(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025161754
(43)【公開日】2025-10-24
(54)【発明の名称】プレコート金属板、部材及び表面処理金属板
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20251017BHJP
【FI】
B32B15/08 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025058427
(22)【出願日】2025-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2024064792
(32)【優先日】2024-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100233814
【弁理士】
【氏名又は名称】矢田 充洋
(72)【発明者】
【氏名】野本 春菜
(72)【発明者】
【氏名】柴尾 史生
(72)【発明者】
【氏名】養田 純平
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 正彦
(72)【発明者】
【氏名】平岡 昇
(72)【発明者】
【氏名】徳留 亨
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AB01A
4F100AB03A
4F100AB09E
4F100AB10E
4F100AB18E
4F100AK01B
4F100AK25B
4F100AK41B
4F100AK51B
4F100AR00C
4F100AR00D
4F100BA03
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100EH462
4F100EH46B
4F100EH46C
4F100EH46D
4F100EH71E
4F100JB02
4F100JK12
4F100YY00
4F100YY00B
4F100YY00C
4F100YY00D
(57)【要約】
【課題】耐食性を保持しながら、絞り加工時における塗膜密着性をより一層向上させること。
【解決手段】本発明に係るプレコート金属板は、基材としての金属板と、前記金属板の少なくとも一方の表面に位置する塗膜層と、前記塗膜層上に位置する上層塗膜層と、を有し、前記塗膜層は、樹脂と、Zr化合物と、Si化合物と、を含有し、前記塗膜層の平均厚みは、0.5~15.0μmであり、前記上層塗膜層の平均厚みは、5.0~30.0μmであり、前記塗膜層の硬さを、ナノインデンターにより前記塗膜層の断面に圧子を押し込むことで計測したときに、ナノインデンター硬さが0.36GPa以上となる部分が存在する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材としての金属板と、
前記金属板の少なくとも一方の表面に位置する塗膜層と、
前記塗膜層上に位置する上層塗膜層と、
を有し、
前記塗膜層は、樹脂と、Zr化合物と、Si化合物と、を含有し、
前記塗膜層の平均厚みは、0.5~15.0μmであり、
前記上層塗膜層の平均厚みは、5.0~30.0μmであり、
前記塗膜層の硬さを、ナノインデンターにより前記塗膜層の断面に圧子を押し込むことで計測したときに、ナノインデンター硬さが0.36GPa以上となる部分が存在する、プレコート金属板。
【請求項2】
前記塗膜層における前記Zr化合物の含有量は、Zr換算で0.5~10.0質量%である、請求項1に記載のプレコート金属板。
【請求項3】
前記塗膜層における前記Zr化合物の含有量は、Zr換算で3.0質量%以上であり、
前記塗膜層は、以下の式(1)及び式(2)を満足する2つの相A、相Bを少なくとも含む、請求項2に記載のプレコート金属板。
HIT・B<HIT・A ・・・式(1)
1.1 ≦ HIT・A/HIT・B < 2.0 ・・・式(2)
ここで、上記式(1)及び式(2)において、
HIT・A:前記相Aのナノインデンター硬さの平均
HIT・B:前記相Bのナノインデンター硬さの平均
である。
【請求項4】
前記塗膜層における前記Zr化合物の含有量は、Zr換算で3.0質量%以上であり、
前記塗膜層の前記相A及び前記相Bが、以下の式(3)及び式(4)を満足し、
前記塗膜層を厚み方向に切断した断面を、走査型電子顕微鏡により観察したときに、前記相Aの平均面積率が、20~70%である、請求項3に記載のプレコート金属板。
1.5 ≦ NZr・A/NZr・B ≦ 6.0 ・・・式(3)
1.5 ≦ NSi・A/NSi・B ≦ 10.0 ・・・式(4)
ここで、上記式(3)及び式(4)において、
NZr・A:前記相AのZr濃度の平均(質量%)
NZr・B:前記相BのZr濃度の平均(質量%)
NSi・A:前記相AのSi濃度の平均(質量%)
NSi・B:前記相BのSi濃度の平均(質量%)
である。
【請求項5】
前記塗膜層における、前記Zr化合物の含有量に対する前記Si含有量の比率([Si]/[Zr])は、1.00~30.00である、請求項1に記載のプレコート金属板。
【請求項6】
前記樹脂は、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、又は、アクリル系樹脂の少なくとも何れかである、請求項1に記載のプレコート金属板。
【請求項7】
前記金属板と、前記塗膜層と、の間に、平均厚みが0.05~2.00μmである下地塗膜層を更に有する、請求項1に記載のプレコート金属板。
【請求項8】
前記塗膜層は、Si、V、P、Mg、Ca、又は、Crの少なくとも何れかの元素と、Oと、を含有し、かつ、平均粒径が0.5~7.0μmである粒子を更に含み、
前記粒子の含有量は、Si、V、P、Mg、Ca、又は、Cr換算で、2.0質量%以下である、請求項1に記載のプレコート金属板。
【請求項9】
前記塗膜層の硬さを、ナノインデンターにより前記塗膜層の断面に圧子を押し込むことで計測したときに、ナノインデンター硬さの平均が、0.31~0.80GPaである、請求項1に記載のプレコート金属板。
【請求項10】
前記金属板は、鋼板の少なくとも一方の表面にZn系めっき層を有するZn系めっき鋼板である、請求項1に記載のプレコート金属板。
【請求項11】
前記Zn系めっき層は、Zn、Al、Mgを含有するZn-Al-Mg系めっき層である、請求項10に記載のプレコート金属板。
【請求項12】
所定の形状を有する部材であって、
前記部材は、
基材としての金属板と、
前記金属板の少なくとも一方の表面に位置しており、樹脂と、Zr化合物と、Si化合物と、を含有する塗膜層と、
前記塗膜層上に位置する上層塗膜層と、
で構成されており、かつ、
前記部材の1cm×1cmの大きさの領域において、
前記塗膜層の平均厚みが0.5~15.0μmであり、
前記上層塗膜層の平均厚みが5.0~30.0μmであり、
前記塗膜層の硬さを、ナノインデンターにより前記塗膜層の断面に圧子を押し込むことで計測したときに、ナノインデンター硬さが0.36GPa以上となる部分が存在する、部材。
【請求項13】
基材としての金属板と、
前記金属板の少なくとも一方の表面に位置する塗膜層と、
を有し、
前記塗膜層は、樹脂と、Zr化合物と、Si化合物と、を含有し、
前記塗膜層の平均厚みは、0.5~15.0μmであり、
前記塗膜層の硬さを、ナノインデンターにより前記塗膜層の断面に圧子を押し込むことで計測したときに、ナノインデンター硬さが0.36GPa以上となる部分が存在する、表面処理金属板。
【請求項14】
前記塗膜層における前記Zr化合物の含有量は、Zr換算で0.5~10.0質量%である、請求項13に記載の表面処理金属板。
【請求項15】
前記塗膜層における前記Zr化合物の含有量は、Zr換算で3.0質量%以上であり、
前記塗膜層は、以下の式(1)及び式(2)を満足する2つの相A、相Bを少なくとも含む、請求項14に記載の表面処理金属板。
HIT・B<HIT・A ・・・式(1)
1.1 ≦ HIT・A/HIT・B < 2.0 ・・・式(2)
ここで、上記式(1)及び式(2)において、
HIT・A:前記相Aのナノインデンター硬さの平均
HIT・B:前記相Bのナノインデンター硬さの平均
である。
【請求項16】
前記塗膜層における前記Zr化合物の含有量は、Zr換算で3.0質量%以上であり、
前記塗膜層の前記相A及び前記相Bが、以下の式(3)及び式(4)を満足し、
前記塗膜層を厚み方向に切断した断面を、走査型電子顕微鏡により観察したときに、前記相Aの平均面積率が、20~70%である、請求項15に記載の表面処理金属板。
1.5 ≦ NZr・A/NZr・B ≦ 6.0 ・・・式(3)
1.5 ≦ NSi・A/NSi・B ≦ 10.0 ・・・式(4)
ここで、上記式(3)及び式(4)において、
NZr・A:前記相AのZr濃度の平均(質量%)
NZr・B:前記相BのZr濃度の平均(質量%)
NSi・A:前記相AのSi濃度の平均(質量%)
NSi・B:前記相BのSi濃度の平均(質量%)
である。
【請求項17】
前記塗膜層における、前記Zr化合物の含有量に対する前記Si含有量の比率([Si]/[Zr])は、1.00~30.00である、請求項13に記載の表面処理金属板。
【請求項18】
前記樹脂は、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、又は、アクリル系樹脂の少なくとも何れかである、請求項13に記載の表面処理金属板。
【請求項19】
前記金属板と、前記塗膜層と、の間に、平均厚みが0.05~2.00μmである下地塗膜層を更に有する、請求項13に記載の表面処理金属板。
【請求項20】
前記塗膜層は、Si、V、P、Mg、Ca、又は、Crの少なくとも何れかの元素と、Oと、を含有し、かつ、平均粒径が0.5~7.0μmである粒子を更に含み、
前記粒子の含有量は、Si、V、P、Mg、Ca、又は、Cr換算で、2.0質量%以下である、請求項13に記載の表面処理金属板。
【請求項21】
前記塗膜層の硬さを、ナノインデンターにより前記塗膜層の断面に圧子を押し込むことで計測したときに、ナノインデンター硬さの平均が、0.31~0.80GPaである、請求項13に記載の表面処理金属板。
【請求項22】
前記金属板は、鋼板の少なくとも一方の表面にZn系めっき層を有するZn系めっき鋼板である、請求項13に記載の表面処理金属板。
【請求項23】
前記Zn系めっき層は、Zn、Al、Mgを含有するZn-Al-Mg系めっき層である、請求項22に記載の表面処理金属板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレコート金属板、部材及び表面処理金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
予め各種の塗装が施された金属板である塗装金属板は、一般的に、めっき鋼板をはじめとする各種の金属板の表面に対し、各種の塗料を塗布することによって製造される。ここで、塗装金属板に用いられる塗料は、溶剤系塗料と水性塗料の2種類に大別され、従来、溶剤系塗料が多く用いられてきた。ここで、用いる塗料を水系塗料とした場合、溶剤の調達及び溶剤の燃焼に由来する二酸化炭素排出量が削減できることから、用いる塗料の水系塗料への変更は、近年注目されるカーボンニュートラルという観点から、特に好ましいものであると言える。
【0003】
しかしながら、用いる塗料を水系塗料に変更した場合には、形成された塗膜の密着性が低下してしまうことが知られている。そのため、水系塗料を用いた塗膜における密着性の低下を防止するために、従来、各種の提案がなされている。例えば、以下の特許文献1では、水系塗料を下塗り塗料として用いた場合の塗装金属板における塗膜密着性が検討されており、以下の特許文献2では、水系塗料を下塗り塗料として用いた場合の塗装鋼板における、絞り加工時における塗膜密着性が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-107586号公報
【特許文献2】特開2007-297648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献2で開示されているような塗膜を有する塗装鋼板を用いた場合であっても、絞り加工時における塗膜密着性には改善の余地があり、耐食性を保持しながら、絞り加工時における塗膜密着性をより一層向上させることが可能な技術が希求されていた。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、耐食性を保持しながら、絞り加工時における塗膜密着性をより一層向上させることが可能な、プレコート金属板及び表面処理金属板と、かかるプレコート金属板を用いた部材と、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、まず、絞り加工時における塗膜密着性の低下がどのようなメカニズムで発生するのかについて検討を行った。その結果、水系塗料に由来する塗膜を有する塗装金属板を絞り加工した際には、水系塗料に由来する塗膜が、施される加工にある程度追随してしまうことが判明した。これにより本発明者らは、上記のような現象の結果、塗膜は加工に伴う残留応力を解放することができずに、塗膜密着性が低下するのではないか、という知見を得ることができた。本発明者らは、かかる知見に基づき更なる検討を行った結果、絞り加工に伴う残留応力を解放可能な塗膜構成に着想し、以下で説明するような本発明を完成するに至った。
かかる知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
【0008】
(1)基材としての金属板と、前記金属板の少なくとも一方の表面に位置する塗膜層と、前記塗膜層上に位置する上層塗膜層と、を有し、前記塗膜層は、樹脂と、Zr化合物と、Si化合物と、を含有し、前記塗膜層の平均厚みは、0.5~15.0μmであり、前記上層塗膜層の平均厚みは、5.0~30.0μmであり、前記塗膜層の硬さを、ナノインデンターにより前記塗膜層の断面に圧子を押し込むことで計測したときに、ナノインデンター硬さが0.36GPa以上となる部分が存在する、プレコート金属板。
(2)前記塗膜層における前記Zr化合物の含有量は、Zr換算で0.5~10.0質量%である、(1)に記載のプレコート金属板。
(3)前記塗膜層における前記Zr化合物の含有量は、Zr換算で3.0質量%以上であり、前記塗膜層は、以下の式(1)及び式(2)を満足する2つの相A、相Bを少なくとも含む、(2)に記載のプレコート金属板。
HIT・B<HIT・A ・・・式(1)
1.1 ≦ HIT・A/HIT・B < 2.0 ・・・式(2)
ここで、上記式(1)及び式(2)において、
HIT・A:前記相Aのナノインデンター硬さの平均
HIT・B:前記相Bのナノインデンター硬さの平均
である。
(4)前記塗膜層における前記Zr化合物の含有量は、Zr換算で3.0質量%以上であり、前記塗膜層の前記相A及び前記相Bが、以下の式(3)及び式(4)を満足し、前記塗膜層を厚み方向に切断した断面を、走査型電子顕微鏡により観察したときに、前記相Aの平均面積率が、20~70%である、(3)に記載のプレコート金属板。
1.5 ≦ NZr・A/NZr・B ≦ 6.0 ・・・式(3)
1.5 ≦ NSi・A/NSi・B ≦ 10.0 ・・・式(4)
ここで、上記式(3)及び式(4)において、
NZr・A:前記相AのZr濃度の平均(質量%)
NZr・B:前記相BのZr濃度の平均(質量%)
NSi・A:前記相AのSi濃度の平均(質量%)
NSi・B:前記相BのSi濃度の平均(質量%)
である。
(5)前記塗膜層における、前記Zr化合物の含有量に対する前記Si含有量の比率([Si]/[Zr])は、1.00~30.00である、(1)に記載のプレコート金属板。
(6)前記樹脂は、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、又は、アクリル系樹脂の少なくとも何れかである、(1)に記載のプレコート金属板。
(7)前記金属板と、前記塗膜層と、の間に、平均厚みが0.05~2.00μmである下地塗膜層を更に有する、(1)に記載のプレコート金属板。
(8)前記塗膜層は、Si、V、P、Mg、Ca、又は、Crの少なくとも何れかの元素と、Oと、を含有し、かつ、平均粒径が0.5~7.0μmである粒子を更に含み、前記粒子の含有量は、Si、V、P、Mg、Ca、又は、Cr換算で、2.0質量%以下である、(1)に記載のプレコート金属板。
(9)前記塗膜層の硬さを、ナノインデンターにより前記塗膜層の断面に圧子を押し込むことで計測したときに、ナノインデンター硬さの平均が、0.31~0.80GPaである、(1)に記載のプレコート金属板。
(10)前記金属板は、鋼板の少なくとも一方の表面にZn系めっき層を有するZn系めっき鋼板である、(1)に記載のプレコート金属板。
(11)前記Zn系めっき層は、Zn、Al、Mgを含有するZn-Al-Mg系めっき層である、(10)に記載のプレコート金属板。
(12)所定の形状を有する部材であって、前記部材は、基材としての金属板と、前記金属板の少なくとも一方の表面に位置しており、樹脂と、Zr化合物と、Si化合物と、を含有する塗膜層と、前記塗膜層上に位置する上層塗膜層と、で構成されており、かつ、前記部材の1cm×1cmの大きさの領域において、前記塗膜層の平均厚みが0.5~15.0μmであり、前記上層塗膜層の平均厚みが5.0~30.0μmであり、前記塗膜層の硬さを、ナノインデンターにより前記塗膜層の断面に圧子を押し込むことで計測したときに、ナノインデンター硬さが0.36GPa以上となる部分が存在する、部材。
(13)基材としての金属板と、前記金属板の少なくとも一方の表面に位置する塗膜層と、を有し、前記塗膜層は、樹脂と、Zr化合物と、Si化合物と、を含有し、前記塗膜層の平均厚みは、0.5~15.0μmであり、前記塗膜層の硬さを、ナノインデンターにより前記塗膜層の断面に圧子を押し込むことで計測したときに、ナノインデンター硬さが0.36GPa以上となる部分が存在する、表面処理金属板。
(14)前記塗膜層における前記Zr化合物の含有量は、Zr換算で0.5~10.0質量%である、(13)に記載の表面処理金属板。
(15)前記塗膜層における前記Zr化合物の含有量は、Zr換算で3.0質量%以上であり、前記塗膜層は、以下の式(1)及び式(2)を満足する2つの相A、相Bを少なくとも含む、(14)に記載の表面処理金属板。
HIT・B<HIT・A ・・・式(1)
1.1 ≦ HIT・A/HIT・B < 2.0 ・・・式(2)
ここで、上記式(1)及び式(2)において、
HIT・A:前記相Aのナノインデンター硬さの平均
HIT・B:前記相Bのナノインデンター硬さの平均
である。
(16)前記塗膜層における前記Zr化合物の含有量は、Zr換算で3.0質量%以上であり、前記塗膜層の前記相A及び前記相Bが、以下の式(3)及び式(4)を満足し、前記塗膜層を厚み方向に切断した断面を、走査型電子顕微鏡により観察したときに、前記相Aの平均面積率が、20~70%である、(15)に記載の表面処理金属板。
1.5 ≦ NZr・A/NZr・B ≦ 6.0 ・・・式(3)
1.5 ≦ NSi・A/NSi・B ≦ 10.0 ・・・式(4)
ここで、上記式(3)及び式(4)において、
NZr・A:前記相AのZr濃度の平均(質量%)
NZr・B:前記相BのZr濃度の平均(質量%)
NSi・A:前記相AのSi濃度の平均(質量%)
NSi・B:前記相BのSi濃度の平均(質量%)
である。
(17)前記塗膜層における、前記Zr化合物の含有量に対する前記Si含有量の比率([Si]/[Zr])は、1.00~30.00である、(16)に記載の表面処理金属板。
(18)前記樹脂は、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、又は、アクリル系樹脂の少なくとも何れかである、(13)に記載の表面処理金属板。
(19)前記金属板と、前記塗膜層と、の間に、平均厚みが0.05~2.00μmである下地塗膜層を更に有する、(13)に記載の表面処理金属板。
(20)前記塗膜層は、Si、V、P、Mg、Ca、又は、Crの少なくとも何れかの元素と、Oと、を含有し、かつ、平均粒径が0.5~7.0μmである粒子を更に含み、前記粒子の含有量は、Si、V、P、Mg、Ca、又は、Cr換算で、2.0質量%以下である、(13)に記載の表面処理金属板。
(21)前記塗膜層の硬さを、ナノインデンターにより前記塗膜層の断面に圧子を押し込むことで計測したときに、ナノインデンター硬さの平均が、0.31~0.80GPaである、(13)に記載の表面処理金属板。
(22)前記金属板は、鋼板の少なくとも一方の表面にZn系めっき層を有するZn系めっき鋼板である、(13)に記載の表面処理金属板。
(23)前記Zn系めっき層は、Zn、Al、Mgを含有するZn-Al-Mg系めっき層である、(22)に記載の表面処理金属板。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本発明によれば、耐食性を保持しながら、絞り加工時における塗膜密着性をより一層向上させることが可能なプレコート金属板及び表面処理金属板と、かかるプレコート金属板を用いた部材と、を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係るプレコート金属板の構成の一例を示した模式図である。
【
図2】同実施形態に係るプレコート金属板が有する塗膜層の構成の一例を示した模式図である。
【
図3】同実施形態に係るプレコート金属板が有する塗膜層の構成の他の一例を示した模式図である。
【
図4】同実施形態に係るプレコート金属板の構成の他の一例を示した模式図である。
【
図5】同実施形態に係る表面処理金属板の構成の一例を示した模式図である。
【
図6】同実施形態に係る表面処理金属板の構成の他の一例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
(プレコート金属板について)
<プレコート金属板の全体的な構成について>
まず、
図1を参照しながら、本発明の実施形態に係るプレコート金属板の全体的な構成について説明する。
図1は、本実施形態に係るプレコート金属板の構成の一例を示した模式図である。なお、以下では、便宜的に、
図1に示した座標系を適宜参照しながら、説明を行うものとし、本実施形態に係るプレコート金属板の厚み方向をz軸方向とし、厚み方向に直交する2つの座標軸(x軸、y軸)が張る平面を、x-y平面とする。
【0013】
図1に模式的に示したように、本実施形態に係るプレコート金属板1は、基材金属板11と、基材金属板11の表裏面に設けられた塗膜層13と、を有する表面処理金属板10と、かかる表面処理金属板10の表面(より詳細には、塗膜層13の表面)に位置する上層塗膜層20と、を有している。
【0014】
≪基材金属板11について≫
本実施形態に係るプレコート金属板1において、基材金属板11としては、各種の金属板を用いることが可能である。このような金属板の素材として、例えば、鉄、鉄基合金、アルミニウム、アルミニウム基合金、銅、銅基合金、チタン等を挙げることができる。また、基材金属板11として、各種の金属板に対してめっきが施された、めっき金属板を用いることも可能である。
【0015】
また、基材金属板11として鋼板を用いる場合、例えば、Alキルド鋼、Ti、Nb等を含有させた極低炭素鋼、極低炭素鋼にP、Si、Mn等の強化元素を更に含有させた高強度鋼等といった、種々の鋼板を用いること可能である。
【0016】
上記のような各種の金属板の中でも、本実施形態に係る基材金属板11として、基材としての鋼板の表面に対し亜鉛を少なくとも含有する各種の亜鉛系めっき層が設けられた、亜鉛系めっき鋼板を用いることが好ましい。亜鉛系めっき鋼板としては、例えば、亜鉛めっき鋼板、亜鉛-ニッケルめっき鋼板、亜鉛-鉄めっき鋼板、亜鉛-クロムめっき鋼板、亜鉛-アルミニウムめっき鋼板、亜鉛-チタンめっき鋼板、亜鉛-マグネシウムめっき鋼板、亜鉛-マンガンめっき鋼板、亜鉛-アルミニウム-マグネシウムめっき鋼板、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム-シリコンめっき鋼板等の亜鉛系めっき鋼板が挙げられる。また、亜鉛系めっき鋼板として、上記のめっき中に、少量の異種金属元素又は不純物として、コバルト、モリブデン、タングステン、ニッケル、チタン、クロム、アルミニウム、マンガン、鉄、マグネシウム、鉛、ビスマス、アンチモン、錫、銅、カドミウム、ヒ素等を含有するものや、シリカ、アルミナ、チタニア等の無機物を分散させたものを用いてもよい。また、亜鉛系めっき鋼板として、上記のめっきと他の種類のめっき(例えば、鉄めっき、鉄-リンめっき、ニッケルめっき、コバルトめっき等)とを組み合わせた複層めっきを有する鋼板を用いてもよい。めっき方法は、特に限定されるものではなく、電気めっき法、溶融めっき法、蒸着めっき法、分散めっき法、真空めっき法等といった、公知の各種のめっき方法を用いればよい。
【0017】
このような亜鉛系めっきの中でも、特に、亜鉛系めっきとして、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム(Zn-Al-Mg)系合金めっきを用いることが好ましく、Al:4~22質量%、Mg:1~10質量%、Si:0.0001~2.0000質量%を含有し、残部がZn及び不純物である、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム-ケイ素(Zn-Al-Mg-Si)系合金めっきを用いることが、より好ましい。
【0018】
[Al:4~22質量%]
Alの含有量を4質量%以上とすることで、鋼板の耐食性をより向上させることが可能となる。Alの含有量は、より好ましくは5質量%以上である。一方、Alの含有量を22質量%以下とすることで、上記のような耐食性向上効果の飽和を抑制しながら、鋼板の耐食性をより向上させることが可能となる。Alの含有量は、より好ましくは16質量%以下である。
【0019】
[Mg:1~10質量%]
Mgの含有量を1質量%以上とすることで、鋼板の耐食性をより向上させることが可能となる。Mgの含有量は、より好ましくは2質量%以上である。一方、めっき層の形成に用いるめっき浴において、製造後の亜鉛系めっき層におけるMgの含有量が10質量%以下となるようなMg濃度に調整を行うことで、めっき浴でのドロス発生を安定化させて、めっき鋼板を安定的に製造することが可能となる。亜鉛系めっき層の形成に用いるめっき浴において、製造後の亜鉛系めっき層におけるMgの含有量が5質量%以下となるようなMg濃度に調整を行うことが、より好ましい。
【0020】
[Si:0.0001~2.0000質量%]
Siの含有量を0.0001質量%以上とすることで、亜鉛系めっき層の密着性(より詳細には、母材となる鋼板と亜鉛系めっき層との密着性)をより向上させることが可能となる。一方、Siの含有量を2.0000質量%以下とすることで、亜鉛系めっき層の密着性向上効果の飽和を抑制しつつ、亜鉛系めっき層の密着性をより向上させることが可能となる。Siの含有量は、より好ましくは1.6000質量%以下である。
【0021】
更に、本実施形態に係る亜鉛系めっき層では、残部のZnの一部に換えて、Fe、Sb、Pb等の元素を単独又は複合で1質量%以下含有してもよい。
【0022】
上記のような化学成分を有する亜鉛系めっき層が設けられた亜鉛系めっき鋼板として、例えば、Zn-6%Al-3%Mg合金めっき層を有する溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板や、Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Si合金めっき層を有するめっき鋼板のような、溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム-ケイ素合金めっき鋼板(例えば、日本製鉄株式会社製「スーパーダイマ(登録商標)」)等を挙げることができる。
【0023】
なお、上記のような亜鉛系めっき層のめっき付着量は、鋼板の両面での合計で、30g/m2以上である(すなわち、片面あたり、15g/m2以上である)ことが好ましい。付着量を30g/m2以上とすることで、亜鉛系めっき鋼板としての耐食性を確実に担保することが可能となる。めっき付着量は、より好ましくは、鋼板の両面での合計で、40g/m2以上である。一方、めっきの付着量は、鋼板の両面での合計で、600g/m2以下である(すなわち、片面あたり、300g/m2以下である)ことが好ましい。付着量を600g/m2以下とすることで、亜鉛系めっき層の表面の平滑性を担保しつつ、耐食性の更なる向上を図ることが可能となる。めっき付着量は、より好ましくは、鋼板の両面での合計で、550g/m2以下である。
【0024】
なお、基材金属板11として、各種のめっき金属板が用いられる際に、かかる基材金属板11の表面に対して塗膜層13が設けられる場合、かかる塗膜層13は、めっき金属板に設けられた各種のめっき層の表面に位置することとなる。
【0025】
ここで、上記のような基材金属板11の厚みについては、特に限定されるものではなく、本実施形態に係るプレコート金属板1に求められる機械的な強度(例えば、引張強度等)や加工性等に応じて、適宜設定すればよい。
【0026】
≪塗膜層13について≫
本実施形態に係る塗膜層13は、基材金属板11の表面上に設けられる層である。かかる塗膜層13は、樹脂と、Zr化合物と、Si化合物と、を少なくとも含有する。
【0027】
本実施形態に係るプレコート金属板1は、塗膜層13が、上記のような化合物を含有することで、プレコート金属板1に対し絞り加工が施された際に、塗膜層13中に存在するZr化合物の周囲が起点となって、亀裂が生じる。塗膜層13中に亀裂が生じることで、絞り加工に伴う残留応力が解放される。その結果、本実施形態に係るプレコート金属板1では、塗膜層13と後述する上層塗膜層20との間の密着性の低下を防止することが可能となる。これにより、本実施形態に係るプレコート金属板1では、絞り加工時における塗膜密着性をより一層向上させることが可能となる。
【0028】
ここで、上記のような機能を実現する塗膜層13の詳細については、以下で改めて説明する。
【0029】
[塗膜層13の平均厚みについて]
本実施形態に係るプレコート金属板1において、かかる塗膜層13の平均厚み(
図1における厚みd1)は、0.5μm以上15.0μm以下である。
塗膜層13の平均厚みが0.5μm未満である場合には、塗膜層13の平均厚みが薄すぎることで、プレコート金属板1に求められる耐食性を担保することができない。更には、塗膜層13の平均厚みが0.5μm未満である場合には、絞り加工時に塗膜層13に亀裂が生じたときに、かかる亀裂が塗膜層13を超えて上層塗膜層20まで伝播して、上層塗膜層20の密着性が低下する可能性がある。塗膜層13の平均厚みが0.5μm以上となることで、プレコート金属板1に求められる耐食性を担保しつつ、絞り加工時における上層塗膜層20との間の密着性の低下を防止することができる。塗膜層13の平均厚みは、好ましくは1.0μm以上であり、より好ましくは3.0μm以上である。
【0030】
一方、塗膜層13の平均厚みが15.0μm超である場合には、塗膜層13の平均厚みが厚すぎることで、基材金属板11と塗膜層13との間の密着性を担保することができない。塗膜層13の平均厚みが15.0μm以下となることで、基材金属板11と塗膜層13との間の密着性を担保することが可能となる。塗膜層13の平均厚みは、好ましくは10.0μm以下であり、より好ましくは8.0μm以下である。
【0031】
ここで、塗膜層13の平均厚みは、塗膜層13を
図1におけるz軸方向(プレコート金属板1の厚み方向とも捉えることができる。)に沿って切断し、その切断面に対し垂直な方向(断面方向)から観察することで求めることができる。具体的には、塗膜層13の切断面を断面方向から顕微鏡で観察することで測定することが可能である。切断面を断面方向から観察するための試料の作製方法としては、例えば、塗膜層13が設けられたプレコート金属板1の小片を樹脂に埋め込み、観察面となる切断面を研磨する方法、集束イオンビーム(Focused Ion Beam :FIB)により加工する方法、ミクロトーム法など公知の方法を用いることができる。また、顕微鏡の種類としては、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いることができる。得られた試料の任意の複数の箇所(例えば、3箇所)について、上記のような方法により、顕微鏡に実装されている測長機能等を用いて、塗膜層13の厚みを測定する。得られた複数の測定値を、測定箇所数で平均することで、塗膜層13の平均厚みを求めることができる。
【0032】
なお、プレコート金属板1を厚み方向に沿って切断した断面において、基材金属板11、塗膜層13及び上層塗膜層20のそれぞれに対応する領域が何れであるかは、顕微鏡を介して得られた断面を観察することで、容易に確認することが可能である。
【0033】
≪上層塗膜層20について≫
本実施形態に係るプレコート金属板1は、上記のような塗膜層13の上に、上層塗膜層20を有する。かかる上層塗膜層20は、用途に応じた造膜成分を含有するものであり、1層又は複数層で構成される塗膜とすることが可能である。
【0034】
本実施形態に係る上層塗膜層20が含有する諸成分については、特に限定されるものではなく、上記のように、プレコート金属板1に求められる用途に応じて、公知の各種の成分を含有することが可能である。
【0035】
例えば、本実施形態に係る上層塗膜層20は、上記のような造膜成分として、バインダー樹脂を含有することが好ましい。かかるバインダー樹脂として、例えば、高分子ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等を用いることが可能である。また、これら樹脂の変性樹脂等といったフィルム形成性樹脂成分を、ブチル化メラミン樹脂、メチル化メラミン樹脂、ブチルメチル混合メラミン樹脂、尿素樹脂、イソシアネート樹脂や、これら樹脂の混合系の架橋剤成分により架橋させたもの等を用いることも可能である。また、バインダー樹脂として、電子線硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂などを用いてもよい。
【0036】
また、本実施形態に係る上層塗膜層20は、上記のような造膜成分として、防錆顔料、着色顔料、体質顔料等といった、各種の顔料を含有していてもよい。更に、本実施形態に係る上層塗膜層20は、上記のような造膜成分として、着色剤、粘度調整剤、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤等の各種の添加剤を含有していてもよい。
【0037】
[上層塗膜層20の平均厚みについて]
本実施形態に係るプレコート金属板1において、かかる上層塗膜層20の平均厚み(
図1における厚みd2)は、5.0μm以上30.0μm以下である。
上層塗膜層20の平均厚みが5.0μm未満である場合には、上層塗膜層20の平均厚みが薄すぎることで、プレコート金属板1に求められる耐食性を担保することができない。上層塗膜層20の平均厚みが5.0μm以上となることで、プレコート金属板1に求められる耐食性を担保することができる。上層塗膜層20の平均厚みは、好ましくは10.0μm以上であり、より好ましくは15.0μm以上である。
【0038】
一方、上層塗膜層20の平均厚みが30.0μm超である場合には、上層塗膜層20の平均厚みが厚すぎることで、塗膜層13と上層塗膜層20との間の密着性を担保することができない。また、上層塗膜層20の平均厚みが30.0μm超である場合には、ワキと呼ばれる塗料中の溶媒が焼き付け中に突沸して起こる塗装欠陥により、外観が悪くなる場合がある。上層塗膜層20の平均厚みが30.0μm以下となることで、塗膜層13と上層塗膜層20との間の密着性を担保することが可能となる。上層塗膜層20の平均厚みは、好ましくは27.0μm以下であり、より好ましくは25.0μm以下である。
【0039】
なお、上記のような上層塗膜層20の平均厚みは、先だって説明した塗膜層13の平均厚みの測定方法と同様にして、測定することが可能である。
【0040】
以上、
図1を参照しながら、本実施形態に係るプレコート金属板1の全体的な構成について説明した。
なお、
図1では、基材金属板11の表裏面に塗膜層13及び上層塗膜層20が設けられている場合を図示しているが、本実施形態に係るプレコート金属板1において、かかる塗膜層13及び上層塗膜層20は、基材金属板11の何れか一方の面上だけに設けられていてもよい。
【0041】
<塗膜層13の詳細な構成について>
続いて、本実施形態に係るプレコート金属板1が有する塗膜層13の詳細な構成について説明する。
【0042】
上記のように、本実施形態に係るプレコート金属板1は、樹脂と、Zr化合物と、Si化合物と、を少なくとも含有する、平均厚みが0.5~10.0μmの範囲内である塗膜層13を有している。
【0043】
ここで、塗膜層13が、樹脂と、Zr化合物と、Si化合物と、を含有しているかどうかについては、プレコート金属板1の塗膜層13が存在している任意の位置から、断面観察用のサンプルを切り出し、かかるサンプルを、電界放出型電子プローブマイクロアナライザ(Field Emission Electron Probe Micro Analyzer:FE-EPMA)を用いて観察することで、判断することが可能である。
【0044】
より詳細には、塗膜層13が存在している任意の位置を適当な大きさに切断して、板厚方向断面が見えるように樹脂に埋め込みし、断面を研磨する。その後、FE-EPMAを用いて、得られた研磨面の断面観察を行う。より詳細には、断面(研磨面)の塗膜層13について、EPMAマッピング分析を、倍率4500倍で実施すればよい(加速電圧:15kV)。この際、検出対象元素としてC、Zr、Siを選択し、C元素、Zr元素、及び、Si元素の存在位置及び元素濃度のマッピング撮影を行えばよい。
【0045】
得られたマッピング分析結果において、塗膜層13に該当する領域にC元素が存在している場合に、塗膜層13は樹脂を含有していると判断することができる。同様に、得られたマッピング分析結果において、塗膜層13に該当する領域にZr元素が存在している場合に、塗膜層13はZr化合物を含有していると判断することができ、塗膜層13に該当する領域にSi元素が存在している場合に、塗膜層13はSi化合物を含有していると判断することができる。
【0046】
[断面のナノインデンター硬さについて]
本実施形態に係る塗膜層13は、上記のような成分を含有することにより、かかる塗膜層13の硬さを、ナノインデンターにより塗膜層13の断面に圧子を押し込むことで計測したときに、ナノインデンター硬さが0.36GPa以上となる部分が存在している。ナノインデンター硬さが0.36GPa以上となる部分が存在することで、本実施形態に係るプレコート金属板1に対して絞り加工が施されて、塗膜層13に応力が加わった際に、ナノインデンター硬さが0.36GPa以上となる部分を起点として、塗膜層13に亀裂が生じるようになる。これにより、絞り加工に伴う残留応力が解放されて、上層塗膜層20の剥離を防止することができる。
【0047】
ナノインデンター硬さが0.36GPa以上となる部分が存在しない場合には、塗膜層13において、残留応力を解放するための亀裂の起点となる部分が存在しないこととなる。その結果、絞り加工に伴う残留応力を解放することができずに、上層塗膜層20の密着性を担保することができない。
【0048】
本実施形態に係る塗膜層13は、上記のようにして計測されるナノインデンター硬さの分布において、0.40GPa以上となる部分が存在することが好ましく、0.45GPa以上となる部分が存在することがより好ましい。
【0049】
一方、本実施形態に係る塗膜層13における、上記のようなナノインデンター硬さの分布において、ナノインデンター硬さは1.00GPa以下となることが好ましい。ナノインデンター硬さが1.00GPa超となる場合には、塗膜層13が硬くなりすぎて、絞り加工に伴う残留応力の解放の際に、亀裂が上層塗膜層20まで伝播してしまう可能性がある。ナノインデンター硬さが1.00GPa以下となることで、亀裂の上層塗膜層20への伝播を防止しながら、上層塗膜層20の密着性を向上させることが可能となる。
【0050】
ここで、上記のナノインデンター硬さは、着目するプレコート金属板1を
図1に示したz軸方向に沿って切断することで得られる断面に対して、ナノインデンテーション試験を実施することで計測する。より詳細には、市販のナノインデンター測定装置(例えば、HYSITRON社製TI900 TRIBOINDENTER等)と、バーコビッチ(Berkovich)型のダイヤモンド圧子と、を用いて、得られた断面を、測定温度25℃、最大荷重250μN、荷重速度100μN/秒の条件で、走査すればよい。
【0051】
また、本実施形態に係る塗膜層13において、かかる塗膜層13の硬さを、ナノインデンターにより塗膜層13の断面に圧子を押し込むことで計測したときに、ナノインデンター硬さの平均が、0.31~0.80GPaの範囲内となることが好ましい。ナノインデンター硬さの平均が、0.31~0.80GPaの範囲内となることで、上層塗膜層20の密着性をより一層向上させることが可能となる。塗膜層13におけるナノインデンター硬さの平均は、より好ましくは0.35GPa以上であり、更に好ましくは0.40GPa以上である。また、塗膜層13におけるナノインデンター硬さの平均は、より好ましくは0.70GPa以下であり、更に好ましくは0.60GPa以下である。
【0052】
なお、塗膜層13のナノインデンター硬さの平均は、上記と同様の計測条件により、塗膜層13の断面におけるナノインデンター硬さを、任意の複数の位置(例えば、10箇所)で計測し、得られた複数の計測結果を計測箇所数で除することで、得ることができる。
【0053】
[Zr化合物の含有量について]
本実施形態に係る塗膜層13におけるZr化合物の含有量は、Zr換算で0.5質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。塗膜層13におけるZr化合物の含有量がZr換算で0.5質量%未満となる場合には、上記のようなナノインデンター硬さが0.36GPa以上となる部分が生じにくくなり、上層塗膜層20の密着性の向上効果が得られにくくなる可能性がある。Zr化合物の含有量をZr換算で0.5質量%以上とすることで、上記のような上層塗膜層20の密着性をより向上させることが可能となる。塗膜層13におけるZr化合物の含有量は、Zr換算で、より好ましくは0.8質量%以上であり、更に好ましくは1.0質量%以上であり、より一層好ましくは1.5質量%以上である。
【0054】
一方、塗膜層13におけるZr化合物の含有量が、Zr換算で10.0質量%超となる場合には、塗膜層13が硬くなりすぎる可能性がある。その結果、絞り加工に伴う残留応力の解放の際に、亀裂が上層塗膜層20まで伝播してしまい、上層塗膜層20の密着性が低下してしまう可能性がある。Zr化合物の含有量を、Zr換算で10.0質量%以下とすることで、上記のような上層塗膜層20への亀裂の伝播を防止して、上層塗膜層20の密着性をより向上させることが可能となる。塗膜層13におけるZr化合物の含有量は、Zr換算で、より好ましくは9.0質量%以下であり、更に好ましくは8.0質量%以下であり、より一層好ましくは7.0質量%以下である。
【0055】
≪Zr化合物の具体例について≫
ここで、塗膜層13が含有するZr化合物としては、架橋剤として機能することが可能なZr化合物を用いることが好ましく、架橋剤として機能することが可能な有機Zr化合物を用いることがより好ましい。このようなZr化合物としては、例えば、炭酸ジルコニウム錯イオン[Zr(CO3)2(OH)2]2-もしくは[Zr(CO3)3(OH)]3-のアンモニウム塩、カリウム塩又はナトリウム塩、有機Zr化合物(例えば、アセチルアセトネート塩等の有機Zr化合物)等を挙げることができる。
【0056】
[Si化合物の含有量について]
本実施形態に係る塗膜層13におけるSi化合物の含有量は、Si換算で2.0質量%以上40.0質量%以下であることが好ましい。Si化合物の含有量を、Si換算で2.0質量%以上とすることで、プレコート金属板1の耐食性をより向上させることが可能となる。塗膜層13におけるSi化合物の含有量は、Si換算で、より好ましくは5.0質量%以上であり、更に好ましくは8.0質量%以上であり、より一層好ましくは10.0質量%以上である。
【0057】
一方、塗膜層13におけるSi化合物の含有量を、Si換算で40.0以下とすることで、塗膜層13と上層塗膜層20との間の密着性をより向上させることが可能となる。塗膜層13におけるSi化合物の含有量は、Si換算で、より好ましくは35.0質量%以下であり、更に好ましくは30.0質量%以下であり、より一層好ましくは25.0質量%以下である。
【0058】
≪Si化合物の具体例について≫
ここで、塗膜層13が含有するSi化合物としては、例えば、コロイダルシリカ各種の無機Si化合物や有機Si化合物(具体的には、各種のシリカやシランカップリング剤等)を挙げることができる。このようなSi化合物としては、例えば、コロイダルシリカを挙げることができる。市販品としては、例えば、スノーテックスO、スノーテックスN、スノーテックスC(日産化学社)、アデライトAT-20N、AT-20A(ADEKA)等を挙げることができる。また、シランカップリング剤として、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルエトキシシラン、N-〔2-(ビニルベンジルアミノ)エチル〕-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。液安定性の観点から、Si化合物としてコロイダルシリカを用いることが、より好ましい。
【0059】
[Zr化合物の含有量とSi化合物の含有量との比率について]
本実施形態に係る塗膜層13において、Zr化合物の含有量[Zr]に対するSi含有量[Si]の比率([Si]/[Zr])は、1.00~30.00の範囲内であることが好ましい。かかる比率([Si]/[Zr])を、1.00~30.00の範囲内とすることで、プレコート金属板1に求められる耐食性を担保しつつ、絞り加工時における上層塗膜層20との間の密着性の低下を防止することが可能となる。比率([Si]/[Zr])は、より好ましくは2.00以上であり、更に好ましくは2.50以上である。また、比率([Si]/[Zr])は、より好ましくは10.00以下であり、更に好ましくは8.00以下である。
【0060】
[樹脂の含有量について]
本実施形態に係る塗膜層13における樹脂の含有量は、40.0質量%以上80.0質量%以下であることが好ましい。塗膜層13における樹脂の含有量を40.0質量%以上とすることで、湿潤環境に曝された場合における、未加工部での塗膜層13と上層塗膜層20との間の密着性を、担保することが可能となる。塗膜層13における樹脂の含有量は、より好ましくは45.0質量%以上であり、更に好ましくは50.0質量%以上であり、より一層好ましくは55.0質量%以上である。
【0061】
一方、塗膜層13における樹脂の含有量を80.0質量%以下とすることで、プレコート金属板1に求められる耐食性と、塗膜層13と上層塗膜層20との間の加工密着性と、を共に担保することが可能となる。塗膜層13における樹脂の含有量は、より好ましくは77.0質量%以下であり、更に好ましくは73.0質量%以下であり、より一層好ましくは70.0質量%以下である。
【0062】
なお、かかる樹脂は、軟らかく、かつ、伸びの良い樹脂であることが、より好ましい。かかる観点から、樹脂の数平均分子量は、8000以上であることが好ましく、10000以上であることが好ましい。また、樹脂の数平均分子量は、30000以下であることが好ましく、25000以下であることが好ましい。また、製膜後の塗膜のガラス転移点(Tg)は、50℃以下であることが好ましく、40℃以下であることがより好ましい。なお、塗膜のガラス転移点の下限値は、特に規定するものではないが、実質的には-10℃程度が下限となる。製膜後の塗膜のTgは、樹脂のTgよりも10~20℃大きくなることから、使用する樹脂のガラス転移点(Tg)は、30℃以下であることが好ましく、20℃以下であることがより好ましい。
【0063】
なお、プレコート金属板1の状態から、塗膜層13における樹脂のガラス転移点を特定する場合には、プレコート金属板1から乾燥後の皮膜を、機械的に削り出すことで採取し、得られた皮膜のサンプルを、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimeter:DSC)により分析すればよい。
【0064】
≪樹脂の具体例について≫
ここで、本実施形態に係る塗膜層13が含有する樹脂は、上記のようなZr化合物及びSi化合物のバインダーとして機能するものであれば、任意の素材を用いることが可能である。ただし、製造の簡便性及びコスト性の観点、並びに、耐食性及び耐疵付き性の観点から、樹脂として、各種の有機樹脂を用いることが好ましい。このような樹脂として、例えば、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂等を挙げることができる。
【0065】
[各含有量の測定方法について]
なお、上記のようなZr化合物、Si化合物及び樹脂の含有量を、プレコート金属板1の状態から特定する場合には、プレコート金属板1を厚み方向に切断した断面における、塗膜層13に該当する部分の断面を、FE-EPMA、エネルギー分散X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:EDS)、オージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy:AES)等のような各種の元素分析方法により分析すればよい。これにより、各種元素換算の含有量を特定することが可能である。
【0066】
[粒子について]
本実施形態に係る塗膜層13は、上記のような樹脂、Zr化合物及びSi化合物に加えて、更に、Si、V、P、Mg、Ca、又は、Crの少なくとも何れかの元素と、Oと、を含有し、かつ、平均粒径が0.5~7.0μmである粒子を更に含有してもよい。
【0067】
上記のような元素で構成される粒子は、いわゆる防錆顔料として機能することが可能である。本実施形態に係る塗膜層13が上記のような粒子を更に含有することで、プレコート金属板1の耐食性をより向上させることが可能となる。
【0068】
ここで、かかる粒子の平均粒径が0.5μm以上7.0μm以下であることで、かかる粒子の塗膜層13からの脱落を防止しつつ、プレコート金属板1の耐食性をより向上させることが可能となる。かかる粒子の平均粒径は、より好ましくは1.0μm以上である。また、かかる粒子の平均粒径は、より好ましくは5.0μm以下である。
【0069】
また、本実施形態に係る塗膜層13が上記のような粒子を含有する場合において、かかる粒子の含有量は、Si、V、P、Mg、Ca、又は、Cr換算で、0.3質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。ここで、Si、V、P、Mg、Ca、又は、Cr換算とは、Siを含有するものについてはSi換算し、Vを含有するものについてはV換算し、Pを含有するものについてはP換算し、Mgを含有するものについてはMg換算し、Caを含有するものについてはCa換算し、Crを含有するものについてはCr換算することを意味する。粒子の含有量を0.3質量%以上とすることで、粒子を含有させることによる上記のような効果を発現させることが可能となる。塗膜層13における粒子の含有量は、より好ましくは0.5質量%以上である。
【0070】
一方、粒子の含有量を、Si、V、P、Mg、Ca、又は、Cr換算で、2.0質量%以下とすることで、塗膜層13の形成に用いる塗料の安定性の低下を抑制しつつ、粒子を含有させることによる上記のような効果を発現させることが可能となる。塗膜層13における粒子の含有量は、より好ましくは1.5質量%以下である。
【0071】
上記のようなSi、V、P、Mg、Ca、又は、Crの少なくとも何れかの元素と、Oと、を含有する粒子状の化合物としては、例えば、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、リン酸亜鉛マグネシウム、リン酸マグネシウム、亜リン酸マグネシウム、シリカ、カルシウムイオン交換シリカ、リン酸ジルコニウム、トリポリリン酸2水素アルミニウム、トリポリリン酸カルシウム、酸化亜鉛、リンモリブデン酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、クロム酸ストロンチウム等を挙げることができる。
【0072】
なお、塗膜層13において、上記のような粒子が存在するか否かを、プレコート金属板1の状態から判断する場合には、プレコート金属板1の塗膜層13が存在している任意の位置から、断面観察用のサンプルを切り出し、かかるサンプルをFE-EPMAを用いて観察すればよい。
【0073】
より詳細には、塗膜層13が存在している任意の位置を適当な大きさに切断して、板厚方向断面が見えるように樹脂に埋め込みし、断面を研磨する。その後、FE-EPMAを用いて、得られた研磨面の断面観察を行う。より詳細には、断面(研磨面)の塗膜層13について、EPMAマッピング分析を、倍率4500倍で実施すればよい(加速電圧:15kV)。この際、検出対象元素としてSi、V、P、Mg、Ca、Cr、Oを選択し、これら元素の存在位置及び元素濃度のマッピング撮影を行えばよい。
【0074】
得られたマッピング結果において、元素Si、V、P、Mg、Ca、又は、Crの存在する位置と、元素Oの存在する位置と、が一致している場所が存在している場合に、かかる場所において、Si、V、P、Mg、Ca、又は、Crの少なくとも何れかの元素と、Oと、を含有する粒子状の化合物が存在していると判断することができる。
【0075】
上記のような粒子の平均粒径を、プレコート金属板1の状態から特定する場合には、プレコート金属板1を厚み方向に切断することで得られる任意の断面を、SEMにより観察することで特定することができる。より詳細には、着目した断面を最初にSEMにより観察した際に、各粒子の粒径を計測し、その値を記録しておく。次に、着目した断面を再度研磨し、新たに得られた断面について、各粒子の粒径を計測し、その値を記録しておく。このとき、最初の計測時よりも粒径が大きければ、上記のような再研磨・計測処理を継続する。かかる処理を、最初の計測時よりも粒径が小さくなるまで繰り返すことで、各粒子について、最大粒径を決定することができる。このような処理を、任意の10個の粒子に対して実施し、得られた10個の最大粒径の平均値を、粒子の平均粒径とする。
【0076】
また、上記のような粒子の含有量を、プレコート金属板1の状態から特定する場合には、プレコート金属板1を厚み方向に切断することで得られる任意の断面を、FE-EPMAにより、元素Si、V、P、Mg、Ca、Crについてそれぞれマッピング分析し、得られたSi量、V量、P量、Mg量、Ca量及びCr量を合算すればよい。
【0077】
また、本実施形態に係る塗膜層13は、上記のような粒子以外に、必要に応じて、体質顔料、着色顔料、着色剤、粘度調整剤、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤等といった各種の添加剤を含有してもよい。
【0078】
[塗膜層13の相構成について]
本実施形態に係る塗膜層13において、Zr化合物の含有量がZr換算で3.0質量%以上である場合、かかる塗膜層13では、以下で説明するような相A及び相Bを有する相構成が実現されている。以下、
図2及び
図3を参照しながら、本実施形態に係る塗膜層13が有しうる相構成について、詳細に説明する。
図2は、本実施形態に係るプレコート金属板が有する塗膜層の構成の一例を示した模式図であり、
図3は、本実施形態に係るプレコート金属板が有する塗膜層の構成の他の一例を示した模式図である。
【0079】
図2は、本実施形態に係る塗膜層13を厚み方向に切断したときの断面の様子を、拡大して模式的に示したものである。
本実施形態に係る塗膜層13において、Zr化合物の含有量がZr換算で3.0質量%以上である場合には、
図2に模式的に示したように、塗膜層13は、ナノインデンター硬さが異なる2種類の相A(
図2における符号101)、相B(
図2における符号103)を含むようになる。相Aは、相Bに比べて、より高いナノインデンター硬さを示す相である。先だって説明した方法に則して塗膜層13のナノインデンター硬さを20点測定し、最大値、最小値、及び中央の値4点を除き、上群(ナノインデンター硬さが高いものから順に、7点)を相A、下群(ナノインデンター硬さが低いものから順に、7点)を相Bとした。測定箇所は、塗膜層13の厚み方向(
図1におけるz軸方向)の中心位置±10%の位置とし、測定ピッチは、平面方向(
図1におけるy軸方向)に10μmとした。
【0080】
ここで、上記のような相A及び相Bについて分析したところ、より高いナノインデンター硬さを示す相Aは、樹脂中にZr化合物とSi化合物とが共局在している相であり、相Aよりも小さなナノインデンター硬さを示す相Bは、主に樹脂で構成されている相であることが判明した。つまり、相A(
図2における符号101)は、Zr・Si含有相と考えることができ、相B(
図2における符号103)は、樹脂相と考えることができる。
【0081】
また、上記のような相A及び相Bの化学組成を、ナノインデンター測定時の圧痕を中心にEDSにより点分析したところ、相BのZrの濃度に対する相AのZrの濃度(それぞれ質量%)の比は、1.5~6.0であり、かつ、相BのSiの濃度に対する相AのSiの濃度(それぞれ質量%)の比は1.6~10.0であることが判明した。
【0082】
≪相A、相Bにおけるナノインデンター硬さの関係≫
本実施形態に係る塗膜層13では、上記のようにして特定された相A(Zr・Si含有相)101及び相B(樹脂相)103において、各相のナノインデンター硬さを、先だって説明した計測条件に即して計測したときに、相A(Zr・Si含有相)101及び相B(樹脂相)103は、以下の式(1)及び式(2)の双方を満足することが好ましい。
HIT・B<HIT・A ・・・式(1)
1.1 ≦ HIT・A/HIT・B < 2.0 ・・・式(2)
【0083】
ここで、上記式(1)及び式(2)において、
HIT・A:相Aのナノインデンター硬さの平均
HIT・B:相Bのナノインデンター硬さの平均
であり、各相のナノインデンター硬さの平均は、着目した断面において、先だって説明した方法に則して定めた相A及び相Bについて、得られた複数個の計測値を計測個数で除することで、得ることができる。
【0084】
本実施形態に係る塗膜層13について、上記式(1)及び式(2)の双方が満たされることで、かかる塗膜層13においては、絞り加工に伴う残留応力を解放するための亀裂が、上層塗膜層20まで伝播しない程度の範囲内において、より生じやすくなり、上層塗膜層20の密着性をより向上させることが可能となる。ここで、式(2)における比率HIT・A/HIT・Bの値は、より好ましくは1.2以上であり、更に好ましくは1.3以上である。また、式(2)における比率HIT・A/HIT・Bの値は、より好ましくは1.9以下であり、更に好ましくは1.8以下である。
【0085】
≪相A、相BにおけるZr濃度とSi濃度との関係≫
本実施形態に係る塗膜層13では、上記のようにして特定された相A(Zr・Si含有相)101及び相B(樹脂相)103において、以下の式(3)及び式(4)の双方を満足することが好ましい。
1.5 ≦ NZr・A/NZr・B ≦ 6.0 ・・・式(3)
1.5 ≦ NSi・A/NSi・B ≦ 10.0 ・・・式(4)
【0086】
ここで、上記式(3)及び式(4)において、
NZr・A:相AのZr濃度の平均(質量%)
NZr・B:相BのZr濃度の平均(質量%)
NSi・A:相AのSi濃度の平均(質量%)
NSi・B:相BのSi濃度の平均(質量%)
である。なお、相AにおけるZr濃度の平均及びSi濃度の平均は、先だって説明した方法に則して定めた相AのそれぞれをFE-EPMAで測定し、得られたZr濃度及びSi濃度を平均することで特定することができる。同様に、相BにおけるZr濃度の平均及びSi濃度の平均は、先だって説明した方法に則して定めた相BのそれぞれをFE-EPMAで測定し、得られたZr濃度及びSi濃度を平均することで特定することができる。
【0087】
本実施形態に係る塗膜層13について、上記式(3)及び式(4)の双方が満たされることで、かかる塗膜層13においては、上層塗膜層20への亀裂の伝播を防止して、上層塗膜層20の密着性をより向上させることが可能となる。ここで、式(3)における比率NZr・A/NZr・Bの値は、より好ましくは2.0以上であり、更に好ましくは3.0以上である。また、式(3)における比率NZr・A/NZr・Bの値は、より好ましくは5.0以下であり、更に好ましくは4.0以下である。また、式(4)における比率NSi・A/NSi・Bの値は、より好ましくは2.0以上であり、更に好ましくは3.0以上である。また、式(4)における比率NSi・A/NSi・Bの値は、より好ましくは9.0以下であり、更に好ましくは8.0以下である。
【0088】
≪相A、相Bの平均面積率≫
また、本実施形態に係る塗膜層13において、塗膜層13を厚み方向(
図1におけるz軸方向)に沿って切断した断面をSEMにより観察したときに、上記相A(Zr・Si含有相)の平均面積率は、20~70%の範囲内であることが好ましい。本実施形態に係る塗膜層13について、相A(Zr・Si含有相)の平均面積率が20~70%であることで、かかる塗膜層13においては、絞り加工に伴う残留応力を解放するための亀裂が、上層塗膜層20まで伝播しない程度の範囲内において、より生じやすくなり、上層塗膜層20の密着性をより向上させることが可能となる。ここで、相A(Zr・Si含有相)の平均面積率は、より好ましくは30%以上であり、更に好ましくは40%以上である。また、相A(Zr・Si含有相)の平均面積率は、より好ましくは65%以下であり、更に好ましくは60%以下である。
【0089】
また、本実施形態に係る塗膜層13において、塗膜層13を厚み方向(
図1におけるz軸方向)に沿って切断した断面をSEMにより観察したときに、上記相B(樹脂相)の平均面積率は、30~80%の範囲内であることが好ましい。
【0090】
なお、上記のような相A、相Bの平均面積率は、塗膜層13を厚み方向(
図1におけるz軸方向)に沿って切断した断面における任意の領域を、15μm×15μmの視野でSEMにより観察し、かかる視野中における相A及び相Bの面積率を、SEMに実装されている測長機能等を用いて測定する。このような測定を、任意の3箇所について実施し、各測定箇所で得られた面積率の測定視野数による平均値を、各相の平均面積率とすればよい。
【0091】
なお、本実施形態に係る塗膜層13が、Si、V、P、Mg、Ca、又は、Crの少なくとも何れかの元素と、Oと、を含有する粒子状の化合物を更に含有している場合、かかる粒子状の化合物は、上記の相A(Zr・Si含有相)101及び相B(樹脂相)103のいずれの相中においても、存在しうる。この場合に、塗膜層13の断面をSEMにより観察すると、
図3に模式的に示したように、相A(Zr・Si含有相)101及び相B(樹脂相)103中に、粒子が観察される。
【0092】
なお、Zr化合物の含有量が、Zr換算で3.0質量%以上である場合に、塗膜層13中に上記のような相A及び相Bが生成する機構については、未だ定かではないが、Zr化合物の含有量がZr換算で3.0質量%以上となることで、樹脂の架橋点の数に対してZrが過剰に存在するようになり、相分離が生じたものと推察している。
【0093】
以上、
図2及び
図3を参照しながら、本実施形態に係るプレコート金属板1が有する塗膜層13について、詳細に説明した。
【0094】
<変形例>
続いて、
図4を参照しながら、本実施形態に係るプレコート金属板1の変形例について説明する。
図4は、本実施形態に係るプレコート金属板の構成の他の一例を示した模式図である。
【0095】
図4に模式的に示したように、本実施形態に係るプレコート金属板1は、基材金属板11と、塗膜層13との間に、平均厚み(
図4における厚みd3)が0.05~2.00μmである下地塗膜層15を更に有していてもよい。
【0096】
ここで、かかる下地塗膜層15として、例えば各種の化成処理層を挙げることができる。基材金属板11と塗膜層13との間に、下地塗膜層15の一例としての化成処理層が存在することで、基材金属板11と塗膜層13との間の密着性を、より向上させることが可能となる。また、かかる化成処理層が存在することで、プレコート金属板1の耐食性を、更に向上させることが可能となる。
【0097】
かかる化成処理層については、特に限定されるものではなく、各種の化成処理を利用して形成すればよい。このような化成処理として、例えば、クロメート系化成処理やノンクロメート系化成処理を挙げることができる。ノンクロメート系化成処理としては、例えば、バナジウム化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物、リン酸化合物のような無機化合物を用いた化成処理や、シリカ系化成処理を挙げることができる。
【0098】
また、かかる下地塗膜層15の平均厚みは、塗膜層13の平均厚みと同様の方法で測定することが可能である。
【0099】
以上、
図4を参照しながら、本実施形態に係るプレコート金属板1の変形例について、簡単に説明した。
【0100】
(表面処理金属板について)
続いて、
図5及び
図6を参照しながら、以上説明したようなプレコート金属板1の素材としての表面処理金属板について、簡単に説明する。
図5は、本実施形態に係る表面処理金属板の構成の一例を示した模式図であり、
図6は、本実施形態に係る表面処理金属板の構成の他の一例を示した模式図である。なお、以下では、便宜的に、
図5及び
図6に示した座標系を適宜参照しながら、説明を行うものとし、本実施形態に係る表面処理金属板の厚み方向をz軸方向とし、厚み方向に直交する2つの座標軸(x軸、y軸)が張る平面を、x-y平面とする。
【0101】
以上説明したようなプレコート金属板1の素材として用いられる、本実施形態に係る表面処理金属板10は、
図5に模式的に示したように、基材金属板11と、塗膜層13と、を有する。
【0102】
ここで、本実施形態に係る表面処理金属板10が有する基材金属板11は、先だって説明したプレコート金属板1における基材金属板11と同様の構成を有し、同様の効果を奏するものであるため、以下では詳細な説明は省略する。
【0103】
また、本実施形態に係る表面処理金属板10が有する塗膜層13は、樹脂と、Zr化合物と、Si化合物と、を含有し、平均厚みが0.5~15.0μmである層であり、かかる塗膜層13の硬さを、ナノインデンターにより塗膜層13の断面に圧子を押し込むことで計測したときに、ナノインデンター硬さが0.36GPa以上となる部分が存在する。
【0104】
上記のような本実施形態に係る表面処理金属板10が有する塗膜層13についても、先だって説明したプレコート金属板1における塗膜層13と同様の構成を有し、同様の効果を奏するものであるため、以下では詳細な説明は省略する。
【0105】
また、本実施形態に係る表面処理金属板10は、
図6に模式的に示したように、基材金属板11と、塗膜層13との間に、平均厚み(
図6における厚みd3)が0.05~2.00μmである下地塗膜層15を更に有していてもよい。
【0106】
ここで、本実施形態に係る表面処理金属板10が有する下地塗膜層15についても、先だって説明したプレコート金属板1における下地塗膜層15と同様の構成を有し、同様の効果を奏するものであるため、以下では詳細な説明は省略する。
【0107】
以上、
図5及び
図6を参照しながら、本実施形態に係る表面処理金属板10について、簡単に説明した。
【0108】
(部材について)
以上説明したような本実施形態に係るプレコート金属板1を素材として用い、かかるプレコート金属板1に対して、所望の形状を実現するための、曲げ加工や絞り加工をはじめとする各種加工を施すことにより、各種の部材を成形することが可能である。このように、本実施形態に係る部材は、上記のプレコート金属板1に対して加工を施すことで成形された、部材であると言える。
【0109】
本実施形態に係る部材は、基材としての金属板と、かかる金属板の少なくとも一方の表面に位置しており、樹脂と、Zr化合物と、Si化合物と、を含有する塗膜層と、かかる塗膜層上に位置する上層塗膜層と、で構成されている。また、かかる部材の1cm×1cmの大きさの領域において、上記の塗膜層の平均厚みが0.5~15.0μmであり、上記の上層塗膜層の平均厚みが5.0~30.0μmであり、塗膜層の硬さを、ナノインデンターにより塗膜層の断面に圧子を押し込むことで計測したときに、ナノインデンター硬さが0.36GPa以上となる部分が存在している。
【0110】
このような部材の具体例については、特に規定するものではなく、例えば、家電機器用部材、建築用部材、内装材、自動車用部材等といった各種の部材を挙げることができる。
【0111】
(表面処理金属板10及びプレコート金属板1の製造方法について)
以下では、本実施形態に係る表面処理金属板10及びプレコート金属板1の製造方法の一例を、簡単に説明する。
まず、基材となる金属板に対して、必要に応じて、アルカリ脱脂処理、水洗処理、酸洗処理等をはじめとする各種の前処理を施して、清浄な金属板表面とする。その後、かかる基材金属板11の表面に、必要に応じて、各種のめっき処理を施してもよい。このようにすることで、本実施形態に係る表面処理金属板10及びプレコート金属板1の基材金属板11を得ることができる。
【0112】
かかる基材金属板11に対して、必要に応じて、下地塗膜層15(例えば、化成処理層)を形成するための、公知の各種の処理を実施する。例えば、所望の成分を含有する下地塗料(例えば、公知の各種の化成処理剤)を準備し、基材金属板11の表面に、かかる下地塗料を塗布して、乾燥させればよい。ここで、上記のような下地塗料の塗布は、一般に公知の塗布方法、例えば、ロールコート、カーテンフローコート、エアースプレー、エアーレススプレー、浸漬、バーコート、刷毛塗りなどで行うことができる。また、下地塗料の乾燥方法についても、一般に公知の乾燥方法、例えば、熱風、近赤外線、遠赤外線、誘導加熱やこれらの複合による加熱法などを用いればよい。
【0113】
例えば以上のようにして形成した基材金属板11(又は、下地塗膜層15)の表面に対して、塗膜層13を形成するための塗料を塗布し、加熱乾燥することで、塗膜層13を形成する。ここで、かかる塗料は、溶媒としての水(例えば、純水等)に、上記のような樹脂、Zr化合物及びSi化合物、必要に応じて、更に、特定の元素を有する粒子や、各種の添加剤を、特定の含有量となるように含有させることで、準備する。このように、塗膜層13を形成するために用いられる塗料は、いわゆる水系の塗料である。
【0114】
準備した塗膜層形成用の塗料の塗布は、上記と同様に、一般に公知の塗布方法、例えば、ロールコート、カーテンフローコート、エアースプレー、エアーレススプレー、浸漬、バーコート、刷毛塗りなどで行うことができる。
【0115】
その後、熱風、近赤外線、遠赤外線、誘導加熱やこれらの複合による加熱法など、任意の方法で、塗料を加熱乾燥すればよい。これにより、本実施形態に係る塗膜層13を形成することができる。ただし、CO2排出量削減の観点から、熱風よりもエネルギー効率のよい、誘導加熱による加熱乾燥が好ましい。また、誘導加熱では、鋼板の側から塗膜が加熱されることにより、塗膜中でZr成分やSi成分が対流しやすくなる結果、Zr及びSiがより凝集しやすくなる。これにより、より好ましい硬さを有する塗膜層13を形成することが可能となる。
【0116】
ここで、塗料を加熱乾燥する際の最高到達板温は、100~250℃の範囲内とする。最高到達板温が100℃未満である場合には、塗料の溶媒である水の蒸発が不十分となるため、好ましくない。最高到達板温を100℃以上とすることで、塗料の溶媒である水を十分に蒸発させることが可能となり、本実施形態に係る塗膜層13を形成することができる。塗料を加熱乾燥する際の最高到達板温は、好ましくは100℃超であり、より好ましくは120℃以上であり、更に好ましくは150℃以上である。
【0117】
一方、塗料を加熱乾燥する際の最高到達板温が250℃超となる場合には、塗料に含まれる樹脂の熱分解が開始してしまうため、好ましくない。最高到達板温を250℃以下とすることで、塗料中の樹脂の熱分解を防止しながら、本実施形態に係る塗膜層13を形成することができる。塗料を加熱乾燥する際の最高到達板温は、好ましくは230℃以下であり、より好ましくは210℃以下である。
【0118】
≪塗料の加熱乾燥時の昇温速度について≫
ここで、本実施形態に係る塗膜層13の密着性を発揮させるためには、塗料中の成分が流動している100℃までの昇温速度を適切に制御することが、重要である。また、板温100℃までの適切な昇温速度は、塗膜層を形成するための塗料中における、Zr化合物のZr換算での濃度により異なる。
【0119】
塗料中のZr化合物の含有量が、Zr換算で3.0質量%未満(例えば、0.5質量%以上3.0質量%未満)である場合には、板温100℃までの昇温速度は、2~30℃/秒の範囲内とする。昇温速度が2℃/秒未満、又は、30℃/秒超である場合には、塗料中の樹脂、Zr化合物及びSi化合物が十分に架橋せず、所望の密着性を実現することができない。板温100℃までの昇温速度を2~30℃/秒の範囲内とすることで、Zrを介して樹脂を十分に架橋させることが可能となる。これにより、加工時に伸縮性の低い架橋部に亀裂が入ることで、加工による残留応力を適切に解放することが可能となり、良好な密着性を実現することができる。
【0120】
塗料中のZr化合物の含有量が、Zr換算で3.0質量%未満(例えば、0.5質量%以上3.0質量%未満)である場合における、板温100℃までの昇温速度は、好ましくは2~30℃/秒の範囲内であり、より好ましくは5~25℃/秒の範囲内であり、更に好ましくは10~20℃/秒の範囲内である。
【0121】
一方、塗料中のZr化合物の含有量が、Zr換算で3.0質量%以上(例えば、3.0質量%以上10.0質量%以下)である場合には、板温100℃までの昇温速度は、4~50℃/秒の範囲内とする。板温100℃までの昇温速度を4~50℃/秒の範囲内とすることで、Zrによる樹脂の架橋に加え、余剰のZrがZr・Si含有相(すなわち、相A)として相分離するようになる。その結果、加工時に相A(Zr・Si含有相)を起点に亀裂が入りやすくなる結果、加工による残留応力を適切に解放することが可能となり、良好な密着性を実現することができる。昇温速度が4℃/秒未満である場合には、Zr・Si含有相が過大となり、塗膜層13の密着性が低下してしまう。一方、昇温速度が50℃/秒超である場合には、塗料中の樹脂、Zr化合物及びSi化合物が十分に架橋せず、所望の密着性を実現することができない。
【0122】
塗料中のZr化合物の含有量が、Zr換算で3.0質量%以上(例えば、3.0質量%以上10.0質量%以下)である場合における、板温100℃までの昇温速度は、好ましくは4~50℃/秒の範囲内であり、より好ましくは10~40℃/秒の範囲内である。
【0123】
なお、塗料の加熱乾燥時における、板温100℃超の範囲における昇温速度については、特に限定するものではない。また、上記のような板温及び昇温速度は、熱電対や放射温度計といった公知の各種の計測機器を用いることで、容易に計測することが可能である。
【0124】
以上のような工程を経ることで、本実施形態に係るプレコート金属板1の素材となる、表面処理金属板10を製造することができる。
【0125】
本実施形態に係るプレコート金属板1を製造する場合には、以上のようにして製造された表面処理金属板10の表面(より詳細には、塗膜層13の表面)に対して、更に、所望の上層塗膜層20を形成するための塗料を塗布して、加熱乾燥させればよい。
【0126】
ここで、上層塗膜層20を形成するための塗料については、特に限定されるものではなく、公知の各種の塗料を用いることが可能である。準備した上層塗膜層形成用の塗料の塗布は、上記と同様に、一般に公知の塗布方法、例えば、ロールコート、カーテンフローコート、エアースプレー、エアーレススプレー、浸漬、バーコート、刷毛塗りなどで行うことができる。
【0127】
その後、熱風、近赤外線、遠赤外線、誘導加熱やこれらの複合による加熱法など、任意の方法で、塗料を加熱乾燥すればよい。これにより、本実施形態に係る上層塗膜層20を形成することができる。
【0128】
以上のような工程を経ることで、本実施形態に係るプレコート金属板1を製造することができる。
【実施例0129】
以下では、実施例及び比較例を示しながら、本実施形態に係る表面処理金属板及びプレコート金属板について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本実施形態に係る表面処理金属板及びプレコート金属板の一例に過ぎず、本発明に係る表面処理金属板及びプレコート金属板が下記の例に限定されるものではない。
【0130】
<金属板の準備>
以下に示す試験例では、以下の表1に示す、いずれも厚みが0.6mmの金属板を準備し、基材として用いた。なお、以下のGI、ZAM、SD、ZXで表される鋼板は、いずれも日本製鉄株式会社製である。また、市販のアルミ材(AL)、及び、ステンレス材(SUS)についても、基材として用いた。
【0131】
上記のような金属板の表面に対して、乾燥後の平均厚みが以下の表6-1~表6-3に示した値となるように、化成処理剤(日本パーカライジング株式会社製CT-E215)をバーコーターにより塗布して、加熱乾燥した。これにより、金属板の表面に、下地塗膜層の一例としての化成処理層を形成した。
【0132】
【0133】
<塗膜層形成用の塗料>
以下に示す化合物を用いて、塗膜層形成用の塗料を準備した。表2は、用いた樹脂を示しており、表3は、用いたZr化合物を示しており、表4は、用いたSi化合物を示しており、表5は、用いた粒子を示している。なお、表3~表5に示した各物質は、いずれも、市販の一般試薬を用いた。これらの化合物を、以下の表6-1~表6-3の各水準に示すような含有量で配合し、塗膜層形成用の塗料とした。
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
<塗膜層の形成>
上記のようにして準備した塗料を、バーコーターを用いて、先だって説明した金属板の表面(下地塗膜層を形成したものについては、下地塗膜層の表面)に塗布した後、誘導加熱により加熱乾燥することで、塗膜層を形成した。
【0139】
<上層塗膜層の形成>
上層塗膜層を形成するための塗料として、日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社製フレキコート5100を準備し、上記のようにして形成した塗膜層の表面に、バーコーターを用いて塗布した後、加熱乾燥することで、上層塗膜層を形成した。
【0140】
以上のようにして、以下の表6-1~表6-3に示したようなプレコート金属板を、各水準について複数作製した。
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
以上のようにして作製した塗料について、塗料安定性の観点から評価を行った。塗料安定性の試験方法の詳細、及び、評価基準は、以下の通りである。また、得られた評価結果は、以下の表7-1~表7-3にまとめて示した。
【0145】
[塗料安定性評価]
各塗料を調整後、25±3℃で放置し、その経時安定性を調査した。液状態を観察し、初期と変化無く、流動性を保っていた期間を評価した。評点3、4、5を合格とした。
<評価基準>
評点5:3週間以上
4:2週間以上3週間未満
3:1週間以上2週間未満
2:3日以上1週間未満
1:3日以下
【0146】
また、得られた各プレコート金属板について、ナノインデンター測定装置(HYSITRON社製TI900 TRIBOINDENTER等)と、バーコビッチ(Berkovich)型のダイヤモンド圧子と、を用いて、得られた断面を、測定温度25℃、最大荷重250μN、荷重速度100μN/秒の条件で、走査し、ナノインデンター硬さを測定した。また、EDS点分析により、相A及び相Bの化学組成を測定した。さらに、SEMにより、相Aの平均面積率を測定した。
【0147】
また、得られた各プレコート金属板について、絞り化合物密着性、曲げ加工部密着性、耐食性、碁盤目エリクセン試験の観点から、評価を行った。各項目の試験方法の詳細、及び、評価基準は、以下の通りである。得られた評価結果は、以下の表7-1~表7-3にまとめて示した。
【0148】
[塗膜密着性評価試験1:碁盤目エリクセン加工]
本試験では、塗膜の一次密着性の評価を行った。一次密着性とは、塗料を塗布した後、実際の使用前の状態における塗膜密着性を指す。本試験は、各プレコート金属板に1mm間隔で碁盤目に100個のマス目をいれ、20℃でエリクセン7mm押し出し加工を行い、その後に粘着テープを貼り付けてから剥がし、塗膜残存率を測定することにより行った。試験方法とテープ種は、JIS K5600-5-6:1999に準じ、操作は、JIS K5981:2006に準じた。100マス中の残ったマス目数(X/100)により、評価を行った。評価基準は、以下の通りであり、評点3、4、5を合格とした。
<評価基準>
評点5:100/100
4:95~99/100
3:90~94/100
2:50~89/100
1:49以下/100
【0149】
[塗膜密着性評価試験2:曲げ加工]
本試験では、塗膜の二次密着性の評価のうち、塑性加工を施した加工部の塗膜密着性の評価を行った。二次密着性とは使用後の塗膜性能を指す。本試験は、作製したプレコート金属板を、JIS G3322:2019の曲げ試験に準じて、180°折り曲げ加工(密着曲げ加工)し、加工部の塗膜を目視で観察し、塗膜の割れの有無を調べた。なお、180°折り曲げを行う際には、プレコート金属板の表面が曲げの外側となるように折り曲げて、密着曲げを行った(一般に0T曲げとして知られている。)。試験方法とテープ種は、JIS K5600-5-6:1999に準じ、操作は、JIS K5981:2006に準じた。評価基準は、以下の通りであり、評点3、4、5を合格とした。
<評価基準>
評点5:塗膜の剥離なし、かつ貼り付け前に塗膜に亀裂なし
4:塗膜の剥離なし、ただし貼り付け前に塗膜にごく僅かに亀裂あり
3:塗膜の剥離なし、ただし貼り付け前に塗膜に僅かに亀裂あり
2:僅かに塗膜の剥離あり
1:ほとんどの塗膜が剥離
【0150】
[塗膜密着性評価試験3:円筒絞り加工]
本試験では、塗膜の二次密着性の評価のうち、塑性加工を施した加工部の塗膜密着性の評価を行う。本試験は、各プレコート金属板に、下記に示すような条件で円筒絞り成形を実施し、金属板素地に達するクロスカットを入れ、沸騰水に1時間浸漬し、取り出し後の塗膜膨れ幅を目視にて評価することで実施した。評価基準は、以下の通りであり、評点3、4、5を合格とした。
<円筒絞り条件>
ポンチ径:50mm
ポンチ肩R:5mm、
ダイス径:52.5mm
ダイス肩R:5mm
しわ抑え力:4900N
絞り速度:毎分20mm
塗膜面をダイス側とし、無塗装面をポンチ側とした。
<評価基準>
評点5:膨れ幅0.3mm未満
4:膨れ幅0.3mm以上、0.5mm未満
3:膨れ幅0.5mm以上、1.0mm未満
2:膨れ幅1.0mm以上、1.5mm未満
1:膨れ幅1.5mm以上
【0151】
[耐食性評価試験]
金属板素地に達するクロスカットを入れた各プレコート金属板を、塩水噴霧試験(JIS Z 2371:2015)に供し、480時間経過後のクロスカット部の塗膜膨れ幅を測定した。評価基準は、以下の通りであり、評点3、4、5を合格とした。
<評価基準>
評点5:膨れ幅1.0mm未満
4:膨れ幅1.0mm以上、1.5mm未満
3:膨れ幅1.5mm以上、2.0mm未満
2:膨れ幅2.0mm以上、3.0mm未満
1:膨れ幅3.0mm以上
【0152】
【0153】
【0154】
【0155】
上記表6-1~表7-3から明らかなように、本発明の実施例に該当するプレコート金属板は、耐食性を保持しながら、優れた絞り加工部密着性を示した一方で、本発明の比較例に該当するプレコート金属板は、耐食性又は絞り加工部密着性の少なくとも何れかにおいて、不合格となった。
【0156】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0157】
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではない。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲、後述するような本発明の技術的範囲に属する構成及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。例えば、上記実施形態の構成要件は、その効果を損なわない範囲内で、任意に組み合わせることが可能である。また、当該任意の組み合せからは、組み合わせにかかるそれぞれの構成要件についての作用及び効果が当然に得られるとともに、本明細書の記載から当業者には明らかな他の作用及び他の効果が得られる。
【0158】
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的又は例示的なものであって、限定的ではない。つまり、本発明に係る技術は、上記の効果とともに、又は、上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
【0159】
なお、以下のような構成も、本発明の技術的範囲に属する。
(1)
基材としての金属板と、
前記金属板の少なくとも一方の表面に位置する塗膜層と、
前記塗膜層上に位置する上層塗膜層と、
を有し、
前記塗膜層は、樹脂と、Zr化合物と、Si化合物と、を含有し、
前記塗膜層の平均厚みは、0.5~15.0μmであり、
前記上層塗膜層の平均厚みは、5.0~30.0μmであり、
前記塗膜層の硬さを、ナノインデンターにより前記塗膜層の断面に圧子を押し込むことで計測したときに、ナノインデンター硬さが0.36GPa以上となる部分が存在する、プレコート金属板。
(2)
前記塗膜層における前記Zr化合物の含有量は、Zr換算で0.5~10.0質量%である、(1)に記載のプレコート金属板。
(3)
前記塗膜層における前記Zr化合物の含有量は、Zr換算で3.0質量%以上であり、
前記塗膜層は、以下の式(1)及び式(2)を満足する2つの相A、相Bを少なくとも含む、(2)に記載のプレコート金属板。
HIT・B<HIT・A ・・・式(1)
1.1 ≦ HIT・A/HIT・B < 2.0 ・・・式(2)
ここで、上記式(1)及び式(2)において、
HIT・A:前記相Aのナノインデンター硬さの平均
HIT・B:前記相Bのナノインデンター硬さの平均
である。
(4)
前記塗膜層における前記Zr化合物の含有量は、Zr換算で3.0質量%以上であり、
前記塗膜層の前記相A及び前記相Bが、以下の式(3)及び式(4)を満足し、
前記塗膜層を厚み方向に切断した断面を、走査型電子顕微鏡により観察したときに、前記相Aの平均面積率が、20~70%である、(3)に記載のプレコート金属板。
1.5 ≦ NZr・A/NZr・B ≦ 6.0 ・・・式(3)
1.5 ≦ NSi・A/NSi・B ≦ 10.0 ・・・式(4)
ここで、上記式(3)及び式(4)において、
NZr・A:前記相AのZr濃度の平均(質量%)
NZr・B:前記相BのZr濃度の平均(質量%)
NSi・A:前記相AのSi濃度の平均(質量%)
NSi・B:前記相BのSi濃度の平均(質量%)
である。
(5)
前記塗膜層における、前記Zr化合物の含有量に対する前記Si含有量の比率([Si]/[Zr])は、1.00~30.00である、(1)~(4)の何れか1つに記載のプレコート金属板。
(6)
前記樹脂は、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、又は、アクリル系樹脂の少なくとも何れかである、(1)~(5)の何れか1つに記載のプレコート金属板。
(7)
前記金属板と、前記塗膜層と、の間に、平均厚みが0.05~2.00μmである下地塗膜層を更に有する、(1)~(6)の何れか1つに記載のプレコート金属板。
(8)
前記塗膜層は、Si、V、P、Mg、Ca、又は、Crの少なくとも何れかの元素と、Oと、を含有し、かつ、平均粒径が0.5~7.0μmである粒子を更に含み、
前記粒子の含有量は、Si、V、P、Mg、Ca、又は、Cr換算で、2.0質量%以下である、(1)~(7)の何れか1つに記載のプレコート金属板。
(9)
前記塗膜層の硬さを、ナノインデンターにより前記塗膜層の断面に圧子を押し込むことで計測したときに、ナノインデンター硬さの平均が、0.31~0.80GPaである、(1)~(8)の何れか1つに記載のプレコート金属板。
(10)
前記金属板は、鋼板の少なくとも一方の表面にZn系めっき層を有するZn系めっき鋼板である、(1)~(9)の何れか1つに記載のプレコート金属板。
(11)
前記Zn系めっき層は、Zn、Al、Mgを含有するZn-Al-Mg系めっき層である、(10)に記載のプレコート金属板。
(12)
所定の形状を有する部材であって、
前記部材は、
基材としての金属板と、
前記金属板の少なくとも一方の表面に位置しており、樹脂と、Zr化合物と、Si化合物と、を含有する塗膜層と、
前記塗膜層上に位置する上層塗膜層と、
で構成されており、かつ、
前記部材の1cm×1cmの大きさの領域において、
前記塗膜層の平均厚みが0.5~15.0μmであり、
前記上層塗膜層の平均厚みが5.0~30.0μmであり、
前記塗膜層の硬さを、ナノインデンターにより前記塗膜層の断面に圧子を押し込むことで計測したときに、ナノインデンター硬さが0.36GPa以上となる部分が存在する、部材。
(13)
基材としての金属板と、
前記金属板の少なくとも一方の表面に位置する塗膜層と、
を有し、
前記塗膜層は、樹脂と、Zr化合物と、Si化合物と、を含有し、
前記塗膜層の平均厚みは、0.5~15.0μmであり、
前記塗膜層の硬さを、ナノインデンターにより前記塗膜層の断面に圧子を押し込むことで計測したときに、ナノインデンター硬さが0.36GPa以上となる部分が存在する、表面処理金属板。
(14)
前記塗膜層における前記Zr化合物の含有量は、Zr換算で0.5~10.0質量%である、(13)に記載の表面処理金属板。
(15)
前記塗膜層における前記Zr化合物の含有量は、Zr換算で3.0質量%以上であり、
前記塗膜層は、以下の式(1)及び式(2)を満足する2つの相A、相Bを少なくとも含む、(13)又は(14)に記載の表面処理金属板。
HIT・B<HIT・A ・・・式(1)
1.1 ≦ HIT・A/HIT・B < 2.0 ・・・式(2)
ここで、上記式(1)及び式(2)において、
HIT・A:前記相Aのナノインデンター硬さの平均
HIT・B:前記相Bのナノインデンター硬さの平均
である。
(16)
前記塗膜層における前記Zr化合物の含有量は、Zr換算で3.0質量%以上であり、
前記塗膜層の前記相A及び前記相Bが、以下の式(3)及び式(4)を満足し、
前記塗膜層を厚み方向に切断した断面を、走査型電子顕微鏡により観察したときに、前記相Aの平均面積率が、20~70%である、(15)に記載の表面処理金属板。
1.5 ≦ NZr・A/NZr・B ≦ 6.0 ・・・式(3)
1.5 ≦ NSi・A/NSi・B ≦ 10.0 ・・・式(4)
ここで、上記式(3)及び式(4)において、
NZr・A:前記相AのZr濃度の平均(質量%)
NZr・B:前記相BのZr濃度の平均(質量%)
NSi・A:前記相AのSi濃度の平均(質量%)
NSi・B:前記相BのSi濃度の平均(質量%)
である。
(17)
前記塗膜層における、前記Zr化合物の含有量に対する前記Si含有量の比率([Si]/[Zr])は、1.00~30.00である、(13)~(16)の何れか1つに記載の表面処理金属板。
(18)
前記樹脂は、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、又は、アクリル系樹脂の少なくとも何れかである、(13)~(17)の何れか1つに記載の表面処理金属板。
(19)
前記金属板と、前記塗膜層と、の間に、平均厚みが0.05~2.00μmである下地塗膜層を更に有する、(13)~(20)の何れか1つに記載の表面処理金属板。
(20)
前記塗膜層は、Si、V、P、Mg、Ca、又は、Crの少なくとも何れかの元素と、Oと、を含有し、かつ、平均粒径が0.5~7.0μmである粒子を更に含み、
前記粒子の含有量は、Si、V、P、Mg、Ca、又は、Cr換算で、2.0質量%以下である、(13)~(19)の何れか1つに記載の表面処理金属板。
(21)
前記塗膜層の硬さを、ナノインデンターにより前記塗膜層の断面に圧子を押し込むことで計測したときに、ナノインデンター硬さの平均が、0.31~0.80GPaである、(13)~(20)の何れか1つに記載の表面処理金属板。
(22)
前記金属板は、鋼板の少なくとも一方の表面にZn系めっき層を有するZn系めっき鋼板である、(13)~(21)の何れか1つに記載の表面処理金属板。
(23)
前記Zn系めっき層は、Zn、Al、Mgを含有するZn-Al-Mg系めっき層である、(22)に記載の表面処理金属板。