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特開2025-16000被覆ゴム組成物および振動エネルギー吸収ユニット
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  • 特開-被覆ゴム組成物および振動エネルギー吸収ユニット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016000
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】被覆ゴム組成物および振動エネルギー吸収ユニット
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/28 20250101AFI20250124BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20250124BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20250124BHJP
   F16F 1/36 20060101ALI20250124BHJP
   B32B 25/14 20060101ALI20250124BHJP
【FI】
C08L23/28
C08K3/36
F16F15/08 D
F16F1/36 C
B32B25/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023118975
(22)【出願日】2023-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【弁理士】
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【弁理士】
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】塩瀬 隆範
【テーマコード(参考)】
3J048
3J059
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
3J048AA01
3J048AD16
3J048BA11
3J048BA25
3J048BC08
3J048EA38
3J059AB06
3J059AD06
3J059BA64
3J059BB01
3J059BC06
3J059CB09
3J059DA46
3J059EA06
4F100AA20A
4F100AK09A
4F100AK14A
4F100AN00B
4F100AN02A
4F100BA02
4F100JD14
4F100JK06
4F100JK10
4F100YY00A
4J002BB241
4J002DJ016
4J002FD010
4J002FD016
4J002FD020
4J002FD140
4J002FD150
4J002FD340
4J002GF00
4J002GL00
4J002GM00
(57)【要約】
【課題】フランジとの接着強度および破壊耐久性(特に高歪変形での破壊耐久性)に優れた被覆ゴム層を形成しうる被覆ゴム組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の被覆ゴム組成物は、振動エネルギー吸収ユニットが備える減衰ゴム部材の露出した表面を被覆する被覆ゴム層を形成するためのものであって、ハロゲン化ブチルゴムを含む基材ゴム100質量部に対して、シリカを15質量部以上、70質量部以下含有することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動エネルギー吸収ユニットが備える減衰ゴム部材の露出した表面を被覆する被覆ゴム層を形成するためのものであって、ハロゲン化ブチルゴムを含む基材ゴム100質量部に対して、シリカを15質量部以上、70質量部以下含有することを特徴とする被覆ゴム組成物。
【請求項2】
前記ハロゲン化ブチルゴムは、臭素化ブチルゴムおよび/または塩素化ブチルゴムである請求項1に記載の被覆ゴム組成物。
【請求項3】
前記基材ゴム中のハロゲン化ブチルゴムの含有率は、50質量%以上である請求項1に記載の被覆ゴム組成物。
【請求項4】
前記シリカのBET比表面積は、50m/g以上、350m/g以下である請求項1に記載の被覆ゴム組成物。
【請求項5】
減衰ゴム部材を備える振動エネルギー吸収ユニットであって、前記減衰ゴム部材の露出した表面が、請求項1~4のいずれか一項に記載の被覆ゴム組成物から形成される被覆ゴム層で被覆されていることを特徴とする振動エネルギー吸収ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆ゴム組成物、および、これを被覆ゴム層に用いた振動エネルギー吸収ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
ビルや橋げた等の構造物の免震または制震に用いる振動エネルギー吸収ユニットとしては、例えば、鋼板等からなる一対のフランジと、前記フランジ間に介在させた減衰ゴム部材とを備えたもの等が知られている。前記一対のフランジと減衰ゴム部材とは、加硫接着等によって互いに一体化される。
【0003】
前記振動エネルギー吸収ユニットは、一対のフランジのうちの一方を構造物の下の基礎に、他方を構造物に固定した状態で、前記構造物に組み込まれる。地震が発生して基礎側のフランジが振動すると、両フランジ間の減衰ゴム部材が大変形して、前記振動が構造物側に伝えられるのを抑制する。また減衰ゴム部材の減衰作用により、構造物の振動が早期に減衰される。その結果、構造物が免震・制震される。
【0004】
前記減衰ゴム部材は、内部ゴムの損傷や経年劣化を抑制するために、前記一対のフランジと接しない表面(外周面)を、ガスバリア性や耐候性などを有する被覆ゴム層によって被覆することが採用されている。このような被覆ゴム層について、その組成が種々検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ゴム成形体の表面に、層状粘土鉱物フィラーがゴム中に分散されてなる被覆層が形成されていることを特徴とする被覆ゴム成形体が開示されている。
【0006】
特許文献2には、ゴム分として、ハロゲン化ブチルゴム、およびエチレン・プロピレン・ジエン共重合ゴムの2種のゴムを併用し、かつ表面処理炭酸カルシウムを配合したことを特徴とする被覆ゴム組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-34396号公報
【特許文献2】特開2012-126818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
減衰ゴム部材を被覆するゴム層を形成するゴムとしては、ガスバリア性のあるブチルゴムやハロゲン化ブチルゴム等が使用されている。しかしながら、これらのゴムは、二重結合が少なく、フランジの鋼材との接着力が弱いため、高歪時においてフランジから剥離しやすく、破壊の起点となるという問題があった。
【0009】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、フランジとの接着強度および破壊耐久性(特に高歪変形での破壊耐久性)に優れた被覆ゴム層を形成しうる被覆ゴム組成物を提供することを目的とする。本発明は、前記被覆ゴム組成物を被覆ゴム層に用いた振動エネルギー吸収ユニットを提供することをさらなる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決することができた本発明の被覆ゴム組成物は、振動エネルギー吸収ユニットが備える減衰ゴム部材の露出した表面を被覆する被覆ゴム層を形成するためのものであって、ハロゲン化ブチルゴムを含む基材ゴム100質量部に対して、シリカを15質量部以上、70質量部以下含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フランジとの接着強度および破壊耐久性(特に高歪変形での破壊耐久性)に優れた被覆ゴム層を形成しうる被覆ゴム組成物が得られる。本発明によれば、フランジとの接着強度および破壊耐久性(特に高歪変形での破壊耐久性)に優れた被覆ゴム層を有する振動エネルギー吸収ユニットが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の振動エネルギー吸収ユニットの実施形態の一例を示す一部切欠き斜視図。
図2】本発明の被覆ゴム組成物を用いた振動エネルギー吸収ユニットの破壊耐久性を評価するために作製する、前記振動エネルギー吸収ユニットのモデルとしての試験体を分解して示す分解斜視図。
図3】前記試験体を変位させる試験を実施するための試験機の概略を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<被覆ゴム組成物>
本発明の被覆ゴム組成物は、振動エネルギー吸収ユニットが備える減衰ゴム部材の露出した表面を被覆する被覆ゴム層を形成するためのものであって、ハロゲン化ブチルゴムを含む基材ゴム100質量部に対して、シリカを15質量部以上、70質量部以下含有することを特徴とする。
【0014】
本発明の被覆ゴム組成物を用いることで、フランジとの接着強度および破壊耐久性(特に高歪変形での破壊耐久性)に優れた被覆ゴム層を形成しうるメカニズムは、必ずしも明らかでないが、下記のように考えられる。
【0015】
構造物に組み込まれる振動エネルギー吸収ユニットは、高歪にせん断変形したときに、減衰ゴム部材の露出した表面を被覆する被覆ゴム層が局所的に極限まで伸ばされることでハードニングして硬くなる。これが繰り返されると、フランジとの接着強度を保つことができず、被覆ゴム層がフランジから剥離してしまう。そして、そこから破壊がどんどん広がり、破壊耐久性が低下してしまう。本発明者らは、前記現象が特に被覆ゴム層を形成するゴムとして二重結合の少ないハロゲン化ブチルゴムを使用する場合に起こりやすいこと、ハロゲン化ブチルゴムを含む基材ゴムにシリカを適量に配合することで極限に延ばされた被覆ゴム層が剥離に至る前に塑性変形をして接着強度を保つことができることを見出した。本発明の被覆ゴム組成物から形成される被覆ゴム層は、フランジとの接着強度が向上し、特に複数回の地震による高歪の繰り返し変形に対しても破壊耐久性に優れる。
【0016】
(基材ゴム)
本発明の被覆ゴム組成物は、ハロゲン化ブチルゴムを含む基材ゴム(以下、単に「基材ゴム」と称することがある)を含有する。
【0017】
前記ハロゲン化ブチルゴムとしては、イソブチレンと少量の他のモノマーとの共重合体であるブチルゴムをハロゲン化させたものが挙げられる。
【0018】
前記他のモノマーとしては、一般に、1つの分子中に炭素-炭素二重結合を1つまたは2つ有する炭化水素が挙げられる。前記他のモノマーとしては、例えば、エチレン、プロペン、ブテン、ヘキセン、スチレン、アルキルスチレン(4-メチルスチレンなど)、イソプレン、ブタジエン等の1種または2種以上が挙げられる。
【0019】
ブチルゴムは、イソブチレンと少量のイソプレンとを重合して得られる共重合体であることが好ましい。前記共重合体中のイソブチレンの含有率は、特に限定されないが、例えば、80モル%~99モル%程度、特に90モル%~99モル%程度であることが好ましい。
【0020】
ハロゲン化ブチルゴムとしては、例えば、塩素化ブチルゴム、および、臭素化ブチルゴム、イソブチレンとp-メチルスチレンの共重合体の臭素化物などが挙げられる。前記ハロゲン化ブチルゴムとしては、塩素化ブチルゴムまたは臭素化ブチルゴムが好ましい。前記塩素化ブチルゴムまたは臭素化ブチルゴムは、例えば、ブチルゴム中のイソプレン構造部分、具体的には二重結合および/または二重結合に隣接する炭素原子に塩素または臭素を付加または置換反応させたものである。
【0021】
ハロゲン化ブチルゴム中のハロゲン含有率は、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上が好ましく、1.5質量%以上がさらに好ましく、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。
【0022】
前記塩素化ブチルゴムの具体例としては、例えば日本ブチル社製のCHLOROBUTYL1066〔安定剤:NS、ハロゲン含量率:1.26%、ムーニー粘度:38ML1+8(125℃)、比重:0.92〕;LANXESS社製のLANXESS X_BUTYL CB1240等の少なくとも1種が挙げられる。
【0023】
前記臭素化ブチルゴムの具体例としては、例えば日本ブチル社製のBROMOBUTYL2255〔安定剤:NS、ハロゲン含量率:2.0%、ムーニー粘度:46ML1+8(125℃)、比重:0.93〕;LANXESS社製のLANXESS X_BUTYL BBX2等の少なくとも1種が挙げられる。
【0024】
本発明では、ハロゲン化ブチルゴムとして、臭素化ブチルゴムを使用することが好ましい。臭素化ブチルゴムを用いることで、例えば、後述するように本発明の被覆ゴム組成物からなる被覆ゴム層と、内部の減衰ゴム部材とを同時に加硫して振動エネルギー吸収ユニットを製造する際に、前記減衰ゴム部材と被覆ゴム層の加硫速度を良好にマッチングさせることができる。
【0025】
前記基材ゴムは、ハロゲン化ブチルゴムに加えて、さらに他のゴムを含むこともできる。前記他のゴムとしては、例えば、ハロゲン化していないブチルゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム、クロロプレンゴム等のジエン系ゴム;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)等の非ジエン系ゴムを挙げることができる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
基材ゴム中のハロゲン化ブチルゴムの含有率は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。また、基材ゴムは、実質的にハロゲン化ブチルゴムのみを含むことも好ましい態様である。基材ゴム中のハロゲン化ブチルゴムの含有率を50質量%以上とすることで、被覆ゴム層のガスバリア性がより優れると共に、本願発明の効果がより発揮される。
【0027】
(シリカ)
本発明の被覆ゴム組成物は、シリカを含有する。前記シリカとしては、例えば、主として珪砂を原料として化学的に反応させて、得られる合成シリカが挙げられる。
【0028】
前記シリカは、製造方法によって分類される湿式法シリカ、乾式法シリカのいずれを使用してもよい。また、湿式法シリカは反応条件の違いにより沈澱法シリカ(湿式シリカ)とゲル法シリカ(シリカゲル)に分類されるが、比較的一次粒子が大きく、柔らかい凝集構造を持つ沈澱法シリカ(湿式シリカ)を用いることが好ましい。沈澱法シリカ(湿式シリカ)は、ゴム中での分散性がより良好なものである。沈澱法シリカ(湿式シリカ)を用いることで、シリカによる接着強度の向上効果が一層高くなると考えられる。
【0029】
前記シリカの具体例としては、例えば、東ソー・シリカ社製のNipsil(登録商標)シリーズ(例えば、NipsilVN3)等の市販品が挙げられる。
【0030】
前記シリカのBET比表面積は、好ましくは100m/g以上、より好ましくは150m/g以上、さらに好ましくは200m/g以上であることが好ましく、350m/g以下が好ましく、300m/g以下が好ましい。なお、BET比表面積は、吸着気体として窒素ガスを用いる気相吸着法で測定される値である。シリカのBET比表面積は、JIS-K6430:2008に基づいて測定される。
【0031】
前記シリカの含有量は、基材ゴム100質量部に対して、15質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましく、25質量部以上であることがさらに好ましく、70質量部以下であることが好ましく、60質量部以下であることがより好ましく、50質量部以下であることがさらに好ましい。シリカの含有量が15質量部以上であれば、シリカによる接着強度の向上効果が発揮され、70質量部以下であれば、加工性が良好となる。
【0032】
(カーボンブラック)
本発明の被覆ゴム組成物は、ゴム補強充填剤として、さらにカーボンブラックを含有することが好ましい。
【0033】
前記カーボンブラックの種類は特に限定されない。前記カーボンブラックとしては、SAF(Super Abrasion Furnace Black)、ISAF(Intermediate Super Abrasion Furnace Black)、IISAF(Intermediate ISAF)、HAF(High Abrasion Furnace Black)、MAF(Medium Abrasion Furnace Black)、FEF(Fast Extruding Furnace Black)、SRF(Semi-Reinforcing Furnace Black)、GPF(General Purpose Furnace Black)、FF(Fine Furnace Black)、CF(Conductive Furnace Black)などのファーネスカーボンブラック;FT(Fine Thermal black)、MT(Medium Thermal Black)などのサーマルカーボンブラック;EPC(Easy Processing Channel Black)、MPC(Medium Processing Channel Black)などのチャンネルカーボンブラック;アセチレンブラックが挙げられる。前記カーボンブラックは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
前記カーボンブラックの具体例としては、例えば、三菱ケミカル社製のダイアブラック(登録商標)シリーズや、東海カーボン社製のシースト(登録商標)シリーズなどの市販品が挙げられる。
【0035】
前記カーボンブラックの含有量は、基材ゴム100質量部に対して、0質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることがさらに好ましく、60質量部以下であることが好ましく、55質量部以下であることがより好ましく、50質量部以下であることがさらに好ましい。カーボンブラックの含有量が前記範囲内であれば、カーボンブラックによる補強効果が得られながら、加工性がより良好となる。
【0036】
前記カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、20m/g以上が好ましく、30m/g以上がより好ましく、50m/g以上がさらに好ましく、200m/g以下が好ましく、160m/g以下がより好ましく、140m/g以下がさらに好ましい。窒素吸着比表面積は、例えば、JIS K6217-2:2001に従って測定することができる。
【0037】
(加硫成分)
本発明の被覆ゴム組成物は、加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤などの加硫成分を含有することが好ましい。
【0038】
[加硫剤]
前記加硫剤としては、硫黄系加硫剤を用いることが好ましい。前記硫黄系加硫剤としては、例えば、粉末硫黄、オイル処理粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、分散性硫黄等が挙げられる。これらの硫黄系加硫剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
前記加硫剤の具体例としては、例えば、鶴見化学工業社製の5%オイル処理粉末硫黄などの市販品が挙げられる。
【0040】
前記加硫剤の含有量は、基材ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、0.8質量部以上であることがより好ましく、3.0質量部以下であることが好ましく、2.0質量部以下であることがより好ましい。なお、前記加硫剤として、例えばオイル処理粉末硫黄や分散性硫黄等を使用する場合、前記含有量は、それぞれの中に含まれる有効成分としての硫黄自体の含有量とする。
【0041】
[加硫促進剤]
前記加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、2,2'-ジベンゾチアゾリルジスルフィド等のチアゾール系加硫促進剤;ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛のようなジチオカルバミン酸塩系促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT-N)等のチウラム系加硫促進剤;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N′-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤を挙げることができる。これらの加硫促進剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
前記加硫促進剤の具体例としては、例えば、大内新興化学社製のノクセラー(登録商標)シリーズ(例えば、ノクセラーDM)等が挙げられる。
【0043】
前記加硫促進剤の含有量は、基材ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、0.8質量部以上であることがより好ましく、3.0質量部以下であることが好ましく、2.0質量部以下であることがより好ましい。
【0044】
[加硫助剤]
前記加硫助剤としては、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等の金属化合物や、ステアリン酸、オレイン酸、綿実脂肪酸等の脂肪酸が挙げられる。また、前記加硫助剤としては、ゴムへの分散性を向上するために表面処理を行ったものを用いてもよい。これらの加硫助剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
前記加硫助剤の具体例としては、例えば、三井金属鉱業社製の酸化亜鉛2種、協和化学工業社製のマグサラット(登録商標)シリーズ(表面処理酸化マグネシウム)、日油社製のつばき(ステアリン酸)などの市販品が挙げられる。
【0046】
前記加硫助剤の含有量は、基材ゴム100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましく、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。
【0047】
また、加硫助剤として金属化合物と脂肪酸を併用することも好ましい。この場合、金属化合物と脂肪酸の質量比(金属化合物/脂肪酸)は、0.5以上であることが好ましく、1以上であることがより好ましく、5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。
【0048】
(その他の成分)
本発明の被覆ゴム組成物は、上記の各成分に加えて、さらに粘着性付与剤、軟化剤、老化防止剤等の、被覆ゴム組成物に使用されうる種々の添加剤を、本発明の目的を損害しない範囲内で適宜選択して含有してもよい。
【0049】
[粘着性付与剤]
前記粘着性付与剤としては、脂肪族系石油系樹脂、芳香族系石油系樹脂、芳香族変性脂肪族系石油系樹脂などの石油系樹脂が挙げられる。これらの粘着性付与剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
前記石油系樹脂の具体例としては、例えば、日本ゼオン社製のクイントン(登録商標)シリーズ(例えば、クイントンA100)などの市販品が挙げられる。
【0051】
前記粘着性付与剤の含有量は、基材ゴム100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましく、10質量部以下であることが好ましく、8質量部以下であることがより好ましい。
【0052】
[軟化剤]
前記軟化剤としては、例えば、各種のオイルが挙げられる。これらの軟化剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
前記オイルの具体例としては、例えば、出光興産社製のダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW、NH、NP、NS、NR、NM、AC、AH等の市販品が挙げられる。
【0054】
前記軟化剤の含有量は、基材ゴム100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがさらに好ましく、50質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましい。
【0055】
本発明の被覆ゴム組成物は、例えば、基材ゴム、シリカ、および必要に応じて添加するカーボンブラック、加硫成分、その他の成分を混練することにより調製することができる。混練の方法は、特に限定されず、例えば、密閉式混練機、混練ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどの公知の混練機を用いて行えばよい。
【0056】
本発明の被覆ゴム組成物は、振動エネルギー吸収ユニットが備える減衰ゴム部材の露出した表面(即ち、一対のフランジと接しない表面)を被覆する被覆ゴム層を形成するための被覆ゴム組成物として好適に用いられる。
【0057】
<振動エネルギー吸収ユニット>
本発明には、一対のフランジと、前記フランジ間に介在させた減衰ゴム部材とを備える振動エネルギー吸収ユニットであって、前記減衰ゴム部材の露出した表面が、本発明の被覆ゴム組成物から形成される被覆ゴム層で被覆されていることを特徴とする振動エネルギー吸収ユニットが含まれる。前記振動エネルギーとしては、地震による振動エネルギーを挙げることができ、前記振動エネルギー吸収ユニットは、免震装置あるいは制振装置に好適に使用される。
【0058】
本発明の振動エネルギー吸収ユニットにおいて、減衰ゴム部材が露出している表面は、少なくとも一部が本発明の被覆ゴム組成物から形成される被覆ゴム層で被覆されていればよく、減衰ゴム部材が露出している表面の全面が、本発明の被覆ゴム組成物から形成される被覆ゴム層で被覆されていることが好ましい。被覆ゴム層による被覆率が高まることにより、減衰ゴム部材の損傷や経年劣化が抑制されるからである。
【0059】
本発明の振動エネルギー吸収ユニットとしては、例えば、図1に示されるものが挙げられる。図1は、本発明の振動エネルギー吸収ユニットの実施形態の一例を示す一部切欠き斜視図である。振動エネルギー吸収ユニット10は、例えば鋼板等からなる一対のフランジ20、20’と、前記フランジ20、20’間に介在させた、例えばジエン系等の減衰性ゴムからなる減衰ゴム部材30とを備えている。
【0060】
フランジ20、20’は、それぞれ平面形状が矩形の平板状に形成されている。また、減衰ゴム部材30は、前記フランジ20、20’よりも小さい矩形で、かつ厚肉の平板状に形成されている。フランジ20、20’の材質は、特に限定されないが、例えば、鋼材SS490などを挙げることができる。前記フランジ20、20’と減衰ゴム部材30とは、それぞれの4辺が互いに平行で、かつ減衰ゴム部材30の全周に亘ってフランジ20、20’を外方に突出させた状態で、例えば加硫接着等によって互いに一体化されている。
【0061】
そして、減衰ゴム部材30の露出した表面(外周面)(即ち、フランジ20、20’と接しない表面)は、その全面に亘って、前記本発明の被覆ゴム組成物から形成される被覆ゴム層40で被覆されている。これにより、減衰ゴム部材30の損傷や経年劣化が抑制される。
【0062】
前記被覆ゴム層40は、例えば加硫接着等によって、減衰ゴム部材30およびフランジ20、20’と一体化されている。
【0063】
振動エネルギー吸収ユニット10は、具体的には、例えば下記の手順で製造される。
すなわち、一対のフランジ20、20’間に加硫前の減衰ゴム部材30をセットする。また、前記減衰ゴム部材30の、フランジ20、20’と接しない表面(外周面)を、本発明の被覆ゴム組成物からなる加硫前の被覆ゴム層40によって被覆する。前記各部間には、例えば、加硫接着剤を介在させる。なお、前記加硫前の減衰ゴム部材30の、フランジ20、20’と接しない表面(外周面)を、本発明の被覆ゴム組成物からなる加硫前の被覆ゴム層40によって被覆した後、一対のフランジ20、20’間にセットしてもよい。
【0064】
その後、全体を加硫処理すると、減衰ゴム部材30および被覆ゴム層40が加硫されるとともに、フランジ20、20’、減衰ゴム部材30および被覆ゴム層40が互いに加硫接着により一体化されて振動エネルギー吸収ユニット10が製造される。
なお、本発明の振動エネルギー吸収ユニットの構成は、図1の例のものには限定されない。例えば減衰ゴム部材30は厚肉の円板状等に形成してもよい。また減衰ゴム部材30は、減衰性ゴムからなるゴム層と、鋼板等からなる拘束層とを交互に積層した多層構造に形成してもよい。
【実施例0065】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0066】
[評価方法]
<90°剥離接着強度>
90°剥離接着強度は、接着剤-はく離接着強さ試験方法第1部:90°はく離JIS-K6854-1の方法により評価した。被覆ゴム組成物No.1の90°剥離接着強度を100%として、表1の各例で調製した被覆ゴム組成物のはく離強度を指数で表示した。105%以上のものを「○」、105%未満のものを「×」と評価した。
【0067】
<破壊耐久性>
(試験体の作製)
図2に示すように、減衰性ゴム組成物をシート状に押出成形し、矩形(厚み8mm×縦36mm×横36mm)に打ち抜き、減衰ゴム組成物からなる部材21を作製した。減衰ゴム部材21の側面をシート状に圧延された被覆ゴム組成物で巻き、厚み8mm、幅2mmとなるように被覆ゴム組成物からなる被覆層23を形成し、平板1を作製した。次いで、この平板1の表裏両面にそれぞれ加硫接着剤を介して厚み6mm×縦44mm×横44mmの矩形平板状のフランジ(鋼板)2を重ねて積層体25とした。そして、上記の積層体25を積層方向に加圧しながら150℃に加熱して、減衰ゴム部材を形成する減衰性ゴム組成物および被覆ゴム層を形成する被覆ゴム組成物を加硫させるとともに、鋼板、減衰ゴム部材および被覆ゴム層を互いに加硫接着させて、振動エネルギー吸収ユニットのモデルとしての破壊耐久性評価用の試験体3を作製した。
【0068】
前記減衰性ゴム組成物としては、天然ゴム、シリカ、クマロン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、液状ポリイソプレンゴム、シリル化剤、カーボンブラックを含有する組成物を使用した。
【0069】
(変位試験)
上記試験体3を図3(a)に示すように2個用意し、この2個の試験体3をそれぞれ一方の鋼板2を介して1枚の中央固定治具4にボルトで固定するとともに、両試験体3の他方の鋼板2にそれぞれ1枚ずつの左右固定治具5をボルトで固定した。次いで、中央固定治具4を、図示しない試験機の上側の固定アーム6にジョイント7を介してボルトで固定し、かつ2枚の左右固定治具5を、上記試験機の下側の可動盤8にジョイント9を介してボルトで固定した。なお、両試験体3は、それぞれ平板1の互いに平行な2辺を下記の変位方向と平行に揃えた状態で、上記のように固定した。
次いで、温度20℃の環境下、下記(I)(II)の操作を1サイクルとして、平板1を300%の大変形で繰り返し歪み変形させた。即ち、各サイクルにおける最大変位量は、いずれも平板1を挟む2枚の鋼板2の、当該平板1の厚み方向(積層方向)に直交する方向のずれ量が平板1の厚みの300%となるように設定した。
(I):可動盤8を、図3(a)中に白抜きの矢印で示すように固定アーム6の方向に押し上げるように変位させて、平板1を、図3(b)に示すように厚み方向(積層方向)に直交する方向に歪み変形させた状態とする。
(II):上記の状態から、可動盤8を、今度は図3(b)中に白抜きの矢印で示すように固定アーム6の方向と反対方向に引き下げるように変位させて、図3(a)に示す状態に戻す。
【0070】
(破壊耐久性の評価)
試験体3の被覆ゴム層が破壊するまでのサイクル数を記録した。被覆ゴム組成物No.1を用いた試験体が破壊するまでのサイクル数を100%として、表1の各例で調製した被覆ゴム組成物を用いた試験体の値を指数表示した。105%以上のものを「○」、105%未満のものを「×」と評価した。
【0071】
<総合判定>
90°剥離接着強度、破壊耐久性の評価結果がすべて「〇」の場合には、総合判定を「合格(〇)」とし、90°剥離接着強度、破壊耐久性の評価結果のいずれか一つが「×」のものは、総合判定を「不合格(×)」とした。
【0072】
表1に示す配合の各成分を、密閉式混練機を用いて混練することで被覆ゴム組成物を作製した。
【表1】
【0073】
表1中の各成分は下記のとおりである。
基材ゴム:エクソンモービルケミカル社製の臭素化ブチルゴム エクソン(登録商標)ブロモブチル2255
シリカ:Evonik社製ULTRASIL VN3GR(BET比表面積180m/g)
シリカ:東ソー・シリカ社製のNipsil(登録商標)KQ(BET比表面積240m/g)
カーボンブラック(GPF級):旭カーボン社製旭#55(窒素吸着比表面積:26m/g)
加硫剤:鶴見化学工業社製の5%オイル処理粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学社製のノクセラー(登録商標)DM(2,2'-ジベンゾチアゾリルジスルフィド)
ステアリン酸:日油社製のつばき
酸化亜鉛:三井金属鉱業社製の酸化亜鉛2種
酸化マグネシウム:協和化学工業社製のマグサラット(登録商標)150
石油系樹脂:荒川化学社製タマノルN510
軟化剤:出光興産社製のダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW-90
【0074】
表1の結果から明らかなように、振動エネルギー吸収ユニットが備える減衰ゴム部材の露出した表面を被覆する被覆ゴム層を形成するためのものであって、ハロゲン化ブチルゴムを含む基材ゴム100質量部に対して、シリカを15質量部以上、50質量部以下含有する本発明の被覆ゴム組成物を被覆ゴム層に用いることで、ブランジとの接着強度および高歪変形での破壊耐久性に優れた被覆ゴム層が形成される。
【符号の説明】
【0075】
10:振動エネルギー吸収ユニット、20、20’:フランジ、30:減衰ゴム部材、40:被覆ゴム層、1:平板、2:鋼板、3:試験体、4:中央固定治具、5:左右固定治具、6:固定アーム、7:ジョイント、8:可動盤、9:ジョイント
【0076】
本発明の好ましい態様(1)は、振動エネルギー吸収ユニットが備える減衰ゴム部材の露出した表面を被覆する被覆ゴム層を形成するためのものであって、ハロゲン化ブチルゴムを含む基材ゴム100質量部に対して、シリカを15質量部以上、70質量部以下含有することを特徴とする被覆ゴム組成物である。
【0077】
本発明の好ましい態様(2)は、前記ハロゲン化ブチルゴムは、臭素化ブチルゴムおよび/または塩素化ブチルゴムである態様(1)の被覆ゴム組成物である。
【0078】
本発明の好ましい態様(3)は、前記基材ゴム中のハロゲン化ブチルゴムの含有率は、50質量%以上である態様(1)または(2)の被覆ゴム組成物である。
【0079】
本発明の好ましい態様(4)は、前記シリカのBET比表面積は、50m/g以上、350m/g以下である態様(1)~(3)のいずれか一つの被覆ゴム組成物である。
【0080】
本発明の好ましい態様(5)は、減衰ゴム部材を備える振動エネルギー吸収ユニットであって、前記減衰ゴム部材の露出した表面が、前記態様(1)~(4)のいずれか一つの被覆ゴム組成物から形成される被覆ゴム層で被覆されていることを特徴とする振動エネルギー吸収ユニットである。
図1
図2
図3