IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本製紙株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025156985
(43)【公開日】2025-10-15
(54)【発明の名称】ハードコートフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20251007BHJP
   B32B 27/16 20060101ALI20251007BHJP
   C08J 7/046 20200101ALI20251007BHJP
【FI】
B32B27/30 A
B32B27/16 101
C08J7/046 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024059781
(22)【出願日】2024-04-02
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113343
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 武史
(72)【発明者】
【氏名】野上 花歩子
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 翔太朗
(72)【発明者】
【氏名】眞壁 岳史
【テーマコード(参考)】
4F006
4F100
【Fターム(参考)】
4F006AA39
4F006AB39
4F006AB43
4F006BA02
4F006CA08
4F006EA03
4F100AA20B
4F100AK25
4F100AK25B
4F100AK49
4F100AK49A
4F100AK56A
4F100AL08
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100DE01B
4F100EH46
4F100EJ08
4F100EJ08B
4F100EJ54
4F100EJ54B
4F100GB48
4F100JA07B
4F100JB05
4F100JB05B
4F100JB14
4F100JB14B
4F100JK12
4F100JK12B
4F100JK14
4F100JK14A
4F100JK16B
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】基材に難密着性フィルムを使用し、基材に対する前処理無しでハードコートによる撥水、防汚、低摩擦化等の機能化を可能とし、ハードコート密着性、ハード性にも優れたハードコートフィルムを提供する。
【解決手段】このハードコートフィルムは、基材フィルム表面の水接触角A(°)と算術平均表面粗さB(nm)の関係が、関係式1:0≦A-7.5×lnB-48を満足する基材フィルムの少なくとも片面に、官能基数Cと重量平均分子量Dの関係が、関係式2:C-7.1×logD+13.6<0かつ0≦C-5.4×logD+12.8を満足するアクリレート系紫外線硬化型樹脂及び表面改質剤を少なくとも含有するハードコート層が積層され、ハードコート層表面の赤外分光光度計測定にて1730cm-1に吸収ピークを有し、ハードコート層表面の水接触角が90°以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム表面の水接触角A(°)と算術平均表面粗さB(nm)の関係が、関係式1:0≦A-7.5×lnB-48を満足する基材フィルムの少なくとも片面に、官能基数Cと重量平均分子量Dの関係が、関係式2:C-7.1×logD+13.6<0かつ0≦C-5.4×logD+12.8を満足するアクリレート系紫外線硬化型樹脂及び表面改質剤を少なくとも含有するハードコート層が積層され、前記ハードコート層表面の赤外分光光度計測定にて1730cm-1に吸収ピークを有し、前記ハードコート層表面の水接触角が90°以上であることを特徴とするハードコートフィルム。
【請求項2】
前記表面改質剤は、シリコーン含有ポリマーおよびフッ素含有ポリマーから少なくとも1種を用いることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項3】
前記表面改質剤の配合量は、前記ハードコート層のアクリレート系紫外線硬化型樹脂100質量部に対して、0.2質量部~0.6質量部であることを特徴とする請求項1又は2に記載のハードコートフィルム。
【請求項4】
前記ハードコート層はさらにシリカ微粒子を含有し、前記ハードコート層表面の赤外分光光度計測定にて1050cm-1に吸収ピークを有することを特徴とする請求項1又は2に記載のハードコートフィルム。
【請求項5】
SUS材に対する前記ハードコート層表面の静摩擦係数が0.4以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のハードコートフィルム。
【請求項6】
前記ハードコートフィルムの、JIS-K5600-5-6のクロスカット法により測定される前記ハードコート層の残存率が75%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のハードコートフィルム。
【請求項7】
前記ハードコートフィルム表面の鉛筆硬度が2B以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のハードコートフィルム。
【請求項8】
前記ハードコート層の膜厚が3μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のハードコートフィルム。
【請求項9】
前記基材フィルムは、ポリアリールエーテルケトンフィルムまたはポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項1又は2に記載のハードコートフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部材等に用いられるハードコートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置、液晶表示装置(LCD)等のディスプレイの表示面には、取り扱い時に傷が付いて視認性が低下しないように耐擦傷性を付与することが要求されている。そのため、基材フィルムにハードコート層を設けたハードコートフィルムを利用して、ディスプレイの表示面の耐擦傷性を付与することが一般的に行われている。
【0003】
近年、従来のディスプレイ用途だけでなく、フィルム型太陽電池、モータ用絶縁層、振動版等の製品に使用する樹脂フィルムにて表面粗さの平滑化ニーズがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2023-65333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のとおり、近年、製品に特に平滑性が求められるため、フィルム基材にも表面粗さの小さい平滑なフィルムの使用が必要になる。しかし、フィルム基材によっては濡れ性が悪く表面が平滑であると、ハードコート層が密着し難いという問題が生じる。このような表面が平滑であるが濡れ性が悪い難密着性フィルムを使用する場合、ハードコートの密着性の問題だけでなく、さらに防汚、低摩擦化等の機能化が難しいという問題もある。
従来技術として、たとえば上記特許文献1には、プラズマ処理にてフィルム表面の濡れ性を改善する技術が開示されているが、プラズマ処理等でフィルム表面の濡れ性を向上させた後にハードコート処理をして、機能化しようとすると、製造工程が増え、コストアップに繋がる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、基材に難密着性フィルムを使用し、基材に対する前処理無しで、ハードコートによる撥水、防汚、低摩擦化等の機能化を可能とし、しかも、ハードコート密着性、ハード性にも優れたハードコートフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、以下の構成を有する発明により上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は以下の構成を有するものである。
【0008】
(第1の発明)
基材フィルム表面の水接触角A(°)と算術平均表面粗さB(nm)の関係が、関係式1:0≦A-7.5×lnB-48を満足する基材フィルムの少なくとも片面に、官能基数Cと重量平均分子量Dの関係が、関係式2:C-7.1×logD+13.6<0かつ0≦C-5.4×logD+12.8を満足するアクリレート系紫外線硬化型樹脂及び表面改質剤を少なくとも含有するハードコート層が積層され、前記ハードコート層表面の赤外分光光度計測定にて1730cm-1に吸収ピークを有し、前記ハードコート層表面の水接触角が90°以上であることを特徴とするハードコートフィルム。
【0009】
(第2の発明)
前記表面改質剤は、シリコーン含有ポリマーおよびフッ素含有ポリマーから少なくとも1種を用いることを特徴とする第1の発明に記載のハードコートフィルム。
(第3の発明)
前記表面改質剤の配合量は、前記ハードコート層のアクリレート系紫外線硬化型樹脂100質量部に対して、0.2質量部~0.6質量部であることを特徴とする第1又は第2の発明に記載のハードコートフィルム。
【0010】
(第4の発明)
前記ハードコート層はさらにシリカ微粒子を含有し、前記ハードコート層表面の赤外分光光度計測定にて1050cm-1に吸収ピークを有することを特徴とする第1又は第2の発明に記載のハードコートフィルム。
(第5の発明)
SUS材に対する前記ハードコート層表面の静摩擦係数が0.4以下であることを特徴とする第1又は第2の発明に記載のハードコートフィルム。
【0011】
(第6の発明)
前記ハードコートフィルムの、JIS-K5600-5-6のクロスカット法により測定される前記ハードコート層の残存率が75%以上であることを特徴とする第1又は第2の発明に記載のハードコートフィルム。
(第7の発明)
前記ハードコートフィルム表面の鉛筆硬度が2B以上であることを特徴とする第1又は第2の発明に記載のハードコートフィルム。
【0012】
(第8の発明)
前記ハードコート層の膜厚が3μm以下であることを特徴とする第1又は第2の発明に記載のハードコートフィルム。
(第9の発明)
前記基材フィルムは、ポリアリールエーテルケトンフィルムまたはポリイミドフィルムであることを特徴とする第1又は第2の発明に記載のハードコートフィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基材に難密着性フィルムを使用するも、基材に対する前処理無しで、ハードコートによる撥水、防汚、低摩擦化等の機能化を可能とし、しかも、ハードコート密着性、ハード性にも優れたハードコートフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
なお、本明細書において、数値範囲の「xx~yy」との記載は、特に断りのない限り、「xx以上、yy以下」を意味するものとする。
【0015】
上記第1の発明にあるとおり、本発明のハードコートフィルムは、基材フィルム表面の水接触角A(°)と算術平均表面粗さB(nm)の関係が、関係式1:0≦A-7.5×lnB-48を満足する基材フィルムの少なくとも片面に、官能基数Cと重量平均分子量Dの関係が、関係式2:C-7.1×logD+13.6<0かつ0≦C-5.4×logD+12.8を満足するアクリレート系紫外線硬化型樹脂及び表面改質剤を少なくとも含有するハードコート層が積層され、前記ハードコート層表面の赤外分光光度計測定にて1730cm-1に吸収ピークを有し、前記ハードコート層表面の水接触角が90°以上であることを特徴とするものである。
以下、本発明のハードコートフィルムの構成を詳しく説明する。
【0016】
[基材フィルム]
まず、上記ハードコートフィルムの基材フィルムについて説明する。
本発明のハードコートフィルムの被塗工基材としては、基材フィルム表面の水接触角A(°)と算術平均表面粗さB(nm)の関係が、関係式1:0≦A-7.5×lnB-48を満足する基材フィルムが用いられる。なお、本明細書において、「lnB」とは、底をe(ネイピア数)とするBの自然対数を表すものとする。また、上記の算術平均表面粗さとは、ISO25178で定義される、ある基準面における表面の平均面に対して、各点の高さの差の絶対値を平均化した値であり、つまり平均面以下の各点の高さを正値側に折り返した時の凹凸の平均値をいう。具体的には、白色干渉顕微鏡で測定したフィルム表面粗さ曲面のデータから算出することができる。
【0017】
上記関係式1を満足する基材フィルムは、平滑であるが濡れ性が悪い難密着性フィルムである。近年、例えばフィルム型太陽電池、モータ用絶縁層、振動版等の製品に平滑性が求められているため、これらの製品に使用するハードコートフィルムにも表面粗さの平滑化ニーズがある。したがって、上記のような難密着性フィルムの使用が必要になるが、このような表面が平滑であるが濡れ性が悪い難密着性フィルムを使用する場合、ハードコートの密着性が悪く、ハードコートによる例えば防汚、低摩擦化等の機能化が難しいという問題がある。
本発明は、基材に上記関係式1を満足する難密着性フィルムを使用する場合に好適であり、本発明によれば、基材に難密着性フィルムを使用するも、基材に対する前処理無しで、ハードコートによる撥水、防汚、低摩擦化等の機能化を可能とし、しかも、ハードコート密着性、ハード性にも優れたハードコートフィルムを提供することができる。
【0018】
本発明に使用する上記関係式1を満足する基材フィルムとしては、例えば、ポリアリールエーテルケトンフィルムまたはポリイミドフィルム等が好ましく挙げられる。また、ポリアリールエーテルケトンフィルムまたはポリイミドフィルムの他にも シクロオレフィンポリマーフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム等も好適である。
本発明に使用する基材フィルムは、上記関係式1を満足するものであれば、これらの材質のフィルムに限定されるものではない。
また、上記基材フィルム成形の方法としては、例えば溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法等、任意の適切なフィルム成形法が挙げられるが、特に溶融押出法が好ましい。溶融押出法は溶剤を使用しないので、製造コストや溶剤による地球環境や作業環境への負荷を低減することができる。
【0019】
本発明において、上記基材フィルムの厚さは、用途に応じて適宜選択されるが、適用する製品の薄膜化、軽量化に伴うハードコートフィルムの薄膜化の要請の観点から、50μm以下であることが好ましく、特に好ましくは30μm以下である。他方、機械的強度、ハンドリング性等の観点から、10μm以上であることが好ましい。
【0020】
[ハードコート層]
次に、上記ハードコートフィルムのハードコート層について説明する。
本発明において、上記ハードコート層は、少なくともアクリレート系紫外線硬化型樹脂及び表面改質剤を含有する。
本発明において、上記ハードコート層に含まれる樹脂としては、特にハードコート層の表面硬度(鉛筆硬度、耐擦傷性)を付与し、また、紫外線の露光量によって架橋度合を調節することが可能であり、ハードコート層の表面硬度の調節が可能になるという点で紫外線硬化型樹脂を用いることが好ましい。
【0021】
本発明に用いるアクリレート系紫外線硬化型樹脂は、紫外線(UV)を照射することによって硬化する透明な樹脂であり、官能基数Cと重量平均分子量Dの関係が、関係式2:C-7.1×logD+13.6<0かつ0≦C-5.4×logD+12.8を満足するアクリレート系紫外線硬化型樹脂(以下、「本発明のアクリレート系紫外線硬化型樹脂」と呼ぶこともある。)である。なお、本明細書において、「logD」とは、底を10とするDの常用対数を表すものとする。
【0022】
本発明の課題を達成するためには、上記の難密着性基材フィルムを使用する場合、柔軟性が高く、硬化収縮が小さいハードコート塗料を選定する必要がある。そのため、本発明では、官能基数Cと重量平均分子量Dの関係が、関係式2:C-7.1×logD+13.6<0かつ0≦C-5.4×logD+12.8を満足するアクリレート系紫外線硬化型樹脂を適用することを特徴としている。
【0023】
上記の関係式を満たさない場合、たとえば、官能基数Cと重量平均分子量Dの関係が、C-5.4×logD+12.8<0である場合、分子量に対して、官能基数が少ないため、架橋点が少なく、UV硬化性が悪くなり、密着性が得にくいと考えられる。また、官能基数Cと重量平均分子量Dの関係が、0≦C-7.1×logD+13.6である場合、分子量に対して、官能基数が多いため、架橋点が多く、硬化による収縮が大きくなることで基材への追従性が悪くなり、密着性が得にくいと考えられる。従って、本発明では、上記の難密着性基材フィルムに対し、C-7.1×logD+13.6<0かつ0≦C-5.4×logD+12.8を満足するアクリレート系紫外線硬化型樹脂を含有するハードコート塗料を用いてハードコートすることにより、基材に対する前処理無しでも、ハードコート密着性に優れたハードコートフィルムを得ることができる。
【0024】
本発明において、上記ハードコート層に含有されるアクリレート系紫外線硬化型樹脂は、官能基数Cと重量平均分子量Dの関係が、上記関係式2を満足する本発明のアクリレート系紫外線硬化型樹脂であれば特に限定されるものではないが、塗膜硬度及びハードコート層が3次元的な架橋構造を形成するために1分子内に官能基として3個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するUVにて硬化可能な多官能アクリレートからなるものが好ましい。分子内に3個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するUV硬化可能な多官能アクリレートの具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート等を挙げることができる。なお、多官能アクリレートは単独で使用するだけでなく、2種以上の複数を混合し使用してもよい。
【0025】
さらに、上記ハードコート層に用いるアクリレート系紫外線硬化型樹脂の重量平均分子量に関しては、官能基数Cと重量平均分子量Dの関係が、上記関係式2を満足する範囲内であれば特に限定されるものではないが、例えば重量平均分子量が1000~4900の範囲内であるモノマーあるいはオリゴマーあるいはポリマーを用いることが好ましく、重量平均分子量1000~4000の範囲のものがより好ましく、重量平均分子量1000~3600がさらに好ましい。重量平均分子量が1000未満であると、UV照射により硬化した際の硬化収縮が大きく、ハードコートフィルムがハードコート層面側に反りかえる現象(カール)が大きくなり、その後の加工工程を経るに不具合が生じ、加工適性が悪い。また、重量平均分子量が4900を超えると、ハードコート層の柔軟性が高まるが、硬度が不足するため適さない。
なお、本発明における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析による標準ポリスチレン換算で得られる平均分子量である。
【0026】
また、上記ハードコート層に用いる本発明のアクリレート系紫外線硬化型樹脂は、重量平均分子量が1500未満である場合は、1分子中の官能基数は4個以上9個未満であることが望ましい。また、上記紫外線硬化型樹脂の重量平均分子量が1500以上である場合は、1分子中の官能基数は4個以上17個以下であることが望ましい。上記範囲内であれば、カールが抑制でき、適切な加工適性を維持できる。
【0027】
また、上記ハードコート層に含まれる樹脂としては、上述の紫外線硬化型樹脂の他に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、アクリル、スチレン-アクリル、繊維素等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、ウレア樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ、珪素樹脂等の熱硬化性樹脂をハードコート層の硬度、耐擦傷性を損なわない範囲内で配合してもよい。
【0028】
本発明において、上記ハードコート層は、上記紫外線硬化型樹脂の他に、表面改質剤を含有する。表面改質剤を用いることにより、ハードコートによる撥水性、防汚性、低摩擦化性能等の機能を付与することができる。たとえば、撥水性を有する表面改質剤をハードコート塗料に添加することによりハードコートフィルムに撥水性の機能を付与することができ、防汚性を有する表面改質剤をハードコート塗料に添加することによりハードコートフィルムに防汚性の機能を付与することができる。また、低摩擦化性能を有する表面改質剤をハードコート塗料に添加することによりハードコートフィルムに低摩擦化性能の機能を付与することができる。
【0029】
本発明においては、上記表面改質剤として、例えば、シリコーン含有ポリマーあるいはフッ素含有ポリマーを好ましく用いることができる。シリコーン含有ポリマーあるいはフッ素含有ポリマーをハードコート塗料に用いることにより、ハードコートフィルムに所望の撥水性、防汚性、低摩擦化性能等の機能を付与することができる。なお、特に低摩擦化性能の点では、シリコーン含有ポリマーをより好ましく用いることができる。
上記の表面改質剤は、1種類のものを単独で用いてもよいし、2種類以上のものを併用してもよい。
【0030】
上記の表面改質剤の配合量は、前記ハードコート層のアクリレート系紫外線硬化型樹脂100質量部に対して、0.2質量部~0.6質量部の範囲内であることが好ましい。表面改質剤の配合量が0.2質量部未満であると、ハードコートによる撥水性、防汚性、低摩擦化性能等の機能が十分に発揮されない。一方、表面改質剤の配合量が0.6質量部を超えると、ハードコートの表面に配向しない表面改質剤が存在し、密着性が低下するため適さない。
なお、上記の表面改質剤の配合量は、前記ハードコート層のアクリレート系紫外線硬化型樹脂100質量部に対して、0.25質量部~0.5質量部の範囲内であることが特に好ましい。
【0031】
また、上記ハードコート層に無機酸化物微粒子を含有させ、表面硬度(鉛筆硬度、耐擦傷性)の更なる向上を図ることも可能である。すなわち、基材フィルムより硬いハードコート塗料を適用することにより、ハード性にも優れたハードコートフィルムを得ることができる。また、ハードコート層に無機酸化物微粒子を含有させることにより、ハードコート層の硬化収縮によるカールを抑制することができ、ハードコート密着性が向上する。
【0032】
この場合、無機酸化物微粒子の平均粒子径は5~50nmの範囲であることが好ましく、更に好ましくは平均粒子径10~40nmの範囲である。平均粒子径が5nm未満であると、十分な表面硬度を得ることが困難である。一方、平均粒子径が50nmを超えると、ハードコート層の光沢、及び透明性が低下し易く、また、可撓性も低下するおそれがある。
【0033】
本発明において、上記無機酸化物微粒子としては、例えばシリカやアルミナなどを挙げることができる。これらの中でも、シリカ微粒子が特に好適である。
そして、上記ハードコート層に例えばシリカ微粒子を含有する場合、上記ハードコート層表面の赤外分光光度計測定による1050cm-1の吸収ピークを有する。ここで、赤外分光光度計測定による1050cm-1の吸収ピークは、Si-Oの伸縮振動によるものである。
【0034】
本発明において、無機酸化物微粒子の含有量は、ハードコート層の紫外線硬化型樹脂100質量部に対して0.1~12.0質量部であることが好ましい。無機酸化物微粒子の含有量が0.1質量部未満であると、表面硬度の向上効果が得られ難い。一方、含有量が12.0質量部を超えると、ヘイズが上昇するため好ましくない。
【0035】
また、上記ハードコート層には、塗工性の改善を目的にレベリング剤の使用が可能であり、たとえばフッ素系、アクリル系、シロキサン系、及びそれらの付加物或いは混合物などの公知のレベリング剤を使用可能である。レベリング剤の添加量としては、特に制約はされないが、ハードコート層用塗料中の樹脂固形分に対して、例えば0.05質量%~2.0質量%が好ましい。
【0036】
また、上記ハードコート層を形成するためのハードコート用塗料には、上述の本発明のアクリレート系紫外線硬化型樹脂とともに、光重合開始剤を含有する。そのような光重合開始剤としては、市販のIRGACURE 651やIRGACURE 184(いずれも商品名:BASF社製)などのアセトフェノン類、また、IRGACURE 500(商品名:BASF社製)などのベンゾフェノン類を使用できる。
【0037】
上記ハードコート層に添加するその他の添加剤として、本発明の効果を損なわない範囲で、紫外線吸収剤、消泡剤、表面張力調整剤、酸化防止剤、帯電防止剤、光安定剤等を必要に応じて配合してもよい。
【0038】
上記ハードコート層は、上述の本発明のアクリレート系紫外線硬化型樹脂の他に、上述の表面改質剤、無機酸化物微粒子や、光重合開始剤、その他の添加剤等を適当な溶媒に溶解、分散したハードコート用塗料を、上記基材フィルムの少なくとも片面上に塗工、乾燥した後、紫外線(UV)を照射して硬化させることにより形成される。溶媒としては、配合される上記樹脂等の溶解性に応じて適宜選択でき、少なくとも固形分(樹脂、表面改質剤、無機酸化物微粒子、光重合開始剤、その他の添加剤等)を均一に溶解あるいは分散できる溶媒であればよい。そのような溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、n-ヘプタンなどの芳香族系溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、乳酸メチル等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール系等のアルコール系溶剤等の公知の有機溶媒を単独或いは適宜数種類組み合わせて使用することもできる。
【0039】
上記ハードコート層を形成するハードコート用塗料の塗工方法については、特に限定はないが、グラビア塗工、マイクログラビア塗工、ファウンテンバー塗工、スライドダイ塗工、スロットダイ塗工、スクリーン印刷法、スプレーコート法等の公知の塗工方式で塗設した後、通常50~120℃程度の温度で乾燥する。
【0040】
上記ハードコート層塗膜形成後の紫外線(UV)の照射量は、ハードコート層に十分なハード性を持たせるに必要な照射量であればよく、紫外線硬化型樹脂の種類等に応じて適宜設定することができる。
【0041】
上記ハードコート層の膜厚(塗膜厚さ)は、本発明においては、例えば5μm未満であることが好ましく、好ましくは3μm以下である。更に好ましくは、1μm~3μmの範囲であり、ハードコート密着性が向上する。膜厚が厚いと硬化収縮の影響でハードコート密着性が悪化すると考えられる。
ハードコート層の膜厚が1μm未満では、必要なハード性が低下するため好ましくない。また、ハードコート層の膜厚が5μm以上である場合は、カールが強く発生しやすく製造工程などで取扱い性が低下するため、またハードコートフィルムの薄膜化の観点から好ましくない。
【0042】
上述したように、本発明のハードコートフィルムは、基材フィルムの少なくとも片面に、本発明のアクリレート系紫外線硬化型樹脂及び表面改質剤を少なくとも含有するハードコート層が積層されてなる。
【0043】
そして、本発明のハードコートフィルムは、上記ハードコート層表面の赤外分光光度計測定による1730cm-1に吸収ピークを有する。
ここで、赤外分光光度計測定による1730cm-1の吸収ピークは、アクリレートによるものである。すなわち、本発明のハードコートフィルムは、上記ハードコート層に本発明のアクリレート系紫外線硬化型樹脂を含有しており、その本発明のアクリレート系紫外線硬化型樹脂に含まれるカルボニル基(骨格)によるC=O伸縮振動の吸収ピークである。
【0044】
また、本発明のハードコートフィルムは、さらに下記の特性を備えることを特徴とするものである。
本発明のハードコートフィルムは、上記ハードコート層表面の水接触角が90°以上であることを特徴とする。
すなわち、本発明のハードコートフィルムは、ハードコートによる撥水性、防汚性の機能を備えている。
【0045】
また、本発明のハードコートフィルムは、SUS材に対する上記ハードコート層表面の静摩擦係数が0.4以下であることを特徴とする。
すなわち、本発明のハードコートフィルムは、ハードコートによる低摩擦性能を有している。
【0046】
また、本発明のハードコートフィルムは、前記ハードコートフィルムの、JIS-K5600-5-6のクロスカット法により測定される前記ハードコート層の残存率が75%以上であることを特徴とする。
すなわち、本発明のハードコートフィルムは、ハードコート密着性にも優れている。
【0047】
また、本発明のハードコートフィルムは、前記ハードコートフィルム表面の鉛筆硬度が2B以上であることを特徴とする。
すなわち、本発明のハードコートフィルムは、ハード性(表面硬度)にも優れている。
【0048】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、基材に難密着性フィルムを使用するも、基材に対する前処理無しで、ハードコートによる撥水、防汚、低摩擦化等の機能化を可能とし、しかも、ハードコート密着性、ハード性にも優れたハードコートフィルムを得ることができる。
【実施例0049】
次に、実施例を挙げて本発明の実施の形態をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、下記の記載中、「部」は別途記載がない限り質量部を、「%」は別途記載がない限り質量%を表す。
【0050】
(実施例1)
[ハードコート層形成用塗工液の調製]
アクリレート系紫外線硬化型樹脂塗料(アートレジンUN-908(商品名);根上工業(株)製)94部を主剤とし、Omnirad184(光重合開始剤、BASF社製)5部、表面改質剤としてシリコーン含有ポリマー(GL-02R;共栄社化学(株)製)を0.5部配合し、酢酸エチル/エチルセロソルブ=70/30(重量部)にて希釈して最終固形分濃度35%のハードコート層形成用塗工液(以下、「ハードコート用塗料」とも呼ぶ。)を調製した。
なお、上記アクリレート系紫外線硬化型樹脂の官能基((メタ)アクリロイルオキシ基)数Cと重量平均分子量D、これらCとDの値より算出されるlogD、C-7.1×logD+13.6、C-5.4×logD+12.8の各数値は後記の表1に示した。
[ハードコートフィルムの作製]
厚さ50μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン(株)製)(表1中に「PI」と略記)の片面に、上記のハードコート用塗料を、バーコーターを用いて塗工し、80℃の乾燥炉で1分間熱風乾燥させ、塗膜厚み3.0μmの塗工層を形成した。これを、塗工面より60mmの高さにセットされたUV照射装置を用い、UV照射量300mJ/cmの紫外線照射により硬化させ、本実施例1のハードコートフィルムを作製した。
なお、上記ポリイミドフィルム表面の水接触角A(°)と算術平均表面粗さB(nm)としたときの、A-7.5×lnB-48の数値は後記の表1に示した。ここで、水接触角については後述の方法で測定した。また、算術平均表面粗さについては、走査型白色干渉顕微鏡(VS-1800、日立ハイテク社製)にて倍率10倍で測定した。
【0051】
(実施例2)
表面改質剤(GL-02R;共栄社化学(株)製)を0.25部配合としたこと以外は実施例1と同様にして調製したハードコート用塗料を適用し、実施例1と同様にして、実施例2のハードコートフィルムを作製した。
【0052】
(実施例3)
表面改質剤をフッ素含有ポリマー(RS-75-A;DIC(株)製)に変更し、0.25部配合したこと以外は実施例1と同様にして調製したハードコート用塗料を適用し、実施例1と同様にして、実施例3のハードコートフィルムを作製した。
【0053】
(実施例4)
シリカ微粒子(ELCOM-V-8804;日揮触媒化成(株)製)を10部配合したこと以外は実施例1と同様にして調製したハードコート用塗料を適用し、実施例1と同様にして、実施例4のハードコートフィルムを作製した。
【0054】
(実施例5)
基材フィルムを、厚さ200μmのポリエーテルエーテルケトンフィルム(ポリプラ・エボニック(株)製)(表1中に「PEEK」と略記)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして調製したハードコート用塗料を適用し、実施例1と同様にして、実施例5のハードコートフィルムを作製した。
【0055】
(実施例6)
塗工層の塗膜厚みを4.0μmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして調製したハードコート用塗料を適用し、実施例1と同様にして、実施例6のハードコートフィルムを作製した。
【0056】
(実施例7)
アクリレート系紫外線硬化型樹脂塗料をアートレジンUN-904(商品名)(根上工業(株)製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして調製したハードコート用塗料を適用し、実施例1と同様にして、実施例7のハードコートフィルムを作製した。
【0057】
(実施例8)
アクリレート系紫外線硬化型樹脂塗料をEBECRYL1290(商品名)(ダイセル・オルネクス(株)製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして調製したハードコート用塗料を適用し、実施例7と同様にして、実施例8のハードコートフィルムを作製した。
【0058】
(比較例1)
表面改質剤(GL-02R;共栄社化学(株)製)を含有しないこと以外は実施例1と同様にして調製したハードコート用塗料を適用し、実施例1と同様にして、比較例1のハードコートフィルムを作製した。
【0059】
(比較例2)
表面改質剤(GL-02R;共栄社化学(株)製)を0.1部配合としたこと以外は実施例1と同様にして調製したハードコート用塗料を適用し、実施例1と同様にして、比較例2のハードコートフィルムを作製した。
【0060】
(比較例3)
表面改質剤をフッ素含有ポリマー(RS-75-A;DIC(株)製)に変更し、0.1部配合としたこと以外は実施例1と同様にして調製したハードコート用塗料を適用し、実施例1と同様にして、比較例3のハードコートフィルムを作製した。
【0061】
(比較例4)
表面改質剤(GL-02R;共栄社化学(株)製)を1部配合としたこと以外は実施例1と同様にして調製したハードコート用塗料を適用し、実施例1と同様にして、比較例4のハードコートフィルムを作製した。
【0062】
(比較例5)
アクリレート系紫外線硬化型樹脂塗料をNIPAM(商品名)(KJケミカルズ(株)製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして調製したハードコート用塗料を適用し、実施例1と同様にして、比較例5のハードコートフィルムを作製した。
【0063】
(比較例6)
アクリレート系紫外線硬化型樹脂塗料をアートレジンUN-906AVN(商品名)(根上工業(株)製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして調製したハードコート用塗料を適用し、実施例1と同様にして、比較例6のハードコートフィルムを作製した。
【0064】
(比較例7)
アクリレート系紫外線硬化型樹脂塗料をアートレジンM-3N(商品名)(根上工業(株)製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして調製したハードコート用塗料を適用し、実施例1と同様にして、比較例7のハードコートフィルムを作製した。
【0065】
(比較例8)
アクリレート系紫外線硬化型樹脂塗料をKRM8528(商品名)(ダイセル・オルネクス(株)製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして調製したハードコート用塗料を適用し、実施例1と同様にして、比較例8のハードコートフィルムを作製した。
【0066】
(比較例9)
アクリレート系紫外線硬化型樹脂塗料をアートレジンUN954(商品名)(根上工業(株)製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして調製したハードコート用塗料を適用し、実施例1と同様にして、比較例9のハードコートフィルムを作製した。
【0067】
(比較例10)
アクリレート系紫外線硬化型樹脂塗料を紫光 UV-7610B(商品名)(三菱ケミカル(株)製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして調製したハードコート用塗料を適用し、実施例1と同様にして、比較例10のハードコートフィルムを作製した。
【0068】
(比較例11)
アクリレート系紫外線硬化型樹脂塗料をIRR742(商品名)(ダイセル・オルネクス(株)製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして調製したハードコート用塗料を適用し、実施例1と同様にして、比較例11のハードコートフィルムを作製した。
【0069】
<評価>
以上のようにして作製された実施例及び比較例の各ハードコートフィルムを次の項目について評価し、その結果を纏めて、実施例については表1、比較例については表2に示した。
【0070】
<ハードコート層表面の赤外分光光度計測定>
赤外分光光度計(Spectrum100、パーキンエルマー製)にて、ATR法を用いて測定し、ハードコート層表面の赤外分光光度計測定による1730cm-1のピーク強度と1050cm-1のピーク強度を確認し、吸収ピークの有無を確認した。
【0071】
<水接触角測定条件>
協和界面科学株式会社製の全自動接触角計DM-701を用いて、水(純水)を2μL滴下し、1秒後の接触角を測定した。
【0072】
<クロスカット法試験条件>
JIS-K5600-5-6に記載のクロスカット法に準拠して行った。碁盤目剥離試験治具を用い、ハードコート層の表面に1mmのクロスカットを100個作製し、積水化学工業株式会社製の粘着テープNo.252をその上に貼り付け、ヘラを用いて均一に押し付けた後、粘着テープを60度方向に剥離し、ハードコート層の残存率(クロスカットの残存個数の比率)を測定した。
【0073】
<静摩擦係数測定条件>
ハードコート層表面の静摩擦係数は、協和界面科学株式会社製の自動摩擦摩耗解析装置TSf-502を用いて、荷重100gf/cm、対金属板(SUS材)で測定された値である。
【0074】
<鉛筆硬度測定条件>
JIS-K-5600-5-4に準じた試験法により鉛筆硬度を測定した。ハードコート層表面に傷の発生なき硬度を標記した。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
上記表1の結果から明らかなように、本発明実施例のハードコートフィルムは、基材フィルム表面の水接触角A(°)と算術平均表面粗さB(nm)の関係が、関係式1:0≦A-7.5×lnB-48を満足する難密着性基材フィルムに対し、赤外分光光度計測定による1730cm-1の吸収ピークを有し、官能基数Cと重量平均分子量Dの関係が、関係式2:C-7.1×logD+13.6<0かつ0≦C-5.4×logD+12.8を満足するアクリレート系紫外線硬化型樹脂及び表面改質剤を少なくとも含有するハードコート層が積層されてなり、基材に難密着性フィルムを使用するも、ハードコートによる撥水性、防汚性、低摩擦性能等の機能を備え、ハードコート密着性、ハード性にも優れたハードコートフィルムである。具体的には、ハードコート層表面の接触角が90°以上、クロスカット法によるハードコート層残存率が75%以上、ハードコート層表面の静摩擦係数が0.4以下、ハードコートフィルム表面の鉛筆硬度が2B以上を満足する。
【0078】
また、実施例4のように、ハードコート層にシリカ微粒子を含有し、赤外分光光度計測定による1050cm-1の吸収ピークを有することで、表面硬度の向上と、ハードコート層の硬化収縮が抑制されることによるハードコート密着性の向上が見られる。また、実施例1と実施例6の対比から、ハードコート層の膜厚は例えば3μmにて密着性が向上していることがわかる。膜厚が3μmよりも厚いと硬化収縮の影響で密着性が低下すると考えられる。
【0079】
また、実施例1、2、5~8の対比から、シリコーン含有ポリマーの表面改質剤を使用すると、フッ素含有ポリマーに比べて静摩擦係数がより低いことがわかる。そのため、表面改質剤の種類はシリコーン含有ポリマーおよびフッ素含有ポリマーから少なくとも1種を用いることが好ましく、特に低摩擦性能の観点ではシリコーン含有ポリマーを用いるのがより好ましい。表面改質剤の添加量は、0.1%(比較例2)で水接触角90°未満となり、1%(比較例4)でハードコート層残存率が大幅に低下するため、本発明実施例のように、0.25質量部~0.5質量部が好ましい。
【0080】
一方、表2の結果から以下のことが分かる。
表面改質剤を使用しない比較例1では、十分な撥水性が得られない。また、表面改質剤の添加量が少ない(0.1%)の比較例2、3では、水接触角90°未満となり、十分な撥水性が得られない。また、表面改質剤の添加量が多い(1%)の比較例4では、ハードコート密着性が低下し、ハードコート層残存率が大幅に低下する。
【0081】
また、官能基数Cと重量平均分子量Dの関係が、C-7.1×logD+13.6<0を満足していないアクリレート系紫外線硬化型樹脂を使用した比較例5、6では、ハードコート密着性が得られない。官能基数Cと重量平均分子量Dの関係が、0≦C-7.1×logD+13.6である場合、分子量に対し、官能基数が多いため、架橋点が多く、硬化による収縮が大きくなることで基材への追従性が悪くなり、密着性が得にくいと考えられる。
【0082】
また、官能基数Cと重量平均分子量Dの関係が、0≦C-5.4×logD+12.8を満足していないアクリレート系紫外線硬化型樹脂を使用した比較例7~11では、ハードコート密着性が得られない。官能基数Cと重量平均分子量Dの関係が、C-5.4×logD+12.8<0である場合、分子量に対し、官能基数が少ないため、架橋点が少なく、UV硬化性が悪くなり、密着性が得にくいと考えられる。
【0083】
以上のとおり、比較例では、基材に難密着性フィルムを使用した場合、ハードコートによる撥水性、防汚性、低摩擦性能等の機能を備え、ハードコート密着性、ハード性にも優れたハードコートフィルムを得ることができない。