(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025156904
(43)【公開日】2025-10-15
(54)【発明の名称】ポアデバイスおよび微粒子測定システム、ポアデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 15/13 20240101AFI20251007BHJP
G01N 27/00 20060101ALI20251007BHJP
【FI】
G01N15/13 A
G01N27/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024059649
(22)【出願日】2024-04-02
(71)【出願人】
【識別番号】390005175
【氏名又は名称】株式会社アドバンテスト
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】生沼 浩介
(72)【発明者】
【氏名】高田 武晃
(72)【発明者】
【氏名】小川 良平
(72)【発明者】
【氏名】鷲津 信栄
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA19
2G060AF20
2G060AG03
2G060AG11
2G060JA07
2G060KA09
(57)【要約】
【課題】信頼性を損なわずに長期保存が可能なポアデバイスを提供する。
【解決手段】ポアデバイス100は、デバイス本体150およびは封止部材160を備える。デバイス本体150は、ポア104を通じて連通する第1空間122と第2空間124と、第1空間122および第2空間124に電解液5を注入するための注入口152と、を有する。デバイス本体150の内部には親水基154が付与されている。封止部材160は、第1空間122および第2空間124が電解液5で満たされた状態で、注入口152を封止する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポアを通じて連通する第1空間と第2空間と、前記第1空間および前記第2空間に電解液を注入するための注入口と、を有し、内部に親水基が付与されたデバイス本体と、
前記第1空間および前記第2空間が前記電解液で満たされた状態で、前記注入口を封止する封止部材と、
を備えることを特徴とするポアデバイス。
【請求項2】
前記デバイス本体は、
前記ポアが形成されたポアチップと、
前記ポアチップを収容し、前記ポアチップによって内部が前記第1空間と前記第2空間に区画されるポアチップケースと、
を含み、
前記ポアチップケースは、
前記ポアチップを収容し、前記第1空間と前記第2空間を有するボディと、
前記ボディと接続され、少なくとも一部が前記ボディの内部空間に露出している電極が形成される基板と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載のポアデバイス。
【請求項3】
前記電極はそれぞれ、
前記基板上に形成される第1金属層と、
前記ボディの前記内部空間に露出している部分において、前記第1金属層よりも上の層に形成されるカーボンバリア層と、
を含むことを特徴とする請求項2に記載のポアデバイス。
【請求項4】
前記基板はプリント基板であり、
前記第1金属層の材料はCuであり、
前記電極は、
前記第1金属層の上に形成されたNiの第2金属層と、
前記第2金属層の上に形成されたAuの第3金属層と、
をさらに含み、
前記カーボンバリア層は、前記第3金属層の上に形成されることを特徴とする請求項3に記載のポアデバイス。
【請求項5】
前記基板はフィルム基板であり、
前記第1金属層の材料はAgであることを特徴とする請求項3または4に記載のポアデバイス。
【請求項6】
前記カーボンバリア層は、前記ボディの外部空間に露出する部分にも形成されることを特徴とする請求項3または4に記載のポアデバイス。
【請求項7】
前記カーボンバリア層の厚みは、10μm~30μmであることを特徴とする請求項3または4に記載のポアデバイス。
【請求項8】
前記電極は、前記カーボンバリア層の上に形成されるAg/AgCl層をさらに含むことを特徴とする請求項3または4に記載のポアデバイス。
【請求項9】
請求項1から4のいずれかに記載のポアデバイスと、
前記ポアデバイスの電極に電気信号を印加し、前記ポアデバイスに発生する電気信号を測定する計測装置と、
を備えることを特徴とする微粒子測定システム。
【請求項10】
ポアデバイスの製造方法であって、
ポアを通じて連通する第1空間と第2空間と、前記第1空間および前記第2空間に電解液を注入するための注入口と、を有するデバイス本体の内部に、親水基を付与するステップと、
前記注入口から前記デバイス本体の内部に電解液を注入するステップと、
前記注入口を封止部材によって封止するステップと、
を備えることを特徴とする製造方法。
【請求項11】
前記電解液を注入後、前記デバイス本体を試験するステップをさらに備え、
前記封止するステップは、試験するステップの後に行われることを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポアデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
電気的検知帯法(コールター原理)と呼ばれる粒度分布測定法が知られている。この測定法では、粒子を含む電解液を、ナノポアと称される細孔を通過させる。粒子が細孔を通過するとき、細孔中の電解液は粒子の体積に相当する量だけ減少し、細孔の電気抵抗を増加させる。したがって細孔の電気抵抗を測定することで、粒子の体積(すなわち粒径)を測定することができる。
【0003】
図1は、電気的検知帯法を用いた微粒子測定システム1Rのブロック図である。微粒子測定システム1Rは、ポアデバイス100R、計測装置200Rおよびデータ処理装置300を備える。
【0004】
ポアデバイス100Rの内部は、検出対象の粒子4を含む電解液2が満たされる。ポアデバイス100Rの内部は、ポアチップ102によって2つの空間に隔てられており、2つの空間には電極106と電極108が設けられる。電極106と電極108の間に電位差を発生させると、電極間にイオン電流が流れ、また電気泳動によって粒子4がポア104を経由して、一方の空間から他方の空間に移動する。
【0005】
計測装置200Rは、電極対106,108の間に電位差を発生させるとともに、電極対の間の抵抗値Rpと相関を有する情報を取得する。計測装置200Rは、トランスインピーダンスアンプ210、電圧源220、デジタイザ230を含む。電圧源220は電極対106,108の間に電位差Vbを発生させる。この電位差Vbは、電気泳動の駆動源であるとともに、抵抗値Rpを測定するためのバイアス信号となる。
【0006】
電極対106,108の間には、ポア104の抵抗に反比例する微小電流Isが流れる。
Is=Vb/Rp …(1)
【0007】
トランスインピーダンスアンプ210は、微小電流Isを電圧信号Vsに変換する。変換ゲインをrとするとき、以下の式が成り立つ。
Vs=-r×Is …(2)
式(1)を式(2)に代入すると、式(3)が得られる。
Vs=-Vb×r/Rp …(3)
デジタイザ230は、電圧信号VsをデジタルデータDsに変換する。このように計測装置200Rにより、ポア104の抵抗値Rpに反比例する電圧信号Vsを得ることができる。
【0008】
図2は、計測装置200Rにより測定される例示的な微小電流Isの波形図である。なお本明細書において参照する波形図やタイムチャートの縦軸および横軸は、理解を容易とするために適宜拡大、縮小したものであり、また示される各波形も、理解の容易のために簡略化され、あるいは誇張もしくは強調されている。
【0009】
粒子が通過する短い期間、ポア104の抵抗値Rpが増大する。したがって、粒子が通過するごとに電流Isはパルス状に減少する。個々のパルス電流の振幅は、粒径と相関を有する。データ処理装置300は、デジタルデータDsを処理し、電解液2に含まれる粒子4の個数や粒径分布などを解析する。データ処理装置300の一部は、サーバやクラウドであってもよい。
【0010】
ポアデバイス100Rの使用前の準備を説明する。ポアデバイス100Rは、使用前に親水処理が必要となる。親水処理を施さないポアデバイス100Rに電解液を注入すると、内部空間の内壁面、電極(配線)106,108の表面、ポアチップ102の表面、ポア104などに気泡が付着する。
【0011】
気泡はいくつかの問題をもたらす。たとえば、ポア104に気泡が付着すると、ポア104の貫通電流が不安定となり、またポア104を通過する粒子4の経路を阻害してしまい、正常な微粒子計測が難しくなる。
【0012】
また流路となる内部空間の途中に気泡が付いてしまうと、流路の狭窄が起きてしまう可能性があり、それによって液中の粒子が均一に分散しなくなってしまう。
【0013】
・電極106、108に気泡が付いてしまうと、電解液2と接触不良が生じ、イオン交換が十分に起きず、正常な計測電流が取得できなくなってしまう。
【0014】
このような問題を解決するために、電解液の注入に先立って、ポアデバイス100Rの内部に親水処理を施すことが好ましいとされる。親水処理の方法はさまざまであるが、たとえばアクアプラズマ照射によって親水基を、ポアデバイス100Rの内部に付与する手法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ポアデバイス100Rのユーザが、親水処理を施すことは容易ではない。また親水基は大気にさらされると減少するため、親水処理の効果は、数日~1週間程度しか持続しない。そのため現状では、ポアデバイス100Rの製造者が、ユーザによるポアデバイス100Rの使用時期に合わせて親水処理を行い、ユーザに届ける必要がある。そしてポアデバイス100Rを受け取ったユーザは数日以内にポアデバイス100Rを使用する必要がある。
【0017】
特許文献1には、親水処理後の複数のポアデバイスを、電解液で満たされた容器に収容する技術が開示されている。この技術によれば、親水基が大気にさらされないため、親水基の減少を抑制できるため、長期間の保存が可能となる。
【0018】
ところが、特許文献1に記載の方法では、容器自体に汚れが付着していると、容器に保存中のポアデバイスの内部に汚れが侵入し、ポアに詰まったりするリスクがある。また、容器内に不純物が含まれていると、化学的に悪影響を及ぼす可能性もある。
【0019】
また容器に液体を入れて保管するため、重量が重くなり、可搬性が低下する。
【0020】
ポアデバイスの使用時には容器から取り出した後に、ポアデバイスの外側に付着した電解液を拭き取る必要がある。これはユーザにとって煩わしい作業である。また、電解液の拭き取り作業によって、不純物が付着するリスクもある。
【0021】
さらに、容器内の保管液の廃液が発生するため、その処理は、ユーザ側にとって煩わしいものとなる。
【0022】
また1つの容器に、複数個のデバイスを保存する形態では、1度容器を開封し、デバイスを1つ以上取り出してしまうと、他デバイスにコンタミの影響が発生してしまうため、微粒子検出デバイスとしてはあまり望ましくない。
【0023】
さらに、計測装置200Rのプローブと、電極106,108とのコンタクト部分が、電解液に浸漬されることとなる。そのため、コンタクト部分に対して、腐食防止の対策を施す必要がある。
【0024】
本開示は係る状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、信頼性を損なわずに長期保存が可能なポアデバイスの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本開示のある態様のポアデバイスは、ポアを通じて連通する第1空間と第2空間と、第1空間および第2空間に電解液を注入するための注入口と、を有し、内部に親水基が付与されたデバイス本体と、第1空間および第2空間が電解液で満たされた状態で、注入口を封止する封止部材と、を備える。
【0026】
本発明の別の態様は、ポアデバイスの製造方法である。この製造方法は、ポアを通じて連通する第1空間と第2空間と、第1空間および第2空間に電解液を注入するための注入口と、を有するデバイス本体の内部に、親水基を付与するステップと、注入口からデバイス本体の内部に電解液を注入するステップと、注入口を封止部材によって封止するステップと、を備える。
【0027】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明あるいは本開示の態様として有効である。さらに、この項目(課題を解決するための手段)の記載は、本発明の欠くべからざるすべての特徴を説明するものではなく、したがって、記載されるこれらの特徴のサブコンビネーションも、本発明たり得る。
【発明の効果】
【0028】
本開示のある態様によれば、ポアデバイスの信頼性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】電気的検知帯法を用いた微粒子測定システムのブロック図である。
【
図2】計測装置により測定される例示的な微小電流Isの波形図である。
【
図3】実施形態に係るポアデバイスの断面図である。
【
図4】実施形態に係るポアデバイスの製造方法を説明する図である。
【
図5】実施例1に係るデバイス本体の断面図である。
【
図6】カーボンバリア層を省略した比較用のサンプルの電極部分の表面成分分析の結果を示す図である。
【
図7】カーボンバリア層を備えるサンプルの電極部分の表面成分分析の結果を示す図である。
【
図8】実施例2に係るデバイス本体の断面図である。
【
図10】変形例2に係るデバイス本体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。この概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、すべての実施形態の重要な要素を特定することも、一部またはすべての態様の範囲を線引きすることも意図していない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0031】
一実施形態に係るポアデバイスは、ポアを通じて連通する第1空間と第2空間と、第1空間および第2空間に電解液を注入するための注入口と、を有し、内部に親水基が付与されたデバイス本体と、第1空間および第2空間が電解液で満たされた状態で、注入口を封止する封止部材と、を備える。
【0032】
このポアデバイスは、デバイス本体の内部を電解液で満たした状態で注入口が封止され、製品として出荷される。ユーザは封止部材を剥がすことにより、注入口から検出対象の粒子を含む液体を注入することができる。この構成によれば、親水基は空気に触れないため、長期保存が可能である。また、デバイス本体自体を保存液に浸す必要がないため、デバイス本体の拭き取りが不要であり、また保存液による汚染を防止できる。
【0033】
一実施形態において、デバイス本体は、ポアが形成されたポアチップと、ポアチップを収容し、ポアチップによって内部が第1空間と第2空間に区画されるポアチップケースと、を含んでもよい。ポアチップケースは、ポアチップを収容し、第1空間と第2空間を有するボディと、ボディと接続され、少なくとも一部がボディの内部空間に露出している電極が形成される基板と、を含んでもよい。
【0034】
一実施形態において、電極はそれぞれ、基板上に形成される第1金属層と、ボディの内部空間に露出している部分において、第1金属層よりも上の層に形成されるカーボンバリア層と、を含んでもよい。この構成によると、カーボンバリア層によって、電解液に含まれる塩化物イオンをブロックすることができ、これにより、塩化物イオンが第1配線層に到達するのを防ぐことができ、信頼性を改善できる。
【0035】
一実施形態において、基板はプリント基板であり、第1金属層の材料はCuであり、電極は、第1金属層の上に形成されたNiの第2金属層と、第2金属層の上に形成されたAuの第3金属層と、をさらに含んでもよい。カーボンバリア層は、第3金属層の上に形成されてもよい。これによりCuの劣化を防ぐことができる。
【0036】
一実施形態において、基板はフィルム基板であり、第1金属層の材料はAg(銀)であってもよい。これによりAgの塩化を防ぐことができる。
【0037】
一実施形態において、カーボンバリア層は、ボディの外部空間に露出する部分にも形成されてもよい。これにより、Agの酸化を防ぐことができる。
【0038】
一実施形態において、カーボンバリア層の厚みは、10μm~30μmであってもよい。
【0039】
一実施形態において、電極は、カーボンバリア層の上に形成されるAg/AgCl(銀塩化銀)層をさらに含んでもよい。これにより電解液とのイオン交換を効率よく行うことが可能となる。
【0040】
一実施形態に係る微粒子計測システムは、上述のポアデバイスと、ポアデバイスの電極に電気信号を印加し、ポアデバイスに発生する電気信号を測定する計測装置と、を備えてもよい。
【0041】
一実施形態に係る製造方法は、ポアを通じて連通する第1空間と第2空間と、第1空間および第2空間に電解液を注入するための注入口と、を有するデバイス本体の内部に、親水基を付与するステップと、注入口からデバイス本体の内部に電解液を注入するステップと、注入口を封止部材によって封止するステップと、を備える。
【0042】
一実施形態において製造方法は、電解液を注入後、デバイス本体を試験するステップをさらに備えてもよい。封止するステップは、試験するステップの後に行われてもよい。
【0043】
(実施形態)
以下、好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施形態は、開示および発明を限定するものではなく例示であって、実施形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも開示および発明の本質的なものであるとは限らない。
【0044】
また図面に記載される各部材の寸法(厚み、長さ、幅など)は、理解の容易化のために適宜、拡大縮小されている場合がある。さらには複数の部材の寸法は、必ずしもそれらの大小関係を表しているとは限らず、図面上で、ある部材Aが、別の部材Bよりも厚く描かれていても、部材Aが部材Bよりも薄いこともあり得る。
【0045】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0046】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に接続された(設けられた)状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0047】
また本明細書において、電圧信号、電流信号などの電気信号、あるいは抵抗、キャパシタ、インダクタなどの回路素子に付された符号は、必要に応じてそれぞれの電圧値、電流値、あるいは回路定数(抵抗値、容量値、インダクタンス)を表すものとする。
【0048】
図3は、実施形態に係るポアデバイス100の断面図である。ポアデバイス100は、デバイス本体150および封止部材160を備える。デバイス本体150は、ポア104を通じて連通する第1空間122および第2空間124を含む。デバイス本体150には、測定時において、第1空間122および第2空間124の内部に測定対象の粒子を含む電解液を注入するための注入口152が設けられている。またデバイス本体150には、第1空間122と第2空間124の間に電界を印加するための電極106、108が設けられる。
【0049】
デバイス本体150の内部には、プラズマ処理などによって親水基154が付与されている。
【0050】
デバイス本体150の第1空間122および第2空間124の内部は、親水基154が空気と触れないように、保存用の電解液5で満たされている。
【0051】
封止部材160は、第1空間122および第2空間124が電解液5で満たされた状態で、注入口152を封止している。
【0052】
ポアデバイス100の使用時には、封止部材160をデバイス本体150から剥がすことにより、注入口152が露出する。
図5では、一枚の封止部材160によって2つの注入口152を塞いでいるが、本開示はそれに限定されず、注入口152ごとに、別々の封止部材160を設けてもよい。またデバイス本体150が注入口152以外の開口、たとえば空気抜きのための開口を有している場合には、その他の開口を塞ぐように封止部材160が貼付けられる。
【0053】
以上がポアデバイス100の全体構成である。このポアデバイス100によれば、デバイス本体150の内部を保存用の電解液5で満たした状態で注入口152が封止され、製品として出荷される。ユーザは封止部材160を剥がすことにより、注入口152から検出対象の粒子を含む液体を注入することができる。この構成によれば、親水基154は空気に触れないため、長期保存が可能である。
【0054】
また、デバイス本体150自体を保存液に浸す必要がないため、デバイス本体150の拭き取りが不要である。
【0055】
また計測装置200Rのプローブと、電極106,108とのコンタクト部分が、電解液に浸漬されないため、コンタクト部分に対しては腐食防止の対策を施す必要である。
【0056】
さらに、従来のように、複数のポアデバイスを同じ容器内に保存する手法では、あるポアデバイスを取り出す際に、保存液を汚染し、結果として他のポアデバイスを汚染する可能性がある。これに対して本実施形態によれば、このような問題は生じない。
【0057】
保存用の電解液5は、測定時には廃液となるが、その量は、特許文献1に記載の保存液の量に比べると格段に少なくて済む。
【0058】
また、デバイス毎の包装となるため取り扱いやすいという利点もある。
【0059】
デバイス本体150の構成は特に限定されず、公知のあるいは将来利用可能なさまざまなポアデバイスに本開示に係る技術は適用可能である。以下では、デバイス本体150の構成例を説明する。
【0060】
デバイス本体150は、ポアチップ102と、ポアチップ102を収容するポアチップケース101を備える。ポアチップ102には、ポア104が形成される。ポアチップケース101は、ポアチップ102によって区画される2つの空間122,124を含む。空間122,124は、出荷保存時において、保存用の電解液5で満たされる。測定時においては、粒子4を含む電解液で満たされる。
【0061】
たとえば、ポアチップケース101は、基板110およびボディ120を含む。ボディ120は、基板110の上に設けられる。基板110には、電極106,108に相当する配線112P,112Nが形成されている。配線112P,112Nはそれぞれ、ボディ120の空間122,124内から外側に引き出されており、ボディ120の内側のイオン交換領域118において、電解液2との間でイオン交換を行い、外側のコンタクト領域116において、計測装置200と電気的に接続可能となっている。
【0062】
以上がデバイス本体150の構成例である。
【0063】
続いてポアデバイス100の製造方法について説明する。
【0064】
図4は、実施形態に係るポアデバイス100の製造方法を説明する図である。はじめに、デバイス本体150を製造する(S100)。デバイス本体150の製造方法は、デバイス本体150の構造や形式によって異なり、本開示においてデバイス本体150の構造や形式は特に限定されないため、説明を省略する。
【0065】
デバイス本体150の内部に親水処理を施す(S102)。親水処理の方法はさまざまであるが、たとえばアクアプラズマ照射によって、親水基154を、デバイス本体150の内部に付与することができる。
【0066】
続いて、保存用の電解液5を、注入口152からデバイス本体150に注入する(S104)。これによりデバイス本体150の内部が電解液5で満たされ、デバイス本体150の内部の空気が追い出され、親水基154が空気と接触しなくなる。
【0067】
そして、デバイス本体150の注入口152を塞ぐように、封止部材160を貼付ける(S106)。
【0068】
以上がポアデバイス100の製造方法である。
【0069】
続いてポアデバイス100の検査について説明する。ポアチップのポアの形状やサイズは、測定精度に大きな影響を及ぼす。ただし、ポアの機械的な出来映え評価は、走査電子顕微鏡(SEM)などが必要であり、特に数nm~数百nmのポアを正確に評価するには測長用走査電子顕微鏡(CD-SEM)等が必要となるため、全数検査することは現実的ではない。また、電気的な試験を行うためには、ポアデバイス100の内部に電解液を浸して検査する必要があったため、親水処理後、ドライな状態で出荷していた従来の形態では、電気的試験も全数検査ができなかった。そのため、従来では、抜き取り検査によって、ロットごとの品質保証を行うのが一般的であった。
【0070】
これに対して、上述のポアデバイス100では、全数検査が可能となるという利点がある。ポアデバイス100の製造工程において、デバイス本体150に親水処理を施し、電解液を注入した状態では、電気的試験が可能である。そこで、すべての個体について、電解液を注入した後に、電気的試験を行い、試験をパスした個体のみ、封止部材160を貼付けて出荷することが可能である。全数検査によりポアデバイス100の品質、信頼性を一層改善できる。
【0071】
続いて電極106,108の腐食防止について説明する。
【0072】
上述のように、デバイス本体150が保存液の中に浸潤するわけではないため、電極106,108に相当する配線112P,112Nのうち、コンタクト領域116については、腐食の心配はないため、特別な処理は不要である。
【0073】
一方で、ポアデバイス100の性能を、数ヶ月~年単位の長期間にわたって保つためには、配線112P,112Nのイオン交換領域118について、腐食防止の対策を施すことが求められる。
【0074】
配線112P,112Nの腐食について説明する。
【0075】
基板110としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)などのフィルム基板、プリント基板、ガラス基板が候補として上げられる。
【0076】
PET基板では安価で、加工性が高いため、使い捨て(ディスポーザブル)のポアデバイス100Rにおいてしばしば用いられる。PET基板は耐熱性が低いため、配線112P,112Nとしては、低温形成できる銀粒子で配線されることが多い。
【0077】
しかしながら、銀は酸化速度が速く、その表面に酸化銀の絶縁膜を形成してしまう。絶縁膜は、コンタクト領域116における基板110との電気的な接続を妨げる。電気的接続をポゴピンなどで確立する場合、ワイピングによって酸化銀の絶縁膜を突き破って新生面を露出させてコンタクトを取ることができるが、銀配線の厚みが薄いため、接触が不安定になりやすい。
【0078】
プリント基板は、一般的に電極形成で使用され、FR-4(Flame Retardant Type 4)などのガラスエポキシ材で形成される。プリント基板の場合、配線層は銅であり、通常はその上に金メッキをするため、PETのような酸化の心配はなく、外部電極との接触も良好である。
【0079】
しかしながら、ポアデバイス100の基板110として使用する場合、ボディ120の内部を電解液5で満たして長期保存する間に、電解液5に含まれる塩化物イオンが、銀塩化銀電極及びその下の金メッキを通過して配線層の銅まで達してしまう。これにより銅の塩化が起こり、絶縁体である塩化銅が電極表面に析出してきて接触不良を起こす。
【0080】
ガラス基板は、電解液を使用する電気化学計測においてよく用いられる。ガラスは融点が高いので蒸着法で直接に金を配線できる。このためプリント基板のような塩化リスクやPET基板のような接触不良リスクは低い。ただし、価格が1桁以上高くなるため、ディスポーザブルなポアデバイスには不向きである。
【0081】
以下、デバイス本体150における好ましい配線構造について説明する。
【0082】
図5は、実施例1に係るデバイス本体150Aの断面図である。ここでは配線構造に着目して説明する。
【0083】
第1電極106および第2電極108は、同様の配線構造を有する配線130Aである。
【0084】
配線130Aは、プリント基板110A上に順に積層される第1配線層132、第2配線層136、第3配線層138、カーボンバリア層134、Ag/AgCl層140を含む。第1配線層132はCu、第2配線層136はNi、第3配線層138はAuである。カーボンバリア層134は導電性を有しており、第3配線層138の上に形成される。カーボンバリア層134の上の、ボディ120の内部に露出する部分(イオン交換領域)には、電解液2とのイオン交換を効率よく行うために、Ag/AgCl層140が形成される。
【0085】
カーボンバリア層134の厚さは、たとえば10μm~30μm程度、具体的には20μm程度とするとよい。この範囲とすることで、製造コストの増加を抑えつつ、塩化物イオンをブロックすることができる。
【0086】
以上がデバイス本体150Aの構造である。続いてその利点を説明する。デバイス本体150Aにおけるカーボンバリア層134の利点を検証するために、カーボンバリア層を有するデバイスサンプルと、カーボンバリア層を省略した比較用のデバイスサンプルを作製した。そして、2つのサンプルについて、内部を電解液で満たして通電した後、電極の表面成分分析を行った。
【0087】
図6は、カーボンバリア層を省略した比較用のサンプルの電極部分の表面成分分析の結果を示す図である。カーボンバリア層を省略したサンプルでは、CuおよびClが電極表面に多く検出されることが分かる。
【0088】
図7は、カーボンバリア層を備えるサンプルの電極部分の表面成分分析の結果を示す図である。カーボンバリア層を設けたサンプルでは、表面にCuは現れず、Ag/AgCl層140に含まれるAgが多く検出されることが分かる。
【0089】
図5のデバイス本体150Aによれば、電解液5に含まれる塩化物イオンが第1配線層132に到達するのを防止できる。これにより、第1配線層132における塩化銅の生成、塩化銅の電極表面への析出を防止できる。
【0090】
図8は、実施例2に係るデバイス本体150Bの断面図である。実施例2に係るデバイス本体150Bは、プリント基板110Aに代えてフィルム基板110Bを備える。フィルム基板110Bは、たとえばPET基板であり、フィルム基板110Bの上には、電極106,108が形成される。電極106,108は、同じ構造の配線130Bで形成される。フィルム基板110Bの材料はPETに限定されず、ポリイミド、シクロオレフィンポリマー、アクリルなどで作製することが可能である。
【0091】
配線130Bは、積層された第1配線層132、カーボンバリア層134、Ag/AgCl層140を含む。第1配線層132は、Agである。カーボンバリア層134は、第1配線層132の上に形成される。カーボンバリア層134は、ボディ120の内部と外部の両方に形成されている。
【0092】
以上がデバイス本体150Bの構成である。デバイス本体150Bでは、ボディ120の内側においては、カーボンバリア層134によって電解液5中の塩化物イオンが第1配線層132に到達するのを防止できる。
【0093】
さらにボディ120の外側においては、カーボンバリア層134によって第1配線層132の酸化を防ぐことができる。
【0094】
続いて配線130の変形例を説明する。
【0095】
(変形例1)
図9は、変形例1に係るデバイス本体150C断面図である。実施例1および実施例2では、コンタクト領域が、基板110の上面に形成されたがその限りでない。変形例1では、コンタクト領域116は、基板110の裏面、つまりイオン交換領域118の反対側に形成される。
【0096】
配線130Cは、基板110の裏面に積層された第1配線層132、カーボンバリア層134、第3配線層138を含む配線あるいはパッドを有する。プリント基板110Aの上面側の第1配線層132と、下面側の第1配線層132の間はビアホール133で接続される。
【0097】
(変形例2)
図10は、変形例2に係るデバイス本体150Dの断面図である。変形例2においては、コンタクト領域116とイオン交換領域118の間が、プリント基板110Dの内部の配線131およびビアホール133を介して接続される。
【0098】
実施の形態にもとづき本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0099】
1 微粒子測定システム
2 電解液
4 粒子
5 電解液
200 計測装置
210 トランスインピーダンスアンプ
220 電圧源
230 デジタイザ
100 ポアデバイス
101 ポアチップケース
102 ポアチップ
104 ポア
106,108 電極
110 基板
110A プリント基板
110B フィルム基板
112P,112N 配線
116 コンタクト領域
118 イオン交換領域
120 ボディ
122 第1空間
124 第2空間
130 配線
132 第1配線層
134 カーボンバリア層
136 第2配線層
138 第3配線層
140 Ag/AgCl層
150 デバイス本体
152 注入口