(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016017
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】相対位置及び相対姿勢計測装置、相対位置及び相対姿勢調整装置及びアンテナ方向調整システム
(51)【国際特許分類】
G01S 5/14 20060101AFI20250124BHJP
H01Q 3/08 20060101ALI20250124BHJP
【FI】
G01S5/14
H01Q3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023119012
(22)【出願日】2023-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】磯谷 亮介
(72)【発明者】
【氏名】荘司 洋三
【テーマコード(参考)】
5J021
5J062
【Fターム(参考)】
5J021AA01
5J021AA02
5J021DA02
5J021FA22
5J021GA02
5J021HA05
5J021JA10
5J062AA08
5J062AA09
5J062BB03
5J062GG01
5J062GG02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】移動体と固定局、又は移動体同士のアンテナのアライメントをとる場合においても、生じる角度や位置ずれを、よりリアルタイム性高く検出すること。
【解決手段】相対位置及び相対姿勢計測装置は、位相差検出用アンテナと、前記位相差検出用アンテナを介して電波を送信するトランスミッタと、前記位相差検出用アンテナを介して電波を受信するレシーバと、を有する二つ以上の伝搬位相差検出部と、送信された電波の送信時搬送波位相と他の1以上の伝搬位相差検出部から送信された電波のそれぞれの受信時搬送波位相とに基づいて、位相差をそれぞれ検出する位相検出部と、位相差に基づいて、前記伝搬位相差検出アンテナが設けられた被測定対象物の位置又は方向を算出する位置角度ずれ算出部とを備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相差検出用アンテナと、前記位相差検出用アンテナを介して電波を送信するトランスミッタと、前記位相差検出用アンテナを介して電波を受信するレシーバと、を有する2つ以上の伝搬位相差検出部と、
前記トランスミッタにより送信された電波の送信時搬送波位相と他の1つ以上の伝搬位相差検出部から送信されると共に前記レシーバにより受信された電波のそれぞれの受信時搬送波位相とに基づいて、前記送信時搬送波位相と前記受信時搬送波位相との位相差をそれぞれ検出する位相検出部と、
前記位相検出部により検出されたそれぞれの位相差に基づいて、前記伝搬位相差検出アンテナが設けられた被測定対象物の位置又は方向を算出する位置角度ずれ算出部とを備えること
を特徴とする相対位置及び相対姿勢計測装置。
【請求項2】
前記位相検出部は、それぞれの前記位相差を繰り返し検出し、それぞれの前記位相差の時間的な変化値を検出し、
前記位置角度ずれ算出部は、前記位相検出部により検出されたそれぞれの変化値に基づいて、前記被測定対象物の位置又は方向の変化値を算出すること
を特徴とする請求項1に記載の相対位置及び相対姿勢計測装置。
【請求項3】
前記被測定対象物を固定又は支持すると共に前記被測定対象物に取り付けられた位相差検出用アンテナと他の位相差検出用アンテナとの間の距離を大きくする変位拡大機構が設けられること
を特徴とする請求項1記載の相対位置及び相対姿勢計測装置。
【請求項4】
前記伝搬位相差検出部は、送信する電波の周波数が2種類以上切り替え可能なトランスミッタ又は、送信する電波の周波数が離散的又は連続的に可変可能な前記トランスミッタの何れかを有すること
を特徴とする請求項1に記載の相対位置及び相対姿勢計測装置。
【請求項5】
前記被測定対象物の位置又は方向に関する物理情報を計測するセンサをさらに備え、
前記位置角度ずれ算出部は、前記位相差と、前記センサにより計測された物理情報とに基づいて、前記位置又は前記方向を算出すること
を特徴とする請求項1に記載の相対位置及び相対姿勢計測装置。
【請求項6】
請求項1に記載された相対位置及び相対姿勢計測装置を用いた相対位置及び相対姿勢調整装置であって、
前記被測定対象物の位置又は方向を調整するアクチュエータと、
前記位置角度ずれ算出部が算出した位置又は方向に基づいて、予め設定された特定の位置又は方向に近づくように前記アクチュエータを制御する位置角度制御部とをさらに備えること
を特徴とする相対位置及び相対姿勢調整装置。
【請求項7】
前記位置角度ずれ算出部は、前記位相検出部により検出されたそれぞれの位相差を同一にする誤差信号を出力し、
前記位置角度制御部は、前記位置角度ずれ算出部により出力された誤差信号に基づいて、前記アクチュエータを制御すること
を特徴とする請求項6に記載の相対位置及び相対姿勢調整装置。
【請求項8】
前記位相検出部は、それぞれの前記位相差を繰り返し検出し、それぞれの前記位相差の時間的な変化値を検出し、
前記位置角度ずれ算出部は、前記位相検出部により検出されたそれぞれの位相差の時間的な変化値を基準値にする誤差信号を出力し、
前記位置角度制御部は、前記位置角度ずれ算出部により出力された誤差信号に基づいて、前記アクチュエータを制御すること
を特徴とする請求項6に記載の相対位置及び相対姿勢調整装置。
【請求項9】
請求項1に記載された相対位置及び相対姿勢計測装置を複数用いた相対位置及び相対姿勢調整システムであって、
前記被測定対象物の方向を制御するアクチュエータと、
前記位置角度ずれ算出部により算出された位置又は方向に基づいて、前記2以上の被測定対象物が予め設定された動作をするように前記アクチュエータを制御する位置角度制御部とを備えること
を特徴とする相対位置及び相対姿勢調整システム。
【請求項10】
請求項1に記載された相対位置及び相対姿勢計測装置を用いたアンテナ方向調整システムであって、
前記被測定対象物である二つ以上のアンテナと、
前記アンテナの方向を制御するアクチュエータと、
前記位置角度ずれ算出部により算出された位置又は方向に基づいて、前記2以上のアンテナが対向するように前記アクチュエータを制御する位置角度制御部とを備えること
を特徴とするアンテナ方向調整システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二物体間の位相差を複数経路にわたって計測することによって、理想的な位置からのずれ、及び理想的な角度からのずれを計測することができる相対位置及び相対姿勢計測装置、相対位置及び相対姿勢調整装置及びアンテナ方向調整システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、28GHz~300GHz、及びそれを超える周波数であるミリ波・テラヘルツ波を用いた広帯域通信により、高速・大容量なデータ転送を行うことが可能となった。これは、使用周波数帯が上がるにつれて広帯域となり転送レートを向上させることが可能となったからであった。
【0003】
一方で、広帯域通信により、電波の減衰が強くなるため、伝搬距離がとれなくなった。このため、例えばホーンアンテナやパラボラアンテナ等の開口面アンテナを高ゲインアンテナとして用いて、この減衰を補うことが一般的に行われている。これにより、電波自体の直線性に伴い強い指向性をもったビーム状の電波を扱う必要性が生じた。このような高ゲインアンテナは、送受両側で極めて精密に対向させないと、ゲインアンテナ間の位置・角度ずれによって電波の受信強度が減少し、通信品質に影響を与えてしまうことが懸念されていた。
【0004】
また、移動体と固定局、あるいは移動体同士のアンテナのアライメントをとる場合においては、生じる角度や位置ずれに対して、よりリアルタイム性高くフィードバック制御する必要があった。このため、特許文献1~3に開示されている制御技術が必要とされていた。
【0005】
特許文献1には、ミリ波等の直線性の高い周波数帯域を扱うアンテナにおいて、その通信用電波自体の受信電波強度(RSSI:Received Signal Strength Indicator)を観察し、その強度が最大になるようにアンテナの向きを最適化する無線装置が開示されている。また、特許文献2には、送信側および受信側のいずれか、あるいは両方にGPS測位装置を設置し、それぞれの測位情報にもとづいて理想的な対向角度を算出し、それに合わせてアンテナの向きを最適化する基地局装置が開示されている。さらに、特許文献3には、GPSを使ったリアルタイムキネマティック測位を用い、またジャイロ等の姿勢センサを併用することによって50GHz帯のアンテナの向きを合わせるアンテナ方向調整システムが開示されている。また、特許文献3では、地上のアンテナから上空を飛行する航空機に対して通信を可能とするアンテナ方向調整システムも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-112554号公報
【特許文献2】特開2017-50599号公報
【特許文献3】特開2012-220318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示されている技術では、静止物に搭載されたアンテナを対象としたアンテナの方向調整を前提としており、移動体同士のアンテナのアライメントをとることを想定していない。このため、特許文献1及び特許文献2に開示されている技術では、移動体同士のアンテナのアライメントを高精度にとることができない問題点があった。
【0008】
また、特許文献3では、指向性のある送信電波の方向を走査して受信したタイミングから方向を決定するが、比較的精度が低いという問題点があった。
【0009】
また、現在でも一般的にはターゲットスコープを用いた目視、又はRSSI等を使った手動調整が使われているが、作業者の負担が大きく、精度の高い対向状態を実現することは困難であった。
【0010】
また、RSSIを用いたアンテナアライメントは、ミリ波やテラヘルツ波の非常に絞られたビームでは、そもそもわずかな角度ずれだけでRSSIが検出できないほどにビームのずれが生じる可能性があった。例えば、0.1度の角度ずれであっても、100m先では17cmの位置ずれに相当する。このとき、絞られたビームが数cmであればアンテナでRSSIが検出できず、位置調整に利用できないという問題点があった。また、RSSIを用いたアンテナアライメントでは、最適な対向位置又は角度にあるときにRSSIがいくつになるかは厳密には分からないため、アンテナの向きを調整しながら最大値を探すことになる。これにより応答性が悪く、よりリアルタイム性高くフィードバック制御する必要が発生する移動体のアライメント合わせには向かないという問題点があった。また、RSSIを用いたアンテナアライメントでは、最大値探索となるために、サイドローブ周辺等での局所最適解に落ち着くことが懸念され、メインローブを捉えられずに最良の通信品質を提供できない場合があるという問題点があった。特に、移動体の場合では、位置3軸、角度3軸の合計6自由度の調整が必要となり、スカラー量であるRSSIから調整するには多くの試行が必要であるため、応答性が犠牲になるとともに実現が難しいという問題点があった。
【0011】
また、GPS測位によって各々の測位情報を用いて対向させる場合、何らかの方法で互いの測位情報を共有する必要があり、追加の通信システムが必須であるため、システムが複雑化するという問題点があった。特にモバイル通信を利用する必要がある場合には、そのアンテナ設置位置周辺でモバイル通信を利用できない環境では扱うことができないという問題点があった。また、GPS測位では、数mの測位誤差が生じるため、高精度にアライメントすることができないという問題点があった。また、GPS測位では、GPS衛星の死角となる場所や、橋梁の下、室内等では使用できないという問題点があった。また、GPS測位では、一般的に角度計算のためにはジャイロを併用するが、ジャイロのドリフトによって誤差が生じるという問題点があった。
【0012】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、移動体と固定局、又は移動体同士のアンテナのアライメントをとる場合においても、生じる角度や位置ずれを、よりリアルタイム性高く検出することが可能な相対位置及び相対姿勢計測装置、相対位置及び相対姿勢調整装置及びアンテナ方向調整システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1発明に係る相対位置及び相対姿勢計測装置は、位相差検出用アンテナと、前記位相差検出用アンテナを介して電波を送信するトランスミッタと、前記位相差検出用アンテナを介して電波を受信するレシーバと、を有する2つ以上の伝搬位相差検出部と、前記トランスミッタにより送信された電波の送信時搬送波位相と他の1つ以上の伝搬位相差検出部から送信されると共に前記レシーバにより受信された電波のそれぞれの受信時搬送波位相とに基づいて、前記送信時搬送波位相と前記受信時搬送波位相との位相差をそれぞれ検出する位相検出部と、前記位相検出部により検出されたそれぞれの位相差に基づいて、前記伝搬位相差検出アンテナが設けられた被測定対象物の位置又は方向を算出する位置角度ずれ算出部とを備えることを特徴とする。
【0014】
第2発明に係る相対位置及び相対姿勢計測装置は、第1発明において、前記位相検出部は、それぞれの前記位相差を繰り返し検出し、それぞれの前記位相差の時間的な変化値を検出し、前記位置角度ずれ算出部は、前記位相検出部により検出されたそれぞれの変化値に基づいて、前記被測定対象物の位置又は方向の変化値を算出することを特徴とする。
【0015】
第3発明に係る無線通信システムは、第1発明において、前記被測定対象物を固定又は支持すると共に前記被測定対象物に取り付けられた位相差検出用アンテナと他の位相差検出用アンテナとの間の距離を大きくする変位拡大機構が設けられることを特徴とする。
【0016】
第4発明に係る相対位置及び相対姿勢計測装置は、第1発明において、前記伝搬位相差検出部は、送信する電波の周波数が2種類以上切り替え可能なトランスミッタ又は、送信する電波の周波数が離散的又は連続的に可変可能な前記トランスミッタの何れかを有することを特徴とする。
【0017】
第5発明に係る相対位置及び相対姿勢計測装置は、第1発明において、前記被測定対象物の位置又は方向に関する物理情報を計測するセンサをさらに備え、前記位置角度ずれ算出部は、前記位相差と、前記センサにより計測された物理情報とに基づいて、前記位置又は前記方向を算出することを特徴とする。
【0018】
第6発明に係る相対位置及び相対姿勢調整装置は、第1発明に記載された相対位置及び相対姿勢計測装置を用いた相対位置及び相対姿勢調整装置であって、前記被測定対象物の位置又は方向を調整するアクチュエータと、前記位置角度ずれ算出部が算出した位置又は方向に基づいて、予め設定された特定の位置又は方向に近づくように前記アクチュエータを制御する位置角度制御部とをさらに備えることを特徴とする。
【0019】
第7発明に係る相対位置及び相対姿勢調整装置は、第6発明において、前記位置角度ずれ算出部は、前記位相検出部により検出されたそれぞれの位相差を同一にする誤差信号を出力し、前記位置角度制御部は、前記位置角度ずれ算出部により出力された誤差信号に基づいて、前記アクチュエータを制御することを特徴とする。
【0020】
第8発明に係る相対位置及び相対姿勢調整装置は、第6発明において、前記位相検出部は、それぞれの前記位相差を繰り返し検出し、それぞれの前記位相差の時間的な変化値を検出し、前記位置角度ずれ算出部は、前記位相検出部により検出されたそれぞれの位相差の時間的な変化値を基準値にする誤差信号を出力し、前記位置角度制御部は、前記位置角度ずれ算出部により出力された誤差信号に基づいて、前記アクチュエータを制御することを特徴とする。
【0021】
第9発明に係る相対位置及び相対姿勢調整システムは、第1発明に係る相対位置及び相対姿勢計測装置を複数用いた相対位置及び相対姿勢調整システムであって、前記被測定対象物の方向を制御するアクチュエータと、前記位置角度ずれ算出部により算出された位置又は方向に基づいて、前記2以上の被測定対象物が予め設定された動作をするように前記アクチュエータを制御する位置角度制御部とを備えることを特徴とする。
【0022】
第10発明に係るアンテナ方向調整システムは、第1発明に係る相対位置及び相対姿勢計測装置を用いたアンテナ方向調整システムであって、前記被測定対象物である二つ以上のアンテナと、前記アンテナの方向を制御するアクチュエータと、前記位置角度ずれ算出部により算出された位置又は方向に基づいて、前記2以上のアンテナが対向するように前記アクチュエータを制御する位置角度制御部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
第1発明~第10発明によれば、相対位置及び相対姿勢計測装置は、位相検出部により検出されたそれぞれの位相差に基づいて、伝搬位相差検出アンテナが設けられた被測定対象物の位置又は方向を算出する。これにより、二物体間の位相差を複数経路にわたって計測することによって、二物体間の相対位置、および相対角度を計測することができる。より具体的には、特定の相対位置および相対角度を基準(理想)として、理想的な位置からのずれ、および理想的な角度からのずれを計測することができる。このため、移動体と固定局、又は移動体同士のアンテナのアライメントをとる場合においても、生じる角度や位置ずれを、よりリアルタイム性高く検出することが可能となる。なお、以降で単に位置あるいは角度と記した際は、特に記載がない限り、対向する二つ以上の相対位置及び相対姿勢計測装置における相対位置あるいは相対角度であることを示す。ここでいう相対位置は、相対位置及び相対姿勢計測装置間における二次元あるいは三次元の相対的な位置(例えばX、Y、Z軸の距離)を表し、また相対姿勢は、相対位置及び相対姿勢計測装置間にお
ける二次元あるいは三次元の相対的な姿勢(例えばロール、ピッチ、ヨーの相対位置及び相対姿勢計測装置間の差)を表す。
【0024】
また、GPSなどと異なり絶対座標を介しての間接的な2物体間の位置・角度検出ではなく、直接的に2物体間の位置・角度関係を計測できることから、同一の計測精度であっても原理上精度が2倍向上する。これは、間接的に計測する場合は、2度の計測が必要となるため、誤差が2倍となるからである。また、直接的に計測することができるため、GPS等の絶対基準が利用できない、あるいは精度が低下する環境、例えば屋内や橋梁下、高層ビルの密集する市街地、その他のオープンスカイではない場所であっても利用することができる。
【0025】
また、角度であれば、方位を測定する地磁気センサや重力に伴う地面方向の特定をする加速度センサ等の絶対的な方位を知るセンサを利用することなく、物体間の相対的な角度を計測することができる。このため、ノイズやドリフトが問題となる上記センサ類の出力を直接利用せず、複数経路の位相差によって高精度な角度割り出しが可能となる。また、レーダー等の他の手法と異なり電気的・機械的な走査が不要であるため、例えば20Hz以上の高速なサンプリング周波数で計測が可能である。また、複数の周波数チャネルを利用すれば、複数の検出器が同時に複数経路の位相差を計測することも可能であるため、より高速な計測ができる。
【0026】
特に、第2発明によれば、位置角度ずれ算出部は、位相検出部により検出されたそれぞれの位相差の時間経過に伴う変化値に基づいて、被測定対象物の位置又は方向の変化値を算出する。これにより、被測定対象物の位置や角度の変化をリアルタイムで算出することが可能となる。
【0027】
特に、第3発明によれば、被測定対象物を固定又は支持すると共に被測定対象物に取り付けられた位相差検出用アンテナと他の位相差検出用アンテナとの間の距離を大きくする変位拡大機構が設けられる。これにより、位相差検出用アンテナ間の距離が大きくなることで、複数経路の電波伝搬遅延に基づく位相差で角度ずれを検出する際に、この角度の変化に伴う検出器の変位を拡大することができるため、わずかな角度ずれであったとしても高精度に計測することができる。
【0028】
特に、第4発明によれば、伝搬位相差検出部は、送信する電波の周波数が離散的又は連続的に可変可能なトランスミッタを有する。これにより、より高い周波数の電波を用いることにより、複数経路の電波伝搬遅延に基づく位相差で角度ずれを検出する際に、この角度の変化に伴う検出器の変位を拡大することができるため、わずかな角度ずれであったとしても高精度に計測することができる。
【0029】
特に、第5発明によれば、位置角度ずれ算出部は、位相差と、センサにより計測された物理情報とに基づいて、位置又は角度を算出する。これにより、位相のラップ現象により伝搬経路の絶対距離が計測できない場合であっても、おおよその位置・角度を計測可能なセンサと併用することによって、このセンサの出力を用いたアンラップ処理により算出したラップ数を指標とすることで、高精度に位置・角度ずれを計測できる。
【0030】
特に、第6発明によれば、位置角度制御部は、位置角度ずれ算出部が算出した相対位置又は相対角度に基づいて、予め設定された特定の相対位置又は相対角度に近づくように前記アクチュエータを制御する。これにより、アクチュエータによって、検出した位置・角度ずれを補正するようにフィードバック制御を行うことができ、被測定対象物を理想的な対向状態に維持することができる。
【0031】
特に、第7発明によれば、位置角度ずれ算出部は、位相検出部により検出されたそれぞれの位相差を同一にする誤差信号を出力し、位置角度制御部は、位置角度ずれ算出部により出力された誤差信号に基づいて、アクチュエータを制御する。これにより、位相のアンラップができない場合であっても、位相差が-π~+πの範囲の中での変化をゼロに近づけるようにフィードバック制御を行うことで、発生しうる微小な位置ずれ及び角度ずれを簡便な構成で補正することができる。
【0032】
特に、第8発明によれば、位置角度ずれ算出部は、位相検出部により検出されたそれぞれの位相差の時間的な変化値を基準値にする誤差信号を出力し、位置角度制御部は、位置角度ずれ算出部により出力された誤差信号に基づいて、アクチュエータを制御する。これにより、各位相差の時間的な変化値を0にするように被測定対象物を調整することで、理想的な位置、及び角度を維持することが可能となる。
【0033】
特に、第9発明及び第10発明によれば、位置角度制御部は、位置角度ずれ算出部により算出された位置又は方向に基づいて、2以上のアンテナが対向するようにアクチュエータを制御する。これにより、開口面アンテナ等の指向性が強いアンテナを理想的な対向状態に維持し、通信品質を維持することができる。特に移動体に搭載する場合には、より有効的なアンテナアライメント手法となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態を適用したアンテナ方向調整システムの全体構成を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1実施形態を適用したアンテナ方向調整システムの動作のフローチャートを示す図である。
【
図3】
図3は、位相差検出用アンテナ間での電波の送受信を示す図である。
【
図4】
図4は、それぞれの位相差検出用アンテナ間の経路を示す図である。
【
図5】
図5は、横方向に平行移動が生じたときの変化を示す図である。
【
図6】
図6は、縦方向に平行移動が生じたときの変化を示す図である。
【
図7】
図7は、回転が生じたときの変化を示す図である。
【
図8】
図8は、アンテナがΔθ傾いた様子を示す図である。
【
図9】
図9は、位相検出器設置半径に対する最小検出角度ずれを示すグラフである。
【
図10】
図10は、位相差検出用アンテナの設置数が1対3の場合の移動体対向維持システムを示す図である。
【
図11】
図11は、位相差検出用アンテナの設置数が3対3の場合の移動体対向維持システムを示す図である。
【
図12】
図12は、位相差検出用アンテナの設置数が4対4の場合の移動体対向維持システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の第1実施形態を適用したアンテナ方向調整システムについて詳細に説明する。
【0036】
図1は、本発明の第1実施形態を適用したアンテナ方向調整システム100の全体的な構成を示している。アンテナ方向調整システム100は、例えば
図1に示すようにアンテナ6を備える二つ以上のアンテナ方向調整装置1から構成される。アンテナ方向調整システム100は、例えば、一対の開口面を有するアンテナ6A、6Bの方向及び位置を制御し、アンテナ6A、6Bが対向させることにより、ミリ波・テラヘルツ波等の超高周波帯を用いた無線通信を行う。
【0037】
アンテナ方向調整装置1は、伝搬位相差検出部2と、伝搬位相差検出部2に接続される制御部3と、制御部3に接続されるアクチュエータ4と、アクチュエータ4と伝搬位相差検出部2とに接続されるアンテナ6とを備える。また、これらの構成は、無線通信等を介して接続されてもよい。
【0038】
伝搬位相差検出部2は、アンテナ6に設けられた位相差検出用アンテナ5と、位相差検出用アンテナ5に接続されたトランスミッタ(TX)21とレシーバ(RX)22と位相検出器23と、トランスミッタ21とレシーバ22と位相検出器23とに接続された無線制御部24とを備える。
【0039】
位相差検出用アンテナ5は、例えばアンテナ6に設けられる。位相差検出用アンテナ5は、例えばアンテナ6に二つ以上設けられてもよい。
【0040】
トランスミッタ21は、位相差検出用アンテナ5を介して電波を送信する送信器である。また、トランスミッタ21は、電波の周波数が離散的又は連続的に可変可能な送信器であってもよい。レシーバ22は、他の1以上の伝搬位相差検出部2から送信された電波を位相差検出用アンテナ5を介して受信する受信器である。
【0041】
位相検出器23は、トランスミッタ21により送信された時点の電波の送信時搬送波位相とレシーバ22により受信された時点の電波のそれぞれの受信時搬送波位相とに基づいて、送信時搬送波位相と受信時搬送波位相との位相差をそれぞれ検出する。
【0042】
無線制御部24は、トランスミッタ21とレシーバ22と位相検出器23とに制御信号を出力する。また、無線制御部24は、位相検出器23により検出された位相差を制御部3に出力してもよい。
【0043】
制御部3は、無線制御部24に接続される位置角度ずれ算出部31と、位置角度算出部31に接続されるアンテナ位置角度制御部32とを備える。位置角度ずれ算出部31は、位相検出器23により検出されたそれぞれの位相差に基づいて、アンテナ6等の被測定対象物の位置又は方向を算出する。また、位置角度ずれ算出部31は、例えばアンテナ6等の被測定対象物の位置あるいは方向、又は位置あるいは方向の一次微分もしくは二次微分の物理量等の被測定対象物の位置や方向に関する物理情報を計測する図示しないセンサから物理情報を取得し、位相差と、物理情報とに基づいて、位置又は方向を算出してもよい。
【0044】
アンテナ位置角度制御部32は、位置角度ずれ算出部31により算出された位置又は方向に基づいて、アクチュエータ4を制御する。
【0045】
アクチュエータ4は、アンテナ位置角度制御部32から出力された制御信号に応じて、アンテナ6の位置及び方向を調整する。
【0046】
アンテナ6は、例えば開口面アンテナである。アンテナ6は、位相差検出用アンテナ5が設けられると共に、位置角度ずれ算出部31により、位置又は方向が算出される被測定対象物である。また、アンテナ6は、アンテナに限らず、ドローン等の移動体、ロボット及びこの一部等の任意のものであってもよい。また、アンテナ6は、ドローン等の移動体に設けられてもよい。また、アンテナ6等の被測定対象物は、任意の数の位相差検出用アンテナ5が設けられてもよい。
【0047】
また、アンテナ6は、アンテナ6に設けられた位相差検出用アンテナ5の位置が可変可能な変位拡大機構を備えていてもよい。アンテナ6は、アンテナ6に設けられた位相差検出用アンテナ5と他の位相差検出用アンテナ5との間の距離を大きくするように可変可能な変位拡大機構を備えてもよい。アンテナ6は、例えばアンテナ6に設けられた二つ以上の位相差検出用アンテナ5A、5B間の距離を大きくするように可変可能な変位拡大機構を備えていてもよい。また、アンテナ6は、アンテナ6を固定又は支持し、かつアンテナ6よりも大きなサイズの変位拡大機構を備えてもよい。
【0048】
次に、本発明の第1実施形態を適用したアンテナ方向調整システム100の動作について説明する。
図2は、本発明の第1実施形態を適用したアンテナ方向調整システム100の動作のフローチャートを示す図である。
【0049】
まずステップS1において、トランスミッタ21は、位相差検出用アンテナ5を介して、電波を送信する。ステップS1において、トランスミッタ21は、位相差検出用アンテナ5を介して、一定の間隔で電波を送信してもよい。トランスミッタ21は、ステップS1において、例えば
図3に示すように、位相差検出用アンテナ5Aを介して、電波を一定の間隔で送信する。また、ほぼ同時に他のトランスミッタ21も、位相差検出用アンテナ5を介して、電波を送信してよい。
【0050】
また、ステップS1において、アンテナ6は、変位拡大機構を用いて、位相差検出用アンテナ5の間の距離が大きくなるように位相差検出用アンテナ5を設置してもよい。例えばアンテナ6は、変位拡大機構を用いて、位相差検出用アンテナ5A、5B間の距離が大きくなるように、位相差検出用アンテナ5A、5Bを変位拡大機構に設置してもよい。
【0051】
次に、ステップS2において、位相検出器23は、ステップS1により送信された時点の電波の送信時搬送波位相を算出する。例えば
図3に示すように、位相差検出用アンテナ5Aを介して、送信された時点での電波の送信時搬送波位相を算出する。送信時搬送波位相は、位相差検出用アンテナ5を介して送信された時点の電波のキャリアの位相であるがこれに限らず、任意の時点の電波のキャリアの位相であってもよい。
【0052】
次に、ステップS3において、位相検出器23は、ステップS1により送信され、位相差検出用アンテナ5を介して受信された電波の受信時の受信時搬送波位相を算出する。この電波は、他の位相差検出用アンテナ5を介して送信され、位相差検出用アンテナ5を介して受信された電波である。ここで他の位相差検出用アンテナ5は、他のアンテナ方向調整装置1に設けられた位相差検出用アンテナ5であってもよい。受信時搬送波位相は、電波が受信された時点のキャリアの位相であるが、これに限らず、任意の時点の電波のキャリアの位相であってもよい。ステップS3において、例えばステップS1により位相差検出用アンテナ5Aを介して送信され、他のアンテナ方向調整装置1に設けられた位相差検出用アンテナ5である位相差検出用アンテナ5Cを介して受信された電波が受信された時点の受信時搬送波位相を算出する。また、ステップS3において、例えばステップS1により位相差検出用アンテナ5Aを介して送信された電波が、他の全ての位相差検出用アンテナ5B、5C、5Dを介してそれぞれ受信され、受信された時点での電波のそれぞれの受信時搬送波位相を算出してもよい。
【0053】
また、無線制御部24は、このステップS1~S3の工程を一定の間隔で繰り返し、すべての伝搬位相差検出部2が順番に電波の送信を行う。また、無線制御部24は、一巡したあと、繰り返し電波の送信を行う。かかる場合、無線制御部24は、一つ前の工程で得られた自身の送信時搬送波位相を情報として載せて電波の送信を行う。これにより、位相検出器23は、送信時搬送波位相と受信時搬送波位相との両方の情報を取得することができる。
【0054】
また、伝搬位相差検出部2が用いる電波の波長は、例えば920MHzであってよい。920MHzであれば比較的遠距離まで電波が届き、結果として離れた2つのアンテナ6間での方向調整を行うことができる。加えて、920MHz帯~5GHz帯の電波は、等方的に放射される特性があり、位置ずれや角度ずれがあっても、電波の到達する最短距離である位相差検出用アンテナ5間の直線距離に基づく伝搬遅延による位相差を得ることができる。一方で、より高い周波数の電波を扱う場合には指向性・直進性が増すため、変位・回転検出自身が、位置ずれや角度ずれによって計測不能に陥る可能性がある。ただし、周波数が高い程、位相分解能に対する距離分解能が向上するため、これらを考慮し、500MHz~5GHzの近辺の周波数帯を利用することが望ましい。また、距離分解能は、波長×位相分解能(°)÷360°で示される。
【0055】
また、920MHz帯等の低い周波数帯を扱う場合、伝搬位相差検出部2が検出する位相の検出の感度が低くなる。このため、伝搬位相差検出部2は、例えば、2.4GHzや60GHzの電波を併用して、使用周波数を適応的に変化させても良い。これにより、ダイナミックレンジが広く、かつ感度の高い位置・角度ずれの検出が可能となる。あるいは、UWB等のチャープパルスを利用して、より高分解能な位置・角度ずれ検出を可能としてもよい。かかる場合、ステップS1~S3を繰り返す工程ごとにより高い周波数の電波を扱うようにしてもよい。
【0056】
また、ステップS1~S3を繰り返す工程ごとに、例えばアンテナ6は、変位拡大機構を用いて、位相差検出用アンテナ5A、5B間の距離が大きくなるように、位相差検出用アンテナ5A、5Bを設置してもよい。
【0057】
次に、ステップS4において、位相検出器23は、送信時搬送波位相と受信時搬送波位相との位相差を算出する。受信時搬送波位相は、電波を送信した位相差検出用アンテナ5から電波を受信した位相差検出用アンテナ5までの経路の距離に応じた伝搬遅延が生じるため、送信時搬送波位相との位相差が生じる。また、この送信時搬送波位相と受信時搬送波位相との位相差は、アンテナ6Aとアンテナ6Bとの位置関係、及びアンテナ6Aとアンテナ6Bとの指向方向間の角度の変化により、変化する。
【0058】
この位相差の変化について、
図4を用いて説明する。
図4は、それぞれの位相差検出用アンテナ5間の経路を示す図である。例えば
図4に示すように、位相差検出用アンテナ5Aから位相差検出用アンテナ5Cまでの経路をv
31、位相差検出用アンテナ5Aから位相差検出用アンテナ5Dまでの経路をv
41、位相差検出用アンテナ5Bから位相差検出用アンテナ5Cまでの経路をv
32、位相差検出用アンテナ5Bから位相差検出用アンテナ5Dまでの経路をv
42として説明をする。また、位相差検出用アンテナ5Aから位相差検出用アンテナ5Cまでの経路に応じた位相差をφ
31、位相差検出用アンテナ5Aから位相差検出用アンテナ5Dまでの経路に応じた位相差をφ
41、位相差検出用アンテナ5Bから位相差検出用アンテナ5Cまでの経路に応じた位相差をφ
32、位相差検出用アンテナ5Bから位相差検出用アンテナ5Dまでの経路に応じた位相差をφ
42とする。なお、位相差φ
xyの表記方法としては、xが信号の発信元であり、yが受信先を示している。
【0059】
また、ここでは、アンテナ6A、6B間の見通しがとれており、直接波の位相が計測できるものとしている。多くの場合、被測定対象物である開口面アンテナ自体の見通しがとれているため、同様にアンテナ6に設置された位相差検出用アンテナ5間の見通しもとれているとする。
【0060】
ステップS4において、例えば位相検出器23は、φ21、φ31、φ41、φ32、φ42、及びφ43の計6通りの位相差が得られる。かかる場合、位相検出器23は、アンテナ方向調整装置1Aと1Bとの間にまたがる4経路における位相差φ31、φ41、φ32、φ42が得られる。これらの位相差φ31、φ41、φ32、φ42は、それぞれの送信時搬送波位相と受信時搬送波位相との差によって算出される。かかる場合、例えばφ31は、位相差検出用アンテナ5Aから送信された時点の電波の送信時搬送波位相φAと位相差検出用アンテナ5Cにより受信された時点の電波の受信時搬送波位相φBであるとすると、φ31=φA-φBで示される。
【0061】
また、例えば
図4にしめすように、v
31とv
42は同一方向を示すベクトルとなるが、v
41およびv
32は異なる方向を示すベクトルとなる。すなわち、v
31又はv
42と、v
41と、v
32との3つのベクトルは、二次元並進自由度且つ一次元回転自由度をもつ物体において、3自由度をもつことになる。このため、3自由度の経路における位相差及び位相差に応じた距離を計測することができる。
【0062】
また、ステップS4において、位相検出器23は、それぞれの位相差を繰り返し検出し、それぞれの位相差の時間的な変化値を検出してもよい。
【0063】
次にステップS5において、位置角度ずれ算出部31は、ステップS4により算出された位相差に基づいて、アンテナ6等の被測定対象物の位置又は方向を算出する。ステップS5において、位置角度ずれ算出部31は、例えば二つ以上の伝搬位相差検出用アンテナ5の間の位置変化及び/又は二つ以上の位相差検出用アンテナ5の指向方向間の角度変化を算出してもよい。この伝搬位相差検出用アンテナ5の間の位置変化及び角度変化について下記に説明する。
【0064】
図5は、横方向に平行移動が生じたときの変化を示す図である。
図6は、縦方向に平行移動が生じたときの変化を示す図である。
図7は、回転が生じたときの変化を示す図である。
【0065】
図5に示すように、横方向aに平行移動した場合には、φ
31とφ
42とが同一の位相差を維持したまま、同様にφ
41とφ
32とも同一の位相差を維持する。一方で、これらの関係性を維持したまま、位相差の値が変化するため、これをもって平行移動量を推定することができる。
【0066】
また、
図6に示すように、縦方向bに平行移動した場合には、φ
31とφ
42とが同一の位相差を維持したまま、φ
41とφ
32との位相差の関係が変化する。同様にこれらの位相差から平行移動量を推定できる。
【0067】
また、
図7に示すように、回転cが生じた際には、すべての位相差の関係性が崩れ、特に回転することによって、φ
31とφ
42とが異なる位相差を示すことになる。各アンテナ6に設置された位相差検出用アンテナ5の設置位置が既知であれば回転量が一意に決まる。
【0068】
上記の通り、二次元の平行移動と回転のそれぞれで各位相差の変化のパターンが異なるため、どのような変位・回転が生じ、その量がいくらかを推定することができる。位相差検出用アンテナ5A、5B、5C、5Dを用いた簡単な例を挙げたが、実際にはGPS測位等と同様に、最小二乗法を用いた推定を用いることが有効である。これにより、計測した位相差がノイズを含む場合を考慮し、より最もらしい変位・回転量を推定することができる。また、GPSの捕捉衛星数が多い程測位精度が向上するのと同様に、これらの計測ノイズを低減させるためにはより多くの経路で位相差を取得し、それを用いてより正確な推定値を求めることができる。後述するように、3次元の平行移動及び2次元の回転の三次元の対向ずれを推定するためには、最小3対、即ち6個の位相差検出用アンテナ5が必要となるが、より多くの位相差検出用アンテナ5を利用し、複数の経路の位相差を利用することによって精度を向上させることができるため、アンテナ6が大型の開口面アンテナ等である場合、十分に多い数の位相差検出用アンテナ5を設置することが望ましい。
【0069】
また、場合によっては平行移動の検出が重要でない場合等がある。たとえば、数kmはなれた位置に設置されたアンテナ6A、6Bにおいては、ビームが広がるため10cmの平行移動量はさほど重要ではないが、一方でわずか0.1°の回転又は傾きによって生じるアンテナ6A、6B間のアライメントずれは1km先で1.7mに相当する。したがって、ビーム径が1mを切るような場合においては、アンテナ6A、6B間の疎通が不可能になったり、通信品質が悪化したりする。したがって、十分に固定されたアンテナ6である場合には、10cmの平行移動が生じるよりも0.1°の傾きが発生するほうが可能性としては高く、この程度の平行移動は無視してもかまわない。また、かかる場合、平行移動が生じないと仮定して回転又は傾きのみを検出してもよく、位相差検出用アンテナ5の数が少なくても十分な精度で回転を検出できる。
【0070】
ここで、簡単な例として、
図8、
図9を用いて、検出可能な最小の回転量を計算した結果を示す。
図8は、アンテナ6がΔθ傾いた様子を示す図である。
図9は、位相検出器設置半径rに対する最小検出角度ずれを示すグラフである。位相検出器設置半径rは、位相差検出用アンテナ5間の半径を示す。Δθは、アンテナ6の傾きを示す。d
0は、変化前の経路の距離を示し、dは、変化後の経路の距離を示す。また、変化前と変化後の経路の変化量Δdとする。
【0071】
Δdは、Δθが十分に小さいことを仮定して(1)式によって算出できる。
【数1】
【0072】
ここで、Δdによって生じる位相差の変化Δφは、(2)式で示される。
【数2】
【0073】
ここでは、920MHzの周波数の電波を用いた際に、位相差Δφmin=1°の精度で位相検出ができることを前提に最小の回転検出量を算出した。回転の検出精度は、位相検出用アンテナ5の設置半径rに依存し、設置半径rが大きい程高い精度を示す。これは、設置半径rが大きい程、回転によって生じるアンテナ6の変位が拡大されるためである。1m以上の設置半径rをとれば、0.1°未満の精度で回転検出が可能となり、GPS等による方位推定や、慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)を用いた方位推定よりもよい精度で二物体間の対向ずれを検出できる。
【0074】
図9のグラフは、位相検出器設置半径rに対する、Δφ=Δφminとなる最小のΔθ、つまりは検出できる最小の回転角度をプロットしたものである。
【0075】
このことから、本発明を適用したアンテナ方向調整システム100を用いる場合は、設置半径rがなるべく大きくなるように配置するのが望ましい。一方で、高周波数帯のアンテナ6等を対象とするような場合では、アンテナ6自体は実効的に大開口であったとしても、サイズが小さい場合がある。これは、同じ開口面積であっても波長によってサイズが縮小する傾向があるためである。かかる場合では、本発明の第1実施形態を適用したアンテナ方向調整システム100の効果が十分に得られない可能性があり、アンテナ6に図示しない治具・支持材等の変位拡大機構を設けることが望ましい。具体的には、アンテナ6又は変位・回転の被測定対象物よりも大きいサイズの図示しない固定・支持治具を用意し、アンテナ6に取り付け、さらにこの図示しない固定・支持治具に位相差検出用アンテナ5を設置することが望ましい。このような構造とすることで、位相差検出用アンテナ5間の距離が大きくなり、微小な回転が拡大され、十分な精度で回転検出ができるようになる。また、アンテナ6の理想的な対向状態で正面からみて位相差検出用アンテナ5間の距離が離れるような配置、および治具形状とすることが望ましい。加えて、支持・治具の材料は、基本的に軽量で、且つ位相差検出用アンテナ5が発する電波の妨げにならないことが望ましく、たとえばプラスチック等の樹脂やカーボンファイバー等が望ましい。ただし、導電性による放射パターンへの影響を抑えるようにアンテナ設置角度に気を付ければ、アルミやステンレスなどの金属材料であっても構わない。
【0076】
また、ステップS5において、位置角度ずれ算出部31は、ステップS4により算出されたそれぞれの位相差の時間的な変化値に基づいて、アンテナ6等の被測定対象物の位置又は方向の変化値を算出してもよい。かかる場合、各位相差φABの変化値から電波が送信されてから受信されるまでのそれぞれの伝搬時間TAB及び伝搬距離VABの変化値を算出する。例えば位相差φ31の変化値から伝搬時間T31及び伝搬距離V31の変化値を算出し、位相差φ41の変化値から伝搬時間T41及び伝搬距離V41の変化値を算出し、算出した伝搬時間T31、T41及び伝搬距離V31、V41の変化値からアンテナ6等の被測定対象物の位置又は方向の変化値を算出する。また、被測定対象物の位置又は方向には、2つの被測定対象物間の相対位置又は相対方向が含まれてもよい。
【0077】
また、伝搬時間T
AB及び伝搬距離V
ABは、位相差φ
ABから(3)式により計算することができる。ここで、Tは、電波の1周期の時間、cは光速を示す。また、実際の位相差φ
ABが-π~+πの範囲外であっても、物理的に観察できる位相は-π~+πの範囲となってしまう。この実際の位相差φ
ABと観測上の位相差φ
ABとの位相差をラップとする。ここでは、1周期分の位相差をラップ数が1とし、Nは、位相差φ
ABのラップ数を示す。このことから、位相差φ
ABから伝搬距離V
ABを算出することが可能であるため、位相差検出用アンテナ5間の距離を位相差で示すことができる。
【数3】
【0078】
ここで、位相は時間的に連続して変化することを利用してアンラップ処理を施すことにより上記の定義域に制限されないアンラップされた位相を得ることができる。アンラップ処理は、次式のNを適切に選択し、位相の定義域を拡大する処理である。物理的に観測できる位相は、例えば、単調増加している場合であっても+πを超えた瞬間に-πに折り返す。このような挙動により生じる急峻な位相変化をトリガとして2πを足す動作を行う。この結果、結果として、+πを超えたあとも+πから連続して位相を扱うことができるため、アンラップ処理を行うことができる。具体的には、例えばπ以上の変化が生じたときに、2πを増減させることによって行う。
【0079】
一方で、アンラップ処理は上記の通り時系列的に連続した位相の変化が捉えられることが前提となっており、-π~+πの範囲外となる位相差が急峻に生じるような変位・回転がアンテナ6に生じると、比較的大きな誤差が生じる。このため、例えば比較的精度の悪い簡便な測距手法と組み合わせること等の手法が有効である。扱う電波の周波数が920MHzであり、位相差の誤差が1°の精度で位相差を検出できる場合、約1mmの測距精度をもつことと同義であるとみなせる。このため、たとえば数十cmの精度をもつ測距技術と併用することで、おおよそ32cmの波長以内の差異に収まるように粗調整したうえで、ステップS5によって0.1°オーダーまで微調整する等の手法がとれる。これにより、粗調整としてはアンラップの係数Nを求め、より高精度な計測のために位相を用いることで、簡便な構成であって精度の高い位置・回転検出が可能となる。あるいは、祖調整としては、実際にアクチュエータを制御して、生じる位相差の範囲が-π~+πの範囲内になるように調整してもよい。測距技術あるいはセンサの例として、たとえば、各移動体の角速度を検出できるジャイロセンサや、重力を計測することにより傾きが検出できる加速度センサ、方位を検出できる地磁気センサ等を併用し、位置や方向に関する物理情報を取得することができる。これらのセンサを搭載することによって、方向又は位置、もしくは方向又は位置に対する一次微分、二次積分の値を含む物理情報が得られるため、カルマンフィルタ等を用いて本発明の位相差による変位・回転推定と組み合わせ、より正確な変位や回転を推定することが可能になる。
【0080】
次に、ステップS6において、位置角度ずれ算出部31は、ステップS4により算出されたそれぞれの位相差を同一にする誤差信号を出力する。かかる場合、位置角度ずれ算出部31は、複数の特定経路の位相差の関係性だけを用いて、複数の特定経路の位相差が同一になる、又は2つの特定経路の位相差の差分がゼロとなるための誤差信号を出力してもよい。かかる場合、例えば、複数の特定経路v31、v42の位相差φ31、φ42の関係性を用いて、位相差φ31、φ42を同一にする誤差信号を出力してもよい。また、2つの特定経路v41、v32の位相差φ41、φ32の差分がゼロとなるように誤差信号を出力してもよい。
【0081】
また、ステップS5においてアンラップを行わない場合であっても、単に対向状態を維持することは可能である。
図5で示したように、対向状態であればφ
31とφ
42とが同一の位相差で、かつφ
41と、φ
32とも同一の位相差であるため、これらの対となる位相を同一となるようにフィードバック制御することで対向状態にもっていくことが可能である。すなわち、φ
31-φ
42→0となるように、かつφ
41-φ
32→0となるように、差がゼロとなるよう制御することで対向状態を維持できる。これは零位法となるため、より簡便な処理・方法で精度が向上する。ここでは、一般的に波長を超えるほどの大きな変位や回転が生じないことを利用している。
【0082】
また、ステップS6において、位置角度制御部32は、ステップS4により算出されたそれぞれの位相差の時間的な変化値を検出し、検出したそれぞれの位相差の時間的な変化値を基準値にする誤差信号を出力してもよい。かかる場合、ステップS6において、位置角度制御部32は、それぞれの位相差の時間的な変化値をゼロにする誤差信号を出力してもよい。これにより、理想的な位置、及び角度を維持することが可能となる。
【0083】
次に、ステップS7において、アンテナ位置角度制御部32は、アクチュエータ4を制御する。例えばアンテナ位置角度制御部32は、ステップS6において、出力した誤差信号に基づいて、アクチュエータ4を制御する。また、例えばアンテナ位置角度制御部32は、ステップS7において、ステップS5において算出した位置変化及び方向変化に基づいて、予め設定された特定の位置関係又は角度関係に近づくようにアクチュエータ4を制御する。かかる場合、アンテナ位置角度制御部32は、例えばφ31、φ41、φ32、φ42が予め設定した一定値又は一定の差分となるように、アクチュエータ4を制御する。
【0084】
上記のステップにより、本発明の実施形態に係るアンテナ方向調整システム100の動作が終了する。これにより、移動体と固定局、又は移動体同士のアンテナのアライメントをとる場合においても、生じる角度や位置ずれを、よりリアルタイム性高く検出することが可能となる。
【0085】
以下、本発明の第2実施形態を適用した移動体対向維持システムについて詳細に説明する。第2実施形態は、被測定対象物がドローン等の移動体である点で第1実施形態と異なる。
【0086】
図10は、位相差検出用アンテナ5の設置数が1対3の場合の移動体対向維持システム200を示す図である。
図11は、位相差検出用アンテナ5の設置数が3対3の場合の移動体対向維持システム200を示す図である。
図12は、位相差検出用アンテナ5の設置数が4対4の場合の移動体対向維持システム200を示す図である。
【0087】
移動体対向維持システム200は、例えば図示しないドローン等の移動体に設置されたアンテナ6A、6Bを備える。アンテナ6Aは、例えば
図10に示すように、1つの位相差検出用アンテナ5A
1を備え、アンテナ6Bは、3つの位相差検出用アンテナ5B
1、5B
2、5B
3を備える。また、アンテナ6Aは、例えば
図11に示すように、3つの位相差検出用アンテナ5A
1、5A
2、5A
3を備え、アンテナ6Bは、3つの位相差検出用アンテナ5B
1、5B
2、5B
3を備えてもよい。また、アンテナ6Aは、例えば
図12に示すように、4つの位相差検出用アンテナ5A
1、5A
2、5A
3、5A
4を備え、アンテナ6Bは、3つの位相差検出用アンテナ5B
1、5B
2、5B
3、5B
4を備えてもよい。
【0088】
移動体対向維持システム200は、第1実施形態と同様に、位相差の検出結果を処理し、位置ずれ及び角度ずれを推定した後、対向状態に近づくように三次元的な移動等の機体制御、及びロール・ピッチ・ヨー等の回転を行う。
【0089】
これにより、移動体対向維持システム200は、ドローン等の複数の移動体のアンテナ6を対向させることができる。かかる場合、アクチュエータがドローン自身となるため、三次元的な移動・回転が可能であるドローンの機動力を利用することが可能となる。したがって、このようにすることで、移動体に搭載したアンテナをドローンの機動力のみを利用して対向させることが可能となる。また、ドローン自身の機動力を使うだけでなく、例えばビームフォーミングやジンバル等の応答性・精密性の高いアクチュエータとの併用でビームをより精密に制御することにより、高精度な位置・角度ずれを同じく高精度にフィードバック制御することができる。
【0090】
また、移動体対向維持システム200は、ドローン等の移動体に限らず、テレビ放送の中継車と放送局との映像データの通信において、移動することによって生じる位置・回転ずれを補正するために用いてもよい。また、地上に設置したパラボラアンテナ等の大開口アンテナ同士のアライメントにおいて、風雨、地殻変動等の外的要因によるわずかなずれが問題となる高ゲインアンテナにおいて、そのずれを精密に補正するために用いてもよい。
【0091】
本発明の第1実施形態及び第2実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。このような新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0092】
1 アンテナ方向調整装置
2 伝搬位相差検出部
3 制御部
4 アクチュエータ
5 位相差検出用アンテナ
6 アンテナ
21 トランスミッタ
22 レシーバ
23 位相検出器
24 無線制御部
31 位置角度ずれ算出部
32 アンテナ位置角度制御部
100 アンテナ方向調整システム
200 移動体対向維持システム