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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015945
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】ウェーハ固定方法、半導体製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20250124BHJP
   H01L 21/677 20060101ALI20250124BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20250124BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20250124BHJP
   H01J 37/20 20060101ALN20250124BHJP
【FI】
H01L21/68 N
H01L21/68 R
H01L21/68 S
H01L21/265 603D
H01J37/317 B
H01J37/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118870
(22)【出願日】2023-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】302054866
【氏名又は名称】日新イオン機器株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村山 喬之
(72)【発明者】
【氏名】平井 裕也
(72)【発明者】
【氏名】趙 維江
【テーマコード(参考)】
5C101
5F131
【Fターム(参考)】
5C101AA25
5C101FF16
5C101FF46
5C101FF49
5C101FF53
5C101FF58
5C101FF59
5C101GG22
5F131AA02
5F131AA22
5F131BA23
5F131CA09
5F131DA33
5F131DA42
5F131EA03
5F131EA24
5F131EA25
5F131EB11
5F131EB12
5F131EB13
5F131EB15
5F131EB17
5F131EB31
5F131EB32
5F131EB34
5F131EB36
5F131EB38
5F131EB58
5F131EB81
5F131EB82
5F131FA13
5F131FA14
5F131FA32
5F131KA23
5F131KA54
(57)【要約】
【課題】ウェーハ離脱時に生じていた応力解放による不具合の発生を軽減する。
【解決手段】メカニカルクランプMと静電チャックEを有する半導体製造装置に使用されるウェーハ固定具Fで、ウェーハWの処理温度が室温よりも高い第1基準温度T1以上であるとき、メカニカルクランプMだけを使用して、ウェーハWを固定する。また、半導体製造装置IMは、メカニカルクランプMと静電チャックEを併用してウェーハWを固定するウェーハ固定具Fと、ウェーハWの固定を制御する制御装置Cとを有し、制御装置Cは、ウェーハWの処理温度が室温よりも高い第1基準温度T1以上であるとき、メカニカルクランプMだけを使用して、ウェーハWを固定する。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メカニカルクランプと静電チャックを有する半導体製造装置に使用されるウェーハ固定具で、
ウェーハの処理温度が室温よりも高い第1基準温度以上であるとき、前記メカニカルクランプだけを使用して、前記ウェーハを固定する、ウェーハ固定方法。
【請求項2】
前記ウェーハを固定する前に、前記ウェーハ固定具上で前記ウェーハを加熱し、前記ウェーハの温度を処理温度以上にする、請求項1記載のウェーハ固定方法。
【請求項3】
メカニカルクランプと静電チャックを有する半導体製造装置に使用されるウェーハ固定具で、
ウェーハの処理温度が室温よりも低い第2基準温度以下であるとき、前記メカニカルクランプだけを使用して、前記ウェーハを固定する、ウェーハ固定方法。
【請求項4】
メカニカルクランプと静電チャックを併用してウェーハを固定するウェーハ固定具と、
前記ウェーハの固定を制御する制御装置とを有し、
前記制御装置は、前記ウェーハの処理温度が室温よりも高い第1基準温度以上であるとき、前記メカニカルクランプだけを使用して、前記ウェーハを固定する、半導体製造装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記ウェーハを固定する前に、前記ウェーハ固定具上で前記ウェーハを加熱し、前記ウェーハの温度を処理温度以上にする、請求項4記載の半導体製造装置。
【請求項6】
前記メカニカルクランプは、前記ウェーハの周端部を部分的に固定するものであり、
前記ウェーハの周端部で、前記メカニカルクランプで固定されていない場所に、前記ウェーハの径方向への移動を規制する規制部材を備える、請求項4または請求項5記載の半導体製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
メカニカルクランプと静電チャックを併用するウェーハ固定方法と、当該固定方法が使用される半導体製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置たるイオン注入装置での一部の注入処理は、高温に加熱されたウェーハに対して実施されている。例えば、SiCウェーハは、イオン注入後のアニール処理での結晶欠陥の回復が難しく、デバイス特性への悪影響を避けるため、ウェーハを高温に加熱した状態でイオン注入処理が実施されている。
【0003】
イオン注入処理にあたり、ウェーハはメカニカルクランプや静電チャックによって固定されている。例えば、特許文献1には、静電チャックの特性劣化による吸着力の低下を補助するために、所定温度以上の高温注入処理にあたっては、メカニカルクランプを静電チャックと併用することが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、動力機構を具備しないメカニカルクランプと静電チャックとを併用し、ウェーハを固定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2013-531374
【特許文献2】特開2015-203140
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高温域では、静電チャックの性能が劣化する。しかしながら、静電チャックは、ウェーハ裏面を広範囲に固定する構成であることから、ウェーハ全体は、ある程度しっかりと固定されている。
高温注入時、ウェーハは、ヒーターやイオンビームの照射によって加熱される。この際、ウェーハがしっかりと固定されていれば、ウェーハには応力が発生する。
【0007】
高温注入処理後、ウェーハ固定具からウェーハを離脱する際に、注入処理中に抑えられていた熱歪が、応力として一挙に解放される。その結果、ウェーハが割れる、あるいは、ウェーハが跳ねてウェーハ固定具から離脱する等の不具合が発生する。
【0008】
特許文献1および特許文献2には、上記不具合についての対策が何ら開示されていない。また、静電チャックを使用する場合、ウェーハには残留吸着力が発生する。ウェーハ固定具からのウェーハ離脱時には、残留吸着力を除去するための複雑な電圧制御が必要となる。
【0009】
本発明は、ウェーハ離脱時に生じていた応力解放による不具合の発生を軽減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ウェーハ固定方法は、
メカニカルクランプと静電チャックを有する半導体製造装置に使用されるウェーハ固定具で、
ウェーハの処理温度が室温よりも高い第1基準温度以上であるとき、前記メカニカルクランプだけを使用して、前記ウェーハを固定する。
【0011】
ウェーハの熱変形量が比較的大きくなる高温域ではメカニカルクランプだけを使用して、ウェーハを固定するようにしたので、ウェーハ離脱時に解放される応力を軽減することができる。これにより、ウェーハ離脱時に生じていた応力解放による不具合の発生を軽減できる。
【0012】
ウェーハ加熱時に生じる応力を軽減するには、
前記ウェーハを固定する前に、前記ウェーハ固定具上で前記ウェーハを加熱し、前記ウェーハの温度を処理温度以上にすることが望ましい。
【0013】
低温処理において、ウェーハに生じる応力を軽減するためには、
ウェーハ固定方法は、
メカニカルクランプと静電チャックを有する半導体製造装置に使用されるウェーハ固定具で、
ウェーハの処理温度が室温よりも低い第2基準温度以下であるとき、前記メカニカルクランプだけを使用して、前記ウェーハを固定する。
【0014】
高温処理と同様に、ウェーハの処理温度が室温よりも低い第2基準温度以下であるとき、メカニカルクランプだけを使用してウェーハを固定することで、応力解放によるウェーハ離脱時不具合の発生を軽減できる。
【0015】
半導体製造装置は、
メカニカルクランプと静電チャックを併用してウェーハを固定するウェーハ固定具と、
前記ウェーハの固定を制御する制御装置とを有し、
前記制御装置は、前記ウェーハの処理温度が室温よりも高い第1基準温度以上であるとき、前記メカニカルクランプだけを使用して、前記ウェーハを固定する。
【0016】
上記構成であれば、ウェーハの変形が許容でき、応力解放によるウェーハ離脱時の不具合の発生を軽減できる。
【0017】
ウェーハ加熱時に生じる応力を軽減するには、
前記制御装置は、前記ウェーハを固定する前に、前記ウェーハ固定具上で前記ウェーハを加熱し、前記ウェーハの温度を処理温度にすることが望ましい。
【0018】
前記メカニカルクランプは、前記ウェーハの周端部を部分的に固定するものであり、
前記ウェーハの周端部で、前記メカニカルクランプで固定されていない場所に、前記ウェーハの径方向への移動を規制する規制部材を備えることが望ましい。
【0019】
規制部材があれば、メカニカルクランプからのウェーハの脱落をより確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0020】
ウェーハの熱変形量が比較的大きくなる高温域ではメカニカルクランプだけを使用して、ウェーハを固定しているので、ウェーハ離脱時に解放される応力が軽減でき、ひいては応力解放による不具合の発生が軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ウェーハ固定具の構成例を示す模式的平面図
図2図1をP方向からみたときのウェーハ固定具の構成例を示す模式的平面図
図3】ウェーハ固定具を備えるイオン注入装置の構成例を示す模式的平面図
図4】ウェーハ固定方法の一例を示すフローチャート
図5】ウェーハ固定方法の別の例を示すフローチャート
図6】ウェーハ固定方法の他の例を示すフローチャート
図7】ウェーハ固定方法の他の例を示すフローチャート
図8】ウェーハ固定具の別の構成例を示す模式的平面図
図9】ウェーハ固定具の他の構成例を示す模式的平面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、ウェーハ固定具Fの構成例を示す模式的平面図である。図2は、図1をP方向からみたときのウェーハ固定具Fの構成例を示す模式的平面図であり、図の簡略化のため、規制部材6の図示は省略している。
これらの図にもとづいてウェーハ固定具Fの構成例を説明する。
【0023】
ウェーハ固定具Fは、メカニカルクランプMと静電チャックEを備えている。このウェーハ固定具Fは、イオン注入装置やイオンビームエッチング装置、成膜装置等の半導体製造装置でウェーハWを処理する際に使用されている。
メカニカルクランプMは、例えば、特許文献2と同様に、動力機構が不要なメカニカルクランプである。
ウェーハ固定具Fの傾きを変更することで、リンク機構3、ロッド4、押し当て部5が連動して、ウェーハの上面端部をおさえる爪1の開閉動作が実現される。
【0024】
静電チャックEは、例えば、図2に図示される一対の電極10a、10bを備えた双極性の静電チャックである。静電チャックEは、極性の異なる直流電圧を各電極10a、10bに印加することで、クーロン力やジョンソンラーベック力によりウェーハWを吸着する。
【0025】
静電チャックEは、ヒーター11を備えており、処理前にウェーハWを所定の処理温度に加熱する。ただし、静電チャックEがヒーター11を備えることは必須ではなく、静電チャックEとは別にウェーハWを加熱する加熱手段が設けられていてもよい。例えば、ウェーハWの表面に対向する位置へ移動可能なLEDランプからなるヒーターを用いて、ウェーハWの処理前にウェーハWの温度を処理温度に加熱してもよい。
さらに、静電チャックEは、ウェーハWの温度を測定するための温度測定器31(例えば、熱電対)を備えていてもよい。図2では、ウェーハWの温度を温度測定器31で直接測定しているが、ウェーハ温度と相関の取れる他の部材の温度(例えば、静電チャックEの温度)を測定することで間接的にウェーハ温度を測定してもよい。
【0026】
支持台2は、静電チャックEを支持している。例えば、半導体製造装置たるイオン注入装置にウェーハ固定具Fが使用される場合、不図示の駆動機構により、支持台2が回転や傾斜することで、ウェーハWに形成されたデバイス構造に対するイオンビームの照射角度が調整される。
【0027】
静電チャックEの周囲には、円形のウェーハWの径方向への移動を規制する規制部材6が設けられている。静電チャックEにウェーハWを載置した際、規制部材6は、ウェーハWの周縁に当接するか、ウェーハWの周縁から少し離間している。
規制部材6は、棒状の耐熱部材であり、例えば、グラッシーカーボンやSiC、SiC焼結体、タンタル等の材料からなる。
【0028】
制御装置Cは、データを記憶する記憶機能、データを演算する演算機能、演算結果や入力データをもとに各部を制御する機能を備えている。
制御装置Cは、レシピ情報Rの入力を受けて、レシピ情報Rに含まれるウェーハWの処理温度と制御装置Cに記憶されている基準温度とを比較する。その後、比較結果をもとに、ウェーハ固定具Fへの指令信号Iを出力する。
【0029】
図3は、ウェーハ固定具Fを備えるイオン注入装置IMの構成例を示す模式的平面図である。プラズマチェンバ21では、イオンビームIBのもとになるプラズマが生成される。引出電極22は、プラズマチェンバ21で生成されたプラズマからイオンビームIBの引出しを行う。
【0030】
引出電極22から引き出されたイオンビームIBには、複数のイオンが含まれている。質量分析電磁石23は、イオンビームIBから所望するイオンを取り出すため、質量に応じてイオンを分析する。加速管24は、質量分析電磁石23で分析されたイオンビームIBを加減速して、所望するエネルギーのイオンビームIBに変換する。
【0031】
加速管24の後段には、エネルギー分析電磁石25が配置されている。エネルギー分析電磁石25は、質量分析電磁石23と加速管24との間や加速管24内での荷電変換によって発生した不要なエネルギー成分のイオンを除去する。
【0032】
イオンビームIBを、イオンビームIBの進行方向に垂直な平面で切断した際、引出電極22から引き出されたイオンビームIBの切断面は楕円形である。このようなイオンビームIBは、スポットビームと呼ばれている。
エネルギー分析電磁石25を通過後、イオンビームIBは、走査器26で一方向に沿って周期的に走査されて、見かけ上、走査方向に幅の広いイオンビームに変換される。
【0033】
走査されたイオンビームIBは、平行化器27に入射し、平行化器27で磁気的な偏向により、進行方向が揃った平行なイオンビームIBに変換される。平行化器27を通過した後のイオンビームIBの走査幅は、イオンビームIBの走査方向におけるウェーハWの寸法よりも広い。このようなイオンビームIBに対して、ウェーハWを図のY軸と平行な方向に移動することで、イオン注入処理が実施される。
【0034】
処理室28には、ウェーハ固定具Fに保持されたウェーハWが配置されている。ウェーハ固定具Fを支持する支持台2は、駆動機構30に連結されている。駆動機構30によって、支持台2が回転、傾斜することにより、ウェーハWに形成されたデバイス構造に対するイオンビームIBの照射角度が調整される。
【0035】
ウェーハWをウェーハ固定具Fに受け渡しする際、駆動機構30によって支持台2が図示の姿勢から約90度回転する。このとき、静電チャックEのウェーハ支持面は、図の上方を向いている。静電チャックEがこの姿勢にあるとき、静電チャックE上に載置されたウェーハWは、処理温度以上となるようにヒーター11により加熱される。
【0036】
処理室8の天井には、温度測定器32(例えば、放射温度計やサーモグラフィ)が設けられている。この温度測定器32は、静電チャックE上にあるウェーハWの温度を測定するために使用される。
なお、ウェーハ温度の測定は、何らかの手段で実施できればよく、その数は制限されない。例えば、静電チャックEに温度測定器31が設けられている場合には、処理室8の天井から温度測定器32を排除してもよい。
【0037】
図示されるXYZの各軸は、後述する処理室28に入射する理想的なイオンビームIBの軌道を基準にして描かれている。Z軸は、イオンビームIBの進行方向と平行な軸である。X軸とY軸は、Z軸と互いに直交している。XYZの各軸の方向は、ビームラインを輸送されるイオンビームIBの位置に応じて変化する。このイオン注入装置IMでは、走査器26でのイオンビームIBの走査方向はX軸と平行な関係にある。
なお、制御装置Cは、イオン注入装置IMの各部を制御する機能を有していてもよい。
【0038】
図4は、図1乃至図3に記載の制御装置Cで実施されるウェーハ固定方法の一例を示すフローチャートである。
制御装置Cへレシピ情報Rを入力する(処理S1)。次に、レシピ情報Rに含まれるウェーハWの処理温度と制御装置Cに記憶されている室温(約25℃)よりも高い第1基準温度T1との比較を行う(処理S2)。ここで、処理温度が第1基準温度T1(例えば、300℃や500℃)以上であれば、メカニカルクランプMだけを使用して、ウェーハWの固定を実施する(処理S3)。反対に、処理温度が第1基準温度T1を下回るのであれば、ウェーハ固定具Fのうち、少なくとも静電チャックEを使用して、ウェーハWの固定を実施する(処理S4)。
【0039】
一般には、ウェーハWの処理温度が高くなれば、ウェーハWの熱変形量は大きくなる。
ウェーハWの熱変形がほとんど許容されない程度に、ウェーハWがしっかり固定されていれば、ウェーハWの離脱時の応力は大きくなり、ウェーハWの割れや跳ねといった不具合が多発する。
【0040】
半導体製造装置で使用されるメカニカルクランプは、被処理面とするウェーハ面の全域を覆うものではない。メカニカルクランプは、ウェーハWの周端全域あるいはその一部、または、周端近傍で、ウェーハWを固定する。
メカニカルクランプは、静電チャックEのようにウェーハ裏面を広範囲に固定しないため、ウェーハWの熱変形が許容できる。つまり、メカニカルクランプによるウェーハWの固定は、ウェーハWが押圧されている一部の場所を除いては、ウェーハWが熱変形することを妨げない。
【0041】
図4のフローチャートでは、ウェーハWの熱変形量が比較的大きくなる高温域ではメカニカルクランプMだけを使用して、ウェーハWを固定している。これにより、ウェーハ離脱時に解放される応力を軽減することができ、ウェーハ離脱時に生じていた応力解放による不具合の発生が軽減できる。
また、メカニカルクランプMだけを使用することにより、静電チャックEの使用時に発生していた残留吸着力除去のための複雑な電圧制御が不要となる。
【0042】
一方、半導体製造処理を高精度に行うには、ウェーハWの位置固定は強固に行われた方がよい。このことから、第1基準温度T1を下回る処理温度の場合には、ウェーハWの固定に静電チャックEを使用する。この際、必要に応じてメカニカルクランプMを併用してもよい。
静電チャックEの使用により、残留吸着力の問題が発生するが、第1基準温度T1を下回る処理温度であれば、ウェーハWの熱変形量は少なく、ウェーハ離脱時に解放される応力は小さくなる。このことから、残留吸着力の除去に焦点をあてて対応すればいいので、ウェーハ離脱時の制御が簡便となる。
【0043】
図5は、ウェーハ固定方法の別の例を示すフローチャートである。図4のフローチャートと同一の処理については、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。以降のフローチャートについても同様とする。
【0044】
図5のフローチャートは、図4のフローチャートに処理S5と処理S6が追加されている。ウェーハWを静電チャックE上に載置した後、ウェーハWの固定を行う前に、ウェーハWを加熱する(処理S5)。ウェーハWを加熱した後、ウェーハ温度を測定し、測定結果とレシピ情報Rから得た処理温度とを比較する(処理S6)。比較結果から、ウェーハ温度が処理温度以上となる場合、処理S2に進む。反対に、ウェーハ温度が処理温度を下回る場合には、処理S5に戻り、ウェーハWの加熱を継続する。
【0045】
ウェーハWを固定した後にウェーハWを処理温度に加熱した場合、ウェーハWには大きな応力が発生する。特に、ウェーハWに反りがあれば、ウェーハWの加熱による熱変形量は大きく、ウェーハ離脱時の応力は非常に大きくなる。
このような応力の発生を軽減するために、ウェーハWの固定前に、意図的にウェーハWの熱変形を促しておき、熱変形が小さくなった後でウェーハWを固定する。
【0046】
上述したウェーハWの加熱は、ウェーハ固定具F上で実施される。ただし、ウェーハ固定具F上とは別の場所でウェーハWを予備的に加熱することを排除するものではない。最終的に、ウェーハ温度を処理温度以上にウェーハ固定具F上で加熱するものであれば、ウェーハWをウェーハ固定具Fに搬送するまでの間に予備的な加熱が実施されてもよい。
【0047】
また、上述したウェーハ固定具F上とは、ウェーハ固定具Fとウェーハ固定具Fの上方領域を含んでいる。
静電チャックEへのウェーハWの受け渡し前、ウェーハWは、搬送ロボットの搬送アームに把持された状態で、ウェーハ固定具Fに設けられる静電チャックEの上方に搬送される。この状態にあるとき、ウェーハ温度を処理温度以上に加熱してもよい。この理由は、ウェーハWを加熱しても、ウェーハWの加熱位置と静電チャックEとの距離が近いため、ウェーハ温度はほとんど変化しないからである。
【0048】
図6は、ウェーハ固定方法の他の例を示すフローチャートである。処理S6でウェーハ温度が処理温度以上となった後、経過時間をカウントする(処理S7)。その後、経過時間と予め定められた設定時間(TM)との比較を行う(処理S8)。経過時間が設定時間以上となった後に、メカニカルクランプMや静電チャックEでウェーハWを固定する。
設定時間は、ウェーハWの熱変形量が十分に小さくなるまでの時間であり、実験などによって予め求められた時間である。制御装置Cに予め設定時間を記憶しておき、必要に応じて設定時間を適宜変更してもよい。また、ウェーハWの種類や処理温度ごとにデータテーブルを用意しておき、レシピ情報Rに応じて設定時間を切り替えてもよい。
設定時間を設け、十分にウェーハWを加熱することで、ウェーハ固定後のウェーハWの熱変形量をより小さくすることが可能となる。また、付加的な効果として、ウェーハ面内での熱分布の均一化を図ることも可能となる。
【0049】
これまでの実施形態では、ウェーハWの高温処理を対象にしていたが、低温処理でもウェーハ離脱時に応力解放によるウェーハWの割れや跳ねが同様に起こりうる。
図7は、低温処理でのウェーハ固定方法の例を示すフローチャートである。高温処理でのウェーハ固定方法の例を示すフローチャートである図4との違いは、処理S9にある。
処理S9では、レシピ情報Rから得たウェーハWの処理温度と室温(例えば、約25℃)よりも低い第2基準温度とを比較する。比較結果から、処理温度が第2基準温度T2以下の場合、メカニカルクランプMだけでのウェーハWの固定を実施する。
【0050】
高温処理と同様に、ウェーハWの処理温度が室温よりも低い第2基準温度T2(例えば、-50℃)以下であるとき、メカニカルクランプMだけを使用して、ウェーハを固定することで、応力解放によるウェーハ離脱時の不具合の発生が軽減できる。
【0051】
静電チャックEは、ヒーター11に代えて、あるいは、ヒーター11に加えて、ウェーハ温度の冷却にあたり、ウェーハ冷却手段を備えている。ウェーハ冷却手段の具体例としては、ガルデン等の冷媒を流す流路やペルチェ素子が挙げられる。
【0052】
図8は、ウェーハ固定具Fの別の構成例を示す模式的平面図である。図1に示すウェーハ固定具Fとの違いは、棒状の部材に代えて、幅の広い弧状の部材からなる規制部材36を採用している点にある。
イオン注入処理でチルト角が設定された場合には、ウェーハ固定具FをイオンビームIBの進行方向に対して斜めに傾けた状態で、イオン注入処理が実施される。
この場合、静電チャックEの側面がイオンビームIBに露出することとなり、ここにイオンビームIBが照射されることで、静電チャックEが故障することが懸念される。
【0053】
そこで、静電チャックEの周縁に沿った弧状の規制部材36を採用することで、イオンビームIBによる静電チャックEのスパッタリングを防止することができる。
規制部材36の支持台2からの高さ(図の紙面奥手前方向での寸法)は、静電チャックEの高さ(図の紙面奥手前方向での寸法)よりも高い。
規制部材36は、ウェーハWの受け渡しに支障がなければ、メカニカルクランプMの爪1による押圧部位を除き、静電チャックEの周縁に沿って全体的に設けられていてもよい。
【0054】
メカニカルクランプMの爪1の先端部は、ウェーハWの端部を下押しする1本の爪でもいいが、先端部に弾性を持たせるために、ウェーハWの端部を下押しする部位を複数に枝分かれした部位として構成してもよい。爪1の材質については、スパッタリングされにくく、ウェーハWが傷つきにくい、グラッシーカーボンやSiC、SiC焼結体、タンタル等を使用する。
【0055】
爪1の形状が複雑であることで材料の加工が難しい場合には、爪1を複数の材料で構成し、ウェーハWに当接する先端部だけをグラッシーカーボンやSiC等の材料で構成してもよい。また、爪1の先端部にさらなる弾性を持たせるために、爪1の先端部を別の当接部材9で構成し、これにコイルバネや板バネ等の弾性部材を取り付ける構成としてもよい。具体的には、図9に示す構成となる。ここで弾性部材は、オーステナイト系ステンレス鋼やNi基超合金、Ni-Co系超合金といった耐熱性に優れた材料で構成する。
【0056】
図9のように、当接部材9に弾性部材を取り付けることで、ウェーハWの変形を十分に許容することができ、ウェーハWの応力をさらに軽減することができる。また、図9の構成に代えて、当接部材9そのものを弾力性のある部材で構成してもよい。この場合、当接部材9には、ウェーハWと密着しにくく、耐熱性のある材料を使用する。
【0057】
上記実施形態でのメカニカルクランプMの構成は、一例であり、爪1の開閉動作を実現する動力機構を備える構成であってもよい。
また、メカニカルクランプMによるウェーハWの固定は、高温域から低温域の全てのウェーハ処理において、実施されていてもよい。
メカニカルクランプMによるウェーハWの押圧部位は、ウェーハWの上面に限らず、側面としてもよい。
【0058】
上記実施形態での静電チャックEは、双極性の直流電圧でウェーハWを吸着するものであったが、静電チャックEの構造や吸着方法は、上記実施形態で説明した構成に限られない。例えば、2枚以上の電極を設け、2相以上の交流電圧でウェーハWを吸着する静電チャックやグラディエント力を用いてウェーハWを吸着する静電チャックを採用してもよい。
また、静電チャックEは、ウェーハWの裏面全域を吸着している必要はなく、ウェーハWの一部を吸着するものでもよい。静電チャックEによるウェーハWの吸着領域が、メカニカルクランプMでのウェーハWの固定領域よりも大きなものであれば、本発明によるウェーハ固定方法を実施することの効果を得ることができる。
【0059】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0060】
F ウェーハ固定具
M メカニカルクランプ
E 静電チャック
W ウェーハ
IM イオン注入装置
T1 第1基準温度
T2 第2基準温度
C 制御装置
6、36 規制部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2024-06-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0036
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0036】
処理室8の天井には、温度測定器32(例えば、放射温度計やサーモグラフィ)が設けられている。この温度測定器32は、静電チャックE上にあるウェーハWの温度を測定するために使用される。
なお、ウェーハ温度の測定は、何らかの手段で実施できればよく、その数は制限されない。例えば、静電チャックEに温度測定器31が設けられている場合には、処理室8の天井から温度測定器32を排除してもよい。
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図8
【補正方法】変更
【補正の内容】
図8