(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025156762
(43)【公開日】2025-10-15
(54)【発明の名称】プラズマエッチング装置用パルス電源装置及びバイアス制御方法
(51)【国際特許分類】
H02M 9/02 20060101AFI20251007BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20251007BHJP
【FI】
H02M9/02
H05H1/46 R
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024059401
(22)【出願日】2024-04-02
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】392026888
【氏名又は名称】京都電機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤吉 敏一
(72)【発明者】
【氏名】小西 庸平
【テーマコード(参考)】
2G084
【Fターム(参考)】
2G084AA02
2G084CC13
2G084CC15
2G084CC17
2G084DD38
2G084HH06
2G084HH22
2G084HH26
(57)【要約】
【課題】回路構成及び制御を簡単化しながら良好な転流を実現する。
【解決手段】本発明の一態様は、電圧V3を出力する電圧源13と、電圧V4を出力する電圧源14と、電圧源13と電圧源14を各々出力端10に選択的に結合するスイッチS3、S4と、スイッチS3を介して出力端10と接地端9との間に結合される電流源12と、を備える。制御部は、第2の半波共振によって電圧V1まで下降した電圧をコンデンサ負荷に保持することで出力電圧Vop1を低いレベルに維持した状態で、スイッチS3をオンさせてコンデンサ負荷、インダクタLn等を含む共振ループで第1の半波共振による電流を流すことで出力電圧Vop1を上昇させる。出力電圧Vop1が電圧V5になり、さらに電流源12による直流電流が流れることで電圧V6まで上昇したときスイッチS4をオンさせ、コンデンサ負荷、インダクタLn等を含む共振ループで第2の半波共振による電流を流すことで出力電圧Vop1を電圧V1まで下降させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマエッチング装置において処理対象物を含むプラズマリアクタにバイアスを供給するために、パルス電源装置の出力端にパルス状の電圧波形を形成するバイアス制御方法であって、
所定の電流値を有する直流電流と、接地電位を基準とする、第3の電圧値を有する第3直流電圧と、第4の電圧値を有する第4直流電圧と、を前記出力端に選択的に供給するステップを含み、
a)後記第4ステップにおける半波共振によって前記第3の電圧値及び前記第4の電圧値よりも低い第1の電圧値の電位まで下降した電圧を、プラズマリアクタのコンデンサ負荷に保持することで、前記出力端における出力電圧を低いレベルに維持する第1ステップと、
b)前記第3直流電圧を前記出力端に結合させ、前記コンデンサ負荷と、当該パルス電源装置と前記プラズマリアクタとの間の配線を含むインダクタと、を少なくとも含む共振ループで半波共振による電流を流すことで、前記出力電圧を上昇させる第2ステップと、
c)前記第2ステップにおける電圧上昇によって前記出力電圧が前記第3の電圧値よりも高い所定の第5の電圧値の電位になったときに、前記直流電流を前記出力端に結合し、該直流電流によって前記出力電圧を更に時間経過に伴い直線的に上昇させる第3ステップと、
d)前記第3ステップにおいて前記出力電圧が所定の第6の電圧値の電位まで上昇したあと、前記直流電流に代えて前記第4直流電圧を前記出力端に結合し、前記コンデンサ負荷と前記インダクタとを少なくとも含む共振ループで半波共振による電流を流すことで前記出力電圧を前記第1の電圧値まで下降させる第4ステップと、
を有するプラズマエッチング装置用バイアス制御方法。
【請求項2】
ΔV、Vcをそれぞれ所定の正極性の電圧値としたとき、前記第3の電圧値がΔV/2、前記第4の電圧値が(ΔV-Vc)/2、前記第1の電圧値がΔV、前記第5の電圧値が0、前記第6の電圧値が-Vc、である、請求項1に記載のプラズマ処理装置用バイアス制御方法。
【請求項3】
ΔV、Vcをそれぞれ所定の正極性の電圧値としたとき、前記第3の電圧値が0、前記第4の電圧値が-Vc/2、前記第1の電圧値がΔV/2、前記第5の電圧値が-ΔV/2、前記第6の電圧値が-(ΔV/2)-Vc、である、請求項1に記載のプラズマ処理装置用バイアス制御方法。
【請求項4】
ΔV、Vcをそれぞれ所定の正極性の電圧値としたとき、前記第3の電圧値が-ΔV/2、前記第4の電圧値が-(ΔV+Vc)/2、前記第1の電圧値が0、前記第5の電圧値が-ΔV、前記第6の電圧値が-ΔV-Vc、である、請求項1に記載のプラズマ処理装置用バイアス制御方法。
【請求項5】
プラズマエッチング装置において処理対象物を含むプラズマリアクタにバイアスを供給するために、配線を介して前記プラズマリアクタに接続される出力端と接地端との間にパルス状の電圧波形を形成するパルス電源装置であって、
a)接地電位を基準とする、第3の電圧値を有する第3直流電圧を生成する第3電圧源と、
b)接地電位を基準とする、第4の電圧値を有する第4直流電圧を生成する第4電圧源と、
c)前記第3電圧源を前記出力端に結合する第3スイッチと、
d)前記第4電圧源を前記出力端に結合する第4スイッチと、
e)電流の流入端と流出端とを有し、前記第3スイッチを介して前記出力端に前記流入端が結合される一方、前記流出端が前記接地端に結合され、所定の電流値の直流電流を供給する電流源と、
f)前記電流源に並列に接続された第5スイッチと、
g)前記第3スイッチと前記第3電圧源又は該第3電圧源と前記接地端との間に配置され、該接地端側から前記第3スイッチ側への電流の流れを阻止する逆阻止用の第3ダイオードと、
h)前記第4スイッチ及び前記第4電圧源に直列に接続され、前記出力端から前記接地端側への電流の流れを阻止する逆阻止用の第4ダイオードと、
i)前記電流源の流入端と前記第3スイッチとの間に配置され、該電流源から該第3スイッチ側への電流の流れを阻止する逆阻止用の第2ダイオードと、
j)後記第2の半波共振によって前記第3の電圧値及び前記第4の電圧値よりも低い第1の電圧値の電位まで下降した電圧を前記プラズマリアクタのコンデンサ負荷に保持することで、前記出力端における出力電圧を低いレベルに維持した状態で、前記第3スイッチをオンさせて前記第3電圧源を前記出力端に結合させることで、前記コンデンサ負荷と前記配線を含むインダクタとを少なくとも含む共振ループで第1の半波共振による電流を流すことで、前記出力電圧を上昇させ、その電圧上昇によって前記出力電圧が前記第3の電圧値よりも高い所定の第5の電圧値の電位になり、さらに前記第3ダイオードが導通状態から逆阻止状態へ変化することにより前記第2ダイオードを経た前記電流源による直流電流が負荷に流れることで前記出力電圧が所定の第6の電圧値の電位まで上昇したとき、前記第4スイッチをオンさせて前記第4電圧源を前記出力端に結合し、前記コンデンサ負荷と前記インダクタとを少なくとも含み、前記第4ダイオードを含む共振ループで第2の半波共振による電流を流すことで前記出力電圧を前記第1の電圧値まで下降させるとともに、前記第2の半波共振による電流を流しているときに前記第5スイッチをオンし、該第5スイッチを通して前記電流源による電流を還流させるべく、前記第3スイッチ、前記第4スイッチ、及び前記第5スイッチのオンオフ動作をそれぞれ制御する制御部と、
を備えるプラズマ処理装置用パルス電源装置。
【請求項6】
前記第3の電圧値が0である場合であって、前記第5スイッチは半導体スイッチング素子であり、前記第3ダイオードの作用を前記第2ダイオードと前記第5スイッチの寄生ダイオードとの直列回路で代用させることで、該第3ダイオードを通した電流の経路を省略した、請求項5に記載のプラズマ処理装置用パルス電源装置。
【請求項7】
プラズマエッチング装置において処理対象物を含むプラズマリアクタにバイアスを供給するために、配線を介して前記プラズマリアクタに接続される出力端と接地端との間にパルス状の電圧波形を形成するパルス電源装置であって、
a)接地電位を基準とする、第3の電圧値を有する第3直流電圧を生成する第3電圧源と、
b)接地電位を基準とする、第4の電圧値を有する第4直流電圧を生成する第4電圧源と、
c)前記第3電圧源を前記出力端に結合する第3スイッチと、
d)前記第4電圧源を前記出力端に結合する第4スイッチと、
e)電流の流入端と流出端とを有し、前記第3スイッチを介して前記出力端に前記流入端が結合される一方、前記流出端が前記接地端に結合され、所定の電流値の直流電流を供給する電流源であって、前記流出端側の電圧源と前記流入端側のインダクタとが直列に接続されてなる電流源と、
f)前記第3スイッチと前記第3電圧源又は該第3電圧源と前記接地端との間に配置され、該接地端側から前記第3スイッチ側への電流の流れを阻止する逆阻止用の第3ダイオードと、
g)前記第4スイッチ及び前記第4電圧源に直列に接続され、前記出力端から前記接地端側への電流の流れを阻止する逆阻止用の第4ダイオードと、
h)前記電流源を構成する前記インダクタに並列に接続された、第5スイッチと前記出力端側から前記接地端へ向かう方向の電流の流れを阻止する逆阻止用の第2ダイオードとが直列に接続された直列回路と、
i)後記第2の半波共振によって前記第3の電圧値及び前記第4の電圧値よりも低い第1の電圧値の電位まで下降した電圧を前記プラズマリアクタのコンデンサ負荷に保持することで、前記出力端における出力電圧を低いレベルに維持した状態で、前記第3スイッチをオンさせて前記第3電圧源を前記出力端に結合させることで、前記コンデンサ負荷と前記配線を含むインダクタとを少なくとも含む共振ループで第1の半波共振による電流を流すことで、前記出力電圧を上昇させ、その電圧上昇によって前記出力電圧が前記第3の電圧値よりも高い所定の第5の電圧値の電位になり、さらに前記第3ダイオードが導通状態から逆阻止状態へ変化することにより前記電流源による直流電流が負荷に流れることで前記出力電圧が所定の第6の電圧値の電位まで上昇したとき、前記第4スイッチをオンさせて前記第4電圧源を前記出力端に結合し、前記コンデンサ負荷と前記インダクタとを少なくとも含み、前記第4ダイオードを含む共振ループで第2の半波共振による電流を流すことで前記出力電圧を前記第1の電圧値まで下降させるとともに、前記第2の半波共振による電流を流しているときに前記第5スイッチをオンし、該第5スイッチを通して前記電流源による電流を還流させるべく、前記第3スイッチ、前記第4スイッチ、及び前記第5スイッチのオンオフ動作をそれぞれ制御する制御部と、
を備えるプラズマ処理装置用パルス電源装置。
【請求項8】
前記電流源と並列に高速定電流電源を備える、請求項5~7のいずれか1項に記載のプラズマ処理装置用パルス電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造等のためのプラズマエッチング装置に用いられるパルス電源装置及びそのバイアスの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程では、プラズマを利用して半導体基板に対するエッチング処理を行うプラズマエッチング装置が広く用いられている。反応性イオンエッチング装置では一般に、チャンバ内で高周波誘導結合方式や電子サイクロトロン共鳴方式などによってエッチングガスからプラズマを生成すると共に、該チャンバ内に設置した基板に高周波電圧等のバイアス電圧を印加する。これにより、基板とプラズマとの間に自己バイアス電位が生じ、プラズマ中のイオン種やラジカル種が基板に向かって加速され、その表面に衝突してエッチングが行われる。
【0003】
プラズマエッチング装置において精度の良いエッチングを行うには、基板表面におけるイオンエネルギ分布(Ion Energy Distribution:IED)を適切に制御することが重要である。一般に、基板表面のIEDは、そのピーク幅ができるだけ狭い単一なIEDが望ましいとされている。そうしたIEDを実現するには、基板表面電圧をほぼ一定とする必要があるが、プラズマに由来するイオン電流は誘電性の基板の表面を常に帯電させるため、たとえ一定の電圧を基板に印加しても基板表面電圧は一定とならない。これに対し、特許文献1に記載の従来のパルス電源装置では、処理期間中に直流電流を供給することでイオン電流を補償し、基板表面電圧を略一定にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の従来のパルス電源装置は、一定の直流電流を供給するための電流源のほか、基板によるコンデンサや浮遊コンデンサの充放電を促進させる転流動作時の充電補助用の電圧源を備える。また、このパルス電源装置は、基板コンデンサ等を含むコンデンサと配線等による浮遊インダクタとのLC直列回路に充電補助電圧の略1/2の電圧を予め印加する共振転流手段を備えており、これによって、転流動作時における損失の低減とバイアスの波形改善とを図っている。
【0006】
しかしながら、上記従来のパルス電源装置は、電流源を形成するための電圧源、充電補助用の電圧源に加えて、パルスオンの転流時及びパルスオフの転流時のために電圧源をそれぞれ追加的に有し、それら電圧源をそれぞれ出力に接続するためのスイッチも必要である。そのため、回路の規模が大きく、それだけコストが高くなる。また、多数のスイッチのオンオフ動作をそれぞれ制御する必要があり、半波共振期間の正確な管理を必要とするために制御が複雑である。
【0007】
なお、一般に、プラズマエッチング装置におけるパルスバイアス電圧の波形は、負の方向(通常の波形図では下方向)に電圧が変化する負極性のパルス波形であり、その負極性のパルス波形の頂部において実質的なエッチング処理が行われる。そこで、本明細書中では、パルス波形において、そのエッチング処理が行われるパルス波形の頂部に向かう電圧の変化(負方向への変化)を電圧の上昇(又は増加)、逆に、エッチング処理が行われるパルス波形の頂部から正方向への電圧の変化を電圧の降下(又は下降、減少)ということとする。また、この電圧の上昇又は降下に合わせて電圧の高低の関係を定義するものとする(つまり、或る電圧Aから他の電圧Bへ電圧が上昇する場合、電圧Aは電圧Bよりも低い(逆に電圧Bは電圧Aよりも高い)と表現する)。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、回路構成や制御を簡素化しつつ、良好な波形形状のパルスバイアスを基板等に与えることができるプラズマエッチング装置用のパルス電源装置、及びそのバイアス制御方法を提供する
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るバイアス制御方法の一態様は、プラズマエッチング装置において処理対象物を含むプラズマリアクタ(Pr)にバイアスを供給するために、パルス電源装置の出力端にパルス状の電圧波形を形成するバイアス制御方法であって、
所定の電流値を有する直流電流と、接地電位を基準とする、第3の電圧値(V3)を有する第3直流電圧と、第4の電圧値(V4)を有する第4直流電圧と、を前記出力端に選択的に供給するステップを含み、
a)後記第4ステップにおける半波共振によって前記第3の電圧値(V3)及び前記第4の電圧値(V4)よりも低い第1の電圧値(V1)の電位まで下降した電圧を、プラズマリアクタのコンデンサ負荷に保持することで、前記出力端における出力電圧を低いレベルに維持する第1ステップと、
b)前記第3直流電圧を前記出力端に結合させ、前記コンデンサ負荷と、当該パルス電源装置と前記プラズマリアクタとの間の配線を含むインダクタと、を少なくとも含む共振ループで半波共振による電流を流すことで、前記出力電圧を上昇させる第2ステップと、
c)前記第2ステップにおける電圧上昇によって前記出力電圧が前記第3の電圧値(V3)よりも高い所定の第5電圧値(V5)である電位になったときに、前記直流電流を前記出力端に結合し、該直流電流によって前記出力電圧を更に時間経過に伴い直線的に上昇させる第3ステップと、
d)前記第3ステップにおいて前記出力電圧が所定の第6電圧値(V6)である電位まで上昇したあと、前記直流電流に代えて前記第4直流電圧を前記出力端に結合し、前記コンデンサ負荷と前記インダクタとを少なくとも含む共振ループで半波共振による電流を流すことで前記出力電圧を前記第1の電圧値まで下降させる第4ステップと、
を有する。
【0010】
本発明に係るバイアス制御方法の上記態様では、一例として、ΔV、Vcをそれぞれ所定の正極性の電圧値としたとき、前記第3の電圧値(V3)がΔV/2、前記第4の電圧(V4)値が(ΔV-Vc)/2、前記第1の電圧値(V1)がΔV、前記第5の電圧値(V5)が0、前記第6の電圧値(V6)が-Vc、であるものとすることができる。
【0011】
本発明に係るバイアス制御方法の上記態様では、他の例として、ΔV、Vcをそれぞれ所定の正極性の電圧値としたとき、前記第3の電圧値(V3)が0、前記第4の電圧値(V4)が-Vc/2、前記第1の電圧値(V1)がΔV/2、前記第5の電圧値(V5)が-ΔV/2、前記第6の電圧値(V6)が-(ΔV/2)-Vc、であるものとすることができる。
【0012】
本発明に係るバイアス制御方法の上記態様では、さらに他の例として、ΔV、Vcをそれぞれ所定の正極性の電圧値としたとき、前記第3の電圧値(V3)が-ΔV/2、前記第4の電圧値(V4)が-(ΔV+Vc)/2、前記第1の電圧値(V1)が0、前記第5の電圧値(V5)が-ΔV、前記第6の電圧値(V6)が-ΔV-Vc、であるものとすることができる。
【0013】
また、本発明に係るプラズマ処理装置用パルス電源装置の一態様は、上記態様のバイアス制御方法を具現化するための装置であり、プラズマエッチング装置において処理対象物を含むプラズマリアクタ(Pr)にバイアスを供給するために、配線を介して前記プラズマリアクタに接続される出力端(10)と接地端(9)との間にパルス状の電圧波形を形成するパルス電源装置であって、
a)接地電位を基準とする、第3の電圧値(V3)を有する第3直流電圧を生成する第3電圧源(13)と、
b)接地電位を基準とする、第4の電圧値(V4)を有する第4直流電圧を生成する第4電圧源(14)と、
c)前記第3電圧源を前記出力端に結合する第3スイッチ(S3)と、
d)前記第4電圧源を前記出力端に結合する第4スイッチ(S4)と、
e)電流の流入端と流出端とを有し、前記第3スイッチを介して前記出力端に前記流入端が結合される一方、前記流出端が前記接地端に結合され、所定の電流値の直流電流を供給する電流源(12)と、
f)前記電流源に並列に接続された第5スイッチ(S5)と、
g)前記第3スイッチと前記第3電圧源又は該第3電圧源と前記接地端との間に配置され、該接地端側から前記第3スイッチ側への電流の流れを阻止する逆阻止用の第3ダイオード(Da)と、
h)前記第4スイッチ及び前記第4電圧源に直列に接続され、前記出力端から前記接地端側への電流の流れを阻止する逆阻止用の第4ダイオード(Db)と、
i)前記電流源の流入端と前記第3スイッチとの間に配置され、該電流源から該第3スイッチ側への電流の流れを阻止する逆阻止用の第2ダイオード(Dc)と、
j)後記第2の半波共振によって前記第3の電圧値及び前記第4の電圧値よりも低い第1の電圧値の電位まで下降した電圧を前記プラズマリアクタのコンデンサ負荷に保持することで、前記出力端における出力電圧を低いレベルに維持した状態で、前記第3スイッチをオンさせて前記第3電圧源を前記出力端に結合させることで、前記コンデンサ負荷と前記配線を含むインダクタとを少なくとも含む共振ループで第1の半波共振による電流を流すことで、前記出力電圧を上昇させ、その電圧上昇によって前記出力電圧が前記第3の電圧値よりも高い所定の第5の電圧値の電位になり、さらに前記第3ダイオードが導通状態から逆阻止状態へ変化することにより前記第2ダイオードを経た前記電流源による直流電流が負荷に流れることで前記出力電圧が所定の第6の電圧値の電位まで上昇したとき、前記第4スイッチをオンさせて前記第4電圧源を前記出力端に結合し、前記コンデンサ負荷と前記インダクタとを少なくとも含み、前記第4ダイオードを含む共振ループで第2の半波共振による電流を流すことで前記出力電圧を前記第1の電圧値まで下降させるとともに、前記第2の半波共振による電流を流しているときに前記第5スイッチをオンし、該第5スイッチを通して前記電流源による電流を還流させるべく、前記第3スイッチ、前記第4スイッチ、及び前記第5スイッチのオンオフ動作をそれぞれ制御する制御部(20)と、
を備える。
【0014】
なお、上記態様のプラズマ処理装置用パルス電源装置では、前記第3の電圧値が0である場合であって、前記第5スイッチは半導体スイッチング素子であり、前記第3ダイオードの作用を前記第2ダイオードと前記第5スイッチの寄生ダイオードとの直列回路で代用させることで、該第3ダイオードを通した電流の経路を省略した構成とすることができる。
【0015】
また、本発明に係るプラズマ処理装置用パルス電源装置の他の態様は、プラズマエッチング装置において処理対象物を含むプラズマリアクタにバイアスを供給するために、配線を介して前記プラズマリアクタに接続される出力端と接地端との間にパルス状の電圧波形を形成するパルス電源装置であって、
a)接地電位を基準とする、第3の電圧値を有する第3直流電圧を生成する第3電圧源と、
b)接地電位を基準とする、第4の電圧値を有する第4直流電圧を生成する第4電圧源と、
c)前記第3電圧源を前記出力端に結合する第3スイッチと、
d)前記第4電圧源を前記出力端に結合する第4スイッチと、
e)電流の流入端と流出端とを有し、前記第3スイッチを介して前記出力端に前記流入端が結合される一方、前記流出端が前記接地端に結合され、所定の電流値の直流電流を供給する電流源であって、前記流出端側の電圧源と前記流入端側のインダクタとが直列に接続されてなる電流源と、
f)前記第3スイッチと前記第3電圧源又は該第3電圧源と前記接地端との間に配置され、該接地端側から前記第3スイッチ側への電流の流れを阻止する逆阻止用の第3ダイオードと、
g)前記第4スイッチ及び前記第4電圧源に直列に接続され、前記出力端から前記接地端側への電流の流れを阻止する逆阻止用の第4ダイオードと、
h)前記電流源を構成する前記インダクタに並列に接続された、第5スイッチと前記出力端側から前記接地端へ向かう方向の電流の流れを阻止する逆阻止用の第2ダイオードとが直列に接続された直列回路と、
i)後記第2の半波共振によって前記第3の電圧値及び前記第4の電圧値よりも低い第1の電圧値の電位まで下降した電圧を前記プラズマリアクタのコンデンサ負荷に保持することで、前記出力端における出力電圧を低いレベルに維持した状態で、前記第3スイッチをオンさせて前記第3電圧源を前記出力端に結合させることで、前記コンデンサ負荷と前記配線を含むインダクタとを少なくとも含む共振ループで第1の半波共振による電流を流すことで、前記出力電圧を上昇させ、その電圧上昇によって前記出力電圧が前記第3の電圧値よりも高い所定の第5の電圧値の電位になり、さらに前記第3ダイオードが導通状態から逆阻止状態へ変化することにより前記電流源による直流電流が負荷に流れることで前記出力電圧が所定の第6の電圧値の電位まで上昇したとき、前記第4スイッチをオンさせて前記第4電圧源を前記出力端に結合し、前記コンデンサ負荷と前記インダクタとを少なくとも含み、前記第4ダイオードを含む共振ループで第2の半波共振による電流を流すことで前記出力電圧を前記第1の電圧値まで下降させるとともに、前記第2の半波共振による電流を流しているときに前記第5スイッチをオンし、該第5スイッチを通して前記電流源による電流を還流させるべく、前記第3スイッチ、前記第4スイッチ、及び前記第5スイッチのオンオフ動作をそれぞれ制御する制御部と、
を備える。
【0016】
上記態様のプラズマ処理装置用パルス電源装置のいずれにおいても、前記電流源と並列に高速定電流電源を備える構成とすることができる。
【0017】
なお、ここでいう「接地電位を基準とする」との記載における「接地電位」は必ずしも厳密に0Vを意味するものでないことは、当業者には明らかである。例えば、この種の装置では、接地端又は出力端(通常は低電圧側である接地端)に繋がる線路上に直列に限流抵抗(制限抵抗)を挿入する場合がしばしばある。その場合、その限流抵抗による電圧降下があるため、接地端の電位が接地電位(0V)であったとしても、接地端とは反対側の限流抵抗の端部における電位は当然0Vとはならないが、この電位を装置内部では基準とすることになる。
【発明の効果】
【0018】
特許文献1に記載の従来のパルス電源装置では、本発明に係るバイアス制御方法の上記態様における第1ステップに対応するステップにおいて、コンデンサ負荷の電圧を第1の電圧値に維持するための電圧源と、該電圧源を出力端に接続するためのスイッチを設けていた。これに対し、本発明者は、一般的にプラズマ処理装置におけるバイアス用パルス電源装置に用いられるパルス周波数では、上記第1ステップにおいてコンデンサ負荷に蓄積されている電荷による電圧の低下が実質的に無視できる程度に小さいことに着目し、コンデンサ負荷の電圧を維持するための電圧源とそれに対応するスイッチを使用せずに、第4ステップから第1ステップに移行する際における電圧や電流の振動を抑えた良好な転流を実現する構成に想到した。
【0019】
また、上述した従来のパルス電源装置では、電流源を出力端に結合するスイッチを設け、本発明に係るバイアス制御方法の上記態様における第3ステップに対応するステップにおいて、該スイッチをオンさせることで電流源を出力端に接続していた。これに対し、本発明者は、第1の半波共振電流を流す逆阻止用ダイオードが導通状態と阻止状態とで切り替わり得ることを利用し、並列に接続されている電流源の電流経路を、該ダイオードの逆流による短絡と負荷(出力端)との2経路に対し選択スイッチ無く切り替えることで、従来のパルス電源装置において電流源を出力端に接続するスイッチと第3電圧源を出力端に結合するスイッチとを兼ねる構成に想到した。これにより、第2ステップから第3ステップに移行する際にも電圧や電流の振動を抑えた良好な転流を実現することが可能となった。
【0020】
このようにして本発明によれば、従来のパルス電源装置に比べて、電圧源やスイッチ等のデバイスを減らして回路構成を簡素化しながら、さらには、半波共振の期間とスイッチの切替えタイミングとを一致させる煩雑な制御を省略しながら、良好な波形形状のパルスバイアスを処理対象物に与えることができる。これによって、基板等の処理対象物に対するエッチング処理を良好に達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係るパルス電源装置を含むプラズマエッチング装置の全体構成の一例を示す概念図。
【
図2】プラズマリアクタPrの電気的な簡易等価回路を示す図。
【
図3】基板表面電圧Vsub、出力電圧Vop1、及びステージ電圧Vop2の電圧波形の一例を示す図。
【
図4】本発明の第1実施形態であるパルス電源部の原理的な回路図。
【
図5】本発明の第2実施形態であるパルス電源部の原理的な回路図。
【
図6】本発明の第3実施形態であるパルス電源部の原理的な回路図。
【
図7】
図5に示した第2実施形態であるパルス電源部の実用的な概略回路図。
【
図8】
図7に示した構成の変形例による概略回路図。
【
図9】第2実施形態のパルス電源部における過渡的な状態での出力電圧と基板表面電圧の波形形状の一例を示す図。
【
図10】第2実施形態のパルス電源部における転流期間Taの各部の波形の一例を示す図。
【
図11】第2実施形態のパルス電源部における転流期間Tbの各部の波形の一例を示す図。
【
図12】第2実施形態のパルス電源部における転流期間Ta(t0~t1)の電流経路を示す概略図。
【
図13】第2実施形態のパルス電源部における転流期間Taを除くエッチング処理期間Tp(t1~t2)の電流経路を示す概略図。
【
図14】第2実施形態のパルス電源部における転流期間Tb(t2~t3)の電流経路を示す概略図。
【
図15】第2実施形態のパルス電源部における転流期間Tb(t3~t4)の電流経路を示す概略図。
【
図16】第2実施形態のパルス電源部における転流期間Tb(t4~t5)の電流経路を示す概略図。
【
図17】第2実施形態のパルス電源部における転流期間Tbを除く放電期間Td(t5~t0)の電流経路を示す概略図。
【
図18】一変形例であるパルス電源部の概略回路図。
【
図19】他の変形例であるパルス電源部の概略回路図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[プラズマエッチング装置の構成]
図1は、本発明に係るパルス電源装置を用いたプラズマエッチング装置の全体構成を示す典型的な一例を示す概念図である。
図1に示すように、このプラズマエッチング装置は、プロセス制御部1、イオン源用プラズマ電源部2、バイアス用パルス電源部3、及び、処理室4、を備える。
【0023】
図示しないが、処理室4は、イオン源用プラズマ電源部2から供給される電力を受け、例えば誘導性結合プラズマ(ICP)、電子サイクロン共振(ECR)プラズマ、ヘリコン波プラズマ(HWP)などの様々な方式によって、導入されたエッチングガスからプラズマ5を生成するイオン源、を備える。
【0024】
一方、バイアス用パルス電源部3は、プラズマ5中のイオンに運動エネルギを与えて引き付けるために、処理対象である基板6にパルス状のバイアスを与えるものである。誘電性の基板6の表面6aにおいて所望の(通常は幅狭の単一の)IEDを得るために、バイアス用パルス電源部3は、所定の処理期間中に基板6の表面6aにおける電圧値が略一定となるように、ステージ7を介して基板6に電流を供給する。本プラズマエッチング装置では、イオン源用プラズマ電源部2とバイアス用パルス電源部3とを別々に設け、プロセス制御部1が各電源部2、3を独立に制御することで、エッチングプロセスの自由度を高めている。なお、以下の説明では、慣用に従い、プラズマ5を含む処理室4全体をプラズマリアクタPrという。
【0025】
[プラズマリアクタPrの等価回路]
図2は、バイアス用パルス電源部3の負荷であるプラズマリアクタPrの電気的な簡易等価回路を中心として示す図である。この
図2では、プラズマリアクタPrにおける基板側イオンシースの等価回路と壁側イオンシースの等価回路とを合成すると共に、その一部を省略して記載している。
【0026】
図2において、Rpはイオンシースの直流抵抗(以下「シース抵抗」という)、Cpは誘導性である基板6のコンデンサ(以下「基板コンデンサ」という)、Dpはイオンシースの整流作用による等価的なダイオード(以下「シースダイオード」という)、Csはイオンシースのコンデンサ(以下「シースコンデンサ」という)、Zpはプラズマバルク抵抗(以下「プラズマ抵抗」という)、Cnは総合浮遊接地間コンデンサ(以下「浮遊コンデンサ」という)である。また、Lnは主としてパルス電源部3とプラズマリアクタPrとを繋ぐ配線に起因するインダクタ(以下「配線インダクタ」という)、Cbは該配線上に設けられるブロッキングコンデンサである。
【0027】
図2では、プラズマ中のイオンと電子の移動度との差に起因したイオンシースの整流作用が、シースダイオードDpとシース抵抗Rpとの並列回路によって表されている。シース抵抗Rpはイオン電流に、またシースダイオードDpの順抵抗は電子電流に、それぞれ直流抵抗として対応する。また、これらにシースコンデンサCsを加えた3つの素子が並列に接続されている。この並列回路の一端にプラズマ抵抗Zpが、他端に基板コンデンサCpがそれぞれ接続され、加えて、この直列回路の両端に浮遊コンデンサCnが接続されている。プラズマ抵抗Zpと浮遊コンデンサCnとの接続点は、パルス電源部3の接地端9に接続されるとともに接地され、基板コンデンサCpと浮遊コンデンサCnとの接続点は、ブロッキングコンデンサCbと配線インダクタLnとの直列回路を介してパルス電源部3の出力端10に接続されている。
【0028】
基板6の表面6aは、シースダイオードDp、シース抵抗Rp、及びシースコンデンサCsの並列回路の他端と基板コンデンサCpとの接続点であり、この接続点と接地との間に生成される電圧が基板表面電圧Vsubである。浮遊コンデンサCn、基板コンデンサCp、及びシースコンデンサCsはコンデンサ負荷を形成するが、典型的な一例として、その容量比は、Cn≒5・Cp、Cp≒20・Cs、である。通常、シースコンデンサCsの容量は相対的に顕著に小さいため、シースコンデンサCsは回路動作のうえで実質的に無視することができる。それ故に、
図2ではシースコンデンサCsの接続線を破線で示している。
【0029】
なお、以下の説明において、各構成要素を示す符号や特定の部位の電圧や電流を特定するための符号は、その構成要素等自体の持つパラメータの数値を表す符号としても用いられる。例えば、特定のコンデンサを示す符号、例えば後述のCpは、そのコンデンサが有する容量値を示す符号としても用いられ、特定の位置における電圧を示す符号、例えばVop1は、その電圧の電圧値を示す符号としても用いられる。
【0030】
[基板表面電圧Vsub及び出力電圧Vop1の波形形状]
図3は、
図2中に示す基板表面電圧Vsub、出力電圧Vop1、ステージ電圧Vop2の波形の一例を示す図である。基板表面電圧Vsubは前述のように、基板6の表面6aと接地との間に生成される電圧である。出力電圧Vop1は、パルス電源部3からの出力によって、出力端10に接続された配線インダクタLnとブロッキングコンデンサCbとの接続点と接地との間に生成される電圧である。また、ステージ電圧Vop2は、ステージ7と接地との間に生成される電圧である。
【0031】
図3(b1)~(b3)に示す出力電圧Vop1は、後述する
図4~
図6に記載のそれぞれ異なる第1乃至第3の実施形態のパルス電源部3における出力電圧Vop1である。また、
図3(b1)~(b3)の右側に示した括弧[ ]内の数字は、
図4~
図6に示した各実施形態のパルス電源部の概略回路図において、波形図中に示す電圧を生成する電圧源を示す符号に対応している。
【0032】
図3中、期間Tはパルス波形の一周期期間であり、エッチング処理時には、こうしたパルス状のバイアスが繰り返し基板6に与えられる。パルス波形の繰り返し周波数は適宜に定められるが、一例として繰り返し周波数は数百kHzであり、例えばその周波数が400kHzであるとき期間Tは2.5μsである。この期間Tの中で、期間Taを除くTpが基板6に対する実質的なエッチング処理が実施されるエッチング処理期間である。一般に、上述したように基板6上において幅狭の単一IEDが要求される場合、基板表面電圧Vsubは、
図3(a)に示すように、エッチング処理期間において或る一定の電圧値に維持されることが必要である。
【0033】
時間的に隣接する2つのエッチング処理期間Tpの間には、エッチング処理の際に基板コンデンサCp及び浮遊コンデンサCnに蓄積された電荷を放電するための放電期間Tdが設けられる。また、Taは、放電期間Tdが終了してからエッチング処理期間Tpへ遷移する転流期間であり、一方、Tbはそのエッチング処理期間Tpが終了してから放電期間Tdへ遷移する転流期間である。上述したように、T=2.5μsである場合、エッチング処理期間Tpの最大デューティ比が80%であるとすると、Tp=2μs、Td=0.5μsである。期間Tを一定に保ったまま、つまり繰り返し周波数が一定である下で、エッチング効率を高めるべく幅狭の単一IEDのための有効なエッチング処理期間Tpの幅を広げるには、転流期間Ta、Tbをできるだけ短くすることが望ましい。
【0034】
上述したように、転流期間Taを除くエッチング処理期間Tpの間で基板表面電圧Vsubが一定電圧に保たれるようにするために、このパルス電源部3では、その期間Tpにおいて、基板コンデンサCpに流れる電流Icpを一定の負パルス電流とする。この期間Tpの出力電圧Vop1の波形は、出力電流Io(=Ic)によるコンデンサ負荷電圧の増加変化値Vc≒Ic・t/(Cp+Cn)と、パルスオン時に転流期間Ta中に急速に基板表面電圧Vsubの電圧値を得るための充電補助電圧変化値ΔV≒Vsub(共に電位差)と、が合成されたものとなる。前者は、期間Tp中に、略一定傾斜のランプ状の波形となる。
【0035】
本発明に係る第1乃至第3実施形態のパルス電源部では、時刻t5における出力電圧Vop1の電圧値が、基板コンデンサCpと浮遊コンデンサCnとを合成したコンデンサ負荷Creに蓄積された電荷による電圧V1である。この電圧V1の電圧値が+ΔVであるものが
図3(b1)に示す第1実施形態のパルス電源部による出力電圧Vop1、この電圧V1の電圧値が+ΔV/2であるものが
図3(b2)に示す第2実施形態のパルス電源部による出力電圧Vop1、この電圧V1の電圧値が0であるものが
図3(b3)に示す第3実施形態のパルス電源部による出力電圧Vop1である。
【0036】
基板表面電圧Vsubは、基板コンデンサCpに流れる電流Icpによるシース抵抗Rp及びプラズマ抵抗Zpの降下電圧で表され(但し、シースダイオードDpの順抵抗はゼロ、逆抵抗は∞であるとする)、転流期間Taを除くエッチング処理期間Tpには、電流Icpが一定である下で、Vsub=-Icp・(Rp+Zp)である。また、放電期間TdにおいてシースダイオードDpが導通した後には、Vsub=Icp・Zpである。プラズマ抵抗Zpの抵抗値はたかだか数Ωと小さく、電流Icpによって基板コンデンサCpの蓄積電荷は急速に放電され得る。エッチング処理期間Tpにパルス電源部から出力される電流Ioは
図2に示すようにIcnとIcpとに分流し、Icp≒-Io・Cp/(Cp+Cn)となる。
【0037】
後述する第2実施形態のパルス電源部3では、転流期間Tbを除く放電期間Tdにおける出力電圧Vop1はV1=+ΔV/2である。パルス電源部3における具体的な動作は後述するが、転流期間Taには、半波共振電流をコンデンサ負荷Creに流すことで該コンデンサ負荷を急速に充電する。これにより、出力電圧Vop1は+ΔV/2から-ΔV/2まで急速に上昇する。他方、転流期間Tbには、半波共振電流をコンデンサ負荷Creから流すことで該コンデンサを急速に放電させる。これにより、出力電圧Vop1は-ΔV/2-Vcから+ΔV/2まで急速に下降する。その結果として、出力電圧Vop1は
図3(b2)に示すような形状となる。
【0038】
ステージ電圧Vop2は、ブロッキングコンデンサCbにより直流的に浮動0電位が与えられた出力電圧Vop1の波形が、基板表面電圧Vsubの平均電圧である直流電圧分だけ負方向(又は正方向)にそのままシフトされたものである。従って、
図3(b1)~(b3)に示すようにΔV、Vcの電位差(絶対値)が同一である場合には、その電位差を生じる電圧の極性に拘わらず、ステージ電圧Vop2は
図3(c)に示すように同一波形である。なお、ブロッキングコンデンサCbは、外部電圧から発生する直流電流がパルス電源部3に流入するのを防止するために設けられ、その容量値は例えばCb≒50・Cnに定められる。但し、このブロッキングコンデンサCbは本発明に必須の構成要素ではなく、適宜削除できることは当業者に明らかである。
【0039】
[本発明の一実施形態であるパルス電源部の構成と動作]
図4~
図6はそれぞれ、本発明の一態様である第1乃至第3実施形態のパルス電源部3の原理的な回路図である。
【0040】
図4~
図6に示すように、これら実施形態のパルス電源部3ではいずれも、接地端9に繋がる第1ノードN1と出力端10に繋がる第2ノードN2との間に、電圧値V3を出力する第3電圧源13と逆阻止用の第3ダイオードDaと第3スイッチング部S3との直列回路と、電圧値V4を出力する第4電圧源14と第4ダイオードDbと第4スイッチング部S4との直列回路とがそれぞれ接続されている。第3ダイオードDaと第3スイッチング部S3との接続点である第4ノードN4と第1ノードN1との間には、一定電流Icを供給する電流源12と逆阻止用の第2ダイオードDcとの直列回路が接続され、さらに、電流源12と第2ダイオードDcとの接続点と第1ノードN1との間には、第5スイッチング部S5が接続されている。
【0041】
第1乃至第3実施形態において電圧値V3、V4は異なり、第1実施形態のパルス電源部3ではV3=ΔV/2、V4=(ΔV-Vc)/2、第2実施形態のパルス電源部3ではV3=0、V4=-Vc/2、第3実施形態のパルス電源部3ではV3=-ΔV/2、V4=(ΔV+Vc)/2、である。但し、ΔV、Vc≠0である。即ち、第2実施形態のパルス電源部3ではV3=0であるので、第3電圧源13の両端は短絡されており、実質的に第3電圧源13は存在しない。但し、ここでは動作の説明上、0Vを出力する第3電圧源13を備えるものとみなし、
図5では該電圧源13を破線で示している。
【0042】
以下、
図5に示した第2実施形態のパルス電源部について、詳細な動作を説明する。第1乃至第3実施形態の中で第2実施形態を採り上げるのは、
図4~
図6から明らかであるように、第3電圧源13が実質的に不要であるために電圧源の必要個数がより少なくて済むという利点があるからである。
図7は、第2実施形態のパルス電源部3のより実用的な概略回路を中心とする回路図である。
【0043】
図7において、一定電流Icを出力する電流源12は、インダクタLo(インダクタンスは2mH程度)と電圧源15と電流センサCt1とを接続した直列回路で構成される(但し、電流センサCt1は電流の供給自体に直接関係しないことは明らかである)。スイッチング部S3、S4、S5はいずれも電力用MOSFETなどの半導体スイッチング素子からなり、逆並列ダイオードD3、D4、D5はそれぞれ、半導体スイッチング素子の寄生ダイオードである。それ以外の点は、
図5に示した回路図と同じく、電流源12に短絡用の第5スイッチング部S5を並列接続し、半波共振用の第3ダイオードDaと第3スイッチング部S3の直列回路を、接地端9の接続点である第1ノードN1と出力端10の接続点である第2ノードN2との間に接続している。また、第3ダイオードDaと第3スイッチング部S3との接続点を第4ノードN4として、第1ノードN1に電圧源15の他端を、電流センサCt1の他端を逆阻止用の第2ダイオードDcを介して第4ノードN4に接続している。加えて、半波共振用の第4ダイオードDbの一端に第4電圧源14の一端を接続し、その他端に第4スイッチング部S4の一端を接続した直列回路であって、第4電圧源14の他端を第1ノードN1に、第4スイッチング部S4の他端を第2ノードN2に接続している。
【0044】
なお、第4スイッチング部S4の他端を第3ノードN3として、この第3ノードN3と第2ノードN2との間にインダクタLiを追加的に挿入する構成も採り得る。また、これは第2実施形態(つまりはV3=0の場合)に限定されるものの、第3ダイオードDaに並列接続されている第5スイッチング部S5の寄生ダイオードである逆並列ダイオードD5と逆阻止用の第2ダイオードDcとの直列回路で以て第3ダイオードDaを代用させることで、この第3ダイオードDaを省略する、つまりは第3ダイオードDaを通して接続されている第4ノードN4と第1ノードN1との間の配線を省略する構成も採り得る。この構成によれば、使用するデバイスの数をさらに減らすことができ、コスト的に有利である。
【0045】
また、電流源12の周囲の構成は、
図8に示すように変形することができる。この
図8に示す変形例では、電流源12は、インダクタLo、電圧源15、及び電流センサCt1を直列に接続した回路で構成されるものの、
図7に示した構成とは異なり、インダクタLoと電圧源15との接続点に、逆阻止用の第2ダイオードDcを介して短絡用の第5スイッチング部S5を接続する。そして、第3ダイオードDaと第3スイッチング部S3との接続点を第4ノードN4とし、電流センサCt1においてインダクタLoと接続されている側と反対側の端部を第4ノードN4に接続するように構成してもよい。
【0046】
制御部20は、プロセス制御部1から送られて来る、例えば基板表面電圧Vsubの電圧値、処理周期T(パルス周波数:PW-f)、処理期間Tp等の各値を含む指令信号を受けるとともに、出力電圧Vop1をモニタし、予め決められたアルゴリズムに従って各スイッチング部S3、S4、S5に対してオンオフ動作を制御する制御信号G3、G4、G5を送る。また、制御部20は、インダクタLoに流れる電流を電流センサCt1により検出し、電圧源15の電圧Voを可変することで電流源12の電流Icを可変制御する。また、制御部20は、期間Tpにおける基板表面電圧Vsub、及び本装置の出力電流Io、出力電圧Vop1等の時間経過に対する値を、サンプリングによって検出し、第4電圧源14による電圧V4、及び必要に応じて第3電圧源13による電圧V3(但し
図7の例では第3電圧源13は短絡されている)を最適値に可変制御する。
【0047】
なお、制御部20は、例えばFPGA(Field Programable Gate Arrey)による高速論理回路と、CPU、ROM、タイマなどを含むマイクロコンピュータとADコンバータ等から成る構成とし、予め設定されたプログラムに従った処理を実行することで、後述する処理を行うための制御信号等を生成するものとすることができる。
【0048】
図3に示されているのはエッチング処理時における定常的な動作であるが、この定常的な動作を説明する前に、定常的な動作に移行する前の初期状態の動作について説明する。動作の初期状態では、コンデンサ負荷Creに保持されている電圧は0である。第2実施形態のパルス電源部3では、
図3(b2)に示すように、放電期間Tdにおける出力電圧Vop1がV1=+ΔV/2になるまで、過渡現象を伴う初期動作が実行される。
【0049】
図9は、
図5及び
図7に示す第2実施形態のパルス電源部3において、各素子の定数をそれぞれ、Cn=20nF、Cp=3.3nF、Cs=300pF、Cb=0.5μF、Ln=0.2μH、Rp=800Ω、Zp=5Ω、Ic=3.5A、V4=90V、fp=400kHz、Tp=2μs、Td=0.5μsとして、基板表面電圧Vsubと出力電圧Vop1の過渡状態における波形をシミュレーションにより求めた結果である。この結果から、後述する定常的な動作と同じ制御を繰り返すことによって、コンデンサ負荷Creに保持されている電圧は徐々に変化してゆき、適宜の時間が経過した後には定常状態に達することが分かる。この条件の下では、略10サイクル:25μsの過渡状態の経過後に定常状態に達している。
【0050】
次に、パルス電源部の定常的な動作を、
図10~
図17を参照して説明する。
図10は、第2実施形態のパルス電源部3における、転流期間Ta時の出力電流Io、本装置のパルス出力電圧でありブロッキングコンデンサCbと配線インダクタLnとの接続点と接地との間の電圧Vop1、基板コンデンサの電流Icp、基板表面電圧Vsub、及びスイッチング部の制御信号G3、G4、G5、を含めた各部の波形図である。
図11は、第2実施形態のパルス電源部における、転流期間Tb時の出力電流Io、出力電圧Vop1、基板コンデンサの電流Icp、基板表面電圧Vsub、及びスイッチング部の制御信号G3、G4、G5、を含めた各部の波形図である。
図12~
図17は、
図3(b2)、
図10、
図11に示した各期間における電流経路を示す概略図である。
【0051】
後述するが、時刻t0の以前には、制御信号G3はロー状態であって第3スイッチング部S3はオフであり、半波共振用の第4ダイオードDbによる逆阻止によって第4スイッチング部S4の逆並列ダイオードD4は導通しない。そのため、コンデンサ負荷Creと本装置内の回路とは遮断されるので、出力電圧Vop1はコンデンサ負荷Creの蓄積電荷によって保持された電圧である。即ち、ここでは出力電圧Vop1は、V1=+ΔV/2に維持される。また、浮遊コンデンサCnの電圧(この場合にはCpの電圧に等しい)であるステージ電圧Vop2は、出力電圧Vop1からブロッキングコンデンサCbの両端電圧分だけシフトしたものである。
【0052】
図10に示すように、時刻t0には、制御信号G4がハイ状態からローに変化するとともに制御信号G3がロー状態からハイに変化する。その時点でハイ状態である制御信号G5はオーバーラップ期間Tf後にローに変化する。このTfは実質的に0であってもよい。制御信号G5がハイであって第5スイッチング部S5がオン状態であるときには、電流源12は、インダクタLoの電流(放電期間Td時における電流源12の一定電流Ic)を還流させることで保持している。
【0053】
時刻t0において、制御信号G3がハイに変化して第3スイッチング部S3がオンすると、第3ダイオードDaは順バイアスされ、第1ノードN1と第4ノードN4との間の電圧Vpnは略0となる。これにより、
図12中に実線矢印で示す経路で、上述したように維持されていた電圧値ΔV/2である出力電圧Vop1(t0)と合成されたコンデンサ負荷Creと配線インダクタLnとによる共振電流が出力電流Ioとして流れる。この共振電流はIo=-[(ΔV/2)/√(Ln/Cre)]・sinθである。
【0054】
制御信号G5がローに変化して第5スイッチング部S5がオフすると、上記共振電流Ioが流れることで導通している第3ダイオードDaには、電流源12から一定電流Icが逆流する。また、出力電圧Vop1は(ΔV/2)・cosθで表され、出力電圧Vop1は時刻t0におけるΔV/2(=V1)から時刻t1における-(ΔV/2)(=V5)まで変化するので、転流期間Taにおける電圧変化は充電補助電圧変化値ΔV≒Vsubである。ブロッキングコンデンサCbを介するため、ステージ電圧Vop2は直流的に0点浮動である。そのため、ステージ電圧Vop2は極性に依存せず互いの電圧差でのみ定まり、
図3(c)に示すようになり、転流動作時における充電補助電圧変化値ΔVをΔV/2から共振により得ても何ら問題はない。このときの転流期間Taは、L・Cによって定まる半波共振期間=π√(Ln・Cre)の計算式で求まる。
【0055】
このように、共振によって急激に変化するステージ電圧Vop2と、シース抵抗Rpの作用によって変化が緩慢である基板コンデンサCpの両端電圧との差分が、基板表面電圧Vsubとなる。
図12中に破線矢印で示す経路を流れる電流Icpは、概ねこのときの基板表面電圧Vsubの電圧値をシース抵抗Rpとプラズマ抵抗Zpとの直列回路の抵抗値で除したものとなり、電流Icnと合流して出力電流Ioになる。
【0056】
時刻t1を過ぎると、上記共振電流による出力電流Ioはその方向を反転しようとするものの、第3ダイオードDaが逆バイアスとなるため該共振電流は停止する。それまで第3ダイオードDaを逆流していた電流源12から供給される一定電流Icは、Io=Icとして前述の共振経路を流れるので、共振経路と直列に出力インピーダンスの非常に大きい電流源が接続されることになる。これにより、共振転流直後にも、配線インダクタLn、コンデンサ負荷Creによる電圧、電流の振動は全く発生しない。但し、出力電流Ioが共振電流から一定電流Icに切り換わるとき、第3ダイオードDaの逆回復時間に伴う電流の瞬断が発生するおそれがある。これによるVpnのサージ電圧を抑制するためは、第1ノードN1と第4ノードN4との間に、電圧クランプ回路又は電圧クランプ素子であるTVS(Transient Voltage Suppressor)等を挿入するとよい。
【0057】
以上述べた転流期間Taにおける動作は、従来のパルス電源装置(後述の
図20参照)が備える第3電圧源13、第2スイッチング部S2といった構成要素、及び半波共振期間に合わせた転流時間管理等なしに達成し得る。
【0058】
転流期間Taの終了後は、電流源12から供給される一定電流Icが
図13中の太線矢印に示すように出力電流Ioとして流れ、基板コンデンサCpに流れる電流Icpと浮遊コンデンサCnに流れる電流Inとに分流する。これにより、出力電圧Vop1はV5=-ΔV/2から負方向に略一定速度で増加してゆき、
図3(b2)に示すようにランプ形状の電圧波形が生成される。このとき、電流Icp、基板表面電圧Vsubはそれぞれ次の式で定まる。
Icp≒-Ic・Cp/(Cp+Cn)
Vsub=-Icp・(Rp+Zp)
ここでは、
図12において共振電流を流すべくオンしている第3スイッチング部S3は、
図13においては一定電流Icを流すために利用される。このようにしてこのパルス電源部3では、従来のパルス電源装置(
図20参照)では別々に設けられていた回路(具体的にはスイッチング部)の共用化が図られている。
【0059】
図11に示すように、時刻t2の直前に、制御信号G3はハイ状態、制御信号G5、G4は共にロー状態であり、時刻t2において制御信号G4、G5はともにハイに変化し、それから所定のオーバーラップ期間Tf経過後に制御信号G3はローに変化する。Tfは実質的に0であってもよい。それ以降、制御信号G3はロー、制御信号G5、G4は共にハイである状態が、前述の時刻t0の直前まで維持される。
【0060】
順に説明すると、定常時のエッチング処理期間Tpの終了時には、制御信号G3はハイ状態であって第3スイッチング部S3がオン状態にあり、電流源12からの一定電流Icは、上述したようにIo=Icとして、いずれも負荷である基板コンデンサCpと浮遊コンデンサCnとに分流して流れる。時刻t2における出力電圧は、Vop1(t2)=-((ΔV/2)+Vc)=-[(ΔV/2)+Ic・(Tp-Ta)/(Cp+Cn)]、により定まる状態である。
【0061】
時刻t2において、制御信号G4がハイに変化して第4スイッチング部S4がオンすると、
図14中に示す経路で、コンデンサ負荷Creと合成インダクタ(Ln+Li)による共振電流Idb(=Io)が電流Icpと電流Icnとの合流によって流れる。ここで、時刻t2における出力電圧Vop1(t2)=-((ΔV/2)+Vc)(=V6)が共振によって時刻t4における出力電圧Vop1=+ΔV/2(=V1)にまで変化する共振振幅値より、この場合における共振初期電圧値は(ΔV+Vc)/2である。電圧源14の電圧値V4=-Vc/2は、時刻t2における出力電圧Vop1からこの共振初期電圧値を得るための第1ノードN1を基準とした補正値である。共振電流値は、Io=Idb=[{(Vc+ΔV)/2}/√{(Ln+Li)/Cre}]・sinθ、となる。インダクタLiは、時刻t0と時刻t2における共振初期電圧の差異Vc/2が増加したことによる共振電流の増加を、特性インピーダンスの増加によって是正するためのものである。
【0062】
また、基板表面電圧Vsubは、共振により急速に変化するステージ電圧Vop2とシース抵抗Rpによって変化が緩慢である基板コンデンサCpの電圧Vcpとの電位差であり、
図11においてVop2>Vcpであるから基板表面電圧Vsubは負極性となって、イオンシースの整流作用によるダイオードDpは逆阻止されて導通しない。従って、
図14中に破線矢印で示す基板コンデンサCpの電流Icpは、概ねこの場合での基板表面電圧Vsubを合成抵抗(Rp+Zp)で除したものとなる。
【0063】
一方、制御信号G5がハイに変化してスイッチング部S5がオンすると、それまでIcが流れていたインダクタLoの電流を、
図14中に一点鎖線矢印で示す経路で還流させて保持する。そして、オーバーラップ期間Tfの経過後に制御信号G3がローに変化し、第3スイッチング部S3がオフする。
【0064】
時刻t3において、急速に電圧が減少するステージ電圧Vop2とシース抵抗Rpによって変化が緩慢である基板コンデンサCpの電圧Vcpとが同一値となり、基板表面電圧Vsubは0となる。その後、Vcp>Vop2となった時刻t3以降では、イオンシースの整流作用によるダイオードDpが導通して、
図15中に破線矢印で示すように電流Icpが流れ、この電流Icpは基板表面電圧Vsubを抵抗Zpで除したものとなり大きく増加する。ここで、基板表面電圧Vsubは0を超えて正極方向の電圧となり、放電期間Tdにおける基板コンデンサCpの蓄積電荷の放電に寄与する。また、インダクタLoに流れる電流Icは上述した場合と同様に保持される。
【0065】
時刻t4において共振電流Idb(=Io)は0となり、それ以降、半波共振用のダイオードDbによって逆流が阻止されるため、電流Idb(=Io)は0を維持する。ここで、インダクタLn、Liに蓄積されていたエネルギが無くなるので、
図16中に破線矢印で示すようにIcp=Icnは浮遊コンデンサCnを充電する方向に流れる。また、
図16中に一点鎖線矢印で示すように、インダクタLoに流れる電流Icは上述した場合と同様に保持される。
【0066】
時刻t5において、ステージ電圧Vop2と基板コンデンサCpの電圧Vcpとが同一値となり、基板表面電圧Vsubは再び0となる。従って、時刻t5を過ぎると
図17に示すように、電流Icpは流れなくなり、出力電圧Vop1は、コンデンサ負荷Creの蓄積電荷による保持電圧であるV1=+ΔV/2に維持される。
【0067】
以上述べた転流期間Tbにおける動作は、後述するように、従来のパルス電源装置(
図20参照)において必要であった電圧源11、スイッチング部S1、及び半波共振期間に合わせた転流時間管理等を要することなく達成される。また、
図17中に一点鎖線矢印で示すように、インダクタLoに流れる電流Icは上述した場合と同様に保持される。
【0068】
上述したように、
図7に示した第2実施形態によるパルス電源部は、後述するように、従来のパルス電源装置に対して、電圧源11、電圧源13、第1スイッチング部S1、第2スイッチング部S2といった構成要素が不要であるとともに、転流期間Ta、Tbにおける転流時間管理が不要である。また、動作上制御が必要である個所は、電流源12による電流Icを可変するための電圧源15の電圧値Vo(Icの定電流制御値設定)と共振により出力電圧Vop1(t4)の電圧+ΔV/2を得るための補正値である電圧源14の電圧値V4=-Vc/2の2個所、及びエッチング処理期間Tpに応じた三つのスイッチング部S3、S4、S5をオンオフ制御する制御信号G3、G4、G5のみである。
【0069】
図3(b1)に示した出力電圧Vop1を生成するための
図4に示した原理的回路を有する第1実施形態のパルス電源部、及び、
図3(b3)に示した出力電圧Vop1を生成するための
図6に示した原理的回路を有する第3実施形態のパルス電源部は、上記第2実施形態のパルス電源部と同様に、電流源12はインダクタLoと電圧源15と電流センサCt1との直列回路で構成され、スイッチング部S3、S4、S5と逆並列ダイオードD3、D4、D5は、電力用MOSFETなどの半導体スイッチング素子(寄生ダイオード含む)である。その他の構成については、第1実施形態では
図4に示した構成と、第3実施例形態では
図6に示した構成と同様である。従って、これら第1実施形態、第3実施形態のパルス電源部の実用的な概略回路図は容易に想到し得るものであって、ここでは記載を省略する。
【0070】
第2実施形態との相違は、第3電圧源13の電圧値V3が第2実施形態ではV3=0(=短絡回路)であるのに対し、第1実施形態ではV3=+ΔV/2、第3実施形態ではV3=+ΔVである点、及び、第4電圧源14の電圧値V4が第2実施形態ではV4=-Vc/2であるのに対し、第1実施形態ではV4=(ΔV-Vc)/2、第3実施形態ではV4=-(ΔV+Vc)/2となる点である。
図10、
図11における第3乃至第5スイッチング部をオンオフ制御するための制御信号G3、G4、G5のタイミングについては、第1乃至第3実施形態で共通である。
【0071】
即ち、
図3(b2)に示す第2実施形態のパルス電源部における出力電圧Vop1に対し、
図3(b1)に示す第1実施形態のパルス電源部における出力電圧Vop1ではその波形全体が+ΔV/2だけ正極側にシフトしており、
図3(b3)に示す第3実施形態のパルス電源部における出力電圧Vop1では波形全体が-ΔV/2だけ負極側にシフトする。
図10、
図11に示す波形においても同様であることは、当業者であれば容易に想到し得る。
【0072】
また、全ての実施形態のパルス電源部において、
図10、
図11に示した制御信号以外の波形Vsub、Io、Ic、Icp、Idbの形状に差異はなく、
図12~
図17に示した、それぞれの期間に対する電流の経路や方向も同一であることは明らかである。
【0073】
また、各実施形態のパルス電源部において出力電圧Vop1を生成するための一連の動作は基本的に同一であり、前述のように、全ての実施形態においてステージ電圧Vop2とプラズマリアクタPr内での動作も同一であるから、部品点数や接地端からの電圧形状等によって、適宜の実施形態を選択すればよい。
【0074】
[本発明に係るパルス電源装置と従来のパルス電源装置との対比]
特許文献1に記載の従来のパルス電源装置に対する上述した本実施形態のパルス電源部3の利点を明確にするために、装置の構成を対比する。
図20は、従来のパルス電源装置3Pの原理的な回路図である。
図20では、
図4~
図6に示した実施形態のパルス電源部3と同一又は相当する構成要素に同じ符号を付して、構成要素の対比を明確化している。負荷回路は全く同一である。
【0075】
即ち、従来のパルス電源装置3Pは、本発明による実施形態のパルス電源部3が備えていない構成要素として、第1ノードN1と第2ノードN2との間に、電圧V1を出力する電圧源11とスイッチング部S1との直列回路を備える。
図3(b1)に示した上記第1実施形態のパルス電源部3による出力電圧Vop1に相当する出力電圧を生成したい場合の、電圧源11、13、14の各電圧値は
図20中に記載したように、V1=ΔV、V3=ΔV/2、V4=(ΔV-Vc)/2、である。スイッチング部S1は、この電圧V1を出力端10に結合するタイミングを決めるものである。
【0076】
従来のパルス電源装置3Pにおいて、電圧源11による電圧V1は、コンデンサ負荷Creと配線インダクタLnとの半波共振により成るコンデンサ負荷の電圧(
図3(b1)での時刻t5における出力電圧Vop1の電圧値)と同じ値に選定される。また、転流期間Tb中に半波共振回路における共振電流の0検出を行うことで、最適転流時間を設定してスイッチング部S1をオンさせて電圧V1を出力端10に結合するタイミングを定める。これによって、放電期間Td中の出力電圧Vop1をV1=+ΔVに固定するとともに、スイッチング部S1がオンする際の負荷電圧のリンギングを防止している。
【0077】
これに対し、本実施形態のパルス電源部3では、電圧源11及びスイッチング部S1を無くし、転流期間Tbにおける最適転流時間の設定も行わない。一般的なプラズマリアクタPrでは、コンデンサ負荷Creの容量は10~20nFであり、これはfp=400kHz程度のパルス周波数に対応する放電期間Tdの時間においてコンデンサ負荷に蓄積された電荷を維持するのに十分に大きな値である。即ち、fp=400kHz程度のパルス周波数の下では、従来のパルス電源装置3Pのように電圧源11から電圧V1を与えずとも、放電期間Tdにおけるコンデンサ負荷の電圧を十分保持することができる(電圧の低下は実質的に無視できる程度である)。それ故に、本実施形態のパルス電源部3では、電圧源11とスイッチング部S1を省略し、スイッチング部S1による最適転流時間の設定も無くすことができる。
【0078】
また、従来のパルス電源装置3Pでは、電流源12から供給される電流Icを出力端10に流すタイミングを決めるスイッチング部S2と、コンデンサ負荷Cre(≒Cn)と配線インダクタLnとによる共振電流を流すと共に電圧源13による電圧V3を出力端10に結合するタイミングを決めるスイッチング部S3とを独立に設けている。これに対し、本実施形態のパルス電源部3では、第3電圧源13と逆阻止用の第3ダイオードDaと第3スイッチング部S3との直列回路を、第1ノードN1と第2ノードN2との間に接続し、第3ダイオードDaと第3スイッチング部S3との接続点を第4ノードN4として、第1ノードN1と第4ノードN4との間に電流源12と逆阻止用の第2ダイオードDcとの直列回路を接続し、電流源12の両端に短絡用の第5スイッチング部S5を接続している。これにより、従来のパルス電源装置3Pにおけるスイッチング部S2を省略し、このスイッチング部S2の機能を第3スイッチング部S3に兼ねさせることができる。
【0079】
こうして本実施形態のパルス電源部3では、従来のパルス電源装置3Pに比べてデバイスの数を減らして回路構成を簡素化することができるとともに、煩雑である、共振転流時間にスイッチングのタイミングを合致させるための検出及び制御を省略することができる。
【0080】
[本実施形態のパルス電源部の変形例]
図18は、第2実施形態のパルス電源部3に電圧クランプ回路を追加した、第4実施形態のパルス電源部の概略構成図である。この電圧クランプ回路TVS1、TVS2、TVS3は、それぞれインダクタLo、Ln、Liの解放時のエネルギを吸収する作用を有する。ここでは、電圧クランプ回路を電圧クランプ素子TVS1、TVS2、TVS3を用いた回路により簡易的に構成しているが、放電阻止スナバ回路や双方向コンバータによる電圧源としてもよい。勿論、第1、第3実施形態のパルス電源部にも同様に電圧クランプ回路を追加し得ることは明らかである。
【0081】
図19は、第2実施形態のパルス電源部において電流源12と並列に高速定電流電源Apを設けた、第5実施形態のパルス電源部の概略構成図である。
【0082】
高速定電流電源Apは、図示しない制御部から指示される設定電流値ΔIcに応じて、電流源12の電流IcにΔIcを加算して出力するものである。このΔIcは、プラズマリアクタPrのガス圧の変化やイオン源用プラズマ電源部2の出力変動によってシースの条件が変化し、基板表面電圧Vsubが変化する場合に、プロセス制御部1からの基板表面電圧Vsubの修正指令に応じて用いられる。ΔIcはこの変化分を補償するために必要な電流値であればよく電流源12の電流Icに比較して小電流でよいので、高速定電流電源Apの出力は小電力容量でよい。そのため、小容量で高周波特性の良いスイッチング素子、例えばガリウムナイトライドGAN等を使用することができ、PWMスイッチング周波数の高周波化と位相シフトマルチレベルカスケードコンバータ等によるマルチフェーズ化で高速制御が可能となる。また、高速定電流電源Apを大容量化して電流源12と置き換えることにより、全ての電流Icを高速定電流電源Apから供給してもよい。
【0083】
なお、以上の説明に用いた数式等により得られた各値等は、回路抵抗等を含まない理想値であるから、全ての設定値は実動状態に応じて適宜に是正することが望ましいことは言うまでもない。
【0084】
また、上記実施形態や変形例はあくまでも本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜修正、変更、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【符号の説明】
【0085】
1…プロセス制御部
2…イオン源用プラズマ電源部
3…バイアス用パルス電源部
4…処理室
5…プラズマ
6…基板
6a…表面
7…ステージ
9…接地端
10…出力端
12…電流源
13、14、15…電圧源
S3、S4、S5…スイッチング部
Da、Db、Dc、D3、D4、D5…ダイオード
N1、N2、N3、N4…ノード
Ct1…電流センサ
20…制御部
TVS1、TVS2、TVS3…電圧クランプ回路
Ap…高速定電流電源
Cb…ブロッキングコンデンサ
Pr…プラズマリアクタ
Cp…基板コンデンサ
Cs…シースコンデンサ
Cn…浮遊コンデンサ
Dp…シースダイオード
Ln…配線インダクタ
Li、Lo…インダクタ
Rp…シース抵抗
Zp…プラズマ抵抗