(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015969
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】化粧品容器
(51)【国際特許分類】
A45D 34/00 20060101AFI20250124BHJP
A61K 8/27 20060101ALI20250124BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20250124BHJP
【FI】
A45D34/00 510Z
A61K8/27
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118925
(22)【出願日】2023-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】509119197
【氏名又は名称】株式会社エイエムジー
(74)【代理人】
【識別番号】100127328
【弁理士】
【氏名又は名称】八木澤 史彦
(74)【代理人】
【識別番号】100140866
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 武史
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 宏紀
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AB211
4C083AB212
4C083CC01
4C083DD23
4C083DD47
4C083EE01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、成形材料に銅や銀を含有させることなく、化粧品容器に格納された化粧品自体に細菌を消滅させる性質を生じさせ、化粧品の二次汚染の影響を低減することができる化粧品容器を提供する。
【解決手段】本発明の化粧品容器の容器本体20は、金属の成分として酸化亜鉛のみを含有し、酸化亜鉛の粉末の成形材料における含有量は、酸化亜鉛の粉末の樹脂に対する割合としての所定割合として規定されており、その所定割合は、化粧品容器に格納された化粧品に対して、所定条件において、細菌を消滅させる性質を生じさせるために必要十分な割合として規定される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体状の化粧品を格納する容器本体を有する化粧品容器であって、
前記容器本体は、樹脂を主成分とする成形材料で形成され、
前記成形材料は、金属の成分として、酸化亜鉛のみを含有し、
前記酸化亜鉛は粉末であり、
前記成形材料における前記酸化亜鉛の粉末の含有量は、前記成形材料における前記酸化亜鉛の粉末の割合としての所定割合として規定されており、
前記所定割合は、前記成形材料によって形成された前記化粧品容器に格納された前記化粧品に対して、所定条件において、前記化粧品に混入した細菌を消滅させる性質を生じさせるために必要十分な前記割合として規定される、化粧品容器。
【請求項2】
前記所定条件は、前記容器本体に、細菌数を低減するための防腐剤または添加物その他の成分を含まない前記化粧品が格納されて24時間経過した後に、前記化粧品に所定数の細菌を混入させて、前記細菌の繁殖に有利な温度においてさらに24時間経過したという条件である、
請求項1に記載の化粧品容器。
【請求項3】
前記所定割合は、前記容器本体の容量に対する前記容器本体の内面の面積の割合として定義される前記容器本体の比表面積、及び、前記粉末の粒子径によって規定される、請求項1または請求項2に記載の化粧品容器。
【請求項4】
前記粉末を構成する各粒子の最大幅を前記各粒子の粒子径とし、かつ、前記粉末の粒度分布の極大値を前記粉末の粒子径とするとき、前記粉末の粒子径は、1マイクロメートル以上10マイクロメートル以下である、請求項3に記載の化粧品容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化粧品容器に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品の製造工程中における細菌による汚染が「一次汚染」と呼ばれるのに対して、化粧品を格納した化粧品容器が開封され、使用者によって化粧品が使用された後における細菌による汚染は「二次汚染」と呼ばれる。
【0003】
上述の二次汚染の影響を低減するために、一般的に、防腐剤(パラペン等)や、防腐効果を有するフェノキシエタノールなどの添加物が化粧品に添加されている。しかし、使用者の健康の観点から、防腐剤や添加物は、使用しないのが好ましい。これに関連して、1回の使用量に対応する小容量の容器に化粧品を充填する技術が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、1か月分の化粧品の使用量に着目すると、その使用量の全量を1つの容器に格納するのではなく、小容量の容器に1回の使用量だけを格納するようにすると、多数の容器を必要とする。例えば、化粧品が1日に1回使用されるとすれば、30個の容器を必要とする。また、1回の使用量は、使用者によって異なる場合があり、また、同一人物であっても、状況に応じて異なる場合があるから、容器中の化粧品の量に過不足が生じ、結局、化粧品が無駄になる場合がある。
【0006】
これに対して、金属イオンの殺菌作用(「微量金属作用」と呼ばれている。)を利用して、化粧品に混入した細菌を低減させる技術が知られている。そして、顕著な微量金属作用を有する金属として、銅や銀が知られている。成形材料中に銅や銅を含有させて化粧品容器を形成すると、その化粧品容器に格納された化粧品に混入した細菌は、銅イオンや銀イオンの殺菌作用によって、消滅(死滅)または低減する。しかし、成形材料中に銅を分散させて化粧品容器を形成した場合には、銅イオンの影響によって、化粧品が青く着色されてしまうという問題がある。成形材料中に銀を分散させて化粧品容器を形成した場合には、相対的に長時間が経過しても銀イオンの濃度が継続的に高くなり、その銀イオンが人体に悪影響を及ぼす可能性がある。成形材料中に銀と銅の双方を分散させて化粧品容器を形成した場合には、銀イオンの濃度上昇を抑制することができるが、やはり、銅イオンの影響によって、化粧品が青く着色されてしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、上記を踏まえて、成形材料に銅や銀を含有させることなく、化粧品容器に格納された化粧品自体に細菌を消滅させる性質を生じさせ、化粧品の二次汚染の影響を低減することができる化粧品容器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第一の発明は、液体状の化粧品を格納する容器本体を有する化粧品容器であって、前記容器本体は、樹脂を主成分とする成形材料で形成され、前記成形材料は、金属の成分として、酸化亜鉛のみを含有し、前記酸化亜鉛は粉末であり、前記成形材料における前記酸化亜鉛の粉末の含有量は、前記成形材料における前記酸化亜鉛の粉末の割合としての所定割合として規定されており、前記所定割合は、前記成形材料によって形成された前記化粧品容器に格納された前記化粧品に対して、所定条件において、前記化粧品に混入した細菌を消滅させる性質を生じさせるために必要十分な前記割合として規定される、化粧品容器である。
【0009】
本発明の発明者は、化粧品容器に格納された化粧品自体に、化粧品に混入した細菌を消滅あるいは死滅させる性質を生じさせるという基本的な技術概念のもと、容器本体を形成する成形材料中に、金属の成分として、あえて、殺菌作用が相対的に弱いことが知られている酸化亜鉛(ZnO)のみを所定量だけ含有させることによって、銅(Cu)や銀(Ag)による悪影響を回避しつつ、化粧品の二次汚染の影響を低減する技術思想に想到した。酸化亜鉛(ZnO)の含有量は、成形材料における酸化亜鉛の割合(「所定割合」)として規定し、所定条件において、化粧品容器に格納した化粧品に対して、細菌を消滅させる性質を生じさせるために必要十分な割合に限定した。
【0010】
酸化亜鉛も微量金属作用を有する金属であるが、銅や銀に比較すると、その殺菌作用は弱い。このため、酸化亜鉛のみを成形材料に含有させて化粧品容器を形成し、化粧品容器に格納された化粧品自体に細菌を消滅させる性質を生じさせるという技術思想を体現した従来例は存在しない。
【0011】
もっとも、単に酸化亜鉛を含有する成形材料で形成された化粧品容器は従来から存在する。しかし、それらの化粧品容器における酸化亜鉛の使用目的は、白色への着色用、あるいは、外部からの紫外線の遮断であり、成形材料中の含有量は0.5重量%~3重量%程度である。あるいは、酸化亜鉛を分散させた成形材料を薄膜に成形して、その薄膜表面の細菌を減少させる技術は知られているが、本発明とは異なり、化粧品容器に格納された化粧品自体に殺菌作用を付与し、化粧品に混入した細菌を化粧品自体の殺菌作用によって消滅させるものではないから、技術思想が基本的に異なる。
【0012】
本発明の発明者は、所定条件において、成形材料における酸化亜鉛の割合が所定の割合(「所定割合」)に達すると、その成形材料によって形成された化粧品容器中に格納した化粧品が、細菌を消滅させる殺菌作用を有するようになることを実験によって確認した。さらに、酸化亜鉛の含有量が所定割合を超えると、化粧品中の亜鉛イオン濃度は増加するが、殺菌作用には有意な相違は認められなかった。すなわち、二次汚染の影響を低減するためには、所定割合を超えて酸化亜鉛の含有量を増やす意味はなく、所定割合で必要十分であることが判明した。上記を踏まえて、本発明において、所定割合は、容器本体に液状の化粧品を入れた場合において、化粧品中への亜鉛イオンの溶出量が多いほどよいというのではなく、化粧品における亜鉛イオン濃度が高いほどよいというものでもなく、所定条件において、化粧品容器に格納した化粧品に対して、細菌を消滅させる性質を持たせるために必要十分な割合として規定した。これにより、成型材料に銅や銀を含有させることなく、化粧品容器に格納された化粧品の二次汚染の影響を低減することができる化粧品容器を提供することができる。
【0013】
第二の発明は、第一の発明の構成において、前記所定条件は、前記容器本体に、細菌数を低減するための防腐剤または添加物その他の成分を含まない前記化粧品が格納されて24時間経過した後に、前記化粧品に所定数の細菌を混入させて、前記細菌の繁殖に有利な温度においてさらに24時間経過したという条件である、化粧品容器である。
【0014】
化粧品容器に化粧品を格納して製品が完成してから、実際の製品販売までは少なくとも24時間の時間差がある。そして、製品の販売後に化粧品が使用され、化粧品中に細菌が混入した場合、次回の化粧品の使用時までにその細菌が消滅していることが望ましい。そして、化粧品の使用頻度は、例えば、ある日の朝とその翌日の朝というように、約24時間ごとであるのが典型的であると考えられる。第二の発明の構成によれば、化粧品の典型的な使用頻度において、細菌の繁殖に有利な温度であったとしても、化粧品容器に格納された化粧品の二次汚染の影響を低減することができる。
【0015】
第三の発明は、第一の発明または第二の発明の構成において、前記所定割合は、前記容器本体の容量に対する前記容器本体の内面の面積の割合として定義される前記容器本体の比表面積、及び、前記粉末の粒子径によって規定される、化粧品容器である。
【0016】
本発明の発明者は、酸化亜鉛の粉末の粒子径が決まっている場合、容器本体の容量に対する容器本体の内面の面積として定義される容器本体の比表面積が大きいほど、化粧品中への亜鉛イオンの溶出量が多く、化粧品における亜鉛イオン濃度が高くなることを確認した。これは、容器本体の比表面積が大きいほど、容器本体に格納された化粧品が容器本体の内面に接する面積が大きくなり、化粧品中への亜鉛イオンの溶出の効率が上昇するからであると合理的に理解できる。なお、比表面積は、言い換えると、容器本体の単位容量に対する容器本体の内面の面積である。
【0017】
また、本発明の発明者は、酸化亜鉛の粉末の粒子径が小さいほど、化粧品中への亜鉛イオンの溶出量が多く、化粧品における亜鉛イオン濃度が高くなることを確認した。これは、粒子径が小さな粒子ほど比表面積が大きいから、多数の粒子からなる粉末の表面積の合計値が大きくなるからであると合理的に理解できる。
【0018】
したがって、容器本体の比表面積と酸化亜鉛の粉末の粒子径によって、上述の「所定割合」は規定される。上述のように、本発明の発明者は、酸化亜鉛の含有量が所定割合に達すると、その成形材料によって形成された化粧品容器中に格納した化粧品が、細菌を消滅させる殺菌作用を有するようになることを実験によって確認している。そして、上述のように、容器本体の比表面積と亜鉛イオンの溶出量の関係、及び、酸化亜鉛の粉末の粒子径と亜鉛イオンの溶出量の関係も確認しているから、当業者であれば、具体的な「所定割合」は、上記の関係を踏まえて規定することができる。例えば、酸化亜鉛の粒子径が決まっていれば、容器本体の比表面積が大きいほど、所定割合は小さくなる。また、容器本体の比表面積が決まっていれば、酸化亜鉛の粒子径が小さいほど、所定割合は小さくなる。このため、当業者は、本発明の実施に際して過度の施行錯誤を要することはない。
【0019】
第四の発明は、第三の発明の構成において、前記粉末を構成する各粒子の最大幅を前記各粒子の粒子径とし、かつ、前記粉末の粒度分布の極大値を前記粉末の粒子径とするとき、前記粉末の粒子径は、1マイクロメートル以上10マイクロメートル以下である、化粧品容器である。
【0020】
本発明は、粉末の粒子径として、ナノレベルの超微粒子を排除するものではない。しかし、粉末の粒子径がナノレベルの超微粒子である場合には、化粧品容器の製造工程において、複数の粒子が互いに凝集する現象を防ぐための処理をしない限り、凝集が生じる。凝集の結果として、多数の超微粒子からなる粉末全体としての表面積は、凝集が生じない場合に比べて小さくなることもあり得る。このため酸化亜鉛の製造者が提供する粉末の粒子径が小さいほど、化粧品中への亜鉛イオンの溶出量が多いとは限らず、化粧品における亜鉛イオン濃度が高くなるとも限らない。このため、酸化亜鉛の粉末の粒子径を、1マイクロメートル以上10マイクロメートル以下に限定した。この範囲であれば、粉末の粒子径が小さいほど、化粧品中への亜鉛イオンの溶出量が多く、化粧品における亜鉛イオン濃度が高くなることが合理的に理解できる。また、粉末の粒子径を1マイクロメートル以上10マイクロメートル以下に限定することによって、化粧品容器の製造工程において、酸化亜鉛の粉末の凝集を防ぐための処理は必要がないという有利な効果が生じる。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかる化粧品容器によれば、成形材料に銅や銀を含有させることなく、化粧品容器に格納された化粧品自体に細菌を消滅させる性質を生じさせ、化粧品の二次汚染の影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態にかかる化粧品容器の概略斜視図である。
【
図7】容器本体の周壁の一部を拡大して示す概念図である。
【
図8】容器本体に化粧品を格納した状態を示す概略断面図である。
【
図9】容器本体に化粧品を格納した状態における容器本体の作用を示す概略図である。
【
図10】容器本体に格納された化粧品の量が減少した場合における容器本体の作用を示す概略図である。
【
図11】容器本体を使用した実験結果を示す図である。
【
図12】容器本体を使用した実験結果を示す図である。
【
図13】ペレットを使用した補助的な実験結果を示す図である。
【
図14】容器本体の比表面積、及び、成形材料における酸化亜鉛の所定割合を示す概念図である。
【
図15】酸化亜鉛の粉末の粒子径、及び、成形材料における酸化亜鉛の所定割合を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づき本発明の好適な実施形態を説明する。なお、当業者が適宜実施できる構成については説明を省略し、本発明の基本的な構成についてのみ説明する。
【0024】
図1に示すように、化粧品容器1は、蓋体10と容器本体20で構成される。化粧品容器1の外形は、全体として円柱状である。
図2及び
図6に示すように、容器本体20は、中空構造であり、その内部の空間S1(
図6参照)に化粧品100が格納される(
図8参照)。本実施形態において、空間S1は、上方が開口した円柱状の空間である。すなわち、容器本体20と空間S1は、実質的に相似形状である。なお、本実施形態とは異なり、容器本体の外形と内部の空間は、円柱形状に限らず、例えば、略円錐でもよいし、立方体でもよいし、直方体でもよい。
【0025】
容器本体20の容積B1は、空間S1(
図6参照)の容積B1である。空間S1の容積B1は、底面20eの直径W1(
図6参照)、周壁20dの高さH1(
図6参照)の円柱の容積として計算できる。容積B1は、化粧品100を空間S1に満ちるように充填した場合の化粧品100の体積(以下、「満充填量」ともいう。)でもある(
図8参照)。また、空間S1の内面の面積A1は、直径W1の円である底面20eの面積と、高さH1の周壁20dの内面の面積の合計として計算できる。内面の面積A1は、満充填量の化粧品100が、容器本体20の内面に接する面積でもある。容積B1に対する内面の面積A1の割合を容器本体20の比表面積C1(A1/B1)と定義する。言い換えると、比表面積C1は、容器本体20の単位容量に対する容器本体20の内面の面積である。
【0026】
化粧品100は、液体状の化粧品である。本明細書において、「液体状」とは、水に近い粘度の低い状態から粘度の比較的高い状態を含む。「液体状の化粧品」は、例えば、クリーム、乳液、ジェルまたはローションを含む。液体状の化粧品は、具体的には、例えば、マスカラ、アイシャドウ、ファンデーション、化粧水、洗顔料、染髪料、整髪料等であるが、これらに限定されない。
【0027】
空間S1に格納される化粧品100は、防腐剤(パラペン等)や、防腐効果を有するフェノキシエタノールなどの添加物を含有しない。すなわち、化粧品100は、細菌数を低減するための防腐剤または添加物その他の成分を含まない。
【0028】
図3に示すように、蓋体10も中空構造である。本明細書において、
図1の蓋体10と容器本体20を結ぶ方向を「上下方向」と呼び、蓋体10の方向を「上方」、容器本体20の方向を「下方」と呼ぶ。本明細書において、「殺菌」という用語は、細菌及び/またはウィルスを低減または消滅させる性質及び/または作用を意味し、殺菌、滅菌、除菌を含む用語として使用するものとする。また、「細菌またはウィルスを消滅させる性質及び/または作用」は、「細菌またはウィルスを死滅させる性質及び/または作用」と同義である。
【0029】
容器本体20は、樹脂を主成分とする成形材料によって形成される。本実施形態においては、成形材料を射出成型することによって容器本体20が形成される。容器本体20を構成する樹脂として、例えば、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系、ポリスチレン系、ポリエステル系の樹脂を使用することができる。本実施形態においては、樹脂はポリプロピレンである。
【0030】
容器本体20を形成する成形材料の主な成分は樹脂と金属粉末である。成型材料は、樹脂と金属粉末、さらに、シランカップリング材など適宜のカップリング材、その他、必要に応じて添加剤を加えたものである。その成形材料を射出成形することによって容器本体20を形成する。金属粉末は、酸化亜鉛の粉末である。すなわち、容器本体20を構成する成形材料は、所定量の酸化亜鉛(ZnO)を含有している。そして、その成形材料は、金属として、酸化亜鉛のみを含有しており、その他の種類の金属は含有していない。
【0031】
なお、成形工程において、成形材料の成分の一部は蒸発するが、本発明との関連においては、その量は無視できるほど小さいから、成形材料中における酸化亜鉛の粉末の割合は、容器本体20における酸化亜鉛の粉末の割合と同一であると見做してよい。
【0032】
容器本体20において、酸化亜鉛の粉末は樹脂中に全体的に分散している。すなわち、酸化亜鉛の粉末は、容器本体20のいずれかの表面に偏るとか、容器本体20の底面や側面の壁の厚さ方向における中心部に偏って分散するということはなく、全体的に実質的に均一に分散している。
【0033】
一般的に、成形材料における各成分の含有量は所定の数値に規定されている。しかし、実際の製造工程においては、許容範囲の誤差であるとしても、各成分の量の測定誤差が生じるから、成分の種類が多ければ多いほど、実際の成形品の成分構成は、設計した成分構成から乖離する可能性が高くなる。この点、本実施形態においては、容器本体20を形成する成形材料には、金属粉末として、酸化亜鉛の粉末のみが含まれているから、複数種類の金属粉末が含まれている場合よりも、容器本体20の成分構成が設計した成分構成から乖離する可能性が低い。
【0034】
また、容器本体20に格納された化粧品100の二次汚染の影響を低減するという目的を達成するにしても、製造工程の管理の観点から、通常の樹脂成形によって容器本体20を形成する場合に対して、できるだけ、製造工程に変更がなく、使用する成分も共通であるのが望ましい。この点、本実施形態において、容器本体20を構成する成形材料に、金属粉末として、酸化亜鉛の粉末のみが含有されており、後述の通り、酸化亜鉛の粉末の凝集を防止する処理も不要であるから、製造工程の煩雑化を回避できるという利点もある。
【0035】
さらに、酸化亜鉛は、日焼け止め製品、メイクアップ製品、ボディパウダー、スキンケア製品などに使用されており、人体に対する安全性が既に確認されている。このため、容器本体20を構成する成形材料に、金属粉末として酸化亜鉛のみを含有させることは、人体に対する安全性の確保の観点でも利点がある。
【0036】
図2及び
図4に示すように、容器本体20は、基部20a及び接続部20bから構成される。
図2に示すように、接続部20bには雄ねじ部20cが形成されている。なお、
図4においては雄ねじ部20cの図示を省略している。
【0037】
図3に示すように、蓋体10の内面10bには雌ねじ部10cが形成されている。容器本体20の接続部20bの雄ねじ部20cが、蓋体10の内面10bに形成された雌ねじ部10cと係合することによって、蓋体10と容器本体20は着脱可能に係合する。蓋体10は成形材料を射出成形して形成される。蓋体10を形成する成形材料は、容器本体20と同一でもよいし、容器本体20と異なる成形材料でもよい。例えば、蓋体10を形成する成形材料は、酸化亜鉛の粉末を含まない材料としてもよい。
【0038】
図5は、
図4の容器本体20を矢印Z1方向から視た概略平面図である。
図6は、
図5に示す容器本体20のAA線概略断面図である。
図6に示すように、容器本体20の内部は、直径W1、高さH1の円柱状の空間S1である。空間S1は上方のみが開口している。本実実施形態において、直径W1は5.0センチメートル(cm)、高さH1は4.0センチメートル(cm)である。このため、容器本体20の容積(空間S1の体積)は約78.5立方センチメートル(cm
3)であり、表面積(容器本体20の内面の面積)は約82.43平方センチメートル(cm
2)である。
【0039】
図7は、
図6の容器本体20の周壁の一部T1を拡大して示す概念図である。容器本体20において、樹脂26に酸化亜鉛の微粒子28が全体的に実質的に均一に分散している。
図7は概念図であるから、説明の便宜ため、単一の粒子径L1の微粒子28を表示しているが、実際には、容器本体20には、所定の粒度分布(典型的には例えば、正規分布)を有する多数の微粒子28からなる粒子群が分散している。
【0040】
ここで、本明細書における「粒子径」の意味を説明する。酸化亜鉛の粉末は多数の微粒子28から構成される粒子群である。本明細書では、多数の微粒子28からなる粒子群を「粉末」と呼ぶ。そして、多数の微粒子28の粒子径の代表値を「微粒子28の粒子径L1」と呼ぶ。また、粒子径L1は「粉末」を構成する多数の微粒子28の粒子径の代表値であるから、「粉末の粒子径L1」とも呼ぶ。
【0041】
本実施形態において、個々の微粒子28の最大幅をその微粒子28の粒子径とする。すなわち、個々の微粒子28の粒子径は、クルムバイン径とする。そして、多数の微粒子28からなる粒子群(粉末)の粒子径分布の測定法としては、ふるい分け法を採用する。また、粒子径L1として、粒子分布の極大値を採用する。本明細書において、多数の微粒子28は正規分布しており、微粒子28の粒子径L1は、正規分布の粒度分布における極大値を意味する。なお、粒子径の定義及び粒子径分布の測定法は、上記に限定されない。例えば、本実施形態とは異なり、粒子径L1は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を使用して測定する球相当径とし、メジアン径(d50)を使用するようにしてもよい。メジアン径は、粉体をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量となる径を意味する。また、本実施形態とは異なり、本実施形態とは異なり、粒子径L1は平均粒子径としてもよい。
【0042】
微粒子28の粒子径L1は、所定の数値範囲に規定されており、例えば、1マイクロメートル以上10マイクロメートル以下である。本実施形態においては、粒子径L1は4マイクロメートルである。すなわち、容器本体20には、粒子径L1を極大値とする多数の微粒子28が正規分布した微粒子群が分散している。なお、本発明において、粒子径L1は、1マイクロメートル以上10マイクロメートル以下に限定されず、1000ナノメートル未満の微粒子、例えば、10ナノメートル以上100ナノメートル未満というような超微粒子も採用可能であり、本発明から排除されるものではない。しかし、超微粒子の場合、成形工程において微粒子の凝集を防止する必要が生じる。この点、粒子径L1が1マイクロメートル以上であれば、成形工程において、微粒子の凝集は大きな問題にはならず、凝集を防止するための処理は必要がないという利点がある。さらに、粒子径L1が1マイクロメートル以上であれば、凝集の影響を考慮する必要がないから、当業者は粒子径L1の相違による殺菌作用の相違がより合理的に推測できるという利点もある。
【0043】
粒子径L1を10マイクロメートル以下に限定するのは、粉末の粒子径が大きすぎると、個々の微粒子の比表面積が小さくなり、粉末全体としての表面積も小さくなるからである。そして、粉末全体としての表面積が小さくなると、化粧品100が容器本体20に格納されたときに、化粧品100への亜鉛イオンの溶出の効率が低下するからである。
【0044】
本実施形態において、成形材料における酸化亜鉛の含有量は、成形材料における酸化亜鉛の粉末の割合としての所定割合として規定されている。そして、所定割合は、成形材料によって形成された容器本体20に格納された化粧品100に対して、所定条件において、化粧品100に混入した細菌を消滅させる性質を生じさせるために必要十分な割合として規定される。すなわち、微粒子28の含有量は、容器本体20に液状の化粧品100を入れた場合において、化粧品100中への亜鉛イオンの溶出量が多ければよいというのではなく、化粧品100における亜鉛イオン濃度が多ければよいというものでもない。成形材料における微粒子28の含有量が多いほど、容器本体20に格納された化粧品100中の亜鉛イオン濃度が高くなり、殺菌作用が強くなるが、過剰な殺菌効果は必要がない。また、一般的に単位量当たりのコストは、ポリプロピレンよりも酸化亜鉛の粉末の方が高いから、微粒子28の含有量が多くなるほど、成形材料の費用が高くなる。さらに、ポリプロピレンの成形品は、機械的強度を含む相応の特性を備えるが、微粒子28の含有量が多くなるほど、その特性を損なうという問題がある。この点、本実施形態において、微粒子28の含有量は、容器本体20に液状の化粧品を入れた場合における、二次汚染の影響を低減できる量として過不足がない数値に規定されている。本実施形態における粒子径がクルムバイン径であるが、微粒子28の含有量がこのように規定されるから、他の粒子径の定義を使用することも可能であることは当事者であれば当然に理解できる。
【0045】
本実施形態において、「所定条件」は、容器本体20に液体状の化粧品100が格納されて24時間経過した後に、その化粧品100に所定数の細菌を混入させて、細菌の繁殖に有利な温度においてさらに24時間経過したという条件である。一般的に、化粧品容器に化粧品を格納して製品が完成してから、実際の製品販売までは少なくとも24時間の時間差がある。そして、典型的な化粧品の使用頻度は、例えば、ある日の朝に化粧品が使用された場合、次の化粧品の使用は次の日の朝というように、約24時間ごとであると考えられる。この点、上記のように「所定条件」を規定することによって、化粧品の典型的な使用頻度において、細菌の繁殖に有利な温度であったとしても、容器本体20に格納された化粧品の二次汚染の影響を低減することができる。
【0046】
上述のように、成形材料中の酸化亜鉛の含有量は、所定条件において、容器本体20に格納された化粧品100自体に対して、化粧品100に混入した細菌を消滅させる性質を生じさせるために必要十分な含有量である。そして、
図14に示すように、その含有量を規定するパラメータは、容器本体20の比表面積C1及び微粒子28の粒子径L1である。ここで、容器本体20の比表面積C1は、容器本体20の容量B1、すなわち、空間S1(
図6等参照)の容量B1に対する、容器本体20の内面の面積A1の割合として定義される。言い換えると、比表面積C1は、容器本体20の単位容量あたりの内面の表面積である。
【0047】
図14に概念的に示すように、本発明の発明者は、微粒子28の粒子径が決まっている場合、容器本体の比表面積C1(A1/B1)が大きいほど、所定割合D1は小さいことを確認した。これは、容器本体20の比表面積C1が大きいほど、容器本体20に格納された化粧品100が容器本体20の内面に接する面積が大きくなり、化粧品100中への亜鉛イオンの溶出の効率が上昇するからであると合理的に理解できる。
【0048】
また、
図15に概念的に示すように、本発明の発明者は、容器本体の比表面積C1(A1/B1)が決まっている場合、微粒子28の粒子径L1が小さいほど、所定割合D1は小さいことを確認した。これは、小さな粒子ほど比表面積が大きいから、粒度分布における極大値が小さい粒子群ほど、粉末全体としての表面積が大きくなり、容器本体20の内面から化粧品100中への亜鉛イオンの溶出の効率が上昇するからであると合理的に理解できる。
【0049】
したがって、容器本体20の比表面積C1と微粒子28の粒子径L1によって、所定割合D1は決定できる。そして、上述のように、本発明の発明者は、所定条件において、成形材料中の酸化亜鉛の含有量が所定割合に達すると、その成形材料によって形成された容器本体20中に格納した化粧品100が、混入した細菌を消滅させる殺菌作用を有するようになることを実験によって確認しており、容器本体20の比表面積C1と所定割合D1の関係、及び、粒子径L1と所定割合D1の関係も確認しているから、具体的な酸化亜鉛の含有量は、これらの関係を踏まえて決定することができ、当業者であれば、実施に際して過度の施行錯誤を要することはない。
【0050】
上述のように、本実施形態において、酸化亜鉛の粉末の粒子径L1は4マイクロメートルであり、容器本体20には4マイクロメートルを極大値とする多数の微粒子28が正規分布した微粒子群が分散している。本実施形態の容器本体20においては、成形材料中の酸化亜鉛の微粒子28の所定割合は、11重量%より大きく、15重量%以下の範囲において規定される。望ましくは、所定割合は12重量%以上15重量%以下である。さらに望ましくは、所定割合は13重量%以上15重量%以下である。
【0051】
上述の所定割合は、白色への着色、あるいは、紫外線の阻止という従来の目的において化粧品容器に酸化亜鉛を含有させる場合の含有量と比べると、各段の相違がある。したがって、そもそも、従来技術と本発明とでは、技術思想が根本的に異なるというほかに、容器本体における酸化亜鉛の含有量も乖離している。
【0052】
図8に示すように、容器本体20に満充填量の化粧品100が格納されると、
図9の矢印に示すように、容器本体20の内面である内周部20d及び底面部20eから化粧品100に亜鉛イオンが溶出し、その亜鉛イオンが化粧品100に混入した細菌に作用し、細菌を消滅させる。
【0053】
図10に示すように、化粧品100の量が減少し、満充填量よりも少なくなった場合であっても、容器本体20が、化粧品100自体に殺菌力を付与する作用は維持される。一般的に、体積が大きくなるほど、体積に対する表面積の割合は小さくなる。逆に言えば、体積が小さくなるほど、体積に対する表面積の割合が大きくなる。このため、化粧品100の量が減少すると、化粧品100の体積が小さくなり、化粧品100の体積に対する表面積の割合は大きくなる。これは、化粧品100の単位体積について、化粧品100と接する容器本体20の内面の面積が大きくなることを意味する。したがって、化粧品100の量が減少した場合であっても、容器本体20による、所定条件において、化粧品100に混入した細菌を消滅させる性質を化粧品100自体に生じさせる作用は維持される。
【0054】
なお、本発明の発明者は、本実施形態とは異なり、酸化亜鉛の粉末を微粒子と超微粒子とで構成するようにすることによって、所定割合を小さくすることができることを確認している。例えば、微粒子の粒子径は4マイクロメートルであり、超微粒子の粒子径は35~200ナノメートルである。そして、微粒子の含有量は超微粒子の含有量よりも大きくする。例えば、成形材料中の酸化亜鉛の粉末全体の割合を11重量%とし、そのうち、微粒子を重量10%とし、超微粒子を重量1%とする。
【0055】
[容器本体20を使用した実験例]
[酸化亜鉛の含有量と亜鉛イオンの濃度]
図11は、容器本体20に水を格納し、室温(摂氏25度)において、その水における亜鉛イオン濃度の推移を計測した実験結果である。時間は、480時間まで測定した。容器本体20はポリプロピレン樹脂を主とする成形材料で構成し、成形材料中の酸化亜鉛の粉末の割合が、それぞれ、0重量%、10重量%、20重量%、30重量%、40重量%、50重量%、60重量%とした場合において比較した。ポリプロピレン樹脂は、LOTTE CHEMICAL製の材料で、グレードはSB-520を使用した。酸化亜鉛はHKK SOLUTION製で、粒子径(最大幅)が4マイクロメートル(μm)の材料を使用した。
【0056】
図11に示すように、酸化亜鉛の含有量が大きいほど、経過時間のいずれの時点においても、水中の亜鉛イオン濃度が高くなっている。そして、いずれの含有量においても、時間の経過にともなって亜鉛イオン濃度の増加は緩やかになり、いずれかの時点において亜鉛イオン濃度は一定になる。
【0057】
[容器本体20に格納した化粧品の殺菌作用]
図12は、容器本体20に格納した液体状の化粧品100による殺菌作用を確認した実験結果である。まず、ポリプロピレンを主な成分とし、酸化亜鉛の粉末を含有させた成形材料によって成形した容器本体20を6種類準備した(以下、「容器本体A」、「容器本体B」、「容器本体C」、「容器本体D」、「容器本体E」、「容器本体F」と呼ぶ。)。容器本体A乃至Fにおける酸化亜鉛の割合は、容器本体Aは5重量%、容器本体Bは10重量%、容器本体Cは15重量%、容器本体Dは20重量%、容器本体Eは25重量%、容器本体Fは30重量%である。酸化亜鉛の粉末の微粒子の粒子径(最大幅)は4マイクロメートルであり、微粒子群の粒度分布は正規分布である。
【0058】
次に、容器本体A乃至Fに
図8に示すように化粧水を格納して、摂氏25度において24時間保管(以下、「保管処理」と言う。)した。化粧水は防腐剤、及び、細菌・ウィルスを低減するためのその他の添加物を含まないものを使用した。保管処理をする前の化粧水を「初期化粧水」と呼ぶ。保管処理の後、容器本体A乃至Fからそれぞれ9ミリリットル(ml)、化粧水を取り出した。容器本体A乃至Fから取り出した化粧水をそれぞれ「処理後化粧水A乃至F」と呼ぶ。
【0059】
続いて、9ミリリットルの処理後化粧水Aに1ミリリットル(ml)の濃縮菌液を加えて、インキュベート用化粧水Aとした。濃縮菌液における菌は大腸菌群であり、菌数は100万CFU/mL(Colony forming unit/mL)である。つまり、インキュベート用化粧水A中の菌数は10万CFU/mL(Colony forming unit/mL)である。そして、インキュベート用化粧水Aを摂氏37度において24時間インキュベートした。処理後化粧水B乃至Fについても、同様の処理を行い、インキュベート用化粧水B乃至Fを生成し、インキュベート用化粧水Aと同じ条件においてインキュベートを行った。
【0060】
続いて、初期化粧水を使用して、インキュベート後のインキュベート用化粧水A乃至Fをそれぞれ1000倍に薄め、試料液A乃至Fとした。各試料液A乃至Fを日水製薬株式会社(東京都台東区上野3-23-9)のコンパクトドライ(登録商標)、モデル06744CF(2-8998-04:大腸菌群数測定用)に接種して、菌数を計測した。コンパクトドライ(登録商標)は、菌数測定用の培地であり、接種した試料液は自然に均一に拡散するようになっている。
【0061】
コンパクトドライ(登録商標)における測定による菌数は、容器本体Aにおいては、インキュベート前の菌数10万CFU/mL(Colony forming unit/mL)を1000倍に薄めた100CFU/mLに対して、1桁未満の減少であった。容器本体Bにおいては、1桁の減少であった。容器C、D、E及びFにおいては、菌数は測定できなかった。すなわち、容器C乃至Fにおいて、大腸菌は消滅していた。
【0062】
上述の実験によって、所定条件において、成形材料中の酸化亜鉛の割合が10重量%以下では、化粧品容器20に格納した化粧水の殺菌作用は細菌を消滅させるに至らず、15重量%において細菌を消滅させるに至り、15重量%を超えると殺菌作用における有意な相違は見出せないことを確認した。この実験において、酸化亜鉛粉末の粒子径は4マイクロメートルであった。したがって、酸化亜鉛粉末の粒子径が4マイクロメートルの場合、10重量%より大きく、15重量%以下の範囲において、所定条件において、容器本体20に格納した化粧品に対して、細菌を消滅させる性質を持たせるために必要十分な酸化亜鉛の所定割合が存在する。
【0063】
[補助的な実験例]
図13は、容器本体20ではなく、酸化亜鉛の粉末を含有するポリプロピレン樹脂(以下、「PP樹脂」と呼ぶ)のペレットを使用した補助的な実験例の実験結果である。
図13の実験例において、P1は、酸化亜鉛を10重量%含有するPP樹脂ペレットである。P2は、酸化亜鉛を15重量%含有するPP樹脂ペレットである。P3は、酸化亜鉛を20重量%含有するPP樹脂ペレットである。酸化亜鉛の粉末の粒子径はいずれも4マイクロメートルである。
【0064】
まず、シャーレを9個準備し、それぞれ、30ミリリットルの化粧水を入れた。そのうち3個のシャーレにそれぞれP1を0.5グラム、1.0グラム、1.5グラム投入した。
同様に、3個のシャーレにそれぞれP2を0.5グラム、1.0グラム、1.5グラム投入し、3個のシャーレにそれぞれP3を0.5グラム、1.0グラム、1.5グラム投入した。P1、P2及びP3はペレットであるから、重量(グラム)が大きくなることはペレットの数が増えることを意味し、重量に比例してペレット全体の表面積も大きくなる。そして、化粧水はいずれも30ミリリットルであるから、化粧水の体積に対して、化粧水がペレットと接する面積の割合としての比表面積(化粧水がペレットと接する面積/化粧水の体積:以下、「ペレットの比表面積」と呼ぶ。)は、ペレットの数に比例して大きくなる。
【0065】
そして、摂氏25度において24時間保管(以下、「保管処理」と言う。)した。化粧水は防腐剤、及び、細菌・ウィルスを低減するためのその他の添加物を含まないものを使用した。保管処理をする前の化粧水を「初期化粧水」と呼ぶ。保管処理の後、各シャーレからそれぞれ9ミリリットル(ml)、化粧水を取り出した。この段階において各シャーレから取り出した化粧水をそれぞれ「処理後参考化粧水」と呼ぶ。
【0066】
続いて、各シャーレから取り出した処理後参考化粧水に対して、1ミリリットル(ml)の濃縮菌液を加えて、インキュベート用参考化粧水とした。濃縮菌液における菌は大腸菌群であり、菌数は100万CFU/mL(Colony forming unit/mL)である。つまり、インキュベート用参考化粧水中の菌数は10万CFU/mL(Colony forming unit/mL)である。そして、各インキュベート用参考化粧水を摂氏37度において24時間インキュベートした。
【0067】
続いて、初期化粧水を使用して、インキュベート後のインキュベート用参考化粧水をそれぞれ1000倍に薄め、試料液とした。各試料液A乃至Fを日水製薬株式会社(東京都台東区上野3-23-9)のコンパクトドライ(登録商標)、モデル06744CF(2-8998-04:大腸菌群数測定用)に接種して、菌数を計測した。
【0068】
コンパクトドライ(登録商標)における測定による菌数は、P1の0.5グラム及び1.0グラムでは殺菌効果は薄く、1.5グラムでは2桁の細菌数の減少であった。P2の0.5グラムでは殺菌効果は薄く、1.0グラムでは3桁の細菌数の減少、1.5グラムでは4桁の細菌数の減少であった。P3の0.5グラムでは2桁の細菌数の減少、1.0グラム及び1.5グラムでは4桁の細菌数の減少であった。
【0069】
補助的な実験結果は以上の通りである。個々のPP樹脂ペレットの表面積は実質的に同一であると考えられる。このため、ペレットの重量が大きいことは、ペレットの数が多いことを意味する。そして、P1、P2及びP3のいずれにおいても、ペレットの数が多いほど、細菌数の減少が大きい。言い換えると、ペレットの比表面積が大きくなるほど、細菌数の減少が大きい。
【0070】
上記から、
図14に示すように、容器本体20の比表面積C1が大きいほど、樹脂中の酸化亜鉛の割合(所定割合)は小さくてよいことが合理的に理解できる。
【0071】
なお、本願の発明者は、上記の実験とは別に、本実施形態の容器本体20において、成形材料中の酸化亜鉛の割合を10重量%としたうえで、さらに、ナノレベルの超微粒子を1重量%の割合で含有させ、成形材料中の酸化亜鉛の割合を重量11%とした場合に、所定条件において、化粧品100に混入した細菌を消滅させる性質を化粧品100自体に生じさせることを実験によって確認している。この実験において、微粒子の粒子径は4マイクロメートル、超微粒子の粒子径は35ナノメートルであった。このことは、成形材料中の微粒子の割合に対して、相対的に小さい割合において超微粒子を加えることによって、酸化亜鉛の所定割合は、成形材料中の酸化亜鉛が微粒子だけの場合よりも小さくなることを示唆している。
【0072】
上述のように、通常の成形材料に微量金属作用を有する金属粉末を含有させるとしても、1種類の金属粉末を加えるのが理想的である。そして、樹脂を主成分とする成形材料の特性の変化を最小限度に抑え、また、費用対効果を最適にするためには、できるだけ少量の金属粉末を加えるのが望ましい。この点、本発明において、成形材料に金属として酸化亜鉛のみを含有させ、しかも、成形材料における所定割合は、化粧品に対して、所定時間内に細菌を消滅させる性質を持たせるために必要十分な割合に限定している。そして、相対的に長時間が経過すると、亜鉛イオンの濃度は一定の濃度以上には高くはならない。また、亜鉛イオンによって、化粧品が着色されるという問題もない。これにより、製造工程の管理の煩雑化の回避、成型材料の特性の変化の抑制、及び、費用対効果の最適化を実現しつつ、化粧品に防腐剤を混入させずに、化粧品容器に格納した化粧品自体に殺菌作用を持たせ、二次汚染の影響を低減することができる。
【0073】
なお、本発明の化粧品容器は、上記実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えることができる。また、各上記実施形態は、技術的に矛盾を生じない限り、適宜、組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0074】
1 化粧品容器
10 蓋体
20 容器本体
26 樹脂
28 酸化亜鉛の微粒子
100 化粧品