、インバータ回路2の運転を停止させる構成や、最大電力点追従のための構成などを適宜有していてもよい。
【0036】
偏り検出部51は、中性点電位の偏りが発生している否かを検出する。本実施形態では、
図3に示すように、偏り検出部51は、差分算出部511および検出判定部512を含む。
【0037】
差分算出部511は、第1電圧検出部71から入力される第1電圧信号と、第2電圧検出部72から入力される第2電圧信号とに基づいて、第1電圧V1と第2電圧V2との電圧差(例えばV1-V2)を算出し、当該電圧差の絶対値を、電圧差分とする。
【0038】
検出判定部512は、差分算出部511が算出した電圧差分(第1電圧V1と第2電圧V2との電圧差の絶対値)が予め設定された閾値(以下「判定閾値」という)以上である場合に、中性点電位に偏りが発生していると判定する。判定閾値は、中性点電位の偏りが発生しているか否かを判定するための閾値であって、インバータ装置A1の仕様等に応じた値であってもよいし、実験的に得られる値であってもよいし、直流電源1の電源電圧または設定目標電圧に応じた値などであってもよい。ただし、判定閾値は、最大差分ΔVmax以下の値が設定される。最大差分ΔVmaxは、インバータ回路2および負荷Lの条件などによって、インバータ装置A1で許容される電圧差分の最大値である。例えば、直流電源1の電源電圧が600Vである例において、最大差分ΔVmaxは60V(直流電源1の電源電圧600Vの10%)であり、判定閾値は30Vである。最大差分ΔVmaxおよび判定閾値は、これらの値に限定されない。偏り検出部51は、中性点電位の偏りを検出すると、偏り検出信号を、電圧制御部53に出力する。当該偏り検出信号は、中性点電位の偏りが発生している時にだけ出力されるものであってもよいし、中性点電位の偏りが発生している旨を示す信号と発生していない旨を示す信号とを含むものであってもよい。
【0039】
目標設定部52には、インバータ装置A1の出力電圧Voutの目標値(目標電圧)が予め記憶されている。本実施形態では、先述の通り、目標電圧は、例えば300Vである。目標設定部52は、記憶される目標電圧を、電圧制御部53に出力する。なお、目標電圧は、インバータ装置A1の利用者によって、任意の値に変更できる構成であってもよい。
【0040】
電圧制御部53は、目標設定部52から入力される目標電圧と、電圧センサ6から入力される出力電圧信号(出力電圧Vout)とを用いて、インバータ回路2を制御するための制御信号を生成する。本実施形態では、インバータ回路2がPWM制御されることから、当該制御信号は、PWM信号Pである。電圧制御部53は、目標補正部531およびフィードバック制御部532を含む。
【0041】
目標補正部531は、偏り検出部51から入力される偏り検出信号に基づいて、目標設定部52から入力される目標電圧を補正する。目標補正部531は、偏り検出信号に基づいて、偏り検出部51が中性点電位に偏りが発生していると判断される場合に、目標電圧を補正する。以下の説明において、目標設定部52が設定した目標電圧を「設定目標電圧」といい、目標補正部531によって補正された目標電圧を「補正目標電圧」という。補正目標電圧は、インバータ装置A1の仕様等に応じた値であってもよいし、実験的に得られる値であってもよいし、直流電源1の電源電圧または設定目標電圧に応じた値などであってもよい。補正目標電圧は、何ら限定されないが、例えば、設定目標電圧(300V)の1/2である150Vである。目標補正部531は、中性点電位の偏りが発生している場合、補正目標電圧を、フィードバック制御部532に出力し、中性点電位の偏りが発生していない場合、設定目標電圧を、フィードバック制御部532に出力する。
【0042】
フィードバック制御部532は、電圧センサ6から入力される出力電圧信号(出力電圧Vout)と、目標補正部531から入力される目標電圧(設定目標電圧あるいは補正目標電圧)との偏差に基づいて、フィードバック制御を行う。つまり、フィードバック制御部532は、中性点電位の偏りが発生している場合、補正目標電圧を用いてフィードバック制御を行い、中性点電位の偏りが発生していない場合、設定目標電圧を用いてフィードバック制御を行う。フィードバック制御部532は、当該フィードバック制御によって、指令値信号を生成する。指令値信号は、インバータ回路2の各スイッチング素子S1~S12のスイッチング(オンとオフとの切り替え)を制御するための信号である。フィードバック制御部532は、生成した指令値信号をPWM信号生成部54に出力する。フィードバック制御部532は、必要に応じて、指令値信号を、増幅して出力してもよいし、インバータ装置A1が出力する相電圧の波形を指令するための信号に変換して出力してもよい。
【0043】
PWM信号生成部54は、その内部で生成される所定の周波数(例えば4kHz)のキャリア信号(例えば三角波信号)と、フィードバック制御部532から入力される指令値信号とに基づいて、PWM信号Pを生成し、インバータ回路2に出力する。PWM信号Pは、スイッチング素子S1のベース端子に入力するPWM信号Pup、スイッチング素子S2のベース端子に入力するPWM信号Pvp、スイッチング素子S3のベース端子に入力するPWM信号Pwp、スイッチング素子S4のベース端子に入力するPWM信号Pun、スイッチング素子S5のベース端子に入力するPWM信号Pvn、スイッチング素子S6のベース端子に入力するPWM信号Pwnを含む。また、PWM信号Pは、スイッチング素子S7とS8の各ベース端子に入力するPWM信号Puo、スイッチング素子S9とS10の各ベース端子に入力するPWM信号Pvo、スイッチング素子S11とS12の各ベース端子に入力するPWM信号Pwoを含む。
【0044】
以上のように構成されたインバータ装置A1における自立運転時の動作例について、説明する。当該動作例においては、先述の数値例を用いて、直流電源1の電源電圧は600Vで、出力電圧Voutの目標値(設定目標電圧)は300Vであるものとする。この場合、中性点電位に偏りが発生していなければ、中性点電位は300Vとなる(すなわち、第1電圧V1は300V、第2電圧V2は300Vである)。また、上記判定閾値は、30Vとする。また、中性点電位の偏りが発生している場合の補正目標電圧(目標補正部531によって補正された目標電圧)を、150Vとする。
【0045】
この例において、インバータ装置A1に励磁突入電流などが発生しなければ(正常な状態であれば)、第1電圧V1と第2電圧V2との電圧差分(電圧差の絶対値)は、上記判定閾値(30V)を超えない。この時、偏り検出部51では、中性点電位の偏りが発生していないと判断され(中性点電位の偏りが検出されず)、目標補正部531からは、設定目標電圧(300V)がフィードバック制御部532に出力される。これにより、制御回路5は、出力電圧Voutが設定目標電圧となるようにインバータ回路2を制御するので、インバータ装置A1からは、300Vの出力電圧Voutが出力される。
【0046】
一方で、インバータ装置A1に励磁突入電流などが発生して、第1電圧V1と第2電圧V2との電圧差分(電圧差の絶対値)が、上記判定閾値(30V)以上となると、偏り検出部51では、中性点電位の偏りが発生していると判断される(中性点電位の偏りを検出する)。よって、目標補正部531は、目標設定部52から入力される目標電圧を補正して、目標補正部531からは、補正目標電圧(150V)がフィードバック制御部532に出力される。これにより、制御回路5は、出力電圧Voutが補正目標電圧となるようにインバータ回路2を制御するための、インバータ装置A1からは、150Vの出力電圧Voutが出力される。
【0047】
このように、励磁突入電流の発生により、中性点電位の偏りが発生すると、制御回路5は、この中性点電位の偏りを検出して、出力電圧Voutを低下させる。出力電圧Voutが低下すると、励磁突入電流による中性点電位の偏りが抑制され、出力電圧Voutに生じうる歪みが抑制される。また、励磁突入電流は、時間経過とともに収束するので、中性点電位の偏りが徐々になくなる。そうすると、第1電圧V1と第2電圧V2の電圧差分が低減するので、第1電圧V1と第2電圧V2との電圧差分が判定閾値未満となる。つまり、制御回路5では、偏り検出部51は、中性点電位の偏りを検出せず、電圧制御部53は、目標電圧を元の値(設定目標電圧)に戻すことになる。これにより、インバータ装置A1の出力電圧Voutが元に戻り、インバータ装置A1は、通常の動作状態に戻る。このように、インバータ装置A1では、中性点電位の偏りが抑制される。なお、偏り検出部51(検出判定部512)において、中性点電位の偏りが発生したと判定する際の判定閾値と、中性点電位の偏りが解消した(発生している状態から発生しなくなった)と判定する際の判定閾値とで、ヒステリシスを設けてもよい。この場合、中性点電位の偏りの検出と未検出とが頻繁に切り替わることが抑制されるので、出力電圧が頻繁な変化することを抑制できる。
【0048】
インバータ装置A1の作用および効果は、次の通りである。
【0049】
インバータ装置A1では、インバータ回路2は、直流電源1の電源電圧を分圧して中性点電位(点Oの電位)を発生させる分圧部21を含み、制御回路5は、中性点電位(点Oの電位)の偏りが発生しているか否かを検出する偏り検出部51を含む。そして、制御回路5は、偏り検出部51によって中性点電位の偏りの発生を検出すると、出力電圧Voutの目標値(目標電圧)を低下させる。この構成によれば、例えば、励磁突入電流の発生によって、中性点電位の偏りが発生した場合には、インバータ装置A1の出力電圧Voutが低下する。これにより、インバータ装置A1は、先述の通り、励磁突入電流による中性点電位の偏りを抑制できる。また、インバータ装置A1は、中性点電位の偏りを抑制できるので、中性点電位の偏りに起因する出力電圧(交流電圧)の歪みが抑制され、過電圧の検知による運転停止やインバータの故障を抑制することができる。したがって、インバータ装置A1は、例えば自立運転中に励磁突入電流が発生して中性点電位の偏りが発生した場合であっても、自立運転を継続できるようになり、負荷Lへの電力供給をより堅牢に行うことが可能となる。
【0050】
インバータ装置A1では、偏り検出部51は、直流電源1の正極の電位(点Pの電位)と中性点電位(点Oの電位)との電位差である第1電圧V1と、中性点電位と直流電源1の負極の電位(点N)との電位差である第2電圧V2との電圧差分(電圧差の絶対値)が、閾値以上となった場合に、中性点電位の偏りを検出する。なお、第1電圧V1は、第1電圧検出部71によって検出され、第2電圧V2は、第2電圧検出部72によって検出される。本実施形態では、分圧部21は、互いに静電容量が同じ2つの分圧用コンデンサC1,C2によって中性点電位を発生させている。この場合、中性点電位の偏りが発生していない場合、中性点電位は、直流電源1の正極の電位と直流電源1の負極の電位との電位差(直流電源1の電源電圧)のちょうど半分となり、第1電圧V1と第2電圧V2とは等しくなる。一方で、中性点電位の偏りが発生していると、第1電圧V1と第2電圧V2とに差が生じる。したがって、インバータ装置A1は、第1電圧V1と第2電圧V2との電圧差分(電圧差の絶対値)を上記判定閾値と比較することで、中性点電位の偏りを検出することができる。
【0051】
上記第1実施形態では、制御回路5(検出判定部512)は、第1電圧V1と第2電圧V2との電圧差分(電圧差の絶対値)に応じて、中性点電位の偏りが発生しているか否かを判定したが、中性点電位の偏りの判定方法は、これに限定されない。例えば、第1電圧V1と第2電圧V2とのいずれか一方に応じて、中性点電位の偏りが発生しているか否かを判定してもよい。
図4は、このような変形例に係るインバータ装置A11を示している。
図4に示すインバータ装置A11は、第2電圧V2に応じて中性点電位の偏りが発生しているか否かを判定する場合を例に説明する。
図4に示すように、インバータ装置A11は、インバータ装置A1と比較して、第1電圧検出部71を備えていない点で異なる。
【0052】
インバータ装置A11では、偏り検出部51は、第2電圧検出部72から第2電圧検出信号が入力され、第2電圧V2に基づいて、中性点電位の偏りを検出する。インバータ装置A11では、例えば、差分算出部511には、中性点電位の基準電位が記憶されている。当該基準電位は、正常時における中性点電位の値であって、本実施形態では、直流電源1の正極(点P)と直流電源1の負極(点N)との電位差(直流電源1の電源電圧)の1/2の値である。差分算出部511は、第2電圧V2と基準電位との差の絶対値を、電圧差分として算出する。検出判定部512は、差分算出部511が算出した電圧差分と、判定閾値とを比較して、電圧差分が判定閾値以上であると、中性点電位の偏りが発生していると判定する。なお、先述の基準電位が300Vとすると、本変形例の判定閾値は15Vである。差分算出部511が算出する電圧差分は、インバータ装置A1では、第1電圧V1と第2電圧V2との電圧差(絶対値)であるのに対して、インバータ装置A11では、第2電圧V2と基準電位との電圧差(絶対値)である。このことから、インバータ装置A11の判定閾値は、インバータ装置A1における判定閾値の半分となる。インバータ装置A11の偏り検出部51は、このように、中性点電位の偏りが発生していると判定する。
【0053】
この例と異なり、インバータ装置A11の偏り検出部51は、次のように中性点電位の偏りを検出してもよい。例えば、第2電圧V2が設定された判定範囲外であると、中性点電位の偏りが発生していると判定してもよい。当該判定範囲は、基準電位±判定閾値で設定される。例えば、先述の基準電位が300Vであり、判定閾値が15Vであるとすると、判定範囲は、285V以上315V以下である。つまり、検出判定部512は、第2電圧V2が285V未満である時か315Vより大きい時に、中性点電位の偏りが発生していると判定してもよい。この例においては、偏り検出部51は、差分算出部511を含んでいなくてもよい。
【0054】
本変形例に係るインバータ装置A11では、偏り検出部51は、第2電圧V2に基づいて、中性点電位の偏りを検出する。この構成によれば、第1電圧V1を検出する第1電圧検出部71が不要となる。したがって、インバータ装置A11は、インバータ装置A1よりも、簡易な構成にできる。
【0055】
上記変形例では、第2電圧V2に応じて中性点電位の偏りが発生しているか否かを判定する場合を例に説明したが、第2電圧V2の代わりに、第1電圧V1に応じて中性点電位の偏りが発生しているか否かを判定することも可能である。
【0056】
図5は、第2実施形態に係るインバータ装置A2を示している。インバータ装置A2は、インバータ装置A1と比較して、偏り検出部51および電圧制御部53の構成が異なる。
【0057】
インバータ装置A2では、偏り検出部51は、中性点電位の偏りの検出に加え、中性点電位の偏り度合を検出する。
図5に示すように、インバータ装置A2の偏り検出部51は、インバータ装置A1の偏り検出部51と比較して、さらに度合判定部513を含む。
【0058】
度合判定部513は、電圧差分から中性点電位の偏り度合を判定する。例えば、度合判定部513は、
図6(a)に示す対応テーブルが記憶されており、差分算出部511が算出した電圧差分の大きさに応じて、偏り度合のレベルを判定する。例えば、度合判定部513は、電圧差分が0V以上30V未満である場合、レベル0と判定し、電圧差分が30V以上40V未満である場合、レベル1と判定し、電圧差分が40V以上50V未満の場合、レベル2と判定し、電圧差分が50V以上の場合、レベル3と判定する。なお、レベル0は、検出判定部512が、中性点電位の偏りが発生していないと判定する電圧差分に対応する。なお、偏り度合のレベルの数、および、各レベルに対応する電圧差分の範囲などは、これらに限定されない。度合判定部513は、判定した偏り度合を電圧制御部53(目標補正部531)に出力する。
【0059】
電圧制御部53において、目標補正部531は、度合判定部513から入力される偏り度合に応じて、目標電圧の補正量(減少量)を変化させる。例えば、目標補正部531には、
図6(b)に示す対応テーブルが記憶されている。目標補正部531は、
図6(b)に示す対応テーブルに基づいて、補正量を決定する。
図6(b)に示す例において、目標補正部531は、偏り度合がレベル0である場合、補正量を0V、すなわち、補正せず設定目標電圧を、フィードバック制御部532に出力する。また、目標補正部531は、偏り度合がレベル1である場合、補正量を-150Vとして、150Vである補正目標電圧を、偏り度合がレベル2である場合、補正量を-200Vとして、100Vの補正目標電圧を、偏り度合がレベル3である場合、補正量を-250Vとして、50Vの補正目標電圧を、フィードバック制御部532に出力する。目標補正部531は、このように、偏り度合が大きい程、出力電圧Voutの目標電圧を大きく低下させる。これにより、インバータ装置A2からは、中性点電位の偏り度合に応じて、出力電圧Voutが低下する。
【0060】
インバータ装置A2では、インバータ装置A1と同様に、制御回路5は、偏り検出部51によって中性点電位の偏りの発生を検出すると、出力電圧Voutの目標電圧を低下させる。したがって、インバータ装置A2は、インバータ装置A1と同様に、中性点電位の偏りを抑制できる。また、インバータ装置A2は、中性点電位の偏りを抑制できるので、中性点電位の偏りに起因する出力電圧(交流電圧)の歪みが抑制され、過電圧の検知による運転停止やインバータの故障を抑制することができる。したがって、インバータ装置A2は、例えば自立運転中に励磁突入電流が発生して中性点電位の偏りが発生した場合であっても、自立運転を継続できるようになり、負荷Lへの電力供給をより堅牢に行うことが可能となる。その他、インバータ装置A2は、インバータ装置A1と共通の構成により、インバータ装置A1と同様の効果を奏する。
【0061】
インバータ装置A2では、制御回路5(目標補正部531)は、中性点電位の偏り度合が大きい程、目標電圧を大きく低下させる。この構成によれば、中性点電位の偏りが大きければ、出力電圧の低下が大きいので、中性点電位の偏りを抑制する効果を高めることができる。一方、中性点電位の偏りが小さければ、出力電圧の低下が小さいので、不必要に出力電圧を低減させることがない。つまり、インバータ装置A2では、中性点電位の偏り抑制の効果を適度に確保しつつ、不必要な出力電圧の低減を抑制することができる。
【0062】
上記第2実施形態では、制御回路5(目標補正部531)は、補正量(減少量)を段階的に変化させる例を示したが、補正量(減少量)の変化方法は、これに限定されない。例えば、制御回路5は、補正量(減少量)を線形的に変化させてもよい。
図7(a)は、このような変形例に係るインバータ装置を説明するための図であって、偏り度合(電圧差分)と目標電圧(補正目標電圧)との関係を示すグラフである。
図7(a)において、横軸は偏り度合(電圧差分)であり、縦軸は目標電圧(補正目標電圧)である。
【0063】
図7(a)に示す例では、次に示すように、偏り度合(電圧差分)に対して、目標電圧が決定する。第1に、偏り度合が0である時(すなわち電圧差分が0Vである時)は、目標電圧の補正量(減少量)が0Vであり、目標電圧は、設定目標電圧Vsetである。第2に、偏り度合(電圧差分)が大きくなるほど、目標電圧の補正量(減少量)が線形的に大きくなり、補正目標電圧が線形的に小さくなっている。第3に、偏り度合(電圧差分)が最大差分ΔVmaxである時に、補正目標電圧が0Vとなる。
【0064】
本変形例に係るインバータ装置では、度合判定部513は、差分算出部511が算出した電圧差分を、偏り度合として、目標補正部531に出力する。目標補正部531には、
図7(a)に示す偏り度合(電圧差分)と目標電圧との関係を表す演算式が記憶されている。目標補正部531は、入力される偏り度合と、当該演算式とにより、目標電圧(補正目標電圧)を算出して、フィードバック制御部532に出力する。具体的には、設定目標電圧Vsetが300Vで、最大差分ΔVmaxが60Vとすると、
図7(a)に示す例では、偏り度合(電圧差分)が10V大きくなる毎に、補正目標電圧は、50Vずつ低下することになる。よって、目標補正部531では、下記(1)式で示す演算式が設定されている。そして、目標補正部531は、差分算出部511から入力される電圧差分を、下記(1)式に代入することで、目標電圧を算出して、フィードバック制御部532に出力する。
目標電圧(補正目標電圧)=-(50/10)×偏り度合+300・・・(1)
【0065】
本変形例に係るインバータ装置では、偏り度合(電圧差分)に応じて、目標電圧の補正量(減少量)が線形的に変化させることができる。これにより、中性点電位の偏り抑制の効果と、不必要な出力電圧の低減の抑制と、のバランスを、より細かく調整することができる。
【0066】
上記変形例において、
図7(a)に示す偏り度合(電圧差分)と目標電圧(補正目標電圧)との関係は、一例であって、これに限定されない。例えば、
図7(b)に示す関係であってもよい。
図7(b)に示す例では、偏り度合(電圧差分)が0から所定の値ΔVxまでは、目標電圧の補正量(減少量)が0V、すなわち、目標電圧として設定目標電圧Vsetを用いる。所定の値ΔVx以降は、偏り度合(電圧差分)が大きくなるほど、目標電圧の補正量(減少量)が線形的に大きくなり、補正目標電圧が線形的に小さくなる。このように、偏り度合(電圧差分)が、ある所定の値(
図7(b)に示す例ではΔVx)までは、目標電圧の補正を行わず、目標電圧が設定目標電圧Vsetとなるように構成されていてもよい。
【0067】
上記第2実施形態(変形例を含む)では、度合判定部513は、差分算出部511が算出した電圧差分から、偏り度合を判定するものとしたが、次のように構成されていてもよい。それは、差分算出部511は、算出した電圧差分をそのまま、目標補正部531に出力する。そして、目標補正部531は、偏り度合の代わりに、入力される電圧差分から、目標電圧の補正量(減少量)を判断して、目標電圧(設定目標電圧または補正目標電圧)を、フィードバック制御部532に出力してもよい。
【0068】
上記第1および第2実施形態では、制御回路5は、主に、第1電圧V1と第2電圧V2との電圧差分(電圧差の差分)によって中性点電位の偏りを検出した場合を例に説明した。この構成と異なり、制御回路5は、中性点電位の偏りを発生させる励磁突入電流の発生を検出して、当該励磁突入電流の発生を検出した際に、中性点電位の偏りが発生したことを検出してもよい。
【0069】
上記第1および第2実施形態では、インバータ回路2は、T型NPC方式の3レベルインバータ回路である例を示したが、3レベルインバータ回路であれば、その方式は、何ら限定されない。例えば、インバータ回路2は、ダイオードクランプ型NPC方式の3レベルインバータ回路であってもよい。ただし、インバータ回路2は、T型NPC方式の3レベルインバータである方が、電流の通過素子数が少なく低損失化が実現でき、且つ必要となるゲート駆動回路(制御回路5)の電源数も低減できる。
【0070】
上記第1および第2実施形態では、インバータ回路2の分圧部21は、互いに静電容量が同じ2つの分圧用コンデンサC1,C2を用いて、直流電源1の電源電圧を分圧した場合を例に説明した。この構成と異なり、2つの分圧用コンデンサC1,C2の静電容量は互いに異なっていてもよい。ただし、この変形例では、中性点電位は、直流電源1の電源電圧の半分にならないので、正常時において、第1電圧V1と第2電圧V2とに所定の偏差がある。よって、この変形例では、第1電圧V1と第2電圧V2との偏差を考慮して、電圧差分を算出する必要がある。詳細には、正常時において、第1電圧V1と第2電圧V2とで、偏差ΔV(=V1-V2)があるとすると、制御回路5(差分算出部511)は、第1電圧V1と第2電圧V2との電圧差(V1-V2)から、偏差ΔVを減算して、その値の絶対値を、電圧差分として算出する。例えば、正常時の第1電圧V1が400V、第2電圧V2が200Vとすると、中性点電位は、200Vであり、偏差ΔVは、200Vである。このとき、中性点電位の偏りにより、第1電圧V1が390V、第2電圧V2が210Vになったとする。この場合、第1電圧V1と第2電圧V2との電圧差V1-V2が180Vであり、当該電圧差から偏差ΔVを減算すると、その値は、-20V(180V-200V)となる。この値の絶対値を、電圧差分として算出するので、制御回路5(差分算出部511)は、電圧差分が20Vであると算出する。このように、本開示のインバータ装置において、2つの分圧用コンデンサC1,C2は、互いに静電容量が同じであるものに限定されない。
【0071】
上記第1および第2実施形態では、インバータ回路2は、3レベルインバータ回路である例を示したが、これに限定されず、3レベル以上の電圧を出力可能なマルチレベルインバータ回路であってもよい。この場合、分圧部21には、レベルの数に応じて、分圧用コンデンサが適宜追加される。この変形例においては、偏り検出部51は、各分圧点(各中性点)の電位のいずれかが当該分圧点の基準電位からずれた場合に、中性点電位の偏りが発生したことを検出すればよい。なお、複数の分圧点のいずれかの電位が直流電源1の電源電圧の1/2となる場合には、この分圧点の電位を基準に、直流電源1の正極との電位差を第1電圧V1とし、直流電源1の負極との電位差を第2電圧V2として、インバータ装置A1,A2と同様に、電圧差分を算出してもよい。
【0072】
上記第1および第2実施形態では、各インバータ装置A1,A2等は、三相交流電力を出力する場合を例に説明したが、これに限定されず、単相交流電力を出力するものであってもよい。
【0073】
本開示に係るインバータ装置は、上記した実施形態に限定されるものではない。本開示のインバータ装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0074】
A1,A11,A2:インバータ装置、1:直流電源、2:インバータ回路、5:制御回路、21:分圧部、51:偏り検出部、511:差分算出部、512:検出判定部、513:度合判定部、53:電圧制御部、531:目標補正部、71:第1電圧検出部、72:第2電圧検出部