(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016105
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】受信装置、および信号処理方法
(51)【国際特許分類】
H04B 1/16 20060101AFI20250124BHJP
H04B 17/23 20150101ALI20250124BHJP
H04B 17/345 20150101ALI20250124BHJP
G01R 23/165 20060101ALI20250124BHJP
【FI】
H04B1/16 C
H04B17/23
H04B17/345
G01R23/165 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023119160
(22)【出願日】2023-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒瀬 大介
【テーマコード(参考)】
5K061
【Fターム(参考)】
5K061AA14
5K061CC11
5K061DD04
5K061DD12
(57)【要約】
【課題】 受信信号の帯域の広さによらずスプリアスと所望波成分とを視覚的に区別できるようにした受信装置を提供すること。
【解決手段】 受信装置は、無線信号を受信する受信機と、信号処理部とを具備する。受信機は、プリセレクタと、周波数変換部と、A/D変換器とを備える。プリセレクタは、受信した無線信号の帯域を制限する。周波数変換部は、プリセレクタの出力とローカル信号とを混合して中間周波数信号を得る。A/D変換器は、中間周波数信号のデジタルデータを生成する。信号処理部は、画像生成部と、計算部と、スプリアス明示処理部とを備える。画像生成部は、デジタルデータから無線信号のスペクトラム画像を生成する。計算部は、無線信号の周波数とローカル信号の周波数とからスプリアスの発生帯域を計算する。スプリアス明示処理部は、スペクトラム画像においてスプリアスを明示する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線信号を受信してデジタルデータに変換する受信機と、
前記デジタルデータを処理する信号処理部とを具備し、
前記受信機は、
前記受信した無線信号の帯域を制限するプリセレクタと、
前記プリセレクタの出力とローカル信号とを混合して中間周波数信号を得る周波数変換部と、
前記中間周波数信号をデジタル変換して前記デジタルデータを生成するアナログ/デジタル変換器とを備え、
前記信号処理部は、
前記デジタルデータから前記無線信号のスペクトラム画像を生成する画像生成部と、
前記無線信号の周波数と前記ローカル信号の周波数とからスプリアスの発生帯域を計算する計算部と、
前記スペクトラム画像において前記スプリアスを明示するスプリアス明示処理部とを備える、受信装置。
【請求項2】
無線信号を受信して第1デジタルデータに変換する第1受信機と、
前記無線信号を受信して第2デジタルデータに変換する第2受信機と、
前記第1デジタルデータおよび前記第2デジタルデータを処理する信号処理部とを具備し、
前記第1受信機は、
前記受信した無線信号の帯域を制限するプリセレクタと、
前記プリセレクタの出力とローカル信号とを混合して中間周波数信号を得る周波数変換部と、
前記中間周波数信号をデジタル変換して前記第1デジタルデータを生成するアナログ/デジタル変換器とを備え、
前記第2受信機は、
前記受信した無線信号を、設定可能な減衰量で減衰させる可変アッテネータと、
前記可変アッテネータの出力の帯域を制限するプリセレクタと、
前記プリセレクタの出力とローカル信号とを混合して中間周波数信号を得る周波数変換部と、
前記中間周波数信号をデジタル変換して前記第2デジタルデータを生成するアナログ/デジタル変換器とを備え、
前記信号処理部は、
前記第1デジタルデータおよび前記第2デジタルデータから前記無線信号のスペクトラム画像を生成する画像生成部と、
前記第1デジタルデータに基づくピークと前記第2デジタルデータに基づくピークとの差分と、設定された前記減衰量との比較からスプリアスを特定する特定部と、
前記スペクトラム画像において前記スプリアスを明示するスプリアス明示処理部とを備える、受信装置。
【請求項3】
前記スプリアス明示処理部は、前記スプリアスの発生帯域の色を他の帯域とは異ならせる、請求項1または2のいずれかに記載の受信装置。
【請求項4】
前記スプリアス明示処理部は、前記スプリアスにマーカを付して示す、請求項1または2のいずれかに記載の受信装置。
【請求項5】
無線信号をローカル信号と混合して生成された中間周波数信号をデジタル変換して得られたデジタルデータを処理するプロセッサによる信号処理方法であって、
前記プロセッサが、前記デジタルデータから前記無線信号のスペクトラム画像を生成する過程と、
前記プロセッサが、前記無線信号の周波数と前記ローカル信号の周波数とからスプリアスの発生帯域を計算する過程と、
前記プロセッサが、前記スペクトラム画像において前記スプリアスを明示する過程と、
前記プロセッサが、前記スプリアスを明示したスペクトラム画像を表示器に表示する過程とを具備する、信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、受信装置、および信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スプリアスは、帯域の広い高周波信号を対象とする受信装置においては特に問題となる。多くの受信装置では、受信した信号を局発信号と混合して中間周波数帯域にダウンコンバートする。その際、受信信号の帯域が広すぎると、所望波成分とスプリアスとを分離することが難しくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既存の受信装置では、ミキサの前段にプリセレクタを設け、周波数変換前の信号の帯域を制限することでスプリアスを抑圧していた。この構成では受信信号の帯域が広すぎると、スプリアスを除去することが難しい。このためミキサのスプリアス除去の能力に頼らざるを得ないが、いずれにしても根本的な対策はとれていないのが現状である。
【0005】
そこで、目的は、受信信号の帯域の広さによらずスプリアスと所望波成分とを視覚的に区別できるようにした受信装置、および信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、受信装置は、無線信号を受信してデジタルデータに変換する受信機と、デジタルデータを処理する信号処理部とを具備する。受信機は、プリセレクタと、周波数変換部と、アナログ/デジタル変換器とを備える。プリセレクタは、受信した無線信号の帯域を制限する。周波数変換部は、プリセレクタの出力とローカル信号とを混合して中間周波数信号を得る。アナログ/デジタル変換器は、中間周波数信号をデジタル変換してデジタルデータを生成する。信号処理部は、画像生成部と、計算部と、スプリアス明示処理部とを備える。画像生成部は、デジタルデータから無線信号のスペクトラム画像を生成する。計算部は、無線信号の周波数とローカル信号の周波数とからスプリアスの発生帯域を計算する。スプリアス明示処理部は、スペクトラム画像においてスプリアスを明示する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、広帯域受信装置の一例を示す系統図である。
【
図2】
図2は、
図1のミキサ13から出力される周波数成分を示す表である。
【
図3】
図3は、プリセレクタにより倍波成分を除去できることを説明するための図である。
【
図4】
図4は、プリセレクタにより倍波成分を除去できないことを説明するための図である。
【
図5】
図5は、第1の実施形態に係わる受信装置の一例を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、
図5に示される信号処理部21の一例を示す機能ブロック図である。
【
図7】
図7は、表示器22に表示されるスペクトラム画像の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、第2の実施形態に係わる受信装置の一例を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、
図8に示される信号処理部21のプロセッサ23の一例を示す機能ブロック図である。
【
図10】
図10は、表示器22に表示されるスペクトラム画像の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、図面を参照して実施の形態を説明する。最初に、受信帯域とスプリアスとの関係について説明する。
図1は、広帯域受信装置の一例を示す系統図である。
図1において、アンテナ1に到来した無線信号(周波数f
RF)は、低雑音増幅器11で増幅されたのちプリセレクタ12で帯域を制限され、局部発振器14からのローカル信号(周波数f
LO)とミキサ13で混合される。これにより生成された中間周波数信号(周波数f
IF)は、アンチエイリアスフィルタ15でエイリアスを除去されたのち、アナログ/デジタル(A/D)変換器16に入力されて受信データ信号に変換される。
【0009】
ところで、スプリアスは、ミキサ13等の非線形回路で起こる混変調により生じる。
図1の系統において、入出力にミキサ13と同様の非直線性があることを仮定し、入力をx(t)、出力をy(t)で表すと、系統の出力をtの多項式として式(1)のように近似することができる。
【数1】
【0010】
図1の系統に、式(2)の信号を入力する。式(2)は、周波数の異なる(f
1とf
2)二つの正弦波を表している。
【数2】
【0011】
式(1)のx(t)を、式(2)のx
1(t),x
2(t)の和であるとして、式(1)に式(2)を代入すると式(3)を得る。
【数3】
【0012】
【0013】
式(4)を
図1のミキサ13に当てはめると、f
1は無線信号のf
RFであり、f
2はf
LOである。ミキサ13の周波数変換後の出力周波数(f
RF-f
LO)がf
IFであり、
図2の表に示されるように、これ以外の周波数が混変調によるスプリアス成分である。式(4)におけるC
XXは係数として定義され、周波数ごとに異なる値を持つ。
【0014】
図3に示されるように、受信帯域f
BWがf
RFの上下の狭帯域の範囲内であれば、プリセレクタ12による混変調成分(倍波)の抑圧はたやすい。しかし
図4に示されるように、受信帯域f
BWがf
RFと同程度にまで広帯域である場合、2倍波(2×f
RF)がプリセレクタ12の通過帯域に含まれてしまうので、ミキサ13の出力から混変調成分(倍波)を除去することができない。このように広帯域の受信装置にあってはプリセレクタで倍波成分を除去することができず、処理帯域内に混変調成分を生じてスプリアス要求を満たすことが難しい。
次に、第1の実施形態、および第2の実施形態について説明する。
【0015】
<第1の実施形態>
図5は、第1の実施形態に係わる受信装置の一例を示すブロック図である。
図5において、受信装置は、アンテナ1を備える受信機10と、表示装置20とを備える。受信機10は、広帯域受信装置(
図1)と同様の機能ブロックにより、アンテナ1に到来した無線信号を受信してデジタルデータに変換する。表示装置20は、デジタルデータを処理する信号処理部21と、信号処理部21に接続された表示器22とを備える。
【0016】
図6は、
図5に示される信号処理部21の一例を示す機能ブロック図である。信号処理部21は、プロセッサ23と記憶部24を備えるコンピュータである。記憶部24は、コンピュータを信号処理部21として機能させるためのプログラム24aと、受信機10(
図5)から送られた受信信号データ24b、および、スペクトラム画像データ24cを記憶する。また、信号処理部21は、ROM25、RAM26、および通信部27を備える。
【0017】
プロセッサ23は、実施形態に係わる処理機能として、画像生成部23a、計算部23b、および、スプリアス明示処理部23cを備える。
【0018】
画像生成部23aは、受信信号データ24b(デジタルデータ)に高速フーリエ変換処理(FFT)を施し、スペクトラムデータを生成する。そして画像生成部23aは、このスペクトラムデータから、アンテナ1で受信された無線信号のスペクトラム画像を生成する。
【0019】
計算部23bは、信号成分の周波数を検知し、無線信号の周波数と、局部発振器14からのローカル信号の周波数(fLO)とから、例えば式(4)を用いてスプリアスの発生帯域(周波数)を計算する。
【0020】
スプリアス明示処理部23cは、画像生成部23aにより生成されたスペクトラム画像において、計算部23bで計算されたスプリアスを明示する。
【0021】
図7は、表示器22に表示されるスペクトラム画像の一例を示す図である。スペクトラム画像は、無線信号の周波数に対する振幅を、横軸が周波数(Frequency)、縦軸が振幅(Amplitude)のグラフに示すもので、通常、最も強いピークが所望波成分のピーク(a)を表す。加えて実施形態では、スペクトラム画像において、スプリアス成分の帯域(b)が例えば他の帯域とは異なる色で表示される。つまりスプリアス明示処理部23cは、スプリアスの発生帯域の色を他の帯域とは異ならせる。または、マーカ(c)を表示することでスプリアス帯域を明示しても良い。
【0022】
以上説明したように第1の実施形態では、既知であるローカル信号の周波数fLOと、受信対象である無線信号の周波数とからスプリアスの出現する周波数を計算し、スペクトラム画像においてスプリアスの帯域を明確に区別して表示するようにした。このようにすることで、ユーザは、スプリアス成分が発生していることを一目で認識することができ、観測結果を誤認するおそれがなくなる。
【0023】
つまり実施形態では、スプリアスを直接除去するのではなく、所望波成分とは明確に区別できるようにすることで、スプリアスと所望波とを混同するといった、ユーザの誤認識を防ぐことができる。これらのことから第1の実施形態によれば、受信信号の帯域の広さによらずスプリアスと所望波成分とを視覚的に区別できるようになり、ひいては、観測結果の誤認を防止することが可能になる。
【0024】
<第2の実施形態>
図8は、第2の実施形態に係わる受信装置の一例を示すブロック図である。
図5において、受信装置は、それぞれアンテナ1を備える受信機10および受信機30を備える。このうち受信機10は
図1、および
図5と同様の系統により無線信号の受信信号データ(第1デジタルデータ)を生成し、表示装置20の信号処理部21に送る。
【0025】
受信機30も同様に、A/D変換器16により、無線信号の受信信号データ(第2デジタルデータ)を生成して、表示装置20の信号処理部21に送る。ただし受信機30は、プリセレクタ12の前段に可変アッテネータ31を備える。可変アッテネータ31は、アンテナ1で受信された無線信号を、設定可能な減衰量で減衰させる。後段のプリ背レクだ12は、可変アッテネータ31の出力の帯域を制限する。
【0026】
図9は、
図8に示される信号処理部21のプロセッサ23の一例を示す機能ブロック図である。プロセッサ23はその処理機能として、画像生成部23a、スプリアス明示処理部23c、および、特定部23dを備える。
【0027】
画像生成部23aは、可変アッテネータ31を通過していない受信信号の受信信号データ(第1デジタルデータ)と、可変アッテネータ31を通過した受信信号の受信信号データ(第2デジタルデータ)とにそれぞれFFT処理を施し、スペクトラムデータを生成する。そして画像生成部23aは、それぞれのスペクトラムデータから、受信機10,30で受信された無線信号のスペクトラム画像を生成する。
【0028】
特定部23dは、スペクトラムデータにおける、第1デジタルデータに基づくピークと第2デジタルデータに基づくピークとの差分と、可変アッテネータ31に設定された減衰量とを比較して、スペクトラムデータに生じたスプリアスを特定する。
【0029】
スプリアス明示処理部23cは、画像生成部23aにより生成されたスペクトラム画像において、特定部23dで特定されたスプリアスを明示する。
【0030】
図10は、表示器22に表示されるスペクトラム画像の他の例を示す図である。
図10において、実線は受信機10からのスペクトラム波形を示し、点線が受信機30からのスペクトラム波形を示す。受信機30の可変アッテネータ31に設定された減衰量により、二つの波形にはレベル差が生じる。
図10において、最大のピークにおけるレベル差をΔA1とし、その次のピークにおけるレベル差をΔA2とし、さらにその次のピークにおけるレベル差をΔA3とする。
【0031】
そして、特定部23dは、ΔA1~ΔA3と、可変アッテネータ31に設定された減衰量とを比較し、設定減衰量と同じ減衰を示すピークを本来の信号成分(所望波成分)として判定し、それ以外のピークをスプリアスとして特定する。
【0032】
式(4)を参照すると、混変調の係数は、fIFの係数とは異なる値を持つ。従って、可変アッテネータ31の設定減衰量と同じ減衰を示すピークは、本来の受信信号と見做すことができる。一方で、可変アッテネータ31の設定減衰量とは異なる減衰を示すピークは、スプリアス成分であるとみなすことができる。
【0033】
特定部23dによる特定の結果は、スプリアス明示処理部23cに渡される。そして、スプリアス明示処理部23cは、特定されたスプリアスを
図10のスペクトラム画像において明示する。
図10においてはマーカ(c)により、スプリアスであることが明示されている。
【0034】
以上説明したようにこの実施形態では、複数系統の受信機を設け、少なくとも1つの系統の受信機に可変アッテネータを設けてその系統の受信信号を減衰させる。そして、減衰を受けた受信信号のスペクトラムと減衰を受けていない受信信号のスペクトラムとを比較し、設定減衰量に対応する減衰を示すピークを所望波成分として特定する。また、減衰量が設定減衰量に対応しないピークを、スプリアスとして特定するようにした。
【0035】
このようにしたので、スプリアス成分を確実に特定でき、スペクトラム画像において明示することができる。従って、第2の実施形態によっても、受信信号の帯域の広さによらずスプリアスと所望波成分とを視覚的に区別できるようになり、観測結果の誤認を防止することが可能になる。
【0036】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示するものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0037】
1…アンテナ、10…受信機、11…低雑音増幅器、12…プリセレクタ、13…ミキサ、14…局部発振器、15…アンチエイリアスフィルタ、16…アナログ/デジタル変換器、20…表示装置、21…信号処理部、22…表示器、23…プロセッサ、23a…画像生成部、23b…計算部、23c…スプリアス明示処理部、23d…特定部、24…記憶部、24a…プログラム、24b…受信信号データ、24c…スペクトラム画像データ、25…ROM、26…RAM、27…通信部、30…受信機、31…可変アッテネータ。