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特開2025-160634包装体、及び包装体を構成する積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025160634
(43)【公開日】2025-10-23
(54)【発明の名称】包装体、及び包装体を構成する積層体
(51)【国際特許分類】
   B65D 81/34 20060101AFI20251016BHJP
【FI】
B65D81/34 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024063299
(22)【出願日】2024-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】矢島 佐保
(72)【発明者】
【氏名】山田 幹典
(72)【発明者】
【氏名】長谷 陽太
【テーマコード(参考)】
3E013
【Fターム(参考)】
3E013BA30
3E013BB12
3E013BB13
3E013BC14
3E013BC17
3E013BE01
3E013BF15
3E013BF22
(57)【要約】
【課題】蒸気抜き部から蒸気が適切に抜けるレンジ調理用の包装体、及びその包装体を構成する積層体を提供する。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレートフィルム及びシーラント層を備える積層体で構成されたレンジ調理用の包装体であって、前記シーラント層はその内部に海島構造を有し、前記シーラント層の機械方向に平行な断面を走査型プローブ顕微鏡で観察した画像であって、長さ10μmが512 pxで表現される解像度において、横1024 pxかつ縦512 pxの画像をフーリエ変換して得た強度分布に対して、ガウス関数での近似及び正規化を行うことで得られる標準偏差が600以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートフィルム及びシーラント層を備える積層体で構成されたレンジ調理用の包装体であって、
前記シーラント層はその内部に海島構造を有し、前記シーラント層の機械方向に平行な断面を走査型プローブ顕微鏡で観察した画像であって、長さ10μmが512 pxで表現される解像度において、横1024 pxかつ縦512 pxの画像をフーリエ変換して得た強度分布に対して、ガウス関数での近似及び正規化を行うことで得られるガウス関数の標準偏差が600以下である、包装体。
【請求項2】
請求項1に記載の包装体を構成する積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、包装体、及び包装体を構成する積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ポリエチレンテレフタレートフィルム及びシーラント層を備える積層体で構成されたレンジ調理用の包装体を開示する。包装体には、内部圧力が所定圧力以上になった時に通蒸口として開口する蒸気抜き部が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-130141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のようなレンジ調理用の包装体において、包装体を構成する積層体の構造によっては、包装体の内部圧力が所定圧力以上となったとしても蒸気抜き部から蒸気が抜けないことがある。本開示は、蒸気抜き部から蒸気が適切に抜けるレンジ調理用の包装体、及びその包装体を構成する積層体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面は、ポリエチレンテレフタレートフィルム及びシーラント層を備える積層体で構成されたレンジ調理用の包装体である。シーラント層はその内部に海島構造を有し、シーラント層の機械方向に平行な断面を走査型プローブ顕微鏡で観察した画像であって、長さ10μmが512 pxで表現される解像度において、横1024 pxかつ縦512 pxの画像をフーリエ変換して得た強度分布に対して、ガウス関数での近似及び正規化を行うことで得られるガウス関数の標準偏差が600以下である。シーラント層が、ガウス関数の標準偏差が600以下となる曲線で近似される強度分布を有することにより、レンジ調理用の包装体の蒸気抜き部から蒸気が適切に抜けるようになる。
【0006】
本開示の他の側面は、上述したレンジ調理用の包装体を構成する積層体であり、上述した包装体の効果と同一の効果を奏する。
【発明の効果】
【0007】
本開示は、蒸気抜き部から蒸気が適切に抜けるレンジ調理用の包装体、及びその包装体を構成する積層体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一実施形態に係る包装体の一例を示す平面図である。
図2図2は、図1に示される包装袋の一例を示す平面図である。
図3図3は、図1に示される包装袋の蒸気抜き部の他の例を示す部分拡大図である。
図4図4は、図1に示される積層体の一例を示す断面図である。
図5図5の(A)は、Image Jで開いた画像の一例である。図5の(B)は、パワースペクトルの一例である。図5の(C)は、強度分布を確認する領域を説明する図である。
図6図6の(A)は、CPPフィルムAを採用したサンプルの強度分布である。図6の(B)は、CPPフィルムBを採用したサンプルの強度分布である。図6の(C)は、CPPフィルムCを採用したサンプルの強度分布である。
図7図7の(A)は、図6の(A)に示されるデータをガウス関数で近似したグラフである。図7の(B)は、図6の(B)に示されるデータをガウス関数で近似したグラフである。図7の(C)は、図6の(C)に示されるデータをガウス関数で近似したグラフである。
図8図8の(A)は、図7の(A)に示されるグラフを正規化したグラフである。図8の(B)は、図7の(B)に示されるグラフを正規化したグラフである。図8の(C)は、図7の(C)に示されるグラフを正規化したグラフである。
図9図9は、ガウス関数の標準偏差をサンプルごとにプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態を説明する。以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。本開示に明示される数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されるいずれかの値に置き換えてもよい。個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせてもよい。本開示において例示する材料又は成分は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。説明に使用される上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。
【0010】
[包装体の構成]
図1は、一実施形態に係る包装体の一例を示す平面図である。包装体1は、レンジ調理用の包装体である。レンジ調理とは、電子レンジで加熱することによって包装体内部の収容物を調理することである。包装体1は、包装袋2と包装袋2の収容部20に収容された収容物21とを備える。包装袋2は、側面をなす2つの積層体10a,10bと、底面をなす積層体10cとで構成される。積層体10a,10b,10cは、同一の構造を有する。積層体10aは、ポリエチレンテレフタレートフィルム及びシーラント層を備える積層体である。積層体の詳細については後述する。
【0011】
包装袋2は、上端部に上端シール部22と、両方の側端部に側端シール部23,24と、下端部に下端シール部25,26とを有する。上端シール部22及び側端シール部23,24は、積層体10a,10bのそれぞれの端部におけるシーラント層が重ね合わされた状態でヒートシールされることにより形成される。下端シール部25は、積層体10a,10cのそれぞれの端部におけるシーラント層が重ね合わされた状態でヒートシールされることにより形成される。下端シール部26は、積層体10b,10cのそれぞれの端部におけるシーラント層が重ね合わされた状態でヒートシールされることにより形成される。図1においてドットで示される部分はヒートシールによって形成されたシール部を示す。シール部以外の部分は、積層体10a,10b,10cがヒートシールされていない非シール部となる。包装袋2を構成する積層体10a,10b,10cは、各シール部がシールされることによって、収容物21を収容する内部空間(収容部20)を形成する。このように、収容部20は、積層体10a,10b,10cに取り囲まれる。
【0012】
図2は、図1に示される包装袋の一例を示す平面図である。包装体1は、図2に示される包装袋2Aを用いて製造されてもよい。包装袋2Aは、積層体10a(10b)の上端部22aがヒートシールされていない。上端部22aがヒートシールされる前に、上端部22aで形成される開口部から収容物21が充填され、その後、積層体10a(10b)の上端部22aがヒートシールされる。収容物21の充填後に上端シール部22が形成されることにより、図1に示される、収容物21が包装袋2の収容部20に密封された包装体1が得られる。収容物21を充填するための開口部を形成する位置は、上端部22aに限定されず、側部であってもよいし、底部であってもよい。
【0013】
包装袋2の側端シール部23,24には、一対のノッチ27,27が設けられてもよい。一対のノッチ27,27を結ぶように図示しない切り取り予定線が設けられてもよい。エンドユーザは、包装体1を電子レンジで加熱した後、一方のノッチ27から切り取り予定線に沿って包装体1を開封し、温められた収容物21を取り出せる。収容物21は特に限定されない。収容物21は、水分のみならず油脂を含んでもよい。収容物21の一例は、カレー、シチュー、スープ、煮物、焼物などの食品が挙げられる。
【0014】
側端シール部24は、包装袋2の収容部20の圧力が上昇したときに、収容部20と包装袋2の外部とを連通する通蒸口を形成可能に構成される蒸気抜き部28を含む。蒸気抜き部28は、包装袋2の中心CEに向かって突出する。収容部20の収容物21が電子レンジによって加熱されて蒸気が発生すると、収容部20は膨らむ。収容部20の膨張に伴って、上端シール部22、側端シール部23,24及び下端シール部25,26に加わる力は、中心CEとの距離が短いほど大きくなる。このため、中心CEに向かって突出している蒸気抜き部28には、収容物21の加熱に伴って大きな引張応力が加わる。
【0015】
収容部20の圧力が所定値以上になると、蒸気抜き部28において側端シール部24が内縁からはく離して、収容部20と包装袋2(包装体1)の外部とが連通する。そして、蒸気抜き部28に形成された通蒸口(蒸気抜き口)から蒸気が外部に抜ける。蒸気抜き部28は、収容部20の圧力が上昇したときに通蒸口を形成して、包装袋2(包装体1)が破袋することを防止する機能を有する。
【0016】
蒸気抜き部28においては、側端シール部24の外側に非シール部29が設けられる。蒸気抜き部28における側端シール部24のシール幅は、蒸気抜き部28以外の側端シール部24のシール幅よりも小さい。このため、収容部20内の圧力が上昇したときに、収容部20と外部とを連通する通蒸口が蒸気抜き部28に適切に形成される。収容部20から外部への蒸気抜き(排気)を適切に行うために、非シール部29には、積層体10a,10bの積層方向に貫通する貫通孔が設けられてもよい。
【0017】
蒸気抜き部28における側端シール部24のシール幅の最小値は1~5 mmであってよく、2~4 mmであってもよい。この場合、密封性を維持しつつ電子レンジによる加熱時の蒸気抜きを適切に行える。蒸気抜き部28の形状及び位置は特に限定されない。図3は、図1に示される包装袋の蒸気抜き部の他の例を示す部分拡大図である。図3に示されるように、蒸気抜き部28は、包装袋2の中心CEに向かって突出してもよい。変形例においては、上端シール部22に蒸気抜き部28を設けてもよい。いずれの形状及び位置であっても、蒸気抜き部28におけるシール幅の最小値は上述の数値範囲であってよい。蒸気抜き部28は複数箇所に設けられてもよい。
【0018】
包装袋2(包装体1)は、100℃を超える熱水スプレー中で数分間以上加熱するレトルト処理が施される。包装体1は、レトルト処理によって殺菌され、常温で長時間の保存が可能となる。
【0019】
包装袋2は、底面をなす積層体10cを備えなくてもよい。この場合、包装袋2は、2つの積層体10a,10bのそれぞれの端部におけるシーラント層が重ね合わされた状態でヒートシールされることにより形成される。
【0020】
[積層体の構成]
図4は、図1に示される積層体の一例を示す断面図である。図4に示されるように、積層体10は、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム11の一方面上に、シーラント層16を有する。PETフィルム11と、シーラント層16との間には、ナイロン6フィルム14が介在する。PETフィルム11と、ナイロン6フィルム14との間に第一接着層13が介在する。ナイロン6フィルム14と、シーラント層16との間に第二接着層15が介在する。PETフィルム11と第一接着層13の間に印刷層12が介在する。積層体10は、PETフィルム11とシーラント層16とを備えればよく、印刷層12、第一接着層13、ナイロン6フィルム14及び/又は第二接着層15は必要に応じて備えればよい。
【0021】
PETフィルム11の厚さは、特に限定されず、9~25 μmであってもよく、10~20 μmであってもよく、10~15 μmであってもよい。PETフィルム11の厚さは、用途又は求められる特性に応じて調整してもよい。
【0022】
PETフィルム11におけるPETの含有量は、PETフィルム11全量の50%質量以上であってもよく、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよい。
【0023】
PETフィルム11は、市販のものを用いることができる。PETフィルム11は、延伸フィルムであってもよく、未延伸フィルムであってもよい。高分子フィルムは、延伸を行うことでフィルム内の結晶の配向度が向上すると考えられる。延伸フィルムを採用した場合にはフィルム内の配向結晶が多くなり、突刺し強度が向上する。延伸の方向は、MD方向であってもよく、TD方向であってもよい。また、延伸方法は、一軸延伸、二軸延伸、チューブラー法など、寸法が安定したフィルムを提供できる方法であれば、どのような方法でもよい。突刺し強度を一層向上する観点から、PETフィルム11として二軸延伸フィルムを用いてもよい。二軸延伸フィルムは、同時二軸延伸法、又は逐次二軸延伸法によって得られる二軸延伸フィルムであってもよい。
【0024】
ナイロン6フィルム14の厚さは、特に限定されず、10~25 μmであってもよく、10~20 μmであってもよく、12~17μmであってもよい。ナイロン6フィルム14の厚さは、用途又は求められる特性に応じて調整してもよい。
【0025】
ナイロン6フィルム14は、ポリアミドを含む合成高分子であるナイロン6を含有する高分子フィルムである。ナイロン6フィルム14におけるポリアミドの含有量は、ナイロン6フィルム14全量の50質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよい。ナイロン6フィルム14は、突刺し強度及び柔軟性に優れることから、ナイロン6フィルム14を備えることで、積層体10の突刺し強度及び柔軟性を一層向上させることができる。
【0026】
ナイロン6フィルム14は、市販のものを用いることができる。ナイロン6フィルム14は、延伸フィルムであってもよく、未延伸フィルムであってもよい。延伸フィルムを採用した場合にはフィルム内の配向結晶が多くなり、突刺し強度が向上する。延伸の方向は、MD方向であってもよく、TD方向であってもよい。また、延伸方法は、一軸延伸、二軸延伸、又はチューブラー法など、寸法が安定したフィルムを提供できる方法であれば、どのような方法でもよい。二軸延伸により得られる二軸延伸フィルムは、同時二軸延伸法であってもよく、内部の分子を配向させ、突刺し強度を向上させる観点から、逐次二軸延伸法で得られるものであってもよい。ナイロン6フィルム14内部の分子を十分に配向させ、突刺し強度を一層向上させる観点から、チューブラー法により得られるナイロン6フィルム14を用いてもよい。
【0027】
シーラント層16は、積層体10においてヒートシールによる封止性を付与する層である。シーラント層16の成分としては、例えば、熱可塑性樹脂であってもよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-αオレフィン共重合体などのポリオレフィン系樹脂、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体などのエチレン系樹脂、ポリエチレンとポリブテンのブレンド樹脂、ホモポリプロピレン樹脂(PP)、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、及びプロピレン-αオレフィン共重合体などのポリプロピレン系樹脂などが挙げられる。また、これらの熱可塑性樹脂の複数種を混合したものであってもよい。これらの熱可塑性樹脂は、使用用途によって適宜選択できる。
【0028】
シーラント層16を構成する樹脂には、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤などの各種添加材が添加されてよい。
【0029】
シーラント層16は、市販のものを用いることができる。シーラント層16は、ヒートシールによる封止性を高める観点から、無延伸フィルム(例えば、無延伸ポリプロピレンフィルム)であってもよい。シーラント層16の厚さは、内容物の質量、又は包装袋の形状などに応じて調整可能であり、概ね10~100μmの厚さであってもよい。
【0030】
第一接着層13は、PETフィルム11とナイロン6フィルム14との間に介在する。第二接着層15は、ナイロン6フィルム14とシーラント層16との間に介在する。第一接着層13及び第二接着層15の材料は、例えば、ポリエステル-イソシアネート系樹脂、ウレタン樹脂、ポリエーテル系樹脂などである。第一接着層13は、PETフィルム11とナイロン6フィルム14とを強固に接着する。第二接着層15は、ナイロン6フィルム14とシーラント層16とを強固に接着する。第一接着層13の材料と第二接着層15の材料とは、互いに同一でもよく、異なってもよい。
【0031】
第一接着層13及び第二接着層15の厚さは特に限定されず、例えば0.5~5.0μmであってもよく、2~3 μmであってもよい。第一接着層13の厚さが0.5 μm以上であると、PETフィルム11とナイロン6フィルム14との密着性を向上させることができる。第二接着層15の厚さが0.5μm以上であると、ナイロン6フィルム14とシーラント層16との密着性を向上させることができる。第一接着層13及び第二接着層15の厚さが5.0 μm以下であると、積層体10のリサイクル性を向上させることができる。第一接着層13の厚さと第二接着層15の厚さとは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0032】
第一接着層13及び第二接着層15は、積層体10を形成する際に、隣接する二つの層を互いに接着する層である。積層体10の形成方法としては、PETフィルム11上にナイロン6フィルム14を貼り合わせ、さらにナイロン6フィルム14にシーラント層16を貼り合わせることで形成され得る。積層体10を形成するための方法として、一液硬化型もしくは二液硬化型ウレタン系接着剤などの接着剤で貼り合わせるドライラミネート法、ノンソルドライラミネート法、及び上述した熱可塑性樹脂を加熱溶融させてカーテン状に押し出し、貼りあわせるエクストルージョンラミネート法などを使用することができる。PETフィルム11にナイロン6フィルム14を貼り合わせる際に用いる接着剤は、図4に示されるように第一接着層13を形成する。ナイロン6フィルム14にシーラント層16を貼り合わせる際に用いる接着剤は、図4に示されるように第二接着層15を形成する。
【0033】
PETフィルム11のナイロン6フィルム14側の面に、印刷層12を設けることができる。印刷層12は、内容物に関する情報の表示、内容物の識別、又は包装袋の意匠性向上を目的として、積層体の外側から見える位置に設けられる。印刷方法及び印刷インキは特に制限されず、既知の印刷方法及び印刷インキの中からフィルムへの印刷適性、色調などの意匠性、密着性、食品容器としての安全性などを考慮して適宜選択される。印刷方法としては、例えば、グラビア印刷法、オフセット印刷法、グラビアオフセット印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット印刷法などを用いることができる。生産性や絵柄の高精細度の観点から、グラビア印刷法であってもよい。
【0034】
印刷層12の密着性を高めるため、印刷層12側のPETフィルム11の面には、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理などの各種前処理を施したり、易接着層などのコート層を設けたりしてもよい。
【0035】
[シーラント層の詳細]
収容部20の圧力が所定値以上になると、蒸気抜き部28において側端シール部24が内縁からはく離して、収容部20と包装袋2(包装体1)の外部とが連通する。蒸気が適切に抜けるためには、側端シール部24が収容部20の圧力に応じて適切にはく離する必要がある。つまり、側端シール部24の封止を担うシーラント層16の構造が、蒸気が適切に抜ける性能(通蒸性)に影響を与える。通蒸性に特に影響を与えるシーラント層16の構造は、シーラント層16の内部に存在する海島構造である。海島構造とは、二相構造であって、主たる第一相(樹脂相)が海のように連続的に存在し、第一相の中に第二相(ゴム相)が島のように不連続に存在する構造である。
【0036】
シーラント層16の海島構造は、シーラント層16の断面を走査型プローブ顕微鏡で観察することで評価できる。走査型プローブ顕微鏡は、原子間力顕微鏡を含む。走査型プローブ顕微鏡においては、測定探針であるカンチレバーを共振周波数で振動させた状態で試料表面を走査し、表面形状を計測する。得られる画像のうち、位相像に対して画像解析による数値化を行う。シーラント層16の機械方向(Machine Direction:MD)に平行な断面が評価対象となる。
【0037】
シーラント層16の断面を走査型プローブ顕微鏡で観察した画像は、海島構造を正確に観察するために特徴量解析が行われる。特徴量解析は、フーリエ変換処理、近似処理、及び正規化処理を順に含む。
【0038】
フーリエ変換処理は、画像信号を周波数が異なる正弦波の重ね合わせと捉えて、画像において支配的な周波数成分を分析する処理である。画像において支配的な正弦波を分析することにより、画像において支配的な構造の形状、サイズ、分布などを得ることができる。フーリエ変換処理は、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform:FFT)アルゴリズムが利用される。画像は二次元データであるため、一次元FFTを画像横方向に実施し、その後、一次元FFTを画像縦方向に実施する。これにより、空間周波数スペクトルが得られる。空間周波数スペクトルを二乗平均することによりパワースペクトルが得られる。フーリエ変換処理は、予め用意されたソフトウェアを使用してもよい。例えば、画像解析ソフトウェアであるImageJ(https://imagej.nih.gov/ij/)において用意されたFFTを用いることができる。ImageJのFFTを用いることにより、パワースペクトルを得ることができる。
【0039】
近似処理は、パワースペクトルの強度分布を関数で近似する処理である。近似処理は、予め設定された領域におけるパワースペクトルの強度分布を関数で近似する。関数は、一例としてガウス関数である。ガウス関数は以下の数式となる。
【数1】

ここでμは平均(中心位置)であり、σは標準偏差、σは分散である。近似処理を実行することにより、強度分布のノイズが除去される。近似処理は、予め用意されたソフトウェアを使用してもよい。例えば、表計算ソフトウェアであるExcel(登録商標)(Microsoft社)のアドイン(Solber)を用いることができる。
【0040】
正規化処理は、データを最小値0から最大値1にスケーリングする処理である。例えば、データを最大値で除算することによって実現する。正規化処理は、予め用意されたソフトウェアを使用してもよい。
【0041】
特徴量解析によって得られたガウス関数の近似曲線には、島部の特徴が反映されている。パワースペクトルの強度分布のうち画像中央に相当する位置は低周波成分であり、画像中央から離れるに従って高周波成分となる。画像中央に相当する位置の強度が他の位置よりも強い場合には、大きい島部が多い傾向にあることを意味する。画像中央に相当する位置の強度が他の位置よりも弱い場合、あるいは、画像位置にかかわらず強度に変化がない場合には、小さい島部が多い傾向にあることを意味する。これは、遠目で島部をみたときに目立つ島部の特徴が反映されていると推定される。
【0042】
長さ10 μmが512 pxで表現される解像度において、横1024 pxかつ縦512 pxの画像である場合、特徴量解析によって得られたガウス関数の近似曲線において、ガウス関数の標準偏差は600以下である。ガウス関数の標準偏差は550以下であってもよいし、500以下でもよい。これらの場合、蒸気抜き部28から適切に通蒸される。ガウス関数の標準偏差が600を超える場合(あるいは500を超える場合、550を超える場合)、蒸気抜き部28から適切に通蒸されない。この原因は確かではないが、側端シール部24のはく離は、海島構造の島間を伝搬するように発生すると考えられ、小さい島部が多い傾向にあると伝搬の経路が過多となり、適切な剥離に至らないと推定される。特徴量解析によって得られたガウス関数の近似曲線において、ガウス関数の標準偏差は100以上であってもよい。ガウス関数の標準偏差は100未満である場合には、蒸気抜き部28から適切に通蒸されないおそれがある。シーラント層16が軟化し、設計通りの強度を保つことが困難となるためである。また、島部の面積が大きいと伝搬の経路がなくなり、適切な剥離に至らないと推定されるためである。なお、画像サイズが縦横ともに2倍になった場合、標準偏差も2倍になる。
【0043】
以上、本開示の幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上述した実施形態に何ら限定されるものではない。積層体10の各層間には、積層体10の機能を向上させるために、所定の中間層を設けてもよい。中間層の構成は、上述したシーラント層16の構成に記載した内容を適宜参照することができる。積層体10が中間層を備えることで、包装袋の製造時における、積層体の変形をより低減することができる。中間層は、積層体10の用途に応じて複数枚使用してもよい。
【0044】
積層体10は、積層体を構成するいずれかの層の上にあらかじめ蒸着を施した蒸着層を含んでもよい。蒸着層に用いる蒸着材料は、Si、Al、Sn、In、Zn、Fe、Mnなどの金属、これらの金属の1種以上を含む無機化合物などが挙げられる。該無機化合物としては、例えば、一酸化ケイ素、二酸化ケイ素などのケイ素酸化物(SiO)、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化錫、酸化インジウムなどが挙げられる。また、これらの無機化合物に加え、Si、Al、Sn、In、Zn、Fe、Mnからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属またはそれらの酸化物を含有していてもよい。
【0045】
積層体10は、例えば、印刷層12から選ばれる少なくとも一種に隣接するアンカーコート層を備えてもよい。アンカーコート層を備えることで、印刷層12の密着性を高め、積層体10の突刺し強度を一層向上することができる。アンカーコート層は所定の層の上にアンカーコート剤を塗布し、乾燥させることで形成することができる。アンカーコート剤として、例えば、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、及びポリエーテル系ポリウレタン樹脂などが挙げられる。アンカーコート層の厚さは、特に限定されず、0.1~1.0μmであってもよく、0.3~0.5 μmであってもよい。
【0046】
PETフィルム11と、ナイロン6フィルム14とが、第一接着層13を介さずに直接貼り合わされていてもよい。また、ナイロン6フィルム14と、シーラント層16とが、第二接着層15を介さずに直接貼り合わされていてもよい。
【実施例0047】
以下、実施例及び比較例を挙げて本開示の内容をより具体的に説明する。なお、本開示は下記実施例に限定されるものではない。
【0048】
[包装体の準備]
厚さが12 μmの市販のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、厚さが15 μmの市販のナイロン6フィルム、厚さが60μmの市販の無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルムを準備した。CPPフィルムはシーラント層として機能するフィルムである。CPPフィルムとして、それぞれ海島構造の異なるCPPフィルムA、CPPフィルムB及びCPPフィルムCを準備した。
【0049】
PETフィルム、ナイロン6フィルム、及び、CPPフィルムAを脂肪族エステル系接着剤で貼り合わせて積層体を作成した。作成した積層体から130mm×130 mmの大きさの積層体を、正方形の二辺がCPPフィルムAのMDと平行になるように2枚切り出した。切り出した2枚の積層体を、CPPフィルムAのMDを揃えつつCPPフィルムAが内側になるように重ね合わせ、正方形の4辺のうちCPPフィルムAのMDと垂直な辺の一つに対して、蒸気抜き部が形成されるようにヒートシールした。ヒートシールの条件は、2つ設定した。第1ヒートシール条件は、圧力0.2MPa、処理時間1.5秒、処理温度190~220℃とした。第2ヒートシール条件は、圧力0.1~0.3 MPa、処理時間1.5秒、処理温度200℃とした。
【0050】
続いて、正方形の残りの3辺のうち2辺をヒートシールし、残りの1辺から水50mlを充填してヒートシールして、充填品とした。続いて、充填品にスプレーレトルト処理を施した。スプレーレトルト処理の条件は、処理温度121℃、処理時間30分である。スプレーレトルト処理を実施した充填品を12時間以上放冷し、包装体とした。これにより、第1ヒートシール条件で作成されたCPPフィルムAの包装体、第2ヒートシール条件で作成されたCPPフィルムAの包装体、第1ヒートシール条件で作成されたCPPフィルムBの包装体、第2ヒートシール条件で作成されたCPPフィルムBの包装体、第1ヒートシール条件で作成されたCPPフィルムCの包装体、第2ヒートシール条件で作成されたCPPフィルムCの包装体の6つの包装体をサンプルとして用意した。
【0051】
[海島構造の観察]
サンプルの非シール部分のシーラント層16の断面を用意し、海島構造を観察した。シーラント層16の断面は、以下の手法で用意される。まず、サンプルの表裏面をコロナ処理した後、サンプルを2mm×3 mmの短冊型となるように裁断する。次いで、得られた短冊形のサンプルを光硬化性樹脂(東亜合成株式会社製アロニックスLCR D-800の可視光硬化性樹脂)に包埋し、樹脂を光照射にて硬化させることで、サンプルとサンプルを包埋する樹脂硬化物とからなるブロック片を得る。次いで、得られたブロック片をSPM試料ホルダ用インサート(ライカマイクロシステムズ製のAFM試料ホルダ用インサート)で固定し、常温(25℃)においてガラスナイフでブロック片のトリミングとサンプルの断面(層界面に対して垂直かつMDに平行な断面)の切削を行う。その後、-40℃の冷却下において断面が鏡面になるまでダイヤモンドナイフで断面の切削を実施する。断面切削装置としては、ライカマイクロシステムズ製のウルトラミクロトームEMUC7と冷却オプションEM FC7とを組み合わせて用いる。切削スピードは1 mm/sとし、切削膜厚は200 nmに設定する。切削向きは、シーラント層16のMDに対して平行な方向とする。
【0052】
シーラント層16の断面は、以下の手法で観察される。断面切削後のブロック片をSPM試料ホルダ用インサートで固定したまま、該ブロック片のサンプル厚中央に対して、SPM(走査型プローブ顕微鏡)による位相像測定を行う。測定条件は、サンプルのMDをX方向、サンプルの厚さ方向をY方向とし、視野範囲はX方向を20μm、Y方向を10 μm、解像度はX方向を1024、Y方向を512とする。また、走査速度を0.5 Hz、X方向をFastScanの走査方向として、SPMのACモード(タッピングモード)により形状測定を行い、位相像、高さ像、振幅像を取得する。SPMとしては、オックスフォード・インストゥルメンツ製のJupiterXR(商品名)を用いる。SPMのカンチレバー(測定探針)としては、代表特性値が先端曲率半径7 nm、バネ定数26 N/mである、OLYMPUS製のAC160TS(商品名)を用いる。また、位相像上で海島構造が鮮明に観察されるように、Setpoint、Drive Amplitude、及びIntegral Gainを調整する。具体的には、位相像においては測定中の位相が試料とカンチレバーの接触(Engage)前の位相より小さくなるようにし、高さ像においてはトレース・リトレースの信号が一致するようにし、振幅像においてはトレース・リトレースの信号が反転するようにする。
【0053】
上述した測定はサンプルごとに三箇所行った。位相の値は測定中のカンチレバー先端の状態の変化により徐々に変動する場合があるため、測定後の位相像に対してJupiterXRの解析ソフトによりPlane Fit処理を行うことで変動の影響を軽減した。得られた位相像はJupiter XRの解析ソフトにて数値化した。
【0054】
Jupiter XRで数値化された位相像をImage Jで開き、Image Jの予め用意されたFFTアルゴリズムを用いることにより、パワースペクトルを得た。図5の(A)は、ImageJで開いた画像の一例である。図5の(B)は、パワースペクトルの一例である。得られたパワースペクトルから強度分布を確認する領域ARを指定した。図5の(C)は、強度分布を確認する領域を説明する図である。領域ARは、画像中央領域(X:512、Y:312~712)とした。パワースペクトルにおいて縦方向に強い強度分布を確認できたためである。領域ARの強度分布を抽出した。結果を図6の(A)~(C)に示す。
【0055】
図6の(A)は、CPPフィルムAを採用したサンプルの強度分布である。図6の(B)は、CPPフィルムBを採用したサンプルの強度分布である。図6の(C)は、CPPフィルムBを採用したサンプルの強度分布である。図6の(C)に示される強度分布は、三箇所で測定された三枚の画像それぞれから得られた強度分布を重ねて表示している。
【0056】
続いて、ExcelのSolberでガウス関数を用いた近似処理を行った。結果を図7の(A)~(C)に示す。図7の(A)は、図6の(A)に示されるデータをガウス関数で近似したグラフである。図7の(B)は、図6の(B)に示されるデータをガウス関数で近似したグラフである。図7の(C)は、図6の(C)に示されるデータをガウス関数で近似したグラフである。図7の(A)~(C)に示されるように、ガウス関数で近似することにより、サンプルごとに、重なりのあった3つのグラフが区別可能になった。
【0057】
続いて、正規化処理を行った。図8の(A)は、図7の(A)に示されるグラフを正規化したグラフである。図8の(B)は、図7の(B)に示されるグラフを正規化したグラフである。図8の(C)は、図7の(C)に示されるグラフを正規化したグラフである。正規化することにより、サンプルごとの特性が明確となるとともに標準偏差で評価が可能となる。
【0058】
ここで、ガウス関数の標準偏差が600以下であるサンプルを実施例とし、600を超えるサンプルを比較例とした。図9は、ガウス関数の標準偏差をサンプルごとにプロットしたグラフである。図9に示されるように、CPPフィルムAをシーラント層16として採用し、ヒートシール及びスプレーレトルト処理を施したサンプルは、測定された三箇所の標準偏差の平均値が741であり、600を超えているため、比較例Aとした。CPPフィルムBをシーラント層16として採用し、ヒートシール及びスプレーレトルト処理を施したサンプルは、測定された三箇所の標準偏差の平均値が499であり、600以下であるため、実施例Bとした。CPPフィルムCをシーラント層16として採用し、ヒートシール及びスプレーレトルト処理を施したサンプルは、測定された三箇所の標準偏差の平均値が448であり、600以下であるため、実施例Cとした。
【0059】
[通蒸性の確認]
実施例及び比較例に係るサンプルを電子レンジで調理して通蒸性を確認した。具体的には、600Wで二分間調理し、通蒸するか否かを確認した。結果を表1に示す。
【表1】

第1ヒートシール条件で作成されたサンプルが実施例B、実施例C及び比較例Aであり、第2ヒートシール条件で作成されたサンプルが実施例B1、実施例C1及び比較例A1である。シーラント層16のMDに平行な断面に係る画像を解析したガウス関数の標準偏差が600以下である実施例B,B1,C,C1は通蒸が確認され、600を超える比較例Aは通蒸が確認されなかった。このように、海島構造に関する新規のパラメータを用いて通蒸性を有する包装体を定義可能であることが示された。
【符号の説明】
【0060】
1…包装体、10,10a,10b,10c…積層体、11…ポリエチレンテレフタレートフィルム、16…シーラント層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9