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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016049
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】液化水素貯蔵タンク
(51)【国際特許分類】
   F17C 13/12 20060101AFI20250124BHJP
   B65D 90/02 20190101ALI20250124BHJP
【FI】
F17C13/12 302Z
B65D90/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023119059
(22)【出願日】2023-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】江上 武史
(72)【発明者】
【氏名】藤井 真人
【テーマコード(参考)】
3E170
3E172
【Fターム(参考)】
3E170AA03
3E170AA08
3E170AB29
3E170BA03
3E170DA01
3E170DA05
3E170JA05
3E170NA02
3E170SA20
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB01
3E172BA06
3E172BB04
3E172BD05
3E172CA10
3E172DA03
3E172DA15
3E172DA90
(57)【要約】
【課題】防液堤内部に設けられたポンプ収容室へ液化水素が進入した際の、当該ポンプ収容室の内圧上昇への耐性を高める。
【解決手段】液化水素貯蔵タンク1は、液化水素LHを貯蔵する内槽12と、内槽12との間に保冷層13を介して形成される外槽11と、を含むタンク本体10と、タンク本体10の外周を取り囲むように立設された防液堤2と、内槽2の内槽側板12Sを通して、当該内槽2内の液化水素LHを外部へ払い出すポンプ3と、ポンプ3を収容する収容室51と、を備える。防液堤2は、径方向外側に突出する 突条部23を含み、収容室51は突条部23の外周面と内槽側板12との間の内部に位置し、収容室51の水平断面が円形である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化水素を貯蔵する内槽と、前記内槽との間に保冷層を介して形成される外槽と、を含むタンク本体と、
前記タンク本体の外周を取り囲むように立設された防液堤と、
前記内槽の側板を通して、当該内槽内の液化水素を外部へ払い出すポンプと、
前記ポンプを収容する収容室と、を備え、
前記防液堤は、径方向外側に突出する 突条部を含み、
前記収容室は前記突条部の外周面と前記内槽の側板との間に位置し、前記収容室の水平断面が円形である、液化水素貯蔵タンク。
【請求項2】
請求項1に記載の液化水素貯蔵タンクにおいて、
前記突条部の外周面が水平方向において円弧面を有する、液化水素貯蔵タンク。
【請求項3】
請求項1または2に記載の液化水素貯蔵タンクにおいて、
前記収容室を区画する壁面に内側部材が設けられている、液化水素貯蔵タンク。
【請求項4】
請求項3に記載の液化水素貯蔵タンクにおいて、
前記突条部はプレストレストコンクリート製であり、
前記内側部材は耐低温性を有する、液化水素貯蔵タンク。
【請求項5】
請求項3に記載の液化水素貯蔵タンクにおいて、
前記突条部はコンクリート製であり、
前記内側部材は、耐低温性および前記収容室に生じる内圧に耐える強度を有する、液化水素貯蔵タンク。
【請求項6】
請求項3に記載の液化水素貯蔵タンクにおいて、
前記内側部材は金属製の部材からなり、
前記内側部材の内側もしくは外側に配設される断熱層をさらに備える、液化水素貯蔵タンク。
【請求項7】
請求項1に記載の液化水素貯蔵タンクにおいて、
前記収容室は、下方に凸のドーム形状を有する底壁を含む、液化水素貯蔵タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液化水素を貯蔵するタンクに関する。
【背景技術】
【0002】
液化水素や液化天然ガスなどの低温の液化ガスの貯蔵施設として、前記液化ガスを貯蔵する平底のタンク本体と、このタンク本体の外周を取り囲む防液堤とを備えた液化ガス貯蔵タンクが知られている。前記防液堤は、万が一、タンク本体に損傷等が生じた際に、貯留している液化ガスのタンク周囲への流出防止を目的として建造される。液化ガス貯蔵タンクでは、タンク本体内の液化ガスの払い出し用のポンプが付設される(例えば特許文献1)。
【0003】
貯留する液化ガスが液化水素である場合は、メンテナンス作業の困難性等からタンク本体の内槽内への前記ポンプの設置が難しい場合がある。この場合、タンク本体および防液堤を貫通する配管を設けるともに、防液堤の内部にポンプの収容室を設置する構造が考えられる。前記配管と前記収容室のポンプとを接続し、前記ポンプの動作により、前記配管を通してタンク本体に貯蔵された液化水素の払い出しを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-132619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のタンク構造を採用した場合、何らかの要因で、内槽から防液堤内のポンプ収容室への液化水素の漏出が起こり得る。漏出した液化水素は、ポンプ収容室に閉じ込めることが可能であり、大気中への拡散は防止できる。しかし、漏出した液化水素がポンプ収容室に溜まることに伴う当該ポンプ収容室の内圧上昇への対策が必要となる。
【0006】
本開示の目的は、防液堤内部に設けられたポンプ収容室へ液化水素が進入した際の、当該ポンプ収容室の内圧上昇への耐性を高めることができる液化水素貯蔵タンクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一局面に係る液化水素貯蔵タンクは、液化水素を貯蔵する内槽と、前記内槽との間に保冷層を介して形成される外槽と、を含むタンク本体と、前記タンク本体の外周を取り囲むように立設された防液堤と、前記内槽の側板を通して、当該内槽内の液化水素を外部へ払い出すポンプと、前記ポンプを収容する収容室と、を備え、前記防液堤は、径方向外側に突出する突条部を含み、前記収容室は前記突条部の外周面と前記内槽の側板との間に位置し、前記収容室の水平断面が円形である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の液化水素貯蔵タンクによれば、防液堤内部に設けられたポンプ収容室へ液化水素が進入した際の、当該ポンプ収容室の内圧上昇への耐性を高めることができる液化水素貯蔵タンクを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の実施形態に係る液化水素貯蔵タンクを示す断面図である。
図2図2は、図1のII-II線断面図である。
図3図3(A)、(B)は、防液堤の突条部の変形例を示す部分断面図である。
図4図4は、内側部材を有するポンプ収容室を示す断面図である。
図5図5は、断熱層を有するポンプ収容室を示す断面図である。
図6図6は、ドーム形状の底壁を有するポンプ収容室を示す断面図である。
図7図7は、防液堤の突条部のさらなる変形例を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[タンクの全体構造]
以下、図面を参照して、本開示に係る液化水素貯蔵タンクの実施形態を詳細に説明する。図1は、本開示の実施形態に係る液化水素貯蔵タンク1を示す断面図、図2は、図1のII-II線断面図である。液化水素貯蔵タンク1は、液化水素LHを貯留する多重殻タンクである。液化水素貯蔵タンク1は、多重殻構造を備えたタンク本体10と、タンク本体10の外周を取り囲むように立設された防液堤2と、タンク本体10内の液化水素LHを外部へ払い出すポンプ3と、防液堤2の躯体内に配置されたポンプ3の収容室51とを含む。図1では、多重殻タンクとして、二重殻タンクを例示している。
【0011】
タンク本体10は、液化水素LHを貯蔵する貯蔵空間10Aを有する平底タンクであって、タンク基礎21の上に立設された外槽11と、外槽11に内包された内槽12と、外槽11と内槽12との間に配置される保冷層13とを含む。タンク基礎21は、タンク本体10及び防液堤2の基礎部分を構成するコンクリート層である。外槽11及び内槽12は、いずれも上面視で円形の形状を有し、同心円状に配置されている。なお、タンク本体10は、外槽11と内槽12との間に中間槽を備えた多重殻タンクであっても良い。
【0012】
外槽11は、炭素鋼やステンレス鋼等の金属で構成された密閉体であり、外槽底板11B、外槽側板11S及び外槽屋根11Rを含む。外槽底板11Bは、タンク基礎21の直上に敷設され、円板型の形状を有している。外槽側板11Sは、外槽底板11Bの周縁から立設され、円筒状の形状を有している。外槽屋根11Rは、円筒状の外槽側板11Sの上面開口を塞ぐように当該外槽側板11Sの上端に取り付けられ、ドーム型の形状を有している。
【0013】
内槽12は、実際に液化水素LHを貯留する貯蔵空間10Aを形成する槽である。内槽12は、ステンレス鋼等の金属で構成された密閉体であって、保冷層13となる所定間隔の空間を介して外槽11によって取り囲まれている。内槽12は、内槽底板12B、内槽側板12S及び内槽屋根12Rを含む。内槽底板12Bは、外槽底板11Bよりも径の小さい円板型の形状を有している。内槽側板12Sは、内槽底板12Bの周縁から立設され、円筒状の形状を有している。内槽屋根12Rは、内槽側板12Sの上端に取り付けられ、ドーム型の形状を有している。内槽12の内部には液化水素LHが貯留されており、内槽12の上層部には、液化水素LHから気化したガスが溜まっている。
【0014】
保冷層13は、外槽11と内槽12との間隙を断熱空間として利用し、内槽12の保冷性を高めるための層である。保冷層13は、粉体断熱材または固体断熱材を含んでいても良い。例えば、外槽屋根11Rと内槽屋根12Rとの間隙には、粒状パーライトのような粉体断熱材が充填される。外槽側板11Sと内槽側板12Sとの間隙には、粒状パーライト及びガラスウール等が充填される。外槽底板11Bと内槽底板12Bとの間隙には、例えば泡ガラスのような、断熱性のブロック材が敷設される。
【0015】
保冷層13には、粒状パーライト等の保冷材と共に、水素ガス、ヘリウムガス、窒素ガス等が充填されている。充填されるガスは、貯留する液化水素LHと同等もしくは同等未満の沸点を持つガスを用いることが望ましく、この観点から水素ガス又はヘリウムガスが望ましい。例えば、内槽12の内部空間と保冷層13の空間とを連通させる連通管を設置し、貯留している液化水素LHの気化ガスを保冷層13に導入させる構造としても良い。
【0016】
防液堤2は、万が一、タンク本体10に損傷等が生じた際に、貯留している液化水素LHのタンク周囲への流出を抑止する。防液堤2は、タンク基礎21上に構築され、タンク本体10の外周を取り囲むように立設された、円筒状のコンクリート製の構造物である。前記コンクリート製の構造物には、鉄筋やPC(プレストレストコンクリート)鋼材などの補強材が組み込まれることが望ましい。特に、PC構造を採用すれば、強度に優れた防液堤2を構築できるので特に望ましい。本実施形態の防液堤2は、タンク本体10の外周との間に離間距離を空けない構造、つまり、防液堤2と外槽側板11Sとが一体化された構造を有している。タンク本体10に損傷等が生じた場合、防液堤2の堰き止めによって液化水素LHの漏出は回避され、保冷層13の空間に液化水素LHが滞留することになる。すなわち、防液堤2の外周面2Aよりも内側に存在する空間が、漏出した液化水素LHの貯留空間となる。
【0017】
防液堤2は、外部に露出する外周面2Aと、外槽側板11Sに接する内周面2Bとを有する。防液堤2は、形状的特徴として、環状部22と突条部23とを備える。環状部22は、タンク本体10の外周を全周に亘って取り囲む円筒状の堤である。図1では、環状部22の高さが、外槽側板11Sの高さとほぼ同じ高さである例を示している。突条部23は、ポンプ3の配設箇所に対応して設けられ、環状部22の一部が径方向外側へ突出するように形成され、上下方向に延びる構造部分である。図2に示すように、防液堤2は、突条部23の形成箇所において、外周面2Aが径方向外側へ膨出している。
【0018】
ポンプ3は、タンク本体10の側方であって突条部23の内部に配置され、タンク本体10の側板を通して内槽12内の液化水素LHを外部に払い出す圧送力を発生する。本実施形態では、前記側板は内槽側板12Sおよび外槽側板11Sである。ポンプ3には、取出配管31及び払い出し配管32が連結される。
【0019】
取出配管31は、タンク本体10の側板および防液堤2の側部を貫通し、内槽12に貯蔵された液化水素LHを払い出すための直線的な配管である。取出配管31は、タンク本体10の外側から外槽側板11S、保冷層13及び内槽側板12Sを貫通して、内槽12の貯蔵空間10Aに至る管路である。取出配管31の一端は内槽12内に貯留されている液化水素LHに臨み、他端はポンプ3の入口端に接続されている。払い出し配管32は、突条部23の内部を上方向に延び、突条部23の天面23Tを乗り越えて、液化水素貯蔵タンク1の外部に至る管路である。払い出し配管32の一端はポンプ3の出口端に接続され、他端は液化水素LHを燃料とする機器や運搬用ローリーの入口端へ接続される。
【0020】
本実施形態では、タンク本体10内の液化水素LHの払い出し用のポンプ3を、内槽12よりも外側に配置している。これは、ポンプ3を液化水素LHが貯留されている貯蔵空間10Aに設置するよりも、メンテナンス作業を行い易いからである。この場合、タンク本体10の側方にポンプ3を設置するスペースが必要となる。本実施形態では、防液堤2に上述の突条部23を形成すると共に、その内部に収容室51を設けることで、ポンプ3の設置場所を確保している。
【0021】
収容室51は、突条部23の躯体内に配置され、ポンプ3と、取出配管31及び払い出し配管32の一部とを収容可能な空間容積を備えている。収容室51は、上下方向に延びる円柱状の空間であり、防液堤2の上下方向のほぼ全長に亘る長さを有する。本実施形態の収容室51は、強度の確保のため、水平断面が円形である形状を有する。収容室51を断面円形とする意義については、後記で詳述する。
【0022】
本実施形態では、突条部23を設けることで防液堤2の外周面2Aが径方向外側へ膨出した部分を形成し、収容室51の配置スペースを創出している。外周面2Aと収容室51との間には、外壁部23Aが存在している。収容室51とタンク本体10との間には、内壁部23Bが存在している。内壁部23Bは、環状部22の一部であって、突条部23が存在する部分の躯体である。
【0023】
収容室51の径方向内側に位置する内壁部23Bには、取出配管31を収容室51へ貫通させる取出開口33が設けられている。取出開口33は、防液堤2の下端付近において、内壁部23Bを径方向に貫通する円筒型の孔である。取出開口33の内面と取出配管31の外周面との間には隙間が存在している。なお、取出配管31が外槽側板11Sを貫通する部分では、両者は接合されている。ポンプ3は、取出開口33と対向する位置において、収容室51に配置されている。取出配管31を上方に向かうL字型の配管とし、ポンプ3を取出開口33よりも上方に据え付けても良い。
【0024】
収容室51は、突条部23の天面23Tに開口する上端開口53を有する。収容室51の上層部分は通路部52を兼ねている。通路部52は、作業員が収容室51内に据え付けられたポンプ3へ、上端開口53からアクセスする際に通路となる。通路部52には、作業員の進行及び退行のため、図略の梯子が設置されている。上端開口53には、当該上端開口53を開閉する開閉扉54が設けられている。開閉扉54は、常時は閉じた状態とされ、メンテナンス作業時等に開放される。開閉扉54の設置により、収容室51及び通路部52への雨水や塵埃等の進入を抑制でき、これらを清浄に保つことができる。
【0025】
収容室51の空間は、保冷層13とは隔絶された空間であるため、空気環境とすることができる。従って、作業者は、通路部52を通って収容室51の底部付近のポンプ3へ容易にアクセスでき、メンテナンス作業等の容易化を図ることができる。なお、防爆性を高めるためには、収容室51の空間に窒素ガスなどの不活性ガスを充填してもよい。
【0026】
本実施形態に係る液化水素貯蔵タンク1によれば、外槽11の内側空間と、突条部23の躯体内の空間であり収容室51とが、内槽12から漏液する液体を貯めることができる貯液空間となる。そして、前記貯液空間の上面は、外槽屋根11R及び開閉扉56で封止されている。従って、タンク本体10の損傷等で漏液が生じても、その漏液は前記貯液空間に閉じ込められ、気化した液化水素LHの流出を抑制できる。
【0027】
また、防液堤2の突条部23に収容室51が設けられ、当該収容室51にタンク側板を通して液化水素LHを外部へ払い出すポンプ3が収容される。このため、内槽12内にポンプを設置する場合に比べて、メンテナンス作業を行い易くすることができる。液化水素LHを貯留する液化水素貯蔵タンク1において内槽12の内部にポンプ3を設置する場合、液化水素LH中に浸漬されたポンプ3を外部へ取り出す必要があるため、安全性及び作業性に優れたメンテナンス方法の立案は難易度が高い。これに対し、本実施形態では、内槽側板12Sの外にある収容室51にポンプ3が配置されるので、内槽12内からのポンプ3の取り出し作業自体が生じず、メンテナンス作業を容易化できる。
【0028】
[突条部および収容室の詳細]
上述した構造を有する液化水素貯蔵タンク1では、何らかの要因で、内槽12から防液堤2内の収容室51への液化水素LHの漏出が起こり得る。例えば、取出配管31の破損は、前記漏出の一要因となり得る。漏出した液化水素LHは、収容室51に閉じ込めることが可能であり、大気中への拡散は防止できる。しかし、漏出した液化水素LHが収容室51に溜まること、さらには液化水素LHの気化により体積が増加することに伴い、当該収容室51の内圧が上昇することが想定される。本実施形態の収容室51は、このような内圧上昇への耐性を持つ構造を備えている。
【0029】
図1および図2に示すように、突条部23は外槽側板11Sとほぼ同じ高さを有し、環状部22に対して径方向外側へ突出している。突条部23の外壁部23Aの外周面は、水平方向において半円の円弧面ARを有している。収容室51は、水平断面が円形の形状を有している。円弧面ARの円弧中心と収容室51の円中心とは、略一致している。収容室51の水平断面が「円形」とは、真円が最も望ましいが、実質的に円形と扱える楕円や多角形、僅かな直線部や非円弧部などの異形部を含む形状であっても良い。
【0030】
収容室51の水平断面を円形とすることで、次の利点がある。図2の左下に付記しているように、収容室51で区画される収容室空間Rの内圧が上昇すると、収容室空間Rの径方向内側から収容室51の内壁に向かう力F1が発生する。力F1は、収容室51の内壁を押し広げようとする力である。前記内壁の水平断面が円形であると、このような力F1により生じる周方向応力F2に対して、平衡状態を形成して抵抗することができる。仮に、収容室51の水平断面が矩形であると、その角部に応力集中が生じるため、力F1に対抗できる度合いが小さくなる。従って、本実施形態の収容室51は、液化水素LHの漏出時などにおける内圧上昇に耐えることができる。
【0031】
液化水素LHの漏出時、収容室51には、内槽12に貯蔵されている液化水素LHが流入する。収容室51における液化水素LHの液面高さは、タンク本体10内および保冷層13内の液化水素LHの液面高さと同じとなる。従って、内槽12に液化水素LHが満液状態で前記漏出が生じたときに想定される、収容室51の液化水素LHの液面高さの位置まで、収容室51の水平断面を円形とすることが望ましい。もちろん、収容室51の上下全長に亘って、水平断面を円形としても良い。
【0032】
収容室51が断面円形である限りにおいて、突条部23の外形に制限はない。図3(A)および(B)は、変形例に係る突条部231、232を示している。図3(A)の突条部231は、水平断面が矩形の形状を有している。水平断面が円形の収容室51は、防液堤2の環状部22から矩形状に突出している突条部231の内部に配置されている。図3(B)に示す突条部232は、環状部22からの突出基部まで円弧面ARが続く、水平断面が略円形の外形を有している。円形の収容室51は、突条部232と同心状に配置されている。
【0033】
[内側部材を備える収容室]
上掲の実施形態において、防液堤2において収容室51を区画する壁面に、内側部材を設けることが望ましい。図4は、内側部材6を有するポンプ3の収容室51を示す断面図である。突条部23の形状自体は、図2に例示した突条部23と同じである。突条部23の内部に設けられている収容室51には、内張りとしての内側部材6が配設されている。内側部材6は、収容室51の上下方向の全長に亘って内張りされていても良いが、漏出時における液化水素LHの液面高さに相当する高さまでとしても良い。
【0034】
内側部材6は、収容室51の補強機能、および/または液化水素LHのバリア機能を発揮できる材質、厚さを備えることが望ましい。前記補強機能は、収容室51の壁面の強度を向上させる機能である。前記バリア機能は、液化水素LHが収容室51へ進入した際に、当該収容室51から突条部23を通して外部へ水素が漏洩すること、突条部23の低温脆化を防止する機能である。内側部材6としては、上記の補強機能および/またはバリア機能を奏する限りにおいて、金属材、樹脂材、セラミック材などを用いることができる。例えば低温用鋼は、好ましい内側部材6の構成材の一つである。複数の部材を組み合わせた内側部材6としても良い。
【0035】
突条部23と内側部材6との組み合わせについては、(1)収容室51の内圧に対する強度を突条部23で担保する、または、(2)収容室51の内圧に対する強度を内側部材6で担保する、のいずれかの考え方を採用できる。
【0036】
上記(1)の場合、突条部23は強度に優れるプレストレストコンクリート製とし、内側部材6は耐低温脆化性(対低温性)を有する部材とすれば良い。例えば、強度補強には不十分であるがライナーとしての役目を果たす厚みを有する低温用鋼を、内側部材6とすることができる。この場合、収容室51を区画する内壁が周方向応力を発生するよう、前記内壁自体の水平断面が円形とされる。上記(1)の態様によれば、プレストレストコンクリートにより突条部23の強度を持たせることができるとともに、収容室51に液化水素LHが進入しても、突条部23の低温脆化を抑制できる。
【0037】
上記(2)の場合、突条部23は鉄筋コンクリート製とし、内側部材6は耐低温脆化性(対低温性)および収容室51に生じる内圧に耐える強度を有する部材とすれば良い。例えば、単体で前記内圧に耐える厚みを有する低温用鋼を、内側部材6として用いることができる。この場合、内側部材6の内面が収容室51を区画する内壁となるので、当該内側部材6の内面の水平断面を円形とする。一方、内側部材6を収容する突条部23内の空間は、必ずしも水平断面が円形でなくとも良い。上記(2)の態様によれば、内側部材6によって液化水素LHの漏出時において突条部23の低温脆化を抑制できるとともに、漏出液圧にも内側部材6の強度で対処できる。それゆえ、突条部23は施工の比較的容易な鉄筋コンクリート製とすることができる。或いは、突条部23を無筋コンクリート製としても良い。
【0038】
内側部材6は、金属材と断熱材とを組み合わせた複合材であっても良い。図5は、断熱層を有するポンプ3の収容室51を示す断面図である。図5の例では、上述の内側部材6に対応する層として、外側ライナー61および内側ライナー62と、これらライナー61、62間に配置された断熱層63とを備えている。
【0039】
外側ライナー61および内側ライナー62は、例えば鋼、低温用鋼、アルミニウム合金などの金属材で構成することができる。断熱層63は、硬質ウレタンフォームなどの発泡材や断熱コンクリートで構成することができる。断熱層63は、真空引きが可能な空間として形成し、運用時に真空断熱層として機能する層としても良い。外側ライナー61および内側ライナー62のいずれか一方を省いてもよい。すなわち、金属製のライナーと、当該ライナーの内側もしくは外側に配設された断熱層63とを備えていれば良い。図5の態様によれば、ライナー61、62を水素漏洩防止のバリア層としつつ、断熱層63により収容室51から突条部23の外周面への伝熱を抑制できる。従って、液化水素LHが収容室51へ進入した場合において、突条部23を構成するコンクリートの低温脆化、ならびに液化水素LHの冷熱が伝熱することによる突条部23の外周面への霜の付着や液化空気の発生、さらには突条部23における熱応力の発生を抑制できる。
【0040】
[他の実施形態]
以上、本開示の実施形態につき説明したが、上記の態様に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。例えば、上記実施形態では、収容室51は水平断面が円形である例を示したが、収容室51の底壁にも工夫を加えても良い。図6は、ドーム形状の底壁55を有する収容室51を示す断面図である。底壁55は、下方に凸の半球型の形状を有している。底壁55には、ポンプ3を支持する図略の支持台が設置される。図6の態様によれば、収容室51の底壁55をドーム型とすることで、当該収容室51の内圧が上昇した際に底壁55に応力集中部が生じ難くすることができる。
【0041】
上記実施形態では、収容室51が突条部23の躯体内に配置されている例を示した。収容室51は、突条部23の外壁部23Aと内槽側板12Sとの間に配置されていれば良い。例えば、内槽側板12Sと外槽側板11Sとの間に、収容室51を設けるようにしても良い。
【0042】
上記実施形態では、防液堤2の環状部22に対して、一つの突条部23が突設されている例を示した。これに代えて、突条部23を環状部22の周方向に複数設置してもよい。また、上記実施形態では、一つの収容室51に一台のポンプ3を設置する例を示した。これに代えて、収容室51の容積を大きくし、複数台のポンプ3を当該収容室51へ設置しても良い。
【0043】
突条部23は、環状部22から離間する態様で設けられても良い。図7は、変形例に係る突条部233を示している。突条部233は、断面が円形であって防液堤2の環状部22から離間した位置に配置される本体部分と、当該本体部分と環状部22とを繋ぐ連結部24とを含む。連結部24の幅は、前記本体部分の外径よりも小さい幅に設定されている。取出開口33は、環状部22から連結部24を通して突条部233の本体部分を貫通し、収容室空間Rに至っている。
【0044】
[本開示のまとめ]
以上説明した具体的実施形態には、以下の構成を有する開示が含まれている。
【0045】
本開示の第1の態様に係る液化水素貯蔵タンクは、液化水素を貯蔵する内槽と、前記内槽との間に保冷層を介して形成される外槽と、を含むタンク本体と、前記タンク本体の外周を取り囲むように立設された防液堤と、前記内槽の側板を通して、当該内槽内の液化水素を外部へ払い出すポンプと、前記ポンプを収容する収容室と、を備え、前記防液堤は、径方向外側に突出する突条部を含み、前記収容室は前記突条部の外周面と前記内槽の側板との間の内部に位置し、前記収容室の水平断面が円形である。
【0046】
第1の態様によれば、ポンプを収容する収容室が、円形の水平断面を有する形状とされる。収容室の内壁の水平断面が円形であると、当該収容室の内圧上昇に伴って前記内壁に生じる周方向応力に対して、平衡状態を形成して抵抗できるので、収容室の形状を保持することが可能となる。従って、万一、内槽から収容室への液化水素の漏出が生じたとしても、その液圧への耐性を有する収容室とすることができる。なお、水平断面が「円形」とは、真円だけでなく、実質的に円形と扱える楕円を含み、僅かな直線部や非円弧部を含んでいても良い。
【0047】
第2の態様に係る液化水素貯蔵タンクは、第1の態様の液化水素貯蔵タンクにおいて、前記突条部の外周面が水平方向において円弧面を有する。
【0048】
第2の態様によれば、突条部の外周面を、断面円形の収容室の形状に対応した形状とすることができる。
【0049】
第3の態様に係る液化水素貯蔵タンクは、第1または第2の態様の液化水素貯蔵タンクにおいて、前記収容室を区画する壁面に内側部材が設けられている。
【0050】
第3の態様によれば、内側部材の設置により、収容室の壁面の強度を向上させることができる。また、内側部材は、液化水素が収容室へ進入した際に、当該収容室から外部へ水素が漏洩することを防止するバリア層として機能させることも可能である。
【0051】
第4の態様に係る液化水素貯蔵タンクは、第3の態様の液化水素貯蔵タンクにおいて、前記突条部はプレストレストコンクリート製であり、前記内側部材は耐低温性を有する。
【0052】
第4の態様によれば、突条部をプレストレストコンクリート製とすることで、当該突条部の強度を担保することができる。また、内側部材に耐低温性を具備させることで、収容室に進入した液化水素と接触が生じても、突条部の低温劣化を抑制できる。
【0053】
第5の態様に係る液化水素貯蔵タンクは、第3の態様の液化水素貯蔵タンクにおいて、前記突条部はコンクリート製であり、前記内側部材は、耐低温性および前記収容室に生じる内圧に耐える強度を有する。
【0054】
第5の態様によれば、内側部材が耐低温性および前記内圧への耐性を有する。このため、突条部の低温脆化を抑制できるとともに、液化水素の漏出時における液圧に当該内側部材の強度で対処できる。従って、突条部は施工の比較的容易なコンクリート製とすることができる。
【0055】
第6の態様に係る液化水素貯蔵タンクは、第3の態様の液化水素貯蔵タンクにおいて、前記内側部材は金属製の部材からなり、前記内側部材の内側もしくは外側に配設される断熱層をさらに備える。
【0056】
第6の態様によれば、内側部材を水素漏洩防止のバリア層としつつ、断熱層により収容室から突条部外周面への伝熱を抑制できる。従って、液化水素が収容室へ進入した場合において、液化水素の冷熱が伝熱することによる突条部外周面への霜の付着や液化空気の発生を抑制できる。
【0057】
第7の態様に係る液化水素貯蔵タンクは、第1~第6の態様の液化水素貯蔵タンクにおいて、前記収容室は、下方に凸のドーム形状を有する底壁を含む。
【0058】
第7の態様によれば、収容室の底壁をドーム型とすることで、当該収容室の内圧が上昇した際に前記底壁に応力集中部が生じ難くなる。
【符号の説明】
【0059】
1 液化水素貯蔵タンク
10 タンク本体
11 外槽
11S 外槽側板
12 内槽
12S 内槽側板
13 保冷層
2 防液堤
23 突条部
3 ポンプ
51 収容室
55 底壁
6 内側部材
63 断熱層
LH 液化水素
AR 円弧面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7