(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016132
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】レーザ装置、元素分析システム、及び元素分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/71 20060101AFI20250124BHJP
G01N 29/04 20060101ALI20250124BHJP
【FI】
G01N21/71
G01N29/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023119201
(22)【出願日】2023-07-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年6月26日~30日に開催されたColloquium Spectroscopicum Internationale XLIII and The 5th Asian Symposium on Laser Induced Breakdown Spectroscopy(CSI XLIII&ASLIBS 2023)にて予稿集の配布及び発表
(71)【出願人】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バットセーハン ムンクバット
(72)【発明者】
【氏名】大場 弘則
【テーマコード(参考)】
2G043
2G047
【Fターム(参考)】
2G043BA03
2G043EA08
2G043HA05
2G043KA01
2G043KA08
2G043KA09
2G043LA07
2G047AA06
2G047CA04
2G047CA07
2G047GD02
(57)【要約】
【課題】レーザ光を用いて対象物に含有する元素を分析する際に、対象物の表面の破壊を抑制し、高精度な元素分析を可能とする。
【解決手段】対象物(M)に対してレーザ光(22)を照射するレーザ照射部(40)を備えたレーザ装置(30)において、レーザ光(22)の照射により対象物(M)から生じる音波(24)を取得する音波取得部(50)を備え、レーザ照射部(40)は、音波取得部(50)にて取得された音波に基づいて所定の焦点位置に制御される、ことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に対してレーザ光を照射するレーザ照射部を備えたレーザ装置において、
前記レーザ光の照射により前記対象物から生じる音波を取得する音波取得部を備え、
前記レーザ照射部は、前記音波取得部にて取得された前記音波に基づいて所定の焦点位置に制御される、
ことを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ装置において、
前記レーザ照射部と前記音波取得部とは、隣接して配置される、
ことを特徴とするレーザ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のレーザ装置において、
前記レーザ照射部と前記音波取得部とのレーザ光軸に直交する方向における距離aは、100mm以下である、
ことを特徴とするレーザ装置。
【請求項4】
請求項1に記載のレーザ装置において、
前記レーザ照射部による前記レーザ光の照射タイミングと、前記音波取得部による前記音波の取得タイミングとが同期する、
ことを特徴とするレーザ装置。
【請求項5】
請求項1に記載のレーザ装置において、
複数の前記音波取得部を備える、
ことを特徴とするレーザ装置。
【請求項6】
請求項5に記載のレーザ装置において、
複数の前記音波取得部は、レーザ光軸方向から見て前記レーザ照射部の周囲に均等に配置される、
ことを特徴とするレーザ装置。
【請求項7】
請求項1に記載のレーザ装置において、
前記音波取得部が光マイクロフォンである、
ことを特徴とするレーザ装置。
【請求項8】
請求項1に記載のレーザ装置において、
前記レーザ照射部は、前記対象物によるプラズマ発光が不能な所定のパワー密度に設定された前記レーザ光を前記対象物に照射し、
前記音波取得部は、前記所定のパワー密度で照射された前記レーザ光により励起した前記音波を取得する、
ことを特徴とするレーザ装置。
【請求項9】
請求項8に記載のレーザ装置において、
前記対象物が金属材料の場合に、前記所定のパワー密度は、600MW/cm2以下に設定される、
ことを特徴とするレーザ装置。
【請求項10】
対象物に対してレーザ光を照射するレーザ照射部と、
前記レーザ光の照射により前記対象物に含有する元素を分析する分析部と、を備えた元素分析システムにおいて、
前記レーザ光の照射により前記対象物から生じる音波を取得する音波取得部と、
前記音波取得部にて取得された前記音波に基づいて、前記レーザ照射部の焦点位置を決定する焦点位置決定部と、
前記焦点位置決定部により決定された前記焦点位置に前記レーザ照射部を位置合わせする位置調整機構と、を備えた、
ことを特徴とする元素分析システム。
【請求項11】
請求項10に記載の元素分析システムにおいて、
前記レーザ光を生成する半導体レーザと、
前記半導体レーザにより生成された前記レーザ光を前記レーザ照射部へ伝送する光ファイバと、を備え、
前記レーザ照射部と前記音波取得部とは、前記光ファイバの先端部において隣接配置される、
ことを特徴とする元素分析システム。
【請求項12】
請求項10に記載の元素分析システムにおいて、
前記位置調整機構としての二次元ステージまたは三次元ステージを備え、
前記二次元ステージまたは前記三次元ステージは、前記焦点位置決定部からの指令に従い、前記レーザ照射部の位置を制御する、
ことを特徴とする元素分析システム。
【請求項13】
請求項10に記載の元素分析システムにおいて、
前記位置調整機構としてのロボットアームを備え、
前記レーザ照射部及び前記音波取得部は、前記ロボットアームの先端に設けられ、
前記ロボットアームは、前記焦点位置決定部からの指令に従い、前記レーザ照射部の位置を制御する、
ことを特徴とする元素分析システム。
【請求項14】
対象物に対してレーザ光を照射する第1ステップと、
前記レーザ光の照射により前記対象物から生じる音波を取得する第2ステップと、
前記第2ステップで取得した前記音波に基づいて、前記レーザ光を照射する焦点位置を決定する第3ステップと、
前記第3ステップで決定した前記焦点位置から前記レーザ光を照射して、前記対象物に含有する元素を分析する第4ステップと、
を含む元素分析方法。
【請求項15】
請求項14に記載の元素分析方法において、
前記第3ステップにおいて、前記音波のピークに対応する位置を前記焦点位置として決定する、
ことを特徴とする元素分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ装置、元素分析システム、及び元素分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、レーザ光を用いて対象物に含有する元素を分析する技術が知られている。その一例であるレーザ誘起ブレークダウン分光法(Laser-Induced Breakdown Spectroscopy:LIBS)は、パルスレーザをサンプルに照射し、発生するプラズマの波長を分光器で分解して、波長ごとの光強度を分析することで含有する元素成分を特定する元素分析手法である。
【0003】
このLIBSを用いた分析装置として、例えば特許文献1には、制御装置と、レーザ光源と、レーザ発振器と、レーザ発振用光ファイバと、蛍光検出用光ファイバと、分光器と、蛍光検出器とを有する分析装置が記載されている。
【0004】
特許文献1に記載の分析装置を用いて溶融物の元素を分析する場合、作業者は、モニタにより溶融物の位置を確認し、レーザ発振用光ファイバの先端部と蛍光検出用光ファイバの先端部の位置を調整すると共に、レーザ発振用光ファイバの先端部から溶融物の表面までの距離と蛍光検出用光ファイバの先端部から溶融物の表面までの距離を調整する。そして、レーザ発振器がレーザ発振用光ファイバを通して溶融物の表面に向けてパルスレーザ光を発振し、蛍光検出器が、蛍光検出用光ファイバにより分光器を介して溶融物の表面で生成された蛍光を検出する。この蛍光に基づいて、溶融物に含有する元素が特定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術において、溶融物(対象物/試料)の元素分析を正しく行うためには、溶融物に対してパルスレーザ光を複数回照射して、プラズマ発光したときの信号強度を確認しながら、レーザ光の焦点位置を調整する必要がある。そのため、焦点位置の調整の度に溶融物の表面が破壊されてしまい、溶融物の元素分析の精度が低下することが懸念される。
【0007】
そこで、本発明は、レーザ光を用いて対象物に含有する元素を分析する際に、対象物の表面の破壊を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の第一の態様は、対象物に対してレーザ光を照射するレーザ照射部を備えたレーザ装置において、前記レーザ光の照射により前記対象物から生じる音波を取得する音波取得部を備え、前記レーザ照射部は、前記音波取得部にて取得された前記音波に基づいて所定の焦点位置に制御される、ことを特徴とする。
【0009】
また、上記目的を達成するために、本発明の第二の態様は、対象物に対してレーザ光を照射するレーザ照射部と、前記レーザ光の照射により前記対象物に含有する元素を分析する分析部と、を備えた元素分析システムにおいて、前記レーザ光の照射により前記対象物から生じる音波を取得する音波取得部と、前記音波取得部にて取得された前記音波に基づいて、前記レーザ照射部の焦点位置を決定する焦点位置決定部と、前記焦点位置決定部により決定された前記焦点位置に前記レーザ照射部を位置合わせする位置調整機構と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、上記目的を達成するために、本発明の第三の態様は、対象物に対してレーザ光を照射する第1ステップと、前記レーザ光の照射により前記対象物から生じる音波を取得する第2ステップと、前記第2ステップで取得した前記音波に基づいて、前記レーザ光を照射する焦点位置を決定する第3ステップと、前記第3ステップで決定した前記焦点位置から前記レーザ光を照射して、前記対象物に含有する元素を分析する第4ステップと、を含む元素分析方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、レーザ光を用いて対象物に含有する元素を分析する際に、対象物の表面の破壊を抑制できる。よって、本発明によれば、高精度な元素分析が可能である。なお、上記した以外の課題、構成、及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係る元素分析システムの全体構成図である。
【
図3】プローブと溶融物との位置関係を示すモデル図である。
【
図4】レーザ光軸とマイク部との距離aに対する音波の減衰割合を示す図である。
【
図5】照射部と溶融物との距離に対する音波振幅値及びLIBS分析の総カウント数の関係を示す図である。
【
図6】元素分析の手順を示すフローチャートである。
【
図7】変形例に係るプローブの構成を示す図であり、(a)はプローブの上面図、(b)はプローブの正面図、(c)はプローブに入射する音波の方向を示す図である。
【
図8】第2実施形態にかかる元素分析システムの構成図である。
【
図9】元素分析システムを原子炉建屋内の溶融物の元素分析に適用した例を示す図である。
【
図10】第3実施形態にかかる元素分析システムの構成図である。
【
図11】燃料デブリを模擬した複数元素の混合酸化物を均一に混合し焼結した試料を示す図であり、(a)は試料の組成比、(b)は試料の外観写真、(c)は試料の外形寸法を示す。
【
図12】
図11に示す試料について、元素分析システムを用いて測定した表面形状測定結果を示す図である。
【
図13】燃料デブリを模擬した複数元素を不均一に混合した酸化物試料を示す図であり、(a)は試料の組成比、(b)は試料の外観写真を示す。
【
図14】
図13に示す試料に対して、元素分析システムを用いて取得した2次元元素マッピングを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るレーザ装置、元素分析システム、及び元素分析方法の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る元素分析システム100の全体構成図である。
図1に示す元素分析システム100は、LIBS分析に用いられる。元素分析システム100は、レーザ光源10と、分光分析部(分析部)15と、プローブ(レーザ装置)30と、コントローラ(焦点位置決定部)60と、ステージ(位置調整機構)70と、を備える。レーザ光源10は、光ファイバケーブル21(以下、「光ファイバ21」という)を介してプローブ30と接続される。分光分析部15も、同様に、光ファイバ21を介してプローブ30と接続される。また、レーザ光源10、分光分析部15、プローブ30、及びステージ70は、電気ケーブル(図中の点線)を介してコントローラ60と電気的に接続されている。
【0015】
本実施形態に係る元素分析システム100は、過酷環境下(例えば、放射線量が高い環境下など)で溶融物Mの元素を分析するために使用される。そのため、プローブ30は、放射線に対する耐性を有している。また、放射線に対する耐性がある高濃度OH基ドープ型や水素ドープアニール型の光ファイバ21が用いられている。
【0016】
なお、
図1において、符号22はレーザ光、符号23はプラズマ発光、符号24は音波を、それぞれ示している。次に、
図1の各構成について詳細に説明する。
【0017】
<レーザ光源10>
レーザ光源10は、所定周波数のレーザを発振する。ここで、レーザ光源10としては、例えば、半導体レーザを用いるのが好ましい。これは、一般的に使用される例えば近赤外あるいは可視パルス発振Nd3+:YAGレーザと比較すると、レーザ光を伝送する光ファイバ21の口径および適用できる長さに利点を有するからである。特に、上記した過酷環境下では、遠隔操作により分析作業を行う必要があり、作業性が重要視されることから、長距離伝送が可能な半導体レーザが好ましい。なお、レーザ光源10の動作は、コントローラ60により制御されている。
【0018】
<分光分析部15>
分光分析部15では、溶融物(例えば放射性物質/燃料デブリ)Mにレーザ光22を照射することで生成されたプラズマ発光23を分光分析する。具体的には、分光分析部15は、プラズマ発光23を波長と強度に分割し、プラズマ発光23の波長及び強度に関するスペクトル情報を生成している。そして、これらの情報は、コントローラ60に入力される。
【0019】
<プローブ30>
プローブ30は、光ファイバ21の先端部に設けられ、レーザ照射部40と、音波取得部50と、を備える。プローブ30は、本発明に係るレーザ装置の一例である。
【0020】
図2は、プローブ30の内部構成を示す図である。
図2に示すように、プローブ30は、レーザ照射部40と音波取得部50とが、互いの長手方向が照射方向(
図2の左右方向)を向くように隣接して配置されると共に、両者が一体化された構成である。ただし、詳細は後述するが、両者が必ずしも一体化された構造である必要はなく、離間していても良い。
【0021】
(レーザ照射部40)
レーザ照射部40は、レーザ光伝送部41と、レーザ共振部42と、光学部43,44,46,47と、窓部45と、プラズマ発光伝送部48と、筐体49と、を備える。レーザ光伝送部41及びプラズマ発光伝送部48は、光ファイバ21で構成されている(
図1参照)。筐体49は、レーザ共振部42、光学部43,44,46,47、及び窓部45を収容する。
【0022】
レーザ共振部42は、Nd3+:YAG及びCr4+:YAGのコンポジット結晶からなる。レーザの入射側にレーザ媒体であるNd3+:YAG結晶(以下「Nd3+結晶」という)が配置され、レーザの出射側に可飽和吸収体であるCr4+:YAG結晶(以下「Cr4+結晶」という)が配置される。Nd3+結晶に、レーザ光源10から波長808nmのレーザ光が準連続的に入射すると、当該結晶中のNd3+が励起し、波長1064nmのレーザを発振する。一方、Cr4+結晶は通常不透明であるため、当該レーザを透過しないが、Cr4+結晶に当該レーザが吸収され続けることで、当該結晶が透明になり、1064nmのパルスレーザ(<1000ps)を発振する。この種のレーザは、受動Qスイッチ型パルスレーザ発振器といわれている。
【0023】
なお、Nd3+結晶の808nm入射面は、1064nm高反射率、808nm高透過率のコーティングが施されている。また、Cr4+結晶のパルスレーザ出射面には、1064nm部分反射コーティングが施されている。これらの結晶及びコーティングが、レーザ共振部42を形成している。
【0024】
光ファイバ21の端面から出射される光は、光ファイバ21内で全反射条件を満たす多重反射光束でなければならないことから、もはや並行光ではなく、光ファイバ21の屈折率で定義される仰角内の角度を有する光束の集合となる。このため、端面光束の光学系による縮小像転送によってのみ集光されることから、十分なエネルギー密度を得ることが困難である。そこで、本実施形態では、半導体レーザ光が伝送された光ファイバ21の先端に、レーザ媒体であるレーザ共振部42を装備している。
【0025】
本実施形態によるビーム形状は、方向の定まったビームである。当該ビーム形状によれば、容易にエネルギー密度を高めることが可能であり、レーザ生成プラズマ発光を生じやすく、低エネルギーでの効率的な分析を可能にするという効果を奏する。
【0026】
レーザ共振部42では近赤外波長のパルスレーザが発振するが、当該レーザ光を非線形光学結晶などに入射することで高調波のパルスレーザが抽出できる。例えば、レーザ共振部42から出射した波長1064nmのパルスレーザ光をLBO(三ホウ酸リチウム)結晶に入射すると、半分の波長である532nmの光が発生して、1064nmと共にパルスレーザ光を発振する。なお、LBO結晶が高い放射線量照射下においても機能を保持できることは、本発明者らにより確認実証済みである。
【0027】
LIBS分析において、核燃料物質の発光スペクトルは、特に紫外波長域から可視波長域に亘って代表的な発光線がある。短い波長(光子エネルギーが高い)のレーザ光を使用することは、イオンやより高励起状態レーザ生成プラズマが形成できる、すなわち紫外波長域から可視波長域での発光スペクトル出現において有効な手段であり、最終形では高調波レーザ光の適用が望ましい。
【0028】
なお、532nmレーザ光発振後にLBO結晶を設置することで、1064nmの1/3の波長、即ち355nmのレーザ光を発生させることができる。この波長のレーザ光の利用は、イオンやより高励起状態レーザ生成プラズマ発光分光に適している。
【0029】
レーザ共振部42が発振したレーザ光22は、光学部43,44を通過し、窓部45を介して溶融物Mに照射される。溶融物Mで発生したプラズマ発光23は、窓部45からレーザ照射部40内に進入し、光学部44,46で反射され、光学部47を通過して、プラズマ発光伝送部48から分光分析部15(
図1参照)に入射される。
【0030】
(音波取得部50)
音波取得部50は、マイク部51と、音波伝送部52と、を備える。音波伝送部52は、光ファイバ21で構成される(
図1参照)。
【0031】
マイク部51は、放射線量の高い過酷環境下での使用に適した、例えば、光マイクロフォンやガラス薄膜を採用するマイク、あるいはファイバ・ブラッグ・グレーティング(以下「光マイクロフォン等」という。)などが用いられる。これらのマイクは、構造が簡易であり、耐放射線性に優れているため、放射線量の高い過酷環境下の使用に適している。なお、入手性および費用面から光マイクロフォンが最も望ましい。また、例えば、マイク部として一般的なマイクロフォンであれば、その電気信号は出力インピーダンスが高い為、一般的には長距離伝送が困難である。そのまま伝送した場合、減衰が生じるだけでなく、ループノイズや誘導ノイズが混入するために使用に適さないが、光マイクロフォン等であれば、出力インピーダンスが低いことから、長距離伝送が可能となり、過酷環境下であっても遠隔にて当該電気信号を取得することが可能になる。レーザ光22が溶融物Mに照射されると、当該溶融物Mの温度変化によって、音波24が発生する。マイク部51は、この音波24を取得する。なお、過酷環境下でなく、かつ、電気信号の長距離伝送が不要であれば、一般的なマイクの使用も可能である。
【0032】
次に、マイク部51のレーザ照射部40に対する好ましい取付位置について、
図3及び
図4を参照しながら説明する。
図3は、プローブ30と溶融物Mとの位置関係を示すモデル図である。
図4は、レーザ光軸とマイク部51との距離a(即ち、レーザ光軸に直交する方向における両者間の距離)に対する音波24の減衰割合を示す図である。
図4において、横軸はマイク部51とレーザ光軸との距離a(mm)、縦軸はマイク部51が取得する溶融物Mからの音波振幅値(ピーク値:V)である。なお、
図4に示すグラフは、
図3におけるレーザ照射部40と溶融物Mとの距離Z(LTSD)を一定(例えば、20mm)にしたときの結果を示している。
【0033】
図4に示すように、レーザ光軸からの距離aが大きくなるほど、音波振幅値が低下していくことが分かる。マイク部51のレーザ光軸からの距離aが100mmを超えれば、音波振幅値の低下により、ノイズ成分が主となるため、音波の測定が困難になる。また、距離aが20mmの場合と50mmの場合とを比べると、音波振幅値は半分未満となる。そのため、マイク部51はレーザ光軸に近づけることが好ましく、なるべく、レーザ光軸と同軸上であることが望ましい。ただし、実際には、レーザ照射部40の構造上、マイク部51をレーザ光軸上に配置するのは困難であるため、マイク部51のレーザ光軸からの距離aは100mm以下であれば良く、50mm以下が好ましく、20mm以下が最も好ましい。なお、マイク部51はレーザ照射部40と必ずしも一体化している必要はなく、距離aが上記の記載の範囲内であれば、離間していても良い。なお、LIBS分析において、距離Zは概ね20mm程度であるため、
図3において、距離aを20mmとした場合、レーザ光軸と音波24との成す角度θは45度程度である。
【0034】
<コントローラ60>
コントローラ60は、各種演算等を行うCPU、CPUによる演算を実行するためのプログラムを格納するROMやHDD等の記憶装置、CPUがプログラムを実行する際の作業領域となるRAM、及び他の機器とデータを送受信する際のインタフェースである通信インタフェースを含むハードウェアと、記憶装置に記憶され、CPUにより実行されるソフトウェアとから構成される。コントローラ60の各機能は、CPUが、記憶装置に格納された各種プログラムをRAMにロードして実行することにより、実現される。
【0035】
コントローラ60は、元素分析システム100全体を制御する。具体的には、コントローラ60は、レーザ光源10からレーザ照射部40へのレーザ光の照射タイミングと、音波取得部50による音波24の取得タイミングとが同期するよう制御する。そして、コントローラ60は、プローブ30から入力される音波情報に基づいて、ステージ70を制御し、溶融物Mの位置を調整する(詳細後述)。また、コントローラ60は、分光分析部15から入力されるLIBS分析の結果に基づいて、図示しないモニタへ所定の表示を行う。
【0036】
<ステージ70>
ステージ70は、三次元ステージである。ステージ70には溶融物Mが載置されており、ステージ70はコントローラ60からの指令に従い、プローブ30(レーザ照射部40)に対する溶融物Mの相対位置を制御する。別言すれば、ステージ70が溶融物Mの位置を三次元座標上の所定位置に移動することで、レーザ照射部40の焦点位置合わせが行われる。なお、ステージ70は、二次元ステージであっても良い。
【0037】
以上のように構成された元素分析システム100において、レーザ照射部40が溶融物Mに対して所定強度のレーザ光22を照射すると、それにより生じた音波24がマイク部51により取得される。この音波24の振幅値(振幅強度)に基づいて、コントローラ60は、レーザ照射部40(プローブ30)の焦点位置を演算し、ステージ70の駆動を制御する。すると、溶融物Mの位置が変化し、レーザ照射部40と溶融物Mとの相対位置が定まり、その結果、レーザ照射部40が適切な焦点位置に位置合わせされる。
【0038】
次に、レーザ照射部40の焦点位置を音波振幅値に基づいて決定する方法について、
図3及び
図5を参照しながら説明する。
図5は、レーザ照射部40と溶融物Mとの距離に対する音波振幅値及びLIBS分析の総カウント数(波長に対する発光スペクトル強度)の関係を示す図である。
図5において、横軸はレーザ照射部40の窓部45と溶融物Mとの距離LTSD(mm)(
図3参照)、縦軸左側は音波振幅値(ピーク値:V)、縦軸右側はLIBS強度(a.u:任意単位)である。なお、
図5は、溶融物Mとして銅(Cu)を用いた場合の測定結果を示している。
【0039】
図5から明らかなように、マイク部51で取得した音波振幅値は、距離LTSD:20mmまたは21mmにおいて高く、LIBS強度も距離LTSD:20mmまたは21mmにおいて高い。このことから、音波24の振幅値が概ね最大となる距離LTSD(以下、「特定距離」という)が分かれば、その特定距離だけ離れた位置からレーザ照射部40が溶融物Mにレーザ光を照射すれば、高い強度のプラズマ発光23を得ることができる。つまり、溶融物Mから特定距離だけ離れた位置が、レーザ照射部40の最適な焦点位置となる。
【0040】
なお、本発明者らは、同様の実験をその他の元素、例えば、Al、Fe、Zr金属について行ったところ、Cuと同様の傾向を示すことが確認できた。よって、音波に基づくレーザ照射部40と溶融物Mとの特定距離を把握することで、広範な金属元素を含有する溶融物Mに対して、適切な焦点位置を求めることができることが分かった。本発明は、この知見に基づき、音波振幅値から最適な焦点位置を演算し、レーザ照射部40の焦点位置を制御している点が、従来にはなかった大きな特徴である。
【0041】
ここで、音波は、プラズマ発光より低パワー密度のレーザ光であっても生成可能である。例えば、パワー密度が所定閾値である600MW/cm2以下であれば、酸化物に対してプラズマ発光しない。ところが、低パワー密度のレーザ光を酸化物に照射しても、酸化物から音波が生成されることが、本発明者らの実験により確認できた。なお、音波が生成されるのは400MW/cm2以上であれば良いことが分かった。
【0042】
このことから、金属材料から成る溶融物Mに対して、例えば対象物の破壊を抑制しつつ、音波を生成するという観点では、400MW/cm2以上600MW/cm2以下の低パワー密度(所定のパワー密度)のパルスレーザ光を照射することで、コントローラ60が音波24に基づいて焦点位置を演算できる。その際、低パワー密度のパルスレーザ光では、溶融物Mからプラズマ発光しないため、溶融物Mの表面が破壊の抑制ができる。なお、所定閾値として400MW/cm2以上600MW/cm2以下を例示したが、この閾値は、パルスレーザ光の照射対象となる物体の性質に応じて、適宜定めれば良い。
【0043】
このようにレーザ光のパワー密度を制御することで、溶融物Mの表面の破壊を抑制しつつ、レーザ照射部40の焦点位置合わせが可能となり、その後の溶融物Mの元素分析を高精度で行うことができる。
【0044】
次に、元素分析システム100による溶融物Mの元素分析方法について説明する。
図6は、元素分析システム100を用いた元素分析の手順を示すフローチャートである。
【0045】
まず、レーザ光源10がレーザ(例えば半導体レーザ)を出力する(S1)。次いで、レーザ共振部42が低パワー密度(例えば、400MW/cm2以上600MW/cm2以下)のレーザ光22を溶融物M全体に亘って照射する(S2)。次いで、マイク部51が溶融物Mから誘起された音波24を取得する(S3)。コントローラ60は、音波振幅の最大値に対応する溶融物Mに対する距離LTSDを求め、溶融物Mに対するレーザ照射部40の焦点位置を決定する(S4)。次いで、コントローラ60は、ステージ70の駆動を制御して、レーザ照射部40と溶融物Mとの距離が、求めた値(LTSD)になるように溶融物Mの位置を調整する(S5)。結果として、レーザ照射部40の溶融物Mに対する焦点位置合わせが完了する。
【0046】
S1~S5においてレーザ照射部40の焦点位置合わせが完了したら、レーザ共振部42が高パワー密度(例えば、600MW/cm2を超える)のレーザ光22を溶融物Mに照射し、溶融物Mから生じたプラズマ発光23に基づいて元素分析を行う(S6)。こうして、溶融物Mの元素分析が完了する。なお、S5において、コントローラ60がステージ70の駆動を制御する代わりに、作業者が距離計等を用いてプローブ30の位置を手動で調節して、レーザ照射部40と溶融物Mとの距離が上記により求めた距離(LTSD)になるように、レーザ照射部40の焦点位置合わせを行っても良い。
【0047】
次に、このように構成された本実施形態の作用効果について説明する。
【0048】
低パワー密度のレーザ光22を照射して、音波24を検出する構成としたので、元素分析の準備段階において、溶融物Mの表面の破壊を抑制しつつ、レーザ照射部40(プローブ30)の焦点位置を調整できる。よって、高精度で元素分析を行うことができる。特に、従来であれば、元素分析の準備段階でプラズマ発光するレベルの高パワー密度のレーザを照射して焦点位置を合わせる必要があったため、実際の元素分析を行う前に溶融物Mの表面の破壊を抑制しつつ、正しい元素分析ができない虞があった。ところが、上記した本実施形態によれば、焦点位置の調整のために溶融物Mの表面の破壊を抑制しつつ、高精度でLIBS分析が可能である。
【0049】
図5に示すように、距離LTSDに対する音波振幅値の特性と、距離LTSDに対するプラズマ発光強度の特性とは、傾向が一致している。そのため、低パワー密度のレーザ光22を溶融物M全体に照射することで、溶融物Mの表面の破壊を抑制しつつ、元素分布及び全体形状を把握することができる。
【0050】
放射線に耐性を有する光マイクロフォン等のマイク部51を用いることで、過酷環境下での焦点位置合わせも可能である。仮に、マイク部51の代わりにレーザ距離計等を使用しても、溶融物Mの表面の破壊を抑制しつつ、焦点位置合わせを行うことは可能であるが、レーザ距離計は放射線に対する耐性がないため、過酷環境下を想定した場合、本実施形態の構成が有利である。
【0051】
光ファイバ21の先端部にプローブ30(レーザ照射部40、音波取得部50)を取り付け、レーザ照射部40のレーザ共振部42からパルスレーザを発振する構成としたので、長距離伝送が可能となる。特に、レーザ光源10として半導体レーザを用いると、理論上、光ファイバ21による伝送距離を無限にできる。また、レーザ共振部42でパルスレーザを発振することにより、レーザ光源10からプローブ30までの間の光ファイバ21を大口径にしなくて済む。そのため、過酷環境下での元素分析作業の作業性が向上する。また、小口径の光ファイバ21を使用できることから、経済的にも有利となる。
【0052】
レーザ共振部42として、Nd3+結晶を用いているので、核燃料物質を含有する溶融物Mの元素分析に好適である。
【0053】
コントローラ60が、音波取得部50による音波24の取得タイミングとレーザ照射部40によるレーザ光22の照射タイミングとが同期するよう制御しているので、ノイズ成分と音波との違いを精度良く判定することができ、焦点位置の制御が高精度で行える。
【0054】
(変形例)
上記した実施形態例では、マイク部51を1つ用いた構成を説明したが、マイク部51の数は複数であっても良い。
図7は、変形例に係るプローブ30-1の構成を示す図であり、(a)はプローブ30-1の上面図、(b)はプローブ30-1の正面図、(c)はプローブ30-1に入射する音波24の方向を示す図である。
【0055】
図7(a),(b)に示すように、プローブ30-1は、4つの音波取得部50a,50b,50c,50dを備えている。即ち、プローブ30-1は4つのマイク部51a,51b,51c,51dを備えている。そして、音波取得部50a,50b,50d,50c(マイク部51a,51b,51c,51d)は、レーザ光軸の方向から見て、レーザ照射部40の周囲に90度ずつ間隔を空けて均等に配置されている。
【0056】
図7(c)に示すように、溶融物Mの表面に凸部M1が形成されていた場合、音波24-1は凸部M1によって阻止されるために、マイク部51bは音波24-1を取得できない。しかし、音波取得部50が複数設けられていると、凸部M1が存在していても、マイク部51dが音波24-2を取得できる。よって、音波取得部50が溶融物Mからの音波24を確実に取得できる。その結果、レーザ照射部40の焦点位置が正確に定まり、元素分析をより高精度で行うことができる。
【0057】
なお、音波取得部50の数や配置については、
図7に示す構成に限定されない。例えば、数は4つ未満でも良いし、5つ以上でも良い。また、複数の音波取得部50がレーザ照射部40の周囲に必ずしも均等に配置されていなくて良い。ただし、音波取得部50をレーザ照射部40の周囲に均等に配置することで、音波24をより確実に取得できるといった効果を奏する。
【0058】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る元素分析システムの第2実施形態について説明する。
図8は、第2実施形態にかかる元素分析システム200の構成図であり、ロボットアーム71でレーザ照射部40の焦点位置合わせを行う構成例を示している。なお、以下の説明において、第1実施形態にて既に説明した構成については、同一符号を付して説明は省略する。
【0059】
図8に示す元素分析システム200では、プローブ30をロボットアーム(位置調整機構)71が把持している。コントローラ60は、プローブ30から入力された音波に基づいて、レーザ照射部40の焦点位置を決定し、レーザ照射部40がその焦点位置に配置されるようロボットアーム71を制御して、プローブ30の位置合わせを行っている。つまり、元素分析システム100では、ステージ70により溶融物Mの位置を移動することで、間接的にレーザ照射部40の焦点位置を調整したが、元素分析システム200では、溶融物Mの位置は固定したまま、プローブ30をロボットアーム71により移動させ、レーザ照射部40の焦点位置合わせを行っている。
【0060】
このような構成であるため、元素分析システム200は、例えば、原子炉内に形成された燃料デブリと称される溶融物Mの元素分析を行うのに適している。
図9は、元素分析システム200を原子炉建屋80内の溶融物Mの元素分析に適用した例を示している。
【0061】
図9に示すように、原子炉建屋80は、原子炉容器85を収容する。原子炉容器85には、図示しないが、核燃料物質を含む燃料集合体、制御棒等が格納されている。このような原子炉容器85において、事故等の予期せぬ事態により放射性物質を含む溶融物Mが堆積すると、この溶融物Mを処理する(外部に搬出する)ために、元素分析を行う必要がある。放射線量の高い過酷環境下では、作業者が溶融物Mを直接目視により確認して元素分析を行うことはできないため、
図9に示すように、原子炉建屋80の開口部81からロボットアーム71を挿入し、遠隔にてロボットアーム71を操作し、原子炉容器85の底部に堆積した溶融物Mの元素分析を行う。
【0062】
この場合においても、まず、ロボットアーム71を操作してプローブ30を溶融物Mに接近させた後、レーザ照射部40から低パワー密度のレーザ光を照射する。そして、マイク部51が溶融物Mから発生する音波を取得し、その音波のピークに基づいて、コントローラ60がレーザ照射部40の焦点位置を決定し、ロボットアーム71を制御してレーザ照射部40の焦点位置合わせを行う。レーザ照射部40の焦点位置が適切な位置に制御された後、コントローラ60が高パワー密度のレーザ光を溶融物Mに照射し、溶融物Mから発生するプラズマ発光を分析して、溶融物Mの元素を分析する。
【0063】
このように、元素分析システム200によれば、第1実施形態と同様に、溶融物Mの表面の破壊を抑制しつつ、レーザ照射部40の焦点位置を調整できるため、元素分析を高精度で行うことができる。
【0064】
ここで、原子炉容器85内に堆積した溶融物Mを処理する際、溶融物Mの形状等を把握することが必要である。従来であれば、放射線量が高い過酷環境下において、耐放射性の照明及びカメラを用いて当該形状を把握していた。しかし、狭隘な環境下では、カメラ等は作業性を低下させる要因となり、また、これらの装置を用意するためシステムとしてコストが嵩むなどの課題があった。
【0065】
しかしながら、第2実施形態に係る元素分析システム200では、レーザ誘起音波で溶融物Mの形状の把握が可能であるため、カメラ等は不要である。そのため、低コスト化を実現できる。また、過酷環境下においては、装置のエラー動作が生じるなど、安定した動作が望めない虞があるところ、元素分析システム200によれば、レーザ誘起音波により溶融物Mの形状を把握する元素マッピング分析が可能である(詳細後述)。そのため、音波による溶融物Mの分析結果と、LIBS分析結果とを重畳することで、取得したデータの正確性を検証できる。したがって、元素分析システム200によれば、特に過酷環境下において、より高精度に元素分析を行うことができる。
【0066】
なお、元素分析システム100または200によれば、溶融物Mの形状を把握し、元素マッピング分析をすることが可能になる。たとえば、プローブ30またはステージ70を移動しながら、
図6のS1からS6のステップを繰り返すことで、当該溶融物Mの表面形状および元素分布を取得することができる。
【0067】
図11は、燃料デブリを模擬した複数元素の混合酸化物を均一に混合し焼結した試料を示したものであり、(a)は試料の組成比、(b)は試料の外観写真、(c)は試料の外形寸法を示す。
図12は、
図11に示す試料について、元素分析システム100を用いて、試料の縦20箇所、横40箇所の800箇所をステージ移動させながら測定した表面形状測定結果である。
図12に示すように、本実施形態に係る元素分析システム100によれば、
図11に示す試料の表面形状を精度良く再現できていることが分かる。
【0068】
なお、
図12の上部の点群はレーザ照射スポット位置を示しており、本測定ではレーザ光スポット径は約0.1mmで空間分解能は0.5mmであるが、移動距離を細かくしてスポット径を小さくすることで、より高い空間分解能で詳細な形状情報を得ることが可能である。
【0069】
図13は、燃料デブリを模擬した複数元素を不均一に混合した酸化物試料を示したものであり、(a)は試料の組成比、(b)は試料の外観写真を示す。
図14は、
図13に示す試料に対して、元素分析システム100を用いて取得した2次元元素マッピングである。
【0070】
図14(a)は、音波検出に基づいて最適化したLTSD環境において、
図13の試料のLIBS分析を行った結果であり、試料構成元素であるGd、Ce、Fe、Zrの代表的な波長での発光強度分布を示している。この
図14(a)から、元素の定性的な分布状況が確認できる。
【0071】
一方、
図14(b)は、同サンプルを電子顕微鏡付属のEDS(エネルギー分散型X線分光)で分析した元素分布である。
図14(a)、(b)の点線領域を比較して明らかなように、LIBSとEDSの結果から元素の分布状態の傾向は一致しており、定性分析が正しく行われていることが示された。
【0072】
(第3実施形態)
次に、本発明に係る元素分析システムの第3実施形態について説明する。
図10は、第3実施形態にかかる元素分析システム300の構成図である。
図10に示すように、第3実施形態に係る元素分析システム300は、LA(Laser Ablation)-ICP-MS分析へ適用した例である。なお、以下の説明において、第1実施形態または第2実施形態にて既に説明した構成については、同一符号を付して説明は省略する。
【0073】
LA-ICP-MSとは、試料の表面にレーザ照射を行い、生じた試料由来の微粒子を分析することで、元素分析を行うものである。つまり、LIBS分析とLA-ICP-MSとは、レーザ照射をし、試料の元素分析を行うという点で共通している。
【0074】
ここで、従前のLA-ICP-MSの装置においては、プローブと試料との焦点合わせのために、サンプルの1点に対してレーザ照射する時間が長くなり、当該照射部の穴が深くなることで、レーザ光のフォーカスに変動が生じることがあった。
【0075】
この場合、安定した信号を得ることができないため、正確な測定ができないといった課題が生じてしまう。また、LA-ICP-MSでは、深さ方向分析や面分析といった元素マッピング分析が行われるところ、当該分析においても高精度に分析できないという課題が生じる。
【0076】
図10に示す元素分析システム300は、ガス源91と、ICP(誘導結合プラズマ)源92と、質量分析部93と、を備える。プローブ30及びステージ70は、密閉空間90内に収容されており、試料Sはステージ70に固定されている。密閉空間90は、ガス源91と配管25で接続されて、ガス源91から供給されるガスで満たされている。なお、ICP源92は、密閉空間90と配管26で接続されると共に、質量分析部93と配管27で接続されている。
【0077】
元素分析システム300によれば、LA-ICP-MS分析においても、試料Sに低パワー密度のレーザ光を照射することで、試料Sの表面の破壊を抑制しつつ、最適な焦点位置の調整が可能となる。このため、試料Sの質量分析する際に、安定した信号を取得可能となり、高精度な分析を行うことができる。
【0078】
ここで、元素分析システム300によれば、試料Sの破壊を抑制しつつ、レーザ光の焦点位置の調整が可能となるため、前述のLA-ICP-MSに係る課題を解決し得る手段となる。このことからも、本発明は、音波振幅値から最適な焦点位置を演算し、レーザ照射部40の焦点位置を制御している点が、従来にはなかった点であり、それを展開できる分野であれば、LIBS測定のみならず、様々な分野への産業利活用性が期待できることが分かる。
【0079】
また、元素分析システム300においても、元素分析システム100または200と同様に、サンプル形状の把握が可能である。たとえば、試料Sに所定時間レーザ照射しつつ、ステージ70を2次元又は3次元方向に動かせば、試料Sの2次元または3次元形状の把握のみならず、試料Sが含有する元素の2次元または3次元マッピングが可能となる。なお、この場合、プローブ30を移動させることでもマッピングは可能である。
【0080】
さらに、レーザ照射に係るスポット径を調整することで、試料Sの高解像度なイメージングを取得することができる。
【0081】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例や組合せ例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【0082】
本発明は、上記した過酷環境下における元素分析の分野だけでなく、宇宙環境下や海底環境下などあらゆる環境下における元素分析に適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0083】
10 レーザ光源(半導体レーザ)
15 分光分析部(分析部)
21 光ファイバケーブル
22 レーザ光
23 プラズマ発光
24 音波
30 プローブ(レーザ装置)
40 レーザ照射部
41 レーザ光伝送部
42 レーザ共振部
43,44,46,47 光学部
45 窓部
48 プラズマ発光伝送部
49 筐体
50 音波取得部
51 マイク部
52 音波伝送部
60 コントローラ(焦点位置決定部)
70 ステージ(位置調整機構)
71 ロボットアーム(位置調整機構)
80 原子炉建屋
85 原子炉容器
90 密閉空間
91 ガス源
92 ICP源
93 質量分析部(分析部)
100,200,300 元素分析システム
M 溶融物(対象物)
S 試料(対象物)