(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001606
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】熱間鍛造用金型
(51)【国際特許分類】
B21J 13/02 20060101AFI20241225BHJP
【FI】
B21J13/02 Z
B21J13/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101287
(22)【出願日】2023-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071216
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 昌毅
(74)【代理人】
【識別番号】100130395
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】塚本 匡信
【テーマコード(参考)】
4E087
【Fターム(参考)】
4E087AA04
4E087AA06
4E087CA13
4E087CA25
4E087CB01
4E087EC18
4E087EE02
(57)【要約】
【課題】 熱間鍛造用の金型であって、成形後のワークを金型から容易に離型させるための離型剤を金型の内面に適用した場合に離型剤の封入による欠肉を回避しつつ、バリの発生もない金型を提供する
【解決手段】 熱間鍛造用の金型2は、ワークWの接する内面に金型の外まで貫通していない孔4が設けられている。ワークの熱間鍛造成形の工程中に、金型の内面に噴霧又は塗布された液体の離型剤は、ワークの熱で気化すると、孔4に進入するところ、孔の内圧が上がるため、孔内へのワークの流入が阻止される。孔4は、袋状に形成されてよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間鍛造用の金型であって、ワークの接する内面に前記金型の外まで貫通していない孔が設けられている金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間鍛造加工に於いて用いられる金型(ダイス)の構成に係り、より詳細には、熱間鍛造工程に於いて、ワーク(被鍛造品)を金型から容易に離型させるための離型剤を金型の内表面に適用する場合に、ワークと金型の間に離型剤が封入されることを回避するためのガス抜き孔が形成された金型に係る。
【背景技術】
【0002】
熱間鍛造加工に於いては、成形後のワークの表面にバリや欠肉が生ずる場合があるので、そのようなワークの表面のバリや欠肉を防止するための技術が種々提案されている。例えば、特許文献1では、下金型と上金型との間に荒地(ワーク)を据え込み鍛造する場合に、下金型と上金型の隙間に荒地が流入してバリが発生することを回避するべく、上金型の荒地との接触面の縁にポケットを設け、荒地がポケットに進入したときに冷却されて硬化することで、下金型と上金型の隙間への荒地の流入を防止することが記載されている。特許文献2には、複雑な金型形状であっても成形孔内に閉じ込められたガスをスムーズに逃がし、欠肉の発生を抑えるべく、成形時に鍛造金型の成形孔内に閉じ込められたガスを排出するためのガス抜き通路を設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-213364
【特許文献2】特開2012-232347
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、熱間鍛造加工に於いては、金型内でのワークの鍛造成形の後に、ワークを金型から容易に離型し易くするために、金型の内表面に離型剤が噴射又は塗布により適用される。かかる離型剤は、鍛造成形時にワークと金型との間に閉じ込められ、封入された状態となると、気化して膨張し、そうすると、ワークが金型の内面に当接しない部分が出来て、金型の形状がワークへ適切に転写されずに欠肉が生ずる場合がある。この対策として、離型剤のガスを金型内面から抜くために、金型内面に於いて、金型内面から外部へ貫通するガス抜き孔をいくつか設けられるが、その場合、後に説明される如く、かかるガス抜き孔へワークの材料が流入してしまい、その部分がバリとなってしまうことがある。
【0005】
そこで、更に、本発明者が、成形後のワークに於ける欠肉を防ぎつつ、バリの発生も回避できる手法を種々研究したところ、金型内面からガスを抜く孔として、金型の外へ貫通する孔ではなく、閉じた孔、即ち、袋状の孔を形成した金型を用いると、離型剤を用いた熱間鍛造成形に於いて、バリのないワークの成形が達成できることを見出した。この知見は、本発明に於いて利用される。
【0006】
かくして、本発明の主な課題は、熱間鍛造用の金型であって、成形後のワークを金型から容易に離型させるための離型剤を用いた場合に離型剤の封入による欠肉を回避しつつ、バリの発生もない金型を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、上記の課題は、熱間鍛造用の金型であって、ワークの接する内面に前記金型の外まで貫通していない孔が設けられている金型によって達成される。
【0008】
上記の構成に於いて、金型は、任意の形状の熱間鍛造用の金型であってよい。ワークの接する金型の内面に設けられる孔は、上記の如く、気化した離型剤を金型の内側から逃がすためのガス抜き孔であるが、金型の内面にしか開口されておらず、金型の外側まで貫通していない孔である。かかる構成によれば、実施形態の欄にて示されている如く、鍛造成形後のワークに対して型形状が十分に転写され、且つ、ガス抜き孔に於けるバリの発生を抑えることが可能となった。これは、金型の内面にて発生したガスが、孔内へ逃れることで欠肉は発生しないが、孔の他方が閉じているために孔の内圧が高くなり、孔へのワークの材料の流入が発生しなかったためであると考えられる。
【0009】
上記の本発明の構成に於いて、金型の内面に形成される孔は、鍛造成形中にワークと金型内面との間にて密封される空間が形成される部分に適宜設けられてよい。具体的な孔の位置及び数は、実験的に決定することが可能である。
【0010】
また、上記の構成に於いて、金型の内面に形成される孔は、内部に金型内面の開口径よりも大きい径の空間を有する袋状に形成されていてよい。かかる構成により、気化した離型剤を適切に収容しやすくなる。孔内の体積は、実験的に決定されてよい。具体的には、液体が気化したときには、体積が約1700倍となるので、孔内の体積は、金型内面に適用される液体の離型剤の体積の1700倍程度であってよい。
【発明の効果】
【0011】
上記の本発明の金型の構成によれば、熱間鍛造加工に於いて、成形後のワークを金型から容易に離型するための離型剤が用いられる場合に、ワークに於いて欠肉及びバリの発生を回避することが可能となる。これにより、ワークのバリ取り工程が不用又は簡単化され、製造効率の向上が期待される。本発明の金型は、好適には、軸形状品の熱間鍛造加工に用いられるが、その他の平形状の物品の成形の場合に適用されてもよい。
【0012】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1(A)~(C)は、本実施形態による熱間鍛造用金型を用いてワークを鍛造する工程の模式的な側面図である。
図1(D)は、本実施形態による熱間鍛造用金型のダイスの模式的な上面図である。
図1(E)は、本実施形態による熱間鍛造用金型のガス抜き孔近傍の模式的な断面図である。
図1(F)は、本実施形態による熱間鍛造用金型を用いて成形されたワークの写真である。
【
図2】
図2(A)~(C)は、ガス抜き孔のない熱間鍛造用金型を用いてワークを鍛造する工程の模式的な側面図である。
図2(D)は、ガス抜き孔のない熱間鍛造用金型とワークとの間に離型剤の封入された状態の模式的な断面図である。
【
図3】
図3(A)~(C)は、外部まで貫通したガス抜き孔が設けられた熱間鍛造用金型を用いてワークを鍛造する工程の模式的な側面図である。
図3(D)は、外部まで貫通したガス抜き孔が設けられた熱間鍛造用金型のガス抜き孔近傍の模式的な断面図である。
図3(E)は、外部まで貫通したガス抜き孔が設けられた熱間鍛造用金型を用いて成形されたワークの写真であり、
図3(F)は、そのガス抜き孔の近傍に発生した突起状のバリの拡大写真と模式図である。
【符号の説明】
【0014】
1…パンチ(金型),2…ダイス(金型),3…KOパンチ(金型).4…ガス抜き孔,4a…貫通ガス抜き孔,W…ワーク.m…封入空間,P…バリ
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。図中、同一の符号は、同一の部位を示す。
【0016】
従来の熱間鍛造用金型
熱間鍛造加工の際しては、一般に、例えば、
図2(A)に模式的に描かれている如く、高温に加熱されたワークWが、金型のダイス2の内側に載置され、その下側にKOパンチ3が配置された状態で、
図2(B)~(C)の如く、ダイス2の上方からパンチ1でワークWをダイス2内へ押し込み、これにより、ワークWにダイス2の型形状が転写されるよう成形される。その際、成形後のワークWをダイス2から容易に離型できるように、ワークWの載置に先立って、ダイス2の内面には、液体の離型剤が噴霧又は塗布により適用される。この場合、ワークの熱により離型剤が気化するので、もし図示の如く、ダイス2の内面に、気体を逃す孔のようなものが形成されておらず、
図2(D)のように、ワークの変形の過程で、ワークWとダイス2との間にて周囲から密封される空間mが形成される場合、その空間mに於いて気化した離型剤の逃げ道がなく、ワークWは、その部分でダイス2の内面に当接せず、成形され硬化すると、その部分が欠肉した状態となる場合がある。
【0017】
かかる欠肉した部分の発生は、既に触れた如く、ワークWとダイス2との間にて周囲から密封される空間mが形成される箇所のダイス2の内面に、ガス抜き孔を形成し、気化した離型剤を逃すことで回避することが可能である。そこで、従前に於いては、気化した離型剤をダイス2の外へ逃すために、
図3(A)~(C)に描かれている如く、ダイス2の内面から外まで貫通したガス抜き孔4aが設けられ、これにより、ワークWにダイス2の型が確実に転写することが可能となっていた。
【0018】
しかしながら、ダイス2にその内面から外まで貫通したガス抜き孔4aが設けられている場合、
図3(D)に模式的に描かれている如く、ワークWの鍛造成形の過程で、ガス抜き孔4aへ柔軟になったワークの一部が流入し、その状態で硬化してバリPとなってしまうことが知られている。実際、
図3(E)、(F)に示されているように、貫通したガス抜き孔4aを有するダイスを用いて成形されたワークWの表面には、ガス抜き孔4aに対応する突起状のバリPが形成される。この現象は、ワークとダイスとの間の高温下で気化し高圧となった離型剤がガス抜き孔4aへ高い流速で押し出される際に、周辺のワークの材料を巻き込んでしまうためであると考えられる。
【0019】
本実施形態による熱間鍛造用金型
本発明の発明者は、上記の如き気化した離型剤を逃すためのガス抜き孔に於けるバリの発生を回避するための構成を研究したところ、ダイス2に設けるガス抜き孔をダイスの外まで貫通させるのではなく、外方が閉じた孔、即ち、ダイス2の内面にしか開口していない非貫通の孔とすると、ワークのガス抜き孔への流入が発生せず、バリが形成されないことを見出した。
【0020】
具体的には、
図1(A)~(C)に描かれている如く、本実施形態の金型のダイス2に於いては、ダイス2のワークWとの間で密封空間が形成される箇所に、図示の如く、外まで貫通していないガス抜き孔4が形成される。かかるガス抜き孔4は、
図1(D)に描かれている如く、ダイス2の周囲に沿って適当な間隔にて形成されていてよく、具体的な位置は、実験的に決定されてよい。ガス抜き孔4の開口径は、実験的に決定されてよく、例えば、ワークの直径が数cm程度であれば、直径1mm程度であってよい。また、ガス抜き孔4の内側の形状は、図示の如く、開口径の広い袋状であってよい。ガス抜き孔4の容積は、ダイス内の気化された離型剤を収容できるだけの大きさを有していればよく、実験的に決定されてよい。例えば、ガス抜き孔4の容積は、液体の離型剤の適用量の全てが気化した場合の体積(液体の1700倍)であってよい。
【0021】
上記の如くガス抜き孔4がダイス2の内面にしか開口していない閉じた孔である場合には、気化された離型剤がガス抜き孔4に流入することで、ガス抜き孔4の内圧が高くなり、これにより、ガス抜き孔4へのワークの流入が回避されるものと考えられる。実際、本実施形態の教示に従って閉じたガス抜き孔4を設けた金型を用いて、
図1(A)~(C)に描かれているように、
図2~3の場合と同様に、熱間鍛造加工を実施したところ、
図1(F)に示されている如く、成形後のワークに於いて欠肉も突起状のバリも形成されず、ワークに対して良好に型形状が転写できることが確認された。
【0022】
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。