(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025156940
(43)【公開日】2025-10-15
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/124 20160101AFI20251007BHJP
H01M 8/1226 20160101ALI20251007BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20251007BHJP
H01M 8/1213 20160101ALI20251007BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20251007BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20251007BHJP
H01M 8/0202 20160101ALI20251007BHJP
【FI】
H01M8/124
H01M8/1226
H01M8/12 101
H01M8/1213
H01M4/88 T
H01M4/86 T
H01M8/0202
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024059717
(22)【出願日】2024-04-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 遥平
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB01
5H018EE13
5H018HH05
5H126AA02
5H126AA14
5H126BB06
5H126GG02
5H126GG08
5H126HH01
5H126HH02
5H126JJ08
(57)【要約】
【課題】電解質層の割れ、及び、空気極層の劣化を抑制することができる、固体酸化物形燃料電池の製造方法を提供すること。
【解決手段】固体酸化物形燃料電池の製造方法は、積層体作製工程と、空気極前駆体層を焼成することにより空気極層を形成する、空気極形成工程と、を含む。空気極形成工程は、燃料極閉空間と、空気極閉空間とを形成する、閉空間形成工程と、燃料極閉空間に還元性ガスを供給し、空気極閉空間に酸素を含む酸化性ガスを供給した状態で、空気極前駆体層を焼成する、焼成工程とを含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属支持体層、燃料極層、電解質層、及び空気極前駆体層がこの順に積層された構成を有する積層体を作製する、積層体作製工程と、
前記空気極前駆体層を焼成することにより空気極層を形成する、空気極形成工程と、
を含み、
前記金属支持体層は、多孔質構造を有し、ステンレスを含む材料により形成され、
前記空気極形成工程は、
前記燃料極層及び前記金属支持体層を含む燃料極閉空間と、前記空気極前駆体層を含む空気極閉空間とを形成する、閉空間形成工程と、
前記燃料極閉空間に還元性ガスを供給し、前記空気極閉空間に酸素を含む酸化性ガスを供給した状態で、前記空気極前駆体層を焼成する、焼成工程と、
を含んでいる、
固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法であって、
前記金属支持体層及び前記燃料極層の外周部には、緻密構造を有する緻密部が設けられており、
前記緻密部は、前記燃料極閉空間中の前記還元性ガスが前記空気極閉空間側に漏洩しないように、前記電解質層の外周部に接している、
製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の製造方法であって、
前記焼成工程は、前記緻密部を加圧する工程を含んでいる、
製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の製造方法であって、
前記閉空間形成工程は、焼成治具内に、前記燃料極閉空間及び前記空気極閉空間が形成されるように、ガスケット及び前記積層体を配置する工程を含み、
前記積層体は、前記緻密部の一部が積層方向において前記焼成治具と前記ガスケットとにより挟まれるように、配置され、
前記緻密部を加圧する工程は、前記焼成治具と前記ガスケットとによって、積層方向において前記緻密部を加圧する工程を含んでいる、
製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載の製造方法であって、
前記緻密部のうちの前記金属支持体層の外周部に設けられた部分が金属支持体層緻密部と称され、
前記金属支持体層緻密部は、緻密なステンレスにより形成されている、
製造方法。
【請求項6】
請求項2に記載の製造方法であって、
前記緻密部のうちの前記金属支持体層の外周部に設けられた部分が金属支持体層緻密部と称され、
前記金属支持体層緻密部には、充填剤が充填されており、
前記充填剤は、K、Na、Ca、Mg、Al、B、Si、Zr、Ce、及びYからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含んでいる、
製造方法。
【請求項7】
請求項2に記載の製造方法であって、
前記閉空間形成工程は、焼成治具内に、前記燃料極閉空間及び前記空気極閉空間が形成されるように、前記積層体を配置する工程を含み、
前記配置する工程は、前記緻密部の外周面と前記焼成治具との間にシール材を充填する工程を含んでいる、
製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の製造方法であって、
前記金属支持体層の外周部には、緻密構造を有する金属支持体層緻密部が設けられており、
積層方向に沿って見た場合に、前記金属支持体層緻密部及び前記電解質層の外周端は、前記燃料極層の外周端よりも外側に位置しており、
前記電解質層の外周部と前記金属支持体層緻密部とは、前記燃料極閉空間中の前記還元性ガスが前記空気極閉空間側に漏洩しないように、接している、
製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の製造方法であって、
前記閉空間形成工程は、1つの焼成治具内に複数の前記積層体を配置する工程を含み、
前記焼成工程において、前記複数の積層体が一括して焼成される、
製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の製造方法であって、
前記焼成工程は、前記空気極層におけるペロブスカイト構造を有する結晶構造の含有量が80質量%以上になるように、焼成を行う工程を含んでいる、
製造方法。
【請求項11】
請求項1に記載の製造方法であって、
更に、
前記空気極形成工程の後に、前記空気極層上に、集電接合層を介してインターコネクタを加熱により接合する、集電接合工程、を含み、
前記集電接合工程における加熱温度は、前記焼成工程における焼成温度よりも低い、
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)として、多孔質構造を有するステンレス製の金属支持体層を用いたものが知られている。金属支持体層は、金属サポート及びメタルサポート等と呼ばれる場合もある。例えば、特許文献1(特表2008-502113号公報)には、金属サポート材料、特定の構成を有する活性アノード層、電解質層、活性カソード層、およびカソード集電板などを有する特定のSOFCセルが開示されている。
【0003】
金属支持体層を有する固体酸化物形燃料電池の製造時において、焼成により、空気極層が形成されることがある。例えば、金属支持体層、燃料極層、及び電解質層を有する積層体上に、空気極層の前駆体となる空気極前駆体層が形成される。そして、空気極前駆体層の形成後、積層体が焼成され、空気極層が形成される。前述の特許文献1にも、カソード(空気極)が、スタック内でin-situで焼結される点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、空気極層の焼成を酸素雰囲気下で実施すると、ステンレス製である金属支持体層が酸化により膨張することがある。金属支持体層の膨張により、電解質層が引っ張られ、割れることがある。
【0006】
その一方で、焼成工程を酸素分圧が低い環境下(例えば、N2雰囲気下)で実施すると、空気極層が劣化しやすくなる。空気極層は、ペロブスカイト構造を有する酸化物により形成されることが多い。このような空気極層が低酸素分圧下で焼成されると、金属酸化物の相が分相することがある。このような分相は、空気極層の劣化の原因になり得る。具体的には、空気極層における電極としての活性の低下や、耐久性の低下の原因となり得る。
【0007】
従って、本発明の目的は、電解質層の割れ、及び、空気極層の劣化を抑制することができる、固体酸化物形燃料電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様において、本発明に係る固体酸化物形燃料電池の製造方法は、金属支持体層、燃料極層、電解質層、及び空気極前駆体層がこの順に積層された構成を有する積層体を作製する、積層体作製工程と、空気極前駆体層を焼成することにより空気極層を形成する、空気極形成工程とを含む。金属支持体層は、多孔質であり、ステンレスを含む材料により形成される。空気極形成工程は、燃料極層及び金属支持体層を含む燃料極閉空間と、空気極前駆体層を含む空気極閉空間とを形成する、閉空間形成工程と、燃料極閉空間に還元性ガスを供給し、空気極閉空間に酸素を含む酸化性ガスを供給した状態で、空気極前駆体層を焼成する、焼成工程と、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電解質層の割れ、及び、空気極層の劣化を抑制することができる、固体酸化物形燃料電池の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態に係る固体酸化物形燃料電池を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る固体酸化物形燃料電池の製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、燃料極閉空間及び空気極閉空間の形成方法の一例を示す概略図である。
【
図4】
図4は、変形例1における積層体の構成を示す概略図である。
【
図5】
図5は、変形例2における積層体の構成を示す概略図である。
【
図6】
図6は、変形例3における積層体の構成を示す概略図である。
【
図7】
図7は、変形例4における焼成治具及び積層体の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
【0012】
(1)固体酸化物形燃料電池
図1は、本実施形態に係る固体酸化物形燃料電池1を示す概略断面図である。
図1には、固体酸化物形燃料電池1における1つのセルに対応する構成が示されている。
【0013】
図1に示されるように、固体酸化物形燃料電池1は、金属支持体層2、燃料極層3、電解質層4、空気極層5、集電接合層6、及びインターコネクタ7を有している。これらは、積層方向に沿ってこの順で積層されている。また、金属支持体層2及び燃料極層3の外周部には、緻密部8が設けられている。
【0014】
金属支持体層2は、多孔質構造を有している。金属支持体層2は、ステンレス製である。多孔質構造を有しているため、金属支持体層2はガス透過性を有している。
【0015】
燃料極層3も、多孔質である。そのため、燃料極層3内には、ガスが入り込むことが可能となっている。燃料極層3の材質は特に限定されない。例えば、燃料極層3は、SUS及び安定化ジルコニア(SSZ)等により、形成することができる。
【0016】
電解質層4は、緻密構造を有している。緻密構造を有しているため、電解質層4は、ガスを遮断する。電解質層4の材質は特に限定されない。電解質層4は、例えば、安定化ジルコニア(SSZ)及びガドリニアドープセリア(GDC)等により、形成することができる。
【0017】
空気極層5は、酸化物を有する材料により形成される。空気極層5は、例えば、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物(LSC)及びランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LSCF)等により、形成される。
【0018】
好ましくは、空気極層5は、ペロブスカイト構造を有する結晶構造を含む。より好ましくは、空気極層5における80質量%以上は、ペロブスカイト構造を有する結晶構造である。このような構成を採用すれば、空気極層5の耐久性が向上する。80質量%以上がペロブスカイト構造を有する結晶構造である空気極層5は、例えば、後述する製造方法を採用することにより、得ることができる。
【0019】
緻密部8は、上述のように、金属支持体層2及び燃料極層3の外周部に設けられている。緻密部8は、金属支持体層2及び燃料極層3の外周部において、厚み方向における全体にわたって設けられている。緻密部8は、緻密であるため、ガスを遮断する機能を有している。緻密部8が設けられていることによって、金属支持体層2及び燃料極層3内に存在するガスが、側面から漏洩することが防止される。
【0020】
緻密部8は、電解質層4の外周部に接している。具体的には、電解質層4の外周端は、緻密部8上に位置している。その結果、緻密部8における上面(空気極層5側の面)の一部と、電解質層4の外周部とが接している。すなわち、電解質層4と緻密部8との間には隙間が存在しない。このような構成によれば、金属支持体層2及び燃料極層3内に存在するガスが、緻密部8と電解質層4との間の隙間から漏洩することも防ぐことができる。
【0021】
なお、以下の説明において、緻密部8のうち、金属支持体層2の外周部に設けられた部分が、金属支持体層緻密部8-1と称される。また、緻密部8のうち、燃料極層3の外周部に設けられた部分が、燃料極層緻密部8-2と称される。
【0022】
金属支持体層緻密部8-1及び燃料極層緻密部8-2は、いずれも、ガスを遮断する程度に緻密な構成を有していればよく、その具体的な構成は特に限定されない。例えば、金属支持体層緻密部8-1については、緻密なステンレスにより形成することができる。あるいは、緻密部8は、充填剤が充填されることによって、緻密化された部分であってもよい。充填剤としては、例えば、K、Na、Ca、Mg、Al、B、Si、Zr、Ce、及びYからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含むものが挙げられる。充填材として、より具体的には、ガラス材に、K、Na、Ca、Mg、Al、B、Si、Zr、Ce、及びYからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む添加剤が添加されたものを挙げることができる。なお、充填剤は、金属支持体層2及び燃料極層3の側面を覆うように配置されていてもよく、これによって、金属支持体層2及び燃料極層3の側面に緻密部8が形成されていてもよい。
【0023】
積層方向に沿って見た場合に、緻密部8の外周端は、電解質層4の外周端よりも外側に位置している。従って、緻密部8の上面の一部は、電解質層4により覆われておらず、露出している。詳細は後述するが、この露出部分は、製造時に、緻密部8において積層体を拘束(固定)するために使用することができる。露出部分が設けられていることによって、割れやすい電解質層4に力を加えることなく積層体を拘束することができる。
【0024】
集電接合層6は、インターコネクタ7を空気極層5に接合するために設けられている。集電接合層6は、導電性材料により形成されている。
【0025】
インターコネクタ7は、セル同士を区画する部材である。図示していないが、インターコネクタ7上には、固体酸化物形燃料電池1における他のセルが積層される。
【0026】
以上が本実施形態に係る固体酸化物形燃料電池1の構成である。なお、上述の固体酸化物形燃料電池1は、電解質層4における一方の側(燃料極層3側)にのみ、金属支持体層2が設けられている。従って、固体酸化物形燃料電池1は、いわゆる片側メタルサポート型の固体酸化物形燃料電池1であると言える。
【0027】
(2)固体酸化物形燃料電池の製造方法
続いて、固体酸化物形燃料電池の製造方法について説明する。
図2は、本実施形態に係る固体酸化物形燃料電池の製造方法を示すフローチャートである。概略的には、この製造方法は、積層体を作製する工程(ステップS1)と、空気極を形成する工程(ステップS2)と、集電接合工程(ステップS3)とを含んでいる。以下、各工程について説明する。
【0028】
(ステップS1)積層体の作製
まず、金属支持体層2、燃料極層3、電解質層4及び緻密部8を含む積層物を形成する。そして、この積層物上に空気極前駆体層を形成し、積層体を得る。なお、空気極前駆体層は、空気極層5の前駆体となる層である。空気極前駆体層は、後述するステップS2において焼成することにより、空気極層5となる。すなわち、空気極前駆体層は、グリーンシートにより形成された層であると言える。
【0029】
金属支持体層2、燃料極層3及び電解質層4の各々の形成方法は、特に限定されない。各層は、例えば、グリーンシートを作製し、還元性ガスの雰囲気で焼成することにより、得ることができる。例えば、金属支持体層2用のグリーンシートと、燃料極層3用のグリーンシートと、電解質層4用のグリーンシートとを作成し、これらを積層する。そして、得られた構造物を一括して焼成する。これにより、金属支持体層2、燃料極層3、及び電解質層4が積層された構造物を得ることができる。あるいは、焼成は必ずしも一括して行う必要はなく、各層を積層する度に行われてもよい。例えば、まず、金属支持体層2用のグリーンシートを作製し、焼成することにより、金属支持体層2を形成する。次いで、金属支持体層2上に燃料極層3用のグリーンシートを積層し、焼成する。これにより、金属支持体層2上に燃料極層3を形成する。更に、燃料極層3上に電解質層4用のグリーンシートを積層し、焼成する。これにより、燃料極層3上に電解質層4を形成する。このような方法によっても、金属支持体層2、燃料極層3、及び電解質層4が積層された構造物を得ることができる。
【0030】
また、緻密部8の形成方法も特に限定されない。例えば、金属支持体層2及び燃料極層3のグリーンシートを作製する際に、外周部についてのみ空孔が形成されないような条件でグリーンシートを作製すれば、緻密部8を形成することができる。あるいは、一旦金属支持体層2及び燃料極層3を作製した後、外周部に充填剤等を充填することにより、緻密部8を形成することもできる。
【0031】
(ステップS2)空気極の形成
続いて、空気極前駆体層を焼成することにより、空気極層5を形成する。本工程は、閉空間形成工程(ステップS2-1)と、焼成工程(ステップS2-2)とを有している。閉空間形成工程(ステップS2-1)では、燃料極層3及び金属支持体層2を含む燃料極閉空間と、空気極前駆体層を含む空気極閉空間とが形成される。そして、焼成工程(ステップS2-2)では、燃料極閉空間に還元性ガス(例えば、水素含有ガス)が供給され、空気極閉空間に酸素を含む酸化性ガスが供給された状態で、空気極前駆体層が焼成される。
【0032】
このような方法によれば、金属支持体層2は還元性ガスの雰囲気下であるため、酸化され難い。そのため、金属支持体層2の酸化による膨張が抑制される。膨張した金属支持体層2により電解質層4が引っ張られ難くなる。その結果、電解質層4の割れが防止される。
【0033】
一方で、空気極前駆体層については、酸化性ガスの雰囲気下で焼成される。酸素分圧が低い環境(還元性ガスの雰囲気下)で焼成される場合とは異なり、金属酸化物の分相は起りにくい。分相が抑制されるから、得られる空気極層5の劣化が抑制される。
【0034】
すなわち、本ステップにおいては、空気極前駆体層と金属支持体層2とが異なる雰囲気下に存在する状態で、空気極前駆体層が焼成される。その結果、電解質層4の割れを防ぐとともに、空気極層5の劣化を抑制することが可能となる。
【0035】
以上が本工程の概略である。続いて、本工程について、一例を参照しつつ、より具体的に説明する。
【0036】
(ステップS2-1:閉空間の形成)
図3は、燃料極閉空間11及び空気極閉空間10の形成方法の一例を示す概略図である。
図3を参照して、燃料極閉空間11及び空気極閉空間10の形成方法の一例を説明する。
【0037】
図3に示される例では、燃料極閉空間11及び空気極閉空間10を形成するために、焼成治具9及びガスケット12が使用されている。焼成治具9内にガスケット12及び積層体16を配置することにより、燃料極閉空間11及び空気極閉空間10が形成される。
【0038】
詳細には、焼成治具9は、第1部材9-1と、第2部材9-2とを有している。第1部材9-1と第2部材9-2とは、ねじなどの締結部材により締結することができるように構成されている。ガスケット12及び積層体16は、第1部材9-1と第2部材9-2との間に挟まれ、固定される。
【0039】
より詳細には、第2部材9-2上に、ガスケット12が配置される。ガスケット12は、枠状である。ガスケット12上には、積層体16が配置される。積層体16は、金属支持体層2側がガスケット12側を向くように、ガスケット12上に載せられる。また、積層体16は、緻密部8がガスケット12の枠上に位置するように、ガスケット12上に配置される。金属支持体層2の中央部は、ガスケット12の開口部の上に位置する。これにより、電解質層4、緻密部8、ガスケット12及び第2部材9-2によって囲まれた空間が形成される。この空間が燃料極閉空間11として機能する。なお、第2部材9-2には、バルブを有する流路14が設けられている。流路14を介して、燃料極閉空間11に還元性ガスを供給することが可能である。
【0040】
第1部材9-1は、ガスケット12及び積層体16を挟むように、第2部材9-2上に配置される。第1部材9-1は、電解質層4の空気極前駆体層5’側に、空気極閉空間10として密閉空間が形成されるような形状を有している。第1部材9-1には、空気極閉空間10に酸化性ガスを供給するための流路13が設けられている。流路13にはバルブが設けられている。流路13を介して、空気極閉空間10に酸化性ガスを供給することが可能となっている。
【0041】
上述のような構成を有する焼成治具9及びガスケット12を用いることにより、空気極閉空間10と燃料極閉空間11とを形成することができる。そして、燃料極閉空間11に還元性ガスを、空気極閉空間10に酸化性ガスを、それぞれ供給することができる。なお、積層体16においては、電解質層4と緻密部8とが接している。従って、燃料極閉空間11供給された還元性ガスが、電解質層4と緻密部8との間の隙間を介して空気極閉空間10側に漏洩することはない。また、空気極閉空間10に供給された酸化性ガスが燃料極閉空間11側に漏洩することもない。そのため、金属支持体層2については還元性ガス雰囲気下とし、空気極前駆体層5’については酸化性ガス雰囲気下とした状態で、空気極前駆体層5’を焼成することができる。
【0042】
なお、
図3に示した例では、第1部材9-1が、緻密部8の外側面を覆う部分を有している。これにより、緻密部8の側部からガスが漏洩することが、より確実に防止される。
【0043】
また、
図3に示した例では、第1部材9-1が、緻密部8の上面における露出部分(電解質層4からはみ出した部分)に接する部分を有している。これにより、緻密部8の少なくとも一部の領域が、積層方向においてガスケット12と第1部材9-1とによって挟まれ、固定されている。このような構成によれば、緻密部8に拘束圧を加えることにより、積層体16を拘束することができる。積層体16を固定するために、電解質層4に拘束圧を加える必要がない。電解質層4は、割れやすい材料により形成されることが多い。そのため、電解質層4に拘束圧が加わると、電解質層4が割れることがある。しかし、積層体16を緻密部8において拘束すれば、電解質層4に拘束圧を加える必要がないので、拘束時における電解質層4の割れを防ぐことができる。
【0044】
また、
図3に示されるような構成を有する焼成治具9を用いれば、緻密部8が加圧される。具体的には、焼成治具9とガスケット12とによって、緻密部8が積層方向において加圧される。緻密部8が加圧されると、緻密部8におけるガス遮断性能がより向上する。その結果、燃料極閉空間11と空気極閉空間10との間でのガスの漏洩をより確実に防止することができる。
【0045】
(ステップS2-2:焼成工程に関して)
続いて、ステップS2-2(焼成工程)について説明する。ステップS2-2における焼成温度は、固体酸化物形燃料電池1の運転温度(例えば500~700℃)よりも高い温度である。焼成温度は、例えば750℃以上、好ましくは800~900℃である。このような温度で焼成を行うと、空気極前駆体層5’を十分に焼結させることができる。なお、このような高温で焼成を行うと、通常、金属支持体層2の酸化膨張が起こりやすい。また、空気極層5における酸化物相の分相も起こりやすい。しかし、本実施形態によれば、上述のように、金属支持体層2と空気極前駆体層5’とが異なる雰囲気下で焼成が行われるので、焼成温度が高くとも、金属支持体層2の酸化膨張や空気極層5における酸化物相の分相を抑制することができる。
【0046】
なお、本ステップでは、空気極前駆体層5’が酸化性ガス雰囲気下で焼成される。その結果、金属酸化物相の分相が抑制される。その結果、空気極層5として、ペロブスカイト構造を有する結晶構造が80質量%以上を占める構成を得ることができる。言い換えれば、ペロブスカイト構造以外の構造を有する不純物成分の量が少なくなる。不純物成分が少ないことにより、空気極層5の耐久性を高めることができる。
【0047】
(ステップS3)集電接合工程
続いて、集電接合工程について説明する。焼成工程(ステップS2-2)の後、空気極層5上に集電接合層6を介してインターコネクタ7が接続される。例えば、空気極層5上に、集電接合層6として導電性材料を積層し、更に集電接合層6上にインターコネクタ7を配置する。そして、加熱処理を行う。これにより、空気極層5上にインターコネクタ7を接続することができる。
【0048】
なお、本ステップにおける加熱処理は、通常の雰囲気(大気中)で実施することができる。ただし、ステップにおいて加熱処理を行う場合、その加熱温度は、ステップS2-2における焼成温度よりも低いことが好ましい。例えば、加熱温度は、700~1000℃である。このような加熱温度であれば、酸素を含有する雰囲気であっても、金属支持体層2は酸化し難い。従って、金属支持体層2の酸化膨張による電解質層4の割れは、起こりにくい。
【0049】
以上、本実施形態に係る固体酸化物形燃料電池の製造方法について説明した。上述のように、本実施形態によれば、金属支持体層2については還元性ガス雰囲気下とし、空気極前駆体層5’については酸化性ガス雰囲気下とした状態で、空気極前駆体層5’が焼成される。これにより、金属支持体層2の酸化を防止でき、かつ、空気極層5における酸化物の分相も抑制できる。その結果、金属支持体層2の酸化膨張に伴う電解質層4の割れを防ぐとともに、酸化物相の分相に伴う空気極層5の劣化も抑制できる。
【0050】
(変形例1)
続いて、本実施形態の変形例1について説明する。
図4は、本変形例における積層体16の構成を示す概略図であり、ステップS2-1(空気極の形成)における構成を示す概略図である。なお、
図3に示した例と同様の構成を採用できる点については、詳細な説明を省略する。
【0051】
図4に示されるように、本変形例においては、緻密部8が、金属支持体層2の外周部にのみ設けられている。すなわち、燃料極層3の外周部に緻密部8は設けられていない。緻密部8としては、金属支持体層緻密部8-1のみが設けられている。また、電解質層4は、燃料極層3の側面を覆うように設けられている。積層方向に沿って見た場合に、金属支持体層緻密部8-1及び電解質層4の外周端は、燃料極層3の外周端よりも外側に位置している。電解質層4の外周部と金属支持体層緻密部8-1とは、燃料極閉空間11中の還元性ガスが空気極閉空間10側に漏洩しないように、接している。
【0052】
また、積層方向に沿って見た場合に、金属支持体層緻密部8-1の外周端は、電解質層4の外周端の外側に位置している。その結果、金属支持体層緻密部8-1の上面には、電解質層4から露出した部分が設けられている。第1部材9-1は、この露出部分に接している。これにより、積層体16は、金属支持体層緻密部8-1において第1部材9-1とガスケット12とによって挟まれ、拘束されている。
【0053】
本変形例のような構成を採用しても、
図3に示した例と同様の作用効果を得ることができる。すなわち、焼成治具9内に積層体16を配置することにより、空気極閉空間10と燃料極閉空間11とを形成することができる。そのため、金属支持体層2と空気極前駆体層5’とを異なる雰囲気下に置いた状態で、空気極前駆体層5’を焼成することができる。また、電解質層4に拘束圧を加えることなく、緻密部8において積層体16を拘束できる。その結果、拘束圧による電解質層4の割れを防ぐことができる。
【0054】
(変形例2)
続いて、本実施形態の変形例2について説明する。
図5は、本変形例における積層体16の構成を示す概略図であり、ステップS2-1(空気極の形成)における構成を示す概略図である。なお、
図3及び
図4に示した例と同様の構成を採用できる点については、詳細な説明を省略する。
【0055】
本変形例においても、ステップS2-1において、積層体16が焼成治具9内に配置される。この際、緻密部8の外周面と焼成治具9との間に、シール材15が充填される。シール材15を充填することにより、緻密部8を介したガスの漏洩が、より確実に防止される。その結果、空気極閉空間10が酸化性ガス雰囲気下に維持されやすくなり、燃料極閉空間11が還元性ガス雰囲気下に維持されやすくなる。よって、金属支持体層2の酸化膨張に伴う電解質層4の割れ、及び、酸化物相の分相に伴う空気極層5の劣化が、より確実に防止される。
【0056】
なお、シール材15としては、例えば、ガラス材などが用いられる。例えば、ガラス材として、K、Na、Ca、Mg、Al、B、Si、Zr、Ce、及びYからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む添加剤が添加されたものが用いられる。
【0057】
(変形例3)
続いて、変形例3について説明する。
図6は、本変形例における積層体16の構成を示す概略図であり、ステップS2(空気極の形成)における構成を示す概略図である。本変形例においては、シール材15が、緻密部8の外周面だけでなく、積層方向における上下面を覆うように、配置されている。その他の点は、変形例2と同様の構成を採用することができる。
【0058】
本変形例によれば、緻密部8の上下面にもシール材が配置されているから、緻密部8を介したガスの漏洩が、より確実に防止される。
【0059】
(変形例4)
続いて、変形例4について説明する。本変形例では、焼成治具9の構成が工夫されている。
図7は、本変形例における焼成治具9及び積層体16の構成を示す概略図である。本変形例においては、1個の焼成治具9に、複数の積層体16を配置するための空間が設けられている。すなわち、本変形例においては、閉空間形成工程(ステップS2-1)において、1個の焼成治具9内に複数の積層体16が配置される。そして、焼成工程(ステップS2-2)において、複数の積層体16が一括して焼成される。
【0060】
本変形例によれば、複数の積層体16が一括して焼成されるから、生産効率が高められる。
【0061】
以上、本発明について、実施形態及び変形例を参照しつつ、説明した。なお、本発明に含まれる主な構成及びその作用効果を、付記として以下に要約する。
【0062】
(付記1)
金属支持体層2、燃料極層3、電解質層4、及び空気極前駆体層5’がこの順に積層された構成を有する積層体16を作製する、積層体作製工程(S1)と、空気極前駆体層を焼成することにより空気極層を形成する、空気極形成工程(S2)と、を含み、金属支持体層2は、多孔質構造を有し、ステンレスを含む材料により形成され、空気極形成工程は、燃料極層及び金属支持体層を含む燃料極閉空間11と、空気極前駆体層を含む空気極閉空間10とを形成する、閉空間形成工程(S2-1)と、燃料極閉空間に還元性ガスを供給し、空気極閉空間に酸素を含む酸化性ガスを供給した状態で、空気極前駆体層を焼成する、焼成工程(S2-2)と、を含んでいる、固体酸化物形燃料電池の製造方法。
【0063】
この方法によれば、金属支持体層2は還元性ガス雰囲気下であり、空気極前駆体層5’は酸化性ガス雰囲気下である状態で、空気極前駆体層5’が焼成される。そのため、金属支持体層2の酸化が抑制され、電解質層4の割れが抑制される。加えて、空気極層5における酸化物の分相が抑制され、空気極層5の劣化が抑制される。
【0064】
(付記2)
付記1に記載の製造方法であって、金属支持体層及び燃料極層の外周部には、緻密構造を有する緻密部8が設けられており、緻密部は、燃料極閉空間中の還元性ガスが空気極閉空間側に漏洩しないように、電解質層の外周部に接している、製造方法。
【0065】
この方法によれば、緻密部8が設けられているため、空気極閉空間と燃料極閉空間との間のガスの移動を、より確実に防ぐことができる。
【0066】
(付記3)
付記2に記載の製造方法であって、焼成工程は、緻密部を加圧する工程を含んでいる、製造方法。
【0067】
この方法によれば、緻密部が加圧されるので、緻密部においてガスをより確実に遮断することができる。
【0068】
(付記4)
付記3に記載の製造方法であって、閉空間形成工程は、焼成治具9内に記燃料極閉空間及び空気極閉空間が形成されるように、ガスケット12及び積層体16を配置する工程を含み、積層体は、緻密部の一部が積層方向において焼成治具とガスケットとにより挟まれるように、配置され、緻密部を加圧する工程は、焼成治具とガスケットとによって、積層方向において緻密部を加圧する工程を含んでいる、製造方法。
【0069】
この方法によれば、緻密部が加圧することができ、緻密部においてガスをより確実に遮断することができる。
【0070】
(付記5)
付記2~4のいずれかに記載の製造方法であって、緻密部のうちの金属支持体層の外周部に設けられた部分が金属支持体層緻密部8-1と称され、金属支持体層緻密部8-1は、緻密なステンレスにより形成されている、製造方法。
【0071】
この方法によれば、緻密なステンレスによって、金属支持体層緻密部を形成することができる。
【0072】
(付記6)
付記2~4のいずれかに記載の製造方法であって、緻密部のうちの金属支持体層の外周部に設けられた部分が金属支持体層緻密部と称され、金属支持体層緻密部には、充填剤が充填されており、充填剤は、K、Na、Ca、Mg、Al、B、Si、Zr、Ce、及びYからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含んでいる、製造方法。
【0073】
この方法によれば、充填剤によって、金属支持体層緻密部を形成することができる。
【0074】
(付記7)
付記2~6のいずれかに記載の製造方法であって、閉空間形成工程は、焼成治具内に、燃料極閉空間及び空気極閉空間が形成されるように、積層体を配置する工程を含み、配置する工程は、緻密部の外周面と焼成治具との間にシール材を充填する工程を含んでいる、製造方法。
【0075】
この方法によれば、緻密部と燃焼治具との間の隙間を介したガスのリークを防ぐことができる。
【0076】
(付記8)
付記1に記載の製造方法であって、金属支持体層の外周部には、緻密構造を有する金属支持体層緻密部が設けられており、積層方向に沿って見た場合に、金属支持体層緻密部及び電解質層の外周端は、燃料極層の外周端よりも外側に位置しており、電解質層の外周部と金属支持体層緻密部とは、燃料極閉空間中の還元性ガスが空気極閉空間側に漏洩しないように、接している、製造方法。
【0077】
この方法によれば、電解質層と緻密部との間に隙間が生じないから、燃料極閉空間と空気極閉空間との間のガスの移動を、より確実に防ぐことができる。
【0078】
(付記9)
付記1~8のいずれかに記載の製造方法であって、閉空間形成工程は、1つの焼成治具内に複数の積層体を配置する工程を含み、焼成工程において、複数の積層体が一括して焼成される、製造方法。
【0079】
この方法によれば、複数の積層体を一括して焼成できるから、生産性が向上する。
【0080】
(付記10)
付記1~9のいずれかに記載の製造方法であって、焼成工程は、空気極層におけるペロブスカイト構造を有する結晶構造の含有量が80質量%以上になるように、焼成を行う工程を含んでいる、製造方法。
【0081】
この方法によれば、空気極層の耐久性を高めることができる。
【0082】
(付記11)
付記1~10のいずれかに記載の製造方法であって、更に、空気極形成工程の後に、空気極層上に、集電接合層を介してインターコネクタを加熱により接合する、集電接合工程、を含み、集電接合工程における加熱温度は、焼成工程における焼成温度よりも低い、製造方法。
【0083】
この方法によれば、金属支持体層2を酸化させることなく、インターコネクタを空気極層に接合させることができる。
【符号の説明】
【0084】
1・・・固体酸化物形燃料電池、2・・・金属支持体層、3・・・燃料極層、4・・・電解質層、5・・・空気極層、6・・・集電接合層、7・・・インターコネクタ、8・・・緻密部、9・・・焼成治具、10・・・空気極閉空間、11・・・燃料極閉空間、12・・・ガスケット、13・・・流路、14・・・流路、15・・・シール材、16・・・積層体