IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社SHIN‐JIGENの特許一覧

<>
  • 特開-上肢アシスト装置 図1
  • 特開-上肢アシスト装置 図2
  • 特開-上肢アシスト装置 図3
  • 特開-上肢アシスト装置 図4
  • 特開-上肢アシスト装置 図5
  • 特開-上肢アシスト装置 図6
  • 特開-上肢アシスト装置 図7
  • 特開-上肢アシスト装置 図8
  • 特開-上肢アシスト装置 図9
  • 特開-上肢アシスト装置 図10
  • 特開-上肢アシスト装置 図11
  • 特開-上肢アシスト装置 図12
  • 特開-上肢アシスト装置 図13
  • 特開-上肢アシスト装置 図14
  • 特開-上肢アシスト装置 図15
  • 特開-上肢アシスト装置 図16
  • 特開-上肢アシスト装置 図17
  • 特開-上肢アシスト装置 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015943
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】上肢アシスト装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 11/00 20060101AFI20250124BHJP
【FI】
B25J11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118867
(22)【出願日】2023-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】522317693
【氏名又は名称】株式会社SHIN‐JIGEN
(74)【代理人】
【識別番号】100147647
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】桂 典史
(72)【発明者】
【氏名】森川 史崇
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS38
3C707HT04
3C707MT08
3C707XK02
3C707XK06
3C707XK16
3C707XK24
3C707XK42
(57)【要約】
【課題】 荷物の持ち上げ動作の段階に応じた出力でアクチュエータが駆動されることにより、引張力を効率良くアシスト力として利用することが可能な上肢アシスト装置を提供する。
【解決手段】 本発明の上肢アシスト装置1は、使用者による荷物の持ち上げを支援するものであって、一端部が使用者の腕部に接続されたワイヤ3と、ワイヤ3の他端部に接続されて任意の出力でワイヤ3に引張力を伝達可能なアクチュエータ2と、荷物が使用者によって把持された把持状態か把持されていない解放状態かを検知可能な把持検知センサ10と、把持検知センサ10の検知結果に基づいてアクチュエータ2の出力を段階的に増加又は減少させる制御部15と、を備えている。
【選択図】 図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者による荷物の持ち上げを支援する上肢アシスト装置であって、
一端部が使用者の腕部に接続されたワイヤと、
前記ワイヤの他端部に接続されて、任意の出力で前記ワイヤに引張力を伝達可能なアクチュエータと、
荷物が使用者によって把持された把持状態か把持されていない解放状態かを検知可能な把持検知センサと、
前記把持検知センサの検知結果に基づいて、前記アクチュエータの出力を段階的に増加又は減少させる制御部と、
を備えることを特徴とする上肢アシスト装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記把持検知センサにより荷物が解放状態から把持状態になったことが検知されると、前記アクチュエータの出力を、第一出力から第二出力へ増加させ、その後に第二出力から第三出力へ更に増加させることを特徴とする請求項1に記載の上肢アシスト装置。
【請求項3】
使用者の体の傾きを検知可能な姿勢検知センサを更に備え、
前記制御部は、前記把持検知センサにより荷物が解放状態から把持状態になったことが検知された時に、使用者の体が鉛直方向よりも第一角度を超えて前傾していることが前記姿勢検知センサにより検知されると、床からの荷物の持ち上げとして床上荷物モードを選択する一方、使用者の体が鉛直方向よりも第一角度を超えて前傾していないことが前記姿勢検知センサにより検知されると、台上からの荷物の持ち上げとして台上荷物モードを選択することを特徴とする請求項2に記載の上肢アシスト装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記床上荷物モードを選択した場合、前記把持検知センサにより荷物が解放状態から把持状態になったことが検知された時から使用者の体が第二角度だけ後傾したことが前記姿勢検知センサにより検知されると、前記アクチュエータの出力を前記第二出力から前記第三出力へ増加させることを特徴とする請求項3に記載の上肢アシスト装置。
【請求項5】
経過時間を計測可能なタイマーを更に備え、
前記制御部は、前記台上荷物モードを選択した場合、前記把持検知センサにより荷物が解放状態から把持状態になったことが検知された時から第一時間だけ経過したことが前記タイマーにより検知されると、前記アクチュエータの出力を前記第二出力から前記第三出力へ増加させることを特徴とする請求項3に記載の上肢アシスト装置。
【請求項6】
前記把持検知センサが、使用者の左腕側と右腕側にそれぞれ設けられ、
前記制御部は、使用者の左腕側と右腕側の両側の前記把持検知センサにより荷物が解放状態から把持状態になったことが検知されると、前記アクチュエータの出力を、前記第一出力から前記第二出力へ増加させることを特徴とする請求項2から5の何れか一項に記載の上肢アシスト装置。
【請求項7】
使用者の体の傾きを検知可能な姿勢検知センサを更に備え、
前記制御部は、前記把持検知センサにより荷物が把持状態であることが検知されている間に、使用者の体が第三角度だけ前傾したことが前記姿勢検知センサにより検知されると、前記アクチュエータの出力を、第四出力から第五出力へ減少させ、その後に前記把持検知センサにより荷物が把持状態から解放状態になったことが検知されると、前記アクチュエータの出力を、第六出力へ更に減少させることを特徴とする請求項1に記載の上肢アシスト装置。
【請求項8】
前記制御部は、使用者の体が第三角度だけ前傾したことが前記姿勢検知センサにより検知されてから、前記把持検知センサにより荷物が把持状態から解放状態になったことが検知されるまでの間に、前記アクチュエータの出力を、前記第五出力から徐々に減少させて前記第六出力より大きい第七出力とすることを特徴とする請求項7に記載の上肢アシスト装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記把持検知センサにより荷物が把持状態であることが検知されている間に、使用者の体が第三角度だけ前傾した後に、第四角度だけ後傾したことが前記姿勢検知センサにより検知されると、前記アクチュエータの出力を、第八出力へ増加させることを特徴とする請求項7又は8に記載の上肢アシスト装置。
【請求項10】
前記把持検知センサが、使用者の左腕側と右腕側にそれぞれ設けられ、
前記制御部は、使用者の左腕側と右腕側の両側の前記把持検知センサにより荷物が把持状態から解放状態になったことが検知されると、前記アクチュエータの出力を、前記第六出力へ減少させることを特徴とする請求項7又は8に記載の上肢アシスト装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者による荷物の持ち上げを支援する上肢アシスト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、使用者による荷物の持ち上げ動作を支援する上肢アシスト装置が広く開発されている。この上肢アシスト装置にはワイヤが接続され、このワイヤの先端部に設けられたエンドエフェクタと呼ばれる部材が使用者の腕に装着される。これにより、上肢アシスト装置で発生したアクチュエータの駆動力が、ワイヤ及びエンドエフェクタを介して使用者の腕に引張力として伝達される(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
ここで、使用者の腕に引張力を伝達するタイミングを図るため、荷物が使用者によって把持された把持状態か把持されていない解放状態かを検知可能な把持検知センサが、例えばエンドエフェクタに装備されている。そして、荷物が解放状態から把持状態になったことが把持検知センサによって検知されると、アクチュエータの動作を制御する制御部が、アクチュエータを最大出力で駆動する。一方、荷物が把持状態から解放状態になったことが把持検知センサによって検知されると、制御部がアクチュエータの駆動を停止する。これにより、使用者が荷物を把持している間だけ、その腕に引張力が伝達されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-094650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の上肢アシスト装置では、使用者の腕に伝達される引張力が、荷物の持ち上げ動作を支援するアシスト力として効率良く利用されないという問題があった。すなわち、使用者が必要とするアシスト力の大きさは、荷物の持ち上げ動作の段階によって異なっている。しかし、従来の上肢アシスト装置では、制御部がアクチュエータを最大出力で駆動するか停止するかの何れかであるため、使用者が荷物を持ち上げてから降ろすまでの段階によっては、不必要に大きい引張力が使用者の腕に作用し、使用者がその引張力の全てをアシスト力として利用することができないという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、かかる事情に鑑みて創案され、その目的は、荷物の持ち上げ動作の段階に応じた出力でアクチュエータが駆動されることにより、引張力を効率良くアシスト力として利用することが可能な上肢アシスト装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の態様に係る上肢アシスト装置は、使用者による荷物の持ち上げを支援する上肢アシスト装置であって、一端部が使用者の腕部に接続されたワイヤと、前記ワイヤの他端部に接続されて、任意の出力で前記ワイヤに引張力を伝達可能なアクチュエータと、荷物が使用者によって把持された把持状態か把持されていない解放状態かを検知可能な把持検知センサと、前記把持検知センサの検知結果に基づいて、前記アクチュエータの出力を段階的に増加又は減少させる制御部と、を備えることを特徴としている。
【0008】
なお、本発明の一の態様に係る上肢アシスト装置においては、前記制御部は、前記把持検知センサにより荷物が解放状態から把持状態になったことが検知されると、前記アクチュエータの出力を、第一出力から第二出力へ増加させ、その後に第二出力から第三出力へ更に増加させてもよい。
【0009】
また、本発明の一の態様に係る上肢アシスト装置においては、使用者の体の傾きを検知可能な姿勢検知センサを更に備え、前記制御部は、前記把持検知センサにより荷物が解放状態から把持状態になったことが検知された時に、使用者の体が鉛直方向よりも第一角度を超えて前傾していることが前記姿勢検知センサにより検知されると、床からの荷物の持ち上げとして床上荷物モードを選択する一方、使用者の体が鉛直方向よりも第一角度を超えて前傾していないことが前記姿勢検知センサにより検知されると、台上からの荷物の持ち上げとして台上荷物モードを選択してもよい。
【0010】
また、本発明の一の態様に係る上肢アシスト装置においては、前記制御部は、前記床上荷物モードを選択した場合、前記把持検知センサにより荷物が解放状態から把持状態になったことが検知された時から使用者の体が第二角度だけ後傾したことが前記姿勢検知センサにより検知されると、前記アクチュエータの出力を前記第二出力から前記第三出力へ増加させてもよい。
【0011】
また、本発明の一の態様に係る上肢アシスト装置においては、経過時間を計測可能なタイマーを更に備え、前記制御部は、前記台上荷物モードを選択した場合、前記把持検知センサにより荷物が解放状態から把持状態になったことが検知された時から第一時間だけ経過したことが前記タイマーにより検知されると、前記アクチュエータの出力を前記第二出力から前記第三出力へ増加させてもよい。
【0012】
また、本発明の一の態様に係る上肢アシスト装置においては、前記把持検知センサが、使用者の左腕側と右腕側にそれぞれ設けられ、前記制御部は、使用者の左腕側と右腕側の両側の前記把持検知センサにより荷物が解放状態から把持状態になったことが検知されると、前記アクチュエータの出力を、前記第一出力から前記第二出力へ増加させてもよい。
【0013】
また、本発明の一の態様に係る上肢アシスト装置においては、使用者の体の傾きを検知可能な姿勢検知センサを更に備え、前記制御部は、前記把持検知センサにより荷物が把持状態であることが検知されている間に、使用者の体が第三角度だけ前傾したことが前記姿勢検知センサにより検知されると、前記アクチュエータの出力を、第四出力から第五出力へ減少させ、その後に前記把持検知センサにより荷物が把持状態から解放状態になったことが検知されると、前記アクチュエータの出力を、第六出力へ更に減少させてもよい。
【0014】
また、本発明の一の態様に係る上肢アシスト装置においては、前記制御部は、使用者の体が第三角度だけ前傾したことが前記姿勢検知センサにより検知されてから、前記把持検知センサにより荷物が把持状態から解放状態になったことが検知されるまでの間に、前記アクチュエータの出力を、前記第五出力から徐々に減少させて前記第六出力より大きい第七出力としてもよい。
【0015】
また、本発明の一の態様に係る上肢アシスト装置においては、前記制御部は、前記把持検知センサにより荷物が把持状態であることが検知されている間に、使用者の体が第三角度だけ前傾した後に、第四角度だけ後傾したことが前記姿勢検知センサにより検知されると、前記アクチュエータの出力を、第八出力へ増加させてもよい。
【0016】
また、本発明の一の態様に係る上肢アシスト装置においては、前記把持検知センサが、使用者の左腕側と右腕側にそれぞれ設けられ、前記制御部は、使用者の左腕側と右腕側の両側の前記把持検知センサにより荷物が把持状態から解放状態になったことが検知されると、前記アクチュエータの出力を、前記第六出力へ減少させてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一の態様に係る上肢アシスト装置によれば、荷物の持ち上げ動作の段階に応じた出力でアクチュエータが駆動されることにより、引張力を効率良くアシスト力として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第一実施形態に係る上肢アシスト装置1を正面側から見た概略斜視図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る上肢アシスト装置1の概略背面図である。
図3】本発明の第一実施形態に係る上肢アシスト装置1の機能的な構成を示すブロック図である。
図4】右側アクチュエータ2Rの二段階出力増加制御ついて処理の流れを示すフローチャートである。
図5】二段階出力増加制御時における経過時間と右側アクチュエータ2Rの出力との関係を示すグラフである。
図6】第一段階増加処理SAの処理の流れを示すフローチャートである。
図7】動作モード選択処理SBの処理の流れを示すフローチャートである。
図8】床上荷物モードが選択された場合の第二段階増加処理SCの処理の流れを示すフローチャートである。
図9】台上荷物モードが選択された場合の第二段階増加処理SCの処理の流れを示すフローチャートである。
図10】左右同期制御モードを採用した場合の、第一段階増加処理SDの処理の流れを示すフローチャートである。
図11】本発明の第二実施形態に係る上肢アシスト装置20に関し、右側アクチュエータ2Rの三段階出力減少制御ついて処理の流れを示すフローチャートである。
図12】三段階出力減少制御時における経過時間と右側アクチュエータ2Rの出力との関係を示すグラフである。
図13】第一段階減少処理SEの処理の流れを示すフローチャートである。
図14】第二段階減少処理SFの処理の流れを示すフローチャートである。
図15】第三段階減少処理SGの処理の流れを示すフローチャートである。
図16】右側アクチュエータ2Rの出力復帰制御について処理の流れを示すフローチャートである。
図17】出力復帰制御時における経過時間と右側アクチュエータ2Rの出力との関係を示すグラフである。
図18】再増加処理SHの処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係る上肢アシスト装置について、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
(第一実施形態に係る上肢アシスト装置の構成)
まず、本発明の第一実施形態に係る上肢アシスト装置の構成について説明する。本実施形態に係る上肢アシスト装置は、使用者による荷物の持ち上げ動作時にアクチュエータの出力を段階的に増加させる点を特徴とするものである。図1及び図2は、第一実施形態に係る上肢アシスト装置1の構成を示す図であり、図1は正面側から見た概略斜視図、図2は概略背面図である。上肢アシスト装置1は、アクチュエータ2と、ワイヤ3と、エンドエフェクタ4と、を備えている。
【0021】
アクチュエータ2は、使用者の腕に伝達すべき引張力を発生させる。このアクチュエータ2は、図2に破線で示すように、電動モータ5と、プーリ6と、を有している。電動モータ5は、使用者による荷物の持ち上げ動作の段階に応じて、任意の出力で回転するように駆動制御される。プーリ6は、電動モータ5の回転軸に固定して設けられることにより、電動モータ5の回転に連動して回転する。このように構成されるアクチュエータ2は、背負い具7の内部に収容された状態で、使用者の背部に保持されている。なお、背負い具7の内部には、使用者の左腕に伝達する引張力を発生させる左側アクチュエータ2Lと、右腕に伝達する引張力を発生させる右側アクチュエータ2Rとが設けられている。
【0022】
ワイヤ3は、アクチュエータ2が発生させた引張力を、エンドエフェクタ4に伝達する。このワイヤ3は、化学繊維等からなる紐状の部材で形成されている。このように構成されるワイヤ3は、図2に破線で示すように、その一端部が、アクチュエータ2を構成するプーリ6の周面に巻き掛けられている。そして、このワイヤ3は、使用者の背部から肩部を越えて正面側へ引き回され、図1に示すように、その他端部が、後述するエンドエフェクタ4に接続されている。なお、このワイヤ3は、使用者の左腕側と右腕側に対応して、左右一対のワイヤ3がそれぞれ設けられている。
【0023】
エンドエフェクタ4は、使用者の腕に装着されてアクチュエータ2の引張力を使用者の腕に伝達する。このエンドエフェクタ4は、図1に示すように、指装着部7と、手首装着部8と、を有している。指装着部7は、使用者の指に装着されて、アクチュエータ2の引張力を使用者の指に伝達する役割を果たす。この指装着部7には、後述する把持検知センサ10が取り付けられている。一方、手首装着部8は、使用者の手首に装着されて、アクチュエータ2の引張力を使用者の腕に伝達する役割を果たす。このように構成されるエンドエフェクタ4は、使用者の左腕側と右腕側に対応して、左右一対のエンドエフェクタ4がそれぞれ設けられている。なお、エンドエフェクタ4の構成は、本実施形態に限定されず、使用者の腕に引張力を伝達可能な範囲で適宜設計変更が可能である。
【0024】
次に、上肢アシスト装置1の機能的な構成について説明する。図3は、第一実施形態に係る上肢アシスト装置1の機能的な構成を示すブロック図である。上肢アシスト装置1は、アクチュエータ2と、把持検知センサ10と、姿勢検知センサ11と、タイマー12と、記憶部13と、通信バス14と、制御部15と、を備えている。
【0025】
アクチュエータ2は、その役割や構成は上述の通りであり、図3に示すように、左側アクチュエータ2Lと、右側アクチュエータ2Rと、を有している。
【0026】
把持検知センサ10は、荷物が使用者によって把持された把持状態か把持されていない解放状態かを検知する役割を果たす。この把持検知センサ10は、いわゆる圧力センサであって、図1に示すように、エンドエフェクタ4の指装着部7に装着されている。そして、この把持検知センサ10が、使用者の指と荷物との間に挟まれ又は解放された際の流体の圧力変化に基づいて、荷物が把持状態か解放状態かを検知し、その検知結果を制御部15へ出力する。この把持検知センサ10は、図3に示すように、使用者の左手に装着される左側把持検知センサ10Lと、右手に装着される右側把持検知センサ10Rと、を有している。
【0027】
姿勢検知センサ11は、使用者が荷物の持ち上げ動作又は持ち下げ動作に入る体勢を整えたことを検知する役割を果たす。この姿勢検知センサ11は、例えば慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)である。この姿勢検知センサ11は、図2に破線で示すように、使用者の背部に保持された背負い具7の内部に設置されている。これにより、姿勢検知センサ11が、使用者の上体の傾きを検知し、その検知結果を制御部15へ出力する。
【0028】
タイマー12は、任意の基準時からの経過時間を計測し、その計測結果を制御部15へ出力する。記憶部13は、各種プログラムや一時的な情報を記憶すると共に、アクチュエータ2の制御に使用する各種の閾値や設定値を記憶している。通信バス14は、上肢アシスト装置1を構成する各部を互いに電気的に接続する。制御部15は、通信バス14を介して、把持検知センサ10及び姿勢検知センサ11の検知結果やタイマー12の計測結果がそれぞれ入力され、それに基づいてアクチュエータ2を含む各部の動作を制御する。
【0029】
(アクチュエータの出力増加制御及びその作用効果)
次に、本発明の第一実施形態に係る上肢アシスト装置1に関し、荷物の持ち上げ動作時における右側アクチュエータ2の二段階出力増加制御及びその作用効果について説明する。図4は、右側アクチュエータ2Rの二段階出力増加制御ついて処理の流れを示すフローチャートである。また、図5は、二段階出力増加制御時における経過時間と右側アクチュエータ2Rの出力との関係を示すグラフである。なお、本実施形態では、左側アクチュエータ2Lと右側アクチュエータ2Rについて、それぞれ独立した制御を行う「左右独立制御モード」を採用し、ここでは右側アクチュエータ2Rについて説明する。ここでは説明を省略するが、左側アクチュエータ2Lについても、右側アクチュエータ2Rと同様の処理が実行される。
【0030】
図4に示すように、右側アクチュエータ2Rの二段階出力増加制御が開始されると、制御部15は、まず「第一段階増加処理SA」を実行し、次に「動作モード選択処理SB」を実行し、最後に「第二段階増加処理SC」を実行し、これによりアクチュエータ2の二段階出力増加制御が終了する。以下、各処理ごとに詳述する。
【0031】
まず、図4に示す「第一段階増加処理SA」は、右側アクチュエータ2Rの出力を一定程度だけ増加させる処理である。図6は、第一段階増加処理SAの処理の流れを示すフローチャートである。第一段階増加処理SAが開始されると、まず制御部15は、使用者が解放状態の荷物を右腕で把持したこと、換言すれば荷物の右側が解放状態から把持状態になったことを検知する。具体的には、制御部15は、右側把持検知センサ10Rの出力を取得し(ステップS1)、その検知結果に基づいて、荷物の右側が解放状態か否かを判定する(ステップS2)。その結果、解放状態ではないと判断した場合(S2:No)、制御部15は、ステップS1へ戻って解放状態になるまで待機する。一方、解放状態であると判断した場合(S2:Yes)、制御部15は、続けて右側把持検知センサ10Rの出力を取得し(ステップS3)、その検知結果に基づいて、荷物の右側が把持状態になったか否かを判定する(ステップS4)。その結果、把持状態になっていないと判断した場合(S4:No)、ステップS3へ戻って把持状態になるまで待機する。
【0032】
その後、ステップS4において荷物の右側が把持状態になったと判断した場合(S4:Yes)、制御部15は、図5に時刻T1として示すように、右側アクチュエータ2Rの出力を、0%(本発明に係る「 第一出力」に相当)から30%(本発明に係る「第二出力」に相当)へ増加させる(ステップS5)。これにより、第一段階増加処理SAが終了する。なお、本明細書において出力として使用する「%」とは、右側アクチュエータ2Rの最大出力を100%とした時のそれと比較した比率を意味している。
【0033】
次に、図4に示す「動作モード選択処理SB」は、荷物の持ち上げ動作が、床上に載置された荷物の持ち上げ動作であるのか、台上に載置された荷物の持ち上げ動作であるのかを判別して動作モードを選択する処理である。図7は、動作モード選択処理SBの処理の流れを示すフローチャートである。なお、本明細書における「台上」とは、床面より高い荷物載置面を有する台の上を意味し、ここでの「台」とは、机や椅子やテーブルや作業台や階段等を広く含む主旨である。
【0034】
動作モード選択処理SBが開始されると、図7に示すように、まず制御部15は、姿勢検知センサ11の出力を取得する(ステップS6)。そして、その検知結果に基づいて、制御部15は、使用者の上体が鉛直方向よりも30°(本発明に係る「第一角度」に相当)を超えて前傾しているか否かを判定する(ステップS7)。その結果、30°を超えて前傾していると判断した場合(S7:Yes)、制御部15は、床からの荷物の持ち上げ動作であると判断し、「床上荷物モード」を選択する(ステップS8)。一方、30°を超えて前傾していない、すなわち前傾角が30°以下であると判断した場合(S7:No)、制御部15は、台上からの荷物の持ち上げ動作であると判断し、「台上荷物モード」を選択する(ステップS9)。これにより、動作モード選択処理SBが終了する。なお、本明細書における「前傾」とは、使用者の上体がその正面側を床面に近付ける方向へ傾斜した状態、或いは使用者が当該方向へ体を回動させる動作を意味している。
【0035】
最後に、図4に示す「第二段階増加処理SC」は、右側アクチュエータ2Rの出力を更に増加させる処理である。図8は、床上荷物モードが選択された場合の第二段階増加処理SCの処理の流れを示すフローチャートである。第二段階増加処理SCが開始されると、制御部15は、まず右側把持検知センサ10Rの出力を取得し(ステップS10)、続いて姿勢検知センサ11の出力を取得する(ステップS11)。そして、制御部15は、それらの検知結果に基づいて、使用者が荷物の右側を把持しつつ持ち上げるための体勢を整えたか否かを判定する。具体的には、制御部15は、荷物の右側が把持状態であり、且つ、ステップS5で姿勢検知センサ11の出力を前回取得した時から使用者の上体が5°(本発明に係る「第二角度」に相当)以上後傾したか否かを判定する(ステップS12)。その結果、荷物の右側が解放状態であるか、或いは使用者の上体が5°以上後傾していないと判断した場合(S12:No)、制御部15は、使用者が荷物の右側を持ち上げるのを止めたか、或いは荷物を持ち上げるための体勢を十分に整えていないと判断し、ステップS10へ戻って、使用者の上体が5°以上後傾するまで待機する。一方、ステップS12における判定の結果、荷物の右側が把持状態であって、且つ、使用者の上体が5°以上後傾したと判断した場合(S12:Yes)、制御部15は、使用者が荷物の右側を把持しつつ、腰を据えるようにして持ち上げ体勢を十分に整えたと判断し、図5に時刻T2として示すように、右側アクチュエータ2Rの出力を30%(本発明に係る「第二出力」に相当)から100%(本発明に係る「第三出力」に相当)へ増加させる(ステップS13)。これにより、床上荷物モードの第二段階増加処理SCが終了する。なお、本明細書における「後傾」とは、使用者の上体がその正面側を床面から遠ざける方向へ体を回動させる動作を意味している。
【0036】
一方、図9は、台上荷物モードが選択された場合の第二段階増加処理SCの処理の流れを示すフローチャートである。第二段階増加処理SCが開始されると、制御部15は、まず右側把持検知センサ10Rの出力を取得し(ステップS14)、続いてタイマー12の計測結果を取得する(ステップS15)。そして、制御部15は、使用者が荷物の右側を把持した状態で一定時間が経過したか否かを判定する。具体的には、制御部15は、荷物の右側が把持状態であり、且つ、ステップS4で荷物の右側が解放状態から把持状態になったことが検知された時から0.2秒(本発明に係る「第一時間」に相当)が経過したか否かを判定する(ステップS16)。その結果、荷物の右側が解放状態であるか、或いは0.2秒が経過していないと判断した場合(S16:No)、制御部15は、使用者が荷物の右側を持ち上げるのを止めたか、或いは荷物を持ち上げるための体勢を十分に整えていないと判断し、ステップS14へ戻って、0.2秒が経過するまで待機する。一方、ステップS16における判定の結果、荷物の右側が把持状態であって、且つ、0.2秒が経過したと判断した場合(S16:Yes)、制御部15は、使用者が荷物の右側を把持しつつ、持ち上げ体勢を十分に整えたと判断し、図5に時刻T3として二点鎖線で示すように、右側アクチュエータ2Rの出力を30%から100%へ増加させる(ステップS17)。これにより、台上荷物モードの第二段階増加処理SCが終了する。
【0037】
このような第一実施形態に係る上肢アシスト装置1におけるアクチュエータ2の二段階出力増加制御によれば、荷物の持ち上げ動作時に使用者が前方へ倒れそうになる、いわゆる「つんのめり」の問題を防止することができるという利点がある。すなわち、従来の上肢アシスト装置では、荷物が解放状態から把持状態になったことが把持検知センサにより検知されると、制御部がアクチュエータを最大出力で駆動する、すなわちアクチュエータの出力を0%から100%へ一気に増加させる。このような出力増加制御によれば、使用者が上体を前方へ若干倒して荷物を把持した後、腰を据えるようにして持ち上げ体勢を十分に整える前に、アクチュエータの最大出力が引張力として使用者の腕に作用する。そうすると、使用者が引張力の反力に負けて前方へつんのめる問題が生じる。この点、本発明の第一実施形態に係るアクチュエータ2の二段階出力増加制御によれば、制御部15は、荷物が解放状態から把持状態になったことが検知されると、まずはアクチュエータ2の出力を0%から30%へ増加させ、その後に床上荷物モードでは使用者の上体が5°以上後傾した時に、台上荷物モードでは0.2秒が経過した時に、アクチュエータ2の出力を30%から100%へ更に増加させる。このように、アクチュエータ2の出力を二段階に分けて増加させる制御が行われるため、使用者が荷物の持ち上げ体勢を十分に整えるまでは、使用者の腕に対して不必要に大きな引張力が作用しない。従って、使用者が引張力の反力に負けて前方へつんのめる問題の発生を、未然に防止することができる。更に、荷物の持ち上げ動作の段階に応じた出力でアクチュエータ2が駆動されることにより、引張力を効率良くアシスト力として利用することができるという利点もある。
【0038】
(第一実施形態の変形例)
なお、本発明の技術範囲は上記の第一実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって規定される本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更を加えることが可能である。例えば、本発明の第一実施形態としては、以下に示すような変形例が考えられる。
【0039】
本実施形態では、図2に示すように、電動モータ5とプーリ6とによりアクチュエータ2を構成した。しかし、本発明に係るアクチュエータ2としては、本実施形態に限られず、ワイヤ3に引張力を付与可能であれば、油圧式や空気圧式や電磁式や圧電素子式等、従来公知の任意の方式で動力を生み出すアクチュエータ2を用いることが可能である。
【0040】
本実施形態では、把持検知センサ10として、流体の圧力変化を検知する圧力センサを用いた。しかし、本発明に係る把持検知センサ10としては、本実施形態に限られず、ピエゾ抵抗効果を利用して圧力変化を検知する圧力センサ等、使用者による荷物の把持を検知可能な従来公知の任意の方式のセンサを用いることが可能である。また、本実施形態では、図1に示すように、把持検知センサ10をエンドエフェクタ4の指装着部7に装着して設けた。しかし、把持検知センサ10を設ける位置は、エンドエフェクタ4における指装着部7以外の部位であってもよい。また、荷物が解放状態か把持状態かを検知可能であれば、把持検知センサ10を、エンドエフェクタ4とは別部材として使用者の腕に取り付けることや、或いは使用者の腕ではなく荷物の側に取り付けることも可能である。
【0041】
本実施形態では、姿勢検知センサ11として慣性計測装置を用いた。しかし、本発明に係る姿勢検知センサ11としては、本実施形態に限られず、使用者の体の傾きを検知可能な従来公知の任意の方式のセンサを用いることができる。また、本実施形態では、図2に示すように、姿勢検知センサ11を背負い具7の内部に設置することにより、使用者の上体の傾きを検知した。しかし、姿勢検知センサ11の設置位置は、本実施形態に限定されず、傾きを検知すべき使用者の体の任意の箇所に変更が可能である。
【0042】
本実施形態では、本発明に係る第一出力を0%、第二出力を30%、第三出力を100%にそれぞれ設定した。また、本発明に係る第一角度を30°、第二角度を5°にそれぞれ設定した。また、本発明に係る第一時間を0.2秒に設定した。しかし、これら各設定値は本実施形態に限定されず、使用者の年齢や性別や個性等やその他の事情に応じて、適宜設定変更が可能である。例えば、第一出力、すなわち荷物が解放状態である時のアクチュエータ2の出力を0%より僅かに大きい値に設定することも可能である。このように、荷物が解放状態の時に、プーリ6の周面に巻き掛けられたワイヤ3に弱いテンションを掛けておけば、ワイヤ3に弛みが生じることが低減されるので、アクチュエータ2の出力を増加させた際に、ワイヤ3が絡まりにくいという利点がある。
【0043】
本実施形態では、図4に示すように、アクチュエータ2の出力を第一段階増加処理SAと第二段階増加処理SBの二段階に分けて増加させる二段階出力増加制御を行った。しかし、本発明は、アクチュエータ2の出力を段階的に増加させることを特徴とし、その態様は本実施形態に限られず、三段階以上の複数段階に分けて増加させることも可能である。
【0044】
本実施形態では、左側アクチュエータ2Lの出力増加制御と右側アクチュエータ2Rの出力増加制御とをそれぞれ独立して行う「左右独立制御モード」を採用した。この左右独立制御モードによれば、使用者の右腕側と左腕側とで荷物の把持に時間差が生じた場合に、未だ荷物を把持していない側の腕へ不必要な引張力が付与されないという利点がある。しかし、左右のアクチュエータ2の出力増加制御の態様としては、本実施形態に代えて、右側アクチュエータ2Rの出力増加制御と左側アクチュエータ2Lの出力増加制御とを同期させる、「左右同期制御モード」を採用することも可能である。
【0045】
図10は、左右同期制御モードを採用した場合の、第一段階増加処理SDの処理の流れを示すフローチャートである。第一段階増加処理SDが開始されると、まず制御部15は、荷物の左右両側が解放状態から把持状態になったことを検知する。具体的には、制御部15は、まず右側把持検知センサ10Rの出力を取得すると共に(ステップS18)、左側把持検知センサ10Lの出力も取得する(ステップS19)。そして、荷物の左右両側が解放状態か否かを判定する(ステップS20)。その結果、左右何れか又は左右両側が解放状態ではないと判断した場合(S20:No)、制御部15は、ステップS18へ戻って左右両側が解放状態になるまで待機する。一方、左右両側が解放状態であると判断した場合(S20:Yes)、制御部15は、右側把持検知センサ10Rの出力を取得すると共に(ステップS21)、左側把持検知センサ10Lの出力も取得する(ステップS22)。そして、制御部15は、荷物の左右両側が把持状態になったか否かを判定する(ステップS23)。その結果、左右何れか又は左右両側が把持状態になっていないと判断した場合(S23:No)、ステップS21へ戻って左右両側が把持状態になるまで待機する。その後、ステップS23において荷物の左右両側が把持状態になったと判断した場合(S23:Yes)、すなわち、荷物の左側が把持状態になり、且つ、右側も把持状態になったと判断した場合、制御部15は、右側アクチュエータ2R及び左側アクチュエータ2Lの両方の出力を、0%から30%へそれぞれ増加させる(ステップS24)。これにより、第一段階増加処理SDが終了する。この左右同期制御モードによれば、使用者の右腕と左腕に対して等しい大きさの引張力が同時に付与されるため、使用者が左右のバランスを保ちやすいという利点がある。
【0046】
(第二実施形態に係る上肢アシスト装置の構成)
次に、本発明の第二実施形態に係る上肢アシスト装置の構成について説明する。本実施形態に係る上肢アシスト装置は、使用者による荷物の持ち下げ動作時(換言すれば、荷物の降ろし動作時)にアクチュエータ2の出力を段階的に減少させる点を特徴とするものである。本実施形態の上肢アシスト装置20は、図1及び図2に示される第一実施形態の上肢アシスト装置1と同じ構成を有するため、ここでは各部の説明を省略し、第一実施形態と同じ符号を用いる。
【0047】
(アクチュエータの出力減少制御及びその作用効果)
次に、本発明の第二実施形態に係る上肢アシスト装置20に関し、荷物の持ち下げ動作時における右側アクチュエータ2Rの三段階出力減少制御及びその作用効果について説明する。図11は、右側アクチュエータ2Rの三段階出力減少制御ついて処理の流れを示すフローチャートである。また、図12は、三段階出力減少制御時における経過時間と右側アクチュエータ2Rの出力との関係を示すグラフである。なお、本実施形態でも、左側アクチュエータ2Lと右側アクチュエータ2Rについて、それぞれ独立した制御を行う「左右独立制御モード」を採用し、ここでは右側アクチュエータ2Rについて説明する。
【0048】
図11に示すように、右側アクチュエータ2Rの三段階出力減少制御が開始されると、制御部15は、まず「第一段階減少処理SE」を実行し、次に「第二段階減少処理SF」を実行し、最後に「第三段階減少処理SG」を実行し、これにより右側アクチュエータ2Rの三段階出力減少制御が終了する。以下、各処理ごとに詳述するが、第一段階減少処理SEについては第二実施形態と同じであるため、第二実施形態と同じ符号を用い、ここでは説明を省略する。なお、本実施形態でも、「左右独立制御モード」を採用した場合の右側アクチュエータ2Rについて説明する。
【0049】
図11に示す「第一段階減少処理SE」は、右側アクチュエータ2Rの出力を一定程度だけ減少させる処理である。図13は、第一段階減少処理SEの処理の流れを示すフローチャートである。第一段階減少処理SEが開始されると、まず制御部15は、初期状態における使用者の上体の傾きを検知する。すなわち、制御部15は、姿勢検知センサ11の出力を取得し(ステップS30)、その検知結果を初期傾き値として図3に示す記憶部13に記憶する(ステップS31)。次に、制御部15は、使用者が荷物の右側を把持しつつ、それを持ち下げるための体勢を整えたことを検知する。具体的には、制御部15は、まず右側把持検知センサ10Rの出力を取得し(ステップS32)、続いて姿勢検知センサ11の出力を取得する(ステップS33)。そして、制御部15は、荷物の右側が把持状態であり、且つ、使用者の上体が初期傾き値から30°(本発明に係る「第三角度」に相当)以上前傾したか否かを判定する(ステップS34)。その結果、荷物の右側が解放状態であるか、或いは使用者の上体が初期傾き値から30°以上前傾していないと判断した場合(S34:No)、制御部15は、使用者が荷物の右側を持ち下げるのを止めたか、或いは荷物を持ち下げるための体勢を十分に整えていないと判断し、ステップS32へ戻って、使用者の上体が初期傾き値から30°以上前傾するまで待機する。一方、ステップS34における判定の結果、荷物の右側が把持状態であって、且つ、使用者の上体が初期傾き値から30°以上前傾したと判断した場合(S34:Yes)、制御部15は、使用者が荷物の右側を把持しつつ、持ち下げ体勢を十分に整えたと判断し、図12に時刻T4として示すように、右側アクチュエータ2Rの出力を100%(本発明に係る「第四出力」に相当)から40%(本発明に係る「第五出力」に相当)へ減少させる(ステップS35)。これにより、第一段階減少処理SEが終了する。
【0050】
図11に示す「第二段階減少処理SF」は、右側アクチュエータ2Rの出力を時間経過に伴って徐々に減少させる処理である。図14は、第二段階減少処理SFの処理の流れを示すフローチャートである。第二段階減少処理SFが開始されると、まず制御部15は、タイマー12による時間計測を開始すると共に(ステップS40)、右側アクチュエータ2Rの出力を50%/秒の速度で減少させ始める(ステップS41)。その後、制御部15は、タイマー12の計測結果を取得し(ステップS42)、計測開始から0.5秒が経過したか否かを判定する(ステップS43)。その結果、0.5秒が経過したと判断した場合(S43:No)、制御部15は、ステップS41へ戻って、右側アクチュエータ2Rの出力を50%/秒の速度で更に減少させ続ける。一方、ステップS42における判定の結果、計測開始から0.5秒が経過したと判断した場合(S43:Yes)、図12に時刻T5として示すように、右側アクチュエータ2Rの出力はこの時15%(本発明に係る「第七出力」に相当)まで低下しているが、制御部15は、右側アクチュエータ2Rの出力減少を停止する(ステップS44)。これにより、第二段階減少処理SFが終了する。なお、第七出力の設定値が、本実施形態に限定されず適宜変更が可能である点は、第一実施形態の変形例と同様である。また、この第二段階減少処理SFにおいては、一定時間の経過を検知すること等により、右側アクチュエータ2Rの出力を40%から15%へ一気に減少させることも可能である。
【0051】
図11に示す「第三段階減少処理SG」は、右側アクチュエータ2Rの出力を更に減少させる処理である。図15は、第三段階減少処理SGの処理の流れを示すフローチャートである。第三段階増加処理SGが開始されると、まず制御部15は、右側把持検知センサ10Rの出力を取得する(ステップS50)。そして、制御部15は、その検知結果に基づいて、荷物の右側が解放状態になったか否かを判定する(ステップS51)。その結果、荷物の右側が解放状態にならず把持状態のままであると判断した場合(S51:No)、制御部15は、右側アクチュエータ2Rの出力を15%に保持したまま、ステップS50へ戻り、荷物の右側が解放状態になるまで待機する。一方、制御部15は、ステップS51における判定の結果、荷物の右側が解放状態になったと判断した場合(S51:Yes)、制御部15は、図12に時刻T6として示すように、右側アクチュエータ2Rの出力を15%から0%(本発明に係る「第六出力」に相当)へ減少させる(ステップS52)。これにより、第三段階減少処理SGが終了する。
【0052】
このような第二実施形態に係る上肢アシスト装置20におけるアクチュエータ2の三段階出力減少制御によれば、荷物の持ち下げ動作時に使用者の腕に不必要に大きな引張力が作用する問題を防止することができるという利点がある。すなわち、従来の上肢アシスト装置では、荷物が把持状態から解放状態になったことが把持検知センサにより検知されると、制御部がアクチュエータを停止させる、すなわちアクチュエータの出力を100%から0%へ一気に減少させる。このような出力減少制御によれば、使用者が上体を前傾させて持ち下げ体勢を整えた後においても、使用者の腕にはアクチュエータの最大出力が引張力として作用する。従って、使用者は、このアクチュエータの最大出力に抗しながら荷物も持ち下げる必要がある。この点、本発明の第二実施形態に係るアクチュエータ20の三段階出力減少制御によれば、アクチュエータ2の出力を三段階に分けて減少させる制御が行われるため、使用者が荷物の持ち下げ体勢を整えた後は、使用者の腕には不必要に大きな引張力が作用しない。従って、使用者は、比較的小さい引張力に抗するだけで荷物を持ち下げることができる。このように、荷物の持ち下げ動作の段階に応じた出力でアクチュエータ2が駆動されることにより、引張力を効率良くアシスト力として利用することができるという利点がある。
【0053】
(第二実施形態の変形例)
本実施形態のアクチュエータ2、把持検知センサ10、及び姿勢検知センサ11について種々の設計変更が可能である点は、第一実施形態の変形例と同様である。また、本発明に係る第三角度、第四出力、第五出力、及び第六出力の各設定値が、本実施形態に限定されず適宜変更が可能である点も、第一実施形態の変形例と同様である。
【0054】
本実施形態では、図12に示すように、右側アクチュエータ2Rの出力を三段階に分けて減少させる制御を行った。しかし、本発明は、アクチュエータ2の出力を段階的に減少させることを特徴とし、その態様は本実施形態に限られず、二段階或いは四段階以上の複数段階に分けて減少させることも可能である。例えば、図11に示す第二段階減少処理SFの実行を省略し、第一段階減少処理SEの実行後に、第三段階減少処理SGを実行することにより、二段階に分けて右側アクチュエータ2Rの出力を減少させることも可能である。この場合、第三段階減少処理SGにおいては、図12に二点鎖線で示すように、右側アクチュエータ2Rの出力を40%から0%へ減少させればよい。
【0055】
本実施形態では、図11及び図12に示すように、右側アクチュエータ2Rの出力を減少させる処理のみを実行した。しかし、使用者が荷物の持ち下げ動作を途中で止めた場合には、右側アクチュエータ2Rの出力を復帰させる制御を行うことも可能である。図16は、右側アクチュエータ2Rの出力復帰制御について処理の流れを示すフローチャートである。また、図17は、出力復帰制御時における経過時間と右側アクチュエータ2Rの出力との関係を示すグラフである。
【0056】
図16に示すように、右側アクチュエータ2Rの三段階出力減少制御が開始されると、制御部15は、まず「第一段階減少処理SE」を実行し、次に「第二段階減少処理SF」を実行し、最後に「再増加処理SH」を実行し、これにより右側アクチュエータ2Rの出力復帰制御が終了する。なお、第一段階減少処理SEと第二段階減少処理SFは、第二実施形態と同じであるため、第二実施形態と同じ符号を用い、ここでは説明を省略する。なお、本変形例でも、「左右独立制御モード」を採用した場合の右側アクチュエータ2Rについて説明する。
【0057】
図16に示す「再増加処理SH」は、使用者が床面等に降ろしかけた荷物を持ち上げ直した場合に、右側アクチュエータ2Rの出力を再度増加させる処理である。図18は、再増加処理SHの処理の流れを示すフローチャートである。再増加処理SHが開始されると、まず制御部15は、初期状態における使用者の上体の傾きを検知する。すなわち、制御部15は、姿勢検知センサ11の出力を取得し(ステップS60)、その検知結果を初期傾き値として図3に示す記憶部13に記憶する(ステップS61)。本変形例では、第一段階減少処理SEで説明したように、この初期傾き値として鉛直方向より30°前傾状態が記憶される。次に、制御部15は、使用者が荷物を再度持ち上げるための体勢を整えたことを検知する。具体的には、制御部15は、姿勢検知センサ11の出力を再度取得する(ステップS62)。そして、制御部15は、使用者の上体が初期傾き値から5°(本発明に係る「第四角度」に相当)以上後傾したか否か、換言すれば、使用者の上体が鉛直方向より25°前傾状態に復帰したか否かを判定する(ステップS63)。
【0058】
ステップS63における判定の結果、使用者の上体が初期傾き値から5°以上後傾していないと判断した場合(S63:No)、制御部15は、荷物を再度持ち上げるための体勢を十分に整えていないと判断し、ステップS62へ戻って、使用者の上体が初期傾き値から5°以上後傾するまで待機する。一方、ステップS63における判定の結果、使用者の上体が初期傾き値から5°以上後傾したと判断した場合(S63:Yes)、制御部15は、再度持ち上げるための体勢を十分に整えたと判断し、図17に時刻T7として示すように、右側アクチュエータ2Rの出力を15%から100%(本発明に係る「第八出力」に相当)へ増加させる(ステップS64)。これにより、再増加処理SHが終了する。なお、第四角度及び第八出力の設定値が、本実施形態に限定されず適宜変更が可能である点は、第一実施形態の変形例と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係る上肢アシスト装置は、使用者の歩行等を支援する下肢アシスト装置にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 上肢アシスト装置
2 アクチュエータ
3 ワイヤ
10 把持検知センサ
11 姿勢検知センサ
12 タイマー
15 制御部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18