IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社KNクリエイトの特許一覧

<>
  • 特開-2型糖尿病の治療装置 図1
  • 特開-2型糖尿病の治療装置 図2
  • 特開-2型糖尿病の治療装置 図3
  • 特開-2型糖尿病の治療装置 図4
  • 特開-2型糖尿病の治療装置 図5
  • 特開-2型糖尿病の治療装置 図6
  • 特開-2型糖尿病の治療装置 図7
  • 特開-2型糖尿病の治療装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016192
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】2型糖尿病の治療装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/40 20060101AFI20250124BHJP
【FI】
A61N1/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023119308
(22)【出願日】2023-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】523278065
【氏名又は名称】株式会社KNクリエイト
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武内 康郎
(72)【発明者】
【氏名】尹 永范
(72)【発明者】
【氏名】森岡 勇
(72)【発明者】
【氏名】西浦 一仁
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053DD09
4C053LL01
(57)【要約】
【課題】患部を確実に加温してインスリンの分泌を活性化することができる、2型糖尿病治療装置を提供する。
【解決手段】2つの板状電極(301、601)と、前記2つの板状電極の少なくとも一方の厚さ方向に形成された貫通孔(601a)と、前記2つの板状電極に高周波電力を供給する高周波電源(400)とを備える2型糖尿病治療装置。好ましくは、円筒状の貫通孔を、板状電極の中心に対して対称に設ける。また、好ましくは貫通孔の直径を、該貫通孔が形成された板状電極の直径の1%以上10%以下とする。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの板状電極と、
前記2つの板状電極の少なくとも一方の厚さ方向に形成された貫通孔と、
前記2つの板状電極に高周波電力を供給する高周波電源と
を備えることを特徴とする2型糖尿病治療装置。
【請求項2】
前記貫通孔が円筒状に形成されている
ことを特徴とする、請求項1に記載の2型糖尿病治療装置。
【請求項3】
1乃至複数の前記貫通孔が、前記板状電極の中心に対して対称な位置に設けられている
ことを特徴とする、請求項1に記載の2型糖尿病治療装置。
【請求項4】
前記貫通孔の直径が、該貫通孔が形成された前記板状電極の直径の1%以上10%以下である
ことを特徴とする、請求項1に記載の2型糖尿病治療装置。
【請求項5】
前記高周波電力の大きさが100W以上1500W以下である
ことを特徴とする、請求項1に記載の2型糖尿病治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2型糖尿病の治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人が食事をすると血液中に糖が取り込まれ、血液中の糖の濃度(血糖値)が上昇する。血糖値が上昇すると膵臓からインスリンと呼ばれるホルモンが分泌される。膵臓から分泌されたインスリンは血液とともに全身に運ばれ、血液中の糖が、肝臓や筋肉でグリコーゲンと呼ばれるエネルギー源に変換されたり脂肪として蓄えられたりして、血糖値が低下する。糖尿病を発症すると、インスリンの分泌が遅くなったり、インスリンの分泌量が減少したり、あるいはインスリンの働きが弱くなったりして血糖値が下がりにくくなる。血糖値が高い状態が長期にわたると、全身の血管に障害が起こるようになり、重症化すると失明、腎不全、足の切断などのQOL(生活の質)を大きく低減させる合併症や、心筋梗塞あるいは脳梗塞などの疾患を引き起こしやすくなる。
【0003】
糖尿病には1型糖尿病と2型糖尿病がある。1型糖尿病は、膵臓にあるβ細胞が傷害され、インスリンを全く、あるいはほとんど作ることができなくなる病気である。2型糖尿病は、膵臓でインスリンは作られるものの量が不十分であったり、作られたインスリンが十分に機能を発揮しなかったりする病気である。2型糖尿病は、肥満や運動不足や食生活の乱れなどが原因となることから生活習慣病とも呼ばれる。
【0004】
日本では約1,000万人が糖尿病に罹患していると推定されており、その多くは生活習慣病とも呼ばれる2型糖尿病に罹患している。2型糖尿病の患者に対しては、まず、食生活や運動習慣の乱れを正す生活指導が行われる。生活習慣を改善しても血糖値が十分に下がらない場合には、血糖値を下げる薬を用いた薬物療法が行われる。薬物療法を行っても十分な効果が得られなかった2型糖尿病の患者、あるいは胎児への影響により血糖値を下げる薬を使用できない妊婦である2型糖尿病の患者に対しては、人工的にインスリンを補うインスリン治療が行われる。
【0005】
薬物療法は薬物の投与によって血糖値を下げるものであるが、インスリン治療は人工的にインスリンを補って血糖値を下げるという対症療法であって、膵臓のインスリンの分泌機能を改善するものではない。そのため、糖尿病の原因となる膵臓を治療することができる技術が求められている。
【0006】
特許文献1には、1対の円盤状の電極と該1対の電極に高周波電力を供給する高周波電源を備えたC型肝炎治療装置が記載されている。この装置では、患部である肝臓を挟むように患者の体表面に電極対を配置し、該電極対に高周波電力を供給することによって肝臓を加温する。特許文献1には、こうして肝臓を加温することによりC型肝炎を治療する効果が得られたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-131033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
2型糖尿病の治療においても、膵臓を加温することによりインスリンの分泌状態を改善することが期待される。しかし、特許文献1には一部のC型肝炎の患者について加温治療による効果が得られたとされている一方、一部の患者には治療の効果が見られなかったことも記載されており、患部が十分に加温されなかったことがその原因であると考察されている。そのため、こうした装置を2型糖尿病の患者の治療に用いるためには、患部の加温をより確実に行うことが求められる。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、患部を確実に加温してインスリンの分泌を活性化することができる、2型糖尿病治療装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明に係る2型糖尿病治療装置は、
2つの板状電極と、
前記2つの板状電極の少なくとも一方の厚さ方向に形成された貫通孔と、
前記2つの板状電極に高周波電力を供給する高周波電源と
を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る2型糖尿病治療装置を使用する際には、患部(例えば患者の膵臓や肝臓)を挟むように、患者の体表面に2つの板状電極を配置し、それらの板状電極に高周波電力を印加する。これら2つの板状電極の少なくとも一方には、厚さ方向に貫通孔が形成されている。患者の膵臓を加温することにより直接的に膵臓に働きかけてインスリンの分泌を活性化することができる。また、患者の肝臓を加温することにより、膵臓の血流を改善(補完)して膵臓からのインスリンの分泌を活性化することができる。
【0012】
患部を挟んで体表面に2つの板状電極を配置し、それらに高周波電力を供給すると電界が形成され、この電界によって誘電体である人体の内部に高周波の変位電流(電束電流ともいう。)が流れる。特許文献1に記載のように対向面が平坦である2つの板状電極に高周波電力を供給するC型肝炎治療装置では、円盤状の電極の中心部で発生した変位電流が一方の電極から他方の電極に向かって直線的に流れるのに対し、電極の周縁部で発生した変位電流は、2つの電極で挟まれた空間よりも外方に膨出しながら一方の電極から他方の電極へと流れる。そのため、電極対の中心部から遠ざかるにつれて変位電流が粗になり、これが患部の加温を困難にしていたと考えられる。このような、電子の流れを伴わない電流は変位電流と呼ばれ、電子の流れを伴う導電電流と区別される。また、変位電流は電子の流れを伴わないため、導電電流が流れるときに発生するような抵抗は生じない。
【0013】
本発明に係る2型糖尿病治療装置では、2つの板状電極の少なくとも一方に、厚さ方向に貫通孔を形成している。板状電極の厚さ方向に貫通孔を形成すると、該貫通孔の近傍に変位電流が集中しやすくなる。そのため、電極の周縁部から発生した変位電流が2つの板状電極で挟まれた空間から外側に膨出することが抑制され、患部を確実に加温してインスリンの分泌を活性化することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る2型糖尿病治療装置を用いることにより、患部を確実に加温してインスリンの分泌を活性化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る2型糖尿病治療装置の一実施形態の全体の斜視図。
図2】本実施形態の2型糖尿病治療装置の内部構成を示す図。
図3】本実施形態の2型糖尿病治療装置の内部構成を示す別の図。
図4】本実施形態の2型糖尿病治療装置の内部構成を示すさらに別の図。
図5】本実施形態における上部電極の構成を示す図。
図6】本実施形態における制御部100等の構成を説明する図。
図7】本実施形態における加温動作を説明する図。
図8】複数の貫通孔を形成した電極の一例。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る2型糖尿病治療装置の一実施形態について、以下、図面を参照して説明する。
【0017】
<2型糖尿病治療装置について>
図1は、本実施形態の2型糖尿病治療装置の全体の構成を示す斜視図である。本実施形態の2型糖尿病治療装置(以下、単に「装置」とも呼ぶ。)は、制御部100、治療用ベッド本体200、及び上部電極部600を基本構成として備えている。治療用ベッド本体200には下部電極301が設けられている。
【0018】
制御部100は、卓上型のコンソールを有し、中央の棚上に載置された操作部101と、その上部に設けられた表示部102及びプリンタ等の出力部103とを備えている。制御部100のハウジングの内部には制御回路部が収納されている。操作部101は、2型糖尿病治療装置を作動させるために必要な各種の入力操作を行うものであり、例えばキーボードを備えている。表示部102は患者に関する情報を表示したり、装置の作動状況を監視したりするものである。出力部103は患者に関するデータや装置に関する情報等を出力するものである。
【0019】
図2は、治療用ベッド本体200の中央を通る、長手方向に沿った切断面から図1における紙面の手前側(B-B側)を見た図である。図3は、同切断面から図1における紙面の奥側(A-A側)を見た図である。図4は、治療用ベッド本体200の中央を通る短手方向に沿った切断面である。
【0020】
治療用ベッド本体200は、上面が開口したハウジング210と、該開口を覆うテーブル部220を備えている。テーブル部220は、患者が横臥するのに十分な大きさを有している。ハウジング210の内部には高周波発生部等が収容されている。
【0021】
ハウジング210の底面の四隅には、治療用ベッド本体200を移動するための車輪211が取り付けられている。また、ハウジング210の底面の4箇所には、治療用ベッド本体200の位置を固定する固定部材212が配設されている。4つの固定部材212は、好ましくは平面視で均等な4箇所(例えば、治療用ベッド本体200の長手方向の中心軸と短手方向の中心軸のそれぞれに対して対称な位置や、治療用ベッド本体200の中心から等距離の位置)に設けられる。固定部材212には、例えば、周面にねじ山が形成された柱状部材と該柱状部材の下端に設けられ平坦な下面を有する接地部材からなり、ハウジング210の底面に設けられ内周面にねじ溝が形成された貫通孔に該柱状部材の周面のねじ山を螺合させて接地部材を治療用ベッド本体200に対して昇降させるものを用いることができる。
【0022】
治療用ベッド本体200は、制御部100側が患者の頭部側となっており、表示部102の画面を見ながら医者が患者に問診し易いようにしている。図1では右側が頭部側となり、左側が足部側となる。以下では、頭部側から見て左方(表示部102の表示面側)を手前側と呼ぶ。
【0023】
ハウジング210の手前側の側面には、装置の電源をオン/オフするメインスイッチ2101、電圧メータ2102、及び電流メータ2103が配設されている。また、ハウジング210の手前側の側面等の適所には、放熱等の目的で適宜の大きさの開口が形成されており、該開口を覆うように金網カバー2104が張られている。
【0024】
上部電極部600は、上部電極601と、この上部電極601を支えるアーチ部602とを備えている。上部電極601は、図5に示すように、全体として円盤状であり、その中央に円形の貫通孔601aが形成されている。貫通孔601aの直径は、上部電極601の直径の1%以上10%以下であることが好ましい。貫通孔601aの直径がこれよりも小さいと高周波電力を集中させる領域が狭くなりすぎ、貫通孔601aの直径がこれよりも大きいと高周波電力を集中させにくくなる。貫通孔601aの直径を上記範囲内とすることにより、電極の周縁部で発生した変位電流が、2つの電極で挟まれた空間よりも外方に膨出するのを効果的に抑制することができる。例えば、上部電極601の直径が約300mmである場合には、直径が約10mmである貫通孔601aが形成されたものを好適に用いることができる。このような貫通孔601aを形成した上部電極601を用いることにより、該貫通孔601aの周縁部の近傍に高周波電力が集中的に供給される。
【0025】
特許文献1に記載のように、対向面が平坦である円盤状の電極を用いた場合、両電極に高周波電力を供給したときに、円盤状の電極の中心部で発生した変位電流が一方の電極から他方の電極に向かって直線的に流れるのに対し、電極の周縁部で発生した変位電流が、2つの電極で挟まれた空間よりも外方に膨出しながら一方の電極から他方の電極へと流れていた。そのため、電極対の中心部から遠ざかるにつれて変位電流が粗になり、これが患部の加温を困難にしていたと考えられる。
【0026】
これに対し、本実施形態のように上部電極601に貫通孔601aを形成して上部電極601と下部電極301に高周波電力を供給すると、患者の体内に流れる変位電流が増大し、患部を加温することが容易になる。例えば、対向面が平坦である電極を用いた場合に患部を加温するのに45分程度要していたのに対し、本実施形態では30分程度で患部を加温することができる。
【0027】
上部電極601は、円柱状のアーム部603を介してアーチ部602に取り付けられている。アーム部603は伸縮自在であり、押圧することにより最大で15cm縮むように構成されている。アーチ部602は、2つの脚部を有している。一方の脚部は切離部6021で切り離し可能となっており、他方の脚部は回動部6022において鉛直軸周りに回転可能に構成されている。切離部6021において該一方の脚部を切り離し、回動部6022で鉛直軸周りにアーチ部602を回転させることにより、図1に2点鎖線で示すように、上部電極601をテーブル部220の上方から側方に退避させることができる。
【0028】
下部電極301は、上部電極601と略同じ大きさの円盤状である。下部電極301は、テーブル部220の中央よりもやや頭部側寄りに穿設された円孔221に、下部電極301の上面とテーブル部220の上面が面一になるように嵌挿されている。上部電極601と下部電極301は患者の患部、即ち膵臓や肝臓を挟むように、該患者の体表面(正面と背面)に配置される。
【0029】
上部電極601は、アーチ部602等を経て下部電極301と電気的に接続されている。また、上部電極601は接地されている。アーチ部602はアース電位空間を形成しており、これによって下部電極301からの電気力線が地表に向かって発散されることが抑制される。また、対向配置された上部電極601と下部電極301の間の空間に外部の電界が影響を及ぼすのを抑制し、該空間における電界の分布を均一にしている。上部電極601及び下部電極301の対向面側(患者の体表面に取り付けられる側)の表面には、それぞれ温調パッド306、307が貼付されている。これらの温調パッド306、307には配水用パイプ(図示なし)が接続されている。
【0030】
ハウジング210の内部には、高周波電力を出力する高周波発生部400と、テーブル部220を昇降する昇降機構230と、冷水タンク308及び温水タンク309が配置されている。冷水タンク308は配水用パイプ及びチラー310(図2参照)を介して冷水を循環させて温調パッド306、307に供給する。温水タンク309は配水用パイプを介して体温と同程度の温水を循環させて温調パッド306、307に供給する。冷水タンク308と温水タンク309にはそれぞれ送水ポンプ3081、3091が接続されている。
【0031】
温調パッド306、307に接続されている配水用パイプは途中で2つに分岐しており、それぞれ冷水タンク308と温水タンク309に接続されている。これら2つの分岐した部分にはそれぞれ弁が設けられており、これらの弁の開閉を切り替えて送水ポンプ3081、3091を駆動させることにより、温調パッド306、307に温水と冷水を切り替えて供給することができる。患部の加熱を開始した段階では、人体の体温程度の温水を温調パッド306、307に供給する。患部の加熱を開始してから所定時間が経過した後には、温調パッド306、307に冷水を供給して患者の体温の過度な上昇を抑制する。
【0032】
図2に示すように、昇降機構230は、ハウジング210の底面に載置されたシリンダ基板232と、シリンダ基板232の2箇所から立設された油圧シリンダ233、234と、油圧シリンダ233、234の上端側に載置された昇降板231から構成されている。この昇降機構203によって、昇降板231を、例えば15cm昇降することができる。
【0033】
油圧シリンダ233、234には油圧ユニット245が接続されている。油圧ユニット245には、公知のものが採用されており、油タンクに貯蔵された油を所定の圧力で油圧シリンダ233、234に供給するポンプと、油圧バルブとを備え、ポンプを駆動させて油圧シリンダ233、234に所定の圧力で油を供給することによりテーブル部220の高さを調節する。
【0034】
昇降機構230には、昇降板231を水平状態に保持したまま昇降させる平行保持機構が備えられている。平行保持機構は、ハウジング210の底面の2箇所から立設されたガイド235、236と、昇降板231の裏面の2箇所から下方に接続されたラック237、238と、該ラック237、238の両側に位置するピニオン239、240を備えている。また、ピニオン239、240を介してラック237、238と接続された連結アーム241と、該連結アーム241をガイド235、236のほぼ中間の位置で回転可能に保持する保持部材242、243とを備えている。
【0035】
平行保持機構により昇降板231を平行に保持する動作を説明する。昇降板231が上方に移動してラック237、238が上昇すると、ピニオン239、240が回転し、連結アーム241が回転する。この連結アーム241の回転と同時にピストンロッド2331、2341が同期して作動する。これによって、昇降板231を水平に維持しつつ昇降させることができる。
【0036】
このように、連結アーム241は、同一の高さを保ちつつ昇降するようにピストンロッド2331、2341を同期して作動させる。2つの油圧シリンダ233、234が同一の油圧であっても、患者を載せた状態では油圧シリンダ233、234にかかる荷重が相違してピストンロッド2331、2341の高さ位置が微妙に異なり、昇降板231を水平に昇降できないことがある。そのため、ピストンロッド2331、2341が同一高さ位置を保持して移動させるべく連結アーム241を設けている。
【0037】
昇降板231の上面の6箇所には連結部材244が立設されている。連結部材244は、患者の加重を等分に受ける複数の箇所(本実施形態では、昇降板231の四隅と、昇降板231の中間よりもやや足側の位置の幅方向の両側の計6箇所)に設けられており、各連結部材244の上端にテーブル部220が位置している。また、昇降板231の円孔221の中心位置に相当する位置にも、さらに連結部材244が立設され、下部電極301を連結支持している。下部電極301と連結部材244との連結部にはユニバーサルジョイントが介在されており、下部電極301のみが上下動可能になっている。下部電極301をテーブル部220より高くすることでテーブル部220と足部との密接度が確保される。
【0038】
図6は、制御部100及び高周波発生部400の要部構成図である。高周波発生部400は、電源回路401、高周波発生回路402、整合回路403、及び高周波電力計404を備えている。電源回路401は、高周波発生回路402に所定レベルの電力を供給する。高周波発生回路402は、自励発振方式により、例えば8MHzで、1kW程度の高周波電力を発生させる。高周波電力計404は、上部電極601及び下部電極301に供給される高周波電力の大きさを測定する。高周波電力計404は、上部電極601及び下部電極301への入射電力と上部電極601及び下部電極301からの反射電力を検出する。あるいは、出力電力と入射電力とから負荷側に供給された供給電力を得る。高周波電力計404の計測値は、制御部100に入力され、表示部102に表示される。
【0039】
本実施形態の整合回路403は可変コンデンサ回路からなる。コンデンサの容量を調節して出力インピーダンスを変化させることにより高周波発生回路402と、上部電極601及び下部電極301の間、即ち負荷側とのインピーダンス整合を行う。制御部100はコンデンサに対する調整量から負荷側の容量成分を知ることができる。
【0040】
断層写真107は、CT(Computer Tomography)スキャナにより取得された患者のX線写真や、MRI(Magnetic Resonance Imaging)により取得された患者の生体組織の写真などである。写真の濃度は患部500を含む断層面の密度(デンシティ)に対応している。
【0041】
カメラ108は固体撮像素子(CCD: Charge-Coupled Device)が配列されたエリアセンサ等で構成されており、患者毎の患部を撮像して断層写真107を取得するものである。撮像された画像信号は電気信号に変換された後、アンプ109を介して制御部100へ導かれ、RAM105に濃度情報D(i,j)として記憶される。ここで、(i,j)は、断層面各部の位置に対応するRAM105のアドレスを示し、濃度は後述する演算を十分な精度で実行可能な程度の所定ビット数、例えば8ビットの階調を有する。
【0042】
なお、各患者の断層写真107の濃度情報D(i,j)が、例えば通信手段を介して伝送されてくる場合、あるいは外部メモリから取り込まれる場合には、カメラ108に代えてインターフェースを用いて濃度情報D(i,j)を受信すればよい。
【0043】
ROM106は、制御部100の各機能を実現するためのプログラム、演算式やテーブル、各種のデータ処理に必要な情報を記憶している。ROM106は、負荷側の容量成分の初期値C0、上部電極601及び下部電極301の形状と電極間の距離に基づく電界分布モデルK(i,j)、患部500の断層面の任意の位置における初期分布インピーダンスρ0(i,j)などを記憶している。電界分布モデルK(i,j)及び初期分布インピーダンスρ0(i,j)としては、上部電極601と下部電極301の寸法や電極間の距離、及び電極間に均一な誘電体を介在させた状態で事前に行われた予めシミュレーションの結果に基づいて算出されたものを用いることができる。
【0044】
制御部100は、また、機能ブロックとして、容量算出部110、分布インピーダンス算出部111、患部温度算出部112、及び高周波制御部113を備えている。制御部100の実体はパーソナルコンピュータなどであり、予めROM106に保存されたプログラムをプロセッサで実行することによりこれらの機能ブロックが具現化される。
【0045】
容量算出部110は、整合回路403の可変コンデンサの調整量から負荷側の容量成分Cを算出する。分布インピーダンス算出部111は、下記の式(1)を用いて、患部500を含む断層面上の任意の位置における分布インピーダンスの変化分Δρ(i,j)を算出する。
【数1】

上式(1)において、αは係数、fは高周波電力の周波数である。
【0046】
高周波電力を供給したときに生体組織に吸収される変位電流の電力密度P(単位:W/m3)は、次式で表される。
【数2】
上式(2)において、Eは電界強度、εは組織誘電率、εtaδは組織誘電損失である。
【0047】
患部温度算出部112は、患部500を含む断層面の任意の位置における温度の変化ΔT(i,j)を算出する。高周波制御部113は、高周波発生回路402から出力する電力を制御する。また、容量算出部110は、整合回路403の可変コンデンサの調整量から、患者の体温の変化に伴って変動する上部電極601と下部電極301の間の容量成分Cを算出する。患部温度算出部112による温度変化ΔT(i,j)の算出等の処理は特許文献1と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0048】
<患部の加温方法>
以下に、上記2型糖尿病治療装置を用いた患部(患者の膵臓や肝臓)の加温方法(2型糖尿病治療装置の使用方法。2型糖尿病治療方法)について説明する。
【0049】
まず上部電極601やアーチ部602をテーブル部220の上方から退避させておき(図1に二点鎖線で示す位置)、テーブル部220の上に患者10を横臥させる。このとき、高周波電力を供給する患部10a(患者10の膵臓又は肝臓)を下部電極301の上方に位置させる。続いて、回動部6022を軸としてアーチ部602を回転させて切離部6021を連結させると共に(図1に実線で示す位置)、患者10の上腹部の上方に上部電極601を位置させる。次に昇降機構230を駆動してテーブル部220を上昇させ、上部電極601と下部電極301によって患者10を正面と背面から挟む。こうして患者の上腹部を上部電極601と下部電極301で挟むことによって、上部電極601と下部電極301の間に患者10の患部10a(膵臓又は肝臓)を位置させる(図7)。
【0050】
次に、上部電極601及び下部電極301に所定の周波数及び所定の大きさの高周波電力を供給し、患者10の患部10aを所定範囲内の温度に加温する。高周波電力の周波数が高いほどエネルギーが早く減衰するため、所定の周波数は、例えば、患者の体表面から患部500までの距離などを勘案して決められる。本実施形態における高周波電力の周波数は8MHzである。なお、8MHzの周波数帯は、電波法において医療用として認められた周波数ではないが、外部に電波障害が生じないような構成を採るなどして、当該周波数帯を使用することの承認を受ければよい。本実施形態では高周波電力の周波数を8MHzとしているが、他の周波数帯域でも本発明を実施することは可能である。他の周波数帯を用いる場合にも同様に、必要に応じて適宜、外部に電波障害が生じないような構成を採るなどして、当該周波数帯を使用することの承認を受ければよい。また、患部500の加温に要するエネルギーの大きさは、患者の体格等によって異なるため、所定の大きさは、患者の体格等に応じて決められる。具体的には、例えば100W以上1500W以下の大きさの高周波電力を用いることができる。また、高周波電力の大きさは、好ましくは200W以上であり、より好ましくは300W以上であり、更に好ましくは400W以上である。本実施形態における高周波電力の大きさは1000Wである。
【0051】
高周波制御部113は、上部電極601及び下部電極301に高周波電力を供給している間、患部温度算出部112により算出された温度変化ΔT(i,j)のデータをモニタし、患部500を所定範囲内の温度に保つように高周波電力の大きさをフィードバック制御する。また、高周波電力の供給中には、適宜、温調パッド306、307に冷水を供給し、患者の体表面が加温され過ぎることを抑制する。所定範囲内の温度とは、膵臓によるインスリンの分泌状態を改善したり、膵臓への血流を改善したりするのに有効な温度帯であって、具体的には、例えば38℃以上43℃以下である。また、好ましくは39℃以上40℃以下である。
【0052】
上記のように、患部500を挟んで患者の体表面に上部電極601及び下部電極301を配置して高周波電力を供給するという加温動作は、1回につき、30分以上60分以下の範囲で連続して行うことが好ましい。これによって、患部を十分に加温して1回あたりの治療効果を高めることができる。
【0053】
また、2型糖尿病治療装置を用いた患部の加温による2型糖尿病の治療は継続的に行うことが好ましい。患部の加温を中断した場合には免疫活性が低下して2型糖尿病の治療効果が低下する場合がある、そのため、継続して患部を加温することによって免疫活性が継続的に高めることが有効である。具体的には、例えば、1日1回として1週間に1回以上(好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上)行い、かつ合計で5回以上(好ましくは15回以上、また症状によって好ましくは20回以上)行うとよい。
【0054】
上記のように患部を加温することによって良好な2型糖尿病治療効果が得られることは、糖尿病モデルマウスを用いた実験により既に確認されている。患部の加温により2型糖尿病を改善する効果が得られる理由は、以下のように考えられる。患部に変位電流を流すと、患部で分子発熱が生じ、膵臓や肝臓内の細胞が活性化する。膵臓が上記の温度範囲に加温されることによって局所的に免疫力が活性化したり、肝臓が上記の温度範囲に加温されることによって膵臓の血流が改善されたりして、膵臓におけるインスリン生産が促され、これと共に総合的な免疫学的作用も発揮されて2型糖尿病を治療する効果が得られたと考えられる。
【0055】
また、患部を加温する治療に加えて、更にインスリンを投与する治療を併用してもよい。例えば、1週間につき5~6回の患部の加温を計2週間行い、その後の2週間には患部の加温を1週間に2回で行うとともに、インスリンの投与による治療を追加で行ってもよい。これによって、2型糖尿病のより高い治療効果が期待できる。これらは加温動作の一態様に過ぎず、適宜に変更することができる。例えば、高周波電力の供給による加温動作を1日1回として連続して5回以上(5日以上)行うなどしてもよい。これによって、2型糖尿病の治療効果をより一層高めることができる。
【0056】
本実施形態では、患者の全身の状態及び2型糖尿病指標を勘案しつつ高周波電力を供給して患部を加温することが好ましい。本実施形態のように、高周波電力を患部に供給しても副作用が生じることはほとんどないため、患者の状態に応じて、患者にとって過度な負担とならないように、2型糖尿病を継続して治療することができる。また、上記のように膵臓の血流が改善されることによって酸素分圧が向上してpHが正常値に近づき、これによっても免疫作用が活性化する。さらに、こうした効果が複合的に発揮されることで、QOL(生活の質)を高めることもできる。
【0057】
上記実施形態は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。
【0058】
上記実施形態では、上部電極601のみに貫通孔601aを形成したが、下部電極301のみに貫通孔を形成してもよく、上部電極601と下部電極301の両方に貫通孔を形成してもよい。
【0059】
上記実施形態では、円盤状の上部電極601の中央に1つの貫通孔を形成したが、上部電極601及び/又は下部電極301の中央を取り囲むように複数の貫通孔(好ましくは、上部電極601の中央に対して回転対称な位置に複数の貫通孔)を設けてもよい。なお、貫通孔が1つである場合は、上記実施形態のように該貫通孔601aを電極の中央に設ける。また、上部電極や下部電極が円盤以外の形状を有するものである場合には、中央に代えて重心を取り囲むように1乃至複数の貫通孔を形成してもよい。図8に、上部電極601の中央を取り囲むように4つの貫通孔601bを形成した一例を示す。
【0060】
上記実施形態では、円盤状の上部電極601及び下部電極301を用いたが、他の形状であってもよい。但し、角(かど)部を設けるとその角部に局所的に電界が集中するなどして電界が不均一になることがあるため、角部を有しない形状の電極を用いることが好ましい。具体的には、例えば平面視して楕円形を有する電極を用いることができる。
【0061】
上記実施形態では、円形断面を有する貫通孔601aとしたが、他の形状の貫通孔としてもよい。ただし、上記同様の理由により、断面形状は角部を有しないものであることが好ましく、そのような一例として楕円形の断面を有する貫通孔を用いることができる。なお、電極や貫通孔が非円形である場合、それらの直径は、当該電極や貫通孔の表面や断面と同等の面積を有する円の直径として定義すればよい。
【0062】
[態様]
上述した例示的な実施形態が以下の態様の具体例であることは、当業者には明らかである。
【0063】
(第1項)
本発明の一態様に係る2型糖尿病治療装置は、
2つの板状電極と、
前記2つの板状電極の少なくとも一方の厚さ方向に形成された貫通孔と、
前記2つの板状電極に高周波電力を供給する高周波電源と
を備えることを特徴とする。
【0064】
第1項に係る2型糖尿病治療装置を使用する際には、患部(患者の膵臓や肝臓)を挟むように、患者の体表面に2つの板状電極を配置し、それらの板状電極に高周波電力を印加する。これら2つの板状電極の少なくとも一方には、厚さ方向に貫通孔が形成されている。患者の膵臓を加温することにより直接的に膵臓に働きかけてインスリンの分泌を活性化することができる。また、患者の肝臓を加温することにより、膵臓の血流を改善(補完)して膵臓からのインスリンの分泌を活性化することができる。
【0065】
患部を挟んで体表面に2つの板状電極を配置し、それらに高周波電力を供給すると電界が形成され、この電界によって誘電体である人体の内部に高周波の変位電流(電束電流ともいう。)が流れる。特許文献1に記載のC型肝炎治療装置では、円盤状の電極の中心部で発生した変位電流が一方の電極から他方の電極に向かって直線的に流れるのに対し、電極の周縁部で発生した変位電流は、2つの電極で挟まれた空間よりも外方に膨出しながら一方の電極から他方の電極へと流れる。そのため、電極対の中心部から遠ざかるにつれて変位電流が粗になり、これが患部の加温を困難にしていたと考えられる。
【0066】
第1項に係る2型糖尿病治療装置では、2つの板状電極の少なくとも一方に、厚さ方向に貫通孔を形成している。板状電極の厚さ方向に貫通孔を形成すると、該貫通孔の近傍に変位電流が集中しやすくなる。そのため、第1項に係る2型糖尿病治療装置では、電極の周縁部から発生した変位電流が2つの板状電極で挟まれた空間から外側に膨出することが抑制され、膵臓や肝臓を確実に加温してインスリンの分泌を活性化することができる。
【0067】
(第2項)
第2項に係る2型糖尿病治療装置は、第1項に係る2型糖尿病治療装置において、
前記貫通孔が円筒状に形成されている。
【0068】
第2項に係る2型糖尿病治療装置では、貫通孔が角を有しないため、貫通孔の一部に局所的に変位電流が集中することがなく、2つの板状電極で挟まれた空間に均一に変位電流を流すことができる。
【0069】
(第3項)
第3項に係る2型糖尿病治療装置は、第1項又は第2項に係る2型糖尿病治療装置において、
1乃至複数の前記貫通孔が、前記板状電極の中心に対して対称な位置に設けられている
【0070】
第3項に係る2型糖尿病治療装置では、変位電流を集中させる貫通孔が電極の中心(中央や重心)に対して対称な位置に設けられているため、2つの板状電極で挟まれた空間に均一に変位電流を流すことができる。
【0071】
(第4項)
第4項に係る2型糖尿病治療装置は、第1項から第3項のいずれかに係る2型糖尿病治療装置において、
前記貫通孔の直径が、該貫通孔が形成された前記板状電極の直径の1%以上10%以下である。
【0072】
第4項に係る2型糖尿病治療装置では、電極の周縁部から発生した変位電流が2つの板状電極で挟まれた空間に均一に変位電流を流すことができる。
【0073】
(第5項)
第5項に係る2型糖尿病治療装置は、第1項から第4項のいずれかに係る2型糖尿病治療装置において、
前記高周波電力の大きさが100W以上1500W以下である。
【0074】
第5項に係る2型糖尿病治療装置では、患者の体格等に応じて100W以上1500W以下の高周波電力を供給する。これによって、患部が38℃以上43℃以下に加熱され、分子発熱が生じて細胞が活性化する。その結果、免疫力が活性化されて膵臓におけるインスリン生産が促され、これと共に総合的な免疫学的作用が発揮され、2型糖尿病を効果的に治療することができる。
【符号の説明】
【0075】
10…患者
10a…患部
100…制御部
101…操作部
102…表示部
103…出力部
105…RAM
106…ROM
107…断層写真
108…カメラ
109…アンプ
110…容量算出部
111…分布インピーダンス算出部
112…患部温度算出部
113…高周波制御部
200…治療用ベッド本体
203…昇降機構
210…ハウジング
2101…メインスイッチ
2102…電圧メータ
2103…電流メータ
2104…金網カバー
211…車輪
212…固定部材
220…テーブル部
221…円孔
230…昇降機構
231…昇降板
232…シリンダ基板
233、234…油圧シリンダ
2331、2341…ピストンロッド
235、236…ガイド
237、238…ラック
239、240…ピニオン
241…連結アーム
242、243…保持部材
244…連結部材
245…油圧ユニット
301…下部電極
306、307…温調パッド
308…冷水タンク
309…温水タンク
3081、3091…送水ポンプ
310…チラー
400…高周波発生部
401…電源回路
402…高周波発生回路
403…整合回路
404…高周波電力計
500…患部
600…上部電極部
601…上部電極
601a、601b…貫通孔
602…アーチ部
6021…切離部
6022…回動部
603…アーム部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8