(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015965
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】有機ケイ素化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/08 20060101AFI20250124BHJP
【FI】
C07F7/08 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118916
(22)【出願日】2023-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000246398
【氏名又は名称】有機合成薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】武口 俊太
(72)【発明者】
【氏名】梶原 優紀
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 峰成
【テーマコード(参考)】
4H049
【Fターム(参考)】
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ54
4H049VR22
4H049VR42
4H049VS02
4H049VT54
4H049VU34
4H049VV23
4H049VW02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】有害なHClガスが発生せず、高温で行わなくてもよく、かつ、収率の良いトリフルオロメタンスルホニルオキシ基(CF
3SO
3)を有する有機ケイ素化合物の製法を提供する。
【解決手段】本発明は、式(I)
(式中、各Rは、同一又は異なっていてもよく、C1―C6の直鎖又は分岐アルキル基、C3-C8シクロアルキル基、フェニル基又はこれらを組み合わせた基を示す)で表されるジ置換シラン化合物と、トリフルオロメタンスルホン酸とを反応せることを特徴とする、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基を有する有機ケイ素化合物を製造する方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】
(式中、各Rは、同一又は異なっていてもよく、C1-C6の直鎖又は分岐アルキル基、C3-C8シクロアルキル基、フェニル基又はこれらを組み合わせた基を示す)で表されるジ置換シラン化合物と、トリフルオロメタンスルホン酸とを反応せることを特徴とする、
式(II)
【化2】
(式中、Rは式(I)の定義と同じであり、OTfはCF
3SO
3基を示し、Wは水素原子又はOTfを示す)で表される有機ケイ素化合物を製造する方法。
【請求項2】
式(II)で表される有機ケイ素化合物が、ジ-tert-ブチルシリルトリフルオロメタンスルホナート又はジ-tert-ブチルシリルビス(トリフルオロメタンスルホナート)であることを特徴とする、請求項1に記載の有機ケイ素化合物を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基(CF3SO3)を有する有機ケイ素化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリヒドロキシ化合物の選択的保護試薬として、di-tert-butylsilyl bis(trifluoromethanesulfonate)等のトリフルオロメタンスルホニルオキシ基(CF3SO3)を有する有機ケイ素化合物が知られている(非特許文献1)。
たとえば、di-tert-butylsilyl bis(trifluoromethanesulfonate)は、アミダイト合成におけ るヌクレオシド類の3’,5’-ジヒドロキシ基等、ジオールの保護試薬としてよく用いられる。
di-tert-butylsilyl bis(trifluoromethanesulfonate)等のトリフルオロメタンスルホニルオキシ基(CF3SO3)を有する有機ケイ素化合物の合成法としては、非特許文献2には、以下の反応式で示される方法が記載されている。
R2SiHCl+2CF3SO3H→R2Si(OSO2CF3)2+H2+HCl
(式中、Rは、イソプロピル基又はt-ブチル基を示す)
上記反応は、22℃でCF3SO3Hを滴下した後、2時間還流している。CF3SO3Hの沸点が162℃であるから、還流は160℃以上で行われていると推定される。収率は、di-tert-butylsilyl bis(trifluoromethanesulfonate)が71%、diisopropylsilyl bis(trifluoromethanesulfonate)は77%と記載されている。
当該方法は、他の文献でも引用されているから、慣用的な方法と考えられる。
しかしながら、当該方法は、有害なHClガスが発生すること、トリフルオロメタンスルホン酸の沸点(162℃)程度の高温で行うこと、及び、収率が高くないという課題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis, Fifth edition, p456-459, 2014
【非特許文献2】Tetrahydron Letters, Vol.23, No47, pp4871-4874, 1982
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有害なHClガスが発生せず、トリフルオロメタンスルホン酸の沸点(162℃)程度という高温で行わなくてもよく、かつ、収率の良いdi-tert-butylsilyl bis(trifluoromethanesulfonate)等のトリフルオロメタンスルホニルオキシ基(CF3SO3)を有する有機ケイ素化合物の製法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、ジ-tert-ブチルシラン等のジ置換シラン化合物を出発物質とすることにより、HClガスが発生することなく、高温で行うことなく、かつ、収率よくトリフルオロメタンスルホニルオキシ基(CF3SO3)を1個又は2個有する有機ケイ素化合物を製造することができることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は,
(1)式(I)
【化1】
(式中、各Rは、同一又は異なっていてもよく、C1-C6の直鎖又は分岐アルキル基、C3-C8シクロアルキル基、フェニル基又はこれらを組み合わせた基を示す)で表されるジ置換シラン化合物と、トリフルオロメタンスルホン酸とを反応せることを特徴とする、
式(II)
【化2】
(式中,Rは式(I)の定義と同じであり、OTfはCF
3SO
3基を示し、Wは水素原子又はOTfを示す)で表される有機ケイ素化合物を製造する方法に関し、具体的には、
(2)式(II)で表される有機ケイ素化合物が、ジ-tert-ブチルシリルトリフルオロメタンスルホナート又はジ-tert-ブチルシリルビス(トリフルオロメタンスルホナート)であることを特徴とする、(1)に記載の有機ケイ素化合物を製造する方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製法により、有害なHClガスが発生せず、トリフルオロメタンスルホン酸の沸点(162℃)程度という高温で行わなくてもよく、かつ、収率よくdi-tert-butylsilyl bis(trifluoromethanesulfonate)等のトリフルオロメタンスルホニルオキシ基(CF3SO3)を1個又は2個有する有機ケイ素化合物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(式(I)で表されるジ置換シラン化合物)
出発物質である式(I)
【化3】
で表されるジ置換シラン化合物は、市販されているものでもよいし、ジ置換クロロシランのクロロ基を水素化アルミニウムリチウムなど金属水素化物などで水素置換する等、公知の方法により得ることができる。
【0009】
式(I)中、各Rは、同一又は異なっていてもよく、C1-C6の直鎖又は分岐アルキル基、C3-C8シクロアルキル基、フェニル基又はこれらを組み合わせた基を示す。
C1-C6の直鎖又は分岐アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。
C3-C8シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。、
これらを組み合わせた基は、C1-C6の直鎖又は分岐アルキル基、C3-C8シクロアルキル基及びフェニル基を組み合わせた基である。
C1-C6の直鎖又は分岐アルキル基とC3-C8シクロアルキル基を組み合わせた基としては、シクロプロピルメチル基、2-シクロプロピルエチル基、シクロブチルメチル基、シクロへキシルメチル基、1-メチル-シクロプロピル基、4-メチル-シクロヘキシル基等が挙げられる。
C1-C6の直鎖又は分岐アルキル基とフェニル基を組みわせた基としては、ベンジル基、フェネチル基、3-フェニル-n-プロピル基、2-メチルフェニル、4-メチルフェニル基等が挙げられる。
具体的は、ジ-tert-ブチルシラン、ジ-iso-プロピルシラン、ジフェニルシラン、メチルシクロヘキシルシラン、メチルフェニルシラン等が挙げられる。
【0010】
(式(II)で表される有機ケイ素化合物)
製造される式(II)
【0011】
【化4】
で表される有機ケイ素化合物は、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基(CF
3SO
3)が1個結合した化合物と、2個結合した化合物を包含する。
具体的には、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基(CF
3SO
3)が1個結合した化合物としては、ジ-iso―プロピルシリルトリフルオロメタンスルホナート、ジ-tert-ブチルシリルトリフルオロメタンスルホナート、ジシクロヘキシルシリルトリフルオロメタンスルホナート、ジフェニルシリルトリフルオロメタンスルホナート等が挙げられ、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基(CF
3SO
3)が2個結合した化合物としては、ジ-iso―プロピルシリルビス(トリフルオロメタンスルホナート)、ジ-tert-ブチルシリルビス(トリフルオロメタンスルホナート)、ジシクロヘキシルシリルビス(トリフルオロメタンスルホナート)、ジフェニルシリルビス(トリフルオロメタンスルホナート)等が挙げられる。
【0012】
(反応)
本発明における反応は、以下の反応式により表されるように、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基(CF
3SO
3)が1個結合した化合物を経由して、2個結合した化合物が生成される。
【化5】
式(I)で表されるジ置換シランとトリフルオロメタンスルホン酸の使用比や反応温度等を調整するなどにより、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基(OTf)が1個結合した化合物と2個結合した化合物との生成量を調整することができる。
上記ジ置換シランとトリフルオロメタンスルホン酸とを反応させる条件は以下のとおりである。
式(II)で表される有機ケイ素化合物がビス(トリフルオロメタンスルホナート)体である化合物を製造する場合は、式(I)で表されるジ置換シランとトリフルオロメタンスルホン酸の使用量は、ジ置換シラン1モルに対してトリフルオロメタンスルホン酸が2モル以上あれば特に制限はないが、通常、2~3モルである。
反応温度は、特に制限はないが、トリフルオロメタンスルホン酸の沸点(162℃)より低い温度で良く、通常、80~160℃である。
式(II)で表される有機ケイ素化合物がモノ(トリフルオロメタンスルホナート)体である化合物を製造する場合は、式(I)で表されるジ置換シランとトリフルオロメタンスルホン酸の使用量を、ジ置換シラン1モルに対してトリフルオロメタンスルホン酸を通常1~2モルとする。あるいは、ジ置換シラン1モルに対してトリフルオロメタンスルホン酸を2モル以上として、反応温度を0~80℃未満、通常、0~60℃で反応させることにより、モノ(トリフルオロメタンスルホナート)体である化合物を得ることができる。
【0013】
反応時間は、反応温度、反応原料の量等に応じて適宜設定することができる。また、反応は、常圧で行うことができる。
反応触媒は不要である。
本発明の反応は、無溶媒で行うことができる。溶媒を使用することもできるが、その場合は、反応に影響を与えない、高沸点溶媒が好ましい。たとえば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒や、ブチルエーテル等のエーテル類を使用することができる。
反応原料の混合方法は、特に制限はない。式(I)で表されるジ置換シランとトリフルオロメタンスルホン酸とを混合してから、加熱してもよいし、トリフルオロメタンスルホン酸に式(I)で表されるジ置換シランを、あるいは、逆に、式(I)で表されるジ置換シランにトリフルオロメタンスルホン酸を滴下しながら加熱することもできる。
【0014】
上記反応後は、常圧あるいは減圧蒸留により、式(II)で表される有機ケイ素化合物を取り出すことができる。
目的化合物である式(II)で表される有機ケイ素化合物の同定は、NMRスペクトル、GC-MSスペクトル等の測定により行うことができる。
以下に実施例を示すが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【実施例0015】
(実施例1)
反応容器にトリフルオロメタンスルホン酸476.4g(3.17mol)を仕込み、内温125±5℃でジ-tert-ブチルシラン183.4g(1.27mol)を滴下し、同温で3.5時間撹拌した。反応終了後、減圧蒸留を行い、ジ-tert-ブチルシリルビス(トリフルオロメタンスルホナート)を463.1g得た(収率83% ジ-tert-ブチルシラン仕込み基準)。
【0016】
(実施例2)
反応容器にジ-tert-ブチルシラン100mg(0.69mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸322mg(2.15mmol)を仕込み、40℃で4時間撹拌した。結果を表1に示す。
(実施例3)
反応温度を60℃とした以外は実施例2の操作を繰り返した。結果を表1に示す。
(実施例4)
反応温度を80℃とした以外は実施例2の操作を繰り返した。結果を表1に示す。
(実施例5)
反応温度を100℃とした以外は実施例2の操作を繰り返した。結果を表1に示す。
(実施例6)
反応温度を160℃とした以外は実施例2の操作を繰り返した。結果を表1に示す。
【0017】
表1中の化合物番号は、下記の反応式の化合物の番号に対応する。
【化6】
【0018】
反応液中に含まれる化合物1~3の存在比率は、GCを用いた面積百分率により算出した。
【0019】
【0020】
以下に、ジ-tert-ブチルクロロシランを用いた方法を比較例として示す。
(比較例1)
反応容器にジ-tert-ブチルクロロシラン250mg(1.40mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸651mg(4.34mmol)を仕込み、40℃で4時間撹拌した。結果を表2に示す。
【0021】
(比較例2)
反応温度を100℃とした以外は比較例1の操作を繰り返した。結果を表2に示す。
(比較例3)
反応温度を140℃とした以外は比較例1の操作を繰り返した。結果を表2に示す。
(比較例4)
反応温度を160℃とした以外は比較例1の操作を繰り返した。結果を表2に示す。
(比較例5)
反応温度を170℃とした以外は比較例1の操作を繰り返した。結果を表2に示す。
【0022】
表2中の化合物番号は、下記の反応式の化合物の番号に対応する。
【化7】
【0023】
【0024】
以上のとおり、実施例1の125±5℃でジ-tert-ブチルシランを滴下する方法では、高収率でジ-tert-ブチルシリルビス(トリフルオロメタンスルホナート)を得ることができた。
また、実施例2~6に示すとおり、温度を制御することにより、モノOTf体(化合物2)とジOTf体(化合物3)との製造を仕分けることができた。
他方、非特許文献2に記載のジ-tert-ブチルクロロシランを用いる方法(比較例)では、温度を制御しても、本発明の化合物2のようなモノOTf体は得られず、クロロ基が残った化合物5しか得られなかった。また、比較例の場合は、温度を上げても、ジOTf体(化合物3)の生成率は低かった。