(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025160526
(43)【公開日】2025-10-23
(54)【発明の名称】集電体及びニッケル亜鉛電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/70 20060101AFI20251016BHJP
H01M 10/30 20060101ALI20251016BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20251016BHJP
【FI】
H01M4/70 A
H01M10/30 Z
H01M4/66 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150360
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591174368
【氏名又は名称】富山住友電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116713
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 正己
(74)【代理人】
【識別番号】100179844
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 芳國
(72)【発明者】
【氏名】竹山 知陽
(72)【発明者】
【氏名】小川 光靖
(72)【発明者】
【氏名】奥野 一樹
(72)【発明者】
【氏名】真嶋 正利
【テーマコード(参考)】
5H017
5H028
【Fターム(参考)】
5H017AA02
5H017DD01
5H017DD03
5H017EE01
5H017HH01
5H017HH03
5H017HH04
5H028CC07
5H028EE01
5H028HH01
5H028HH05
(57)【要約】
【課題】容量密度を増加させることが可能な集電体を提供する。
【解決手段】集電体は、金属材料製である。集電体は、集電体の厚さ方向における端面である第1主面及び第2主面を備えている。第1主面は、第1主面側から第2主面側に向かって窪んでいる複数の第1凹部を有する。複数の第1凹部は、平面視において、間隔を空けて配置されている。平面視において、複数の第1凹部の各々の底面の面積は、複数の第1凹部の各々の見かけの面積の30パーセント以上70パーセント以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料製の集電体であって、
前記集電体の厚さ方向における端面である第1主面及び第2主面を備え、
前記第1主面は、前記第1主面側から前記第2主面側に向かって窪んでいる複数の第1凹部を有し、
前記複数の第1凹部は、平面視において、間隔を空けて配置されており、
平面視において、前記複数の第1凹部の各々の底面の面積は、前記複数の第1凹部の各々の見かけの面積の30パーセント以上70パーセント以下である、集電体。
【請求項2】
前記第2主面は、前記第2主面側から前記第1主面側に向かって窪んでいる複数の第2凹部を有し、
前記複数の第2凹部の各々は、平面視において、前記複数の第1凹部の各々と隣り合うように配置されており、
平面視において、前記複数の第2凹部の各々の底面の面積は、前記複数の第2凹部の各々の見かけの面積の30パーセント以上70パーセント以下である、請求項1に記載の集電体。
【請求項3】
前記複数の第1凹部の各々の平面形状は、多角形である、請求項1に記載の集電体。
【請求項4】
前記複数の第2凹部の各々の平面形状は、多角形である、請求項2に記載の集電体。
【請求項5】
前記多角形の角部は、丸まっている、請求項3又は請求項4に記載の集電体。
【請求項6】
前記多角形は、4つ以上の角部を有している、請求項3又は請求項4に記載の集電体。
【請求項7】
前記多角形は、長方形又は正方形である、請求項3又は請求項4に記載の集電体。
【請求項8】
前記多角形は、正六角形である、請求項3又は請求項4に記載の集電体。
【請求項9】
前記金属材料中のスズの含有率は、97.00質量パーセント以上である、請求項1又は請求項2に記載の集電体。
【請求項10】
前記集電体の厚さは、10μm以上である、請求項1又は請求項2に記載の集電体。
【請求項11】
前記複数の第1凹部の各々の深さは前記集電体の厚さの2.5倍以下である、請求項1又は請求項2に記載の集電体。
【請求項12】
前記複数の第2凹部の各々の深さは前記集電体の厚さの2.5倍以下である、請求項2に記載の集電体。
【請求項13】
絶縁層をさらに備え、
前記絶縁層は、少なくとも前記複数の第1凹部のうちの隣り合う2つの間にある前記第1主面上に配置されている、請求項1又は請求項2に記載の集電体。
【請求項14】
絶縁層をさらに備え、
前記絶縁層は、少なくとも前記複数の第2凹部のうちの隣り合う2つの間にある前記第2主面上に配置されている、請求項2に記載の集電体。
【請求項15】
前記集電体は、ニッケル亜鉛電池用である、請求項1又は請求項2に記載の集電体。
【請求項16】
請求項1又は請求項2に記載の前記集電体を備える、ニッケル亜鉛電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、集電体及びニッケル亜鉛電池に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば国際公開第2021/161900号(特許文献1)には、ニッケル亜鉛電池が記載されている。特許文献1に記載のニッケル亜鉛電池は、樹脂板(スペーサ)と、集電体と、セパレータとを有している。
【0003】
スペーサは、スペーサの厚さ方向における端面である第1主面及び第2主面を有している。スペーサには、複数の開口部が形成されている。開口部は、スペーサを厚さ方向に沿って貫通している。集電体は、第1主面上に配置されている。セパレータは、第2主面上に配置されている。開口部、集電板及びセパレータで画されている空間内では、電解液が充填されており、集電体上に活物質部が配置されている。活物質部は、活物質としての亜鉛を含んでいる。集電体及び活物質部は、ニッケル亜鉛電池の負極を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のニッケル亜鉛電池では、第1主面(第2主面)に沿う方向における亜鉛の移動がスペーサにより規制されている。そのため、特許文献1に記載のニッケル亜鉛電池では、充放電の繰り返しに伴って亜鉛が負極の中央部に偏析してしまう現象(シェイプチェンジ)が抑制されている。また、特許文献1のニッケル亜鉛電池では、シェイプチェンジに伴って亜鉛のデンドライト(針状結晶)が成長し、当該デンドライトがセパレータを突き破ってしまうことも抑制されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のニッケル亜鉛電池では、スペーサが集電体とセパレータとの間に介在されている分だけ、電極群が厚くなり、電池の容量密度が小さくなってしまう。
【0007】
本開示は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものである。より具体的には、本開示は、電池の容量密度を増加させることが可能な集電体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の集電体は、金属材料製である。集電体は、集電体の厚さ方向における端面である第1主面及び第2主面を備えている。第1主面は、第1主面側から第2主面側に向かって窪んでいる複数の第1凹部を有する。複数の第1凹部は、平面視において、間隔を空けて配置されている。平面視において、複数の第1凹部の各々の底面の面積は、複数の第1凹部の各々の見かけの面積の30パーセント以上70パーセント以下である。
【発明の効果】
【0009】
本開示の集電体によると、容量密度を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】
図3は、
図1中のIII-IIIにおける断面図である。
【
図4】
図4は、集電体10を用いたニッケル亜鉛電池100の断面図である。
【
図6】
図6は、サンプル1からサンプル3、サンプル6及びサンプル7における充放電のサイクル数と放電容量との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、集電体10Aを用いたニッケル亜鉛電池100の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
まず、本開示の実施形態を列記して説明する。
【0012】
(1)実施形態に係る集電体は、金属材料製である。集電体は、集電体の厚さ方向における端面である第1主面及び第2主面を備えている。第1主面は、第1主面側から第2主面側に向かって窪んでいる複数の第1凹部を有する。複数の第1凹部は、平面視において、間隔を空けて配置されている。平面視において、複数の第1凹部の各々の底面の面積は、複数の第1凹部の各々の見かけの面積の30パーセント以上70パーセント以下である。上記(1)に記載の集電体によると、電池の容量密度を増加させることができる。
【0013】
(2)上記(1)に記載の集電体において、第2主面は、第2主面側から第1主面側に向かって窪んでいる複数の第2凹部を有していてもよい。複数の第2凹部の各々は、平面視において複数の第1凹部の各々と隣り合うように配置されていてもよい。平面視において、複数の第2凹部の各々の底面の面積は、複数の第2凹部の各々の見かけの面積の30パーセント以上70パーセント以下であってもよい。上記(2)に記載の集電体によると、電池の容量密度をさらに増加させることができる。
【0014】
(3)上記(1)又は上記(2)に記載の集電体において、複数の第1凹部の各々の平面形状は、多角形であってもよい。
【0015】
(4)上記(2)に記載の集電体において、複数の第2凹部の各々の平面形状は、多角形であってもよい。
【0016】
(5)上記(3)又は上記(4)に記載の集電体において、多角形の角部は、丸まっていてもよい。上記(5)に記載の集電体によると、第1凹部の加工性を改善することができる。
【0017】
(6)上記(3)又は上記(4)に記載の集電体において、多角形は、4つ以上の角部を有していてもよい。上記(6)に記載の集電体によると、第1凹部の加工性を改善することができる。
【0018】
(7)上記(3)又は上記(4)に記載の集電体において、多角形は、長方形又は正方形であってもよい。上記(7)に記載の集電体によると、第1凹部を密に配置することができる。
【0019】
(8)上記(3)又は上記(4)に記載の集電体において、多角形は、正六角形であってもよい。上記(8)に記載の集電体によると、第1凹部を密に配置することができるとともに、集電体の剛性を高めることができる。
【0020】
(9)上記(1)から上記(8)のいずれか一項に記載の集電体において、金属材料中のスズの含有率は97.00質量パーセント以上であってもよい。上記(9)に記載の集電体によると、水素の発生や亜鉛のデンドライトの発生を抑制することができる。
【0021】
(10)上記(1)から上記(9)のいずれか一項に記載の集電体において、集電体の厚さは、10μm以上であってもよい。上記(10)に記載の集電体によると、集電体が軟質材料で形成されていても集電体の剛性を確保することができる。
【0022】
(11)上記(1)から上記(10)のいずれか一項に記載の集電体において、複数の第1凹部の各々の深さは、集電体の厚さの2.5倍以下であってもよい。上記(11)に記載の集電体によると、第1凹部の加工性を改善することができる。
【0023】
(12)上記(2)から上記(11)のいずれか一項に記載の集電体において、複数の第2凹部の各々の深さは、集電体の厚さの2.5倍以下であってもよい。上記(12)に記載の集電体によると、第2凹部の加工性を改善することができる。
【0024】
(13)上記(1)から上記(12)のいずれか一項に記載の集電体は、絶縁層をさらに備えていてもよい。絶縁層は、少なくとも複数の第1凹部のうちの隣り合う2つの間にある第1主面上に配置されていてもよい。上記(13)に記載の集電体によると、セパレータの近傍において亜鉛のデンドライトの発生を抑制することができる。
【0025】
(14)上記(1)から上記(13)のいずれか一項に記載の集電体は、絶縁層をさらに備えていてもよい。絶縁層は、少なくとも複数の第2凹部のうちの隣り合う2つの間にある第2主面上に配置されていてもよい。上記(14)に記載の集電体によると、セパレータの近傍において亜鉛のデンドライトの発生を抑制することができる。
【0026】
(15)上記(1)から上記(14)のいずれか一項に記載の集電体は、ニッケル亜鉛電池用であってもよい。
【0027】
(16)実施形態に係るニッケル亜鉛電池は、上記(1)から上記(15)のいずれか一項に記載の集電体を備えていてもよい。
【0028】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の実施形態の詳細を、図面を参照しながら説明する。以下の図面では、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0029】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る集電体を説明する。第1実施形態に係る集電体を、集電体10とする。
【0030】
<集電体10の構成>
以下に、集電体10の構成を説明する。
図1は、集電体10の平面図である。
図2は、集電体10の底面図である。
図2には、
図1とは反対側から見た集電体10が示されている。
図3は、
図1中のIII-IIIにおける断面図である。
図1から
図3に示されるように、集電体10は、第1主面10aと第2主面10bとを有している。集電体10の厚さ方向を、厚さ方向DR1とする。第1主面10a及び第2主面10bは、集電体10の厚さ方向DR1における端面である。第2主面10bは、第1主面10aの反対面である。
【0031】
第1主面10aは、複数の第1凹部11を有している。第1主面10aは、第1凹部11において、第1主面10a側から第2主面10b側に向かって窪んでいる。集電体10の平面図を表す
図1においては、実線で表されている第1凹部11は紙面に対して窪んでおり、破線で表されている第2凹部12は紙面に対して出っ張っている。また、集電体10の底面図を表す
図2においては、破線で表されている第1凹部11は紙面に対して出っ張っており、実線で表されている第2凹部12は紙面に対して窪んでいる。第1凹部11及び第2凹部12の平面形状は、例えば多角形である。第1凹部11の平面形状は、例えば正方形である。
図1及び
図2に示される例では、第1凹部11の平面形状及び第2凹部12の平面形状は正方形であるが、第1凹部11の平面形状及び第2凹部12の平面形状は、長方形であってもよく、正三角形又は正六角形等の四角形以外の多角形であってもよい。なお、「多角形」は、数学的に厳密な意味での多角形を意味しない。すなわち、角部が丸まっていても、「多角形」に含まれる。
【0032】
第1凹部11の平面形状が正方形である場合、平面視における第1凹部11の1辺の長さを、長さL1とする。第2凹部12の平面形状が正方形である場合、平面視における第2凹部12の1辺の長さを、長さL2とする。長さL1及び長さL2は、例えば、1500μm以下である。長さL1及び長さL2は、好ましくは1000μm以下であり、さらに好ましくは500μm以下である。
【0033】
複数の第1凹部11は、平面視において、間隔を空けて配置されている。より具体的には、複数の第1凹部11は、例えば、平面視において市松模様の格子状に並んでいる。この格子の行方向及び列方向を、それぞれ行方向DR2及び列方向DR3とする。行方向DR2及び列方向DR3は、厚さ方向DR1に直交している。なお、「平面視」とは、厚さ方向DR1に沿って集電体10を見る場合をいう。複数の第1凹部11が平面視において市松模様の格子状に並んでいる場合には、第1凹部11は、行方向DR2及び列方向DR3において等間隔で並んでいることになる。
【0034】
平面視において、第1凹部11の底面の面積は、第1凹部11の見かけの面積の30パーセント以上70パーセント以下である。第1凹部11の深さを、深さD1とする。深さD1は、第1凹部11が形成されていない第1主面10aの部分(すなわち、隣り合う2つの第1凹部11の間にある第1主面10aの部分)と第1凹部11の底面との間の厚さ方向DR1における距離である。集電体10の厚さを厚さTとする。深さD1は、例えば厚さTの2.5倍以下である。深さD1は、好ましくは、厚さTの2.2倍以下である。
【0035】
複数の第2凹部12は、平面視において、間隔を空けて配置されている。より具体的には、複数の第2凹部12は、例えば、平面視において市松模様の格子状に並んでいる。この格子の行方向及び列方向は、それぞれ行方向DR2及び列方向DR3に沿っている。第2凹部12は平面視において第1凹部11に隣り合っており、第1凹部11は平面視において第2凹部12に隣り合っている。このことを別の観点から言えば、第1凹部11及び第2凹部12は、平面視において行方向DR2に沿って交互に並んでおり、平面視において列方向DR3に沿って交互に並んでいる。
【0036】
平面視において、第2凹部12の底面の面積は、第2凹部12の見かけの面積の30パーセント以上70パーセント以下である。第2凹部12の深さを、深さD2とする。深さD2は、第2凹部12が形成されていない第2主面10bの部分(すなわち、隣り合う2つの第2凹部12の間にある第2主面10bの部分)と第2凹部12の底面との間の厚さ方向DR1における距離である。深さD2は、例えば厚さTの2.5倍以下である。深さD2は、好ましくは、厚さTの2.2倍以下である。
【0037】
集電体10は、金属材料製である。集電体10を構成している金属材料中のスズの含有率は、例えば、97.00質量パーセント以上である。集電体10を構成している金属材料中のスズの含有率は、好ましくは、99.90質量パーセント以上である。集電体10を構成している金属材料中のスズの含有率は、例えば、99.99質量パーセント以下である。但し、集電体10を構成している金属材料は、これに限られるものではない。集電体10を構成している金属材料は、例えば、銅箔と当該銅箔の表面上に配置されているスズ層とを有していてもよい。
【0038】
図4は、集電体10を用いたニッケル亜鉛電池100の断面図である。
図4に示されているように、ニッケル亜鉛電池100は、集電体10と、活物質層20と、正極30と、セパレータ40とを有している。集電体10及び活物質層20は、ニッケル亜鉛電池100の負極50をなしている。図示されていないが、正極30は、負極50に電気的に接続されている。
【0039】
活物質層20は、第1凹部11の底面上及び第2凹部12の底面上に配置されている。また、第1凹部11の底面上に配置されている活物質層20は第1凹部11の側面にも接触しており、第2凹部12の底面上に配置されている活物質層20は第2凹部12の側面にも接触している。活物質層20は、負極活物質として亜鉛(より具体的には、酸化亜鉛)を含んでいる。活物質層20は、多孔質状である。
【0040】
正極30は、例えば、ニッケル製又はニッケル合金製の金属多孔体と、当該金属多孔体の内部に充填されている正極活物質とを有している。正極活物質は、ニッケル(より具体的には、水酸化ニッケル)を含んでいる。セパレータ40は、水酸化物イオンを透過可能な材料製である。セパレータ40は、正極30と負極50との間に挟み込まれている。
【0041】
図示されていないが、正極30及び負極50には、電解液が充填されている。負極50では、電解液が第1凹部11とセパレータ40とで画されている空間内及び第2凹部12とセパレータ40とで画されている空間内に充填されている。電解液は、亜鉛が溶解されており、かつ水酸化物イオンを含む水溶液である。電解液は、例えば、酸化亜鉛が溶解されている水酸化カリウム水溶液である。
【0042】
充電が行われている際、正極30では、水酸化物イオンが反応することで、電子が放出されるとともに酸素及び水が生じる。また、充電が行われている際、負極50では、正極30から放出されて集電体10へと供給された電子、活物質層20中の酸化亜鉛、電解液中の水酸化物イオン及び電解液中の水が反応して亜鉛が生じる。他方で、放電が行われている際、上記とは逆の反応が生じ、正極30から負極50へと電流が流れる。
【0043】
<集電体10の製造方法>
以下に、集電体10の製造方法を説明する。
図5は、集電体10の製造工程図である。
図5に示されるように、集電体10の製造方法は、準備工程S1と、エンボス加工工程S2とを有している。準備工程S1では、シート部材が準備される。シート部材は、集電体10と同一の金属材料製である。
【0044】
エンボス加工工程S2では、シート部材に対してエンボス加工が行われることにより、シート部材が集電体10となる。シート部材に対するエンボス加工は、例えば、電気加熱式エンボス機を用いて行われる。
【0045】
<集電体10の効果>
以下に、集電体10の効果を説明する。
集電体10では、第1主面10aに複数の第1凹部11が形成されており、第2主面10bに複数の第2凹部12が形成されている。平面視において、第1凹部11の底面の面積は第1凹部11の見かけの面積の30パーセント以上70パーセント以下と小さく、第2凹部12の底面の面積は第2凹部12の見かけの面積の30パーセント以上70パーセント以下と小さい。その結果、集電体10を用いたニッケル亜鉛電池では、1つの第1凹部11から当該1つの第1凹部11とは別の第1凹部11への亜鉛の移動や、1つの第2凹部12から当該1つの第2凹部12とは別の第2凹部12への亜鉛の移動が規制される。そのため、集電体10を用いたニッケル亜鉛電池100の負極の中央部に亜鉛が偏析することによるシェイプチェンジ及び当該シェイプチェンジに起因した亜鉛のデンドライトの成長が抑制されている。
【0046】
集電体10を用いたニッケル亜鉛電池では、亜鉛の移動を抑制するために、集電体10とセパレータ40との間にスペーサを介在させることが不要である。そのため、集電体10を用いたニッケル亜鉛電池では、電極群の厚さが小さくなることにより、容量密度が増加することになる。
【0047】
集電体10を構成している金属材料中のスズの含有率が97.00質量パーセント以上である場合、負極50において水素の発生や亜鉛のデンドライトの発生を抑制することができる。厚さTが10μm以上である場合、集電体10がスズの含有率が97.00質量パーセント以上の金属材料のような軟質材料製であっても、集電体10の剛性を確保することができる。深さD1(深さD2)は、加工前の厚さTに依存し、深さD1(深さD2)が大きいほど活物質を増加させて電池の容量を増加させることができる。この観点から、厚さTは、10μm以上2000μm以下であることが好ましく、10μm以上100μm以下であることがさらに好ましい。
【0048】
深さD1が厚さTの2.5倍以下である(深さD2が厚さTの2.5倍以下である)場合、エンボス加工工程S2における加工性を確保することができる。第1凹部11(第2凹部12)の平面形状が矩形(正方形、長方形)、正三角形又は正六角形である場合、第1凹部11(第2凹部12)の平面形状が例えば円形である場合と比較して、複数の第1凹部11(第2凹部12)を密に配置することができる。第1凹部11(第2凹部12)の平面形状が正六角形である場合には、集電体10がハニカム構造であるため、集電体10の剛性を確保することができる。第1凹部11(第2凹部12)の平面形状が角部の数が4つ以上である場合、多角形の内角が大きくなり、エンボス加工工程S2における加工性を確保することができる。
【0049】
<実施例>
サンプル1からサンプル7は、ニッケル亜鉛電池のサンプルである。サンプル1からサンプル7では、負極の集電体が、スズ箔製であった。スズ箔中のスズの含有率は99.90質量パーセントであった。サンプル1からサンプル3では、負極の集電体に、平面形状が正方形の第1凹部11及び第2凹部12が形成された。サンプル4からサンプル7では、負極の集電体に第1凹部11及び第2凹部12が形成されなかった。サンプル1からサンプル3では、負極の集電体において、深さD1、深さD2、長さL1、長さL2、第1凹部11の底面の面積及び第2凹部12の底面の面積が変化された。サンプル4からサンプル7では、負極の集電体において、厚さTが変化された。サンプル1からサンプル7の負極の集電体の詳細は、表1に示されている。
【0050】
【0051】
サンプル1からサンプル7の負極に用いられる活物質スラリーは、乾燥後の組成が、酸化亜鉛90質量パーセント、AB(アセチレンブラック)5質量パーセント、CMC(造粒バインダ)0.5質量パーセント、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)1.5質量パーセント、SBR(スチレンブタジエンゴム)3質量パーセントとされた。活物質スラリー中の固定分比率は、60質量パーセントとされた。
【0052】
サンプル1からサンプル7の負極の作製においては、第1に、表1に示されている集電体が準備された。第2に、集電体の一方の主面上にドクターブレードを用いて活物質スラリーが塗布された。第3に、100℃の温風により活物質スラリーが乾燥された。なお、余剰の活物質スラリーは刷毛で除去された。第4に、集電体にニッケル製のリードが溶接により接合された。
【0053】
サンプル1からサンプル7の正極には、内部に活物質スラリーが充填されたニッケル製の金属多孔体(ニッケル多孔体)が用いられた。活物質スラリーの乾燥後の組成は、水酸化ニッケル90質量パーセント、水酸化コバルト7質量パーセント、CMC0.3質量パーセント、SBR2.7質量パーセントとされた。活物質スラリー中の固定分比率は、78質量パーセントとされた。
【0054】
サンプル1からサンプル7の正極の作製においては、第1に、厚さが1.2mmであり、金属量が300g/m2のニッケル多孔体が準備された。第2に、ロールプレスにより厚みを調整した上で、ニッケル多孔体の内部に活物質スラリーが充填された。第3に、100℃の温風により活物質スラリーが乾燥された。第4に、ニッケル多孔体に対してロールプレスを行い、緻密化した。第5に、ニッケル多孔体にニッケル製のリードが溶接により接合された。サンプル1からサンプル7の負極及び正極の詳細は、表2に示されている。
【0055】
【0056】
サンプル1からサンプル7では、上記の正極及び負極の間に厚さが150μmのアニオン導電膜をセパレータとして介在させることにより、電極群とした。この電極群は、ポリプロピレン製の袋内に配置され、当該袋を外側からアクリル板で挟んで固定した。電解液には、酸化亜鉛が飽和溶解された1mоl/Lの水酸化カリウム水溶液が用いられた。上記の袋内には、上記の電解液が上記の電極群が完全に浸漬されるまで供給されるとともに、上記の電極群に減圧含浸された。
【0057】
サンプル6及びサンプル7では、厚さ0.5mmのポリエチレンシートが、スペーサとして負極とセパレータとの間に介在された。ポリエチレンシートには、複数の開口部が形成されていた。開口部は、ポリエチレンシートを厚さ方向に貫通していた。開口部の直径は100μmであり、隣り合う2つの開口部の間のピッチは200μmとされた。サンプル1からサンプル7の詳細は、表3に示されている。なお、表3に示されているニッケル亜鉛電池の容量密度は、正極の容量÷(電極面積×電極群の厚さ)により算出したものである。
【0058】
【0059】
サンプル6は、負極の厚さがサンプル1と同程度であった。サンプル7は、負極の厚さがサンプル2やサンプル3と同程度であった。しかしながら、サンプル6の容量密度はサンプル1の容量密度と比較して小さくなっており、サンプル7の容量密度はサンプル2やサンプル3の容量密度と比較して小さくなっていた。この比較から、負極の集電体として集電体10を用いる場合、負極の集電体とセパレータとの間に開口部が形成されているセパレータを配置する場合と比較して電極群の厚さが小さくなり、ニッケル亜鉛電池の容量密度が改善されることが確認された。
【0060】
サンプル1からサンプル7に対しては、評価に先立ち活性化が行われた。この活性化では、第1に、0.1Cで1.9Vまで充電を行い、その後に0.1Cで1.5Vまで放電を行うサイクルを3回繰り返した。第2に、0.2Cで1.9Vまで充電を行い、その後に0.2Cで1.5Vまで放電を行うサイクルを3回繰り返した。第3に、0.5Cで1.9Vまで充電を行い、その後に0.5Cで1.5Vまで放電を行うサイクルを3回繰り返した。
【0061】
第1試験として、サンプル1からサンプル7の負極における放電容量の比較を行った。第1試験では、30℃の恒温槽中で、0.5Cで1.9Vまで充電を行った。CV時のカットオフは、5時間又は電流値で10mAとされた。第1試験では、0.2C、0.5C及び1Cで1.5Vになるまで放電が行われた。第1試験の結果は、表4に示されている。表4に示されている放電容量は、N=5の平均値とされた。
【0062】
【0063】
サンプル4及びサンプル5では、活性化の過程で正極と負極との間で短絡が発生したため、第1試験を実施できなかった。これは、サンプル4及びサンプル5では負極とセパレータとの間にスペーサが介在されておらず、亜鉛イオンの移動が規制されていないため、負極において亜鉛のデンドライトが成長し、正極と負極とが短絡したものと考えられる。サンプル1からサンプル3では、全ての放電率において、サンプル6及びサンプル7と比較して、高い放電容量を示した。これは、サンプル1からサンプル3では、スペーサを有しているサンプル6及びサンプル7と比較して、電極群の厚さが小さく、電解液による抵抗増加が抑制されたためと考えられる。
【0064】
第2試験として、サンプル1からサンプル3、サンプル6及びサンプル7における負極のサイクル特性が評価された。第2試験では、充電及び放電が交互に繰り返された。充電は、第1試験と同様の方法により行われた。放電は、0.5Cで1.5Vになるまで行われた。
図6は、サンプル1からサンプル3、サンプル6及びサンプル7における充放電のサイクル数と放電容量との関係を示すグラフである。
図6中のグラフに示されている値は、N=5の平均値とされた。
図6に示されているように、サンプル1からサンプル3では、サンプル6及びサンプル7と比較して、充放電のサイクル数の増加に伴う放電容量の低下が最も少なかった。
【0065】
以上のように、第1試験及び第2試験の結果から、ニッケル亜鉛電池の負極として集電体10を用いることにより、正極と負極との間の短絡が抑制できるとともに優れたサイクル特性を示すことが確認された。
【0066】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る集電体を説明する。第2実施形態に係る集電体を、集電体10Aとする。ここでは、集電体10と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0067】
<集電体10Aの構成>
以下に、集電体10Aの構成を説明する。
集電体10Aは、第1主面10aと、第2主面10bとを有している。集電体10Aでは、第1主面10aが複数の第1凹部11を有しており、第2主面10bが複数の第2凹部12を有している。これらの点に関して、集電体10Aの構成は、集電体10の構成と共通している。
【0068】
図7は、集電体10Aを用いたニッケル亜鉛電池100の断面図である。
図7に示されるように、集電体10Aは、絶縁層13と、絶縁層14とをさらに有している。絶縁層13は、第1凹部11が形成されていない第1主面10aの部分(すなわち、隣り合う2つの第1凹部11の間にある第1主面10aの部分)の上に配置されている。絶縁層14は、第2凹部12が形成されていない第2主面10bの部分(すなわち、隣り合う2つの第2凹部12の間にある第2主面10bの部分)の上に配置されている。図示されていないが、絶縁層13は第1凹部11の側面上にも配置されていてもよく、絶縁層14は第2凹部12の側面上にも配置されていてもよい。
【0069】
絶縁層13の構成材料及び絶縁層14の構成材料は、電気絶縁性である。絶縁層13の構成材料及び絶縁層14の構成材料は、例えば、無機材料製のフィラーが混ぜられている樹脂材料である。上記の無機材料の具体例は、シリカ、アルミナ等である。上記の樹脂材料の具体例は、アクリル、フッ素樹脂等である。これらの点に関して、集電体10Aの構成は、集電体10の構成と異なっている。集電体10Aを用いたニッケル亜鉛電池100では、セパレータ40と集電体10Aとの間に、絶縁層13又は絶縁層14が介在されている。
【0070】
<集電体10Aの効果>
以下に、集電体10Aの効果を説明する。
セパレータ40の近傍で電気化学的反応が生じて亜鉛のデンドライトが発生すると、セパレータ40を突き破りやすい。集電体10Aでは、上記のとおり、隣り合う2つの第1凹部11の間にある第1主面10aの部分の上に絶縁層13が配置されており、隣り合う2つの第2凹部12の間にある第2主面10bの部分の上に絶縁層14が配置されている。
【0071】
そのため、隣り合う2つの第1凹部11の間にある第1主面10aの部分及び隣り合う2つの第2凹部12の間にある第2主面10bの部分において、電気化学的な反応は生じない。その結果、集電体10Aを用いたニッケル亜鉛電池100では、セパレータ40の近傍における亜鉛のデンドライトの発生を抑制することができる。
【0072】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る集電体を説明する。第3実施形態に係る集電体を、集電体10Bとする。ここでは、集電体10と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0073】
図8は、集電体10Bの平面図である。集電体10Bは、第1主面10aと第2主面10bとを有している。集電体10Aでは、第1主面10aが、複数の第1凹部11を有している。これらの点に関して、集電体10Bの構成は、集電体10の構成と共通している。
【0074】
しかしながら、集電体10Bでは、第2主面10bが複数の第2凹部12を有していない。この点に関して、集電体10Bの構成は、集電体10の構成と異なっている。集電体10Bを用いたニッケル亜鉛電池100でも、亜鉛イオンの移動を規制するためにスペーサを集電体10Bとセパレータ40との間に介在させる必要がないため、電極群の厚さを小さくすることができ、容量密度が改善される。
【0075】
今回開示された実施形態は全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記の実施形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0076】
10,10A,10B 集電体
10a 第1主面
10b 第2主面
11 第1凹部
12 第2凹部
13,14 絶縁層
20 活物質層
30 正極
40 セパレータ
50 負極
100 ニッケル亜鉛電池
D1,D2 深さ
DR1 厚さ方向
DR2 行方向
DR3 列方向
L1,L2 長さ
S1 準備工程
S2 エンボス加工工程
T 厚さ