(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015932
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】合成樹脂製容器
(51)【国際特許分類】
B65D 1/02 20060101AFI20250124BHJP
【FI】
B65D1/02 233
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118852
(22)【出願日】2023-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 優
(72)【発明者】
【氏名】勝田 秀彦
(72)【発明者】
【氏名】永春 利佳
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 伴成
(72)【発明者】
【氏名】山崎 友
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕一
(72)【発明者】
【氏名】石井 玲太
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 祐一
(72)【発明者】
【氏名】若原 麻紀
【テーマコード(参考)】
3E033
【Fターム(参考)】
3E033AA02
3E033BA13
3E033CA05
3E033DA03
3E033DA08
3E033DB01
3E033DD05
3E033FA03
3E033GA02
(57)【要約】
【課題】合成樹脂製容器をブロー成形するにあたり、より薄肉に延伸される底部の最薄肉部でのバーストの発生を抑制する。
【解決手段】有底筒状のプリフォームPをブロー成形してなる容器1の底部5の最薄肉部の肉厚Tと、プリフォームPにおける底部5の最薄肉部に対応する部位の肉厚T
0との間に、
T
0/T=K×T
-0.94 ・・・(1)
3.26≦K≦4.40 ・・・(2)
3.83×T
-0.94≦30 ・・・(3)
なる関係が成り立つ。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
口部、肩部、胴部、及び底部を備える所定の容器形状に、有底筒状のプリフォームをブロー成形してなる合成樹脂製容器であって、
前記底部の最薄肉部の肉厚Tと、前記プリフォームにおける前記最薄肉部に対応する部位の肉厚T0との間に、
T0/T=K×T-0.94 ・・・(1)
3.26≦K≦4.40 ・・・(2)
3.83×T-0.94≦30 ・・・(3)
なる関係が成り立つことを特徴とする合成樹脂製容器。
【請求項2】
上記式(3)に代えて、
3.83×T-0.94≦26 ・・・(4)
なる関係が成り立つ請求項1に記載の合成樹脂製容器。
【請求項3】
複数の脚部が、中心軸周りに回転対称に、かつ、均等な間隔で放射状に配設された底部を備える請求項1又は2に記載の合成樹脂製容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂を用いてプリフォームを作製し、次いで、このプリフォームを二軸延伸ブロー成形などによってボトル状に成形してなる合成樹脂製の容器が、各種飲料品等を内容液とする容器として広い分野で利用されている。この種の容器は、一般に、PETボトルとして知られている。
【0003】
近年にあっては、使用済みのPETボトルなどのポリエステル系樹脂成形品を回収し、これをリサイクル材料として再利用してPETボトルを製造する「ボトルtoボトル」と称されるリサイクル技術が検討されている。例えば、特許文献1では、熱可塑性樹脂フレーク中の汚染物質を除去する除染機と、前記除染機から供給された熱可塑性樹脂を射出成形する射出成形機と、前記除染機と前記射出成形機との間に配置されたフィルタと、前記フィルタと前記射出成形機との間に配置されたギヤポンプとを備える、プリフォーム製造装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの検討によれば、リサイクル材料を用いてPETボトルの如き合成樹脂製容器をブロー成形するに際しては、より薄肉に延伸される底部の最薄肉部でのバーストの発生頻度が高くなるという知見を得るに至った。かかる知見に基づいて、本発明者らは、バーストの発生頻度が高くなる原因を探究するとともに、バーストの発生を抑制するべく更なる検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の目的は、合成樹脂製容器をブロー成形するにあたり、より薄肉に延伸される底部の最薄肉部でのバーストの発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る合成樹脂製容器は、口部、肩部、胴部、及び底部を備える所定の容器形状に、有底筒状のプリフォームをブロー成形してなる合成樹脂製容器であって、前記底部の最薄肉部の肉厚Tと、前記プリフォームにおける前記最薄肉部に対応する部位の肉厚T0との間に、
T0/T=K×T-0.94 ・・・(1)
3.26≦K≦4.40 ・・・(2)
3.83×T-0.94≦30 ・・・(3)
なる関係が成り立つ構成としてある。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る合成樹脂製容器によれば、ブロー成形するにあたり、より薄肉に延伸される底部の最薄肉部でのバーストの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る合成樹脂製容器の概略を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る合成樹脂製容器の概略を示す正面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る合成樹脂製容器の概略を示す底面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る合成樹脂製容器をブロー成形により製造する工程の一部を示す説明図である。
【
図5】無次元延伸倍率T
0/Tとバースト発生率との相関関係を示すグラフである。
【
図6】最薄肉部の肉厚Tと無次元延伸倍率T
0/Tとの相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0011】
図1は、本実施形態に係る合成樹脂製容器の概略を示す斜視図であり、
図2は、同正面図、
図3は、同底面図である。これらの図に示す容器1は、口部2、肩部3、胴部4、及び底部5を備えている。
【0012】
口部2は、内容液の注入出口となる円筒状の部位である。口部2の開口端側の側面には、内容液が充填された容器1を密封する際に、図示しない蓋体を取り付けるためのねじ山21が設けられている。
【0013】
また、口部2には、周方向に沿って環状に張り出すネックリング22が設けられている。ネックリング22の直下から、概ね同一径で円筒状に垂下する部分を含めて、口部2というものとする。このような口部2の下端が、口部2と胴部4との間をつなぐ肩部3に連接している。図示する例において、肩部3は、丸みを帯びた円錐台状に形成されているが、肩部3の形状は、これに限定されない。例えば、いわゆるつる首状に形成したりすることもできる。
【0014】
また、胴部4は、容器1の高さ方向の大半を占める部位であり、概ね円筒状に形成された胴部4の上端が肩部3に連接し、下端が底部5に連接している。
ここで、高さ方向とは、口部2を上にして容器1を水平面に正立させたときに、水平面に直交する方向をいうものとし、この状態(
図2に示す状態)で容器1の上下左右及び縦横の方向を規定するものとする。
【0015】
本実施形態において、容器1は、容器内が陽圧になっても自立安定性が損なわれないように、複数(図示する例では、五つ)の脚部51が、容器1の中心軸C周りに回転対称に、かつ、均等な間隔で放射状に配設された、ペタロイド形状に形成された底部5を備える炭酸飲料用の耐圧ボトルとして構成されている。
【0016】
このような形状とされた底部5において、隣接する脚部51の間には、容器内方に嵌入してなる底溝部56が、底面中央部50から放射状に延在するようにして形成されている。一方、脚部51は、胴部4と連接する底部5の上端から垂下(図示する例では、容器内方にやや傾斜しながら垂下)して、周方向に沿った長さ(横幅)が下端側で狭められた外周面部52と、外周面部52の周方向両端縁から底溝部56に向かって延在する側面部53と、底面中央部50から外周面部52の下端部に向かって下向きに傾斜して延在する脚底面部54とを有している。そして、外周面部52と脚底面部54との連接部及びその近傍が、容器1を正立させたときに、接地面に接する接地部55となるように形成されている。
【0017】
また、容器1は、例えば、回収された使用済みのPETボトルなどのポリエステル系樹脂成形品から、メカニカルリサイクル、ケミカルリサイクルなどと称されるリサイクル技術を適用して用意されたリサイクル材料を使用して、射出成形や圧縮成形などにより有底筒状に成形されたプリフォームPを作製し、このプリフォームPを二軸延伸ブロー成形などにより所定の容器形状に成形することによって製造することができる。
【0018】
容器1をブロー成形するに際しては、例えば、
図4に示すように、型開きを考慮して設計された、開閉可能な分割型からなる胴型M1と、胴型M1の底部側に組み入れられる底型M2とを備えるブロー成形型Mを用いて成形することができる。より詳細には、加熱により軟化させてブロー成形が可能な状態とされてから、ブロー成形型MにセットされたプリフォームPが、ブロー成形型Mに支持されたネックリング22の直下を延伸の起点として、図示しない延伸ロッドにより軸方向(縦方向)に延伸されつつ、高圧流体ブローにより軸方向及び径方向(横方向)に延伸される。そして、延伸された部位にブロー成形型Mのキャビティ形状が転写されることによって、肩部3、胴部4、底部5が賦形されて、所定の容器形状を備える容器1に成形される。
【0019】
なお、
図4に示す例において、ブロー成形型Mについては、プリフォームP及び容器1の中心軸を含む紙面に平行な面で切り取った断面を示しており、
図4(a)は、プリフォームPをブロー成形型Mにセットした状態、
図4(b)は、ブロー成形された容器1を取り出すためにブロー成形型Mを型開きした状態をそれぞれ示している。
【0020】
本発明者らは、このようにして、リサイクル材料を用いて容器1をブロー成形するにあたり、より薄肉に延伸される底部5の最薄肉部でのバーストの発生頻度が高くなることの原因について検討したところ、リサイクル材料を用意する際にフィルタに捕捉され難い約50μm未満の微粒子が、底部5の最薄肉部となる部位に存在していると、ブロー成形時に当該微粒子を起点にバーストしてしまうことを突き止めた。
【0021】
このような微粒子を起点とするバーストは、プリフォームPが延伸されて、その対応する部位が底部5の最薄肉部に成形される過程で発生すると考えられる。そこで、底部5の最薄肉部における延伸量、換言すれば、底部5の最薄肉部における部分的な延伸倍率に着目して、リサイクル材料を用いて容器1をブロー成形した際のバースト発生率との関係性について、次のような検討を試みた。
【0022】
すなわち、容量500mL、口部2を除いた質量が17gの耐圧ボトルとして構成された容器1において、ペタロイド形状に形成された底部5の接地径、接地幅を変更することにより、底部5の最薄肉部における延伸量を調整しつつ、リサイクル材料を用いてブロー成形した際のバースト発生率との関係性について検討した。その際、底部5の最薄肉部における延伸量を、底部5の最薄肉部の肉厚Tに対する延伸前のプリフォームPにおける当該最薄肉部に対応する部位の肉厚T
0の比(以下、「無次元延伸倍率」と称する)T
0/Tとして算出した。検討に用いたサンプルの一例を表1及び
図5に示す。
【0023】
なお、
図3に、各脚部51の接地部55を含む円を鎖線で示すに、当該円の半径が接地径であり、接地部55の周方向に沿った長さが接地幅である。そして、各脚部51の接地部55の周方向における両端部近傍が、ブロー成形に際してより薄肉に延伸される最薄肉部となる。
また、
図4(a)に鎖線矢印で示すように、プリフォームPの円筒状の胴部の下端側の部位が、底部5の最薄肉部に対応する部位になる。その肉厚T
0は、例えば、当該下端側に周方向に沿った環状の刻み目を軸方向に複数平行に刻設しておき、ブロー成形された容器1に残る刻み目の痕跡から、底部5の最薄肉部に対応する部位を予め特定しておくなどして、測定することができる。
【0024】
【0025】
図5に示すグラフ中に、回帰分析の結果得られた回帰直線を鎖線で示すように、無次元延伸倍率T
0/Tとバースト発生率との間には強い正の線形関係が認められる。したがって、これらの結果から、底部5の最薄肉部における延伸量が緩和されるように、底部5の最薄肉部の無次元延伸倍率T
0/Tを低減させることによって、リサイクル材料を用いてブロー成形した際のバーストの発生を抑制できることが確認できる。
【0026】
なお、底部5の最薄肉部における延伸量を調整するには、底部5の接地径、接地幅を変更する外に、隣接する脚部51の間に形成される底溝部56の深さを変更してもよい。さらに、ブロー成形条件(局所的な延伸量緩和用途の装置の使用等を含む)、プリフォーム形状(延伸倍率の設定、プリフォームの局所的な肉厚設定等を含む)によっても、底部5の最薄肉部における延伸量を調整し得る。
【0027】
また、表2及び
図6に示すように、容器1の容量やブロー成形に用いたプリフォームPの質量(特に、口部を除く延伸される部位の質量)が異なっていても、底部5の最薄肉部の肉厚Tと、無次元延伸倍率T
0/Tとの間には、強い相関関係があることが確認できる。すなわち、表2及び
図6には、検討に用いたサンプルの一例を示しており、これらは容量及び質量の外にも底部5の形状が異なっているが、
図6に示すグラフ中に、回帰分析の結果得られた回帰曲線を鎖線で示すに、当該回帰曲線はT
0/T=K×T
-0.94で表され、K=3.83を中心値として±15%(3.26≦K≦4.40)の範囲に分布することが確認できる。
【0028】
さらに、バーストの発生について以下の基準で評価した結果を表2に併せて示すに、容器1の容量などが異なっていても、底部5の最薄肉部の無次元延伸倍率T0/Tを低減させることによって、リサイクル材料を用いてブロー成形した際のバーストの発生を抑制できることが確認できる。
【0029】
[バースト評価]
◎:バーストの発生は認められなかった。
〇:散発的なバーストの発生が時折り認められた。
×:バーストが多発した。
【0030】
【0031】
以上のことから、底部5の最薄肉部の肉厚Tと、プリフォームPにおける当該最薄肉部に対応する部位の肉厚T0との間に、
T0/T=K×T-0.94 ・・・(1)
3.26≦K≦4.40 ・・・(2)
3.83×T-0.94≦30 ・・・(3)
なる関係が成り立つことが、リサイクル材料を用いてブロー成形した際のバーストの発生が抑制できるように容器1を設計する際の指標となり得ることを解明するに至った。よって、このような指標に基づいて設計された容器1は、より薄肉に延伸される底部5の最薄肉部でのバーストの発生が抑制されたものとなる。
【0032】
このようにして、リサイクル材料を用いてブロー成形した際のバーストの発生が抑制できるように容器1を設計するにあたり、上記式(3)に代えて、
3.83×T-0.94≦26 ・・・(4)
なる関係が成り立つようにするのが好ましい。
【0033】
底部5の最薄肉部の無次元延伸倍率T0/Tの下限値は、底部5の最薄肉部における延伸量が緩和されるようにしながらも、他の部位の延伸量が不足して容器1の薄肉化、軽量化の要求に反してしまわない範囲(例えば、好ましくは6、より好ましくは7を下回らない範囲)で適宜設定するのが好ましい。
【0034】
また、前述したように、プリフォームPの円筒状の胴部の下端側の部位が、底部5の最薄肉部に対応する部位になることを考慮すると、プリフォームPの円筒状の胴部の下端側の肉厚は、2.3~4.4mmとするのが好ましい。さらに、胴部4の肉厚は、0.09~0.60mmの範囲で可及的に薄肉にして、底部5の肉厚が確保されるようにするのが好ましい。これらの態様は、底部5の最薄肉部における延伸量が緩和されるように、底部5の最薄肉部の無次元延伸倍率を低減させる上で有利である。
【0035】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0036】
1 容器
2 口部
3 肩部
4 胴部
5 底部
51 脚部
P プリフォーム