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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025161467
(43)【公開日】2025-10-24
(54)【発明の名称】成形方法、および、成形品
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20251017BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20251017BHJP
   H01L 21/306 20060101ALI20251017BHJP
【FI】
H01L21/68 N
H01L21/304 643A
H01L21/306 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024064667
(22)【出願日】2024-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】岡本 伊雄
(72)【発明者】
【氏名】浅井 唯我
(72)【発明者】
【氏名】堀 翼
(72)【発明者】
【氏名】金澤 進一
【テーマコード(参考)】
5F043
5F131
5F157
【Fターム(参考)】
5F043DD13
5F043EE07
5F043EE08
5F043EE35
5F131AA02
5F131BA18
5F131BA37
5F131CA02
5F131EB33
5F131EB53
5F131EB78
5F131EB79
5F157AB02
5F157AB14
5F157AB33
5F157AB90
5F157CB13
(57)【要約】
【課題】本願明細書に開示されている技術は、処理に対する耐性と導電性を有する部材を成形するための技術である。
【解決手段】本願明細書に開示されている技術に関する成形方法は、基板処理装置に使われる成形品を成形するための成形方法である。そして、当該成形方法において、ポリテトラフルオロエチレンまたはテトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体に炭素材料が配合された成形品に対して、電子線を照射する工程を備えるものである。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板処理装置に使われる成形品の成形方法であり、
ポリテトラフルオロエチレンまたはテトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体に炭素材料が配合された前記成形品に対し、電子線を照射する工程を備える、
成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載の成形方法であり、
前記炭素材料が、粉末状のカーボンブラックを含む、
成形方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の成形方法であり、
前記成形品が、前記基板処理装置において基板を保持するチャックピンである、
成形方法。
【請求項4】
基板処理装置に使われる成形品であり、
ポリテトラフルオロエチレンまたはテトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体に炭素材料が配合された状態で、電子線が照射される、
成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願明細書に開示される技術は、基板処理装置に使われる成形品に関するものである。なお、処理対象となる基板には、たとえば、半導体ウエハ、液晶表示装置用ガラス基板、有機EL(electroluminescence)表示装置などのflat panel display(FPD)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用ガラス基板、セラミック基板、電界放出ディスプレイ(field emission display、すなわち、FED)用基板、または、太陽電池用基板などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
基板処理においては、基板の帯電が抑制されることが望ましい。かかる目的で、基板を保持するチャック部材には導電性が要求されることが、特許文献1において言及される。例えば特許文献1ではチャック部材に、炭素繊維で例示される炭素と、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体(perfluoroalkoxy alkane:「PFA」と通称され、以下でも当該通称が用いられる)で例示される合成樹脂とを含む複合材料を利用することが提案されている。
【0003】
特許文献2はテトラフルオロエチレンとエチレンとの共重合体(Ethylene-Tetrafluoroethylene:「ETFE」と通称され、以下でも当該通称が用いられる)からなる成形品に対して電子線を照射し、チャックピンにおける耐摩耗性を高めることに言及する。かかる耐摩耗性の向上はETFEにおける架橋構造に由来すると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-220528号公報
【特許文献2】特開2023-68789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし特許文献1で指摘されるように、処理液の種類や温度によってはチャック部材が短命化する。例えば基板に対してレジスト除去処理を行う際に、200℃の硫酸過酸化水素水混合液(sulfuric acid-hydrogen peroxide mixture:「SPM」とも通称され、以下でも当該通称が用いられる)が用いられる場合が指摘される。特許文献2でチャック部材として例示されたETFEは、その融点が220℃程度の場合もあり得る。よってこの場合、200℃以上のSPMで例示される高温の薬液処理による短命化が抑制されるかは未詳である。
【0006】
本願明細書に開示される技術は、以上に記載されたような問題を鑑みてなされたものであり、温度が高い処理においても導電性を有する部材を成形するための技術である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願明細書に開示される技術の第1の態様である成形方法は、基板処理装置に使われる成形品の成形方法であり、ポリテトラフルオロエチレンまたはテトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体に炭素材料が配合された前記成形品に対し、電子線を照射する工程を備える。
【0008】
本願明細書に開示される技術の第2の態様である成形方法は、第1の態様である成形方法に関連し、前記炭素材料が、粉末状のカーボンブラックを含む。
【0009】
本願明細書に開示される技術の第3の態様である成形方法は、第1または2の態様である成形方法に関連し、前記成形品が、前記基板処理装置において基板を保持するチャックピンである。
【0010】
本願明細書に開示される技術の第4の態様である成形品は、基板処理装置に使われる成形品であり、ポリテトラフルオロエチレンまたはテトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体に炭素材料が配合された状態で、電子線が照射される。
【発明の効果】
【0011】
本願明細書に開示される技術の少なくとも第1、4の態様によれば、高温の薬液の処理を受けても導電性を有する部材を成形することができる。
【0012】
また、本願明細書に開示される技術に関連する目的と、特徴と、局面と、利点とは、以下に示される詳細な説明と添付図面とによって、さらに明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態に関する基板処理装置の構成の例を概略的に示す平面図である。
図2図1に例が示された制御部の構成の例を示す図である。
図3】実施の形態に関する基板処理装置における、処理ユニットの構成の例を概略的に示す図である。
図4】チャックピンの構成の例を示す断面図である。
図5】処理ユニットにおける基板処理の例を示すフローチャートである。
図6】成形品の製造工程を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付される図面を参照しながら実施の形態について説明する。以下の実施の形態では、技術の説明のために詳細な特徴なども示されるが、それらは例示であり、実施の形態が実施可能となるために、それらのすべてが必ずしも必須の特徴ではない。
【0015】
なお、図面は概略的に示されるものであり、説明の便宜のため、適宜、構成の省略、または、構成の簡略化などが図面においてなされる。また、異なる図面にそれぞれ示される構成などの大きさおよび位置の相互関係は、必ずしも正確に記載されるものではなく、適宜変更され得るものである。また、断面図ではない平面図などの図面においても、実施の形態の内容を理解することを容易にするために、ハッチングが付される場合がある。
【0016】
また、以下に示される説明では、同様の構成要素には同じ符号を付して図示し、それらの名称と機能とについても同様のものとする。したがって、それらについての詳細な説明を、重複を避けるために省略する場合がある。
【0017】
また、本願明細書に記載される説明において、ある構成要素を「備える」、「含む」または「有する」などと記載される場合、特に断らない限りは、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0018】
また、本願明細書に記載される説明において、「第1の」または「第2の」などの序数が使われる場合があっても、これらの用語は、実施の形態の内容を理解することを容易にするために便宜上使われるものであり、実施の形態の内容はこれらの序数によって生じ得る順序などに限定されるものではない。
【0019】
また、本願明細書に記載される説明において、「上」、「下」、「左」、「右」、「側」、「底」、「表」または「裏」などの特定の位置または方向を意味する用語が使われる場合があっても、これらの用語は、実施の形態の内容を理解することを容易にするために便宜上使われるものであり、実施の形態が実際に実施される際の位置または方向とは関係しないものである。
【0020】
<実施の形態>
以下、本実施の形態に関する成形品、および、その成形方法について説明する。
【0021】
<基板処理装置の構成について>
図1は、本実施の形態に関する基板処理装置1の構成の例を概略的に示す平面図である。基板処理装置1は、ロードポート601と、インデクサロボット602と、センターロボット603と、制御部90と、少なくとも1つの処理ユニット600(図1においては4つの処理ユニット600)とを備える。
【0022】
処理ユニット600は、基板処理に用いることができる枚葉式の装置であり、具体的には、基板Wに付着している有機物を除去する処理を行う装置である。基板Wに付着している有機物は、たとえば、使用済のレジスト膜である。当該レジスト膜は、たとえば、イオン注入工程用の注入マスクとして用いられたものである。
【0023】
なお、処理ユニット600は、チャンバー180を有することができる。その場合、チャンバー180内の雰囲気を制御部90によって制御することで、処理ユニット600は、所望の雰囲気中における基板処理を行うことができる。
【0024】
制御部90は、基板処理装置1におけるそれぞれの構成の動作を制御することができる。キャリアCは、基板Wを収容する収容器である。また、ロードポート601は、複数のキャリアCを保持する収容器保持機構である。インデクサロボット602は、ロードポート601と基板載置部604との間で基板Wを搬送することができる。センターロボット603は、基板載置部604および処理ユニット600間で基板Wを搬送することができる。
【0025】
以上の構成によって、インデクサロボット602、基板載置部604およびセンターロボット603は、それぞれの処理ユニット600とロードポート601との間で基板Wを搬送する搬送機構として機能する。
【0026】
未処理の基板WはキャリアCからインデクサロボット602によって取り出される。そして、未処理の基板Wは、基板載置部604を介してセンターロボット603に受け渡される。
【0027】
センターロボット603は、当該未処理の基板Wを処理ユニット600に搬入する。そして、処理ユニット600は基板Wに対して処理を行う。
【0028】
処理ユニット600において処理済みの基板Wは、センターロボット603によって処理ユニット600から取り出される。そして、処理済みの基板Wは、必要に応じて他の処理ユニット600を経由した後、基板載置部604を介してインデクサロボット602に受け渡される。インデクサロボット602は、処理済みの基板WをキャリアCに搬入する。以上によって、基板Wに対する処理が行われる。
【0029】
図2は、図1に例が示された制御部90の構成の例を示す図である。制御部90は、電気回路を有する一般的なコンピュータによって構成されていてよい。具体的には、制御部90は、中央演算処理装置(central processing unit、すなわち、CPU)91、リードオンリーメモリ(read only memory、すなわち、ROM)92、ランダムアクセスメモリ(random access memory、すなわち、RAM)93、記録装置94、入力部96、表示部97および通信部98と、これらを相互に接続するバスライン95とを備える。
【0030】
ROM92は基本プログラムを格納している。RAM93は、CPU91が所定の処理を行う際の作業領域として用いられる。記録装置94は、フラッシュメモリまたはハードディスク装置などの不揮発性記録装置によって構成されている。入力部96は、各種スイッチまたはタッチパネルなどによって構成されており、ユーザーから処理レシピなどの入力設定指示を受ける。表示部97は、たとえば、液晶表示装置およびランプなどによって構成されており、CPU91の制御の下、各種の情報を表示する。通信部98は、local area network(LAN)などを介してのデータ通信機能を有する。
【0031】
記録装置94には、図1の基板処理装置1におけるそれぞれの構成の制御についての複数のモードがあらかじめ設定されている。CPU91が処理プログラム94Pを実行することによって、上記の複数のモードのうちの1つのモードが選択され、当該モードでそれぞれの構成が制御される。なお、処理プログラム94Pは、外部の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体を用いれば、制御部90に処理プログラム94Pをインストールすることができる。また、制御部90が実行する機能の一部または全部は、必ずしもソフトウェアによって実現される必要はなく、専用の論理回路などのハードウェアによって実現されてもよい。
【0032】
<処理ユニットについて>
図3は、本実施の形態に関する基板処理装置1における、処理ユニット600の構成の例を概略的に示す図である。図3に示されるように、処理ユニット600は、半導体ウエハなどの円板状の基板Wを一枚ずつ処理する枚葉式の装置である。
【0033】
基板処理装置1は、基板Wに処理液を供給する複数の処理ユニット600と、基板処理装置1に備えられた装置の動作やバルブの開閉を制御する制御部90とを含む。
【0034】
処理ユニット600は、内部空間を有する箱形のチャンバー180と、チャンバー180内で一枚の基板Wを水平な姿勢で保持して、基板Wの中心を通る鉛直な基板回転軸線A1まわりに基板Wを回転させるスピンチャック5と、スピンチャック5に保持されている基板Wに処理液を供給する処理液供給装置6と、スピンチャック5に保持されている基板Wを基板Wの上方から加熱する加熱装置7と、基板回転軸線A1まわりにスピンチャック5を取り囲む筒状のカップ8とを含む。
【0035】
チャンバー180は、スピンチャック5等を収容する箱形の隔壁9と、隔壁9の上部から隔壁9内にクリーンエアー(フィルターによってろ過された空気)を送る送風ユニットとしてのFFU10(ファンフィルターユニット)と、カップ8の下部からチャンバー180内の気体を排出する排気ダクト11とを含む。
【0036】
FFU10は、隔壁9の上方に配置されている。FFU10は、隔壁9の天井からチャンバー180内に下向きにクリーンエアーを送る。排気ダクト11は、カップ8の底部に接続されており、基板処理装置1が設置される工場に設けられた排気処理設備に向けてチャンバー180内の気体を案内する。したがって、チャンバー180内を下方に流れるダウンフロー(下降流)が、FFU10および排気ダクト11によって形成される。基板Wの処理は、チャンバー180内にダウンフローが形成されている状態で行われる。
【0037】
スピンチャック5は、水平な姿勢で保持された円板状のスピンベース12と、スピンベース12の上面外周部から上方に突出する複数のチャックピン13と、複数のチャックピン13を開閉させるチャック開閉機構14とを含む。スピンチャック5は、さらに、スピンベース12の中央部から基板回転軸線A1に沿って下方に延びるスピン軸15と、スピン軸15を回転させることによりスピンベース12およびチャックピン13を基板回転軸線A1まわりに回転させるスピンモータ16とを含む。
【0038】
スピンベース12の外径は、基板Wの直径よりも大きい。また、スピンベース12の中心線は、基板回転軸線A1上に配置されている。複数のチャックピン13は、スピンベース12の外周部でスピンベース12に保持されている。複数のチャックピン13は、周方向C1(基板回転軸線A1まわりの方向)に間隔を空けて配置されている。チャックピン13は、チャックピン13が基板Wの周端面に押し付けられる閉位置と、チャックピン13が基板Wの周端面から離れる開位置との間で、スピンベース12に対してピン回動軸線(基板回転軸線A1と平行な軸線)まわりに回転可能である。基板Wは、基板Wの下面とスピンベース12の上面とが上下方向に離れた状態で、複数のチャックピン13に把持される。この状態で、スピンモータ16がスピン軸15を回転させると、基板Wは、スピンベース12およびチャックピン13と共に基板回転軸線A1まわりに回転する。
【0039】
制御部90は、チャック開閉機構14を制御することにより、複数のチャックピン13が基板Wを把持する閉状態と、複数のチャックピン13による基板Wの把持が解除される開状態との間で、複数のチャックピン13の状態を切り替える。
【0040】
基板Wがスピンチャック5に搬送されるときには、制御部90は、各チャックピン13を開位置に退避させる。制御部90は、この状態で、搬送ロボットに基板Wを複数のチャックピン13に載置させる。
【0041】
基板Wが複数のチャックピン13に載置された後、制御部90は、各チャックピン13を開位置から閉位置に移動させる。
【0042】
処理液供給装置6は、基板Wの上面に向けて第1薬液を吐出する薬液ノズル17と、薬液ノズル17に接続された薬液配管18と、薬液配管18に介装された薬液バルブ19と、薬液ノズル17が先端部に取り付けられた薬液アーム20と、薬液アーム20を移動させることにより、第1薬液の着液位置を基板Wの上面内で移動させるノズル移動装置21とを含む。
【0043】
薬液バルブ19が開かれると、薬液配管18から薬液ノズル17に供給された第1薬液が、薬液ノズル17から下方に吐出される。薬液バルブ19が閉じられると、薬液ノズル17からの第1薬液の吐出が停止される。
【0044】
ノズル移動装置21は、薬液ノズル17を移動させることにより、第1薬液の着液位置を基板Wの上面内で移動させる。さらに、ノズル移動装置21は、薬液ノズル17から吐出された第1薬液が基板Wの上面に着液する処理位置と、薬液ノズル17が平面視でスピンチャック5の周囲に退避した退避位置との間で薬液ノズル17を移動させる。
【0045】
処理液供給装置6は、基板Wの上面に向けて第2薬液を吐出する薬液ノズル22と、薬液ノズル22に接続された薬液配管23と、薬液配管23に介装された薬液バルブ24と、薬液ノズル22が先端部に取り付けられた薬液アーム25と、薬液アーム25を移動させることにより、第2薬液の着液位置を基板Wの上面内で移動させるノズル移動装置26とを含む。
【0046】
薬液バルブ24が開かれると、薬液配管23から薬液ノズル22に供給された第2薬液が、薬液ノズル22から下方に吐出される。薬液バルブ24が閉じられると、薬液ノズル22からの第2薬液の吐出が停止される。
【0047】
ノズル移動装置26は、薬液ノズル22を移動させることにより、第2薬液の着液位置を基板Wの上面内で移動させる。さらに、ノズル移動装置26は、薬液ノズル22から吐出された第2薬液が基板Wの上面に着液する処理位置と、薬液ノズル22が平面視でスピンチャック5の周囲に退避した退避位置との間で薬液ノズル22を移動させる。
【0048】
第1薬液および第2薬液は、互いに種類の異なる薬液である。第1薬液は、酸性であり、第2薬液は、アルカリ性である。第1薬液の具体例は、SPM(硫酸と過酸化水素水との混合液)、リン酸(濃度がたとえば80%以上、かつ、100%未満のリン酸水溶液)、フッ酸(フッ化水素酸)である。第2薬液の具体例は、SC1(アンモニア水と過酸化水素水と水との混合液)である。第1薬液の具体例は、いずれも、薄膜やパーティクルなどの不要物を基板Wから除去する除去液(エッチング液または洗浄液)である。また、第1薬液の具体例は、いずれも、温度の上昇に伴って除去能力が高まる薬液である。
【0049】
処理液供給装置6は、基板Wの上面に向けてリンス液を吐出するリンス液ノズル27と、リンス液ノズル27に接続されたリンス液配管28と、リンス液配管28に介装されたリンス液バルブ29と、リンス液ノズル27が先端部に取り付けられたリンス液アーム30と、リンス液アーム30を移動させることにより、リンス液の着液位置を基板Wの上面内で移動させるノズル移動装置31とを含む。
【0050】
リンス液バルブ29が開かれると、リンス液配管28からリンス液ノズル27に供給されたリンス液が、リンス液ノズル27から下方に吐出される。リンス液バルブ29が閉じられると、リンス液ノズル27からのリンス液の吐出が停止される。
【0051】
ノズル移動装置31は、リンス液ノズル27を移動させることにより、リンス液の着液位置を基板Wの上面内で移動させる。さらに、ノズル移動装置31は、リンス液ノズル27から吐出されたリンス液が基板Wの上面に着液する処理位置と、リンス液ノズル27がスピンチャック5の周囲に退避した退避位置との間でリンス液ノズル27を移動させる。
【0052】
リンス液ノズル27に供給されるリンス液は、純水(脱イオン水:Deionized water)である。リンス液ノズル27に供給されるリンス液は、純水に限らず、炭酸水、電解イオン水、水素水、オゾン水、IPA(イソプロピルアルコール)、または希釈濃度(たとえば、10ppm以上、かつ、100ppm以下程度)の塩酸水などであってもよい。
【0053】
カップ8は、スピンチャック5に保持されている基板Wよりも外方(基板回転軸線A1から離れる方向)に配置されている。カップ8は、スピンベース12を取り囲んでいる。スピンチャック5が基板Wを回転させている状態で、処理液が基板Wに供給されると、処理液が基板Wから基板Wの周囲に飛散する。処理液が基板Wに供給されるとき、上向きに開いたカップ8の上端部8aは、スピンベース12よりも上方に配置される。したがって、基板Wの周囲に排出された薬液やリンス液などの処理液は、カップ8によって受け止められる。そして、カップ8に受け止められた処理液は、図示しない回収装置または排液装置に送られる。
【0054】
加熱装置7は、スピンチャック5に保持されている基板Wの上方に配置された赤外線ヒーター32と、赤外線ヒーター32が先端部に取り付けられたヒーターアーム35と、ヒーターアーム35を移動させるヒーター移動装置36とを含む。
【0055】
赤外線ヒーター32は、赤外線を含む光を発する赤外線ランプ33と、赤外線ランプ33を収容するランプハウジング34とを含む。赤外線ランプ33は、ランプハウジング34内に配置されている。ランプハウジング34は、平面視で基板Wよりも小さい。したがって、赤外線ヒーター32は、平面視で基板Wよりも小さい。赤外線ランプ33およびランプハウジング34は、ヒーターアーム35に取り付けられている。したがって、赤外線ランプ33およびランプハウジング34は、ヒーターアーム35と共に移動する。
【0056】
赤外線ランプ33は、ハロゲンランプである。赤外線ランプ33は、フィラメントと、フィラメントを収容する石英管とを含む。赤外線ランプ33は、カーボンヒーターであってもよいし、ハロゲンランプおよびカーボンヒーター以外の発熱体であってもよい。ランプハウジング34の少なくとも一部は、石英などの光透過性および耐熱性を有する材料で形成されている。したがって、赤外線ランプ33が光を発すると、赤外線ランプ33からの光が、ランプハウジング34を透過してランプハウジング34の外面から放出される。
【0057】
ランプハウジング34は、基板Wの上面と平行な底壁を有している。赤外線ランプ33は、底壁の上方に配置されている。底壁の下面は、基板Wの上面と平行でかつ平坦な照射面を含む。赤外線ヒーター32が基板Wの上方に配置されている状態では、ランプハウジング34の照射面が、間隔を空けて基板Wの上面に上下方向に対向する。この状態で赤外線ランプ33が光を発すると、赤外線を含む光が、ランプハウジング34の照射面から基板Wの上面に向かい、基板Wの上面に照射される。
【0058】
照射面は、たとえば、直径が基板Wの半径よりも小さい円形である。照射面は、円形に限らず、長手方向の長さが基板Wの半径以上である矩形状であってもよいし、円形および矩形以外の形状であってもよい。
【0059】
ヒーター移動装置36は、赤外線ヒーター32を所定の高さで保持している。ヒーター移動装置36は、スピンチャック5の周囲で上下方向に延びるヒーター回動軸線A3まわりにヒーターアーム35を回動させることにより、赤外線ヒーター32を水平に移動させる。これにより、赤外線が照射される照射位置(基板Wの上面内の一部の領域)が基板Wの上面内で移動する。ヒーター移動装置36は、平面視で基板Wの中心を通る円弧状の軌跡に沿って赤外線ヒーター32を水平に移動させる。したがって、赤外線ヒーター32は、スピンチャック5の上方を含む水平面内で移動する。また、ヒーター移動装置36は、赤外線ヒーター32を鉛直方向に移動させることにより、照射面と基板Wとの距離を変化させる。
【0060】
赤外線ヒーター32からの光は、基板Wの上面内の照射位置に照射される。制御部90は、赤外線ヒーター32が赤外線を発している状態で、スピンチャック5によって基板Wを回転させながら、ヒーター移動装置36によって赤外線ヒーター32をヒーター回動軸線A3まわりに回動させる。これにより、基板Wの上面が、加熱位置としての照射位置によって走査される。したがって、赤外線を含む光が基板Wの上面に吸収され、輻射熱が赤外線ランプ33から基板Wに伝達される。そのため、処理液などの液体が基板W上に保持されている状態で赤外線ランプ33が赤外線を発すると、基板Wおよび処理液の温度が上昇する。
【0061】
図4は、チャックピン13の構成の例を示す断面図である。図4に例が示されるように、チャックピン13は、閉位置で基板Wの周端面に押し付けられる把持部13Aを備える。チャックピン13が閉位置と閉位置との間でピン回動軸線(基板回転軸線A1と平行な軸線)まわりに回動すると、把持部13Aが水平に移動する。一方で、チャックピン13が閉位置に配置されると、把持部13Aが基板Wの周縁部に押し付けられる。
【0062】
制御部90は、複数のチャックピン13が基板Wを把持する閉状態と、複数のチャックピン13による基板Wの把持が解除される開状態との間で、複数のチャックピン13の状態を切り替える。
【0063】
<基板処理装置の動作について>
図5は、処理ユニット600における基板処理の例を示すフローチャートである。
【0064】
以下では、シリコン基板を処理する例について説明する。ただし、基板Wは、シリコン基板に限るものではなく、たとえば、シリコンカーバイド基板、サファイア基板、窒化ガリウム基板、またはヒ化ガリウム基板などであってもよい。
【0065】
まず、チャンバー180内に基板Wを搬入する(図5のステップST1)。具体的には、制御部90は、すべてのノズルがスピンチャック5の上方から退避している状態で、基板Wを保持しているセンターロボット603トのハンドをチャンバー180内に進入させる。そして、制御部90は、センターロボット603によって、基板Wを複数のチャックピン13上に載置する。その後、制御部90は、センターロボット603のハンドをチャンバー180内から退避させる。また、制御部90は、基板Wが複数のチャックピン13上に載置された後、それぞれのチャックピン13を開位置から閉位置に移動させる。その後、制御部90は、スピンモータ16によって基板Wの回転を開始させる。
【0066】
次に、第1薬液の一例であるSPMを基板Wに供給する(図5のステップST2)。具体的には、制御部90は、ノズル移動装置21を制御することによって、薬液ノズル17を退避位置から処理位置に移動させる。これによって、薬液ノズル17が基板Wの上方に配置される。その後、制御部90は、薬液バルブ19を開いて、室温よりも高温(たとえば、140℃)のSPMを回転状態の基板Wの上面に向けて薬液ノズル17に吐出させる。制御部90は、この状態でノズル移動装置21を制御することによって、基板Wの上面に対するSPMの着液位置を中央部と周縁部との間で移動させる。
【0067】
薬液ノズル17から吐出されたSPMは、基板Wの上面に着液した後、遠心力によって基板Wの上面に沿って外方に流れる。そのため、SPMが基板Wの上面全域に供給され、基板Wの上面全域を覆うSPMの液膜が基板W上に形成される。これによって、レジスト膜などの基板W上の異物(残留物)がSPMと反応して基板Wから除去される。
【0068】
次に、基板WへのSPMの供給を停止させた状態でSPMの液膜を基板W上に保持する(図5のステップST3)。具体的には、制御部90は、スピンチャック5を制御することによって、基板Wの上面全域がSPMの液膜に覆われている状態で、第1薬液が供給された工程での基板Wの回転速度よりも小さい低回転速度(たとえば、1rpm以上、かつ、30rpm以下)まで基板Wの回転速度を低下させる。これによって、基板WへのSPMの供給が停止された状態で、基板Wの上面全域を覆うSPMの液膜が基板W上に保持される。制御部90は、基板WへのSPMの供給を停止した後、ノズル移動装置21を制御することによって、薬液ノズル17をスピンチャック5の上方から退避させる。
【0069】
次に、上記の液膜の保持と並行して、基板Wと基板W上のSPMとを加熱する(図5のステップST4)。具体的には、制御部90は、赤外線ヒーター32からの発光を開始させる。これによって、赤外線ヒーター32の温度(加熱温度)が、第1薬液(この処理例では、SPM)の沸点よりも高い温度(たとえば、160℃以上、かつ、260℃以下)まで上昇し、その温度に維持される。その後、制御部90は、ヒーター移動装置36によって赤外線ヒーター32を退避位置から処理位置に移動させる。制御部90は、赤外線ヒーター32が基板Wの上方に配置された後、基板Wの上面に対する赤外線の照射位置が中央部および周縁部の一方から他方に移動するように、ヒーター移動装置36によって赤外線ヒーター32を水平に移動させる。制御部90は、赤外線ヒーター32による基板Wの加熱が所定時間にわたって行われた後、赤外線ヒーター32を基板Wの上方から退避させる。
【0070】
このように、制御部90は、基板Wを回転させている状態で、基板Wの上面に対する赤外線の照射位置を中央部および周縁部の一方から他方に移動させるので、基板Wが均一に加熱される。したがって、基板Wの上面全域を覆うSPMの液膜も均一に加熱される。赤外線ヒーター32による基板Wの加熱温度は、SPMのその濃度における沸点以上の温度に設定されている。したがって、基板W上のSPMが、その濃度における少なくとも沸点まで加熱される。
【0071】
次に、基板W上のSPMを排出する(図5のステップST5)。具体的には、制御部90は、スピンチャック5を制御することによって、基板Wへの液体の供給が停止されている状態で、パドル工程での基板Wの回転速度よりも速い回転速度で基板Wを回転させる。これによって、パドル工程のときよりも大きな遠心力が基板W上のSPMに加わり、基板W上のSPMが基板Wの周囲に振り切られる。
【0072】
次に、リンス液の一例である純水を基板Wに供給する(図5のステップST6)。具体的には、制御部90は、ノズル移動装置31を制御することによって、リンス液ノズル27を退避位置から処理位置に移動させる。制御部90は、リンス液ノズル27が基板Wの上方に配置された後、リンス液バルブ29を開いて、回転状態の基板Wの上面に向けてリンス液ノズル27に純水を吐出させる。これによって、基板Wの上面全域を覆う純水の液膜が形成され、基板Wに残留しているSPMが純水によって洗い流される。
【0073】
次に、第2薬液の一例であるSC1を基板Wに供給する(図5のステップST7)が行われる。具体的には、制御部90は、ノズル移動装置26を制御することによって、薬液ノズル22を退避位置から処理位置に移動させる。制御部90は、薬液ノズル22が基板Wの上方に配置された後、薬液バルブ24を開いて、回転状態の基板Wの上面に向けてSC1を薬液ノズル22に吐出させる。制御部90は、この状態でノズル移動装置26を制御することによって、基板Wの上面に対するSC1の着液位置を中央部と周縁部との間で移動させる。そして、薬液バルブ24が開かれてから所定時間が経過すると、制御部90は、薬液バルブ24を閉じてSC1の吐出を停止させる。その後、制御部90は、ノズル移動装置26を制御することによって、薬液ノズル22を基板Wの上方から退避させる。
【0074】
薬液ノズル22から吐出されたSC1は、基板Wの上面に着液した後、遠心力によって基板Wの上面に沿って外方に流れる。そのため、基板W上の純水は、SC1によって外方に押し流され、基板Wの周囲に排出される。これによって、基板W上の純水の液膜が、基板Wの上面全域を覆うSC1の液膜に置換される。さらに、制御部90は、基板Wが回転している状態で、基板Wの上面に対するSC1の着液位置を中央部と周縁部との間で移動させるので、SC1の着液位置が、基板Wの上面全域を通過し、基板Wの上面全域が走査される。そのため、薬液ノズル22から吐出されたSC1が、基板Wの上面全域に直接吹き付けられ、基板Wの上面全域が均一に処理される。
【0075】
次に、リンス液の一例である純水を基板Wに供給する(図5のステップST8)。具体的には、制御部90は、ノズル移動装置31を制御することによって、リンス液ノズル27を退避位置から処理位置に移動させる。制御部90は、リンス液ノズル27が基板Wの上方に配置された後、リンス液バルブ29を開いて、回転状態の基板Wの上面に向けてリンス液ノズル27に純水を吐出させる。これによって、基板W上のSC1が、純水によって外方に押し流され、基板Wの周囲に排出される。そのため、基板W上のSC1の液膜が、基板Wの上面全域を覆う純水の液膜に置換される。そして、リンス液バルブ29が開かれてから所定時間が経過すると、制御部90は、リンス液バルブ29を閉じて純水の吐出を停止させる。その後、制御部90は、ノズル移動装置31を制御することによって、リンス液ノズル27を基板Wの上方から退避させる。
【0076】
次に、基板Wを乾燥させる(図5のステップST9)。具体的には、制御部90は、スピンチャック5によって基板Wの回転を加速させて、上記の工程までの回転速度よりも大きい高回転速度(たとえば、数千rpm)で基板Wを回転させる。これによって、大きな遠心力が基板W上の液体に加わり、基板Wに付着している液体が基板Wの周囲に振り切られる。このようにして、基板Wから液体が除去され、基板Wが乾燥する。そして、基板Wの高速回転が開始されてから所定時間が経過すると、制御部90は、スピンモータ16を制御することによって、スピンチャック5による基板Wの回転を停止させる。
【0077】
次に、基板Wをチャンバー180内から搬出する(図5のステップST10)。具体的には、制御部90は、それぞれのチャックピン13を閉位置から開位置に移動させて、スピンチャック5による基板の把持を解除させる。その後、制御部90は、すべてのノズルがスピンチャック5の上方から退避している状態で、センターロボット603のハンドをチャンバー180内に進入させる。そして、制御部90は、センターロボット603のハンドにスピンチャック5上の基板を保持させる。その後、制御部90は、センターロボット603のハンドをチャンバー180内から退避させる。これによって、処理済みの基板がチャンバー180から搬出される。
【0078】
<成形品の構成について>
次に、上記の基板処理装置1の構成部材の少なくとも一部に使われる成形品の構成について説明する。
【0079】
本実施の形態に関する基板処理装置1に使われる成形品は、四フッ化エチレン樹脂(ポリテトラフルオロエチレン:Poly Tetrafluoroethylene:「PTFE」と通称され、以下でも当該通称が用いられる)に炭素材料が配合された状態(PTFEに炭素材料が混ぜ込まれたもの)であって、電子線が照射されたものである。PTFEは、PFAと同様に熱可塑性樹脂である。また、PTFEは、耐薬品性、絶縁性および低摩擦性を有する。また、PTFEは、切削加工だけでなく成型加工でも成形可能であるため、製造コストも抑えやすい。また、炭素材料の一例としてカーボンブラックが挙げられる。カーボンブラックが配合されたPTFEは、黒色である。
【0080】
上記の成形品は、基板処理装置1におけるあらゆる構成(たとえば、図4に示されるチャックピン13)に適用可能であるが、耐摩耗性が高い部材であるため、特に、ベローズ部品、バルブ部材のダイヤフラムおよび弁座など、変形または離接が繰り返し生じるような部材に適用されることが望ましい。
【0081】
また、基板処理装置1における構成に適用される場合に、部材そのものに適用されてもよいし、部材におけるコーティング層として適用されてもよい。
【0082】
<成形品の製造方法について>
次に、上記の成形品の製造方法について説明する。図6は、本開示にかかる成形品の製造工程を例示するフローチャートである。ここでは成形品のコーティング層として炭素材料が配合されたPTFEが採用される場合が例示される。当該製造工程はステップS1,S2を備える。
【0083】
まず、基材(不図示)上に、炭素材料が配合された、未架橋のPTFEの層(以下「PTFE層」と略記される)を形成する(ステップS1)。PTFEで例示されるフッ素樹脂の層(以下「フッ素樹脂層」と略記される)を基材上に形成するためには、通常、フッ素樹脂ディスパージョンをディッピング法、スピンコーティング法またはスプレーコーティング法などによって基材上に塗工し、乾燥させる方法が採用される。
【0084】
また、基材上にフッ素樹脂の粉体塗料を塗工する方法によっても、基材上にフッ素樹脂層を形成することができる。粉体塗料の塗工方法としては、静電塗装法または流動浸漬法などが挙げられる。均一で薄い塗膜を形成しやすい点では、フッ素樹脂ディスパージョンの塗工法を採用することが好ましい。
【0085】
次に、温度調整された上記のPTFE層に、例えば酸素濃度10ppm未満の雰囲気下で電子線を照射する(ステップS2)。電子線の照射前のPTFE層の温度は例えば320℃であり、これはPTFEの融点327℃と同程度の温度である。電子線の照射線量は50kGy以上、かつ、500kGy以下であり、例えば300kGyである。電子線の実質的な加速電圧は例えば80KeVである。かかる照射によって、未架橋のPTFEが架橋する。なお、電子線の照射は、成形品の一部にのみ行われてもよい。
【0086】
放射線としては、α線(α崩壊を行う放射性核種から放出されるヘリウム-4の原子核の粒子線)、β線(原子核から放出される陰電子および陽電子)、電子線(熱電子が真空中で加速されるなどによって生成される、ほぼ一定の運動エネルギーを有する電子ビーム)などの粒子線、または、γ線(原子核、素粒子のエネルギー準位間の遷移、または、素粒子の対消滅、対生成などによって放出または吸収される波長の短い電磁波)などの電離放射線を用いることができるが、架橋効率または操作性の観点からは電子線およびγ線が好ましく、本実施の形態では電子線を用いる。
【0087】
放射線の照射線量は、たとえば、50kGy以上、かつ、800kGy以下である。耐薬品性を向上させる観点からは、当該照射線量は、たとえば、100kGy以上、かつ、400kGy以下である。耐薬品性を更に向上させる観点からは、当該照射線量は、たとえば、200kGy以上、かつ、400kGy以下である。上述の300kGyは、200kGy以上、かつ、400kGy以下である。
【0088】
放射線の照射領域の雰囲気は、たとえば、酸素濃度1000ppm以下である。架橋反応の進行を良好にする観点からは、当該酸素濃度は例えば800ppm以下である。架橋反応の進行を更に良好にする観点からは、当該酸素濃度は例えば500ppm以下である。架橋反応の進行を更に良好にする観点からは、当該酸素濃度は例えば300ppm以下である。上述の10ppm未満は、300ppm以下である。当該酸素濃度の下限値は、通常は0.1ppmであり、多くの場合は1ppm程度である。
【0089】
架橋によって得られる構造は、炭素材料が配合されたPTFEの耐性(曲げ強度および導電性の低下抑制、あるいはさらに耐摩耗性)を向上させる。かかる耐性の向上は,下記の理由によると考えられる:
(i)上記の電子線の照射によって、PTFEにおけるCF結合が切断されて炭素ラジカルが生成され;
(ii)上記の電子線の照射によって、炭素材料における官能基にもラジカルが生成され;
(iii)近接するラジカル同士(PTFE起因の炭素ラジカルと炭素材料起因のラジカルとの組み合わせを含む)で結合が生成されて、PTFEと炭素材料との間で架橋が形成される。
【0090】
表1は、炭素材料が配合されたPTFEの、電子線照射前後の曲げ強度および体積抵抗率の例を示す。例えば炭素材料としてのカーボンブラックの官能基(COOH、OH、CO)の濃度はおよそ0.01mmol/g以上、かつ、1mmol/g以下である。例えば炭素材料としてのカーボンファイバーの官能基(COOH、OH)の濃度はおよそ0.001mmol/gである。例えば炭素材料としてのカーボンナノチューブの官能基(COOH、OH、CO)の濃度はおよそ0.01mmol/g以上、かつ、0.1mmol/g以下である。
【0091】
【表1】
【0092】
ここでは炭素材料として粉末状のカーボンブラックがベース樹脂たるPTFEに配合された場合が例に挙げられた。粉末状のカーボンブラックがPTFEに配合されることによって、得られる成形物の耐熱性、耐薬品性および導電性の向上が見込まれる。たとえば、チャックピン13に当該成形物が用いられる場合、基板Wに耐電する電気を装置下部へ円滑に流すため、チャックピン13が導電性を有していることは望ましい。
【0093】
試料101、試料201、試料301のいずれも直方体を呈し、長辺の長さは50mm、短辺の長さは20mm、厚さは2mmである。浸漬処理の前において、試料101、試料201、試料301におけるカーボンブラックのPTFEへの配合量は3wt%に統一されている。
【0094】
試料101は電子線が照射されておらず、浸漬処理も受けていない。試料201は電子線が照射されておらず、浸漬処理を受けている。試料301は電子線が照射されており、浸漬処理を受けている。
【0095】
ここにいう浸漬処理とは、下記の処理である:
(a)過酸化水素水に対する硫酸の比が2であるSPMへの浸漬であり;
(b)浸漬の際のSPMの温度は260℃であり;
(c)浸漬する期間は28日であり、その期間中はSPMを毎日交換する。
【0096】
上記(a),(b)は、基板に対してSPMを用いてレジスト除去処理を行う際に、チャック部材が置かれる環境に類似して設定された。上記(c)は電子線照射の影響の有無を顕著にして比較するべく設定された。なお、上記(b)の環境下ではETFEの利用はその融点に鑑みて、PTFEよりも不利である。
【0097】
表1における曲げ強さは、JIS規格K7171に準拠して測定された。測定に用いられた圧子の半径は5mm、支点の半径は2mmである。支点間の距離は32mmであった。当該測定の雰囲気温度は23℃±2℃であり、湿度は室内湿度±10%であった。当該曲げ強さの値から、以下の事項が理解される:
(x)試料101と試料201との比較から、浸漬処理は曲げ強さを劣化させ;
(y)試料201と試料301との比較から、浸漬処理による曲げ強さの劣化は、電子線の照射によって抑制される。
【0098】
近接するラジカル同士(PTFE起因の炭素ラジカルと炭素材料起因のラジカルとの組み合わせを含む)の結合で形成される架橋が、電子線照射後の成形物の耐性の向上に寄与していることが推測される。
【0099】
表1における体積抵抗率は、JIS規格K7194に準拠する4探針法により測定された。測定に用いられた電極の間隔は5mm、電極の直径は2mmである。当該測定の雰囲気温度は23℃±2℃であり、湿度は50±5%RHであった。当該体積抵抗率から、以下の事項が理解される:
(r)試料101と試料201との比較から、浸漬処理は導電率を劣化させ;
(s)試料201と試料301との比較から、浸漬処理による導電率の劣化は、電子線の照射によって抑制される。
【0100】
表1における「浸漬処理前後の重量変化率」(以下、単に「重量変化率」と称される)は、浸漬処理を受けた試料201および試料301の、それぞれの浸漬処理を受ける前の重量からの変化率を百分率で示す。重量変化率の負号は、重量が減少したことを示す。当該重量変化率から、以下の事項が理解される:
(z)試料201と試料301との比較から、浸漬処理による重量の減少は、電子線の照射によって抑制される。
【0101】
目視により、試料201の外観は、試料301の外観よりも白っぽく見えた。炭素材料は黒色であり、PTFEは白色である。これらと上記(z)とを考慮すると、下記が推察される:
(p)浸漬処理によって試料201は試料301に対して、炭素材料がSPMへと離脱し易く;
(q)電子線の照射は、炭素材料がSPMへ離脱することを抑制する。
【0102】
これらのことから上記(y)は、電子線の照射が浸漬処理における炭素材料の離脱を抑制することが原因であると推察される。そして上記(r),(s)を考慮して、炭素材料の離脱の抑制は、浸漬処理によっても導電性が低下しにくいことに寄与する。この寄与に鑑みれば、炭素材料が配合され、電子線が照射されたPTFEは、200℃以上のSPMを用いたレジスト除去処理で例示される高温の薬液処理に用いられるチャック部材(例えばチャックピン13)に好適である。
【0103】
また上述の推察から、炭素材料としてカーボンブラックの代わりに、カーボンファイバー、または、カーボンナノチューブを採用して、PTFEに配合した場合にも、上記のような耐性の向上が見込めるものと考えられる。同様に、PTFEの代わりにPFAを採用しても上記のような耐性の向上が見込めるものと考えられる。
【0104】
<以上に記載された実施の形態によって生じる効果について>
次に、以上に記載された実施の形態によって生じる効果の例を示す。なお、以下の説明においては、以上に記載された実施の形態に例が示された具体的な構成に基づいて当該効果が記載されるが、同様の効果が生じる範囲で、本願明細書に例が示される他の具体的な構成と置き換えられてもよい。すなわち、以下では便宜上、対応づけられる具体的な構成のうちのいずれか1つのみが代表して記載される場合があるが、代表して記載された具体的な構成が対応づけられる他の具体的な構成に置き換えられてもよい。
【0105】
以上に記載された実施の形態によれば、基板処理装置1に使われる成形品の成形方法において、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)に炭素材料が配合された成形品に対し、電子線を照射する工程を備える。
【0106】
このような構成によれば、高温の薬液処理に対して耐性、例えば曲げ弾性および導電性を有する部材を成形することができる。具体的には、電子線の照射によって生成された、近接するラジカル同士で結合が生成されて、PTFEと炭素材料との間で架橋が形成される。このような架橋構造が、炭素材料が配合されたPTFEの耐性を向上させる。かかる耐性の向上は成形品、たとえばチャック部材の短命化を抑制し、もって低コスト化に資する。
【0107】
なお、特段の制限がない場合には、それぞれの処理が行われる順序は変更することができる。
【0108】
また、上記の構成に本願明細書に例が示された他の構成を適宜追加した場合、すなわち、上記の構成としては言及されなかった本願明細書中の他の構成が適宜追加された場合であっても、同様の効果を生じさせることができる。
【0109】
また、以上に記載された実施の形態によれば、炭素材料が、粉末状のカーボンブラックを含む。このような構成によれば、電子線照射によって、カーボンブラックの高濃度の官能基においてラジカルが生成される。そして、当該ラジカルがPTFE起因の炭素ラジカルと結合することによって形成される架橋構造が、炭素材料が配合されたPTFEの耐性を効果的に向上させ、導電性を維持する。
【0110】
また、以上に記載された実施の形態によれば、成形品が、基板処理装置1において基板Wを保持するチャックピン13である。このような構成によれば、チャックピン13などの高温の処理液に曝される部材を、炭素材料が配合されたPTFEで成形することによって、高温の薬液処理を受けても耐性を発揮し、導電性が得られる。
【0111】
以上に記載された実施の形態によれば、成形品は、ポリテトラフルオロエチレンに炭素材料が配合された状態で、電子線が照射される。
【0112】
このような構成によれば、高温の薬液処理に対して耐性、例えば曲げ弾性と導電性とを有する部材を成形することができる。
【0113】
なお、上記の構成に本願明細書に例が示された他の構成を適宜追加した場合、すなわち、上記の構成としては言及されなかった本願明細書中の他の構成が適宜追加された場合であっても、同様の効果を生じさせることができる。
【0114】
<以上に記載された実施の形態の変形例について>
以上に記載された実施の形態では、それぞれの構成要素の材質、材料、寸法、形状、相対的配置関係または実施の条件などについても記載する場合があるが、これらはすべての局面においてひとつの例であって、限定的なものではない。
【0115】
したがって、例が示されていない無数の変形例と均等物とが、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。たとえば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合が含まれるものとする。
【0116】
また、以上に記載された少なくとも1つの実施の形態において、特に指定されずに材料名などが記載された場合は、矛盾が生じない限り、当該材料に他の添加物が含まれた、たとえば、合金などが含まれるものとする。
【符号の説明】
【0117】
1 基板処理装置
13 チャックピン
S1,S2 ステップ
W 基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6