(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015913
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】撥水部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 11/04 20060101AFI20250124BHJP
C23C 28/04 20060101ALI20250124BHJP
C25D 11/12 20060101ALI20250124BHJP
C25D 11/10 20060101ALI20250124BHJP
C25D 11/24 20060101ALI20250124BHJP
C25D 11/18 20060101ALI20250124BHJP
【FI】
C25D11/04 302
C23C28/04
C25D11/12 Z
C25D11/10
C25D11/24 302
C25D11/18 306A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118807
(22)【出願日】2023-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591124765
【氏名又は名称】ジオマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100226894
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 夏詩子
(72)【発明者】
【氏名】高澤 令子
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 正憲
(72)【発明者】
【氏名】内田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】菅原 浩幸
【テーマコード(参考)】
4K044
【Fターム(参考)】
4K044AA06
4K044AB02
4K044BA13
4K044BA21
4K044BB03
4K044BC02
4K044CA17
4K044CA53
4K044CA62
(57)【要約】
【課題】製造初期のみならず、長期に亘って撥水性を持続させることができる撥水部材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム基材と、アルミニウム基材の表面に形成された陽極酸化皮膜とを有するアルミニウム部材、及び撥水材料を含んでおなりアルミニウム部材の陽極酸化皮膜の表面を覆う撥水材料層を備えた撥水部材であって、撥水材料層は、フッ素含有化合物及びシリコン含有化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含み、陽極酸化皮膜は、表面に開口する有底の孔部と、孔部を囲んで立設する壁部とを有するポーラス層を有して、壁部は、根元側から先端側に向かうにつれて幅が狭くなる先細り形状であって、王冠状の構造を有しており、孔部は、孔部の間隔(Wp)に対する孔部の深さ(Hp)の比(Hp/Wp)が1以上4以下である撥水部材であり、これを得る撥水部材の製造方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材と、前記アルミニウム基材の表面に形成された陽極酸化皮膜とを有するアルミニウム部材、及び撥水材料を含んでなり前記アルミニウム部材の前記陽極酸化皮膜の表面を覆う撥水材料層を備えた撥水部材であって、
前記撥水材料層は、フッ素含有化合物及びシリコン含有化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含み、
前記陽極酸化皮膜は、表面に開口する有底の孔部と、前記孔部を囲んで立設する壁部とを有するポーラス層を有し、
前記壁部は、根元側から先端側に向かうにつれて幅が狭くなる先細り形状であり、隣接する二つの前記孔部に挟まれる前記壁部の中間部の高さが相対的に低く、隣接する三つ以上の前記孔部に囲まれる前記壁部の中央部の高さが相対的に高い、王冠状の構造を有し、
前記孔部は、前記孔部の間隔(Wp)に対する前記孔部の深さ(Hp)の比(Hp/Wp)が、1以上、4以下である、
ことを特徴とする、撥水部材。
【請求項2】
前記壁部は、根元側から先端側に向かうにつれて幅が狭くなる先細り形状であるとともに、前記壁部の中央部の最先端部分において幅方向に突出して広がる突出部を有する、
請求項1に記載の撥水部材。
【請求項3】
前記陽極酸化皮膜は、前記孔部の角度(θp)の標準偏差が3以上である、
請求項1に記載の撥水部材。
【請求項4】
前記陽極酸化皮膜は、前記壁部の根元の幅(Ww)が100nm以上である、
請求項1に記載の撥水部材。
【請求項5】
前記陽極酸化皮膜は、厚さが1μm以下である、
請求項1に記載の撥水部材。
【請求項6】
前記陽極酸化皮膜は、周囲の前記壁部よりも高さの低い前記壁部を間に挟んで複数の前記孔部が集合することで形成される凹部が存在するドメイン構造を有する、
請求項1に記載の撥水部材。
【請求項7】
前記撥水部材が、結露防止部材である、
請求項1~6のいずれか1項に記載の撥水部材。
【請求項8】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材と、前記アルミニウム基材の表面に形成された陽極酸化皮膜とを有するアルミニウム部材、及び撥水材料を含んでなり前記アルミニウム部材の前記陽極酸化皮膜の表面を覆う撥水材料層とを備えた撥水部材の製造方法であって、
前記アルミニウム基材に対して、シュウ酸を含む電解液を用いて陽極酸化を行う陽極酸化処理と、リン酸を含む処理液を用いてエッチングを行うエッチング処理とを繰り返し行うことで、前記陽極酸化処理によるポーラス型の陽極酸化皮膜の形成と、前記エッチング処理によるポアワイドニングとによって、表面に開口する有底の孔部と、前記孔部を囲んで立設する壁部とを有するポーラス層を有するとともに、前記壁部が、根元側から先端側に向かうにつれて幅が狭くなる先細り形状であり、隣接する二つの前記孔部に挟まれる前記壁部の中間部の高さが相対的に低く、隣接する三つ以上の前記孔部に囲まれる前記壁部の中央部の高さが相対的に高い、王冠状の構造を有する、前記陽極酸化皮膜を形成する、皮膜形成工程、
前記皮膜形成工程によって形成された前記陽極酸化皮膜に対して、プラズマを照射するプラズマ処理を行うことで、前記陽極酸化皮膜に官能基を付与して活性化する、皮膜処理工程、及び
前記皮膜処理工程によって活性化された前記陽極酸化皮膜に対して、フッ素含有化合物及びシリコン含有化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物からなる撥水材料を含む撥水溶液を用いて撥水処理を行うことで、前記陽極酸化皮膜の表面に前記撥水材料層を設ける撥水工程を備え、
前記陽極酸化皮膜の前記孔部は、前記孔部の間隔(W)に対する前記孔部の深さ(H)の比(H/W)が、1以上、4以下である、
ことを特徴とする、撥水部材の製造方法。
【請求項9】
前記プラズマ処理が、酸素プラズマの照射により、前記陽極酸化皮膜に水酸基を付与する酸素プラズマ処理である、
請求項8に記載の撥水部材の製造方法。
【請求項10】
前記皮膜形成工程において、前記陽極酸化処理と前記エッチング処理とを行う前記アルミニウム基材の表面の粗さ(Ra)が0.1μm以上である、
請求項8に記載の撥水部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水部材及びその製造方法に関し、詳しくは、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材と該アルミニウム基材の表面に形成された陽極酸化皮膜とを有するアルミニウム部材、及び、撥水材料を含んで前記アルミニウム部材の陽極酸化皮膜の表面を覆う撥水材料層を備えた撥水部材、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム基材にナノ凹凸構造を形成して、ナノ凹凸構造を形成した後の表面に撥水材料を含む撥水材料層を設けることで、撥水性能や着雪、着霜、若しくは着氷の防止性能(以降、これらをまとめて単に「撥水性能」と称する。)を向上させたアルミニウム部材が提供されている。そのなかで、撥水性能を高めるためのナノ凹凸構造の形成手法として、アルミニウム基材に対して陽極酸化処理によってポーラス型の陽極酸化皮膜を形成することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1では、アルミニウム基材に対して、硫酸を用いた陽極酸化によるポーラス皮膜の形成と、リン酸を用いた酸エッチングにより細孔を拡大させるポアワイドニングとを行った後、酸素プラズマ処理を施すことで活性化を行い、更に、得られた多孔質表面に対して、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を含有する炭化水素系オイルで被覆することで、撥液性の表面を有する撥水部材を製造することが記載されている。
【0004】
また、特許文献2においては、アルミニウム基材に対して、陽極酸化処理によるポーラス皮膜の形成を行った後、表面プラズマ処理を施して官能基付与による活性化を行い、その上でシランカップリング剤を用いた撥水処理により撥水層を設けることで、撥水面を有した撥水部材を提供することが記載されている。
【0005】
更に、特許文献3には、アルミニウム基材を1次陽極酸化及び2次陽極酸化で処理した後、リン酸溶液を用いたポアワイドニングを組み合わせることで、細孔上部に鋭い柱(ピラー)が単一又はバンドル(束)で形成されたピラー-オン-ポア構造の超疎水性表面を有する撥水部材を得ることが記載されている。
【0006】
更にまた、特許文献4には、アルミニウム基材に対して、陽極酸化処理(アルマイト化処理)とエッチング処理とを繰り返すことで、多数のピン状突起が並立する規則的な凹凸構造を形成して、尚且つ、該凹凸構造のピン状突起の接触面積率が小さいアルマイト層にすることで、その表面に設けられた撥水皮膜の撥水性を良好にすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-116451号公報
【特許文献2】特表2014-509959号公報
【特許文献3】特表2022-524167号公報
【特許文献4】特開2017-115219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、アルミニウム基材を陽極酸化処理してナノオーダーの凹凸構造を形成し、その表面に撥水材料を含んだ撥水材料層を設けることが検討されている。これらによれば、撥水性能や着雪、着霜、若しくは着氷の防止性能を備えた撥水部材を得ることができる。ところが、これらはいずれも製造初期における撥水性を高めることに着目されたものであった。
【0009】
本発明は、製造初期のみならず、長期に亘って撥水性を持続させることができる撥水部材を提供することを目的とする。また、本発明の別の目的は、このような撥水部材を得ることができる撥水部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従来知られていた撥水部材について、すなわち、アルミニウム基材を陽極酸化処理してナノオーダーの凹凸構造を形成し、その表面に撥水材料を含んだ撥水材料層を設けた撥水部材について、本発明者らは更なる検討を重ねたところ、撥水性能を高めようとすると、長期に亘ってそれを維持するのが難しくなるという新たな知見を得た。
【0011】
そこで、本発明者らは、この問題について鋭意検討した結果、アルミニウム基材に対して陽極酸化処理とエッチング処理とを繰り返し行い、陽極酸化処理によるポーラス型の陽極酸化皮膜の形成と、エッチング処理によるポアワイドニングとを組み合わせて、所定の形状をした孔部と壁部とを有するポーラス層を形成することで、高い撥水性能を示しながら、その撥水性を長期亘って持続させることが可能になることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材と、前記アルミニウム基材の表面に形成された陽極酸化皮膜とを有するアルミニウム部材、及び撥水材料を含んでなり前記アルミニウム部材の前記陽極酸化皮膜の表面を覆う撥水材料層を備えた撥水部材であって、前記撥水材料層は、フッ素含有化合物及びシリコン含有化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含み、前記陽極酸化皮膜は、表面に開口する有底の孔部と、前記孔部を囲んで立設する壁部とを有するポーラス層を有し、前記壁部は、根元側から先端側に向かうにつれて幅が狭くなる先細り形状であり、隣接する二つの前記孔部に挟まれる前記壁部の中間部の高さが相対的に低く、隣接する三つ以上の前記孔部に囲まれる前記壁部の中央部の高さが相対的に高い、王冠状の構造を有し、前記孔部は、前記孔部の間隔(W)に対する前記孔部の深さ(H)の比(H/W)が、1以上、4以下である、ことを特徴とする、撥水部材。
(2)前記壁部は、根元側から先端側に向かうにつれて幅が狭くなる先細り形状であるとともに、前記壁部の中央部の最先端部分において幅方向に突出して広がる突出部を有する、(1)に記載の撥水部材。
(3)前記陽極酸化皮膜は、前記孔部の角度(θp)の標準偏差が3以上である、(1)又は(2)に記載の撥水部材。
(4)前記陽極酸化皮膜は、前記壁部の根元の幅(Ww)が100nm以上である、(1)~(3)のいずれかに記載の撥水部材。
(5)前記陽極酸化皮膜は、厚さが1μm以下である、(1)~(4)のいずれかに記載の撥水部材。
(6)前記陽極酸化皮膜は、周囲の前記壁部よりも高さの低い前記壁部を間に挟んで複数の前記孔部が集合することで形成される凹部が存在するドメイン構造を有する、(1)~(5)のいずれかに記載の撥水部材。
(7)前記撥水部材が、結露防止部材である、(1)~(6)のいずれかに記載の撥水部材。
【0013】
(8)アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材と、前記アルミニウム基材の表面に形成された陽極酸化皮膜とを有するアルミニウム部材、及び撥水材料を含んでなり前記アルミニウム部材の前記陽極酸化皮膜の表面を覆う撥水材料層とを備えた撥水部材の製造方法であって、前記アルミニウム基材に対して、シュウ酸を含む電解液を用いて陽極酸化を行う陽極酸化処理と、リン酸を含む処理液を用いてエッチングを行うエッチング処理とを繰り返し行うことで、前記陽極酸化処理によるポーラス型の陽極酸化皮膜の形成と、前記エッチング処理によるポアワイドニングとによって、表面に開口する有底の孔部と、前記孔部を囲んで立設する壁部とを有するポーラス層を有するとともに、前記壁部が、根元側から先端側に向かうにつれて幅が狭くなる先細り形状であり、隣接する二つの前記孔部に挟まれる前記壁部の中間部の高さが相対的に低く、隣接する三つ以上の前記孔部に囲まれる前記壁部の中央部の高さが相対的に高い、王冠状の構造を有する、前記陽極酸化皮膜を形成する、皮膜形成工程、前記皮膜形成工程によって形成された前記陽極酸化皮膜に対して、プラズマを照射するプラズマ処理を行うことで、前記陽極酸化皮膜に官能基を付与して活性化する、皮膜処理工程、及び前記皮膜処理工程によって活性化された前記陽極酸化皮膜に対して、フッ素含有化合物及びシリコン含有化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物からなる撥水材料を含む撥水溶液を用いて撥水処理を行うことで、前記陽極酸化皮膜の表面に前記撥水材料層を設ける撥水工程を備え、前記陽極酸化皮膜の前記孔部は、前記孔部の間隔(W)に対する前記孔部の深さ(H)の比(H/W)が、1以上、4以下である、ことを特徴とする、撥水部材の製造方法。
(9)前記プラズマ処理が、酸素プラズマの照射により、前記陽極酸化皮膜に水酸基を付与する酸素プラズマ処理である、(8)に記載の撥水部材の製造方法。
(10)前記皮膜形成工程において、前記陽極酸化処理と前記エッチング処理とを行う前記アルミニウム基材の表面の粗さ(Ra)が0.1μm以上である、(8)又は(9)に記載の撥水部材の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の撥水部材によれば、高い撥水性を示すと共に、長期に亘ってその撥水性能を持続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、陽極酸化皮膜のポーラス層における壁部について、根元側から先端側に向かうにつれて幅が狭くなる先細り形状を有している様子を説明するための断面SEM画像である。
【
図2】
図2は、陽極酸化皮膜のポーラス層における壁部が王冠状の構造を有している様子を示すために、該ポーラス層の表面を傾斜方向から観察したSEM画像である。
【
図3】
図3は、
図2において白い実線で囲んだ部分を拡大したものであり、ポーラス層における壁部が王冠状の構造を有した様子を示すものである。
【
図4】
図4は、
図2において白い破線で囲んだ部分を拡大したものであり、隣接する3つ以上の孔部に囲まれる壁部の中央部が最先端部分において壁部の幅方向に突出して広がる突出部を有した様子を示すためのものである。
【
図5】
図5は、孔部の間隔(W)を求めるにあたって使用した陽極酸化皮膜のポーラス層の表面を写したSEM画像の一例(実施例1)である。
【
図6】
図6は、孔部の深さ(H)を求めるにあたって使用した陽極酸化皮膜のポーラス層を写した断面SEM画像の一例(実施例1)である。
【
図7】
図7は、孔部の角度(θp)を求めるにあたって使用した陽極酸化皮膜のポーラス層を写した断面SEM画像の一例(実施例1)である。
【
図8】
図8は、孔部の角度(θp)を求める手順を模式的に示した説明図である。
【
図9】
図9は、壁部の根元幅(Ww)を求めるにあたって使用した陽極酸化皮膜のポーラス層を写した断面SEM画像の一例(実施例1)である。
【
図10】
図10は、陽極酸化皮膜の膜厚を求めるにあたって使用した陽極酸化皮膜のポーラス層を写した断面SEM画像の一例(実施例1)である。
【
図11】
図11は、陽極酸化皮膜のポーラス層において確認できるドメイン構造を示すための平面SEM画像(平面)の一例(実施例1)である。
【
図12】
図12は、実施例2に係る撥水部材の陽極酸化皮膜におけるポーラス層の孔部の深さ(H)を求めるにあたって使用した断面SEM画像である。
【
図13】
図13は、撥水部材の陽極酸化皮膜におけるポーラス層の表面観察したSEM画像(傾斜)であり、(a)は実施例2の場合、(b)は実施例3の場合、(c)は比較例1の場合、(d)は比較例2の場合である。
【
図14】
図14は、撥水部材の陽極酸化皮膜におけるポーラス層の表面を観察したSEM画像(傾斜)であり、(a)は比較例3の場合、(b)は比較例4の場合、(c)は比較例5の場合、(d)は比較例6の場合である。
【
図15】
図15は、撥水部材の陽極酸化皮膜におけるポーラス層の表面を観察したSEM画像(傾斜)であり、比較例7の場合を表す。
【
図16】
図16は、撥水部材の陽極酸化皮膜におけるポーラス層の孔部の間隔(W)を求めるにあたって使用した平面(表面)SEM画像であり、(a)は実施例2の場合、(b)は実施例3の場合、(c)は比較例1の場合、(d)は比較例2の場合である。
【
図17】
図17は、撥水部材の陽極酸化皮膜におけるポーラス層の孔部の間隔(W)を求めるにあたって使用した平面(表面)SEM画像であり、(a)は比較例6の場合、(b)は比較例7の場合、(c)は比較例8の場合である。
【
図18】
図18は、実施例2に係る撥水部材の陽極酸化皮膜におけるポーラス層の孔部の角度(θp)を求めるにあたって使用した断面SEM画像である。
【
図19】
図19は、撥水部材の陽極酸化皮膜におけるポーラス層の壁部の根元幅(Ww)を求めるにあたって使用した断面SEM画像であり、(a)は実施例2の場合、(b)は実施例3の場合、(c)は比較例1の場合、(d)は比較例5の場合である。
【
図20】
図20は、撥水部材の陽極酸化皮膜におけるポーラス層の壁部の根元幅(Ww)を求めるにあたって使用した断面SEM画像であり、(a)は比較例6の場合、(b)は比較例7の場合、(c)は比較例8の場合である。
【
図21】
図21は、撥水部材の陽極酸化皮膜の膜厚を求めるにあたって使用した断面SEM画像であり、(a)は実施例2の場合、(b)は実施例3の場合、(c)は比較例1の場合、(d)は比較例2の場合である。
【
図22】
図22は、撥水部材の陽極酸化皮膜の膜厚を求めるにあたって使用した断面SEM画像であり、(a)は比較例3の場合、(b)は比較例4の場合、(c)は比較例5の場合、(d)は比較例6の場合である。
【
図23】
図23は、撥水部材の陽極酸化皮膜の膜厚を求めるにあたって使用した断面SEM画像であり、(a)は比較例7の場合、(b)は比較例8の場合である。
【
図24】
図24は、撥水部材の陽極酸化皮膜のポーラス層の表面を観察したSEM画像(平面)であり、(a)は実施例2の場合、(b)は実施例3の場合、(c)は比較例1の場合、(d)は比較例2の場合である。
【
図25】
図25は、撥水部材の陽極酸化皮膜のポーラス層の表面を観察したSEM画像(平面)であり、(a)は比較例3の場合、(b)は比較例4の場合、(c)は比較例5の場合、(d)は比較例6の場合である。
【
図26】
図26は、撥水部材の陽極酸化皮膜のポーラス層の表面を観察したSEM画像(平面)であり、比較例7の場合を表す。
【
図27】
図27は、実施例3に係る撥水部材の陽極酸化皮膜におけるポーラス層の孔部の深さ(H)を求めるにあたって使用した断面SEM画像である。
【
図28】
図28は、実施例3に係る撥水部材の陽極酸化皮膜におけるポーラス層の孔部の角度(θp)を求めるにあたって使用した断面SEM画像である。
【
図29】
図29は、比較例1に係る撥水部材の陽極酸化皮膜におけるポーラス層の孔部の深さ(H)を求めるにあたって使用した断面SEM画像である。
【
図30】
図30は、比較例1に係る撥水部材の陽極酸化皮膜におけるポーラス層の孔部の角度(θp)を求めるにあたって使用した断面SEM画像である。
【
図31】
図31は、比較例5に係る撥水部材の陽極酸化皮膜におけるポーラス層の孔部の深さ(H)を求めるにあたって使用した断面SEM画像である。
【
図32】
図32は、比較例6に係る撥水部材の陽極酸化皮膜におけるポーラス層の孔部の深さ(H)を求めるにあたって使用した断面SEM画像である。
【
図33】
図33は、比較例7に係る撥水部材の陽極酸化皮膜におけるポーラス層の孔部の深さ(H)を求めるにあたって使用した断面SEM画像である。
【
図34】
図34は、比較例8に係る撥水部材の陽極酸化皮膜におけるポーラス層の孔部の深さ(H)を求めるにあたって使用した断面SEM画像である。
【
図35】
図35は、比較例8に係る撥水部材の陽極酸化皮膜におけるポーラス層の孔部の角度(θp)を求めるにあたって使用した断面SEM画像である。
【
図36】
図36は、実施例1の撥水部材と比較例8の親水部材とを結露評価した結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の撥水部材について、その製造方法と共に詳しく説明する。以下に説明する本発明の構成要素は、一部又は全部を適宜組み合わせることができる。
【0017】
[1.撥水部材]
本発明の撥水部材は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材と前記アルミニウム基材の表面に形成された陽極酸化皮膜とを有するアルミニウム部材、及び、撥水材料を含んでなり前記アルミニウム部材の前記陽極酸化皮膜の表面を覆う撥水材料層を備えており、前記撥水材料層は、フッ素含有化合物及びシリコン含有化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含み、前記陽極酸化皮膜は、表面に開口する有底の孔部と、前記孔部を囲んで立設する壁部とを有するポーラス層を有し、前記壁部は、根元側から先端側に向かうにつれて幅が狭くなる先細り形状であり、隣接する二つの前記孔部に挟まれる前記壁部の中間部の高さが相対的に低く、隣接する三つ以上の前記孔部に囲まれる前記壁部の中央部の高さが相対的に高い、王冠状の構造を有し、前記孔部は、前記孔部の間隔(W)に対する前記孔部の深さ(H)の比(H/W)が、1以上、4以下である。
【0018】
[1-1.アルミニウム部材]
<アルミニウム基材>
本発明の撥水部材は、アルミニウム部材と撥水材料層とを備えたものであり、アルミニウム部材は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材と該アルミニウム基材の表面に形成された陽極酸化皮膜とを有する。このアルミニウム部材に使用されるアルミニウム基材は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる。アルミニウム基材には、純度100%の純アルミニウムから、合金元素の種類や添加量が異なるアルミニウム合金まで種々のものが存在する。その素材は制限されず、これを用いて形成される撥水部材の用途や、その用途に要求される強度、耐食性、加工性等の種々の物性に基づいて決定することができる。また、所望の形状に適宜加工して得られる加工材、更にはこれらの加工材を適宜組み合わせて得られる組合せ材等を用いることもできる。
【0019】
このうち、例えば、冷蔵庫内の冷蔵室を形成する部材やノートパソコンの筐体等を形成するような場合を想定すれば、熱伝導性に優れ、尚且つ、加工が容易な展伸材であることが望ましく、なかでも、1000系合金、3000系合金、5000系合金、6000系合金を用いるのが好ましい。また、撥水部材の用途にもよるため特に制限されるものではないが、アルミニウム基材の厚みの目安としては、一般に、0.3mm~10mm程度のものを用いることができる。
【0020】
<陽極酸化皮膜>
また、アルミニウム基材は、その表面に陽極酸化皮膜を備える。陽極酸化皮膜は、表面に開口する有底の孔部(一般に孔又はポアとも称される)と、該孔部を囲んで立設する壁部とを備えたポーラス層を有している。
このうち、壁部については、
図1の走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)による断面の画像において破線で示したように、壁部の根元側から先端側に向かうにつれて幅が狭くなる先細り形状を有している。また、この壁部は、
図2のSEMによる表面を傾斜方向から観察した画像からも分かるように、隣接する二つの孔部に挟まれる中間部の高さが相対的に低く、かつ、隣接する三つ以上の孔部に囲まれる壁部の中央部の高さが相対的に高い、王冠状の構造を有している。詳しくは、
図3においてこれらの様子を説明している。
【0021】
すなわち、
図3は、
図2において白い実線で囲んだ部分を拡大したものである。ここで、例えば、互いに隣接する二つの孔部h1、h2に着目すれば、これらに挟まれる壁部Wは、その中間部の高さが相対的に低くなっている(中間部が凹んでいる)。また、互いに隣接する3つの孔部h1、h2、h3に着目すれば、これらの孔部に囲まれる壁部Wの中央部Cの高さが相対的に高くなっている。つまり、隣接する三つ以上の孔部に囲まれて壁部Wが交差する中央部Cの高さが相対的に高くなっており、壁部Wの先端部分において、中間部を挟んで隣接する中央部C同士を繋ぐ稜線が、壁部Wの内方に向かって凸となる曲線状であり、これによってポーラス層における壁部Wは王冠状の構造を有していると言える。
【0022】
また、壁部については、上述したように、根元側から先端側に向かうにつれて幅が狭くなる先細り形状であると共に、前述の中央部Cの最先端部分において壁部の幅方向に突出して広がる突出部を有したものが存在する。すなわち、
図4は、先の
図2において白い破線で囲んだ部分を拡大したものであり、隣接する三つ以上の孔部に囲まれる壁部の中央部Cの最先端部分には、壁部の幅方向に髭(ヒゲ)のように突出して広がる突出部C1を有しているのが分かる(一点破線で囲んだ部分)。後述する実施例でも説明するように、壁部の中央部Cの最先端部分において突出部C1を有するものがより多く存在するのが好ましく、この突出部C1を有することで撥水性能の持続性がより向上し易くなる。
【0023】
一方、孔部について、孔部の間隔(W)に対する孔部の深さ(H)の比(H/W)は、1以上、4以下である。本発明では、陽極酸化皮膜の孔部の間隔(W)に対する深さ(H)の比(H/W)が比較的に低い数値範囲となることで、優れた撥水性能を発現せしめることができると共に、その性能を長期に亘って持続させることが可能になる。この比(H/W)は、好ましくは1.5以上、より好ましくは2以上、さらに好ましくは2.5以上であるのがよい。一方で、この比(H/W)は、好ましくは3.8以下、より好ましくは3.5以下、さらに好ましくは3.2以下である。このうち、孔部の間隔(W)については、好ましくは100nm以上、より好ましくは130nm以上、さらに好ましくは160nm以上であるのがよく、好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは180nm以下であるのがよい。また、孔部の深さ(H)については、好ましくは200nm以上、より好ましくは300nm以上、さらに好ましくは400nm以上であるのがよく、好ましくは1000nm以下、より好ましくは800nm以下、さらに好ましくは600nm以下であるのがよい。
【0024】
ここで、孔部の間隔(W)を求めるにあたり、本発明の実施例では次のようにして行った。すなわち、
図5は、実施例1の場合について例示したものであり、先ずは、陽極酸化皮膜のポーラス層を所定の倍率(実施例1では5万倍、以下( )内の数値は実施例1の場合について例示したものである)で写した平面SEM写真の画像において、任意で写真を横断する3本の横断線L1~L3を引いた。この写真を印刷し、スケール(200nm)の写真上の長さと、横断線L1~L3の長さを実測(mm単位)して、これらの値から、横断線L1~L3の長さ(nm)を算出した。なお、横断線L1~L3の長さとは、引かれた横断線L1~L3の全体長のうち、画像を横切っている部分が占める長さをいう。
【0025】
次に、横断線L1~L3のそれぞれに対して、通過又は接触している孔部の個数を数えた(L1では14個、L2では15個、L3では15個)。
そして、3本の横断線L1~L3それぞれについて、通過又は接触している孔部の個数の平均値を横断線L1~L3の長さ(nm)で割ることで、孔部の間隔を求めた。最後に、3本の横断線L1~L3に接する孔部の間隔の平均値を算出して、後述する実施例では孔部の間隔Wpを得るようにした。
【0026】
また、孔部の深さ(H)を求めるにあたり、本発明の実施例では次のようにして行った。すなわち、
図6は、同じく実施例1の場合について例示したものであり、陽極酸化皮膜のポーラス層を所定の倍率(実施例1では5万倍、以下( )内の数値は実施例1の場合について例示したものである)で写した断面SEM写真の画像である。ここで、隣接する壁部に挟まれている一つ分の孔部について、隣接する壁部の先端部分(頂部)同士を結ぶ直線L21を引いた。また、直線L21の中間点と、孔部の先端部分(底部)とを結ぶ直線L31を引いた。この写真を印刷し、スケール(200nm)の写真上の長さと、直線L31の長さを実測(mm単位)して、スケールの長さをもとにして、直線L31の長さに対応する孔部の深さを算出した。
【0027】
このような作業について孔部を確認できる10か所で行い、それぞれ隣接する壁部の先端部分(頂部)同士を結ぶ直線L21~L30を引き、また、これらの直線の中間点と孔部の先端部分(底部)とを結ぶ直線L31~L40を引くことで、同様にして10点の孔部の深さを算出した。そして、10点の孔部の深さの平均値を算出して、後述する実施例では孔部の深さHpを得るようにした。
なお、このようにして孔部の深さ(H)を求める際には、断面SEM写真において、内部の空間が露出して確認される孔部に加えて、孔部の手前に存在する壁部が透けることで確認される孔部についても測定の対象としている。
【0028】
また、陽極酸化皮膜の表面に開口する孔部の孔径(開口部の孔径)Dは、80nm以上、300nm以下であるのがよい。孔部の孔径Dがこの範囲内であることで、優れた撥水性能をより確実に発現させることができると共に、それを長期に亘ってより確実に持続させることができる。孔部の孔径Dは、好ましくは100nm以上、より好ましくは140nm以上であるのがよく、また、好ましくは200nm以下、より好ましくは170nm以下であるのがよい。
【0029】
ここで、孔部の孔径Dを求めるにあたり、本発明の実施例では次のようにして行った。すなわち、先の
図5の例で説明すれば、開口部の孔径Dの測定には、孔部の間隔を測定した5万倍の平面SEM写真を用いた(SEM写真の倍率はこれに制限されない)。この写真を印刷し、スケール(
図5では200nm)の写真上の長さと、3本の直線(横断線)L1~L3に対して通過または接触して、開口部の全体が確認できる孔部それぞれについて、径が最も大きくなる位置での開口部の最大径(最大孔径)を実測(ここではmm単位)した。スケールの長さをもとにして、孔部の開口部の最大孔径を算出した。横断線L1~L3それぞれに対して通過又は接触する全ての孔部の最大孔径(ここではnm単位)を算出し、すなわち、
図5で示したL1~L3をそれぞれ上下に移動させて全ての孔部の最大孔径(nm)を算出して、全ての最大孔径の平均値を開口部の孔径Dとした。
【0030】
また、孔部については、傾きを有して陽極酸化皮膜に配置されるものが存在するのが望ましい。すなわち、傾きを有した孔部として、アルミニウム基材に対する孔部の角度θpが85°以上、95°以下であるのがよく、好ましくはこの角度θpは88°以上であるのがよい。また、好ましくはこの角度θpは92°以下であるのがよい。更には、この孔部の傾きは、陽極酸化皮膜において不規則である(ばらつきを有する)のが望ましい。具体的には、孔部の角度のばらつき(標準偏差)は、3以上、12以下であるのがよく、好ましくは4以上、より好ましくは5以上であるのがよい。一方で、孔部の角度のばらつき(標準偏差)は、好ましくは11以下、より好ましくは10以下であるのがよい。孔部の角度θpの標準偏差が上記数値範囲の下限値以上であることで、孔部が不規則に配置されることで、陽極酸化被膜の表面形状が立体的に複雑な形状となり、撥水性能が発揮されやすくなる。
【0031】
ここで、孔部の角度θpを求めるにあたり、本発明の実施例では次のようにして行った。すなわち、
図7は、
図6と同様に実施例1の場合について例示したものであり、陽極酸化皮膜のポーラス層を所定の倍率(実施例1では5万倍)で写した断面SEM写真の画像であり、先の孔部の深さ(H)を求める場合と同様、隣接する壁部に挟まれている一つ分の孔部について、隣接する壁部の先端部分(頂部)同士を結ぶ直線L21の中間点と、孔部の先端部分(底部)とを結ぶ直線L31を引いた。そして、ここでは、先の
図6と同じ画像を使用しながら、
図6の場合と同様にして隣接する壁部の先端部分(頂部)同士を結ぶ直線L21~L30、及び、それらの直線の中間点と孔部の先端部分(底部)とを結ぶ直線L31~L40を引いて、以下のようにして10か所の孔部の角度を求めているが、孔部の角度θpを求めるにあたっては、必ずしも孔部の深さ(H)を求める際と同じ直線L21~L30、及びL31~L40を利用する必要はない。また、選択する10か所の孔部について異なるものを選択してもよい。なお、繰り返しになるが、
図7では、
図6の場合と同じ直線L21~L30及びL31~L40を利用して10か所の孔部の角度を求めたが、図中では直線L21とL24、及び、直線L31とL34を代表例として表記している。また、これら直線L21~L30及びL31~L40について、
図7では破線で示している。
【0032】
次に、
図7における断面SEM写真の縦側の外縁に平行な直線L61を、孔部の先端部分(底部)を通るようにして引いた。また、その孔部を挟んで隣接する壁部の先端部分(頂部)同士を結ぶ直線L21の直線の中間点を通り、断面SEM写真の横側の外縁に平行な直線L71を、先の直線L61と垂直に交わるようにして引いた。ここでは、断面SEM写真の縦側の外縁がアルミニウム基材に対する陽極酸化皮膜の膜厚成長方向と略平行であり、断面SEM写真の横側の外縁がアルミニウム基材に対する陽極酸化皮膜の膜厚成長方向と略垂直になる。これによって、直線L31、L61及びL71が交わる直角三角形を作った。この三角形の直線L61に対応する線分の長さaと、直線L71に対応する線分の長さbとから、b/aを計算してarctanの式に入れて、直線L31と直線L61とによってなす角度を算出した。更に、
図7における断面SEM写真の横側の外縁に平行であって、孔部の先端部分(底部)から断面SEM写真の右側に伸びる直線L81を基準として、直線L81から直線L31への反時計回りの角度を算出して、この角度を孔部の角度とした。つまり、断面SEM写真の縦側の外縁に対して孔部が真っ直ぐなら90°である。孔部が左に傾けば90°よりも大きくなり、反対に、孔部が右に傾けば90°よりも小さくなる角度になる。
【0033】
このようにして、孔部を確認できる10か所について、直線L21~L30、L31~L40、L61~70、L71~80、及びL81~L90を引くことで、同様にして10点の孔部の角度を算出した。そして、10点の孔部の角度の平均値を算出して、孔部の角度θpを得るようにした。また、このようにして求めた孔部の角度θpについて、孔部の角度のばらつきとして標準偏差を求めた。標準偏差は、対象とした孔部のデータ10点の各値と平均値との間の差を2乗して合計した上で、データの総数10で割った数値の正の平方根から求めた。なお、このようにして孔部の角度θpを求める手順について、
図8では、直線L24、L34、L64、L74及びL84を例にしながら模式的に説明している。
【0034】
また、壁部については、その根元での幅である根元幅(Ww)に対する壁部の高さ(Hw)の比(Hw/Ww)が、1以上、5以下であるのがよい。孔部の場合と同様、本発明では、陽極酸化皮膜の壁部におけるこの比(Hw/Ww)が比較的に低い数値範囲となることで、優れた撥水性能をより確実に発現せしめることができると共に、その性能を長期に亘ってより確実に持続させることができる。この比(Hw/Ww)は、好ましくは1.3以上、より好ましくは1.6以上、さらに好ましくは2以上であるのがよく、また、好ましくは4.5以下、より好ましくは4以下、さらに好ましくは3.5以下であるのがよい。
【0035】
このうち、壁部の根元幅(Ww)については、100nm以上、300nm以下であるのがよい。壁部の根元幅(Ww)は、好ましくは140nm以上、より好ましくは170nm以上であるのがよく、また、好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下であるのがよい。
【0036】
一方、壁部の高さHwは、200nm以上、1000nm以下であるのがよい。壁部の高さHwは、好ましくは300nm以上、より好ましくは400nm以上であるのがよく、また、好ましくは800nm以下、より好ましくは700nm以下であるのがよい。
【0037】
ここで、壁部の根元幅Wwを求めるにあたり、本発明の実施例では次のようにして行った。すなわち、
図9は、
図6と同様に実施例1の場合について例示したものであり、陽極酸化皮膜のポーラス層を所定の倍率(ここでは5万倍)で写した断面SEM写真の画像である。この断面SEM写真を用いて、隣接する孔部に挟まれている一つ分の壁部について、壁部を挟んで隣接する孔部の略半円状の底が直線に立ち上がった根元部分同士を結んで引いた直線L41を引いた。この写真を印刷し、スケール(ここでは200nm)の写真上の長さと、直線L41の長さを実測(ここではmm単位)した。スケールの長さをもとにして、直線L41の長さに対応する、壁部の根元幅(ここではnm単位)を算出した。壁部を確認できる5か所について、直線L41~L45を引くことで、同様にして5点の壁部の根元幅を算出した。5点の壁部の根元幅を平均して、壁部の根元幅(Ww)を得るようにした。
【0038】
また、壁部の高さHwを求めるにあたっては、同様に先の
図9を用いて、隣接する孔部に挟まれている一つ分の壁部について、壁部を挟んで隣接する孔部の略半円状の底が直線に立ち上がった根元部分同士を結んで引いた直線L41の中間点と、隣接する孔部に挟まれる壁部の頂点とを結ぶ直線L51を引いた。同じく、スケール(ここでは200nm)の写真上の長さと、直線L51の長さを実測した。スケールの長さをもとにして、直線L51の長さに対応する壁部の高さ(ここではnm単位)を算出した。壁部を確認できる5か所について、直線L41~45、L51~L55を引くことで、同様にして5点の壁部の高さを算出した。5点の壁部の高さを平均して、壁部の平均高さ(Hw)を得るようにした。
【0039】
また、陽極酸化皮膜は、厚さが1μm以下であるのがよい。陽極酸化皮膜の厚さが1μm以下であれば、ポーラス層が崩れてしまうようなことを防いで、長期に亘って撥水持続性を好適に担保することができる。陽極酸化皮膜の厚さは、好ましくは800nm以下であるのがよく、より好ましくは700nm以下、さらに好ましくは600nm以下であるのがよい。一方で、後述する撥水材料層を好適に確保できる観点から、陽極酸化皮膜の厚さは、好ましくは300nm以上、より好ましくは400nm以上、さらに好ましくは500nm以上であるのがよい。
【0040】
ここで、陽極酸化皮膜の膜厚を求めるにあたり、本発明の実施例では次のようにして行った。すなわち、
図10は、
図6と同様に実施例1の場合について例示したものであり、陽極酸化皮膜のポーラス層を所定の倍率(ここでは5万倍)で写した断面SEM写真の画像である。この画像は、断面SEMの反射電子像で測定したものである。反射電子像は元素分布の違いで、Al生地(Alのみ)と陽極酸化皮膜(Al、O含有)との明るさの違いが分かる。つまり、Al生地(Al基材)は白っぽく、陽極酸化皮膜は黒っぽく見える。この濃淡を利用して、陽極酸化皮膜の厚さを測定することができる。画像において、Al生地と陽極酸化皮膜との境界から陽極酸化被膜の表面まで、膜厚に相当する直線を引き、スケール(ここでは200nm)の写真上の長さと、直線の長さを実測(ここではmm単位)して、スケールの長さをもとにして、直線の長さに対応する膜厚を3か所で測定し、その3か所の膜厚を平均して、陽極酸化皮膜の厚さ(T)を得るようにした。
【0041】
また、陽極酸化皮膜は、
図11において示したように、周囲の壁部よりも高さの低い壁部を間に挟んで複数の孔部が集合することで形成される凹部が存在するドメイン構造(部分構造)Dを有していてもよい。先に説明した傾きを有する孔部と共に、このドメイン構造が形成されるメカニズムについては必ずしも明らかになっていないが、撥水部材の製造方法において後述するように、陽極酸化処理を行うアルミニウム基材の表面状態が影響するものと推察される。なお、この
図11は、実施例1に係る陽極酸化皮膜の表面を1万倍の倍率で写した平面SEM写真である。
【0042】
[1-2.撥水材料層]
<撥水材料>
本発明における撥水部材は、前述のアルミニウム部材と共に、撥水材料層を備えたものである。この撥水材料層は、撥水材料を含んでなり、アルミニウム部材の陽極酸化皮膜の表面を撥水材料が覆うことで形成される。ここで、撥水材料層は、撥水材料として、フッ素含有化合物及びシリコン含有化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含むものである。
このうち、フッ素含有化合物とは、フッ素原子を含有する有機化合物であり、フッ素含有カップリング剤、フッ素樹脂、フッ素系潤滑油等が挙げられる。
また、シリコン含有化合物とは、シリコン原子を含有する有機化合物であり、シリコン含有カップリング剤、シリコーン樹脂、シリコーンオイル、シリコーンエラストマー等が挙げられる。
【0043】
ここで、上記のカップリング剤としては、フッ素原子を含有するフッ素含有カップリング剤、シリコン原子を含有するシリコン含有カップリング剤が挙げられる。カップリング剤としては、シリコン原子に加水分解性基が結合した構造を有するシラン含有カップリング剤が好ましい。フッ素含有カップリング剤の中でも、フッ素含有シランカップリング剤が好ましい。また、シリコン含有カップリング剤の中でも、シリコン含有シランカップリング剤が好ましい。シラン含有カップリング剤は、例えば、エトキシ基、メトキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基を加水分解性基として有し、これら加水分解性基がシリコン原子に結合した、エトキシシリル基、メトキシシリル基、ブトキシシリル基等のアルコキシシリル基を有することが好ましい。シラン含有カップリング剤を用いることで、シラン含有カップリング剤が有するアルコキシ基が加水分解を受けることでシラノール基が生じる。そして、シラン含有カップリング剤のシラノール基と、アルミニウム部材の陽極酸化皮膜の表面に存在する水酸基とが、水素結合を形成するか、脱水縮合反応によりシロキサン結合を形成する。このようにして、シラン含有カップリング剤を用いることで、フッ素含有化合物及びシリコン含有化合物が、アルミニウム部材の表面に安定的に存在しやすくなる。
【0044】
撥水材料層は、フッ素含有カップリング剤と、フッ素樹脂及びシリコーン樹脂の少なくともいずれか一種との両方を含んでいてもよい。
撥水材料層は、シリコン含有カップリング剤と、フッ素樹脂及びシリコーン樹脂の少なくともいずれか一種との両方を含んでいてもよい。
撥水材料層は、フッ素含有シランカップリング剤と、フッ素樹脂及びシリコーン樹脂の少なくともいずれか一種との両方を含んでいてもよい。
【0045】
このような撥水材料層を形成するにあたり、撥水材料としては特に制限されないが、例えば、以下のフッ素含有化合物及びシリコン含有化合物を用いることができる。
すなわち、フッ素含有化合物としては、パーフルオロドデシルトリクロロシラン(FTCS)、パーフルオロアルコキシシラン等のフッ素含有シランカップリング剤;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、パーフルオロアルコキシルカン(PFA)等のフッ素樹脂;パーフルオロポリエーテル(PFPE)等のフッ素系潤滑油;等を挙げることができる。また、シリコン含有化合物としては、オクチルトリエトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン等のシリコン含有シランカップリング剤;シリコーン樹脂;シリコーンオイル;シリコーンエラストマー;等を挙げることができる。
【0046】
[1-3.撥水部材]
本発明における撥水部材は、水への撥水性を示すことで水の付着を抑制する部材である。付着の抑制対象としては、液体状の水に加えて、固体状の水、あるいは空気中の水分(水蒸気)の凝結によって形成される、雪、霜、氷も含むものとする。また、本発明に係る撥水部材はアルミニウム基材を用いたものであることから、加工性の点で有利である。そのため、本発明における撥水部材は、その用途は多種多様であり、特に制限されないが、例えば、結露防止部材、着雪防止部材、着霜防止部材、着氷防止部材、等に用いることができる。より具体的には、結露防止のために、冷蔵庫内の冷蔵室の壁、天井、床、棚、エアコンの室内機の熱交換器等;着霜防止のために、冷蔵冷凍車および冷蔵冷凍庫に用いられる冷凍装置の室内機の熱交換器、エアコンの室外機の熱交換器、等;着雪及び着氷防止のために、屋外で使用される建築物、交通標識、信号機、送電線、鉄塔、橋桁、等;ノートパソコンや電子機器等の精密機器の筐体;等を形成するアルミニウム部材として利用することができる。
【0047】
[2.撥水部材の製造方法]
本発明における撥水部材の製造方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材に対して、シュウ酸を含む電解液を用いて陽極酸化を行う陽極酸化処理と、リン酸を含む処理液を用いてエッチングを行うエッチング処理とを繰り返し行うことで、陽極酸化処理によるポーラス型の陽極酸化皮膜の形成と、エッチング処理によるポアワイドニングとによって、表面に開口する有底の孔部と、該孔部を囲んで立設する壁部とを有するポーラス層を有すると共に、壁部が、根元側から先端側に向かうにつれて幅が狭くなる先細り形状であり、隣接する二つの孔部に挟まれる壁部の中間部の高さが相対的に低く、隣接する三つ以上の前記孔部に囲まれる前記壁部の中央部の高さが相対的に高い、王冠状の構造を有する、陽極酸化皮膜を形成する皮膜形成工程、皮膜形成工程によって形成された陽極酸化皮膜に対して、プラズマを照射するプラズマ処理を行うことで、陽極酸化皮膜に官能基を付与して活性化する皮膜処理工程、皮膜処理工程によって活性化された陽極酸化皮膜に対して、フッ素含有化合物及びシリコン含有化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物からなる撥水材料を含む撥水溶液を用いて撥水処理を行うことで、陽極酸化皮膜の表面に前記撥水材料層を設ける撥水工程を備えており、陽極酸化皮膜の孔部は、孔部の間隔(W)に対する孔部の深さ(H)の比(H/W)が、1以上、4以下となるようにする。
【0048】
[2-1.皮膜形成工程]
先ず、皮膜形成工程では、アルミニウム基材に対して、シュウ酸を含む電解液を用いて陽極酸化を行う陽極酸化処理と、リン酸を含む処理液を用いてエッチングを行うエッチング処理とを繰り返し行うことで、陽極酸化皮膜を形成する。
【0049】
<陽極酸化処理>
陽極酸化処理については、電解液としてシュウ酸を用いて酸化皮膜を形成する。これにより、比較的大きな孔径を有する孔部を備えるようにすることができて、撥水性能を発現させる観点で好適である。陽極酸化処理の方法については特に制限されずに、公知の方法と同様にすることができ、例えば、アルミニウム基材の被加工面を電解液中、定電圧下で陽極酸化して酸化皮膜を形成する。
【0050】
このうち、電解液におけるシュウ酸の濃度は、陽極酸化時の電流値を安定させて、結果的に、前述したポーラス層を有する陽極酸化皮膜が再現性良く得られるようにするために、シュウ酸の濃度は0.1質量%以上であるのがよく、好ましくは0.2質量%以上であるのがよい。一方で、シュウ酸の濃度は1質量%以下であるのがよく、好ましくは0.5質量%以下であるのがよい。
【0051】
また、上記と同様、前述したポーラス層を有する陽極酸化皮膜を再現性良く得ることができる観点から、陽極酸化時の電圧については、30V以上であるのがよく、好ましくは60V以上であるのがよい。一方で、陽極酸化時の電圧は、100V以下であるのがよく、好ましくは80V以下であるのがよい。更には、電解液の温度は、30℃以下であるのがよく、好ましくは15℃以下であるのがよく、電解液の温度は、4℃以上であるのがよく、好ましくは7℃以上であるのがよい。更にまた、陽極酸化の時間については、60秒以上であるのがよく、好ましくは80秒以上であるのがよく、陽極酸化の時間は180秒以下、好ましくは120秒以下であるのがよい。
【0052】
<エッチング処理>
また、エッチング処理では、リン酸を含む処理液を用いてエッチングを行う。リン酸を含む処理液を用いることで、アルミニウム基材のアルミニウムは溶解せずに、酸化皮膜であるアルミナの一部を選択的に溶解させることができる。つまり、ポーラス層における底部の窪みを残しながら、引き続き行われる再度の陽極酸化処理で孔部を繰り返し形成することで、結果的に、陽極酸化皮膜のポーラス層における孔部を拡大(ポアワイドニング)させることができる。
【0053】
ここで、エッチング処理に用いる処理液のリン酸の濃度については、上述したようなアルミナの選択的溶解を再現性良く行うことができる観点から、0.5mol/L以上であるのがよく、好ましくは0.8mol/L以上であるのがよく、一方で、3mol/L以下であるのがよく、好ましくは2mol/L以下であるのがよい。また、エッチング処理での処理液の温度については、10℃以上であるのがよく、好ましくは20℃以上であるのがよく、一方で、50℃以下であるのがよく、好ましくは40℃以下であるのがよい。更には、エッチング処理に要する時間は、5分以上であるのがよく、好ましくは10分以上であるのがよく、一方で、40分以下であるのがよく、好ましくは30分以下であるのがよい。なお、通常、エッチング処理は複数回行われ、ここでのエッチング処理に要する時間とは、1回分のエッチング処理に要する時間をいう。
【0054】
本発明においては、上述した陽極酸化処理とエッチング処理とを繰り返す必要があり、少なくとも陽極酸化処理(1回目)、エッチング処理(1回目)、陽極酸化処理(2回目)の順で行うようにする。所望のポーラス層を有する陽極酸化皮膜がより確実に得られるようにするには、好ましくは、陽極酸化処理が3回以上であると共にエッチング処理が2回以上であるのがよく、より好ましくは、陽極酸化処理が5回以上であると共にエッチング処理が4回以上であるのがよい。このように、陽極酸化処理とエッチング処理とを繰り返すことで、王冠状の構造を有する壁部を有する陽極酸化被膜が形成される。
【0055】
皮膜形成工程において、陽極酸化処理とエッチング処理とを行うアルミニウム基材については、その表面の粗さ(Ra)は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上、特に好ましくは0.5μm以上である。一般に、陽極酸化処理を行う際には、洗浄や脱脂等を行った後、前処理として、酸やアルカリ溶液によるエッチング処理や電解研磨や機械研磨等による鏡面処理で、表面を均一にしてから行われるが、本発明では、あえてこのような表面均一化処理行わずに、汚れ等の洗浄のみで、上記のような表面粗さを有した状態で陽極酸化処理及びエッチング処理を行うようにするのが望ましい。詳細な理由は十分に解明されていないが、このような表面の粗さを有するアルミニウム基材を用いることで、ポーラス層の孔部が上述したような、孔部の角度θpの標準偏差が大きい不規則な配置になりやすく、また、陽極酸化被膜にドメイン構造Dが形成されやすくなる傾向にある。これにより、結果的に、撥水性能の持続性が担保されるものと考えられる。なお、表面の粗さ(Ra)はJIS B 0601:2013で規定される算術平均粗さを表す。
【0056】
[2-2.皮膜処理工程]
次に、皮膜処理工程では、先の皮膜形成工程によって形成された陽極酸化皮膜に対して、プラズマを照射するプラズマ処理を行うことで、陽極酸化皮膜に官能基を付与して活性化する。本発明では、シュウ酸を用いた陽極酸化処理とリン酸を用いたエッチング処理との繰り返しによって、表面に開口する有底の孔部と、孔部を囲んで立設する壁部とを有するポーラス層を有すると共に、壁部が王冠状の構造を有する陽極酸化皮膜を形成して、その上で、プラズマ処理による活性化を施してから撥水材料層を設けることで、陽極酸化皮膜と撥水材料との親和性が増して、撥水性が長期に亘って持続するようにしている。このメカニズムの詳細は必ずしも明らかでないが、プラズマ処理によって付与される表面一分子程度の水酸基(OH基)が撥水材料との親和性向上と関係すると考えられる。また、陽極酸化皮膜が孔部と壁部とを有するポーラス層を有すると共に、壁部が王冠状の構造を有することで、プラズマ処理に対する形状崩壊の耐性を備えて、撥水性を持続させることができると考えられる。
【0057】
つまり、本発明では、前述したように、陽極酸化皮膜の孔部の間隔(W)に対する深さ(H)の比(H/W)を比較的に低い数値範囲にすることで、プラズマ処理を受けた際に、ポーラス層の形状が崩れてしまうことが抑えられて、撥水性能の持続を可能にする。そして、陽極酸化皮膜がプラズマ処理による活性化を受けてから撥水材料層によって覆われることで、陽極酸化皮膜と撥水材料との親和性が増して、撥水性がより確実に持続されるようになる。
【0058】
ここで、プラズマ処理は、気体分子が陽イオンと電子に電離したプラズマを発生させてアルミニウム基材の陽極酸化皮膜の表面を処理することができれば特に制限はなく、真空又は低圧でのプラズマ発生装置を使ったプラズマ処理であってもよく、大気圧でのプラズマ発生装置を使ったプラズマ処理であってもよい。また、プラズマ処理の際に使用するガスとしては、N2、Ar、O2、空気、及び水蒸気からなる群より選ばれる1種のガス、又は2種以上の混合ガスであるのがよいが、中でも、プラズマ処理によって陽極酸化皮膜に水酸基を形成する観点から、O2、空気、及び水蒸気からなる群より選ばれる少なくとも1種のガスを含むのがよく、好ましくは、酸素プラズマの照射により、陽極酸化皮膜に水酸基を付与する酸素プラズマ処理であるのがよい。
【0059】
プラズマ処理の条件については特に制限されないが、処理圧力は1.0×10-1Pa以上であるのがよく、好ましくは3.0×10-1Pa以上であるのがよく、一方で、1.0×102Pa以下であるのがよく、好ましくは7.0×101Pa以下であるのがよい。また、電源はRF(ICP)電源出力で100W以上であるのがよく、好ましくは300W以上であるのがよく、より好ましくは500W以上であるのがよく、一方で、2000W以下であるのがよく、好ましくは1500W以下であるのがよく、より好ましくは1000W以下であるのがよい。更に、処理時間は3分以上であるのがよく、好ましくは8分以上であるのがよく、一方で、30分以下であるのがよく、好ましくは15分以下であるのがよい。
【0060】
[2-3.撥水工程]
撥水工程では、皮膜処理工程によって活性化された陽極酸化皮膜に対して、フッ素含有化合物及びシリコン含有化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物からなる撥水材料を含む撥水溶液を用いて撥水処理を行うことで、陽極酸化皮膜の表面に撥水材料層を設ける。
【0061】
この撥水処理で用いる撥水溶液には、前述したようなフッ素含有化合物又はシリコン含有化合物のいずれか一方又は両方の化合物からなる撥水材料を含めるようにする。また、撥水処理の具体的手段については、陽極酸化皮膜の表面に撥水材料層を形成することができればよく、特に制限はないが、例えば、噴霧、塗布、浸漬等の公知の方法を用いることができる。なお、撥水処理後は自然乾燥により陽極酸化皮膜の表面に撥水材料層を形成するようにしてもよく、例えば100℃~300℃程度で加熱乾燥するようにしてもよく、これらを組み合わせて行うようにしてもよい。
【0062】
[2-4.前処理工程]
皮膜形成工程における陽極酸化処理の前に、アルミニウム基材の表面に前処理を行う前処理工程を備えていてもよい。前処理としては、アルミニウム基材の洗浄、脱脂が挙げられる。洗浄は、例えば、界面活性剤、酸、アルカリ等を用いて行うことができる。脱脂は、例えば、アセトン、アルコール、エタノール等の有機溶剤、アルカリ等を用いて行うことができる。洗浄又は脱脂を行う場合、必要に応じて純水による濯ぎ洗浄を行うようにしてもよい。
【0063】
[3.作用効果]
本発明における撥水部材は、陽極酸化皮膜が、表面に開口する有底の孔部と、孔部を囲んで立設する壁部とを有するポーラス層を有し、壁部が王冠状の構造を有していることで、後述する実施例で示されるように、水の接触角が150°以上となり、水が着滴しない、超撥水性を示す。また、本発明における撥水部材の製造方法では、陽極酸化皮膜がプラズマ処理による活性化を受けてから撥水材料層によって覆われることで、陽極酸化皮膜と撥水材料との親和性が増して、撥水性が持続するようになっている。更には、本発明の撥水部材は、陽極酸化皮膜の孔部の間隔(W)に対する深さ(H)の比(H/W)が比較的に低い数値範囲となることで、プラズマ処理を受けた際に、ポーラス層の形状が崩れてしまうことが抑えられることによって、撥水性を維持することができる。すなわち、本発明では、陽極酸化皮膜が孔部と壁部とを有するポーラス層を有するとともに壁部が王冠状の構造を有することで、撥水性と、プラズマ処理に対する形状崩壊の耐性とを両立して、撥水性を持続させることができる。
【0064】
特に、本発明では、アルミニウム基材を用いて撥水部材を得ることができることから、アルミニウムの加工性と相まって、例えば、低温高湿度環境下で発生する凝縮水の付着や結露を防いだり、着雪や着霜若しくは着氷を防止するなど、様々な用途や部材に展開したりすることができる、工業的可能性に優れたものと言うことができる。
【0065】
[4.その他]
上述した実施形態では、本発明に係る各要素の長さや角度等を測定するにあたって、SEM写真の画像を印刷して、長さを実測することで算出する手法を説明した。測定を行うにあたって、必ずしも印刷と実測は必要ではなく、例えば、ディスプレイ上で表示されるSEM写真の画像に含まれる各要素とスケールの長さとの関係をもとにして、算出を行うようにしてもよい。また、SEM写真の画像に画像解析を施すことで、各要素の長さや角度等の測定を行うようにしてもよい。
【実施例0066】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明するが、本発明がこれにより限定されて解釈されるものでもない。なお、表1~3には、各実施例、比較例における製造条件と、得られた撥水部材に関する各種評価をまとめて示している。
【0067】
[1.形状評価]
<アルミニウム基材の表面の粗さ(Ra)の測定>
アルミニウム基材の表面の粗さ(Ra)は、ミツトヨ社製の装置名:SURFTEST SJ-210を用いて測定した。実施例、比較例のアルミニウム基材について、JIS B 0601-2013の条件で測定した。
【0068】
<平面SEM観察>
平面観察は、カールツァイス株式会社製の超高分解能走査型電子顕微鏡:ULTRA plusを用いた。実施例、比較例の撥水部材について、サンプルをPtで30~60秒スパッタして、加速電圧3~10kVで観察した。傾斜表面については、45°試料台を傾斜して、観察した。
【0069】
<断面SEM観察>
断面観察は、日本電子株式会社製のCROSS SECTION POLISHER IB-09020CPを用いて、実施例、比較例の撥水部材について、Ar+イオンビームで皮膜を加工し、断面を露出させ、Ptで30~60秒スパッタすることでサンプルを得て、平面観察と同様に断面観察を行った。
【0070】
<孔部の間隔(Wp)の測定>
図5を用いて説明した前述の方法に従った。下記の実施例1~3、比較例1、5~7について、倍率5万倍の平面SEM写真の画像に任意で写真を横断する3本の横断線L1~L3を引き、3本の横断線L1~L3に接する孔部の間隔の平均値を算出して、孔部の間隔(Wp)を得た。
【0071】
<孔部の深さ(Hp)の測定>
図6を用いて説明した前述の方法に従った。下記の実施例1~3、比較例1については、倍率5万倍の断面SEM写真の画像を用い、比較例5~7については、倍率1万倍の断面SEM写真の画像を用いて、それぞれ隣接する壁部の先端部分(頂部)同士を結ぶ直線L21~L30を引き、また、これらの直線の中間点と孔部の先端部分(底部)とを結ぶ直線L31~L40を引いて、10点の孔部の深さを求めて、10点の孔部の深さの平均値を算出して、孔部の深さ(Hp)を得た。
【0072】
<陽極酸化皮膜の膜厚(T)の測定>
図10を用いて説明した前述の方法に従った。下記の実施例1~3、比較例1については、倍率5万倍の断面SEMの反射電子像を用い、比較例2~7については、倍率1万倍の断面SEMの反射電子像を用いて、膜厚に相当する直線を引いて3か所の膜厚を測定し、3か所の膜厚を平均して、陽極酸化皮膜の厚さ(T)を得た。
【0073】
<孔部の開口部の孔径(D)の測定>
図5を用いて説明した前述の方法に従った。下記の実施例1~3、比較例1、5~7について、倍率5万倍の平面SEM写真の画像に任意で写真を横断する3本の横断線L1~L3を引き、通過又は接触して、開口部の孔径が確認できる孔部それぞれについて、径が最も大きくなる位置での開口部の最大径(最大孔径)を実測し、横断線L1~L3をそれぞれ上下に移動させて全ての孔部の最大孔径を算出して、全ての最大孔径の平均値を開口部の孔径Dとした。
【0074】
<壁部の根元幅(Ww)の測定>
図9を用いて説明した前述の方法に従った。下記の実施例1~3、比較例1は、倍率5万倍の断面SEM写真を用い、比較例2~7については、倍率1万倍の断面SEM写真を用いて、直線L41~L45を引いて5点の壁部の根元幅を算出し、5点の壁部の根元幅を平均して、壁部の根元幅(Ww)を得た。
【0075】
<壁部の高さ(Hw)の測定>
図9を用いて説明した前述の方法に従った。下記の実施例1~3、比較例1は、倍率5万倍の断面SEM写真を用い、比較例2~7については、倍率1万倍の断面SEM写真を用いて、直線L51~L55を引いて5点の壁部の高さを算出し、5点の壁部の高さを平均して、壁部の平均高さ(Hw)を得た。
【0076】
<孔部の角度(θp)の測定>
図7を用いて説明した前述の方法に従った。下記の実施例1~3、比較例1は、倍率5万倍の断面SEM写真を用いて、孔部を確認できる10か所について、直線L21~L30、L31~L40、L61~70、L71~80、及びL81~L90を引いて、10点の孔部の角度を算出し、10点の孔部の角度の平均値を算出して、孔部の角度(θp)を得た。また、このようにして求めた孔部の角度θpについて、孔部の角度のばらつきとして標準偏差を求めた。
【0077】
[2.撥水性評価]
実施例1~3、比較例1~8
協和界面科学株式会社の自動接触角計DMo-602を用いて、水の接触角を測定した。この時の接触角を初期接触角とした。また、撥水性の耐久性を評価するため、塩水噴霧装置(SST:5%NaCl、35℃、JIS Z2371:2015の塩水噴霧試験方法に準拠)に入れ、500時間、1000時間後の水の接触角を測定した。なお、この測定装置では、接触角が150°以上の超撥水になると、水滴が着滴しない。
【0078】
[3.結露評価]
いずれも板形状の実施例1の撥水部材と比較例8の親水部材を薬品用防爆冷蔵庫(日本フリーザー株式会社製 RP-400)の庫内のステンレス製の内壁に貼りつけた。5℃設定で1000時間経過後に、各部材及び冷蔵庫の内壁の結露状態を目視で観察した。部材への結露が発生しなかったものを優(◎)、部材に僅かに結露が発生したものを可(△)、部材に結露が発生して付着した水滴が垂れ落ちたものを不可(×)と評価した。
【0079】
[4.サンプル作製]
[実施例1]
<(1) 前処理>
長さ297mm×幅210mm×厚さ0.6mm、Ra:0.19μmのA5052Pアルミニウム材を中性洗剤及び超純水で洗浄した。具体的には、中性洗剤であるセミクリーン M-1(横浜油脂工業株式会社製、製品番号(型番):1251-3)(ポリオキシエチレンアルキルエーテル:26%、エタノール:1~5%、水:残量)を水で1%(体積比)に希釈した洗浄液にアルミニウム材を30℃の温度条件で5分間浸漬した。次いで、アルミニウム材を超純水により25℃~30℃の温度条件で10分間濯ぎ洗浄を行った。洗浄液への浸漬と超純水による濯ぎ洗浄を1セットとして、2セット行うことで前処理の洗浄とした。
【0080】
<(2) 陽極酸化処理>
前処理後のアルミニウム材を0.3質量%のシュウ酸溶液で、電圧80V、時間100秒、温度8±1℃で陽極酸化を行った。
【0081】
<(3) ポアワイドニング(エッチング処理)>
陽極酸化後の皮膜を1mol/Lのリン酸溶液で、温度30℃、時間20分で、ポアワイドニングを行った。
【0082】
<(4) 細孔の拡大>
上述した陽極酸化処理を5回とポアワイドニングを4回とを交互に繰り返し、陽極酸化皮膜を形成した。
【0083】
<(5) プラズマ処理>
陽極酸化処理及びポアワイドニングを行った陽極酸化皮膜に、ジオマテック社製作のバッチ式マグネトロンスパッタ装置を用いて、真空成膜装置内で圧力5.0×10-1Pa(5.0E-1Pa)(Ar:1500sccm、O2:400sccm)、RF(ICP)電源出力500W-10分の条件で、プラズマ処理を行い、陽極酸化皮膜を活性化した。この条件のプラズマ処理を表2ではプラズマ条件「中」と表記した。
【0084】
<(6) 撥水化処理>
ダイキン工業株式会社のフッ素含有シランカップリング剤であるUD-509(有効成分:20%)を、ソルベイジャパン株式会社のパーフルオロポリエーテルフッ素系流体であるガルデン(登録商標)HT-135で0.1%に希釈した溶液を調製した。この溶液に、プラズマ処理後のアルミニウム材を10分間浸漬して、自然乾燥後、150℃で1時間大気焼成した。その後余剰分除去を行い、撥水材料層を形成することで、実施例1の撥水部材を得た。
【0085】
上記で得られた実施例1に係る撥水部材について、その陽極酸化皮膜は、先の
図1で示したように、壁部が根元側から先端側に向かうにつれて幅が狭くなる先細り形状を有していた。また、ポーラス層における壁部は、先の
図2(実施例1 王冠形状+プラズマ中:傾斜×50000)で示したように、隣接する二つの孔部に挟まれる中間部の高さが相対的に低く、かつ、隣接する三つ以上の孔部に囲まれる壁部の中央部の高さが相対的に高くて、王冠状の構造を有するものであった。そして、隣接する三つ以上の孔部に囲まれる壁部の中央部Cの最先端部分には、壁部の幅方向に髭(ヒゲ)のように突出して広がる突出部C1を有していた。
【0086】
このポーラス層における孔部の間隔(W)、孔部の深さ(H)、孔部の角度(θp)、及び壁部の根元幅(Ww)を求めるにあたって使用した断面SEM画像は前述の
図5、
図6、
図7及び
図9の通りである。
【0087】
このうち、
図5(実施例1 王冠形状+プラズマ中:表面×50000)より、3本の横断線から求められる孔部の個数の平均値は14.67、孔部の間隔の平均値は162nm、全ての孔部の最大孔径の平均値は149nmであった。同じく、
図6より、10点の孔部の深さの平均値は498nmであった。更に、
図7より、10点の孔部の角度の平均値は91.7°、標準偏差は4.77であった。更にまた、
図9より、5点の壁部の根元幅の平均値は156nm、5点の壁部の高さの平均値は526nmであった。
また、陽極酸化皮膜の膜厚を求めるにあたって使用した断面SEM画像は
図10であり、3か所の陽極酸化皮膜の厚さの平均値は648nmであった。
それぞれ求められた結果を表3にまとめて示す。更に、
図11(実施例1 王冠形状+プラズマ中:平面×10000)は、陽極酸化皮膜のポーラス層において確認できるドメイン構造を示す平面SEM画像である。
【0088】
[実施例2]
実施例1と同様の前処理、並びに陽極酸化処理及びポアワイドニングによる細孔の拡大を行って、陽極酸化皮膜を作製し、プラズマ処理をジオマテック社製作のバッチ式マグネトロンスパッタ装置を用いて真空成膜装置内で圧力5.0×10-1Pa(5.0E-1Pa)(Ar:1500sccm、O2:400sccm)、RF(ICP)電源出力750W-10分の条件で行った。この条件のプラズマ処理を表2ではプラズマ条件「強」とした。この後、実施例1と同様の撥水化処理を行った。
【0089】
上記で得られた実施例2に係る撥水部材について、その陽極酸化皮膜は、
図12に示したように、壁部が根元側から先端側に向かうにつれて幅が狭くなる先細り形状を有していた。また、ポーラス層における壁部は、
図13(a)〔実施例2 王冠形状+プラズマ強:傾斜×50000〕に示したように、隣接する二つの孔部に挟まれる中間部の高さが相対的に低く、かつ、隣接する三つ以上の孔部に囲まれる壁部の中央部の高さが相対的に高くて、王冠状の構造を有するものであった。そして、隣接する三つ以上の孔部に囲まれる壁部の中央部Cの最先端部分には、壁部の幅方向に髭(ヒゲ)のように突出して広がる突出部C1を有していた。
【0090】
また、このポーラス層における孔部の間隔(W)を求めるにあたって使用した平面SEM画像を
図16(a)〔実施例2 王冠形状+プラズマ強:表面×50000〕に示す。同じくポーラス層における孔部の深さ(H)を求めるにあたり使用した断面SEM画像は先の
図12に示したとおりであり、同じくポーラス層における孔部の角度(θp)を求めるにあたり使用した断面SEM画像を
図18に示す。同じくポーラス層における壁部の根元幅(Ww)を求めるにあたり使用した断面SEM画像を
図19(a)〔実施例2 王冠形状+プラズマ強:断面×50000〕に示し、更に、陽極酸化皮膜の膜厚を求めるにあたって使用した断面SEM画像を
図21(a)〔実施例2 王冠形状+プラズマ強:断面×50000〕に示す。
【0091】
このうち、
図16(a)より、3本の横断線から求められる孔部の個数の平均値は14、孔部の間隔の平均値は169nm、全ての孔部の最大孔径の平均値は163nmであった。また、
図12より、10点の孔部の深さの平均値は583nmであった。また、
図18より、10点の孔部の角度の平均値は90.3°、標準偏差は5.16であった。更に、
図19(a)より、5点の壁部の根元幅の平均値は160nm、5点の壁部の高さの平均値は683nmであった。更にまた、
図21(a)より、3か所の陽極酸化皮膜の厚さの平均値は763nmであった。
それぞれ求められた結果を表3にまとめて示す。更にまた、
図24(a)〔実施例2 王冠形状+プラズマ強:傾斜×10000〕に示したように、この実施例2に係る撥水部材の陽極酸化皮膜におけるポーラス層においてもドメイン構造を有することが確認された。
【0092】
[実施例3]
実施例1と同様の前処理、並びに陽極酸化処理及びポアワイドニングによる細孔の拡大を行って、陽極酸化皮膜を作製し、プラズマ処理をジオマテック社製作のバッチ式マグネトロンスパッタ装置を用いて、真空成膜装置内で圧力5.0×10-1Pa(5.0E-1Pa)(Ar:1500sccm、O2:400sccm)、RF(ICP)電源出力1000W-10分の条件で行った。この条件のプラズマ処理を表2ではプラズマ条件「強強」とした。この後、実施例1と同様の撥水化処理を行った。
【0093】
上記で得られた実施例3に係る撥水部材について、その陽極酸化皮膜は、
図27に示したように、壁部が根元側から先端側に向かうにつれて幅が狭くなる先細り形状を有していた。また、ポーラス層における壁部は、
図13(b)〔実施例3 王冠形状+プラズマ強強:傾斜×50000〕に示したように、隣接する二つの孔部に挟まれる中間部の高さが相対的に低く、かつ、隣接する三つ以上の孔部に囲まれる壁部の中央部の高さが相対的に高くて、王冠状の構造を有するものであった。そして、隣接する三つ以上の孔部に囲まれる壁部の中央部Cの最先端部分には、壁部の幅方向に髭(ヒゲ)のように突出して広がる突出部C1を有していた。但し、この実施例3に係る撥水部材は、実施例1、2の場合に比べて、王冠状の構造は比較的少ないものであった。
【0094】
また、このポーラス層における孔部の間隔(W)を求めるにあたって使用した平面SEM画像を
図16(b)〔実施例3 王冠形状+プラズマ強強:表面×50000〕に示す。同じくポーラス層における孔部の深さ(H)を求めるにあたり使用した断面SEM画像は先の
図27に示したとおりであり、同じくポーラス層における孔部の角度(θp)を求めるにあたり使用した断面SEM画像を
図28に示す。同じくポーラス層における壁部の根元幅(Ww)を求めるにあたり使用した断面SEM画像を
図19(b)〔実施例3 王冠形状+プラズマ強強:断面×50000〕に示し、更に、陽極酸化皮膜の膜厚を求めるにあたって使用した断面SEM画像を
図21(b)〔実施例3 王冠形状+プラズマ強強:断面×50000〕に示す。
【0095】
このうち、
図16(b)より、3本の横断線から求められる孔部の個数の平均値は13.3、孔部の間隔の平均値は174nm、全ての孔部の最大孔径の平均値は160nmであった。また、
図27より、10点の孔部の深さの平均値は276nmであった。また、
図28より、10点の孔部の角度の平均値は89.7°、標準偏差は9.39であった。更に、
図19(b)より、5点の壁部の根元幅の平均値は184nm、5点の壁部の高さの平均値は334nmであった。更にまた、
図21(b)より、3か所の陽極酸化皮膜の厚さの平均値は532nmであった。
それぞれ求められた結果を表3にまとめて示す。更にまた、
図24(b)〔実施例3 王冠形状+プラズマ強強:傾斜×10000〕に示したように、この実施例3に係る撥水部材の陽極酸化皮膜におけるポーラス層においてもドメイン構造を有することが確認された。
【0096】
[比較例1]
実施例1と同様の前処理、並びに陽極酸化処理及びポアワイドニングによる細孔の拡大を行い、プラズマ処理は行わず、実施例1と同様の撥水化処理を行って、比較例1に係る撥水部材を得た。
【0097】
上記で得られた比較例1に係る撥水部材について、その陽極酸化皮膜は、
図29に示したように、壁部が根元側から先端側に向かうにつれて幅が狭くなる先細り形状を有していた。また、ポーラス層における壁部は、
図13(c)〔比較例1 王冠形状+プラズマ無:傾斜×50000〕に示したように、隣接する二つの孔部に挟まれる中間部の高さが相対的に低く、かつ、隣接する三つ以上の孔部に囲まれる壁部の中央部の高さが相対的に高くて、王冠状の構造を有するものであった。そして、隣接する三つ以上の孔部に囲まれる壁部の中央部Cの最先端部分には、壁部の幅方向に髭(ヒゲ)のように突出して広がる突出部C1を有していた。
【0098】
また、このポーラス層における孔部の間隔(W)を求めるにあたって使用した平面SEM画像を
図16(c)〔比較例1 王冠形状×50000〕に示す。同じくポーラス層における孔部の深さ(H)を求めるにあたり使用した断面SEM画像は先の
図29に示したとおりであり、同じくポーラス層における孔部の角度(θp)を求めるにあたり使用した断面SEM画像を
図30に示す。同じくポーラス層における壁部の根元幅(Ww)を求めるにあたり使用した断面SEM画像を
図19(c)〔比較例1 王冠形状:断面×50000〕に示し、更に、陽極酸化皮膜の膜厚を求めるにあたって使用した断面SEM画像を
図21(c)〔比較例1 王冠形状+プラズマ無:断面×50000〕に示す。
【0099】
このうち、
図16(c)より、3本の横断線から求められる孔部の個数の平均値は14.3、孔部の間隔の平均値は164nm、全ての孔部の最大孔径の平均値は158nmであった。また、
図29より、10点の孔部の深さの平均値は572nmであった。また、
図30より、10点の孔部の角度の平均値は89.4°、標準偏差は3.83であった。更に、
図19(c)より、5点の壁部の根元幅の平均値は160nm、5点の壁部の高さの平均値は662nmであった。更にまた、
図21(c)より、3か所の陽極酸化皮膜の厚さの平均値は692nmであった。
それぞれ求められた結果を表3にまとめて示す。更にまた、
図24(c)〔比較例1 王冠形状+プラズマ無:傾斜×10000〕に示したように、この比較例1に係る撥水部材の陽極酸化皮膜におけるポーラス層においてもドメイン構造を有することが確認された。
【0100】
[比較例2]
実施例1と同様の前処理、並びに陽極酸化処理及びポアワイドニングを行ったが、陽極酸化処理とポアワイドニングはそれぞれ1回のみ行い、陽極酸化皮膜を作製した。次いで、プラズマ処理は行わず、実施例1と同様の撥水化処理を行った。
【0101】
上記で得られた比較例2に係る撥水部材について、
図21(d)〔比較例2 陽極酸化1回:断面×10000〕に示したように、所定の厚さの陽極酸化皮膜が形成されていたが、
図13(d)〔比較例2 陽極酸化1回:傾斜×50000〕に示したように、ポーラス層においては王冠状の構造を確認することはできずに、網目状のものであった。ちなみに、
図21(d)より、3か所の陽極酸化皮膜の厚さの平均値は962nmであった。また、
図24(d)〔比較例2 陽極酸化1回:×10000〕に示したように、陽極酸化皮膜の平面SEM画像からポーラス層におけるドメイン構造は確認されなかった。
【0102】
[比較例3]
比較例2と同様の前処理、並びに陽極酸化処理及びポアワイドニングを行い、陽極酸化皮膜を作製した。次いで、プラズマ処理は、実施例1と同様の「中」の条件で行った後、実施例1と同様の撥水化処理を行った。
【0103】
上記で得られた比較例3に係る撥水部材について、
図22(a)〔比較例3 陽極酸化1回+プラズマ中:断面×10000〕に示したように、所定の厚さの陽極酸化皮膜が形成されていたが、
図14(a)〔比較例3 陽極酸化1回+プラズマ中:傾斜×50000〕に示したように、ポーラス層においては王冠状の構造を確認することはできずに、網目状のものであった。ちなみに、
図22(a)より、3か所の陽極酸化皮膜の厚さの平均値は811nmであった。また、
図25(a)〔比較例3 陽極酸化1回+プラズマ中:×10000〕に示したように、陽極酸化皮膜の平面SEM画像からポーラス層におけるドメイン構造は確認されなかった。
【0104】
[比較例4]
比較例2と同様の前処理、並びに陽極酸化処理及びポアワイドニングを行い、陽極酸化皮膜を作製した。次いで、プラズマ処理は、実施例2と同様の強の条件で行った後、実施例1と同様の撥水化処理を行った。
【0105】
上記で得られた比較例4に係る撥水部材について、
図22(b)〔比較例4 陽極酸化1回+プラズマ強:断面×10000〕に示したように、所定の厚さの陽極酸化皮膜が形成されていたが、
図14(b)〔比較例4 陽極酸化1回+プラズマ強:傾斜×50000〕に示したように、ポーラス層においては王冠状の構造を確認することはできずに、網目状のものであった。ちなみに、
図22(b)より、3か所の陽極酸化皮膜の厚さの平均値は1257nmであった。また、
図25(b)〔比較例4 陽極酸化1回+プラズマ強:×10000〕に示したように、陽極酸化皮膜の平面SEM画像からポーラス層におけるドメイン構造は確認されなかった。
【0106】
[比較例5]
実施例1と同様の前処理、並びに陽極酸化処理及びポアワイドニングを行ったが、陽極酸化処理の条件は、0.3質量%のシュウ酸溶液で、電圧120V、時間120秒、温度8±1℃とし、ポアワイドニングは1mol/Lのリン酸溶液で、温度30℃、時間20分とした。陽極酸化化処理を5回とポアワイドニング処理を4回とを交互に繰り返し行って、陽極酸化皮膜を作製した。プラズマ処理は行わず、次いで、実施例1と同様の撥水化処理を行った。
【0107】
上記で得られた比較例5に係る撥水部材について、その陽極酸化皮膜は、
図31に示したように、壁部が根元側から先端側に向かうにつれて幅が狭くなる先細り形状を有していた。また、ポーラス層における壁部は、
図14(c)〔比較例5 陽極酸化+PW数回:傾斜×50000〕に示したように、隣接する二つの孔部に挟まれる中間部の高さが相対的に低く、かつ、隣接する三つ以上の孔部に囲まれる壁部の中央部の高さが相対的に高くて、王冠状の構造を有するものであった。また、隣接する三つ以上の孔部に囲まれる壁部の中央部Cの最先端部分には、壁部の幅方向に髭(ヒゲ)のように突出して広がる突出部C1を有していたが、陽極酸化皮膜のポーラス層は実施例の場合に比べて相対的に厚い柱状をしたものであった。
【0108】
また、このポーラス層における孔部の間隔(W)を求めるにあたって使用した平面SEM画像を
図16(d)〔比較例5 柱状形状:表面×50000〕に示す。同じくポーラス層における孔部の深さ(H)を求めるにあたり使用した断面SEM画像は先の
図31に示したとおりである。同じくポーラス層における壁部の根元幅(Ww)を求めるにあたり使用した断面SEM画像を
図19(d)〔比較例5 柱状形状:断面×10000〕に示し、更に、陽極酸化皮膜の膜厚を求めるにあたって使用した断面SEM画像を
図22(c)〔比較例5 陽極酸化+PW数回:断面×10000〕に示す。
【0109】
このうち、
図16(d)より、3本の横断線から求められる孔部の個数の平均値は10、孔部の間隔の平均値は235nm、全ての孔部の最大孔径の平均値は192nmであった。また、
図31より、10点の孔部の深さの平均値は4325nmであった。更に、
図19(d)より、5点の壁部の根元幅の平均値は236nm、5点の壁部の高さの平均値は4150nmであった。更にまた、
図22(c)より、3か所の陽極酸化皮膜の厚さの平均値は4375nmであった。
それぞれ求められた結果を表3にまとめて示す。更にまた、
図25(c)〔比較例5 陽極酸化+PW数回:×10000〕に示したように、この比較例5に係る撥水部材の陽極酸化皮膜におけるポーラス層においてもドメイン構造を有することが確認された。
【0110】
[比較例6]
比較例5と同様の前処理、並びに陽極酸化処理及びポアワイドニングによる細孔の拡大を行い、陽極酸化皮膜を作製した。プラズマ処理は、実施例1と同様の中の条件で行った後、次いで、実施例1と同様の撥水化処理を行った。
【0111】
上記で得られた比較例6に係る撥水部材について、その陽極酸化皮膜は、
図32に示したように、壁部が根元側から先端側に向かうにつれて幅が狭くなる先細り形状を有していた。また、ポーラス層における壁部は、
図14(d)〔比較例6 陽極酸化+PW数回+プラズマ中:傾斜×50000〕に示したように、隣接する二つの孔部に挟まれる中間部の高さが相対的に低く、かつ、隣接する三つ以上の孔部に囲まれる壁部の中央部の高さが相対的に高くて、王冠状の構造を有するものであった。また、隣接する三つ以上の孔部に囲まれる壁部の中央部Cの最先端部分には、壁部の幅方向に髭(ヒゲ)のように突出して広がる突出部C1を有していたが、陽極酸化皮膜のポーラス層は実施例の場合に比べて相対的に厚い柱状をしたものであった。
【0112】
また、このポーラス層における孔部の間隔(W)を求めるにあたって使用した平面SEM画像を
図17(a)〔比較例6 柱状形状+プラズマ中:表面×50000〕に示す。同じくポーラス層における孔部の深さ(H)を求めるにあたり使用した断面SEM画像は先の
図32に示したとおりである。同じくポーラス層における壁部の根元幅(Ww)を求めるにあたり使用した断面SEM画像を
図20(a)〔比較例6 陽極酸化+PW数回+プラズマ中:断面×10000〕に示し、更に、陽極酸化皮膜の膜厚を求めるにあたって使用した断面SEM画像を
図22(d)〔比較例6 陽極酸化+PW数回+プラズマ中:断面×10000〕に示す。
【0113】
このうち、
図17(a)より、3本の横断線から求められる孔部の個数の平均値は11、孔部の間隔の平均値は214nm、全ての孔部の最大孔径の平均値は174nmであった。また、
図32より、10点の孔部の深さの平均値は3197nmであった。更に、
図20(a)より、5点の壁部の根元幅の平均値は218nm、5点の壁部の高さの平均値は3433nmであった。更にまた、
図22(d)より、3か所の陽極酸化皮膜の厚さの平均値は3420nmであった。
それぞれ求められた結果を表3にまとめて示す。更にまた、
図25(d)〔比較例6 陽極酸化+PW数回+プラズマ中:×10000〕に示したように、この比較例6に係る撥水部材の陽極酸化皮膜におけるポーラス層においてもドメイン構造を有することが確認された。
【0114】
[比較例7]
比較例6と同様の前処理、並びに陽極酸化処理及びポアワイドニングによる細孔の拡大を行い、陽極酸化皮膜を作製した。プラズマ処理は、実施例2と同様の強の条件で行った後、次いで、実施例1と同様の撥水化処理を行った。
【0115】
上記で得られた比較例7に係る撥水部材について、その陽極酸化皮膜は、
図33に示したように、壁部が根元側から先端側に向かうにつれて幅が狭くなる先細り形状を有していた。また、ポーラス層における壁部は、
図15(比較例7 陽極酸化+PW数回+プラズマ強:傾斜×50000)に示したように、隣接する二つの孔部に挟まれる中間部の高さが相対的に低く、かつ、隣接する三つ以上の孔部に囲まれる壁部の中央部の高さが相対的に高くて、王冠状の構造を有するものであった。また、隣接する三つ以上の孔部に囲まれる壁部の中央部Cの最先端部分には、壁部の幅方向に髭(ヒゲ)のように突出して広がる突出部C1を有していたが、陽極酸化皮膜のポーラス層は実施例の場合に比べて相対的に厚い柱状をしたものであった。
【0116】
また、このポーラス層における孔部の間隔(W)を求めるにあたって使用した平面SEM画像を
図17(b)〔比較例7 柱状形状+プラズマ強:表面×50000〕に示す。同じくポーラス層における孔部の深さ(H)を求めるにあたり使用した断面SEM画像は先の
図33に示したとおりである。同じくポーラス層における壁部の根元幅(Ww)を求めるにあたり使用した断面SEM画像を
図20(b)〔比較例7 陽極酸化+PW数回+プラズマ強:断面×10000〕に示し、更に、陽極酸化皮膜の膜厚を求めるにあたって使用した断面SEM画像を
図23(a)〔比較例7 陽極酸化+PW数回+プラズマ強:断面×10000〕に示す。
【0117】
このうち、
図17(b)より、3本の横断線から求められる孔部の個数の平均値は11.7、孔部の間隔の平均値は202nm、全ての孔部の最大孔径の平均値は184nmであった。また、
図33より、10点の孔部の深さの平均値は3667nmであった。更に、
図20(b)より、5点の壁部の根元幅の平均値は223nm、5点の壁部の高さの平均値は3494nmであった。更にまた、
図23(a)より、3か所の陽極酸化皮膜の厚さの平均値は3835nmであった。
それぞれ求められた結果を表3にまとめて示す。更にまた、
図26(比較例7 陽極酸化+PW数回+プラズマ強:×10000)に示したように、この比較例6に係る撥水部材の陽極酸化皮膜におけるポーラス層においてもドメイン構造を有することが確認された。
【0118】
[比較例8]
実施例1と同様に陽極酸化皮膜を形成した。次いで、実施例1と同様に、プラズマ処理をジオマテック社製作のバッチ式マグネトロンスパッタ装置を用いて真空成膜装置内で圧力5.0×10-1Pa(5.0E-1Pa)(Ar:1500sccm、O2:400sccm)、RF(ICP)電源出力500W-10分の条件で行った。その後、撥水化処理は行わずに、一部を切り出し、アルミニウム部材の表面に親水皮膜を形成した比較例8の部材(親水部材)を得た。
【0119】
上記で得られた比較例8に係る撥水部材について、その陽極酸化皮膜は、
図34に示したように、壁部が根元側から先端側に向かうにつれて幅が狭くなる先細り形状を有していた。
【0120】
また、このポーラス層における孔部の間隔(W)を求めるにあたって使用した平面SEM画像を
図17(c)〔比較例8 王冠形状+プラズマ中:表面×50000〕に示す。同じくポーラス層における孔部の深さ(H)を求めるにあたり使用した断面SEM画像は先の
図34に示したとおりであり、同じくポーラス層における孔部の角度(θp)を求めるにあたり使用した断面SEM画像を
図35に示す。同じくポーラス層における壁部の根元幅(Ww)を求めるにあたり使用した断面SEM画像を
図20(c)〔比較例8 王冠形状+プラズマ強:断面×50000〕に示し、更に、陽極酸化皮膜の膜厚を求めるにあたって使用した断面SEM画像を
図23(b)〔比較例8 王冠形状+プラズマ中:断面×50000〕に示す。
【0121】
このうち、
図17(c)より、3本の横断線から求められる孔部の個数の平均値は14.67、孔部の間隔の平均値は167nm、全ての孔部の最大孔径の平均値は157nmであった。また、
図34より、10点の孔部の深さの平均値は524nmであった。また、
図35より、10点の孔部の角度の平均値は88.7°、標準偏差は13.1であった。更に、
図20(c)より、5点の壁部の根元幅の平均値は159nm、5点の壁部の高さの平均値は532nmであった。更にまた、
図23(b)より、3か所の陽極酸化皮膜の厚さの平均値は646nmであった。
それぞれ求められた結果を表3にまとめて示す。
【0122】
[5.評価結果]
実施例1~3、比較例1では、陽極酸化皮膜のポーラス層が王冠形状を有していた。実施例1~3では、塩水噴霧試験(SST)500時間後に着滴せず、超撥水が持続した。一方、プラズマ処理を行わない王冠形状の比較例1は、初期は着滴しなかったが、SST後は、プラズマ処理した実施例1~3に比べると、超撥水が持続しなかった。この結果、プラズマ処理を行わないと、シランカップリング剤が脱離しやすくなることで、超撥水が持続しないこと考えられる。なお、実施例3については、プラズマの条件により、陽極酸化皮膜のポーラス層における王冠の先端の突出部が削られ、他の実施例に比べて持続性が若干劣る結果となったと考えられる。
【0123】
一方、比較例2~4は、陽極酸化皮膜のポーラス層は凹凸の小さい網目構造であり、王冠状構造となっていない。比較例2~4は、初期の接触角は低く、超撥水ではなかった。また、プラズマ処理しない比較例2では、SST1000時間で、超親水になり、比較例1と同様、フッ素処理のシランカップリング剤が、完全に脱落した可能性がある。
【0124】
また、比較例5~7は、陽極酸化皮膜のポーラス層が厚い凹凸形状(厚い柱状構造)であるため、初期は、着滴せず、超撥水を示したが、SST後は、接触角が下がり、超撥水は持続しなかった。これら比較例5~7については、陽極酸化被膜が、柱状構造で、凹凸が大きく、接触面積が大きいため、撥水性が持続しそうなものの、比較例5はプラズマ処理をしておらず、また、比較例6、7は、陽極酸化被膜の壁部の形状が一部崩壊しているため、実施例1~3の場合の王冠形状より、撥水持続性が劣ったものと考えられる。更には、比較例6、7では、孔部の間隔(W)に対する深さ(H)の比(H/W)が4を上回るため、陽極酸化処理及びポアワイドニング、またはプラズマ処理を受けた際に陽極酸化被膜の壁部の形状が崩壊しやすく、撥水持続性が劣る結果になったと考えられる。
【0125】
また、比較例8では、実施例1と同様に陽極酸化皮膜を形成して、プラズマ処理を行ったが、撥水化処理を行っていないため、初期の水接触角が10°の超親水性であった。
更には、結露評価に関して、
図36に示したように、冷蔵庫の内壁と比較例8の撥水処理を行っていない親水部材には、結露が発生し、水滴が垂れ落ちていたものの、実施例1の撥水部材では、全く結露が見られなかった。
【0126】
実施例1~3、比較例1~8の撥水部材に係る各製造条件及び評価結果等を表1~3にまとめて示す。
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
以上より、本発明の撥水部材によれば、高い撥水性を示すと共に、長期に亘ってその撥水性能を持続させることができる。