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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015981
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】エキシマランプ
(51)【国際特許分類】
   H01J 61/54 20060101AFI20250124BHJP
   H01J 65/00 20060101ALI20250124BHJP
   H01J 61/067 20060101ALI20250124BHJP
   H01J 61/30 20060101ALI20250124BHJP
【FI】
H01J61/54 N
H01J65/00 D
H01J61/067 N
H01J61/30 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118942
(22)【出願日】2023-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000128496
【氏名又は名称】株式会社オーク製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 剛
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 和泉
(72)【発明者】
【氏名】松島 峻也
【テーマコード(参考)】
5C015
5C043
【Fターム(参考)】
5C015HH02
5C043AA02
5C043AA07
5C043CC16
5C043CD05
5C043DD03
5C043EA09
(57)【要約】
【課題】点灯始動が良好であって耐久性能を備えるエキシマランプを提供する。
【解決手段】エキシマランプ10は、放電管20と箔電極30被覆する誘電体50とを備え、その間に主放電空間S1を形成している。誘電体50は、箔電極30と封着している封着部分54と、封着部分54よりも先端側であって箔電極30と封着していない非封着部分52とを有する。非封着部分52には、補助放電空間S2が設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部を含めて内側電極を覆う誘電体と、
前記誘電体と溶着して主放電空間を形成する放電容器とを備え、
前記誘電体は、前記内側電極を覆う封着部分よりも前記放電容器の端部側の非封着部分に、補助放電空間を形成していることを特徴とするエキシマランプ。
【請求項2】
前記補助放電空間が、断面円状であって、
前記補助放電空間の少なくとも一部の断面領域が、前記内側電極の断面領域よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のエキシマランプ。
【請求項3】
前記内側電極が、箔状電極であって、
前記内側電極の電極幅方向に沿った断面において、前記補助放電空間の少なくとも一部の電極幅方向に沿った幅が、前記内側電極の幅より大きいことを特徴とする請求項2に記載のエキシマランプ。
【請求項4】
前記内側電極が、箔状電極であって、
前記補助放電空間の幅が、前記内側電極の電極厚さ方向に沿って、前記封着部分の幅より大きいことを特徴とする請求項2に記載のエキシマランプ。
【請求項5】
前記内側電極が、箔状電極であって、
前記内側電極の電極幅方向に沿った前記誘電体の外面と前記放電容器内面との距離間隔が、ランプ軸方向に沿って略一定であることを特徴とする請求項2に記載のエキシマランプ。
【請求項6】
前記封着部分が、断面長円状または長楕円状であって、
前記内側電極の電極幅方向に沿って、前記封着部分の幅と、前記非封着部分の幅とが、略等しいことを特徴とする請求項2に記載のエキシマランプ。
【請求項7】
前記封着部分が、断面長円状または長楕円状であって、
前記内側電極の電極厚さ方向に沿って、前記非封着部分の厚さが、前記封着部分の厚さよりも小さいことを特徴とする請求項2に記載のエキシマランプ。
【請求項8】
前記放電容器の外表面に設けられる外側電極が、前記放電容器に対して導電線が螺旋状に巻かれた螺旋部を有し、
前記補助放電空間が、前記螺旋部と対向していないことを特徴とする請求項1に記載のエキシマランプ。
【請求項9】
前記螺旋部と電気的に接続され、前記放電容器に対して導電板を円筒状に巻かれた円筒部をさらに備え、
前記補助放電空間の少なくとも一部が、前記円筒部よりも前記放電容器の端部側に形成されていることを特徴とする請求項8に記載のエキシマランプ。
【請求項10】
前記補助放電空間が、前記放電容器の外表面に設けられる外側電極と対向していることを特徴とする請求項1に記載のエキシマランプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エキシマランプに関し、特に、エキシマランプにおける放電空間の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
二重管型のエキシマランプでは、軸方向に延びる2つの同軸円筒管によって発光部が構成され、内側管と外側管との間に形成される放電空間に対し、放電ガスが封入される。そして、誘電体である内側管に被覆される電極(内側電極)と、外側管の外表面にある電極(外側電極)との間に高周波電圧を印加することによって、紫外線などのエキシマ光が放電空間に発生した放電から放射される。
【0003】
例えば、エキシマランプを確実に点灯させるため、放電開始電圧よりも低い電圧で放電する始動補助機能を備えたエキシマランプが知られている(特許文献1参照)。そこでは、ランプ軸に沿って延びる内側電極が挿通された内側管内に点灯始動用の放電空間を形成し、内側管と外側管との間に形成される放電空間よりも始動電圧の低いガスが内側管に封入される。
【0004】
また、箔状の電極を内側電極として被覆する内側管を備えたエキシマランプでは、内側電極と内側管とを部分的に封着させるエキシマランプが知られている(特許文献2参照)。そこでは、内側管に被覆される内側電極に対し、内側管に封止された(密閉された)状態となる部分と、未封止部分とを設け、内側電極が露出した点灯始動用の補助放電空間を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-4702号公報
【特許文献2】特開2022-182685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
点灯始動用の補助放電空間をランプ径方向に沿って内側電極と内側管との間に形成すると、スパッタリング現象によって早期の電極消耗による始動補助機能の低下を招く恐れがある。一方、点灯始動用の補助放電空間をランプ軸方向全体に渡って形成することは、補助放電によって主放電空間の温度を高くすることになり、紫外線放射効率を低下させる。特に、小型エキシマランプ(例えば、放電容器の外径が数mm~数十mm)などを構成する場合、高効率の紫外線放射と耐久性の両立が困難となる。
【0007】
したがって、小型のエキシマランプなどにおいても、点灯始動が良好であって耐久性能を備えることが可能な点灯始動用の放電空間の形成が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様であるエキシマランプは、先端部を含めて内側電極を覆う誘電体と、誘電体と溶着して主放電空間を形成する放電容器とを備える。放電容器は、管状に形成することが可能である。
【0009】
誘電体において内側電極を覆う部分を、封着部分という。ここで、「封着」とは、箔状電極と誘電体との間に隙間が生じないように、ガラスなどを素材とする誘電体(内側管)が箔状の電極全体に密接して着く(密着する)ことを表す。
【0010】
本発明の誘電体は、内側電極を覆う封着部分よりも放電容器の端部側にある部分(ここでは、非封着部分という)に、補助放電空間を形成している。管状であった誘電体が溶けて中空部分が埋まることで柱状の塊となる部分、例えば内側電極先端を埋設する部分、管状であった誘電体が溶けて中空部分が埋まることで半球状の塊となった誘電体先端部を形成する部分とは異なる部分に、補助放電空間が形成される。これは、誘電体が、内側電極先端付近から誘電体先端部との間で、部分的に溶着していない部分と部分的に溶着している部分が存在するといえる。
【0011】
補助放電空間は、断面円状の空間として形成することが可能であり、補助放電空間の少なくとも一部の断面領域が、内側電極の断面領域よりも大きくなるように、構成することができる。また、補助放電空間は、放電容器の外表面に設けられる外側電極と対向するように、構成することができる。
【0012】
内側電極は、箔状電極として構成することが可能であり、内側電極の電極幅方向に沿った断面において、補助放電空間の少なくとも一部の電極幅方向に沿った幅が、内側電極の幅より大きくなるように、構成することができる。
【0013】
内側電極が箔状電極の場合、補助放電空間の幅が、内側電極の電極厚さ方向に沿って、封着部分の幅より大きくなるように、構成することができる。ここでの「補助放電空間の幅」は、補助放電空間の大部分を占める空間部分での電極厚さ方向に沿った断面の幅に相当する。
【0014】
また、内側電極が箔状電極の場合、内側電極の電極幅方向に沿った誘電体の外面と放電容器内面との距離間隔が、ランプ軸方向に沿って略一定となるように、構成することができる。ここでの「距離間隔」は、補助放電空間の大部分を占める空間部分での電極厚さ方向に沿った断面の幅に相当する。
【0015】
封着部分は、断面長円状または長楕円状となるように構成することが可能であり、内側電極の電極幅方向に沿って、封着部分の幅と、非封着部分の幅とが略等しくなるように、構成することが可能である。また、内側電極の電極厚さ方向に沿って、非封着部分の厚さが、封着部分の厚さよりも小さくなるように構成することが可能である。
【0016】
放電容器の外表面に設けられる外側電極の構成は様々であり、放電容器に対して導電線が螺旋状に巻かれた螺旋部を設けるように、構成することができる。例えば、補助放電空間が螺旋部と対向しないように、構成することができる。
【0017】
螺旋部と電気的に接続され、放電容器に対して導電板を円筒状に巻かれた円筒部を設けることが可能であり、補助放電空間の少なくとも一部が、円筒部よりも放電容器の端部側(外側電極を設けていない側)に形成されるように、構成することが可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、エキシマランプにおいて、点灯始動が良好であって耐久性能を備えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】エキシマランプの電極幅方向に沿った概略的断面図である。
図2】エキシマランプの電極厚さ方向に沿った概略的断面図である。
図3図1のIII-IIIに沿った断面図である。
図4図1のIV-IVに沿った断面図である。
図5】箔電極の拡大断面図である。
図6図4に応じた封着部分における箔電極および箔電極を覆う誘電体の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、図面を参照して本実施形態であるエキシマランプについて説明する。
【0021】
図1は、エキシマランプの電極幅方向に沿った概略的断面図である。図2は、エキシマランプの電極厚さ方向に沿った概略的断面図である。図3は、図1のIII-IIIに沿った断面図である。図4は、図1のIV-IVに沿った断面図である。
【0022】
エキシマランプ10は、石英ガラスなどの誘電材料から成る管状の放電管(放電容器)20を備え、ここでは管径(ランプ径)方向に沿った断面が円形状の放電管として構成されている。放電管20内には、キセノンガスなどの希ガス、あるいはこれらの混合ガスが、放電ガスとして封入されている。
【0023】
放電管20内部には、管軸(ランプ軸)Cに沿って帯状に延びる箔状の箔電極(以下、内側電極ともいう)30が配置されている。箔電極30は、石英ガラスなどからなる柱状の誘電体50によって被覆されており、放電空間S1に露出せず、誘電体50内に埋設されている。すなわち、箔電極30は誘電体50に封止された状態で封着(密着)している。給電線(給電棒)70は、箔電極30のランプ軸Cに沿った端部に接続し、また、外部に設置された電源部(図示せず)と接続している。
【0024】
箔電極30は、誘電体50の中心位置にその幅方向および厚さ方向の中心位置を合わせた状態で同軸的に配置されている。また、誘電体50は、放電管20に対して同軸的に配置されている。したがって、箔電極30は、放電管20に対し同軸的な位置に配置され、ランプ軸Cに関して対称的な位置に配置されている。図2では、箔電極30の幅方向をY方向、それに直交する方向(厚さ方向)をX方向として定めている。
【0025】
放電管20の外面20Sに配設された外側電極40は、ここでは導電性の金属からなる線状の電極部(導電線)を放電管20の外表面に沿って巻き付けて配設した構成であり、ランプ軸Cに沿って螺旋状に巻かれ、所定間隔で離間するように配置されている。
【0026】
また、外側電極40には、このような螺旋状の電極部(以下、螺旋状部分42という)とともに、螺旋状部分42の両端42Tと電気的に接続する導電性部材(以下、円筒状部材という)45A、45Bが設けられている。円筒状部材45A、45Bは、ここでは、放電管20の外面20Sの一部をランプ軸C周りに覆う帯状の導電板を円筒状に巻き付けて構成されている。ここでは、外側電極40のランプ軸C方向に沿った配設区間(以下、外側電極配設区間という)Lが、内側電極30の長さに対応し、内側電極30は、ランプ軸C方向全体に渡って外側電極40とランプ径方向に沿って向かい合っている。
【0027】
エキシマランプ10は、誘電体50の径方向へ鍔状に突出する拡径部(以下、溶着部という)56と放電管20が溶着することにより、二重管型放電ランプとして構成されており、誘電体50、放電管20は、それぞれ二重管型放電ランプの内側管、外側管に相当する。誘電体50と放電管20との間には、上記放電ガスが封入された放電空間S1(以下、主放電空間という)が形成されている。給電線70は、誘電体50の溶着部56から放電管外に延伸するように形成された部分(延伸部)57に被覆されている。
【0028】
上述したように誘電体50は内側電極30と封着する一方、内側電極30の先端30Tと誘電体50の先端50Tとの間は、内側電極30と封着していない非封着部分55が設けられている。さらに、非封着部分55は、管状の誘電体が製造工程において溶着により中空部分が埋められて内側電極30の先端30Tを管軸C方向に沿って埋設する(密閉する)溶着部分53と、管状の誘電体が製造行程において溶着して中空部分が埋められた誘電体50の先端50Tを形成する溶着部分51と、溶着部分53と溶着部分51との間にあって、製造工程において溶着せず、誘電体が管状のままで中空部分が維持される部分(以下、非溶着部分という)52に分けることができる。
【0029】
非封着部分55を構成する溶着部51、非溶着部分52および溶着部53は、誘電体50が内側電極30と封着する部分(以下、封着部分という)54と連続的に繋がっている。そして、非溶着部分52には、点灯始動用の放電空間(以下、補助放電空間という)S2が形成されている。補助放電空間S2は、内側電極30の先端30Tよりもランプ軸Cに沿って誘電体50の先端側、すなわち、放電管20の端部20T側に形成されている。
【0030】
図3に示すように、補助放電空間S2のランプ軸方向の中央部付近は断面円状であり、箔電極30の幅方向(Y方向)に沿った空間距離(内径)D1、箔電極30の厚さ方向(X方向)に沿った空間距離(内径)D2は、略同一である。また、肉厚箔電極30の幅方向(Y方向)に沿った肉厚T10、箔電極30の厚さ方向(X方向)に沿った肉厚T20も、略同一である。補助放電空間S2は、ランプ軸C方向の中央部付近から両端(溶着部分51、53)に向けてその断面積(内径)の大きさが滑らかに小さくなるように内表面が形成されている。
【0031】
ここでは、非溶着部分52が外側電極配設区間Lよりも放電管20の端部20T側に形成されており、ここでの補助放電空間S2は、ランプ軸Cに沿ってその全体が外側電極配設区間Lから外れた位置に形成されている。
【0032】
補助放電空間S2は、大気圧より低い減圧状態になっている。なお、点灯始動時の電圧を低くする希ガスを、大気圧以下で補助放電空間S2に封入することも可能である。
【0033】
放電管20の一方の端部20Tには、突起状部分(以下、排気管という)22が形成されている。排気管22は、ランプ製造工程で形成される部分であり、ここでは、その素材であるガラス管の先端側を加熱変形により縮径して放電管20の端部20Tを成形し、ガラス管よりも小径のチップ管を溶着することにより、排気管22が一体的に成形される。
【0034】
箔電極30、外側電極40は、ここではその極性が陽極、陰極に定められている。そして、高周波(例えば、数kHz~数十MHzの範囲)、高電圧(例えば、数kV~十数kVの範囲)が、給電線70を介してエキシマランプ10に対して供給される。
【0035】
高周波電圧が印加されると、補助放電空間S2が減圧状態にあるため、主放電空間S1よりも低い点灯始動電圧によって、放電が補助放電空間S2において先に生じる。そして、補助放電空間S2からランプ径方向に向けて放射されたエキシマ光、すなわち紫外線の一部が、誘電体50を介して主放電空間S1に照射される。
【0036】
また、補助放電空間S2において生じ、ランプ軸C方向に向けて放射された紫外線の一部は、誘電体50の管壁内(管壁の境界面)での反射を繰り返すいわゆるファイバー効果によって放電管20の拡径部56そして放電管20の管壁全体に伝達され、主放電空間S1に向けて紫外線が照射される。ここでは、誘電体バリア放電が生じることによって、所定スペクトル(例えば、波長172nm)のエキシマ光(紫外線)が、主放電空間S1から放射される。
【0037】
本実施形態のエキシマランプ10は、小型のエキシマランプとして構成される。例えば、放電管20内で放電が発生する軸方向長さ(発光長)は、20mm~400mmの範囲に定めることができる。また、放電管20の外径は、5mm~30mmの範囲、好ましくは8mm~25mmの範囲に定めることができる。
【0038】
放電管20の肉厚は、エキシマ光による放電管劣化の防止、および放電開始電圧の上昇を抑えることを考慮し、例えば、0.8mm~1.5mmの範囲に定めることができる。
【0039】
外側電極配設区間Lにおいて、放電距離、すなわち誘電体50の封着部分54の外表面と放電管20の内表面との距離間隔は、放電空間の狭域化による照度不足の防止、放電距離拡大による放電の不安定化防止などを考慮し、2mm~12mmの範囲、好ましくは3mm~10mmの範囲に定めることが可能である。
【0040】
箔電極30は、電極幅に対して厚みが抑えられた極薄の帯状電極として構成される。ここでは、箔電極30の電極幅に対する厚さは、1/30以下、好ましくは1/50以下、更に好ましくは1/100以下に定められる。なお、図2、4、6では、箔電極30の厚みを誇張して描いている。
【0041】
例えば、箔電極30の厚さは、電流容量や製造容易さ、および誘電体50との剥離防止などを考慮し、20μm~50μmの範囲に定めることができる。一方、箔電極30の幅は、電流容量や製造容易さ、電極面積肥大化による放電光の遮断防止などを考慮することによって、1.2mm~10mmの範囲に定めることが可能である。
【0042】
箔電極30の電極材料は、導電性の高い金属あるいは合金によって成形することが可能である。また、電界研磨しやすい材料によって構成することもできる。ここでは、モリブデン、あるいはそれを含む合金などが使用されている。
【0043】
誘電体50は、ここでは、誘電材料(SiO2など)によって構成されている。誘電体50の厚さは、絶縁性を維持させる限界、放電開始電圧の上昇防止などを考慮し、例えば、0.1mm~2mmの範囲に定めることができる。
【0044】
図5は、箔電極30の拡大断面図である。
【0045】
箔電極30は、上述したように、箔電極の幅wに対して厚みが非常に薄く形成された電極であり、箔電極の幅wに対する厚さtは、1/30以下に抑えられている。箔電極30は、厚さ一定(=t)の平坦部32を有し、そして、平坦部32の幅方向両端32A、32Bから箔電極30の幅方向両端E1、E2までクサビ形に先が薄くなるクサビ形状部34A、34Bを有する。
【0046】
箔電極30のクサビ形状部34A、34Bは、ここでは縁まで鋭く尖ったクサビ形状になっている。すなわち、箔電極30は、幅方向の中心から縁の間で先鋭化しているのではなく、平坦部32の幅方向両端32A、32Bから幅方向両端E1、E2の間で先鋭化している。また、幅方向両端E1、E2が丸まって厚みがある状態ではなくて、箔電極30の幅方向両端E1、E2が尖って先鋭化して、平坦部32の幅方向両端32A、32Bに向けてそれぞれ一定の傾斜角度で厚さが大きくなっている。
【0047】
例えば、箔電極30の幅方向両端E1、E2の角度θ1、θ2(縁Eの角度θ)は、被覆される誘電体との境界部分に生じた隙間による剥離などの生じにくさ、電流容量に応じた平坦部の断面積の大きさ、ジュール熱の発生による温度上昇の抑制などを考慮することによって、2°以上15°以下の範囲、好ましくは10°以下の範囲に定めることができる。なお、平坦部32の断面の傾斜角度は、2°未満の範囲に定めることができる。この角度θは、箔電極30の縁Eから約100μmの範囲付近の断面を拡大観測して、箔電極の縁Eから平坦部32に向けて厚さが大きくなる角度から定めることができる。これにより、箔電極30では、エッジ状の縁Eが、ランプ軸C方向に沿って電極全体に形成されている。
【0048】
平坦部32は、その幅方向中心(中央部)がランプ軸Cと一致するように形成され、クサビ形状部34A、34Bは、平坦部32に対して対称的形状である。また、クサビ形状部34A、34Bは、箔電極30の電極幅wに対するクサビ形状部34A、34Bの幅方向長さd1(d1/w)は、0.2以下に定められている。ここではその幅方向両端から平坦部32の幅方向両端32A、32Bに向けた断面の傾斜角度θがそれぞれ一定となるように形成されている。
【0049】
さらに、平坦部32は、箔電極30の最大厚さTの7割以上の割合を占める厚さを有するように形成されている。例えば、箔電極30の電極幅wに対する平坦部32の幅方向両端32A、32Bの間の長さd(d/w)は、0.6以上に定められている。
【0050】
このような電極形状により、箔電極30と誘電体50との密着性を高めて剥離を抑えながら、点灯始動性の優れた小型のエキシマランプ10を提供することができる。
【0051】
まず、箔電極30のランプ軸Cに沿って延びる縁Eが鋭く尖っていることにより、電界集中が生じる。これによって、放電開始電圧を低く抑えながら、放電発光させることができる。また、クサビ形状部34A、34Bが縁まで鋭く尖ったクサビ形状であることにより、箔電極30の縁E付近の断面が軸方向に線状となり、放電開始電圧をより低く抑えることができるとともに、被覆される誘電体50との境界部分に隙間が生じにくくなり、剥離などが生じにくくなる。
【0052】
さらに、箔電極30は誘電体50、放電管20および外側電極40に対して同軸的に配置され、外側電極配設区間L内での所定の径方向断面における箔電極30の両方の縁Eと放電管20の外表面に相当する外側電極40の内表面までの距離である電極間距離が等しく、誘電体50の封着部分54の外表面と放電管20の内表面との距離間隔である放電距離が等しい。そのため、放電管20から全体的にバランス良く光が放射される。
【0053】
一方、箔電極30に対し、平坦部32を形成することにより、箔電極30と誘電体50との密着性を高めて剥離を抑えることができる。すなわち、厚みtが一定の平坦部32を設けることにより、極めて薄い厚さtの箔電極30に対し、比較的大きな断面積が確保されることになる。特に、平坦部32が箔電極30の6割以上を占めるため、ランプ点灯中、断面積が比較的大きな平坦部32を電流が流れることで、箔電極30におけるジュール熱の発生が抑制される。
【0054】
その結果、箔電極30が厚さ方向(X方向)、幅方向(Y方向)に熱膨張するのを抑えることができる。すなわち、大きな断面積を確保するため、箔電極30を幅方向に特段長くする必要がなく、幅方向に沿った熱膨張が大きくなるのを防ぐことができる。また、箔電極30の厚みを特段増す必要がないため、厚さ方向に沿った熱膨張が大きくなるのを防ぐことができる。
【0055】
また、断面の傾斜角度一定のクサビ形状部34A、34Bを形成することにより、電解研磨などによってクサビ形状部34A、34B表面を研磨することが容易になる。これにより、誘電体50との境界部分での剥離発生を抑制することができる。
【0056】
なお、箔電極30の形状に関しては、電極幅方向に沿って中央部から滑らかに電極両端に向けて傾斜させた断面をもつナイフエッジ形状とし、平坦部を設けない箔電極で構成することも可能である。また、ナイフエッジ形状以外の箔状の電極形状にしてもよい。
【0057】
図6は、図4に応じた封着部分54における箔電極30および箔電極30を覆う誘電体50の拡大断面図である。
【0058】
本実施形態における誘電体50は、図5に示した箔電極30の配置および形状に合わせて、箔電極30の任意の表面から誘電体50の外表面50Sまでの距離(箔電極までの厚み)の相違を少なくした断面形状を有する。
【0059】
誘電体50は、箔電極30の幅方向(Y方向)に沿って厚さが略一定の偏平形であり(図4、6参照)、箔電極30のランプ軸C方向に沿った配設区間の全体に渡って偏平形となるように成形されている。誘電体50は、箔電極30の幅方向(Y方向)に沿って厚さが略一定の四角形柱状部と、四角柱状部の両端で一体に成形された半円柱状部により構成されているともいえる。
【0060】
このような誘電体50の長楕円状または長円状の断面形状は、図5に示した箔電極30の配置および形状に合わせて、箔電極30の任意の表面から誘電体50の外表面50Sまでの距離(箔電極までの厚み)の相違を少なくした断面形状となる。
【0061】
ここでは、箔電極30の平坦部32と略平行な四角柱状部の平面状(平坦面状)の外表面50S1が形成される区間M0の部分を、中央部(平面部)50M0とする。また、中央部50M0の両端から電極幅方向(Y方向)の外側に向けて凸状の半円柱部の曲面状(半楕円面状)の外表面50S2が形成される区間M1の部分を、両端部(曲面部)50M1とする。
【0062】
四角柱状部は、そのランプ径方向に沿った断面が正方形や長方形などの四角形に近似する形状であって、箔電極の平坦部32と略平行なランプ軸方向に沿って一様な断面形状の柱状体である。この四角柱状部が一対で、箔電極の幅方向の中央部付近を厚さT2が略一定となるように、電極厚さ方向の両側から被覆する。
【0063】
また、半円柱状部は、そのランプ径方向に沿った断面が半楕円形などの半円形に近似する形状であって、ランプ軸方向に沿って一様な断面形状の半円柱状体である。この半円柱状部が一対で、箔電極の幅方向の縁付近を電極幅方向の厚さT1、電極厚さ方向の厚さT2で、縁付近を中心に囲むように、電極幅方向の両側から被覆する。
【0064】
誘電体50の中央部(平面部)50M0と両端部(曲面部)50M1との境界は、箔電極30の幅方向(Y方向)に沿って、箔電極30の両端E1、E2、好ましくは平坦部32の幅方向端32A、32Bよりも箔電極30の幅方向中央(ランプ軸C)側に位置する。すなわち、箔電極の幅方向(Y方向)に沿った区間M0の長さは、wよりも小さく、好ましくはdよりも小さくなるように定められている。また、区間M1の長さは、T1よりも大きくなるように形成されている。
【0065】
以上説明したように、本実施形態であるエキシマランプ10では、放電管20と箔電極30を被覆する誘電体50との間に主放電空間S1が形成されている。また、誘電体50には、箔電極30と封着している封着部分54と、封着部分54よりも先端側であって箔電極30と溶着していない非溶着部分52が設けられている。そして、非溶着部分52において、溶着部分51と溶着部分53との間を構成する非溶着部分52には補助放電空間S2が設けられている。補助放電空間S2を、誘電体50(内側管)の非溶着部分52に形成することにより、点灯始動性に関して良好であって、耐久性の優れたエキシマランプ10を提供することができる。
【0066】
まず、補助放電空間S2は、上述したようにその中央部付近の断面が円状であって、非溶着部分52の中央部付近の箔電極30の幅方向(Y方向)、厚さ方向(X方向)に沿った放電距離(内径)D1、D2(D1≒D2)は、内側電極30の幅W1、W2よりも大きい。そのため、補助放電空間S2は、外側電極配設区間Lよりランプ軸Cに沿って区間外に設けられている構成であっても、補助放電空間S2における放電が、確実に先に生じる。これは、点灯始動性の信頼性を高めることに繋がる。
【0067】
一方、箔電極30の先端30Tは、補助放電空間S2にまで延びておらず、誘電体50の溶着部分53により埋設され、補助放電空間S2に露出していない。そのため、内側電極30がスパッタリング現象によって消耗することがなく、ランプ耐久性を向上させることができる。
【0068】
スパッタリング現象が生じないことから、補助放電による主放電空間S1の温度上昇を防ぎ、ランプ点灯中、主放電における偏った電界強度分布の発生、放電の偏りを防ぐことができる。これは、照度分布均一化を向上させる。また、補助放電空間S2が断面円状であることも、偏った放電が生じるのを抑制することに貢献する。
【0069】
上述した箔電極30を被覆する誘電体50の構成によって、紫外線放射効率を高めることができるとともに、主放電における放電の偏りを防ぐことができる。すなわち、非溶着部分52の外径(幅)W11xが、封着部分54の外径W1との間で略等しいことから、非溶着部分52と放電管20との放電距離D10と、封着部分54の放電管20との放電距離D11とが略等しい。ランプ軸Cに沿って放電距離が箔電極30の幅方向(Y方向)に関して略一定であることにより、偏った放電が生じるのを抑制することができる。
【0070】
また、非溶着部分52の電極厚さ方向(X方向)に沿った肉厚T20が、封着部分54の電極厚さ方向(X方向)に沿った肉厚T2よりも小さい。したがって、電極厚さ方向(X方向)に関しても補助放電空間S2による放電が主放電空間S1における放電発生の障害となることがなく、偏った放電の発生を抑制することができる。
【0071】
補助放電空間S2は、導電性部材45を含めて外側電極40とランプ径方向に沿って対向していないため、補助放電空間S2における電界強度が必要以上に大きくなることがなく、外側電極配設区間Lの電界強度分布への影響、すなわち放電の偏りを抑えることができる。
【0072】
内側電極30については、箔状の電極以外で内側電極を構成してもよい。例えば、断面円状または矩形状の棒状電極として構成することも可能である。また、外側電極40に関しても、螺旋状以外の電極構造にすることも可能であり、円筒状部材を外側電極両端部に設けない電極構造にすることも可能である。封着部分54に関しては、断面楕円状または長円状となる偏平形または楕円形以外の形状にすることも可能である。
【0073】
なお、補助放電空間S2を、ランプ径方向に沿って外側電極40と対向させるように配置させることも可能である(図1の符号40’T、45’T参照)。非封着部分55の補助放電空間S2が形成される位置を、外側電極40と部分的にランプ径方向に沿って対向させる位置にすることで、補助放電空間S2内の電界強度を大きくする、すなわち補助放電しやすくなるようにすることができる。非封着部分55の補助放電空間S2が形成される位置をランプ軸C方向に沿って調整することにより、電界強度分布、補助放電による点灯始動における電圧などを調整することが可能であり、逆に点灯始動電圧に応じて、非封着部分55の補助放電空間S2が形成される位置または外側電極両端部(円筒状部材)の配置位置を調整してもよい。この場合、外側電極に関しては、その電極構造は上述したような螺旋部、導電性部材を設ける構成、あるいはその他の構成にすることができる。誘電体の外観形状、内側電極の断面形状についても任意である。
【0074】
このような補助放電空間を形成する位置と外側電極の配置位置との関係の調整は、小型エキシマランプなどにおいて、印加電圧を抑えながら紫外線放射効率を高めるという要求、また、所望する紫外線強度での紫外線放射を精度よく行うという要求に対し、対応することができる。
【符号の説明】
【0075】
10 エキシマランプ
20 放電管(外側管)
30 箔電極(内側電極)
40 外側電極
50 誘電体(内側管)
70 給電棒(給電線)
図1
図2
図3
図4
図5
図6