(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016161
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】スチームポップの発生を予測するためのプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 18/12 20060101AFI20250124BHJP
G16H 50/20 20180101ALI20250124BHJP
【FI】
A61B18/12
G16H50/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】31
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023119252
(22)【出願日】2023-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100130845
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 伸一
(72)【発明者】
【氏名】滝川 正晃
(72)【発明者】
【氏名】藤原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】角田 柊二
【テーマコード(参考)】
4C160
5L099
【Fターム(参考)】
4C160KK03
4C160KK26
4C160MM38
5L099AA04
(57)【要約】
【課題】 本発明は、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを出力するためのプログラムを提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを出力するためのプログラムであって、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標と、不整脈治療のためのアブレーションによって一定期間以上焼灼してもスチームポップが発生しなかったこととを示す複数のデータを、学習データとして人工知能モデルに入力し、人工知能モデルに学習させる工程を含む方法により生成されたプログラムを提供する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを出力するためのプログラムであって、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標と、不整脈治療のためのアブレーションによって一定期間以上焼灼してもスチームポップが発生しなかったこととを示す複数のデータを、学習データとして人工知能モデルに入力し、人工知能モデルに学習させる工程を含む方法により生成されたプログラム。
【請求項2】
不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標が、出力、接触力、上限温度、通電時間、及び冷却に使用する生理食塩水濃度からなる群から選ばれる、請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標が、出力を含む、請求項2に記載のプログラム。
【請求項4】
不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標が、設定された能動的指標又は受動的指標の上限値と能動的指標又は受動的指標との相対的な差を表す変数である、請求項1に記載のプログラム。
【請求項5】
不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標が、設定された出力の上限値と出力との相対的な差を表す変数である、請求項1に記載のプログラム。
【請求項6】
一定期間が、30秒以上の期間から選ばれる期間である、請求項1に記載のプログラム。
【請求項7】
通電時間が10秒以上である、請求項2に記載のプログラム。
【請求項8】
複数のデータが、50個以上のデータである、請求項1に記載のプログラム。
【請求項9】
人工知能モデルに学習させる工程において用いられるアルゴリズムが、MTAD-GATである、請求項1に記載のプログラム。
【請求項10】
人工知能モデルに学習させる工程において、複数のデータが、学習:検証:テスト=4~7 : 1~3 : 1~3に分割して使用される、請求項1に記載のプログラム。
【請求項11】
人工知能モデルに学習させる工程において、複数のデータが、多変量時系列データである、請求項1に記載のプログラム。
【請求項12】
人工知能モデルに学習させる工程において、複数のデータが、当該複数のデータ内の各特徴量の平均と標準偏差を用いて標準化される、請求項1に記載のプログラム。
【請求項13】
人工知能モデルに学習させる工程が、移動窓を用いて固定長のデータに加工する工程を含む、請求項1に記載のプログラム。
【請求項14】
人工知能モデルに学習させる工程が、複数のデータのそれぞれの特徴量を指定したカーネルサイズを元にして畳み込む工程を含む、請求項1に記載のプログラム。
【請求項15】
畳み込む工程により欠損したデータを0で埋める工程を含む、請求項14に記載のプログラム。
【請求項16】
畳み込む工程が、和をとることにより行われる、請求項14に記載のプログラム。
【請求項17】
人工知能モデルに学習させる工程が、複数のグラフアテンション機構を内蔵する、請求項1に記載のプログラム。
【請求項18】
複数のグラフアテンション機構が、特徴方向に対するグラフアテンション、及び時間方向に対するグラフアテンションを含む、請求項17に記載のプログラム。
【請求項19】
人工知能モデルに学習させる工程が、複数のグラフアテンション機構の出力と、畳み込み後のデータを結合し、GRU層に渡す工程を含む、請求項17に記載のプログラム。
【請求項20】
人工知能モデルに学習させる工程が、GRU層をベースとしたエンコーダを通すことで、特徴を抽出し、デコーダ層に渡す工程を含む、請求項1に記載のプログラム。
【請求項21】
人工知能モデルに学習させる工程が、GRU層に、セルフアテンション層と全結合層を加えることにより、重みをつけつつ、元の入力を復元するように出力を返す工程を含む、請求項1に記載のプログラム。
【請求項22】
復元された出力は、Windowの最後列のみを抽出する、請求項21に記載のプログラム。
【請求項23】
人工知能モデルに学習させる工程が、iを各入力特徴量として、タイムスタンプtにおける異常度を以下の式により計算する工程を含む、請求項1に記載のプログラム。
【数1】
【請求項24】
対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを出力することが、検証データを用いて異常度を算出し、算出された異常度の所定の数値のパーセンタイル値を取得して異常の閾値として設定し、過去n秒の内、m秒(但し、n>m)が異常の閾値を超えている場合に、スチームポップの発生の予兆があると判定する工程を含む、請求項1に記載のプログラム。
【請求項25】
請求項1に記載のプログラムを記憶したコンピュータ。
【請求項26】
請求項1に記載のプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項27】
対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを出力するための装置であって、
対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータを入力するための手段と、
入力された、対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータと、請求項1に記載のプログラムを用いて、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを算出するための手段と、
算出された、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを出力するための手段とを含む、
装置。
【請求項28】
請求項1に記載のプログラムを記憶した手段を含む、請求項17に記載の装置。
【請求項29】
対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータの出力方法であって、
対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータを、請求項27に記載の装置に入力する工程と、
入力された、対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータと、請求項1に記載のプログラムとを用いて、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを、当該装置に算出させる工程と、
算出された、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを、当該装置に出力させる工程とを含む、
方法。
【請求項30】
対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータを、請求項27に記載の装置に入力する工程の前に、対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータを取得する工程を、更に含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測方法であって、請求項29に記載の方法を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを出力するためのプログラム、これを記憶したコンピュータ、及びこれを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体に関する。また、本発明は、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを出力するための装置に関する。更に、本発明は、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータの出力方法に関する。更に、本発明は、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波カテーテルアブレーション(RFCA)は、不整脈などの心臓病を治療するために、350kHz~1MHzの高周波AC電流を心筋組織に流して熱損傷を引き起こす医療技術である(非特許文献1)。RFCA中、心筋組織内での水蒸気爆発によって生じる可聴音であるスチームポップが発生する可能性があり、心室中隔欠損や心穿孔を引き起こし、後遺症や死亡事故を引き起こす可能性がある(非特許文献2)。スチームポップの詳しい原因はまだ解明されていない。スチームポップのリスクを定量的に計算できれば、RFCAの安全性が向上する。
【0003】
不整脈治療における高周波カテーテルアブレーション中に生じるスチームポップ現象(steam-pop現象)は、心タンポナーデといった重篤な合併症を引き起こしうる重篤な事象である。この重篤な現象を予測するための指標として、出力・焼灼時間・コンタクトフォースなどの能動的指標や、焼灼部の局所温度や抵抗値といった受動的指標が検討されてきた。しかしながらいずれの指標も単独で、臨床的にスチームポップ現象を正確に予測するのは難しく、カテーテルの種類やカテーテル先端からのイリゲーションにも影響をうける。
【0004】
特許文献1には、アブレーション中のスチームポップの防止に関する発明として、組織アブレーションを、遠位導電キャップを有するプローブを用いて実施する装置が記載されており、本装置の1つの様態によれば、反射した光学放射を解析することに、差し迫っているスチームポップ事象を示唆する反射した光学放射中の特徴的なサインを認識することが含まれることが記載されている。
【0005】
特許文献2には、アブレーション中にスチームポップ現象を予測するための装置として、医療手技を行うための装置であって、患者の臓器内の組織に結合されるように、かつ前記組織にアブレーションエネルギーを適用するように構成される、侵襲性のプローブと、前記プローブに結合され、時間の関数として、前記アブレーションエネルギーによりもたらされた前記組織内の蒸気圧の進展のモデルを推定するように、前記蒸気圧によりもたらされたスチームポップ現象の発生時間を、前記モデルに基づいて、予測するように、かつオペレータに対して前記スチームポップ現象の前記予測された発生時間を指示するように構成されるプロセッサと、を含む、装置が記載されている。
【0006】
非特許文献3は、ニューラルネットワークを利用した時系列多変量データの異常検知手法として、Multivariate Time-series Anomaly Detection via Graph Attention Network(MATD-GAT)を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-208684号公報
【特許文献2】特開2015-009157号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】D. E. Haines, “The biophysics of radiofrequency catheter ablation in the heart: The importance of temperature monitoring,” Pacing and Clinical Electrophysiology, vol. 16, no. 3, pp. 586-591, March 1993.
【非特許文献2】J. Seiler, K. C. Roberts-Thomson, J.-M. Raymond, J. Vest, E. Delacretaz, and W. G. Stevenson, “Steam pops during irrigated radiofrequency ablation: Feasibility of impedance monitoring for prevention,” Heart Rhythm, vol. 5, no. 10, pp. 1411-1416, October 2008.
【非特許文献3】H. Zhao, Y. Wang, J. Duan, C. Huang, D. Cao, Y. Tong, B. Xu, J. Bai, J. Tong, and Q. Zhang, “Multivariate time-series anomaly detection via graph attention network,” September 2020.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明は、機械学習を用いてスチームポップの発生を予測するリアルタイム異常検知モデルの構築を目的とする。すなわち、本発明は、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを出力するためのプログラム;対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを出力するための装置;及び対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータの出力方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、近年、能動的指標と受動的指標の両方の情報を含んだ変数を用いるほうが、焼灼巣の大きさとの相関が良いという知見を発表した。したがって、アブレーションシステムのジェネレーター内の全てのパラメーター(能動的指標と受動的指標の両者)のリアルタイムの変化を使用すればより精密な焼灼効果の予測と安全性の予測ができると推定した。
【0011】
アブレーションシステムのジェネレーター内には、多数の能動的指標と受動的指標の単位時間毎のリアルタイムの変化が記録されている。これらの大量の通電中の変数についての時系列データを機械学習を用いて解析し、アブレーション中に発生する重篤な合併症であるスチームポップ現象の発生との関連性を調査した。その結果、本発明によるスチームポップ現象発生の予測アルゴリズムは従来のパラメータによる予測と比較して、有意に優れていた。
【0012】
このようにシステムのジェネレーター内に記録される多数の時系列データより機械学習を用いて、アブレーションの結果について正確な予測を行うアルゴリズムは、今までのカテーテルアブレーション領域では行われていない新たな技術である。今後、不整脈に対するカテーテル治療がさらに進歩し、高周波以外のエネルギーが利用される可能性もあるが、本発明を用いて同様にジェネレーター内に蓄積されるデータよりアブレーションの合併症を予測するアルゴリズムを構築することができるため、将来的にも本願発明は臨床的に利用可能であると想定される。
【0013】
すなわち、本発明は、以下を提供するものである。
[態様1]
対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを出力するためのプログラムであって、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標と、不整脈治療のためのアブレーションによって一定期間以上焼灼してもスチームポップが発生しなかったこととを示す複数のデータを、学習データとして人工知能モデルに入力し、人工知能モデルに学習させる工程を含む方法により生成されたプログラム。
[態様2]
不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標が、出力、接触力、上限温度、通電時間、及び冷却に使用する生理食塩水濃度からなる群から選ばれる、態様1に記載のプログラム。
[態様3]
不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標が、出力を含む、態様2に記載のプログラム。
[態様4]
不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標が、設定された能動的指標又は受動的指標の上限値と能動的指標又は受動的指標との相対的な差を表す変数である、態様1に記載のプログラム。
[態様5]
不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標が、設定された出力の上限値と出力との相対的な差を表す変数である、態様1に記載のプログラム。
[態様6]
一定期間が、30秒以上の期間から選ばれる期間である、態様1に記載のプログラム。
[態様7]
通電時間が10秒以上である、態様2に記載のプログラム。
[態様8]
複数のデータが、50個以上のデータである、態様1に記載のプログラム。
[態様9]
人工知能モデルに学習させる工程において用いられるアルゴリズムが、MTAD-GATである、態様1に記載のプログラム。
[態様10]
人工知能モデルに学習させる工程において、複数のデータが、学習:検証:テスト=4~7 : 1~3 : 1~3に分割して使用される、態様1に記載のプログラム。
[態様11]
人工知能モデルに学習させる工程において、複数のデータが、多変量時系列データである、態様1に記載のプログラム。
[態様12]
人工知能モデルに学習させる工程において、複数のデータが、当該複数のデータ内の各特徴量の平均と標準偏差を用いて標準化される、態様1に記載のプログラム。
[態様13]
人工知能モデルに学習させる工程が、移動窓を用いて固定長のデータに加工する工程を含む、態様1に記載のプログラム。
[態様14]
人工知能モデルに学習させる工程が、複数のデータのそれぞれの特徴量を指定したカーネルサイズを元にして畳み込む工程を含む、態様1に記載のプログラム。
[態様15]
畳み込む工程により欠損したデータを0で埋める工程を含む、態様14に記載のプログラム。
[態様16]
畳み込む工程が、和をとることにより行われる、態様14に記載のプログラム。
[態様17]
人工知能モデルに学習させる工程が、複数のグラフアテンション機構を内蔵する、態様1に記載のプログラム。
[態様18]
複数のグラフアテンション機構が、特徴方向に対するグラフアテンション、及び時間方向に対するグラフアテンションを含む、態様17に記載のプログラム。
[態様19]
人工知能モデルに学習させる工程が、複数のグラフアテンション機構の出力と、畳み込み後のデータを結合し、GRU層に渡す工程を含む、態様17に記載のプログラム。
[態様20]
人工知能モデルに学習させる工程が、GRU層をベースとしたエンコーダを通すことで、特徴を抽出し、デコーダ層に渡す工程を含む、態様1に記載のプログラム。
[態様21]
人工知能モデルに学習させる工程が、GRU層に、セルフアテンション層と全結合層を加えることにより、重みをつけつつ、元の入力を復元するように出力を返す工程を含む、態様1に記載のプログラム。
[態様22]
復元された出力は、Windowの最後列のみを抽出する、態様21に記載のプログラム。
[態様23]
人工知能モデルに学習させる工程が、iを各入力特徴量として、タイムスタンプtにおける異常度を以下の式により計算する工程を含む、態様1に記載のプログラム。
【数1】
[態様24]
対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを出力することが、検証データを用いて異常度を算出し、算出された異常度の所定の数値のパーセンタイル値を取得して異常の閾値として設定し、過去n秒の内、m秒(但し、n>m)が異常の閾値を超えている場合に、スチームポップの発生の予兆があると判定する工程を含む、態様1に記載のプログラム。
[態様25]
態様1に記載のプログラムを記憶したコンピュータ。
[態様26]
態様1に記載のプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
[態様27]
対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを出力するための装置であって、
対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータを入力するための手段と、
入力された、対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータと、態様1に記載のプログラムを用いて、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを算出するための手段と、
算出された、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを出力するための手段とを含む、
装置。
[態様28]
態様1に記載のプログラムを記憶した手段を含む、態様17に記載の装置。
[態様29]
対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータの出力方法であって、
対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータを、態様27に記載の装置に入力する工程と、
入力された、対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータと、態様1に記載のプログラムとを用いて、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを、当該装置に算出させる工程と、
算出された、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを、当該装置に出力させる工程とを含む、
方法。
[態様30]
対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータを、態様27に記載の装置に入力する工程の前に、対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータを取得する工程を、更に含む、態様29に記載の方法。
[態様31]
不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測方法であって、態様29に記載の方法を含む、方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のプログラム、装置、及び方法によれば、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを出力することができ、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の実施態様において用いるMTAD-GATベースの提案アルゴリズムを示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施態様において行われるPreprocessingを示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施態様において行われる1-D Convolutionを示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施態様において行われる再構成型モデル(Reconstruction-basedmodel)(デコーダ)におけるデータの復元方法を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施例における異常データの異常スコアを示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施例におけるDiff_Powerの異常スコアなどを示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施例における異常データの異常スコアを示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の態様の実装に用いられ得るコンピュータの概略構成である。
【
図9】
図9は、本発明の装置及び方法において行われる処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
プログラム:
本発明は、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを出力するためのプログラムであって、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標と、不整脈治療のためのアブレーションによって一定期間以上焼灼してもスチームポップが発生しなかったこととを示す複数のデータを、学習データとして人工知能モデルに入力し、人工知能モデルに学習させる工程を含む方法により生成されたプログラムを提供する。
【0017】
不整脈治療のためのアブレーションとしては、例えば、不整脈治療のための高周波カテーテルアブレーションのほか、不整脈治療のためのエレクトロポレーション法によるアブレーションが挙げられるが、好ましくは、不整脈治療のための高周波カテーテルアブレーションが挙げられる。
【0018】
不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータは、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示す数値のデータであってもよいが、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示す記号のデータであってもよい。
【0019】
不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータは、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータに基づき生成された特徴ベクトルであってもよい。
【0020】
不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標と、不整脈治療のためのアブレーションによって一定期間以上焼灼してもスチームポップが発生しなかったこととを示す複数のデータは、好ましくは、50個以上のデータであり、より好ましくは、60個以上のデータであり、更に好ましくは、70個以上のデータであり、更に好ましくは、80個以上のデータであり、更に好ましくは、100個以上のデータであり、更に好ましくは、1,000個以上のデータであり、更に好ましくは、10,000個以上のデータである。また、当該複数のデータは、好ましくは、1,000,000個以下のデータであり、より好ましくは、100,000個以下のデータであり、更に好ましくは、10,000個以下のデータであり、更に好ましくは、1,000個以下のデータである。
【0021】
不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標と、不整脈治療のためのアブレーションによって一定期間以上焼灼してもスチームポップが発生しなかったこととを示すデータが複数であることは、例えば、不整脈治療のためのアブレーションを行った際における能動的指標又は受動的指標と、当該不整脈治療のためのアブレーションによって一定期間以上焼灼してもスチームポップが発生しなかったこととをセットで示すデータが複数であることである。
【0022】
不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標と、不整脈治療のためのアブレーションによって一定期間以上焼灼してもスチームポップが発生しなかったこととを示す複数のデータは、好ましくは、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標と、不整脈治療のためのアブレーションの受動的指標と、不整脈治療のためのアブレーションによって一定期間以上焼灼してもスチームポップが発生しなかったこととを示す複数のデータである。
【0023】
不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標と、不整脈治療のためのアブレーションの受動的指標と、不整脈治療のためのアブレーションによって一定期間以上焼灼してもスチームポップが発生しなかったこととを示すデータが複数であることは、例えば、不整脈治療のためのアブレーションを行った際における能動的指標と、不整脈治療のためのアブレーションを行った際における受動的指標と、当該不整脈治療のためのアブレーションによって一定期間以上焼灼してもスチームポップが発生しなかったこととをセットで示すデータが複数であることである。
【0024】
不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標は、好ましくは、アブレーション出力、コンタクトフォース、焼灼時間、カテ接触方向、及びアブレーション還流液の種類からなる群から選ばれる、1個、2個、3個、4個、又は5個である。ここで個数は、アブレーション出力、コンタクトフォース、焼灼時間、カテ接触方向、及びアブレーション還流液の種類という区分から選ばれる個数である。したがって、例えば、アブレーション出力から選ばれる個数が2個以上である場合などにおいては、これらの個数には制限されない。
【0025】
アブレーション出力は、好ましくは、出力の時間積分値、及び出力の平均値からなる群から選ばれる、1個、又は2個である。ここで、アブレーション出力が、出力の時間積分値、及び出力の平均値からなる群から選ばれることは、アブレーション出力が、出力の時間積分値、及び出力の平均値であることを包含する。
【0026】
コンタクトフォースは、好ましくは、カテーテルを押し当てる力の平均値、カテーテルを押し当てる力の最大値、及びカテーテルを押し当てる力の最小値からなる群から選ばれる、1個、2個、又は3個である。ここで個数は、カテーテルを押し当てる力の平均値、カテーテルを押し当てる力の最大値、及びカテーテルを押し当てる力の最小値という区分から選ばれる個数である。したがって、例えば、カテーテルを押し当てる力の平均値から選ばれる個数が2個以上である場合などにおいては、これらの個数には制限されない。
【0027】
カテ接触方向は、例えば、垂直方向、及び並行方向からなる群から選ばれる、1個、又は2個である。ここで、カテ接触方向が、垂直方向、及び並行方向からなる群から選ばれることは、カテ接触方向が、垂直方向、及び並行方向であることを包含する。
【0028】
アブレーション還流液の種類は、例えば、生理食塩水、及び半生理食塩水から選ばれる、1個、又は2個である。ここで、アブレーション還流液の種類が、生理食塩水、及び半生理食塩水から選ばれることは、アブレーション還流液の種類が、生理食塩水、及び半生理食塩水であることを包含する。
【0029】
不整脈治療のためのアブレーションの受動的指標は、好ましくは、焼灼部の局所温度、及び局所抵抗値からなる群から選ばれる、1個、又は2個である。ここで個数は、焼灼部の局所温度、及び局所抵抗値という区分から選ばれる個数である。したがって、例えば、焼灼部の局所温度から選ばれる個数が2個以上である場合などにおいては、これらの個数には制限されない。
【0030】
焼灼部の局所温度は、好ましくは、温度の平均値、及び温度の最大値からなる群から選ばれる、1個、又は2個である。ここで、焼灼部の局所温度が、温度の平均値、及び温度の最大値からなる群から選ばれることは、焼灼部の局所温度が、温度の平均値、及び温度の最大値であることを包含する。
【0031】
局所抵抗値は、好ましくは、抵抗値の最大値、抵抗値の最小値、抵抗値の低下幅、及び抵抗値の低下率からなる群から選ばれる、1個、2個、3個、又は4個である。ここで個数は、抵抗値の最大値、抵抗値の最小値、抵抗値の低下幅、及び抵抗値の低下率という区分から選ばれる個数である。したがって、例えば、抵抗値の最大値から選ばれる個数が2個以上である場合などにおいては、これらの個数には制限されない。
【0032】
不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標は、好ましくは、出力、接触力、上限温度、通電時間、及び冷却に使用する生理食塩水濃度からなる群から選ばれる、1個、2個、3個、4個、又は5個である。ここで個数は、出力、接触力、上限温度、通電時間、及び冷却に使用する生理食塩水濃度という区分から選ばれる個数である。したがって、例えば、出力から選ばれる個数が2個以上である場合などにおいては、これらの個数には制限されない。不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標は、好ましくは、出力を含む。
【0033】
通電時間は、好ましくは、5秒以上であり、より好ましくは、10秒以上であり、更に好ましくは、15秒以上であり、更に好ましくは、20秒以上である。不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標と、不整脈治療のためのアブレーションによって一定期間以上焼灼してもスチームポップが発生しなかったこととを示す複数のデータは、好ましくは、通電時間が5、10、15又は20秒未満であるデータが10%未満であり、より好ましくは、通電時間が5、10、15又は20秒未満であるデータが5%未満であり、更に好ましくは、通電時間が5、10、15又は20秒未満であるデータが1%未満であり、更に好ましくは、通電時間が5、10、15又は20秒未満であるデータが0.1%未満である。当該複数のデータは、好ましくは、通電時間が5秒未満であるデータを実質的に含まず、より好ましくは、通電時間が10秒未満であるデータを実質的に含まず、更に好ましくは、通電時間が15秒未満であるデータを実質的に含まず、更に好ましくは、通電時間が20秒未満であるデータを実質的に含まない。
【0034】
不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標は、好ましくは、設定された能動的指標又は受動的指標の上限値と能動的指標又は受動的指標の相対的な差を表す変数である。不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標は、好ましくは、設定された出力の上限値と出力の相対的な差を表す変数である。
【0035】
不整脈治療のためのアブレーションによって一定期間以上焼灼してもスチームポップが発生しなかったことを示す複数のデータにおいて、一定期間は、好ましくは、30秒以上の期間から選ばれる期間であり、より好ましくは、30秒~3分の期間から選ばれる期間であり、更に好ましくは、40秒~2分の期間から選ばれる期間であり、更に好ましくは、50秒~90秒の期間から選ばれる期間である。
【0036】
本発明のプログラムにおいては、学習データとして人工知能モデルに入力する複数のデータは、含まれる、スチームポップが発生したことを示すデータが、好ましくは、10%以下であり、より好ましくは、5%以下であり、更に好ましくは、1%以下であり、更に好ましくは、0.1%以下であり、更に好ましくは、0.01%以下である。本発明のプログラムにおいては、学習データとして人工知能モデルに入力する複数のデータは、好ましくは、スチームポップが発生したことを示すデータを実質的に含まず、より好ましくは、スチームポップが発生したことを示すデータを含まない。
【0037】
また、本発明のプログラムにおいては、学習データとして人工知能モデルに入力する複数のデータは、含まれる、前記の一定期間未満の焼灼でスチームポップが発生しなかったことを示すデータが、好ましくは、10%以下であり、より好ましくは、5%以下であり、更に好ましくは、1%以下であり、更に好ましくは、0.1%以下であり、更に好ましくは、0.01%以下である。本発明のプログラムにおいては、学習データとして人工知能モデルに入力する複数のデータは、好ましくは、前記の一定期間未満の焼灼でスチームポップが発生しなかったことを示すデータを実質的に含まず、より好ましくは、前記の一定期間未満の焼灼でスチームポップが発生しなかったことを示すデータを含まない。
【0038】
人工知能モデルに学習させる工程において用いられるアルゴリズムは、好ましくは、MTAD-GATである。本発明のプログラムのアルゴリズムの一つの実施態様を、用いる実験材料であるデータの一つの実施態様とともに、以下に示す。
【0039】
A 実験材料(データ):
本実施態様において使用するデータは、Tacti-Flexカテーテル(Abbott inc. USA)で取得されたEx-vivo実験での焼灼データである。本データはサンプリング周期0.01秒で記録されており、機械学習に使用できるものとして表1に示される変数が取得される。
【表1】
【0040】
また、焼灼の際には事前にPowerの上限値(Target Power)、Contact Forceの上限値(Target CF)、Tempの上限値(Target Temp)を設定する。焼灼の際にはこの上限値を超えないように焼灼を行うため、上限値との相対的な差を表す変数として、以下の式で表されるDiff Power、Diff CF(Diff Contact Force)、及びDiff Tempを使用する。
Diff Power =Target Power - Power
Diff CF =Target CF - CF
Diff Temp =Target Temp - Temp
【0041】
焼灼を行う際のパラメータとして、以下の値を設定する。
1. Power(出力): 30、40、及び50 W
2. Contact force(接触力): 10、及び20 g
3. Upper-temperature limits(上限温度): 40、43、及び45℃
4. Energization time(通電時間): 10、20、30、60、120、及び180秒
5. Irrigation settings(冷却に使用する生理食塩水濃度): normal and half saline(生理食塩水及び半生理食塩水)
【0042】
本実施態様では、通電時間が20秒以上のものに限って学習を行う。この理由として、焼灼開始2秒でPowerが上限値に達するようになっているため、この期間は非定常期間であること、2秒で上限に達せず、5秒ほどかかっているようなケースもあること、開始数秒は焼灼対象の心筋のインピーダンスや温度などの状態の変化が激しく、学習データとしてもテストデータとしても不向きであって、最初期の数秒はスチームポップに影響しないという仮定を置いているためである。
【0043】
本実施態様では、スチームポップが発生しなかった正常データ314件、スチームポップ発生データ87件を使用する。
【0044】
B 方法:
本実施態様では、スチームポップが発生すること自体を異常と定義せず、スチームポップ発生前に何らかの予兆が発生していると考えて、この予兆を異常とみなして予兆を検知する。すなわち、スチームポップ自体が発生しているタイミングはリアルタイムには知り得ず、事後のスチームポップ発生の有無の確認によってモデルが正し動作したかを判別する。
【0045】
本実施態様で構築するスチームポップ発生予知モデルは、予兆を検知することでスチームポップの発生を予知するが、本モデルはリアルタイム運用を前提としているため、また、前述のように、スチームポップが発生するデータの方が少なく、学習に使えるデータが不均衡であるため、時系列データを入力として、異常検知を行う教師なし学習のアルゴリズムを使用する必要がある。
【0046】
そこで、本実施態様ではニューラルネットワークを利用した時系列多変量データの異常検知手法として提案されているMultivariate Time-series Anomaly Detection via Graph Attention Network(MATD-GAT)をベースとして、以下に示す新たなアルゴリズムを使用する。
【0047】
図1はアルゴリズムの概要を示す。本アルゴリズムは、スチームポップが発生しなかった正常データのみを学習させる。そこで、前記正常データを学習:検証:テスト=6 : 2 : 2に分割して使用する。なお、正常データの分割は、例えば、学習:検証:テスト=4~7 : 1~3 : 1~3などでもよい。
【0048】
図1において、Input Dataは多変量時系列データであり、これは予め学習データ内の各特徴量の平均と標準偏差を用いて標準化されている。
【0049】
1 Preprocessing:
図1の丸1のPreprocessingにおいては、
図2のように移動窓を用いて固定長のデータに加工する。
【0050】
2 1-D Convolution:
図1の丸2の1-D Convolutionにおいては、それぞれの特徴量を指定したカーネルサイズを元に
図3のように畳み込む。
図3のように畳み込みを行うと、t
0からt
n-1までの値は欠損するが、本アルゴリズムは0で埋めている。また、カーネルサイズ(Kernel Size)内の畳み込みは和をとることで行っている。
【0051】
3 二つのグラフアテンション機構:
図1の丸3に関して、本アルゴリズムは二種類のグラフアテンション機構を内蔵する。これらの違いは、
図2において作成した、[Window Size, Feature Size]の2次元データに対して、特徴方向に対してグラフアテンションを実装するか、時間方向に対して実装するかの違いであり、特徴間の相関関係や、時間的な依存関係を捉えることができる。スチームポップ発生に寄与する異常が発生する原因は全く不明であることから、このように2つの視点から異常を探索できるよう、この機構に着目している。
グラフアテンション機構の2つの出力と、畳み込み後のデータを結合し、次の層に渡す。
【0052】
4 GRU層をベースとしたエンコーダ:
図1の丸4に関して、GRU層は時系列データの時間的依存関係を学習、記憶することができる機構である。エンコーダを通すことで、特徴(隠れ状態)を抽出し、次のデコーダ層に渡す。
【0053】
5 再構成型モデル(Reconstruction-based model)(デコーダ):
図1の丸5に関して、GRU層に、セルフアテンション層と全結合層を加えることで、どの抽出した特徴量が重要かを判断して重みをつけつつ、元の入力(
図1の丸1のPreprocessing後のデータ)を復元するように出力を返す。
本実施態様では、移動窓を用いてデータを作成するため、復元されたデータは重複する。そのため、復元されたデータは
図4のようにWindowの最後列のみを抽出する。
【0054】
6 Anomaly Score(異常度)の算出:
図1の丸6に関して、タイムスタンプtにおける異常度は以下のように計算される。
【数2】
【0055】
ここで、iは各入力特徴量を表し、入力と出力の二乗平均平方根誤差を異常度として定義する。学習時には、この異常度を指標として異常度が減少するように学習させる。検証データは学習データと同時に入力し、学習には使用しないが、学習中に検証データを使用して異常度を算出することで、未知のデータに対するモデルの出力を監視し、過学習の防止に使用する。
【0056】
次に、計算された異常度から、異常か否か判定するロジックについて述べる。はじめに、検証データを用いて異常度を算出する。算出された異常度の95パーセンタイル値を取得し、閾値として設定する。過去n秒の内、m秒(n>m)が異常の閾値を超えている場合に、スチームポップの予兆があると判定する。なお、ここで、95パーセンタイル値は、所定の数値のパーセンタイル値であってもよく、所定の数値は、好ましくは、80~100の範囲に含まれる数値から選ばれる数値であり、より好ましくは、85~100の範囲に含まれる数値から選ばれる数値であり、更に好ましくは、90~100の範囲に含まれる数値から選ばれる数値である。
【0057】
本発明は、上記のプログラムを記憶したコンピュータ、及び上記のプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供する。
【0058】
装置:
本発明は、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを出力するための装置であって、
対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータを入力するための手段と、
入力された、対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータと、前記のプログラムを用いて、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを算出するための手段と、
算出された、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを出力するための手段とを含む、
装置を提供する。
【0059】
不整脈治療のためのアブレーションとしては、例えば、不整脈治療における高周波カテーテルアブレーションのほか、不整脈治療におけるエレクトロポレーション法によるアブレーションが挙げられるが、好ましくは、不整脈治療における高周波カテーテルアブレーションが挙げられる。
【0060】
対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータは、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示す数値のデータであってもよいが、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示す記号のデータであってもよい。
【0061】
対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータを入力するための手段は、例えば、対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標を示すデータと、不整脈治療のためのアブレーションの受動的指標を示すデータとを入力するための手段であってもよい。なお、対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータは、対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータに基づき生成された特徴ベクトルであってもよい。
【0062】
対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータを入力するための手段としては、例えば、キーボード、マウス、カテーテル内のセンサーなどが挙げられる。
【0063】
入力された、対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータと、前記のプログラムを用いて、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを算出するための手段としては、例えば、前記のデータを入力するキーボード、マウス、カテーテル内のセンサーなどと接続され、かつ、前記のプログラムを記憶したハードディスク、フラッシュメモリなどと接続され、かつ、ROM、RAMなどのメモリ(記憶手段)と接続された中央処理装置(CPU)などが挙げられる。
【0064】
算出された、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを出力するための手段としては、例えば、例えば、モニター、プリンターなどが挙げられる。また、算出された、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを出力するための手段としては、算出された、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを、ハードディスク、フラッシュメモリ、ROM、RAMなどの記憶手段に記憶させるための手段も挙げられる。
【0065】
本発明の装置は、例えば、ハードディスク、フラッシュメモリ、ROM、RAMなどの記憶手段に記憶された、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータに基づき、カテーテルなどの本発明の装置による焼灼などの動作のための電源をオフにする手段など、本発明の装置による焼灼などの動作を停止させる手段を含んでもよい。
【0066】
本発明の装置は、前記のプログラムを記憶した手段を含んでもよい。前記のプログラムを記憶した手段としては、例えば、ハードディスク、フラッシュメモリなどが挙げられる。しかしながら、本発明の装置は、前記のプログラムを記憶した手段を含むことを必須とするものではなく、本発明の装置は、例えば、前記のプログラムを記憶した手段を含まないものの、前記のプログラムを記憶した手段を含む装置と通信回線により接続したものであってもよい。すなわち、本発明の装置は、前記のプログラムを記憶した手段を含む装置と通信回線により接続して得られるシステムの一部であってもよい。
【0067】
本発明の装置は、出力された、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータに基づき、焼灼を続行するかどうかを判定する手段を含んでもよい。当該手段としては、例えば、焼灼を続行するかどうかを判定するための条件を含むプログラムを記憶したハードディスク、フラッシュメモリなどと接続され、かつ、ROM、RAMなどのメモリと接続されたCPUなどが挙げられる。
【0068】
本発明の装置は、前記の焼灼を続行するかどうかを判定する手段による、焼灼を続行するという判定に基づき、対象における、その時点までの不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータを入力する手段を含んでもよい。当該手段としては、例えば、焼灼を続行するかどうかを判定するための条件を含むプログラムを記憶したハードディスク、フラッシュメモリなどと接続され、かつ、対象における、その時点までの不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータを記憶又は入力するハードディスク、フラッシュメモリ、カテーテル内のセンサーなどと接続され、かつ、ROM、RAMなどのメモリと接続されたCPUなどが挙げられる。
【0069】
図8は、本発明の装置の例示的な一態様を示した概略図である。
図8おいて、100はコンピュータであり、制御部101、記憶部102、周辺機器I/F部103、入力部104、表示部105、通信部106を備え、これらがバス110により接続される。なお、この構成は例示であり、適宜、様々な構成を採ることができる。
【0070】
制御部101は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等で構成される。CPUは、記憶部102、ROM、記録媒体等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス110を介して接続された各装置を駆動制御し、コンピュータが行う処理を実現する。ROMは、不揮発性メモリであり、コンピュータ100のブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を保持している。RAMは、揮発性メモリであり、記憶部102、ROM、記録媒体等からロードしたプログラム、データ等を一時的に保持するとともに、制御部101が各種処理を行う際に使用するワークエリアを備える。記憶部102は、例えばHDD(ハードディスクドライブ)であり、制御部101が実行するプログラム、その他各種データを格納する。
【0071】
周辺機器I/F(インターフェース)部103は、コンピュータ100と周辺機器とを接続させるためのポートである。周辺機器I/F部103は、USBやIEEE1394やRS-232C等で構成される。なお、周辺機器との接続形態は有線、無線を問わない。入力部104は、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、テンキー等の入力装置を有し、コンピュータ100に対して、操作指示、動作指示、データ入力等を行う。表示部105は、液晶パネル等のディスプレイ装置に映像・画像等の表示を行うための論理回路乃至デバイスドライバーである。入力部104及び表示部105を、タッチディスプレイとして一体的に構成することもできる。
【0072】
通信部106は、通信制御装置、通信ポート等を有し、ネットワーク120との通信を媒介する有線または無線の通信インターフェースである。バス110は、各装置間の制御信号、データ信号等の授受を媒介する通信経路である。ネットワーク120は、さらに外部サーバー130やネットストレージ140に接続されていてもよい。
【0073】
図9は、本発明の装置において行われる処理手順の一例を示すフローチャートである。本発明の装置において行われる処理手順の一例においては、処理手順の開始後、現時点までの時系列焼灼データが入力される。続いて、入力された現時点までの時系列焼灼データに基づき、特徴ベクトルが生成される。生成された特徴ベクトルが学習済みモデルに入力され、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の有無が予測される。予測されたスチームポップの発生の有無に基づき、焼灼を続行するかどうかが判定される。焼灼を続行すると判定された場合には、再度、現時点までの時系列焼灼データが入力され、これまでと同様の処理手順が繰り返される。焼灼を続行しないと判定された場合には、処理手順が終了となる。
【0074】
方法:
本発明は、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータの出力方法であって、
対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータを、前記の装置に入力する工程と、
入力された、対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータと、前記のプログラムとを用いて、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを、当該装置に算出させる工程と、
算出された、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを、当該装置に出力させる工程とを含む、
方法を提供する。
【0075】
不整脈治療のためのアブレーションとしては、例えば、不整脈治療における高周波カテーテルアブレーションのほか、不整脈治療におけるエレクトロポレーション法によるアブレーションが挙げられるが、好ましくは、不整脈治療における高周波カテーテルアブレーションが挙げられる。
【0076】
対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータは、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示す数値のデータであってもよいが、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示す記号のデータであってもよい。
【0077】
対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータを、前記の装置に入力する工程は、例えば、キーボード、マウス、カテーテル内のセンサーなどを用いて行われる。なお、対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータは、対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータに基づき生成された特徴ベクトルであってもよい。
【0078】
対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータを、前記の装置に入力する工程は、例えば、対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標を示すデータと、不整脈治療のためのアブレーションの受動的指標を示すデータとを前記の装置に入力する工程であってもよい。
【0079】
入力された、対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータと、前記のプログラムとを用いて、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを、当該装置に算出させる工程は、例えば、前記のデータを入力するキーボード、マウス、カテーテル内のセンサーなどと接続され、かつ、前記のプログラムを記憶したハードディスク、フラッシュメモリなどと接続され、かつ、ROM、RAMなどのメモリと接続されたCPUなどに、当該データと当該プログラムに即した演算をさせることにより行われる。
【0080】
算出された、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータを、当該装置に出力させる工程は、例えば、モニター、プリンター、ハードディスク、フラッシュメモリ、ROM、RAMなどを用いて行われる。
【0081】
本発明の方法は、例えば、算出された、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータに基づき、カテーテルなどの本発明の装置による焼灼などの動作のための電源をオフにする工程など、本発明の装置による焼灼などの動作を停止させる工程を含んでもよい。
【0082】
本発明の方法は、出力された、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータに基づき、焼灼を続行するかどうかを判定する工程を含んでもよい。当該工程は、例えば、焼灼を続行するかどうかを判定するための条件を含むプログラムを記憶したハードディスク、フラッシュメモリなどと接続され、かつ、ROM、RAMなどのメモリと接続されたCPUなどを用いて行われる。
【0083】
本発明の方法は、前記の焼灼を続行するかどうかを判定する工程における、焼灼を続行するという判定に基づき、対象における、その時点までの不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータを入力する工程を含んでもよい。当該工程は、例えば、焼灼を続行するかどうかを判定するための条件を含むプログラムを記憶したハードディスク、フラッシュメモリなどと接続され、かつ、対象における、その時点までの不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータを記憶又は入力するハードディスク、フラッシュメモリ、カテーテル内のセンサーなどと接続され、かつ、ROM、RAMなどのメモリと接続されたCPUなどを用いて行われる。
【0084】
本発明の方法は、対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータを、前記の装置に入力する工程の前に、対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータを取得する工程を、更に含んでもよい。ここで、対象における、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標又は受動的指標を示すデータを取得する工程は、例えば、不整脈治療のためのアブレーションの能動的指標を示すデータと不整脈治療のためのアブレーションの受動的指標を示すデータとを取得する工程であってもよい。これらのデータを取得する工程は、例えば、対象において不整脈治療のためのアブレーションを行う際に想定される能動的指標又は受動的指標を特定することにより行ってもよい。
【0085】
図9は、本発明の方法において行われる処理手順の一例を示すフローチャートである。本発明の方法において行われる処理手順の一例においては、処理手順の開始後、現時点までの時系列焼灼データが入力される。続いて、入力された現時点までの時系列焼灼データに基づき、特徴ベクトルが生成される。生成された特徴ベクトルが学習済みモデルに入力され、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の有無が予測される。予測されたスチームポップの発生の有無に基づき、焼灼を続行するかどうかが判定される。焼灼を続行すると判定された場合には、再度、現時点までの時系列焼灼データが入力され、これまでと同様の処理手順が繰り返される。焼灼を続行しないと判定された場合には、処理手順が終了となる。
【0086】
本発明は、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測の予測方法であって、前記の方法を含む方法を提供する。不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生を予測するにあたっては、本発明の方法により出力された、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータの意味のみをもって、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測としてもよいし、また、本発明の方法により出力された、対象における、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測を示すデータの意味に対して、他の情報を更に加味して、不整脈治療のためのアブレーションによるスチームポップの発生の予測としてもよい。
【実施例0087】
実施例1:
本実施例では、TactiFlexカテーテル(Abbot Inc. USA)を用いたブタ心筋焼灼実験を行った。TactiFlex カテーテルは、アブレーション中に0.01秒のサンプリングレートで時系列データを収集した。今回の実施例の時系列データでは、スチームポップの発生は視覚的に確認できなかったが、スチームポップを引き起こした異常の具体的な場所は明らかではなかった。スチームポップを引き起こす異常データをアブレーション中にリアルタイムで検出できれば、スチームポップが発生する前に焼灼プロセスを中止できる。65秒以上焼灼してもスチームポップが発生しないアブレーションデータを正常データと定義した。本実施例で収集した実験データは、スチームポップのない正常データ91件、スチームポップありの異常データ80件で構成されている。
【0088】
本実施例では、ニューラルネットワークに基づいて多変量時系列データ内の異常パターンを識別するアルゴリズムとして提案されているMTAD-GATを採用した。この方法論には、変数間の相関だけでなく、時間的な相互依存関係も検出する機能がある。
【0089】
その結果、スチームポップの異常データ80件のうち、発生前に予測できたデータは43件であった。異常データの異常スコアを
図5に示す。
図5において、色付きの領域は異常の発生を表し、Anomaly score0.04の横線は異常を検出するための閾値を示す。さらに、正常なデータには誤った異常は確認されなかった。したがって、このモデルのパフォーマンスは感度54%、特異度100%であった。65秒以上焼灼してもスチームポップが発生しないデータを正常データと定義したが、65秒以下の焼灼でスチームポップのないデータも含めた全データを学習に用いた場合、モデルはスチームポップの発生を予測できなかった。したがって、一定期間焼灼してもスチームポップが発生しなかったデータのみを用いたスチームポップ予測モデルが有効であることが示された。
【0090】
実施例2:
本実施例では、ブタの心筋に高周波アブレーションを適用した生体外実験から実験データを収集した。焼灼実験の条件は以下の通りである。
1. Power(出力): 30、40、及び50 W
2. Contact force(接触力): 10、及び20 g
3. Upper-temperature limits(上限温度): 40、43、及び45℃
4. Energization time(通電時間): 10、20、30、60、120、及び180秒
5. Irrigation settings(冷却に使用する生理食塩水濃度): normal and half saline(生理食塩水及び半生理食塩水)
スチームポップのある87個のデータポイントと、スチームポップなしの314個のデータポイントを収集した。後者は機械学習に使用された。
【0091】
焼灼過程で異常が発生し、スチームポップが発生したものと考えられる。したがって、焼灼プロセス中に異常を検出するために、MTAD-GATに基づく次のアルゴリズムを使用した。異常検知の流れは以下のとおりである。まず、データのスケーリングを行った。2番目に、トレーニングされたモデルを使用して異常スコアを計算した。3番目に、事前に定義されたしきい値を使用して異常を判断した。最終的に入力データが正常か異常かを判定した。
【0092】
その結果、感度58%、特異度83%というパフォーマンスが得られた。スチームポップに関する87件の異常データのうち50件は、発生前に予測できた。スチームポップのない63件の正常なテストデータのうち11件が、異常であると誤って予測された。
【0093】
図6の上から2段目はDiff_Powerの異常スコアである。Diff_Powerは上限からの差分なので分布が狭い変数であり、Powerの変動を明確に捉えている。Diff_Powerの異常スコアはスチームポップ発生前の方が大きかった。出力(Power)は焼灼によって上限が変化するため、分布が広い変数である。Diff_Powerは上限からの差分なので分布が狭い変数であり、出力(Power)の変動を明確に捉えている。Diff_Powerのスコアが大きいことは、出力(Power)の変動がスチームポップの発生に影響を与える可能性があることを示唆している。
図7に異常データの異常スコアを示す。色が付いている部分は異常が発生していることを表す。Anomaly score約0.15の横線は異常を検出するための閾値を示す。