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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016050
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】液化水素貯蔵タンク
(51)【国際特許分類】
   F17C 3/04 20060101AFI20250124BHJP
   B65D 90/02 20190101ALI20250124BHJP
【FI】
F17C3/04 Z
B65D90/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023119060
(22)【出願日】2023-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】江上 武史
(72)【発明者】
【氏名】藤井 真人
【テーマコード(参考)】
3E170
3E172
【Fターム(参考)】
3E170AA03
3E170AA08
3E170AB29
3E170BA07
3E170DA01
3E170DA05
3E170GB04
3E170JA10
3E170KB02
3E170KC10
3E170NA02
3E170SA20
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB01
3E172BA06
3E172BD05
3E172CA10
3E172DA31
3E172DA90
(57)【要約】
【課題】タンク本体とPC構造の防液堤とを備える液化水素貯蔵タンクにおいて、液化水素の払い出し用の配管が防液堤を貫通する貫通部分の脆弱化を抑制する。
【解決手段】液化水素貯蔵タンク1は、タンク本体10、防液堤2および取出配管31を備える。タンク本体10は、液化水素LHを貯蔵する内槽12と、内槽12との間に保冷層13を介して形成される外槽11と、を含む。防液堤2は、タンク本体10の外周を取り囲むように立設され、コンクリート構造を有する。取出配管31は、タンク本体10および防液堤2を貫通し、内槽12に貯蔵された液化水素LHを外部へ払い出すための配管である。防液堤2は、取出配管31が貫通する貫通部分24の強度を補強する補強部6を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化水素を貯蔵する内槽と、前記内槽との間に保冷層を介して形成される外槽と、を含むタンク本体と、
前記タンク本体の外周を取り囲むように立設された、コンクリート構造の防液堤と、
前記タンク本体および前記防液堤を貫通し、前記内槽に貯蔵された液化水素を外部へ払い出すための配管と、を備え、
前記防液堤は、前記配管が貫通する貫通部分の強度を補強 する補強部を含む、液化水素貯蔵タンク。
【請求項2】
請求項1に記載の液化水素貯蔵タンクにおいて、
前記防液堤は、プレストレストコンクリート構造を有する、液化水素貯蔵タンク。
【請求項3】
請求項1または2に記載の液化水素貯蔵タンクにおいて、
前記補強部が、前記配管を覆う管路材と、前記管路材の周囲を覆う補剛材とを含む、液化水素貯蔵タンク。
【請求項4】
請求項3に記載の液化水素貯蔵タンクにおいて、
前記補剛材として、前記管路材の管軸方向に所定間隔を置いて配置された第1補剛材および第2補剛材を含み、
前記補強部は、前記第1補剛材と前記第2補剛材とを繋ぐ接続材をさらに含む、液化水素貯蔵タンク。
【請求項5】
請求項1または2に記載の液化水素貯蔵タンクにおいて、
前記補強部が、前記配管を覆う管路材と、前記管路材の外周面から突設されたアンカー材とを含む、液化水素貯蔵タンク。
【請求項6】
請求項1または2に記載の液化水素貯蔵タンクにおいて、
前記内槽内の液化水素を外部へ払い出すポンプをさらに備え、
前記防液堤は、前記ポンプを収容する収容室を内部に有し、
前記貫通部分および前記補強部は、前記収容室と前記タンク本体との間に設けられている、液化水素貯蔵タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液化水素を貯蔵するタンクに関する。
【背景技術】
【0002】
液化水素や液化天然ガスなどの低温の液化ガスの貯蔵施設として、前記液化ガスを貯蔵する平底のタンク本体と、このタンク本体の外周を取り囲む防液堤とを備えた液化ガス貯蔵タンクが知られている。前記防液堤は、万が一、タンク本体に損傷等が生じた際に、貯留している液化ガスのタンク周囲への流出防止を目的として建造される。液化ガス貯蔵タンクでは、タンク本体内の液化ガスの払い出し用のポンプが付設される(例えば特許文献1)。
【0003】
貯留する液化ガスが液化水素である場合は、メンテナンス作業の困難性等からタンク本体の内槽内への前記ポンプの設置が難しい場合がある。この場合、タンク本体および防液堤を貫通する配管を設け、当該配管を通してタンク本体に貯蔵された液化水素の払い出しを行うことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-132619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
防液堤は、一般にコンクリート構造で形成される。しかし、内槽から液化水素が漏液した場合、防液堤には当該防液堤を拡径する方向に液圧が作用する。この液圧に伴い、防液堤には周方向に引張応力が作用する。このため、防液堤に前記配管を通す貫通部分を設けた場合、前記漏液時における引張応力の発生時に、当該貫通部分は他の部分よりも応力集中が生じ易い強度的弱点部となる。
【0006】
本開示の目的は、タンク本体とコンクリート構造の防液堤とを備える液化水素貯蔵タンクにおいて、液化水素の払い出し用の配管が防液堤を貫通する貫通部分の脆弱化を抑制できる液化水素貯蔵タンクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一局面に係る液化水素貯蔵タンクは、液化水素を貯蔵する内槽と、前記内槽との間に保冷層を介して形成される外槽と、を含むタンク本体と、前記タンク本体の外周を取り囲むように立設された、コンクリート構造の防液堤と、前記タンク本体および前記防液堤を貫通し、前記内槽に貯蔵された液化水素を外部へ払い出すための配管と、を備え、前記防液堤は、前記配管が貫通する貫通部分の強度を補強する補強部を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示の液化水素貯蔵タンクによれば、タンク本体とコンクリート構造の防液堤とを備える液化水素貯蔵タンクにおいて、液化水素の払い出し用の配管が防液堤を貫通する貫通部分の脆弱化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の実施形態に係る液化水素貯蔵タンクを示す断面図である。
図2図2は、図1のII-II線断面図である。
図3図3は、防液堤の配管貫通部分に組み込まれる補強部の第1例を示す斜視図である。
図4図4は、前記補強部の第2例を示す斜視図である。
図5図5(A)、(B)は、前記補強部の第3例、第4例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[タンクの全体構造]
以下、図面を参照して、本開示に係る液化水素貯蔵タンクの実施形態を詳細に説明する。図1は、本開示の実施形態に係る液化水素貯蔵タンク1を示す断面図、図2は、図1のII-II線断面図である。液化水素貯蔵タンク1は、液化水素LHを貯留する多重殻タンクである。液化水素貯蔵タンク1は、多重殻構造を備えたタンク本体10と、タンク本体10の外周を取り囲むように立設された防液堤2と、タンク本体10内の液化水素LHを外部へ払い出すポンプ3と、防液堤2の躯体内に配置されたポンプ3の収容室51とを含む。図1では、多重殻タンクとして、二重殻タンクを例示している。
【0011】
タンク本体10は、液化水素LHを貯蔵する貯蔵空間10Aを有する平底タンクであって、タンク基礎21の上に立設された外槽11と、外槽11に内包された内槽12と、外槽11と内槽12との間に配置される保冷層13とを含む。タンク基礎21は、タンク本体10及び防液堤2の基礎部分を構成するコンクリート層である。外槽11及び内槽12は、いずれも上面視で円形の形状を有し、同心円状に配置されている。なお、タンク本体10は、外槽11と内槽12との間に中間槽を備えた多重殻タンクであっても良い。
【0012】
外槽11は、炭素鋼やステンレス鋼等の金属で構成された密閉体であり、外槽底板11B、外槽側板11S及び外槽屋根11Rを含む。外槽底板11Bは、タンク基礎21の直上に敷設され、円板型の形状を有している。外槽側板11Sは、外槽底板11Bの周縁から立設され、円筒状の形状を有している。外槽屋根11Rは、円筒状の外槽側板11Sの上面開口を塞ぐように当該外槽側板11Sの上端に取り付けられ、ドーム型の形状を有している。
【0013】
内槽12は、実際に液化水素LHを貯留する貯蔵空間10Aを形成する槽である。内槽12は、ステンレス鋼等の金属で構成された密閉体であって、保冷層13となる所定間隔の空間を介して外槽11によって取り囲まれている。内槽12は、内槽底板12B、内槽側板12S及び内槽屋根12Rを含む。内槽底板12Bは、外槽底板11Bよりも径の小さい円板型の形状を有している。内槽側板12Sは、内槽底板12Bの周縁から立設され、円筒状の形状を有している。内槽屋根12Rは、内槽側板12Sの上端に取り付けられ、ドーム型の形状を有している。内槽12の内部には液化水素LHが貯留されており、内槽12の上層部には、液化水素LHから気化したガスが溜まっている。
【0014】
保冷層13は、外槽11と内槽12との間隙を断熱空間として利用し、内槽12の保冷性を高めるための層である。保冷層13は、粉体断熱材または固体断熱材を含んでいても良い。例えば、外槽屋根11Rと内槽屋根12Rとの間隙には、粒状パーライトのような粉体断熱材が充填される。外槽側板11Sと内槽側板12Sとの間隙には、粒状パーライト及びガラスウール等が充填される。外槽底板11Bと内槽底板12Bとの間隙には、例えば泡ガラスのような、断熱性のブロック材が敷設される。
【0015】
保冷層13には、粒状パーライト等の保冷材と共に、水素ガス、ヘリウムガス、窒素ガス等が充填されている。充填されるガスは、貯留する液化水素LHと同等もしくは同等未満の沸点を持つガスを用いることが望ましく、この観点から水素ガス又はヘリウムガスが望ましい。例えば、内槽12の内部空間と保冷層13の空間とを連通させる連通管を設置し、貯留している液化水素LHの気化ガスを保冷層13に導入させる構造としても良い。
【0016】
防液堤2は、万が一、タンク本体10に損傷等が生じた際に、貯留している液化水素LHのタンク周囲への流出を抑止する。防液堤2は、タンク基礎21上に構築され、タンク本体10の外周を取り囲むように立設された、円筒状のPC(プレストレストコンクリート)製の構造物である。本実施形態の防液堤2は、タンク本体10の外周との間に離間距離を空けない構造、つまり、防液堤2と外槽側板11Sとが一体化された構造を有している。タンク本体10に損傷等が生じた場合、防液堤2の堰き止めによって液化水素LHの漏出は回避され、保冷層13の空間に液化水素LHが滞留することになる。すなわち、防液堤2の外周面2Aよりも内側に存在する空間が、漏出した液化水素LHの貯留空間となる。なお、防液堤2はPC構造以外のコンクリート構造、例えば鉄筋コンクリート構造としても良い。
【0017】
防液堤2は、外部に露出する外周面2Aと、外槽側板11Sに接する内周面2Bとを有する。防液堤2は、形状的特徴として、環状部22と突条部23とを備える。環状部22は、タンク本体10の外周を全周に亘って取り囲む円筒状の堤である。図1では、環状部22の高さが、外槽側板11Sの高さとほぼ同じ高さである例を示している。突条部23は、ポンプ3の配設箇所に対応して設けられ、環状部22の一部が径方向外側へ突出するように形成された直方体の構造部分である。図2に示すように、防液堤2は、突条部23の形成箇所において、外周面2Aが径方向外側へ膨出している。突条部23の形状には制限はなく、例えば円柱形や楕円柱形などの、曲面を含む形状としても良い。
【0018】
ポンプ3は、タンク本体10の側方であって突条部23の内部に配置され、タンク本体10の側板を通して内槽12内の液化水素LHを外部に払い出す圧送力を発生する。本実施形態では、前記側板は内槽側板12Sおよび外槽側板11Sである。ポンプ3には、取出配管31及び払い出し配管32が連結される。
【0019】
取出配管31は、タンク本体10の側板および防液堤2の側部を貫通し、内槽12に貯蔵された液化水素LHを払い出すための直線的な配管である。取出配管31は、タンク本体10の外側から外槽側板11S、保冷層13及び内槽側板12Sを貫通して、内槽12の貯蔵空間10Aに至る管路である。取出配管31の一端は内槽12内に貯留されている液化水素LHに臨み、他端はポンプ3の入口端に接続されている。払い出し配管32は、突条部23の内部を上方向に延び、突条部23の天面23Tを乗り越えて、液化水素貯蔵タンク1の外部に至る管路である。払い出し配管32の一端はポンプ3の出口端に接続され、他端は液化水素LHを燃料とする機器や運搬用ローリーの入口端へ接続される。
【0020】
本実施形態では、タンク本体10内の液化水素LHの払い出し用のポンプ3を、内槽12よりも外側に配置している。これは、ポンプ3を液化水素LHが貯留されている貯蔵空間10Aに設置するよりも、メンテナンス作業を行い易いからである。この場合、タンク本体10の側方にポンプ3を設置するスペースが必要となる。本実施形態では、防液堤2に上述の突条部23を形成すると共に、その内部に収容室51を設けることで、ポンプ3の設置場所を確保している。
【0021】
収容室51は、突条部23の躯体内に配置され、ポンプ3と、取出配管31及び払い出し配管32の一部とを収容可能な空間容積を備えている。本実施形態では、突条部23を設けることで防液堤2の外周面2Aが径方向外側へ膨出した部分を形成し、収容室51の配置スペースを創出している。外周面2Aと収容室51との間には、外壁部23Aが存在している。収容室51とタンク本体10との間には、内壁部23B(防液堤の側部)が存在している。内壁部23Bは、環状部22の一部であって、突条部23が存在する部分の躯体である。
【0022】
収容室51の径方向内側に位置する内壁部23Bには、取出配管31を収容室51へ貫通させる取出開口33が設けられている。取出開口33は、防液堤2の一部である内壁部23Bを径方向に貫通する円筒型の孔である。円筒型に限らず、断面形状が楕円、三角形、矩形等の孔を取出開口33としても良い。取出開口33の内面と取出配管31の外周面との間には隙間が存在している。なお、取出配管31が外槽側板11Sを貫通する部分では、両者は接合されている。
【0023】
内壁部23Bには、トンネル状の貫通孔である取出開口33が形成されている。本実施形態では、内壁部23Bが、防液堤2における取出配管31を貫通させる貫通部分24である。貫通部分24には、強度を補強する補強部を含んでいる。この補強部については、図3図5を参照して後記で詳述する。
【0024】
突条部23には、さらに、作業員が収容室51へアクセスするための通路52が備えられている。通路52は、突条部23内において鉛直方向に延びている。通路52の下端側には下端開口53が、上端側には上端開口54が開設されている。下端開口53は、収容室51に連通する開口である。上端開口54は、突条部23の天面23Tに開口している。通路52には、作業員の進行及び退行のため、梯子55が設置されている。払い出し配管32の上流部分も、通路52内に配設されている。上端開口54には、当該上端開口54を開閉する開閉扉56が設けられている。開閉扉56は、常時は閉じた状態とされ、メンテナンス作業時等に開放される。開閉扉56の設置により、収容室51及び通路52への雨水や塵埃等の進入を抑制でき、これらを清浄に保つことができる。
【0025】
収容室51及び通路52の空間は、保冷層13とは隔絶された空間であるため、空気環境とすることができる。従って、作業者は、通路52を通って収容室51内のポンプ3へ容易にアクセス可能となるので、メンテナンス作業等を容易化することができる。なお、防爆性を高めるためには、収容室51及び通路52の空間に窒素ガスなどの不活性ガスを充填してもよい。
【0026】
本実施形態に係る液化水素貯蔵タンク1によれば、外槽11の内側空間と、突条部23の躯体内の空間とが、内槽12から漏液する液体を貯めることができる貯液空間となる。そして、前記貯液空間の上面は、外槽屋根11R及び開閉扉56で封止されている。従って、タンク本体10の損傷等で漏液が生じても、その漏液は前記貯液空間に閉じ込められ、気化した液化水素LHの流出を抑制できる。
【0027】
また、防液堤2の突条部23に収容室51が設けられ、当該収容室51にタンク側板を通して液化水素LHを外部へ払い出すポンプ3が収容される。このため、内槽12内にポンプを設置する場合に比べて、メンテナンス作業を行い易くすることができる。液化水素LHを貯留する液化水素貯蔵タンク1において内槽12の内部にポンプ3を設置する場合、液化水素LH中に浸漬されたポンプ3を外部へ取り出す必要があるため、安全性及び作業性に優れたメンテナンス方法の立案は難易度が高い。これに対し、本実施形態では、内槽側板12Sの外にある収容室51にポンプ3が配置されるので、内槽12内からのポンプ3の取り出し作業自体が生じず、メンテナンス作業を容易化できる。
【0028】
本実施形態の液化水素貯蔵タンク1は、以上の通りの利点があるが、防液堤2に取出配管31を貫通させる取出開口33を含む貫通部分24を設けることから、当該貫通部分24が強度的弱点部となる懸念がある。強度的弱点部が顕在化するケースの一つは、内槽12から液化水素LHが漏液した場合である。この場合、防液堤2には当該防液堤2を拡径する方向に、漏液した液化水素LHの液圧が作用する。この液圧に伴い、防液堤2には周方向に引張応力が作用する。このような防液堤2に対して取出開口33を設けた場合、当該取出開口33を含む貫通部分24は他の部分よりも応力集中が生じ易く、脆弱な部分となる。
【0029】
また、防液堤2のPC構造化に伴うプレストレスによっても、貫通部分24は強度的弱点部となる。既述の通り、防液堤2は、強度を担保する観点から、PC構造で形成されている。タンク本体10を取り囲む円形の環状部22を含む防液堤2をPC構造とすると、図2に付記しているように、PC鋼の圧縮力によって防液堤2を周方向に絞るような緊縮力Fが、当該防液堤2を形作るコンクリートに作用する。緊縮力Fが予め与えられる防液堤2に取出開口33を設けた場合、当該取出開口33を含む貫通部分24は他の部分よりも応力集中が生じ易く、やはり脆弱な部分となる。上述の脆弱性を解消するため、本実施形態では、貫通部分24の強度を補強する補強部を設けている。以下、前記補強部の具体例を説明する。
【0030】
[貫通部分の補強部の第1例]
図3は、防液堤2の貫通部分24に組み込まれる第1例の補強部6を示す斜視図である。補強部6は、取出配管31を覆う管路材61と、管路材61の周囲を覆う補剛材62とを含む。また、補強部6は、荷重伝達部材として、接続材63、端部リブ64および中間リブ65を含む。さらに、補強部6は、貫通部分24の躯体に対するアンカー材としてスタッドジベル66を含む。
【0031】
管路材61は、炭素鋼、ステンレス鋼、低温用鋼あるいはアルミニウム合金などの金属管からなる、円筒型の管である。円筒型に限らず、断面形状が楕円、矩形等の筒状体を管路材61としても良い。管路材61の中空部が、最終的には取出配管31を通す取出開口33となる。つまり、管路材61は、防液堤2に穿孔される取出開口33用の貫通孔の内張りとなる。液化水素LHの漏出時に貫通部分24の躯体を冷熱から保護するために、管路材61の外周面または内周面に、断熱材の層を添設しておくことが望ましい。断熱材としては、硬質ウレタンフォームなどの発泡材や断熱コンクリートを用いることができる。また、断熱材に代えて、あるいは断熱材に加えて、真空断熱層を管路材61に具備させても良い。この場合、管路材61として真空二重管を用いれば、コンパクト化を図れるとともに施工性も良好である。
【0032】
補剛材62は、上述した漏液時の引張応力や、図2に示すPC構造由来の緊縮力Fによって、管路材61を径方向内側に押し潰すように作用する圧潰力への耐性を、当該管路材61に与えるために配設されている。図3では、管軸方向に所定間隔を置いて配置された3つの補剛材62;第1補剛材62A、第2補剛材62Bおよび第3補剛材62Cを例示している。第1補剛材62Aは、管路材61と同じ材料で形成された矩形板からなり、管路材61を通す貫通孔を中央に有している。前記貫通孔と管路材61の外周面とは固定されている。この固定には、例えば溶接が好適である。第2補剛材62Bおよび第3補剛材62Cも同様である。補剛材62は、管路材61の管軸方向と直交する方向に延びる限りにおいて形状に制限はなく、例えば円板であっても良い。また、補剛材62の数も任意であり、想定される圧潰力に応じて数を定めることができる。
【0033】
接続材63は、3つの補剛材62A、62B、62Cを管軸方向に繋ぐ部材である。接続材63は、管軸方向に延びる平板状の鋼材からなり、補剛材62A、62B、62Cの各々の側辺に溶接されている。端部リブ64は、管路材61の端部付近において、当該管路材61の外周面から径方向外側へ延びる直角三角形状の鋼材リブである。端部リブ64の一方の隣辺は管路材61の外周面に、他方の隣辺は第1補剛材62Aにそれぞれ溶接されている。中間リブ65は、長方形の鋼材リブであって、第1補剛材62Aと第2補剛材62Bとの間、および第2補剛材62Bと第3補剛材62Cとの間にそれぞれ配置されている。中間リブ65の一方の長辺は管路材61の外周面に、他方の長辺は接続材63の内面に、それぞれ溶接されている。
【0034】
スタッドジベル66は、円柱型の鋼材からなり、補剛材62A、62B、62Cの各側辺から外方へ延び出すように溶接されている。スタッドジベル66は、防液堤2の貫通部分24と係合してアンカー効果を発揮する。前記アンカー効果を奏する限りにおいて、スタッドジベル66に代わる部材を管路材61、補剛材62または接続材63に取り付けても良い。例えば、鉄筋を短尺に切断した部材を、管路材61や補剛材62に溶接する態様とすることができる。
【0035】
以上の構造を有する補強部6によれば、防液堤2において取出配管31を通す孔を管路材61により区画でき、貫通部分24の強度をある程度確保できる。さらに、管路材61は補剛材62で覆われるので、当該管路材61の剛性、特に管径方向の圧潰荷重への耐性を高めることができる。また、管路材61の管軸方向において補剛材62が存在しない隙間部分が受ける圧潰荷重については、端部リブ64または中間リブ65と、接続材63とを通して、3つの補剛材62A、62B、62Cに荷重伝達することができる。従って、前記隙間部分の剛性も高めることができる。また、スタッドジベル66と貫通部分24のプレストレストコンクリートとの係合により、管路材61の管軸方向への抜け出しを防止できる。
【0036】
補強部6を予め工場等で組み立て、防液堤2の施工の際に貫通部分24に相当する箇所に当該補強部6を埋め込む、プレハブ工法を採用することが望ましい。例えば、平板の鋼材を円筒成形および突き合わせ溶接して管路材61を作製する。続いて、管路材61に補剛材62(62A、62B、62C)を嵌め込み、隅肉溶接する。さらに所要数の端部リブ64および中間リブ65を、管路材61および補剛材62に溶接し、さらに接続材63を補剛材62に溶接する。最後に、スタッドジベル66を補剛材62の適所に溶接する。なお、図3の実施形態では補剛材62自体がアンカー効果を発揮し得るので、スタッドジベル66を省いても良い。このようにして予め組み立てた補強部6をタンク施工現場に搬入し、貫通部分24の形成箇所に据え付けてコンクリートを打設する。以上のプレハブ工法の採用により、現場施工作業を簡素化することができる。
【0037】
[貫通部分の補強部の第2例]
図4は、防液堤2の貫通部分24に組み込まれる第2例の補強部6Aを示す斜視図である。補強部6Aは、取出配管31を覆う管路材61と、管路材61の周囲を覆う形鋼補剛材67とを含む。また、補強部6Aは、荷重伝達部材として、トラス骨671および形鋼接続材68を含む。さらに、補強部6は、アンカー材としてスタッドジベル66を含む。形鋼補剛材67は、図3の第1例における補剛材62に、形鋼接続材68は第1例の接続材63に各々相当する部材である。
【0038】
形鋼補剛材67は、PC構造由来の緊縮力Fに基づく圧潰力への耐性を管路材61に与える部材である。図4では、管軸方向に所定間隔を置いて配置された3つの形鋼補剛材67;第1補剛枠67A(第1補剛材)、第2補剛枠67B(第2補剛材)および第3補剛枠67Cを例示している。第1補剛枠67Aは、鋼材を四角形に組んで形成されており、さらに第1補剛枠67Aの内側において、トラス骨671が四角形に組み立てられている。管路材61は、第1補剛枠67Aの枠内であってトラス骨671の枠内に通されている。第2補剛枠67Bおよび第3補剛枠67Cも同様である。
【0039】
形鋼接続材68は、管軸方向に延びる鋼材であり、3つの補剛枠67A、67B、67Cを管軸方向に連結している。すなわち、第2例の補強部6Aは、トラス骨671で補強された3つの補剛枠67A、67B、67Cが形鋼接続材68で連結され、管路材61を収容するような直方体の枠体である。補剛枠67A、67B、67Cの4つの側辺には、スタッドジベル66が溶接されている。
【0040】
管路材61の端部付近には、端部リブ672と鋼板673とが溶接されている。端部リブ672は、管路材61の外周面から径方向外側へ延びる直角三角形状の鋼材リブである。鋼板673は、トラス骨671で形成された四角枠と管路材61との間の隙間を埋めており、前記四角枠と管路材61とに溶接されている。管路材61の中間部にも鋼材リブを立設し、形鋼接続材68と溶接しても良い。補強部6Aも第1例と同様に、補剛枠67A、67B、67Cが管路材61に対する圧潰荷重への耐性を付与し、形鋼接続材68が荷重伝達機能を果たす。
【0041】
[補強部の他の例]
図5(A)、(B)は、第3例、第4例に係る補強部6B、6Cを示す斜視図である。補強部6B、6Cは、第1例および第2例に比べてよりシンプルな構造を有する。図5(A)に示す補強部6Bは、PC構造由来の緊縮力Fに耐える管厚を有する管路材61Aを備える。すなわち、管路材61Aの管厚を厚くすることで、補剛材を用いずとも管路材61A自体が十分な剛性を有している。管路材61Aの中空部が、取出配管31を通す取出開口33となる。管路材61Aの外周面には、スタッドジベル66が立設されている。管路材61Aの抜け出しを防止する他の手段が施与される場合は、スタッドジベル66を省いて良い。例えば、管路材61Aの両端にフランジ状の鍔部を設けることで、前記抜け出しを防止しても良い。
【0042】
図5(B)に示す補強部6Cは、鋳造により製作された鋳造管路材61Bを備える。鋳造管路材61Bは、製作時に中子を入れて形成された孔部611を有する。この孔部611が、取出配管31を通す取出開口33となる。孔部611の周囲には、緊縮力Fに耐える厚さの鋳造材が存在している。鋳造管路材61Bの外周面には、スタッドジベル66が立設されている。
【0043】
[本開示のまとめ]
以上説明した具体的実施形態には、以下の構成を有する開示が含まれている。
【0044】
本開示の第1の態様に係る液化水素貯蔵タンクは、液化水素を貯蔵する内槽と、前記内槽との間に保冷層を介して形成される外槽と、を含むタンク本体と、前記タンク本体の外周を取り囲むように立設された、コンクリート構造の防液堤と、前記タンク本体および前記防液堤を貫通し、前記内槽に貯蔵された液化水素を外部へ払い出すための配管と、を備え、前記防液堤は、前記配管が貫通する貫通部分の強度を補強する補強部を含む。
【0045】
第1の態様によれば、液化水素の払い出し用の配管が貫通する貫通部分が補強部を含むので、当該貫通部分の強度を向上させることができる。従って、前記貫通部分に応力集中が生じても、当該貫通部分における変形等を抑制できる。
【0046】
第2の態様に係る液化水素貯蔵タンクは、第1の態様の液化水素貯蔵タンクにおいて、前記防液堤は、プレストレストコンクリート構造を有する。
【0047】
防液堤をプレストレストコンクリート(PC)構造で形成することにより、防液堤の強度を高めることができる。一方、PC構造では、PC鋼線によりコンクリートに予め圧縮力が付与される。タンク本体を取り囲む防液堤をPC構造にて構築した場合、周方向に絞るようなプレストレスが与えられる。このため、防液堤に前記貫通部分を設けた場合、当該貫通部分には前記プレストレスによる応力集中も生じ易くなる。しかし、前記貫通部分に前記補強部を設けることで、前記プレストレスに基づく応力集中にも対抗することができる。
【0048】
第3の態様に係る液化水素貯蔵タンクは、第1または第2の態様の液化水素貯蔵タンクにおいて、前記補強部が、前記配管を覆う管路材と、前記管路材の周囲を覆う補剛材とを含む。
【0049】
第3の態様によれば、防液堤において配管を通す孔を管路材により区画でき、貫通部分の強度をある程度確保できる。さらに、前記管路材は補剛材で覆われるので、当該管路材の剛性、特に管径方向の圧潰力への耐性を高めることができる。
【0050】
第4の態様に係る液化水素貯蔵タンクは、第3の態様の液化水素貯蔵タンクにおいて、前記補剛材として、前記管路材の管軸方向に所定間隔を置いて配置された第1補剛材および第2補剛材を含み、前記補強部は、前記第1補剛材と前記第2補剛材とを繋ぐ接続材をさらに含む。
【0051】
第4の態様によれば、第1補剛材と第2補剛材とが接続材で繋がれる。このため、補剛材間において管路材が受けた荷重を、前記接続材を通して第1補剛材および第2補剛材へ荷重伝達することができる。従って、貫通部分の強度を一層高めることができる。
【0052】
第5の態様に係る液化水素貯蔵タンクは、第1~第4の態様の液化水素貯蔵タンクにおいて、前記補強部が、前記配管を覆う管路材と、前記管路材の外周面から突設されたアンカー材とを含む。
【0053】
第5の態様によれば、アンカー材とコンクリートとの係合により、管路材の管軸方向への抜け出しを防止することができる。
【0054】
第6の態様に係る液化水素貯蔵タンクは、第1~第45態様の液化水素貯蔵タンクにおいて、内槽内の液化水素を外部へ払い出すポンプをさらに備え、前記防液堤は、前記ポンプを収容する収容室を内部に有し、前記貫通部分および前記補強部は、前記収容室と前記タンク本体との間における前記防液堤の側部に設けられている。
【0055】
第6の態様によれば、防液堤内の収容室に配置されたポンプにより、内槽に貯蔵された液化水素を、配管を通して払い出すことができる。
【符号の説明】
【0056】
1 液化水素貯蔵タンク
10 タンク本体
11 外槽
12 内槽
13 保冷層
2 防液堤
23 突条部
23B 内壁部(防液堤の側部)
24 貫通部分
3 ポンプ
31 取出配管(配管)
33 取出開口
51 収容室
6、6A、6B、6C 補強部
61 管路材
62 補剛材
62A 第1補剛材
62B 第2補剛材
63 接続材
66 スタッドジベル(アンカー材)
LH 液化水素
図1
図2
図3
図4
図5