IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧

特開2025-16021無線機、通信システム、経路コスト算出方法およびプログラム
<>
  • 特開-無線機、通信システム、経路コスト算出方法およびプログラム 図1
  • 特開-無線機、通信システム、経路コスト算出方法およびプログラム 図2
  • 特開-無線機、通信システム、経路コスト算出方法およびプログラム 図3
  • 特開-無線機、通信システム、経路コスト算出方法およびプログラム 図4
  • 特開-無線機、通信システム、経路コスト算出方法およびプログラム 図5
  • 特開-無線機、通信システム、経路コスト算出方法およびプログラム 図6
  • 特開-無線機、通信システム、経路コスト算出方法およびプログラム 図7
  • 特開-無線機、通信システム、経路コスト算出方法およびプログラム 図8
  • 特開-無線機、通信システム、経路コスト算出方法およびプログラム 図9
  • 特開-無線機、通信システム、経路コスト算出方法およびプログラム 図10
  • 特開-無線機、通信システム、経路コスト算出方法およびプログラム 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016021
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】無線機、通信システム、経路コスト算出方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04W 40/02 20090101AFI20250124BHJP
   H04W 84/18 20090101ALI20250124BHJP
【FI】
H04W40/02
H04W40/02 110
H04W84/18 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023119018
(22)【出願日】2023-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小倉 みゆき
(72)【発明者】
【氏名】鍋谷 寿久
(72)【発明者】
【氏名】関谷 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】村上 貴臣
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA34
5K067EE25
(57)【要約】
【課題】テーブルを備える必要がなく、時間的な変動量が小さい経路コストを適応的に算出することができる無線機を提供する。
【解決手段】実施形態によれば、無線機は、処理部と、通信部と、を具備する。処理部は、ゲートウェイ端末として動作する第1の他の無線機と無線端末として動作する自無線機との間に無線中継機として介在し得る第2の他の無線機による無線信号の中継数であるホップ数と、自無線機の移動状態の累積値を反映した移動コストと、に応じて、第1の他の無線機と自無線機との間の経路コストを算出する。通信部は、経路コストに関する第1経路コスト情報を、第1の他の無線機と無線通信を行うための接続先を選択中の第3の他の無線機に送信する。処理部は、第1時刻の移動コストを、自無線機の第1時刻の速度と第1時刻より前の移動コストとに基づいて算出する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲートウェイ端末として動作する第1の他の無線機と無線端末として動作する自無線機との間に無線中継機として介在し得る第2の他の無線機による無線信号の中継数であるホップ数と、自無線機の移動状態の累積値を反映した移動コストと、に応じて、前記第1の他の無線機と自無線機との間の経路コストを算出する処理部と、
前記経路コストに関する第1経路コスト情報を、前記第1の他の無線機と無線通信を行うための接続先を選択中の第3の他の無線機に送信する通信部と、
を具備し、
前記処理部は、第1時刻の前記移動コストを、自無線機の前記第1時刻の速度と前記第1時刻より前の前記移動コストとに基づいて算出する、
無線機。
【請求項2】
前記処理部は、現在の前記移動コストを、自無線機の第1時刻の速度と前記第1時刻より前の一定時間における前記移動コストの積とに基づき、移動時間が長ければ大きくなり、移動時間が短ければ小さくなるように、時間経過とともに更新する、請求項1に記載の無線機。
【請求項3】
前記処理部は、第1時刻に対応する第1移動コストを算出した後、第2時刻に対応する自無線機の第1速度を取得し、前記第1移動コストと前記第1速度とに基づき、前記第2時刻に対応する第2移動コストを算出する、請求項1に記載の無線機。
【請求項4】
前記通信部は、1以上の第4の他の無線機のそれぞれから経路コストに関する第2経路コスト情報を受信し、前記第2経路コスト情報に基づき、接続先を選択する、請求項1に記載の無線機。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の無線機を複数具備し、
複数の前記無線機が相互に無線通信を行うことで無線ネットワークを形成する、
通信システム。
【請求項6】
相互に無線通信を行うことで無線ネットワークを形成する複数の無線機のそれぞれによって実行される経路コスト算出方法であって、
ゲートウェイ端末として動作する第1の他の無線機と無線端末として動作する自無線機との間に無線中継機として介在し得る第2の他の無線機による無線信号の中継数であるホップ数と、自無線機の過去からの移動状態の累積値を反映した移動コストと、に応じて、前記第1の他の無線機と自無線機との間の経路コストを算出することと、
前記経路コストに関する第1経路コスト情報を、前記第1の他の無線機と無線通信を行うための接続先を選択中の第3の他の無線機に送信することと、
を具備し、
前記経路コストを算出することは、第1時刻の前記移動コストを、自無線機の前記第1時刻の速度と前記第1時刻より前の前記移動コストとに基づいて算出することを含む、
経路コスト算出方法。
【請求項7】
相互に無線通信を行うことで無線ネットワークを形成する複数の無線機のそれぞれを、
ゲートウェイ端末として動作する第1の他の無線機と無線端末として動作する自無線機との間に無線中継機として介在し得る第2の他の無線機による無線信号の中継数であるホップ数と、自無線機の過去からの移動状態の累積値を反映した移動コストと、に応じて、前記第1の他の無線機と自無線機との間の経路コストを算出する処理部、
前記経路コストに関する第1経路コスト情報を、前記第1の他の無線機と無線通信を行うための接続先を選択中の第3の他の無線機に送信する通信部、
として機能させるためのプログラムであり、
前記処理部は、第1時刻の前記移動コストを、自無線機の前記第1時刻の速度と前記第1時刻より前の前記移動コストとに基づいて算出する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、無線機、通信システム、経路コスト算出方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
他の無線機と共にメッシュネットワークを形成する無線機に関して、移動速度を経路コストに反映する方法が知られている(たとえば特許文献1)。
【0003】
たとえば特許文献2には、移動速度および受信電力値の各要素に対応したリンクコストをあらかじめテーブルとして備えておき、このテーブルを用いて経路コストを導出する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-13591号公報
【特許文献2】特開2011-205556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法では、経路コストに無線機の移動速度の持続性が含まれていない。このため、無線機が停止と移動とを繰り返す場合、経路コストの時間的な変動量が大きくなり、算出された経路コストと実際の動作とが不一致となる可能性がある。
【0006】
また、特許文献2の方法では、移動速度および受信電力値の各要素に対応した経路コストをあらかじめテーブルとして備えておくことが必要である。
【0007】
本発明の1つの実施形態は、テーブルを備える必要がなく、時間的な変動量が小さい経路コストを適応的に算出することができる無線機、通信システム、経路コスト算出方法およびプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態によれば、無線機は、処理部と、通信部と、を具備する。処理部は、ゲートウェイ端末として動作する第1の他の無線機と無線端末として動作する自無線機との間に無線中継機として介在し得る第2の他の無線機による無線信号の中継数であるホップ数と、自無線機の移動状態の累積値を反映した移動コストと、に応じて、第1の他の無線機と自無線機との間の経路コストを算出する。通信部は、経路コストに関する第1経路コスト情報を、第1の他の無線機と無線通信を行うための接続先を選択中の第3の他の無線機に送信する。処理部は、第1時刻の移動コストを、自無線機の第1時刻の速度と第1時刻より前の移動コストとに基づいて算出する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態の通信システムでの複数の無線機による無線ネットワークの一形成例を示す図。
図2】第1実施形態の無線機の基本的な構成例を示す図。
図3】第1実施形態の無線機の移動コストの時間的な変化を示す図。
図4】第1実施形態の無線機により計算される移動コストの第1の例を示す図。
図5】第1実施形態の無線機により計算される移動コストの第2の例を示す図。
図6】第1実施形態の無線機により計算される移動コストの第3の例を示す図。
図7】第1実施形態の無線機により計算される移動コストの第4の例を示す図。
図8】第1実施形態の無線機が自無線機の経路コストを無線ネットワーク内の他の無線機に周知する処理の流れを示すフローチャート。
図9】第1実施形態の無線機の経路選択処理の流れを示すフローチャート。
図10】第2実施形態の無線機の一構成例を示す図。
図11】第2実施形態の無線機が自無線機の経路コストを無線ネットワーク内の他の無線機に周知する処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態について説明する。
【0012】
図1は、第1実施形態の通信システムでの複数の無線機100による無線ネットワーク110の一形成例を示す図である。
【0013】
無線ネットワーク110は、複数の無線機100が相互に無線通信を行うことで形成される。無線ネットワーク110を形成する複数の無線機100は、無線ネットワーク110内での役割に応じて、ゲートウェイ端末、無線中継機、および無線端末に分類することができる。以下、ゲートウェイ端末の役割を担う無線機100をゲートウェイ端末103と称することがあり、無線中継機の役割を担う無線機100を無線中継機102と称することがあり、無線端末の役割を担う無線機100を無線端末101と称することがある。
【0014】
ゲートウェイ端末103は、主に無線ネットワーク110内の全ての無線機100から送信されるデータを収集し、無線ネットワーク110の外にあるサーバ(外部サーバ)に転送するために存在する。このため、ゲートウェイ端末103は、イーサケーブル等を接続するためのコネクタを備え、収集したデータを、コネクタに接続された有線ケーブルを使い、インターネットもしくはイントラネット上に設置されたサーバへ転送する。
【0015】
ゲートウェイ端末103とインターネットもしくはイントラネット上に設置されたサーバとの接続形態は、無線通信であってもよい。
【0016】
無線中継機102は、自らのデータをゲートウェイ端末103経由で外部サーバとの間で通信するとともに、無線ネットワーク110の自らと同一の経路上にある他の無線機100のデータを中継する。
【0017】
無線端末101は、無線ネットワーク110内に形成された経路において、ゲートウェイ端末103から最も遠くに位置する無線機100であり、自らのデータをゲートウェイ端末103経由で外部サーバとの間で通信するが、他の無線機100のデータを中継することはない。
【0018】
無線機100が、無線端末101になるか、無線中継機102になるかは、その無線機100の無線ネットワーク110の経路上における位置(ここでは、ゲートウェイ端末103を起点とした距離)によって定まる。ある経路において、ゲートウェイ端末103からの距離が最も大きいものが無線端末101であり、無線端末101とゲートウェイ端末103との間に位置する無線機100は無線中継機102である。無線機100は、自らが存在する経路上の位置に応じて、無線端末101にも無線中継機102にもなることができる。
【0019】
第1実施形態の通信システムにおいては、この経路上の無線機100の位置を経路コストと定義する。経路コストは、ゲートウェイ端末103に近い無線機100は小さく、ゲートウェイ端末103から遠くなるほど大きくなるように、無線機100が自らの位置に応じて決定する。
【0020】
以上のような構成の、第1実施形態の通信システムでは、複数の無線機100同士が相互に無線通信を行うことで無線ネットワーク110を形成し、無線機100を搭載したロボットやAGVなどの装置の運行、管理応用などに必要なアプリケーションデータを、複数の無線機100間でマルチホップ通信を行い、ゲートウェイ端末103から外部のサーバと送受信することができる。このため、実施形態の通信システムでは、基地局のような通信インフラをサービスエリア内に追加することなく、複数の無線機100による中継伝送によってエリア形成できるため、より柔軟で広域なエリアで通信サービスを享受することができる。
【0021】
図2は、無線機100の基本的な構成例を示す図である。前述したように、無線機100は、無線端末101であり得るし、無線中継機102であり得るし、ゲートウェイ端末103であり得る。
【0022】
無線機100は、たとえばロボット運行用のアプリケーション(プログラム)を実行するためのアプリケーション処理部210と、アプリケーションの実行に必要なデータをインターネットもしくはイントラネット上に設置されたサーバとやり取りするための送信部201および受信部202と、所定の周波数帯にて無線信号を送受信するためのアンテナ200と、を備える。また、無線機100は、受信された無線信号から周辺無線機の経路コストを取得し、経路コストを基に最適な接続先を選択するための経路選択部203と、接続先の経路コストを基に自無線機の経路コストを決定するための経路コスト算出部204と、を備える。経路コスト算出部204で決定された自無線機の経路コスト情報は、所定の無線信号に含めて無線送信される。
【0023】
さらに、第1実施形態の無線機100は、自無線機の移動状態を検出するための移動速度検出部206を備える。第1実施形態の通信システムでは、無線機100は、算出した移動コスト、および通信コストを、共に自無線機の経路コスト算出のために利用する。
【0024】
送信部201は、アプリケーション処理部210からのデータを所定の無線信号に変換し、アンテナ200を介して送信する。さらに、送信部201は、経路コスト算出部204により算出された自無線機の経路コスト情報を所定の無線信号に変換し、アンテナ200を介して送信する。
【0025】
受信部202は、アンテナ200を介して受信された所定の無線信号からデータを取り出し、アプリケーション処理部210へ渡す。また、受信部202は、受信された所定の無線信号から、周辺無線機の経路コスト情報を抽出し、経路選択部203へ渡す。
【0026】
経路選択部203は、複数の周辺無線機の経路コストを、所定の判断基準を基に評価することで、親となる無線機(以下、親無線機と称する)を選択する。一般的には、無線機は、周辺の無線機から取得した経路コストを比較し、最もコストの小さいものを送信してきた無線機を親として選択する。
【0027】
無線機100は、親無線機を選択すると、当該選択した親無線機に対して所定の無線信号を送信し、自無線機の親であることを通知するとともに、親無線機との無線接続、およびゲートウェイ端末を宛先とした送信先としての設定、つまりルーティング設定を実行する。このため、親無線機は、自無線機の経路上の、よりゲートウェイ端末に近い場所に位置することになる。
【0028】
移動速度検出部206は、自無線機の移動速度を検出するためのハードウェア、またはソフトウェアであり、一般的には、GPSによる位置検出、BTや屋内無線LANを利用した位置検出、およびその時の時刻情報等から算出することができる。第1実施形態の通信システムにおいては、移動速度を直接経路コストに反映せず、状態変数stと忘却係数ωtとに変換する。状態変数は、移動速度を正規化した値として示され、たとえば無線機100が移動している時にはst=+1(移動状態)、無線機100が停止している時にはst=-1(停止状態)を示す。忘却係数ωt(0<ωt<1)は、無線機100の移動速度がネットワークの安定度に与える影響を表す値であり、ネットワークの安定度が十分確保できる速度で無線機100が移動する場合には0に近い値を示し、ネットワークの安定度が十分確保できない速度で無線機100が移動する場合には1に近い値を示す。
【0029】
移動コスト算出部205は、移動速度検出部206にて検出された速度情報、すなわち状態変数stと忘却係数ωtとを利用し、たとえば(1)式に従い、無線機100の移動コストmtを算出する。移動コストは、現在(第1時刻)の状態変数だけではなく、過去の移動コストをネットワーク安定度の指標となる重み付けで掛け算した結果と合わせて算出する。すなわち、第1実施形態の通信システムでは、移動コストは、現在(第1時刻)の移動速度だけでなく、過去(第1時刻より前)の移動速度の評価結果も合わせて算出される。
【0030】
t = st + ωt × mt-1 ・・・(1)式
経路コスト算出部204は、親無線機の経路コスト、単位中継(ホップ)当たりのコスト、自無線機の移動コストmから、自無線機の経路コストCを算出する。ここで、親無線機の経路コストは、親無線機から送信された経路コストを含む無線信号を受信することで得られる。単位中継(ホップ)当たりのコストは、ゲートウェイ端末を起点とした中継数に相当する値であり、ネットワークの規模や、アプリケーションから要求されるネットワークの安定度などを考慮してあらかじめ設定されることが多い。自無線機の経路コストをC、親無線機の経路コストをCn-1、単位ホップあたりのコストをNHとすると、経路コスト算出部204は、たとえば自無線機の経路コストを(2)式のように算出する。
【0031】
= Cn-1 + NH + m ・・・(2)式
このように、第1実施形態の通信システムでは、移動コストは、経路コストを補正するように作用する。
【0032】
図3は、無線機100の移動コストの時間的な変化を示す図である。
【0033】
図3は、3台の無線機100が無線ネットワーク110を形成し、当該3台の無線機100の時刻Ta、時刻Tb、時刻Tc、時刻Tdにおける互いの位置関係を表現したものである。
【0034】
無線機100[2]および無線機100[3]が、親である無線機100[1]に無線接続されており、無線機100[3]は時刻Tb~Tdにおいて停止しており、無線機100[2]は時刻Tb~Tdにおいて矢印の方角に移動している。
【0035】
符号a1が示す破線の枠内の移動コストmtは、無線機100[2]のものであり、符号a2が示す破線の枠内の移動コストmtは、無線機100[3]のものである。
【0036】
時刻Taにおける無線機100[2]は、ある速度で移動していることを移動速度検出部206が検出し、無線機100[2]の状態変数st=+1が検出される。同様に、時刻Tb~Tdにおける無線機100[2]でも、状態変数st=+1が検出される。ここで、時刻Ta~Tdでの無線機100[2]の移動速度が小さく、安定したネットワークの形成を阻害しないと判断される場合、移動速度検出部206は、忘却係数ωtを0に近い値(たとえば、ω=0.2)のように決定する。その結果、移動コスト算出部205は、時刻Ta~Tdにおける無線機100[2]の移動コストmを、(1)式より、たとえば図4に示すように計算する。
【0037】
一方、時刻Ta~Tdでの無線機100[2]の移動速度が大きく、安定したネットワークの形成を阻害すると判断される場合、移動速度検出部206は、忘却係数ωtを1に近い値(たとえば、ω=0.8)のように決定する。その結果、移動コスト算出部205は、時刻Ta~Tdにおける無線機100[2]の移動コストmを、(1)式より、たとえば図5に示すように計算する。
【0038】
図4に示す移動コスト算出事例1と、図5に示す移動コスト算出事例2と、を比較参照すると、移動速度のネットワーク安定化への影響が大きい方が、ある時刻での移動コストが大きく、また時間的な変動量が大きくなることがわかる。
【0039】
経路選択部203の説明で述べたように、より経路コストの小さい無線機が親として選択されるため、第1実施形態の通信システムでは、ネットワークの安定化を阻害する無線機100は移動コストによる補正量が大きくなり、その結果、当該無線機100の経路コストが大きくなる傾向を示すため、他の無線機100から親として選択されにくくなる。
【0040】
一方、時刻Taにおける無線機100[3]では、停止していることを移動速度検出部206が検出し、無線機100[3]の状態変数st=-1が検出される。同様に、時刻Tb~Tdにおける無線機100[3]でも、状態変数st=-1が検出される。ここで、時刻Ta~Td以外での無線機100[3]の移動速度が大きく、安定したネットワークの形成を阻害すると判断される場合、移動速度検出部206は、忘却係数ωtを0に近い値(たとえば、ωt=0.2)のように決定する。その結果、移動コスト算出部205は、時刻Ta~Tdにおける無線機100[3]の移動コストmtを、(1)式より、たとえば図6に示すように計算する。
【0041】
また、時刻Ta~Tdを含めた無線機100[3]の停止時間が短い場合、安定したネットワークの形成を阻害すると判断されるため、無線機100[3]の移動コストmは、前述と同様にたとえば図6に示すように計算する。
【0042】
一方、時刻Ta~Td以外での無線機100[3]の移動速度が小さく、安定したネットワークの形成を阻害しないと判断される場合、移動速度検出部206は、忘却係数ωtを1に近い値(たとえば、ωt=0.8)のように決定する。その結果、移動コスト算出部205は、時刻Ta~Tdにおける無線機100[3]の移動コストmtを、(1)式より、たとえば図7に示すように計算する。
【0043】
また、時刻Ta~Tdを含めた無線機100[3]の停止時間が長い場合、安定したネットワークの形成を阻害しないと判断されるため、無線機100[3]の移動コストmは、前述と同様にたとえば図7に示すように計算する。
【0044】
図6に示す移動コスト算出事例3と、図7に示す移動コスト算出事例4と、を比較参照すると、移動局で移動と停止を繰り返す場合、移動時の移動速度のネットワーク安定化への影響が小さい方が、ある時刻での移動コストがより小さく、また時間的な変動量が小さくなることがわかる。逆に、移動時の移動速度のネットワーク安定化への影響が大きい方が、ある時刻での移動コストがより大きく、また時間的な変動量が大きくなることがわかる。このことは、無線機が移動した状態から停止した時、過去の無線機100の移動状態を反映して移動コストを算出するため、現在の移動速度によらず時間的な変動量が小さい経路コストを提供する効果が期待できる。
【0045】
(2)式より、移動コストは、経路コストを補正するように作用するため、固定局の場合、停止時間が長くなるため、移動局に比べて十分小さい移動コストを示す。無線機100[3]の経路コストは、停止時間が長く、移動速度のネットワーク安定化への影響が大きい方が、補正値が減少方向に大きいことがわかる。
【0046】
経路選択部203の説明で述べたように、より経路コストの小さい無線機が親として選択されるため、第1実施形態の通信システムでは、停止している時間の長い方が、経路コストが小さくなる傾向となり、他の無線機100から親として選択されやすくなる。また、無線機100が移動と停止とを繰り返すような状況において、移動時の速度が大きく、ネットワークの安定化を阻害する無線機100であれば、停止時であってもネットワークの安定化を妨げることが懸念される。第1実施形態の通信システムでは、移動に伴うネットワークの安定化への影響量を加味して、停止してから一定時間後には移動コストによる補正量を削減することが可能である。その結果、無線機100の経路コストが小さくなる傾向を示すため、他の無線機100から親として選択されやすくなる。
【0047】
以上のように、第1実施形態の通信システムにおいては、無線機100は、自らの移動速度を検出し、過去の移動速度の検出結果を合わせて移動コストを算出し、ネットワーク安定度への影響の大小に応じて、無線機100の経路コストを算出することができる。このため、当該無線機100を使用した無線ネットワーク110では、無線機100の移動速度、および移動頻度に応じて、経路コストが適切な値に制御されるため、固定局と移動局とが混載する無線メッシュネットワークにおいて、ネットワークの安定性を維持、改善することが期待できる。
【0048】
無線機100は、自らの経路コストを、常時メンテナンスし、周期的に、無線ネットワーク110内の他の無線機100に周知するため無線信号で送信する。図8を用いて、この処理について説明する。
【0049】
無線機100は、電源投入後、所定の無線方式を起動する。その後、無線機100は、周辺の無線機から無線送信された無線信号を受信し、無線信号から周辺の無線機100の経路コストを取り出す。無線機100は、複数の経路コストを比較評価し、経路コストの小さい無線機を親として選択する(S101:YES)。つまり、経路の選択または再選択を実行する。周辺の無線機100の経路コストが自無線機の経路コストより大きい場合には、無線機100は、経路の再選択を実行しない(S101:NO)。
【0050】
無線機100は、経路選択(親無線機の選択)または経路再選択(別の無線機の選択)を実行した時、親無線機の経路コストCn-1に変更があれば、自無線機の経路コストを更新する(S102)。
【0051】
また、無線機100は、経路の選択または再選択に関する処理(ステップS101、S102)と平行して、移動速度から状態変数stと忘却係数ωtとを決定し(S103)、過去の移動コストと合わせて、(1)式より現時刻の移動コストmを算出する(S104)。
【0052】
無線機100は、以上のように算出した、移動コスト、親無線機の経路コスト、および次ホップのコストを合わせて、(2)式より、自無線機の経路コストを更新する(S105)。
【0053】
移動コストの算出は、無線機100の経路選択の判断とは独立して実行されてよく、このため、第1実施形態の無線機100では、移動、停止等の無線機100の状態が変化することにより、合わせて経路コストが更新される。
【0054】
無線機100が経路コストを定期的に無線ネットワーク110内の他の無線機100に周知するため、一般的には、タイマを設けることがある。この場合、無線機100は、タイマが満了しているかどうかを確認し、満了していれば(S106:YES)、タイマをリセットし、所定の無線信号に経路コストを含めて送信する(S107)。タイマが満了していなければ(S106:NO)、無線機100は、経路コストの送信を行わず、経路選択の判断に戻る。
【0055】
また、周辺の無線機から経路コストの照会要求があった場合には、無線機100は、タイマの満了有無によらず、所定の無線信号に経路コストを含めて送信してもよい。
【0056】
以上のように、第1実施形態の通信システムにおいては、無線機100が自律的に移動コストを更新できることから、経路の選択のタイミングによらず、常に無線機100の状態を経路コストに反映でき、無線機の状態に応じて、安定した無線ネットワーク110の構築が可能である。
【0057】
続いて、図9を用いて、無線機100の経路選択処理について説明する。
【0058】
無線機100は、電源投入後、所定の無線方式を起動する。その後、無線機100は、周辺の無線機から無線送信された無線信号を受信し(S201)、無線信号から周辺の無線機の経路コストを取り出す(S202)。無線機100は、取り出した複数の経路コストを比較評価し、経路コストの小さい無線機100を親として選択する(S203)。そして、無線機100は、親となる無線機100に対して、所定の手順に従い、無線リンクの接続手順を実行する(S204)。無線機100は、親無線機の経路コストCn-1に変更があれば、次ホップの経路コストと、親無線機の経路コストCn-1と、自無線機の移動コストとを基に自無線機の経路コストを更新する(S205)。
【0059】
以上のように、第1実施形態の通信システムにおいては、無線機が周辺無線機からの経路コストを収集し、比較することで、その時に移動コストを含め最も経路コストの小さい無線機100を親として選択することができるため、無線機100の状態に応じて、安定した無線ネットワーク110の構築が可能である。
【0060】
つまり、第1実施形態の通信システムは、テーブルを備える必要がなく、時間的な変動量が小さい経路コストを適応的に算出することができる。
【0061】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。
【0062】
図10は、第2実施形態における無線機100の一構成例を示す図である。なお、第1実施形態の無線機100と同一の構成要素については同一の符号を用い、その説明は省略する。
【0063】
図10に示すように、第2実施形態の無線機100は、第1実施形態の無線機100の構成(図2参照)に加えて、接続先との通信品質を検出する通信品質検出部300をさらに備える。
【0064】
通信品質検出部300は、親無線機と自無線機との無線リンクにおける通信品質を測定する。測定する通信品質は、たとえば、親無線機からの受信電力、および無線信号の再送回数などで示される。第2実施形態の通信システムでは、通信品質を忘却係数ωに変換する。忘却係数ω(0<ω<1)は、無線機100の通信品質がネットワークの安定度に与える影響を表す値であり、ネットワークの安定度が十分確保できる通信品質である場合には0に近い値を算出し、ネットワークの安定度が十分確保できない通信品質である場合には1に近い値を算出する。
【0065】
算出された忘却係数ωは、移動コスト算出部205の入力となり、移動コストの忘却係数として、(3)式のように反映される。
【0066】
= s + ω ×ω × mt-1 ・・・(3)式
算出された忘却係数ωは、通信品質が良い場合、経路コストの補正幅が小さくなり、通信品質が悪い場合には、経路コストの補正幅が大きくなるように作用する。
【0067】
これは、移動速度が大きい場合であっても、通信品質が良い場合には、移動速度に起因するネットワーク安定度への影響が緩和されることを反映するものである。逆に、移動速度が小さい場合であっても、通信品質が悪い場合には、移動速度に起因するネットワーク安定度への影響が増大されることを反映する。
【0068】
以上のように、第2実施形態の通信システムにおいては、無線機100が、周辺無線機からの経路コストを収集し、比較することで、その時に移動コストを含め最も経路コストの小さい無線機100を親として選択することができるため、無線機100の状態に応じて、安定した無線ネットワーク110の構築が可能である。
【0069】
図11は、第2実施形態の無線機100が自無線機の経路コストを無線ネットワーク110内の他の無線機100に周知する処理の流れを示すフローチャートである。
【0070】
前述したように、第1実施形態の無線機100は、経路の選択または再選択に関する処理(ステップS101、S102)と平行して、移動速度から状態変数stと忘却係数ωtとを決定する(S103)。これに対して、第2実施形態の無線機100は、さらに、これらと平行して、通信品質を検出し、通信品質を忘却係数ωqに変換する(S301)。そして、第2実施形態の無線機100は、移動コストの更新処理(S104)を、(3)式に従い実行する。
【0071】
以上のように、第2実施形態の通信システムにおいては、無線機100が通信コストを加味した移動コストの更新を自律的に実行し、無線機100の状態に応じて、さらに安定した無線ネットワーク110の構築が可能となる。
【0072】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0073】
100…無線機、101…無線端末、102…無線中継機、103…ゲートウェイ端末、110…無線ネットワーク、200…アンテナ、201…送信部、202…受信部、203…経路選択部、204…経路コスト算出部、205…移動コスト算出部、206…移動速度検出部、210…アプリケーション処理部、300…通信品質検出部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11