(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025161054
(43)【公開日】2025-10-24
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ及びタイヤ加硫金型
(51)【国際特許分類】
   B60C  11/13        20060101AFI20251017BHJP        
   B60C  11/03        20060101ALI20251017BHJP        
   B29C  33/02        20060101ALI20251017BHJP        
【FI】
B60C11/13 B 
B60C11/03 100A 
B29C33/02 
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024063930
(22)【出願日】2024-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO  TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎌田  信行
(72)【発明者】
【氏名】古谷  弘幸
【テーマコード(参考)】
3D131
4F202
【Fターム(参考)】
3D131BC44
3D131EB19U
4F202AH20
4F202CA21
4F202CU01
4F202CU02
(57)【要約】
【課題】気柱共鳴音を低減して騒音性能を向上できる空気入りタイヤ及びタイヤ加硫金型を提供する。
【解決手段】空気入りタイヤは、トレッド面にてタイヤ周方向に沿って延びる主溝7を備える。主溝7は、主溝7の溝縁74と主溝7の溝底面71との間にセレーション領域70を含む。セレーション領域70では、タイヤ径方向に沿って延びるリッジ10がタイヤ周方向に配列されている。リッジ10は、溝底面71からタイヤ径方向外側に延びる溝壁面72から突出している。
【選択図】
図4
 
【特許請求の範囲】
【請求項1】
  トレッド面にてタイヤ周方向に沿って延びる主溝を備え、
  前記主溝は、前記主溝の溝縁と前記主溝の溝底面との間にセレーション領域を含み、
  前記セレーション領域では、タイヤ径方向に沿って延びるリッジがタイヤ周方向に配列されており、
  前記リッジは、前記溝底面からタイヤ径方向外側に延びる溝壁面から突出している空気入りタイヤ。
【請求項2】
  前記リッジがタイヤ径方向に対して傾斜している請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
  回転方向が指定されており、
  前記リッジがタイヤ径方向外側に向かって踏み込み側に傾斜している請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
  前記リッジのタイヤ径方向外側端が前記溝縁に配置され、
  前記リッジのタイヤ径方向内側端が、前記溝底面と前記溝壁面とを連結する断面円弧状の連結面のタイヤ径方向外側端に配置されている請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
  前記リッジのタイヤ径方向外側端が、前記溝縁からタイヤ径方向内側に離れて配置されている請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
  前記リッジのタイヤ径方向内側端が、前記溝底面と前記溝壁面とを連結する断面円弧状の連結面のタイヤ径方向外側端からタイヤ径方向外側に離れて配置されている請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
  前記リッジは、前記溝壁面から立ち上がる一対の側面と、それらの間に位置する先端面を有し、
  前記先端面には、前記リッジよりも高さの小さい複数の微小突起が設けられている請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
  前記リッジの幅方向から見て複数の前記微小突起が前記リッジの延在方向に相互にオーバーラップしている請求項7に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
  前記リッジが0.5mm以下の高さを有する請求項1~8いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
  タイヤのトレッド面にてタイヤ周方向に沿って延びる主溝を成形するための突部を備え、
  前記突部は、前記主溝の溝縁に対応する入隅縁と前記主溝の溝底面に対応する頂面との間にセレーション領域を含み、
  前記セレーション領域では、タイヤ径方向に沿って延びる窪みがタイヤ周方向に配列されており、
  前記窪みは、前記頂面からタイヤ径方向外側に延びる側壁面から陥没しているタイヤ加硫金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
  本開示は、空気入りタイヤと、空気入りタイヤの加硫成形に用いるタイヤ加硫金型とに関する。
【背景技術】
【0002】
  タイヤに起因する騒音として気柱共鳴音が知られている。気柱共鳴音は、タイヤのトレッド面の主溝と路面との間に形成された管状空間に気柱が生成され、走行に伴って空気の圧縮と開放が繰り返されることにより発生する。特許文献1には、排水性能を損なわずに気柱共鳴音を低減することを目的として、トレッド面の主溝の溝壁面に凹凸を設けた空気入りタイヤが記載されている。しかし、当該凹凸は、溝壁面に凹設された細溝をタイヤ周方向に間隔を設けて配列したものであり、気柱共鳴音の低減に関して改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
  本開示は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、気柱共鳴音を低減して騒音性能を向上できる空気入りタイヤ及びタイヤ加硫金型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
  本開示の空気入りタイヤは、トレッド面にてタイヤ周方向に沿って延びる主溝を備え、前記主溝は、前記主溝の溝縁と前記主溝の溝底面との間にセレーション領域を含み、前記セレーション領域では、タイヤ径方向に沿って延びるリッジがタイヤ周方向に配列されており、前記リッジは、前記溝底面からタイヤ径方向外側に延びる溝壁面から突出している。
【0006】
  本開示のタイヤ加硫金型は、タイヤのトレッド面にてタイヤ周方向に沿って延びる主溝を成形するための突部を備え、前記突部は、前記主溝の溝縁に対応する入隅縁と前記主溝の溝底面に対応する頂面との間にセレーション領域を含み、前記セレーション領域では、タイヤ径方向に沿って延びる窪みがタイヤ周方向に配列されており、前記窪みは、前記頂面からタイヤ径方向外側に延びる側壁面から陥没している。
【図面の簡単な説明】
【0007】
            【
図1】第1実施形態の空気入りタイヤの一例を示すタイヤ子午線断面図
 
            
            
            
            【
図5】セレーション領域に配列されたリッジの斜視図
 
            
            【
図7】変形例における主溝の溝壁面を正面から見た図
 
            【
図8】変形例における主溝の溝壁面を正面から見た図
 
            【
図9】第1実施形態のタイヤ加硫金型の一例を示すタイヤ子午線断面図
 
            
            
            【
図12】第2実施形態におけるトレッドパターンの一例を示す平面展開図
 
            
            
            
          
【発明を実施するための形態】
【0008】
  以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0009】
  [第1実施形態]
  まずは、
図1~11を参照しながら第1実施形態について説明する。
図1は、本実施形態の空気入りタイヤTの一例を示すタイヤ子午線断面図である。空気入りタイヤTは、一対のビード部1と、そのビード部1の各々からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール部2と、そのサイドウォール部2の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部3とを備えた自動車用空気入りタイヤである。トレッド部3の外周面を構成するトレッド面3fには、要求されるタイヤ性能や使用条件に応じたトレッドパターンが形成されている。
 
【0010】
  ここで、タイヤ子午線断面は、タイヤTの中心軸(タイヤ回転軸)を含む平面で切断したときの断面である。タイヤ径方向は、タイヤTの直径に沿った方向である。タイヤTの中心軸に近付く側がタイヤ径方向内側となり、タイヤTの中心軸から離れる側がタイヤ径方向外側となる。タイヤ幅方向は、タイヤTの中心軸と平行な方向である。タイヤTのタイヤ幅方向中央に位置するタイヤ赤道TCに近付く側がタイヤ幅方向内側となり、タイヤ赤道TCから離れる側がタイヤ幅方向外側となる。タイヤ周方向は、タイヤTの中心軸周りの方向である。
【0011】
  ビード部1には、環状をなすビードコア1a及びビードフィラー1bが埋設されている。ビードコア1aは、ゴム被覆した鋼線などの収束体により形成されている。ビードフィラー1bは、断面略三角形状のゴムにより形成されており、ビードコア1aのタイヤ径方向外側に配置されている。
【0012】
  カーカス層4は、一対のビード部1の間でトロイド状に設けられている。カーカス層4の端部は、ビードコア1a及びビードフィラー1bを挟み込むようにして巻き上げられている。カーカス層4は、タイヤ周方向に対して略直角に延びるカーカスコードをゴム被覆して形成されたカーカスプライにより構成されている。カーカスコードとしては、ポリエステル、レーヨン、ナイロン、アラミドなどの有機繊維コードが好ましく用いられる。カーカス層4のタイヤ径方向外側にはベルト層5が積層され、ベルト層5のタイヤ径方向外側にはベルト補強層6が積層されている。
【0013】
  ベルト層5は、複数枚(本実施形態では2枚)のベルトプライにより構成されている。各ベルトプライは、タイヤ周方向に対して傾斜して延びるベルトコードをゴム被覆して形成されており、そのベルトコードがプライ間で互いに逆向きに交差するように積層されている。ベルトコードには、スチールコードが好ましく用いられる。ベルト補強層6は、タイヤ周方向に沿って延びる補強コードをゴム被覆して形成された補強プライにより構成されている。補強コードとしては、ポリエステル、レーヨン、ナイロン、アラミドなどの有機繊維コードが好ましく用いられる。
【0014】
  図2は、トレッド面3fに形成されるトレッドパターンの一例を示す平面展開図である。タイヤTは、トレッド面3fにてタイヤ周方向に沿って延びる主溝7を備えている。
図3は、主溝7のタイヤ子午線断面図である。
図4は、主溝7の断面斜視図である。
図5は、後述するセレーション領域70に配列されたリッジ10の斜視図である。
図6は、主溝7の溝壁面72を正面から見た図である。以下で説明する主溝7の構成は、トレッド面3fに設けられた複数の主溝7のうち何れに適用してもよく、全ての主溝7に適用することも可能である。
 
【0015】
  図2に示すように、本実施形態では、タイヤ赤道TCに関して非対称なトレッドパターンが採用されている。かかるタイヤTは、回転方向が指定されていないタイヤであってよい。当該トレッドパターンは、いわゆるリブパターンであるが、これに限られない。タイヤTは、トレッド面3fにてタイヤ周方向に沿って連続して延びる主溝7と、その主溝7と交差する方向に延びる横溝8とを備える。主溝7は直線状に延在しているが、これに限られず、例えばタイヤ周方向に対して5度以下の角度で傾斜した部分を含んだ形状でもよく、したがってタイヤ周方向に沿ってジグザグ状に延びる溝であってもよい。ジグザグ状に延びる溝の場合は、シースルー領域(タイヤ周方向に見て主溝7の溝壁面72によって遮られることなく見通すことができる領域)を含むことが好ましい。
 
【0016】
  図3及び4に示すように、主溝7は、溝底面71と、溝底面71からタイヤ径方向外側に延びる一対の溝壁面72とを有する。溝底面71は、溝壁面72に滑らかに連なる断面円弧状の連結面73を含む。連結面73の曲率半径Rは、例えば1.5~2.75mmである。本実施形態では、トレッド面3fと溝壁面72とがなす溝縁74と、連結面73のタイヤ径方向外側端75との間で、溝壁面72が直線状に延びている。タイヤ幅方向における主溝7の溝幅W7は、例えば4.0mm以上、好ましくは6.0mm以上である。タイヤ径方向における主溝7の溝深さD7は、例えば4.0mm以上、好ましくは6.0mm以上である。
 
【0017】
  主溝7は、主溝7の溝縁74と主溝7の溝底面71との間にセレーション領域70を含む。本実施形態では一対の溝壁面72の各々にセレーション領域70が形成されているが、少なくとも一方の溝壁面72に形成されていればよい。溝底面71にはセレーション領域70が形成されていないことが好ましい。セレーション領域70では、タイヤ径方向に沿って延びるリッジ10がタイヤ周方向に配列されている。リッジ10は、溝底面71からタイヤ径方向外側に延びる溝壁面72から突出している。かかる構成によれば、走行時に、溝壁面72から突出したリッジ10の微振動により気柱共鳴音の周波数を分散し、その結果、気柱共鳴音を低減して騒音性能を向上できる。
【0018】
  図5に示すように、リッジ10は、溝壁面72を基準とした高さH10を有する。本実施形態において、高さH10は、リッジ10の延在方向に沿って実質的に一定である。上述した気柱共鳴音の低減効果を確保する観点から、高さH10は0.1mm以上であることが好ましい。また、走行時の主溝7での空気抵抗(即ち、タイヤ周方向に沿って主溝7の内部を流れる空気の抵抗)を抑える観点から、高さH10は0.5mm以下であることが好ましい。リッジ10は、高さH10よりも大きい寸法の幅W10を有する。幅W10は、例えば高さH10の1.5~3.5倍に設定される。本実施形態において、幅W10は、リッジ10の延在方向に沿って実質的に一定である。
 
【0019】
  リッジ10の高さH10が0.1~0.5mm程度に小さい場合は、セレーション領域70における粗面の起伏が適度に小さくなるため、走行時の主溝7での空気抵抗を抑えて燃費性能を向上するうえで都合がよい。これは、走行時に主溝7の内部を流れる空気がセレーション領域70に接触した際に、リッジ10の頂部で比較的小さな空気渦が発生し、空気の剥離を抑制することで、或いはより後方で空気を剥離させることで、圧力抵抗を低減し得るためである。かかる効果を適切に奏する観点から、リッジ10の配列ピッチP10は、高さH10の2~8倍が好ましく、2~6倍がより好ましい。
【0020】
  走行時の主溝7での空気抵抗を抑える観点から、リッジ10は溝壁面72に向かって幅が漸増する形状を有することが好ましく、本実施形態では三角形状が採用されている。かかる三角形状は、頂部が丸みを帯びた三角形状であってもよく、その場合の頂部の曲率半径は例えば0.3mm以下である。リッジ10は、溝壁面72から立ち上がる一対の側面11を有し、その一対の側面11の開き角度θ11は例えば90±45度である。本実施形態では、隣り合うリッジ10が互いに離隔して配列されているが、これに限られず、互いに接するように配列されていてもよい。
【0021】
  主溝7の内部では、トレッド面3fの接地に伴って、タイヤ周方向に隣り合うリッジ10の隙間14でも空気が流れる。具体的には、リッジ10のタイヤ径方向外側端12を通って隙間14に入り込み、リッジ10に沿って流れた後、リッジ10のタイヤ径方向内側端13を通って隙間14から抜け出る、という空気の流れを生じる。主溝7を流れる空気の抵抗を減らして燃費性能を向上するうえでは、このような隙間14での空気抵抗(即ち、タイヤ径方向に沿って隙間14を流れる空気の抵抗)を抑えることが好ましい。
【0022】
  隙間14での空気抵抗を抑える観点から、側面11を適度に粗面化することが好ましく、例えば側面11の算術平均粗さRaは1.3~1.9μmに設定される。算術平均粗さRaは、JISB0601:2013(ISO4287:187,Amd.1:2009)に準拠して測定される。側面11の算術平均粗さRaを1.3μm以上にすることは、加硫成形時のゴム流れ不良を抑えてリッジ10を適切に形成するうえで都合がよい。また、側面11の算術平均粗さRaを1.9μm以下にすることにより、側面11が過度に粗くならず、リッジ10の形状に影響を及ぼさない。
【0023】
  図6に示すように、本実施形態では、リッジ10の延在方向がタイヤ径方向と一致しており、タイヤ径方向に対するリッジ10の傾斜角度θ10は実質的にゼロである。走行時の主溝7での空気抵抗を抑える効果を高めるうえで、傾斜角度θ10は60度以下であることが好ましく、45度未満であることがより好ましい。また、後述するトラクションの向上効果などを考慮してリッジ10を意図的に傾斜させる場合は、リッジ10の傾斜角度θ10を15度以上にすることが考えられる。
 
【0024】
  気柱共鳴音の低減効果を確保する観点から、セレーション領域70のタイヤ周方向長さL70は、溝壁面72のタイヤ周方向長さL72の50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。溝壁面72に横溝8が開口している場合、長さL70及び長さL72は、それぞれタイヤ周方向に隣り合う横溝8と横溝8との範囲で測定される。溝壁面72に横溝8が開口していない場合、長さL70及び長さL72は、それぞれタイヤ周方向の1周分の範囲で測定される。長さL72は、溝縁74で求められるものとする。
【0025】
  本実施形態では、リッジ10のタイヤ径方向外側端12が溝縁74に配置され、リッジ10のタイヤ径方向内側端13が、溝底面71と溝壁面72とを連結する断面円弧状の連結面73のタイヤ径方向外側端75に配置されている。かかる構成によれば、リッジ10の長さを確保しやすいため、気柱共鳴音の低減効果や、走行時の主溝7での空気抵抗を抑える効果が高められる。リッジ10に沿って流れる空気が隙間14から抜け出ることを妨げないよう、リッジ10の内側端13は、連結面73の外側端75かそれよりもタイヤ径方向外側に位置することが好ましい。
【0026】
  図7に示す変形例では、リッジ10のタイヤ径方向外側端12が、溝縁74からタイヤ径方向内側に離れて配置されている。かかる構成によれば、タイヤ周方向に沿って直線状に延びるエッジ成分が溝縁74に出現するため、横方向に対する主溝7のエッジ効果を高めることができる。溝縁74に対する外側端12の離隔距離D1は、例えば1.0~2.0mmに設定される。
図7の例では離隔距離D1がタイヤ周方向に沿って一定であるが、これに限られず、例えば横溝8に近付くにつれて離隔距離D1が小さくなるように変化してもよい。
 
【0027】
  図8に示す変形例では、リッジ10のタイヤ径方向内側端13が、連結面73のタイヤ径方向外側端75からタイヤ径方向外側に離れて配置されている。このようにして内側端13を溝底面71から遠ざけることにより、リッジ10に沿って流れる空気が隙間14から抜け出しやすくなる。連結面73の外側端75に対する内側端13の離隔距離D2は、例えば1.0~2.0mmに設定される。離隔距離D2は、一律に設定されるものに限られず、タイヤ周方向に沿って変化してもよい。離隔距離D2は、上述した離隔距離D1と共に設定することも可能である。
 
【0028】
  図9は、空気入りタイヤTの加硫成形に用いられるタイヤ加硫金型Mのタイヤ子午線断面図である。
図9ではタイヤTを破線で示しており、当該タイヤTはタイヤ幅方向を上下に向けて金型Mにセットされている。金型Mは、タイヤTのビード部1が嵌合される一対のビードリングMbと、タイヤTのサイドウォール部2を成形する一対のサイド型部Msと、タイヤTのトレッド部3を成形するトレッド型部Mtとを備える。
 
【0029】
  金型Mは、金型MにセットされたタイヤTの外表面に接するタイヤ成形面Mfを備える。タイヤ成形面Mfは、一対のサイド型部Msの内面と、トレッド型部Mtの内面とを含む。トレッド型部Mtの内面には、トレッドパターンを形成するための凹凸面が設けられている。トレッド型部Mtは、タイヤ周方向に分割された複数のセクターで構成されており、それらが寄り集まって環状に連なっている。金型Mは、かかる分割構造のトレッド型部Mtを備えたセグメンテッドモールドであるが、これに限定されず、例えばトレッド型部の中央部で上下に二分割された2ピースモールドであってもよい。
【0030】
  金型Mは、タイヤTのトレッド面3fにてタイヤ周方向に沿って延びる主溝7を成形するための突部9を備える。上記凹凸面は、突部9と共に、横溝8を成形するための突部(図示せず)なども含んでいる。加硫成形時には未加硫タイヤのトレッド面に突部9が押し当てられ、それによって主溝7が設けられる。
【0031】
  図10は、突部9のタイヤ子午線断面図である。
図11は、その突部9の断面斜視図である。突部9は、頂面91と、頂面91からタイヤ径方向外側に延びる一対の側壁面92とを有する。頂面91は、側壁面92に滑らかに連なる断面円弧状の連結面93を含む。突部9は、主溝7の溝縁74に対応する入隅縁94と主溝7の溝底面71に対応する頂面91との間にセレーション領域90を含む。セレーション領域90では、タイヤ径方向に沿って延びる窪み20がタイヤ周方向に配列されている。窪み20は、頂面91からタイヤ径方向外側に延びる側壁面92から陥没している。
 
【0032】
  このような金型Mを用いた加硫成形により得られる空気入りタイヤTは、上記の如きリッジ10を配列してなるセレーション領域70を含んだ主溝7を備える。主溝7の溝底面71、溝壁面72及び連結面73は、それぞれ頂面91、側壁面92及び連結面93によって成形される。また、セレーション領域70及びリッジ10は、それぞれセレーション領域90及び窪み20によって成形される。よって、突部9や窪み20に関する好ましい寸法、形状、配置などの詳細については、主溝7やリッジ10に関する既述の説明を参照できる。
【0033】
  [第2実施形態]
  次に、
図12及び13を参照しながら第2実施形態について説明する。第2実施形態は、以下に説明する構成を除いて第1実施形態と同様に構成できるため、共通点の説明を省略し、主に相違点について説明する。第1実施形態において既に説明した構成には、同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
 
【0034】
  第2実施形態における空気入りタイヤTは、回転方向が指定された回転方向指定型タイヤである。回転方向の指定は、例えばサイドウォール部2の外表面に付された表示により行われる。
図12に示すように、本実施形態では、タイヤ赤道TCに関して対称なトレッドパターンが採用されている。当該トレッドパターンは、いわゆるブロックパターンであるが、これに限られない。矢印RD1は回転方向の前方側を示し、車両が前進する際に先に接地する「踏み込み側」に相当する。矢印RD2はタイヤ回転方向の後方側を示し、車両が前進する際に後で接地する「蹴り出し側」に相当する。
 
【0035】
  図13に示すように、本実施形態では、リッジ10がタイヤ径方向外側に向かって踏み込み側(回転方向の前方側RD1)に傾斜している。かかる構成によれば、泥濘地や砂場などの悪路面、または水溜まりなどの濡れた路面を走行する際に、蹴り出し側で掻き出す効果が得られるためトラクションが向上する。当該効果を適切に奏する観点から、リッジ10の傾斜角度θ10は15度以上であることが好ましい。また、走行時の主溝7での空気抵抗を抑える効果を高めるうえで、傾斜角度θ10は60度以下であることが好ましい。
 
【0036】
  図示はしないが、第2実施形態の空気入りタイヤTを加硫成形するためのタイヤ加硫金型Mでは、突部9に含まれるセレーション領域90が、タイヤ径方向外側に向かって踏み込み側に傾斜した窪み20を配列したものとなる。
【0037】
  [第3実施形態]
  次に、
図14及び15を参照しながら第3実施形態について説明する。第3実施形態は、以下に説明する構成を除いて第1及び第2実施形態と同様に構成できるため、共通点の説明を省略し、主に相違点について説明する。第1実施形態において既に説明した構成には、同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
 
【0038】
  図14は、セレーション領域70に配列されたリッジ10の斜視図である。第3実施形態では、リッジ10が、溝壁面72から立ち上がる一対の側面11と、それらの間に位置する先端面15とを有する。リッジ10は溝壁面72に向かって幅が漸増する形状を有し、本実施形態では台形状が採用されている。リッジ10は、その先端面15が平坦に形成されていることにより、先鋭な頂部を有する三角形状のリッジ(第1実施形態を参照)に比べて成形が容易である。先端面15の幅W15は、特に限定されないが、例えばリッジ10の幅W10の0.25~0.7倍に設定される。
 
【0039】
  先端面15には、リッジ10よりも高さの小さい(即ち、H10>H16となる)複数の微小突起16が設けられている。かかる構成は、走行時の主溝7での空気抵抗を抑えて燃費性能を向上する効果を高めるうえで都合がよい。これは、走行時に主溝7の内部を流れる空気がセレーション領域70に接触した際に、複数の微小突起16で比較的小さな空気渦が多発的に発生し、空気の剥離を抑制することで、或いはより後方で空気を剥離させることで、圧力抵抗を効果的に低減し得るためである。
【0040】
  微小突起16の高さH16は、例えば0.5~5μmである。微小突起16の幅W16は、例えば微小突起16の高さH16の2~4倍に設定される。本実施形態では、微小突起16がドーム形状または半球形状に設けられている例を示すが、微小突起16の形状はこれに限られない。
【0041】
  図15(A)及び(B)は、それぞれリッジ10の先端面15の拡大図である。
図15において、上下方向はリッジ10の延在方向に相当し、左右方向はリッジ10の幅方向に相当する。
図15では微小突起16の位置関係が模式的に描かれており、先端面15に対する微小突起16のサイズは、
図15で看取される形態よりも小さい(または大きい)ものでもよい。
 
【0042】
  図15(A)の例では、リッジ10の幅方向から見て複数の微小突起16がリッジ10の延在方向に相互にオーバーラップしていない。これに対し、
図15(B)の例では、リッジ10の幅方向から見て複数の微小突起16がリッジ10の延在方向に相互にオーバーラップしている。
図15(B)において、先端面15上でリッジ10の幅方向に平行に延びる仮想ラインVLは、何処に設定しても微小突起16を通る。かかる構成によれば、複数の微小突起16で小さな空気渦を無駄なく多発的に生じさせて、圧力抵抗をより効果的に抑制することができる。
 
【0043】
  図示はしないが、第3実施形態の空気入りタイヤTを加硫成形するためのタイヤ加硫金型Mでは、突部9に含まれるセレーション領域90が、リッジ10に対応した台形状の窪み20を配列したものとなる。また、リッジ10の先端面15に対応する窪み20の底面には、微小突起16を成形するための複数の微小凹部が設けられる。かかる窪み20や微小凹部に関する好ましい寸法、形状、配置などの詳細については、リッジ10及び微小突起16に関する既述の説明を参照できる。
【0044】
  上述した実施形態が以下の態様の具体例であることは、当業者によって理解される。
【0045】
  [1]
  本開示の空気入りタイヤは、トレッド面にてタイヤ周方向に沿って延びる主溝を備え、前記主溝は、前記主溝の溝縁と前記主溝の溝底面との間にセレーション領域を含み、前記セレーション領域では、タイヤ径方向に沿って延びるリッジがタイヤ周方向に配列されており、前記リッジは、前記溝底面からタイヤ径方向外側に延びる溝壁面から突出している。かかる構成によれば、走行時に、溝壁面から突出したリッジの微振動により気柱共鳴音の周波数を分散し、その結果、気柱共鳴音を低減して騒音性能を向上できる。
【0046】
  [2]
  上記[1]の空気入りタイヤにおいて、前記リッジがタイヤ径方向に対して傾斜していてもよい。かかる構成によれば、リッジがタイヤ径方向外側に向かって踏み込み側に傾斜するようにタイヤを装着した場合において、泥濘地や砂場などの悪路面、または水溜まりなどの濡れた路面を走行する際のトラクションの向上を図ることができる。
【0047】
  [3]
  上記[1]または[2]の空気入りタイヤにおいて、回転方向が指定されており、前記リッジがタイヤ径方向外側に向かって踏み込み側に傾斜している、という構成でもよい。かかる構成によれば、泥濘地や砂場などの悪路面、または水溜まりなどの濡れた路面を走行する際のトラクションの向上を図ることができる。
【0048】
  [4]
  上記[1]~[3]いずれか1つの空気入りタイヤにおいて、前記リッジのタイヤ径方向外側端が前記溝縁に配置され、前記リッジのタイヤ径方向内側端が、前記溝底面と前記溝壁面とを連結する断面円弧状の連結面のタイヤ径方向外側端に配置されている、という構成でもよい。かかる構成によれば、リッジの長さを確保しやすく、気柱共鳴音の低減効果や、走行時の主溝での空気抵抗を抑える効果を高めるうえで都合がよい。
【0049】
  [5]
  上記[1]~[3]いずれか1つの空気入りタイヤにおいて、前記リッジのタイヤ径方向外側端が、前記溝縁からタイヤ径方向内側に離れて配置されていてもよい。かかる構成によれば、タイヤ周方向に沿って直線状に延びるエッジ成分が溝縁に出現するため、横方向に対する主溝のエッジ効果を高めることができる。
【0050】
  [6]
  上記[1]~[3]及び[5]いずれか1つの空気入りタイヤにおいて、前記リッジのタイヤ径方向内側端が、前記溝底面と前記溝壁面とを連結する断面円弧状の連結面のタイヤ径方向外側端からタイヤ径方向外側に離れて配置されていてもよい。かかる構成によれば、リッジに沿って流れる空気が、タイヤ周方向に隣り合うリッジの隙間から抜け出しやすくなり、当該隙間を流れる空気の抵抗が抑えられる。
【0051】
  [7]
  上記[1]~[6]いずれか1つの空気入りタイヤにおいて、前記リッジは、前記溝壁面から立ち上がる一対の側面と、それらの間に位置する先端面を有し、前記先端面には、前記リッジよりも高さの小さい複数の微小突起が設けられている、という構成でもよい。かかる構成成によれば、複数の微小突起で小さな空気渦を多発的に生じさせて圧力抵抗を抑制できるため。走行時の主溝での空気抵抗が効果的に抑えられる。
【0052】
  [8]
  上記[7]の空気入りタイヤにおいて、前記リッジの幅方向から見て複数の前記微小突起が前記リッジの延在方向に相互にオーバーラップしていてもよい。かかる構成によれば、複数の微小突起で小さな空気渦を無駄なく多発的に生じさせて圧力抵抗を抑制できるため、走行時の主溝での空気抵抗がより効果的に抑えられる。
【0053】
  [9]
  上記[1]~[8]いずれか1つの空気入りタイヤにおいて、前記リッジが0.5mm以下の高さを有する、という構成でもよい。このような高さを有するリッジは、タイヤ周方向に沿って主溝の内部を流れる空気の抵抗を抑えるうえで好ましいものとなる。
【0054】
  [10]
  本開示のタイヤ加硫金型は、タイヤのトレッド面にてタイヤ周方向に沿って延びる主溝を成形するための突部を備え、前記突部は、前記主溝の溝縁に対応する入隅縁と前記主溝の溝底面に対応する頂面との間にセレーション領域を含み、前記セレーション領域では、タイヤ径方向に沿って延びる窪みがタイヤ周方向に配列されており、前記窪みは、前記頂面からタイヤ径方向外側に延びる側壁面から陥没している。かかる構成によれば、上記の如き主溝によって気柱共鳴音を低減し得る空気入りタイヤが得られる。
【0055】
  本開示の空気入りタイヤは、トレッド面の主溝を上記の如く構成したこと以外は、通常の空気入りタイヤと同等に構成でき、従来公知の材料や形状、構造、製法などは何れも採用することが可能である。
【0056】
  本開示のタイヤ加硫金型は、主溝を成形するための突部を上記の如く構成したこと以外は、通常のタイヤ加硫金型と同等に構成でき、従来公知の材料や形状、構造、機構などは何れも採用することが可能である。
【0057】
  本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、この実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、更に、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。
【0058】
  本開示の空気入りタイヤ及びタイヤ加硫金型は、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものではない。本開示の空気入りタイヤ及びタイヤ加硫金型は、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。また、上述した実施形態で採用されている各構成を任意に組み合わせて採用することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
  1  ビード部、2  サイドウォール部、3  トレッド部、3f  トレッド面、7  主溝、9  突部、10  リッジ、11  側面、12  タイヤ径方向外側端、13  タイヤ径方向内側端、15  先端面、16  微小突起、70  セレーション領域、71  溝底面、72  溝壁面、73  連結面、74  溝縁、75  タイヤ径方向外側端、90  セレーション領域、91  頂面、92  側壁面、94  入隅縁