(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016152
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】既設構造物の撤去方法
(51)【国際特許分類】
E02D 9/02 20060101AFI20250124BHJP
【FI】
E02D9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023119241
(22)【出願日】2023-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510299064
【氏名又は名称】基礎エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】村田 浩毅
(72)【発明者】
【氏名】竹田 靖
(72)【発明者】
【氏名】谷一 彰彦
(72)【発明者】
【氏名】久木田 駿一
(72)【発明者】
【氏名】藤川 長敏
【テーマコード(参考)】
2D050
【Fターム(参考)】
2D050AA01
2D050DA00
2D050DA03
2D050DB00
2D050DB08
(57)【要約】
【課題】地中に埋設された既設構造物を空頭制限下で撤去する場合でも、効率的に既設構造物を撤去することのできる既設構造物の撤去方法を提供する。
【解決手段】既設構造物の撤去方法は、既設構造物10への引張部材11の取り付けと、既設構造物10とその周囲の地盤Gの間へのケーシング30の圧入を行うA工程、ケーシング30の天端35に構造物把持バンド60を設置するB工程、圧入機20にて引張部材11を引き上げ、構造物把持バンド60にて既設構造物10を把持してケーシング30に支持させ、既設構造物10の撤去領域を切断して撤去するC工程、既設構造物における生じる新たな天端を斫って引張部材11の頭部を露出させて別途の引張部材14と接続し、別途の引張部材14を圧入機20にて引き上げ、構造物把持バンド60にて既設構造物10を把持してケーシング30に支持させ、既設構造物10の撤去領域を切断して撤去するD工程を有する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設されている既設構造物への引張部材の取り付けと、圧入機を利用して既設構造物とその周囲の地盤の間へのケーシングの圧入による既設構造物と地盤の縁切りを行う、A工程と、
前記ケーシングの天端、もしくは、地上の施工基面に、前記既設構造物を支持する構造物把持バンドを設置する、B工程と、
前記圧入機もしくは別途の揚重機にて前記引張部材を引き上げ、前記既設構造物を前記構造物把持バンドの内側に通して、該構造物把持バンドにて該既設構造物を把持して前記ケーシングもしくは前記施工基面に支持させ、該既設構造物のうち、前記構造物把持バンドによる把持箇所よりも上方にある撤去領域を切断して撤去する、C工程と、
前記既設構造物における、切断により生じる新たな天端を斫って前記引張部材の頭部を露出させて別途の引張部材と接続し、該別途の引張部材を前記圧入機もしくは前記別途の揚重機に支持させ、前記構造物把持バンドによる前記既設構造物の把持を解除し、該圧入機もしくは該別途の揚重機にて該別途の引張部材を引き上げ、前記既設構造物を前記構造物把持バンドの内側に通して、該構造物把持バンドにて該既設構造物を把持して前記ケーシングもしくは前記施工基面に支持させ、該既設構造物のうち、該構造物把持バンドによる把持箇所よりも上方にある撤去領域を切断して撤去する、D工程とを有し、
前記D工程を繰り返して前記既設構造物を撤去することを特徴とする、既設構造物の撤去方法。
【請求項2】
前記A工程において、前記ケーシングの天端に直接的もしくは間接的にセンターホールジャッキを取り付け、該センターホールジャッキにて前記既設構造物の腰切りを行うことを特徴とする、請求項1に記載の既設構造物の撤去方法。
【請求項3】
前記A工程では、前記ケーシングの圧入に先行して、該ケーシングの圧入を案内する案内開口を備えた定規鋼板を据え付けることを特徴とする、請求項1又は2に記載の既設構造物の撤去方法。
【請求項4】
前記ケーシングを引き抜いて撤去する、E工程をさらに有し、
前記ケーシングを途中まで引き上げ、地上にあるケーシング把持バンドにて該ケーシングを把持して支持させ、該ケーシングを途中まで引き上げてできる空洞に埋戻し材を埋戻し、このケーシングの途中までの引き上げと把持、及び埋戻し材の埋戻しをセットとして、該セットを繰り返し実行することを特徴とする、請求項1又は2に記載の既設構造物の撤去方法。
【請求項5】
前記E工程では、前記ケーシング把持バンドの上にジャッキを設置し、該ケーシングのうち、該ケーシング把持バンドよりも上方の上方領域に被押上材を取り付け、前記圧入機もしくは別途の揚重機にて該ケーシングを引き上げることに加えて、該ジャッキにて該被押上材を押上げることにより該ケーシングを引き上げることを特徴とする、請求項4に記載の既設構造物の撤去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設構造物の撤去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に埋設されている既設杭等の既設構造物を地上に引き上げて撤去するに当たり、その上方に地上構造物が存在する等して空頭制限がある場合に、既設構造物を一体で引き上げることが実質的に不可能なケースも多い。
ところで、地中の既設構造物の撤去方法としては、既設構造物の周辺をケーシングで掘削しながらケーシングを建て込み、ケーシング内部の既設構造物をチゼルやブレーカー等で破砕するとともに鉄筋などはガス切断等で細かく溶断して分割し、これらをハンマーグラブ等で搬出する方法などがある。
ここで、使用するケーシングよりも既設構造物が大きな場合は、上記手順を複数回に分けて実施することになる。このような撤去方法を空頭制限下でおこなう場合、たとえばハンマーグラブの使用に際してその寸法に制約が生じることから、深礎工法を適用したり、大掛かりな装置を別途製作して撤去作業をおこなっているのが現状であり、深礎工法を適用する場合も装置を別途製作する場合もともに、撤去工事費用が嵩む要因となる。
【0003】
そこで、特許文献1には、地中に埋設された既設構造物を空頭制限下で撤去する場合でも、大掛かりで特別な装置を用意する必要もなく、高い安全性の下で効率的に既設構造物を撤去することのできる既設構造物の撤去方法が提案されている。
この既設構造物の撤去方法は、地中に埋設されている既設構造物に引張部材を取り付けるとともに、掘削機を利用して既設構造物とその周囲の地盤の間にケーシングを設置して既設構造物と地盤の縁切りをおこない、地上に架台を設置し、架台で引張部材を支持させる第1のステップ、引張部材を上方に引き上げることで既設構造物を掘削機の内側を通過させるようにしてその一部を地上に引き上げ、地上に引き上げられた既設構造物の途中位置に孔を穿孔し、この孔に支持部材を挿入し、支持部材を固定して既設構造物の固定姿勢を確保し、既設構造物における支持部材の取り付け箇所よりも上方部分を切断して撤去する第2のステップを有する。
さらに、既設構造物の一部切断によって生じた既設構造物の新たな天端に引張部材を取り付け、引張部材を架台で支持し、掘削機を利用して既設構造物を地上に引き上げ、地上に引き上げられた既設構造物の途中位置に別途の孔を穿孔し、この別途の孔に支持部材を挿入し、支持部材を固定して既設構造物の固定姿勢を確保し、既設構造物における支持部材の取り付け箇所よりも上方部分を切断して撤去する第3のステップを有し、第3のステップを繰り返して既設構造物の撤去をおこなう方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の既設構造物の撤去方法は、地中に埋設された既設構造物を空頭制限下で撤去する場合でも、大掛かりで特別な装置を用意する必要はないものの、地上に既設構造物が引き上げられるたびにその途中位置に孔を穿孔して支持部材を挿入し、支持部材を固定して既設構造物の固定姿勢を確保する施工を要することから、施工手間の観点で改善の余地がある。
【0006】
本発明は、地中に埋設された既設構造物を空頭制限下で撤去する場合でも、大掛かりで特別な装置を用意する必要もなく、効率的に既設構造物を撤去することのできる既設構造物の撤去方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成すべく、本発明による既設構造物の撤去方法の一態様は、
地中に埋設されている既設構造物への引張部材の取り付けと、圧入機を利用して既設構造物とその周囲の地盤の間へのケーシングの圧入による既設構造物と地盤の縁切りを行う、A工程と、
前記ケーシングの天端、もしくは、地上の施工基面に、前記既設構造物を支持する構造物把持バンドを設置する、B工程と、
前記圧入機もしくは別途の揚重機にて前記引張部材を引き上げ、前記既設構造物を前記構造物把持バンドの内側に通して、該構造物把持バンドにて該既設構造物を把持して前記ケーシングもしくは前記施工基面に支持させ、該既設構造物のうち、前記構造物把持バンドによる把持箇所よりも上方にある撤去領域を切断して撤去する、C工程と、
前記既設構造物における、切断により生じる新たな天端を斫って前記引張部材の頭部を露出させて別途の引張部材と接続し、該別途の引張部材を前記圧入機もしくは前記別途の揚重機に支持させ、前記構造物把持バンドによる前記既設構造物の把持を解除し、該圧入機もしくは該別途の揚重機にて該別途の引張部材を引き上げ、前記既設構造物を前記構造物把持バンドの内側に通して、該構造物把持バンドにて該既設構造物を把持して前記ケーシングもしくは前記施工基面に支持させ、該既設構造物のうち、該構造物把持バンドによる把持箇所よりも上方にある撤去領域を切断して撤去する、D工程とを有し、
前記D工程を繰り返して前記既設構造物を撤去することを特徴とする。
【0008】
本態様によれば、引き上げられた既設構造物を構造物把持バンドにて把持してケーシングもしくは施工基面に支持させ、把持箇所よりも上方にある撤去領域を切断して撤去し、これを繰り返して既設構造物を撤去することにより、既設構造物を空頭制限下で撤去する場合でも、大掛かりで特別な装置を用意する必要もなく、効率的に既設構造物を撤去することができる。
【0009】
ここで、「既設構造物」とは、地中に埋設されているコンクリート製もしくは鋼製のケーソンや基礎、地中に埋設されている場所打ち杭、鋼管杭やPHC杭等の既製杭などが含まれる。また、既設構造物の引き上げに際しては、この既設構造物と周辺地盤との縁切りを行うべく、圧入機等を利用して比較的長さの短い短尺ケーシングを順次地中に継ぎ足しながら圧入等していく。長さの短いケーシングを継ぎ足していくのは、空頭制限に対応するためである。
【0010】
既設構造物の引き上げに際しては、既設構造物の天端にボーリング削孔機等を利用して既設構造物の所定深度まで孔を穿孔し、この孔に鉄筋や緊張材等からなる引張部材を挿入し、グラウト等を充填して既設構造物への引張部材の取り付けをおこなう。そして、取り付けられた引張部材の上端を、圧入機もしくは別途の揚重機にて引き上げて構造物把持バンドの内側に通し、構造物把持バンドにて既設構造物を把持することができる。
構造物把持バンドはケーシングの天端や施工基面に支持させるが、この「施工基面」は、地上や地上に敷設した鋼板、地上に複数の形鋼材等を井桁状に組んだ架台の上面等に設定できる。
【0011】
また、本発明による既設構造物の撤去方法の他の態様は、
前記A工程において、前記ケーシングの天端に直接的もしくは間接的にセンターホールジャッキを取り付け、該センターホールジャッキにて前記既設構造物の腰切りを行うことを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、センターホールジャッキにて既設構造物の腰切りを行うことにより、引き上げられる既設構造物に周辺地盤が密着して周辺地盤との縁が切れず、引き上げ困難になるといった施工上の問題を抑制できる。
ここで、「腰切り」とは、既設構造物とその周辺地盤との密着状態を解除することを意味する。
また、「ケーシングの天端に直接的もしくは間接的にセンターホールジャッキを取り付ける」とは、文字通りケーシングの天端に直接センターホールジャッキを取り付けることと、ケーシングの天端に例えば複数の形鋼材(H形鋼等)を配設し、複数の形鋼材に対してセンターホールジャッキを取り付けることを含む意味である。
【0013】
また、本発明による既設構造物の撤去方法の他の態様は、
前記ケーシングを引き抜いて撤去する、E工程をさらに有し、
前記ケーシングを途中まで引き上げ、地上にあるケーシング把持バンドにて該ケーシングを把持して支持させ、該ケーシングを途中まで引き上げてできる空洞に埋戻し材を埋戻し、このケーシングの途中までの引き上げと把持、及び埋戻し材の埋戻しをセットとして、該セットを繰り返し実行することを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、ケーシングを途中まで引き上げ、この引き上げでできる空洞に埋戻し材を埋戻し、これを繰り返し実行することにより、ケーシングの引き上げの際に孔壁が崩壊することを抑制しながら、形成される空洞に対して埋戻し材を確実に埋戻すことができる。ここで、引き上げられたケーシングのうち、ケーシング把持バンドよりも上方にあるケーシングは、切断撤去されたり、短尺ケーシングを取り外す等して撤去される。
【0015】
また、本発明による既設構造物の撤去方法の他の態様において、
前記E工程では、前記ケーシング把持バンドの上にジャッキを設置し、該ケーシングのうち、該ケーシング把持バンドよりも上方の上方領域に被押上材を取り付け、前記圧入機もしくは別途の揚重機にて該ケーシングを引き上げることに加えて、該ジャッキにて該被押上材を押上げることにより該ケーシングを引き上げることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、ケーシング把持バンドの上にジャッキを設置し、ケーシングにおけるケーシング把持バンドよりも上方の上方領域に取り付けられた被押上材をジャッキにて押上げることにより、圧入機や別途の揚重機にてケーシングを引き上げる際に引き上げ力が不足する場合でも、より性能の高い圧入機等を別途用意することなく、ケーシングの引き上げを実現できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の既設構造物の撤去方法によれば、地中に埋設された既設構造物を空頭制限下で撤去する場合でも、大掛かりで特別な装置を用意する必要もなく、効率的に既設構造物を撤去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態に係る既設構造物の撤去方法の一例のA工程を説明する工程図である。
【
図2】
図1に続いて、実施形態に係る既設構造物の撤去方法の一例のA工程を説明する工程図である。
【
図3】
図2に続いて、実施形態に係る既設構造物の撤去方法の一例のA工程を説明する工程図である。
【
図5】
図3に続いて、実施形態に係る既設構造物の撤去方法の一例のA工程を説明する工程図である。
【
図6】
図5に続いて、実施形態に係る既設構造物の撤去方法の一例のA工程を説明する工程図である。
【
図7】実施形態に係る既設構造物の撤去方法の一例のB工程を説明する工程図である。
【
図9】実施形態に係る既設構造物の撤去方法の一例のC工程を説明する工程図であって、D工程をともに説明する図である。
【
図11】
図9に続いて、実施形態に係る既設構造物の撤去方法の一例のC工程を説明する工程図であって、D工程をともに説明する図である。
【
図13】実施形態に係る既設構造物の撤去方法の一例のE工程を説明する工程図である。
【
図14】
図13に続いて、実施形態に係る既設構造物の撤去方法の一例のE工程を説明する工程図である。
【
図15】E工程における補助工法の一例を説明する図である。
【
図16】
図14に続いて、実施形態に係る既設構造物の撤去方法の一例のE工程を説明する工程図である
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施形態に係る既設構造物の撤去方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0020】
[実施形態に係る既設構造物の撤去方法]
図1乃至
図16を参照して、実施形態に係る既設構造物の撤去方法の一例について説明する。
ここで、
図1乃至
図3,
図5、及び
図6は順に、実施形態に係る既設構造物の撤去方法の一例のA工程を説明する工程図であり、
図4は、定規鋼板の一例の斜視図である。また、
図7は、実施形態に係る既設構造物の撤去方法の一例のB工程を説明する工程図であり、
図8は、構造物把持バンドの一例の平面図である。また、
図9と
図11は順に、実施形態に係る既設構造物の撤去方法の一例のC工程を説明する工程図であって、D工程をともに説明する図であり、
図10は、
図9のX部の拡大図であり、
図12は、
図11のXII部の拡大図である。さらに、
図13,
図14,及び
図16は順に、実施形態に係る既設構造物の撤去方法の一例のE工程を説明する工程図であり、
図15は、E工程における補助工法の一例を説明する図である。
【0021】
以下、既設構造物として、場所打ちコンクリート杭である既設杭を例に説明するが、撤去対象の既設構造物は、場所打ちコンクリート杭以外にも、鋼管杭等の既製杭、鉄筋コンクリート製や鋼製のケーソン等であってもよい。
【0022】
図1等に示すように、既設杭10の撤去施工エリアには不図示の橋梁(高速道路)等があり、空頭制限レベルが設定されていることから、空頭制限レベル以下の範囲での施工が余儀なくされているものとする。
【0023】
既設構造物の撤去方法では、まず、
図1に示すように、既設杭10が埋設されている地盤Gの地表付近において、既設杭10を包囲するようにしてライナープレートLを打設する。さらに、ライナープレートLの側方の地表には、排水用の釜場KをバックホウBにより造成する。
【0024】
次に、
図2に示すように、既設杭10の天端にコアリングマシンCを設置し、引張部材建て込み用の孔を既設杭10の下端近傍まで削孔する。次いで、削孔内に不図示の注入管を挿入し、送水して削孔内を洗浄した後、削孔内にセメントミルクを注入し、引張部材11を建て込む。ここで、引張部材11にはPC鋼棒が適用される。
【0025】
次に、
図3に示すように、既設杭10に対応する地表面に定規鋼板40を設置する。ここで、
図4に示すように、定規鋼板40は、後工程で挿入される短尺ケーシング31よりも大径の案内開口42を備えた長尺な鋼板であり、案内開口42と反対側には、圧入機20によって踏まれる踏み代45が設けられている。
【0026】
図3に戻り、定規鋼板40は、その案内開口42が既設杭10の直上に位置するようにして地表面に設置される。そして、短尺ケーシング31を垂下する圧入機20が施工位置まで近接し、圧入機20が定規鋼板40の踏み代45を踏むことにより、定規鋼板40の位置固定が自動的に図られる。
【0027】
図示例の圧入機20は、BG(多機能大口径削孔)掘削機であり、ベースマシン21に対してマスト23が上下移動及び水平移動自在に装備され、マスト23に対してロータリードライブ25が昇降自在に装着されている。
【0028】
図3には、ロータリードライブ25に対して、相互に接続されている2つの短尺ケーシング31が垂下されている状態を示している。図示例の施工現場は空頭制限レベルが設定されていることから、長尺なケーシングを一度に圧入することができないため、複数の短尺ケーシング31を順次継ぎ足しながら既設杭10に相当する長さのケーシング30(
図6参照)を形成する方法が適用される。
図3に示すように、短尺ケーシング31の回転圧入に際して、釜場KにサンドポンプSを設置する。
【0029】
次に、
図5に示すように、圧入機20の後方にプラントPを設置し、プラントPから削孔水送り用のホースH1を介して短尺ケーシング31内に削孔水を送水しながら、圧入機20にて短尺ケーシング31をX1方向に回転させ、X2方向に押し込む回転圧入を行う。尚、削孔水は釜場Kに収容され、サンドポンプSにて削孔水戻し用のホースH2を介してプラントPに回収される。
【0030】
以上の短尺ケーシング31の回転圧入と、別途の短尺ケーシング31の継ぎ足しを順次行うことにより、
図6に示すように既設杭10の全長に亘って既設杭10を完全に包囲するケーシング30を設置し、既設杭10とその周辺の地盤Gとの縁切りを行う。
【0031】
次に、同
図6に示すように、ケーシング30の天端35に複数(例えば2つ)のH形鋼等の形鋼材52を設置し、複数の形鋼材52の上にセンターホールジャッキ54を取り付け、センターホールジャッキ54にて引張部材11を上方へX3方向に引き上げることにより、既設杭10と周辺地盤との腰切りを行う。
【0032】
この腰切りにより、引き上げられる既設杭10の例えば下端と、その下方にある地盤が密着して下方地盤(周辺地盤)との縁が切れず、引き上げ困難になるといった施工上の問題を抑制できる。尚、既設杭10と周辺地盤との密着がない場合は、図示例の腰切りは不要であるが、この場合でも、センターホールジャッキ54にて既設杭10を引き上げることで、腰切りの要/不要が確認できる(以上、A工程)。
【0033】
次に、
図7に示すように、クレーンCRにて構造物把持バンド60を垂下し、ケーシング30の天端35へX4方向に吊り下ろし、天端35に設置する。ここで、構造物把持バンド60の設置位置は、ケーシング30の天端以外にも、任意に設定された施工基面上であってもよい。
【0034】
ここで、構造物把持バンド60は
図8に示すように、2つの半割バンド62を有し、それぞれの半割バンド62の両端部にある固定フランジ64同士を対向させ、双方に開設されているボルト孔64aに対して挿通されたボルトナット69により環状の構造物把持バンド60が形成される。
【0035】
半割バンド62の内空壁面66には複数の把持弾性材68が取り付けられており、複数の把持弾性材68にてその内部に挿通されるケーシング30の上部を把持するようになっている。ここで、把持弾性材には、硬質のゴム等が適用できる(以上、B工程)。
【0036】
次に、
図9に示すように、既設杭10の天端から上方に延びる別途の引張部材14を、圧入機20に対して引き上げ可能に接続し、フィードシリンダ27とメインウィンチ29を駆動させて別途の引張部材14を引き上げることにより、既設杭10を上方へX5方向に引き上げる。ここで、この最初の引き上げでは、既設杭10に埋設した引張部材11の上方を既設杭10の天端から張り出しておき、引張部材11を圧入機20にて引き上げてもよい。
【0037】
図9のX部を拡大した
図10に示すように、既設杭10の天端12の近傍にある機械式継手13(カプラー)の下方に、既設杭10の内部に挿通される引張部材11の上端が接続され、機械式継手13の上方に、別途の引張部材14の下端が接続され、この別途の引張部材14を圧入機20が引き上げることになる。
【0038】
図9と
図10に示すように、構造物把持バンド60の上方に既設杭10を所定長さ(例えば1m乃至数m程度)突出させるまで引き上げた後、ケーシング30の天端35に取り付けられている構造物把持バンド60を締め付けて把持させ、既設杭10を仮受けする。
【0039】
次に、
図11とそのXII部の拡大図である
図12に示すように、構造物把持バンド60による把持箇所よりも上方t2の位置にある撤去領域(高さt1の範囲)を規定する切断ラインCLを、ワイヤーソーWにて切断する。この切断により、既設杭10の上方の高さt1の範囲の撤去領域にあるブロックが撤去されることになる(以上、C工程)。
【0040】
図9及び
図10に示すように、既設杭10を所定長さ引き上げ、構造物把持バンド60にて既設杭10を把持させて仮受けし、
図11及び
図12に示すように切断ラインCLをワイヤーソーWにて切断し、切断により生じる新たな天端を斫って引張部材11の頭部を露出させ、引張部材11の頭部に機械式継手13(
図10参照)を取り付け、機械式継手13に対して別途の引張部材14(
図10参照)を接続し、別途の引張部材14を圧入機20に支持させ、構造物把持バンド60による既設杭10の把持を解除し、別途の引張部材14を圧入機20にて引き上げる施工をD工程とし、D工程を繰り返すことにより、既設杭10が撤去される。ここで、既設杭10の引き上げは、圧入機20の他にも、クレーン等の別途の揚重機であってもよい。
【0041】
既設杭10が撤去された後、
図13に示すように、圧入機20にハンマーグラブHGを取り付け、ケーシング30内をハンマーグラブHGにて底浚い削孔する。削孔にて発生した土砂は、圧入機20の後方のベッセルVに収容し、場外搬出する。
【0042】
次に、
図14に示すように、圧入機20にてケーシング30をその途中までX6方向に引き上げ、地上にあるケーシング把持バンド90にてケーシング30を把持して支持させ、ケーシング30を途中まで引き上げてできる空洞72に埋戻し材82を埋戻す。
【0043】
ここで、ケーシング把持バンド90は、構造物把持バンド60を転用してもよい。
【0044】
ここで、
図15に示すように、ケーシング把持バンド90の上にジャッキ38を設置し、ケーシング30のうち、ケーシング把持バンド90よりも上方の上方領域に被押上材39を取り付け、圧入機20にてケーシング30を引き上げることに加えて、ジャッキ38にて被押上材39を押上げることによりケーシングを引き上げる補助工法を適用してもよい。
【0045】
この補助工法を適用することにより、圧入機20にてケーシング30を引き上げる際に引き上げ力が不足する場合でも、より性能の高い圧入機等を別途用意することなく、ケーシング30の引き上げを実現できる。
【0046】
このケーシング30の途中までの引き上げとケーシング把持バンド90による把持及び仮受け、ケーシング30の引き上げにより形成される空洞72への埋戻し材82の埋戻しを繰り返すことにより、
図16に示すように、ケーシング30の撤去と、ケーシング30の撤去に伴い生じる空洞70への埋戻し材80の埋戻しが完了する(以上、E工程)。
【0047】
図示する既設構造物の撤去方法によれば、地中に埋設された既設構造物10を空頭制限下で撤去する場合でも、大掛かりで特別な装置を用意する必要もなく、効率的に既設構造物10を撤去することができる。
【0048】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0049】
10:既設構造物(既設杭、場所打ちコンクリート杭)
11:引張部材(PC鋼棒)
12:天端
13:機械式継手
14:別途の引張部材
20:圧入機(BG掘削機)
21:ベースマシン
23:マスト
25:ロータリードライブ
27:フィードシリンダ
29:メインウィンチ
30:ケーシング
31:短尺ケーシング
35:天端
38:ジャッキ
39:被押上材
40:定規鋼板
42:案内開口
45:踏み代
52:形鋼材
54:センターホールジャッキ
60:構造物把持バンド
62:半割バンド
64:固定フランジ
64a:ボルト孔
66:内空壁面
68:把持弾性材
69:ボルトナット
70,72:空洞
80,82:埋戻し材
90:ケーシング把持バンド
G:地盤(地中)
L:ライナープレート
B:バックホウ
K:釜場
C:コアリングマシン
S:サンドポンプ
H1,H2:ホース
P:プラント
CL:切断ライン
W:ワイヤーソー
HG:ハンマーグラブ
V:ベッセル