(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025158432
(43)【公開日】2025-10-17
(54)【発明の名称】加熱冷却システム及びその運転方法
(51)【国際特許分類】
F25B 25/02 20060101AFI20251009BHJP
F25B 27/02 20060101ALI20251009BHJP
【FI】
F25B25/02 A
F25B27/02 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024060955
(22)【出願日】2024-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】河野 文紀
(72)【発明者】
【氏名】日高 将
(57)【要約】
【課題】低温度域の廃熱を有効利用できる冷却システムを提供する。
【解決手段】本開示の加熱冷却システム100は、圧縮式ヒートポンプ10と、廃熱を利用した吸収式冷凍サイクルによって第1熱媒体を冷却する吸収式冷凍機20と、圧縮式ヒートポンプ10と吸収式冷凍機20との間で第1熱媒体を循環させる第1回路30と、を備える。対象を冷却する第1冷却運転において、吸収式冷凍機20に廃熱が供給され、吸収式冷凍機20によって第1熱媒体が冷却され、かつ、圧縮式ヒートポンプ10の冷媒が対象から受け取った熱が第1熱媒体に放出される。対象を加熱する加熱運転において、圧縮式ヒートポンプ10の冷媒が廃熱によって加熱される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮式ヒートポンプと、
廃熱を利用した吸収式冷凍サイクルによって第1熱媒体を冷却する吸収式冷凍機と、
前記圧縮式ヒートポンプと前記吸収式冷凍機との間で前記第1熱媒体を循環させる第1回路と、
を備え、
対象を冷却する第1冷却運転において、前記吸収式冷凍機に前記廃熱が供給され、前記吸収式冷凍機によって前記第1熱媒体が冷却され、かつ、前記圧縮式ヒートポンプの冷媒が前記対象から受け取った熱が前記第1熱媒体に放出され、
前記対象を加熱する加熱運転において、前記圧縮式ヒートポンプの前記冷媒が前記廃熱によって加熱される、
加熱冷却システム。
【請求項2】
前記第1熱媒体が液体であり、
前記圧縮式ヒートポンプは、前記第1熱媒体と前記冷媒とを熱交換させる液-液熱交換器を含む、
請求項1に記載の加熱冷却システム。
【請求項3】
前記第1回路は、前記第1熱媒体を加熱可能な熱交換器を備えた分岐回路を含み、
前記分岐回路は、前記加熱運転において使用される回路であり、
前記熱交換器において、前記第1熱媒体が前記廃熱によって加熱される、
請求項1に記載の加熱冷却システム。
【請求項4】
前記吸収式冷凍機がボイラを有さず、前記吸収式冷凍機の熱源が前記廃熱のみである、
請求項1に記載の加熱冷却システム。
【請求項5】
前記廃熱が温水の形態で前記加熱冷却システムに供給される、
請求項1に記載の加熱冷却システム。
【請求項6】
前記廃熱が燃料電池の廃熱である、
請求項1に記載の加熱冷却システム。
【請求項7】
前記燃料電池が固体高分子形燃料電池である、
請求項6に記載の加熱冷却システム。
【請求項8】
加熱冷却システムの運転方法であって、
前記加熱冷却システムは、吸収式冷凍機、圧縮式ヒートポンプ、及び、吸収式冷凍機と圧縮式ヒートポンプとの間で第1熱媒体を循環させる第1回路を備え、
前記運転方法は、
前記吸収式冷凍機に廃熱を供給しながら対象を冷却する冷却運転を行うことと、
前記対象を加熱する加熱運転を行うことと、
を含み、
前記冷却運転において、前記廃熱を利用して前記吸収式冷凍機の運転を行って前記第1熱媒体を冷却するとともに、前記圧縮式ヒートポンプの冷媒が対象から受け取った熱を前記第1回路の前記第1熱媒体に放出させ、
前記加熱運転において、前記圧縮式ヒートポンプの前記冷媒を前記廃熱によって加熱する、
加熱冷却システムの運転方法。
【請求項9】
前記冷却運転と前記加熱運転とを切り替えることをさらに含む、
請求項8に記載の加熱冷却システムの運転方法。
【請求項10】
前記廃熱の温度が60℃から80℃の範囲にある、
請求項8記載の加熱冷却システムの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加熱冷却システム及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、圧縮式ヒートポンプと吸収式冷凍機とを組み合わせた冷凍設備を開示する。特許文献1に記載された冷凍設備においては、圧縮式ヒートポンプの凝縮器の冷却水として、吸収式冷凍機で生成された冷水が使用される。これにより、圧縮式ヒートポンプの圧縮動力が軽減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
地球環境保護の観点から、エネルギーの効率的な利用が年々重要になってきている。エネルギーを効率的に利用するには、機器の効率そのものを向上させることだけでなく、従来は利用されずに廃棄されていたエネルギー、すなわち廃熱の利用を推進することが重要である。しかし、廃熱、特に、低温度域の廃熱からエネルギーを取り出すことは容易なことではない。
【0005】
特許文献1に記載された冷凍設備によれば、吸収式冷凍機で冷水を生成して冷房負荷に冷水を供給する必要がある。冷房に適した温度(例えば7℃)の冷水を吸収式冷凍機で生成するには約90℃の温度を持つ熱が必要である。低温度域の廃熱を特許文献1に記載された冷凍設備で利用することは想定されていない。
【0006】
本開示の目的は、低温度域の廃熱を有効利用できる加熱冷却システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、
圧縮式ヒートポンプと、
廃熱を利用した吸収式冷凍サイクルによって第1熱媒体を冷却する吸収式冷凍機と、
前記圧縮式ヒートポンプと前記吸収式冷凍機との間で前記第1熱媒体を循環させる第1回路と、
を備え、
対象を冷却する第1冷却運転において、前記吸収式冷凍機に前記廃熱が供給され、前記吸収式冷凍機によって前記第1熱媒体が冷却され、かつ、前記圧縮式ヒートポンプの冷媒が前記対象から受け取った熱が前記第1熱媒体に放出され、
前記対象を加熱する加熱運転において、前記圧縮式ヒートポンプの前記冷媒が前記廃熱によって加熱される、
加熱冷却システムを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の技術によれば、低温度域の廃熱を有効利用できる加熱冷却システムを提供できる。また、冷却運転に加えて加熱運転も行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1に係る加熱冷却システムの構成図
【
図2】第1冷却運転における廃熱、第1熱媒体及び冷却液の流れを示す図
【
図3】第1冷却運転の開始直後における廃熱、第1熱媒体、第2熱媒体及び冷却液の流れを示す図
【
図4】第2冷却運転における第1熱媒体及び第2熱媒体の流れを示す図
【
図5】加熱運転における廃熱、第1熱媒体及び冷却液の流れを示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見等)
低温度域の廃熱の利用を推進する一方、廃熱を利用するシステムには次の課題もある。例えば、吸収式冷凍機がボイラを有していない場合、廃熱の供給が止まることに応じてシステムの運転を停止する必要がある。このようなシステムは利便性に劣る。
【0011】
また、特許文献1に記載された冷凍設備に代表されるように、吸収式冷凍機を用いた多くのシステムは、対象を加熱することに対応していない。加熱運転と冷却運転との切り替えが可能であると、システムの利便性が更に向上する。冷却運転だけでなく加熱運転においても廃熱を利用できれば、エネルギー効率の更なる向上が期待できる。
【0012】
以下、図面を参照しながら実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、又は、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0013】
添付図面及び以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0014】
(実施の形態1)
以下、
図1から
図5を用いて、実施の形態1を説明する。
【0015】
[1-1.構成]
図1は、実施の形態1に係る加熱冷却システムの構成図である。加熱冷却システム100は、例えば、空間200の冷房及び暖房を行う空気調和システムである。ただし、加熱冷却システム100の用途は空気調和に限定されない。加熱冷却システム100は、プロセス冷却、プロセス加熱などの他の用途にも使用されうる。さらに、加熱冷却システム100の冷却機能のみを使用することも可能である。この場合、加熱冷却システム100は、冷却システムでありうる。
【0016】
加熱冷却システム100は、対象を加熱する加熱運転と対象を冷却する冷却運転とを切り替え可能に構成されている。加熱運転及び冷却運転のいずれの運転モードにおいても、廃熱が利用される。したがって、加熱冷却システム100は、利便性に優れるとともに、エネルギー効率を大幅に高めることを可能にする。
【0017】
冷却運転は、廃熱を利用する第1冷却運転と、廃熱を利用しない第2冷却運転とを含む。加熱冷却システム100は、第1冷却運転と第2冷却運転とを切り替え可能に構成されている。すなわち、加熱冷却システム100は、廃熱の供給が止まったときにも冷却運転を行うことができる。この観点において、加熱冷却システム100は利便性に優れている。
【0018】
図1に示すように、加熱冷却システム100は、圧縮式ヒートポンプ10、吸収式冷凍機20及び第1回路30を備えている。第1回路30を流れる第1熱媒体によって熱が輸送される。熱源81において生成された廃熱が加熱冷却システム100に供給される。
【0019】
本実施の形態によれば、吸収式冷凍機20で生成された冷熱エネルギーは、圧縮式ヒートポンプ10における圧縮仕事を減らすために使用される。これにより、圧縮仕事に消費されるエネルギー(典型的には電力)を大幅に減らすことができる。対象の冷却は、直接的には、圧縮式ヒートポンプ10が担う。吸収式冷凍機20は、高温の廃熱を必須とせず、低温度域の廃熱を利用して冷熱エネルギーを生成できる。冷熱エネルギーが持つ温度(例えば15℃から20℃)は、空間200を直接的に冷却するのに適した温度ではないかもしれないが、夏期の外気の温度(例えば35℃)よりも十分に低く、圧縮式ヒートポンプ10において凝縮温度を下げて圧縮仕事に消費されるエネルギーを大幅に減らすことができる。
【0020】
圧縮式ヒートポンプ10は、圧縮、凝縮(又は放熱)、膨張及び蒸発の行程を含む冷凍サイクルを利用して対象を加熱又は冷却する装置である。圧縮式ヒートポンプ10は、室外機11及び室内機12を含む。室外機11は、第1熱交換器11aを含む。室内機12は、第2熱交換器12aを含む。冷媒経路13a及び冷媒経路13bによって室外機11と室内機12とが接続されている。室外機11と室内機12との間でHFC(ハイドロフルオロカーボン)などの冷媒が循環する。室外機11は、圧縮機、膨張弁、流路切り替え弁などの機器をさらに含みうる(図示省略)。
【0021】
加熱冷却システム100が冷却運転を行うとき、室外機11の第1熱交換器11aが凝縮器(又は放熱器)として機能し、室内機12の第2熱交換器12aが蒸発器として機能する。室内機12の第2熱交換器12aにおいて、空間200の空気と圧縮式ヒートポンプ10の冷媒とが熱交換を行い、これにより、空間200の空気が冷却される。
【0022】
加熱冷却システム100が加熱運転を行うとき、室外機11の第1熱交換器11aが蒸発器として機能し、室内機12の第2熱交換器12aが凝縮器として機能する。室内機12の第2熱交換器12aにおいて、空間200の空気と圧縮式ヒートポンプ10の冷媒とが熱交換を行い、これにより、空間200の空気が加熱される。
【0023】
第1回路30を流れる第1熱媒体は、例えば、水又はブラインである。この場合、室外機11の第1熱交換器11aは、第1熱媒体と冷媒とを熱交換させる液-液熱交換器でありうる。液-液熱交換器を用いることによって、第1熱媒体と冷媒とを効率的に熱交換させることができる。液-液熱交換器としては、二重管式熱交換器、プレート式熱交換器などが挙げられる。変形例において、第1熱交換器11aは、気-液熱交換器と液-液熱交換器とを有していてもよい。この場合、冷媒は、気-液熱交換器において外気によって冷却され、その後、液-液熱交換器において第1熱媒体によって冷却される。
【0024】
室内機12の第2熱交換器12aは、例えば、空気と冷媒とを熱交換させる気-液熱交換器である。気-液熱交換器としては、フィンアンドチューブ式熱交換器が挙げられる。ただし、第2熱交換器12aの構造は特に限定されず、加熱及び/又は冷却の対象に応じて選択される。
【0025】
吸収式冷凍機20は、廃熱を利用した吸収式冷凍サイクルによって第1熱媒体を冷却する。吸収式冷凍サイクルは、蒸発、吸収、再生及び凝縮の行程を含む冷凍サイクルである。廃熱は、吸収式冷凍機20の再生器に供給され、吸収液の再生に用いられる。吸収式冷凍機20の蒸発器において第1熱媒体が冷却される。吸収式冷凍機20の冷媒は、例えば水である。吸収式冷凍機20の吸収液は、例えば臭化リチウム水溶液である。
【0026】
吸収式冷凍機20は、加熱冷却システム100の冷却運転において動作し、加熱運転において停止する。本実施の形態において、吸収式冷凍機20は、ボイラを有さず、吸収式冷凍機20の熱源が廃熱のみである。吸収式冷凍機20が追い焚き用のボイラを有していないにもかかわらず、加熱冷却システム100は、加熱運転及び冷却運転を実行できる。このことは、加熱冷却システム100の部品コストを抑制するのに有利である。ボイラの燃料費が発生することも回避できる。
【0027】
第1回路30は、圧縮式ヒートポンプ10と吸収式冷凍機20との間で第1熱媒体を循環させる回路である。詳細には、第1回路30は、圧縮式ヒートポンプ10の第1熱交換器11aと吸収式冷凍機20の蒸発器との間で第1熱媒体を循環させる回路である。第1回路30を介して、吸収式冷凍機20で生成された冷熱エネルギーが圧縮式ヒートポンプ10に供給される。
【0028】
第1回路30は、往き経路30a及び戻り経路30bを含む。第1熱媒体は、往き経路30aを通じて吸収式冷凍機20から圧縮式ヒートポンプ10に供給され、戻り経路30bを通じて圧縮式ヒートポンプ10から吸収式冷凍機20に戻される。往き経路30aには、弁31aが設けられている。戻り経路30bには、弁31b及びポンプ61が設けられている。
【0029】
本明細書において、弁は、開閉弁であってもよく、流量調節弁であってもよい。
【0030】
第1回路30は、分岐回路32をさらに含む。分岐回路32は、加熱運転において使用される回路であり、第1熱媒体を加熱可能な熱交換器34を備えている。分岐回路32は、往き経路32a及び戻り経路32bを含む。往き経路32aは、弁31bと圧縮式ヒートポンプ10との間において、第1回路30の戻り経路30bに接続されている。戻り経路32bは、弁31aと圧縮式ヒートポンプ10との間において、第1回路30の往き経路30aに接続されている。往き経路32aには、弁33aが設けられている。戻り経路32bには、弁33bが設けられている。
【0031】
熱交換器34は、加熱運転において、廃熱によって第1熱媒体を加熱するための熱交換器である。熱交換器34において、第1熱媒体が廃熱によって加熱される。加熱された第1熱媒体は、分岐回路32の戻り経路32b及び第1回路30の往き経路30aを通じて、圧縮式ヒートポンプ10に供給される。第1熱媒体は、圧縮式ヒートポンプ10の第1熱交換器11aにおいて冷却される。冷却された第1熱媒体は、第1回路30の戻り経路30b及び分岐回路32の往き経路32aを通じて、熱交換器34に戻される。分岐回路32及び熱交換器34によって、加熱冷却システム100が加熱運転を行うことができる。
【0032】
加熱冷却システム100は、圧縮式ヒートポンプ10の冷媒が受け取った熱を外気に放出させる冷却塔42をさらに備えている。廃熱の供給が止まったときにも、冷却塔42の働きによって、加熱冷却システム100が第2冷却運転を行うことができる。
【0033】
冷却塔42を含む具体的な構成は次の通りである。第1回路30は、第1熱媒体を冷却可能な熱交換器39をさらに含む。加熱冷却システム100は、冷却塔42と第1回路30の熱交換器39との間で第2熱媒体を循環させる第2回路40をさらに備えている。第2熱媒体は、例えば、水又はブラインである。廃熱を利用しない第2冷却運転において、圧縮式ヒートポンプ10の冷媒の熱が第1回路30及び第2回路40を介して冷却塔42から外気に放出される。このような構成によれば、廃熱の供給が止まったときにも冷却運転を行うことができる。第2回路40には、弁49及びポンプ63が設けられている。第2回路40を使用しないとき、ポンプ63が停止され、弁49が閉じられる。
【0034】
本実施の形態において、冷却塔42は、吸収式冷凍機20の冷却塔を兼ねている。このような構成によれば、加熱冷却システム100の部品コストを抑制することができる。
【0035】
詳細には、吸収式冷凍機20は、冷却塔42に接続された冷却回路22をさらに含む。冷却回路22は、吸収式冷凍機20の凝縮器(図示省略)に接続されている。冷却塔42と凝縮器との間で冷却液が循環する。これにより、吸収式冷凍機20の凝縮器において冷媒が凝縮する。冷却回路22を循環する冷却液は、先に説明した第2回路40を循環する第2熱媒体と共通の液体であってもよく、典型的には、水又はブラインである。冷却回路22には、弁23及びポンプ65が設けられている。吸収式冷凍機20を停止時において、ポンプ65が停止され、弁23が閉じられる。
【0036】
第1回路30は、バイパス経路36をさらに含んでいてもよい。バイパス経路36は、吸収式冷凍機20を迂回する経路であり、往き経路30aと戻り経路30bとを接続している。詳細には、バイパス経路36の一端は、弁31aと圧縮式ヒートポンプ10との間において、往き経路30aに接続されている。バイパス経路36の他端は、弁31bと圧縮式ヒートポンプ10との間において、戻り経路30bに接続されている。バイパス経路36には、弁36aが設けられている。
【0037】
廃熱を利用しない第2冷却運転を行うとき、弁31a及び弁31bを閉じ、弁36aを開くことによって、第1熱媒体を吸収式冷凍機20に戻すことなく、熱交換器39によって冷却することができる。このような構成は、ポンプ61の負荷を減らすうえで有利である。ただし、第2冷却運転において、バイパス経路36を使用しなくてもよい。吸収式冷凍機20は停止しているので、第1熱媒体は、吸収式冷凍機20を通過するだけである。
【0038】
第1回路30は、バイパス経路37をさらに含んでいてもよい。バイパス経路37は、熱交換器39を迂回する経路である。熱交換器39と圧縮式ヒートポンプ10との間において、戻り経路30bに弁38が設けられている。バイパス経路37には、弁37aが設けられている。第1冷却運転又は加熱運転を行うとき、弁38を閉じ、弁37aを開くことによって、第1熱媒体が熱交換器39を通過することを回避できる。このような構成によれば、ポンプ61の負荷を減らすことができる。ただし、第1冷却運転又は加熱運転において、バイパス経路37を使用しなくてもよい。第2回路40における第2熱媒体の循環を止めると、第1熱媒体は、熱交換器39を通過するだけである。
【0039】
加熱冷却システム100には、熱源回路80が接続されている。熱源回路80は、熱源81から加熱冷却システム100に廃熱を供給するための回路である。本実施の形態において、廃熱が温水の形態で加熱冷却システム100に供給される。つまり、熱源回路80は、熱源81と加熱冷却システム100との間で温水を循環させる回路である。廃熱が温水の形態であることは、加熱冷却システム100に十分な熱を供給することに適している。
【0040】
本実施の形態において、廃熱は燃料電池の廃熱である。つまり、熱源81が燃料電池を含む。燃料電池の廃熱を利用することは、燃料電池における総合エネルギー効率を高めることにつながる。そのため、本実施の形態の加熱冷却システム100は、燃料電池の廃熱を利用することに適している。変形例において、熱源回路80及び熱源81は、加熱冷却システム100の一部であってもよい。
【0041】
燃料電池としては、固体高分子形燃料電池、固体酸化物形燃料電池、リン酸形燃料電池、溶融炭酸塩形燃料電池が挙げられる。これらの中でも、固体高分子形燃料電池が本実施の形態の加熱冷却システム100に適している。発電にともなって固体高分子形燃料電池から排出される熱量は比較的大きい。そのため、固体高分子形燃料電池を加熱冷却システム100と組み合わせる意義も大きい。固体高分子形燃料電池の廃熱を加熱冷却システム100で利用することによって、固体高分子形燃料電池の総合エネルギー効率を大幅に高めることができる。
【0042】
熱源回路80は、バイパス経路82を含んでいてもよい。バイパス経路82は、吸収式冷凍機20を迂回する経路である。バイパス経路82には、弁95が設けられている。熱源回路80には、バイパス経路82の前後に弁91及び弁92が設けられている。加熱運転を行うとき、弁91及び弁92を閉じ、弁95を開くことによって、温水がバイパス経路82に導かれる。このような構成によれば、温水が吸収式冷凍機20に流入することを回避でき、熱源回路80に設けられたポンプ69の負荷を減らすことができる。
【0043】
熱源回路80は、バイパス経路84を含んでいてもよい。バイパス経路84は、熱交換器34を迂回する経路である。バイパス経路84には、弁96が設けられている。熱源回路80には、バイパス経路84の前後に弁93及び弁94が設けられている。第1冷却運転を行うとき、弁93及び弁94を閉じ、弁96を開くことによって、温水がバイパス経路84に導かれる。このような構成によれば、温水が熱交換器34に流入することを回避でき、ポンプ69の負荷を減らすことができる。
【0044】
熱源回路80は、冷却回路70及び熱交換器73を含んでいてもよい。熱交換器73は、吸収式冷凍機20を通過した温水、又は、熱交換器34を通過した温水の温度をさらに低下させるために設けられている。冷却回路70は、冷却塔42及び熱交換器73に接続されており、冷却塔42と熱交換器73との間で冷却液を循環させる回路である。冷却回路70を循環する冷却液は、第2回路40を循環する第2熱媒体と共通の液体であってもよく、典型的には、水又はブラインである。本実施の形態によれば、熱源81に低温の温水を戻すことができる。例えば、熱源81が固体高分子形燃料電池を含む場合、本実施の形態によれば、固体高分子形燃料電池の冷却に適した温度の温水を熱源81に戻すことができる。冷却回路70には、ポンプ67及び弁71が設けられている。冷却回路70を使用しないとき、ポンプ67が停止され、弁71が閉じられる。
【0045】
本実施の形態によれば、冷却塔42は、廃熱を利用しない第2冷却運転における放熱手段、吸収式冷凍機20の冷却塔、及び、熱源回路80を循環する温水の冷却の3つの役割を担っている。単一の冷却塔42が複数の役割を担うことによって、加熱冷却システム100の部品コストを抑制することができる。
【0046】
燃料電池の廃熱以外の廃熱としては、工場から排出される廃熱、発電所から排出される廃熱、内燃機関から排出される廃熱などが挙げられる。
【0047】
[1-2.動作]
以上のように構成された加熱冷却システム100について、その動作を以下説明する。
【0048】
(廃熱ありの第1冷却運転)
図2は、第1冷却運転における廃熱、第1熱媒体及び冷却液の流れを示す図である。第1冷却運転は、吸収式冷凍機20に廃熱を供給しながら対象を冷却する冷却運転である。第1冷却運転において、廃熱は、熱源回路80を循環する温水の形態で吸収式冷凍機20に供給される。
【0049】
吸収式冷凍機20に供給される廃熱の温度は、例えば、60℃から80℃の範囲にある。例えば、熱源81が固体高分子形燃料電池を含む場合、固体高分子形燃料電池で生成される温水の温度は、概ね上記の温度範囲に収まる。上記のような低温度域の熱は、従来は廃熱利用の吸収式冷凍機に適さないと考えられていたが、加熱冷却システム100によれば、このような低温度域の廃熱も有効利用できる。廃熱の温度は、例えば、吸収式冷凍機20への入口配管で測定される温度である。
【0050】
温水は、必要に応じて、熱交換器73で冷却され、熱源81の冷却に使用される。冷却回路70の冷却液は、冷却塔42で冷却され、熱交換器73において温水の冷却に使用される。例えば、熱源81が固体高分子形燃料電池を含む場合、温水は、熱交換器73において55℃未満の温度まで冷却される。
【0051】
吸収式冷凍機20は、廃熱を利用した吸収式冷凍サイクルによって第1回路30を循環する第1熱媒体の温度を低下させる。第1熱媒体の温度は、例えば、16℃まで低下する。吸収式冷凍機20は、冷却塔42で冷却された冷却液を用いて冷媒(水)を凝縮させる。冷却塔42は、冷却回路22を循環する冷却液の冷却及び熱源回路80を循環する温水の冷却に共用されている。
【0052】
第1熱媒体は、第1回路30の往き経路30aを通じて圧縮式ヒートポンプ10に供給される。すなわち、冷熱エネルギーが圧縮式ヒートポンプ10に供給される。圧縮式ヒートポンプ10の第1熱交換器11aにおいて、第1熱媒体と圧縮式ヒートポンプ10の冷媒とが熱交換を行う。これにより、圧縮式ヒートポンプ10の冷媒が対象(空間200)から受け取った熱が第1熱媒体に放出される。圧縮式ヒートポンプ10の冷媒を16℃の第1熱媒体で冷却する場合、圧縮式ヒートポンプ10の冷凍サイクルにおける高圧側の圧力は、冷媒を外気(例えば35℃)で冷却する場合の圧力と比べて、遥かに低い。したがって、冷媒の圧縮に必要な電力を大幅に削減できる。一例において、冷媒を外気で冷却する場合と比べて、本開示の技術によれば、圧縮式ヒートポンプ10の消費電力を1/3程度まで減らすことができる。
【0053】
(廃熱ありの第1冷却運転の開始直後)
図3は、第1冷却運転の開始直後における廃熱、第1熱媒体、第2熱媒体及び冷却液の流れを示す図である。第1冷却運転の開始直後は、第1熱媒体の温度が十分に低下していないので、圧縮式ヒートポンプ10への冷熱エネルギーの供給が不足する。そこで、第1熱媒体が熱交換器39を通過するように第1回路30における流路の切り替えを行うとともに、第2回路40に第2熱媒体を循環させる。これにより、第1熱媒体が吸収式冷凍機20だけでなく熱交換器39においても冷却されるので、第1冷却運転の開始直後における冷熱エネルギーの不足を補うことができる。この構成は、対象を速やかに冷却することが求められる場合に有用である。
【0054】
(廃熱なしの第2冷却運転)
図4は、第2冷却運転における第1熱媒体及び第2熱媒体の流れを示す図である。第2冷却運転は、吸収式冷凍機20に廃熱を供給することなく対象を冷却する運転である。第2冷却運転において、吸収式冷凍機20に廃熱が供給されず、圧縮式ヒートポンプ10の冷媒が対象から受け取った熱が吸収式冷凍機20を経由せずに外気に放出される。廃熱の供給が止まったときにも冷却運転を行うことができるので、加熱冷却システム100は利便性に優れている。熱源81の種類によっては、廃熱の供給がしばしば止まることがある。本実施の形態の加熱冷却システム100は、そのような熱源81と組み合わせることに適している。
【0055】
具体的には、第2回路40及び冷却塔42を用いて熱を外気に放出させる。第2回路40のポンプ63を動作させて第2回路40に第2熱媒体を循環させる。第2熱媒体は、冷却塔42において冷却される。第1熱媒体が熱交換器39を通過するように第1回路30における流路の切り替えを行う。第1回路30の第1熱媒体は、熱交換器39において第2熱媒体と熱交換を行って冷却される。これにより、圧縮式ヒートポンプ10の運転を継続でき、対象を冷却することができる。
【0056】
図4に示す例において、第1熱媒体は、バイパス経路36を流れ、吸収式冷凍機20を迂回する。ただし、先に説明したように、このような流路の切り替えは必須ではない。
【0057】
(廃熱ありの加熱運転)
図5は、加熱運転における廃熱、第1熱媒体及び冷却液の流れを示す図である。加熱運転は、廃熱を利用して対象を加熱する運転である。加熱運転において、廃熱は、熱源回路80を循環する温水の形態で熱交換器34に供給される。
【0058】
第1回路30において、弁31a及び弁31bが閉じられる。これにより、第1熱媒体が分岐回路32の熱交換器34と圧縮式ヒートポンプ10との間を循環する。第1熱媒体は、分岐回路32の熱交換器34において、温水によって加熱される。第1熱媒体の温度は、例えば、40℃まで上昇する。圧縮式ヒートポンプ10の第1熱交換器11aにおいて、第1熱媒体と圧縮式ヒートポンプ10の冷媒とが熱交換を行う。これにより、圧縮式ヒートポンプ10の冷媒が第1熱媒体によって加熱されて蒸発する。冷媒は、圧縮式ヒートポンプ10において圧縮され、第2熱交換器12aにおいて対象に対して放熱する。
【0059】
圧縮式ヒートポンプ10の冷媒を40℃の第1熱媒体で加熱する場合、圧縮式ヒートポンプ10の低圧側の圧力は、冷媒を外気(例えば4℃)で加熱する場合の圧力と比べて、遥かに高い。したがって、冷媒の圧縮に必要な電力を大幅に削減できる。一例において、冷媒を外気で加熱する場合と比べて、本開示の技術によれば、圧縮式ヒートポンプ10の消費電力を1/3程度まで減らすことができる。
【0060】
(その他)
本実施の形態の加熱冷却システム100によれば、廃熱の有無に応じて第1冷却運転(
図2)と第2冷却運転(
図4)とを切り替えることができる。また、本実施の形態の加熱冷却システム100によれば、冷却運転(
図2、
図4)と加熱運転(
図5)とを切り替えることができる。そのため、加熱冷却システム100は、利便性に優れるとともに、総合エネルギー効率の向上に大きく貢献できる。
【0061】
本実施の形態の加熱冷却システム100の1つの優位性は、低温度域の廃熱を利用できることにある。しかし、高温度域の廃熱を加熱冷却システム100に供給して加熱運転及び冷却運転を行うことも可能である。したがって、本実施の形態の加熱冷却システム100によれば、廃熱の温度が変化するような熱源81の廃熱も有効利用できる。
【0062】
[1-3.付記]
以上の実施の形態の記載により、下記の技術が開示される。
【0063】
(技術1)
圧縮式ヒートポンプと、
廃熱を利用した吸収式冷凍サイクルによって第1熱媒体を冷却する吸収式冷凍機と、
前記圧縮式ヒートポンプと前記吸収式冷凍機との間で前記第1熱媒体を循環させる第1回路と、
を備え、
対象を冷却する第1冷却運転において、前記吸収式冷凍機に前記廃熱が供給され、前記吸収式冷凍機によって前記第1熱媒体が冷却され、かつ、前記圧縮式ヒートポンプの冷媒が前記対象から受け取った熱が前記第1熱媒体に放出され、
前記対象を加熱する加熱運転において、前記圧縮式ヒートポンプの前記冷媒が前記廃熱によって加熱される、
加熱冷却システム。
【0064】
本開示の技術によれば、低温度域の廃熱を有効利用できる加熱冷却システムを提供できる。また、冷却運転に加えて加熱運転も行うことができる。
【0065】
(技術2)
前記第1熱媒体が液体であり、前記圧縮式ヒートポンプは、前記第1熱媒体と前記冷媒とを熱交換させる液-液熱交換器を含む、技術1に記載の加熱冷却システム。液-液熱交換器を用いることによって、第1熱媒体と冷媒とを効率的に熱交換させることができる。
【0066】
(技術3)
前記第1回路は、前記第1熱媒体を加熱可能な熱交換器を備えた分岐回路を含み、前記分岐回路は、前記加熱運転において使用される回路であり、前記熱交換器において、前記第1熱媒体が前記廃熱によって加熱される、技術1又は2に記載の加熱冷却システム。分岐回路及び熱交換器によって、加熱冷却システムが加熱運転を行うことができる。
【0067】
(技術4)
前記吸収式冷凍機がボイラを有さず、前記吸収式冷凍機の熱源が前記廃熱のみである、技術1から3のいずれか1項に記載の加熱冷却システム。このような構成によれば、加熱冷却システムの部品コストを抑制するのに有利である。ボイラの燃料費が発生することも回避できる。
【0068】
(技術5)
前記廃熱が温水の形態で前記加熱冷却システムに供給される、技術1から4のいずれか1項に記載の加熱冷却システム。廃熱が温水の形態であることは、加熱冷却システムに十分な熱を供給することに適している。
【0069】
(技術6)
前記廃熱が燃料電池の廃熱である、技術1から5のいずれか1項に記載の加熱冷却システム。燃料電池の廃熱を利用することは、燃料電池における総合エネルギー効率を高めることにつながる。
【0070】
(技術7)
前記燃料電池が固体高分子形燃料電池である、技術6に記載の加熱冷却システム。発電にともなって固体高分子形燃料電池から排出される熱量は比較的大きい。そのため、固体高分子形燃料電池を加熱冷却システムと組み合わせる意義も大きい。
【0071】
(技術8)
加熱冷却システムの運転方法であって、
前記加熱冷却システムは、吸収式冷凍機、圧縮式ヒートポンプ、及び、吸収式冷凍機と圧縮式ヒートポンプとの間で第1熱媒体を循環させる第1回路を備え、
前記運転方法は、
前記吸収式冷凍機に廃熱を供給しながら対象を冷却する冷却運転を行うことと、
前記対象を加熱する加熱運転を行うことと、
を含み、
前記冷却運転において、前記廃熱を利用して前記吸収式冷凍機の運転を行って前記第1熱媒体を冷却するとともに、前記圧縮式ヒートポンプの冷媒が対象から受け取った熱を前記第1回路の前記第1熱媒体に放出させ、
前記加熱運転において、前記圧縮式ヒートポンプの前記冷媒を前記廃熱によって加熱する、
加熱冷却システムの運転方法。
【0072】
本開示の技術によれば、低温度域の廃熱を有効利用できる加熱冷却システムを提供できる。また、冷却運転に加えて加熱運転も行うことができる。
【0073】
(技術9)
前記冷却運転と前記加熱運転とを切り替えることをさらに含む、技術8に記載の加熱冷却システムの運転方法。このような加熱冷却システムは、利便性に優れるとともに、総合エネルギー効率の向上に大きく貢献できる。
【0074】
(技術10)
前記廃熱の温度が60℃から80℃の範囲にある、技術8又は9に記載の加熱冷却システムの運転方法。上記のような低温度域の熱は、従来は廃熱利用の吸収式冷凍機に適さないと考えられていたが、本開示の加熱冷却システムによれば、このような低温度域の廃熱も有効利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本開示の技術は、空気調和システムのように、加熱及び/又は冷却を必要とするシステムに有用である。
【符号の説明】
【0076】
10 圧縮式ヒートポンプ
11 室外機
11a 第1熱交換器
12 室内機
12a 第2熱交換器
13a,13b 冷媒経路
20 吸収式冷凍機
22 冷却回路
30 第1回路
30a,32a 往き経路
30b,32b 戻り経路
23,31a,31b,33a,33b,36a,37a,38,49,71,91,92,93,94,95,96 弁
32 分岐回路
34,39,73 熱交換器
36,37,82,84 バイパス経路
40 第2回路
42 冷却塔
61,63,65,67,69 ポンプ
70 冷却回路
80 熱源回路
81 熱源
100 加熱冷却システム
200 空間