(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015929
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】歯車の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16H 55/06 20060101AFI20250124BHJP
F16H 55/17 20060101ALI20250124BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20250124BHJP
【FI】
F16H55/06
F16H55/17 Z
B29C45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118847
(22)【出願日】2023-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】515110122
【氏名又は名称】有限会社飯田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】野渡 透一
(72)【発明者】
【氏名】三宅 茂夫
【テーマコード(参考)】
3J030
4F206
【Fターム(参考)】
3J030BC01
3J030BC08
4F206AA23
4F206AA29
4F206AA32
4F206AA34
4F206AB16
4F206AB25
4F206AG26
4F206AG28
4F206AH12
4F206AH17
4F206JA07
4F206JL02
4F206JQ81
4F206JW24
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、本体部と外周側の歯部とが一体に形成された、従来のものに比べて軽量な歯車を、強化繊維の損傷を招くことなく製造することができる歯車の製造方法を得ること、あるいは強化繊維を用いずに強度の低下を抑えつつ加工精度を保持して製造できる歯車の製造方法を得ること。
【解決手段】本発明は、歯車100を製造する方法であって、歯車は、回転軸体が結合される本体部110と、本体部の外周に設けられた複数の歯を含む歯部120とを備え、方法は、樹脂の射出成形により本体部と歯部とをこれらが強化繊維を含むように一体成形する成形工程を含むもの、あるいは強化繊維を用いないでフィラーを含む樹脂の射出成形により本体部とその外周側のリング状外周部とを含む円板部材を形成する成形工程と、成形工程で成形されたリング状外周部に切削加工を施して歯部を構成する複数の歯を形成する切削工程を含むものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車を製造する方法であって、
前記歯車は、
回転軸体が結合される本体部と、
前記本体部の外周に設けられた複数の歯を含む歯部と
を備え、
前記方法は、
樹脂の射出成形により前記本体部と前記歯部とをこれらが強化繊維を含むように一体成形する工程
を含む、歯車の製造方法。
【請求項2】
歯車を製造する方法であって、
前記歯車は、
回転軸体が結合される本体部と、
前記本体部の外周に設けられた複数の歯を含む歯部と
を備え、
前記方法は、
強化繊維を用いないでフィラーを含む樹脂の射出成形により前記本体部と前記本体部の外周側に位置するリング状外周部とを含む円板部材を形成する工程と、
前記円板部材の前記リング状外周部に切削加工を施して、前記歯部を構成する複数の歯を形成する切削工程と
を含む、歯車の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製の歯車の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯車は、種々の機械装置で用いられており、例えば、自動車用部品の電動パワーステアリング装置においては、操舵補助用の電動モータの回転を、減速機を介して減速するとともに出力(回転力)を増幅して転舵機構に伝えることで、運転者の操作による転舵機構の動作をトルクアシストしている。
【0003】
減速機としては通常、互いに噛み合うウォームとウォームホイールとを備えたものが用いられる。このウォームホイールは、例えば、鉄製のスリーブの外周に円環状の樹脂部材を射出成形(インサート成形)等によって形成し、その後、樹脂部材の外周に切削加工等によって歯を形成して製造するのが一般的である。
【0004】
ここで、樹脂部材は、例えば、ポリアミド(PA6、PA66、PA46等)や芳香族ポリアミド、ポリアセタール、PEEK、PPSなどによって形成される。
【0005】
しかし、近年の環境負荷軽減の要求に基づいて自動車用部品のさらなる軽量化が求められるようになってきており、電動パワーステアリング装置においてはウォームホイールの鉄製スリーブの占める重量比が大きいため、かかる心金(鉄製スリーブ)を含むウォームホイールの全体を、必要強度および剛性を保持した上で軽量化することが必要とされる。
【0006】
近年、軽量でしかも高強度、高剛性な樹脂材料である繊維強化複合材の自動車用部品への適用が進んでいる。
【0007】
繊維強化複合材としては、例えば強化繊維として炭素繊維を用い、樹脂に熱硬化性樹脂を使用したCFRP材(Carbon Fiber Reinforced Plastics)や、あるいは樹脂に熱可塑性樹脂を使用したCFRTP材(Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics)等が挙げられる。
【0008】
かかる繊維強化複合材を適用してウォームホイール等の歯車を軽量化するためには、例えば、下記の方法が考えられる。
(1)1つの方法は、プリプレグ(つまり、強化繊維のシートに熱硬化性樹脂を含浸させた中間材料)を円環状に巻き付けたのち熱硬化性樹脂を硬化反応させるシートワインディング成形によって、繊維強化複合材からなり歯車の全体形状に対応した円板状の成形体を作製したのち、その外周を切削加工等して歯を形成するという方法である。ここで、円板状の成形体は、内周側の本体部と外周側の歯部とで構成されている。
(2)もう1つの方法は、上記シートワインディング成形によって繊維強化複合材からなるスリーブ(内周側の本体部)を作製したのち、従来同様にこのスリーブの外周に円環状の樹脂部材(外周側の歯部)をインサート成形等によって形成し、さらにインサート成型された樹脂部材の外周を切削加工等して歯を形成するという方法である(特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが(1)の方法では、切削加工によって歯を形成する際に連続した強化繊維が切断されたり、樹脂と強化繊維が剥離したりして強化繊維の損傷部分が破壊源となって歯車の耐衝撃性や機械的強度が低下するといった問題がある。
【0011】
一方、(2)の方法で形成した歯車では、スリーブ(内周側の本体部)と歯部(外周側の部分)との接着部の信頼性、耐熱衝撃性等が十分でなく、またこれらの特性を向上して歯部とスリーブとの間の抜け止め、回り止め等を確保するために歯部と接するスリーブの外周に対してローレット加工、ブラスト加工、エッチング処理等を施すと、(1)の方法と同様に、連続した強化繊維が切断されたり、樹脂と強化繊維が剥離したりして強化繊維の損傷部分が破壊源となって歯車の耐衝撃性や機械的強度が低下するといった問題がある。
【0012】
本発明は、内周側の本体部と外周側の歯部とが一体に形成された、従来のものに比べて軽量な歯車を、強化繊維を用いてその損傷を招くことなく製造できる歯車の製造方法を得ることを目的する。
【0013】
本発明は、内周側の本体部と外周側の歯部とが一体に形成された、従来のものに比べて軽量な歯車を、強化繊維を用いずに強度の低下を抑えつつ加工精度を保持して製造できる歯車の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下の項目を提供する。
【0015】
(項目1)
歯車を製造する方法であって、
前記歯車は、
回転軸体が結合される本体部と、
前記本体部の外周に設けられた複数の歯を含む歯部と
を備え、
前記方法は、
樹脂の射出成形により前記本体部と前記歯部とをこれらが強化繊維を含むように一体成形する工程
を含む、歯車の製造方法。
【0016】
(項目2)
歯車を製造する方法であって、
前記歯車は、
回転軸体が結合される本体部と、
前記本体部の外周に設けられた複数の歯を含む歯部と
を備え、
前記方法は、
強化繊維を用いないでフィラーを含む樹脂の射出成形により前記本体部と前記本体部の外周側に位置するリング状外周部とを含む円板部材を形成する工程と、
前記円板部材の前記リング状外周部に切削加工を施して、前記歯部を構成する複数の歯を形成する切削工程と
を含む、歯車の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、内周側の本体部と外周側の歯部とが一体に形成された、従来のものに比べて軽量な歯車を、強化繊維を用いてその損傷を招くことなく製造できる歯車の製造方法を得ることができる。
【0018】
本発明によれば、内周側の本体部と外周側の歯部とが一体に形成された、従来のものに比べて軽量な歯車を、強化繊維を用いずに強度の低下を抑えつつ加工精度を保持して製造できる歯車の製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態1による歯車の製造方法を説明するための図。
【
図2】実施形態1の歯車の製造方法で用いる歯車形状繊維体100aの具体例を示す図。
【
図3】本発明の実施形態2による歯車の製造方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0021】
本明細書において、「約」とは、後に続く数字の±10%の範囲内をいう。
【0022】
本願の1つの発明は、内周側の本体部と外周側の歯部とが一体に形成された、従来のものに比べて軽量な歯車を、強化繊維を用いてその損傷を招くことなく製造できる歯車の製造方法を得ることを課題とし、
歯車を製造する方法であって、
歯車は、
回転軸体が結合される本体部と、
本体部の外周に設けられた複数の歯を含む歯部と
を備え、
方法は、
樹脂の射出成形により本体部と歯部とをこれらが強化繊維を含むように一体成形する工程
を含む、歯車の製造方法を提供することにより、上記の課題を解決したものである。
【0023】
このような構成の歯車の製造方法では、歯車の本体部と外周側の歯部とが樹脂で一体に成形されているので、本体部と外周側の歯部との接着部の信頼性は従来のものよりも高められており、また、全体が樹脂で構成されているので、従来のものに比べて軽量となっている。
【0024】
さらに、全体に強化繊維が含まれており、歯車の内側の本体部だけでなく、歯が形成されている歯部も強化繊維で強化された構造となっている。
【0025】
しかも、この歯車の製造方法では、樹脂成形により歯車の歯まで形成し、歯部の切削により歯を形成する切削工程はないので、強化繊維が損傷を受けることもない。
【0026】
このように、本発明の歯車の製造方法は、強化繊維を含めて樹脂成形した後、強化繊維を含む成形体を切削加工しないものであれば、その他の構成は限定されるものではなく、特に限定されるものではない。
【0027】
例えば、樹脂の射出成形により本体部と歯部とをこれらが強化繊維を含むように一体成形する工程は、成形金型における中空領域(樹脂注入領域)に、強化繊維を立体状に織成した三次元織物を配置して樹脂を充填してもよいし、あるいは強化繊維からなる板状体を所定の厚みとなるように重ねた状態で樹脂を充填してもよい。
【0028】
本願の別の発明は、内周側の本体部と外周側の歯部とが一体に形成された、従来のものに比べて軽量な歯車を、強化繊維を用いずに強度の低下を抑えつつ加工精度を保持して製造できる歯車の製造方法を得ることを課題とし、
歯車を製造する方法であって、
歯車は、
回転軸体が結合される本体部と、
本体部の外周に設けられた複数の歯を含む歯部と
を備え、
方法は、
強化繊維を用いないでフィラーを含む樹脂の射出成形により本体部と本体部の外周側に位置するリング状外周部とを含む円板部材(成形体)を形成する工程と、
円板部材のリング状外周部に切削加工を施して、歯部を構成する複数の歯を形成する切削工程と
を含む、歯車の製造方法を提供することにより、上記の課題を解決したものである。
【0029】
このような構成の歯車の製造方法では、強化繊維を用いないでフィラーを含む樹脂の射出成形により本体部と本体部の外周側に位置するリング状外周部とを含む円板部材を形成した後に、円板部材のリング状外周部に切削加工を施すので、強化繊維を用いずに歯車をフィラーにより強度の低下を抑えつつ、切削加工により加工精度を維持して製造できる。
【0030】
従って、本発明の歯車の製造方法は、強化繊維を用いずに樹脂成形した円板部材(成形体)を切削加工して歯車の歯を形成するものであれば、その他の構成は限定されるものではない。
【0031】
例えば、成形樹脂は熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹脂でもよい。
【0032】
フィラーの具体例としては、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維等の繊維状のフィラーや、ガラスフレーク等の板状のフィラー、あるいはカーボンナノチューブやカーボンナノファイバ等の微細強化が可能なフィラー等でもよい。
【0033】
以下の実施形態では、強化繊維を用いる歯車の製造方法(切削工程を含まないもの)を実施形態1で説明し、強化繊維に代えてフィラーを用いる歯車の製造方法(切削工程を含むもの)を実施形態2で説明する。
【0034】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1による歯車の製造方法を説明するための図であり、射出成形により成形金型内で歯車が作製される様子を示している。
【0035】
この歯車100は、内周側部分である本体部110と、その外周側に位置する部分である歯部120とを有している。ここで、本体部110の中心部には、回転シャフトなどの回転軸体を固定するための固定孔(軸体固定孔)101が形成されており、歯部120には、その外周面に沿って、歯車100を構成する複数の歯121が形成されている。
【0036】
この歯車100は、
図1に示すように、成形金型10を用いた1回の射出成形により、本体部110と歯部120とがそれぞれ強化繊維を含むように樹脂で一体として成形されたものである。
【0037】
ここで、強化繊維は、炭素繊維などである。また、樹脂は、熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂である。例えば、炭素繊維を含めた樹脂としては、上述のCFRP材(熱硬化性樹脂に炭素繊維を含めた繊維強化複合材)、あるいは上述のCFRTP材(熱可塑性樹脂に炭素繊維を含めた繊維強化複合材)などが用いられる。
【0038】
次に、この歯車100の製造方法を説明する。
【0039】
この歯車100を射出成形するための樹脂を注入するための上下一対の下金型11および上金型12を準備し、これらの金型11および12により中空領域(樹脂注入領域)Sp1が形成されるように対向させて配置する。その際、樹脂注入領域Sp1には、強化繊維からなる歯車形状繊維体100aを配置する。
【0040】
ここで、樹脂注入領域Sp1は、歯車100の外形に一致した形状を有する領域である。
【0041】
また、歯車形状繊維体100aは、歯車100の外形形状と実質的に一致したが外形形状を有し、樹脂が含侵するように全体が強化繊維で構成されたものである。
【0042】
歯車形状繊維体100aの具体的な例としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0043】
図2は、実施形態1の歯車の製造方法で用いる歯車形状繊維体100aの具体例を示す図であり、
図2(a)、
図2(b)は、歯車形状繊維体100aの第1、第2の具体的を示す。
【0044】
歯車形状繊維体100aの第1の具体例は、
図2(a)に示すように、強化繊維を立体状に織成した三次元織物100a1である。
【0045】
歯車形状繊維体100aの第2の具体例は、
図2(b)に示すように、強化繊維からなる、歯車形状の穴あき板状体を所定の厚みとなるように、厚み方向に複数枚(例えば、3枚の板状体A1~A3)を積層して形成した積層体100a2である。ここで、穴あき板状体としては、例えば、強化繊維を歯車形状の穴あき板状体に織成した織物や、シート状の織物または一方向材を歯車形状の穴あき板状体に打ち抜いたもの等が挙げられる。
【0046】
ここで、上記歯車形状繊維体100aを形成する強化繊維としては、例えば、上述した炭素繊維の他に、ガラス繊維、アラミド繊維の種々の繊維が挙げられる。
【0047】
特に、歯車100をできるだけ高強度でかつ高剛性とするために炭素繊維が好ましい。また炭素繊維としては、かかる効果をより一層向上することを考慮すると、引張強度が3000MPa以上で、かつ引張弾性率が200GPa以上であるものが好ましい。
【0048】
炭素繊維の表面は樹脂との良好な密着を確保するため、例えばウレタン系、エポキシ系、アクリル系、ビスマレイミド系等のサイジング剤で処理するのが好ましい。
【0049】
なお、下金型11には、金型10内に樹脂を充填するための樹脂注入口11aが形成されており、上金型12には、樹脂を充填したときの空気抜きのための排気口12aが形成されている。
【0050】
このように一対の金型11および12の中空領域が形成する樹脂充填領域内に歯車形状繊維体100aを配置した状態で成形金型10内に、加熱された樹脂、例えば、熱可塑性樹脂を充填する。
【0051】
このとき、熱可塑性樹脂は、成形金型10内の樹脂充填領域内に充満すると同時に、樹脂充填領域内に配置された歯車形状繊維体100aの繊維の隙間に入り込む。
【0052】
その後、加熱されている熱可塑性樹脂を冷却し、成形体を成形金型10から取り出すと、複数の歯121が形成された歯車100が得られる。
【0053】
ここで、樹脂は、例えば射出成形により、すなわち射出成形機で加熱して溶融させた流動状態の樹脂を、樹脂注入口(ゲート)11aを通して注入することで、成形金型10の樹脂注入領域内に充填できる。
【0054】
なお、樹脂注入口11aとしては、例えば、下金型11あるいは上金型12の樹脂注入領域の複数箇所に連通したピンゲートや、樹脂注入領域の全周に連通したディスクゲート等、任意の形式のゲートが採用可能である。
【0055】
樹脂が上記のように熱可塑性樹脂である場合は、充填した樹脂を冷却し、固化させることによって成形体が形成される。また、樹脂が熱硬化性樹脂である場合は充填した後に加熱して硬化反応させることで成形体が形成される。
【0056】
熱可塑性樹脂としては、射出成形が可能な種々の熱可塑性樹脂が使用可能である。特に機械分野において多用されている、例えば、ポリアミド(PA6、PA66、PA46等)などのエンジニアリングプラスチックや、あるいは芳香族ポリアミド(PA6T、PA9T、PPA)、ポリアセタール、PEEK、PEK、PPSなどのスーパーエンジニアリングプラスチックが好ましい。
【0057】
また、熱硬化性樹脂としては、射出成形が可能で、なおかつ硬化時間の短い各種の熱硬化性樹脂が使用可能であり、かかる熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂(レゾール型、ノボラック型)や不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。また、タック性や柔軟性等の代わりに即硬化性が付与されたエポキシ樹脂を使用することもできる。
【0058】
このようにして作製された樹脂製の歯車100は、本体部110と外周側の歯部120とが樹脂で一体に成形されているので、本体部110と外周側の歯部120との接着部の信頼性は従来のものよりも高められており、また、全体が樹脂で構成されているので、従来のものに比べて軽量となっている。
【0059】
さらに、全体に強化繊維が含まれており、歯車100の内側の本体部110だけでなく、歯121が形成されている歯部120も強化繊維で強化された構造となっている。
【0060】
また、この実施形態1の歯車100の製造方法では、樹脂成形により歯車100の歯121まで形成し、歯部の切削により歯121を形成する切削工程はないので、強化繊維が損傷を受けることもない。
【0061】
なお、射出成形で用いる樹脂にはフィラーを配合することが好ましい。フィラーを配合すると、歯車形状繊維体100aを形成する強化繊維の間にもフィラーを含侵させて歯車100全体の強度や剛性をさらに向上できるからである。
【0062】
また、フィラーとしては、例えばガラス繊維、カーボン繊維等の繊維状のフィラーや、ガラスフレーク等の板状のフィラー、あるいはカーボンナノチューブやカーボンナノファイバ等の微細強化が可能なフィラー等の1種または2種以上が挙げられる。
【0063】
上記フィラーを含まない場合は樹脂自体の、またフィラーを含む場合は含んだ状態での、射出成形時(溶融時)の樹脂のメルトフローレートは30g/10min以上、特に50g/10min以上であるのが好ましい。
【0064】
メルトフローレートがこの範囲未満では、射出成形によって樹脂、または樹脂とフィラーとを歯車形状繊維体100a中に隙間なく良好に含浸させることができず、破壊源となる樹脂の未含浸部分を生じて歯車100の機械的強度が低下したり、樹脂を樹脂注入領域の隅々まで十分に充てんさせることができずに成形不良を生じたりするおそれがある。
【0065】
なおメルトフローレートを上記の範囲に調整するため、樹脂には減粘剤や分散剤、固化速度低減のための非晶質樹脂等を適宜添加してもよい。
【0066】
また、特に射出成形時の溶融粘度が高い樹脂を使用する場合は、樹脂、もしくは樹脂とフィラーとを歯車形状繊維体100a中に隙間なく良好に含浸させたり、樹脂注入領域の隅々まで十分に充填させたりするために、成形金型10内を真空引きして減圧下で射出成形してもよい。
【0067】
またこの例の製造方法では、例えばRTM(レジン・トランスファー・モールディング)、VaRTM(バキューム・レジン・トランスファー・モールディング)等の樹脂注入成形によって樹脂の液状の前駆体、または液状の樹脂を上記樹脂注入領域Sp1内に充填することもできる。
【0068】
これらの方法に用いる樹脂の液状の前駆体としては、モノマーキャストナイロン等の、熱可塑性樹脂のもとになるモノマーやオリゴマーに重合触媒、重合助触媒、反応開始剤等を配合したものが挙げられる。
【0069】
また、液状の樹脂としては、樹脂注入成形によって成形金型10内に注入が可能で、なおかつ硬化時間の短い液状の熱硬化性樹脂が使用可能である。かかる熱硬化性樹脂としては、前述したフェノール樹脂(レゾール型、ノボラック型)や不飽和ポリエステル樹脂、あるいはタック性や柔軟性等の代わりに即硬化性が付与されたエポキシ樹脂のうち硬化前に液状を呈するものや、反応性希釈剤等を配合して液状としたもの等が使用できる。
【0070】
また樹脂の液状の前駆体や液状の樹脂には、上記と同様の理由で同様のフィラーを配合してもよい。
【0071】
かかる液状の前駆体または樹脂を、例えばRTM法では型締め力+ポンプ圧で成形金型10内に注入し、VaRTM法では成形金型10内を真空引きして吸引注入する。
【0072】
そして液状の前駆体の場合は必要に応じて加熱すると、モノマー等が重合反応により樹脂を生成して固化することによって成形体(歯車)が形成される。また液状の熱硬化性樹脂の場合は充填後に加熱して硬化反応させることで成形体(歯車)が形成される。
【0073】
(実施形態2)
次に本発明の実施形態2による歯車200の製造方法を説明する。
【0074】
図3は、本発明の実施形態2による歯車の製造方法を説明するための図であり、射出成形と切削加工とを含む工程により歯車が作製される様子を示している。
【0075】
この歯車200は、実施形態1の歯車100と同様に、内周側部分である本体部210と、その外周側に位置する部分である歯部220とを有している。ここで、本体部210の中心部には、回転シャフトなどの回転軸体を固定するための固定孔(軸体固定孔)201が形成されており、歯部220には、その外周面に沿って、歯車200を構成する複数の歯221が形成されている。
【0076】
そして、この歯車200を構成する樹脂は、実施形態1の歯車100における強化繊維は含んでおらず、歯部220を構成する複数の歯121は、切削加工により形成されている点で実施形態1の歯車100とは異なっている。
【0077】
例えば、歯車200を構成する樹脂には、例えば、ポリアミド(PA6、PA66、PA46等)や芳香族ポリアミド、ポリアセタール、PEEK、PEK、PPSなどの樹脂が用いられている。また、歯車200を構成する樹脂には、強化繊維の代わりに上述したフィラーのいずれかが含まれている。
【0078】
次に、この歯車200の製造方法を説明する。
【0079】
この歯車200の元になる円板部材200aを射出成形するための樹脂を注入するための上下一対の下金型21および上金型22を準備し、これらの金型121および22を中空領域(樹脂注入領域)が形成されるように対向させて配置する。その際、樹脂注入領域は、何も配置していない状態とする。
【0080】
なお、下金型21には、金型20内に樹脂を充填するための樹脂注入口21aが形成されており、上金型22には、樹脂を充填したときの空気抜きのための排気口22aが形成されている。
【0081】
このように成形金型20を構成する一対の下金型21および上金型22の組み合わせによりできた樹脂注入領域Sp2内に加熱された成形樹脂を充填する。ここで、成形樹脂は、熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹脂でもよい。このとき、成形樹脂は、成形金型20内の樹脂充填領域内に充満する。ここで、樹脂には上述したようにフィラーが配合されている。
【0082】
フィラーの配合により、強化繊維を含まない歯部220の良好な柔軟性を維持しながら、歯部220の高い靭性や強度、耐摩耗性、耐衝撃性等を確保できる。
【0083】
その後、加熱されている成形樹脂(例えば、熱可塑性樹脂)を冷却し、成形体を成形金型20から取り出すと、歯車200の元となる円板部材200aが得られる。
【0084】
この円板部材200aは、内周側の本体部210と、その外周側のリング状外周部220aとから構成された部材であり、リング状外周部220aは、歯221を形成するための切削加工の対象となる部分である。
【0085】
その後、リング状外周部220aに切削加工を施して、歯車200を構成する複数の歯221を形成する。
【0086】
このようにして樹脂製の歯車200を作製することで、本体部210とリング状外周部220aとを一体成形することができ、本体部210とリング状外周部220aを強固に結合することができる。
【0087】
また、歯部220を構成する複数の歯221は、リング状外周部220aの切削加工により形成されるので、歯車200の歯221の加工精度を高めることができる。
【0088】
また、樹脂で形成されている歯車200にはフィラーが含まれているので、強化繊維を用いないことによる歯車の強度の低下を抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、本体部と外周側の歯部とが一体に形成された、従来のものに比べて軽量な歯車を、強化繊維を用いてその損傷を招くことなく製造することができる、あるいは強化繊維を用いずに強度の低下を抑えつつ加工精度を保持して製造することができる歯車の製造方法を得ることができるものとして有用である。
【符号の説明】
【0090】
10、20 成形金型
11、21 上金型
11a、21a 排気口
12、22 下金型
12a、22a 樹脂注入口
100、200 歯車
100a 歯車形状繊維体
101,201 回転軸体固定孔
110、210 本体部
120、220 歯部
121、221 歯
200a 円板部材
220a リング状外周部