(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015975
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】立方晶窒化硼素焼結体及び被覆立方晶窒化硼素焼結体
(51)【国際特許分類】
C04B 35/5831 20060101AFI20250124BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20250124BHJP
B23B 27/20 20060101ALI20250124BHJP
C04B 41/87 20060101ALI20250124BHJP
【FI】
C04B35/5831
B23B27/14 B
B23B27/14 A
B23B27/20
C04B41/87 N
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118933
(22)【出願日】2023-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】坂本 武琉
(72)【発明者】
【氏名】余越 祥
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046FF02
3C046FF25
3C046FF35
3C046FF38
3C046FF40
3C046FF42
3C046HH06
(57)【要約】
【課題】本発明は、優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有することによって、工具寿命を延長することができる立方晶窒化硼素焼結体及び被覆立方晶窒化硼素焼結体を提供することを目的とする。
【解決手段】立方晶窒化硼素と結合相とを含む立方晶窒化硼素焼結体であって、立方晶窒化硼素及び結合相の含有割合は特定の範囲であり、結合相は、Ti化合物相と、Al化合物相と、W元素を含有する相とを含み、Ti化合物相、Al化合物相及びW元素を含有する相の含有割合は特定の範囲であり、W元素を含有する相が、W2B及びWBからなる群より選択される少なくとも1種を含み、立方晶窒化硼素の(111)面のX線回折ピーク強度をI1と、結合相中のW2Bの(211)面及びWBの(110)面のX線回折ピーク強度の合計をI2との比I2/I1は特定の範囲である、立方晶窒化硼素焼結体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶窒化硼素と結合相とを含む立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記立方晶窒化硼素焼結体全体100.0体積%に対して、前記立方晶窒化硼素の含有割合は、10.0体積%以上60.0体積%以下であり、前記結合相の含有割合は、40.0体積%以上90.0体積%以下であり、
前記結合相は、Ti化合物相と、Al化合物相と、W元素を含有する相とを含み、
前記結合相全体100.0体積%に対して、前記Ti化合物相の含有割合は、60.0体積%以上92.0体積%以下であり、前記Al化合物相の含有割合は、0.0体積%超15.0体積%未満であり、前記W元素を含有する相の含有割合は、5.0体積%以上30.0体積%以下であり、
前記W元素を含有する相が、W2B及びWBからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記立方晶窒化硼素の(111)面のX線回折ピーク強度をI1とし、前記結合相中のW2Bの(211)面及びWBの(110)面のX線回折ピーク強度の合計をI2としたとき、I2/I1は、0.03以上0.60以下である、立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項2】
前記結合相中のWB2の(101)面のX線回折ピーク強度をI3としたとき、I3/I1は、0.03以下である、請求項1に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項3】
前記結合相中のW2Bの(211)面のX線回折ピーク強度をI4としたとき、I4/I2は、0.50以上0.95以下である、請求項1に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項4】
前記W元素を含有する相の平均厚みλは、0.03μm以上0.12μm以下である、請求項1に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項5】
前記Ti化合物相は、TiB2を含み、
前記結合相中のTiB2の(101)面のX線回折ピーク強度をI5としたとき、I5/I1は、0.07以上0.55以下である、請求項1に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項6】
前記W元素を含有する相は、Co元素を含み、
前記W元素を含有する相において、W元素及びCo元素の合計の含有割合に対するCo元素の含有割合は、5原子%以上50原子%未満である、請求項1に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の立方晶窒化硼素焼結体と、該立方晶窒化硼素焼結体の表面に形成された被覆層と、を含み、
前記被覆層全体の平均厚さが、0.5μm以上6.0μm以下である、被覆立方晶窒化硼素焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立方晶窒化硼素焼結体及び被覆立方晶窒化硼素焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素(以下「cBN」とも記す)と結合相とを含む。鋼、鋳鉄等の鉄系被削材の切削加工用のcBN焼結体を用いた工具として、結合相の材料としてTi化合物を含むcBN焼結体が従来、広く利用されている。これは、Ti化合物を含むcBN焼結体は鉄系被削材との親和性が低く、耐反応摩耗性に優れるためである。
【0003】
そのため、近年、様々なTi化合物を含むcBN焼結体が提案されている。例えば、特許文献1には、cBN粒子と結合相を含有するcBN基超高圧焼結体であって、前記結合相は、Alの窒化物若しくは酸化物、又は、Tiの窒化物若しくは炭化物若しくは炭窒化物の少なくとも1つを含み、かつ、平均粒径が20~300nmである金属硼化物が0.1~5.0体積%分散し、前記金属硼化物は、金属成分がNb、Ta、Cr、Mo、及びWの少なくとも1種を含みかつTiを含まない金属硼化物(B)と、金属成分がTiのみを含む金属硼化物(A)とを含み、前記金属硼化物のうち、前記Tiのみを金属成分として含む金属硼化物(A)の割合(体積%)をVaとし、前記Nb、Ta、Cr、Mo、及びWの少なくとも1種を金属成分として含みかつTiを含まない金属硼化物(B)の割合(体積%)をVbとした場合、比Vb/Vaが0.1~1.0である、cBN基超高圧焼結体が提案されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、立方晶窒化ほう素粒子と結合相とTi硼化物相とW硼化物相を含有する立方晶窒化ほう素基超高圧焼結体を工具基体とする立方晶窒化ほう素基超高圧焼結体切削工具において、立方晶窒化ほう素粒子の平均粒径は0.5~3.5μm、その含有量は40~75容量%であり、また、結合相中には、平均粒径が50~500nmの微細なTi硼化物相と平均粒径が50~500nmの微細なW硼化物相とが分散分布しており、微細なTi硼化物相とW硼化物相の生成量の和は、結合相中の5~15容量%であり、その結合相中の15~35容量%がAlの窒化物、酸化物の少なくとも1種以上であって、それ以外がTiの窒化物、炭化物、硼化物、又は炭窒化物の少なくとも1種以上と不可避の不純物であり、かつ、
0.5≦(W硼化物相の生成量)/(Ti硼化物相の生成量)≦1.0
の関係を満足している立方晶窒化ほう素基超高圧焼結体を工具基体とすることを特徴とする立方晶窒化ほう素基超高圧焼結体切削工具が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/175598号
【特許文献2】特開2014-083664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、Ti化合物を含む立方晶窒化硼素焼結体は熱伝導率及び靭性が低く、改善の余地がある。
近年の切削加工は高能率化が求められており、高速化、高送り化及び深切り込み化がより顕著となっている。このため、近年の切削加工では、従来よりも工具の耐欠損性及び耐摩耗性を向上させることが求められている。
【0007】
このような背景において、特許文献1に記載のcBN基超高圧焼結体は、cBN焼結体の熱伝導率が不十分であり、耐摩耗性に改善の余地がある。また、特許文献2に記載の立方晶窒化ほう素基超高圧焼結体切削工具は、結合相において、熱伝導率に劣るAl2O3及び/又は機械的強度に劣るAlNの占める割合が大きいため、耐摩耗性及び/又は耐欠損性に改善の余地がある。
【0008】
本発明は、優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有することによって、工具寿命を延長することができる立方晶窒化硼素焼結体及び被覆立方晶窒化硼素焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、工具寿命の延長について研究を重ねたところ、立方晶窒化硼素焼結体を特定の構成にすると、その耐摩耗性及び耐欠損性を向上させることが可能となり、その結果、工具寿命を延長することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の要旨は、以下の通りである。
[1]
立方晶窒化硼素と結合相とを含む立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記立方晶窒化硼素焼結体全体100.0体積%に対して、前記立方晶窒化硼素の含有割合は、10.0体積%以上60.0体積%以下であり、前記結合相の含有割合は、40.0体積%以上90.0体積%以下であり、
前記結合相は、Ti化合物相と、Al化合物相と、W元素を含有する相とを含み、
前記結合相全体100.0体積%に対して、前記Ti化合物相の含有割合は、60.0体積%以上92.0体積%以下であり、前記Al化合物相の含有割合は、0.0体積%超15.0体積%未満であり、前記W元素を含有する相の含有割合は、5.0体積%以上30.0体積%以下であり、
前記W元素を含有する相が、W2B及びWBからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記立方晶窒化硼素の(111)面のX線回折ピーク強度をI1とし、前記結合相中のW2Bの(211)面及びWBの(110)面のX線回折ピーク強度の合計をI2としたとき、I2/I1は、0.03以上0.60以下である、立方晶窒化硼素焼結体。
[2]
前記結合相中のWB2の(101)面のX線回折ピーク強度をI3としたとき、I3/I1は、0.03以下である、[1]に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
[3]
前記結合相中のW2Bの(211)面のX線回折ピーク強度をI4としたとき、I4/I2は、0.50以上0.95以下である、[1]又は[2]に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
[4]
前記W元素を含有する相の平均厚みλは、0.03μm以上0.12μm以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の立方晶窒化硼素焼結体。
[5]
前記Ti化合物相は、TiB2を含み、
前記結合相中のTiB2の(101)面のX線回折ピーク強度をI5としたとき、I5/I1は、0.07以上0.55以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の立方晶窒化硼素焼結体。
[6]
前記W元素を含有する相は、Co元素を含み、
前記W元素を含有する相において、W元素及びCo元素の合計の含有割合に対するCo元素の含有割合は、5原子%以上50原子%未満である、[1]~[5]のいずれかに記載の立方晶窒化硼素焼結体。
[7]
[1]~[6]のいずれかに記載の立方晶窒化硼素焼結体と、該立方晶窒化硼素焼結体の表面に形成された被覆層と、を含み、
前記被覆層全体の平均厚さが、0.5μm以上6.0μm以下である、被覆立方晶窒化硼素焼結体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有することによって、工具寿命を延長することができる立方晶窒化硼素焼結体及び被覆立方晶窒化硼素焼結体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0013】
本実施形態のcBN焼結体は、cBNと結合相とを含むcBN焼結体であって、cBN焼結体全体100.0体積%に対して、cBNの含有割合は、10.0体積%以上60.0体積%以下であり、結合相の含有割合は、40.0体積%以上90.0体積%以下であり、結合相は、Ti化合物相と、Al化合物相と、W元素を含有する相とを含み、結合相全体100.0体積%に対して、Ti化合物相の含有割合は、60.0体積%以上92.0体積%以下であり、Al化合物相の含有割合は、0.0体積%超15.0体積%未満であり、W元素を含有する相の含有割合は、5.0体積%以上30.0体積%以下であり、W元素を含有する相が、W2B及びWBからなる群より選択される少なくとも1種を含み、cBNの(111)面のX線回折ピーク強度をI1とし、結合相中のW2Bの(211)面及びWBの(110)面のX線回折ピーク強度の合計をI2としたとき、I2/I1は、0.03以上0.60以下である。
【0014】
本実施形態のcBN焼結体は、このような構成とすることにより、耐摩耗性及び耐欠損性を向上させることが可能となり、その結果、工具寿命を延長することができる。
本実施形態のcBN焼結体が、耐摩耗性及び耐欠損性を向上させた工具寿命の長いものとなる要因は、詳細には明らかではないが、本発明者らはその要因を下記のように考えている。ただし、要因はこれに限定されない。すなわち、本実施形態のcBN焼結体は、cBN焼結体全体100.0体積%に対して、cBNの含有割合が10.0体積%以上であることにより、機械的強度に優れるcBNの含有割合が高くなるため、主に耐欠損性に優れる。一方、本実施形態のcBN焼結体は、cBNの含有割合が60.0体積%以下であることにより、鉄との耐反応性に劣るcBNの含有割合が低いため、主に耐摩耗性に優れる。また、本実施形態のcBN焼結体は、結合相の含有割合が40.0体積%以上であることにより、鉄との耐反応性に劣るcBNの含有割合が相対的に低くなるため、主に耐摩耗性に優れる。一方、本実施形態のcBN焼結体は、結合相の含有割合が90.0体積%以下であることにより、機械的強度に優れるcBNの含有割合が相対的に高くなるため、主に耐欠損性に優れる。また、本実施形態のcBN焼結体は、結合相全体100.0体積%に対して、Ti化合物相の含有割合が60.0体積%以上であることにより、鉄との耐反応性が向上するため、主に耐摩耗性に優れる。一方、本実施形態のcBN焼結体は、Ti化合物相の含有割合が92.0体積%以下であることにより、熱伝導率が向上するため、主に耐摩耗性に優れる。また、本実施形態のcBN焼結体は、結合相全体100.0体積%に対して、Al化合物相の含有割合が0.0体積%超であることにより、焼結性が向上するため、主に耐欠損性に優れる。一方、本実施形態のcBN焼結体は、Al化合物相の含有割合が15.0体積%未満であることにより、熱伝導率に劣るAl化合物(例えば、Al2O3)の含有割合及び/又は機械的強度に劣るAl化合物(例えば、AlN)の含有割合が小さくなるため、耐摩耗性及び/又は耐欠損性に優れる。また、Al化合物相の含有割合が15.0体積%未満であることにより、Wを含有する相が凝集した組織を形成することを抑制することができ、さらに、Wを含有する相が結合相中に均一に分布することで、cBN焼結体の熱伝導率が向上するので、主に耐摩耗性に優れる。また、本実施形態のcBN焼結体は、結合相全体100.0体積%に対して、W元素を含有する相の含有割合が5.0体積%以上であることにより、熱伝導率が向上するため、主に耐摩耗性に優れる。一方、本実施形態のcBN焼結体は、W元素を含有する相の含有割合が30.0体積%以下であることにより、硬さが向上するため、主に耐摩耗性に優れる。また、本実施形態のcBN焼結体は、W元素を含有する相が、W2B及びWBからなる群より選択される少なくとも1種を含み、cBNの(111)面のX線回折ピーク強度をI1とし、結合相中のW2Bの(211)面及びWBの(110)面のX線回折ピーク強度の合計をI2としたとき、I2/I1が0.03以上であることにより、熱伝導率が向上するため、主に耐摩耗性に優れる。一方、本実施形態のcBN焼結体は、I2/I1が0.60以下であることにより、靭性が向上するため、主に耐欠損性が向上する。これらの効果が相俟って、本実施形態のcBN焼結体が、耐摩耗性及び耐欠損性を向上させた工具寿命の長いものとなる。
【0015】
本実施形態のcBN焼結体は、cBNと結合相とを含む。cBNの含有割合は、10.0体積%以上60.0体積%以下であり、結合相の含有割合は、40.0体積%以上90.0体積%以下である。なお、本実施形態のcBN焼結体において、cBNと結合相との合計含有割合が100.0体積%となる。
【0016】
本実施形態のcBN焼結体は、cBNの含有割合が10.0体積%以上であることにより、機械的強度に優れるcBNの含有割合が高くなるため、耐欠損性に優れる。一方、本実施形態のcBN焼結体は、cBNの含有割合が60.0体積%以下であることにより、鉄との耐反応性に劣るcBNの含有割合が低いため、耐摩耗性に優れる。同様の観点から、cBNの含有割合は、12.2体積%以上57.2体積%以下であることが好ましく、25.1体積%以上45.2体積%以下であることがより好ましい。
【0017】
また、本実施形態のcBN焼結体は、結合相の含有割合が40.0体積%以上であることにより、鉄との耐反応性に劣るcBNの含有割合が相対的に低くなるため、耐摩耗性に優れる。一方、本実施形態のcBN焼結体は、結合相の含有割合が90.0体積%以下であることにより、機械的強度に優れるcBNの含有割合が相対的に高くなるため、耐欠損性に優れる。同様の観点から、結合相の含有割合は、42.8体積%以上87.8体積%以下であることが好ましく、54.8体積%以上74.9体積%以下であることがより好ましい。
【0018】
本実施形態のcBN焼結体において、cBN及び結合相の含有割合(体積%)は、任意の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、撮影したSEM写真を市販の画像解析ソフトで解析することで求めることができる。具体的には、後述の実施例に記載の方法により求めることができる。
【0019】
本実施形態のcBN焼結体は、結合相が、Ti化合物相と、Al化合物相と、W元素を含有する相とを含む。
本実施形態において、Ti化合物相の含有割合は、結合相全体100.0体積%に対して、60.0体積%以上92.0体積%以下である。本実施形態のcBN焼結体は、Ti化合物相の含有割合が60.0体積%以上であることにより、鉄との耐反応性が向上するため、耐摩耗性に優れる。一方、本実施形態のcBN焼結体は、Ti化合物相の含有割合が92.0体積%以下であることにより、熱伝導率が向上するため、耐摩耗性に優れる。同様の観点から、Ti化合物相の含有割合は、65.5体積%以上91.2体積%以下であることが好ましく、73.4体積%以上88.8体積%以下であることがより好ましい。
【0020】
本実施形態のcBN焼結体において、Ti化合物相は、TiC、TiCN、TiN及びTiB2からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。Ti化合物相がこのような化合物を含むと、耐反応摩耗性に優れる傾向にある。同様の観点から、Ti化合物相は、TiC、TiCN及びTiB2からなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、TiC及びTiB2からなる群より選択される少なくとも1種を含むことがよりさらに好ましい。
【0021】
本実施形態のcBN焼結体において、Al化合物相の含有割合は、結合相全体100.0体積%に対して、0.0体積%超15.0体積%未満である。本実施形態のcBN焼結体は、Al化合物相の含有割合が0.0体積%超であることにより、焼結性が向上するため、耐欠損性に優れる。一方、本実施形態のcBN焼結体は、Al化合物相の含有割合が15.0体積%未満であることにより、熱伝導率に劣るAl化合物(例えば、Al2O3)の含有割合及び/又は機械的強度に劣るAl化合物(例えば、AlN)の含有割合が小さくなるため、耐摩耗性及び/又は耐欠損性に優れる。また、Al化合物相の含有割合が15.0体積%未満であることにより、Wを含有する相が凝集した組織を形成することを抑制することができ、さらに、Wを含有する相が結合相中に均一に分布することで、cBN焼結体の熱伝導率が向上するので、耐摩耗性に優れる。同様の観点から、Al化合物相の含有割合は、2.0体積%以上14.2体積%以下であることが好ましく、2.9体積%以上11.5体積%以下であることがより好ましい。
【0022】
本実施形態のcBN焼結体において、Al化合物相は、Al2O3、AlN、AlB2からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。Al化合物相がこのような化合物を含むと、cBN焼結体の焼結性が向上するため、耐欠損性に優れる傾向にある。同様の観点から、Al化合物相は、Al2O3及びAlNからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、Al2O3を含むことがさらに好ましい。
【0023】
本実施形態のcBN焼結体において、W元素を含有する相の含有割合は、結合相全体100.0体積%に対して、5.0体積%以上30.0体積%以下である。本実施形態のcBN焼結体は、W元素を含有する相の含有割合が5.0体積%以上であることにより、熱伝導率が向上するため、耐摩耗性に優れる。一方、本実施形態のcBN焼結体は、W元素を含有する相の含有割合が30.0体積%以下であることにより、硬さが向上するため、耐摩耗性に優れる。同様の観点から、W元素を含有する相の含有割合は、5.9体積%以上28.4体積%以下であることが好ましく、8.1体積%以上20.5体積%以下であることがより好ましい。
なお、本実施形態において、結合相中のTi化合物相、Al化合物相及びW元素を含有する相の含有割合(体積%)は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0024】
本実施形態のcBN焼結体において、W元素を含有する相は、上述したW2B及びWB以外に、Wの金属、炭化物、窒化物、硼化物及びこれらの固溶体、並びに、Wと、Co、Al、Ti、Ni、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf及びTaからなる群より選択される少なくとも1種を含む合金、炭化物、窒化物、硼化物及びこれらの固溶体からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。W元素を含有する相がこのような材料を含むと、cBN焼結体中の粒子間の結合強度が向上し、耐欠損性に優れる傾向にある。
【0025】
本実施形態のcBN焼結体において、W元素を含有する相は、Co元素を含むことが好ましい。W元素を含有する相がCo元素を含むと、cBN焼結体中の粒子間の結合強度が向上し、さらに靭性も向上するため、耐欠損性に優れる傾向にある。
なお、本実施形態において、W元素を含有する相が複数存在する場合、「W元素を含有する相がCo元素を含む」とは、W元素を含有する相の全てがCo元素を含む場合だけでなく、W元素を含有する相の一部の相だけがCo元素を含む場合も包含する。
W元素及びCo元素を含む化合物としては、特に限定されないが、例えば、CoW2B2が挙げられる。
W元素を含有する相において、Co元素を含む場合、W元素及びCo元素の合計の含有割合に対するCo元素の含有割合は、5原子%以上50原子%未満であることが好ましい。本実施形態のcBN焼結体は、W元素を含有する相において、W元素及びCo元素の合計の含有割合に対するCo元素の含有割合が5原子%以上であることにより、靭性が向上するため、耐欠損性に一層優れる傾向にある。一方、本実施形態のcBN焼結体は、W元素を含有する相において、W元素及びCo元素の合計の含有割合に対するCo元素の含有割合が50原子%未満であることにより、硬さが向上するため、耐摩耗性に一層優れる傾向にある。同様の観点から、W元素及びCo元素の合計の含有割合に対するCo元素の含有割合は、6原子%以上43原子%以下であることがより好ましく、9原子%以上33原子%以下であることがさらに好ましい。
なお、本実施形態において、W元素を含有する相中のCo元素の含有割合(原子%)は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0026】
本実施形態のcBN焼結体において、W元素を含有する相の平均厚みλは、0.03μm以上0.12μm以下であることが好ましい。本実施形態のcBN焼結体は、W元素を含有する相の平均厚みλが0.03μm以上であることにより、結合相の靭性が向上するため、耐欠損性に一層優れる傾向にある。一方、本実施形態のcBN焼結体は、W元素を含有する相の平均厚みλが0.12μm以下であることにより、W元素を含有する相の凝集した組織が少なく、結合相中に均一に分布していることを示し、熱伝導率が向上するため、耐摩耗性に一層優れる傾向にある。同様の観点から、W元素を含有する相の平均厚みλは、0.04μm以上0.11μm以下であることがより好ましく、0.05μm以上0.10μm以下であることがさらに好ましい。
なお、本実施形態において、W元素を含有する相の平均厚みλは、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0027】
本実施形態のcBN焼結体において、W元素を含有する相が、W2B及びWBからなる群より選択される少なくとも1種を含み、cBNの(111)面のX線回折ピーク強度をI1とし、結合相中のW2Bの(211)面及びWBの(110)面のX線回折ピーク強度の合計をI2としたとき、I2/I1は、0.03以上0.60以下である。本実施形態のcBN焼結体は、I2/I1が0.03以上であることにより、熱伝導率が向上するため、耐摩耗性に優れる。一方、本実施形態のcBN焼結体は、I2/I1が0.60以下であることにより、靭性が向上するため、耐欠損性が向上する。同様の観点から、I2/I1は、0.04以上0.56以下であることが好ましく、0.06以上0.54以下であることがより好ましく、0.08以上0.52以下であることがよりさらに好ましい。
【0028】
本実施形態のcBN焼結体において、cBNの(111)面のX線回折ピーク強度をI1とし、結合相中のWB2の(101)面のX線回折ピーク強度をI3としたとき、I3/I1は、0.03以下であることが好ましい。本実施形態のcBN焼結体は、I3/I1が0.03以下であることにより、機械的強度の低い六方晶のW硼化物の形成が抑制されていることを示し、靭性が向上するため、一層耐欠損性に優れる傾向にある。同様の観点から、I3/I1は、0.02以下であることがより好ましく、0.01以下であることがさらに好ましく、0.00であることがよりさらに好ましい。
また、本実施形態のcBN焼結体において、Wを含有する相が実質的にWB2を含まないことが好ましい。
なお、本実施形態において、WB2を実質的に含まないとは、結合相におけるX線回折測定で、WB2が検出されないことを意味する。
【0029】
本実施形態のcBN焼結体において、結合相中のW2Bの(211)面及びWBの(110)面のX線回折ピーク強度の合計をI2とし、前記結合相中のW2Bの(211)面のX線回折ピーク強度をI4としたとき、I4/I2は、0.50以上0.95以下であることが好ましい。本実施形態のcBN焼結体は、I4/I2が0.50以上であることにより、熱伝導率が向上するため、耐摩耗性に一層優れる傾向にある。一方、本実施形態のcBN焼結体は、I4/I2が0.95以下であることにより、硬さが向上するため、耐摩耗性に一層優れる傾向にある。同様の観点から、I4/I2は、0.51以上0.94以下であることがより好ましく、0.57以上0.92以下であることがさらに好ましい。
【0030】
本実施形態のcBN焼結体において、Ti化合物相がTiB2を含み、cBNの(111)面のX線回折ピーク強度をI1とし、結合相中のTiB2の(101)面のX線回折ピーク強度をI5としたとき、I5/I1が、0.07以上0.55以下であることが好ましい。本実施形態のcBN焼結体は、Ti化合物相がTiB2を含み、I5/I1が、0.07以上であることにより、cBNと結合相との結合強度が向上するため、耐欠損性に一層優れる傾向にある。一方、本実施形態のcBN焼結体は、I5/I1が0.55以下であることにより、機械的強度の低いTiB2の割合が少ないため、靭性が向上し、耐欠損性に一層優れる傾向にある。同様の観点から、I5/I1は、0.08以上0.53以下であることが好ましく、0.09以上0.42以下であることがより好ましい。
【0031】
本実施形態において、結合相の組成は、市販のX線回折装置を用いて同定することができる。例えば、株式会社リガク製のX線回折装置(製品名「SmartLab」)を用いて、Cu-Kα線を用いた2θ/θ集中光学系のX線回折測定を、下記条件で測定すると、結合相の組成を同定することができる。ここで測定条件は、
出力:45kV、200mA、
入射側ソーラースリット:5°、
発散縦スリット:2/3°、
発散縦制限スリット:5mm、
散乱スリット2/3°、
受光側ソーラースリット:5°、
受光スリット:0.3mm、
サンプリング幅:0.02°、
スキャンスピード:1°/min、
2θ測定範囲:30~90°という条件であるとよい。
なお、本実施形態において、結合相の組成は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0032】
本実施形態において、cBN及び結合相中の各化合物のX線回折ピーク強度は、市販のX線回折装置を用いて測定することができる。例えば、X線回折ピーク強度は、株式会社リガク製のX線回折装置(製品名「SmartLab」)を用いて測定することができる。測定条件の例は、上述した結合相の組成の同定方法における測定条件と同様である。
【0033】
本実施形態のcBN焼結体は、不純物を不可避的に含有してもよい。不純物の例としては、特に限定されないが、例えば、原料粉末に含まれるリチウムなどが挙げられる。通常、不可避的不純物の含有割合は、cBN焼結体全体に対して1質量%以下である。したがって、不可避的不純物が、cBN焼結体の特性値に影響を及ぼすことはほとんどない。
【0034】
本実施形態の被覆cBN焼結体は、上述したcBN焼結体と、該cBN焼結体の表面に形成された被覆層と、を備える。
cBN焼結体の表面に被覆層が形成されることによって、cBN焼結体の耐摩耗性がさらに向上する。被覆層は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al及びSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、O及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とを含むことが好ましい。また、被覆層は、単層構造、又は、2層以上を含む積層構造を有してもよい。被覆層がこのような構造を有する場合、本実施形態の被覆cBN焼結体は、耐摩耗性が一層向上する。
【0035】
本実施形態の被覆cBN焼結体における被覆層の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、化学蒸着法や、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、スパッタ法及びイオンミキシング法などの物理蒸着法が挙げられる。その中でも、アークイオンプレーティング法は、被覆層とcBN焼結体との密着性に一層優れるので、さらに好ましい。
【0036】
被覆層を形成する化合物の例として、特に限定されないが、例えば、TiN、TiC、TiCN、TiAlN、TiSiN、及び、CrAlNなどを挙げることができる。被覆層は、組成が異なる複数の層を交互に積層した構造を有してもよい。この場合、各層の1層あたりの平均厚さは、例えば5nm以上500nm以下である。
【0037】
被覆層全体の平均厚さは、0.5μm以上6.0μm以下であることが好ましい。本実施形態の被覆cBN焼結体は、被覆層全体の平均厚さが0.5μm以上である場合、耐摩耗性が向上する傾向があり、一方、被覆層全体の平均厚さが6.0μm以下である場合、剥離を起因とした欠損の発生を抑制することができる傾向がある。同様の観点から、被覆層全体の平均厚さは、1.0μm以上5.5μm以下であることがより好ましく、1.0μm以上5.0μm以下であることがさらに好ましい。
【0038】
被覆層を構成する各層の厚さ及び被覆層全体の厚さは、被覆cBN焼結体の断面組織から光学顕微鏡、SEM、透過型電子顕微鏡(TEM)などを用いて測定することができる。なお、被覆cBN焼結体における各層の平均厚さ及び被覆層全体の平均厚さは、例えば、アークイオンプレーティング法で被覆層を形成させた場合、金属蒸発源に対向する面の刃先から当該面の中心部に向かって50μmの位置の近傍において、3箇所以上の断面から、各層の厚さ及び被覆層全体の厚さを測定して、その平均値を計算することで求めることができる。
【0039】
また、被覆層を構成する各層の組成は、被覆cBN焼結体の断面組織から、EDSや波長分散型X線分析装置(WDS)などを用いて測定することができる。
【0040】
本実施形態のcBN焼結体又は被覆cBN焼結体は、耐摩耗性及び耐欠損性に優れるため、切削工具や耐摩耗工具として使用されると好ましく、その中でも切削工具として使用されると好ましい。本実施形態のcBN焼結体又は被覆cBN焼結体は、鋳鉄用切削工具として使用されるとさらに好ましい。本実施形態のcBN焼結体又は被覆cBN焼結体を切削工具や耐摩耗工具として用いた場合、従来よりも工具寿命を延長することができる。
【0041】
本実施形態のcBN焼結体は、例えば、以下の方法によって製造することができる。
原料粉末として、cBN粉末、TiC粉末、TiC0.8粉末、TiCN粉末、Ti(CN)0.8粉末、TiN粉末、TiN0.8粉末、WC粉末、Co粉末、及びAl粉末を準備する。また、各原料粉末の割合を適宜調整することにより、得られるcBN焼結体におけるcBNと結合相の含有割合(体積%)を上記特定の範囲に制御することができる。また、各原料粉末の割合を適宜調整することにより、結合相における、Ti化合物相、W元素を含有する相及びAl化合物相の含有割合(体積%)を上記特定の範囲に制御することができる。さらに、各原料粉末の割合を適宜調整することにより、W元素を含有する相におけるW元素及びCo元素の合計の含有割合に対するCo元素の含有割合を上記特定の範囲に制御することができる。次に、準備した原料粉末を、サーメット製ボールと溶媒とパラフィンとともにボールミル用シリンダーに入れて混合する。
ボールミルで混合した原料粉末を、グローブボックス内にて窒素雰囲気下でZr製の高融点金属カプセル内に充填する。充填された原料粉末の表面に吸着している水分及び有機成分を除去するため、カプセルを開放したまま真空熱処理を行う。真空熱処理後に、カプセルを密封し、カプセルに充填されている原料粉末を高温、高圧で焼結させる。高圧焼結の条件は、例えば、圧力:4.0~7.0GPa、温度:1250~1550℃、焼結時間:20~60分である。
【0042】
cBNの(111)面のX線回折ピーク強度をI1とし、結合相中のW2Bの(211)面及びWBの(110)面のX線回折ピーク強度の合計をI2としたとき、I2/I1を上記特定の範囲に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、原料粉末の種類や配合割合を適宜調整したり、原料粉末を焼結させる温度を適宜調整する方法が挙げられる。具体的には、I2/I1を大きくする方法としては、例えば、cBN焼結体におけるcBNの含有割合(体積%)を小さくしたり、結合相における、Wを含有する相の含有割合(体積%)を大きくしたり、Ti化合物相の原料において、金属元素と非金属元素との原子比が不定比である化合物原料(TiC0.8、Ti(CN)0.8又はTiN0.8)を用い、その割合を大きくしたり、また、原料粉末を焼結させる温度を高くしたり、さらには、W元素を含有する相における、W元素及びCo元素の合計の含有割合に対するCo元素の含有割合を上述した範囲内とする方法が挙げられる。
【0043】
結合相中のW2Bの(211)面及びWBの(110)面のX線回折ピーク強度の合計をI2とし、前記結合相中のW2Bの(211)面のX線回折ピーク強度をI4としたとき、I4/I2を上記特定の範囲に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、原料粉末の種類や配合割合を適宜調整したり、原料粉末を焼結させる温度を適宜調整する方法が挙げられる。具体的には、I4/I2を大きくする方法としては、例えば、W元素を含有する相における、W元素及びCo元素の合計の含有割合に対するCo元素の含有割合を大きくしたり、Ti化合物相の原料において、金属元素と非金属元素との原子比が不定比である化合物原料(TiC0.8、Ti(CN)0.8又はTiN0.8)を用い、その割合を大きくしたり、また、原料粉末を焼結させる温度を低くする方法が挙げられる。
【0044】
cBNの(111)面のX線回折ピーク強度をI1とし、結合相中のWB2の(101)面のX線回折ピーク強度をI3としたとき、I3/I1を上記特定の範囲に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、原料粉末の種類や配合割合を適宜調整したり、原料粉末を焼結させる温度を適宜調整する方法が挙げられる。具体的には、I3/I1を小さくする方法としては、例えば、Ti化合物相の原料において、金属元素と非金属元素との原子比が不定比である化合物原料(TiC0.8、Ti(CN)0.8又はTiN0.8)を用いる方法や、原料粉末を焼結させる温度を低くする方法が挙げられる。
また、結合相において、Wを含有する相が実質的にWB2を含まないようにする方法としては、例えば、Ti化合物相の原料において、金属元素と非金属元素との原子比が不定比である化合物原料(TiC0.8、Ti(CN)0.8又はTiN0.8)を特定量以上用い、原料粉末を焼結させる温度を1500℃以下とする方法が挙げられる。具体的には、例えば、金属元素と非金属元素との原子比が不定比である化合物原料(TiC0.8、Ti(CN)0.8又はTiN0.8)の量を、Ti化合物相の原料の合計100体積%に対して、50体積%以上とし、原料粉末を焼結させる温度を1500℃以下とすることにより、結合相において、Wを含有する相が実質的にWB2を含まないようすることができる傾向にある。
【0045】
cBNの(111)面のX線回折ピーク強度をI1とし、結合相中のTiB2の(101)面のX線回折ピーク強度をI5としたとき、I5/I1を上記特定の範囲に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、原料粉末の種類や配合割合を適宜調整したり、原料粉末を焼結させる温度を適宜調整する方法が挙げられる。具体的には、I5/I1を大きくする方法としては、例えば、cBN焼結体におけるcBNの含有割合(体積%)を小さくしたり、結合相における、Ti化合物相の含有割合(体積%)を大きくしたり、原料粉末を焼結させる温度を高くする方法が挙げられる。
【0046】
W元素を含有する相の平均厚みλ(μm)を上記特定の範囲に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、原料粉末の種類や配合割合を適宜調整する方法が挙げられる。具体的には、W元素を含有する相の平均厚みλ(μm)を小さくする方法としては、例えば、結合相におけるAl化合物相の含有割合(体積%)を小さくしたり、W元素を含有する相における、W元素及びCo元素の合計の含有割合に対するCo元素の含有割合を大きくする方法が挙げられる。
【0047】
また、W元素を含有する相において、W元素及びCo元素の合計の含有割合に対するCo元素の含有割合を大きくするとCoW2B2の含有割合が、X線回折測定において検出される程度に大きくなる傾向にある。
【0048】
また、本実施形態のcBN焼結体をワイヤ放電加工機やレーザーカット加工機などにより所定の形状に加工して、cBN焼結体を備えた切削工具又は耐摩耗工具を製造することができる。
【実施例0049】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
[原料粉末の調製]
cBN粉末、TiC粉末、TiC0.8粉末、TiCN粉末、Ti(CN)0.8粉末、TiN粉末、TiN0.8粉末、WC粉末、Co粉末、及びAl粉末を、以下の表2に示す比率で混合した。各原料粉末の平均粒径は、表1に示すとおりであった。なお、原料粉末の平均粒径は、米国材料試験協会(ASTM)規格B330に記載のフィッシャー法(Fisher Sub-Sieve Sizer(FSSS))により測定した。
【0051】
【0052】
【0053】
[原料粉末の混合]
原料粉末を、サーメット製ボールとヘキサン溶媒とパラフィンとともにボールミル用のシリンダーに入れ6時間混合した。
【0054】
[充填工程及び乾燥工程]
混合された原料粉末を、グローブボックス内にて窒素雰囲気下で、Zr製の高融点金属カプセル(以下、単に「カプセル」と記す)内に充填した。充填された原料粉末の表面に吸着している水分及び有機成分を除去するため、カプセルを開放したまま真空熱処理を行った。真空熱処理後に、カプセルを密封した。
【0055】
[焼結工程]
その後、カプセルに充填されている原料粉末を高温、高圧下で焼結させた。高圧焼結の条件を、以下の表3に示す。
【0056】
【0057】
[SEM画像による分析]
高圧焼結によって得られたcBN焼結体について、cBN及び結合相の含有割合(体積%)を、走査電子顕微鏡(SEM)で撮影したcBN焼結体の組織写真から、市販の画像解析ソフトで解析して求めた。より具体的には、cBN焼結体を、その表面に対して直交する方向に鏡面研磨した。次に、SEMを用いて、鏡面研磨して現れたcBN焼結体の鏡面研磨面の反射電子像を観察した。この際、SEMを用いて、cBNの粒子が100個以上300個以下含まれるように選択した倍率で拡大したcBN焼結体の鏡面研磨面を反射電子像にて観察した。SEMに付属しているエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いることにより、黒色領域をcBNと、灰色領域及び白色領域を結合相と特定した。さらに、結合相において、濃い灰色の領域がAl化合物相、薄い灰色の領域がTi化合物相、白色の領域がW元素を含有する相であることを特定した。その後、SEMを用いてcBNの上記断面の組織写真を撮影した。市販の画像解析ソフトを用い、得られた組織写真からcBN及び結合相の占有面積をそれぞれ求め、その占有面積から含有割合(体積%)を求めた。また、結合相中のTi化合物相、Al化合物相及びW元素を含有する相の含有割合(体積%)も同様に組織写真より、結合相の専有面積に対する各相の割合から算出した。
ここで、cBN焼結体の鏡面研磨面とは、cBN焼結体の表面又は任意の断面を鏡面研磨して得られたcBN焼結体の断面とした。cBN焼結体の鏡面研磨面を得る方法は、ダイヤモンドペーストを用いて研磨する方法とした。
また、結合相の組成は、株式会社リガク製のX線回折装置(製品名「SmartLab」)を用いて同定した。具体的には、Cu-Kα線を用いた2θ/θ集中光学系のX線回折測定を、下記条件で測定して、結合相の組成を同定した。
出力:45kV、200mA、
入射側ソーラースリット:5°、
発散縦スリット:2/3°、
発散縦制限スリット:5mm、
散乱スリット2/3°、
受光側ソーラースリット:5°、
受光スリット:0.3mm、
サンプリング幅:0.02°、
スキャンスピード:1°/min、
2θ測定範囲:30~90°。
これらの測定結果を、以下の表4に示す。
また、W元素を含有する相において、Co元素を含む場合、W元素及びCo元素の合計の含有割合に対するCo元素の含有割合(原子%)を以下のとおり算出した。まず、上記と同様にSEMで撮影したcBN焼結体の組織写真と同じ観察視野において、視野全体のEDS分析を行い、cBN焼結体に含まれるW元素及びCo元素の含有割合(原子%)を測定した。得られた値から、W元素及びCo元素の合計の含有割合に対するCo元素の含有割合(原子%)を算出した。結果を表5に示す。
【0058】
[X線回折(XRD)による分析]
焼結工程によって得られたcBN焼結体に含まれるTi化合物相と、Al化合物相と、W元素を含有する相とについてX線回折(XRD)による分析を行った。XRDによるTi化合物相と、Al化合物相と、W元素を含有する相の分析結果を、以下の表5に示す。なお、表5において、X線回折測定で明瞭なピークが特定された相のみを示している。W元素を含有する相については、比較品10を除き、EDSを用いた分析よりW元素及びCo元素の双方を含む相が存在することは特定した。また、発明品12及び比較品11を除き、X線回折測定でW元素及びCo元素の双方を含む相の明瞭なピークを特定することはできなかったが、比較品10を除き、W元素を含有する相において、Co元素の含有していることが確認されたこと、並びに、発明品12及び比較品11において、X線回折測定でCoW2B2が検出されたことから、発明品12、比較品10及び比較品11以外の試料は、X線回折測定で検出されない程度の割合で、少なくともCoW2B2を含んでいると推察される。
また、得られたX線回折図形から、cBNの(111)面のX線回折ピーク強度、並びに、結合相中のW2Bの(211)面、WBの(110)面、WB2の(101)面及びTiB2の(101)面のX線回折ピーク強度を求め、各比率を算出した。なお、X線回折強度比は、ピーク高さの比によって求めた。これらの結果を、以下の表6に示す。
なお、XRD測定は、株式会社リガク製のX線回折装置(製品名「SmartLab」)を使用して、Cu-Kα線を用いた2θ/θ集中光学系で行った。測定条件は、上述した結合相の組成の同定方法における測定条件と同様とした。また、各ピークの特定は、以下のPDFカードを参照した。
cBN:No.00-035-1365
W2B:No.01-089-1991
WB:No.00-006-0541
WB2:No.01-089-3928
TiB2:No.00-035-0741
【0059】
[W元素を含有する相の平均厚みλの算出方法]
断面組織の反射電子像の観察と、EDSによる分析とを組み合わせ、解析することで求めた。断面組織の反射電子像における黒色領域がcBN、濃い灰色の領域がAl化合物相、薄い灰色の領域がTi化合物相、白色の領域がW元素を含有する相であることを特定した。W元素を含有する相の平均厚みλ(μm)は、以下の式より算出した。結果を表7に示す。
λ=X/NL
X:断面組織において、結合相全体が占める面積に対するW元素を含有する相の占める面積の比を求めた。
NL:断面組織において任意の直線を引いたとき、直線が横断するW元素を含有する相の合計の数を、直線が横断する結合相の合計の長さで除することで、NLを求めた。
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
[切削工具の作製]
得られたcBN焼結体を、ワイヤ放電加工機を用いてISO規格CNGA120408で定められたインサート形状の工具形状に合わせて切り出した。切り出したcBN焼結体を、超硬合金からなる台金にろう付けによって接合した。ろう付けした工具にホーニング加工を施して、切削工具を得た。
【0065】
[切削試験]
得られた切削工具を用いて、下記の条件で切削試験を行った。
被削材:SCM415H浸炭焼入れ鋼(HRC60)、
被削材形状:丸棒、φ80mm×200mm、
加工方法:外径旋削、
切削速度:250m/min、
送り:0.1mm/rev、
切り込み深さ:0.1mm、
クーラント:使用(水溶性クーラント)、
評価項目:工具の逃げ面摩耗幅が0.10mmに至ったとき、又は欠損に至ったときを工具寿命とし、工具寿命に至るまでの加工時間を測定した。また、工具の逃げ面摩耗幅が0.10mmに至り工具寿命となった試料の損傷形態を「正常摩耗」とし、欠損に至り工具寿命となった試料の損傷形態を「欠損」とした。測定結果を表8に示す。
【0066】
【0067】
表8に示す結果から分かるとおり、発明品のcBN焼結体を用いた切削工具は、比較品のcBN焼結体を用いた切削工具よりも耐摩耗性及び耐欠損性に優れており、工具寿命が長かった。
【0068】
(実施例2)
次に、表9に示すとおり、実施例1で得られた発明品2、発明品5、発明品8及び発明品9のcBN焼結体の表面に、イオンボンバードメント処理を施した後、アークイオンプレーティング法により、被覆層を形成した。第1層及び第2層を形成する場合、cBN焼結体の表面にこの順で形成した。それぞれの処理条件は、以下のとおりとした。また、被覆層の組成及び平均厚さは、以下の表9に示すとおりとした。なお、第1層の組成、Ti0.50Al0.50N/Ti0.33Al0.67Nについては、1層あたり50nmのTi0.50Al0.50NとTi0.33Al0.67Nとを交互に繰り返し形成させた。このとき、交互に繰り返し形成させたTi0.50Al0.50N/Ti0.33Al0.67Nの合計の厚さが、第1層の平均厚さとなるように形成させた。
【0069】
[イオンボンバードメント処理の条件]
基材の温度:500℃
圧力:2.7PaのArガス雰囲気
電圧:-400V
電流:40A
時間:30分
【0070】
[被覆層形成条件]
基材の温度:500℃
圧力:3.0Paの窒素(N2)ガス雰囲気(窒化物層)、又は3.0Paの窒素(N2)ガスとアセチレンガス(C2H2)ガスとの混合ガス雰囲気(炭窒化物層)
電圧:-60V
電流:120A
【0071】
【0072】
表面に被覆層が形成された被覆cBN焼結体を用いて、実施例1と同様に切削試験を行った。その結果を以下の表10に示す。
【0073】
【0074】
表10に示す結果から分かるとおり、その表面に被覆層が形成された被覆cBN焼結体(発明品26~45)は、被覆層が形成されていないcBN焼結体(発明品1~25)よりもさらに耐摩耗性に優れており、工具寿命が長かった。
本発明のcBN焼結体及び被覆cBN焼結体は、耐摩耗性及び耐欠損性に優れることにより、従来よりも工具寿命を延長できるので、その点で産業上の利用可能性が高い。