(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025158003
(43)【公開日】2025-10-16
(54)【発明の名称】半導体モジュールおよび半導体モジュールの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/28 20060101AFI20251008BHJP
H01L 25/07 20060101ALI20251008BHJP
【FI】
H01L23/28 K
H01L25/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024060419
(22)【出願日】2024-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】河村 一磨
【テーマコード(参考)】
4M109
【Fターム(参考)】
4M109AA02
4M109BA03
4M109CA02
4M109DB02
4M109DB09
4M109EA02
4M109EA10
4M109EB02
4M109EB04
4M109EB06
4M109EB12
4M109EC04
(57)【要約】
【課題】熱膨張/収縮によって繰り返し生じる応力を緩和し、樹脂クラックを抑え、信頼性を向上できる半導体モジュールおよび半導体モジュールの製造方法を提供する。
【解決手段】半導体モジュール50は、接合層25を介して半導体素子1を搭載した積層基板5と、半導体素子1と接合層25と積層基板5とを含む被封止部材を封止する封止樹脂8と、半導体素子1の上方の封止樹脂8の表面に設けられる、封止樹脂8より弾性率の低い低弾性率領域30と、を備る。封止樹脂8の貯蔵弾性率を100%としたときの低弾性率領域30の貯蔵弾性率を比弾性率とすると、比弾性率は0.83%以上100%未満である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合層を介して半導体素子を搭載した積層基板と、
前記半導体素子と前記接合層と前記積層基板とを含む被封止部材を封止する封止樹脂と、
前記半導体素子の上方の前記封止樹脂の表面に設けられる、前記封止樹脂より弾性率の低い低弾性率領域と、
を備え、
前記封止樹脂の貯蔵弾性率を100%としたときの前記低弾性率領域の貯蔵弾性率を比弾性率とすると、前記比弾性率は0.83%以上100%未満であることを特徴とする半導体モジュール。
【請求項2】
前記比弾性率は8%以上75%以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項3】
前記比弾性率は25%以上50%以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項4】
前記低弾性率領域は、ストライプ形状で、前記パワー半導体モジュールの短手方向と平行に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項5】
前記低弾性率領域は、ストライプ形状で、前記パワー半導体モジュールの短手方向と平行および前記パワー半導体モジュールの長手方向と平行に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項6】
前記低弾性率領域は、前記半導体素子の直上に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項7】
前記低弾性率領域は、前記半導体素子側の底部先端部は尖っていないことを特徴とする請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項8】
前記底部先端部の曲率Rは、0.5mm以上であることを特徴とする請求項7に記載の半導体モジュール。
【請求項9】
積層基板に接合層を介して半導体素子を搭載する第1工程と、
熱硬化性樹脂組成物で前記半導体素子と前記接合層と前記積層基板とを含む被封止部材を封止する第2工程と、
前記半導体素子の上方の前記熱硬化性樹脂組成物の表面に、前記熱硬化性樹脂組成物より弾性率の低い低弾性樹脂を注入する第3工程と、
前記熱硬化性樹脂組成物および前記低弾性樹脂を加熱硬化し、封止樹脂および低弾性率領域を形成する第4工程と、
を含み、
前記低弾性率領域は前記封止樹脂より弾性率が低いことを特徴とする半導体モジュールの製造方法。
【請求項10】
前記熱硬化性樹脂組成物の粘度を1としたときの前記熱硬化性樹脂組成物と前記低弾性樹脂の粘度比が1:1~1:0.35であることを特徴とする請求項9に記載の半導体モジュールの製造方法。
【請求項11】
積層基板に接合層を介して半導体素子を搭載する第1工程と、
熱硬化性樹脂組成物で前記半導体素子と前記接合層と前記積層基板とを含む被封止部材を封止する第2工程と、
前記半導体素子の上方の前記熱硬化性樹脂組成物の表面に、予め硬化してある低弾性率領域を挿入する第3工程と、
前記熱硬化性樹脂組成物を加熱硬化し、封止樹脂を形成する第4工程と、
を含み、
前記低弾性率領域は前記封止樹脂より弾性率が低いことを特徴とする半導体モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、半導体モジュールおよび半導体モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ケースの封止材と対向する表面において、無機充填材がマトリックスから露出していることで、ポリフェニレンサルファイドと無機充填材を含むケースと封止材との間の剥離を抑制可能な半導体装置が提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の半導体装置では、熱膨張/収縮によって繰り返し生じる熱応力が封止材(封止樹脂)に負荷を与え、チップ直上の樹脂部にクラックが生じ、モジュール破壊へ至ることがあるという課題がある。
【0005】
本開示は、上述した従来技術による問題点を解消するため、熱膨張/収縮によって繰り返し生じる応力を緩和し、樹脂クラックを抑え、信頼性を向上できる半導体モジュールおよび半導体モジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、本開示の目的を達成するため、本開示にかかる半導体モジュールは、次の特徴を有する。接合層を介して半導体素子を搭載した積層基板と、前記半導体素子と前記接合層と前記積層基板とを含む被封止部材を封止する封止樹脂と、前記半導体素子の上方の前記封止樹脂の表面に設けられる、前記封止樹脂より弾性率の低い低弾性率領域と、を備える。前記封止樹脂の貯蔵弾性率を100%としたときの前記低弾性率領域の貯蔵弾性率を比弾性率とすると、前記比弾性率は0.83%以上100%未満である。
【0007】
上述した開示によれば、封止樹脂の最表面に弾性率の低い低弾性率領域を応力が集中しやすいパワー半導体チップ直上に設置することで、応力を緩和し、樹脂クラックを抑えることができる。
【発明の効果】
【0008】
本開示にかかる半導体モジュールおよび半導体モジュールの製造方法によれば、熱膨張/収縮によって繰り返し生じる応力を緩和し、樹脂クラックを抑え、信頼性を向上できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの構造を示す断面図である。
【
図2】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの構造を示す上面図である。
【
図3】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの第1製法による製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その1)。
【
図4】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの第1製法による製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その2)。
【
図5】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの第1製法による製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その3)。
【
図6】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの第2製法による製造途中の状態を模式的に示す断面図である。
【
図7】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの実施例12の構造を示す上面図である。
【
図8A】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの実施例13の構造を示す上面図である。
【
図8B】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの実施例14の構造を示す上面図である。
【
図9】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールに対する比較例7の構造を示す上面図である。
【
図10】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールに対する比較例8の構造を示す上面図である。
【
図11】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの実施例15の構造を示す上面図である。
【
図12】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの実施例16の構造を示す上面図である。
【
図13】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの実施例17の構造を示す上面図である。
【
図14】従来のパワー半導体モジュールの構造を示す断面図である。
【
図15】従来のパワー半導体モジュールの構造における課題を示す断面図である。
【
図16】従来のパワー半導体モジュールの構造における課題を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<本開示の実施形態の概要>
上述した課題を解決し、本開示の目的を達成するため、本開示にかかる半導体モジュールは、次の特徴を有する。接合層を介して半導体素子を搭載した積層基板と、前記半導体素子と前記接合層と前記積層基板とを含む被封止部材を封止する封止樹脂と、前記半導体素子の上方の前記封止樹脂の表面に設けられる、前記封止樹脂より弾性率の低い低弾性率領域と、を備える。前記封止樹脂の貯蔵弾性率を100%としたときの前記低弾性率領域の貯蔵弾性率を比弾性率とすると、前記比弾性率は0.83%以上100%未満である。
【0011】
上述した開示によれば、封止樹脂の最表面に弾性率の低い低弾性率領域を応力が集中しやすいパワー半導体チップ直上に設置することで、応力を緩和し、樹脂クラックを抑えることができる。
【0012】
また、本開示にかかる半導体モジュールは、上述した開示において、前記比弾性率は8%以上75%以下であることを特徴とする。
【0013】
また、本開示にかかる半導体モジュールは、上述した開示において、前記比弾性率は25%以上50%以下であることを特徴とする。
【0014】
また、本開示にかかる半導体モジュールは、上述した開示において、前記低弾性率領域は、ストライプ形状で、前記パワー半導体モジュールの短手方向と平行に設けられていることを特徴とする。
【0015】
また、本開示にかかる半導体モジュールは、上述した開示において、前記低弾性率領域は、ストライプ形状で、前記パワー半導体モジュールの短手方向と平行および前記パワー半導体モジュールの長手方向と平行に設けられていることを特徴とする。
【0016】
また、本開示にかかる半導体モジュールは、上述した開示において、前記低弾性率領域は、前記半導体素子の直上に設けられていることを特徴とする。
【0017】
また、本開示にかかる半導体モジュールは、上述した開示において、前記低弾性率領域は、前記半導体素子側の底部先端部は尖っていないことを特徴とする。
【0018】
また、本開示にかかる半導体モジュールは、上述した開示において、前記底部先端部の曲率Rは、0.5mm以上であることを特徴とする。
【0019】
上述した課題を解決し、本開示の目的を達成するため、本開示にかかる半導体モジュールの製造方法は、次の特徴を有する。積層基板に接合層を介して半導体素子を搭載する第1工程と、熱硬化性樹脂組成物で前記半導体素子と前記接合層と前記積層基板とを含む被封止部材を封止する第2工程と、前記半導体素子の上方の前記熱硬化性樹脂組成物の表面に、前記熱硬化性樹脂組成物より弾性率の低い低弾性樹脂を注入する第3工程と、前記熱硬化性樹脂組成物および前記低弾性樹脂を加熱硬化し、封止樹脂および低弾性率領域を形成する第4工程と、を含む。前記低弾性率領域は前記封止樹脂より弾性率が低い。
【0020】
また、本開示にかかる半導体モジュールの製造方法は、上述した開示において、前記熱硬化性樹脂組成物の粘度を1としたときの前記熱硬化性樹脂組成物と前記低弾性樹脂の粘度比が1:1~1:0.35であることを特徴とする。
【0021】
上述した課題を解決し、本開示の目的を達成するため、本開示にかかる半導体モジュールの製造方法は、次の特徴を有する。積層基板に接合層を介して半導体素子を搭載する第1工程と、熱硬化性樹脂組成物で前記半導体素子と前記接合層と前記積層基板とを含む被封止部材を封止する第2工程と、前記半導体素子の上方の前記熱硬化性樹脂組成物の表面に、予め硬化してある低弾性率領域を挿入する第3工程と、前記熱硬化性樹脂組成物を加熱硬化し、封止樹脂を形成する第4工程と、を含む。前記低弾性率領域は前記封止樹脂より弾性率が低い。
【0022】
<本開示の基礎となる知見>
最初に、従来の半導体モジュールの課題について説明する。
図14は、従来のパワー半導体モジュールの構造を示す断面図である。
図14に示すように、パワー半導体モジュール150は、パワー半導体チップ101と、積層基板105と、ケース107と、放熱ベース126と、金属端子109と、金属ワイヤ110と、を備える。パワー半導体チップ101は、MOSFET、IGBTまたはダイオード等のパワー半導体チップであり、積層基板105上にはんだ等の接合層125で接合されている。セラミック基板等の絶縁基板102のおもて面に銅などの第1導電性板103が備えられ、裏面に銅などの第2導電性板104が備えられたものを積層基板105と称する。積層基板105は、放熱ベース126にはんだ等の接合層125で接合されている。外部に信号を取り出す金属端子109は、ケース107に接合されている。金属ワイヤ110は、パワー半導体チップ101と金属端子109とを電気的に接続している。また、パワー半導体チップ101の表面には、MOSFETの場合はソース電極パッドが電力端子電極パッド(電流供給端子)として形成される。そして、電力端子電極パッドから取出し端子としてリードフレームや金属ワイヤ110等の導電性接続部材が配置される。リードフレームの場合は、はんだ等の接合層125で、パワー半導体チップ101と接合される。なお、図示はしていないが、これらの部材は、1台の半導体モジュールに複数搭載されている。パワー半導体モジュール150には、ケース107が接着され、金属端子109が貫通して外部に突き出ている蓋(不図示)を取り付ける。積層基板105および基板上のパワー半導体チップ101を絶縁保護する封止樹脂(封止材)108が、ケース107内に充填されている。
【0023】
特に、シリカなどのフィラーを充填したエポキシ樹脂などの硬い(弾性率の高い)封止樹脂108を用いることで回路部材の熱変形を機械的に抑え込むことができ、回路部材への負荷および破壊を防止することにより高い信頼性が得られる。
【0024】
図15は、従来のパワー半導体モジュールの構造における課題を示す断面図である。
図16は、従来のパワー半導体モジュールの構造における課題を示す上面図である。一方、パワー半導体モジュール150の動作によりパワー半導体チップ101が発熱し、パワー半導体チップ101や絶縁基板102などの周辺部材は熱膨張を起こし、その際に熱応力134が発生する。この場合、
図15および
図16に示すように、熱膨張/収縮によって繰り返し生じる熱応力134が封止樹脂108に負荷を与え、パワー半導体チップ101直上の封止樹脂108にクラック133が生じ、モジュール破壊へ至ることがあった。封止樹脂108のクラック133発生を防ぐには封止樹脂108の低弾性化による熱応力134の低減などの方法があるが、封止樹脂108の低弾性化は回路部材の熱変形防止効果とのトレードオフとなってしまう課題があった。なお、パワー半導体モジュールは上面視で長方形である場合が多く、その場合は特に長辺の中央部を軸に熱応力が生じ、
図16のようにクラックが生じる場合がある。
【0025】
以下に添付図面を参照して、本開示にかかる半導体モジュールおよび半導体モジュールの製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。ただし、本開示は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0026】
(実施の形態)
図1は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの構成を示す断面図である。パワー半導体モジュール50においては、絶縁基板2の一方の面であるおもて面に銅からなる第1導電性板3、他方の面である裏面には銅などの第2導電性板4が配置されて積層基板5を構成する。積層基板5の第1導電性板3のおもて面には、はんだからなる接合層25を介して、複数のパワー半導体チップ1が搭載されている。外部に信号を取り出す金属端子9は、ケース7内に接合されている。さらにパワー半導体チップ1のおもて面(例えばソース電極パッド)には、アルミワイヤ等の金属ワイヤ10(ボンディングワイヤ)や、接合層(不図示)を介して、ピン型端子やリードフレームなどの導電性接続部材が取り付けられる。また、パワー半導体チップ1と金属端子9は、アルミワイヤ等の金属ワイヤ10などで電気的に接続される。なお、リードフレームを用いてもよい(不図示)。パワー半導体チップ1、積層基板5、接合層25、金属ワイヤ10(導電性接続部材)等の被封止部材上には、密着性を向上させるためにプライマー層(不図示)が積層されてもよい。また、ケース7内部に封止樹脂8が充填されている。なお、図示したパワー半導体モジュール50の構成は、一例であって、本発明は当該構成に限定されるものではない。なお、パワー半導体モジュールは構成部材により上面視で略矩形であり、略正方形でもよく、略長方形の物がより多く用いられる。
【0027】
(パワー半導体チップ1)
パワー半導体チップ1は、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:絶縁ゲート型電界効果トランジスタ)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)あるいはSBD(Schottky Barrier Diode:ショットキーバリアダイオード)等のパワーチップであり、半導体基板としては、Si、SiC、GaNを使用したデバイスを用いることができる。特に、電力が大きく、ヤング率の高いSiCチップやGaNチップに対して、本開示は有効である。パワー半導体チップ1の搭載数は、1つであってもよく、複数搭載することもできる。
【0028】
パワー半導体チップ1の裏面の表(ひょう)面電極(裏面電極)は、積層基板5のおもて面の第1導電性板3にはんだ等の接合層25で接合されている。積層基板5の裏面の第2導電性板4は、放熱ベース26のおもて面にはんだ等の接合層25で接合されている。第1導電性板3は、絶縁基板2のおもて面(第1主面)に所定の回路パターンで形成されている。第2導電性板4は、絶縁基板2の裏面の全体に形成された金属箔であってよい。
【0029】
(積層基板5)
積層基板5は、絶縁基板2とその一方の主面に所定の形状に形成される第1導電性板3と、他方の主面に形成される第2導電性板4とから構成することができる。絶縁基板2としては、電気絶縁性、熱伝導性に優れた材料を用いることができる。絶縁基板2の材料としては、例えば、Al2O3、AlN、SiNなどが挙げられる。特に高耐圧用途では、電気絶縁性と熱伝導率を両立した材料が好ましく、AlN、SiNを用いることができるが、これらには限定されない。第1導電性板3、第2導電性板4としては、加工性の優れているCu(銅)またはCu合金を用いることができる。なお、Cu合金はCuを80%以上含む合金である。このようなCuまたはCu合金からなる導電性板のうち、パワー半導体チップ1と接していない導電性板を、裏面銅箔または裏面導電性板と指称することもある。絶縁基板2上に導電性板を配設する方法としては、直接接合法(Direct Copper Bonding法)もしくは、ろう材接合法(Active Metal Brazing法)が挙げられる。また、導電性基板表面にNi(ニッケル)めっき等を施し、NiまたはNi合金層を形成しても良い。
【0030】
(放熱ベース26)
放熱ベース26は、熱伝導性に優れたCuやAlなどの金属で形成された例えば略矩形状の平面形状の放熱板であり、金属基板とも指称する。放熱ベース26の表面は、腐食防止効果を有するNi膜やNi合金膜で覆われていてもよい。放熱ベース26の裏面は、冷却ベース部(不図示)に接合されてもよい。放熱ベース26は、パワー半導体チップ1で発生し、積層基板5を介して伝わる熱を放熱フィン部へ伝導する。放熱フィン部は、複数の放熱フィンを有し、放熱ベース26から伝導された熱を放散する。なお、放熱ベース26自体が放熱フィン部などの冷却装置であってもよい。
【0031】
(接合層25)
接合層25は、鉛フリーはんだを用いて形成することができる。例えば、Sn-Sb系、Sn-Cu系、Sn-Ag系、Sn-Sb-Ag系などを用いることができるが、これらには限定されない。
【0032】
(ケース7)
放熱ベース26の周縁に、樹脂等のケース7の下端が接着されている。ケース7は略矩形筒状をなし、放熱ベース26のおもて面の周囲を囲む。放熱ベース26のおもて面を底面とし、放熱ベース26のおもて面と直交するケース7の内壁を側壁とする箱状の凹部が形成されている。この凹部の内部に、金属ワイヤ10やリードフレーム等の配線部材で配線されたパワー半導体チップ1および積層基板5や配線部材部品が収納されている。ケース7の材料は、例えばポリフェニレンスルファイド(PPS)やポリブチレンテレフタレート(PBT)等の熱可塑性樹脂やフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂であってよい。なお、ケースを含まず、パワー半導体チップや積層基板等を封止樹脂で成形して半導体モジュールと成してもよい。
【0033】
(プライマー層)
被封止部材上には、プライマー層(不図示)が形成されてもよい。プライマー層は、ポリアミド、ポリイミド、またはポリアミドイミドを含む樹脂からなる層であってよい。プライマー層は、金属ワイヤ10やリードフレームなどの導電性接続部材や積層基板5(特に主面側の第1導電性板3)、放熱ベース26、ケース7(内面)と封止樹脂8の界面の密着性を向上させ、応力を緩和させることができるため、有利に用いられる場合がある。プライマー層の厚みは、密着性を付与し、応力を緩和させることができる厚みであれば特には限定されない。プライマー層の厚みは、例えば、1~15μm程度とすることができ、2~10μmとすることが好ましい。プライマー層は、上記部材の表面全体を被覆するように設けることができる。これらのプライマー層は吸湿しやすく、吸湿すると密着性は低下してしまう場合がある。プライマー層を有さないパワー半導体モジュールであってもよい。
【0034】
(封止樹脂8)
封止樹脂8は被封止部材を封止する封止樹脂層に用いられ、プライマー層に接して設けられ、あるいは図示しないプライマー層を有さないパワー半導体モジュールにおいては被封止部材に接して設けられ、主としてパワー半導体チップ1や積層基板5、金属ワイヤ10やリードフレームなどの周囲を被覆する。封止樹脂8は、熱硬化性樹脂組成物から構成することができ、特には高耐熱性の熱硬化性樹脂組成物から構成することが好ましい。熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂主剤を含み、任意選択的に、無機充填材、硬化剤、硬化促進剤、及び必要な添加剤を含んでいてもよい。封止樹脂8を構成する熱硬化性樹脂組成物には、フッ素系シランカップリング剤は含まれていてもよく、含まれていなくてもよいが、含まれていないことが好ましい。封止樹脂8のガラス転移温度(Tg)を低下させる場合があるためである。
【0035】
熱硬化性樹脂主剤としては、特に限定されず、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、マレイミド樹脂等を挙げることができる。中でも、1分子中に少なくとも2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が、寸法安定性や耐水性・耐薬品性および電気絶縁性が高いことから、特に好ましい。具体的には、脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂またはこれらの混合物を用いることが好ましい。
【0036】
脂肪族エポキシ樹脂とは、エポキシ基が直接結合する炭素が、脂肪族炭化水素を構成する炭素であるエポキシ化合物をいうものとする。したがって、主骨格に芳香環が含まれている化合物であっても、上記条件を満たすものは、脂肪族エポキシ樹脂に分類される。脂肪族エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、3官能以上の多官能型エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらには限定されない。これらを単独で、または二種類以上混合して使用することができる。また、ナフタレン型エポキシ樹脂や3官能以上の多官能型エポキシ樹脂はガラス転移温度が高いため、高耐熱性エポキシ樹脂とも指称する。これらの高耐熱性エポキシ樹脂を含むことで耐熱性を向上させることができる。
【0037】
脂環式エポキシ樹脂とは、エポキシ基を構成する2つの炭素原子が、脂環式化合物を構成するエポキシ化合物をいうものとする。脂環式エポキシ樹脂としては、単官能型エポキシ樹脂、2官能型エポキシ樹脂、3官能以上の多官能型エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらには限定されない。脂環式エポキシ樹脂も、単独で、または異なる二種以上の脂環式エポキシ樹脂を混合して用いることができる。なお、脂環式エポキシ樹脂を酸無水物硬化剤と混合して硬化すると、ガラス転移温度が高くなるため、脂肪族エポキシ樹脂に脂環式エポキシ樹脂を混合して用いると高耐熱化を図ることができる。
【0038】
本実施の形態による組成物に用いる熱硬化性樹脂主剤は、上記の脂肪族エポキシ樹脂と脂環式エポキシ樹脂とを混合したものであってもよい。混合する場合の混合比は任意であってよく、脂肪族エポキシ樹脂と脂環式エポキシ樹脂との質量比が、2:8~8:2程度であってよいが、3:7~7:3程度であってもよく、特定の質量比には限定されない。好ましくは、熱硬化性樹脂主剤は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と脂環式エポキシ樹脂との質量比が、1:1~1:4である。
【0039】
本実施の形態による熱硬化性樹脂組成物には、任意選択的な成分として無機充填材(フィラー)を含んでもよい。無機充填材は、金属酸化物もしくは金属窒化物であってよく、例えば、溶融シリカ(溶融酸化ケイ素)、シリカ(酸化ケイ素)、アルミナ(酸化アルミニウム)、水酸化アルミニウム、チタニア(酸化チタン)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、窒化アルミニウム、タルク、クレー、マイカ、ガラス繊維等が挙げられるが、これらには限定されない。これらの無機充填材により、硬化物の熱伝導率を高め、熱膨張率を低減することができる。また、これらの無機充填材は、単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの無機充填材は、マイクロフィラーであってもよく、ナノフィラーであってもよく、粒径及び/または種類が異なる2種以上の無機充填材を混合して用いることもできる。
【0040】
熱硬化性樹脂組成物には、任意選択的な成分として、熱硬化性樹脂主剤に加えて、あるいは熱硬化性樹脂主剤及び無機充填材に加えて硬化剤を含んでもよい。硬化剤としては、熱硬化性樹脂主剤、好ましくはエポキシ樹脂主剤と反応し、硬化しうるものであれば特に限定されないが、酸無水物系硬化剤を用いることが好ましい。酸無水物系硬化剤としては、例えば芳香族酸無水物、具体的には無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸等が挙げられる。あるいは、環状脂肪族酸無水物、具体的にはテトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸等、もしくは脂肪族酸無水物、具体的には無水コハク酸、ポリアジピン酸無水物、ポリセバシン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物等を挙げることができる。なお、熱硬化性樹脂主剤として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を単独で、またはビスフェノールA型エポキシ樹脂と先に例示した高耐熱性エポキシ樹脂との混合物を用いる場合は、硬化剤を用いない方が、耐熱性が向上するため好ましい場合がある。
【0041】
熱硬化性樹脂組成物には、さらに、任意選択的な成分として、硬化促進剤を添加することができる。硬化促進剤としては、イミダゾールもしくはその誘導体、三級アミン、ホウ酸エステル、ルイス酸、有機金属化合物、有機酸金属塩等を適宜配合することができる。
【0042】
熱硬化性樹脂組成物は、また、その特性を阻害しない範囲で、任意選択的な添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、難燃剤、樹脂を着色するための顔料、耐クラック性を向上するための可塑剤やシリコンエラストマーが挙げられるが、これらには限定されない。これらの任意成分、およびその添加量は、半導体モジュール及び/または封止材に要求される仕様に応じて、当業者が適宜決定することができる。上述の無機充填材を含み、熱硬化性樹脂主剤がエポキシ樹脂の熱硬化性樹脂組成物(硬化物)の弾性率は、貯蔵弾性率として、10~20GPa、好ましくは11~13GPaを用いることができる。なお、封止樹脂8は、主鎖がシロキサン結合で構成される有機ケイ素ポリマーで、弾性率が100MPa以下で、針入度(1/mm)が0.1から500のシリコーン樹脂(シリコーンゲル)などでもよい。
【0043】
(低弾性率領域30)
実施の形態のパワー半導体モジュール50では、樹脂クラックが発生しやすい封止樹脂8の最表面に弾性率の低い低弾性率領域30を設置する。低弾性率領域30を、応力が集中しやすいパワー半導体チップ1直上に設けることで応力を緩和し、樹脂クラックを抑えることができる。
【0044】
図2は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの構造を示す上面図である。
図2に示すように、低弾性率領域30は、ストライプ形状で、樹脂クラックが出現する方向(パワー半導体モジュール50の短手方向)と平行に付与することが好ましい。
図2では、低弾性率領域30は、長手方向のケースの内壁を繋ぐように形成されているが、ケース内壁と接しなくても良く、中央部付近に設けても良く、また、上面視でパワー半導体モジュールの長手方向の中央部付近に設けることが好ましい。
【0045】
実施の形態の低弾性率領域30は、封止樹脂8より貯蔵弾性率が低い。以下の実験例で詳細に説明するが、封止樹脂8の貯蔵弾性率を100%としたときの低弾性率領域30の貯蔵弾性率を比弾性率とすると、比弾性率を0.83%以上、100%未満とするとP/C耐量は向上する。また、比弾性率を8%から75%とすると、P/C耐量は20%以上向上するため、より好ましい。さらに、比弾性率が25%から50%とすると、P/C耐量は30%以上向上するため好ましい。
【0046】
以下の実験例で詳細に説明するが、低弾性率領域30の断面形状は、
図1に示すように、封止樹脂8と接する部分が曲線で囲まれた形状で、先端(底部先端部)が尖っていない。例えば、半円や半楕円など、曲線に直線部分を含まない形状や、半月型、かまぼこ型などの曲線に直線部分を含む場合は、先端(底部先端部)の尖りは、少なくともR=0.5mm以上の曲率を持つことが好ましい。また、封止樹脂8と接しない部分(モジュール表面に露出する部分)の形状に指定はない。
【0047】
(実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの製造方法)
次に、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの製造方法について説明する。
図3~
図5は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの第1製法による製造途中の状態を模式的に示す断面図である。
図6は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの第2製法による製造途中の状態を模式的に示す断面図である。第1製法および第2製法とも、まず、放熱ベース26および積層基板5に接合層25でパワー半導体チップ1を接合する。
【0048】
この後、放熱ベース26にケース7を取り付けた後、リードフレームの接合、並びに金属ワイヤ10にてワイヤボンディングを行う。なお、リードフレームの代わりに金属ワイヤ10を用いてもよい。次いで、プライマー層を形成してもよい。プライマー層は、パワー半導体チップ1、積層基板5、リードフレーム、金属ワイヤ10およびケース7に、例えばスプレー塗布等により設けることができる。プライマー層の形成後は、窒素ガスを導入したイナートオーブン中で、70~90℃で、60~80分程度加熱し、さらに200~220℃で、60~80分加熱することが好ましい。この加熱操作により、Cu表面の酸化を抑制してリードフレームを構成するCuを加熱し、プライマー層とCuとの反応が促進し、プライマー層とリードフレームとの密着性を向上することができる。なお、本実施の形態のパワー半導体モジュール50は、プライマー層を設けないパワー半導体モジュール50であってもよく、その場合はスプレー塗布及びイナートオーブン中での加熱操作を省略することができる。
【0049】
次に、第1製法では、
図3に示すように、ケース7内に、溶融した封止樹脂8を構成する熱硬化性樹脂組成物31を注入する。熱硬化性樹脂組成物31を注入した状態が
図4に記載される。次に、
図5に示すように、低弾性樹脂32を部分的に注入する。ここで、低弾性樹脂32は粘度が高いため、封止樹脂中に自然拡散することは少ない。その後、熱硬化性樹脂組成物31および低弾性樹脂32を加熱硬化し、封止樹脂8および低弾性率領域30を形成する。例えば、100~120℃で10~120分にわたって仮硬化し、175~185℃程度で1~2時間にわたって本硬化することにより、
図1に示すパワー半導体モジュール50が製造される。
【0050】
また、第2製法では、第1製法と同様に、ケース7内に、封止樹脂8を構成する溶融した熱硬化性樹脂組成物31を部分的に注入する(
図3参照)。熱硬化性樹脂組成物31を注入した状態は、第1製法と同様である(
図4参照)。次に、
図6に示すように、低弾性樹脂32を予め硬化してある低弾性率領域30を未硬化または仮硬化後の熱硬化性樹脂組成物31に挿入する。その後、熱硬化性樹脂組成物31を加熱硬化する。例えば、100~120℃で10~120分にわたって仮硬化し、175~185℃程度で1~2時間にわたって本硬化することにより、
図1に示すパワー半導体モジュール50が製造される。
【0051】
以下に、本開示の実験例および実施例を挙げて、本開示をより詳細に説明する。しかし、本開示は、以下の実験例および実施例の範囲に限定されるものではない。実験例1では、低弾性率領域30に用いる低弾性材料について実験を行った。実験例2、3では、低弾性率領域30を設ける位置について実験を行った。実験例4では、低弾性率領域30の断面形状について実験を行った。実験例5では、第1製法の粘度の範囲について実験を行った。実験例6では、作製方法について実験を行った。
【0052】
(実験例1)
実験例1では、硬化後における25℃での貯蔵弾性率が12GPaの封止樹脂8に対して、様々な貯蔵弾性率を持つ低弾性率領域30を形成した場合におけるパワーサイクル(P/C)耐量を比較した。結果を表1に示す。表1において、※は、以下で説明するDMSでの弾性率が測定不能であり、針入度は35であることを示す。
【0053】
【0054】
使用した低弾性樹脂は、貯蔵弾性率が6GPa以上、14GPaまでは通常の封止樹脂(エポキシ樹脂A(ビスフェノールA型と脂環式エポキシの混合)、貯蔵弾性率12GPa、標準フィラー濃度73wt%からフィラー濃度を増減させることで弾性率を調整して用意した(実施例1~5、比較例1~3)。貯蔵弾性率3GPaの材料には前記エポキシ樹脂に加えて、シリコーンゴムを添加して貯蔵弾性率を調整した(実施例6~8)。またはシリコーンゴム材料そのもの、およびシリコーンゲルを使用した(実施例9、比較例5、6)。また低弾性率領域30の形状そのものの効果を確認するために、低弾性率領域30に凹部は設けたが低弾性材料は何も封止しない例(比較例4)も用意した。
【0055】
(実施例1)
実施例1の詳細を以下に示す。
1)テストモジュール
封止樹脂8のエポキシ樹脂としては、エポキシ樹脂ME-276(ペルノックス(株)社製)を用い、酸無水物系硬化剤として、MV-138(ペルノックス(株)社製)をエポキシ樹脂100質量部に対して、121質量部添加した。フィラーは、平均粒子径が10μmの球状シリカ(AGC(株)社製)を用い、エポキシ樹脂と硬化剤の総質量を100質量部とした場合に、270質量部添加した。このときフィラー濃度は73wt%となった。
2)低弾性率領域30
・材質
エポキシ樹脂Aとして、前記封止樹脂8の材料と同じく、主剤としてエポキシ樹脂ME-276(ペルノックス(株)社製)、硬化剤としてMV-138(ペルノックス(株)社製)を使用した。フィラーも同様に平均粒子径が10μmの球状シリカ(AGC(株)社製)を用いたが、添加量はエポキシ樹脂の主剤と硬化剤の総質量を100質量部とした場合に、150質量部添加した。これによりフィラー濃度は60wt%となった。
・形状、配置
低弾性率領域30は
図1のような半月型の断面形状で、
図2のようにモジュール短手と平行方向かつパワー半導体チップ1直上に付与し、作製方法は、第1製法を用いた(低弾性樹脂は、第1製法では樹脂粘度差が1:0.5となるように低粘度樹脂温度20℃、封止樹脂温度60℃にて樹脂注型を行ったのち熱硬化して作製した)。
具体的には、低弾性率領域30は半月型で、深さが3mm(封止樹脂8の厚さ例えば10mmに対して20%以上)、幅5mm(パワー半導体チップ1(素子)の大きさ程度で、素子の幅に対して50~150%程度)、パワー半導体モジュール50の封止樹脂8の大きさは、上面からみて、短手方向の長さは50mm、長手方向の長さは70mm、封止樹脂8の最大厚さは10mmである。
3)評価方法
・貯蔵弾性率評価
動的粘弾性測定装置(DMS)を用いて、50×10×2.0mm
3の板状に成形した樹脂サンプルを両持ち梁測定モードにて貯蔵弾性率測定を行った。測定は室温で、印加周波数は1Hz、測定長は20mmとした。
・信頼性評価
P/C試験は40℃から175℃になるように通電し、通電運転2秒、休止9秒の条件を1サイクルとして行い、樹脂表面クラック進展による電気特性異常が生じない時点までのサイクル数を記録した。
【0056】
(実施例2~9)
実施例2~9の詳細を以下に示す。実施例2~9については、表1に示すように低弾性率領域30の材料を変えて貯蔵弾性率を変化させ、比弾性率を8.3%から100%まで変化させた以外は実施例1と同じ方法、条件でモジュールを作成し、信頼性を評価した。具体的には、実施例2~5は、実施例1のフィラー濃度を表1に記載の量に変えた。また、実施例6~9は、実施例5に対し、シリコーンゴムAとして2液シリコーンゴムであるKE-66(信越化学工業製)を表1に記載の量を添加した。
【0057】
(比較例1~6)
比較例1~6の詳細を以下に示す。比較例1~3は、表1に示すように、低弾性率領域30に封止樹脂8の貯蔵弾性率より大きな材料を用いた以外は実施例1と同じ方法、条件でモジュールを作成し、信頼性を評価した。具体的には、比較例1~3は、実施例1のフィラー濃度を表1に示すフィラー濃度とした。また比較例4は、低弾性率領域30に何も入れず、凹部とした以外は実施例1と同じ方法、条件でモジュールを作成し、信頼性を評価した。また、比較例5は実施例9のシリコーンゴムAに代えて、シリコーンゴムBとして2液シリコーンゴムであるKE-1031(信越化学工業製)を使用した。また、比較例6は、シリコーンゲルを用いた。シリコーンゲルは、モメンティブ社製1液型シリコーンゲルであるTSE3051FHを使用し、80℃30分の条件の元で硬化した。なお、前記シリコーンゲル(硬化後)は、上記の貯蔵弾性率評価方法では測定できない程度に柔らかく、針入度で35であった。なお、針入度とは材料の硬さを測定する方法の1つであり、所定の重量を持つ円錐状の針を被測定体上に垂直に落下させた際の針の沈み具合を1/10mm単位で評価するものである。今回はASTM D-1403に定められた所定の条件の下、針を5秒間貫入させたときの侵入深さを測定した。
【0058】
(結果)
その結果、封止樹脂8の貯蔵弾性率を100%としたときの低弾性率領域30の貯蔵弾性率を比弾性率とすると、比弾性率は0.83%以上、100%未満とすると、P/C耐量は向上する。また、比弾性率は4.2%から83%とすると、P/C耐量は14%以上向上するため好ましく、また、比弾性率は8%から75%とすると、P/C耐量は25%以上向上するため好ましい。さらに、比弾性率は25%から50%とすると、P/C耐量は40%以上向上するためより好ましい。
【0059】
一方、比弾性率が0.83%未満まで低くなると低弾性化によるP/C耐量向上効果は無くなり、更に比弾性率の低い0.083%以下の場合ではむしろP/C耐量が比較例1と比べて少し悪化した。これは封止樹脂8に凹部のみ設けて低弾性樹脂を使用しなかった比較例4でもP/C耐量の低下が見られたことから、低弾性率領域30があまりにも柔らかすぎると応力緩和の効果が無くなることに加え、低応力領域を設けるために凹部を設けて薄化したため封止樹脂8の剛性が低下してしまったことが要因と考えられる。
【0060】
(実験例2)
実験例2では、低弾性率領域30をパワー半導体チップ1の直上または直上以外に付与した場合における効果を確認した。結果を表2に示す。
図7は、実施の形態にかかる半導体モジュールの実施例12の構造を示す上面図である。実施例5は、実験例1の実施例1と同じ構造である。比較例1は、実験例1の比較例1と同じ構造である。なお、直上とは、平面視で、パワー半導体チップと一部分でも重なる部分を有する場合も含む。
【0061】
【0062】
実施例5では、低弾性率領域30には貯蔵弾性率6GPaの樹脂を使用し、
図1のようにモジュール短手と平行方向かつパワー半導体チップ1直上に付与し、作製方法は第1製法を用いた。実施例12では、低弾性率領域30には実施例5と同じものを使用し、
図7のようにモジュール短手と平行方向かつパワー半導体チップ1直上以外に付与し、作製方法は第1製法を用いた。
【0063】
具体的には、パワー半導体チップ1の中心部を原点とし、モジュール長手方向に向かって±10%(±7mm)の範囲内をパワー半導体チップ1直上、それよりも外側をパワー半導体チップ1直上以外とした。結果は、パワー半導体チップ1直上でも直上以外でもP/C時樹脂クラック耐量向上効果を確認できた。このときパワー半導体チップ1直上に低弾性率領域を付与した方がよりP/C時樹脂クラック耐量向上に効果的であることがわかった。なお、本実験例では平面視で封止樹脂のほぼ中央部にパワー半導体チップを配置して検証したが、中央部のみではなく、複数配置された場合においても、パワー半導体チップの直上に配置すると、本実験例と同様の効果が得られた。
【0064】
(実験例3)
実験例3では、低弾性率領域30をモジュールの短手かつ/または長手方向に付与した場合における効果を確認した。結果を表3に示す。
図8Aは、実施の形態にかかる半導体モジュールの実施例13の構造を示す上面図である。
図8Bは、実施の形態にかかる半導体モジュールの実施例14の構造を示す上面図である。実施例5は、実験例1の実施例1と同じ構造である。比較例1は、実験例1の比較例1と同じ構造である。
【0065】
【0066】
実施例5では、低弾性率領域30は貯蔵弾性率6GPaの樹脂を使用し、
図2のようにモジュール短手と平行方向かつパワー半導体チップ1直上に付与し、作製方法は第1製法を用いた。実施例13では、低弾性率領域30は貯蔵弾性率6GPaの樹脂を使用し、
図8Aのようにモジュール長手と平行方向かつパワー半導体チップ1直上に付与し、作製方法は第1製法を用いた。実施例14では、低弾性率領域30は貯蔵弾性率6GPaの樹脂を使用し、
図8Bのようにモジュール長手と平行方向かつパワー半導体チップ1直上およびモジュール短手と平行方向かつパワー半導体チップ1直上の両方に付与し、作製方法は第1製法を用いた。
【0067】
結果は、実施例5、13、14ではいずれの比較例においてもP/C耐量の向上が確認できたが、実施例5、14の短手と平行方向に低弾性率領域30を配置した場合のP/C耐量向上効果が特に顕著であった。また、実施例14の短手と平行方向および長手と平行方向に低弾性率領域30を配置した場合のP/C耐量向上効果が最も顕著であった。
【0068】
(実験例4)
実験例4では、深さが3mm、幅5mmの低弾性率領域30の断面形状を半月型、矩形、逆三角形型、矩形(R付与、R=0.5mm)、逆三角形型(R付与、R=0.5mm)とした場合の効果を確認した。なお半月型とは、半円や半楕円などの曲線に直線部分を含まない形状を指す。結果を表4に示す。
【0069】
【0070】
比較例1は、実験例1の比較例1と同じ構造である。比較例7では矩形形状を使用した。
図9は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールに対する比較例7の構造を示す上面図である。貯蔵弾性率、位置、作製方法等は実施例15と同じである。比較例8では逆三角形形状を使用した。
図10は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールに対する比較例8の構造を示す上面図である。貯蔵弾性率、位置、作製方法等は実施例15と同じである。なお、意図としてRを付与しなかった矩形、逆三角形型の頂点にはサンプル作製の都合上R=0.25程度の曲率が付与されていた。
【0071】
実施例15では半月型を使用した。
図11は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの実施例15の構造を示す上面図である。実施例15では短半径1.5mm、長半径2.5mmの半楕円形状を使用した。低弾性率領域30は貯蔵弾性率6GPaの樹脂を使用し、パワー半導体チップ1直上を通るように付与し、作製方法は第2製法を用いた。なお、低弾性率領域30は、事前に所定の材料を型に注入して作製した。
【0072】
実施例16ではR付与の矩形形状を使用した。
図12は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの実施例16の構造を示す上面図である。貯蔵弾性率、位置、作製方法等は実施例15と同じである。実施例17ではR付与の逆三角形形状を使用した。
図13は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの実施例17の構造を示す上面図である。貯蔵弾性率、位置、作製方法等は実施例15と同じである。
【0073】
結果は、比較例7および比較例8の矩形および逆三角形型といった断面形状の先に尖った頂点がある構造ではP/C試験時に樹脂クラック耐量向上効果が比較例1と比べ低下するのに対し、実施例15~17の半月型、矩形(R付与)、逆三角形型(R付与)といった断面形状に頂点の無い構造では比較例1よりも樹脂クラック耐量が向上していた。これは、低弾性率領域30における頂点部への応力集中による樹脂割れを避けるためには頂点の無い丸みを帯びた形状が効果的であるためと考えられる。実験例4の結果より、矩形や三角形等の多角形形状における角部のRは、少なくとも0~0.25mmの範囲では好ましくないことがわかった。
【0074】
(実験例5)
実験例5では、第1製法にて本開示の構造を付与するための製造方法について調査した。ポッティング封止樹脂の弾性率は一般に樹脂に添加されるフィラーの濃度により調整され、フィラー濃度が高いほど弾性率は増加する。そのため低弾性率領域30に用いる樹脂を用意するには、封止樹脂からフィラー濃度を減少させることで低弾性化したものを用いるのが簡単である。しかし、フィラー濃度を減少させた低弾性樹脂では同時に粘度も低下してしまうため、この低弾性液状樹脂をそのまま液状封止樹脂上に吐出しても粘度の低い低弾性樹脂は沈まずに浮いてしまい本開示の構造をとることができない。そこで、液状樹脂では一般に加温することでも粘度が低下する性質を利用し、高粘度な封止樹脂を加熱して粘度を低下させ、そこに温度が低い高粘度状態の低弾性樹脂を吐出することにより本開示の形態を製造することができる。実験例5では、封止樹脂と低弾性樹脂の注型温度をそれぞれ変えることで粘度を変化させたときに本開示の形態を付与可能であるかを評価した。今回評価に使用した封止樹脂は熱硬化性エポキシ樹脂であり、その組成のうち約73wt%をシリカフィラーが占めている。エポキシ樹脂中のフィラー濃度が高いほど樹脂硬化物の弾性率は増加し、また未硬化状態での樹脂粘度も増加することが知られている。実施例1では通常の封止材としてエポキシ樹脂を、低弾性樹脂としてこのエポキシ樹脂からフィラーを全て除いたフィラーレスエポキシ樹脂を用いて評価を行った。結果を表5に示す。
【0075】
【0076】
封止樹脂の粘度を1としたときの封止樹脂と低弾性樹脂の粘度比が1:1~1:0.35の場合に、本開示の形態を製造することができた。粘度比が1:0.25以下の場合は低粘度樹脂の粘度が低すぎるため封止樹脂内に進入できず、封止樹脂上に低粘度樹脂が濡れ広がったような形態となってしまった(NG1)。また粘度比が1:1.4以上の場合は封止樹脂の粘度が低すぎるため低粘度樹脂が封止樹脂中に深く沈みこんでしまい目的の形態が作製できなかった(NG2)。なお、各樹脂の粘度は温度を制御して可変した。
【0077】
(実験例6)
実験例6では、第1製法と第2製法による効果の差を確認した。低弾性率領域30の樹脂には実施例5と同じ樹脂を使用し、モジュール短手に平行方向かつパワー半導体チップ1直上を通るように付与した。なお、硬化後の低弾性樹脂の貯蔵弾性率は室温で6GPaであった。低弾性樹脂は、第1製法では樹脂粘度差が1:0.5となるように低粘度樹脂温度20℃、封止樹脂温度60℃にて樹脂注型を行ったのち熱硬化して作製した。実施例15の第2製法では予め断面が半月型である棒状になるような型を用いて作製した低弾性樹脂硬化物を60℃で注型した封止樹脂に挿入したのち封止樹脂を熱硬化して作成した。比較例1は、実験例1の比較例1と同じ構造である。結果を表6に示す。
【0078】
【0079】
結果は、第1製法、第2製法のどちらも比較例1と比べてP/C耐量の向上が見られたことから、樹脂クラック耐量向上効果を確認できた。このとき第1製法の方がよりP/C時樹脂クラック耐量向上に効果的であることがわかった。これは、液状樹脂である封止樹脂中に同じく液状樹脂である少フィラー低弾性樹脂を注入したことで、樹脂硬化が完了する前に2種の樹脂の界面でフィラーの拡散が生じてフィラーに濃度分布が現れた効果で、これにより2種の樹脂界面が不連続である第2製法の場合よりも応力緩和効果が向上したものと思われる。なお、実験例1,2,3は、第1製法を用いたが、第2製法でも同様の効果を有する。また、上述の実験例では、貯蔵弾性率が12GPaとなる封止樹脂を用いたが、他の貯蔵弾性率とした場合でも、低弾性率領域は、所定の形状、配置、比弾性率において、同様の効果を有する。
【0080】
以上、説明したように、実施の形態によれば、封止樹脂の最表面に弾性率の低い低弾性率領域を応力が集中しやすいパワー半導体チップ直上に設置することで、応力を緩和し、樹脂クラックを抑えることができる。
【0081】
以上において本発明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であり、上述した各実施の形態において、例えば各部の寸法や不純物濃度等は要求される仕様等に応じて種々設定される。また、上述した各実施の形態では、半導体として、シリコンの他、炭化珪素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)などのワイドバンドギャップ半導体にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上のように、本発明にかかる半導体モジュールおよび半導体モジュールの製造方法は、インバータなどの電力変換装置や種々の産業用機械などの電源装置や自動車のイグナイタなどに使用されるパワー半導体モジュールに有用である。
【符号の説明】
【0083】
1、101 パワー半導体チップ
2、102 絶縁基板
3、103 第1導電性板
4、104 第2導電性板
5、105 積層基板
7、107 ケース
8、108 封止樹脂
9、109 金属端子
10、110 金属ワイヤ
25、125 接合層
26、126 放熱ベース(冷却器)
30 低弾性率領域
31 熱硬化性樹脂組成物
32 低弾性樹脂
50、150 パワー半導体モジュール
133 クラック
134 熱応力